弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
特許庁が昭和四八年審判第六五三六号事件について昭和五五年一二月二三日にした
審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原
告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 原告主張の請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、一九六九年(昭和四四年)七月一二日にドイツ国においてした特許出願
に基づく優先権を主張して、昭和四五年五月二六日、特許庁に対し、名称を「電池
給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」とする考案(以下「本願考案」とい
う。)につき実用新案登録出願(昭和四五年実用新案登録願第五一六九八号)をし
たところ、昭和四八年四月二三日に拒絶査定を受けた。そこで、原告は同年九月一
一日に審判請求をし、特許庁は、これを同年審判第六五三六号事件として審理し、
昭和五四年九月二八日右出願について出願公告(同年実公第三〇九九一号)した
が、実用新案登録異議の申立があつたので、原告は、昭和五五年六月三〇日付手続
補正書により実用新案登録請求の範囲の記載を訂正した(以下右手続補正書による
補正を「本件補正」という。)が、同年一二月二三日、本件補正を却下する旨の決
定(以下「本件補正却下決定」という。)及び本件審判の請求は成り立たない旨の
審決(以下「審決」という。)があり、その各謄本は昭和五六年一月二一日原告に
送達された。なお、出訴期間として三か月が付加された。
二 本願考案の要旨(本件補正後の実用新案登録請求の範囲の記載による。)
 露出に用いられる光量の十分か否かの検査と電池電圧検査とを併せ行なうように
した回路に指示装置を設け該指示装置はその付勢の際のみ、露光に十分な光量のと
きまたは露光の光量不十分のとき少なくとも一つの出力を送出するようにし、さら
に露光に用いられる光量の不足か否かに無関係に電池の所定の出力電圧に応じた限
界値に応動する限界値回路を前記指示装置に接続するようにし、それによつて、
電池出力電圧が所定値を下回つた際前記指示装置を電池回路から遮断し、電池が前
記の所定電圧を上回るときだけ前記指示装置が付勢されそれによつて前記指示装置
の出力の送出によつて電池電圧が前記の所定出力値を上回ることが指示されるよう
にし、さらに給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続
し、さらに前記光電分圧器の両端子間に並列に前記指示装置と前記限界値回路との
直列接続体が設けられているようにし、それによつて前記電池出力電圧が所定値を
下回つた際前記限界値回路が前記指示装置のみを電池から遮断し、その際にも露出
制御回路は動作しうるようにして成る電池給電式電子露出制御装置を有する写真カ
メラ。(別紙図面参照。傍線部分が本件補正によつて付加された構成)
三 審決の理由
 本願考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新
案登録請求の範囲に記載されたとおりの「露出に用いられる光量の十分か否かの検
査と電池電圧検査とを併せ行なうようにした回路に指示装置を設け該指示装置はそ
の付勢の際のみ、露光に十分な光量のときまたは露光の光量不十分のとき少なくと
も一つの出力を送出するようにし、さらに露光に用いられる光量の不足か否かに無
関係に電池の所定の出力電圧に応じた限界値に応動する限界値回路を前記指示装置
に接続するようにし、それによつて、電池出力電圧が所定値を下回つた際前記指示
装置を電池回路から遮断し、電池が前記の所定電圧を上回るときだけ前記指示装置
が付勢されそれによつて、前記指示装置の出力の送出によつて電池電圧が前記の所
定出力値を上回ることが指示されるようにして成る電池給電式電子露出制御装置を
有する写真カメラ。」にあるものと認める。
 これに対して、先願にかかる実用新案登録第一二一三七四五号(実願昭四四―一
二六二七号、実公昭五二―八四四七号。以下「引用例」という。)は、昭和四四年
二月一五日の出願であつて、その考案の要旨は、「露光量過剰表示用ランプと露光
量不足表示用ランプを有する露光量表示回路と、前記露光量表示回路の電源と、
前記露光量表示回路と電源間に接続され前記電源電圧が所定値以上の時のみ閉じる
トランジスタと、前記露光量過剰表示用ランプと並列接続された第一制御部と、前
記露光量不足表示用ランプに並列接続された第二制御部と、前記第一、第二制御部
によつて制御され両制御部が不動作時のみ閉じるスイツチ部と、前記スイツチ部を
介して前記トランジスタの出力側に接続された適正露光表示用ランプとを備え、露
