弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が平成18年2月7日付けで株式会社P1に対してした建築計画変更確
認(確認番号第ERI××××××××号)を取り消す。
第2事案の概要
本件は,指定確認検査機関である被告が,株式会社P1(以下「訴外会社」
という)に対して平成17年8月29日付けで東京都新宿区αのマンション。
建築につき建築基準法6条の2第1項に基づく確認を行い,平成18年2月7
日付けで同確認処分に係る計画の変更についてした同項に基づく変更確認をし
たところ,上記マンションが建築される土地の近隣住民である原告らが,上記
変更確認には,申請手続上の瑕疵があるほか,建築基準関係規定に違反する実
体上の違法もあるとして,上記変更確認の取消しを求める事案である。
1前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
()当事者1
ア原告らは,肩書住所地に居住する者である。
イ被告は,建築基準法77条の18ないし21の規定の定めるところによ
り指定を受けた者(指定確認検査機関)である。
()マンションの建築に係る建築確認等の経緯2
ア訴外会社は,平成17年8月1日,被告に対し,要旨,次のとおりの建
築物(マンション)の建築計画に係る建築確認申請をした(甲1,2。)
(ア)建築主訴外会社
(イ)敷地東京都新宿区α××番1ほか
(ウ)用途地域商業地域第一種住居地域
(エ)主要用途共同住宅
(オ)敷地面積3366.47㎡(726.05㎡(商業地域,)
2640.42㎡(第1種住居地域))
(カ)建築面積1859.27㎡
(キ)延べ面積16056.14㎡
(ク)規模・構造地上30階地下1階
鉄筋コンクリート造一部鉄骨造
イ被告は,平成17年8月29日,上記アの建築確認申請につき,建築確
認(確認番号第ERI××××××××号)をした(甲2。以下「本件建
築確認」という。。)
ウ原告らほか1名は,平成17年10月31日,本件建築確認が建築基準
法等に違反しているとして,東京都建築審査会に審査請求をした。
エ訴外会社は,平成17年12月26日,被告に対し,要旨,前記アの建
築物の建築計画を次のとおり変更することの確認の申請をした(甲1,1
7。以下,同申請に係る建築物を「本件建築物」という。。)
(ア)近隣関係者との話合いを踏まえた高層階の階高変更
(イ)窓先空地の形状変更(幅員4メートル,高さ4メートル)による建
物の外壁,柱及び梁の移動
(ウ)建築物の高層棟以下本件高層棟というと低層棟以下本(「」。)(「
件低層棟」という)との渡り廊下の形状変更(共用部分の新設)。
(エ)計画地盤高さの変更(現状地盤高さとの整合)
オ被告は,平成18年2月7日,上記変更確認申請につき,本件建築確認
に係る計画の変更についてした建築基準法6条の2第1項に基づく確認
(確認番号第ERI××××××××号)をした(甲1。以下「本件変更
確認」という。。)
,,,カ原告らほか1名は平成18年4月7日本件変更確認の取消しを求め
東京都建築審査会に対して審査請求をした(甲1。)
キ東京都建築審査会は,平成18年7月24日,原告らほか1名の前記ウ
の審査請求につき,本件建築確認の建築計画における建築物は,窓先空地
に東京都建築安全条例19条の規定に違反する部分があり,また,建築物
の存在しない領域を地盤面として設定した違法があるほか,本件高層棟と
本件低層棟とが「1の建築物」とはいえない違法があるとして,本件建築
確認を取り消し,一方,上記カの審査請求については,本件建築物には上
記各違法がないとして,これを棄却する裁決をした。
ク原告らは,平成18年9月20日,本件訴えを提起した。
2争点
本件の争点は以下のとおりであり,これらに対して摘示すべき当事者の主張
は,後記「争点に対する判断」において記載するとおりである。
()原告P2及び同P3の原告適格の存否(本案前の争点)1
()本件変更申請に係る建築計画の変更を建築基準法6条の2第1項に基づ2
く変更によって行うことができるか(手続上の違法性。)
()本件変更確認の違法性(実体上の違法性)3
「」()。ア本件建築物が1の建築物建築基準法施行令1条1号といえるか
イ本件建築計画は窓先空地に係る東京都安全条例に違反していないか。
ウ地盤面の設定方法の適法性
第3争点に対する判断
1争点()(原告P2及び同P3の原告適格)について1
()当事者の主張1
ア原告らの主張
建築基準法6条1項に規定する建築確認制度は,同法1条に定めるとお
り,国民の生命及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資する
ことを目的とするものであり,そのため,建築基準法及び同法施行令は,
建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準として,延べ面積
の敷地面積に対する割合(53条,建築物の各部分の高さ(56条,))
日影による中高層の高さ制限(54条,防火地域又は準防火地域内にお)
(,)。,ける建築物の構造61条62条等を定めている上記規定を通覧し
上記規定の定める基準により隣接地等の住民が享受できる利益の内容等に
照らせば,建築基準法及び同法施行令等は,健全な建築秩序を確保し,生
活環境の保全,一般的な火災の危険等の防止という公共の利益の増進を目
的とするにとどまらず,当該建物の建築により日照,採光,通風,火災等
の災害の影響を受けるおそれのある者,すなわち,当該建物の敷地の隣接
地又は近接した土地に居住する者が,違法な建築確認により,その生活環
境を侵害されず,火災等の危険にさらされることがないという個人的な利
益を保護する趣旨を含むものと解するのが相当である。
また,東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例
2条4項は,建築計画に利害関係がある者の範囲として「イ中高層建築
物の敷地境界線からその高さの二倍の水平距離の範囲内にある土地又は建
築物に関して権利を有する者及び当該範囲内に居住する者「ロ中高」,
層建築物による電波障害の影響を著しく受けると認められる者」と定めて
いるところ,行政事件訴訟法9条2項の関係法令には,上記条例も含まれ
るといえる。本件建築物の高さは98.138mであることからすると,
,,原告らはいずれもその高さの2倍の範囲内に居住している者であるから
原告適格を有するといえる。
原告P2は,本件建築物の敷地から明治通りを隔てて約38m離れた土
地に居住する者であり,本件建築物の建設により日照,採光,通風,火災
等の災害の影響を受ける可能性があることは明らかである。
原告P3は,本件建築物の敷地から約62.5m離れた土地に居住する
者であり,原告P2と同様,原告適格が認められるが,加えて,原告P3
,,は本件建築物の敷地北側に隣接する土地に建つ共同住宅の所有者であり
本件建築物に隣接した土地及び建物を所有する者であるから,この点から
も原告P3には原告適格が認められる。
イ被告の主張
原告P2に及ぶ日照,採光,通風及び火災の影響は,本件建築物の敷地
からの距離からすれば,程度としてはわずかなものといわざるを得ず,ま
