弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の主位的請求に係る訴えを却下する。
2原告の予備的請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1主位的請求
飛騨市長が,原告に対し,平成17年5月30日飛福第363号の2をもっ
てした新増島保育園運営事業者決定解除処分を取り消す。
2予備的請求
原告が,飛騨市長が平成17年1月18日飛福第1971号をもって決定し
た新増島保育園運営事業者の地位にあることを確認する。
第2事案の概要
本件は,被告が飛騨市立保育園の運営業務を委譲する相手方をプロポーザル
方式で公募して審査を行い,一旦原告を保育園の運営事業者とする旨の決定を
した後,飛騨市長がこれを解除したことが違法であるとして,原告が,被告に
対し,主位的に上記解除の取消しを求めるとともに,予備的に原告が保育園の
運営事業者の地位にあることの確認を求めた事案である。
1前提となる事実(争いがない事実並びに証拠〔甲1,2,4,5,29,3
0,乙2,3,25,証人A〕及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事
実)
(1)原告は,肩書所在地において,B歯科医院の名称で歯科医院を経営する医
療法人である。
(2)保育園運営事業者の決定
ア被告は,平成16年,公立保育園整備計画の検討を行い,飛騨市立増島
(「」,「」保育園以下増島保育園といい移転新築後のものを新増島保育園
という)を移転新築する方針を決定した。そして,被告は,同年9月,増
島保育園を移転新築するのを機に,平成18年4月1日からの新増島保育
園の運営業務を民間法人等に委託することとし,その委託する法人等をプ
ロポーザル方式の公募により選考することとした。
イ被告は,多様化する保育ニーズに応えるため,民間経営者のノウハウを
活かした柔軟で効率的な保育園運営を実施しようと考え,平成16年10
,。,月新増島保育園の運営業務の委託を委譲へと変更することとしたなお
委託の場合,運営主体は被告で,公立保育園という形態であるが,委譲の
場合,運営主体は事業者で,被告から土地及び建物の無償貸与を受けた私
立保育園という形態となる。
ウ新増島保育園の運営事業者の決定方法は,①有識者,保護者代表ら8名
で構成された新飛騨市保育園運営事業者選定委員会(以下「選定委員会」
という)の審査に基づき飛騨市長が決定する,②審査方法は,書類による
一次審査と面接による二次審査とする,③審査の結果は文書にて通知する
とされていた。
エ新増島保育園の運営事業者として,原告を含む4団体の応募があったこ
とから,選定委員会は,平成16年12月20日に書類審査,平成17年
,,,1月14日に面接審査を行った後原告を運営事業者として選定し同日
飛騨市長にその旨報告した。
オ飛騨市長は,上記報告を受け,同月18日飛福第1971号をもって,
原告を新増島保育園の運営事業者とする旨の決定(以下「本件決定」とい
う)をし,同日「新増島保育園運営事業者の決定について」と題する書,
面をもってその旨を原告に通知した。
(3)本件決定の解除
飛騨市長は,原告に対し,同年5月30日飛福第363号の2をもって本
件決定を解除すること(以下「本件解除」という)とし,同日「新増島保,
育園運営事業者決定の解除について(通告」と題する書面を原告に送付す)
ることにより,その旨を原告に通知した。
(4)新増島保育園の運営状況
新増島保育園は,現在,原告に代わる運営事業者が新たに選定されること
はなく,従来どおり,飛騨市立の保育園として運営されている。
2争点
(1)本件解除の行政処分性(主位的請求)
(2)本件解除の効力(主位的及び予備的請求)
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件解除の行政処分性)について
ア原告の主張
新増島保育園運営事業者への運営業務の委譲の根拠は,地方自治法23
8条の5に基づく私権の設定であり,普通財産である被告所有の土地及び
建物につき保育園事業の目的に限定して使用借権の設定をする行為にほか
ならず,本件決定は,原告をその使用借権の設定が予定された者,すなわ
ち事業予定者に選任する行政処分である。そして,本件解除は,行政処分
である本件決定の取消処分であるから,同様に行政処分である。
本件解除が後出の本件委譲準備契約という契約関係を解除する意思表示
