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平成29年10月5日判決言渡
平成29年(ネ)第10042号損害賠償請求控訴事件(本訴),著作権侵害差止
等請求控訴事件(反訴)
(原審東京地方裁判所平成28年(ワ)第12608号,平成28年(ワ)第27
280号)
口頭弁論の終結の日平成29年9月5日
判決
控訴人兼被控訴人(1審本訴原告兼反訴被告)

(以下「1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士橋本華織
川本直樹
被控訴人兼控訴人(1審本訴被告兼反訴原告)

(以下「1審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士磯田直也
主文
1本件各控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用のうち,1審原告に生じた費用は,1審
原告の,1審被告に生じた費用は,1審被告の各負
担とする。
事実及び理由
略称は,原審と同じものを用いる。ただし,略称に「原告」又は「被告」が含
まれているものの当該部分は,「1審原告」又は「1審被告」と読み替え,A
弁護士は「A弁護士」,「B弁護士」は「B弁護士」という。
第1控訴の趣旨
11審原告
原判決のうち1審原告敗訴部分を取り消す。
1審被告は,1審原告に対し,35万円及びこれに対する平成28年4月
26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
1審被告は,別紙1の書面を複製し,又は頒布してはならない。
1審被告は,別紙2の赤枠内の記載を複製し,又は頒布してはならない。
21審被告
原判決のうち1審被告敗訴部分を取り消す。
1審原告は,別紙3記載の表を複製し,又は頒布してはならない。
1審原告は,別紙4記載2の表が記載された宣伝広告チラシを頒布しては
ならない。
1審原告は,別紙4記載2の表が記載された宣伝広告チラシを廃棄せよ。
1審原告は,1審被告に対し,33万円及びこれに対する平成28年7月
11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要

棄却したので,1審原告と1審被告の双方が控訴を提起した。
本訴請求
ア1審原告が,1審被告が別紙5及び6の各広告(以下,順次,「1審被
告広告1」及び「1審被告広告2」という。)を頒布する行為が,別紙1の広告(
以下「1審原告広告」という)について1審原告が有する著作権(複製権)及び著
作者人格権(同一性保持権)を侵害することによって作成された物を頒布する行為,
又は1審原告に対する一般不法行為に該当するとして,1審被告に対し,著作権侵
害又は一般不法行為に基づく財産的損害に係る損害賠償金5万円,著作者人格権侵
害又は一般不法行為に基づく精神的損害に係る損害賠償金30万円及びこれらに対
する不法行為後の日である平成28年4月26日(訴状送達日の翌日)から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求。
イ1審原告が,1審被告が1審原告広告を複製し,又は頒布する行為は,
1審原告が有する1審原告広告についての著作権(複製権)を侵害し,その侵害行
為によって作成された物を頒布する行為であるとして,1審被告に対し,著作権法
112条1項に基づき,1審原告広告の複製又は頒布の各差止めを求める請求。
ウ1審原告が,1審被告が別紙7及び8の各アンケート(以下,順次「1
審被告アンケート1」,「1審被告アンケート2」という。)を作成し,頒布する
行為は,1審原告が作成した別紙4記載2の表(以下「本件1審原告ファイル」と
いう。)のうち別紙2の赤枠内の記載に相当する部分(以下「1審原告追加部分」
という。なお,別紙2の書面全体は1審被告アンケート1である。)についての1
審原告の著作権(複製権)を侵害し,その侵害行為によって作成された物を頒布す
る行為であるとして,1審被告に対し,著作権法112条1項に基づき,1審原告
追加部分の複製又は頒布の各差止めを求める請求。
反訴請求
1審被告が,1審原告が本件1審原告ファイルの記載された宣伝広告チラシを作
成し,頒布する行為は,別紙3の表(以下「本件1審被告ファイル」という。)に
ついての1審被告の著作権(複製権又は翻案権)又は著作者人格権(同一性保持権)
を侵害し,その侵害行為によって作成された物を頒布する行為であるとして,1審
原告に対し,著作権法112条1項,2項に基づき,本件1審被告ファイルの複製
又は頒布の各差止め並びに本件1審原告ファイルが記載された宣伝広告チラシの頒
布の差止め及び廃棄を求めるとともに,著作者人格権侵害に基づく精神的損害に係
る損害賠償金33万円及びこれに対する不法行為後の日である平成28年7月11
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求。
2前提事実
前提事実については,次のとおり改めるほか,原判決3頁20行目~5頁5行目
に記載したとおりであるので,これを引用する(証拠等を掲げた事実以外は,当事
者間に争いがない。)。
⑴原判決3頁25行目,4頁9行目及び10行目の「ホームページ」を「ウ
ェブページ」と改める。
⑵原判決4頁17行目の「
⑶原判決4頁23行目から24行目にかけて及び26行目の各「地方相談会
の前に「本件NPO法人の」を加える。
⑷原判決5頁1行目の「配布した」の前に「同月14日」を加える。
⑸原判決5頁1行目の末尾に「(甲2,3,70,71,弁論の全趣旨)」を
加える。
3争点
本訴請求

1審原告広告の複製権侵害の成否
①1審原告広告の著作物性並びに1審被告広告1及び2との同一性の


1審原告広告の同一性保持権侵害の成否
①1審原告広告の著作物性並びに1審被告広告1及び2についての1


一般不法行為の成否(争点3)
差止めの必要性(争点4)
損害額(争点5)

])について
1審原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否(争点6)
差止めの必要性(争点7)
反訴請求
ア本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無(争点8)
イ信義則違反又は権利濫用の抗弁の成否(争点9)