た,本件建築物が耐火建築物であり,本件において建築物の耐火性に関す
る事項の違法性が争われているものではない。
原告P3は,近接する土地の建物を所有するにしても,居住するもので
はないから,日照,採光及び通風の影響を受ける者ではなく,火災の影響
については,原告P2と同様,本件では争われていない。
()検討2
ア行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」
とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害さ
れ,又は必然的に侵害されるおそれがある者をいうのであり,当該処分を
定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的利益の中に吸
収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこ
れを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利
益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵
害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟に
おける原告適格を有するというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみ
によることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮さ
れるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣
旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通する関係法令
があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考
慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してなされた
場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様
及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照。)
(以上につき,最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10
号2645頁参照)
イ建築基準法21条は,大規模な建築物の主要構造物が同法2条9号の2
イに掲げる基準に適合するものでなければならない旨規定するところ,同
規定は,当該建築物の居住者の生命及び身体の安全を保護することを目的
とするほか,火災,地震等により当該建築物が倒壊した場合に,隣接する
建築物等が損壊するなどの危険を抑制することをもその目的とするもので
あると解される。
また,同法第3章においては,建築物の容積率制限(52条,建築物)
の高さ制限(55条,斜線制限(56条,56条の2)を規定している)
ところ,これらの規定は,本来,建築密度,建築物の規模等を規制するこ
とにより,建築物の敷地上の適度な空間を確保し,もって,当該建築物及
びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つこと
を目的とするものであるが,そのほか,当該建築物に火災その他の災害が
発生した場合に,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制すること
をもその目的に含むと解するのが相当である(最高裁平成14年1月22
日第三小法廷判決・民集56巻3号613頁参照。)
建築基準法における建築確認制度(6条,6条の2)は,国民の生命,
健康及び財産の保護を図る主要な行政手段として,工事に着手する前に,
当該建築物の建築基準関係規定(建築基準法並びにこれに基づく命令及び
条例の規定その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこ
れに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるもの)への適合性を審査す
ることができることを法定化したものである。そして,建築確認がなされ
ることは,建築基準関係規定における制限が,当該建築計画に係る建築物
に即して具体化する意味を有し,同建築確認に係る建築物を建築すること
を可能にするものであって,建築される建築物の規模,形態,建築される
建築物が占めるべき敷地上の立体的な空間の外縁を適法なものとする効果
。,,を有することになるこれに容積率制限高さ制限や斜線制限の上記趣旨
目的をも考慮すれば,建築確認制度が,事前に建築基準関係規定に適合す
るか否かを審査することができるとしていることは,当該建築物及びその
周辺の建築物における日照,通風,採光等を良好に保つなど快適な居住環
境を確保することができるようにするとともに,地震,火災等により当該
建築物が倒壊,炎上するなどの万一の事態が生じた場合に,その周辺の建
築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにするためであると
解される。
以上のような建築確認制度の趣旨・目的,建築基準法が建築確認制度に
より保護しようとしている利益の内容・性質等に加え,同法が財産の保護
(),を図ることなどを目的とするものであること同法1条にかんがみれば
,,建築基準法6条の2第1項に定める建築確認制度は指定確認検査機関が
建築基準関係規定に照らして適切な設計がなされているかどうかなどを審
査し,これに適合すると認めた場合に建築確認がなされるとしているので
あり,同項による確認に係る建築物並びにその居住者の生命又は身体の安
全及び健康を保護し,その建築等が市街地の環境の整備改善に資するよう
にするとともに,当該建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に及ぶこ
とが予想される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居
住者の生命又は身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個
別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきであ
る。
そうすると,建築確認に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害
を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれ
を所有する者は,当該建築確認の取消しを求めるにつき法律上の利益を有
する者として,その取消しの訴えにおける原告適格を有すると解するのが
相当である。
ウ前記前提事実()ア及びエ並びに証拠(甲3,15の1・2,17,乙2
1,8)及び弁論の全趣旨によると,本件建築物の最高の高さは,96.
