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平成10年(行ケ)第257号審決取消請求事件(平成12年5月24日口頭弁論
終結)
         判     決
    原      告  アプライド マテリアルズインコーポレーテッド
    代表者代表取締役  【A】
    訴訟代理人弁護士  中村 稔
    同         熊倉禎男
    同         田 中 伸一郎
    同         折田忠仁
    訴訟代理人弁理士  【B】
    同         【C】
    被      告  特許庁長官 【D】
    指定代理人  【E】
    同         【F】
    同         【G】
    同         【H】
         主     文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
     この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   特許庁が、平成7年審判第20064号事件について、平成10年4月6日
にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、1989年4月18日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基
づく優先権を主張して、平成2年2月13日、名称を「半導体加工のための耐圧熱
反応装置システム」とする発明につき特許出願をした(特願平2-32317号)
が、平成7年5月17日に拒絶査定を受けたので、同年9月18日、これに対する
不服の審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成7年審判第20064号事件として審理したうえ、
平成10年4月6日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その
謄本は同月27日、原告に送達された。
 2 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発
明」という。)の要旨
   放射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器であっ
て、内表面と外表面を持つ壁を有し、該容器内のより低い圧力との圧力差に対して
使用される反応室を画定し、長手方向の軸を更に画定し、当該長手方向の軸に対し
て垂直をなす横断面が非円形である細長い石英チューブと、前記圧力差により前記
壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取付けられた少なくと
も一つの外部補強材とを備えている反応容器。
 3 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭63-2005
26号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」
という。)及び実願昭61-75991号(実開昭62-186424号)のマイ
クロフィルム(以下「引用例2」といい、そこに記載された発明を「引用例発明
2」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから、特許法29条2項の規定によって特許を受けること
ができず、他の請求項の発明につき検討するまでもなく、本願出願は拒絶すべきで
あるとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
   審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1及び引用例2の各記載を摘
記した部分の認定(審決書3頁4行~5頁5行、5頁14行~6頁8行)及び本願
発明との対比に当たっての引用例発明1に関する認定(同6頁18行~8頁17
行)は認める。
   審決は、本願明細書及び引用例1に開示された技術事項を誤認して、本願発
明と引用例発明との相違点を看過し(取消事由1)、また、引用例2に開示された
技術事項を誤認し、かつ、引用例発明2を引用例発明1に組み合わせることの困難
性を看過して、相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明が引
用例発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結
論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
 1 取消事由1(相違点の看過)
  (1) 審決は、「引用例1には、減圧した状態で赤外線ランプにより加熱処理を
行う、断面が楕円形の偏平筒体状に形成された石英反応管において、反応管の内周
面と鏡板部の内周壁に沿って固着させた補強板を設け、もって反応管内の負圧によ
り反応管が押潰されることを防止するようにした発明が記載されているものと認め
られる」(審決書5頁6~13行)とし、「引用例1に記載された発明(注、引用
例発明1)では補強材が反応管すなわち反応容器の内側に取り付けられているのに
対して、請求項1に係る発明(注、本願発明)では、補強材が反応容器の壁の外表
面に取り付けられている点」(同9頁9~13行)のみを、引用例発明1と本願発
明との相違点として認定した。
  (2) しかしながら、本願明細書に「そのような加工の例には、低圧の化学的蒸
着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる」(甲第2号
証4頁左上欄16~18行)と記載されているように、本願発明は、主として、低
圧・減圧の化学蒸着(CVD)、選択的なエピタキシアル蒸着の用途に使用するも
のである。
    これに対し、引用例1には、「本発明はウエハ表面域に酸化、拡散、気相
成長等の各種熱処理を行う半導体ウエハの減圧熱処理装置に用いられる反応管の改
良に関する」(甲第5号証2欄2~4行)と記載されているが、化学蒸着に用いる
ことは記載されていない。
    このように、本願発明と引用例発明1とは、半導体ウエハ等を減圧下で熱
処理する反応容器(管)である点では共通するが、その用途において異なるもので
ある。
    この点につき、被告は、本願発明が化学蒸着に使用されるとの用途が、そ
の利用分野の例示にすぎないと主張し、さらに、引用例1の上記記載に係る「気相
成長」が、技術概念上、化学蒸着やエピタキシアル蒸着を包含するものであると主
張する。
    しかしながら、本願発明は、容器内壁面に蒸着が生じる種類の工程におい