ウ差止めの必要性(争点10)
エ損害額(争点11)
4争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,次のとおり当審における主張を加えるほかは,原
判決6頁7行目~24頁1行目記載のとおりであるから,これを引用する。
の成否
ア1審原告
1審原告は,1審被告を含む本件NPO法人の提携専門家に対して1審原告広告
を利用又は改変することを一切許諾していない。
1審原告が別紙9の宣伝広告チラシ(以下「A広告」という。)を見たのは,原審
において1審被告から提出された証拠の中に含まれていたのを見たのが初めてであ
り,それまでA広告を見たことがない。1審被告が提出するA弁護士に関する電子
メール(乙46~48)には,A広告は添付されていない。1審原告は,A広告の記
載内容を知ることはできなかった。
仮に,1審原告が「X弁護士のチラシはA弁護士のものとほぼ同内容のため(A
弁護士がX弁護士のチラシを見本としたため)」(乙46)との電子メールを見たと
しても,1審原告としては,1審原告広告がデッドコピーをされたなどと認識する
ことは不可能である。法律の素人ならともかく,A弁護士は,他人の広告を見本と
して自身の広告を作成するに当たり,著作権侵害にならないよう細心の注意を払う
はずであり,事前に1審原告に対して連絡することなく,1審原告広告をデッドコ
ピーすることは想像できない。
仮に,1審原告が1審被告に対して,A広告に関する防衛策について回答したと
しても,それは,弁護士会の業務広告規制上問題となり得る「専門」という記載に
ついての対応や,A弁護士自身の解決事例の表現の仕方といった,一般論について
回答したに過ぎない。
1審原告は,A弁護士とは,私的にも業務上でも一切の関係はなく,全くの他人
である。1審原告が,A弁護士に対して,1審原告広告について「利用を包括的に
許諾」する理由は全くない。
1審原告広告は,「保険会社の基準より高い裁判基準での賠償金額を得られる」,
「保険会社から賠償額が提示されたが,妥当な金額か確認したい方」,「示談金額
はここまで変わります」と表示しており,これら「賠償金額」,「賠償額」及び「
示談金」に関する相談は「法律事務」に該当する可能性が高いため,弁護士ではな
い1審被告が1審原告広告を利用することは弁護士法72条に違反する蓋然性が高
い。したがって,このような「法律事務」に該当する広告を利用することについて,
弁護士ではない1審被告に対して利用許諾又は改変許諾が成立することはない。
利用許諾又は改変許諾が存在するとすれば,1審原告広告の利用料金,1審原告
広告の改変料金,1審原告広告を利用又は改変する範囲などの条件について,1審
原告と1審被告の間で協議がされるはずである。しかし,1審原告と1審被告の間
ではそのような協議は一切されておらず,1審被告が1審原告に対して利用料金又
は改変料金を支払ったこともない。
1審原告と1審被告が同じ地域で地方相談会を開催したことによって,1審原告
の地方相談会の参加者数が大幅に減少した。このように地方相談会の参加者数が大
幅に減少するにもかかわらず,1審原告広告の利用を許諾することはあり得ない。
①A弁護士以外の者に対する利用又は改変の許諾の不存在
1審原告は,誰が「本件NPO法人の提携専門家」に該当するのか,「本件NP
O法人の提携専門家」である基準は何なのかを知らないし,「本件NPO法人の提
携専門家」である者を知らない。現に,1審被告広告1のC弁護士及び1審被告広
告2のD弁護士は,1審原告がこれらの広告の存在を知るまで全く面識がなく,そ
れらの弁護士の存在すら知らなかった。存在すら知らない者に対して利用又は改変
の許諾が成立する余地はない。
仮に,原審が認定する,1審原告と1審被告及びA弁護士との間のやり取り等の
事実があったとしても,この事実から推測できる事実は,最大限に解釈したとして
も,1審原告がA弁護士に対して姫路市内で1審原告広告を利用又は改変すること
を許諾したことに限られ,これを超えて,A弁護士が姫路市以外で1審原告広告を
利用又は改変することを許諾したことはなく,ましてや,1審原告がA弁護士以外
の者に利用又は改変を許諾したことはない。なお,1審原告は,A弁護士が本件N
PO法人の提携専門家であるか否かは知らないし,乙9,46~48,57からは,
A弁護士が本件NPO法人の提携専門家であることは分からない。
1審原告が1審被告に対して1審原告広告を利用又は改変することを許諾するこ
したがって,仮に,1審原告がA弁護士に対して1審原告広告を利用又は改変する
ことを許諾したことが認められるとしても,1審被告を含む本件NPO法人の提携
専門家に対して1審原告広告を利用又は改変することを許諾したことにはならない。
②1審原告表現③を除く1審原告広告全体又は1審原告表現①及び1
審原告表現②に対する利用又は改変の許諾の不存在
1審原告は,1審原告広告全体が著作物性を有するほか,1審原告表現①~③が
それぞれ著作物性を有する旨主張している。
1審原告のA広告に関する提案(乙46,47)は,1審原告広告のうち1審原告
表現③に限定されたものであるから,仮に,1審原告表現③に関して利用又は改変
の許諾が認められたとしても,1審原告表現③を除く1審原告広告全体又は1審原
告表現①及び1審原告表現②に関して利用又は改変を許諾したこととはならない。
利用又は改変の許諾の撤回,取消し又は解除
1審原告は,1審被告が1審原告広告を利用して1審被告広告1を作成又は頒布
した事実を知り,平成28年2月5日,1審被告に対して,1審被告広告1が1審
原告広告に関する1審原告の著作権を侵害するとして,通知をし,同月6日,1審
被告に到達した。この通知において,1審原告は,1審被告に対し,1審原告広告
及び1審原告広告に類似した広告の作成又は配布等を拒否する意思表示をしている。
したがって,仮に,1審原告が,1審被告に対し,1審原告広告の利用又は改変を
許諾していたとしても,そのような利用又は改変の許諾は,上記通知により撤回,
取消し又は解除されている。
1審被告は,上記通知後の平成28年2月14日に被告広告2を配布した(甲7
0,71)から,1審被告が被告広告2を作成又は頒布したことは,1審原告の1
審被告に対する利用又は改変の許諾が撤回,取消し又は解除された後の行為である。
イ1審被告
平成25年8月のA広告に対する兵庫県弁護士会からの指摘とそれに伴う1審原
