弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,介護給付費支給決定の義務付け
請求に係る部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1大阪市が平成18年10月19日付けで原告に対してした介護給付費支給決
定を取り消す。
2大阪市は,原告に対し,重度訪問介護の支給量を1か月592時間とする介
護給付費支給決定をせよ。
第2事案の概要
1本件は,被告兼処分行政庁(以下,単に「被告」という。)から,障害者自立
支援法(以下「法」という。)19条1項,22条1項,4項に基づき重度訪
問介護の支給量を1か月当たり318時間とする介護給付費支給決定(以下
「本件支給決定」という。)を受けた原告が,本件支給決定において定められ
た上記支給量を不服として,被告に対し,本件支給決定の取消しを求めるとと
もに,重度訪問介護の支給量を1か月592時間とする介護給付費支給決定を
することの義務付けを求めた事案である。
2法令の定め
(1)法5条1項は,「障害福祉サービス」とは,居宅介護,重度訪問介護,行
動援護,療養介護,生活介護,児童デイサービス,短期入所,重度障害者等
包括支援,共同生活介護,施設入所支援,自立訓練,就労移行支援,就労継
続支援及び共同生活援助をいう旨規定し,同条3項は,「重度訪問介護」と
は,重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者につき,居宅にお
ける入浴,排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外
出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう旨規定する。
障害者自立支援法施行規則(以下「規則」という。)1条の3は,法5条3
項に規定する厚生労働省令で定める便宜は,入浴,排せつ及び食事等の介護,
調理,洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生
活全般にわたる援助とする旨規定する。
(2)法28条1項は,介護給付費及び特例介護給付費の支給は,重度訪問介
護その他の同項各号に掲げる障害福祉サービスに関して法29条及び30
条の規定により支給する給付とする旨規定し,法19条1項は,介護給付費
等の支給を受けようとする障害者は,市町村の介護給付費等を支給する旨の
決定(以下「支給決定」という。)を受けなければならない旨規定し,法2
0条1項は,支給決定を受けようとする障害者等は,厚生労働省令で定める
ところにより,市町村に申請(以下「支給申請」という。)をしなければな
らない旨規定し,法21条1項は,市町村は,支給申請があったときは,政
令で定めるところにより,市町村審査会が行う当該申請に係る障害者等の障
害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行
うものとする旨規定し,法22条1項は,市町村は,支給申請に係る障害者
等の障害程度区分,当該障害者等の介護を行う者の状況,当該申請に係る障
害者等の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定
める事項(以下「勘案事項」という。)を勘案して介護給付費等の支給の要
否の決定(以下「支給要否決定」という。)を行うものとする旨規定し,同
条4項は,市町村は,支給決定を行う場合には,障害福祉サービスの種類ご
とに月を単位として厚生労働省令で定める期間において介護給付費等を支
給する障害福祉サービスの量(以下「支給量」という。)を定めなければな
らない旨規定する。
規則12条は,法22条1項に規定する厚生労働省令で定める事項(勘案
事項)として,支給申請に係る障害者等の障害程度区分又は障害の種類及び
その他の心身の状況(1号),当該申請に係る障害者等の介護を行う者の状況
(2号),当該申請に係る障害者等に関する介護給付費等の受給の状況(3号),
当該申請に係る障害児が現に児童福祉法42条に規定する知的障害児施設等
を利用している場合には,その利用の状況(4号),当該申請に係る障害者が
現に介護保険法の規定による保険給付に係る居宅サービスを利用している場
合には,その利用の状況(5号),当該申請に係る障害者等に関する保健医療
サービス又は福祉サービス等の利用の状況(6号),当該申請に係る障害者等
の障害福祉サービスの利用に関する意向の具体的内容(7号),当該申請に係
る障害者等が置かれている環境(8号)及び当該申請に係る障害福祉サービ
スの提供体制の整備の状況(9号)を掲げており(以下,上記各勘案事項を,
それぞれの号数に応じて「勘案事項①」から「勘案事項⑨」までのように表
記する。),規則13条は,法22条4項に規定する厚生労働省令で定める期
間は1月間とする旨規定する。
(3)法の施行日は平成18年4月1日であるところ(法附則1条),法5条1
項(居宅介護,行動援護,児童デイサービス,短期入所及び共同生活援助に
係る部分を除く。),3項及び28条のうち重度訪問介護に係る部分等の規定
については同年10月1日から施行し(法附則1条2号),同年4月1日か
ら同年9月30日までの間は,法28条1項の規定にかかわらず,介護給付
費及び特例介護給付費の支給は,居宅介護,行動援護及び外出介護(法附則
34条の規定による改正前の身体障害者福祉法(以下「旧身体障害者福祉法」
という。)4条の2第2項に規定する身体障害者居宅介護等のうち,外出時
における移動中の介護をいう。)等のサービスに関して法29条及び30条
の規定により支給する給付としている(法附則8条)。
3前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記各証拠(書証番号は,特記し
ない限り枝番を含む。以下同じ。)又は弁論の全趣旨から容易に認められる。
なお,争いがない事実には認定根拠を付記しない。
(1)当事者(甲1,弁論の全趣旨)
ア原告は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性であるが,平成18年10月1
9日当時(本件支給決定時),○による○及び言語機能障害並びに○及び○
による視覚障害の各障害を有していたほか,○及び○などの慢性疾患を有
していた。原告は,上記各障害により,身体障害者福祉法15条4項,4
3条の2,身体障害者福祉法施行規則22条に基づき大阪市長から身体障
害者等級表による級別を1級とする身体障害者手帳の交付を受けており,
法4条1項にいう「障害者」に該当する。
イ被告は,原告の居住地の市町村として,原告に対する支給決定に係る権
限を有する地方公共団体である(法19条2項)。
(2)本件支給決定に至る経緯(甲4,5,7,乙11,弁論の全趣旨)
ア原告は,被告から,旧身体障害者福祉法に基づき,日常生活支援に係る
費用及び移動介護に係る費用として,支給量をそれぞれ1か月267時間
及び1か月51時間の合計1か月318時間とする居宅支援費支給決定を
受けていたが,法施行後の平成18年4月24日,被告に対し,介護給付
費・訓練等給付費支給申請書を提出して支給申請(以下「本件申請」とい
う。)をした。なお,上記申請書には,「現在支援費制度で利用しているサ
ービスと同様のサービス」欄にチェックされていた。
イ本件申請を受けた被告は,平成18年4月26日付けで,法20条2項
後段の規定に基づき,社会福祉法人大阪市社会福祉協議会(以下「社会福
祉協議会」という。)に対して原告の障害程度区分認定調査を委託したとこ
ろ,同協議会は,同年5月31日,同条3項の規定に基づきその調査員を
原告の自宅に派遣し,障害程度区分認定調査を行わせた。被告は,上記調
査の結果を基に障害程度区分の1次判定をしたところ,原告は,区分6に
該当する旨判定された。さらに,同年6月29日に開催された法15条が
規定する市町村審査会である大阪市障害者程度区分認定審査会α区合議体
(以下「本件認定審査会」という。)において,上記1次判定の結果,上記
調査員作成の概況調査票及び主治医の意見書等に基づく審査の上,原告の
障害程度区分を区分6とする2次判定が行われ,被告は,同判定結果に基
づき,原告の障害程度区分を区分6と認定した上で,原告に対し,同年7
月7日付けでその旨通知した。
ウ被告は,平成18年9月22日,原告に係る重度訪問介護につき,当時
原告が支給を受けていた身体障害者福祉法に基づく居宅支援費に係る支給
決定と同量の支給量(1か月318時間)で暫定的に支給決定をし,さら
に,同年10月19日,重度訪問介護の支給量を1か月318時間とする
非定型支給決定案が本件認定審査会によって承認されたことから,同日付
けで,障害福祉サービスの種類を重度訪問介護とし,支給量を1か月31
8時間(うち,51時間が移動中介護の加算対象時間数である。)とする旨
の本件支給決定をした。
(3)不服申立て及び本件訴え(甲6,7,弁論の全趣旨)
ア原告は,平成18年12月10日,大阪府知事に対し,本件支給決定を
不服として審査請求をしたが,大阪府知事は,平成19年5月2日付けで,
原告の上記審査請求を棄却する旨の裁決をし,同月8日ころ,同裁決に係
る裁決書謄本が原告に到達した。
