弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告が,平成10年8月11日に発生したaを被相続人とする相続に係る相続税に
ついて,平成13年7月4日付けでした,
1 原告bに対する更正のうち課税価格8655万円及び納付すべき税額1093
万3100円を超える部分,並びに過少申告加算税賦課決定
2 原告cに対する更正のうち課税価格4586万9000円及び納付すべき税額
513万4700円を超える部分,並びに過少申告加算税賦課決定
をいずれも取り消す。
第2 事案の概要
本件は,平成10年8月11日に死亡したaを被相続人とする相続(以下「本件相
続」という。)について,原告らを含む相続人が,相続財産中の企業組合に対する
出資持分を,払込済出資金額により評価して相続税の申告をしたところ,被告が,
上記持分を当該組合の純資産価額に基づいて評価した上,平成13年7月4日付け
で,更正及び過少申告加算税賦課決定をしたため,原告らがこれらの処分の取消し
を求めた事案である。
1 前提となる事実
(1) 原告らの身分関係(本件記録中の戸籍謄本)
ア 原告bは,昭和30年4月9日,a及びその妻dとの間に出生した。
イ 原告cは,平成元年7月8日,原告b及びその妻との間に出生し,平成10年
8月5日,同夫婦が代諾して祖父母に当たるa及びdとの間の養子縁組届を了し
た。
(2) 本件相続の発生と相続財産
 aは,平成10年8月11日に死亡し,d及び原告らが相続したが,その相続財
産中には,中小企業等協同組合法に基づき設立されたe組合(甲3。以下「本件組
合」という。)に対する出資持分(以下「本件持分」という。)が含まれていた。
(3) 本件組合の定款
 本件組合の定款(甲4。以下「本件定款」という。)には,「組合員が脱退した
ときは,組合員の本組合に対する出資額(本組合の財産が出資の総額より減少した
ときは,当該出資額から,当該減少額を各組合員の出資額に応じて減額した額)を
限度として持分を払いもどすものとする。ただし,除名による場合は,その半額と
する。」との規定があり(13条),出資1口の金額は,50円とされている(1
5条)。
(4) 本件組合の財務内容
 本件相続開始時点(平成10年8月11日)における本件組合の財務内容は,別
表記載1のとおりであった(以下,当該部分を「本件貸借対照表」という。)。
(5) 課税の経緯等
 本件相続に係る相続税について,d及び原告らは,本件持分の評価額を払込済出
資金額に基づいて評価した上,平成11年6月2日に申告し(以下「本件当初申
告」という。),次いで平成13年6月27日に修正申告をした(甲1。以下「本
件申告」という。)ところ,被告は,原告らに対し,平成13年7月3日付けで,
本件当初申告と本件申告の差額に係る過少申告加算税の賦課決定をするとともに,
同月4日付けで,後記の被告主張のとおり,本件持分の評価が誤っていることを理
由として,更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以
下「本件賦課決定」という。)をした(甲2。以下,本件更正と本件賦課決定とを
併せて「本件各処分」という。)。
 なお,dについては,被相続人の配偶者に対する相続税額の軽減措置を定めた相
続税法(以下「法」という。)19条の2等が適用される結果,被告主張の本件持
分評価額に基づいて計算しても納付すべき税額は存在しない。
(6) 不服申立てと訴え提起の経緯
 原告らは,本件各処分を不服として,平成13年9月3日,被告に異議申立てを
したが,同年11月21日付け名古屋東資1-013をもって,棄却された(甲
5)ため,さらにこれを不服として,同年12月19日,国税不服審判所長に審査
請求をしたところ,平成14年12月16日付け名裁(諸)平14第22号をもっ
て,これも棄却された(甲6)。
 そこで,原告らは,平成15年3月14日,本件訴えを提起した。
2 本件における争点と当事者の主張
 本件の争点は,本件持分の評価額であり,具体的には,その評価方法を巡って主
張が対立している。
(被告の主張)
(1) 「時価」の意義
 法22条は,財産評価につきいわゆる時価主義を採用しているところ,「時価」
とは,課税時期において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間に
おける自由な取引が行われる場合に通常成立する価額をいうものとされ,評価に当
たっては,その財産価額に影響を及ぼすべきすべての事情が考慮される。しかし,