告の対応などからすると,1審原告は,A広告の内容を事前に見たことがあったか,
そうでなくとも,少なくとも,Eを通じて,平成25年2月の本件甲府相談会の後
に,本件NPO法人の他の提携専門家が1審原告広告を参考にして同内容の宣伝広
告チラシを作成し,以後の交通事故110番の他の地方相談会向けに作成配布する
ことを聞かされ,そのように認識していたが故に,A弁護士のチラシも同様に1審
原告広告と同内容であると認識していたことは,明らかである。
1審原告とA弁護士は,本件NPO法人を介した連携関係があった。したがって,
1審原告は,A広告について問い合わせがあった際に,A弁護士の素姓などを問い
合わせることもなく,A広告の内容を確認することもなく,即座に,具体的なコメ
ントや広告の具体的な修正案を提示しているのである。
1審被告広告1及び2(甲2,3)は,法律事務である紛争処理業務は弁護士が
担当することが当然の前提とされているから,これらの広告が弁護士法72条に違
反する余地はない。
本件NPO法人では,Eや1審被告が中核となり,全国をカバーできるように各
地域で活動する提携専門家を有している。このような本件NPO法人の提携専門家
となることは,Eや1審被告をはじめとする経験豊富な提携専門家との間で交通事
故案件を処理するための知識,経験及び情報を共有することができたり,他業種で
ある行政書士との提携により効率的な役割分担により案件を処理することができた
り,依頼者が遠方に所在する場合には当該地域の提携専門家を紹介することができ
る等の大きな利点があった。このような利点は,平成21年に弁護士登録をし,平
成22年にEから案件の紹介を受けるようになるまで,交通事故案件の経験がほと
んどなかった1審原告において非常に大きかったことは明らかである。1審原告が,
本件NPO法人,E及び1審被告から紹介された受任事件数は,平成27年までの
5年間で数百件にのぼる。このような経緯からすると,1審原告広告の利用許諾は,
1審原告が本件NPO法人の提携専門家の一員として認められ,その利点を享受す
ることと一体の関係にあり,1審原告が1審被告を含む本件NPO法人の提携専門
家に与える一方的な恩恵ではない。したがって,1審原告広告の利用許諾について
対価の支払は,全く予定されていなかった。
利用又は改変の許諾の不存在⑵に対し
1審原告は,本件NPO法人の提携専門家であるC弁護士やD弁護士と面識がな
かったことを強調しているが,面識の有無は利用許諾の成立とは無関係である。
1審原告は,A弁護士に限定して,A広告に係る相談会が開催された姫路市に限
定して,利用の許諾をしたものではない。
利用又は改変の許諾の撤回,取消し又は解除に対し
前記のとおり,1審原告広告の利用許諾は,1審原告が本件NPO法人の提携専
門家の一員として認められ,その利益を享受することと一体の関係にあり,1審原
告が1審被告を含む本件NPO法人の提携専門家に与える一方的な恩恵ではないか
ら,1審原告の一方的な意思表示により撤回したり,取り消したり,解除すること
はできない。
⑵反訴請求における本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無(争点8)
ア1審被告
本件1審被告ファイルは全2頁から構成されているところ,1頁上方
から「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールア
ドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」(相談希望者),「加害
者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「
治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者
の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられており,それぞれ左欄には上記の各
項目タイトルが記載され,右欄には各項目に対応する情報が記載される体裁となっ
ている。
また,「事故発生状況」,「あなた」(相談希望者),「加害者」,「受傷部
位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「
加害者の保険」,「保険会社名」の右欄複数の選択肢とそれに対応したチェックボ
ックスが設けられており,相談希望者はチェックボックスにチェックマークを記入
することによって,具体的な選択肢を選択できるようになっている。特に,「傷病
名」については,交通事故において多数想定されうる傷病名から事例が多いと思わ
れる「□脳挫傷」,「□捻挫挫傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□
靱帯損傷」,「□醜状痕」,「□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,
「□機能障害」,「□神経麻痺」,「□筋損傷」を選別列挙し,それ以外の傷病名
については「□その他()」の欄を設けて,相談希望者が自由に書き込め
るようになっている。
さらに,本件1審被告ファイルの2頁には,最上段に「相談内容・お問い合わ
せ」欄が記載され,その下の空白欄には相談希望者が自由に書き込めるようになっ
ている(なお,同欄には,本件NPO法人と提携弁護士間の連絡事項が記載される
こともある[乙3,2枚目]。)。
そして,本件1審被告ファイルは,本件NPO法人の相談担当者が「交通事故相
談者から相談に先立ち必要な情報を把握する」目的で,初回の相談の予約の時点で
相談希望者によって必要情報を記載させるファイルである。本件1審被告ファイル
に相談希望者が順次回答を記載していくことによって,相談担当者は,相談日に先
立って,交通事故被害者の個人特定情報,事故情報(事故日,事故状況,被害者の
立場,加害者の立場),被害者の傷病情報(受傷部位,傷病名,症状,治療経過,
治療先病院),保険情報(被害者の加入保険,加入保険の内容,人身傷害特約の有
無,弁護士特約の有無,加害者の任意保険加入の有無および加入保険)といった基
礎情報を漏れなく把握することができることになるのである。
したがって,本件1審被告ファイルの素材の選択及び配列には作成者の個性が十
分に発揮されているから,本件著作物には編集著作物としての著作物性が認められ
