弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成21年10月30日判決言渡
平成21年(行ケ)第10038号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年10月22日
判決
原告特定非営利活動法人
全世界空手道連盟新極真会
訴訟代理人弁理士広瀬文彦
訴訟代理人弁護士木村晋介
同今井秀智
同鈴木正勇
被告Y
主文
1特許庁が無効2008−890036号事件について平成21年1
月7日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被告が有する下記商標登録(本件商標)について原告が商標法(以
下「法」という)4条1項7号,8号,10号,15号,3条1項柱書に基。
づき商標登録無効審判請求をしたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたこ
とから,原告がその取消しを求めた事案である。

(商標)
(指定商品)
第25類
「被服,空手衣」
2争点は,①被告の有する本件商標が高度の悪意を持って出願されたもので公
序良俗を害するおそれがある商標であるか(法4条1項7号,②本件商標が)
原告の著名な略称を含む商標に該当するか(法4条1項8号,③本件商標が)
他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている
原告使用標章に類似する商標であって,その商品又は類似する商品について使
用するものに該当するか(法4条1項10号,④本件商標が原告の業務に係)
る商品と混同を生ずるおそれがある商標に該当するか(法4条1項15号,)
⑤被告に本件商標を使用する意思があるか(法3条1項柱書き,である。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
被告は,平成16年10月22日,本件商標について商標登録出願をし,
平成19年11月19日に登録査定を受け,平成20年1月11日に特許庁
から商標登録第5103501号として設定登録を受けた。
,,()これに対し原告は平成20年5月2日法4条1項7号公序良俗違反
・8号(著名略称違反・10号(周知標章違反・15号(混同のおそれ)))
・3条1項柱書(使用意思欠如)を理由に本件商標の商標登録無効審判を請
求(甲28)したので,特許庁は,同請求を無効2008−890036号
事件として審理した上,平成21年1月7日「本件審判の請求は,成り立,
たない」旨の審決をし,その謄本は平成21年1月19日原告に送達され。
た。
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件商
標は上記各法条のいずれにも違反したとはいえないから無効とすることはで
きない,というものである。
(3)審決の取消事由
しかしながら,本件商標には以下に述べるとおりの無効事由があるから,
審決は違法として取り消されるべきである。
ア法4条1項7号違反
(ア)日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が抜け
駆け的に出願したような場合には,出願人の悪意や出願の動機の不純性
等の主観的要素を参酌して,登録を拒絶・無効とすべきであり,特にこ
れが他人の名称のような場合,他人が選択し又は選択しようとする商標
を剽窃して出願することは公正な取引秩序を乱すものであり,公序良俗
を害するおそれがあるから,法4条1項7号に該当すると解すべきであ
る。
(イ)この点,原告はAが創設した極真会館の元構成員等を構成員とする
団体であるところ,Aの生前,極真会館の構成員等はその活動趣旨に沿
う限りにおいてその許諾の下に「極真会」等の極真関連商標を自由に使
用することができ,原告も極真関連商標を使用することができる地位に
あった。
,,,しかし平成6年4月26日にAが死亡した後極真会館は内部分裂
組織改変,離脱等が続き,またB(B)による単独の商標権取得といっ
た背信行為や他の継続的商標使用者に対する妨害行為が発生し,Bと原
告を含む他の団体や被告とは係争関係にあった。極真会館は空手の流派
の中でも極めて著名であり,A死後の極真会館の混乱は注目され,その
行く末が案じられているものであった。