であるとすれば,本件委譲準備契約の内容が具体的に確定していなければ
ならないが,本件委譲準備契約には具体的な契約内容がなく,契約の成立
要件を満たさず,契約関係とはいえない。
イ被告の主張
,,新増島保育園運営事業者への運営業務の委譲は①プロポーザルの実施
,,,②審査と結果の飛騨市長への報告③飛騨市長による決定④決定の通知
⑤被告と運営事業者との協議,⑥基本協定及び土地及び建物の使用貸借契
,,約の締結という手続を経てなされるところプロポーザル参加者の応募は
委譲予定者の地位の獲得という法律効果の発生を目的とする申込みであ
り,本件決定は,上記申込みに対して被告が承諾又は承諾と同様の法律効
果を発生させるものであり,本件決定の通知により,通知を受けた者と被
告との間で,委譲予定者の地位の獲得という法律効果を発生させることを
目的とする合意,すなわち委譲準備契約が成立することとなる。そして,
委譲準備契約は,被告のような行政主体と私人との間で委譲予定者の地位
の獲得という法律効果の発生を目的としてなされた合意であり,公法上の
契約又は行政契約である。
本件においても,原告のプロポーザル参加の応募という申込みに対し,
被告の本件決定の通知という承諾(又は承諾と同様の法律効果が発生する
行為)により,原告と被告との間で委譲準備契約(以下「本件委譲準備契
約」という)が締結されているところ,上記のとおり,委譲準備契約は公
法上の契約又は行政契約であるから,本件解除は,本件委譲準備契約とい
う契約関係を解除する旨の意思表示であり,行政処分ではない。
(2)争点(2)(本件解除の効力)について
ア被告の主張
(ア)本件委譲準備契約は,行政主体を一方の当事者とする公法上の契約又
は行政契約であるが,私法上の契約法では説明できない特殊な利益調整
の要求のある場合や行政法上の特別の規定がある場合を除いては,基本
的に私法の規定に依拠すべきであるところ,上記3(1)イ①ないし⑥と
いう手順をたどる新増島保育園運営事業者への運営業務の委譲におい
て,私法の規定をそのまま適用するのに支障を来すような特別な要求や
規定はないのであるから,これに依拠して考えるべきである。
本件委譲準備契約には,当事者間に委任と同等かそれ以上に高度な信
頼関係が不可欠であることは当然であるから,契約をいつでも自由に解
除できるかどうかはともかく,少なくとも,やむを得ない事由がある場
合に契約が解除できないのは妥当でないから,原告と被告との間で,委
譲契約に向け,委譲条件,引継ぎその他の細目等について協議が重ねら
れてゆく中で,相手方当事者に契約の本旨又は信義誠実の原則に反する
行為があったときはもちろんのこと,本件委譲準備契約関係を継続でき
ないか若しくは委譲契約をすることができないやむを得ない事由がある
場合には,本件委譲準備契約を解除できると解すべきである。
(イ)本件解除には,以下のとおりやむを得ない事由があるから,本件解除
は有効である。
a事態の認識に対する原告側の誤った理解が是正されなかったこと
新増島保育園運営事業者への運営業務の委譲後も,従来市立であっ
た増島保育園の年中児,年少児が事実上新保育園に通園するものであ
ること,市有財産である保育園の敷地,園舎を使用貸借に供すること
に照らし,経営や保育の現場において価値観の中立性について最大限
,,の配慮が必要であるところ原告代表者理事長B及び園長予定者Cは
Dという宗教団体に所属しており,また,一般の市民の間でも代表者
らがDに所属している原告が保育園の運営事業者となることに不安を
抱く声が挙がっていたので,被告は,原告に対し,Dの考え方を保育
園の経営及び運営に持ち込まないことを約束すること及びその約束の
履行を担保するために,組織の形態,人事等を地域に開かれたものに
することを求め,これらを運営業務の委譲に当たっての確認事項とし
て記載した平成17年4月13日付けの「新増島保育園運営者に関す
る確認事項」と題する書面を,被告からの提案(以下「合意案」とい
う)として示した。ところが,原告は,これに応じようとせず,事態
に対する誤った理解を是正することもしなかった。
原告が被告に対して提出した平成16年4月26日付け「質問並び
に申入書(以下「質問書」という)の内容からも,原告が誤った理」
解を是正することは期待不可能な状況にあったといえる。
また,被告が考えていた幼稚園と保育園の一元化による保育,教育
の一体化(幼保一元化)は,法令に違反するような保育園運営を考え
