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平成23年3月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10307号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年2月17日
判決
原告ケイデンスデザインシステムズ,
インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士齋藤和則
被告特許庁長官
同指定代理人古川哲也
加藤惠一
田部元史
豊田純一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008−16707号事件について平成22年6月15日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正を却下し,発明の要旨を下記2
の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審
決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消
事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)出願手続(甲1)及び拒絶査定
発明の名称:配置の際に対角線配線を考慮に入れるための方法および装置
出願番号:特願2002−548785号
出願日:平成13年12月5日
パリ条約による優先権主張日:平成12年(2000年)12月6日(アメリカ
合衆国)
拒絶査定:平成20年3月27日付け(甲5)
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年7月1日(不服2008−16707号)
手続補正日:平成20年7月31日付け(甲6。以下,同日付け手続補正書によ
る補正を「本件補正」という。)
審決日:平成22年6月15日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年6月30日
2特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,平成20年2月22日
付け手続補正書(甲4)による補正後のものである。以下「本願発明」という。)
は,次のとおりである。文中の「/」は,原文における改行を示す。
コンピュータの少なくとも1つのプロセッサを用いて回路レイアウトの領域内に
回路モジュールを設置するための方法であって:/a)/回路レイアウトの領域内に
回路モジュールを設置するために,複数の回路モジュールを受領し;そして/b)
/前記複数の回路モジュールのうちの少なくとも1つの配置を,少なくとも1つの
対角線を用いて確定することによって,少なくとも2つの回路モジュールを接続す
るのに必要なワイヤの長さの評価量を測定する方法
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件補正は,平成14年法律第24号による改正
前の特許法17条の2(以下「法17条の2」という。)第4項各号のいずれの目
的にも該当しないとして,本件補正を却下し,本件出願の請求項1に係る発明の要
旨を本願発明のとおり認定した上,同請求項の記載は,サポート要件及び明確性の
要件を満たしていないものである,としたものである。
4取消事由
本件審決の手続違反
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)原告は,本件に係る審判請求書提出後の平成20年7月31日に手続補正
書(甲6)及び同年8月11日に手続補正書(方式)(甲7)を提出したところ,
審判長は,原告に対し,同21年10月2日付けの審尋書(甲8。以下「本件審尋
書」という。)を送付した。
そこで,原告は,平成22年3月19日,回答書(甲9)を提出したところ,本
件審決がされた。
(2)ところで,本件審尋書において,審判長は,「この審尋は,拒絶理由の通
知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありません。したがっ
て,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることはできま
せん。」,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありませ
んが,合議体が審判の手続継続の意思について確認する場合があります。」と述べ
た。
(3)そして,拒絶査定不服審判において,「審理において不利に扱うこと」と
は,拒絶審決を行うことである。また,「回答がない場合であっても,審理におい
て不利に扱うことはありません」ということは,回答書を提出しても,当然に審理
において不利に扱うことがないものと解釈される。
また,原告は,上記回答書において,補正可能性のある特許請求の範囲の案を示
しているところ,本件審尋書における「回答がない場合であっても,審理において
不利に扱うことはありません」との上記記載は,回答書の提出後に直ちに不意打ち
的な拒絶査定がされることはないことを前提とし,回答書の提出後に,少なくとも
1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会を得ることができることをいうもの
と解される。
(4)審尋に対する回答書においては,特許請求の範囲の補正はできないとして
も,原告は,補正可能性のある特許請求の範囲を示しているところ,原告として
