弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1右京税務署長が原告に対して平成17年3月15日付けでした平成14年分
の所得税の更正処分(ただし,平成19年2月15日付け更正処分によって減
額された後の部分)のうち,総所得金額3493万7039円,納付すべき税
額346万0600円を超える部分を取り消す。
2右京税務署長が原告に対して平成17年3月15日付けでした平成14年1
月1日から平成14年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費
税の更正処分のうち,課税標準額7171万6000円,消費税については差
引税額143万4300円,地方消費税については譲渡割額35万8500円
を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,A弁護士会所属の弁護士である原告が,同弁護士会法律相談センタ
ーの行う無料法律相談業務に従事した対価として同弁護士会から支給された日
当を給与所得として確定申告をしたのに対し,右京税務署長がこれを事業所得
であるとして更正処分をしたところ,被告に対し,その取消しを求めた事案で
ある。
2基礎となる事実(争いのない事実並びに各項掲記の各書証及び弁論の全趣旨
によって認められる事実)
(1)原告は,A弁護士会に所属する弁護士であり,京都市内に事務所を設け
て弁護士業務を行っている。
(2)原告は平成15年3月14日原告の平成14年分の所得税について別,,
表1,原告の平成14年1月1日から平成14年12月31日までの課税期
間(以下「本件課税期間」という)に係る消費税について別表2の各確定申
告欄記載のとおりの内容の確定申告をした。
原告は上記各確定申告においてA弁護士会法律相談センター以下法,,(「
律相談センターというが京都府及び京都市から委託を受けて行う無料法」。)
律相談業務以下本件相談業務というに従事した対価としてA弁護士(「」。)
会から平成14年中に支給された別表3の金額欄記載の各日当合計15万円
(以下「本件日当」という)を給与所得としていた。。
,,,(3)右京税務署長は本件日当は給与所得ではなく事業所得であるとして
,,平成17年3月15日付けで原告の平成14年分の所得税について別表1
原告の本件課税期間に係る消費税について別表2の各更正処分欄記載のとお
りの内容の更正処分をした(甲1,甲2。以下,これらの更正処分をそれぞ
れ「本件所得税更正処分「本件消費税更正処分」といい,これらを併せて」,
「本件各更正処分」という。。)
(4)原告は本件各更正処分を不服として平成17年3月24日右京税務,,,
(),,,署長に対し異議申立てをしたが甲3右京税務署長は同年6月22日
上記各異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(甲4,甲5。)
原告は,平成17年6月30日,国税不服審判所長に対し,本件各更正処
分のうち,給与所得として申告した15万円を事業所得とした部分の取消し
を求める審査請求をしたが甲6国税不服審判所長は平成18年3月2(),,
7日付けで,上記各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし,同裁決書謄
本は同年4月7日に原告に送達された(甲7の1・2。)
(5)右京税務署長は,原告の平成14年分の所得税について,原告の確定申
告では,本件日当に係る源泉徴収税額として別表3の源泉徴収税額欄記載の
とおり合計1万3200円が計上されていたところ,源泉徴収されるべき額
は正しくは別表4記載のとおり合計1万5000円であるとして,平成19
年2月15日付けで,別表1の再更正処分欄記載のとおり,原告が納付すべ
(「」。)き税額を減額する内容の更正処分以下本件所得税再更正処分という
をした(甲14。)
(6)右京税務署長が本件所得税更正処分(ただし,本件所得税再更正処分に
よる一部取消し後のもの)において原告が納付すべき税額等を算出した根拠
は,以下のとおりである。
ア総所得金額3498万5339円
上記の額は,以下の(ア)ないし(ウ)の合計額である。
(ア)事業所得の金額3103万9574円
上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に事業所得の金額とし
て記載した額に,原告が給与収入としていた本件日当15万円及び雑所
得としていたA弁護士会から支給されたその他の日当(以下「本件その
他の日当」という)4万8000円を加算した額である。。
(イ)給与所得の金額93万9900円
上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に給与収入の金額とし
て記載した額から本件日当15万円を減額した額から,所得税法28条
3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後
の額である。
(ウ)雑所得の金額300万5865円
上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に雑所得の収入金額と
して記載した額から本件その他の日当4万8000円を減額し,支払事