て、そのような壁面への蒸着を制限し、ウエハ上にコントロールされた蒸着を生ぜ
しめることを技術的課題としたものである。本願発明における化学蒸着等の用途
と、その実施における課題・目的は、本願発明の中心をなすものであって、これを
単なる例示にすぎないとする被告の主張は誤りである。本願明細書の実施例におい
て記載された、石英チューブの内壁上への蒸着・堆積の弊害及びこれを最少限にす
る効果の記載が、実施例に限った記載であると限定的に解釈することも到底できな
い(なお、本願発明は化学蒸着に適した反応容器を提供することを目的とするもの
であるが、これが、化学蒸着等以外の、例えば、単なる酸化工程に使用され得ると
しても、そのために本願発明の特許性が影響を受けるものではない。)。
    また、後記のとおり、引用例発明1は、容器内壁面への沈着堆積が生じる
反応の用途には使用できないから、引用例1に、本願発明と同一の用途・目的・作
用効果を有する反応管が開示されているとすることはできない。当業者は、引用例
1の上記「気相成長」との記載が、沈積堆積を伴わない反応、すなわちウエハ表面
上のエピタキシャル成長反応のみを意味するものであり、したがって、本願発明の
化学蒸着とは異なるものと正しく認識し得るものである。
  (3) さらに、審決は、引用例1記載の「仕切り板2,3」を補強板と認定した
ものであるが、引用例1には、該「仕切り板2,3」が、補強材であるとともに、
半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使
用ガス量を節約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在防止のための手段等で
あることが記載されており(甲第5号証6欄末行~7欄19行)、引用例発明1に
おいて、仕切り板2,3が、反応管内部において長手方向に平行に設けられる構成
であることによってのみ、そのような目的を達成し得るとされていることは明白で
ある。
    しかしながら、引用例発明1の反応管内部に設けた仕切り板2、3の存在
は、低圧・減圧の化学蒸着の実施に対し、害はあっても、有益な効果を奏するもの
ではない。すなわち、本願明細書には、「とりわけ重要なことは、ウエーハを横断
して一様な結果、すなわち蒸着の厚さを保証するために温度やガスの流れを一様に
することである。」(甲第2号証4頁左上欄18行~右上欄1行)、「石英チュー
ブ110の上における蒸着は、熱反応装置システム110を使用して行われる後続
するプロセスにとっては、潜在的な汚染物質である。」(同7頁左上欄10~13
行)と記載されているところ、引用例発明1のように反応管の内部に仕切り板を設
ければ、仕切り板上に蒸着した化学物質が、後続する処理工程において処理対象の
半導体ウエハを汚染する汚染物質の発生源となることは、当業者にとって容易に理
解できることである。したがって、引用例発明1における、仕切り板を反応管内部
に設ける技術思想は、本願発明の目的に反し、解決しようとする課題と対立するも
のである。
    審決は、引用例発明1の仕切り板2、3につき、単に補強部材としての機
能のみに着目して、その多様、かつ、独自の目的、機能と、そのための具体的構成
を看過するとともに、本願発明の用途を看過した結果として、補強部材を反応管外
表面に設けた目的・作用効果をも看過したものというべきである。
  (4) 以上のように、審決は、本願発明が化学蒸着の用途に供するものであるの
に対し、引用例発明1が化学蒸着の用途に用いられるものではないという相違点を
看過し、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用した場
合、本願発明の目的・作用効果を達成しないものである(それは、既に本願明細書
において、排除すべきものと明示された種類のものである)という相違点を看過し
た誤りがある。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
  (1) 審決は、相違点として認定した「引用例1に記載された発明(注、引用例
発明1)では補強材が反応管すなわち反応容器の内側に取り付けられているのに対
して、請求項1に係る発明(注、本願発明)では、補強材が反応容器の壁の外表面
に取り付けられている点」(審決書9頁9~13行)につき、引用例2に、「半導
体ウエーハを加熱処理する際に使用される石英ガラス製炉芯管において、補強を目
的としてその壁の外表面に補強材を取り付ける発明が記載されているものと認めら
れる」(同6頁9~13行)としたうえ、「ここにおける『石英ガラス製炉芯管』
は引用例1における『反応管』に相当するものであるから、当該引用例2に記載さ
れた発明(注、引用例発明2)に基づけば、引用例1に記載された発明において、
反応管すなわち反応容器を補強するための補強材を、反応容器の内側に代えて壁の
外表面に取り付けるようにすることは、当業者が容易に想到することができたもの
である。さらに、本願の明細書及び図面を精査しても、補強材を反応容器の壁の外
表面に取り付けることによる格別な効果を見出すことができない。」(同10頁1
~11行)と判断した。
  (2) しかしながら、本願発明の補強材が、低圧の反応容器における内圧と外圧
の圧力差に起因する破損を防止するために設けられるものであることは、本願発明
の要旨に照らして明白であるところ、審決は、引用例発明2の補強材がどのような
補強を目的として設けられているかを認定しておらず、その補強が、炉芯管の内圧
と外圧との圧力差に起因する破損を防止する目的のものではなく、かつ、そのため
には何らの効果もないことを看過したものである。
    すなわち、引用例2には、引用例発明2において炉芯管の外周壁に長手方
向の石英ガラス棒を溶接して補強することの趣旨が、熱応力による炉芯管(内管)
の変形(熱変形)を防止し、かつ、炉芯管と灼熱管(外管)との接触を少なくする
ことにより両者の熱融着を防いで、炉芯管の寿命を延ばすことにあることが記載さ
れており(甲第6号証2頁8行~3頁9行)、炉芯管の内圧と外圧との圧力差に起
因する破損の防止は、引用例発明2における技術的課題ではない。そもそも、引用
例発明2のような断面が真円形の炉芯管では、内圧と外圧との圧力差による力を円
周方向に均等に分散するから、元来耐圧力を有し、内外圧力差に起因する破損とい
う問題が殆ど生じない。また、本願発明において問題としている内外圧力差による
非円形管の破損は、管の長さに沿って、かつ、細い側壁に沿って亀裂として生じる
ものであるところ、管の外周壁に石英ガラス棒を長手方向に溶接しても、亀裂と平
行となるから、該圧力差に起因する破損の防止に全く効果がなく、そのことは当業
者には自明である。したがって、引用例2には、内外圧力差に起因する変形・破損
