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主文
1別紙処分一覧表記載の各原告に対して「処分行政庁」欄記載の各処分行政庁
が「処分日1」欄記載の各日付でした生活保護法25条2項に基づく保護変更
決定を取り消す。
2別紙処分一覧表の「原告番号」欄3,5,6,8,9,20から22まで,5
39から42まで,44,46,49,50記載の各原告に対して「処分行政
庁」欄記載の各処分行政庁が「処分日2」欄記載の各日付でした生活保護法2
5条2項に基づく保護変更決定を取り消す。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,原告ら(ただし,原告X16,原告X32及び原告X36を除10
く。)と被告ら(ただし,被告国を除く。)との間においては,全部被告ら(た
だし,被告国を除く。)の負担とし,原告らと被告国との間においては,全部
原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求15
1主文1項及び2項と同旨
2被告国は,原告らに対し,それぞれ1万円及びこれに対する平成27年1月
30日(ただし,乙事件原告らについては,平成28年5月3日)から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要20
本件は,大阪府内に居住して生活保護法(以下「法」という。)に基づく生活
扶助の支給を受けている原告ら(ただし,原告X16,原告X32及び原告X
36については,その夫が生活扶助の支給を受けている。)が,法の委任に基づ
いて厚生労働大臣が定めた「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省
告示第158号。以下「保護基準」という。)の数次の改定により,所轄の福祉25
事務所長らからそれぞれ生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更決定(以下
「本件各決定」という。)を受けたため,保護基準の上記改定は憲法25条,法
8条等に違反する違憲,違法なものであるとして,①原告X16,原告X32
及び原告X36を除く原告らにおいて,被告ら(ただし,被告国を除く。)を相
手に,本件各決定の取消しを求めるとともに,②被告国に対し,国家賠償法1
条1項に基づき,損害賠償を求める事案である。5
1関係法令の定め
(1)法
ア基準及び程度の原則
保護は,厚生労働大臣の定める基準(保護基準)により測定した要保護
者(法による保護を必要とする者をいう。以下同じ。)の需要を基とし,10
そのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程
度において行うものとする(法8条1項)。
保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他
保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たす
に十分なものであって,かつ,これを超えないものでなければならない(法15
8条2項)。
イ保護の種類
保護の種類は,①生活扶助,②教育扶助,③住宅扶助,④医療扶助,⑤
介護扶助,⑥出産扶助,⑦生業扶助,⑧葬祭扶助の8種類とする(法11
条1項)。20
(ア)生活扶助
生活扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者
に対して,①衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの,②
移送の範囲内において行われる(法12条)。
(イ)教育扶助25
教育扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者
に対して,①義務教育に伴って必要な教科書その他の学用品,②義務教
育に伴って必要な通学用品,③学校給食その他義務教育に伴って必要な
ものの範囲内において行われる(法13条)。
(ウ)住宅扶助
住宅扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者5
に対して,①住居,②補修その他住宅の維持のために必要なものの範囲
内において行われる(法14条)。
(エ)医療扶助
医療扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者
に対して,①診察,②薬剤又は治療材料,③医学的処置,手術及びその10
他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う
世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話
その他の看護,⑥移送の範囲内において行われる(法15条)。
(オ)介護扶助
介護扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない要15
介護者(介護保険法7条3項に規定する要介護者)等に対して,①居宅
介護,②福祉用具,③住宅改修,④施設介護,⑤移送等の範囲内におい
て行われる(法15条の2)。
(2)保護基準のうち生活扶助に関する基準(以下「生活扶助基準」という。)
ア生活扶助基準(別表第1)は,基準生活費(第1章)と加算(第2章)20
とに大別されている。居宅で生活する者の基準生活費は,市町村別に1級
地-1から3級地-2まで六つに区分して定められる級地(別表第9)及
び年齢別に定められる第1類と,級地等及び世帯人員別に定められる第2
類とに分けられ,原則として世帯ごとに,当該世帯を構成する個人ごとに
算出される第1類の額(以下「第1類費」という。)を合算したものと第25
2類の額(以下「第2類費」という。)とを合計して算出される。なお,
原告らの居住地は,1級地-1又は1級地-2と定められている。
イ平成25年厚生労働省告示第174号(以下「平成25年告示」という。)
により改正される前の保護基準によれば,1級地-1の第1類費は,年齢
別に,2万0900円(0歳~2歳),2万6350円(3歳~5歳),
3万4070円(6歳~11歳),4万2080円(12歳~19歳),5
4万0270円(20歳~40歳),3万8180円(41歳~59歳),
3万6100円(60歳~69歳),3万2340円(70歳以上)と定
められていた。また,1級地-1の第2類費は,世帯人員別に,基準額が
4万3430円(1人),4万8070円(2人),5万3290円(3
人),5万5160円(4人),5人以上1人を増すごとに440円を加10
算すると定められるほか,地区別冬季加算額が定められていた。1級地-
2から3級地-2までの基準生活費については,第1類費及び第2類費共
に1級地-1のそれより低い額が定められていた。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)15
(1)原告ら(ただし,原告X16,原告X32及び原告X36を除く。)は,
大阪府内に居住して法に基づく生活扶助の支給を受けている者である。
(2)保護基準の改定に至る経緯
ア厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は,昭和58年12
月,要旨次の内容を含む「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見20
具申)」を発表した(以下「昭和58年意見具申」という。乙A9)。こ
れを踏まえ,昭和59年度以降,生活扶助基準の改定は,水準均衡方式(当
時の生活扶助基準が,一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当であるとの
評価を踏まえ,当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同
時に,前年度までの一般国民の消費実態との調整を図るという方式)によ25
り行われている(乙A8の2)。
(ア)生活扶助基準の評価
総理府家計調査を所得階層別に詳細に分析検討した結果,現在の生活
扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達している
との所見を得た。しかしながら,国民の生活水準は今後も向上すると見
込まれるので,生活保護世帯及び低所得世帯の生活実態を常時把握して5
おくことはもちろんのこと,生活扶助基準の妥当性についての検証を定
期的に行う必要がある。
(イ)生活扶助基準改定方式
①生活保護において保障すべき最低生活の水準は,一般国民生活にお
ける消費水準との比較における相対的なものとして設定すべきもので10
あり,生活扶助基準の改定に当たっては,当該年度に想定される一般
国民の消費動向を踏まえると同時に,前年度までの一般国民の消費水
準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必要である。
②また,当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から,
政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であ15
る。
なお,賃金や物価は,そのままでは消費水準を示すものではないの
で,その伸びは,参考資料にとどめるべきである。
イ厚生労働省の審議会である社会保障審議会(厚生労働省設置法7条1項
に定める厚生労働大臣の諮問機関)は,平成15年7月,その福祉部会内20
に,生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下,単に「専門委員会」
という。)を設置した(乙A13の1)。専門委員会が平成16年12月
に取りまとめた報告書(以下「平成16年報告書」という。)には,生活
扶助基準の評価検証等について,要旨次の内容を含む記載がある(乙A5)。
平成16年報告書を踏まえて,平成17年度以降,生活扶助基準について,25
多人数世帯基準の是正として,①第1類費について,4人世帯の場合に0.
95,5人以上世帯の場合に0.90の逓減率を導入し(3年間で段階的
に実施),②第2類費について,4人以上世帯の基準額を抑制する見直し
が行われた(乙A8の3)。
(ア)評価・検証
いわゆる水準均衡方式を前提とする手法により,勤労3人世帯の生活5
扶助基準について,低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評
価した結果,その水準は基本的に妥当であったが,今後,生活扶助基準
と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定
期的に見極めるため,全国消費実態調査等を基に5年に一度の頻度で検
証を行う必要がある。10
また,これらの検証に際しては,地域別,世帯類型別等に分けるとと
もに,調査方法及び評価手法についても専門家の知見を踏まえることが
妥当である。
(イ)設定及び算定方法
現行の生活扶助基準の設定は3人世帯を基軸としており,また,算定15
については,世帯人員数分を単純に足し上げて算定される第1類費(個
人消費部分)と,世帯規模の経済性,いわゆるスケールメリットを考慮
し,世帯人員数に応じて設定されている第2類費(世帯共同消費部分)
とを合算する仕組みとされているため,世帯人員別にみると,必ずしも
一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっていない。20
このため,特に次の点について改善が図られるよう,設定及び算定方
法について見直しを検討する必要がある。
①多人数世帯基準の是正
かねてより,生活扶助基準は多人数になるほど割高になるとの指摘
がされているが,これは人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり,25
スケールメリット効果が薄れるためである。このため,第2類費の構
成割合及び多人数世帯の換算率に関する見直しのほか,世帯規模の経
済性を高めるような設定等について検討する必要がある。
②単身世帯基準の設定
単身世帯の生活扶助基準についても,必ずしも一般低所得世帯の消
費実態を反映したものとなっていない。また,被保護世帯の7割は単5
身世帯が占めていること,近年,高齢化の進展や扶養意識の変化に伴
って高齢単身世帯の増加が顕著となっており,今後も更にその傾向が
進むと見込まれる。これらの事情に鑑み,単身世帯については,一般
低所得世帯との均衡を踏まえて別途の生活扶助基準を設定することに
ついて検討することが必要である。10
③第1類費の年齢別設定の見直し
人工栄養費の在り方も含めた零歳児の第1類費や,第1類費の年齢
区分の幅の拡大等について見直しが必要である。
ウ平成16年報告書において,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態
との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,5年に115
度の頻度で検証を行う必要があるとされたこと等を踏まえ,生活扶助基準
の見直しについて専門的な分析・検討を行うため,平成19年,厚生労働
省社会・援護局長の下に,学識経験者等による「生活扶助基準に関する検
討会」(以下「生活扶助基準検討会」という。)が置かれた。生活扶助基
準検討会の主な検討項目は,直近である平成16年の全国消費実態調査に20
基づき,生活扶助基準の全体水準及び級地別基準等について評価・検証を
行うこととされ,平成20年度予算編成を視野に入れて結論が得られるよ
う検討することとされた。(乙A15の1)
生活扶助基準検討会は,平成19年10月19日から同年11月30日
までの間,5回にわたる検討を経て,報告書(以下「平成19年報告書」25
という。)を取りまとめた。平成19年報告書には,生活扶助基準の評価
・検証について,要旨次の内容を含む記載がある。(甲A13の1,2,
乙A6)
(ア)生活扶助基準の水準-消費実態との比較による評価・検証
夫婦子1人(有業者あり)世帯の年間収入階級第1・十分位(収入の
低い方から順番に並べ,世帯数が等しくなるよう10等分した場合にお5
ける,収入の最も低い層)における生活扶助相当支出額は世帯当たり1
4万8781円であったのに対し,それらの世帯の平均の生活扶助基準
額は15万0408円であり,生活扶助基準額がやや高めとなっている。
なお,第1・五分位(収入の低い方から順番に並べ,世帯数が等しくな
るよう5等分した場合における,収入の最も低い層)で比較すると,前10
者が15万3607円,後者が15万0840円であり,後者がやや低
めとなっている。
単身世帯(60歳以上)の年間収入階級第1・十分位における生活扶
助相当支出額は世帯当たり6万2831円であったのに対し,それらの
世帯の平均の生活扶助基準額は世帯当たり7万1209円であり,生活15
扶助基準額が高めとなっている。なお,第1・五分位で比較すると,前
者が7万1007円,後者が7万1193円であり,均衡した水準とな
っている。
生活扶助基準額は,これまで第1・十分位の消費水準と比較すること
が適当とされてきたが,①第1・十分位の消費水準は,平均的な世帯の20
消費水準に照らして相当程度に達していること,②第1・十分位に属す
る世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は,平均的な世帯と比べ
て大きな差がなく,また,必需的な消費品目の購入頻度は,平均的な世
帯と比較してもおおむね遜色ない状況にあることから,今回,これを変
更する理由は特段ないと考える(ただし,これまで比較の対象としてき25
た夫婦子1人世帯の第1・十分位の消費水準は,第3・五分位の7割に
達しているが,単身世帯(60歳以上)については,その割合が5割に
とどまっている点に留意する必要がある。)。なお,これまでの給付水
準との比較も考慮する必要がある。
(イ)生活扶助基準の体系-消費実態との比較による評価・検証
a世帯人員別の基準額の水準5
世帯人員が1人の世帯の①生活扶助基準額及び②第1・五分位にお
ける生活扶助相当支出額をそれぞれ1としたときの比率で,4人世帯
は生活扶助基準額が2.27と生活扶助相当支出額の1.99に比べ
て相対的にやや高め,5人世帯でも生活扶助基準額が2.54と生活
扶助相当支出額の2.14に比べて相対的にやや高めとなっており,10
世帯人員4人以上の多人数世帯に有利であり,世帯人員が少ない世帯
に不利になっている実態がみられる。
b年齢階級別の基準額の水準
60歳代単身世帯の①生活扶助基準額及び②第1~3・五分位にお
ける生活扶助相当支出額をそれぞれ1としたときの比率で,20歳~15
39歳では生活扶助基準額が1.05と生活扶助相当支出額の1.0
9に比べて相対的にやや低め,40歳~59歳では生活扶助基準額が
1.03と生活扶助相当支出額の1.08に比べて相対的にやや低め
になっている。一方,70歳以上では生活扶助基準額が0.95と生
活扶助相当支出額の0.88より相対的にやや高めであるなど消費実20
態からややかい離している。
c第1類費と第2類費の区分
個人的経費である第1類費相当の支出額についても世帯人員によ
るスケールメリットがみられ,また,世帯共通経費である第2類費相
当の支出額についてもその世帯員の年齢階級別で差がみられた。した25
がって,第1類費と第2類費に区分された基準額が実際の消費実態を
反映しているとはいえない状況となっているといえる。
このため,世帯人員別のスケールメリットを消費実態に合わせて反
映させるためには,必ずしも第1類費,第2類費に区分する必要性は
ないと考えられる。また,仮に第1類費と第2類費の区分を廃止した
場合には,単身世帯を基礎において世帯人数に応じて増加額が逓減す5
る体系とすることにより,世帯の消費実態を生活扶助基準に反映させ
ることが可能である。
d標準世帯
生活保護制度においては,しばしば「標準世帯」が取り上げられて
きた。これには①生活扶助基準の改定に際して生活扶助基準の基軸と10
なる世帯として利用するもの,②国民に生活保護の基準を分かりやす
く説明する際にモデルとして利用するものという二つの役割があるが,
実質的には①の意味合いが強い。この役割に関していえば,仮に生活
扶助基準の体系が消費実態と整合性が取れているのであれば,現行の
ように必ずしも標準3人世帯を基軸として基準額を設定する方式をと15
る必要はなく,また,要保護者の保護の基準の設定という点では,複
数人員世帯より単身世帯に着目して生活扶助基準を設定することが可
能である。
エ生活扶助基準については,平成19年報告書が取りまとめられたものの,
原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるとして,平成20年度は20
据え置くこととされた。また,平成20年2月以降の生活関連物資を中心
とした物価上昇が国民の家計へ大きな影響を与えており,また,「100
年に1度」といわれる同年9月以降の世界的な金融危機が実体経済に深刻
な影響を及ぼしており,国民の将来不安が高まっている状況にあると考え
られるなどとして,平成21年度も据え置くこととされた。さらに,完全25
失業率が高水準で推移するなど,厳しい経済・雇用状況を踏まえ,国民生
活の安心が確保されるべき状況にあることに鑑みるとして,平成22年度
も据え置くこととされた。(乙A16,103から105まで)
オ社会保障審議会は,平成23年2月,5年に1度実施される全国消費実
態調査の特別集計データ等を用いて,生活扶助基準について学識経験者に
よる専門的かつ客観的な検証を行うため,常設部会として生活保護基準部5
会(以下「基準部会」という。)を設置した(乙A7,23,25,弁論
の全趣旨)。
基準部会は,年齢階級別,世帯人員別,級地別に生活扶助基準額と消費
実態のかい離を詳細に分析し,様々な世帯構成に展開するための指数につ
いて検証を行い,13回にわたる検討を経て,平成25年1月,報告書(以10
下「平成25年報告書」という。)を取りまとめた(甲A84)。平成2
5年報告書には,要旨次の内容を含む記載がある。(甲A4,乙A7,1
7)
(ア)検証に用いた統計データ
検証では,国民の消費実態を世帯構成別に細かく分けて分析する必要15
があるため,平成21年全国消費実態調査の個票データを用いた。
今回の検証は,様々な世帯構成に対する基準の展開の妥当性を指数に
よって把握しようとするものである。この指数は,第1・十分位の世帯
の生活扶助相当支出を用いて算出した。
(イ)生活扶助基準の体系(年齢・世帯人員)についての検証手法20
a年齢階級別の基準額の水準
第1類費について,異なる年齢階級間の比率(指数)が,消費実態
と比べてどれほどのかい離があるかを検証した。その際,全国消費実
態調査の調査客体には10代以下の単身世帯がほとんどいないため,
10代以下の消費を正確に計測できないという限界があった。このた25
め,今回の検証では,10代以下の者がいる複数人世帯のデータも用
いて,10代以下の者も含めた各年齢階級の消費水準を計測できるよ
うに,統計的分析手法である回帰分析を採用した。
b世帯人員別の基準額の水準
今回の検証では,第1類費相当支出及び第2類費相当支出ごとに,
各世帯人員別の平均消費水準を指数化し(単身世帯を1とする。),5
現行の基準額を同様に指数化したものと比較した。
(ウ)生活扶助基準の地域差についての検証手法
今回の検証では,平成19年報告書の考え方を用いて集計データより
平均値を求め,各級地別に1人当たり生活扶助相当の平均消費水準を指
数化したもの(1級地-1を1とする。)と,現行の基準額を同様に指10
数化したものとを比較した。
(エ)検証結果
a年齢階級別(第1類費)の基準額の水準
0~2歳の生活扶助相当支出額を1としたときの各年齢階級別の
指数は,生活扶助基準額では0~2歳が0.69,3~5歳が0.815
6,6~11歳が1.12,12~19歳が1.37,20~40歳
が1.31,41~59歳が1.26,60~69歳が1.19,7
0歳以上が1.06となっている。他方,生活扶助相当支出額では同
じ順に1.00,1.03,1.06,1.10,1.12,1.2
3,1.28,1.08となっている。20
このように,年齢階級別の生活扶助基準額による指数と第1・十分
位の消費実態による指数を比べると,各年齢階級間の指数にかい離が
認められた。
b世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額の水準
(a)第1類費の場合,単身世帯の生活扶助相当支出額を1としたとき25
の各世帯人員別の指数は,生活扶助基準額では単身世帯が0.88,
2人世帯が1.76,3人世帯が2.63,4人世帯が3.34,
5人世帯が3.95となっている。他方,生活扶助相当支出額では
同じ順に1.00,1.54,2.01,2.34,2.64とな
っている。
このように,第1類費における世帯人員別の生活扶助基準額によ5
る指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると,世帯人員
が増えるにつれてかい離が拡大する傾向が認められた。
(b)第2類費の場合,単身世帯の生活扶助相当支出額を1としたとき
の各世帯人員別の指数は,生活扶助基準額では単身世帯が1.06,
2人世帯が1.18,3人世帯が1.31,4人世帯が1.35,10
5人世帯が1.36となっている。他方,生活扶助相当支出額では
同じ順に1.00,1.34,1.67,1.75,1.93とな
っている。
このように,第2類費における世帯人員別の生活扶助基準額によ
る指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると,世帯人員15
が増えるにつれてかい離が拡大する傾向が認められた。
c級地別の基準額の水準
1級地-1の生活扶助相当支出額を1としたときの各級地別の指
数は,生活扶助基準額では1級地-1が1.02,1級地-2が0.