実がない必要経費1万4400円を加算した額である。
イ所得控除の金額397万3290円
上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に記載したのと同額であ
る。
ウ課税総所得金額3101万2000円
上記の額は,アの額からイの額を控除した後の額(ただし,国税通則法
118条1項により,1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)であ
る。
エ納付すべき税額347万1300円
上記の額は以下の(ア)の額から(イ)及び(ウ)の合計額を控除した額た,(
だし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨
てた後のもの)である。
(ア)算出税額898万4440円
上記の額は,ウの額に所得税法89条1項(経済社会の変化等に対応
して早急に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(以
下「負担軽減法」という)4条による)の規定を適用して算出した額。。
である。
(イ)定率減税額25万0000円
,,上記の額は負担軽減法6条2項の規定に基づいて計算した額であり
原告が平成14年分の確定申告書に記載したのと同額である。
(ウ)源泉徴収税額526万3134円
上記の額は,原告が平成14年分の確定申告書に記載した額に,原告
が本件日当に係る源泉徴収額とした1万3200円と源泉徴収されるべ
き額である1万5000円との差額である1800円を加算した額であ
る。
(7)右京税務署長が本件消費税更正処分において原告が納付すべき税額等を
算出した根拠は,以下のとおりである。
ア課税売上高7185万8962円
本件日当及び本件その他の日当は事業所得に当たるとすると,消費税法
上の事業者が行った資産の譲渡等に該当するため,消費税法4条1項及び
地方税法72条の77の2号の規定により消費税等を課すこととなる。
上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に本件課税期
間の課税売上高として記載した額と本件日当15万円及び本件その他の日
当4万8000円との合計額に105分の100を乗じて算出した額を加
算した額である。
イ課税標準額7185万8000円
上記の額はアの額から1000円未満の端数を切り捨てた額である消,(
費税法28条1項,国税通則法118条1項。)
ウ課税標準に対する消費税額287万4320円
上記の額は,イの額に100分の4を乗じて算出した額である(消費税
法29条。)
エ控除対象仕入税額143万7160円
上記の額は,ウの額に簡易課税制度のみなし仕入率50パーセントを乗
じた額である。なお,原告は簡易課税制度選択届出書を提出しており,弁
護士業は第5種事業に該当することから,みなし仕入率は50パーセント
である(消費税法37条,消費税法施行令57条。)
オ消費税の納付税額2万9800円
上記の額は,以下の(ア)の額から(イ)の額を控除した額である。
(ア)差引税額143万7100円
上記の額は,ウの額からエの額を差し引き,100円未満の端数を切
り捨てた額(国税通則法119条1項)である。
(イ)中間納付税額140万7300円
上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に記載した
のと同額である。
カ地方消費税額
(ア)課税標準となる消費税額143万7100円
上記の額は,オ(ア)の額である(地方消費税に係る課税標準は,地方
税法72条の82の規定により消費税額を用いる。。)
(イ)納付譲渡割額7400円
上記の額は,以下のaの額からbの額を控除した額である。
a譲渡割納税額35万9200円
上記の額は,(ア)の額に100分の25を乗じ(地方税法72条の
83100円未満の端数を切り捨てた額である同法20条の4の),(
2第3項。)
b中間納付譲渡割額35万1800円
上記の額は,原告が本件課税期間の消費税等の確定申告書に記載し
たのと同額である。
キ消費税及び地方消費税の合計納付税額3万7200円
上記の額は,オの額とカ(イ)の額の合計額である。
(8)本件日当が事業所得に当たるとすると,本件所得税更正処分(ただし,
本件所得税再更正処分による一部取消し後のもの)のとおり,原告の平成1
4年分の所得税に係る総所得金額は3498万5339円,納付すべき税額
は347万1300円となるのに対し,本件日当が給与所得に当たるとする
と,別表1の仮定計算欄記載のとおり,原告の平成14年分の所得税に係る
総所得金額は3493万7039円,納付すべき税額は346万0600円
となる。
また,本件日当が事業所得に当たるとすると,本件消費税更正処分のとお
り,原告の本件課税期間に係る消費税及び地方消費税の課税標準額は718
5万8000円,消費税の差引税額は143万7100円,地方消費税の譲
渡割納税額は35万9200円となるのに対し,本件日当が給与所得に当た
るとすると,別表2の異議申立て欄及び審査請求欄記載のとおり,原告の本
件課税期間に係る消費税及び地方消費税の課税標準額は7171万6000
円,消費税の差引税額は143万4300円(ただし,別表2の上記各欄の