そのような中で,原告は商標の問題により本来的な活動に支障が出る
ことを懸念し,新たな紛争を回避してより活発な活動を行うため,別件
訴訟(東京地裁平成11年(ワ)第12483号,同平成12年(ワ)
第25437号)における裁判上の和解(平成15年4月15日成立)
により,他の団体と峻別する目的で,断腸の思いで「特定非営利活動法
人国際空手道連盟極真会館」から「特定非営利活動法人全世界空手道連
盟新極真会」と名称を変更し,新たな商標を使用することとした。新名
称の採用(名称の変更)に関する正式な記者発表は,本件商標の出願日
である平成16年10月22日より前の平成15年7月11日に,赤坂
プリンスホテルにおいて行われた。上記のような状況の中で発表された
原告の新名称の採用は,記者発表の時点で業界内において瞬時に広く認
識された。また,原告は,平成14年1月16日に出願し平成16年3
月19日に設定登録を受けた「新極真会」を標準文字で書して成り第4
1類「技芸・スポーツ又は知識の教授等」を指定役務とする商標(登録
),,第4756427号を有しているところAが創設した極真会館では
Aの生前においてもその死後においても「新極真会」との商標は使用さ
れておらず,同商標は原告によって新たに採用されたものである。
このようにして新たに採用された原告の名称及び「新極真会」との商
標は「極真」の語を使用して極真空手の教授を行っている団体が複数,
存在しつつ相互に棲み分けがなされ混乱等の生じていない状況の中で,
他の従来からの団体及び極真に関連する商標と容易かつ明確に区別され
ているところである。
これに対し,本件商標は,原告の名称(略称)及び原告が有する登録
商標である「新極真会」の漢字とその欧文字表記である「SINKY
OKUSINKAI」から成る商標である(なお厳密には,原告の欧文
字標記は「SHINKYOKUSHINKAI」である。下線は判決で
付記。)
そうすると,被告が本件商標を今後どのような関連商品に使用したと
しても,需要者の間で被告と原告とに何らかの関係があるとの誤認が生
じることは明らかであり,原告が商標「新極真会」に蓄積させてきた信
用の剽窃を許す結果となる。
たとえ被告が,極真に関連する商標を独占する権原を有していたとし
ても,また「新極真会」と「極真会」とが類似すると判断されるとして
も,原告がその名称として新たに採用し現に誠実に事業活動を行うこと
により信用を構築してきた「新極真会」との商標を使用する権原が被告
にないことはいうまでもないのであって,被告がこれについて商標権と
いう独占権を取得することは到底認められるものではない。
(ウ)被告は,極真関連商標を本来自由に使用できる地位にあり誠実に極
真空手の教授を行っているAの弟子の団体等に対して,多額のロイヤル
ティ(使用料)を請求したり,パブリシティ権や肖像権の侵害であると
通告するなどしており,自己が極真会館の真の承継者であると標榜しな
がら,真正な極真空手の発展を願うどころか,かえって極真空手を世に
広めることを妨げるような行為に明け暮れている。
原告における前記「新極真会」の名称及び商標の採用は,被告と直接
交渉等をして定めたものではないが,被告は以前から原告の存在を熟知
して原告に対する妨害行為を行っていたのであって,原告が新名称とし
て「新極真会」を採用したことは被告も当然に熟知しており,本件商標
を抜け駆けのように出願する行為も一種の妨害行為である。そればかり
か,被告は原告の所有する商標権までも消滅させて原告の活動を阻害し
ようとしており,原告が有する「新極真会」との前記登録商標第475
6427号に対して無効審判を請求し(無効2007−890149号
〔平成20年7月25日不成立審決,審決取消訴訟は知的財産高等裁〕
判所平成20年(行ケ)第10324号〔平成21年5月27日請求棄
却判決,被告の上告により最高裁判所に係属中,更に上記訴訟が確定〕)
していない段階で,同一の原告商標について実質的には蒸し返しにすぎ
ない無効審判を新たに請求している。
しかも被告は,空手の教授が含まれる第41類の指定役務「技芸・ス
ポーツ又は知識の教授」については,上記のとおり既に原告が登録商標
第4756427号の「新極真会」を有しこれを使用して活動すること
で需要者に広く認識されているから,被告が本来的な業務であるはずの
空手の教授については「新極真会」との本件商標を使用することはでき