を防止する目的で、管の外表面に補強材を設けることは、開示も示唆もされていな
いのである。
    この点につき、被告は、引用例発明2の炉芯管に生じる熱応力及び変形
が、管壁に外力が加わった場合と同様であると主張し、さらに、引用例発明2の石
英ガラス棒を引用例発明1の反応管に適用して、その外周壁長手方向に取り付ける
と、長手方向断面から見た曲がりが小さくなり、これに伴って横断面方向から見た
曲がりも小さくなるから、内外圧力差により該反応管の壁に加えられた圧力に対し
て耐える効果を奏すると主張する。
    しかしながら、負圧の応力による変形と熱応力による変形とでは、変形の
発生原因、発生態様、大きさにおいて全く異なるから、両者を「応力」という言葉
で一つに括ることにより、引用例発明2の石英ガラス棒を引用例発明1に適用し得
るものではないし、適用しても、本願発明の要旨に規定する「前記圧力差により前
記壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取付けられた少なく
とも一つの外部補強材」の構成を得られるものではない。
    加えて、引用例2には、引用例発明2が化学蒸着を用途とすることの開示
はなく、また、その外周壁長手方向に石英ガラス棒を配設した炉芯管を化学蒸着の
用途に使用することはできないものである。
    すなわち、本願明細書に、「圧力差による平らな壁やその他の非円筒形の
壁の変形は、壁の厚さを厚くすることによって、対処することができる。しかし厚
い壁の熱絶縁はあまりにも大きい。外部の冷却剤、典型的には空気が室の壁の温度
を減少させる効率が下がれば、壁の内表面における化学的な蒸着が増すようになる
だろう。さらには、内表面は熱くなれば外表面よりも一層急速に膨張する傾向があ
り、室の壁にひびが入るだろう。」(甲第2号証5頁右上欄19行~左下欄7
行)、「石英チューブを厚くすれば、容器の内部の壁における蒸着の量を増加する
ことができるだろう。さらには、壁がより厚くなれば、熱膨張によって破壊される
ことになるだろう。」(同7頁右下欄11~14行、なお、「できるだろう」は
「なるだろう」の誤り。)と記載されているとおり、化学蒸着の用途に使用する場
合において、管壁を厚くすることは、熱伝導率を悪化させ、化学蒸着用の物質が管
の内表面に蒸着堆積する等の不都合な点を生じさせる。そして、引用例発明2にお
ける炉芯管を化学蒸着の用途に使用した場合、その外周壁に配設された長手方向の
石英ガラス棒による突起は、該部分における壁を厚くし、その結果、管内部の突起
の下側を冷却することが困難になって、ガスが長手方向に管の中を流れたときに、
管に縞状の堆積物をもたらすことになるのである。
    そうすると、引用例発明2の石英ガラス棒を、引用例発明1の反応管に取
り付けて補強材としたものは、本願発明において、排除されている構成に該当する
ものである。
  (3) このように、引用例発明2は、本願発明と技術課題を異にするものであ
り、反応管の内圧と外圧との圧力差に起因する破損の防止を目的として、反応管の
外壁の外表面に補強材を設けた構成は、引用例2には全く開示されていない本願発
明に独特のものである。引用例発明1は、本願発明と同様の技術課題を認識してい
るが、その解決方法は、反応管の内部に少なくとも一対の平行な仕切り板を配設す
るというものであり、本願発明とは全く構成が異なる。上記のように、引用例発明
2は、本願発明と技術課題を異にするから、引用例発明2を引用例発明1に組み合
わせることは、その技術的動機を欠くというべきであるし、引用例2に、内外圧力
差に起因する反応管の破損の防止を目的として、管の外壁の外表面に補強材を設け
た構成が開示されていないから、引用例発明1、2を組み合せても、本願発明の構
成を想到することは不可能である。
    また、1の(3)で述べた引用例発明1の仕切り板の目的効果に照らすと、引
用例発明1の補強材は、反応管内部の一対の平行な仕切り板でなくてはならず、こ
れを反応管の壁の外表面に取り付けるものに置き換えることは、引用例1の記載の
趣旨に反するものである。
  (4) さらに、本願明細書に、「石英繋板は、非大気圧の手順の間に圧力により
チューブにゆがみができないようにするために付加的な力を加える。好ましいの
は、より効果的な冷却をするために冷却剤の流れを制御することができるように、
繋板がチューブの周囲を円を描くように延長する平行な隆起部として配列されてい
ることである。赤外線熱源のランプは、繋板に対してジグザグに配置され、繋板が
熱を最もさえぎらず、より一様な加熱を加えるという方形の形態の利点を保持して
いる」(甲第2号証6頁右上欄末行~左下欄9行)、「冷却剤源140は赤外線ラ
ンプ136の間および石英チューブ110の外表面144に対して大気の空気を押
しつける。繋板111-115は冷却剤路148を画定し、冷却剤路148は第2
図に示されているように、より効果的に冷却をするために石英チューブ110の周
囲で円周に沿って冷却剤を導く」(同7頁左上欄17行~右上欄3行、甲第3号証
2頁補正の内容(7))、「繋板に対してジグザグになっている赤外線ランプは、光の
ゆがみを最小限にしている」(甲第2号証8頁左上欄2~4行)と記載されている
とおり、本願発明は、その構成によって、繋板と繋板の間隔に冷却用空気を対流さ
せてより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグになってい
る赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を奏するも
のである。
  (5) したがって、審決の上記相違点についての判断は誤りである。
第4 被告の反論の要点
   審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(相違点の看過)について
  (1) 原告は、本願発明が、主として、低圧・減圧の化学蒸着、選択的なエピタ
キシアル蒸着の用途に使用するものであると主張するが、本願発明の要旨は、「放
射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器」と規定してお
り、それ以上に反応容器の用途が限定されているものではない。また、本願明細書
の発明の詳細な説明中の「利用分野」の欄には、「本発明は半導体加工に関連し、
より詳細には化学的蒸着、加熱焼きなましおよび高温加工を必要とするその他の手
順のための熱中性子炉に関する。」(甲第2号証4頁左上欄3~5行、甲第3号証
補正の内容(2))とのみ記載されている。
    本願明細書の「そのような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学
的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる。」(甲第2号証4頁左上欄