記載は端数切捨て前の額,地方消費税の譲渡割納税額は35万8500円)
となる。
3争点及び争点についての当事者の主張
本件日当は,事業所得に当たるか,給与所得に当たるか
(被告の主張)
ア原告は,直接的にはA弁護士会法律相談センター規程(会規第10号。以
下「本件規程」という。甲8)8条に基づく法律相談センターの指定により
本件相談業務に従事したものであるが,本件規程はA弁護士会の総会により
改廃できるものであり,原告はA弁護士会の会員として本件規程の適用を受
けるものであるから,原告は,雇用契約又はこれに類する関係に基づき労務
を提供したものではない。
イ本件規程が定める法律相談に当たっての遵守事項は,一般的な指導監督に
すぎず,A弁護士会は,原告に対し,法律相談の内容については何ら指揮命
令をしていない。また,指定された相談担当日に差支えを生じた場合には交
代も可能であり,原告が本件相談業務に従事する際にA弁護士会から受けて
いる空間的,場所的拘束は極めて希薄である。したがって,原告は,A弁護
士会の指揮命令に従って労務を提供したとはいえない。
ウ原告は,弁護士としての公益的使命の実現のため,弁護士法並びにこれを
受けて定められたA弁護士会会則(以下「本件会則」という。乙1)及び本
件規程の規定に基づき本件相談業務に従事して,本件日当の支給を受けたも
のであるから,本件相談業務は,原告の計算と危険において独立して営まれ
たものであり,本件日当は,事業所得に当たる。
(原告の主張)
ア原告が,法律相談名簿への登載を受けた上で法律相談を担当することは,
強制加入団体であるA弁護士会の本件会則上の義務として定められており,
原告には,原則として諾否の自由はない。
そして,原告は,本件相談業務に従事するに当たり,A弁護士会から特定
の場所・日時を指定され,京都府及び京都市の職員がその設備を用いて運営
する会場において,本件規程に定められた遵守事項に従いつつ,1件当たり
20分で法律相談に応じることが求められており,その対価として支給され
る日当は,相談件数にかかわらず,定額である。
したがって,本件日当は,A弁護士会又は京都府及び京都市から空間的,
時間的な拘束を受け,その指揮命令の下に提供した労務の対価として支給さ
れたものというべきである。
イ所得税基本通達28−9の2(医師又は歯科医師が支給を受ける休日,夜
間診療の委嘱料)は,医師又は歯科医師が,地方公共団体等の開設する救急
センター,病院等において休日,祭日又は夜間に診療等を行うことにより地
方公共団体等から支給を受ける委嘱料等は,給与等に該当するとしている。
本件日当は,上記の委嘱料等と構造が類似する。
ウ財団法人Bセンターの全国の支部においては,法律相談日当について,給
与所得として源泉徴収がされている。
エしたがって,本件日当は,給与所得に当たる。
第3争点に対する判断
1所得税法27条1項は「事業所得とは,農業,漁業,製造業,卸売業,小,
売業,サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得
又は譲渡所得に該当するものを除く)をいう」と規定している。これを受。。
けて,所得税法施行令63条(事業の範囲)は,同項に規定する政令で定める
事業として,その1号ないし11号において,農業,製造業,サービス業等の
具体的な事業類型を定めるほか,その12号において「前各号に掲げるもの,
のほか,対価を得て継続的に行なう事業」と定めている。
一方,所得税法28条1項は「給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及,
。」。び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと規定している
そして,最高裁昭和56年4月24日第2小法廷判決・民集35巻3号67
2頁(以下「最高裁昭和56年判決」という)は「およそ業務の遂行ない。,
し労務の提供から生ずる所得が所得税法上の事業所得(所得税法27条1項,
所得税法施行令63条12号)と給与所得(同法28条1項)のいずれに該当
,,,するかを判断するにあたっては租税負担の公平を図るため所得を事業所得
給与所得等に分類し,その種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨,目
的に照らし,当該業務ないし労務及び所得の態様等を考察しなければならな
い「その場合,判断の一応の基準として,両者を次のように区別するのが。」,
相当である。すなわち,事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営
まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位と
が客観的に認められる業務から生ずる所得をいい,これに対し,給与所得とは
雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労
務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお,給与所得については,と
りわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,