245m,本件建築物の敷地面積が全体で3366.47㎡あり,同敷地
の南部が商業地域部分,北部が第1種住居地域であり,前者が726.0
5㎡,後者が2640.42㎡となっており,容積率が商業地域部分50
0%,第1種住居地域部分300%,建ぺい率が商業地域部分80%,第
1種住居地域部分60%であること,原告P2は同敷地南東角から約38
m離れた土地上の建築物に居住していること,本件高層棟は同敷地南西部
に建設される計画であること,原告P3は同敷地北側に隣接する土地(東
京都新宿区α××番11)及び同土地を敷地とする共同住宅を所有するこ
とが認められる。そうすると,その本件建築物の規模並びに原告P2の居
住地及び原告P3の所有建物との位置関係からして,原告P2及び原告P
3は,本件高層棟の倒壊や本件建築物の炎上等により,直接的な被害を受
けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有
する者であるといえるのであるから,上記原告らは,いずれも本件変更確
認の取消しを求める原告適格を有する者であるということができる。
なお,被告は,本件建築物が耐火性の建築物であるとか,本件において
は防火性の不備等が争点となっていない旨主張するが,原告適格とは,当
該処分の取消しを求めて出訴できることのできる資格であって,当該処分
の取消しを求める理由いかんによってその資格が否定されるものではない
から,上記主張は採用することができない。
2争点()(手続上の違法)について2
()ア原告らは,建築確認制度が,建築基準関係規定に違反する建築物の出1
現を未然に防止するために設けられた制度であることからすれば,建築確
認に係る計画の変更は,その基礎となる当初の計画建築物が適法である場
合に許されると解すべきであるとし,また,本件は複数個の建築物を「1
の建築物」とする根本的変更であることから,変更確認で処理できる事案
でないことはもとより,建築確認を実効あらしめるためにも,当初の計画
が東京都建築審査会で取り消されるようなずさんな計画を,簡易な変更手
続によって是正することを認めるべきではないとして,本件変更確認は,
本来,改めて建築確認申請しなければならないものにつき,変更を認めた
違法があると主張する。
イしかしながら,そもそも,建築基準関係規定に違反する建築確認申請が
なされていた場合に,その違法な点を是正することを禁ずる法令はない。
そして,建築基準法6条1項後段は,建築確認制度が,建築工事の着手前
にその計画が建築基準法令に適合することについて建築主事の確認を受け
させることにより,違反建築物の出現を未然に防止することを目的とする
ものであることから,確認後に計画変更を行った場合には原則として再度
確認を受けなければならないとする一方,建築確認の適法性に影響を及ぼ
さないような軽微な変更についてまで再度確認させることは建築主に無用
の負担を強いることになるため,計画の変更が建築確認の適法性に影響を
及ぼさないような軽微な変更(同法施行規則3条の2)の場合には再確認
が不要となることを定めていると解される。上記軽微な変更に該当しない
ため,改めて再度確認を受けなければならないとき,変更された建築計画
につき確認(以下「変更確認」という)をするということは,取りも直。
さず,再度建築確認を得るのと同様の手続がなされることになるというこ
とができ,建築主事等としては,変更確認をするに当たっては,既にされ
た建築確認の存在を前提とするものの,その審査は,変更に係る部分の建
築基準関係規定適合性に限定されて判断されるものではなく,変更部分を
含めた建築物全体が建築基準関係規定に適合するか否かを改めて審査し,
その適否を判断することになるものと解される。そうすると,建築確認変
更申請の範囲を限定しなければならない必要性もないということができ
る。
したがって,既存の建築確認において建築基準関係規定に適合しない部
分を変更する内容の変更確認をしてもそれだけでは違法とはならないと解
するのが相当である。
()アまた,原告らは,訴外会社が当初の建築確認申請に当たり,平成182
年3月31日に東京都市計画高度地区の変更(新宿区)が施行されること
から,ずさんな計画のまま申請したものであり,当初の建築計画が違法で
あることを審査請求時において指摘された後に安易な変更を認めること
は,不十分な計画で着工された既成事実を擁護する結果になるとか,審査
請求が係属中にその審査請求に係る計画の変更を認めると,審査の終結が
近づく都度計画の変更を繰り返すことにより迅速な救済が図れなくなると
か,審査請求が認容されるおそれがある場合には計画を変更することによ
り,これを回避することができてしまい,その結果,審査請求前置主義の
趣旨を没却するなどと主張する。
イしかしながら,建築基準法や行政不服審査法等において,権限を有する
処分行政庁(指定確認検査機関)が審査請求中に建築確認における瑕疵と
判断される部分を変更した計画について改めて変更確認を得ることを制限
する規定はない。また,上記()イのとおり,建築基準法6条1項後段の1
変更確認は,建築確認を前提とするものの,改めて全体について建築基準
関係規定に適合するか否かを審査する点で,別個の処分であるといえると
ころ,変更確認における適合性の判断基準時は,変更確認時になると解さ
れることからすれば,変更確認がなされることにより違法な既成事実を擁
護する結果となるものでもない。さらに,仮に建築確認の効力が維持され
るとの解釈を前提とすれば,本件の審査請求手続と同様,変更確認をした
,,としても当初の建築確認の審査請求手続に影響を与えるものではないし
従前の建築確認の効力が失われるとの解釈を前提とすれば,わざわざ審査
請求自体で取り消す利益がなくなるのであるから,計画の変更がなされる
ことをもって,国民の権利の迅速な救済が阻害されるわけではなく,変更
確認を許容することが,建築確認について審査請求前置主義を求めた趣旨
を没却するものとはいえない。
したがって,原告らの上記アの主張も採用することができない。
3争点()ア(1の建築物」性)について3「
()当事者の主張1
ア被告の主張
(ア)建築基準法施行令1条1号は,一つの敷地に建築することができる
のを原則として「1の建築物」であるとし(一建築物一敷地の原則,)
例外として用途上不可分の関係にある「2以上の建築物」を一つの敷地
に建築することができると定める。建築物,建物の概念は建築基準法の
ほか,民法,建物の区分所有等に関する法律等でも用いられているが,
建築基準法は,民法とは異なり,建築物の最低限の基準を定めて,国民
の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に資することを
目的とするのであるから,建築物の概念ないし個数は,建築物の物理的
構造及び機能という客観的要素を重視して解釈されなければならない。
,,,建築基準法の定める建築制限は個々の建築物を単位として構造上
防災上,衛生上の安全を保障する目的を有するいわゆる単体規定と,都
