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判決 平成14年9月17日 神戸地方裁判所 平成11年(ワ)第1774号 商
品出荷等請求事件
            主         文
 1 原告が被告マックスファクター株式会社に対し,原告と同被告が平成8年6
月14日締結した別紙マックスファクターパートナーストア契約書記載の契約に基
づき,原告の注文にかかる同被告製品(マックスファクター化粧品)の引渡しを求
め得る地位にあることを確認する。
 2 原告の被告マックスファクター株式会社に対するその余の確認の訴えを却下
する。
 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告マック
スファクター株式会社の負担とする。
            事         実
第1 当事者の求めた裁判
 1 請求の趣旨
  (1) 被告マックスファクター株式会社(以下「被告会社」という。)は,原告
に対し,別紙商品目録記載の商品を引き渡せ。
  (2) 原告が被告会社に対し,平成12年3月7日以降においても,原告と被告
会社との間で平成8年6月14日締結された別紙マックスファクターパートナース
トア契約書(以下「別紙契約書」という。)記載の契約に基づき,原告の注文にか
かる被告会社販売のマックスファクター化粧品の引渡しを受けるべき地位にあるこ
とを確認する。
  (3) 被告A及び被告Bは,連帯して,原告に対し,500万円を支払え。
  (4) 訴訟費用は被告らの負担とする。
  (5) 仮執行宣言
 2 請求の趣旨に対する答弁
  (1) 原告の請求をいずれも棄却する。
  (2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求原因
  (1) 被告会社に対する請求関係
   ア 本件契約の締結
     原告は,被告会社との間で,昭和40年ころ,マックスファクターパー
トナーストア契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
   イ 本件契約の内容
    (ア) 本件契約は,被告会社が製造した化粧品を一定の卸値で全国各所に
設けられた小売店(特約店と呼ばれる。)に供給し,その各小売店において同化粧
品の小売販売をさせることを目的とするものであった。
    (イ) 本件契約の有効期間は1年間とされ,双方に異議のないときは更に
1年間自動更新されるとされており,本件契約は,自動更新されてきた。
    (ウ) 原告は,本件契約締結後,今日に至るまで34年間にわたって,被
告会社の特約店として,被告会社の製造・販売にかかるマックスファクター化粧品
を東京・浅草の原告の店舗及びその支店で小売販売してきた。原告は,平成6年1
1月以降,支店(新店舗)を全国各地に増設してきたが,支店(新店舗)が10店
舗に達した平成9年12月以降は,原告の被告会社からの仕入高は,毎月約500
0万円に達していた。
    (エ) 被告会社は,これまで原告から発注があった商品をすべて原告に供
給してきた。
    (オ) 原告は,これまで一度も被告会社に対する仕入代金の支払を遅滞し
たことがない。
    (カ)このように,原告と被告会社との間の取引関係は長年にわたって継
続されていることに加え,被告会社の製造・販売にかかるマックスファクター化粧
品を取り扱うことは原告の特色となっており,同化粧品の売上げが原告の全売上げ
の大きな部分を占めていて,かつ,原告が同化粧品を他から購入する余地は一切閉
ざされており,被告会社が一方的に同化粧品の出荷を停止すると,原告に決定的な
打撃を与えることになるから,本件契約は,いわゆる継続的商品供給契約であっ
て,被告会社は,本件契約に基づき,原告に対して商品供給義務を負う。
 なお,被告会社は,本件契約において,代金支払の遅延・不払や在
庫不足等の特段の事情がない限り,原告から品名と数量を特定して発注があった場
合は,その発注にかかる商品を原告に供給することを約している(包括的な承諾を
与えている。)。したがって,本件契約は,通常の売買契約のように,個別注文に
対する個別の承諾によって個別の売買契約が初めて成立するというものではないの