16~18行)との記載は、その記載や前後の記載から見て、本願発明の利用分野
の例示にすぎず、また、「石英チューブ110の上における蒸着は、熱反応装置シ
ステム110を使用して行われる後続するプロセスにとっては、潜在的な汚染物質
である。」(同7頁左上欄10~13行)、「石英チューブを厚くすれば、容器の
内部の壁における蒸着の量を増加することができるだろう。」(同頁右下欄11~
13行)との各記載は、実施例の一つに関するものである。
    そうすると、本願発明が化学蒸着の用途のみに使用されるものと解するこ
とはできない。
    また、原告は、引用例1に、「本発明はウエハ表面域に酸化、拡散、気相
成長等の各種熱処理を行う半導体ウエハの減圧熱処理装置に用いられる反応管の改
良に関する」(甲第5号証2欄2~4行)と記載されているものの、化学蒸着に用
いることは記載されていないと主張するが、昭和58年12月10日発行の日本学
術振興会薄膜第131委員会編「薄膜ハンドブック」に、「CVD(chemicalvapor
deposition)法とは化学気相成長法のことであり、一般にPVD(physicalvapor
deposition)法と対比して定義づけられている。形成させようとする薄膜材料を構成
する元素からなる1種またはそれ以上の化合物・単体のガスを基板上に供給し、気
相または基板表面での化学反応により、所望の薄膜を形成させる方法である。PV
D法が材料の真空蒸着やスパッタリングなどによって薄膜を形成させるのに比べ、
化学的手段であることが大きな相違点であるが、最近、このCVD法とPVD法の
双方の要素を持った方法も登場した。」(乙第5号証197頁左欄4~14行)、
「エピタキシャル法は液相成長(LPE)と気相成長(CVD)に分けることがで
きる。」(同727頁右欄2~4行)、「被膜の形成には、多くの場合、真空蒸着
法、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理的蒸着法やCVDなどの化
学的蒸着法が用いられる。」(同873頁左欄11~14行)とそれぞれ記載さ
れ、1989年1月14日発行の【I】外1名編「VLSI製造技術」に、「CV
D(化学蒸着)法は、真空蒸着など物理蒸着法に対する言葉であり、気相での化学
反応を利用して薄膜を形成する方法である。」(乙第6号証145頁11~12
行)と記載されているように、化学(的)蒸着法と化学気相成長法は、物理蒸着法
(PVD)と対比して、ほぼ同義に用いられているところ、引用例1のように単に
「気相成長」と記載された場合には、化学気相成長(CVD)と物理気相成長(P
VD)の双方の技術を含むものといえるから、引用例1に、引用例発明1を化学蒸
着に用いることが記載されていないとの主張も誤りである。
  (2) 原告は、審決が、引用例発明1の仕切り板2、3につき、単に補強部材と
しての機能のみに着目して、その多様な機能と、そのための具体的構成を看過した
と主張するが、引用例1には「反応管1を負圧下において加熱した場合に生じる変
形を阻止する少なくとも一対の仕切板2,3を平行に配設した点.従って前記仕切
り板2,3は、必ずしも一対のみではなく三枚以上設けてもよく、」(甲第5号証
2頁右上欄20行~左下欄4行)との記載があり、反応管内の負圧により反応管が
押潰されることを防止するという引用例発明1の目的から見て、その仕切り板2、
3は、補強板として機能すれば足りるものであって、原告の主張する半導体ウエハ
を載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節
約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在防止のための手段等となることは、
仕切り板の構成に伴う付随的な作用・効果というべきであるから、審決が、本願発
明と対比すべき発明として、引用例発明1を「石英反応管において、反応管の内周
面と鏡板部の内周壁に沿って固着させた補強板を設け、もって反応管内の負圧によ
り反応管が押潰されることを防止するようにした発明」(審決書5頁9~12行)
と認定したことに誤りはない。
    また、原告は、低圧・減圧の化学蒸着の実施において、引用例発明1のよ
うに反応管の内部に仕切り板を設ければ、仕切り板上に蒸着した化学物質が、後続
する処理工程において処理対象の半導体ウエハを汚染する汚染物質の発生源となる
から、有害であると主張するが、引用例1には、そのような作用を生じることは記
載されておらず、仮に、引用例発明1にそのような作用が生じるとしても、本願発
明が化学蒸着の用途のみに使用されるものでないことは上記のとおりであって、そ
のことが審決の結論に影響を及ぼすものではない。
  (3) よって、審決に、原告主張の相違点看過の誤りはない。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 原告は、本願発明の補強材が、低圧の反応容器における内外圧力差に起因
する破損を防止するために設けられたのに対し、引用例発明2の補強材が、熱応力
による炉芯管(内管)の変形を防止し、かつ、炉芯管と灼熱管(外管)との接触を
少なくすることにより両者の熱融着を防ぐことを目的とするもので、内外圧力差に
起因する炉芯管破損の防止は、引用例発明2における技術的課題ではなく、審決は
その点を看過したものであると主張する。
    しかしながら、引用例2の「内管として使用される石英ガラス製炉芯管
も、長時間使用すると熱により断面が変形するため、時々回転させて使用するが、
これによる延命効果にも限界があるので、さらに炉芯管の寿命を延ばすことが強く
要望されていた。」(甲第6号証2頁15~19行)、「本考案は炉芯管の外周壁
に長手方向の石英ガラス棒を溶接して炉芯管を補強し、耐熱性を増して寿命を延ば
し、」(同3頁1~3行)、「前記石英ガラス棒は、補強効果を充分にあげるため
には、炉芯管の高温に加熱される中央部分よりも長く両側の低温域に跨るように溶
接する必要がある。」(同3頁18行~4頁1行)との各記載に照らすと、引用例
2には、高温に加熱される炉芯管の中央部分が、熱膨張により、両側の低温域より
も拡径し、炉芯管の長手方向断面で見たときに管壁が外側に曲がるように変形する
ので、炉芯管の外周壁長手方向に石英ガラス棒を溶接することにより、管壁の曲げ
変形を小さくして、炉芯管の寿命を延ばすことが記載されていると認められるとこ
ろ、このような引用例発明2の炉芯管に生じる応力及び変形が、管壁に外力が加わ
った場合と同様であること、炉心管の外周壁に溶接された石英ガラス棒が、この応
力の増大を防止するための補強材として機能していることは、当業者であれば容易
に理解するものである。
