弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人本人の上告理由は別紙のとおりである。
 論旨は、上告人は、昭和二二年四月一二日、本件農地について、訴外Dに対し転
貸契約を解除したので、右訴外人は転借人ではなく、また、その後、本件農地は、
上告人が旧自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)により売渡を受けたも
のであるから、同法二二条により右訴外人の賃借権は消滅し、同人は耕作の権原な
くして本件農地を耕作しているのであるから、本件農地は、農地法一五条の買収の
対象にならない農地であるにかかわらず、原判決が本件買収を是認したのは、事実
を誤認し、法令の解釈を誤つた違法があるというのである。
 原判決の引用する一審判決の確定するところによれば、本件農地は、もと、上告
人の賃借地であつたが、訴外Dに転貸し同人が耕作していたのであるが、昭和二六
年三月二日、自創法一六条により上告人に売り渡されたのである。しかし、その後
も右訴外人が耕作して来たのであつて、爾来本件農地の返還について上告人と右訴
外人との間に経緯はあつたが、結局被上告人は、農地法一五条に基き、昭和三四年
九月四日附買収令書によつて本件農地を買収したというのである。
 自創法二二条は、賃借権の設定のある農地について売渡があつた場合において、
売渡の相手方と賃借権者とが異るときは、売渡の時期にその賃借権は消滅する趣旨
を規定している。これを本件の場合について見るに、本件農地は、昭和二六年三月
二日に、自創法一六条により上告人に売り渡されたのであるから、その売渡の時期
に、訴外Dの賃借権は一応消滅したものというよりほかはない。もつとも、原判決
の引用する一審判決は「本件土地八畝一八歩を賃貸して最近に至つた」旨を認定し
ており、売渡後において、あらためて、賃貸借契約が締結されたものとすれば、ま
さに、本件農地は、農地法一五条の買収の対象となるべき農地であるけれども、原
判決事実摘示によれば、被上告人は、原審において「昭和二二年四月一二日以後両
者間に新たな賃貸借契約の締結されなかつたことは認める。」と述べており、若し
そうであるならば、訴外Dの耕作は権原に基かない不法な耕作というよりほかはな
い。農地法一五条は、自創法により売渡を受けた農地を所有者及びその世帯員以外
の者が耕作の事業に供したときは国が買収することにしている。第三者が耕作の用
に供している場合において、その耕作の権原は、必ずしも、法律上有効に成立して
いることを要しないとしても(例えば、旧農地調整法四条、農地法三条による賃借
権設定の承認、許可がないような場合)、所有者の意思に反して不法に耕作してい
る場合にまで、同条によつて買収する趣旨とは解することができない。原判決は、
本件農地の上告人に対する売渡後においても訴外Dが耕作していた事実を認定して
いるけれども、その耕作が、上告人の黙認のもとに行われていたものか、あるいは
上告人の意思に反して行われていたのか、その他その間の事情について何らの認定
をしていない。原判決が、これらの点について判示するところなく、右訴外人が長
期にわたつて耕作の事業に供していた一事をもつて、本件買収を適法としたのは、
農地法一五条の趣旨を誤解し、審理を尽さなかつた違法があるといわなければなら
ない。論旨はこの点において理由があることに帰し、原判決は破棄を免れず、民訴
法四〇七条一項に基き、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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