継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給される
ものであるかどうかが重視されなければならない」と判示している。。
2証拠(甲8,甲9の1・2,甲10の1・2,甲11,乙1ないし乙3)及
び弁論の全趣旨によれば,本件日当の性格に関し,次のとおりの事実が認めら
れる。
,()(1)A弁護士会は弁護士法72条非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止
の反面義務として,市民が法律相談を受ける機会の拡充を志向しており,本
件規程を定め,同会に法律相談センターを設置して,京都府市民のために迅
速適正な法律相談,弁護士紹介等を行い,もって人権の擁護及び社会正義の
実現に資するものとしている(本件規程1条。)
本件規程は,法律相談センターは,法律相談所の開設並びに運営,地方公
共団体その他の団体の委嘱による無料法律相談活動等の業務を行うものとし
(2条,法律相談センターに,弁護士会員の希望を照会し調整して作成し)
た無料法律相談担当弁護士名簿を含む10種の名簿を備え付けるものとして
いる(4条。そして,弁護士会員は,老齢,病気その他やむを得ない事情)
による場合を除いて,少なくとも上記各名簿のうち無料法律相談担当弁護士
名簿を含む5種の名簿のいずれかへの登載を申し出て,法律相談センターの
(),,行う業務に協力しなければならないものとし7条法律相談センターは
上記各名簿に従い,各種法律相談の担当弁護士会員及び相談担当日を指定す
るものとしている(8条。一方,本件会則は,会員は,弁護士の使命であ)
る基本的人権の擁護と社会正義の実現を達成するため,A弁護士会が設置し
ている各種委員会の活動及び同会の行う公益的活動に積極的に参加しなけれ
ばならない旨規定しており(16条の2,これによると,本件規程の規定)
する法律相談センターの行う業務に対する協力は,本件会則16条の2の規
定する公益的活動への参加の一環と認められる。
また,本件規程は,法律相談担当弁護士の遵守事項として,①担当時間を
厳守し,その時間中,担当場所に詰め,誠実に相談事務を処理すること,②
やむを得ない事由により,相談担当日に差支えを生じた場合は,自ら交代の
弁護士を定め,事前に法律相談センターに届け出ること,③自己又は特定の
弁護士及び弁護士法人のために事件の依頼を勧誘しないこと,④担当した相
談についての遅刻等の不始末,相談者からの苦情申入れなどに関するA弁護
士会からの照会に誠実に回答することを定めている(9条。)
そして,本件規程は,A弁護士会は,各法律相談担当弁護士等に対し,常
議員会の議により定める額の旅費日当等を支給するものとしており(11
条,これを受けて,A弁護士会法律相談センター旅費日当等支給規則(規)
則第55号。以下「本件規則」という。甲11)は,京都市内に事務所を設
ける弁護士が京都市内(α,β及びγを除く)において担当する無料法律。
相談に対して支給する旅費日当等の額を,一律に1万5000円と定めてい
る(1条1号。)
(2)本件規程(会規)の制定及び改廃は,A弁護士会総会の決議事項とされ
ており,本件規則の制定及び改廃は,A弁護士会常議員会の決議事項とされ
ている(本件会則5条2項,28条3号,44条2項4号。)
また,法律相談センターの運営は,A弁護士会の会長が常議員会の議を経
て弁護士会員の中から選任した委員をもって組織される法律相談センター運
営委員会が行うものとされている(本件規程3条。)
(3)京都府は,平成13年4月1日及び平成14年4月1日,A弁護士会に
対し,京都府が行う京都府民無料法律相談事業のうち,京都府民無料法律相
談に係る指導及び助言に関する業務を,委託期間を1年と定めるほか,委託
料並びに委託業務の実施場所,実施回数,実施時間等を具体的に定めて委託
し,A弁護士会は,会長が常議員会の議を経て(本件規程6条,これを受)
託した(甲9の1・2。)
また,京都市は,平成13年4月1日及び平成14年4月1日,A弁護士
会に対し,京都市無料法律相談事業に係る相談業務を,委託期間を1年と定
めるほか,委託料並びに委託業務の実施場所,実施期日,実施時間等を具体
,,()。的に定めて委託しA弁護士会は同様にこれを受託した甲10の1・2
(4)原告は,法律相談センターが,同センターに備え付けられた無料法律相
談担当弁護士名簿に従い,A弁護士会が京都府及び京都市との間の(3)の各
契約に基づき受託した無料法律相談業務について,原告を担当弁護士として
指定したため,別表3の実施日欄記載の各日に,同表の相談場所欄記載の各
場所における無料法律相談業務に従事し,その対価として,A弁護士会から
本件日当の支給を受けた。
3上記の事実によれば,本件日当は,A弁護士会の会員である原告が,同会の
会員らの総意により,弁護士の使命を達成するための公益的活動の一環である
無料法律相談活動を行うための規律として自治的に定められた本件規程の規定
に従い,無料法律相談業務に従事した対価として,A弁護士会から原告に対し
支給されたものであると認められるから,その給付の原因であるA弁護士会と
原告との間の法律関係は,雇用契約又はこれに類する支配従属関係ではないこ
とが明らかである。