97,2級地-1が0.93,2級地-2が0.88,3級地-1が20
0.84,3級地-2が0.79となっている。他方,生活扶助相当
支出額では同じ順に1.00,0.96,0.90,0.90,0.
87,0.84となっている。
このように,級地別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の
消費実態による指数を比べると,消費実態の地域差の方が小さくなっ25
ている。
d年齢・世帯人員・地域の影響を考慮した場合の水準
前記aからcまでの検証結果を踏まえ,年齢階級別,世帯人員別,
級地別の指数を反映した場合の影響は,以下のようになった。
例えば,現行の基準額(第1類費,第2類費,冬季加算,子どもが
いる場合は児童養育加算,1人親世帯は母子加算を含む。)と検証結5
果を完全に反映した場合の平均値を個々の世帯構成ごとにみると,夫
婦と18歳未満の子1人世帯では,年齢による影響が現行の基準額に
比べて-2.9%,世帯人員による影響が-5.8%,地域による影
響が0.1%,これらを合計した影響が計-8.5%となった。同様
に,夫婦と18歳未満の子2人世帯では順に-3.6%,-11.210
%,0.2%,計-14.2%となった。60歳以上の単身世帯では
順に2.0%,2.7%,-0.2%,計4.5%となった。共に6
0歳以上の高齢夫婦世帯では順に2.7%,-1.9%,0.7%,
計1.6%となった。20~50代の若年単身世帯では順に-3.9
%,2.8%,-0.4%,計-1.7%となった。母親と18歳未15
満の子1人の母子世帯では順に-4.3%,-1.2%,0.3%,
計-5.2%となった。
このように,世帯員の年齢,世帯人員,居住する地域の組合せによ
り,各世帯への影響は様々である。
厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には,本報20
告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で他に合理的説明が可能な
経済指標などを総合的に勘案する場合は,それらの根拠についても明
確に示されたい。なお,その際には現在生活保護を受給している世帯
及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮さ
れたい。25
(3)保護基準の改定
厚生労働大臣は,平成25年報告書を受けて,また,物価の動向を勘案し
て,保護基準を改定することとし,激変緩和のための措置として3年間かけ
て段階的に実施することとした(平成25年告示,平成26年厚生労働省告
示第136号(以下「平成26年告示」という。)及び平成27年厚生労働
省告示第227号(以下「平成27年告示」といい,平成25年告示及び平5
成26年告示と併せて「本件各告示」という。)による。以下,これらの保
護基準の改定を「本件改定」と総称する。)。その具体的な内容は,要旨次
のとおりである(そのほかに,期末一時扶助,勤労控除,特別控除も見直さ
れた。弁論の全趣旨)。
ア平成25年報告書を踏まえた見直し10
前記のとおり,平成25年報告書により,当時の保護基準に基づく年齢
階級別(第1類費),世帯人員別(第1類費及び第2類費)及び級地別の
各基準額の水準の較差が,同一区分別での消費実態の水準の較差とかい離
しているとされたことを踏まえ,以下のとおり,上記かい離を解消するた
めの調整(以下「ゆがみ調整」という。)をした。15
第1類費と第2類費について,それぞれ,次のとおり三つ(aからcま
で)ずつの改定率を算出し,これらを本件改定前の第1類費及び第2類費
に乗じて(実際には,同時に後記イの改定率も乗ずる。),端数を処理し
たものを,本件改定後の第1類費及び第2類費とする。また,第1類費に
ついて,本件改定前は,第1類費を合算したものに,4人世帯の場合は0.20
95,5人以上世帯の場合は0.90の逓減率を乗じていたが,2人以上
の世帯について,世帯人員別ごとに0.8850ないし0.6645の逓
減率を定める。
(ア)第1類費について
a平成25年報告書の年齢階級別(第1類費)の基準額の水準に関す25
る検証結果(前記(2)オ(エ)a)において示された,各年齢階級別の①
生活扶助基準額による指数(例えば,0~2歳の場合,0.69)と,
②第1・十分位の消費実態(生活扶助相当支出額)による指数(同1.
00)を用いて,年齢階級別の改定率を算出する。具体的には,「((①
+②)÷2)÷①」を改定率とする。
b平成25年報告書の世帯人員別(第1類費)の基準額の水準に関す5
る検証結果(前記(2)オ(エ)b(a))において示された,単身世帯の①生
活扶助基準額による指数(0.88)と,②第1・十分位の消費実態
(生活扶助相当支出額)による指数(1.00)を用いて,改定率を
算出する。具体的には,「((①+②)÷2)÷①」を改定率とする。
c平成25年報告書の級地別の基準額の水準に関する検証結果(前記10
(2)オ(エ)c)において示された,各級地別の指数を用いて,前記aと
同様に,級地別の改定率を算出する。
(イ)第2類費について
a平成25年報告書の世帯人員別(第2類費)の基準額の水準に関す
る検証結果(前記(2)オ(エ)b(b))において示された,単身世帯の①生15
活扶助基準額による指数(1.06)と,②第1・十分位の消費実態
(生活扶助相当支出額)による指数(1.00)を用いて,改定率を
算出する。具体的には,「((①+②)÷2)÷①」を改定率とする。
b世帯人員別2人以上について,前記aの検証結果において示された,
①各世帯人員別の生活扶助基準額による指数(例えば,5人の場合,20
1.36),②単身世帯の生活扶助基準額による指数(1.06),
③各世帯人員別の第1・十分位の消費実態(生活扶助相当支出額)に
よる指数(5人の場合,1.93)を用いて,改定率を算出する。具
体的には,(((①÷②)+③)÷2)÷(①÷②)を改定率とする。
c前記(ア)cと同様に,級地別の改定率を算出する。25
イ物価の動向を勘案した見直し
総務省から公表されている消費者物価指数を基に,その算出の基礎とさ
れている消費品目から①生活扶助以外の他扶助で賄われる品目(家賃,教
育費,医療費等)及び②原則として保有が認められておらず,又は免除さ
れるため生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目
(自動車関係費,NHK受信料等)を除いた上で,特定の方式により物価5
指数を算出し直すと(このようにして算出された物価指数を,以下「生活
扶助相当CPI」という。),平成20年から平成23年までの生活扶助
相当CPIの下落率が-4.78%であることから,本件改定前の第1類
費及び第2類費に,ゆがみ調整において乗ずる改定率に加え,95.2%
(100%-4.78%)を乗ずる(以下「デフレ調整」という。)。10
ウ激変緩和措置
ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定を3年間かけて段
階的に実施するために,平成25年告示においては,基準生活費を,「(A)
本件改定前の第1類費(基準額①)を合算した額に本件改定前の逓減率を
乗じた額に本件改定前の第2類費(地区別冬季加算額を除く。基準額①)15
を合計した額」に3分の2を乗じたもの,「(B)本件改定後の第1類費
(基準額②)を合算した額に本件改定後の逓減率を乗じた額に本件改定後
の第2類費(地区別冬季加算額を除く。基準額②)を合計した額」に3分
の1を乗じた額,及び(C)本件改定後の地区別冬季加算額の合計額と定
め,平成26年告示においては,基準生活費を(A)に3分の1を乗じた20
額,(B)に3分の2を乗じた額及び(C)の合計額と定め,平成27年
告示においては,(B)及び(C)の合計額と定めた。
また,激変緩和措置として,(B)の算定に当たって,(A)に0.9
を乗じて得た額より少ない場合は,当該額とすることとされた。
エ生活扶助基準額の一律増額25
なお,厚生労働大臣は,消費税率の引上げ(平成26年4月に5%から
8%に引き上げられた。)の影響を含む国民の消費動向等を総合的に勘案
するとして,平成26年告示により,第1類費及び第2類費とも基準額①
及び基準額②を一律に2.9%増額(10円未満四捨五入)した(弁論の
全趣旨)。
オ本件改定後の基準生活費5
本件改定後の保護基準によれば,1級地-1の第1類費は,年齢別に,
2万6660円(0歳~2歳),2万9970円(3歳~5歳),3万4
390円(6歳~11歳),3万9170円(12歳~19歳),3万8
430円(20歳~40歳),3万9360円(41歳~59歳),3万
8990円(60歳~69歳),3万3830円(70歳以上)となり,10
2人以上の世帯について,世帯人員別ごとに0.8850ないし0.66
45の逓減率が定められる。また,1級地-1の第2類費は,世帯人員別
に,基準額が4万0800円(1人),5万0180円(2人),5万9
170円(3人),6万1620円(4人)などとなるほか,地区別冬季
加算額が定められる。15
(4)本件各決定
ア所轄の福祉事務所長ら(別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の者)
は,同表の「処分日1」欄記載の日に,同表記載の各原告(ただし,同表
の「原告番号」欄53記載の原告を除く。)に対し,平成25年告示によ
る保護基準の改正に伴う生活扶助の支給額の減額を内容とする保護変更決20
定をした。また,大阪市平野区福祉事務所長は,平成25年7月25日,
原告X16の夫に対し,同様の保護変更決定をし,門真市福祉事務所長は,
同日,原告X32の夫に対し,同様の保護変更決定をした。なお,原告X
36は,同表の「原告番号」欄35記載の原告の妻である。
イ所轄の福祉事務所長ら(別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の者)25
は,同表の「処分日2」欄記載の日に,同表の「原告番号」欄3,5,6,
8,9,20から22まで,39から42まで,44,46,49,50
記載の各原告に対し,平成26年告示による保護基準の改正に伴う生活扶
助の支給額の変更を内容とする保護変更決定をした。
ウ大阪市旭区保健福祉センター所長は,平成27年3月25日,別紙処分
一覧表の「原告番号」欄53記載の原告に対し,平成27年告示による保5
護基準の改正に伴う生活扶助の支給額の減額を内容とする保護変更決定を
した。
(5)本件訴訟の提起等
ア前記(4)ア,ウの原告らは,別紙処分一覧表の「審査請求日1」欄記載の
日に,大阪府知事に対し,前記(4)ア,ウの決定を不服として,審査請求を10
した。また,原告X32の夫は,平成25年9月17日,大阪府知事に対
し,前記(4)アの決定を不服として,審査請求をした。
イ前記(4)イの原告らは,別紙処分一覧表の「審査請求日2」欄記載の日に,
大阪府知事に対し,前記(4)イの決定を不服として,審査請求をした。
ウ甲事件原告ら(ただし,原告X32を除く。)及び原告X32の夫は,15
前記ア,イの審査請求に対する裁決がないことから,平成26年12月1
9日,本件訴訟を提起した。
別紙処分一覧表の「原告番号」欄52記載の原告は,平成27年8月1
4日に前記アの審査請求を棄却する旨の裁決を受けたことから,これを不
服として,同年9月11日,厚生労働大臣に対し,再審査請求をした。同20
原告は,この再審査請求に対する裁決がないことから,平成28年2月1
5日,本件訴訟を提起した。
前記(4)ウの原告は,前記アの審査請求に対する裁決がないことから,平
成28年2月15日,本件訴訟を提起した。
エ原告X32の夫は,平成30年11月10日,死亡した。原告X32は,25
前記(4)アの決定の違法を理由とする損害賠償請求権を承継した。
3争点
(1)本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用
があるといえるか
(2)本件各決定が,行政手続法14条1項本文の規定する理由の提示を欠く
ものであるか5
(3)国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するか
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は
その濫用があるといえるか)
(原告らの主張の要旨)10
ア判断枠組み
(ア)生存権は,国民の生命・健康という生存に直結する重要な権利である
ところ,保護基準の設定・改定は,被保護者が最低限度の生活をするた
めに必要な収入の額を定めるものである。また,保護基準は,国民の誰
にでも保障される生活水準を示したナショナルミニマム(国民的最低限)15
として重要である。したがって,保護基準の設定・改定に係る厚生労働
大臣の裁量は極めて限定的となる。
そこで,従前の生活扶助基準に見合う最低限度の生活の需要が認めら
れないとして,改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準
を維持するに足りるものであるとした最低限度の生活の具体化に係る判20
断の過程及び手続については,専門家による諮問機関である基準部会の
検討に基づいた高度に専門技術的な考察がされるべきであり,統計等の
客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等を厳
格に審査し,厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤,欠落が認めら
れれば,裁量権の逸脱又は濫用が認められるものと解すべきである。25
法8条,9条は,健康で文化的な最低限度の生活を営み得る要保護者
の需要(法8条1項。生活上のニーズ)を調査し把握するために,要保
護者の年齢,性別,世帯構成,所在地域及び保護の種類に応じて必要な
事情(同条2項)並びに要保護者の健康状態等その個人又は世帯の実際
の必要(法9条)といった要保護者の生活上の属性を考慮することを厚
生労働大臣に義務付けている(義務的・絶対的考慮事項)。これに対して,5
法8条,9条によれば,国の財政事情や国民感情等の生活外的要素は考
慮事項から除外されている(不可考慮事項)。
したがって,厚生労働大臣が,保護基準の設定・改定に当たり,上記
の義務的・絶対的考慮事項を考慮していない場合,又は上記の不可考慮
事項を考慮したり,これを義務的・絶対的考慮事項よりも重視し若しく10
は過大に考慮したりした場合には,厚生労働大臣の判断の過程及び手続
に過誤,欠落があるものというべきである。
(イ)法の立法過程に照らせば,厚生労働大臣による保護基準の設定・改定
は,専門家による審議会の意見に基づいてされるべきであるというのが
立法者意思であり,厚生労働大臣が,保護基準の設定・改定に当たり,15
専門家による審議会の意見を踏まえなかった場合には,裁量権の逸脱又
は濫用が認められるものと解すべきである。
(ウ)憲法25条1項及びこれを受けた法により保障される生活の水準,換
言すれば給付の内容は,単なる「最低限度の生活」ではなく,「健康で文
化的な生活」を営む需要を満たす水準のものでなければならない。そし20
て,憲法25条2項により,国には,生活保護基準について「向上及び
増進に努めなければならない」ことが要請されている。そこで,生活保
護の給付水準の引下げがされた場合,立証責任が事実上転換されて国側
がその合理性の説明責任を負い,その責任が尽くされない給付水準の引
下げについては違憲性が推定されるものと解すべきである(制度後退禁25
止原則)。
また,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会
権規約」という。)は,9条において,社会保障についての全ての者の権
利を,11条において,食料,衣類及び住居を内容とする相当な生活水
準等についての全ての者の権利を,12条において,全ての者の到達可
能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利等を定め,2条1項5
において,締約国が権利の実現を漸進的に達成する目的をもって措置を
とる旨を規定しており,これらの規定からも制度後退禁止原則が導かれ
る(社会権規約委員会は,社会権規約一般的意見19パラグラフ42に
おいて,社会保障に対する権利に関連してとられた後退的な措置は,規
約に基づいて禁じられているとの強い推定が働く旨などを指摘してい10
る。)。
さらに,法1条,3条,7条,8条,24条等が,「健康で文化的な最
低限度の生活」を営む需要を間違いなく確実に満たさなければならない
とすることで保障される生活水準の下限を画し,要保護者等に申請権等
の手続的権利を保障するとともに実施機関に職権保護義務を課すことに15
よってその保障を実効あらしめようとしたものであること,保護基準の
改定に当たって法56条の趣旨を考慮すべきこと等によっても,合理的
な理由のない保護基準の引下げは許されず,国側において合理性を主張
立証する必要があるものと解される。
(エ)ドイツ連邦憲法裁判所の2010年2月9日判決は,公的扶助の基準20
額の設定について,①後付け可能な数値によって透明かつ適正な手続で
実態に即しながら基準額が算定されているか,②手法・手続が首尾一貫
しているかという審査を行うべきであり,手法・手続が首尾一貫してい
ない場合,すなわち,一旦選択された手法・手続からの逸脱がある場合
には,それが合理的なものとして正当化できるかが厳格に審査され,よ25
り一層,後付け可能な数値によって手続の透明性が確保されていなけれ
ばならないとの審査基準を示した。この審査基準は,前記(ア)の審査の内
容をより具体化した基準の一つとして取り入れられるべきである。しか
るに,本件改定の判断過程はブラックボックスとなっており,平成25
年報告書記載の計算値は再現できないから,後付け可能な数値によって
手続の透明性が確保されているとは到底いえない。5
イゆがみ調整について
(ア)水準均衡方式は,単純に最下位層である第1・十分位の消費水準に生
活扶助基準を合わせるものではなく,その比較対象は「一般国民生活に
おける消費水準」(一般勤労者世帯平均を主軸に,第1,2・五分位の低
所得層の消費水準)であった。平成25年報告書は,第3・五分位をも10
って中位所得階層とし,その消費水準と第1・十分位の消費水準とを比
較しているが,第3・五分位に相当する第5~6・十分位以下の階層の
所得は全体の所得の3割以下に位置しており,第3・五分位をもって中
位所得階層とする前提が誤っている。第1・十分位の世帯は,社会的必
需品が普及しておらず,その大部分が経済協力開発機構(OECD)の15
基準では相対的貧困層(等価可処分所得(世帯の可処分所得をスケール
メリットを考慮して世帯人員数の平方根で除したもの)の中位値の半分
に満たない世帯)にあることなどからすると,ゆがみ調整を第1・十分