市計画区域内において,用途地域を媒介として手段としての建築物の敷
地,形態,高さ等を都市計画的な観点から規制しようとするいわゆる集
団規定からなる。建築基準法施行令1条1号は,建築物ごとに敷地が成
立するとし,その例外として用途上不可分の関係にある「2以上の建築
物」については,一敷地が成立するものとする。単体規定の規制は建築
物を単位として適用されるのに対し,集団規定の規制は敷地を単位とし
て適用されることになる。
このように,建築物ごとについてその安全性を保障しようとするのが
単体規定であり,元来建築物を単位として適用される規制であるから,
これを反対解釈すると,単体規定の適用単位をここで問題とする「1の
建築物」とすることが建築基準法の趣旨,目的に合致する。
建築基準法における単体規定は,当該建築物自体の,①一般的な衛生
安全に関する規定(28条ほか,②構造上の強度とその計算に関する)
規定(20条ほか,③居住者のための防火・避難等に関する規定(2)
6条ほか)から成るが,物理的に分離している建築物の集合に対して単
体規定を適用し,その適合性の有無を審査するに当たり,建築物相互の
関係からいって,これらの全体を単位としなければこれを判断すること
ができず,単体規定の規制の目的を達し得ない場合には,当該複数の建
築物は全体として「1の建築物」というべきである。これに対して,複
,,数の建築物につき個々の建築物を単位として判断すれば足りる場合は
「」。,これらの建築物はそれぞれ1の建築物であるといってよいそして
その判断は,建築基準法の趣旨を踏まえ,専門的及び技術的観点から客
観的に判断するべきである。
(イ)本件建築物で採用されているエキスパンション・ジョイント(温度
変化による伸縮,地震時の振動性状の違いなどによる影響を避けるため
に,建物を幾つかのブロックに分割して設ける相対変位により追随可能
な接合部の手法及び工法)は建築物・構造物の構造体が相互に力学上影
響を及ぼし合わないようにする接続方法である。建築基準法施行令81
条1項は,エキスパンション・ジョイントのみで接続している建築物を
「1の建築物」と認めた上で,構造計算の規定の適用においては,応力
を伝えるものではないとして別の建物にみなしているといえる。建築基
準法令上,構造とは構造耐力のみを示す概念ではなく,応力を伝えない
形であっても構造上一体となる場合があるというべきである。
,,,,,本件高層棟と本件低層棟とは地下1階1階2階3階において
エキスパンション・ジョイントによって,構造上一体化されている。す
なわち,本件低層棟地下1階は,ドライエリア・ピット部の外壁が高層
棟の外壁とエキスパンション・ジョイントを介して構造上一体とされて
おり,1階から3階までは本件低層棟に渡り廊下が設けられ,これらの
エキスパンション・ジョイント,外壁によっても構造上一体とされてい
る。
(ウ)①本件高層棟と本件低層棟とは,防災設備,給排水設備,電気設備
などの建築設備を共有していること,②本件建築物を日常通行できる共
用廊下があること,③本件建築物のメインエントランスは幅員16.6
7mの道路に接する本件高層棟にあり,エントランス機能を補完するサ
ブエントランスが本件低層棟にあること,④本件建築物の駐車場は本件
高層棟と本件低層棟にあり,駐車場の出入口は本件高層棟にあること,
⑤本件建築物の共用施設は,本件高層棟にメールコーナー(郵便箱,宅
),,,,,配箱ラウンジロビーゴミ置場があり本件低層棟に自転車置場
バイク置場,多目的スペースが各1か所あること,⑥防災設備の受信機
が本件高層棟にあること,⑦給排水設備のディスポーザー処理槽が本件
高層棟の地下1階にあること,⑧電気設備の電気室は本件高層棟にある
こと,⑨給水,電気の本件建築物の敷地への引き込みは,本件高層棟1
か所で行っていることなど,本件高層棟と本件低層棟とは渾然一体とな
って1つの共同住宅を構成しているのであるから「1の建築物」に該,
当すると解するのが相当である。
イ原告らの主張
(ア)「1の建築物」とは,社会通念に従って判断すべき事柄であり,ま
,,,,た外観上構造上機能上の観点から総合的に判断するものであるが
「1の建築物」を緩く解すると,敷地を単位とする集団規定の内容もこ
れに応じて弱まることから,その判断は慎重に行わなければならない。
そして,社会通念上の「1の建築物」というためには,地域住民の大
多数が当該建築物を1棟建築物とみていることが必要となる。
(イ)外観上,構造上,機能上の観点からの総合的判断においては,構造
上一体であるか否かが重要であり,構造力学上の「1の建築物」といえ
れば「1の建築物」といえる。構造力学上「1の建築物」ではない建物
については,機能上の「1の建築物」といえるかがキーポイントとなる
が,建物の機能は単に行き来ができるという程度の機能ではなく,一体
の建築物として計画されているか否かという観点からの判断が必要とな
,,り共同住宅相互間を平面的に渡り廊下等でつなげているような場合は
別棟扱いとなるのが一般的である。機能上の一体性も明白でない場合に
は,外観上の一体性が問題となるが,構造的な一体性に着目しつつ,構
造・機能・外観上の一体性を総合的に考察するという運用がされること
もある。
まず,本件建築物の場合,地域住民が「1の建築物」であるとされる
ことに疑問を有し,審査請求,提訴に及んでいるのであるから,社会通
念上の一体性は認められない。
また,本件建築物のように渡り廊下等で接続されている建物相互は構
造力学上の一体性を有しないことから,機能上の一体性,外観上の一体
性があるか否かが問題となるが,本件建築物は,本件高層棟,本件低層
棟がそれぞれ独立したエントランスを持ち,独立した避難経路を有する
ことから,設備面での共有,日常的な通行動線としての機能を有してい
るとしても,機能上の一体性は有していない。
外観上の一体性については,東京都の取扱いでは渡り廊下が3層以上
のものをもって「1の建築物」としている。本件建築物は3階部分にお
いても本件高層棟と本件低層棟との通行が可能であるが,3階部分の通
路は2階部分の屋根を通路にしたものにすぎず,実質上2層の渡り廊下
で結合されているものにすぎない。
したがって,本件建築物は「1の建築物」とはいえない。,
(ウ)なお,用途上不可分の建築物とは,同敷地上に二棟以上の建築物が
あり,それぞれの棟ごとに敷地分割してしまうと,それぞれの建築物の
機能が満たされないため,敷地分割ができない建築物群をいい,複数建
築物が内包関係にある場合,附属関係にある場合,上位の共通用途に属
する場合及び併設関係にある場合が考えられる。
本件建築物のような共同住宅は,一棟ごとにお互い独立した機能を持
っているため可分の建築物に当たり,用途上不可分の建築物には該当し
ない。
()検討2
ア建築基準法施行令1条1号は,一つの敷地に建築することができるのは
原則として「1の建築物」であるとし(一建築物一敷地の原則,例外と)
して用途上不可分の関係にある「2以上の建築物」を一つの敷地に建築す
。,(),ることができると定める建築基準法は敷地の接道義務43条1項