イ原告は,平成19年10月31日,当庁に対して本件訴えを提起した。
(4)生活保護の受給
原告は,現在生活保護を受給しており,他人介護料(生活扶助のうち,生
活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号)別表第1第
2章4⑸に規定する加算額をいう。以下同じ。)として,月額17万円の支給
を受けている。
4主たる争点
(1)本件支給決定の適法性(争点①)
(2)重度訪問介護の支給量を1か月592時間とする介護給付費支給決定の
義務付けの可否(争点②)
5主たる争点についての当事者の主張
(1)争点①(本件支給決定の適法性)について
【原告の主張】
ア法は,障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ,自立した日
常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービスに
係る給付その他の支援を行い,もって障害者及び障害児の福祉の増進を図
るとともに,障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安
心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とするも
のであり(法1条),この法の趣旨に反する支給決定は許されない。そして,
支給決定における支給量の算定根拠及び算定方法などについては,厚生労
働省社会・援護局障害保健福祉部企画課及び障害福祉課が平成19年4月
13日付けで各都道府県障害保健福祉主管部(局)にあてて発出した「障
害者自立支援法に基づく支給決定事務に係る留意事項について」と題する
事務連絡(以下「本件留意事項」という。甲11)を作成しているところ,
本件留意事項においても,適正かつ公平な支給決定を行うために支給決定
基準を定めておくことは望ましいとはされているものの,他方で,あくま
で個々の障害者の日常生活に支障が出ることがないように,その基準を超
えてでも適切な支給量に達するよう支給決定することが求められているの
である。
そして,障害福祉サービスのうち,重度訪問介護については,法5条3
項,規則1条の3によりその内容が規定されているところ,厚生労働省社
会・援護局障害保健福祉部障害福祉課が平成19年2月16日付けで各都
道府県障害保健福祉担当課にあてて発出した「重度訪問介護等の適正な支
給決定について」と題する事務連絡(以下「重度訪問介護事務連絡」とい
う。甲15)においては,重度訪問介護は,日常生活に生じる様々な介護
の事態に対する見守り(以下「見守り介護」という。)等の支援をも含むこ
とを前提として,日常生活全般に常時の支援を要する重度の肢体不自由者
について,身体介護,家事援助,見守り介護及び外出介護などが,比較的
長時間にわたり,総合的かつ断続的に提供されるような支援をいうものと
されており,これによれば,本件において,原告につき法がどのような見
守り介護を予定しているかという点について判断するためには,上記の意
味での見守り介護が,比較的長時間にわたり,総合的かつ断続的に提供さ
れるような支援とは,原告にとってどのようなものであるかを解釈として
導き出せばよいのであり,このように法を適正に解釈した結果得られる支
援内容は,一義的に定まるものである。
被告は,支給決定については市町村が自由かつ独自の解釈権限あるいは
裁量権を有するかのような主張をするが,法には,市町村に上記のような
裁量権を認めた規定はなく,被告の上記主張は失当である。
イ以上を前提として本件についてみると,次のとおり,原告には1日24
時間の重度訪問介護(以下,単に「24時間介護」という。)が必要である。
すなわち,原告は,全身性麻痺のため,両手を使うことができず,座位
を維持することもできず,移動(室内での食事,トイレ及び入浴のほか,
社会参加等の戸外活動)の際には常に介助が不可欠である。
また,○は,○のほか,○も伴うものであるところ,原告は,食道と胃
との間の括約筋の働きが弱くなり,胃壁から分泌された胃液を含む内容物
が食道に逆流して食道で炎症が生じるという,○を患っており,逆流した
胃の内容物が肺に流れ込む危険もある。実際,原告は,平成19年1月1
6日午前6時ころ,介護者が隣室で待機している際に,胃の内容物が突然
食道に逆流し,内容物を嘔吐し,咳き込むといったこともあった。このよ
うなことはたびたび生じるものではないが,上記の際には,たまたま介護
者が待機していてくれたので,同人が救急車を呼ぶことができ,原告は一
命を取り留めることができたのである。原告は,上記の事件以降,介護者
のいない夜は常に死の恐怖にさらされる思いを余儀なくされている。この
点につき,被告は原告の嘔吐を「偶発的」などと表現するが,原告の病気
を曲解するものというほかない。原告は,寝ている間,全身麻痺のため体
の向きを自由に変えることができず,もし夜間に嘔吐をすると,胃の内容
物が気管に入らないように寝返りをうちうつぶせになることも困難であり,
嘔吐物が気管に入って窒息死する可能性もあるのである。このように,原
告については簡単な身を守る動作すら介助が不可欠なのであって,被告は,
原告の診断書(甲8)において,「日中に加え夜間もヘルパーによる見守り
や介助が必要です」とされていることを重く受け止める必要がある。
さらに,原告は,全身性麻痺と○のために呼吸が浅く,気管支が狭いた
め,○に悩まされており,深夜に○の発作が起きた場合には,直ちに介護
者に発作を止める薬を飲ませてもらわなければ,長く発作に苦しむことに
なってしまう。
以上に加えて,全身麻痺のなかで体の安定を保ち,様々な日常生活のた
めの動きをすることは,全体として体に無理を強いることになり,二次的
な障害として首や肩の緊張のため筋肉が硬直し,苦痛を伴うようになる。
この緊張を防止するためには,できる限り日常生活において無理な動きを
避けて介護者に手伝ってもらい,精神的にリラックスする必要があり,介
護者がいなければ,たとい短距離であっても,全身の力を振り絞ってはい
ずり回らなければならず,これに伴う疲労感,不安感,精神的緊張から来
る二次障害は避けられない。
ウ以上のとおり,原告については,夜間における見守り介護を含めた24
時間介護(1か月当たり722時間)が必要であり,被告自身もその必要
性を認めていたのである。しかるに,被告は,上記の夜間の見守り介護の
必要性を検討することなく重度訪問介護の支給量を1か月318時間と定
めて本件支給決定を行ったのであり,本件支給決定は違法である。
【被告の主張】
ア法は,支給要否決定に際しては,障害程度区分,当該障害者の介護を行
う者の状況及び障害者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚
生労働省令で定める事項(勘案事項)を勘案すること並びに支給決定を行
う場合には,障害福祉サービス種類ごとに1か月毎の支給量を定めなけれ
ばならないこととしている。これを受けて規則12条は勘案事項の具体的
内容を定めているものの,規則は介護給付等の支給の要否及び支給量の決
定に際してそれらの勘案事項をどのように勘案し,具体的にどのように支
給の要否又は支給量を判断するのかについては何ら触れるところではない。
かえって,厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長が平成19年3月2
3日付けで各都道府県知事,指定都市市長及び中核市市長にあてて発出し
た「介護給付費等の支給決定について」と題する通知(平成19年障発第
0323002号,以下「本件通知」という。乙2)によれば,介護給付
費等の支給の要否や支給量の決定についての支給決定基準は市町村の裁量
により作成すべきものとされているのである。本件通知においては,支給
の要否や支給量の決定に関して,市町村は,勘案事項を踏まえつつ,介護
給付等の支給決定を公平かつ適正に行うため,あらかじめ支給の要否や支
給量の決定についての支給決定基準を定めておくことが適当であるが,
個々の障害者の事情に応じ,支給決定基準と異なる支給決定(いわゆる「非
定型」の支給決定)を行う必要がある場合が想定されることから,市町村
はあらかじめ「非定型」の判断基準等を定めておくことが望ましいとされ
ており,また,重度訪問介護に係る具体的な支給量の定め方については,
あらかじめ定めた支給決定基準に照らしつつ,障害程度区分その他の勘案
事項を踏まえて支給量を定めるものとされている。
以上を踏まえ,被告においては,平成18年10月1日付けで「障害者
自立支援法における介護給付費等及びサービス利用計画作成費の支給事務
取扱要綱」(以下「本件要綱」という。乙3)が策定されている。被告は,
本件要綱の策定に当たって,国庫負担基準のみを考慮するのではなく,学
識経験者や障害者等の意見を聴取し,旧身体障害者福祉法の下における身
体障害者居宅介護に係る支援費の支給制度(以下「支援費制度」という。)
時のサービス水準の低下をきたさないことを基本とし,支援費制度時の利
用状況等も勘案しながら基準を策定した。そして,本件要綱においては,
申請に係る障害者の障害程度区分及び同人に対して介護を行う者の状況に
応じて「基本時間数」を算出するとともに,居住や世帯の状況のほか障害