位の世帯の消費水準(生活扶助相当支出額)との比較に基づいてすべき
ではなかった。20
(イ)仮に,第1・十分位の世帯の消費水準との比較に基づいてゆがみ調整
をするとしても,比較対象の世帯から被保護者世帯を除外すべきであり,
基準部会においてもその旨の議論がされた。しかるに,ゆがみ調整の基
礎となった平成25年報告書の検討において,比較対象の世帯から被保
護者世帯は除外されていないから,この検討結果は,統計等の客観的な25
数値等との合理的関連性を欠き,基準部会における議論を経た取りまと
めを何の議論もないまま反故にした点において手続の適正を著しく欠く。
過去の検証等においては,比較対象の世帯から被保護者世帯と考えられ
るものが除外されていたことからすると,これを除外しなかったことは,
首尾一貫性を欠くものといえる。
(ウ)厚生労働大臣は,ゆがみ調整をするに当たり,平成25年報告書に記5
載された生活扶助相当支出額の指数そのものではなく,これと平成25
年報告書に記載された生活扶助基準額の指数を合計して2で除したもの
を用いて改定率を算出しているが,このような処理(以下「2分の1処
理」という。)は,ゆがみ調整の趣旨を没却するものであり,厚生労働大
臣は,2分の1処理をするに当たって,基準部会における審議を経なか10
った。
また,2分の1処理の結果,平成25年報告書に記載された生活扶助
相当支出額の指数そのものを用いて改定率を算出したと仮定した場合よ
りも生活扶助基準の増額幅が縮小される世帯があり,2分の1処理は激
変緩和になっていない。15
ウデフレ調整について
(ア)ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることについて
基準部会は,平成25年報告書を取りまとめる検証において,被保護
者世帯間の相対比較のみならず,生活扶助基準の絶対的水準の検証をも
目的としていたものであり,その結果を用いたゆがみ調整は,絶対的水20
準をも調整するものであった。しかるに,ゆがみ調整とデフレ調整を併
せてすることは,生活扶助基準を重複して引き下げるものである。
ゆがみ調整は,個別の世帯の消費実態の違いを,年齢,世帯人員及び
級地という観点から生活扶助基準に反映させることを目的とするもので
あった。これに対して,デフレ調整は,年齢,世帯人員及び級地の違い25
を考慮せずにされたものであるところ,年齢,世帯人員及び級地によっ
て個別の世帯の消費実態は大きく異なり,その差異は物価指数に大きな
影響を及ぼすものである。しかるに,厚生労働大臣は,デフレ調整前の
生活扶助基準に基づいてゆがみ調整による改定率を算出したにもかかわ
らず,この改定率とデフレ調整による改定率を乗じており,ゆがみ調整
における年齢階級別,世帯人員別及び級地別の改定率を無意味にしたも5
のである。また,ゆがみ調整においては一般低所得世帯の消費実態との
均衡が考慮されているところ,その消費実態のデータにはデフレの影響
が当然に含まれているから,ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすること
は,物価を二重に評価することになる。
(イ)専門家(基準部会)による検討を経ていないこと10
法の立法過程において,専門家による審議会等の慎重な検討に基づい
て保護基準を決定することが前提とされ,それが,厚生労働大臣の裁量
判断の正当性を根拠付けるものとされていた。とりわけ,現在採用され
ている水準均衡方式は,専門家による専門技術的検証を不可欠の要素と
するものであり,このことは専門機関によって繰り返し確認されてきた。15
また,被保護者世帯には家計弾力性がないため,保護基準の引下げにつ
いてはより厳格かつ慎重な検証が必要である。そして,水準均衡を検証
する際の考慮要素として消費者物価指数を考慮するのであれば,それは
極めて重大な検証方法の変更であるから,基準部会による慎重な検討を
経るべきであった(そもそも,平成20年度から平成23年度までの生20
活扶助基準の各改定において,水準均衡方式が用いられ,生活扶助基準
が据え置かれていたのであるから,重ねて同時期の物価変動率を保護基
準に反映させる必要はなかった。)。さらに,基準部会は,専門委員会と
は異なり,厚生労働省内部の審議会である社会保障審議会の下に直接置
かれた常設の専門部会であり,その報告書は,社会保障審議会の正式の25
見解として集約されたものとして重みを有するものである。
しかるに,デフレ調整については,基準部会による検討を経ることな
く,物価指数を考慮したものである。このような手法・手続は,首尾一
貫性を欠くものである。厚生労働大臣は,平成30年度の保護基準の改
定の際は,生活扶助相当CPIが上昇していたにもかかわらず,これを
根拠として生活扶助基準を引き上げなかったものであり,この点からも,5
厚生労働大臣が生活扶助基準の引下げという目的のために恣意的にデフ
レ調整をしたものであり,首尾一貫性を欠くといえる。
(ウ)生活扶助相当CPIが被保護者世帯の消費実態とかい離していること
a仮に,デフレ(物価の持続的下落)によって被保護者世帯の可処分
所得が実質的に増加したといえるか否かを検討するとすれば,被保護10
者世帯の消費実態(消費構造)を正確に踏まえなければならない。そ
こで,物価指数の算出の基礎となる消費品目及びそのウエイト(家計
の消費支出全体に占める各品目の支出金額の割合)は,社会保障生計
調査を用いて設定すべきであった。社会保障生計調査は,厚生労働省
が,被保護者世帯の生活実態を明らかにすることによって,保護基準15
の改定等生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得ること
を目的として,被保護者世帯の家計収支の状況,消費品目の種類,購
入数量等を毎年調査するものである。
しかるに,生活扶助相当CPIは,消費者物価指数を基に算出され
ているところ,消費者物価指数は,家計調査を用いて算出されたもの20
である。家計調査は,国民生活における家計収支の実態を把握し,国
の経済政策・社会政策の立案の基礎資料を提供することを目的として,
総務省が実施するものであり,世帯属性や所得金額等が偏らないよう
に約9000世帯を対象として調査したものである。そして,そのう
ち世帯員2人以上の家庭についての調査結果が,消費者物価指数の算25
出の基礎とされている。そこで,消費者物価指数は,一般家庭の消費
実態を念頭に置いて算出されたものであるといえる。
被保護者世帯は,高齢者世帯や単身世帯が多くを占めるなど,世帯
構成に著しい偏りがある上,生活保護費という最低限度の収入しかな
いことから,その消費支出額は一般世帯の約6割にとどまり,食料,
光熱・水道といった生活必需品に対する消費支出額の消費支出全体に5
占める割合が高く,教養娯楽等に対する消費支出額の消費支出全体に
占める割合が低いなどの特徴がある。このように,被保護者世帯の消
費構造は一般世帯のそれと著しくかい離しているから,家計調査を用
いて算出された消費者物価指数を基に算出された生活扶助相当CPI
は,被保護者世帯の消費実態を全く反映しないものである。10
b生活扶助相当CPIは,被保護者世帯の消費実態の特徴を考慮せず,
前記aのとおり一般家庭の消費実態に基づいて選定された消費品目か
ら,単に生活扶助以外の他扶助で賄われる品目等を除いたのみで,消
費者物価指数の算出の基礎とされたウエイトをそのまま用いて算出さ
れた。そのため,被保護者世帯が家電製品等の耐久消費財を購入する15
ことはほとんどないにもかかわらず,生活扶助相当CPIは,耐久消
費財の物価下落を過大に反映するものとなり,食料や光熱・水道の物
価下落率の小ささや物価上昇は過小に評価された。
cデフレ調整は,被保護者世帯の可処分所得の実質的,相対的な増加
の程度等を把握して生活扶助基準の水準の適正化を図ることを目的と20
するものとされる。
しかるに,生活扶助相当CPIの算出の基礎とされた消費品目から,
デスクトップパソコン,ノートパソコン及びテレビを除いて計算し直
すと,平成19年から平成23年にかけての変化率は-0.2%にと
どまる。25
これに対して,同期間におけるパソコン(デスクトップパソコン及
びノートパソコン)の価格指数は80~83%低下しているが,これ
は,性能の著しい向上を価格指数に反映させるために品質調整の措置
として価格指数の下落が生じたものとみなされたにすぎず,現実にそ
の価格が下落したものではない。そうすると,パソコンの価格指数の
低下が,被保護者世帯の可処分所得の実質的,相対的な増加を示すも5
のではない。
また,平成22年の社会保障生計調査によれば,被保護者世帯のP
C・AV機器の支出額は年間8844円にとどまるのであり,これに
パソコンや地上デジタル対応テレビの購入費用が含まれるはずがない
(被保護者世帯に対しては,地上デジタル放送への変換チューナーの10
無料配布等が行われた。)。したがって,テレビの物価下落が被保護者
世帯の可処分所得の実質的,相対的な増加を生じさせるものではない。
d消費者物価指数が平成20年から平成23年にかけて2.35%下
落したのに対し,生活扶助相当CPIは同期間において4.78%下
落したとされており,著しく不当である。15
(エ)物価指数を比較する年の選択を誤っていること
仮に,保護基準の改定に当たり物価指数を考慮するとしても,生活扶
助基準の改定がされた直近の時期を比較の対象とするのであれば,平成
16年を選択すべきところ,厚生労働大臣は,恣意的に,極端に物価が
上昇した平成20年を選択したものである。20
また,本件改定を検討するに当たっては,最新の物価指数を比較の対
象とすべきところ,厚生労働大臣は,本件改定当時,平成24年の消費
者物価指数を参照することができたにもかかわらず,恣意的に,平成2
0年から水道光熱費の物価が上昇した平成24年ではなく,食費及び水
道光熱費が下落した平成23年を選択したものである。25
(オ)物価指数の変化率の算出方法を誤っていること
a厚生労働大臣は,生活扶助相当CPIの平成20年から平成23年
にかけての変化率の算出に当たり,平成22年を基準時とする消費者
物価指数の算出の基礎とされた消費品目及びウエイト(ただし,生活
扶助以外の他扶助で賄われる品目等を除く。)を用いた。そして,それ
ぞれの消費品目について,平成22年平均を100とした物価指数に5
平成22年におけるウエイトを乗じ,その合計をウエイトの合計で除
して,平成20年と平成23年における各生活扶助相当CPIを算出
し,その変化率を算出した。
この算出方法は,平成20年から平成22年への物価指数の変化に
ついては,比較時における消費品目及びウエイトを基礎とするパーシ10
ェ式により求められるのと同じ結果を導き(ただし,パーシェ式は基
準時の指数を100として比較時の指数を算出するものであるが,生
活扶助相当CPIは比較時の指数を100として基準時の指数を算出
している。これは,基準時は比較時より過去の時点でなければならず,
基準時の指数は100でなければならないという消費者物価指数作成15
の国際規準に反する。),平成22年から平成23年への物価指数の変
化については,基準時における消費品目及びウエイトを基礎とするラ
スパイレス式により求められるのと同じ結果を導くことになる。この
ように,異なる計算原理に基づく2つの指数を比較することはできな
いのであり,このような変化率の算出方法は不合理であり,消費者物20
価指数作成の国際規準に反する。また,そもそも,消費者物価指数の
算出に当たりパーシェ指数を用いることは,我が国のみならず世界的
にみても前例がないし,ある特定の年を基準年として数年間固定する
固定基準年方式パーシェ指数(生活扶助相当CPIは,平成20年か
ら平成22年にかけての変化について,結果としてこれを採用したの25
と同じ結果を導いている。)は,価格と数量が大幅かつ逆方向に変化し
続けるIT関連財が存在すると大幅な下方バイアスが生ずるものであ
る。
b物価指数の変化を調べるためには,対象となる複数の時点において,
対象となる商品(財やサービス)及びそのウエイトを同一としなけれ
ばならない。しかるに,平成23年の消費者物価指数の算出の基礎と5
された消費品目の中には平成20年の消費者物価指数の算出の基礎に
含まれていないものがあるため,平成20年と平成23年の各生活扶
助相当CPIは,対象となる商品が同一でなく,物価指数の変化を調
べる前提を欠いている。
c平成20年の生活扶助相当CPIは,価格の基準年を平成22年と10
し,比較年をそれより早い平成20年としており,ロウ指数も当然の
前提とする価格の基準年と比較年の関係を逸脱しているから,ロウ指
数ではない。
エまとめ
以上のとおりであるから,厚生労働大臣は,本件改定に当たり,前記ア15
(ア)の義務的・絶対的考慮事項を考慮せず,政権与党の選挙公約,その背景
にある国民感情,国家の財政事情という生活外的要素(不可考慮事項)を
考慮したものであり,その判断の過程及び手続に過誤,欠落があるものと
いうべきである。また,厚生労働大臣は,本件改定に当たり,基準部会等
の専門家による審議会の意見を踏まえなかった。20
したがって,本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱
又はその濫用があるものというべきである。
(被告らの主張の要旨)
ア判断枠組み
(ア)法3条によれば,法により保障される最低限度の生活は,健康で文化25
的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ,
ここにいう「最低限度の生活」は抽象的かつ相対的な概念であって,そ
の具体的内容は,その時々における経済的,社会的条件や一般的な国民
生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり,こ
れを保護基準において具体化するに当たっては,高度の専門技術的な考
察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。そのため,厚生労働大臣5
に,専門技術的かつ政策的な見地からの広範な裁量権が認められている
のであり,法8条,9条が,義務的・絶対的考慮事項や不可考慮事項を
定めるものと解することはできない。
(イ)保護基準は,法8条に基づき厚生労働大臣が定めるとされており,保
護基準を策定するに際して,厚生労働大臣が社会保障審議会等の第三者10
の意見を聴くことが法令上の要件とされているものではない。また,厚
生労働大臣は,生活扶助基準を見直すに当たり,専門家によって構成さ
れる専門委員会や審議会等の検討結果に従って実施しなければならない
わけではなく,また,これらの検討結果が厚生労働大臣の判断を法的に
拘束するものではない。15
(ウ)健康で文化的な最低限度の生活の具体的内容がその時々における多数
の不確定要素に応じて変化し得るもので,「最低限度の生活」の水準が上
昇し続けるとも限らないこと,法3条及び8条2項の規定により,保護
基準は,最低限度の生活需要を満たしつつこれを超えないものでなけれ
ばならないことからすれば,一度設定した保護基準であっても,その後20
の社会経済情勢の変化等によってこれを削減することは,憲法上及び法
上当然に想定されているというべきである。また,憲法25条2項は,
国に対し,社会福祉,社会保障等の向上及び増進に「努めなければなら
ない」と規定しているにとどまる。そうすると,憲法25条をもって,
制度後退禁止原則を定めたものということはできず,これを保護基準の25
設定等に関する厚生労働大臣の裁量権を制約する根拠とすることはでき
ない。
また,社会権規約9条は,締約国において,社会保障についての権利
が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,こ
の権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を
負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与5
すべきことを定めたものではない。そして,社会権規約委員会の一般的
意見に法的拘束力はない。
イゆがみ調整について
(ア)平成25年報告書の基になった基準部会における検証は,専門委員会
や生活扶助基準検討会が,現行の生活扶助基準算定の基軸とされている10
「標準3人世帯」(33歳,29歳,4歳)に対応する生活扶助基準額と
一般低所得世帯の消費支出額とを直接比較したのとは異なり,相対比較
による評価をしたものであり,生活扶助基準額の絶対値としてみた場合
に妥当な水準にあるかという絶対的水準の評価はしていない。具体的に
は,①第1・十分位のサンプル世帯が全て生活保護を受給した場合の生15
活扶助基準額の平均,すなわちサンプル世帯の世帯員の年齢,世帯人員
及び所在地域を生活扶助基準に当てはめて算出した生活扶助基準額の平
均と②当該サンプル世帯の実際の生活扶助相当支出の平均とが同額とな
るように,比較対象となる生活扶助基準額(例えば,0~2歳の生活扶
助基準額)に,前記②を同①で除した数値(1世帯当たり平均の生活扶20
助相当支出額を1世帯当たり平均の生活扶助基準額で除したもの)を乗
じた額を算出して,これを基に指数化を行った。
(イ)平成16年報告書,平成19年報告書及び平成25年報告書のいずれ
においても,生活扶助基準の妥当性については,第1・十分位の世帯を
比較対象として検証することが相当である旨の判断がされ,検証がされ25
たものであるから,第1・十分位の世帯を比較対象としたことは適当で
ある。
(ウ)ゆがみ調整は,前記(ア)のとおり,絶対的水準(額の絶対値)を調整す
るものではなく,平成25年報告書の基となった基準部会の検証は,消
費実態と生活扶助基準額の年齢・世帯人員・級地別のかい離を検証する
ものであったから,比較対象の世帯から被保護者世帯を除外する必要は5
なく,基準部会における議論に反するものでもない。
(エ)平成25年報告書の内容は,改定に当たっての考慮要素にはなるもの
の,それを踏まえた改定の要否及び内容に係る厚生労働大臣の判断を拘
束するものではなく,それを用いて改定を行うか否か,どのように用い
て改定を行うかなどの判断は,厚生労働大臣の高度の専門技術的考察に10
基づく政治的裁量に委ねられている。そうであるところ,平成25年報
告書の内容をそのまま生活扶助基準に反映させると,子どものいる世帯
への影響が大きいことが明らかであった。また,生活扶助基準の展開の
指数については,平成25年報告書において採られた手法が唯一のもの
ということもできず,また,特定のサンプル世帯に限定して分析する際15
にサンプル世帯が極めて少数になるといった統計上の限界も認められた
ほか,更なる検証が行われることが予定されていた。そこで,厚生労働
大臣は,激変緩和措置として,ゆがみ調整時に平成25年報告書の内容
を2分の1反映することとしたものである。
