弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審に於ける未決勾留日数中百日を被告人が言渡された懲役刑に算入す
る。
         理    由
 弁護人名尾良孝の論旨について。
 第一点 論旨は、要するに原審は昭和二十四年八月二十五日の第一回公判期日に
検察官から申請した証人A及びBの取調を次回公判期日(同年九月十五日)に行う
旨決定した。而して第二回公判期日には、被告人が病気により不出頭のため同公判
期日を延期し、第三回公判期日を同年十月十一日と指定し、引続き準備期日として
右十五日出頭した前記証人の尋問調書を作成したものであるが、右手続は刑事訴訟
法第百五十八条、第二百八十一条並びに第百五十七条に違背したものであるから破
棄を免がれないというにある。よつて記録を調査するに、被告人は昭和二十四年八
月二十五日午前十時の第一回公判期日に出頭し、同日第二回公判期日は同年九月十
五日午前十時なる旨並びに該期日に所論の証人の尋問をなすべき旨決定の言渡を受
けたものである。然るに被告人は同年九月十三日医師Cの診断書を添え右第二回公
判期日変更の申請をしておるが、右公判期日には前記証人はいずれも出頭したから
原審は所論のように右公判期日を変更し引続き出頭した右証人につき準備手続とし
て検察官矢部昌彰並びに弁護人秋草愛一、同津川友人立合の上証人尋問をしてお
る。刑事訴訟法第百五十八条によれば、裁判所が裁判所外に於て証人の尋問をなす
には検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き且つ予め検察官、被告人及び弁護人
に尋問事項を知る機会を与えなければならぬ。今、この後者について被告人が同条
所定のような機会を与えられたか否かを調査するに、被告人が提出した前掲医師の
診断書は刑事訴訟規第百八十三条所定の合式のものではないから、被告人は畢竟正
当の理由なく指定の公判期日に出頭しなかつたものである。従つてかかる場合には
被告人は法律上の義務懈怠の効果として右公判期日<要旨>になされた訴訟行為につ
いてはこれを知る責務がある。しかし右準備手続は同公判期日においてなされた形
がないから公判期日外に行われたものと認むべきである。しかるに原審は
該証人尋問事項を被告人に知る機会を与えた形跡はない。従つて上述のような事情
の下に行われた尋問は違法である。しかし第三回公判期日には被告人並びに弁護人
は各出頭し、裁判官から右準備手続に於ける証人尋問調書を読聞けたところ被告人
は事実は多少相違しておる旨の陳述しただけで何等右尋問手続には異議を述べなか
つたのであるから前記の違法はいずれも責問権の抛棄によつて救済治癒されたもの
と解すべきである。従つて原判決が所論証人尋問調書を採用したのは正当であつて
原判決には所論のような違法はない。論旨理由ないものである。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条刑法第二十一条に則り主文の通り判決する。
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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