容積率及び建ぺい率の制限(52条,53条,隣地斜線制限及び北側斜)
線制限(56条,日影制限(56条の2)など,都市計画実現の一環と)
して,都市環境の整備及び保護を図るために建築物の用途,密度,形態及
び規模について建築規制を行うための規定による制限を敷地単位で行うも
のとしており,一建築物一敷地の原則は,上記各制限を実効あらしめる役
割を有している。
「」,建築物がいかなる場合に1の建築物に当たるかという点については
建築基準法及び同法施行令等にこれを定めた規定はない。そして「1の,
建築物」が建築基準法による上記規制を実効あらしめるための重要な概念
であることにかんがみれば,ある建築物が「1の建築物」に当たるか否か
については,建築基準法の趣旨を踏まえて,社会通念に基づき各事案ごと
に決せざるを得ないが,同法施行令1条1号が「1の建築物」と定めてい
ることからすると,建築基準法の趣旨を踏まえて,社会通念に照らし,構
造上,外観上及び機能上の各面を総合的に判断して,一体性があると認め
られる建築物は「1の建築物」に当たると解するのが相当である。,
この点について,原告らは,地域住民が「1の建築物」であるとされる
ことに疑問を有して審査請求や訴えを提起していることからすれば,構造
上,機能上の一体性という技術的な判断以前に社会通念上の一体性が認め
られないと主張するが「1の建築物」に当たるかどうかについては,専,
門的及び技術的な見地から客観的に決せられるべきであり,個人の主観に
より判断が区々になることを防ぐべきであるから,近隣の住民の一部であ
る原告らが,本件建築物が「1の建築物」に当たらないとして審査請求や
訴えを提起した事実をもって,社会通念上の建築物の一体性がないという
ことはできず,上記主張を採用することはできない。
イ上記アの考え方を前提に,本件建築物が「1の建築物」に該当するか否
かについて検討するに,前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
によると,次の事実が認められる。
(ア)本件建築物の構造(甲8,11の1∼5,14,17,乙4の1・
2,5,6の1∼11,7の1∼8,8,9の1・2,18)
a本件建築物は,本件高層棟と本件低層棟とで構成された建築物であ
り,詳細は後述するが,本件高層棟及び本件低層棟の位置関係及び形
状,周辺道路との位置関係は,別紙図面1及び2のとおりである。
b本件高層棟は,地下1階地上30階で構成されているところ,地下
1階部分及び1階部分の形状は,本件建築物の敷地の形状に沿う形状
で,北部が本件低層棟の南部と隣接しており,2階部分も北東側が屋
上庭園となっているほかは,地下1階部分及び1階部分と同様,同敷
地の形状に沿う形状であり,北部が本件低層棟南部に隣接し,3階部
分も,屋外にある屋上庭園部分が低層棟に隣接している。他方,本件
高層棟の4階以上は,3階の南部にある住戸部分の上にのみ建築され
るという構造になっており,低層棟と隣接していない。
本件高層棟の中央部には,エレベータ2基が設置され,特別避難階
段が1つ設置されている。本件高層棟の地下1階には,消防水利,排
水貯留槽,駐車場が,1階には,P4借室,電気室・ゴミ置場,駐車
場が,2階には,エントランスホール,ラウンジ,ロビー,郵便箱,
宅配箱,自動販売機コーナー,車路,屋上庭園が,3階には,屋上庭
園,住戸がそれぞれあり,4階から30階まではいずれも住戸になっ
ている。
c本件低層棟は,地下1階地上5階で構成されている。1階から4階
までは,共用廊下が南北方向に通り,その東西に住戸が設置されてい
る。本件低層棟4階の住戸には,上階と下階で構成される住戸がある
ところ,本件低層棟5階部分は,いずれも4階の住戸の上階部分であ
るため,共用廊下等の設備はない。本件低層棟には,各階の中央部に
エレベータ1基があり,南北に各1個の屋内階段が設置されているほ
か,1階にサブエントランスとバイク置場が,地下1階にサブエント
ランスと駐輪場がそれぞれ設置されている。
d本件低層棟地下1階は,本件高層棟の北側と約6.9mの幅で構造
体が隣接する形状になっている。本件低層棟1階から3階までの構造
体は,本件高層棟の構造体と約3mの距離がある位置に存するが,い
ずれの階も,本件低層棟に設置された渡り廊下により隣接しており,
(,同部分がエキスパンション・ジョイントにより接続されているなお
被告は,地下1階部分において,本件低層棟が本件高層棟とエキスパ
ンション・ジョイントにより接続しているかのような主張をするが,
本件建築物の地下1階平面図(乙7の1)によると,本件低層棟地下
1階の構造物は約6.9mの幅で本件高層棟に隣接しているものの,
同隣接部分にエキスパンション・ジョイントが設置されることを示す
記載はなく,他に同所にエキスパンション・ジョイントが設置される
ことを示す証拠はない。。)
本件低層棟1階の渡り廊下は,約4.4mの部分が本件高層棟に隣
接している。同部分には幅員約1.5mの渡り廊下と幅員2mの渡り
廊下の2つの開放廊下がそれぞれ設けられている。同渡り廊下は,長
さが約3mで,本件低層棟の構造体と一体となっており,側面部分に
は手すりが設置され,それ以外の部分は開放されているほか,上方に
は屋根(2階部分の渡り廊下と一体の構造)がある。上記渡り廊下と
本件高層棟とが隣接する部分には,エキスパンション・ジョイントが
設置されており,幅員1.5mの渡り廊下は,本件高層棟の駐車場と
本件低層棟の共用廊下との連絡を可能にしており,幅員2mの渡り廊
下は,本件高層棟の駐車場と本件低層棟にあるバイク置場との連絡を
可能にしている。
本件低層棟2階の渡り廊下は,約2mの幅で本件高層棟と隣接して
いる。同渡り廊下部分には,本件低層棟から本件高層棟の方向に向か
って5段程度の昇り階段が設置されている。渡り廊下部分は,長さが
3mで,本件低層棟の構造体と一体となっており,側面部分は,手す
りが設置され,それ以外の側面部分は開放されているほか,上方には
屋根(3階部分の渡り廊下と一体の構造)がある。上記渡り廊下と本
件高層棟とが隣接する部分には,エキスパンション・ジョイントが設
置されており,同渡り廊下は,本件高層棟ロビーと本件低層棟の共用
廊下との連絡を可能にしている。
本件低層棟3階の渡り廊下は,約2mの幅で本件高層棟と隣接して
いる。同渡り廊下部分には,本件低層棟から本件高層棟に向かって約
13段の昇り階段がある。渡り廊下部分は,長さが3mで本件低層棟
の構造体と一体となっており,側面部分は,手すりが設置され,それ
以外の側面部分は開放されているほか,上方も開放されている。上記
渡り廊下と本件高層棟とが隣接する部分には,エキスパンション・ジ
ョイントが設置されており,同渡り廊下は,本件高層棟の屋上庭園に
併設された通路と本件低層棟の共用廊下との連絡を可能にしている。
上記各渡り廊下部分は,コンクリートにより造られている。
(イ)施設(乙7の1,2)
aエントランス,通路
本件高層棟2階には,本件建築物のメインエントランスが設置され
ている。本件建築物の敷地南側と隣接する道路(β通り。幅員16.