ウデフレ調整について20
(ア)ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることについて
前記イ(ア)のとおり,ゆがみ調整は,絶対的水準を調整するものではな
いから,ゆがみ調整とデフレ調整は重複するものではない。
(イ)専門家(基準部会)による検討について
平成25年報告書において,「厚生労働省において生活扶助基準の見直25
しを検討する際には,本報告書の評価・検証の結果を考慮し,その上で
他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は,それ
らの根拠についても明確に示されたい。」との意見が取りまとめられてい
ることからすると,厚生労働大臣が根拠を明示して物価等の経済指標を
活用すること自体については,基準部会の委員全員の了承を得たものと
みることができる。また,平成25年報告書の上記結論は,厚生労働省5
において生活扶助基準の見直しを検討する際,平成25年報告書の検証
結果を考慮した上で,更にその他の合理的な経済指標等を総合的に勘案
することをも含めて厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねる趣旨であると
解するのが相当である。
(ウ)生活扶助相当CPIの算出方法について10
aそもそも,厚生労働大臣は,生活扶助相当支出を算出する際に,ど
のような支出をどのような根拠で除外するかや,どのような統計資料
を用いるのかについて,合理的な裁量を有している。
デフレ調整は,デフレ傾向が続く中で,生活扶助基準が据え置かれ
たことにより,実質的に生活扶助基準の引上げと同視することができ,15
被保護者世帯の可処分所得も実質的に増加している状況が生じていた
ことを踏まえ,生活扶助基準の調整をしようとするものであるから,
可処分所得が実質的に増加した程度を的確に把握する必要があった。
そこで,厚生労働大臣は,詳細な品目での品目別ウエイトと,これに
対応する品目別価格指数が存在し,かつ,広く社会に定着し,国民か20
ら一定の理解を得られている透明性の高い経済指標の一つである,消
費者物価指数を用いることが合理的かつ適当であると判断したもので
ある。
これに対して,社会保障生計調査の対象は,全国を地域別に10ブ
ロックに分け,各ブロックの都道府県,指定都市,中核市のうち1~25
3箇所を調査対象自治体として選定し,1110世帯を抽出するとさ
れている。そこで,そのサンプル世帯は,特定の自治体の被保護者世
帯に限られるから,世帯類型,人員,地域等に偏りが生ずることは避
けられない。そこで,社会保障生計調査においては,実際の被保護者
世帯の各世帯類型,人員,地域等の分布を踏まえた抽出がされていな
いといえる。その上,社会保障生計調査は,被保護者世帯の「生活実5
態」を把握する調査であって,その詳細な支出先や支出額を把握する
ものではなく,個別品目の消費支出の割合等を正確かつ詳細に記載さ
せるための措置が講じられておらず,その調査結果を分析して,大ま
かなウエイト(例えば,食料(外食))を把握することはできても,家
計調査のように詳細な品目(例えば,食料(一般外食(うどん)))ご10
とのウエイトを把握することはできない。
したがって,仮に,社会保障生計調査の平均又は個別データから被
保護者世帯のウエイトを算出したとしても,その結果は,被保護者世
帯全体を網羅した消費実態を示しているとはいえないのであり,社会
保障生計調査は,少なくとも統計上,本件改定の基礎資料として適切15
であるとはいえない。
bそもそも,生活保護において保障すべき「最低限度の生活」は,抽
象的かつ相対的な概念であって,何が健康で文化的な最低限度の生活
であるかについての認定判断は厚生労働大臣の合目的的裁量に委ねら
れている。そこで,生活扶助相当CPIの算出について,専門技術的20
ないし政策的な観点による厚生労働大臣の裁量権が認められるという
べきである。
そして,仮に,生活扶助相当CPIの算出において,被保護者世帯
の購入する品目及び数量を採用するとした場合は,個々の品目につい
て,それが「最低限度の生活」に必要な物品及び数量であるかを判断25
し,「最低限度の生活」に必要な物品及び数量のみを抽出して生活扶助
相当CPIの算出の基礎とすることとならざるを得ないが,これでは,
国民の多様な嗜好やそれを踏まえた消費行動に対応できず,かえって
恣意的な抽出となり,デフレ傾向による影響の捕捉というデフレ調整
の目的に反するおそれさえある。
以上に加え,生活保護受給者の消費実態を正確に反映した的確な基5
礎資料が存在しないことを併せ考慮すれば,生活扶助相当CPIの算
出に当たり,消費者物価指数の算出の基礎とされたウエイトをそのま
ま用いたことには合理性が認められる。
(エ)物価指数を比較する年の選択について
a平成19年報告書では,生活扶助基準は一般低所得世帯の消費実態10
と比べて高いと評価された。保護基準は「最低限度の生活の需要」を
超えないものであることが要請されること(法8条2項)を考慮すれ
ば,本来であれば,平成20年度以降速やかに,生活扶助基準を一般
低所得者の消費実態に適合したものとするよう見直されるべきところ
であった。しかしながら,当時の社会経済状況を考慮して,同年度以15
降の生活扶助基準額が据え置かれてきたものである。そして,平成2
1年度以降,消費者物価指数が下落するなどデフレ傾向が続いた。そ
こで,これらの経緯を踏まえて,平成21年度以降のデフレ傾向及び
生活扶助基準据え置きから生ずる被保護者世帯の可処分所得の実質的
増加分を是正するために,デフレ調整がされたものである。20
したがって,デフレ調整の起点を,本来生活扶助基準の見直しが行
われるべきであった平成20年としたことは合理的である。
b平成24年の全国年平均の消費者物価指数をデフレ調整に用いるこ
とは,時間的に不可能であった。すなわち,平成25年度予算政府案
は,平成25年1月29日に閣議決定されたものであるところ,平成25
24年の全国年平均の消費者物価指数が公表されたのは,同月25日
である。予算政府案は,各省庁の概算要求等を考慮した上で多方面に
わたる複雑な調整が必要となるなど,その作成から閣議決定までに長
期間を要することなどの事情も併せ鑑みれば,平成24年の全国年平
均の消費者物価指数をデフレ調整に用いることは,時間的に不可能で
あった。5
したがって,デフレ調整の終点を,全国年平均の消費者物価指数の
最新のデータを用いることができる平成23年としたことは合理的で
ある。
c-4.78%という生活扶助相当CPIの平成20年から平成23
年までの変化率は,平成19年報告書によって既に一般低所得世帯の10
消費実態との不均衡(標準世帯において約1%,単身高齢世帯におい
て約11%)が確認されていたこと,100年に1度とも評される世
界金融危機による実体経済への影響を反映したものであって,物価以
外の消費等経済指標を勘案すれば,平成20年以降の被保護者世帯の
可処分所得が相対的,実質的に増加したこと(基準の実質的な引き上15
げ)による一般国民との不均衡を是正するのに相当な数値と判断され
た。
(オ)物価指数の変化率の算出方法について
a平成20年の生活扶助相当CPIは,平成20年を基準時点とし平
成22年を比較時点としたときのパーシェ式によって算出したものと,20
平成23年の生活扶助相当CPIは,平成22年を基準時点とし平成
23年を比較時点としたときのラスパイレス式によって算出したもの
とそれぞれ整理することができる。ただし,これは,平成20年及び
平成23年の各時点間の物価変動を正確に把握するため,直近の消費
者物価指数のデータである平成22年を基準時とする各品目別価格指25
数及びウエイトを固定して,上記各時点の生活扶助相当CPIを算出
した結果としてそうなったにすぎない。そうすると,そもそも,平成
20年から平成22年まではパーシェ式により,同年から平成23年
まではラスパイレス式によりあえて異なる算式を用いて生活扶助相当
CPIを別々に算出した上,これらを総合ないし統合して変化率を測
定したなどとはいえない。また,消費者物価指数の変化率を測定する5
のにラスパイレス式を用いることが唯一の正しい方法というものでは
ない。
b消費者物価指数の平成22年の基準改定の際に追加された品目は,
直近の家計消費支出の実態の中から重要なものとして新たに選ばれた
ものであって,これらを除外することは,かえって最新の消費構造を10
指数算定に反映しないこととなり,必ずしも妥当であるとはいえない。
また,それぞれの年の生活扶助相当CPIは,生活扶助に相当する品
目について,品目別価格指数に品目別ウエイトを乗じて得た値の総和
を,生活扶助相当品目のウエイトの総和で除することによって算出さ
れるものであるから,ウエイトの合計が相対的に小さいことがそれぞ15
れの年の生活扶助相当CPIを過小又は過大に算出することにつなが
るわけではない。一部の品目の価格が観察できないという状況は,物
価指数の作成実務においてしばしば発生するものであり(これは「欠
価格」の問題と呼ばれる。),その処理の方法としては,欠価格品目の
物価動向が類似品目の物価動向と同一であったと仮定する方法(消費20
者物価指数の作成における処理の方法)のほかに,欠価格品目の価格
を計算上除外する方法(欠価格品目の価格動向が他の全ての品目の価
格動向と同一であったと仮定することになる。)もある。
そして,原告らが主張するように,平成22年に新たに加わった品
目を除外した上で平成20年及び平成23年の各生活扶助相当CPI25
を算出すると,その変化率は-4.88%となる。そうすると,原告
らの主張がデフレ調整の違法性を裏付けるものになり得ないことは明
らかである。
c生活扶助相当CPIは,国際労働機関等が編さんした「消費者物価
指数マニュアル理論と実践」に掲載されたロウ指数(中間年ロウ指
数)であり,国際的な基準に沿う妥当な算式である。5
(カ)基準部会が平成28年5月から平成29年12月まで実施した検証
(以下「平成29年検証」という。)によっても,本件改定に係る厚生労
働大臣の判断の過程に過誤,欠落が認められないことが裏付けられてい
る。
すなわち,平成20年から平成23年までの間においては,消費(210
人以上世帯(全体及び第1・十分位)の消費支出及び生活扶助相当支出),
物価(消費者物価指数,生活扶助相当CPI)及び賃金(一般労働者(事
業者規模5人以上),パートタイム労働者(事業者規模5人以上))の全
ての指数が下落しており,収入及び生活維持に必要な金額が実質減少し
ていたと評価され得る状況であったところ,平成29年検証における議15
論では,上記指数の動向がデフレ調整の変化率(-4.78%)と大差
がないことが改めて確認された。
また,平成29年検証の結果,本件改定後の生活扶助基準の水準は,
一般低所得世帯(第1・十分位)の消費実態と均衡する妥当なものと評
価された。このように,本件改定後の生活扶助基準の水準が,専門機関20
である基準部会の検証によって妥当と評価されたことは,デフレ調整に
係る厚生労働大臣の判断過程に過誤,欠落等がなかったことを事後的に
も裏付けるものというべきである。
エまとめ
以上のとおりであるから,本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権25
の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。
(2)争点(2)(本件各決定が,行政手続法14条1項本文の規定する理由の提
示を欠くものであるか)
(原告らの主張の要旨)
本件各決定に係る原告らに対する通知書には,おおむね「基準改定による」
としか記載されておらず,原告らはどのような基準がどのように適用された5
のかを知ることができない。本件各決定の際に提示された理由は,名宛人に
とって理由の提示がないに等しいか,著しく不十分というべきであるから,
行政手続法14条1項本文に違反する。
(被告らの主張の要旨)
本件各決定は,これより前の時点で既に官報により一般に周知されていた10
本件各告示に伴って,そのとおりの処分を行うものであり,本件各決定の時
点においてその内容は確定していたから,行政庁による恣意的な判断が介入
するおそれはない。また,本件各決定に係る通知書とそれ以前の通知書を見
比べることによっても,保護基準の改定により生活扶助基準額が減額された
ことは理解可能であることからすれば,被保護者による不服申立ての便宜を15
損なうものではない。
そうすると,本件各決定に係る通知書における保護変更理由の記載は,行
政手続法の規定の趣旨に反するものではないから,この点をもって本件各決
定が違法となるものではない。
(3)争点(3)(国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するか)20
(原告らの主張の要旨)
ア前記(1)(原告らの主張の要旨)のとおり,本件改定は違憲,違法である。
イ厚生労働大臣は,保護基準を改定するに当たり,国民の生存権を侵害し
ないために誤りがないよう慎重に審議,検討すべき注意義務を負っていた。
しかるに,厚生労働大臣は,本件改定をするに当たり,内容面及び手続25
面にわたり,その裁量権の範囲を逸脱し若しくは濫用していることを認識
していたか,又は少なくとも認識すべきであった。
ウ原告らは,被告国による違憲・違法な本件改定により,「健康で文化的な
最低限度の生活」に満たない生活水準を強いられ,甚大な精神的苦痛を被
った。これを慰謝する慰謝料は,原告ら1人当たり1万円を下らない。
そして,法に関する事務は法定受託事務であり(地方自治法2条9項15
号,10項),本件改定により,各福祉事務所は,原告らに対し,本件各決
定をしたのであるから,被告国の違憲・違法行為と原告らの上記損害との
間に相当因果関係があるといえる。
エよって,原告らは,被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠
償請求権を有する(本件で請求する平成29年法律第44号による改正前10
の民法所定年5分の割合による遅延損害金の起算日は,甲・乙事件原告ら
につき,それぞれ甲・乙事件の各訴状送達日の翌日である。)。
(被告国の主張の要旨)
前記(1)(被告らの主張の要旨)のとおり,本件改定は法3条又は8条2項
の規定に違反するものではないから,本件改定に係る厚生労働大臣の判断に15
職務上の義務違反はない。
したがって,本件各決定について,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償
請求権は成立しない。
第3当裁判所の判断
1認定事実20
前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認め
られる。
(1)本件改定前における生活扶助基準の改定の具体的方法は,次のとおりで
あった(乙A6,11,22,弁論の全趣旨)。
生活扶助基準の改定に当たっては,まず,標準世帯(昭和61年度以降は,25
33歳,29歳,4歳の標準3人世帯)について,前年度の生活扶助基準額
に改定率を乗じて,当該年度の生活扶助基準額を設定する(本件改定前の平
成24年度の場合,16万2170円(1級地-1。以下,この項において
同じ。))。次に,この生活扶助基準額を,一般世帯の消費実態における第
1類費と第2類費の構成割合を参考として,第1類費と第2類費に分ける(同
年度の場合,第1類費10万6890円,第2類費5万5280円)。そし5
て,第1類費については,年齢別の栄養所要量(国民の健康の保持等のため
にエネルギー及び各栄養素の摂取量を示すもの)を参考とした指数により年
齢別に展開し,第2類費については,世帯人員別の第2類費に相当する消費
支出を参考とした指数により世帯人員別に展開する。具体的には,第1類費
について,「20~40歳」の基準額を100(基準)として算定された指10
数(同年度の場合,0~2歳については51.9,3~5歳については65.
4などとされる。)によって年齢別に生活扶助基準額を設定し(同年度の場
合,20~40歳は4万0270円,0~2歳は2万0900円,3~5歳
は2万6350円などとされる。),第2類費について,「3人世帯」の基
準額を100(基準)として算定された指数(同年度の場合,1人世帯につ15
いては81.5などとされる。)によって世帯人員別に生活扶助基準額を設
定する(同年度の場合,3人世帯は5万5280円,1人世帯は4万427
0円などとされる。ただし,この額は,地区別冬季加算額(Ⅵ区)の5箇月
分合計額を12で除して端数を処理した額を基準額に加えたものである。)。
なお,級地については,「1級地-1」の基準額を100として,他の級地20
についてはこれに一定の比率を乗じて設定する。
(2)基準部会が設置される前の保護基準についての検証・改定等
ア昭和58年意見具申
厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は,昭和58年12
月,「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)」を発表した25
(昭和58年意見具申)。これを踏まえ,昭和59年度以降,生活扶助基
準の改定は,水準均衡方式(当時の生活扶助基準が,一般国民の消費実態
との均衡上ほぼ妥当であるとの評価を踏まえ,当該年度に想定される一般
国民の消費動向を踏まえると同時に,前年度までの一般国民の消費実態と
の調整を図るという方式)により行われている。
昭和58年意見具申においては,生活扶助基準の改定に当たっては,当5
該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に,前年度まで
の一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必
要であり,当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から,政
府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であるとさ
れた。そして,賃金や物価は,そのままでは消費水準を示すものではない10
ので,その伸びは参考資料にとどめるべきであるとされた。
そこで,昭和59年度以降の毎年度,民間最終消費支出の伸びを基礎と
して,生活扶助以外の対象となる家賃等を除外するとともに,人口増減の
影響を調整して改定率が設定されていた(乙A11,33)。
イ平成16年報告書15
厚生労働省の審議会である社会保障審議会が設置した専門委員会は,平
成16年12月,平成16年報告書を取りまとめた。これを踏まえ,平成
17年度以降,生活扶助基準について,多人数世帯基準の是正として,①
第1類費について,4人世帯の場合に0.95,5人以上世帯の場合に0.