ていたものではないし,幼保一元化を委譲目的や条件とした事実はな
く,その方針の受け入れを原告に求めたこともない。
b信義誠実を基礎とした懇切丁寧な協議の続行が不能ないし著しく困
難であったこと
質問書の文章の調子は,問答を仕掛けるか,難詰しているといって
よいものであり,その内容からも,原告が誤った理解を是正すること
は期待不可能であったといえる。
また,被告は,京都市在住の原告代理人弁護士とは書面を通じてし
か意思の疎通を図ることができず,原告と被告の間で,相互の信頼関
係に基づく協議はほとんど不可能な状況にあった。
c委譲の実施に間に合わせるための時間的制約
本件委譲準備契約が締結されたことにより,原告は,平成18年4
月1日の私立保育園開設に間に合うような時期までに基本協定を締結
できるよう協議する義務を負っており,新増島保育園開園までの想定
日程表に照らして考えると,同年5月上旬には基本協定が締結されて
いなければならなかった。しかし,被告が,原告側が誤った理解を是
正して基本協定を締結するか,あるいは基本協定の締結を辞退するか
の決断を求めたところ,原告は,そのいずれにも応じようとせず,同
年5月上旬までに基本協定を締結することは不可能な状況にあった。
,,,また新増島保育園の建設計画は当初は単年度で計画していたが
国の交付金が2か年に渡って交付されることとなったため,やむを得
,,ず民営化の時期も1年遅らせたものであり1年延期と本件解除とは
全く関係がない。
d(原告の後記主張(カ)に対し)
被告は,原告に代わる事業予定者を内定したため本件解除を行った
わけではない。本件訴訟のような問題が発生し,市民の関心が集中し
ている状況下で,不透明な手続で事業予定者を選定するなどというこ
とはあり得ない。
イ原告の主張
(ア)被告主張の原告側の誤った理解なるものは存在しない。すなわち,原
告代表者及びCは,Dの会員であり,その教育理念は混迷した我が国の
教育の惨状を是正できるものと確信しているが,それはあくまでも一般
論であり,その理念をそのまま新増島保育園の運営に持ち込んで混同す
ることはあり得ないことをかねてから被告に対しても確約してきてい
た。
(イ)そもそも,保育園の運営は児童福祉法で規律され,幼稚園は学校教育
法で規律されるものであって,保育園に,学校教育法上の「教育」を導
入することはできないのであり,被告が,幼保一元化を掲げて運営業務
の委譲を行おうとしていたことについて,原告としては,保育と教育と
の混同は現時点では法令違反であり,被告の要望をそのまま受け入れる
ことには少なからず躊躇があったものである。また,原告としては,保
育はあくまで保育であり,教育ではなく,Dの考え方や運営方針が導入
されることはあり得ないと力説してきたのであるが,被告が幼保一元化
の方針を撤回しなかったため,混迷が増幅されたのであり,混迷の原因
は,被告にある。
(ウ)新増島保育園運営業務の委譲契約は,被告所有の土地及び建物につい
()て使用目的を保育事業に限定して使用貸借契約を締結使用借権を設定
することを主たる契約とし,従来被告と収容園児の保護者との間で締結
されていた保育契約上の地位を承継することを付随契約とし,これらが
一体として締結されるものであり,承継されるべき保育契約と新たに締
結される使用貸借契約(使用借権設定)以外の事項,すなわち,保育園
の運営,経営方針,職員の採否など事業者の判断にゆだねるべき事項に
ついては,事業者の自主権,自立権が認められることは当然であるし,
本件募集要項によっても,運営組織,経営方針,職員の採否などについ
ては,事業者の自主性にゆだねることが当然の前提となっていたのであ
る。しかし,合意案の内容は,運営組織として社会福祉法人に限定し,
その理事等の人事に介入した上,従来の職員を引き受けることを要請す
るなどの内容となっており,原告としては,到底受忍できるものではな
。,。かったまた原告側に協議の続行が困難な事情は一切存在しなかった
(エ)被告は,本件解除後,新増島保育園運営事業の計画を1年間延長して
いるのであり,解除が認められるほどの時間的制約があったとはいえな
い。国の交付金が2か年にわたって交付されることになったのは,本件
解除の時点で了知されていた事実であり,被告にはその可能性があるこ
との認識があった。また,被告は,プロポーザルによる公募時から本件
決定時までに,委譲契約の締結に期限があることを告知していなかった
のであるから,定期行為の解除権の行使あるいはその類推適用によって