程度区分には反映されないような本人の身体状況等に応じて「加算時間数」
を算出し,これらを合計したものを,当該申請者に係る1か月当たりの「支
給決定基準時間数」とし,その上で,当該申請者に対する訪問調査の結果
把握した当該申請者の日常生活の状況等を記載したサービス利用計画案に
基づき,1か月当たりの日常生活に係る時間数を算出し,これが上記支給
決定基準時間数を上回り,支給基準を超えて支給決定が必要とされる場合
には,非定型支給決定案を作成し,市町村審査会の意見を聴いた上で適正
な支給量を定めるものとされている。
イ本件においては,原告の障害程度区分が6と認定され,かつ認定調査項
目のうち,移乗,歩行,排尿及び排便のいずれもが一部介助以上と認定さ
れ,また単身生活者であったことから,本件要綱に基づき原告に係る基本
時間数は231時間/月とされ,これに夜間介護の必要性等を考慮して最
大限の加算である30%の加算をした301時間/月をもって支給決定基
準時間数とされたが,原告については,支援費制度時に,特別基準に基づ
き,支給量を日常生活支援に係る時間数として267時間,移動介護に係
る時間数として51時間の合計318時間とする支給決定がされており,
訪問・聴取り調査の結果,支援費制度時と比べて障害状況や介護の状況等
に格段の変化がないことが確認できたことから,被告は支給量を1か月3
18時間とする非定型支給決定案を作成し,市町村審査会(本件認定審査
会)の意見を聴取した上で支給量を1か月318時間とする非定型の支給
決定(本件支給決定)を行ったものである。
原告は,深夜帯等における突発的な○発作や嘔吐などに備えて,あるい
は原告の精神的リラックスのために介助者に24時間原告宅に待機しても
らっており,24時間介護が必要であると主張する。しかしながら,重度
訪問介護に見守り介護が含まれるとしても,その具体的内容や範囲につい
ては重度訪問介護事務連絡等のほかには法令等に何らの定めもなく,どこ
までを見守り介護として認めるかは,各市町村の裁量に任されているので
ある。そして,被告においては,当該障害者の障害の種類及びその程度そ
の他心身の状況並びに当該障害者の置かれている環境等を総合的に勘案し
て見守り介護の必要性の有無を判断し,見守り介護の必要性が認められる
ときには,それに必要な時間数を支給量として認める取扱いとしていると
ころであり,原告についても,24時間介護を認めて欲しいとの申出を受
け,深夜帯における見守りの必要性についても検討し,深夜帯における水
分補給や排せつ介助及び布団のかけ直し等の必要性を考慮して,見守り介
護のために1日当たり3時間を計上して本件支給量を決定しているのであ
る。そうであるところ,原告が主張する○発作及び嘔吐については,原告
の主張を前提としても,そのような○発作や嘔吐の頻度は極めて稀である
のみならず,原告については非常時には緊急通報システム等を利用するこ
とも可能なのであるから,原告が24時間介護が必要な状態であるとは到
底いえないのであって,被告としては,偶発的に起こる上記の○発作や嘔
吐の場合までを想定して,あるいは原告の精神的リラックスのために介助
者が待機している時間数についてまで考慮して,24時間介護の支給決定
をしなければならない理由はない。原告が援用する重度訪問介護事務連絡
も,重度訪問介護においては,何らかの「支援」を比較的長時間にわたり
総合的かつ断続的に提供していることを前提にしているものであり,原告
が主張するような「待機」時間まで見守り介護に含めることを想定してい
るものではない。結局,原告の主張を前提としても,そのようなケースに
ついてまで24時間介護を認めるか否かは,まさに当該市町村の裁量にゆ
だねられているものというべきであり,これを認めないからといって違法
とされるべき理由は何ら存しないのである。
ウ以上のとおり,被告は,関係諸法令を踏まえてあらかじめ介護給付費の
支給基準を定めた上で原告に対する支給量を決定したものであり,本件支
給決定には何ら違法とされるべき点は存せず,適法である。
(2)争点②(重度訪問介護の支給量を1か月592時間とする介護給付費支
給決定の義務付けの可否)について
【原告の主張】
争点①について述べたとおり,原告については24時間介護が必要であり,
1か月当たり722時間の支給量が必要となる。もっとも,原告は現在生活
保護を受給しており,他人介護料として月額17万円の支給を受けていると
ころ,これは,130時間分の介護に相当する。したがって,被告は,原告
に対し,上記722時間と130時間の差である592時間を支給量とする
支給決定をする義務がある。
【被告の主張】
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加えて,掲記各証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実
が認められる。
(1)本件要綱の定め(乙3)
大阪市においては,法19条1項に規定する介護給付費等及び法32条に
規定するサービス利用計画作成費の支給に関して本件要綱を定めているとこ
ろ,本件要綱5条は,法19条1項の支給決定を行う場合,保健福祉センタ
ー所長は,障害程度区分の認定を伴う場合については申請日から75日以内,
障害程度区分の認定を伴わない場合については,申請日から30日以内に支
給するサービスの種類,支給量,支給決定の有効期間,負担上限月額に関す
る事項及びその他保健福祉センター所長が必要と認める事項について決定す
る旨規定し,同条2項は,上記決定を行う場合については,保健福祉センタ
ー所長は,申請者の障害程度区分や利用意向,介護者の状況等を勘案した上
で,適切な支給量を定めるものとし,法28条1項1号から3号及び8号に
規定する障害福祉サービスの支給量については,それぞれ本件要綱別表1か
ら別表4の範囲内で定めるものとする,ただし,大阪市障害程度区分認定審
査会運営要綱(以下「本件運営要綱」という。乙7)16条2項1号に基づ
く審査の結果,同別表1から別表4の範囲を超えて支給決定する妥当性が認
められた場合はこの限りではない旨規定し,本件要綱別表2は,重度訪問介
護の支給量の基準につき,別紙「重度訪問介護支給量基準」のとおり規定し
ている。
(2)緊急通報システム(乙12から14まで)
ア大阪市においては,独居等の高齢者又は重度の障害者が急病,災害等の
非常事態に遭遇した場合に,緊急通報装置(以下「通報装置」という。)を
操作することで,受信装置を設置した場所に通報し,非常事態を知らせる
ことにより必要な援助を受けられるようにすることを目的とした,緊急通
報システム事業を実施している。この緊急通報システム利用対象者は,重
度身体障害者(1級又は2級の身体障害者手帳を所持する者をいう。)のみ
の世帯又はこれに準ずる世帯を構成する重度の障害者等とされ,緊急通報
システムを利用しようとする対象者は,緊急通報システム利用申込書等を
大阪市長に提出しなければならないとされ,通報装置の貸与に係る費用は
緊急通報システム利用対象者が負担することとするが,対象者の申請時の
状況が生活保護法に基づく被保護世帯等に属する場合は,市長がその費用
を負担することができるとされている。
イ緊急通報システムの利用者は,ハンズフリー通話機能を備えた通報装置
及び無線式ペンダント型通報装置が貸与され,緊急時に利用者が上記通報
装置の緊急ボタンを押すと,24時間体制の大阪市社会福祉研修・情報セ
ンターの緊急通報受信室(現受信センター)に自動的に通報され,同通報
を受けた緊急通報受信室において,通報装置のスピーカーを介して直接利
用者本人に状況を確認したり,事前に利用者により登録されている利用者
宅の近隣に所在する協力者に状況確認等の協力依頼をしたりするほか,こ
れらの連絡がつかないような場合には,直接救急車の出動要請をすること
となっている。
(3)原告の障害の状況等(甲1,3,8,13,14,19,証人A,原告
本人)
原告は,○による○の障害を有し,不随意運動により四肢を自分の思い通
りに動かすことができず,そのうち,左手については,指が緊張のため内側
に曲がっており,左腕も緊張のために硬直しており完全に伸展することがで
きないものの,電動車いすのコントローラーを操作することはできるほか,
車いす用のエレベーターのボタン等は,その形状や位置によっては押すこと
ができる。また,右手は,自分の意思で物を持とうとすると,緊張により指
が開かなくなるため物を持つことができず,右腕も,左腕に比して緊張が強
く,自力で伸展することはできない。さらに,両足とも緊張のために完全に
伸展することはできず,股関節も固まってしまっていることから足を開くこ
ともできない。体幹部については,幼いころから背部の緊張が強く,臀部で
はなく仙骨により座っていたため背部が○しており,長時間座位を維持する
ことが困難である。
また,原告は,上記障害のほか,○による言語機能障害も有し,他者と会
話をすることは可能であるが,言葉を正確に発声することができずその発話
は聞き取りにくい上,十分なそしゃくも困難であり,同障害については,身
体障害者等級表の3級(音声機能,言語機能又はそしゃく機能の喪失)に該
当するとされている。さらに,原告は,○・○による視覚障害もあり,同障
害については,身体障害者等級表の5級(両眼の視力の和が0.13以上0.