90の逓減率を導入し(3年間で段階的に実施),②第2類費について,20
4人以上世帯の基準額を抑制する見直しが行われた。また,第1類費につ
いて,20歳未満における年齢別の区分が8つあったものを4つに簡素化
する見直しが行われた(甲A81の1,乙A24)。ただし,平成17年
度以降,本件改定がされるまでの間,標準世帯についての生活扶助基準は
改定されなかった(乙A8の1,乙A11)。25
平成16年報告書においては,生活保護において保障すべき最低生活の
水準は,一般国民の生活水準との関連においてとらえられるべき相対的な
ものであり,具体的には,第1・十分位の世帯の消費水準に着目すること
が適当であるとの考え方に基づき,第1・十分位の勤労者3人世帯の消費
水準と3人世帯(勤労)の生活扶助基準額とを比較すると,後者が高いな
どの分析結果を踏まえ,生活扶助基準の水準は基本的に妥当であるとされ5
た(乙A5,14)。そして,今後,生活扶助基準と一般低所得世帯の消
費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため,全
国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があるとした
上で,これらの検証に際しては,地域別,世帯類型別等に分けるとともに,
調査方法及び評価手法についても専門家の知見を踏まえることが妥当であ10
るとされた。また,被保護世帯の7割は単身世帯が占めていることや,近
年高齢単身世帯の増加が顕著となっていることなどに鑑み,単身世帯につ
いては,別途の生活扶助基準を設定することについて検討することが必要
であるなどとされた。
ウ平成19年報告書15
厚生労働省社会・援護局長の下に設置された生活扶助基準検討会は,平
成19年11月30日,平成19年報告書を取りまとめた。
平成19年報告書においては,平成16年の全国消費実態調査に基づい
て,生活扶助基準額と消費実態との比較により,生活扶助基準の水準及び
体系等が評価・検証された。そして,生活扶助基準の水準については,夫20
婦子1人(有業者あり)世帯の平均の生活扶助基準額が同世帯の第1・十
分位における平均の生活扶助相当支出額よりやや高めとなっており,単身
世帯(60歳以上)の平均の生活扶助基準額が同世帯の第1・十分位にお
ける平均の生活扶助相当支出額より高めとなっているなどとされた。また,
生活扶助基準の体系については,①世帯人員別では,世帯人員4人以上の25
多人数世帯に有利であり,世帯人員が少ない世帯に不利になっている実態
がみられる,②年齢階級別では,60歳代単身世帯の生活扶助基準額及び
第1~3・五分位における生活扶助相当支出額をそれぞれ1としたときの
比率で,20歳~39歳及び40歳~59歳では生活扶助基準額が相対的
にやや低めになっている一方,70歳以上では生活扶助基準額が相対的に
やや高めになっているなど消費実態からややかい離している,などとされ5
た。
(3)基準部会における検証
ア社会保障審議会は,平成23年2月,5年に1度実施される全国消費実
態調査の特別集計データ等を用いて,生活扶助基準について学識経験者に
よる専門的かつ客観的な検証を行うため,常設部会として生活保護基準部10
会(基準部会)を設置した。基準部会は,平成23年4月から議論を始め
たが,当初から,平成21年全国消費実態調査の特別集計等のデータがま
とまり次第,生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に
図られているか等の検証を開始することを予定していた(甲A78の4,
乙A23)。15
イ基準部会の事務局は,平成23年12月13日に開催された第8回基準
部会において,要旨次のとおり,今回の検証における論点を整理した(ほ
かに,勤労控除やその他の検討課題についても取り上げられている。甲A
79の1,2)。
(ア)生活扶助基準の水準について20
(論点)
①現行の水準が一般低所得世帯の消費実態と比べて妥当なものとな
っているか。
②比較対象とする一般低所得世帯をどのように設定すべきか。
③消費による検証結果を補完するものとして,どのような検証方法25
が考えられるか。
(具体的に議論すべきポイント)
①平成19年報告書においては,夫婦子1人(有業者あり)世帯及
び単身60歳以上世帯について,第1・十分位の生活扶助相当支出
額(消費支出額から家賃,医療等の生活扶助に相当しないものを除
いたもの)と生活扶助基準額を比較し,その際,単身60歳以上世5
帯の分位設定には,年間収入に(貯蓄残高-負債残高)/平均余命
を加えた指標を用いるなどした。今回も同様の手法を用いることに
ついてどう考えるか(年間収入の分位設定に貯蓄等の影響を加味す
る年齢層は60歳以上が適当か,比較対象とする一般低所得世帯を
第1・十分位とすることについて)。10
②消費による検証を補完する方法についてどう考えるか。
(イ)生活扶助基準の体系について
(論点)
①単身世帯や多人数世帯など世帯人員別や,稼働年齢層や高齢者な
ど年齢階級別の基準額について,消費実態と比べて妥当なものとな15
っているか。
②第1類費(個人的経費)と第2類費(世帯共通経費)の区分の在
り方についてどう考えるか。
(具体的に議論すべきポイント)
①世帯人員や年齢の変化に応じた生活扶助基準額(第1類費・第220
類費別)と世帯人員や年齢の変化に応じた一般低所得世帯の生活扶
助相当支出額(第1類費相当支出額・第2類費相当支出額別)を比
較し,それらの違いやスケールメリットの働きなどについてどう考
えるか(第1類費で栄養所要量を参考に年齢別の基準設定を行う妥
当性について,第2類費で一般低所得世帯の消費実態を参考に世帯25
人員別の基準設定を行う妥当性について)。
②生活扶助基準における第1類費・第2類費という区分についてど
う考えるか。
(ウ)地域差について
(論点)
現行の級地間格差は,一般世帯の生活実態からみて妥当なものとなっ5
ているか。
(具体的に議論すべきポイント)
生活扶助基準の級地間格差と一般世帯の生活扶助相当支出額の級地間
格差の傾向をどう考えるか。
ウ基準部会の事務局は,平成24年10月5日に開催された第10回基準10
部会において,今回の検証における基本的考え方として,年齢,人員,級
地といった体系の在り方について,詳細な消費実態の分析に基づく評価・
検証を行い,その結果を踏まえた上で水準の検証を行うこととするとした
上で,要旨次のとおり,体系及び級地の今回の検証に向けた考え方を提示
した(甲A81の1,2,乙A24)。15
(ア)総論-水準の検証と一体的な体系及び級地の検証-
①体系・級地の検証は,基本的には平成19年報告書の考え方を踏ま
えつつ,より実態を反映したものに見直す。これらの検証は水準の検
証と一体的に行う。また,データについては,水準の検証同様第1・
十分位のデータを用いて行う。20
②水準の検証の結果,仮に消費水準と生活扶助基準額に差があった場
合,現行の基準額の体系や級地間較差の影響分も明確にする形で検証
することとする。
(イ)年齢体系(第1類費)
①10代以下の者の消費水準を含めて計測する必要上,年齢体系につ25
いては回帰分析を行う。
②一般低所得世帯の消費実態を多角的に把握するために,世帯単位の
年収に応じて分位設定したデータと世帯員1人当たりの年収に応じて
分位設定したデータの両方を用いて回帰分析を行った結果を勘案す
る。
(ウ)人員体系(第1類費・第2類費別)5
①第1類費相当の消費については,世帯人員のみによる影響をみるた
め,世帯人員が多くなるほど一般的に若い世帯員が増える傾向にある
ことなど,世帯の年齢構成による影響を補正してスケールメリットを
計測する。
②人員体系についても回帰分析を行った結果との整合性を確認するこ10
とにより,今回の検証手法の妥当性を担保する。
(エ)級地間の較差
①世帯人員を調整する際には,人員体系と整合的な等価尺度を用いる。
なお,分析に用いるデータについても,人員体系と整合的な1人当た
り年収に応じた第1・十分位とする。15
②前記(ウ)の人員体系の検証と同様に,世帯の年齢構成による影響を補
正する。
③級地間の消費水準較差について回帰分析を行った結果との整合性を
確認することにより,今回の検証手法の妥当性を担保する。
エ基準部会の事務局は,平成24年11月9日に開催された第11回基準20
部会において,要旨次のとおり,これまでの基準部会における議論を踏ま
えた具体的な検証方法等について提示した(甲A82の1,3,乙A41,
47)。
(ア)水準の検証において年齢,人員数,級地の影響を分析する手法につい
て25
a分析の必要性
ある特定の世帯類型を考えて現行の基準額の水準について検証す
る場合,まずは当該世帯類型(第1・十分位)が現行の生活扶助基準
額で受給した場合の平均基準額を求めることとなる。
しかし,仮に体系及び級地の検証の結果,基準額の体系や級地間較
差が低所得世帯の消費の実態と合っていなかったとすれば,その世帯5
類型が受給した場合の平均基準額の水準には,基準額の体系や級地間
較差が低所得世帯の消費の実態と合っていないことの影響が含まれて
いる。
したがって,基準額の水準の検証に際しては,そのような影響を定
量的に分析することが必要となる。10
b分析の観点
前記aの問題意識を踏まえると,ある特定の世帯類型の基準額の水
準を考える際に,①現行の基準額の年齢体系が消費の実態に合ってい
ないことの影響,②現行の基準額の人員数体系が消費の実態に合って
いないことの影響,③現行の基準額の級地間較差が消費の実態に合っ15
ていないことの影響をそれぞれ定量的に評価することが必要になる。
この場合において,体系・級地が消費の実態に合っていない場合の
影響のみを抽出するためには,基準額全体の平均水準は不変なままで
上記①~③の影響を評価する対応が必要となる。
*水準の検証においては,比較対象の一般低所得世帯に生活保護受給20
世帯が含まれると生活扶助基準をそれ自体と比較するような状況とな
ってしまうため,生活保護受給世帯と考えられる世帯は除去する。
(イ)基準検証の流れ
a年齢体系の検証
(a)検証に用いるデータ25
①「スケールメリットが厳しめ」(世帯の年間収入に着目して第
1・十分位を設定する),②「スケールメリットが緩やか」(世帯
員1人当たりの世帯年収に着目して第1・十分位を設定する)とい
う2種類の想定を置いたデータを分析することによって,低所得世
帯の消費実態を多角的に把握することができる。
(b)検証手法5
①10代以下単身世帯のデータサンプル数が少ないため,10代
以下の者を含んだ複数人世帯のデータから10代以下の者の消
費水準も推計できるよう,回帰分析を用いる。
具体的には,世帯の第1類費相当支出(の対数)を目的変数と
し,各年齢階級別の世帯人員数,世帯人員数の2乗,級地別のダ10
ミー変数(1級地-1の居住か否か等)等を説明変数とする回帰
分析をする。
②回帰式を用いて,各年代の第1類費相当の消費支出の「理論値」
を算出し,その結果を指数化する。
具体的には,前記①の回帰分析の結果導かれた式に,当該年齢15
階級別の世帯人員数を1,他の年齢階級別の世帯人員数を零など
と代入して,当該世帯の第1類費相当支出(の対数)を算出し,
指数化する(前記(a)の①のデータと②のデータについてそれぞれ
指数を求め,その中位値を用いる。)。
(c)検証結果のイメージ20
前記(b)で求めた指数と,現行の第1類費の展開に用いられる指
数とを比較する。
b世帯人員体系の検証
(a)用いるデータ
単身世帯,2人世帯などの世帯人員別に第1・十分位を設定し,25
その消費支出(第1類費相当・第2類費相当別)を用いる。
(b)検証手法
単身世帯,2人世帯等の世帯人員別の第1・十分位のグループご
とに平均の消費支出額を求めて指数化する。なお,第1類費相当の
消費支出については,年齢構成が異なることによる消費への影響を
除去し,世帯人員数による影響のみを分析する(例えば,年齢に応5
じた消費支出の指数(平均=1)が0.9と0.7の2人世帯の場
合,消費に「(1+1)÷(0.7+0.9)」を乗ずることによ
り,年齢構成による消費の相違が除去される。)。
(c)検証結果のイメージ
前記(b)で求めた指数(各人員数世帯の第1類費・第2類費別の実10
態の消費支出額を指数化したもの)と,現行の第1類費・第2類費
基準額を指数化したものを比較する。
※回帰式を用いて算出される各世帯人員ごとの第1類費・第2類
費相当の消費支出の「理論値」に基づく指数化を行い,回帰を用
いない検証結果との整合性を確認する。15
c級地間較差の検証
(a)データ
全世帯の中での世帯員1人当たり実質世帯年収(世帯人員体系の
検証において算出された第1類費・第2類費相当合計の指数で除し
てスケールメリットを調整した年収)による第1・十分位の生活扶20
助相当消費支出を用いる。
(b)検証手法
各級地ごとに,その級地に居住する全世帯の平均の消費支出額を
求めて指数化する。
なお,第1類費相当の消費支出については,居住する地域により25
世帯の年齢構成が異なり得るため,年齢構成による消費への影響を
補正する(前記b(b)と同様)。また,第1類費・第2類費相当合計
の消費支出については,居住する地域により世帯の平均的人員数が
異なり得るため,世帯人員数による消費への影響を除去し,級地に
よる影響のみを分析する(世帯人員数による影響については,年齢
構成による影響を補正済みの第1類費・第2類費相当合計の消費支5
出を,前記(a)で用いたのと同じ指数で除して世帯員1人当たりの
実質消費に換算することにより除去する。)。
(c)検証結果のイメージ
各級地に居住する世帯の実態の生活扶助相当支出額を指数化し
たもの(前記(b))と,現行の級地別生活扶助基準額を指数化したも10
のを比較する。
※回帰式を用いて算出される各級地ごとの第1類費・第2類費相
当計の消費支出の「理論値」に基づく指数化を行い,回帰を用い
ない検証結果との整合性を確認する。
*体系及び級地の検証においては,消費同士の相対比較であり生活保15
護受給かどうかは無関係であることから,生活保護受給世帯と考えら
れるサンプルは特段除去しない。
d水準の検証における現行基準額の体系・級地が消費実態に合ってい
ない影響の見積もり
以下,分析している世帯類型(第1・十分位)が仮に生活扶助を受20
給した場合を考える。
①現行の生活扶助基準額で受給した場合の平均指数を1とする。
②現行の生活扶助基準額の年齢体系(第1類費)のみを年齢体系
の検証結果に合わせた場合の平均基準額の指数が○.○になると
すれば,現行基準額の年齢体系が消費の実態に合っていなかった25
影響は,1から○.○への変化率a%である。
③現行基準額の人員体系が消費の実態に合っていなかった影響
は,○.○から,年齢体系に加え人員体系(スケールメリット)
を検証結果に合わせた場合の平均基準額指数△.△への変化率b
%である。
④現行基準額の級地間較差が消費の実態に合っていなかった影5
響は,△.△から,年齢体系,人員体系(スケールメリット)及
び級地間較差を全て検証結果に合わせた場合の平均基準額指数
□.□への変化率c%である。
⑤現行基準額の体系及び級地を全て消費の実態並みにしてもな
お,基準額の水準と消費水準には残差がある可能性がある。10
*上記の各段階において,年齢体系,人員体系及び級地間較差を
順次消費の実態に合わせた基準額指数は,基準額の全体的な平均
水準は不変な中で体系及び級地が消費の実態に合っていないこ
との影響のみを把握するため,第1・十分位の世帯全体が受給し
た場合の平均水準の指数が一定になるように求めるものとする。15
オ基準部会の事務局は,平成25年1月16日に開催された第12回基準
部会において初めて,平成25年報告書の案(期末一時扶助のスケールメ
リット等を除き,検証結果それ自体は平成25年報告書と同じ内容のもの。
甲A83の3)を提示した。
(4)平成25年報告書20
前記(3)のような経緯を経て,基準部会は,平成25年1月18日,平成2
5年報告書を取りまとめた(甲A84)。平成25年報告書における検証の
手法及び結果は,要旨次の内容を含むものである(甲A4,乙A7,17,
弁論の全趣旨)。
ア検証に用いた統計データ25
検証では,国民の消費実態を世帯構成別に細かく分けて分析する必要が
あるため,平成21年全国消費実態調査の個票データを用いた。
イ生活扶助基準の体系(年齢)についての検証
(ア)考え方
年齢階級別の生活扶助基準額(第1類費)の比率(指数)が,一般低
所得世帯の消費支出のうち第1類費相当支出額の年齢階級別の比率(指5
数)と合っているかを検証する。
(イ)検証に用いるデータ
「世帯の年間収入」を基に分位を設定した第1・十分位のデータ(世
帯規模によるスケールメリットが最大となるケース。以下「データ①」
という。)と,世帯の年間収入を世帯人員数で除した「世帯員1人当た10
りの年間収入」を基に分位を設定した第1・十分位のデータ(世帯規模
によるスケールメリットが最小となるケース。以下「データ②」という。)
を設定する。データ①とデータ②の間のどこかに平均的な傾向が見いだ
されると想定される。
(ウ)検証の方法15
a年齢階級ごとの1人当たり消費の推計値(第1類費相当支出)を算
出して,60代のそれを1とした指数にし,各年齢階級の第1類費基
準額の指数(前記(1)の年齢別の栄養所要量を参考とした指数を,60
代のそれを1にしたものに換算)と比較する。
b全国消費実態調査には10代以下の単身世帯のデータがほとんどな20
いため,様々な年代の世帯人員から成る世帯の消費のデータから年齢
階級別の世帯員1人当たりの消費額を推計するため,回帰分析を用い
る。具体的には,次のとおりである。
(a)世帯の消費支出に影響を与える主な要素として,年齢階級別の世
帯人員数,居住地域,世帯の貯蓄等が考えられる。また,世帯の住25
宅資産の状況は世帯の家賃地代支出に反映され,結果的に消費にも
影響を及ぼすと考えられる。このようなことを考慮し,生活扶助基
準の設定に用いられている(年齢階級別の)世帯人員数,級地のほ
か,住宅資産,貯蓄の状況を表す変数を用いて世帯の消費を表す回
帰モデルを推定したところ,データ①とデータ②についてそれぞれ
次の回帰式が推定された。5
(データ①)
世帯の第1類費相当支出額の自然対数
=10.08+0.32×(0~2歳人員数)+0.35×(3~5歳人員数)
+0.40×(6~11歳人員数)+0.43×(12~19歳人員数)
+0.43×(20~40歳人員数)+0.52×(41~59歳人員数)10
+0.54×(60~69歳人員数)+0.35×(70歳以上人員数)
-0.04×(世帯人員数の2乗)+0.16×(1級地-1ダミー。1級地
-1に居住する者である場合は1,そうでない場合は0。以下同様)
+0.11×(1級地-2ダミー)-0.07×(2級地-2ダミー)
-0.05×(3級地-1ダミー)-0.13×(3級地-2ダミー)15
+0.00×(ネット資産(貯蓄-借入金))-0.00×(家賃地代支出)
(データ②)
世帯の第1類費相当支出額の自然対数
=10.09+0.41×(0~2歳人員数)+0.43×(3~5歳人員数)
+0.44×(6~11歳人員数)+0.46×(12~19歳人員数)20
+0.45×(20~40歳人員数)+0.50×(41~59歳人員数)
+0.51×(60~69歳人員数)+0.38×(70歳以上人員数)
-0.03×(世帯人員数の2乗)+0.10×(1級地-1ダミー)
+0.07×(1級地-2ダミー)-0.05×(2級地-2ダミー)