ない。それにもかかわらず本件商標に係る第25類についてのみ商標を
使用することは現実的ではなく,権利を取得してもおよそ意味をなさな
いことになる。
そうすると,被告は本件商標を使用する意思を持って出願したのでな
く,原告の活動を専ら妨害する目的で出願したものと考えられる。自ら
全く使用する意思がない本件商標に被告の業務上の信用が蓄積すること
は将来的にもあり得ず,本件商標は原告の活動を妨害するための不当な
権利行使の道具としてのみ使用されるのであって,そのような商標権が
存在することは到底認められるものではない。
(エ)以上のとおり,本件商標は原告の名称及び原告の有する上記登録商
標第4756427号と同一の文字列を含む商標であり,被告は明らか
に使用する意思がなく原告の活動を不当な権利行使により妨害する目的
で出願したものであり,仮に被告がこれを使用すれば原告の業務と混同
を生ずることは明らかであるから,真に商標の使用を欲する者の商標の
使用や商標権の取得を阻害し,更には他人の経済活動を不当に制限する
とともに需要者の不測の混乱を招き,利益を害するものであって,競業
秩序を乱し,社会的妥当性に欠ける高度の悪意が認められる商標という
べきで,本件商標は法4条1項7号に違反して登録されたものである。
(オ)なお審決は,法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害する
おそれ」の判断に当たり,知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第1
0392号判決を引用し,同判決において示された判断基準を用いて法
4条1項7号該当性を否定するが,同判決は本件と事案が異なるから,
審決の上記判断は妥当でない。
イ法4条1項8号違反
原告の正式名称は「特定非営利活動法人全世界空手同連盟新極真会」であ
るが,原告の業務を表示する商標として使用している「新極真会」の部分が
特に顕著性のある部分であり,原告を指し示す場合には冗長な正式名称全体
ではなく「新極真会」の部分を用いる場合が多い。
そして,原告の略称は,特に空手に関心のある者等には名称変更と同時に
即座に極めて著名となっているほか,原告の活発な活動や各種メディアへの
露出等により一般にも広く認識されている。特に本件商標の指定商品中「空
手衣」については,需要者は空手に関心がある者であって,原告の業務であ
る「空手の教授」の需要者と共通するものである。また,原告は現に原告の
名称と同一の商標「新極真会」を胴着に付して使用しており,仮に原告の名
称が世間一般に広く知られているものでなかったとしても,少なくとも空手
。,に関心がある者の間では原告の商標として広く認識されているこのように
「新極真会」の名称は空手の教授等の業務を行う原告の正式名称の略称とし
て著名であると考えられ,本件商標の指定商品である「空手衣」について原
告以外の者が本件商標を使用すれば,空手の教授を業務とする原告の人格的
な利益を害することは明らかである。
さらに,原告の新名称採用の経緯や現在の極真空手に関する他の団体との
関係等を考慮すると,他の団体が「新極真会」の語を使用し,また「新極真
会」の名称を採用することは考えられない。空手業界に限らず,原告以外の
他人が「新極真会」の商標及び名称を使用している事実はなく,また,他人
である被告が使用すれば原告と混同を生じることは明らかであるから,被告
は将来においても本件商標を使用することはない。
そうすると,本件商標の出願時には,既に「新極真会」は原告の業務のみ
を表す原告の略称であって,かつ出願時点で既に著名なものであったという
べきであるから,本件商標は法4条1項8号に違反して登録されたものであ
る。
なお,本件商標「新極真会/SINKYOKUSINKAI」は,ス
ペースの有無において原告の略称と相違し,また原告が欧文字で表示した場
合に中間に「H」があるか否かにおいて微差があるが,この程度の小手先の
変更で本号が適用されないとする解釈はあまりにも杓子定規であり,剽窃を
企てる者を利するのみであるから,法4条1項8号の適用に当たりこのよう
な差異は問題にならないというべきである。
ウ法4条1項10号違反
原告は,極真空手の創設者である故A氏が創設した国際空手道連盟極真会
館の後継団体であり,空手の教授を中心として活動しており,広く全国52
7箇所に道場を開設して活動を継続し,国内の総会員数は約2万人,広く世