る。
一概に交通事故相談といっても,相談の場でどのような事項を聴取し
てどのようなアドバイスをするかは,実際の相談担当者の経験やノウハウ,相談以
降の事件処理についてのプランによって多様である。したがって,「相談に先立ち
必要な情報を把握する」といっても,そこで必要とされる「情報」の範囲は実際の
相談担当者によって千差万別になるはずである。例えば,本件1審被告ファイルで
は「事故発生状況」として,「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,
「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」という大まかな事故原因を選択させる
形をとっているが,相談担当者が異なれば,事故発生状況について,全く異なる選
択肢を設けることもあるし,選択肢を提供する必要性がないと考える相談担当者で
あれば具体的な選択肢を設けずに文章での記載を求めることもある。当該交通事故
について相手方に過失があってそもそも損害賠償請求権が発生しているといえるか
という点や過失相殺の程度についても具体的に初回相談時にチェックしようと考え
る相談担当者であれば,事故現場の図面や「事故当日の天候」,「道路の見とおし
の状況」,「道路状況」,「標識や信号機の有無や場所」,「交通量」などを記載
させることもあり得る。また,「治療先」を「相談に先立ち必要な情報」とは考え
ない相談担当者としては,このような項目を設けないことも考えられる。さらに,
本件1審被告ファイルでは,「傷病名」の選択肢として「□脳挫傷」,「□捻挫挫
傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□靱帯損傷」,「□醜状痕」,「
□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,「□機能障害」,「□神経麻
痺」,「□筋損傷」,「□その他()」と,交通事故に起因する可能性の
ある専門的な傷病名を具体的に選択して配列している。このうち,「捻挫打撲」や
「骨折」などは一般的な傷病名でありその他の原因による傷病としても想定される
ものであるが,「偽関節変形」,「CRPS」,「機能障害」,「神経麻痺」及び
「筋損傷」といった交通事故に起因する傷病名群が記載されている点で非常に特徴
的である。
本件1審被告ファイルは,多種多様に想定される中において,交通事故被害者の
基礎情報を漏れなく把握するとの方針の下に,項目及び選択肢を選択し配列したも
のであるから,何らありふれたものではない。
本件1審被告ファイルと労災保険金請求の際に提出する甲20(第三
者行為災害届(業務災害・通勤災害))とではその使用目的や場面が全く異なり,甲
20の存在をもって本件1審被告ファイルの項目及び選択肢をありふれたものと判
断する根拠にはなり得ない。甲20の質問項目及び選択肢は,本件1審被告ファイ
ルとは,質問項目及び選択肢が全く異なるものである。
1審被告は,本件1審被告ファイルにおける,「相談者」,「交通事
故の具体的状況」,「相談者の受傷及び治療状況」,「事故関係者の保険加入状
況」,「具体的な相談希望内容」という抽象的な事項の順序について創作性を主張
していない。また,1審被告は,チェックボックスを設けたこと自体について著作
物性を主張するものではない。1審被告は,本件1審被告ファイルにおける,「氏
名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,
「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病
名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,
「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」,
「相談内容・お問い合わせ」という具体的な項目とその大部分の項目に設けられた
複数の選択肢とそれに対応したチェックボックスの具体的な配列に編集著作物とし
ての創作性が認められると主張している。
イ1審原告
1審被告が「交通事故の相談を実施するに当たっては,交通事故被害
者の個人特定情報,事故情報(事故日,事故状況,被害者の立場,加害者の立場),
被害者の傷病情報(受傷部位,傷病名,症状,治療経過,治療先病院),保険情報(
被害者の加入保険,加害者の加入保険)といった基礎情報を漏れなく把握すること
が必要不可欠である。」と認めるとおり,これらの項目は,交通事故被害者から相
談を受ける際には当然聴取すべき項目であるから,これらの項目及び選択肢を設け
るに当たり工夫を凝らす余地は,およそ想定し難く,創作性はない。
甲24(行政書士学園事務所のウェブページの「交通事故専用お問合
わせフォーム」)では,「事故状況」として,「□出会いがしら衝突」,「□追
突」,「□直進車との衝突」,「□飲酒・無免許運転」という選択肢とチェックボ
ックスが設けられており,1審被告が掲げる「□追突」,「□正面衝突」,「□出
会い頭衝突」,「□無免許」,「□飲酒」が網羅されている。交通事故の場合,想
定される事故発生状況は,追突,正面衝突,出会い頭衝突,右直事故,巻き込み,
飲酒,無免許など,自ずと限定されるから,予め想定される選択肢とチェックボッ
クスを設けることには創作性は認められない。
交通事故が発生した場合,加害者は自動車損害賠償保障法3条により無過失責任
に近い責任が課せられており,加害者が無過失を立証することは極めて困難である
と考えられているから,「損害賠償請求権が発生しているといえるか」という点を
検討する事態は,想定できない。また,「過失相殺の程度」を検討するに当たって
は,実況見分調書,員面調書,検面調書,判決書などの刑事記録が必要不可欠であ
り,1審被告が指摘する,「事故当日の天候」,「道路のみとおしの状況」,「道
路状況」,「標識や信号機の有無や場所」,「交通量」が過失相殺といかなる関係
にあるのか全く不明である。また,「治療先」を設けるか否かにより作成者の個性
の有無が左右されることは想定できない。
「偽関節変形」,「CRPS」,「機能障害」,「神経麻痺」及び「筋損傷」は,
交通事故に特有のものではないほか,相談担当者が被害者から相談を受ける際に当