本件持分のように不特定当事者間における自由な取引が行われることの可能性の少
ない財産についてまで,換金した際の価額によるべき理由は必ずしもなく,その性
質に従った合理的な評価方法をもってその時価を算出すれば足りると解すべきであ
る。
(2) 評価通達の意義
 相続税又は贈与税の課税対象となる財産は多種多様であり,これらの時価を的確
に把握することは必ずしも容易なことではないが,納税者間で財産の評価が区々に
なることは,公平の観点から見て好ましくない。そこで,国税庁では,内部的な取
扱いを統一するとともに,納税者の申告の便宜に供するため,各財産の評価方法に
共通する原則や各種の財産の評価単位ごとの評価の方法を具体的に定めた財産評価
基本通達(以下「評価通達」という。)に従って現実の評価事務を行っている。そ
して,これによることが不合理な場合には,他の合理的な方法によって評価を行う
ことができるとされている(同通達6)ものの,納税者間の実質的な負担の公平の
観点から,同通達に定める方法以外の方法によって評価を行うことは安易に許され
るべきではない。
(3) 評価通達の合理性
 評価通達においては,組合等への出資の評価については,組合の行う事業が組合
員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし,営利を目的として事業を行
わない組合(農業協同組合,漁業協同組合,消費生活協同組合)等と,組合自体が
1個の企業体として営利事業を行うことができる組合(企業組合,漁業生産組合,
協業組合)等とを区別し,前者を払込済出資金額により(評価通達195),後者
を純資産価額に着目して評価する(同196。以下,この方式を「純資産価額方
式」という。)こととしているところ,この区別は,その組合の設立の基となった
法令によって払込済出資金額しか返還されないことが担保されているか否かによ
る。
ところで,中小企業等協同組合法の適用を受ける企業組合においては,「……定款
の定めるところにより,その持分の全部又は一部の払戻を請求することができ
る。」(同法20条1項)とされているにすぎず,持分の返還が払込済出資金額を
限度とすることが法令で担保されていない上,総会の特別の議決により定款の変更
や解散を行うことができ(同法53条1,2号,62条1項1号),残余財産も出
資持分に応じて分配され得る(同法69条による商法131条の準用)ことに照ら
すと,組合に対する出資持分の換価の方法は,独り脱退による払戻しに限られるも
のではないから,評価通達196を適用して出資持分を純資産価額方式によって評
価することは十分に合理的であり,同通達による方法で評価することにより,租税
平等主義の実現が図られ
るというべきである。
(4) 本件持分の評価額
 本件組合は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された企業組合であるから,
その出資持分の評価は,前記のとおり,評価通達196を適用し,純資産価額方式
に準じて行われるべきである。なお,本件定款13条は,出資持分の払戻しについ
て,「組合員の本組合に対する出資額(略)を限度として持分を払いもどす」旨定
めているが,この規定による組合員脱退の際の払戻金の制限により,本件組合の企
業組合としての性質が変化するわけではなく,同通達195の適用を受ける組合に
該当するようになるものではないことは明らかである。
 しかるところ,平成10年決算期における本件組合の財務内容は,本件貸借対照
表中の帳簿価額欄のとおりであり,その資産のうち土地,建物及び電話加入権を評
価通達に定める評価方法で評価し直すと同表中の相続税評価額欄のとおりとなるか
ら,本件相続に係る相続税の課税時期(平成10年8月11日)における本件持分
の価額は,別表記載2及び3のとおり1口当たり1223円と評価すべきである。
原告bは,本件相続によって本件持分1万2000口を取得したから,その価額は
1467万6000円となり,本件申告に際し1口当たり50円として計算された
額(60万円)を差し引けば,同原告に対する課税価格は1407万6000円の
増額となって,納付すべき税額は本件申告より268万0900円多い1361万
4000円となり,
これに基づけば過少申告加算税として26万8000円を賦課決定すべきである。
また,原告cに対する課税価格4586万9000円は変わらないものの,相続税
の総額が増加するため,納付すべき税額は本件申告より41万1000円多い55