も,本件解除の適法性を肯定することはできない。
(オ)上記のとおり,被告は,合意案を原告に押しつけ,原告側の意向を尊
重した十分な協議をすることもなく協議不能と即断し,原告がこれをそ
のまま承諾しなかったことを理由として本件解除を行ったものであり,
本件解除には理由がなく,違法である。
(カ)なお,本件解除の真の理由は,被告が原告に代わる事業予定者を内定
したためである。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件解除の行政処分性)について
(1)取消訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使(行政事件訴」
訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,
その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するこ
とが法律上認められているものをいう(最高裁第一小法廷昭和30年2月2
4日判決・民集9巻2号217頁,最高裁第一小法廷昭和39年10月29
日判決・民集18巻8号1809頁参照ところ本件決定がこのような行),「
政庁の処分その他公権力の行使」に該当するかについて,以下検討する。
(2)後掲各証拠によれば,以下の各事実が認められる。
ア平成16年9月発行の広報ひだに掲載した飛騨市立増島保育園仮「」「(
称)運営業務委託事業者募集」と題する記事には「選考された法人等と,
の間で,随意契約により複数年(3年)の契約を締結します」との記載。
がある(甲1,乙25)。
イ被告は,新増島保育園の運営事業者として応募のあった原告を含む4団
,,「()」体に対し同年10月21日増島保育園仮称運営事業者募集要項
について説明を行ったが,同要項には,私立保育園への委譲方法として,
「(1)保育園用地・建物について使用貸借契約を締結し,3年間の無償貸
与とします。(2)この施設の開設に必要と認める初度備品については本市
(被告)が調達し,無償貸与します,私立保育園への委譲条件として,。」
「事業者の決定後,提案内容〔保育園運営,保育指針,職員配置計画等〕
を確実に履行していただくために市と事業者との間で基本協定を締結しま
す」との各記載がある(甲4,乙25)。。
ウ原告代表者は,本件決定後,被告に対し,早く,基本協定と使用貸借契
約を併せた委譲契約についての契約書を取り交わしてほしいと申し出てい
た(甲40,原告代表者)。
エ被告としては,委譲においては,基本協定を締結し,土地及び建物の使
用貸借契約を締結するものと考えていた(証人A)。
,,(3)上記認定事実によれば新増島保育園運営事業者への運営業務の委譲とは
被告と運営事業者との間で,新増島保育園の運営についての基本的事項(基
本協定)について合意するとともに,新増島保育園の土地及び建物の使用貸
借契約を締結することであると解される。そうすると,このような基本的事
項の合意及び使用貸借契約以下委譲契約というは地方公共団体被(「」),(
告)と相手方である私人(原告)とが対等な立場で交渉し,合意に至るもの
であって,地方公共団体が特定の私人に対して直接に権利を付与し又は義務
を課すものであるとはいえない。したがって,本件決定は,将来被告と対等
の立場で委譲契約を締結する相手方として原告を選定したものにすぎず,直
接国民の権利義務を形成するものとはいえないので,行政処分性は認められ
ない。そして,本件解除は,上記の選定を解消したものであると認められる
ので,同様に行政処分性は認められない。
(4)小括
本件解除は行政処分とは認められないから,その取消しを求める原告の主
位的請求に係る訴えは,その余の点について判断するまでもなく,不適法で
ある。
2争点(2)(本件解除の効力)について
(1)後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア本件決定後,平成17年2月発行の「広報ひだ」に,新増島保育園の運
営事業者が原告に決まったこと及び園長がCであることが掲載されたとこ
ろ,同年2月中旬ころから,市民の間で,原告代表者及びCが所属してい
るDという団体が新興宗教団体らしいという噂が生じ始めた(甲10,。
乙25)
イD本部の発行する機関誌「E」の平成17年2月号に登載された同団体
の理事長の署名記事の中には「もう一つ嬉しい報告があります。全国の,