    他方、引用例1に、「該反応管1は偏平状に形成されている為に・・・内
部をほぼ真空状態に減圧して加熱させた場合は、該反応管1の幅広周面上に最も押
圧力が印加され、該幅広方向に沿って拡径しながら押潰すものである為に、第1図
に示すように反応管1内の断面幅広方向における中央線を挟んでその両側に、透明
石英材で形成された一対の仕切り板2,3を平行に設け、前記変形を阻止させてい
る。」(甲第5号証9欄1~9行)と記載されているとおり、引用例発明1の反応
管は、内外圧力差によって、反応管の横断面で見たときには、管壁が、短径方向に
縮径し、長径方向に拡径するように曲げ変形するものと認められる。これに対し、
反応管の長手方向断面で見たときには、内外圧力差による変形が、フランジ12、
鏡板部14が存在する反応管両端部に比較し、中央部において大きくなるため、中
央部がくぼんだ鼓胴型に変形する。
    そして、長方形の枠体で支持された板材に外力が加えられた場合のよう
に、交差する2つの方向の断面に曲げ変形が生じるとき、一つの方向(例えば、曲
がりの小さい方向)に対して補強材を取り付けて曲がり難くすると、たわみが小さ
くなり、他の方向(例えば、曲がりの大きい方向)から見たときも同じく小さなた
わみとなるから、この方向についても曲げ変形が小さくなるものであるところ、引
用例発明1の反応管も、上記のとおり、横断面で見たときと、これと交差する方向
の長手方向断面で見たときに曲げ変形が生じているから、引用例発明1の反応管
に、引用例発明2のように、石英ガラス棒を外周壁長手方向に取り付けると、長手
方向断面で見た曲がりが小さくなり、これに伴って横断面で見た曲がりも小さくな
ることになる。
    したがって、引用例発明2の石英ガラス棒は、これを引用例発明1の反応
管に適用し、その外周面に溶接したときに、内外圧力差により該反応管の壁に加え
られた圧力に耐える効果を奏することは明らかである。
    原告は、内外圧力差による非円形管の破損は、管の長さに沿って、かつ、
細い側壁に沿って亀裂として生じるものであると主張するところ、そのこと自体は
認めるが、上記のとおりであるから、該事実は、引用例発明2の石英ガラス棒を引
用例発明1の反応管の外周面に溶接したときに、内外圧力差により該反応管の壁に
加えられた圧力に耐える効果を奏することを妨げるものではない。
    なお、原告は、引用例発明2の炉芯管を化学蒸着の用途に使用することは
できないものであり、引用例発明2の石英ガラス棒を、引用例発明1の反応管に取
り付けて補強材としたものは、本願発明において排除されている構成に該当すると
主張するが、本願発明が化学蒸着の用途のみに使用されるものでないことは上記の
とおりであるから、この主張も当を得ない。
  (2) 以上のように、引用例発明2は、炉芯管の加熱温度の不均一により発生す
る応力の増大を防止するため、炉芯管の外周壁長手方向に石英ガラス棒(補強材)
を取り付け、炉芯管の変形を防ごうとするものであり、該石英ガラス棒は、反応管
(炉芯管)に生じる応力の増大を防止するという技術課題を解決するためのもので
ある点で、引用例発明1の仕切り板と共通する。さらに、本願発明の要旨の規定及
び本願明細書の「石英繋板は、非大気圧の手順の間に圧力によりチューブにゆがみ
ができないようにするために付加的な力を加える」(甲第2号証6頁右上欄20行
~左下欄2行)との記載によれば、本願発明の石英繋板(外部補強材)が、これら
と同様、内外圧力差によって反応管(反応容器)に生じる局部的な応力の増大を、
反応管のゆがみ(変形)を抑止することによって、防止する作用効果を奏すること
も明らかである。
    そうすると、引用例発明1の仕切り板を、引用例発明2の石英ガラス棒に
置き換えて、本願発明の要旨の規定する「該壁の前記外表面に取付けられた少なく
とも一つの外部補強材」の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のこと
にすぎない。
    なお、原告は、引用例発明1の仕切り板の目的効果に照らし、引用例発明
1の仕切り板(補強材)を反応管の壁の外表面に取り付けるようにすることは、引
用例1の記載の趣旨に反するとも主張するが、引用例発明1の目的から見て、その
仕切り板に係る半導体ウエハを載置する手段等であることが、付随的な作用・効果
というべきであって、該仕切り板は補強板として機能すれば足りるものであること
は、上記1の(2)のとおりである。
  (3) さらに、原告は、本願発明が、繋板と繋板の間隔に冷却用空気を対流させ
てより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグになっている
赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を奏すると主
張するが、該作用効果は、繋板(外部補強材)が、「チューブの周囲を円を描くよ
うに延長する平行な隆起部として配列され」(甲第2号証6頁左下欄4~5行)る
ことによって得られる効果であり、本願発明の要旨の規定する「該壁の前記外表面
に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成の効果ではない。
    該構成を採用することによっては、反応容器の変形、ひいては破損を防止
するという引用例発明1、2と同様の作用効果を奏するにすぎないから、「補強材
を反応容器の壁の外表面に取り付けることによる格別な効果を見出すことはできな
い。」と認定した審決に何ら誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(相違点の看過)について
  (1) 原告は、本願発明が、主として、低圧・減圧の化学蒸着、選択的なエピタ
キシアル蒸着の用途に使用するものであると主張する。
    しかしながら、前示本願発明の要旨において、本願発明の用途に関連する
規定は、「放射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器」
というものであるにすぎず、本願発明の反応容器の用途が、化学蒸着、選択的なエ
ピタキシアル蒸着に限定されると解される規定は存在しない。
    もっとも、平成6年8月19日付手続補正書(甲第3号証)及び平成7年
9月18日付手続補正書(甲第4号証)による補正後の本願明細書(甲第2号証、
以下単に「本願明細書」という。)の「従来技術の課題」の欄には、「ある新しい
加工技術では、高温で準大気圧を持ち一様な反応ガスの流れの注意深く制御された
状況のもとで、半導体構造を反応ガスに露出させることが必要になっている。その
ような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシ
アル蒸着などが含まれる。とりわけ重要なことは、ウエーハを横断して一様な結