4万5700円となり,これに基づけば過少申告加算税として4万1000円を賦
課決定すべきである。
 よって,これらと同額又はその範囲内である本件各処分は適法である。
(原告らの主張)
(1) 「時価」の意義
 法22条にいう「時価」とは,課税時期において,それぞれの財産の現況に応
じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる(取引に制約条件のない)場合
に通常成立すると認められる価額(客観的な交換価値を示す価額)をいう。貨幣経
済下にあっては,交換価値とは購買力のある金銭(流通貨幣)との換価額を示すこ
とはもちろんであり,金銭換価を欲した時にはいつでも,不特定多数を相手にした
自由な取引,合理的方法によって,社会通念上相当な期間のうちにそれが実現でき
るものでなければならず,究極的には資産の換価可能性に収れんされるべきもので
ある。
 この点につき,被告は,本件持分のように不特定当事者間における自由な取引が
行われることの可能性の少ない財産についてまで,換金した際の価額によるべき理
由は必ずしもなく,その性質に従った合理的な評価方法をもってその時価を算出す
れば足りると主張するところ,なるほど,本件持分について不特定多数当事者間に
おいて自由な取引が行われることが少ないのは事実であるが,この場合でも,上記
の時価の概念を前提にして,できるだけこれに近接した手法でどのように具体化す
るかという観点から,「合理的方法」が判断されなければならず,不特定多数当事
者間の自由な取引が少ないからといって,時価判断に際して,「換金」の概念から
自由になるものではない。
(2) 評価通達の射程
 国税庁長官は,租税法規の統一的執行を確保するため,評価通達を定めている
が,それ自体は法令ではなく下級行政庁に対する命令ないし指令にすぎないから,
その内容は法令に抵触するものであってはならない。そして,個別の財産の評価
は,法22条に基づいて行われるべきであり,その資産の特性からみて評価通達の
方法によることが不合理な場合には,それと異なる他の合理的な方法によって評価
を行うべきことはもちろんであるから,「この通達の定めによって評価することが
著しく不適当と認められる財産の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する。」
と定める同通達6は,当然の法理を確認したものである。したがって,これに該当
する場合以外は評価通達に定める方法以外の方法によって評価することができない
とするのは,事実上,評
価通達に法規範性を認める結果となり,許されるものではない。
(3) 評価通達の不合理性
 本件組合をはじめとする企業組合の事業は,組合自身の利益の追求ではなく,組
合員の相互扶助により有利な共同事業を行い,これを各組合員が利用して各組合員
の利益に結びつけるという意味において,会社自身が利益を上げて株主に利益を配
当することを目的とする会社とは異なっており,中小企業等協同組合法(5条1項
3号,10条3項,14条)上も,資産処分,解散・清算等を一部の者によって支
配することは不可能であり,本来的な法制度として,不特定多数性,継続性が明確
である。したがって,組合員にとって,その出資持分を現実化する手段は,究極的
にも,組合から脱退して出資持分の払戻しを受けるほかはない。被告主張に係る解
散による財産分配は,現実的にほとんどあり得ず,法律も予定していない机上の空
論による換価方法で
ある。
 そして,企業組合に対する出資持分の評価を純資産価額方式によることとしてい
る評価通達196は,不動産等の資産を所有せず,主たる資産が営業設備等に限定
されている大半の企業組合については,純資産価額方式によって時価算定した持分
価額が出資額と変わらないか,むしろ下回ることが多いので,この限りで時価算定
の方式として有効性が認められる。しかしながら,土地建物を主要な資産とする企
業組合にあっては,組合資産を前提として持分を払い戻そうとすれば,その資金調
達のため企業活動の中枢となるべき不動産の売却を余儀なくされ,事業の継続に困
難を来すから,出資持分は定款の規定にかかわらず払込済出資金額を限度としてし
か返還されないのであって(大阪地方裁判所平成8年3月27日判決・判タ916
号216頁参照),
出資金は,投資というより加入保証金として機能しているものであり,この場合,
評価通達196による評価額は時価と一致せず,その有効性が認められないから,
まさに資産の特性からみて評価通達196の方法によることが不合理な場合に該当
する。