界でも73カ国,総会員数7万人の会員を獲得している。原告は毎年全日本
大会を開催するほか,2年毎に世界各国から代表を迎えて「世界大会」ない
し「ワールドカップ」として世界的な規模の選手権大会を盛大に開催してお
,,。りその様子はテレビでも放映され雑誌等でも数多く取り上げられている
その他,雑誌等には新極真会の活動や新極真会に所属する選手等の記事や広
。,「」告等も多数掲載されているさらに世界各国に商標出願をして新極真会
の商標を誠実に使用している。
以上に加え,原告は空手関連商品に「新極真会」の名称を使用して真摯に
事業を展開している。例えば,原告は空手の教授に関連する胴着や帯,関連
するTシャツ,DVD,空手の教授に関する書籍等の商品に「新極真会」の
,「」,商標を付して販売しているし機関誌である空手LIFEを毎月発行し
空手の普及や原告の活動の更なる周知に努めている。空手LIFEの発行部
数は1月で約1万部であり,売上高は約300万円である。購読者層は,国
内外の会員のみならず,スポンサー,取引各社,関係者更に一般購読者等に
広がっている。
そして,原告は,前記のとおり,平成14年1月16日に出願し,平成1
6年3月19日に設定登録を受けた「新極真会」を標準文字で書して成り第
41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定役務とする前記商標(登
録第4756427号)を有しているところ,上記商標の指定役務であり原
告の本来的業務である「空手の教授」を行うに当たり「新極真会」との標,
「」「」,章を本件商標の指定商品である空手衣やTシャツ等に使用しており
原告に所属する選手,生徒はすべて「新極真会」が表示された胴着を着用し
て空手を行っている(ちなみに,他の団体においても自己が所属する団体名
又は商標が表示された空手着を着用して空手を行っている実情がある。原。)
告の指導する会員は「新極真会」が付された胴着を原告から購入することと
なっており,原告を表す「新極真会」が付された胴着は相当程度の販売量が
認められるものである。
以上のような原告の活動により,原告の名称ないし上記標章は,本件商標
の出願時において既に胴着の商標としても周知・著名となっていたものと考
えられる。その後も原告は隆盛に活動しており,平成21年1月7日の審決
時においても周知・著名性は維持され,または高まったものと考えられる。
そして,原告が商標権者である前記登録商標の指定役務「空手の教授」と
被告が商標権者である本件商標の指定商品「空手衣」とは需要者が共通して
いるため,極めて密接な関連性を有するものであって,上記のように原告の
商標「新極真会」は原告の本来的な業務である「空手の教授」を表示する商
標として周知・著名であるため,同時に原告の「空手衣」を表示する商標と
しても周知・著名性を獲得しているものであると考えられる。すなわち「空
手衣」は原告の主たる業務である「空手の教授」に付属する付帯商品とも考
えられる。
このように,本件商標と原告の使用する上記標章とは「シンキョクシン,
カイ」の称呼を同一にすることは明らかである。
したがって,本件商標は法4条1項10号に違反して登録されたものであ
る。
エ法4条1項15号違反
前記のとおり,原告の有する「新極真会」との商標は,原告の役務「空手
の教授」を表示するものとして本件の出願時点で既に周知・著名性を獲得し
ていた。また,その付帯商品である胴着についても付帯商品の商標として同
様に著名であった。
そして極真関連商標は複数の団体が使用しているとしても,原告が新たに
採用した「新極真会」については原告のみが使用しているものであり,原告
の活動及び業界内の混乱,新名称採用の経緯等からすれば「新極真会」の,
語を将来的にも原告以外の者が使用する可能性がないことは明らかである
し,他人が使用すれば原告の業務と混同を生じることも明らかである。
また,原告の構成員及び団体に所属する者は,道場において必ず商標「新
極真会」が表示された胴着を着用することとなっており,また他の団体にお
いても付属商品については同様の取扱をうけていることから,たとえ法4条
1項10号における原告商標の周知性が認められない場合があったとして
も,原告の活動と密接な関連性がある第25類「空手衣」等について被告が
本件商標を使用すれば原告のものであるとの混同を生じることは明らかであ