である。
ウ 被告会社の出荷停止
     原告は,被告会社に対し,平成11年7月分(同年6月21日から同年
7月20日まで)の商品として,従来どおり,月額約5000万円のベースでマッ
クスファクター化粧品を発注したところ,同年6月24日の発注分までは出荷され
たが,それ以降の発注分については,同年7月2日の発注分が出荷されたのを最後
に,いくら原告が催告しても,一切出荷されないまま今日に至っている。
     原告が被告会社に対して発注しながら,被告会社が出荷を拒否している
商品は,別紙商品目録記載のとおり(同年7月発注分3742万0731円,同年
8月発注分5127万3907円)である。
   エ 被告会社の主張
     被告会社は,本件契約は解約により終了したと称し,原告の本件契約上
の地位を争っている。
  (2) 被告A及び被告Bに対する請求関係
   ア 被告A及び被告Bの被告会社における地位
     被告A及び被告Bは,いずれも被告会社の代表取締役である(以下,同
被告らを「被告代表取締役両名」という。)。
   イ 本件契約における代金決済方法
     原告は,旧富士銀行千束町支店に当座預金(口座番号甲)を開設し(以
下「原告の口座」という。),原告の口座に原告が日常頻繁に使用する営業用資金
を預け入れていた。
     本件契約においては,代金については,前月21日から当月20日まで
の原告発注分(被告会社からの納品分)が翌月12日に原告の口座から自動引き落
としの方法で支払われることとなっていた。
   ウ 原告による代金先払
     原告は,被告会社の担当者が,原告についての信用上の不安を口実にし
て,発注した商品の出荷を停止するという行動をとりだしたため,商品代金の支払
になんらの懸念がないことを証明するために,その事情を通知の上,自動引き落と
しの期日を待たずに,平成11年7月1日,商品代金を先払した結果,同日の時点
で,被告会社には原告の口座から引き落とすことができる債権が存在しないことに
なった。
   エ 被告代表取締役両名による金員の引き落とし
     しかるに,被告代表取締役両名は,前記の代金決済方法を悪用し,原告
の資金繰りを困難にさせることによって原告の経営を立ち行かなくさせ,原告が各
支店で行ってきたマックスファクター化粧品の2割引販売を中止させようと考え,
同月12日,勝手に原告の口座から5241万3173円を引き落として被告会社
の口座に入金し,同月26日にその金額を戻すまで14日間にわたりこれを費消し
た。
   オ 被告代表取締役両名の責任
     被告代表取締役両名は,商法266条ノ3により,上記引き落とし行為
により原告が被った損害を賠償する責任を負う。
   カ 原告の損害
     原告は,上記引き落とし行為により,14日間にわたり前記金額を勝手
に費消され,営業上の損害を被った。上記損害は1000万円を下らない。
  (3) よって,原告は,被告会社に対し,本件契約に基づき,別紙商品目録記載
の商品の引渡し及び平成12年3月7日以降においても原告注文にかかる被告会社
販売のマックスファクター化粧品の引渡しを受けるべき地位にあることの確認を求
めるとともに,被告代表取締役両名に対し,商法266条ノ3に基づく損害賠償の
一部請求として,連帯して金500万円を支払うことを求める。
 2 請求原因に対する認否
  (1) 請求原因(1)(被告会社に対する請求関係)について
   ア 請求原因(1)ア(本件契約の締結)は,認める。ただし,本件契約は,原
告の本店との間で締結されたものである。
   イ 請求原因(1)イ(本件契約の内容)について
    (ア) 請求原因(1)イ(ア)は,認める。ただし,本件契約にいう小売店は,
本件契約を締結した店舗である。
    (イ) 請求原因(1)イ(イ)は,認める。
    (ウ) 請求原因(1)イ(ウ)のうち,近時,原告が被告会社と新たな契約を結
ばずに,被告会社が原告に対して卸してきたマックスファクター化粧品のうち多く
の部分を原告の各支店が流用してきた点は認めるが,その余は不知。被告会社は,
原告が小売販売のみではなく,他店にも卸販売を続けているのではないかとの強い
疑念を抱いている。
 なお,原告が最初に支店を開設したのは平成6年であり,原告が3