 しかるところ,本件組合は,昭和25年6月に設立され,自動車・オートバイ・
自転車の販売・整備等を事業内容としているが,名古屋市千種区千種通六丁目○○
番の○に宅地(304.13平方メートル)と共同住宅を所有し,ここに組合事務
局を置くほか,賃貸して賃料収入を得,運営資金に供しているところ,これらの価
額は,別表記載1のとおり,組合資産総額6億4216万7000円のうち1億1
716万1000円を占めている。そして,本件組合の清算資産は,事実上,これ
らの不動産に限られ,組合員から純資産価額方式による持分払戻請求がなされた場
合は,これらを売却せざるを得ないが,このような事態になれば,本件組合の解散
を余儀なくされることが明らかであるから,評価通達196の定める純資産価額方
式によることは許さ
れないというべきである。
(4) 本件持分の時価
 本件組合が,設立以来,財務内容にかかわらず,脱退組合員に対し,払込済出資
金額である出資持分1口当たり50円を払い戻してきたのは,その旨を定めた本件
定款13条の規定によるというよりも,企業組合の存続を維持するための法理的必
然によるのであり,本件持分の価額は,1口当たり50円以外の金額はあり得ない
から,これが本件持分の客観的な交換価値を示す,不特定多数の当事者間で自由な
取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額として,法22条に規定する
「時価」に相当する。
 よって,本件更正のうち本件申告に係る額を超える部分及び本件賦課決定の取消
しを求める。
第3 当裁判所の判断
1 「時価」の意義と評価通達の効力について
 相続税は,相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した
個人で,当該財産を取得した時において相続税法の施行地に住所を有する者につい
ては,その者が相続又は遺贈に因り取得した財産の全部に対して課される(法2条
1項,1条1号)が,その課税価格は,当該相続又は遺贈により取得した財産の価
額の合計額とされている(法11条の2第1項)。そして,「……相続,遺贈……
に因り取得した財産の価額は,当該財産の取得の時(すなわち,相続については相
続開始時点)における時価によ」る(法22条)ところ,ここにいう「時価」と
は,上記課税時期において,それぞれの財産の現況に応じて,正常な条件の下に成
立する客観的な交換価値をいうと解される(最高裁判所平成15年6月26日第一
小法廷判決・裁判所時
報1342号191頁参照)から,これが,不特定多数の者の間で自由な取引が行
われる性質の資産である場合には,その間において通常成立する価額をいうべきこ
とは当然である(「財産の価額は,時価によるものとし,時価とは,課税時期(中
略)において,それぞれの財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引
が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい,(後略)」とする評価通
達1(2)も同旨である。)が,不特定多数者の間で取引が行われることが必ずしも確
保できない性質の資産についても,できる限り合理的な手法によって,その客観的
な交換価値を探求した上で時価を評価すべきである。
 しかるところ,国税庁長官発出の評価通達は,法形式上は行政庁内部における行
政規則(行政命令)にとどまるものの,租税公平主義との関係でいえば,納税者に
対して申告内容を確定する指針を与えるとともに,各課税庁における課税事務を統
一するという積極的な意義を有することは否定し難いから,上記の観点から見て
「時価」の評価として合理的な内容のものである限り,これに基づき評価した結果
を「時価」と判断して差し支えないと解すべきであり,その限りで国民に対し事実
上の法規範として機能する場合もあるが,他方,これに基づく評価が客観的な交換
価値を上回れば,その評価は法22条の規定に反して違法となることも当然である
(前掲最高裁判所第一小法廷判決参照)。
2 評価通達196適用の合理性について
 そこで,この見地から,本件持分の評価に際し評価通達196を適用すべきか否
かについて判断する。
(1) 企業組合と株式会社との類似
 評価通達196は,「企業組合,漁業生産組合その他これに類似する組合等に対
する出資の価額は,課税時期における組合等の実情によりこれらの組合等の185
《純資産価額》の定めを準用して計算した純資産価額(相続税評価額によって計算