会員の皆様方の愛の祈りを頂いて飛騨市の保育園の民間委託が飛騨ブロッ
クのBさんとCさんに決定しました。これからこの保育園に入園してくだ
さる子供たちに,素晴らしい調和の愛を投じていけるということを本当に
嬉しく思います。素直に心の修行を行えばきちんと神が天から愛を降ろし
てくださいます」との記事がある(乙7の2)。。
ウ被告は,同年2月,保護者に対し,保育内容について,公立保育園と連
携を保つことを委譲条件とするので,基本となる保育内容について大きな
差異は生じないこと,特定の宗教活動は禁止されていること,保育所の運
営については,公立・私立ともに毎年県の保育所監査を受ける義務がある
こと等を記載した「新増島保育園の公設民営について(2)」と題する書面
を配布した(乙6)。
,,エ被告は同年3月5日の保育園総会及び同月8日の新入園児説明会の際
原告代表者らの出席のもと,保護者に対し,新増島保育園についての説明
。,,,,を行ったさらに被告は同月10日原告代表者及びCの出席のもと
保護者及び一般市民を対象とした説明会を開催した。同日の説明会では,
出席者から「保護者の間で宗教団体であるとの噂を聞いた。どういうこ,
とか説明してほしい」等とDについての質問があり,Dのことが問題と。
なった(甲40,乙5,25,証人A,原告代表者)。
オAは,同月14日,飛騨市長の指示のもと,原告代表者宅を訪問し,原
告代表者に対し,Dに対する市民の不安の声が出ている旨を報告するとと
もに,原告代表者自身で対応をしてほしい旨伝えた(乙25,証人A)。
カ被告は,同月15日,園児及び未就園児の保護者らに「新増島保育園説
明会のお知らせ」と題する文書を配布し,同月22日に保護者対象の説明
会を開催するので,質問事項等があればアンケートボックスに入れるよう
に案内したところ,原告代表者及びCとDとの関係についての質問が複数
寄せられていた。被告は,市民の不安が広がってきていると感じ,同月2
2日の説明会を開催すれば,被告や原告側に対する攻撃が強くなるのでは
ないかと考え,説明会の開催を取り止めることとした(乙12,25,。
証人A)
キ飛騨市古川町区長会会長は,同月22日,飛騨市長に対し「増島保育,
園を中心とした保護者の間で,市が選定されました運営事業者が,古川町
内にあってはその考え方が偏ったと見られる会に所属し,かかる団体にお
いて活発に行動されているため,これが子どもたちや保護者の皆様に悪影
響を及ぼすのではないかという声をさかんに耳にします(中略)これか。
ら入園を予定している児童を含めた全ての保護者が安心して子どもを預け
ることができるよう,例えば運営部門と保育部門を分離して,保育部門は
行政が主導するなどの措置をとっていただき,円滑な民営化ができますよ
う,格別の配慮を求めます」と記載された要望書を提出した(乙15,。。
25)
ク原告代表者とAほかの被告職員らは,同月27日,飛騨市役所内で協議
を行ったが,その際,原告代表者は,反対している人々に説明をしても理
解が得られないこと,子供たちに迷惑がかかること等を述べ,運営事業者
を辞退するとの意向を示した。Aは,同月29日,辞退届の文書のひな形
を持参して原告代表者宅を訪問し,辞退の意向について再確認すると,飛
騨市長にその旨報告した(甲40,乙25,証人A,原告代表者)。
ケ飛騨市長は,同年4月2日,飛騨市役所市長室において,原告代表者と
面談し,協力をするので新増島保育園の運営を行ってほしいと述べるなど
して,辞退を思いとどまるように説得した(甲40,乙25)。
コ飛騨市長は,同月13日,原告代表者及びCを自宅に招き,①原告代表
者及びC以外のD関係者の役員就任は避けること,②Cの園長就任は当分
の間避けるものとし,事務長として園の運営に当たる,③Dの会員の新増
島保育園における「子育て支援活動」及び「ボランティア活動」は行わな
い,④Dの機関誌等への新増島保育園に関する記事の掲載をしないこと及
び講演会等においても同様の考え方とする,⑤保護者会及び一般市民は大
変心配しているので保育園の経営及び運営全般にわたって(個人的信条,
と保育園経営は明確に分離)Dとの関係は保育園経営及び運営上これを持
ち込まない等の内容(合意案)が記載された「新増島保育園事業運営者に
関する確認事項」と題する書面を原告に渡し,これに同意するように求め
るとともに,対案があれば出してほしいと述べた。これに対し,原告代表
者は,持ち帰って検討する旨答えた(甲11,乙25,証人A,原告代。
表者)