67m)から,本件建築物内に入る場合,上記メインエントランスの
みが上記道路と接している関係にある。上記メインエントランスは,
,,()風徐室ホールが設置され同ホールは隣接する事務室管理事務室
の受付(インフォメーションカウンター)が隣接している。上記ホー
ルの奥には,ラウンジがあり,更に奥には本件高層棟のエレベータホ
ールがある。エレベータホールの奥にはロビーがあり,ロビーの北西
角には集会コーナーが設置されている。また,メインエントランスの
西側の通路を進むと郵便箱が設置されている。
本件低層棟の1階北側には,サブエントランスが設置されている。
このサブエントランスは,風除室が設置されているが,同エントラン
スには事務室や受付等は設置されていない。また,本件低層棟地下1
階西側にも,サブエントランスが設置されているが,同サブエントラ
ンスも,風除室が設置されているのみで,事務室等は設置されていな
い。
b駐車場(乙7の1∼3)
本件高層棟1階には駐車場(地下1階に立体駐車場)が設置されて
おり,また,本件低層棟階1階にバイク置場が設置されている。本件
建築物の敷地外から上記駐車場又はバイク置場へは,同敷地南側と隣
接する道路から,同敷地に進入し,本件高層棟2階南東部に設置され
ている車路スロープを降りて本件高層棟1階駐車場へ移動し,バイク
であれば,本件高層棟1階駐車場と本件低層棟1階バイク置場とを繋
ぐ幅員2mの渡り廊下を経て,上記バイク置場に移動するという経路
をとることとなり,自動車であれば,本件高層棟1階駐車場の北側の
平置駐車場に移動するか,西側に設置された昇降リフトに移動して本
件高層棟地下1階の立体駐車場に駐車するという経路を取るという導
線になる。このため,本件低層棟に居住する者であっても,自動車,
バイクを利用して移動するには,本件高層棟1階の駐車場施設又は本
件低層棟1階の渡り廊下を必ず利用しなければならないことになる。
c駐輪場(乙7の1・2)
駐輪場は,本件低層棟地下1階東側に設置されている。本件建築物
の敷地外から上記駐輪場へは,同敷地西側の道路(区道,幅員約3.
2m。以下「西側道路」という)から,同敷地に進入し,同敷地西。
側の私道を移動して本件低層棟西側通路から進入して,上記駐輪場に
移動する経路をとることとなる。
また,上記駐輪場は,本件低層棟地下1階の共用通路と複数のドア
で繋がっているが,本件高層棟には連結していない。このため,本件
高層棟の住民が上記駐輪場へ移動するには,本件低層棟内のエレベー
タを利用するか屋外階段を利用して本件高層棟から本件低層棟に移動
する必要がある。
dゴミの収集施設(乙7の2)
本件高層棟1階にゴミ置場が設置されており,同ゴミ置場が同所の
駐車場と隣接しており,ゴミ収集車の乗り入れが可能な位置にある。
e受水・排水施設(乙7の1)
本件建築物の上水道は,本件建築物の敷地南側に隣接する道路(β
通り)に沿って上水道管が埋設されていることから,本件建築物の上
水道は本件高層棟,本件低層棟とも本件高層棟地下1階の受水槽室に
設置された受水槽で一括して受水される。
また,本件高層棟地下1階には,排水貯留槽が設置されている。本
件建築物の本件高層棟及び本件低層棟の排水は,上記排水貯留槽を経
て,公共桝に排出されることになる。
f受電設備(乙7の2)
本件高層棟1階には,電気室及びP4借室(一定の建築物において
は,P4借室及び電気室が必要とされる)が設置されている。本件。
高層棟及び本件低層棟の電気は,いずれも上記電気室及びP4借室を
経て送電されることになる。
ウ上記イの認定事実に基づいて,以下において検討することとする。
(ア)本件高層棟と本件低層棟とは,地下1階部分の構造体が約6.9m
の幅で隣接しており,本件低層棟の1階,2階及び3階部分は,約3m
離れてはいるものの,本件低層棟には,幅員約4.4又は2m,長さ約
3mのコンクリート製の渡り廊下(いずれも開放されている)が設置。
されており,この渡り廊下がエキスパンション・ジョイントにより本件
高層棟と接続されている。
本件高層棟と本件低層棟との各地下1階の構造体の位置関係及び1階
から3階までの位置関係に加え,本件低層棟が地下1階地上5階の建物
,,であるが本件低層棟の住居の共用廊下は4階部分までしかないところ
本件高層棟と本件低層棟とは,その大部分である1階から3階までがい
ずれも渡り廊下及びエキスパンション・ジョイントにより接続されてい
ることからすれば,本件高層棟と本件低層棟とは,構造上の一体性を否
定されるものではなく,構造上それぞれ独立した建物であるとまではい
えない。
また,上記各事情に併せて本件高層棟の3階部分までは本件低層棟側
に延びている形状をしており,本件高層棟と本件低層棟とが接続してい
ることは外観上も看取できることからすると,外観上において同様であ
る。
(イ)本件高層棟には,メインエントランス(ホール,事務所受付,イン
),,,,,フォメーションセンターラウンジロビー集会コーナー郵便箱
宅配箱,駐車場が設置され,他方,本件低層棟にはサブエントランスが
二つ,バイク置場,駐輪場が設置されており,本件低層棟及び本件高層
棟の住民は,上記本件高層棟と本件低層棟との間の渡り廊下等を利用し
てこれらの各施設を相互利用する構造であるといえる。特に,本件高層
棟の住民が自転車を利用して移動する場合及び本件低層棟の住民が自動
車を利用して移動する場合には,いずれも,本件低層棟駐輪場や通路又
は本件高層棟の駐車場及び車路を利用しなければならないといえる。な
お,本件低層棟には,2か所にサブエントランスが設置されているが,
これらのサブエントランスには,インフォメーションセンター,事務所
受付といった設備がなく,また,いずれも幅員約3mの道路にしか接続