した金額)を基とし,出資の持分に応ずる価額によって評価する。」と定める(乙
1)ところ,同185は,「179《取引相場のない株式の評価の原則》の『1株
当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)』は,課税時期におけ
る各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額(中略)の合計額から課税
時期における各負債の金額の合計額及び186-2《評価差額に対する法人税額等
に相当する金額》により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控
除した金額を課税時
期における発行済株式数で除して計算した金額とする。(以下略)」としている。
すなわち,評価通達上,企業組合,漁業生産組合その他これに類似する組合等に対
する出資の価額は,課税時期における資産価額の合計額から負債額の合計額(いわ
ゆる含み益に対する法人税等相当金額を含む。)を控除した金額(純資産価額)
を,出資の持分割合に応じて按分して計算した金額とする純資産価額方式によって
評価するとされており,これは,取引相場のない小規模株式会社の株式の評価にお
ける原則的方法並びに同じく大規模株式会社の株式及び中規模株式会社の株式の評
価における補充的方法と同様である(評価通達179(1)ただし書,(2)ただし
書,(3)本文)。
 ところで,企業組合においては,商業,工業,鉱業,運送業,サービス業その他
の事業を行うものとされ(中小企業等協同組合法9条の10),漁業生産組合にお
いては,漁業及びこれに附帯する事業を行うことができるものとされていて(水産
業協同組合法78条),いずれも産業一般を行うことが予定されている種類の組合
であるから,企業体としての経済的実態からすると,会社とほとんど変わるところ
がないと考えられる。そうである以上,取引相場のない小規模株式会社の株式の評
価方法として,広く社会一般に合理的なものとして受け入れられている純資産価額
方式を,これらの産業一般を事業内容とする組合についても採用することは公平に
かなうと考えられるし,逆に会社の株式の場合と異なる扱いを認めるならば,企業
形態に係る法形式の
選択いかんによる脱法的節税を許容する結果を招き,租税負担の不公平感を醸成す
ることにもなりかねないので,評価通達196は,それ自体合理的な内容のもので
あると判断できる。
 この点につき,原告らは,企業組合に対する出資金は,投資というより加入保証
金として機能しているにとどまる旨主張するが,一般に出資に対して剰余金の配当
が予定されている(中小企業等協同組合法59条3項)以上,株式との間で経済的
実質に大差はないというべきであり,採用することができない。
(2) 企業組合と消費生活協同組合との相違
 また,企業組合においては,組合員が脱退した場合,「定款の定めるところによ
り」その持分の全部又は一部の払戻しを請求することができ,その持分は,「脱退
した事業年度の終における組合財産によって定める」とされていて(中小企業等協
同組合法20条1,2項),例えば消費生活協同組合の組合員が脱退した場合に,
その払戻額が「定款の定めるところにより,その払込済出資額の全部又は一部」と
限定されている(消費生活協同組合法21条)のと異なっている。したがって,企
業組合においては,定款の定め方によっては,企業組合の純資産価額を基礎とした
払戻しを受けることが可能である。
 もっとも,本件定款は,組合脱退時の持分払戻額は出資額である1口当たり50
円を限度とすると定めている(13条,15条)。このように,脱退の際の払戻額
が出資額を限度とする旨定められている場合に,なお持分の評価を純資産価額方式
によるべきかは問題であるが,定款は,総会の特別の議決によりいつでも変更する
ことができる(中小企業等協同組合法53条1号)し,純資産価額を基礎とした額
が出資額を上回っていれば,その差額は当該企業組合の内部に留保された状態にな
り,最終的に解散して清算することになれば,それらを含めた残余財産が分配され
ることになる(中小企業等協同組合法69条,商法131条)から,企業組合の持
分は,究極的には当該組合の純資産価額を体現していると考えられ,本件定款19
条1項が,組合員の
持分を,「……本組合の正味財産につきその出資口数に応じて算定する。」と定め
ている(19条1項)ことをも考慮すると,本件持分を譲渡する場合(当該組合の
承諾は得なければならないものの,他の組合員に対しては本件持分を譲り渡すこと