光量の不足、適正過剰および電源電圧の不良を表示するようにしたことを特徴とす
る露光適正表示回路」にあるものと認める。
 ここで、本願考案と引用例の考案とを比較すると、両者はいずれも露出に用いる
光量が十分か又は不十分かの検査と電池電圧の検査とを併せ行うようにした回路に
指示装置(後者では指示用ランプ)を設け、該指示装置に電池の所定電圧に応じて
応動する限界値回路(後者ではトランジスタ)を接続し、これによつて該電池電圧
が所定値を下回つた際は該指示装置を電池回路から遮断し、該電池が所定値を上回
るときだけ該指示装置を付勢するようにして、露光適正・不適正と電源電圧の不良
を併せ指示できるようにした表示装置であるという主要構成要件では全く一致し、
唯、露出に用いる光量が適正でない場合に、前者では単一の表示のみを行う構成で
あるのに対し、後者ではこの場合さらに露光量過剰と露光量不足とに夫々分けて表
示できる別個の指示手段とそのための制御部を付加したことをもその構成要件とし
ている点で相違する。
 そこで、前記の相違点を検討するに、後者では露出に用いる光量が適正でない場
合に、それが光量が過剰によるものか又は不足によるものかをさらに細かく表示で
きるようにしたものであるが、このような細部の構成は後者が眼目とする前記主要
構成と結びついて特有の作用効果を発揮するものとは認められず、後者は具体的に
実施する際に必要によつてさらに付加することのできる単なる派生的な構成にすぎ
ないものと認められるので、このような細部構成が実用新案登録請求の範囲に記載
されているか否かによつて両者はそれぞれ別個の考案を構成するものとは認められ
ない。
 以上のとおり、
本願考案と引用例の考案は、実質上その全体構成を同じくするものであり、その目
的及び作用効果においても異なるところは認められないので、本願考案はその先願
である引用例の考案と同一と認められ、実用新案法第七条第一項の規定により登録
を受けることができない。
四 本件補正却下決定の理由
 本件補正において、実用新案登録請求の範囲に「給電電池に直接的に並列に露出
制御装置における光電分圧器を接続し、限界値回路が指示装置のみを電池から遮断
した際にも露出制御回路は動作しうる」構成を付加する部分は、実用新案登録請求
の範囲の減縮を目的とするものと認められるが、これによつて補正後の考案の目的
は「電池電圧が不十分な場合における露出制御」になるものと認められるので、補
正前の考案の目的である「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する
こと」という範囲を逸脱するものと認められる。したがつて、本件補正の前記部分
は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものと認められ、実用新案法第一三条
及び特許法第六四条第二項の規定によつて準用する特許法第一二六条第二項の規定
に違反するものと認める。
 よつて、本件補正は実用新案法第四一条及び特許法第一五九条第一項によつて準
用する特許法第五四条第一項の規定により却下すべきものとする。
五 審決を取り消すべき事由
 審決は、後記のとおり、結局本願考案の要旨を誤認したものであり、その誤認が
審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべき
ものである。
1 本願考案の要旨の誤認
 本件補正却下決定は、認定判断を誤つたものであり、したがつて、審決が右決定
を前提として本願考案の要旨を出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲の
記載のとおりに認定したことは、本願考案の要旨を誤認したものといわなければな
らない。
 すなわち、右決定は、本件補正により考案の目的が補正前のそれを逸脱したか
ら、右補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとしたが、それ
は誤りである。
 そもそも、考案の構成要件は、
その明細書に記載された目的により厳格に制限されるべきものではない。明細書に
おける考案の目的に関する記載は、それが「できたらいいな」という一つの希望を
含む意味で、考案の構成の記載に比較して重要性が少ない。たとえば、明細書中で
目的に関する記載が欠けていても、考案の構成及び作用効果の記載からその考案を
容易に実施できる限り、出願が拒絶されたり登録が無効にされたりすべきものでは
ないのである。
 右の意味で、本件補正により本願考案の目的の範囲が補正却下の決定にいうとお
り変更されたとしても、それは、本願考案の課題解決の希求の範囲が拡がつたもの
にすぎず、これによつて本願考案の本質がいささかの変更をも受けるものではない
し、本件登録請求の範囲が変更されるものでもないのである。