果、すなわち蒸着の厚さを保証するために温度やガスの流れを一様にすることであ
る。」(甲第2号証4頁左上欄12行~右上欄1行)、「円筒形の容器は、圧力差
によるひずみを一様に分散し、・・・応力が均等に分散されれば、破損の可能性が
最小限になる。もう一方において、円筒形の形態によってウエーハ表面における一
様な反応ガスの流れが阻止される。」(同頁左下欄16行~右下欄3行)、「ウエ
ーハを横断して反応ガスの流れを一様にするために方形の石英の室を使用する大気
圧熱反応装置が存在する。しかしながらこれらは、減圧や低圧を適用することはで
きない。平らな表面を横断して圧力差があれば、局部的な応力が生じて破損するこ
とになるだろう。圧力差による平らな壁やその他の非円筒形の壁の変形は、壁の厚
さを厚くすることによって、対処することができる。しかし厚い壁の熱絶縁はあま
りにも大きい。外部の冷却剤、典型的には空気が室の壁の温度を減少させる効率が
下がれば、壁の内表面における化学的な蒸着が増すようになるだろう。さらには、
内表面は熱くなれば外表面よりも一層急速に膨張する傾向があり、室の壁にひびが
入るだろう。その他の設計の目的から、熱応力および壁における蒸着を減少させる
ために室の壁を薄くするか、それとも圧力によって生じた応力を減少させるために
壁を厚くするかの間で好みの上における対立が生じる。」(同5頁右上欄13行~
左下欄11行)、「必要なのは高温、非大気圧および一様な反応物の流れを考慮し
た熱反応装置システムである。・・・本発明の主要な目的は、非大気圧における比
較的一様な反応ガスの流れによる半導体加工のための改良型の熱反応装置を提供す
ることである。」(同頁右下欄14~15行、甲第3号証補正の内容(3))との各記
載があり、本願発明の反応容器を化学蒸着の用途に使用する場合において、反応ガ
スの流れを一様にするために方形等の非円筒形容器としたときの問題点、すなわ
ち、内外圧力差に起因する応力による破損のおそれと、これを避けるため壁を厚く
した場合の内壁面への蒸着等の弊害について、主に記載されている。
    しかしながら、前示のとおり、本願発明の要旨において、本願発明の用途
が、化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着に限定されていないことに加え、本願
明細書の「利用分野」の欄にも、「本発明は半導体加工に関連し、より詳細には化
学的蒸着、加熱焼きなましおよび高温加工を必要とするその他の手順のための熱中
性子炉に関する。」(甲第2号証4頁左上欄3~5行、甲第3号証補正の内容(2))
とのみ記載されていて、化学蒸着(化学的蒸着)が、広範な利用分野の1例とされ
ているにすぎないことを考慮すれば、「従来技術の課題」欄の前示記載も、本願発
明の利用分野ないし用途の1例を例示をしたうえで、当該1例につきその問題点を
指摘したものと解するほかはなく、前示「そのような加工の例には、低圧の化学的
蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる。」との記
載も、その趣旨を示しているもの理解することができる。したがって、前示各記載
があるからといって、本願発明の用途が化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着に
限定されるとすることはできない。
    そうすると、本願発明の用途が化学蒸着であり、他方、引用例発明1は化
学蒸着の用途に用いられないとして、審決が、本願発明と引用例発明1の用途が異
なるとの相違点を看過したとする原告の主張は、引用例発明1が化学蒸着の用途に
用いられないかどうかについて検討するまでもなく、失当といわざるを得ない。
  (2) また、原告は、引用例発明1の反応管内部に設けた仕切り板2、3が、補
強材であるとともに、半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、
反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在
防止のための手段である等の目的、機能を有し、そのために、反応管内部において
長手方向に平行に設けられる構成を採用しているのに対し、該反応管内部に設けた
仕切り板が、低圧・減圧の化学蒸着の実施に際しては、これに化学物質が蒸着し、
後続する処理工程において処理対象を汚染する物質の発生源となるとしたうえで、
審決が、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用した場
合、本願発明の目的・作用効果を達成しないという相違点を看過した誤りがあると
主張する。
    しかしながら、該主張も本願発明の用途を化学蒸着に限定することを前提
とするものであるから、その点において誤りといわなければならないのみならず、
原告の主張する、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用
した場合、本願発明の目的・作用効果を達成しないとの相違点は、審決の認定した
「引用例1に記載された発明(注、引用例発明1)では補強材が反応管すなわち反
応容器の内側に取り付けられているのに対して、請求項1に係る発明(注、本願発
明)では、補強材が反応容器の壁の外表面に取り付けられている」(審決書9頁9
~13行)との相違点に係る構成上の相違を、その各構成を採用した目的ないし作
用効果の面からいい換えたにすぎないものであって、畢竟、審決の認定した前示相
違点に帰着するものといわざるを得ない。かかる目的ないし作用効果における相違
は、引用例発明1における前示構成上の相違点について、引用例発明2の構成を適
用することが容易であるか否かを判断する場合に問題となることがあるとしても、
その段階で判断すれば足りることであり、それ自体を構成上の相違点から独立した
相違点として、別途、摘示認定する必要はない。したがって、審決が、原告主張の
点を相違点として認定しなかったことが誤りであるとすることはできない。
  (3) 以上のとおり、審決に、原告主張の相違点看過の誤りはない。
 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
  (1) 引用例1に、「反応管」に関する発明が記載されていること(審決書3頁
6~7行)、「半導体熱処理装置においては、・・・減圧処理装置に前記偏平筒状
反応管を用いると、反応管内の負圧により容易に押潰されてしまうという問題が生
じる。」(同頁9~15行)、「反応管1は偏平状に形成されている為に前記ガス
導入管5よりの吸引により内部をほぼ真空状態に減圧して加熱させた場合には、該
反応管1の幅広周面上に最も押圧力が印加され、該幅広方向に沿って拡径しながら
押潰するものである為に、第1図に示すように反応管1内の断面幅広方向における