2以下のもの又は両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの)に該当
するとされている。
さらに,原告は,○を患っており,内服薬を服用している。
(4)原告の自宅における生活及び介護の状況等(甲3,13,14,23,
乙15,証人A,原告本人)
原告は,平成8年2月まで重度身体障害更生施設において生活していたが,
集団生活が苦手であり,一般の人と同様に一人暮らしをしたいと思っていた
ことから,当初は大阪市β区において,その後は同市α区において単身生活
するようになり,本件支給決定当時も,同区において単身居住していた。も
っとも,原告は,上記各障害により主だった日常生活活動を自らすることが
できなかったため,当時,B等の事業所が派遣する介護者による介護を受け
ていたところ,原告の生活状況及び介護者による介護の状況等は,次のとお
りであった。
ア原告については,複数の介護者が,交代でその介護に当たっており,こ
れらの介護者の交代の際には,前の介護者から後の介護者へ直接介護が引
き継がれることもあるものの,1時間程度の間隔が空き,その間介護者が
いないことも多い。
原告は,起床後,枕元のスイッチを操作して日中の介護を担当する介護
者を自宅に招き入れて朝食を準備してもらい,一人で体を起こすことがで
きないため,介護者に体を起こして車いすに乗せてもらった上,準備して
もらった朝食を原告のそしゃく及び嚥下のペースに合わせてゆっくりと口
元まで運んでもらい,飲料を飲む際にはストローを差したコップを原告の
飲みやすい位置に置き,ストローを口元に当ててもらうなどして食事につ
いて介助を受けていた。また,原告は,朝食後,介護者に車いすを押して
洗面所まで運んでもらった上で歯磨きと洗面をしてもらい,コンタクトレ
ンズを目に入れてもらうなどし,さらに,トイレに連れて行ってもらいズ
ボンを下ろしてもらって尿器を当ててもらうなどして排尿の介助をしても
らうほか,着替え等についても介護者に介助してもらっていた。
イまた,原告は,介護者に指示して掃除や洗濯等の日常の家事をしてもら
っていたほか,外出する際にも,介護者に車いすから電動車いすに移乗さ
せてもらった上,介護者に付き添って安全確認等をしてもらったり,原告
の発話が通じにくいときに,通訳してもらうなどの介助を受けていた。
さらに,入浴する際には,介護者が浴槽に湯を張り,原告の衣服を脱が
せて浴室内に座らせて身体を洗い,原告の身体を抱きかかえて浴槽に入れ,
その後原告を浴槽から出して体を拭き,車いすに乗せてパジャマを着せて
もらうなどしていた。
ウ原告は,夜間についても泊まり込みの介護を受けていたところ,介護者
は,夜間,原告の夕食の準備をして朝食のときと同様に原告の摂食介助を
行い,○薬及び胃薬を服用させるなどの介護をしていた。なお,後記のと
おり,原告の食道と胃との間の弁の働きが不十分であったため,介護者は,
胃から食物が逆流しないよう,胃での消化が終了するまでの食後3時間く
らいの間は原告を車いすに座らせたままとし,すぐに原告を寝かせないこ
ととしていた。そして,原告が就寝する際には,介護者は,原告を抱えて
布団に寝かせた上,原告の寝室と廊下を隔てた別室にて仮眠をとり,原告
は,就寝中に尿意を催した場合,手元のブザーを鳴らして,別室にて仮眠
中の介護者を呼ぶなどして,排尿につき介助を受けていた。なお,原告は,
就寝中,尿意を催した場合を除き,ブザーで別室において仮眠中の介護者
を呼んだことはほとんどなかった。
エなお,上記のとおり,B等の事業者は,原告に対し,本件支給決定によ
って定められた支給量を超える介護を提供しているところ,原告は同支給
量を超える介護に係る費用を支払っておらず,同費用については現在B等
の事業者が負担している。
(5)原告の医療機関の受診経緯等(甲8,9,23,証人A,原告本人)
ア原告は,平成▲年ころ,○薬を服用すると吐き気を催すことがあったこ
とから,同年▲月▲日,C病院を受診したところ,同日から同月▲日まで
同病院に検査入院することとなった。原告は,同病院での検査により,○
が認められたほか,食道と胃との間の噴門の弁の働きが不十分であるため
に胃の内容物が逆流する○と診断された。
イ原告は,上記入院の後,平成▲年▲月▲日及び平成▲年▲月▲日にも,
いずれも嘔吐のためにC病院に入院した。
このうち,平成▲年▲月▲日の入院については,原告は,同日午後5時
ころに介護者が原告の自宅から退出し,同日午後6時ころに夜間の介護者
が来るまでの間に嘔吐したことから,あらかじめ手元に備えておいてもら
った携帯電話を用いてその直前まで原告の介護を担当していた介護者を呼
び戻し,救急車を呼んでもらってC病院に搬送されたものである。
ウまた,原告は,平成▲年▲月▲日午前6時ころ,悪心を催し,同日原告
の介護を担当しており,たまたまトイレのために起きていたAに対してそ
の旨訴えた。Aは,原告の上記訴えを受け,タオルや洗面器を用意して原
告の寝室に戻ると,原告が食べ物を吐いて咳き込んでいたことから,11
9番通報して原告をC病院に緊急搬送した。原告は,同日から同月▲日ま
で同病院に入院したが,その際には同病院にて○と診断された。
なお,Aは,当時,3年にわたり1か月に1,2回の頻度で原告の夜間
の介護を担当していたが,上記を除き,原告が夕食後に胃のむかつき等の
体調不良を訴えたり,嘔吐したりすることはなかった。
エさらに,原告は,平成▲年▲月▲日にも,就寝後に悪心を感じて介護者
に座らせてもらったが吐き気が治まらずに嘔吐し,翌朝にも悪心が継続し
ていたことから,病院に連れて行ってもらったことがあった。
(6)本件支給決定に至る経緯等(前提事実,乙8から11まで,弁論の全趣
旨)
ア原告は,平成14年11月20日,被告に対して旧身体障害者福祉法に
基づき居宅生活支援費の支給を申請したところ,被告は,平成15年3月
19日,原告に対し,被告において当時定めていた居宅介護に係る支給量
基準(乙9)に従って,期間を同年4月1日から平成16年8月31日ま
でとし,日常生活支援に係る費用につき月180時間,移動介護に係る費
用につき月51時間の合計月231時間の支給量を認める居宅支援費支給
決定をした。
イ被告においては,平成16年12月6日,支援費支給決定に係る事務取
扱いを変更し,支給基準を上回る長時間にわたって支援を必要とする全身
性障害者については特別基準を設定し,通常の基準を上回る時間数による
支給決定を可能とすることとした。具体的には,全身性障害者であって,
①両上肢・両下肢の機能がともに全廃した者,若しくは両上肢・体幹機能
障害1級の者,○により上肢・移動ともに1級の者であること,及び②独
居の者若しくはこれに準じる世帯で家事・介護能力に欠けるなど日常生活
に相当困難を生じる場合であること,の両要件をいずれも満たす者をその
対象とし,一定の事例を想定してその特別基準の時間を設定することとす
るが,個々の障害者の支援の必要性に着目して具体的な検討を行った結果,
真に必要性が認められる場合については,特別基準の時間数を超えて支給
時間数を決定することもあり得るものとされた。
そこで,原告は,平成17年4月6日,α区保健福祉センター所長に対
し,居宅生活支援費支給量変更申請をし,これを受けた同センター所長は,
原告のサービス利用の意向や日常生活状況等を調査し,健康福祉局障害福
祉課と協議の上,同年5月1日から,原告の日常生活支援に係る費用につ
き月267時間,移動介護に係る費用につき月51時間の合計1か月31
8時間の支給量とする旨の支給決定の変更決定を行った。
ウ原告は,平成18年4月24日,α区保健福祉センター所長に対して介
護給付費・訓練等給付費支給申請書を提出して支給申請(本件申請)をし
た。なお,上記申請書には,「現在支援制度で利用しているサービスと同様
のサービス」の欄にチェックされていた。
被告は,本件申請を受け,同月26日付けで,法20条2項後段の規定
に基づき,社会福祉協議会に対して原告の障害程度区分認定調査を依頼し
たところ,同協議会は,同年5月31日,同条3項の規定に基づき調査員
を原告の自宅に派遣し,障害程度区分認定調査を行わせた。同調査員は,
同日,原告の介添者の同席の下,50分間にわたり上記調査を行い,原告
の概況調査票(以下「本件概況調査票」という。甲2,乙11)及び認定
調査票(以下「本件認定調査票」という。甲3)を作成した。このうち,
本件概況調査票には,①原告の障害等級については,身体障害者等級が1
級であり,その種類は視覚障害,肢体不自由及び言語障害であることが,
②現在利用しているサービスの状況として,日常生活支援につき月267
時間,移動介護につき月51時間の合計318時間の居宅介護を受けてい