 かくして、本件補正が登録請求の範囲を変更するかどうかは、補正前の構成と補
正後の構成とを対比し、後者が前者から予測できないかどうかによつて決せられる
べきものである。
 本件補正についていえば、本件補正前における本願考案の構成要件は、単に「露
光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する」ための指示装置に尽きるも
のではなく、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」(傍点原告)で
あつて、露出制御回路が露出制御装置に含まれる概念であることは、当業者に周知
の事実である。
 そして、本件補正に係る構成要件、すなわち、「給電電池に直接的に並列に露出
制御装置における光電分圧器を接続し、さらに前記光電分圧器の両端子間に並列に
前記指示装置と前記限界値回路との直列接続体」を電池給電式電子露出制御装置に
設けることは、当業者にとつて苦もなく実施できる周知の技術的事項にすぎない。
 すなわち、本願実用新案登録請求の範囲は、もともと「露出制御装置を有する写
真カメラ」であつて、本来的に、本件補正が新たに付加した構成要件を含むもので
ある。この点に関して、被告は、「露出制御装置を有する……」という字句が請求
の範囲の末尾に記載されていても、必ずしも露出制御回路そのものを全く構成要件
としていないものが多数存在し、
本願考案において「露出制御装置を有する」とは本願考案が用いられる対象を示す
にすぎず、「露出制御のための手段」そのものは補正前の考案の目的及びそれを達
成するための必須構成要件の範囲外のものである旨主張するが、本願考案は、露出
制御回路そのものを構成要件とするものであるから、被告の右主張は理由がない。
 そして、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は
動作しうる」構成が明細書及び図面に記載されていることは、甲第一四号証(本願
考案の実用新案出願公告公報)六欄下から二行ないし七欄一二行、七欄二一行ない
し二四行、八欄三二行ないし四一行、九欄二一行ないし二五行、五欄三行ないし五
行、五欄一二行ないし一四行、六欄一二行ないし一四行及び各図面の記載から明ら
かであり、かつ、露出制御装置を、右甲第一四号証五欄三行ないし五行、五欄一二
行ないし一四行、六欄一二行ないし一四行及び第一図に記載されたように、切換接
点4、6、13、14、18がレリーズによつて作動状態にされるようにするとと
もに、切換接点13、14の一方13を介してトランジスタ12のコレクタをシヤ
ツター制御電磁石15に接続する構成は、当業者にとつて周知の技術である。
 また、本願明細書には、本件補正により付加された構成要件により、本願考案が
全体としてどのような作用効果を達成するかも詳細に記載されている(甲第一四号
証八欄一八行ないし二四行及び一〇欄一行ないし八行参照)。
 したがつて、本件補正に係る構成要件の付加によつて考案の本質が変更すること
はないというべきである。
 なお、本件補正は、願書に最初に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に記
載の構成要件に新たな構成を付加することによつて、もとの実用新案登録請求の範
囲を限定制限するものであるから、このことは実用新案法第一三条、特許法第六四
条第一項第一号の「特許請求の範囲の減縮」に該当することが明らかである。
 以上のとおり、本件補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものではな
い。しかるに、これと異なる認定判断の下に右補正を却下し、
審決において出願公告された明細書によつて本願考案の要旨を認定したのは、本願
考案の要旨を誤認したものといわなければならない。
2 引用先願考案との異同の判断の誤り
 本件補正後の考案が引用例と比較して優れた作用効果を奏するものであること
は、甲第一四号証八欄一八行ないし二四行及び一〇欄一行ないし八行の記載から明
らかである。
 したがつて、審決が、前記のように本願考案の要旨の認定を誤つたことにより、
本願考案と引用先願考案との異同について、判断を誤つたことも明らかである。
第三 請求の原因に対する被告の認否及び主張
一 原告主張の請求の原因一、三及び四の各事実は認める。
二 同二及び五の主張は争う。本件補正後の実用新案登録請求の範囲の記載は同二
記載のとおりであるが、本願考案の要旨は審決認定のとおりであり、また、原告主
張の審決取消事由は、後記のとおりいずれも理由がなく、審決には、これを取り消
すべき違法の点はない。
1 本願考案の要旨の誤認の主張について
 本件補正は、補正前の考案の「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指