4年間にわたってマックスファクター化粧品を販売してきたのは本店においてであ
る。
    (エ) 請求原因(1)イ(エ)は,不知。
    (オ) 請求原因(1)イ(オ)は,認める。
    (カ) 請求原因(1)イ(カ)は,否認ないし争う。
       被告会社の原告本店に対する商品の出荷が実質的に行われなくなっ
た平成11年9月以降においても,原告本店及び支店の店頭には依然被告会社商品
が十分に並んでいる。次に,原告は,被告会社の競争会社の化粧品を扱っているこ
とは明らかであり(甲26の1の2,甲26の2の2),仮に,被告会社から被告
会社商品を入手できなかったとしても,原告は,代替的な競争品(競争手段)を容
易に見いだすことができるのである。また,マックスファクター化粧品は,原告の
店舗において,5番目に表示される化粧品にすぎず,これを取り扱うことが原告の
特色となっているとはいえない。
 さらに,本件において,取引関係が長年にわたって継続し,いわゆ
る継続的商品供給契約が成立しているのは,あくまで契約店舗である原告本店との
取引であって,支店との取引ではない。したがって,仮に,継続的取引から生ずる
原告の取引継続の期待があり得るとしても,その期待は,原告本店の取引について
のみ生ずるものであり,支店販売部分については,継続的商品供給契約に基づく商
品供給義務など存在しない。
 そして,本件契約は,当事者間の権利義務を定めた基本契約にすぎ
ず,原告の商品の引渡請求権が発生するためには,原告の商品の発注に対して,被
告会社の承諾があったことが必要となる(平成6年9月14日資生堂事件東京高裁
判決・判例時報1507号43頁)。本件において,被告会社が原告の商品発注に
承諾を与えた事実はない。
   ウ 請求原因(1)ウ(被告会社の出荷停止)のうち,平成11年7月2日の発
注分が出荷されたのを最後に,いくら原告が催告しても,一切出荷されないまま今
日に至っているとの事実は,否認する。被告会社は,同年8月21日の発注分(9
万6000円)につき商品を出荷している。
この点,被告会社は,契約が締結されている店舗において消費者に販売
されている分として,とりあえずその金額を50万円と設定し,原告の注文がその
金額までであれば,出荷に応じる用意があった。
   エ 請求原因(1)エ(被告会社の主張)は,認める。
  (2) 請求原因(2)(被告代表取締役両名に対する請求関係)について
   ア 請求原因(2)ア(被告代表取締役両名の被告会社における地位)は,認め
る。
   イ 請求原因(2)イ(本件契約における代金決済方法)のうち,原告が日常頻
繁に使用する営業用資金を原告の口座に預け入れていたとの事実は,不知。その余
の事実は,認める。
   ウ 請求原因(2)ウ(原告による代金先払)のうち,原告が平成11年7月1
日,被告会社の銀行口座に買掛金5241万3173円を振り込んできたことは認
める。これは本件契約により定められた代金決済方法に反するものであったので,
被告会社は上記金員を一時預り金として処理した。
   エ 請求原因(2)エ(被告会社による金員の引き落とし)のうち,原告の口座
から金員が引き落とされた事実及びその後返還された事実は認め,その余は否認す
る。被告会社は,自動引き落としを停止し,一時預り金で商品代金を決済する予定
であったが,事務処理上の手違いにより,自動引き落としを停止できなかったもの
である
   オ 請求原因(2)オ(被告代表取締役両名の責任)及びカ(原告の損害)は,
いずれも否認ないし争う。
     原告が本件契約に定められた代金決済方法と異なる支払をした場合に,
これを一時的に預かったからといって,自動引き落としの約定が失効するわけでは
なく,後日,被告会社が原告に一時預り金を返還している以上,なんらの責任も負
うものではない。
     そもそも,本件の自動引き落としの主体は,被告会社であって,被告代
表取締役両名ではないし,商法266条ノ3に基づく取締役の責任も,通常,経理
の些細な手続上の問題について認められる余地などないのである。
 3 抗弁
  (1) 原告の本件契約違反による一部供給措置(被告会社に対する商品引渡請求
に対し)
   ア 本件契約における約定
     本件契約締結の際に作成された別紙契約書には,以下の内容の規定があ
