弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、上告人ら敗訴部分を破棄し、本件を名古屋高等裁判所へ差し
戻す。
         理    由
 上告代理人高橋淳の上告理由第一点について。
 原判決の判示するところによると、狭い道路から広い道路に出る車両はその直前
に一旦停車しまたは徐行して広い道路の交通の安全を確かめて広い道路に出るべき
注意義務があるにかかわらず、被上告人B1が漫然自転車に乗車して本件丁字路に
飛び出して本件事故を惹起したことは、同被上告人に重大な過失があるというべき
であるが、本件事故発生当時同被上告人は年令八年二月の児童で未だ交通規則を弁
識するに足る能力を有しなかつたものと解せられるから、本件事故に基づく損害賠
償については、同被上告人の過失をしんしやくしないのを相当とするとして、上告
人らからの過失相殺の主張を排斥している。
 しかし、民法七二二条二項に定める過失相殺を適用する場合において、被害者た
る未成年者の過失をしんしやくするには、未成年者に事理を弁識するに足る知能が
具わつていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能が具わつていることを要し
ないものと解されるところ(最高裁判所大法廷判決昭和三六年(オ)四一二号、同
三九年六月二四日民集一八巻五号八五四頁)、昭和四〇年一一月一五日の本件事故
当時、自動車交通の激しい都会地などにおいて、丁字路などの狭い道路から広い道
路に出るに際しては、自転車などの搭乗者が、徐行一旦停車などの上、広い道路の
交通状態を確かめるため注意をすべきことは、一般社会人として、当然要求されて
いるものと解すべきである。
 したがつて、本件の事故当時、既に年令八年二月であつた被上告人B1は、特段
の事情のないかぎり、前示の交通事情について事理を弁識するに足る能力があつた
ものと解されるのを相当とするところ、本件事故現場の交通事情、被上告人B1の
性格、学校成績その他交通安全に関する指示の存否など特別の事情の有無について、
なんら考慮を払うことなく、前記確定した事実関係からただちに同被上告人に事理
を弁識するに足る能力を認めなかつた原判決は、法令の解釈、適用をあやまつた結
果、審理不尽の違法をおかしているものというべく、論旨は理由がある。
 同第二点について。
 第三者の不法行為によつて身体を害された者の両親は、そのために被害者が生命
を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神
上の苦痛を受けたときにかぎり、自己の権利として慰藉料を請求できるものと解す
るのが当裁判所の判例(最高裁判所第三小法廷判決昭和三一年(オ)二一五号、同
三三年八月五日民集一二巻一二号一九〇一頁、同第三小法廷判決同四〇年(オ)一
〇〇四号、同四二年一月三一日民集二一巻一号六一頁、なお同第三小法廷判決同四
〇年(オ)一三〇八号、同四二年六月一三日民集二一巻六号一四四七頁参照)とす
るところであり、原判決の確定した事実関係では、被上告人B2、同B3は、子た
る被上告人B1の受傷により多大の精神的苦痛を受けたことは認められるが、いま
だ被上告人B1が生命を害された場合にも比肩すべきかまたは右場合に比して著し
く劣らない程度の精神上の苦痛を受けたものとは認め難く、したがつて、原判決が
その確定した事実関係から、ただちに被上告人B2、同B3に対し、慰藉料請求権
があるとしたのは、失当というべく、原審はすべからく被上告人B1の後遺症の有
無、現在残つている傷害の程度その他の事情を判断したうえで、被上告人B2、同
B3の慰藉料請求権の有無を決すべきであつたのである。従つて、この点で原判決
は審理不尽、理由不備のそしりを免れない。
 よつて、原判決中、上告人ら敗訴部分を破棄して、これを原審に差戻すこととし、
民訴法四〇七条により、裁判官全員の一致で、主文のとおり、判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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