サ原告代表者は,同月18日,飛騨市役所を訪れ,合意案について承諾で
きない旨の文書を提出したところ,飛騨市長は,同月20日,原告代表者
と協議を行い,合意案に同意できない場合は,運営事業者を辞退してほし
い旨述べた(甲12,40,乙25,原告代表者)。
シ飛騨市長は,同月25日,飛騨市役所において,原告代表者と原告代理
人弁護士と面談した。原告代表者が,飛騨市長に対し,合意案には,Dの
名誉を毀損する内容が含まれており,一会員である原告代表者が合意する
ことはできないこと,問題が大きくなり,原告代表者個人では対応できな
いので,共同して対応していきたい旨説明したところ,飛騨市長は,合意
案に代わる対案があれば示してほしい旨述べた。原告代理人弁護士は,被
告に対して質問を行い,その回答に応じて対案なりを検討したいと述べ,
面談は終了した(甲40,乙25,原告代表者)。
ス原告は,同月27日,飛騨市長に対し,①合意案には,Dの会員である
ことを理由に差別と排除を当然のように肯定し,Dの活動を制約するなど
の内容になっているが,このような内容を原告に求めることが一般論とし
て許されるのか,②D関連の風評が流布されていることに関して,原告に
落ち度がないとしたのに,なぜ,Dとの関係についてを確認内容として必
要とするのか,③合意案は公開を前提としたものであり,差別と排除を内
容とする合意文書を求めることは許されないのではないか,④Dの活動を
制約することを内容とする事項については,Dとの間で合意されるべき事
項ではないのか,原告との間でしようとすることは,原告とDとが不可分
一体であるとの根拠のない先入観に基づくものではないのか,この背景に
は,Dがカルト教団であるなどの根拠なき風評を流布した内容を真実であ
るとする前提に立っていることにほかならないのではないか,⑤飛騨市長
は,飛騨市古川町区長会会長の要望書を根拠のない不公正な申入れである
と判断しなかったのか等の質問事項が記載された質問書を送付した(甲。
13,40,乙25)
セ飛騨市民らを構成員とする「みんなで増島保育園をつくる保護者の会」
は「新増島保育園の運営事業予定者に反対し公設公営の保育園を望みま,
す」との署名簿を同月27日に2077名分,同年5月6日に1537。
名分,飛騨市長に提出した(乙10,乙11の1,2,乙25)。
ソ飛騨市長は,同年5月発行の「広報ひだ」の「市長の直言」と題する記
事において,新増島保育園の運営事業者に対し懸念・不安があるから民営
化を中止し,選定事業者を変更するようにという主旨の署名運動が展開さ
れていることを指摘し,善良な市民を風評,伝聞等によって名誉を著しく
傷つける行為は戒めるべきであること,運営事業者と被告は,個人の信条
と保育園経営は別個であることも確認済みであること等を述べた(乙1。
6)
タ飛騨市長は,原告代理人弁護士に対し,同年5月11日付けで,質問書
への回答は差し控えること,被告としては,原告に責めに帰するところが
ないものとは考えてはいるが,原告に対し,新増島保育園運営事業の委譲
を受けることの進退について,速やかな決断をお願いする等の記載がある
「質問並びに申入書について(回答」と題する文書を送付した(甲1)。
4,40,乙25)
チその後,原告から何らの応答もなかったことから,飛騨市長は,同月3
0日付けで,本件解除を行った(甲15,乙25)。
(2)上記認定事実等に基づいて判断する。
ア本件決定によって,原告は,一旦,将来委譲契約を締結する相手方とし
て選定されたものであるから,これに相応する法的地位を取得するに至っ
たものと認められる。しかしながら,もとより本件決定によって当然に委
譲契約が成立するものではなく,原告と被告は,引き続き,新増島保育園
運営についての基本的事項や土地・建物の使用貸借契約等に関し,細部に
ついて協議し取り決めた上で,最終的に委譲契約を成立させる必要がある
以上,その過程において,両者が真摯な協議を行ったにもかかわらず,相
当な事由によって合意に達せず,委譲契約が不成立に終わることも当然予
想されるところであり,原告が本件決定によって取得した法的地位も,そ
のようなおのずから限られた範囲のものであるといえる。したがって,委
譲契約成立のための協議の継続を実際上不可能ないし著しく困難にするよ
うな相当な事由があるときは,当事者の一方は,本件決定によって相手方
が取得した法的地位を消滅させることができるものと解するのが相当であ
る。
イこれを本件についてみるに,本件決定が公表された直後,飛騨市民の間