は,できるだけ広い特許請求の範囲で特許されるようにと考えているからである。
そして,この特許請求の範囲は,そもそも審査官・審判官とのせめぎ合いを経て最
終的に出願人が決定するものである。
原告としては,審尋に対する回答書における補正可能性のある特許請求の範囲
と,これに対する拒絶理由通知に対応する補正された特許請求の範囲とは,根本的
にその補正方針が異なるものであった。すなわち,原告は,審尋に対する回答書に
おける補正可能性のある特許請求の範囲について,審判官とのせめぎ合いの中で,
できるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲を模索しているものであるが,更
に拒絶理由通知を受けた場合には,この拒絶理由通知に対応した最終的補正方針に
基づく,より限定された特許請求の範囲に補正し,これに対応した意見書も提出す
る方針であった。
(5)しかるところ,本件においては,審尋に対する回答書における補正可能性
のある特許請求の範囲に対して,直ちに不意打ち的な審決がされ,この結果,原告
は,原告の最終的補正方針に基づくより限定された特許請求の範囲に補正する機会
が与えられず,また,この最終的補正方針に基づく,より限定された特許請求の範
囲に対応する意見書を提出する機会を与えられずに,不意打ち的に拒絶審決がされ
るに至ったものである。
(6)したがって,本件審決は,特許法153条2項の手続を経ずに審理された
ものというべきであって,同項の規定に違反する違法なものとして取り消されるべ
きである。
〔被告の主張〕
(1)本件審尋書における,備考欄の「回答がない場合であっても,審理におい
て不利に扱うことはありません」との記載は,前置報告の内容に対する意見があれ
ばその回答を求めるとともに,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と
比べて審理において不利には扱わないことを意味するのであって,拒絶の審決を行
わないことを意味するのではない。
(2)そして,回答書の提出後において,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があ
り,合議体が改めて拒絶理由を通知することが必要であると判断し,その拒絶理由
が通知された場合を除いて,少なくとも一度は,意見書及び手続補正書を提出する
機会を得ることができると解する余地はない。
このことは,本件審尋書の備考欄にも「この審尋は,拒絶理由の通知(同法第1
59条において準用する同法第50条)ではありません。したがって,この審尋の
回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることはできません。なお,拒
絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断した場合には,改めて
拒絶理由が通知され,同法第17条の2に規定する補正の機会が与えられます。」
と記載されているとおり,補正の機会が与えられるのは,拒絶査定の理由と異なる
拒絶理由があり,合議体が必要と判断し,改めて拒絶理由が通知された場合に限ら
れるものである。
(3)しかるところ,本件審決は,拒絶査定の理由と同じ理由によって拒絶審決
に至ったものであるから,補正する機会が与えられなかったことが不当であるとは
いえず,本件審決が不意打ち的なものということもできない。
(4)したがって,本件審決には,原告が主張する手続の違法はない。
第4当裁判所の判断
1本件審査・審判手続の経緯
(1)本件出願に係る審査手続において,審査官は,平成19年8月20日付け
拒絶理由通知書(甲2)において,特許請求の範囲の請求項1の記載につき,①
「対角線を使用」がコストの測定にどのような影響を及ぼすのか特定できず,同請
求項の記載では,対角線を使用することの意義又は意味が不明であること,②その
結果,発明の詳細な説明における開示との対応が不明になっており,他の請求項に
ついても同様であることなどを記載するとともに,意見書の提出期限を発送日(同
月22日)から3か月以内と指定した。
(2)原告は,平成20年2月22日付け意見書(甲3)及び手続補正書(甲
4)を提出し,上記拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されたと主張したが,審
査官は,同年3月27日付けで,上記拒絶理由通知書に記載した理由によって,本
件出願を拒絶する旨の拒絶査定をした(甲5)。
なお,同拒絶査定の備考欄において,上記拒絶理由通知に記載した特許請求の範
囲の請求項1の記載に係る拒絶理由が依然解消していない旨が付記された。
(3)原告は,平成20年7月1日,審判請求をし,また,同月31日付けで本
件補正をして,上記拒絶理由は全て解消されたと主張したが,審判長は,原告に対
し,同21年10月2日付けで,いわゆる「前置報告」の内容を記載するととも
に,審判事件の審理を開始するに当たって,この前置報告の内容について原告の意
見を事前に求めるとの記載のある本件審尋書(甲8)を送付した。
なお,本件審尋書には,備考欄において,「この審尋は,拒絶理由の通知(同法
(判決注:特許法をいう。以下同じ。)第159条において準用する同法第50
条)ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規
定する補正をすることができません。なお,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があ
り,合議体が必要と判断した場合には,あらためて拒絶理由が通知され,同法第1