-0.05×(3級地-1ダミー)-0.13×(3級地-2ダミー)25
+0.00×(ネット資産(貯蓄-借入金))-0.00×(家賃地代支出)
(b)前記(a)の回帰式を用いて各年齢階級の世帯員1人当たり第1類
費相当支出額の推計値を算出し,60代の額を1とした場合の指数
を算出する。具体的には,例えば,3~5歳の世帯員1人当たり第
1類費相当支出額の推計値を算出する場合,回帰式の(3~5歳人
員数)に1を代入し,(その余の年齢階級別の人員数)に0を代入5
し,(世帯人員数の2乗)に1の2乗を代入し,(1級地-1ダミ
ー),(1級地-2ダミー),(2級地-2ダミー),(3級地-
1ダミー)及び(3級地-2ダミー)に,第1・十分位の世帯にお
ける3~5歳の世帯員がいる世帯のうち各級地に居住する割合を
代入するなどして算出する。10
データ①による回帰式に基づく指数とデータ②による回帰式に
基づく指数をそれぞれ算出し,それらの平均値を年齢階級別の消費
の比率の実態を表す指数とする。
(エ)検証の結果
各年齢階級の第1類費基準額の指数と前記(ウ)で算出した年齢階級ご15
との1人当たり消費の推計値(第1類費相当支出)の指数(いずれも6
0代の額を1としたもの)を比較したところ,第1類費相当支出の年齢
階級間の比率は,生活扶助基準額が想定するものよりもフラットに近い
ものであるという実態が認められた。
具体的には,例えば,0~2歳の場合,第1類費基準額の指数は0.20
58であるが,前記(ウ)で算出した指数は0.78である。また,12~
19歳,20~40歳及び41~59歳については,第1類費基準額の
指数は1を上回る(順に1.17,1.12,1.06)のに対し,前
記(ウ)で算出した指数は1を下回る(順に0.86,0.87,0.96)。
ウ生活扶助基準の体系(世帯人員)についての検証25
(ア)考え方
平成19年報告書の基本的考え方に沿って,生活扶助基準額(第1類
費,第2類費別)の世帯人員別の比率(指数)が,一般低所得世帯の生
活扶助相当支出額(第1類費相当支出,第2類費相当支出別)の世帯人
員別の比率(指数)と合っているかを検証する。
(イ)検証に用いるデータ5
世帯人員ごとの世帯(単身世帯,2人世帯,3人世帯,4人世帯,5
人世帯)の第1・十分位のデータとする。
(ウ)検証の方法
a世帯人員ごとの世帯の消費の平均値(第1類費相当支出,第2類費
相当支出別)を算出して単身世帯を1とした指数にし,各世帯人員の10
世帯の基準額の指数と比較する。
b世帯人員ごとの第1・十分位の世帯の消費の平均値を算出して単身
世帯を1とした指数にすると,次のとおりとなる。なお,年齢体系の
検証結果から,第1類費相当支出額には年齢構成による影響があると
想定される。そのため,世帯人員別の世帯の第1類費相当支出額の平15
均を算出するに当たっては,各サンプル世帯の第1類費相当支出額に,
「(世帯人員数)÷(年齢体系の検証結果として得られる各年齢階級
に応じた第1類費相当支出額の指数(全年齢の平均値を1とする)の
世帯分合計)」という補正率を乗ずることによって,世帯員全員が平
均的な消費をしている状態を想定し,年齢構成による影響を除去する。20
単身世帯2人世帯3人世帯4人世帯5人世帯
第1類

相当支

1.001.582.012.342.64
第2類

相当支

1.001.571.671.751.93
c前記bの結果を,第1類費については前記イ(ウ)b(a)の回帰式によ
り算出した結果と,第2類費については別途推定した回帰式により算
定した結果とそれぞれ比較したところ,2人世帯の指数について,他
の世帯人員のものと比べてかい離している状況が認められた。そこで,
統計的な整合性の観点から,2人世帯の指数を,第1類費相当支出に5
ついては1.54に,第2類費相当支出については1.34にそれぞ
れ補正した。
(エ)検証の結果
世帯人員別の基準額の指数(単身世帯の額を1としたもの)と前記(ウ)
で算出した世帯人員別消費の指数を比較したところ,次のとおりとなっ10
た。
単身世帯2人世帯3人世帯4人世帯5人世帯
(第1類費)
基準額1.002.003.003.804.50
相当支出1.001.542.012.342.64
(第2類費)
基準額1.001.111.231.271.28
相当支出1.001.341.671.751.93
第1類費相当支出については,現行の生活扶助基準額の世帯人員体系
が想定するよりもスケールメリットが働いている実態が認められた。一
方,第2類費相当支出については,現行の生活扶助基準額の世帯人員体
系が想定するほどのスケールメリットは働いていない実態が認められた。15
エ級地間較差についての検証
(ア)考え方
平成19年報告書の基本的考え方に沿って,生活扶助基準額の級地別
の比率(指数)が,一般低所得世帯の生活扶助相当支出の級地別の比率
(指数)と合っているかどうかを検証する。5
(イ)検証に用いるデータ
世帯人員体系の検証の過程で得られた,第1類費相当(年齢の影響を
除去したもの)と第2類費相当合計の世帯人員に応じた指数によって世
帯年収を除して得られる世帯員1人当たり実質年収に関する第1・十分
位のデータを用いる。10
(ウ)検証の方法
a各級地に居住する世帯の第1類費相当支出と第2類費相当支出の合
計の生活扶助相当支出の平均値を算出して,全級地平均を1とした指
数にし,各級地の基準額の指数と比較する。
b世帯員1人当たり実質年収に関する第1・十分位のデータを用いて15
級地ごとの生活扶助相当支出の平均値に基づき算出した結果は,次の
とおりである。なお,年齢体系の検証結果より,各世帯の生活扶助相
当のうち第1類費相当支出部分には世帯の年齢構成による影響がある
ことが想定され,また,世帯人員体系の検証結果より生活扶助相当支
出は世帯人員規模により異なることが想定される。そのため,居住地20
域が異なることの影響を評価する際には,世帯の年齢構成の影響と世
帯人員規模の影響を除去する必要がある。各世帯の第1類費相当支出
部分については,世帯人員体系の検証におけるのと同様の補正(前記
ウ(ウ)b)を行って年齢構成の影響を除去する。また,各世帯の第1類
費相当部分の年齢構成の影響補正後の生活扶助相当支出については,25
世帯人員体系の検証の過程において得られる第1類費相当と第2類費
相当合計の世帯人員に応じた指数で除することにより,世帯人員の影
響を除去する。
1級地-11.09
1級地-21.05
2級地-10.98
2級地-20.98
3級地-10.94
3級地-20.92
(エ)検証結果
級地別の基準額の指数(全級地平均を1としたもの)と前記(ウ)で算出
した級地別消費の指数を比較したところ,生活扶助相当支出については,5
級地間較差があるものの,現行の生活扶助基準額が想定するほどの較差
ではないという実態が認められた。具体的には,生活扶助基準額では,
最も高い1級地-1が1.11で,最も低い3級地-2が0.86であ
ったのに対し,生活扶助相当支出では,最も高い1級地-1が1.09
で,最も低い3級地-2が0.92であった。10
オ基準額の水準への体系・級地間較差の影響
(ア)以下において,前記イからエまでにおいて把握した年齢階級別,世帯
人員別,級地別の消費の指数が現行の生活扶助基準額が想定するものと
異なる程度を具体的に評価するため,基準額に前記イからエまでにおい
て把握した消費の実態を反映した場合の理論上の額(消費の実態を反映15
した水準)と現行の基準額の水準の相対関係をみる。
その際,第1・十分位の全世帯が生活保護を受給したと仮定した場合
の基準額の平均受給額と,今回の一連の作業によって推計された消費の
実態を反映した場合の平均額が均等になるようにした。すなわち,現行
の基準額の水準を指数化するに当たっては,生活扶助基準額に,それぞ20
れの場面における「第1・十分位のサンプル世帯の生活扶助相当支出の
1世帯当たり平均額を,これらの世帯が全て生活保護を受給すると仮定
した場合における生活扶助基準額の1世帯当たり平均額で除した数値」
を乗じた額を算出した上で(弁論の全趣旨),これを指数化した。
(イ)aまず,現行の基準額を起点として,年齢階級別指数のみ前記イにお5
いて把握した消費の実態を反映した水準と現行の第1類費基準額の水
準の相対関係をみる。いずれも0~2歳の生活扶助相当支出額を1と
したときの指数で表すと,現行の第1類費基準額が,0~2歳で0.
69,3~5歳で0.86,6~11歳で1.12,12~19歳で
1.37,20~40歳で1.31,41~59歳で1.26,6010
~69歳で1.19,70歳以上で1.06となっているのに対し,
生活扶助相当支出額(消費の実態を反映した水準)は,同じ順に1.
00,1.03,1.06,1.10,1.12,1.23,1.2
8,1.08となっている。
以上によれば,年齢階級別の栄養所要量に基づいて設定されている15
現行の第1類費基準額の水準は,年齢階級ごとに消費の実態を反映し
た水準と差異がある。
b続いて,年齢階級別指数が前記イのとおりであった場合を起点とし
て,世帯人員別指数のみ前記ウにおいて把握した消費の実態を反映し
た水準と現行の基準額の水準の相対関係をみる。いずれも単身世帯の20
生活扶助相当支出額(第1類費相当支出額,第2類費相当支出額)を
1としたときの指数で表すと,次のとおりとなっている。
第1類費については,現行の基準額が,単身世帯で0.88,2人
世帯で1.76,3人世帯で2.63,4人世帯で3.34,5人世
帯で3.95となっているのに対し,生活扶助相当支出額(消費の実25
態を反映した水準)は,同じ順に1.00,1.54,2.01,2.
34,2.64となっている。
第2類費については,現行の基準額が,単身世帯で1.06,2人
世帯で1.18,3人世帯で1.31,4人世帯で1.35,5人世
帯で1.36となっているのに対し,生活扶助相当支出額(消費の実
態を反映した水準)は,同じ順に1.00,1.34,1.67,1.5
75,1.93となっている。
以上によれば,第1類費については,単身世帯の消費の実態を反映
した水準は現行基準額の水準を上回るが,世帯人員が増すにつれて消
費の実態を反映した水準は現行基準額を下回る状況となっている。第
2類費については,単身世帯の消費の実態を反映した水準は現行基準10
額の水準を下回るが,世帯人員が増すにつれて消費の実態を反映した
水準は現行基準額を上回る状況となっている。
c最後に,世帯人員別指数が前記ウのとおりであった場合を起点とし
て,級地別指数のみを前記エにおいて把握した消費の実態を反映した
水準と現行の基準額の水準の相対関係をみる。いずれも1級地-1の15
生活扶助相当支出額を1としたときの各級地別の指数で表すと,現行
の基準額が,1級地-1で1.02,1級地-2で0.97,2級地
-1で0.93,2級地-2で0.88,3級地-1で0.84,3
級地-2で0.79となっているのに対し,生活扶助相当支出額(消
費の実態を反映した水準)は,同じ順に1.00,0.96,0.920
0,0.90,0.87,0.84となっている。
(5)消費者物価指数の概要及びその動向
ア消費者物価指数の概要
物価は貨幣の一般的購買力を示すものであり,物価水準が騰貴すること
は貨幣価値が下落することを,物価水準が下落することは貨幣価値が上昇25
することをそれぞれ意味するところ,物価は,通常,物価の変動を表示す
る統計数字である物価指数で表される。通常,物価指数は,「品目」と呼
ばれる最小単位の価格指数を,各品目のウエイト(家計の消費支出全体に
占める各品目の支出金額の割合)で加重平均することから成り立っている。
(乙A27,28)
総務省により作成される消費者物価指数は,全国の世帯が購入する財及5
びサービスの価格変動を総合的に測定し,物価の変動を時系列的に測定す
るものである。消費者物価指数は,国や地方自治体の経済施策等にとって
重要な指標となるのみならず,公的年金の給付額等を物価の変動に応じて
改定するための算出基準となることが法律で定められている(国民年金法
27条の2第2項1号,厚生年金保険法43条の2第1項1号,児童扶養10
手当法5条の2等)。(乙A29)
消費者物価指数の品目は,10大費目(食料,住居,光熱・水道,家具
・家事用品,被服及び履物,保健医療,交通・通信,教育,教養娯楽,諸
雑費)に分類され,それぞれの費目内の中分類(例えば,食料の場合,穀
類,魚介類,肉類等)に分類される。また,それぞれの中分類内でより細15
かく分類されることがある。(乙A28から30まで)
消費者物価指数の算式は,基準時(指数を100とする年次)のウエイ
トで加重平均をする基準時加重相対法算式(ラスパイレス型)であり,消
費構造の変化を反映させるため,5年に1回(西暦年の末尾が0又は5の
年),品目とそのウエイト等を見直している。品目は,世帯が購入する多20
種多様な財及びサービス全体の物価変動を代表できるように,家計の消費
支出の中で重要度が高いこと,価格変動の面で代表性があること,継続調
査が可能であること等の観点から選定される。ウエイトは,1万分比で表
しており,基準時における総消費支出額を1万として,各品目の支出額を
比例換算した値となっている。(乙A27,28)25
消費者物価指数は,5年ごとの基準時及びウエイトの改定前の指数との
比較が可能となるように,改定の都度,新たな基準時に合わせて過去の指
数系列を換算し,接続している。具体的には,平成22年(2010年)
の改定の際には,「平成17年(2005年)を基準時(100)とした
場合の平成22年の指数」を100で除した数値(リンク係数。平成12
年以後平成17年の改定より前の指数と接続する場合,更に「平成12年5
を基準時とした場合の平成17年の指数を100で除した数値」を乗じた
ものをリンク係数とする。)で平成17年を基準時とした指数(平成17
年から平成21年までの指数)を除して接続することで,平成22年の改
定前後の指数を比較することができる。(乙A28,29,弁論の全趣旨)
イ消費者物価指数の動向10
(ア)平成16年から平成23年までの年平均の消費者物価指数の上昇率
(%)は,費目ごとに次のとおりである(乙A12)。なお,「総合」
とは総合指数(全体の物価の動きを総合した指数)である。
総合食料光熱・水道家具・家事用品被服及び履物
平成16年0.00.90.1-3.3-0.2
平成17年-0.3-0.90.8-2.30.7
平成18年0.30.53.6-2.10.8
平成19年0.00.30.8-1.60.6
平成20年1.42.66.0-0.30.5
平成21年-1.40.2-4.2-2.2-0.9
平成22年-0.7-0.3-0.2-4.6-1.2
平成23年-0.3-0.43.3-5.6-0.3
(イ)平成17年から平成22年までの年平均の消費者物価指数(総合指数)
の動きを前年比でみると,おおよそ次のとおりである(甲A105)。15
平成17年は,石油製品の上昇が続いたものの,耐久消費財が下落し
たことに加え,平成16年の反動による米類,生鮮野菜の下落や,固定
電話通信料の下落等により0.3%の下落となった。平成18年は,耐
久消費財や移動電話通信料等が下落したものの,石油製品,生鮮野菜,
外国パック旅行の上昇,たばこ税引上げの影響等により0.3%の上昇
となった。平成19年は,石油製品が上昇したものの,テレビ(薄型)
等の耐久消費財や移動電話通信料等が下落し,平成18年と同水準とな5
った。平成20年は,世界的な原油価格や穀物価格の高騰を受けて,石
油製品を始め,多くの食料品目が上昇したことにより,11年ぶりに1
%を超える上昇となった。平成21年は,平成20年に高騰した原油価
格が下落したため,ガソリン及び灯油が大きく下落,耐久消費財が引き
続き下落したことなどにより,1.4%の下落と,比較可能な昭和4610
年以降最大の下落幅となった。平成22年は,ガソリン,灯油,たばこ,
傷害保険料等が上昇したものの,4月から公立高等学校の授業料無償化
・高等学校等就学支援金制度が導入されたため,公立高校授業料及び私
立高校授業料が大幅に下落したこと,耐久消費財が引き続き下落したこ
となどにより,総合指数は0.7%の下落となった。食料(酒類を除く。)15
及びエネルギーを除く総合は1.2%の下落と比較可能な昭和46年以
降最大の下落幅となった。
(ウ)平成23年の物価の動向を前年比でみると,原油価格の値上がり等に
より,ガソリン,電気代等が上昇したものの,耐久消費財が引き続き下
落していることなどにより,総合指数は0.3%の下落となった。主な20
内訳をみると,耐久消費財については,地上デジタル放送への移行で需
要が減ったことなどにより,テレビは30.9%の下落,技術革新や性
能向上等により,パソコン(デスクトップ型)は39.9%,パソコン
(ノート型)は24.0%,カメラは28.0%の下落となった。高速
自動車国道料金については,同年6月下旬に高速道路無料化社会実験が25
終了したものの,同年12月上旬に東北地方の高速道路無料化が開始さ
れたことにより,0.4%の下落となった。宿泊料については,東日本
大震災の影響で需要が減ったことなどにより,2.3%の下落となった。
一方,エネルギーについては,5.8%の上昇となった。原油価格の値
上がり等により,電気代は2.8%の上昇,プロパンガスは2.9%の
上昇,灯油は18.4%の上昇,ガソリンは9.6%の上昇と全てのエ5
ネルギー品目で上昇となった。
平成23年の消費者物価指数(総合指数)の前年比の増減に対する寄
与度(ある品目等の指数の変動が,総合指数の変化率にどの程度寄与し
たかを示したものであり,全品目の寄与度の合計は,総合指数の変化率
となる。乙A29)をみると,エネルギーは0.45,生鮮食品を除く10
食料は-0.05,家庭用耐久財は-0.17,教養娯楽用耐久財(テ
レビ,ビデオレコーダー,パソコン,カメラ等が含まれる。)は-0.
47である。
(甲A105)
(エ)平成20年から平成23年にかけての消費者物価指数の変化率は,-15
2.35%(=(99.7-102.1)÷102.1×100。小数点第3位以下四捨五入)
である(乙A30,弁論の全趣旨)。
(6)生活扶助相当CPI
ア生活扶助相当CPIは,消費者物価指数の算出の基礎とされている消費
品目から,①生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目(家賃,教育費,医20
療費等)及び②原則として保有が認められておらず,又は免除されるため
生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目(自動車
関係費,NHK受信料等)を除いて,その余の品目について,その価格を
表す指数(平成22年の価格を100としたもの)に同年の消費者物価指
数の算出の基礎とされたウエイトを乗じ,その合計(指数にウエイトを乗25
じた値の合計)を上記ウエイトの合計で除して算出されたものであり,厚
生労働省が生活保護基準の見直しを検討するに際して,消費者物価指数の
算出基礎となっている数値を用いて独自に算定して作成した指数である
(乙A30,31,弁論の全趣旨)。
イ(ア)平成20年の生活扶助相当CPIは,品目ごとの価格を表す指数に
ウエイトを乗じたものの合計が64万6627.9,ウエイトの合計が5
6189であることから,104.5(小数点第2位以下四捨五入)で
あった。平成23年の生活扶助相当CPIは,品目ごとの価格を表す指
数にウエイトを乗じたものの合計が63万5973.1(1万0654.