中央線を挟んでその両側に、透明石英材で形成された一対の仕切板2,3を平行に
設け、前記変形を阻止させている。即ち前記仕切板2,3の詳細構成を説明する
に、・・・該仕切板2,3の周縁側を反応管1の内周面と鏡板部14の内周壁に沿
って固着させ前記変形を阻止する補強板として機能させる。」(同4頁5行~5頁
1行)との各記載があることは、当事者間に争いがなく、これらの記載によれば、
引用例発明1は、偏平状に形成された反応管内部をほぼ真空状態に減圧して加熱す
る際、反応管内の負圧、すなわち内外圧力差によって、反応管が、その横断面より
見た場合に幅広方向に拡径し、それによって生じる応力によって損傷するに至るの
で、該応力の増大を防止するため、幅広方向の中央線を挟んでその両側に、透明石
英材で形成された平行の一対の仕切り板を、その周縁側を反応管の内周面と鏡板部
の内周壁に沿って固着させて配設し、該曲げ変形(幅広方向の拡径)を抑止するも
のであることが認められる。
    他方、引用例2に、「炉芯管」に関する発明が記載されていること(審決
書5頁17~18行)、「本考案は炉芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶
接して炉芯管を補強し、耐熱性を増して寿命を延ばし、更に内管と外管との接触を
少なくすることによって、両管の融着を防ごうとするものであって、これは半導体
ウエーハを加熱処理する際に使用される石英ガラス製炉芯管において、中央部の被
加熱部分の外周壁に長手方向に石英ガラス棒を間隔的に複数本溶接してなることを
特徴とする炉芯管を要旨とするものである。」(同5頁19行~6頁8行)との記
載があることは、当事者間に争いがないが、引用例2(甲第6号証)には、炉芯管
の内圧と外圧との圧力差に起因して生じる応力の増大の防止という技術課題、及び
その解決のために石英ガラス棒で炉芯管を補強することは記載されていない。
    しかしながら、平成元年12月15日第4版第4刷発行の【J】外3名編
「岩波理化学辞典」(乙第3号証)には、「熱応力」につき、「温度変化によって
生ずるはずの物体の自由な熱膨張や収縮が外部から拘束され、または物体内部の物
質相互間の牽制により拘束されて生ずる応力をいう。」(同号証949頁右欄13
行~19行)との記載があるところ、該文献自体は、本願出願に係る優先権主張日
の約8か月後に発行されたものであるが、その理化学辞典としての性質に鑑み、該
優先権主張日当時において、その記載事項、すなわち、物体に外部からの拘束があ
る場合、温度変化に伴う熱膨張等により熱応力が生じることは、当業者に周知の技
術事項であったものと認められる。
    しかるところ、引用例2(甲第6号証)には、「内管として使用される石
英ガラス製炉芯管も、長時間使用すると熱により断面が変形するため、時々回転さ
せて使用するが、これによる延命効果にも限界があるので、さらに炉芯管の寿命を
延ばすことが強く要望されていた。」(同号証2頁15~19行)、「本考案は炉
芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶接して炉芯管を補強し、耐熱性を増し
て寿命を延ばし、」(同3頁1~3行)、「前記石英ガラス棒は、補強効果を充分
にあげるためには、炉芯管の高温に加熱される中央部分よりも長く両側の低温域に
跨るように溶接する必要がある。」(同3頁18行~4頁1行)との各記載があ
り、これらの記載に前示周知事項を併せ考えると、引用例2には、炉芯管の長手方
向中央部分が両側部よりも高温で加熱されるため、熱膨張により、中央部分が両側
よりも拡径し、炉芯管の長手方向断面より見たときに、中央部の管壁が外側に膨ら
むように曲げ変形し、それに伴う応力が生じること、そこで、引用例発明2は、炉
芯管の外周壁長手方向に、両側域にまでまたがって石英ガラス棒を溶接することに
より、管壁の曲げ変形を抑止し、応力の増大を防止して、炉芯管の損傷を回避する
効果を奏するものであることが開示されているものと認められる。
    そうすると、引用例発明2の炉芯管に生じるこのような変形及び応力は加
熱に起因するもの(熱応力)である点で、それが内外圧力差に起因するものである
引用例発明1と、応力の生じる原因においては異なるものの、引用例発明2に生じ
る応力自体は、引用例発明1に生じる応力と同様のものであり、かつ、変形を抑止
する手段を用いてかかる応力の増大を防止し、反応管(炉芯管)の損傷を防ぐ点に
おいては、引用例発明2と引用例発明1とで、何ら変わるところがないことは明ら
かである。
    しかして、引用例発明1においては、前示のとおり、反応管の横断面より
見た場合に反応管が幅広方向に拡径する変形が生じるものであるが、これを長手方
向断面より見た場合には、左右両端の閉塞部ないし閉塞部材(反応管の内部を減圧
する以上、その長手方向両端には、かかる閉塞部ないし閉塞部材が存在するはずで
あって、引用例発明1においては、引用例1(甲第5号証)記載のフランジ12及
び鏡板部14がこれに当たる。)によって、両端部で内外圧力差による変形が遮ら
れるので、中央部がくぼむ形状に曲げ変形すると考えられるところ、反応管の外周
壁に、棒状の補強材を長手方向に溶接し、この曲げ変形を抑止した場合には、技術
常識上、これと交差する方向の横断面より見た、反応管が幅広方向に拡径する曲げ
変形も減少させ得るものと理解される。そして、その場合に、反応管の幅広方向に
拡径する曲げ変形の程度、したがって、それによる応力の程度を、反応管の損傷に
至らない範囲とすることは、設計事項に属する事柄というべきである。
    そうすると、引用例発明1の補強材である反応管内部の仕切り板を、引用
例発明2の補強材である石英ガラス棒に置き換え、本願発明の要旨の規定する「前
記圧力差により前記壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取
付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成とすることは、当業者が容易にな
し得る程度のことであると認められる。
    なお、内外圧力差による非円形管の破損が、管の長さに沿って、かつ、細
い側壁に沿って亀裂として生じるものであることは当事者間に争いがないところ、
米マサチューセッツ工科大学教授【K】の宣誓供述書(甲第7号証)には、「引用
例2の長手方向の突起(注、石英ガラス棒)は、引用例1の非円形反応管の潰れを
防止しません。・・・管の破損は、この長手方向応力ラインに沿って発生します。
長手方向の突起で、この形の破損を防止することはほとんどできませんが、それは
破損ラインが長手方向の補強材に並行だからです。」(同号証訳文5頁2~8行)
との記載、及び「12頁の右側の図(注、被告平成11年5月27日付準備書面