る。
したがって,本件商標は法4条1項15号に違反して登録されたものであ
る。
オ法3条1項柱書き違反
審決は,被告が極真会館ビル内においてTシャツ,ジャージ及び空手着を
販売していると認定するが,被告は本件商標の指定商品のみならず,極真会
館を真に承継した者であると主張するのみであって,本来的な業務である空
手の教授を実施する営業主体となる実体を有していない。被告自身はフラン
チャイズのライセンサーとなれると見込んでいるようであるが,実体のない
団体又は個人が他人に商標を使用させる目的で商標を取得することは,法制
度上認められない。
そして「新極真会」との商標は,既に極真会館を真に承継する団体である
原告が採用し,空手の教授等について実際に使用され,需要者に現実に認識
されている名称及び商標であって,被告は他の団体と峻別する目的を持って
本件商標を新たに採用したものでなく,第25類「被服,空手衣」に使用す
る意思があるとは到底考えられない。仮に被告がこれを使用した場合には,
被告のものであるとは認識されず原告のものであると認識され,混同を生じ
ることは必定であり,被告と原告との間になんらかの関係があるとの誤解が
生じることが明らかである。したがって,Aの真の承継者は被告自身のみで
あると主張する被告にとって,本件商標の使用はかえって不利益を招来する
ことになるとも考えられる。また原告の著名性にフリーライドして不正の利
益を得る目的や,劣悪な商品を販売して原告の評価を下げるために使用する
目的であれば,真正な使用意思とは認められない。
このように,本件商標は法3条1項柱書の規定に違反して登録されたもの
である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)被告はAの娘であり,かつてAが運営していた極真会館の直接の流れを
受け継ぎ,現在,Aが運営していた道場を「国際空手道連盟極真会館」と
の名称で夫と共に運営し,本部道場において150名ほどの会員に対し,空
手のみならずAの哲学などを教えているほか,A記念館を経営して生計を立
てている。
(2)過去にAの弟子で極真会館から独立していった者はいたが,独立すると
いうのは師から離れるということであるから,これらの弟子はAの写真や名
称を使用することはなかった。
Aの極真会館の流れを持つ団体の中で,被告の極真会館以外に「極真」と
いう名前が付くものは「新極真会」と「極真館」のみであるが,Aの名前,
や写真等が使われながら少し名前が違うだけで別組織とされ,金銭的に利益
を上げているというのが現状である「極真」という語が使用されると,新。
極真会も極真会も同じものであると思われてしまうのであって,組織が違う
というのであれば互いに明確に住み分けるべきであり「極真」の文字が入,
った商標を被告の運営する極真会館以外に使用されることは許し難い。
なお「新極真会」及び「極真館」の両者とも現在訴訟が係属中である。,
(3)被告は「新極真会」との名称は使用していない。
第4当裁判所の判断
(),(),1請求原因(1)特許庁における手続の経緯(2)審決の内容の各事実は
当事者間に争いがない。
2本件における事実関係
証拠(甲8∼13,15,16,17の1・2,18,19の1∼30,2
0の1∼46,21の1∼19,22の1∼4,23,26,27,33の1
∼3,34,35,36の1∼17〔各枝番含む,37,38,40の1∼〕
47〔各枝番含む,41∼47,48の1∼7〔各枝番含む,49∼55,〕〕
56の1∼21,57,58,59∼65の各1・2,66,67∼99,1
01∼116,118∼140,142∼249,251∼255)及び弁論
の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)Aは,極真空手と呼ばれる空手の流派の創始者であり,昭和39年,同
空手に関する団体として国際空手道連盟極真会館(極真会館)を設立し,平
成6年4月26日の死亡時まで,その代表者として,極真会館の館長ないし
総裁と呼ばれていた。Aが死亡した平成6年4月当時,極真会館は,日本国
内において,総本部,関西本部のほか,55支部,550道場,会員数50
万人を有し,世界130か国,会員数1200万人を超える勢力に達してお
り,極真会館は,毎年「全日本空手道選手権大会」及び「全日本ウェイト,