8減少した。),ウエイトの合計が6393(平成20年には品目に含
まれておらず,平成22年に品目に含まれたものがあるため,増加した。)10
であることから,99.5(小数点第2位以下四捨五入)であった。そ
こで,その変化率は,-4.78%(=(99.5-104.5)÷104.5。小数点
第3位以下四捨五入)とされた。(乙A31)
(イ)消費者物価指数の10大費目(前記(5)ア)について,費目ごとに,ウ
エイト(平成23年のもの)及び生活扶助相当CPIにおける指数にウ15
エイトを乗じたものの平成20年から平成23年にかけての変化をみる
と,次のとおりである(乙A31)。
費目ウエイト指数×ウエイト
食料24986736.8増加
住居1012.3増加
光熱・水道704844.8減少
家具・家事用品3453703.4減少
被服及び履物397698増加
保健医療197125.1増加
交通・通信543547.1増加
教育10275.9増加
教養娯楽10911万7414減少
諸雑費5063112.2増加
合計63931万0654.8減少
(ウ)前記(イ)の教養娯楽の費目のうち,教養娯楽用耐久財の中分類に属す
る品目の①ウエイト,②平成20年の価格を表す指数,③平成2
3年の価格を表す指数,④①に②を乗じたもの,⑤①に③を乗じた
ものは,次のとおりであり,品目ごとの価格を表す指数にウエイトを乗
じたものの合計が,平成20年から平成23年にかけて,2万1798.5
2減少した(乙A31)。
品目①②③④⑤
テレビ97205.869.119962.66702.7
プレーヤー携帯型
オーディオ
2151.193.7302.2187.4
電子辞書5なし98なし490
ビデオレコーダー13191.6602490.8780
パソコン
(デスクトップ型)
10237.260.12372601
パソコン
(ノート型)
20281.67656321520
プリンタ3121.9101.3365.7303.9
カメラ7224.7721572.9504
ビデオカメラ3166.274.2498.6222.6
ピアノ888.6100708.8800
学習机398.697.2295.8291.6
合計17134201.412403.2
(7)本件改定
厚生労働大臣は,平成25年から平成27年にかけて本件各告示を定め,
ゆがみ調整及びデフレ調整等を含む本件改定を3年間かけて段階的に実施し
た(その詳細な内容は,前記前提事実(3)のとおりである。)。
本件改定により,生活扶助基準については3年で670億円程度(うち,5
ゆがみ調整によるものが90億円程度,デフレ調整によるものが580億円
程度)の削減(ただし,平成26年告示による生活扶助基準の一律増額(前
記前提事実(3)エ)による効果を除く。)という財政効果が生じた(乙A19,
20)。
(8)平成29年検証10
基準部会は,5年に1度実施される全国消費実態調査のデータ等を用いて
する生活扶助基準の検証として,平成28年5月から平成29年12月まで,
部会を開催して議論し,その検証結果を同月14日付け報告書に取りまとめ
た(乙A78)。
2争点(1)(本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はそ15
の濫用があるといえるか)について
(1)判断枠組み
ア法3条によれば,法により保障される最低限度の生活は,健康で文化的
な生活水準を維持することができるものでなければならないところ,法8
条2項によれば,保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所20
在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活
の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものでなけ
ればならない。そして,これらの規定にいう最低限度の生活は,抽象的か
つ相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における経済的
・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定25
されるべきものであり,これを保護基準において具体化するに当たっては,
高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするもので
ある(最高裁昭和51年(行ツ)第30号同57年7月7日大法廷判決・
民集36巻7号1235頁,最高裁平成22年(行ツ)第392号,同年
(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号5
1240頁,最高裁平成22年(行ヒ)第367号同24年4月2日第二
小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)。したがって,保護基準中
の基準生活費に係る部分を改定するに際し,改定後の生活扶助基準の内容
が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判
断するに当たっては,厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的10
な見地からの裁量権が認められるものというべきである。
イまた,基準生活費を減額する改定は,改定前の基準生活費が支給される
ことを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては,保護基
準によって具体化されていたその期待的利益の喪失を来す側面があること
も否定し得ないところである。そうすると,厚生労働大臣は,被保護者間15
の公平や国の財政事情といった見地に基づく基準生活費の減額の必要性を
踏まえつつ,被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮す
るため,その減額改定の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否等
を含め,前記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有して
いるものというべきである。20
ウそして,基準生活費の変更の要否の前提となる最低限度の生活の需要に
係る評価や被保護者の期待的利益についての可及的な配慮は,前記ア及び
イのような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であって,基準生活費
の額等については,それまでも各種の統計や専門家の作成した資料等に基
づいて生活扶助基準と一般国民の消費実態との比較検討がされてきたとこ25
ろである。これらの経緯等に鑑みると,基準生活費の減額をその内容に含
む保護基準の改定は,①当該改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健
康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣
の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過
誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある
と認められる場合,あるいは②基準生活費の減額に際し激変緩和等の措置5
を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措
置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への
影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められ
る場合に,法3条,8条2項の規定に違反し,違法となるものというべき
である。10
そして,保護基準の改定の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価
が前記のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であることや,基
準生活費の額等についてはそれまでも各種の統計や専門家の作成した資料
等に基づいて生活扶助基準と一般国民の消費実態との比較検討がされてき
た経緯等に鑑みると,厚生労働大臣の上記①の裁量判断の適否に係る裁判15
所の審理においては,主として保護基準の改定に至る判断の過程及び手続
に過誤,欠落があるか否か等の観点から,統計等の客観的な数値等との合
理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきもの
と解される。
(2)検討20
アゆがみ調整の意義について
(ア)a前記認定事実によれば,平成25年報告書は,標準世帯(33歳,
29歳,4歳の標準3人世帯)について定められた生活扶助基準から
年齢階級別,世帯人員別,級地別の生活扶助基準に展開するために用
いられている比率(指数。前記認定事実(1))が,一般低所得世帯の生25
活扶助相当支出(平成21年全国消費実態調査の個票データを基に,
回帰分析等により算出した生活扶助相当支出額)についての年齢階級
別,世帯人員別,級地別の比率(指数)と合っているかを検証し,①
年齢階級別に関し,一般低所得世帯の生活扶助相当支出の比率が,生
活扶助基準が想定するものよりもフラットに近いものであること,②
世帯人員別に関し,第1類費については,生活扶助基準の世帯人員体5
系が想定するよりもスケールメリットが働いているのに対し,第2類
費については,生活扶助基準の世帯人員体系が想定するほどのスケー
ルメリットが働いていていないこと,③級地別に関し,生活扶助基準
が想定するほどの較差がないことといった結論を示している(同(4)イ
からエまで)。この過程で算出された,一般低所得世帯の生活扶助相10
当支出の比率(指数。同(4)イ(エ),ウ(エ),エ(エ))は,飽くまで異な
る年齢階級間,世帯人員間,級地間における生活扶助相当支出の比較
をするための比率(指数)であり,一般低所得世帯の生活扶助相当支
出と生活扶助基準の水準(額)を比較するものとはなっていない。
b他方,平成25年報告書は,前記aのとおり把握した年齢階級別,15
世帯人員別,級地別の消費の指数が現行の生活扶助基準額が想定する
ものと異なる程度を具体的に評価するため,①基準額に上記の過程に
おいて把握した消費の実態を反映した場合の理論上の額(消費の実態
を反映した水準)と②現行の基準額の水準の相対関係を検証している
(前記認定事実(4)オ)。20
具体的には,次のとおりである(以下,別紙「ゆがみ調整のイメー
ジ」記載の仮のケース(以下「本件設例」という。)を適宜用いるこ
ととする。)。
(a)一般低所得世帯の生活扶助相当支出と生活扶助基準の水準(額)
を直接比較するという手法は採用しない(本件設例でいえば,0~25
19歳の世帯について,生活扶助相当支出1万5000円と生活扶
助基準額1万円とを直接比較することはしない。)。そうではなく
て,飽くまで前記aで把握したような異なる年齢階級間,世帯人員
間,級地間における比率(指数)について,生活扶助相当支出のそ
れと生活扶助基準額のそれを比較する。ただし,この比率(指数)
をそのまま用いるのでは,生活扶助相当支出と生活扶助基準の水準5
(額)との相対関係を検証することができない(本件設例でいえば,
同別紙【ゆがみ調整の手法】3記載の指数と,同別紙【仮のケース】
3記載の生活扶助基準額の比率(指数。0~19歳を1とすると,
20~59歳が2,60歳~が3)とをそのまま比較しても,生活
扶助相当支出と生活扶助基準の水準(額)との相対関係を検証する10
ことができない。)。
(b)そこで,生活扶助基準額について,本件改定前の生活扶助基準額
に「第1・十分位のサンプル世帯の生活扶助相当支出の1世帯当た
り平均額を,これらの世帯が全て生活保護を受給すると仮定した場
合における生活扶助基準額の1世帯当たり平均額で除した数値」15
(以下「本件調整率」という。)を乗じた額(以下「本件調整後の
基準額」という。)を用いている(前記認定事実(4)オ(ア)。別紙「ゆ
がみ調整のイメージ」【ゆがみ調整の手法】1参照)。したがって,
第1・十分位のサンプル世帯が全て本件調整後の基準額を受給する
と仮定すると,その平均額(総額)は,上記世帯の生活扶助相当支20
出の1世帯当たり平均額(総額)と一致する(平成25年報告書が,
第1・十分位の全世帯が生活保護を受給したと仮定した場合の基準
額の平均受給額と,今回の一連の作業によって推計された消費の実
態を反映した場合の平均額が均等になるようにした(乙A7・24
頁)というのはこの趣旨であると解される。)。ここにいう「第125
・十分位のサンプル世帯」は,年齢階級別,世帯人員別,級地別の
それぞれにおいて異なるものとなり得るから,本件調整率もそれぞ
れにおいて異なるものとなり得る。
その上で,生活扶助相当支出額と本件調整後の基準額の双方を,
特定の年齢階級,世帯人員,級地を前提とする生活扶助相当支出額
(年齢階級別については0~2歳,世帯人員別については単身世帯,5
級地別については1級地-1のもので,他の要素の影響を除去する
ように算出されたもの。)を1とした指数で表す(前記認定事実(4)
オ(イ),前記前提事実(2)オ(エ)。本件設例でいえば,同別紙【ゆがみ
調整の手法】2記載の指数)。本件調整後の基準額についての指数
の比(本件設例でいえば,0.74対1.47対2.21)は,端10
数処理を除けば,本件改定前の生活扶助基準額の比(同1対2対3)
と一致する。)。
以上のようにすることで,生活扶助基準額について,異なる年齢
階級間,世帯人員間,級地間における比較をするための比率(指数)
の関係を維持しながら,生活扶助相当支出と生活扶助基準の水準15
(額)との相対関係を検証する。
c前記bの指数(生活扶助相当支出と生活扶助基準の水準(額)との
相対関係を検証するための指数)の算出方法からして,①本件調整後
の基準額に,②生活扶助相当支出についての指数を生活扶助基準額(本
件調整後の基準額)についての指数で除した数値(指数の比)を乗じ20
れば,生活扶助相当支出額と一致する(別紙「ゆがみ調整のイメージ」
【ゆがみ調整の手法】5参照)。他方,本件調整後の基準額ではなく,
本件改定前の生活扶助基準額に上記②の数値(指数の比)を乗じれば,
生活扶助相当支出額とはかい離するが,第1・十分位のサンプル世帯
が全て生活保護を受給すると仮定した場合における生活扶助基準額の25
1世帯当たり平均額は変わらない(同4参照)。
dゆがみ調整においては,前記aの指数ではなく,同bの指数が改定
率の算出に用いられた(前記前提事実(3)ア)。
(イ)前記(ア)で説示したところによれば,ゆがみ調整は,要するに,年齢階
級別,世帯人員別,級地別のそれぞれについて,平成25年報告書の基
準額の水準に関する検証結果において示された,①生活扶助基準額によ5
る指数(本件調整後の基準額を指数化したもの)と②第1・十分位の消
費実態(生活扶助相当支出額)による指数とのかい離に着目し,生活扶
助基準額を第1・十分位の消費実態(生活扶助相当支出額)に近付ける
ように改定率を定めるものである(ただし,「②÷①」ではなく「((①
+②)÷2)÷①」を改定率とするなどして,改定の幅を2分の1に抑10
制している。)。
本件改定前の生活扶助基準額に上記の改定率を乗じても,第1・十分
位のサンプル世帯が全て生活保護を受給すると仮定した場合における生
活扶助基準額の1世帯当たり平均額が変わらないという意味において,
ゆがみ調整は,直接的には生活扶助基準の水準(額)を調整することを15
目的とするものではない。しかしながら,特定の年齢階級別,世帯人員
別,級地別についてみれば,本件改定前の生活扶助基準額に一定の改定
率が乗じられる以上,具体的な被保護者に対する関係においては,生活
扶助基準の水準(額)が調整される結果となることは明らかである。そ
して,平成25年報告書の作成過程において,第1・十分位の消費実態20
(生活扶助相当支出額)と生活扶助基準額との間の平均的なかい離(こ
れは,本件調整率で表される。)が存在していたことは判明していたと
考えられるが(本件全証拠によっても,本件調整率の値は明らかでない。),
ゆがみ調整においては,その点の手当てはされていない。
上記の平均的なかい離の中には,例えば,年齢階級別の指数を算出す25
る場合であれば,世帯人員別の偏り(ゆがみ)や級地別の偏り(ゆがみ)
が含まれているものと考えられるが,必ずしもそれだけではないものと
考える余地を否定することができない(平成25年報告書を取りまとめ
た基準部会の検証においては,「現行基準額の体系及び級地を全て消費
の実態並みにしてもなお,基準額の水準と消費水準には残差がある可能
性がある。」(前記認定事実(3)エ(イ)d⑤)とされていたが(甲A825
の1・6頁,乙A46・16,17枚目),平成25年報告書において
は,この残差の有無及び内容は明らかにされていない。)。
イデフレ調整について
(ア)ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることについて
デフレ調整は,要するに,生活扶助基準額に物価の変化率(1から下10
落率を控除したもの)を乗じてこれを一律に減額するというものである。
本件改定においては,デフレ調整がゆがみ調整と同時に行われている。
前記ア(イ)で説示したとおり,ゆがみ調整においては,生活扶助基準額
における年齢階級別,世帯人員別,級地別による差異の現れ方を第1・
十分位の消費実態による差異の現れ方と近似させることを行っているも15
のであり,それ自体では,生活扶助基準と第1・十分位の消費実態の全
体としての水準を比較して調整しているものではない。したがって,ゆ
がみ調整と併せて,生活扶助基準の全体としての水準(高さ)を調整す
ること自体が不合理であるとはいえない。
上記のとおり,ゆがみ調整は全体としての水準を調整するものではな20
いものの,個別的にみれば,具体的な被保護者に対する関係において,
生活扶助基準の水準(額)が調整される部分が生ずる結果となっている。
また,上記のとおり,第1・十分位の消費実態(生活扶助相当支出額)
と生活扶助基準額との間の平均的なかい離(残差)は解消されていない
ものと考える余地を否定することができない。そして,ゆがみ調整にお25
いて用いられた第1・十分位の消費実態(生活扶助相当支出額)による
指数は,その性質上,生活扶助相当支出額の算出の基礎となった平成2
1年全国消費実態調査当時の物価を前提にしているといえる(例えば,
年齢階級別に応じて,消費量の多い財・サービスは異なり得るから,上
記指数も物価の影響を受け得る。)。
そうすると,生活扶助基準の全体としての水準(高さ)を調整するに5
当たっては,併せてゆがみ調整がされることなどを踏まえ,適切な指標
を選択して合理的に検証することが必要というべきである。以下,その
ような観点から,本件改定に当たり平成20年度から平成23年度まで
の生活扶助相当CPIを用いたデフレ調整を行ったことが,統計等の客
観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を有するものであ10
ったといえるか否かを検討することとする。
(イ)物価指数を比較する年の選択について
デフレ調整は,平成20年から平成23年までの物価の下落を生活扶
助基準の改定に反映させるものである。
この点について,被告らは,平成19年報告書では,生活扶助基準は15
一般低所得世帯の消費実態と比べて高いと評価されたから,本来であれ
ば平成20年度以降速やかに生活扶助基準を見直すべきところであった
が,当時の社会経済状況を考慮してこれを据え置いたものであるから,
本来生活扶助基準の見直しが行われるべきであった平成20年からの物
価の下落を考慮したことは合理的であった旨主張する。20
しかしながら,そもそも,平成20年に生活扶助基準の見直しを行う
か否かは,前記(1)で説示したとおり,厚生労働大臣の専門技術的かつ政
策的な見地からの裁量に委ねられていたものというべきである。そうで
あるところ,平成19年報告書は,生活扶助基準の水準については,夫
婦子1人(有業者あり)世帯と単身世帯(60歳以上)のみについて評25
価・検証をしたものにとどまる上,飽くまで生活扶助基準に関する評価
・検証の結果を示すものであり,生活扶助基準を見直すべきである旨の
具体的な提案が示されたものではない(前記認定事実(2)ウ)。そうする
と,平成19年報告書が取りまとめられたことをもって直ちに平成20
年に生活扶助基準の見直しを行うべきであったものということはできな
いから,被告らの上記主張は前提を欠く。5
そして,平成20年は,世界的な原油価格や穀物価格の高騰を受けて,
石油製品を始め,多くの食料品目の物価が上昇したことにより,消費者
物価指数(総合指数)が11年ぶりに1%を超える上昇となった年であ
り(前記認定事実(5)イ(イ)),平成20年からの物価の下落を考慮する
ならば,同年における特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大10
きくなることは,本件改定が始まった平成25年には明らかであった。
このことに加えて,生活扶助基準は,平成17年度に年齢区分の見直し
や多人数世帯基準の是正が行われたのを最後に,本件改定に至るまで改
定されていなかったこと,平成19年報告書は,平成16年の全国消費
実態調査の結果に基づいて,生活扶助基準額と消費実態とを比較したも15
のであること,デフレ調整と同時に行われたゆがみ調整においては,平
成21年の全国消費実態調査の結果に基づいて改定率が定められたこと
(以上のいずれにおいても,平成20年という時点は現れない。)など
も総合すると,デフレ調整は,平成20年からの物価の下落を考慮した
点において,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見と20
の整合性を欠くものというべきであるから,最低限度の生活の具体化と
いう観点からみて,その判断の過程及び手続に過誤,欠落があるといわ
なければならない。
(ウ)改定率の設定について
aデフレ調整は,総務省が作成し公表している消費者物価指数(その25
変動率は,老齢基礎年金の改定率や老齢厚生年金の再評価率の改定の
基準等として用いられる。国民年金法27条の2第2項1号,厚生年
金保険法43条の2第1項1号等参照)ではなく,これを基に厚生労
働省が独自に算定した生活扶助相当CPIによって物価の変化率を算
出しており,前者であれば変化率が-2.35%であるところ(前記
認定事実(5)イ(エ)),変化率を-4.78%として生活扶助基準額を5
改定している。
上記のような変化率を用いて生活扶助基準額を改定するという判
断は,一般的世帯の消費構造よりも被保護者世帯のそれの方が物価の
下落による実質的な可処分所得の増加という影響を強く受けているこ
と(最低限度の生活を営むのに要する費用の減少割合が一般的世帯の10
消費支出の減少割合よりも大きいこと)を前提とするものというべき
であるが,本件全証拠によっても,これを裏付ける統計や専門家の作
成した資料等があるという事実はうかがわれない(基準部会において
も,平成25年報告書を取りまとめるに当たり,そのような議論はさ
れていない。)。15
bそこで,生活扶助相当CPIの下落率が消費者物価指数のそれより
も著しく大きくなった要因についてみると,次のとおりである。
(a)生活扶助相当CPIは,消費者物価指数と同様に,品目ごとの価
格指数をそのウエイトで加重平均して算出されているが,その際,
消費者物価指数の算出の基礎とされている消費品目から一定のも20
のが除外された上で,その余の品目について,消費者物価指数の算
出の基礎とされたウエイト(合計は,消費者物価指数の基礎とされ
た1万から,除外された品目のウエイトを控除したもの)がそのま
ま用いられている。そのため,生活扶助相当CPIの算出に当たっ
ては,その基礎とされている消費品目の全部について,その支出額25
が支出額全体に占める割合が,一律に,消費者物価指数の算出の前
提とされた割合よりも大きくなる(平成20年についていえば,1.