ることが,③今後のサービスの利用意向として,現在のサービスのうち,
日常生活支援につき全く不足しているためにできるだけ増やしてほしいこ
とや,宿泊を含め24時間のサービスが必要なため,現在の支給量では不
足していることが,④地域生活に関連して,原告の外出の頻度は通院を除
き1か月に30回程度であることが,⑤居住関連については,自宅で単身
生活しており,ヘルパーの介護を受けていること等がそれぞれ記載されて
いるほか,調査項目についての特記事項が記載されていた。また,本件認
定調査票には,原告の障害の内容・程度等に関し,障害程度区分に係る市
町村審査会による審査及び判定の基準等に関する省令(平成18年厚生労
働省令第40号。以下「障害程度区分省令」という。)別表第1に従い,原
告の左上肢,右上肢,左下肢,右下肢及びその他部位に麻痺等があること,
体の各関節の動く範囲にも制限があること,寝返りについては,つかまら
ないでできるが,起き上がりについてはできないこと,座位保持について
は支えてもらえばできるが,両足での立位保持や歩行,立ち上がりはでき
ないこと,移乗,移動,洗身,食事摂取,飲水,排尿,排便,歯磨きや洗
顔等の清潔,衣服の着脱,薬の内服,調理,洗濯,入浴の準備及び買い物
等については,いずれも全介助を要すること,床ずれは存しないこと,嚥
下については見守りを要すること,電話の利用については一部介助を要す
ること,交通手段の利用には見守りないし一部介助を要すること,日常の
意思決定は可能であること,聴力は普通であるが,視力については,目の
前に置いた視力確認表の図が見える程度であること,意思の伝達はときど
き可能であり,本人独自の表現方法を用いずに意思表示ができること,日
常生活においては言語以外のジェスチャー等の方法を用いなくとも説明を
理解することができ,介護者の指示も原告に通じること,記憶や理解の面
については特に問題はなく,異常行動もないこと等が記載されている。
エ被告は,本件概況調査票の記載に基づき,原告の障害程度区分を区分6
とする1次判定を行った。さらに,平成18年6月29日に開催された本
件認定審査会において,上記1次判定結果,本件概況調査票及び原告の主
治医の同月12日付け意見書(以下「本件意見書」という。乙11)等に
基づき原告の障害程度区分を区分6とする2次判定が行われ,被告は,同
判定結果に基づき,原告の障害程度区分を区分6と認定した上,同年7月
7日付けでこれを原告に通知した。
なお,本件意見書には,傷病に関する意見として,その診断名は○であ
り,その症状は安定しており,現在特別の医療を受けていない旨記載され,
心身の状態に関する意見として,行動上の障害や精神・神経症状はないこ
と,身体の状態としては,左右の各上肢には中度の麻痺があり,左右の各
下肢には重度の麻痺があるほか,肩,股,肘及び膝の各両関節に中度の拘
縮がみられ,足趾に中度の皮膚疾患があることなどが記載されており,サ
ービス利用に関する意見として,現在発症の可能性が高い病体として脱水
と嚥下性肺炎があり,その対処方針は身体介護等であり,介護サービスの
利用時に関する医学的観点からの留意事項としては,血圧及び嚥下につい
ては特にないが,摂食及び移動については介助が必要であることなどが記
載されており,その他特記すべき事項として,○で四肢拘縮,麻痺も著明
であり,生活全般において介助を要すること,時々感冒にかかるも,内科
的には安定していることが記載されている。
オその後,平成18年9月13日,社会福祉協議会の調査員が,サービス
利用計画(法5条17項2号参照)案を作成するために原告の自宅を訪れ,
原告に対して,重度訪問介護の対象となることや被告の支給決定の基準に
ついて説明したところ,原告は,同調査員に対し,基本的には24時間介
護が必要であると申し立てたことから,同調査員は,そのような原告の意
向も含めてα区保健センター所長に報告した。
上記報告を受けた同センター所長は,非定型支給決定案を作成して本件
認定審査会に諮るとともに,重度訪問介護等の支給に係る法の規定の施行
日である同年10月1日が迫っていたことから,支援費制度の下での居宅
生活支援費支給決定におけるのと同量の支給量(月318時間)で暫定的
に支給量を決定し,その後,同年10月19日に開催された本件認定審査
会において,支給量を月318時間(移動中介護の加算対象時間数を含む。)
とする非定型支給決定案が承認されたことから,被告は,同日付けで,本
件支給決定を行った。
なお,上記の本件認定審査会においては,原告に係る審査資料として,
本件概況調査票,本件認定調査票の調査結果をまとめたもの及び本件意見
書のほか,重度訪問介護の支給量を月318時間とするサービス利用計画
案並びに原告に係る非定型支給決定案作成フローチャートが配布されてい
たが,同フローチャートには,非定型支給決定の必要性がある理由として,
①深夜に体位変換等の介護が必要であるが単位数が不足すること及び②2
4時間にわたる常時の介護が必要であることが記載され,他の利用可能な
制度・サービスの検討(検討した内容)として他人介護料が記載され,さ
らに,関係者からの意見聴取の有無として,相談支援実施機関の職員から
聴取した旨記載されている。
2本件支給決定の適法性(争点①)について
(1)判断の枠組み
ア法21条1項は,市町村は,支給申請があったときは,政令で定めると
ころにより,市町村審査会が行う当該申請にかかる障害者等の障害程度区
分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度区分の認定を行うもの
とし,法22条1項は,市町村は,支給申請に係る障害者等の障害程度区
分,当該障害者等の介護を行う者の状況,当該申請に係る障害者等の障害
福祉サービスの利用に関する意向その他厚生労働省令で定める事項を勘案
して支給要否決定を行うものとする旨規定し,同条4項は,市町村は,支
給決定を行う場合には,障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として厚
生労働省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービ
スの支給量を定めなければならない旨規定し,規則12条は,当該申請に
係る障害者等に関する介護給付費等の受給の状況や当該申請に係る障害者
の置かれている環境その他の勘案事項を掲げている。以上のとおり,法及
び規則は,市町村が支給要否決定及び障害福祉サービスの種類ないしその
支給量の決定をするについて,勘案事項を勘案すべきことを規定するほか
何ら具体的な基準をおいていない上,これらの勘案事項には,抽象的ない
し概括的な事項も含まれている。これらに加えて,障害福祉サービスは,
都道府県知事が指定する障害福祉サービス事業を行う者等(以下「指定障
害福祉サービス事業者等」という。)が行うものであるが(法29条1項),
指定障害福祉サービス事業者等の指定は,障害福祉サービス事業を行う者
の申請により事業所ごとに行われるものであるから(法36条1項),指定
障害福祉サービス事業者の数,規模,分布等の障害福祉サービスの提供に
係る人的,物的諸条件は,全国一律ではなく,人口,年齢構成,地勢及び
経済状況その他の地域の具体的状況に応じて市町村ごとに当然に異なり得
るものであり,規則12条9号も,勘案事項の一つとして,当該申請に係
る障害福祉サービスの提供体制の整備の状況を掲げているところである。
以上のような障害福祉サービスの支給に係る法及び規則の規定並びにそ
の提供の在り方等からすると,法は,障害者について障害福祉サービスを
支給するかどうか,支給する場合には,いかなる種類の障害福祉サービス
についてどれだけの支給量をもって支給するかという判断については,勘
案事項に係る調査結果を踏まえた市町村の合理的な裁量にゆだねているも
のと解するのが相当であり,市町村がする支給要否決定並びに支給決定を
する場合における障害福祉サービスの種類及び支給量の決定は,その判断
の基礎となる事実に重大な誤認があり,あるいはその判断内容が社会通念
に照らして明らかに合理性を欠くこと等により,その裁量権の範囲を逸脱
し,又は濫用にわたるものと認められるような場合に限って違法になるも
のというべきである。この点,本件通知や本件留意事項において,市町村
は,勘案事項を踏まえつつ,介護給付費等の支給決定を公平かつ適正に行
うため,あらかじめ支給の要否や支給量の決定についての支給決定基準を
定めておくことが適当であるとされているのも,支給量の決定は市町村の
裁量にゆだねられ,支給決定する市町村によって支給量に差が生じ得るこ
とを前提としているものと解される。
これに対し,原告は,障害福祉サービスの支給量は,具体的事実関係の下