(第2回)添付参考図5の右下の図を指す。)が引用例1の場合に適用可能である
ということ(注、「引用例発明1において、反応管の外周壁に、棒状の補強材を長
手方向に溶接し、長手方向断面より見た中央部がくぼむ形状の曲げ変形を抑止した
場合には、横断面より見た、反応管が幅広方向に拡径する曲げ変形も減少させ得る
こと」を意味する。)に関しては、私は、不同意です。なぜならば、審判官は、よ
り平坦な上部壁の両方の側端において支持材の存在を(12頁の右側の図面におい
て)提案していますが、実際には、引用例1の管は、そのような支持材を有してい
ないからです。これらの側端支持材の代わりに、引用例1の管は、管の長手方向端
部でのみ支持される、側壁を有しています。」(同頁12~17行)との記載があ
る。
    しかしながら、「これらの側端支持材の代わりに、引用例1の管は、管の
長手方向端部でのみ支持される、側壁を有しています。」(原文は、「Insteadof
thesesideendsupports,thetubeinReference1hasthesidewalls,whichare
onlysupportedatthelongitudinalendsofthetube.」)との文言の趣旨は必
ずしも明瞭ではないが、前示のとおり、引用例発明1の反応管においては、長手方
向断面より見た場合に、左右両端部では、フランジ12及び鏡板部14によって外
周壁が支えられて、内外圧力差による変形が遮られていることが認められ、したが
って、「引用例1の管は、そのような支持材を有していない」とすることは誤りで
あり、これを前提として、前示「12頁の右側の図が引用例1の場合に適用可能で
あるということ」を否定する立論も誤りであるといわざるを得ない。そして、そう
であれば、引用例発明1の反応管に、内外圧力差によって生じ得る損傷(亀裂)が
長手方向の補強材に並行であるからといって、直ちに、該補強材が破損を防止する
ことができないといえないことは明白である。
    また、原告は、外周壁長手方向に石英ガラス棒を配設した炉芯管を化学蒸
着の用途に使用することはできないと主張するが、本願発明の用途が化学蒸着に限
定されるとすることができないことは前示のとおりであるから、該主張も当を得な
い。
  (2) 引用例1(甲第5号証)には、「又前記仕切り板2,3に挟まれる区域1
Aと連通する反応管1の任意の個所にガス導出入手段4,5を設け、前記仕切り板
2,3に挟まれる区域1A内に所定ガスが流通可能に構成した為に、前記仕切り板
2,3上にサセプタを介して半導体ウエハ7を載置させる事により容易に熱処理を
行う事が出来る。而も該仕切り板2,3と対面する反応管1外周上に赤外線ランプ
6を配設する事により、熱効率よく加熱処理が可能であるとともに、前記仕切り板
2,3により実質的に二重構造となる為に、加熱温度分布の均一性が維持され、ス
リップラインの発生やウエハ7の変形等を防止出来る。更に反応管1は仕切り板
2,3により実質的に三分割されている為に、使用ガスの量が少なくて済むととも
に前記仕切り板2,3に挟まれている区域1A内と、その両側に位置する反応管1
内部空間1B,1Cとを互いに連通可能に構成する事により、該反応管1内の減圧
工程を円滑に行えるとともに、反応管1内で圧力の偏在が生じる事がない為に温度
の適応性が優れている。」(同号証6欄末行~7欄19行)と記載されており、こ
の記載によれば、引用例発明1の仕切り板が、半導体ウエハを載置する手段、反応
管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段でもあるこ
とが認められる。
    しかるところ、原告は、これらの仕切り板の目的効果に照らすと、引用例
発明1における補強材は、反応管内部の一対の平行な仕切り板でなくてはならず、
反応管の壁の外表面に取り付けるものに置き換えることは、引用例1の記載の趣旨
に反すると主張する。
    しかしながら、この記載に先立つ、「前記反応管1を偏平筒体状に形成し
た場合は、反応室内を減圧下で加熱した場合において押潰する恐れがある
が、・・・反応管1内に前記変形を阻止する仕切り板2,3を設けた為に、反応室
内を0.1~10Torr前後のほぼ真空状態で加熱した場合においても、反応管1の
肉厚を厚くする事なく容易に前記押潰を防止する事が出来る。更に前記仕切り板
2,3を設けた為に、強度性が向上し、その分薄肉化が可能である。」(同6欄1
0~19行)との記載、及び前示(1)の当事者間に争いのない引用例1の記載に照ら
し、引用例発明1の技術課題が、反応室内を減圧下で加熱する偏平筒体状の反応管
の押潰の防止にあり、仕切り板2,3を反応室内に設けることが、該課題解決のた
めの手段であることが明らかであって、前示半導体ウエハを載置する手段等である
ことは、副次的・派生的な効果であるにすぎないと認められるから、引用例発明1
の反応管内部の仕切り板を、引用例発明2の石英ガラス棒に置き換えることが、引
用例1の記載の趣旨に反するということはできず、引用例発明1に引用例発明2を
適用する動機付けを妨げるものとはなり得ない。
  (3) 原告は、本願発明が、その構成によって、繋板と繋板の間隔に冷却用空気
を対流させてより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグに
なっている赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を
奏するものであると主張するが、それが、実施例の効果ではあっても、本願発明の
要旨の「該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」との構成
による効果でないことは明白であり、審決が、「補強材を反応容器の壁の外表面に
取り付けることによる格別な効果を見出すことができない」(審決書10頁10~
11行)と判断したことに誤りがあるとはいえない。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審
決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上
告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法6
1条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田   中   康   久
裁判官   石   原   直   樹
裁判官   宮   坂   昌   利

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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