然聴取すべき項目であるから,これらの傷病名を列挙することには創作性はない。
なお,「偽関節変形」,「CRPS」,「機能障害」,「神経麻痺」及び「筋損
傷」という傷病名は,1審被告ファイルの作成時期よりも前に作成された甲64の
1~3(F弁護士のウェブページの「交通事故相談フォーム」)に既に掲げられて
いる。
甲20は,交通事故の概要を聴取するに当たり当然聴取すべき項目を
設けたものであり,甲20も本件1審被告ファイルも,「事故の概要を聴取する」
ものであることは,全く同じ性質のものである。本件1審被告ファイルが列挙する
素材は,甲20に網羅されており,本件1審被告ファイルの項目及び選択肢を設け
るに当たり創作性が認められる余地はない。
交通事故の相談を受けるに当たり,事故状況,被害者及び加害者の立
場,治療状況,保険の内容及び相談事項を順に聴取することは,交通事故の相談を
効率的に行う上では,当然のことである。したがって,交通事故被害者から相談を
受けるに当たっては,誰が相談事項をまとめた書式を作成しようとしてもほぼ同様
の配列となるから,素材を配列するに当たり何らかの工夫を施す余地はなく,素材
の配列に創作性は認められない。
第3当裁判所の判断
の成否),3(一般不法行為の成否),6(1審原告追加部分の著作物性及び複製
権侵害の成否)及び8(本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無)について,
順に判断する。

証拠(各項末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によると,以下の各事実
が認められる。
ア1審原告は,本件NPO法人の地方相談会を甲府市で開催することとし,
E及び1審被告と相談の上,平成25年2月24日に本件甲府相談会を開催するこ
ととした。そして,そのことは,本件NPO法人のウェブページにおいて告知され
た。1審原告は,平成25年1月頃,本件甲府相談会の参加者を募るために,1審
原告広告を作成し,広告業者に依頼して,同年2月3日,山梨県内での新聞折込広
告として,1審原告広告19万7850枚を配布した。(甲1,11,乙39,4
2)
イEは,平成25年2月20日,1審原告の経営する法律事務所の事務員
に対し,「驚いています。」というタイトルのメールを送信した。同メールには,
「出張相談会を続けていますが,集客で苦戦しています。ところが,山梨・甲府で
は驚異的な集客力です。本当にびっくりしています。つきましては,配布されたチ
ラシの現物,配布された日時,選択された新聞社,配布枚数,費用の合計をお教え
いただきたくメールをしました。チラシは残っていれば,添付ファイルで現物をお
送りいただけませんか?」との記載がある。(甲47)
ウEは,平成25年2月27日,本件NPO法人の提携専門家であるB弁
護士に1審原告広告を交付し,同年3月から4月頃には,同じく本件NPO法人の
提携専門家であるA弁護士に1審原告広告を交付した。B弁護士は,1審原告広告
の内容を参考に宣伝広告チラシを作成し,同年3月16日に四日市市で開催された,
本件NPO法人の地方相談会への集客のため,上記宣伝広告チラシを同市近郊にお
いて配布した。また,A弁護士は,1審原告広告の内容を参考に,A広告を作成し,
同年7月15日に姫路市で開催された,本件NPO法人の地方相談会への集客のた
め,同市近郊においてA広告を配布した。(乙52,53,57,58)
エA弁護士は,平成25年8月,所属する兵庫県弁護士会の広告調査委員
会から,A広告の記載に問題があると指摘を受け,同委員会の聴聞手続への出頭を
求められた。同委員会が問題としたA広告の記載は,①「交通事故専門の弁護士」
との記載が広告規制に反する可能性があり,また,②交通事故の賠償金が増額され
た事例の紹介に関する記載が賠償額についての誤認を招く表現であって,いずれも
弁護士の懲戒事由に当たる可能性があるなどというものであった。(乙48,52,
58)
オA弁護士は,上記エの指摘等を受け,1審原告及び1審被告に対して電
子メールで,A弁護士が作成,配布した広告について上記エの指摘等を受けた旨を
連絡した。1審被告は,平成25年8月7日,1審原告に対し,A弁護士が1審原
告広告を見本としてA広告を作成した結果,A広告と1審原告広告とがほぼ同内容
となっていること,上記エの指摘等に対する対応として,本件NPO法人の提携専
門家であるG行政書士から,①「交通事故専門弁護士」という記載を「弁護士と交
通事故専門の行政書士」と変更するとともに,②賠償金増額事例についても表現を
抑えて具体性をなくし,あるいは,事例を省略してはどうかという意見が出された
ことなどを伝えた。
1審原告は,同日,1審被告に対し,上記①についてはそのとおりに変更するが,
上記②については,事例を三つにした上で,上記エの指摘に対する防衛策として「
(注)賠償額は被害者の収入,過失割合等によって大きく異なります。上記3つの
例は,弊事務所の解決例であり,回収額や増加額をお約束するものではございませ
ん。」との注記を掲載する予定であるなどと回答した。
同年9月以降に1審原告が作成した相談会の宣伝広告では,上記②について事例
を三つに増やし,上記文言どおりの注記を掲記するなどの変更が行われた。また,
A弁護士及びA弁護士以外の本件NPO法人の提携専門家らの作成した,本件NP
O法人の地方相談会の宣伝広告においても,上記①及び②の各記載につき,上記検
討に沿った変更が行われた。
(甲49の8~71,乙10~14,46~48,57,58)
カ1審原告は,平成28年2月5日,1審被告に対して,①1審被告が作
成,配布した1審被告広告1は,1審原告広告に関する1審原告の著作権を侵害す
る旨,②1審被告広告1及びこれに類似した広告の使用を直ちに中止することを求
める旨,③1審原告広告に類似した広告の作成,掲示,配布,使用をしないことを
求める旨等を記載した通知(以下,「本件侵害通知」という。)を行い,同月6日,
1審被告に到達した。(甲2,4,5)
キ1審原告は,平成28年4月18日,1審被告に対し本訴を提起し,本
訴係属後の同年7月,A弁護士に対し,A広告が1審原告広告の著作権を侵害して
いると指摘するとともに,1審原告広告と同一又は酷似した文言等の使用を直ち
に中止し,今後これらを使用しないことなどを求める旨の通知書を送付した。また,
1審原告は,同月,B弁護士及び他の1名の本件NPO法人の提携専門家に対して