62倍(=10,000÷6,189),平成23年についていえば,1.56
倍(=10,000÷6,393)。いずれも小数点第3位以下四捨五入)。
したがって,生活扶助相当CPIの変化率の算出に当たっては,
消費者物価指数の算出の基礎とされている消費品目のうち生活扶5
助相当CPIの算出の基礎とされているものの物価の変化の影響
が増幅されることになる。
(b)次のとおり,平成20年から平成23年にかけての生活扶助相当
CPIの大幅な下落の最大の要因は,教養娯楽の費目,とりわけ教
養娯楽用耐久財(テレビ,ビデオレコーダー,パソコン等)の物価10
の大幅な下落である。すなわち,生活扶助相当CPIの算出の基礎
とされた全品目の指数にウエイトを乗じたものの合計は1万06
54.8減少したが,教養娯楽用耐久財の品目ごとの指数にウエイ
トを乗じたものの合計は2万1798.2減少した(教養娯楽の費
目全体でみても,1万7414減少した。)。10大費目のうち,15
ほかに物価が下落した費目は光熱・水道及び家具・家事用品のみで
あり,これら二つの費目に属する品目について,品目ごとの価格を
表す指数にウエイトを乗じたものを合計しても,4548.2の減
少にとどまる。そして,10大費目のうちその余の七つについては
物価が上昇したものである。(以上,前記認定事実(6)イ)20
しかるに,証拠(甲A253,255,乙A28,52から54
まで)によれば,①平成22年基準時の消費者物価指数の算出の基
礎とされているウエイトを費目別にみると,食料25.25%,光
熱・水道7.04%,交通・通信14.21%,家具・家事用品3.
45%,教養娯楽11.45%などとなっているのに対して,②被25
保護者世帯の生活実態を明らかにすることによって,保護基準の改
定等生活保護制度の企画運営のために必要な基礎資料を得ること
等を目的として,毎年度,全国の1110の被保護者世帯を対象と
して行われる社会保障生計調査の平成22年度(平成22年4月1
日から平成23年3月31日まで)の結果では,2人以上の被保護
者世帯の消費支出に占める費目別の割合は,食料29.9%,光熱5
・水道10.2%,交通・通信9.6%,家具・家事用品4.9%,
教養娯楽6.4%などとなっており,単身の被保護者世帯の消費支
出に占める費目別の支出の割合が,食料29.3%,光熱・水道8.
5%,交通・通信6.8%,家具・家事用品3.9%,教養娯楽5.
6%などとなっていることが認められるのであり,被保護者世帯に10
おいては,教養娯楽に属する品目に対する支出の割合が一般的世帯
よりも相当低いことがうかがわれる(例えば,被保護者世帯がテレ
ビ,ビデオレコーダー,パソコン等の教養娯楽用耐久財を頻繁に購
入するとは考え難い。)。
(c)以上によれば,生活扶助相当CPIの下落率が消費者物価指数の15
それよりも著しく大きくなった要因としては,被保護者世帯におい
ては一般的世帯よりも支出の割合が相当低いことがうかがわれる
教養娯楽に属する品目についての物価下落の影響が増幅されたこ
と(教養娯楽の費目が生活扶助相当CPIの算出の基礎とされた支
出額全体に占める割合は,平成23年で17.07%(=ウエイト20
合計1,091÷6,393。小数点第3位以下四捨五入)に上る。)が重要
であるものと考えられる。
また,生活扶助相当CPIの算出の基礎とされたウエイトが,平
成22年の消費者物価指数の算出の基礎とされたものであったこ
とから(前記認定事実(6)ア),平成20年から平成22年にかけて25
の消費構造の変化を反映して,同期間に価格が下落した品目のウエ
イトが相対的に大きくなったことも影響したものと考えられる。
そうすると,生活扶助相当CPIの値をもって,一般的世帯の消
費構造よりも被保護者世帯のそれの方が物価の下落による実質的
な可処分所得の増加という影響を強く受けている(最低限度の生活
を営むのに要する費用の減少割合が一般的世帯の消費支出の減少5
割合よりも大きい)という事実が裏付けられるとはいえない。
c以上の次第であるから,デフレ調整は,消費者物価指数の下落率よ
りも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において,統計等
の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くも
のというべきであるから,最低限度の生活の具体化という観点からみ10
て,その判断の過程及び手続に過誤,欠落があるといわなければなら
ない。
d被告らの主張に対する判断
(a)これに対して,被告らは,社会保障生計調査のサンプル世帯は,
特定の自治体の被保護者世帯に限られるから,世帯類型,人員,地15
域等に偏りが生ずることは避けられず,社会保障生計調査の平均又
は個別データから被保護者世帯のウエイトを算出したとしても,そ
の結果は,被保護者世帯全体を網羅した消費実態を示しているとは
いえないなどと主張する。
確かに,社会保障生計調査から被保護者世帯全体を網羅した消費20
実態を緻密に突き詰めることには一定の限界があることは否定す
ることができない。しかしながら,社会保障生計調査の結果によれ
ば,少なくとも,前記b(b)で説示したとおり,被保護者世帯におい
ては,教養娯楽に属する品目に対する支出の割合が一般的世帯より
も相当低いという特徴(統計等の客観的な数値)を見いだすことは25
できる。そうである以上は,このように見いだし得た特徴(統計等
の客観的な数値)に整合するよう専門的知見を駆使した形で生活扶
助基準の改定を試みることが望まれるのであり,そのようにして初
めて,生活扶助基準の改定が,統計等との客観的な数値等との合理
的関連性を備え,かつ,専門的知見と整合したものに達するのであ
る。5
前記bにおいて説示したとおり,生活扶助相当CPIが消費者物
価指数より著しく大きく下落しているのは,生活扶助CPIが教養
娯楽(とりわけ教養娯楽用耐久財)に属する品目の物価の大幅な下
落の影響を大きく受ける方法で算出されていることに原因がある。
このような点に原因があることは,統計等の客観的な数値に真摯に10
向き合い,専門的知見に基づいて冷静に分析すれば,探知すること
ができたと推認されるし,そのような探知が困難であったとうかが
うべき事情は見当たらない。教養娯楽(とりわけ教養娯楽用耐久財)
に属する品目の大幅な下落の影響を大きく受ける生活扶助相当C
PIをもって生活扶助基準を改定するには,正にそれが被保護者世15
帯の消費実態に適したものであること,すなわち,教養娯楽(とり
わけ教養娯楽用耐久財)に属する品目に相当額を消費していること
が前提となるところ,被保護者世帯の消費実態がこれと異なること
もまた前記bにおいて説示したとおりである。そして,そのことも
また,統計等の客観的な数値に真摯に向き合い,専門的知見に基づ20
いて冷静に分析すれば探知することができたと推認されるし,その
ような探知が困難であったとうかがうべき事情は見当たらない。
そうすると,物価の下落を生活扶助基準に反映させる方法として,
社会保障生計調査の結果に基づいて何らかの指数を作成すること
の当否はともかくとして,被告らが主張する上記の点は,前記cの25
認定判断を左右しない。
(b)また,被告らは,仮に,生活扶助相当CPIの算出において,被
保護者世帯の購入する品目及び数量を採用するとした場合は,個々
の品目について,それが「最低限度の生活」に必要な物品及び数量
であるかを判断し,「最低限度の生活」に必要な物品及び数量のみ
を抽出して生活扶助相当CPIの算出の基礎とすることとならざ5
るを得ないが,これでは,国民の多様な嗜好やそれを踏まえた消費
行動に対応できず,かえって恣意的な抽出となり,デフレ傾向によ
る影響の捕捉というデフレ調整の目的に反するおそれさえあるな
どとして,生活扶助相当CPIを用いたデフレ調整には合理性が認
められる旨主張する。10
確かに,被保護者世帯の消費実態は世帯によって様々であり,こ
れを漏れなく反映させた指数(被告が主張するところの生活扶助相
当CPIの修正指数)の厳密な算出には一定の限界があることは否
定することができない。他方で,そのことは,物価の下落を適切に
反映させた生活扶助基準の改定が不可能であることを意味するも15
のではない。前記bにおいて説示したとおり,生活扶助相当CPI
は教養娯楽(とりわけ教養娯楽用耐久財)に属する品目の大幅な下
落の影響を大きく受けているところ,これに反し,被保護者世帯は
教養娯楽への支出が少ない消費実態にあるから,被保護者世帯がデ
フレ(物価の下落)により消費水準を減少させる程度を算出するた20
めに,被保護者世帯の消費実態に沿わない生活扶助相当CPIを用
いたことに合理性が乏しいのである。被保護者世帯の消費実態に即
した指数を用いて生活扶助基準の改定をすること自体の合理性が
否定されているわけではない。なお,適切な改定率を定めることが
不可能である又は極めて困難であるというのであれば,そもそも物25
価を基準として改定率を定めることをしないか,あるいは消費者物
価指数を基準として改定率を定めるなどの方法によることが考え
られる(ただし,後者の方法については,基準部会において,平成
25年報告書を取りまとめるに当たり,慎重な意見を述べる委員が
いた(甲A83の1,乙A26,48)。)。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。5
(c)さらに,被告らは,-4.78%という生活扶助相当CPIの平
成20年から平成23年までの変化率は,平成19年報告書によっ
て既に一般低所得世帯の消費実態との不均衡(標準世帯において約
1%,単身高齢世帯において約11%)が確認されていたこと,1
00年に1度とも評される世界金融危機による実体経済への影響10
を反映したものであって,物価以外の消費等経済指標を勘案すれば,
平成20年以降の被保護者世帯の可処分所得が相対的,実質的に増
加したこと(基準の実質的な引き上げ)による一般国民との不均衡
を是正するのに相当な数値と判断された旨主張する。
しかしながら,前記(イ)で説示したとおり,平成19年報告書は,15
生活扶助基準の水準については,夫婦子1人(有業者あり)世帯と
単身世帯(60歳以上)のみについて評価・検証をしたものにとど
まるものであって,これをもって,全ての被保護者世帯について,
一律に生活扶助基準額を4.78%減額することが相当であるとの
根拠になるものとは解し難い(基準部会においても,平成25年報20
告書を取りまとめるに当たり,そのような議論はされていない。)。
また,証拠(乙A12)によれば,厚生労働省「毎月勤労統計調
査」において,事業所規模5人以上の産業別1人平均月間現金給与
総額(調査産業計)が平成21年に3.9%減少し,平成22年に
0.5%増加したが,平成23年に0.2%減少したこと,総務省25
統計局「家計調査」において,2人以上の世帯のうち勤労者世帯の
消費支出が平成21年から平成23年まで名目値で3年連続減少
したことが認められる。しかし,そもそも,デフレ調整は,平成2
0年から平成23年までの物価の下落を生活扶助基準の改定に反
映させるものであること(甲A110の3,乙A19,20等参照)
に鑑みると,物価以外の経済指標をもって,デフレ調整について,5
最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,
欠落の有無等の観点からみた合理性が直ちに根拠付けられるとは
いえないし,上記の各経済指標をもって,消費者物価指数の2倍以
上の下落率を基に改定率を設定することが相当であるものと直ち
にいうこともできない。10
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(d)そのほか,被告らは,平成29年検証によっても,本件改定に係
る厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落が認められないことが裏
付けられている旨主張する。すなわち,①平成20年から平成23
年までの間においては,消費,物価及び賃金の全ての指数が下落し15
ており,収入及び生活維持に必要な金額が実質減少していたと評価
され得る状況であったところ,平成29年検証における議論では,
上記指数の動向がデフレ調整の変化率(-4.78%)と大差がな
いことが改めて確認された,②平成29年検証の結果,本件改定後
の生活扶助基準の水準は,一般低所得世帯(第1・十分位)の消費20
実態と均衡する妥当なものと評価された,というのである。
しかしながら,上記①の被告らの主張は,物価以外の経済指標を
もってデフレ調整の判断過程等の合理性を論ずるものであり,前記
(c)で説示したところなどに照らして,採用することができない。ま
た,上記②については,証拠(乙A78)によれば,平成29年検25
証において,平成26年全国消費実態調査の結果を用いた,夫婦子
1人世帯の年収階級別及び消費支出階級別の折れ線回帰分析の結
果を基に,平成29年検証当時の生活扶助基準額と年収階級第1・
十分位の生活扶助相当支出額とを比較すると,後者は,外れ値±2
σの場合13万4254円,外れ値±3σの場合13万6638円
となり,生活扶助基準額13万6495円とおおむね均衡していた5
との指摘がされたことが認められる。しかし,平成29年検証にお
いては,高齢夫婦世帯(65歳以上で構成される世帯)の消費支出
データも同様に分析されたが(甲A260),高齢夫婦世帯の生活
扶助相当支出額についての検証結果は示されていないところ(乙A
78),夫婦子1人世帯の検証結果のみによって,直ちに,全ての10
被保護者世帯について一律に生活扶助基準額を4.78%減額する
というデフレ調整に係る厚生労働大臣の判断過程に過誤,欠落等が
なかったことが事後的に裏付けられたものということはできない。
そもそも,例えば,ある世帯の生活扶助基準額が14万円であった
と仮定すると,4.78%減額後の生活扶助基準額は13万33015
8円であって,絶対額としての減額幅は1万円に満たないものであ
るから(しかも,平成26年告示により,消費税率の引上げを踏ま
えた,一律2.9%の増額も行われた。),改定前の生活扶助基準
額が一般低所得世帯の消費実態と比べて相当低額であったという
事情がない限り,減額後の生活扶助基準額が,上記のような「おお20
むね均衡」という幅に収まるのは当然であるといえる。前記(1)で説
示したとおり,法3条,8条2項にいう最低限度の生活は,抽象的
かつ相対的な概念であって,これを維持するのに必要な基準生活費
の額を具体的に特定することは極めて困難であるから,改定後の生
活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的な生活水準を維持す25
るに足りるものであるとした厚生労働大臣の裁量判断の適否に係
る裁判所の審理においては,主として保護基準の改定に至る判断の
過程及び手続に過誤,欠落があるか否か等の観点から,統計等の客
観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等
について審査されるべきものであり,上記の程度の検証結果をもっ
て直ちに厚生労働大臣の判断の過程に過誤,欠落等がなかったこと5
が事後的に裏付けられたものということはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(e)なお,被告らは,「生活扶助相当CPIの指数算式の妥当性につ
いて」と題するA教授の意見書(乙A94)を提出する。しかしな
がら,この意見書は,生活扶助相当CPIを算出するに当たって用10
いられている指数算式が,国際労働機関等が編さんした「消費者物
価指数マニュアル-理論と実践-」に掲載されたロウ指数であると
評価することができるかという論点のみについて検討したもので
あり(それ以外の論点については一切の検討をしていないとされる。
8頁),前記cの認定判断を左右するものではない。15
(3)小括
以上によれば,本件改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化
的な生活水準を維持するものであるとした厚生労働大臣の判断には,その余
の点について判断するまでもなく,平成20年からの物価の下落を考慮し,
消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した20
点において,統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整
合性を欠いており,したがって,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程
及び手続に過誤,欠落があり,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるから,
本件改定は,法3条,8条2項の規定に違反し,違法である。
3争点(3)(国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権が成立するか)につい25

原告らは,本件改定により「健康で文化的な最低限度の生活」に満たない生
活水準を強いられ,甚大な精神的苦痛を被った旨主張する。
しかしながら,本判決が確定すれば,本件各決定が取り消されるほか,本件
改定がされた当時法に基づく生活扶助の支給を受けていた者(その者が世帯主
となっていた世帯の構成員を含む。)については,本件改定により減額された5
生活扶助の額に相当する額の支給を受けることになると考えられるのであり,
さらに,本判決において本件改定が違法であると判断されることによっても原
告らの精神的損害が回復されることも考慮すると,なお慰謝すべき精神的苦痛
が原告らに生じているものとまでは認め難い。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告らについて,国10
家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は成立しない。
第4結論
よって,原告らのうち原告X16,原告X32及び原告X36を除く者の本
件各決定の取消請求はいずれも理由があるからこれを認容し,原告らのその余
の請求(国家賠償請求)はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,15
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官
森鍵一
裁判官
齋藤毅
裁判官
日比野幹10
(別紙)当事者目録(省略)
(別紙)処分一覧表(省略)

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