る。
    (ア) 原告が本件契約に違反した場合で,相当期間を定めて違反を是正す
るよう催告をしたのに原告がこれに応じないときには,取引制限又は停止若しくは
本件契約の解除の措置をとることができ,契約違反行為が信頼関係破壊により是正
され得ないと認められるときには,催告なくして上記措置をとることができる(別
紙契約書15条)。
    (イ) 原告は,その販売要員に被告会社の主催する美容講座を受講させ,
マックスファクター化粧品を販売するに当たり,被告会社の指導するところに従っ
て,顧客に対し同化粧品の使用方法を説明したり,同化粧品について顧客から相談
に応じたりして,これを積極的に推奨販売しなければならない(別紙契約書6条,
9条,以下「対面販売条項」という。)。
    (ウ) 原告は,原告が購入した商品を原告本店のみにおいて,消費者にの
み直接小売販売するものとし,原告が他に店舗を新設する場合には,新設店舗ごと
に別途契約を締結しなければならない(別紙契約書1条,13条,以下「店別契約
条項」という。)。
   イ 対面販売条項及び店別契約条項の有効性
     本件契約において,対面販売条項及び店別契約条項が独占禁止法19条
が禁止する「不公正な取引方法」に該当しないことは,以下の理由により明らかで
ある。
    (ア) 対面販売は,個々の消費者に対して,それぞれの体質,季節の変
化,化粧をする時間帯等に応じて,きめ細かく化粧品の説明を行ったり,その選択
や使用方法について顧客の相談に応じる(少なくとも,各種セミナーを受講して常
に個々の顧客の求めにより説明,相談に応じ得る態勢を整えておく。)という付加
価値をつけて化粧品を販売する方法である。被告会社は,これにより,最適な条件
で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの個々の顧客の要求に応え,あるいは肌
荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をすることによって,顧客に満足感を与え,他
の商品とは区別されたマックスファクター化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブ
ランドイメージ)を保持しようとしているのであり,対面販売条項には,合理的理
由がある。
    (イ) 特約店契約を締結しておらず,対面販売の義務を負わない店舗等に
商品が流用されてしまうと,前項の目的を達することができなくなるから,店別契
約条項は,対面販売条項に必然的に伴うものというべきである。
    (ウ) 被告会社は,他の取引先との間においても,本件契約と同一の約定
を締結しており,原告以外の取引先は,すべて対面販売条項及び店別契約条項の遵
守を受諾している。
   ウ 原告による対面販売条項違反行為
    (ア)被告会社は,前記のような理由で,対面販売を最重要の営業方針と
して臨んできた。被告会社は,インターネットによる化粧品販売を試験的に行った
ことはあるが,対面販売の目的に反したことなどを理由にこれを終了し,現在まで
類似のテスト販売は行われていない。原告は,化粧品のセルフ販売店「セフォラ」
との間で特約店契約を締結していることを問題とするが,同店においても対面販売
ができる態勢が整えられているのであり,なんら問題はない。
    (イ) しかるに,原告は,対面販売を予定しないいわゆる「職域販売」
(単に商品名,価格,商品コードを記載しただけのカタログを事業所等の職場に配
布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達する方法で,カウンセリン
グを伴わないもの)を行っていた。
   エ 原告による店別契約条項違反行為
    (ア) 原告は,被告会社から仕入れたマックスファクター化粧品のほとん
どを直接消費者に小売りすることなく,被告会社と特約店契約を締結していない原
告の新設店舗に流用して販売していた。
  さらに,原告は,他社の店舗への卸売販売も行っている疑いがあ
る。
    (イ) 被告会社が原告がマックスファクター化粧品を本店以外の店舗で販
売していることを従前から認識していたとの事実,これを被告会社の担当者が認