ができることにつき,中小企業等協同組合法17条1項・2項,10条3項1号参
照)の対価も,このような事情を反映して決定されるものと推測することができ
る。したがって,このような観点からも,評価通達196の合理性を肯認すること
ができる。
(3) 企業組合と農業協同組合,漁業協同組合との相違
 なお,被告は,脱退の場合の持分払戻額がその設立の基となった法令によって払
込済出資額に限られることが担保されているか否かによって評価通達196の適用
不適用を区別すべきであり,農業協同組合や漁業協同組合は,消費生活協同組合と
同様,払込済出資額をもって評価すべき旨主張するところ,農業協同組合や漁業協
同組合においては,その脱退時における持分払戻額が払込済出資額を限度とする旨
定められておらず(農業協同組合法23条,水産業協同組合法28条),その点で
は企業組合と同様であるから,被告の上記主張は,それ自体矛盾した内容を含むこ
とは否定できない。
 しかしながら,企業組合が総会の決議によって自由に解散でき,これを行政庁に
届け出ればよい(中小企業等協同組合法62条1項1号,2項)のと異なり,農業
協同組合や漁業協同組合においては,総会の議決(決議)によって任意に解散しよ
うとしても,行政庁の認可を必要とし(農業協同組合法64条2項,水産業協同組
合法68条2項。なお,消費生活協同組合法62条2項も同旨である。),解散の
方法による持分の換価に法令上の規制を受けており,このことに加えて(1)で判断し
た企業組合や漁業生産組合における企業体としての経済的実態などをも考慮すれ
ば,評価通達196の適用対象に関する被告の主張は,こと企業組合との関係にお
いて,結論として是認し得ないものではない。
(4) 原告らの主張について
 これに対し,原告らは,①企業組合の事業は,継続性,構成員の不特定多数性が
明確であって,解散による財産分配は現実にほとんどあり得ない,②本件組合のよ
うに,不動産を主要な資産としている企業組合においては,純資産価額方式による
払戻しを行おうとすれば,当該不動産を売却し,組合を解散することを余儀なくさ
れるなどと主張して,評価通達196の適用は違法である旨主張する。
 しかしながら,解散による財産分配が頻繁に行われるものではないとしても,前
記のとおり,持分譲渡の対価が解散時の残余財産分配請求権と無関係に決定される
とは考え難い(通常,譲渡の方法による持分の換価を選択するのは,この価額が定
款によって定められた脱退の際の持分払戻額を上回るからと考えられる。)から,
①をもって前記判断を覆すことはできず,②についても,問題となった企業組合の
具体的資産構成によって,持分の評価方法を変えることは,大量,反復して行われ
る税務行政の客観性,公平性を害するといわざるを得ず,採用することはできな
い。
(5) まとめ
 以上によれば,企業組合である本件組合に対して,評価通達196を適用するこ
とは合理的であり,法22条に反する違法はないと認められる。
3 結論
 前記認定・判断によれば,本件持分は,評価通達196に従って評価すべきとこ
ろ,これを本件組合の平成10年決算期における帳簿上の土地,建物及び電話加入
権の価額につき評価通達に定める評価方法で評価し直した本件貸借対照表中の相続
税評価額欄記載の財務内容(争いがない。)に基づいて評価して計算すると,別表
記載2及び3のとおり,本件持分1口当たりの純資産価額は1223円となる。そ
うすると,本件更正は,原告らが納付すべき税額の範囲内にあるから適法であり,
かつ過少申告を行ったことについて国税通則法65条4項所定の正当な理由も見当
たらないことから,本件賦課決定も適法というべきである。
 よって,本件各処分の取消しを求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないか
ら,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事
訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
    名古屋地方裁判所民事第9部
          裁判長裁判官   加藤幸雄
             裁判官   舟橋恭子
             裁判官   平山 馨
(別表添付省略)

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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