において一義的に定まるかのような主張をするが,以上説示したところに
照らして採用することができない。
イそして,法及び規則は,上記のとおり,支給要否決定及び障害福祉サー
ビスの種類ないし支給量の決定について,市町村の裁量にゆだねているも
のと解されるところ,当該裁量権を行使するに当たって勘案すべき事項に
ついて列挙するとともに,支給決定に至る手続について詳細に規定してい
る。
すなわち,前記のとおり,法22条1項の規定を受け,規則12条は,
勘案事項①から同⑨までの勘案事項を掲げているが,このうち,勘案事項
①における障害程度区分とは,障害者等に対する障害福祉サービスの必要
性を明らかにするため当該障害者等の心身の状態を総合的に示すものとし
て厚生労働省令で定める区分をいうところ(法4条4項),この障害程度区
分については,支給申請があった場合に,市町村が,障害者自立支援法施
行令10条に規定するところにより,市町村審査会が行う当該申請に係る
障害者等の障害程度区分に関する審査及び判定の結果に基づき,障害程度
区分の判定の認定を行うものとされ(法21条1項),市町村審査会は,上
記審査及び判定を行うに当たって必要があると認めるときは,当該審査及
び判定に係る障害者等,その家族,医師その他の関係者の意見を聴くこと
ができるものとされ(同条2項),障害程度区分に係る審査及び判定の基準
については,障害程度区分省令に詳細に規定されている。そして,支給申
請があったときは,障害程度区分の認定及び支給要否決定を行うため,当
該職員をして,当該申請に係る障害者等に面接をさせ,その心身の状況,
その置かれている環境その他厚生労働省令で定める事項について調査させ
るものとするが,この場合において,市町村は,当該調査を法32条1項
に規定する指定相談支援事業者に委託することができ(法20条2項),こ
の委託を受けた指定相談支援事業者は,障害者等の保健又は福祉に関する
専門的知識及び技術を有するものとして厚生労働省令で定める者に当該委
託に係る調査を行わせるものとされている(同条3項)ほか,市町村は,
支給要否決定を行うために必要があると認めるときは,厚生労働省令で定
めるところにより市町村審査会又は身体障害者更生相談所等の意見を聴く
ことができるとされ(法22条2項),市町村審査会,身体障害者更生相談
所等は,上記意見を述べるに当たって必要があると認めるときは,当該支
給要否決定に係る障害者等,その家族,医師その他関係者の意見を聴くこ
とができるとされている(同条3項)。
以上のとおり,法は,勘案事項の一つである障害程度区分の認定及び支
給要否決定をするに当たって考慮すべき事項を規定するにとどまらず,こ
れらの判断に際してとるべき手続について詳細に規定し,それら手続の過
程において,当該申請に係る障害者等のほか医師その他の専門家を関与さ
せることにより,支給要否決定並びに支給決定をする際の障害福祉サービ
スの種類及び支給量の決定を,当該障害者等の個別具体的な事情に即応し
たものとするべく,その判断の過程を通じて合理性の確保を図っているも
のということができる。さらに,法における障害者には多様なものが含ま
れ(法4条1項参照),その障害の種類及び内容並びにその程度は千差万別
であるから,それら各障害者等の個別具体的な障害の種類及び内容並びに
その程度を考慮しなければ,障害者等がその有する能力及び適正に応じて
自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう必要な障害福祉サ
ービスに係る給付その他の支援を行うこと(法1条参照)は困難である。
このような支給決定の手続に係る法の規定ぶりや法の趣旨目的ないし障
害福祉サービスの性質からすると,市町村が行う支給要否決定並びに支給
決定をする場合における障害福祉サービスの種類及び支給量の決定が裁量
権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法となるかどうかは,当該決
定に至る判断の過程において,勘案事項を適切に調査せず,又はこれを適
切に考慮しないことにより,その内容が,当該申請に係る障害者等の個別
具体的な障害の種類及び内容並びにその程度その他の具体的な事情に照ら
して,社会通念上当該障害者等において自立した日常生活又は社会生活を
営むことを困難とするものであって,法の趣旨目的(法1条)に反するの
ではないかという観点から検討すべきである。
(2)本件支給決定について
そこで,以下では上記の見地から,本件支給決定が裁量権の範囲を超え,
又は濫用したものとして違法と認められるか検討する。
ア前記認定事実によると,原告は○による○の障害を有し,不随意運動の
ために四肢を思い通りに動かすことができず,左右の四肢のいずれも伸展
することができず,手で物を持つことも困難であり,しかも,立位のみな
らず座位を維持することも困難であって,視力や言語機能にも障害を有す
るというのであるから,その身体障害は全身に及ぶ重度のものであって,
日常生活の全般にわたって介護を要するものということができ,実際にも,
その生活のあらゆる場面において介護者の介護を受けているものと認めら
れるが,他方で,その聴力は普通であり,介護者の指示も通じ,記憶や理
解の面についても特に問題はなく,異常行動もみられないというのである
から,身体活動を必要としない生活場面においては介護の必要はなく,2
4時間にわたり介護者が常駐してその介護する必要があるとまでは認め難
いというべきである。
イそうであるところ,被告は,社会福祉協議会に委託して原告の障害程度
区分調査を行わせ,同協議会の調査員において,原告の状況についての調
査を行い,障害程度区分省令に従い調査結果を記載した本件認定調査票を
作成したほか,上記のような原告の障害の内容や程度等を含めた状況に加
え,原告が現在利用しているサービスの内容,原告の今後のサービスの利
用意向等,勘案事項①から同③まで,同⑥から同⑧までに係る事情につい
て記載した本件概況調査票を作成しており,それらの各記載内容は,いず
れも詳細かつ正確なものであったということができる。被告は,本件認定
調査票に記載された項目ごとの調査結果を障害程度区分省令に従って数値
化して,原告の障害程度区分を6とする1次判定を行い,その上で,本件
認定審査会において,上記1次判定の結果のほか,本件概要調査票や原告
の主治医により作成された本件意見書をも踏まえて原告の障害程度区分を
6とする2次判定が行われ,被告がその旨決定したのであって,原告が障
害程度区分省令2条6号に規定する状態に該当するとの上記判断は,先に
みた原告の障害の内容及び程度並びにその判定の経緯に照らしてその合理
性を肯認することができる。
ウそして,本件要綱に定める重度訪問介護の支給量の基準によると,単身
居住し,障害程度区分が6であり,かつ,障害程度区分省令別表第1に規
定する認定調査項目のうち,移乗・排尿・排便のいずれもが全介助と判断
されている原告については,1か月当たり231時間がその基準時間数と
なり,これに原告の居住状況等ないし身体状況等に基づく加算時間を加算
すると,本件要綱上の最大支給量は,上記231時間に1.3を乗じた1
か月当たり301時間となる。そうであるところ,前記認定事実のとおり,
被告は,原告の身体障害の程度が重度であり,日常生活活動の全般にわた
って介護を要することや,原告が,支援費制度の下においても,平成16
年12月に被告における支援費支給決定に係る事務取扱が変更され支給基
準を上回る時間数による支給決定が可能となった後に,支給基準を上回る
1か月318時間(日常生活支援に係る費用として1か月267時間,移
動介護に係る費用として1か月51時間の合計時間数)の非定型の支給量
の居宅生活支援費の支給決定を受けていたことなど原告に係る具体的事情
を考慮して,支給量を1か月318時間とする非定型の支給決定案を作成
してこれを本件認定審査会に諮ったことが認められる。そして,本件認定
審査会は,原告の障害程度区分のほか,原告の障害程度区分を判定するた
めに収集された本件認定調査票における調査結果や,勘案事項に係る事項
についての事情を記載した本件概況調査票,あるいは原告の主治医が作成
した本件意見書等をも踏まえて検討し,その結果,支給量を1か月318
時間とする上記支給決定案を承認し,これを受けて被告が本件支給決定を
行ったものであり,本件支給決定は,法の予定する過程を経てされたもの
であるということができる。
エ以上のとおり,原告の身体障害の程度は重度であって,その日常生活の
全般にわたって介護を要するものであるものの,他方において,精神障害
はなく,記憶や理解の面についても特に問題はなく,異常行動もみられず,