め,あるいは被告会社が黙認していたとの事実は,いずれもない。被告会社は,原
告の上記違反行為を認識してから,原告に対し,違反行為を止めるように度々催告
したが,原告はこれを止めなかった。
 原告は,被告会社が原告の各支店での取引を容認していたと主張す
る。
 確かに,Cが,セールストークの一環として,原告の支店での取引
を容認するような発言をせざるを得なかった可能性は否定できない。しかし,契約
条項に明白に違反する取引を容認するという被告会社にとって非常に重要な意思決
定をCが行う権限はないのであり,Cの容認を被告会社の意思表示と解釈すること
はできない。また,Dが支店での取引を容認した事実はないし,仮に,これを容認
していたとしても,これを被告会社の意思表示と解釈することができないのは,C
の場合と同様である。
 被告会社の原告担当責任者であるEは,平成9年4月17日及び同
年6月25日,原告からの支店での取引の要望を口頭で明確に拒否し,被告会社
は,同年8月1日付け原告宛書簡(乙22)により,原告の支店での取引開始の申
込みに対して拒絶の通知を行い,平成10年12月18日付け原告宛書簡(乙7)
により,原告各支店との間では契約が成立していない旨の正式な通知を行ったもの
である。原告も,同月28日付け被告会社宛書簡(甲9)において,支店との間で
の契約が成立していないということを明確に確認している。
 したがって,仮に,平成8年の時点で,被告会社として原告の支店
での取引を容認する事実があり,支店を含めて本件契約が成立していたと評価でき
るとしても,本件契約の有効期間(1年ごとの更新)にかんがみると,遅くとも平
成11年の時点においては,被告会社と原告各支店との間で本件契約が成立してい
ると評価する法的根拠は何もないのであり,それにもかかわらず,原告は各支店に
おいて被告会社化粧品の販売を行うという明白な契約違反行為を継続していたもの
であるから,原告・被告会社間の信頼関係が破壊されていることは明らかである。
 なお,被告会社は,原告が上記違反行為を行っている可能性がある
ことを認識した後,直ちにその是正措置を取らなかったが,それは,当時,本件に
おいて問題になっている対面販売条項等の有効性が原告を当事者の一部とする訴訟
において激しく争われており,第1審と第2審の結論も分かれていた状況であった
ため,被告会社としては,その是正措置につき慎重にならざるを得なかったもので
ある。したがって,当該訴訟の帰趨が明らかになるまで,その是正措置を取らなか
ったとしてもやむを得ないものであり,これをもって,被告会社が原告の支店での
取引を容認していたと評価することはできない。
オ 被告会社の要請の無視
     原告は,被告会社が原告に対して販売方法等について度重なる質問をし
たのに対し,全く誠意を持った対応をしなかった。さらに,原告は,被告会社の再
三の本件契約遵守の要求に応じず,原告各新設店舗との契約締結を要求するのみ
で,契約違反行為を継続した。
   カ 以上のような原告の本件契約違反行為及び信頼関係破壊行為により,被
告会社は,原告に対し,50万円に至るまでの発注に応じるという一部供給措置を
とったものであり,上記措置は正当な措置である。
  (2) 本件契約の解約(被告会社に対する商品引渡しを受けるべき地位の確認請
求に対し)
   ア 抗弁(1)ア(本件契約における約定),抗弁(1)イ(対面販売条項及び店
別契約条項の有効性),抗弁(1)ウ(原告による対面販売条項違反行為),抗弁(1)
エ(原告による店別契約条項違反行為)及び抗弁(1)オ(被告会社の要請の無視)と
同じ。
   イ 信頼関係の破壊
     原告は,被告会社に対し,平成11年7月23日付け通知書及び同年1
0月5日の本件口頭弁論期日において,被告会社及び被告代表取締役両名の行為が
刑法235条の窃盗罪に該当すると断定し,「事柄は警察における刑事事件以外の
何ものでもありません。」「日本という法治国家では,窃盗がばれたからといっ
て,金を返しても,罪を免れることはできない。」などと,被告会社及び被告代表
取締役両名に対する誹謗中傷を繰り返すなど,常識を超えた対応をとり,本件契約
における信頼関係を破壊した。
   ウ 別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示(なお,これは,