したがって,本件日当は「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者,
の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当た
らないというべきである。
なお,本件規程9条(遵守事項)によれば,法律相談担当弁護士は,法律相
談センターから相談を担当すべき日時・場所の指定を受けたときは,自ら交代
の弁護士を定めて届け出ない限り,指定された日時・場所において法律相談を
担当することを要し,また,自己又は特定の弁護士及び弁護士法人のために事
件の依頼を勧誘してはならず,担当した相談についての遅刻等の不始末,相談
者からの苦情申入れ等に関するA弁護士会からの照会に誠実に回答すべきもの
とされているが,これらの遵守事項は,法律相談業務が公益的活動であること
に伴う最低限のルールを定めたものにすぎないと認められ,本件規程に上記の
規定があることは,本件日当が「雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用
者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」に当
たらないとの判断を左右するものではない。
4原告は,医師又は歯科医師が地方公共団体等の開設する救急センター,病院
等において休日,祭日又は夜間に診療等を行うことにより地方公共団体等から
支給を受ける委嘱料等や,財団法人Bセンターの委嘱を受けた相談担当弁護士
が同センターから支給を受ける日当が給与所得として扱われていることとの比
較においても,本件日当は給与所得に当たると解すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙12ないし乙16,社団法人C医師会,社団法人D歯科医
師会及び財団法人Bセンターに対する各調査嘱託の結果)によれば,以下のと
おり,地方公共団体等の開設する休日急病診療所等において休日診療等を担当
した医師等に対する報酬の支払者とその支払を受ける診療担当医師等との間の
法律関係及び財団法人Bセンターにおいて交通相談業務を担当した弁護士に対
する日当の支払者である同財団法人と相談担当弁護士との間の法律関係は,本
件相談業務に関する原告とA弁護士会との間の法律関係とは異なり,会員間の
自治的な取り決めに基礎をおくものであるとは認められないから,これらの報
酬又は日当と比較して本件日当の性格を論ずることは,その前提を欠き失当で
ある。
(1)財団法人E診療所が京都市の委託を受けて実施するE診療所等における
休日診療等の場合,担当医師に対する報酬の支払者は,財団法人E診療所で
あり,財団法人E診療所と社団法人C医師会との間には,財団法人E診療所
が管理する診療業務に従事する医師の派遣に関する契約書及び覚書が存在
し,上記覚書において,休日診療等に派遣する医師の数及びその医師を社団
法人C医師会が措置すること並びに派遣する医師に対する報酬の額が定めら
れているが,社団法人C医師会内部又は社団法人C医師会と担当医師との間
には,休日診療等に関する取り決めはない。
財団法人Fが大阪市の委託を受けて実施する休日急病診療所等における休
日診療等の場合も,担当医師に対する報酬の支払者は,財団法人Fであり,
財団法人Fと社団法人G医師会との間には,急病診療に関する委託契約書及
び大阪市急病診療業務実施に関する覚書が存在し,上記委託契約書において
出務医師に対する報償費の額が,上記覚書において財団法人Fが社団法人G
医師会に対して医師の出務その他必要な事業の協力を依頼し,社団法人G医
師会がこれを承諾することがそれぞれ定められているが,社団法人G医師会
内部又は社団法人G医師会と担当医師との間に休日診療等に関する取り決め
があるかは明らかではない。
(2)京都市の委託を受けて社団法人D歯科医師会が運営するH診療所等にお
ける休日診療等の場合,担当歯科医師に対する報酬の支払者は,社団法人D
歯科医師会であり,京都市とその委託を受けた社団法人D歯科医師会との間
には契約が存在するが,社団法人D歯科医師会内部又は社団法人D歯科医師
会と担当歯科医師との間には,休日診療等に関する取り決めはない。
(3)財団法人Bセンターが実施する交通事故相談業務の場合,相談は,財団
法人Bセンターの会長又は支部長が委嘱する相談担当弁護士が行い,財団法
人Bセンターが相談担当弁護士に対し日当を支給する。
5以上によれば,本件日当は,給与所得には当たらず,弁護士がその計算と危
険において独立して行う業務から生じた所得であって,所得税法施行令63条
11号にいう「その他のサービス業」から生ずる所得に該当し,事業所得に当
たるというべきである。
第4結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用
の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
京都地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官中村隆次
裁判官谷口園恵
裁判官向健志

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