制空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会を開催すると共に,
4年に1度「全世界空手道選手権大会」との名称を付した極真空手の大会,
を開催していた。
(2)Aの死亡後,平成6年5月10日に開催された極真会館の支部長らで構
成される支部長会議においてBが極真会館の館長に就任することが承認され
たが,その後Aの相続人らをはじめ,Bの活動を批判する者達による反発が
高まり,ついには支部長会議においてBが館長から解任されるなどして,生
前の極真会館における支部長等は各派に分かれるに至った。支部長会議にお
いてBについて解任決議がされた平成7年4月5日の時点における極真会館
の勢力関係は,Bを支持する支部長又は直轄道場責任者はBを含めて12人
(「」。),(「」B派と呼ばれたAの妻であるCを支持する支部長は9人遺族派
と呼ばれ,後に「宗家」の他に「D派」と称するようになった,前記の支。)
部長会議においてBを解任した勢力を支持する支部長又は直轄道場責任者は
30人であった(支部長協議会派」と呼ばれた。「)
,,上記各派はいずれも自派が極真空手を正当に承継するものであるとして
極真会館を名乗って,道場の運営を行い,従前,極真会館が行っていたもの
と同一名称の極真空手の大会を開催するなどした。
(3)原告は,支部長協議会派を前身とし,原告代表者であるEの名から「E
派」とも呼ばれていたが,極真会館の分裂後も「極真会館」として活動し,
平成12年10月10日付けで「特定非営利活動法人国際空手道連盟極真会
館」との名称で法人登録をした。
しかし,極真会の商標を巡り原告とB,原告と被告ら遺族,被告ら遺族と
Bとの間に紛争が発生し原告とB等との間の訴訟における裁判上の和解平,(
成15年4月15日成立,甲31)の結果,原告は平成15年10月14付
けで名称を「特定非営利活動法人全世界空手道連盟新極真会(現名称)へ」
と変更することとなった。
原告は上記新名称への変更について平成15年7月11日に赤坂プリンス
ホテルにおいて記者発表を行った。その際に原告が発表した平成15年5月
当時の原告の組織概要は,世界組織が加盟国63か国,公認支部数145支
部,支部長数143名,総会員数4万名であり,国内組織が総本部直轄道場
14道場,支部数33支部,公認道場数11道場,全国道場総数360道場
(平成15年4月現在,支部長数31名,道場責任者数25名,国内総会)
員数1万5000名(平成15年4月現在)であった。上記記者発表は多く
のスポーツ紙各紙や雑誌に掲載され,またテレビでも放映された。
(4)原告と被告ら遺族ら等とは,Aの肖像権使用に関して民事訴訟で争った
ことがあり,同訴訟は,平成15年3月27日に成立した東京地裁平成12
年(ワ)第20469号事件の訴訟上の和解において,原告が和解金500
万円を支払うことで結着した(なお,被告が本件商標出願をしたのは,前記
のとおり,その後の平成16年10月22日である。)
(5)原告は,平成20年3月現在,全国500以上の道場等において極真空
手を教授し,国内の総会員数は約2万人,海外にも73カ国,総会員数約7
万人の会員である(甲12,13,151。)
また原告は,平成15年以降現在に至るまで,新極真会として毎年全日本
大会を開催するほか,2年毎に世界各国から代表を迎えて「世界大会」ない
し「ワールドカップ」として世界的な規模の選手権大会を開催しており,そ
の様子はテレビや雑誌等でも数多く取り上げられ,その他,新極真会の活動
や新極真会に所属する選手等の記事や広告等は雑誌等に多数掲載され,自ら
も機関誌である「空手LIFE」を毎月発行し(発行部数は約1万部,空)
手の普及や原告の活動の周知に努めてきた。
さらに原告は空手の胴着や帯Tシャツ等に原告の団体名を毛筆体で新,,「
極真會」と書して成るロゴ(下記のとおり)を付して販売しており,上記テ
レビや雑誌等における原告の会員らの多くは同ロゴの付された胴着やTシャ
ツを着用していた。

3事案に鑑み,本件商標の法4条1項10号該当性について判断する。
上記2に認定した事実によれば,原告は,Aが死亡した後に分裂した極真会
館において,Aの創設した極真空手を教授すること等を目的として支部長協議
会派に所属した支部長らを中心に設立された団体であるところ,平成15年4
月ないし5月当時の原告の組織概要は,世界組織が加盟国63か国,公認支部