示する」こと、つまり、被写体の明るさ及び電池をチエツクして撮影可能か否かを
事前に指示するという目的の範囲内で、その目的達成のために新たな構成要件を付
加したものではなく、これとは全く異なつた「露出制御回路の動作」、つまり、シ
ヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした構成を付加しようとするものである。
それゆえ、この様な補正は、一般公衆が、出願公告された補正前の「露光適正・不
適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する」ことを目的として構成された実用新案
登録請求の範囲からは到底予測できないものである。つまるところ、本件補正は、
形式上構成要件をさらに付加することによつて表面上実用新案登録請求の範囲を減
縮したかのように見えるが、補正前の考案の目的の範囲外のこれとは関係のない構
成を付加したことによつて全体の構成が異なつたものとなり、実用新案登録請求の
範囲を実質的に変更したものであるから、特許法第一二六条第二項に規定されてい
る「変更」に相当することは明らかである。
 原告は、
補正前の考案は、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」であつて、
露出制御回路が露出制御装置に含まれる概念であることは当業者に周知の事実であ
る旨主張する。
 しかし、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」、すなわち、いわ
ゆる「電子シヤツタを有するカメラ」に関する発明・考案は、すでに登録されたも
のだけでも数え切れないほど存在している。これらのなかには「露出制御装置を有
する……」という字句が請求の範囲の末尾に記載されていても、必ずしも露出制御
回路そのものを全く構成要件としていないものが多数存在している。そして、補正
前の考案は、電池給電式露出制御装置を有する写真カメラで使用される「露光の適
正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する回路」を要旨とするものである。
つまり、「露出制御装置を有する」点は、本願考案が用いられる対象を示している
だけで、「露出制御のための手段」そのものは、補正前の考案の目的及びそれを達
成するための必須構成要件の範囲外のものである。
 原告は、また、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御
回路は動作しうる」構成が明細書に記載されている旨主張する。
 しかし、原告が指摘する明細書及び図面の部分には、要するに、シヤツタ・レリ
ーズの前段階で撮影前の被写体の明るさ及び電池チエツクの事前操作を行い、次
に、シヤツタ・レリーズの後段階で、接点の切換により被写体の明るさ及び電池チ
エツクのための指示回路を全く切離し、この指示回路で使用されていたホト抵抗
(光電素子)及び電池を全然別の機能を有する露出制御回路に転用すること、が記
載されているだけである。そこには、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断
した際」、つまり電池電圧が十分な状態から不十分な状態になつた際でもなおかつ
露出制御回路を動作させるために、どのような具体的な手段を設けるのか、またな
ぜその状態でも露出制御回路が動作するのか、についての説明は全くないのであ
る。つまり、付加する補正事項は、それを実施するための技術的な裏付けを欠いて
いるのである。
 ここで、ついでながら、
本願明細書及び図面の記載から明らかなように、シヤツタ・レリーズの前段階、つ
まり、撮影前の被写体の明るさ及び電池チエツクのための指示回路が形成されてい
る状態と、シヤツタ・レリーズ後段階、つまり、シヤツタの開閉動作を制御する露
出制御回路が形成されている状態とは、一部の部品が転用されることはあつても、
それぞれの回路が機能的には全く独立した回路として動作するのであつて、互に何
の影響も与え合わないものなのである。というのは、指示回路がどのような状態で
あつたとしても、シヤツタ・レリーズ後段階で回路が切り換えられ露出制御回路が
形成されると、この露出制御回路は、指示回路とは全く独立独歩の動作を始めるの
である。これを見てもわかるように、付加する補正事項は、補正前の考案の目的は
勿論、機能面でも全く結びつかない異質のものなのである。
 原告は、また、本件補正により付加された構成は当業者に周知の技術である旨主
張する。
 しかし、常識上、電池の良・不良をチエツクする回路を有する装置では、該チエ
ツク回路が「電池電圧が不良」を指示した場合には、露出制御回路をロツクしてシ
ヤツタ開閉動作をしないようにすることが素直な考え方である。なぜなら、電池電