しておらず,事務所受付,インフォメーションセンターといった設備を
有し,ラウンジやロビーといった共益施設へも近接しており,かつ,幅
員16.67mの道路と接続しているメインエントランスに比べるとエ
,。ントランスの機能面でみても明らかに劣っているといわざるを得ない
出入口に隣接することが便宜な郵便箱や宅配箱等がメインエントランス
の利用者により利用しやすい位置に設置されていることを併せ考慮すれ
ば,上記サブエントランスは,いずれもメインエントランスの機能を補
うために設けられた出入口にすぎず,本件高層棟のみならず本件低層棟
の住民らも,主たる出入口としても上記メインエントランスを利用する
ことを企図して設置され,他方,メインエントランスでは補いきれない
住民らの利用上の便宜に応える観点から,各サブエントランスが補助的
に設置されたものといえる。
さらに,本件高層棟地下1階又は1階に配置された集会コーナー,ゴ
ミ置場,受水・排水施設,受電施設,事務室は,いずれも本件低層棟の
住民らの集会,ゴミの搬出,上下水道の利用,電気の利用,施設管理に
,,,用いられることとなるものであり上記施設が本件低層棟の使用維持
管理において不可欠な施設であるといえる。
そうすると,本件高層棟と本件低層棟とは,機能上において一体のも
のであるといえる。
(ウ)以上のとおり,構造上,外観上及び機能上の各面を総合すれば,本
件建築物は「1の建築物」に該当すると認めるのが相当である。,
(エ)原告らの指摘の吟味
a原告らは「1の建築物」といえるためには,渡り廊下で接続され,
ている建物相互には構造力学上の一体性を有しないため,機能上,外
観上一体の建物として計画されているかが問題となるところ,本件高
層棟と本件低層棟は,それぞれ独立したエントランスを有すること,
本件低層棟3階の渡り廊下には屋根がなく,2階部分の屋根を通路と
したものにすぎず,実質的には本件高層棟と本件低層棟とは外観上2
層のみにより接続しているにすぎないことからすれば外観上の一体性
はなく,また,共同住宅の場合には各棟ごとで独立した機能を有して
,,「」おり用途上も可分であるといえるとし本件建築物は1の建築物
ではなく,また,用途上不可分な「2以上の建築物」にも該当しない
と主張し,これを裏付けるものとして技術士の意見書(甲18)を提
出する。
しかしながら,前記前提事実及び証拠(乙16の1・2,17の1
∼4)によると,エキスパンション・ジョイントは,構造体を物理的
に分離する方法によって力学上応力を加えず,接続する構造同士の構
造力学に影響を与えないようにすることを意図してなされる接続方法
であること,エキスパンション・ジョイントによる接続方法も今日の
建築に多用されているものであることからすれば,上記エキスパンシ
ョン・ジョイントにより接続された建物同士の構造上の一体性を検討
する場合に構造力学上分離されていることのみを根拠としてこれを否
定することはできないと解すべきである。また,本件低層棟に設置さ
れたサブエントランスは,上記(イ)のとおり,メインエントランスに
取って代わるものではなく,あくまでも補助的に配置されたものであ
るといえる。さらに,証拠(乙7の4,18)によると,本件低層棟
3階の渡り廊下には,手すりや階段がコンクリートにより設置されて
いることは外観上も明らかであって,本件高層棟の屋外庭園に併設し
て設置される通路に接続するのであるから,渡り廊下や本件高層棟の
通路部分に屋根がないことのみから,外観の上で本件高層棟3階と本
件低層棟3階部分が接続していることが否定されるものではない。
したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
bまた,原告らは,東京都建築審査会において「1の建築物」に該当
しないとされた本件建築確認に係る建築物から本件建築物への変更
,.,,が本件低層棟1階に幅約15mの歩行者専用の通路を設けまた
本件高層棟2階に集会コーナーを設置した点にすぎず,これによって
本件建築物の住民らの利用形態の一体性が極端に高まるものであると
はいえないから,本件変更確認は本件建築確認の違法を覆すだけの根
拠に欠けるとして,本件建築物が「1の建築物」とはいえない旨主張
する。
確かに,前記前提事実()キ及び証拠(甲1)によると,東京都建2
築審査会は,本件建築確認の建築計画における建築物につき「低層,
棟と高層棟の一体化を図っているものの,高層棟と低層棟とは一の建
築物といえるまでには至っていない」と判断しているほか,本件建。
築物につき,①本件低層棟1階の渡り廊下の追加,②本件高層棟2階
の集会コーナーの設置を挙げて「低層棟および高層棟は全体として,
一の建築物とみることができる」と判断している。
しかしながら,前記アのとおり「1の建築物」に該当するか否か,
は,社会通念に照らし,構造上,外観上及び機能上の各面を総合的に
判断して一体性があるかを判断すべきであって,本件建築確認の建築
計画における建築物から本件建築物への変更部分のみをとらえて,上
記一体性の判断をするものではない。そして,前記(ア)ないし(ウ)の
とおり,本件建築物は,構造上の一体性,外観上の一体性,機能上の
一体性を総合考慮することによって「1の建築物」といえると判断,
できるのであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。
さらに付言すると,証拠(乙7の1∼3)及び弁論の全趣旨による
と,本件建築確認に係る建築物の計画においては,本件低層棟1階の
渡り廊下は,バイク置場への幅員約2mの通路のみしかなく,バイク
置場がドアにより本件低層棟地下1階の共用廊下と接続しているもの