数145支部,支部長数143名,総会員数4万名であり,国内組織が総本部
直轄道場14道場,支部数33支部,公認道場数11道場,全国道場総数36
0道場(平成15年4月現在,支部長数31名,道場責任者数25名,国内)
総会員数1万5000名という大規模なものであったこと,原告は平成15年
7月11日に,名称を「極真会館」から「新極真会」へと改めることを記者発
表するとともに,本件商標の出願時(平成16年10月22日)までに新団体
名称の主催で世界大会(第8回・平成15年10月4日∼5日)を開催したほ
か,その後も登録査定時(平成19年11月19日)までに継続的に新団体名
称の主催で全日本大会や世界大会を開催するなどして,極真空手及び新極真会
の名称の浸透を図っており,これらの結果,原告は日本全国のみならず世界各
国において更に多くの会員を獲得していること,また,上記の大会の開催予定
や結果はテレビや雑誌等において頻繁に採り上げられており,これもまた原告
の名称の浸透や極真空手を教授する活動の認知に貢献していることが認めら
れ,以上によれば,新極真会との原告の名称は,本件商標の出願時(平成16
年10月22日)及び登録査定時(平成19年11月19日)において,原告
の業務に係る役務を表示するものとして,空手やスポーツを愛好する者に周知
であったと認めることができる。
そして,上記2のとおり,原告は,本件商標の指定商品である被服,空手衣
に相当する空手の胴着や帯,Tシャツに原告の団体名を毛筆体で「新極真會」
と書して成る標章を付して販売するとともに,上記テレビや雑誌等において原
告の会員らがこれら標章の付された胴着やTシャツを着用した姿で頻繁に紹介
されていることが認められ,そうすると「新極真會」との標章は,本件商標,
の出願時(平成16年10月22日)及び登録査定時(平成19年11月19
日)において,原告を表示するものとして空手を志す需要者の間に広く認識さ
れていたと認められる。
一方,本件商標は,前記第2の1のとおり,
,「」「」「」というものであり上段に新と極真会との間をやや空けて新極真会
と書し,下段に「SIN」と「KYOKUSINKAI」との間をやや空けて
「SINKYOKUSINKAI」と書して成るものであるのに対し,原告が
使用する標章は,上記のとおり,毛筆体で「新極真會」と書して成るものであ
るが,両者は文字間の懸隔や書体ないし字体において差異はあるものの,いず
れも容易に一体として「シンキョクシンカイ」との称呼を生じ,かつ,極真空
手を教授する新たな団体との観念を生じるものであるから,本件商標は上記原
告が使用する標章に類似するものと認められる。またその指定商品も上記のと
おり「被服,空手衣」であって,原告の販売する胴着やTシャツと同一又は類
似であると認められる。
以上からすると,本件商標登録は「他人の業務に係る商品若しくは役務を,
表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する
商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務
について使用するもの」として法4条1項10号に該当するものと認められる
から,本件商標は無効といわなければならない。
なお被告は,過去にAの弟子で極真会館から独立した者はAに関連する「極
真」との語やAの写真等を使用することはなかった旨や,Aの娘である被告は
現に「国際空手道連盟極真会館」との名称で道場を運営するとともに,A記
念館を経営して生計を立てているところ,新極真会と極真会館は組織が違う以
上互いに明確に住み分けるべきであり「極真」の文字が入った商標を被告の,
運営する極真会館以外に使用されることは許すべきでないなどと主張するが,
原告組織の規模や活動状況等に照らせば「新極真會」との標章が原告を表示,
するものとして空手を志す需要者の間に広く認識されていたと認められ,した
がって,本件商標登録が法4条1項10号に該当すると認めるべきことは上記
のとおりであって,被告の主張する前記事情は上記認定を左右するものではな
い。
4結論
そうすると,本件商標登録は法4条1項10号に違反するものではないとし
た審決の認定判断は誤りであることになるから,その余について判断するまで
もなく,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