で,原告代表者及び園長予定者のCが所属しているDが新興宗教団体であ
り,新増島保育園の運営において同団体の宗教活動が行われるのではない
かという不安が広がり,それがひいては原告を運営事業者とすることへの
反対運動に発展したため,原告と被告は,住民らの不安解消への対応に追
われる事態に立ち至ったものと認められる。そして,新増島保育園の運営
事業者は,被告が所有する土地・建物を新増島保育園の敷地及び園舎とし
て無償で使用することができること,新増島保育園の前身である増島保育
園が飛騨市立保育園として運営されおり,増島保育園の園児が事実上新増
島保育園に移籍することになることからすれば,被告が,原告と委譲契約
を締結するに当たって,上記市民の不安を払拭し,市民の理解を得る必要
があると考えたことは,理由があるものといえる。そのような中で,被告
は「新増島保育園の公設民営について(2)」と題する書面を配布したり,,
説明会を開催したりしたこと,飛騨市長は,運営事業者決定辞退を申し入
れた原告代表者に思いとどまるよう説得したり「広報ひだ」に個人の信,
条と保育園経営は別個であることを原告との間で確認済みである旨の記事
を登載したりしたことに照らすと,被告としては,市民の不安が広がって
いる中においても,なお原告との間で委譲契約を締結する意思を有してお
り,そのために市民の理解を得ようと努力していたものといえる。ところ
が,実際には,市民の理解は得られず,再度の説明会の開催も困難な事態
が生じていた上,飛騨市古川町区長会会長からの要望書や約3000人に
も及ぶ市民からの署名が提出されたことから,被告としては,市民の理解
を得るためには,合意案に対する原告の同意を得ることが必要であると考
え,原告に同意するか,あるいは市民の理解が得られるような対案の提示
を求めたところ,原告は,同意を拒否し,合意案の内容を問いただすよう
,,な主旨の質問書を提出したものの対案を提出することはしなかったため
被告は,これ以上原告との委譲契約締結のための交渉を継続することは困
難になったものと判断し,本件解除に及んだものと認められる。
ウところで,合意案の中には,新増島保育園運営上の組織や人事上の問題
(運営主体として新たに社会福祉法人を設立するか,その役員をだれにす
るか)等も含まれており,これでは私立保育園としての運営上の自主性が
過度に制約されかねないと原告が危惧した(原告代表者)というのも,そ
れなりに理解できないではない。しかしながら,上記(1)イのD理事長の
記事その他の同団体機関誌の記事(乙7の1∼3)や,会員が広く所持し
ている小冊子の記載(乙24,原告代表者)に照らすと,同団体が一種の
新興宗教活動を行う団体であり,新増島保育園の運営に当たって同団体が
宗教活動を行うのではないかという危惧を一部飛騨市民らが抱いたのも,
あながち根拠がないわけではないと考えられる。そうすると,このような
市民らの不安を解くべく被告が示した合意案に対し,原告は真摯にこれを
検討して対案を示すなどして,委譲契約締結のための前提となる合意に達
するべく努力をする義務があるものといえる。ところが,原告代表者の回
答書(甲12)や原告代理人弁護士の質問並びに申入書(甲13)から窺
われる原告の態度は,非常に強硬であり,その後真に上記のような合意に
達する努力を継続する意思があるかどうか疑問であるといわざるをえな
い。これに加えて,上述のとおり,本件決定によって原告が取得した法的
地位はおのずから限られた範囲のものであるという事情を併せ考慮する
と,被告が本件解除をしたことについては,相当な事由があったものと認
めるのが相当であり,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(3)小括
本件解除は相当な事由があり,有効と認められるから,本件決定によって
設定された地位の確認を求める原告の予備的請求は,理由がない。
3結論
以上の次第であるから,原告の主位的請求に係る訴えは不適法であるからこ
れを却下し,予備的請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文の
とおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官西尾進
裁判官日比野幹
裁判官田中一美

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