圧が不良であると、正確な露出制御が期待できないからである。追加する補正事項
は、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は動作し
得る」つまり、電池電圧が不良(たとえそれが「平均動作電圧以下でさらに許容さ
れる動作電圧以上」であるにしても)状態でもなお且つ露出制御回路を動作させよ
うとするものであるから、通常の常識と逆の考え方であり、ユニークな技術思想と
いうべきである。
 以上のとおりであるから、本件補正を却下したことは正当であり、したがつて、
審決が本願考案の要旨を誤認した旨の原告の主張は理由がない。
2 引用先願考案との異同の判断の誤りについて
 本件補正が却下を免れないものであることは前記のとおりであるから、補正後の
考案の効果として原告が主張する事項は、本願考案と引用先願考案の異同の判断に
影響するものではないが、念のため付言すれば、
原告主張の作用効果は、電池電圧が通常の作動電圧以下であつて作動不能状態にな
る電圧に至る間を指示するというものであるが、これらは、本件補正によつて登録
請求の範囲に付加した構成によつて当然に生じる作用効果ではない。
 結局、本件補正却下の決定が正当である以上、本願考案の要旨は出願公告された
明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものとなり、これを前提と
してなされた本件審決に原告主張の誤りはない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 原告主張の請求の原因一、三及び四の各事実(特許庁における手続の経緯並び
に審決及び本件補正却下決定の理由)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第一四号証(本願考案の実用新案出願公告公報)により認
められる本件補正前における本願考案の実用新案登録請求の範囲(以下「補正前の
請求範囲」という。)の記載(審決が本願考案の要旨と認定したところと同じ。)
と当事者間に争いのない本件補正後における本願考案の実用新案登録請求の範囲
(以下「補正後の請求範囲」という。)の記載(請求の原因(二)に記載のとお
り。)とを対比すれば、補正後の請求範囲は補正前の請求範囲に請求の原因(二)
の記載中の傍線部分の記載を付加することにより、本件補正前の本願考案の構成に
右部分の記載に示す構成を付加し、これによつて、本願考案の実用新案登録請求の
範囲を減縮したものであることが明らかである。
2 前記争いのない本件補正却下決定の理由によれば、本件補正却下決定が本件補
正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとした根拠は、補正後の
考案の目的が補正前の目的の範囲を逸脱したという点にあるものと認められる。
 しかしながら、補正前の請求範囲の記載と補正後の請求範囲の記載とを対比すれ
ば、本件補正後の本願考案が依然として本件補正前の本願考案の目的である「露光
の適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示すること」を全く同程度に達成す
るものであることは明らかである。もつとも、
本件補正後の本願考案が「電池出力電圧が所定値を下回つた際にも露出制御装置が
動作しうる」という作用効果をも奏するものであることも、補正後の請求範囲の記
載自体に徴して明らかであり、この点は、観点を換えれば、その考案の目的の一部
ということもできないわけではないが、それは、本件補正前の本願考案における前
記目的に単に付加されたにすぎず、右目的がそれによつて置換されたとみられるも
のではない。しかも、右付加された作用効果ないしは目的も、本件補正前の本願考
案のそれと関係なく単に「露出制御装置が動作しうる」というにすぎないものでは
なく、本件補正前の本願考案の目的に含まれる「電池出力電圧低下の表示」を行な
うための構成である「指示装置の電池回路からの遮断」との関係において「右遮断
が露出制御装置の動作に影響を与えない」ことをいうにほかならないものである。
換言すれば、それは本件補正前の本願発明の目的の達成に附随して生ずる事態に関
する作用効果であり、その意味で右目的に従属し、これに奉仕するものとみられる
のである。したがつて、右の付加された作用効果ないしは目的は、本件補正前の本
願考案の目的に付随する副次的なものというべきであり、これを右補正前の考案の
目的を逸脱するものとみるのは相当でない。
 なお、右の付加された構成と本件補正前の本願考案の構成との関係の面からみて
も、それは本件補正前の本願考案の目的とは全く別の「露出制御回路の動作」、つ
まり、シヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした構成、を付加するものである