の,同通路を本件低層棟の住民らが利用することが上記計画からは客
観的に明らかではなかったものであり,本件低層棟1階の渡り廊下の
追加によって初めて,本件低層棟の住民らが本件高層棟1階の駐車場
に移動する通路としての機能を有していることが客観的に明らかにな
ったものといえる。そして,本件高層棟2階の集会ルームの設置は,
同集会ルームが本件低層棟の住民らにも利用される,本件建築物の管
理に必要な設備であることからすれば,機能上の一体性を肯定する積
極的事情ということができ,本件建築物の「1の建築物」該当性の判
断においても着目すべき事情であるといえる。そうすると,これらの
事情を軽視する点においても,上記原告らの主張は採用できない。
4争点()イ(窓先空地に係る東京都安全条例違反の有無)について3
原告らは,本件建築物の本件低層棟2階南東角の住戸及び3階の南東角の住
戸が,それぞれ北側に隣接する住戸との間で窓先空地を共有しており,1住戸
について窓先空地を確保できていないことにつき,東京都建築安全条例19条
1項2号が災害時の避難路の確保を目的として窓先空地を設置するよう規定し
ていることからすれば,窓先空地の共有を認めることは,上記趣旨を没却する
ことになるから,同号は厳に1つの住戸が4m×4mの窓先空地を確保するこ
とを求めていると解されるとして,本件建築物は同号に反し違法であると主張
する。
東京都建築安全条例19条1項は「共同住宅の住戸若しくは住室の居住の用
に供する居室のうち一以上,寄宿舎の寝室又は下宿の宿泊室は,次に定めると
ころによらなければならない」とし,同項2号ロとして「窓先空地(通路そ。
の他の避難上有効な空地又は特別避難階段若しくは地上に通ずる幅員90セン
チメートル以上の専用の屋外階段(次項において「専用屋外階段」という。)に
避難上有効に連絡する下階の屋上部分で,住戸等の床面積の合計に応じて,次
の表に定める幅員以上のものをいう。次項において同じ。)に直接面する窓」
と定め,表においては,窓先空地の幅員を住戸の床面積の合計に応じて1.5
mから4mまで4段階に分けて定めるが,明文で各住戸が窓先空地を共有する
ことは禁止していない。また,窓先空地の幅員が共同住宅の床面積の合計から
導かれるものであり,当該窓先空地に面する住戸の床面積により定まるもので
はないことからすると,上記条例が各住戸ごとに一定の広さの窓先空地を確保
することに着目しているとは考えにくい。むしろ,同条2項が,窓先空地から
道路等までを一定の幅員を有する屋外通路で連絡させる必要がある旨規定して
いることからすれば,同条1項2号ロが共同住宅の住戸に窓先空地に面した窓
を設置するよう要求した趣旨は,各住戸が一定の広さの窓先空地と接続するこ
,。とを確保することにより災害時の避難経路を確保する趣旨であると解される
そうすると,各住戸が窓先空地を共有することになっても,上記窓先空地を設
けた趣旨を没却するようなおそれがない場合であれば,複数の住戸が窓先空地
を共用することを許容する趣旨であると解するのが相当である。
そうすると,本件建築物の本件低層棟2階南東角の住戸及び3階南東角の住
戸において,各隣接する住戸と窓先空地を共有していたとしても,そのことか
ら,本件建築物が東京都建築安全条例19条1項2号に反するということはで
きない。
5争点()ウ(地盤面の設定方法の適法性)について3
原告らは,本件建築物の地盤面を設定する上で,建築基準法2条1項の建築
物に含まれない出隅を建築物としていたとか,地盤面の一つの領域の算定根拠
が不明であるなどとして,本件変更確認が建築基準法施行令2条2項に反する
旨主張する。
ところで,建築基準法施行令2条2項は,建築面積(同条1項2号,建築)
物の高さ(同項6号)及び軒の高さ(同項7号)の算定方法の基準となる地盤
面につき,建築物が周囲の地面と接する位置の平均の高さにおける水平面であ
ると定義した上で,建築物が周囲の地面と接する位置の高低差が3mを超える
場合には,その高低差3m以内ごとに平均の高さをいうと規定して,高低差3
m以内で地盤面が設定される必要がある旨規定している。
証拠(乙4の1・2,7の1・2)及び弁論の全趣旨によると,本件建築物
においては,本件低層棟中央部西側の一角を地盤面の設定の根拠となる領域と
して設定し,同領域に含まれる本件低層棟の構造体の出隅(外側に突き出てい
),,る建物の角の部分を建築物とし同領域を基礎に地盤面を設定していること
同地盤面は平均地盤面(平均GL)から3.1m低い位置に設定されたこと,
本件建築物の他の地盤面は,それぞれ平均地盤面から2.1m低い位置,0.
9m高い位置に設定されたこと,本件建築物の最高地盤レベル(建築物が周囲
の土地と接する最も高い位置)は平均地盤面より3.9m高い位置に,最低地
盤レベル(建築物が周囲の土地と接する最も低い位置)は3.1m低い位置に
あることが認められる。
上記認定事実によれば,本件建築物と周囲の土地とが接する位置の高低差が
7mあるところ,3つの地盤面が設定され,いずれの地盤面の高低差も3m以
内であると認められ,本件建築物には,建築基準法施行令2条2項に適合する
地盤面が設定されていたといえる。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することと
し,訴訟費用について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項
本文を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
倉地康弘裁判官
小島清二裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