も,同趣旨の通知書を送付した。(甲15~17の各1・2)
ク平成23年から平成28年にかけて,1審原告が保険会社との交渉や訴
訟等を担当し,1審被告が後遺障害認定申請等を担当し,連携して交通事故の事案
を処理した件数が合計95件あり,本件侵害通知がされた時点においても,処理中
の案件があった。また,1審原告は,Eや1審被告から,多数の交通事故の案件の
紹介を受けていた。(乙16,18,21,41,55,56)
相談会の広告として作成されたものであること,②1審原告は,1審被告から,本
件NPO法人の地方相談会の集客のために,1審原告広告の現物を送付することを
求められたこと,③1審原告は,平成25年8月7日,1審被告から,A広告が1
審原告広告とほぼ同一内容であることを告げられたこと,以上の事実が認められる
から,1審原告は,平成25年8月7日の時点において,A広告が1審原告広告と
ほぼ同一内容であること,1審原告広告とほぼ同一内容のものが本件NPO法人の
地方相談会の集客のために用いられていることを認識していたものと認められる。
のものが本件NPO法人の地方相談会の集客のために用いられていることを何ら問
題とすることなく,かえって,A広告及び1審原告広告が同一の広告文言及び事例
の紹介を用いていることを前提に,弁護士会からの指摘を回避するための1審原告
認定事実からすると,1審原告は,上記の平成25年8月7日から約2年6か月後
の平成28年2月5日に至って,1審被告に対して1審原告広告に関する1審原告
の著作権の侵害を主張するようになったものと認められる。これらの一連の事実経
事案を処理し,Eや1審被告から,多数の交通事故の案件の紹介を受けていたこと,
すなわち,1審原告は,本件NPO法人と連携することによって利益を得ていたと
いえることを総合すると,1審原告は,本件NPO法人の地方相談会の広告として,
1審原告広告を利用することを包括的に許諾していたものと認めることができる。
この許諾は,A弁護士や姫路市の地方相談会に限られるものではない。
⑶これに対し,1審原告は,本件NPO法人の提携専門家など全く知らない,
本件訴訟において1審被告から提出された証拠を見てはじめて1審被告以外の提携
専門家らが,1審原告広告を使用していることを知り,その後直ちに侵害行為を止
めるよう警告したなどと主張するが,1審原告の主張は,客観的な証拠から認めら
また,1審原告は,①1審原告はA広告を見たことがなく,A広告の記載内容を
知ることはできなかった,②A弁護士が,1審原告広告をデッドコピーすることは
想像できない,③1審原告が1審被告に対して,A広告に関する防衛策について回
答したとしても,それは,一般論について回答したにすぎないなどと主張する。し
かし,1審原告は,AA広
告が1審原告広告とほぼ同一内容であることを告げられたのであるから,A広告の
記載内容が1審原告広告とほぼ同一内容であること(言い換えるならば,A広告が
1審原告広告のほぼデッドコピーであること)を知っていたと認められるし,上記
⑴で認定した,1審原告が1審被告に対してA広告に関して回答した内容は,A広
告及び1審原告広告が同一の広告文言及び事例の紹介を用いていることを前提とし
たもので,一般論を超えるものである。したがって,1審原告の主張は,いずれも
採用することができない。
さらに,1審原告は,①1審原告とA弁護士は,私的にも業務上でも一切の関係
はなく,全くの他人である,1審原告は,誰が「本件NPO法人の提携専門家」に
該当するのかを知らないし,現に,1審被告広告1のC弁護士及び1審被告広告2
のD弁護士は,1審原告がこれらの広告の存在を知るまで全く面識がなかった,②
弁護士ではない1審被告が1審原告広告を利用することは弁護士法72条に違反す
る蓋然性が高い,③利用料金などの条件について,1審原告と1審被告の間で協議
がされたことはないし,1審被告が利用料金を支払ったこともない,④1審原告と
1審被告が同じ地域で地方相談会を開催したことによって,1審原告の地方相談会
の参加者数が大幅に減少したなどと主張する。しかし,上記⑵で認定したとおり,
1審原告は,本件NPO法人の地方相談会の広告として,1審原告広告を利用する
ことを包括的に許諾したものであるから,1審原告において誰が「本件NPO法人
の提携専門家」に該当するのかを知らず,本件NPO法人の地方相談会を担当する
弁護士と1審原告との間に面識があるなどの関係がなかったとしても,その結論が
左右されることはない。また,1審原告広告が「法律事務」に該当する広告である
としても,本件NPO法人の地方相談会において「法律事務」を担当するのは弁護
士である(乙39,44)から,弁護士法72条に違反することはない。さらに,利
用料金などの条件について,1審原告と1審被告の間で協議がされたことはなく,
自然ではないし,1審原告広告を利用した地方相談会が開催されることによって,
1審原告の地方相談会の参加者数が減少することがあったとしても,前記のとおり,
1審原告は,本件NPO法人と連携することによって利益を得ていたことなどに照
らすと,1審原告が許諾しなかったことを推認させるものということはできない。
なお,1審原告は,A弁護士が本件NPO法人の提携専門家であることを知らな
かったと主張するが,A広告の記載内容が,本件NPO法人の地方相談会の広告と
して作成された1審原告広告とほぼ同一内容であることを知っていたのであるから,
A弁護士が本件NPO法人の提携専門家であることを知っていたものと認められる。
⑷1審原告は,1審原告のA広告に関する提案は,1審原告広告のうち1審
原告表現③に限定されたものであるから,仮に,1審原告表現③に関して利用又は
改変の許諾が認められたとしても,1審原告表現③を除く1審原告広告全体又は1
審原告表現①及び1審原告表現②に関して利用又は改変を許諾したこととはならな
いと主張A広告に関する提
案が1審原告表現③に関するものであったからといって,許諾の範囲がそれに限ら
れるというべき理由はない。
⑸上記⑴認定のとおり,1審原告は,平成28年2月5日,1審被告に対し
て,本件侵害通知を行い,同月6日,1審被告に到達したことが認められる。しか
し,上記⑴認定のような経過で,1審原告が,本件NPO法人の地方相談会の広告
として,1審原告広告を利用することを包括的に許諾したものであることからする