ということはできない。すなわち、シヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした
構成は「露出制御装置」にほかならないところ、それが本件補正前の本願考案の構
成要件であつたことは、補正前の請求範囲の末尾における「電池給電式電子露出制
御装置を有する写真カメラ」の記載から明らかであり、また、この要件に照らせ
ば、本件補正前の構成においても明記を欠くとはいえ当然存在したものと認められ
る指示装置、限界値回路等と露出制御装置の各部(電源電池、
光電分圧器等)との間の接続関係を特定のものに限定したにすぎないものであると
ころからみても、右の付加された構成が本件補正前の本願考案の目的と関係のない
「露出制御回路の動作」を目的とするものとは考えられないのである。
 ところで、被告は、「電池給電式電子露出制御装置を有する」との記載は考案が
用いられる対象を示しているだけで、露出制御のための手段そのものは本件補正前
の本願考案の目的及びそれを達成するための必須の構成要件の範囲外のものである
旨主張するが、実用新案登録請求の範囲に明記されている事項である以上、それが
考案の構成に欠くことのできない事項であることは当然であり、本件補正前の本願
考案は、露出制御装置の存在を前提として考案されたものといわなければならない
から、被告の右主張は採用できない。
 また、被告は、本願考案の明細書及び図面には、限界値回路が指示装置のみを電
池から遮断した際、つまり電池電圧が不十分な状態になつた際でもなおかつ露出制
御回路を動作させるためにどのような具体的手段を設けるのか、また、なぜその状
態でも露出制御回路が動作するのかの説明が全くないから、本件補正によつて付加
する事項は技術的裏付けを欠く旨主張する。しかし、本願考案の明細書及び図面
に、指示装置を切り離した後にホト抵抗と電池を露出制御回路に転用すること(前
示のように、本願考案は露出制御装置を有するカメラにおいて指示装置を設けたも
のというべきであるから、むしろ、露出制御用のホト抵抗と電池を指示装置に転用
したとみるべきであろう。)が記載されていることは被告の自認するところであ
り、右構造によれば、電池電圧が露出制御回路の動作にとつて十分であるかぎり、
指示装置を切り離した後で露出制御回路が動作しうることは明らかである。他方、
補正後の請求範囲の記載は、電池電圧が「所定値」を下回つた際に指示装置を切り
離すというものであるから、右「所定値」の選定次第で右のような可能性が確実に
生ずることは明らかである。そして、補正後の請求範囲の記載によれば、その記載
中の「その際にも露出制御回路は動作しうるようにして」とは、
同じく「給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続し、さ
らに前記光電分圧器の両端子間に並列に前記指示装置と前記限界値回路との直列接
続体が設けられているようにした構成(この構成が本件補正前の明細書及び図面に
記載されていることは前記甲第一四号証により明らかである。)によつてもたらさ
れる前記のような可能性を示すにとどまるものと解するのが相当であるから、その
技術的裏付けとしては、本願考案の明細書及び図面における前示記載で十分という
べきであり、被告の右主張も失当である。
3 以上によれば、本件補正は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で考案
の構成要件を付加することにより実用新案登録請求の範囲を減縮するものであり、
かつ、考案の目的を変更しないものというべきところ、このような場合には、実質
上実用新案登録請求の範囲を変更するものにあたらないとするのが相当であるか
ら、これを変更にあたるものとし本件補正却下決定を正当とする前提のもとに、本
願考案の要旨を補正前の請求範囲の記載のとおりに認定した審決は、本願考案の要
旨を誤認したものといわなければならず、また、その誤認が審決の結論に影響を及
ぼすべきものであることは明らかである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認
容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九
条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 石澤健 楠賢二 岩垂正起)
別紙図面
<12346-001>

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ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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