被告会社に対する解約日以降における商品引渡請求に対する抗弁にもなり得る。)
    (ア) 被告会社は,原告に対し,同年12月7日の本件口頭弁論期日にお
いて,平成12年3月7日をもって信頼関係の破壊を理由に本件契約を解約すると
の意思表示をした。
    (イ) 被告会社は,原告に対し,平成11年12月7日付け書面におい
て,平成12年3月7日をもって信頼関係の破壊を理由に本件契約を解約するとの
意思表示をし,上記書面はそのころ原告に到達した。
   エ 別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使
原告又は被告会社は,本件契約の有効期間中といえども,それぞれ文書
による30日前の予告をもって理由を要せずして本件契約を中途解約できる(別紙
契約書18条)。被告会社は,原告に対し,平成11年12月7日の本件口頭弁論
期日及び同日付け書面において,別紙契約書18条の「事由を要しない解約」条項
に基づく解約を主張しており,予告期間として,原告の立場を考慮し,約定の30
日間を上回る3か月間を設定し,その旨を通知しているものである。
   オ 相当の予告期間を設けた解約(又は更新拒絶による契約終了)
     エの解約の意思表示は,相当の予告期間を設けた解約の意思表示であ
り,相当期間経過後である平成12年3月7日において,解約の効力が生じた。
また,当該解約の意思表示は,更新拒絶の意思を当然に包含するもので
あるから,仮に,同日において解約の効力が生じなかったとしても,別紙契約書2
1条に基づき,本件契約は,遅くとも同年6月14日,期間満了により終了した。
 4 抗弁に対する認否及び原告の主張
  (1) 抗弁(1)(原告の本件契約違反による一部供給措置)について
   ア 抗弁(1)ア(本件契約における約定)は,認める。
   イ 抗弁(1)イ(対面販売条項及び店別契約条項の有効性)は,否認ないし争
う。
   ウ 抗弁(1)ウ(原告による対面販売条項違反行為)のうち,原告が職域販売
を行っていたことは認め,その余は否認ないし争う。
    (ア) 被告会社は,インターネットによりマックスファクター化粧品の通
信販売を行っているし,化粧品のセルフ販売店「セフォラ」との間でも特約店契約
を締結しているのであるから,対面販売を最重要の営業方針として臨んできたとの
被告会社の主張は虚偽である。
    (イ) 原告が行っていた職域販売は,仕入額全体の2ないし5パーセント
である。また,原告は,本件契約が締結された昭和40年以来,34年間にわたっ
て職域販売を行っており,被告会社はそのことを初めから熟知していながら,これ
まで一度も職域販売をやめてほしいとの意向を表明したことはなかった。さらに,
原告は,被告会社に対し,平成10年12月29日をもって職域販売を中止するこ
とを内容証明郵便で通知し,同日をもってこれを中止した。
    (ウ) 原告の各支店においては,来客した顧客にいつでも詳細な対面販売
を行うことができる態勢が維持されている。
   エ抗弁(1)エ(原告による店別契約条項違反行為)は,否認する。以下のと
おり,原告の行為は,店別契約条項に違反しないし,仮に違反するとしても,それ
が本件契約における信頼関係を破壊するものではない。
    (ア) 原告は,平成8年ころ,被告会社の担当者であるDに対し,各支店
ごとに特約店契約を締結したいと申し出たが,同人から「支店ごとの契約をしなく
ても,商品は冨士喜本店に出すから冨士喜の各支店に回していただければよい。」
と言われた。
    (イ) 原告は,同年6月14日,被告会社との間で契約更新をした際,被
告会社地域担当者Cに対し,今までどおり原告各支店での販売分も出荷してもらえ
るよう念を押したが,これに対して同人は,これまでどおり各支店の販売分も間違
いなく出荷すると確約した。
    (ウ) 被告会社は,原告に対し,常にマックスファクター化粧品の売上げ
の増大,促進を求め続けてきたのであって,原告が売上げを増大すればするほどそ
れを奨励し,販売特別助成金と称する報奨金を原告に支払ってきた。原告の被告会
社に対する発注高は,原告の支店の数が増えるに従って年々増加してきた。
    (エ) 原告は,原告各支店と被告会社との間で,本件契約が締結されてい