と,それが1審原告からの通知によって直ちにその効力を失う趣旨のものであった
と認めることはできない。したがって,上記許諾は本件侵害通知によって直ちにそ
の効力を失うものではなく,1審被告が,1審被告広告2を作成し,平成28年2
月14日に配布したことが著作権侵害になるということはない。
⑹1審原告は,1審被告による1審原告広告についての著作権の侵害行為と
して,1審被告広告1及び2について主張しているが,以上の⑴~⑸で述べたとこ
ろからすると,1審原告広告の著作物性について判断するまでもなく,1審被告が,
1審原告広告についての著作権を侵害する行為を行ったと認めることはできない。

人の地方相談会で使用するのに必要な範囲で改変することを許諾していたものと認
められる。そして,1審被告広告1及び2がその範囲を超えて改変されたとは認め
られない。
3争点3(一般不法行為の成否)について
1審原告は,1審被告が1審原告広告を無断で模倣して1審被告広告1及び2を
作成したことによって,1審原告が有する1審原告広告を模倣されないという法的
保護に値する利益が侵害された旨主張する。
1審原告の主張は,1審被告が1審原告広告を無断で模倣したことにより,1審
原告が,1審原告広告について著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持
権)とは別個の法的利益を侵害された旨の主張と解される(最高裁判所平成23年
12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。しかし,1審原告
の主張する利益が,著作権や著作者人格権とは別個の法的に保護されるべき利益に
製及び改変を許諾したものと認められるから,1審被告が1審原告広告を無断で模
倣したという1審原告の主張は,主張の前提を欠くものであって失当である。
4争点6(1審原告追加部分の著作物性及び複製権侵害の成否)について
著作権法は思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作
権法2条1項1号),複製に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して作
成された物の共通する部分が著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な
表現に当たることが必要である。
1審原告追加部分は,本件1審被告ファイルに対し,①「ご希望時間」欄
を新設して同欄内に午前10時から午後5時30分までの30分刻みの表示をし,
②「住所・TEL」欄を「住所」欄と「電話番号」欄に分け,住所欄に「〒」の表
示をし,③「事故発生状況」欄の空白部分の代わりに「□その他」を新設し,④「
あなた」欄の「□自動車運転」「□自動車同乗」を併せて「□自動車(□運転,□
同乗)」とするとともに,「□バイク運転」「□バイク同乗」を併せて「□バイク
(□運転,□同乗)」とし,⑤「初診治療先」「治療先2」「治療先3」欄をそれ
ぞれ「治療先1/通院回数」「治療先2/通院回数」「治療先3/通院回数」とした
上で,それぞれの欄内に「病院名:/通院回数:回」の表示をし,⑥「自賠責
後遺障害等級」「簡単な事故状況図をお書きください。」「受傷部位に印をつけて
ください。」の各欄を設けた上,「受傷部位に印をつけてください。」欄に人体の
正面視図及び後面視図を設け,⑦相談者の「保険会社・共済名」欄内のチェックボ
ックス及び選択肢を削除し,「加害者の保険」「保険会社名」の各欄を「加害者の
保険会社名」欄にするとともに同欄内のチェックボックス及び選択肢を削除したも
のである。これに対し,1審被告アンケート1及び2は,いずれも上記⑥の人体の
正面視図及び後面視図のデザインが1審原告追加部分と異なるが,その他の点は上
記①から⑦の点において1審原告追加部分と同一の記載がされている。
まず,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記①
の点については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイ
ルの目的上,相談の希望時間を聴取することは一般的に行われることで,そのため
に「ご希望時間」欄を設けて欄内に一定の時間を30分ごとに区切った時刻を掲記
することは一般的にみられるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が
創作的に表現されているということはできない。
また,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記②~⑤及
び⑦の点は,いずれも,本件1審被告ファイルの質問事項欄を統合又は分割し,あ
るいは,各質問事項欄内の選択肢やチェックボックスなどを相談者が記載しやすい
ように追加又は変更したものであり,いずれも一般的にみられるありふれた表現で
あるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されているということはできない。
さらに,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2に共通する上記⑥の点
については,相談希望者から必要な情報を聴取するという本件1審原告ファイルの
目的に照らすと,事故状況や被害状況を聴取するために,自賠責後遺障害等級を質
問事項に設け,事故状況図や受傷部位を質問事項に入れ,受傷部位について正面視
及び後面視の各人体図を設けて印を付けるよう求めたことは,いずれも一般的に見
られるありふれた表現であるから,著作者の思想又は感情が創作的に表現されてい
るということはできない。
以上によると,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2の共通する部分
は,いずれも著作権法によって保護される思想又は感情の創作的な表現には当たら
ないから,1審被告アンケート1及び2は1審原告追加部分の複製には該当しない
というべきである。なお,1審原告追加部分と1審被告アンケート1及び2では,
正面視及び後面視の各人体図のデザインが異なるから,人体図について1審被告ア
ンケート1及び2が1審原告追加部分の複製に該当することはない。
1審原告は,1審被告において1審原告追加部分に著作物性があることを認めて