必ずしも24時間にわたり介護者が常駐して介護する必要があるとまでは
認め難いというべきところ,本件支給決定は,規則12条に掲げる勘案事
項を踏まえて法の定める過程を経てされたものということができ,その勘
案事項に係る調査も不十分ないし不正確なものであったということはでき
ず,その判断の基礎となった事実に重大な誤りがあるとは認められない。
そうであるとすれば,重度訪問介護の支給量を1か月318時間とする本
件支給決定は,原告において自立した社会生活を営むことを困難にするも
のであるとまでは認めることができず,これが法の趣旨目的に反するもの
であるということはできないから,その判断の内容が社会通念に照らして
明らかに合理性を欠くこと等により,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫
用するものであるということはできない。
(3)見守り介護に関する原告の主張について
これに対し,原告は,重度訪問介護には見守り介護も含まれるというべき
ところ,原告は○を患っており,就寝中に胃の内容物が食道に逆流して嘔吐
する可能性があって,介護者がいなければ死の恐怖にさらされるほか,精神
的にリラックスして緊張からくる二次的な障害を避ける必要があるため,夜
間における見守り介護を含めた24時間介護が必要であると主張する。
ア確かに,重度訪問介護事務連絡(甲15)においては,重度訪問介護は,
日常生活全般に常時の支援を要する重度の肢体不自由者に対して,身体介
護,家事援助,日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守
り等の支援及び外出介護などが,比較的長時間にわたり,総合的かつ断続
的に提供されるような支援をいうものと規定されており,同事務連絡は,
見守りも重度訪問介護の内容に含まれ得ることをその前提としているもの
と解される。
しかしながら,重度訪問介護とは,重度の肢体不自由者であって常時介
護を要する障害者につき,居宅における入浴,排せつ及び食事等の介護,
調理,洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他生
活全般にわたる援助をいうのであり(法5条3項,規則1条の3),その文
理からすると,ここに見守りも含まれ得るとしても,それは,上記のよう
な個々の日常生活活動に係る見守りをいうと解するのが自然である。すな
わち,具体的な日常生活活動とは何ら関係のない単なる見守りは,それ自
体としては,生活の「援助」であるとはいい難い上,そもそも,法が,障
害者等がその有する能力及び適性に応じ自立した日常生活又は社会生活を
営むことができるよう支援を行うことをその目的としていること(法1条
参照)からすると,法5条3項に規定する重度訪問介護が,そのような自
立した生活を営むために必要とされる日常生活活動に係る支援のほか,単
なる見守りについてまで支給することを予定しているとは解し難い。
また,法は,障害者等に対する障害福祉サービスの必要性を明らかにす
るため当該障害者等の心身の状態を総合的に示す区分として,障害程度区
分を設けているところ(法4条4項),この障害程度区分は,障害程度区分
省令に基づいて判定されるものである。そして,障害程度区分省令におい
ては,その判定の基礎となる障害程度区分調査の際の各調査項目において,
具体的な日常生活上の活動ごとに,「できる」「見守り等」「一部介助」及び
「全介助」といった選択肢を設けていること(障害程度区分省令1条1項,
別表第1参照)からすると,具体的な日常生活活動に係る見守りは,障害
福祉サービスにおける援助に含まれ得ることが前提とされていることがう
かがわれる一方,上記調査項目には,個別の日常生活活動とは無関係の何
らかの緊急事態に対処するための見守り等については,その必要性の判断
を可能とするような項目は含まれておらず,障害程度区分省令は,そのよ
うな具体的な日常生活活動とは無関係な単なる見守りについては,法の規
定する障害福祉サービスにおける援助に含まれないことを前提としている
ものと解するのが自然である。
以上説示したところからすると,法が規定する重度訪問介護には,具体
的な日常生活活動に係る見守りについては含まれるものの,そのような日
常生活活動とは無関係の,緊急事態に対処するための単なる見守りについ
ては,原則としてこれに含まれないと解するのが相当である。
イもっとも,法は,障害者等がその有する能力及び適性に応じ,自立した
日常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービス
に係る給付その他の支援を行い,もって障害者等の福祉の増進を図るとと
もに,障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して
暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とするところ
(法1条),上記のとおり,一般的には,具体的な日常生活活動とは無関係
な見守りは,日常生活の支援とはいい難く,重度訪問介護その他の障害福
祉サービスにおける支援に含まれるとは解されないものの,当該障害者の
障害の種類や内容,あるいはその程度等の具体的な事情に照らして,睡眠
中等をも含めてこれを見守るのでなければその生命健康に差し迫った危険
が生じ,日常生活を安心して営むことができないためにその福祉に反する
結果が生じることになるような場合については,そのような見守りも,当
該障害者が自立した社会生活ないし日常生活を営む上で必要なものである
として,それ自体が日常生活の支援に該当するものとして,例外的に重度
訪問介護その他の障害福祉サービスにおける支援に含まれるものと解する
余地もないではない。
(アアアア)そこで,このような観点から原告に係る夜間の見守りの必要性につい
て検討するに,前記認定事実によると,原告は,精神障害はなく,記憶
や理解の面についても特に問題はないほか,異常行動もみられず,寝返
りを打つことも一応可能であるというのであり,原告は,就寝中につい
ても介護者による介護を受けているものの,その際には介護者は原告の
寝室とは別の部屋で仮眠をとっており,原告からブザーで呼び出しを受
けた場合のみこれに対応するが,尿意を催し排尿のために介護者を呼ぶ
場合を除き,原告が別室で仮眠中の介護者をブザーで呼ぶことはほとん
どなかったというのである。そして,確かに,前記認定事実によると,
原告は,平成▲年▲月,平成▲年▲月及び平成▲年▲月に,嘔吐のため
病院に入院しており,そのうち平成▲年と平成▲年の入院の際には,自
宅から救急車で救急搬送されており,夜間の○発作や嘔吐等について一
定の配慮を要する状態にあったということができる。しかしながら,他
方,原告が就寝中に嘔吐して医療機関を受診したのは平成▲年の一度と
その回数は少なく,原告が就寝中に○発作や嘔吐をする頻度は小さいも
のと認められることからすれば,原告について夜間の見守りをも含めた
24時間介護が認められないからといって,直ちにその生命や健康に差
し迫った危険が生じるとまでいうことはできない。
この点,原告は,1か月に2,3回は気持ち悪くなることがあり,半
年に4,5回は嘔吐することがあるなどと供述し(原告本人第2回口頭
弁論尋問調書18頁),就寝中についても常時介護者が必要であるかのよ
うな主張をする。
しかしながら,前記認定事実のとおり,3年以上にわたり1か月に1,
2回の頻度で原告の夜間の介護を担当していたAにおいても,原告が夕
食後に胸のむかつき等の体調不良を訴え,嘔吐するといったことを経験
したことはないというのであり,原告の主治医が作成した本件意見書に
おいても,生活全般についての介助の必要性は述べられている一方,就
寝中の嘔吐等の危険についてはサービス利用計画を作成するに当たって
の特記事項等としては特に記載されていないことなどからすると,原告
が供述するほど頻回の嘔吐等があったとは認め難いというべきであり,
この点についての原告の供述を採用することはできない。
(イイイイ)他方,前記認定事実のとおり,大阪市においては,独居等の高齢者又
は重度の障害者が急病,災害等の非常事態に遭遇した場合に,通報装置
を操作することで,受信装置を設置した場所に通報し,非常事態を知ら
せることにより必要な援助を受けられるようにすることを目的とした,
緊急通報システム事業を実施しているところ,身体障害者等級表の級別
を1級とする身体障害者手帳を所持し,生活保護を受給している原告は,
同システムの利用対象者に該当する上,その費用負担も免れることがで
きる可能性がある。そして,この緊急通報システムの利用者は,ハンズ
フリー通話機能を備えた通報装置及び無線式ペンダント型通報装置が貸