る旨の平成11年5月19日付けの内容証明郵便による通知書を被告会社に送付し
たのち,被告会社に対して,これまでどおり原告の本店及び支店の販売分として,
月額合計約5000万円の商品の出荷を求めたところ,被告会社はこれに応えて原
告の発注どおりに商品を出荷してきた。
    (オ) 以上の経緯のとおり,被告会社は,原告が本店で一括して仕入れた
マックスファクター化粧品を本店だけでなく各支店で販売してきたことを支店開設
以来熟知していたが,それについてなんらの異議も唱えることなく商品を出荷して
きたのであるから,本件契約は,原告の本店及び各支店も含めて,原告,被告会社
間で成立しているものと評価できるし,少なくとも,原告がマックスファクター化
粧品を支店で販売したことにより本件契約における信頼関係が破壊されることはな
い。
   オ 抗弁(1)オ(被告会社の要請の無視)は,否認する。
   カ 抗弁(1)カは,否認ないし争う。
     被告会社は,同年7月4日以降,原告に対して全面的に出荷停止の措置
をとったのであり,一部供給措置などというようなものではない。
  (2) 抗弁(2)(本件契約の解約)について
   ア 抗弁(2)アに対する認否は,4(1)アないしオと同じ。
   イ 抗弁(2)イ(信頼関係の破壊)のうち,原告の被告会社に対する言動が本
件契約における信頼関係を破壊するとの点は,争う。大企業である被告会社が,自
らの杜撰な落ち度について,それにより重大な被害を受けた極めて弱小な零細企業
から多少強い口調の非難の声を浴びせられたからといって,信頼関係が破壊された
と解することはできない。
ウ 抗弁(2)ウ(ア)(別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示)
は争い,抗弁(2)ウ(イ)(別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示)
は,認めるが,争う。
エ 抗弁(2)エ(別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使)及びオ(相当
の予告期間を設けた解約(又は更新拒絶による契約終了))は,いずれも争う。
 5 再抗弁(信義則違反,権利濫用,公序良俗違反─抗弁(1),(2)に対し)
   被告会社のとった取引停止措置及び本件契約の解約は,以下の事情に照らす
と,信義則違反,権利濫用,公序良俗違反に該当し,無効である。
  (1) 被告会社が取引停止措置及び本件契約の解約の理由として挙げる対面販売
条項違反,店別契約条項違反,原告の被告に対する誹謗中傷等の事情が,いずれも
事実に反するか,少なくとも信頼関係の破壊に至らない程度のものにすぎないこと
は,前記のとおりである。
  (2) 被告会社の原告に対する本件出荷停止,解約は,マックスファクター化粧
品を2割引きで全国的,大々的に販売している「化粧品安売り店」で知られる原告
経営の店舗に対し,自社化粧品を入手できないようにすることにより,上記値引販
売を阻止しようとした意図,目的から出たものであることは明らかであり,これは
独占禁止法に違反する行為である。
    対面販売条項違反,店別契約条項違反等の被告会社の主張は,この真の理
由を隠蔽するために考え出された口実にすぎない。
  (3) 被告会社が原告に対して行った本件出荷停止,解約(更新拒絶)には,
「やむを得ない事由」も「合理的理由」も存しない。
 6 再抗弁に対する認否及び被告会社の主張
  (1) 再抗弁(1)ないし(3)は,いずれも否認ないし争う。
  (2) 被告会社の一部供給措置は,原告が,店舗ごとに契約を締結し,カウンセ
リング販売を積極的に行う等の契約上の義務に違反し,信頼関係を破壊する行為を
継続して行っていたことに対抗して取られたものであり,それに加えて,被告会社
が上記信頼関係を破壊する行為の是正を求める中で,原告は,被告会社代表者が犯
罪を犯したものと根拠なく決めつける等の常識を超えた誹謗中傷を繰り返したた
め,被告会社は本件契約を解約するに至ったものである。したがって,被告会社の
一部供給措置及び本件契約の解約は正当な行為であり,被告会社の行為が信義則違
反,権利濫用,公序良俗違反に該当するという原告の主張は,全く根拠のない主張