7条の2に規定する補正の機会が与えられます。」,「回答がない場合であって
も,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされていた。
(4)これに対し,原告は,審判長に対し,平成22年3月19日付けで,審尋
に対する回答書において特許請求の範囲の補正をすることができないことを知った
上で,次の機会に手続補正書を提出し,特許請求の範囲を補正し,明細書の該当す
る部分につき,整合性を有するように補正する予定であるなどとする回答書を提出
した(甲9,弁論の全趣旨)。
(5)平成22年6月15日にされた本件審決は,本願発明に係る特許請求の範
囲の記載がサポート要件及び明確性の要件を満たしていないなどとして,本件審判
の請求は成り立たないとした。
2検討
(1)本件出願に適用される法17条の2第1項は,特許出願人が同法50条に
よる拒絶理由通知を受けた後は,最初の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内,
最後の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内及び拒絶査定を受けた場合の査定不
服審判請求の日から30日以内にするときに限り,願書に添付した明細書(特許請
求の範囲を含む)及び図面の補正をすることができると規定している。これは,無
制限に補正を認めたのでは,手続を複雑にし,特許庁の負担もいたずらに増すこと
になり,ひいては迅速な権利付与手続の妨げにもなること,出願人同士の公平性の
確保という見地などから,願書に添付した明細書及び図面の補正につき,補正ので
きる時期について一定の制限を加えたものである。
これを本件についてみると,本件出願については,原告が本件審尋書を受領した
時点において,上記1のとおり,平成19年8月20日付けで拒絶理由通知がされ
て補正をすることができる指定された期間が経過し,また,平成20年7月1日の
審判請求の日から30日の期間も経過していたのであるから,拒絶査定の理由と異
なる拒絶理由があるとして改めて拒絶理由が通知される場合は格別,審判官におい
て,法律上,特許出願人である原告に対して補正の機会を与える義務はない。
しかるところ,本件審決は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書,原告か
らの同20年2月22日付け意見書及び手続補正書,同年3月27日付け拒絶査定
で一貫して対象とされていた事項について,同拒絶査定と同じ理由で本願発明を査
定することができないと判断したものであるが,原告としては,査定不服審判請求
の日から30日以内にする補正において,この点について適切に補正する機会が与
えられていたものである。それにもかかわらず,原告は,この時点に至っても,な
お,審判官とのせめぎ合いの中でできるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲
を模索するとして,拒絶理由通知に対応した最終的な補正方針に基づく,より限定
された特許請求の範囲の補正をせずにいたというのであって,このような対応をし
た原告が,改めて拒絶理由が通知される場合でないのに,その場合と同様に補正の
機会を与えられなかったことを不当であるなどと主張することは失当というほかな
い。
(2)この点について,原告は,本件審尋書において,「回答がない場合であっ
ても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされたことをもっ
て,回答書の提出後に,少なくとも1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会
が与えられるべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件審尋書は,「前置報告を利用した審尋」を行うために原告に
対して送付されたものであるところ(乙1),これは,審判請求人に対して,前置
審査の結果である前置報告の内容を審尋により送付し,審査官の見解に対する反論
の機会を与えることにより,審判における審理・判断を充実させるために行われて
いるものであって,「前置報告を利用した審尋」が行われたことをもって,審判請
求人に更なる補正の機会が与えられるものではない。
そして,このことは,本件審尋書においても,備考欄において「この審尋は,拒
絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありませ
ん。」と記載されて明らかにされているものである。また,同備考欄における「回
答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載
も,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と比べて審理において不利に
は扱わないという意味以上のものとは解されないものであって,同記載をもって,
審判請求人に必ず補正の機会が与えられるべきものであるとの原告の主張は,同記
載を正解しないというにすぎず,これを採用する余地はない。
(3)なお,原告は,以上るる主張するところをもって,本件審判手続には,特
許法153条2項の違反があると結論付けているが,その適条はともかく,原告の
主張を採用し得ないことは以上説示したとおりである。
3結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官荒井章光

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