いるから,この点について裁判上の自白が成立し,裁判所を拘束すると主張するが,
本件訴訟において,1審被告が1審原告追加部分の著作物性を自認したものとは認
めることができないから,1審原告の上記主張は失当である。
5争点8(本件1審被告ファイルの編集著作物性の有無)について
ある編集物が編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには,素材
の選択又は配列によって創作性を有することが必要である(著作権法12条1項)。
⑵本件1審被告ファイルには,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,
「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あな
た」(判決注:相談希望者),「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,
「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,
「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられ,
それぞれ左欄には上記の各項目タイトルが,右欄には各項目に対応する情報を記載
する体裁となっていること,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わ
せ」欄が設けられ,その下に情報を記載するための空白が設けられていることが認
められる。また,本件1審被告ファイルの「事故発生状況」,「あなた」,「加害
者」,「受傷部位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社
・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の右欄には,複数の選択肢とそれ
に対応したチェックボックスが設けられていることが認められる。
⑶まず,相談者から相談に先立ち交通事故に関する必要な情報を把握すると
いう本件1審被告ファイルの性質上,①相談者個人特定情報,②交通事故の具体的
状況,③相談者の受傷及び治療の状況並びに④事故関係者の保険加入状況に関する
情報のほか,⑤具体的な相談希望内容についての情報を収集する必要があることは,
当然のことであると考えられる。本件1審被告ファイルは,「氏名・フリガナ」,
「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「
事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,
「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,
「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄を順に設け,これ
らの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄を設け,その下に情報を記
載するための空白を設けているが,これらの事項は,上記の本件1審被告ファイル
の性質上,当然に設けられるべき項目であって,その順番も,上記①から⑤の順に,
それぞれの必要項目を適宜並べたに過ぎないというほかないから,これらの項目を
上記のとおり設けたことによって,素材の選択又は配列による創作性があるという
ことはできない。
また,上記のような本件1審被告ファイルの性質上,これらの事項に関連する具
体的な項目の選択についても自ずと限定されるところ,本件1審被告ファイルのチ
ェックボックスを付した各項目は,いずれもありふれたものというほかなく,その
ような項目を適宜並べたものというほかないから,素材の選択又は配列による創作
性があるということはできない。この点について,1審被告は,特に,「事故発生
状況」及び「傷病名」の項目の選択について主張するが,「事故発生状況」につい
ての「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無
免許」,「□飲酒」という項目及び「傷病名」についての「□脳挫傷」,「□捻挫
挫傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□靱帯損傷」,「□醜状痕」,
「□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,「□機能障害」,「□神経
麻痺」,「□筋損傷,「□その他()」という項目は,交通事故において
は通常見られる事故態様及び傷病名であって,素材の選択又は配列による創作性が
あるということはできない。なお,1審被告が主張するように,事故現場の図面や
「事故当日の天候」,「道路の見とおしの状況」,「道路状況」,「標識や信号機
の有無や場所」,「交通量」などを記載させることも考えられるが,これらの項目
は,事故態様そのものである「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,
「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」といった項目に比べて必要性が高いと
はいえず,上記の事故現場の図面や「事故当日の天候」等の項目がないことは,素
材の選択又は配列による創作性があることを基礎づけるということはできない。
さらに,チェックボックスを,上記のような項目と組み合わせて配置したからと
いって,素材の選択又は配列による創作性が認められるものではない。
そして,他に本件1審被告ファイルにおいて素材の選択又は配列による創作性が
あると認めるに足りる証拠はないから,本件1審被告ファイルが編集著作物に当た
るとは認められない。
6結論
以上によると,その余の点について検討するまでもなく,1審原告の本訴請求及
び1審被告の反訴請求はいずれも理由がないから,これらを棄却した原判決は相当
である。よって,本件各控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
永田早苗
裁判官
森岡礼子

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