与され,緊急時に利用者が上記通報装置の緊急ボタンを押すと,24時
間体制の受信センターに自動的に通報され,同通報を受けた受信センタ
ーにおいて,通報装置のスピーカーを介して直接利用者本人に状況を確
認し,事前に利用者により登録されている利用者宅の近隣に所在する協
力者に状況確認等の協力依頼をするほか,これらの連絡がつかないよう
な場合には,直接救急車の出動要請をすることとなっているというので
あるから,原告が,同システムを利用することができるであれば,介護
者がいない時間帯等に緊急事態が生じた場合であっても,救急搬送を要
請するといった対処をすることも可能である。そうであるところ,前記
認定事実によると,原告は一応寝返りをうつことができる上,介護者等
にあらかじめ手元に携帯電話を置いておいてもらえば携帯電話を使用す
ることもでき,実際,平成20年に介護者がいない時間帯に嘔吐した際
には,自ら携帯電話を用いて介護者を呼んだこともあったというのであ
るから,上記のような仕組みの通報装置についても利用することができ
る可能性が大きいものと認められる。
この点,原告は,被告の担当者から緊急通報システムはその仕組みに
照らして使いにくい旨の説明を受けたと供述するが(原告本人第3回口
頭弁論尋問調書8頁),緊急通報システムの仕組みは前記のとおりである
し,原告の供述によっても,原告は,通報装置により直ちに救急車を呼
ぶようにセットすることもできると考えていたが,救急車までは必要が
ないことも多いことから,そのようにしてまで緊急通報システムを利用
しようとは思わなかったというのであり,こうした供述を前提としても,
原告が,本件申請において24時間介護を求めるに当たり,緊急通報シ
ステムの利用の可否について十分な検討をしたものとは認められない。
(ウウウウ)以上のとおり,原告が夜間に○発作や嘔吐をする可能性は大きくない
一方,万が一そのような事態が生じた場合には,通報装置を用いた緊急
通報システムを利用して救援を求めることも可能であるというのである
から,24時間介護の支給を受けなくとも直ちにその生命,健康に重大
な危険が生じるとは認められず,夜間の見守り介護については,排尿等
の介護に要するその一部についてのみ支給量に含めるという判断も,法
の趣旨目的に照らして明らかに合理性を欠くということはできず,この
点についての原告の主張を採用することはできない。
ウまた,原告は,被告自身が24時間介護の必要性を認めていたと主張し,
確かに,被告担当者が作成した協議書(乙15)には,原告の障害の程度
から24時間の全面的な介護が必要である旨記載されている。
しかしながら,上記協議書は,生活保護における生活扶助のうち,障害
者加算の特別基準を設定する際の協議書であり,生活保護法と法とではそ
の趣旨目的が異なるほか,その認定判断の手続もそれぞれ異なっているこ
とからすると,上記協議書の記載から直ちに被告において原告には法に基
づく24時間介護が必要であることを認めていたということはできない。
なお,前記認定事実のとおり,平成18年10月19日に開催された本
件認定審査会の審査資料とされたフローチャートに,24時間にわたる常
時の介護が必要である旨記載されていることが認められるものの,同審査
会においては,そうした記載も踏まえて重度訪問介護の支給量を1か月3
18時間とする本件支給決定を承認しているのであって,上記フローチャ
ートの記載から被告が24時間介護の必要性を認めていたということもで
きないことは明らかである。
以上のとおりであるから,この点についての原告の上記主張を採用する
ことはできない。
(4)小括
以上認定説示したところによると,重度訪問介護の支給量を1か月318
時間とする本件支給決定は,その判断の基礎となる事実に重大な誤認がある
ということはできないし,原告の具体的な障害の種類及び内容並びにその程
度等の具体的な事情に照らして,原告において自立した日常生活又は社会生
活を営むことを困難にするようなものであるとも認められないから,その判
断が法の趣旨目的に照らして社会通念上不合理であることが明らかであると
いうこともできない。したがって,本件支給決定が,裁量権の範囲を逸脱し,
又は濫用したものであるとして違法であるということはできない。
3義務付けの訴えの適法性について(職権による判断)
(1)前記第1の2のとおり,原告は,原告に対して支給量を1か月592時
間とする重度訪問介護の支給決定をすることの義務付けを求めている。
ところで,前記のとおり,介護給付費等の支給を受けようとする障害者等
は,市町村の支給決定を受けなければならないが(法19条1項),この支給
決定を受けようとする障害者等は,厚生労働省令で定めるところにより,市
町村に申請をしなければならないものとされており(法20条1項),法は,
障害者等について,支給決定に係る申請権を認めていると解される。そして,
市町村が支給決定を行う場合には,障害福祉サービスの種類ごとに月を単位
として厚生労働省令で定める期間において介護給付費を支給する障害福祉サ
ービスの量(支給量)を定めなければならないとされており(法22条4項),
障害福祉サービスの種類及び支給量も支給決定の内容となるものと解される
ところ,前記のとおり,障害福祉サービスには多様なものが含まれ,当該申
請に係る障害者等の個別具体的な障害の内容及び程度等に応じた適切な種類
及び支給量の支給決定がされなければ,障害者の自立した日常生活又は社会
生活を営むことができるよう必要な支援を行うという法の趣旨目的を実現す
ることは困難であることに加え,法においては,支給決定をするに当たり,
当該申請に係る障害者等の障害福祉サービスの利用に関する意向等を勘案す
るものとされているのみならず(法22条1項),障害者等が支給申請をする
際にも,その申請書に当該申請に係る障害福祉サービスの具体的内容を記載
すべきものとされていること(規則7条1項6号)からすれば,法20条1
項は,障害福祉サービスの種類及びその支給量をも含めて,支給決定につい
ての申請権を認めたものであると解するのが相当である。そうすると,支給
申請をした障害者等が,市町村から支給決定を受けた場合であっても,当該
支給決定において定められた支給量が支給申請において求めた支給量を下回
るものである場合には,当該申請について一部拒否処分がされたものという
ことができる。
(2)そうであるところ,前記認定事実によると,原告は,平成18年4月2
4日,被告に対して本件申請をし,同年10月19日付けで被告から重度訪
問介護の支給量を1か月318時間とする本件支給決定を受けたものであ
る。そして,前記認定事実によると,本件申請に係る申請書には,「現在支
援制度で利用しているサービスと同様のサービス」の欄にチェックされてい
たことが認められるものの,先に認定した本件申請の前後の経緯等に照らす
と,原告においては本件申請の当初から一貫して24時間介護を求めていた
経緯が明らかであり,同申請が,重度訪問介護の支給量を1か月318時間
に限って申請する趣旨のものではないことは明らかであって,重度訪問介護
の支給量を1か月318時間とした本件支給決定は,原告の本件申請につい
てその一部を拒否する処分としての実質を有するというべきである。
そうすると,本件は,「行政庁に対し一定の処分…を求める旨の法令に基づ
く申請…がされた場合において」「当該法令に基づく申請…を却下し又は棄却
する旨の処分…がされた場合」(行政事件訴訟法3条6項2号,同法37条の
3第1項2号)に該当するから,重度訪問介護の支給量を1か月592時間
とする支給決定をすることの義務付けを求める訴えは,同法3条6項2号に
規定する訴え(以下「申請型義務付けの訴え」という。)に該当するものと解
される。
そして,申請型義務付けの訴えにおいては,併合提起された処分に係る取
消訴訟等に係る請求が認容されるべき場合であることが,その適法要件にな
ると解されるところ(同法37条の3第1項2号参照),本件において,上
記義務付けの訴えに併合提起された本件支給決定の取消訴訟に係る請求は理
由がなく,棄却されるべきことは争点①について説示したとおりであるから,
上記義務付けの訴えは不適法というほかない。
4結論
以上によると,本件訴えのうち,重度訪問介護の支給量を1か月592時間
とする支給決定をすることの義務付けを求める部分は不適法であるから却下
すべきであり,その余の訴えに係る原告の請求(本件支給決定の取消請求)は
理由がないから棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官釜村健太

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