にすぎない。
この点,仮に,被告会社の営業担当者による原告の支店での販売の容認が
あり,これに基づき,信義則上,被告会社が直ちに商品の出荷を停止することは許
されないという考え方が理論上成り立ち得るとしても,本件において,被告会社
は,商品の出荷を直ちに停止したものではないことに留意すべきである。すなわ
ち,被告会社は,原告に対し,遅くとも平成10年12月18日付けの通知書によ
り,支店での販売の中止を求めたものであり,契約店舗で販売されると想定された
数量をはるかに上回る注文に対して商品を出荷しなくなったのは平成11年7月以
降である。したがって,被告会社は,原告に対し,7か月以上の予告期間を与えた
ものであり,本件において,被告会社が直ちに商品の出荷を停止したものとして信
義則上許されないと評価することはできないと解される。
            理         由
第1 当裁判所の判断
 1 被告会社に対する商品引渡請求について
  (1) 原告は,被告会社に対し,本件契約に基づき,別紙商品目録記載の商品の
引渡しを求めている。
    しかしながら,原告が被告会社に対して,その注文にかかる商品の引渡し
を求めるためには,被告会社が原告に対し,原告の商品の注文(申込みの意思表
示)に対する承諾の意思表示をすることを要するものと解されるところ,被告会社
が原告に対して原告の上記請求にかかる上記商品を出荷しなかったことは当事者間
に争いがなく,被告会社は本件訴訟において上記請求を争っているのであるから,
被告会社が原告に対し,原告の商品の注文に対する承諾の意思表示をしたものと認
めることはできない。
    したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記請求は
理由がない。
  (2) この点,原告は,被告会社は,本件契約において,代金支払の遅延・不払
や在庫不足等の特段の事情がない限り,原告から品名と数量を特定して発注があっ
た場合は,その発注にかかる商品を原告に供給することを約している(包括的な承
諾を与えている。)と主張する。
    確かに,証拠(甲3)によれば,本件契約は被告会社製品(以下「商品」
ともいう。)の取引について締結されたものであり,原告が本件契約に従って商品
の積極的な推奨販売に努めること等をその目的とし(別紙契約書1条),被告会社
は上記目的を達成するために積極的に協力するものとされ(同2条),また,原告
は本件契約に基づいて被告会社から商品を仕入れることができることを前提とした
定めがあること(同6条1項,7条1項)が認められ,これらの点に照らすと,原
告と被告会社は,昭和40年ころの本件契約締結の際,あるいは,平成8年6月1
4日の別紙契約書作成の際,被告会社は,在庫不足等の特段の事情がない限り,原
告の商品の注文に対する承諾の意思表示をしなければならないとの黙示の合意をし
たものと解すべきである。
    しかしながら,他方,証拠(甲3)によれば,本件契約においては,本件
契約に基づく取引の品目,価格,支払条件その他取引条件については,本件契約に
定めるもの以外は別途取り決めるものとされている(同4条)のであるから,原告
が商品を注文する際には別途の契約を締結する必要があるものと解されるし,原告
の主張するように,原告が商品の品目や数量を特定して注文すれば,特段の事情が
ない限り,被告会社が上記注文に対する承諾の意思表示をすることを要せずして,
その注文にかかる商品の引渡しを求めることができる旨の定めはなく,そのように
解釈することのできる定めを見いだすこともできないから,被告会社が原告の商品
の注文に対する承諾の意思表示をしない限り,原告は,被告会社に対し,その注文
にかかる商品の引渡しを求めることはできないものと解するほかはない。
    したがって,原告の上記主張は理由がない。
 2 被告会社に対する商品引渡しを受けるべき地位の確認請求について
  (1) 原告が被告会社との間で,昭和40年ころ,本件契約を締結し,その後,
本件契約が自動更新されてきたことは,当事者間に争いがないところ,被告会社
は,平成11年12月7日の本件口頭弁論期日において,原告に対し,被告会社が
原告による店別契約条項違反行為の是正を求める中で,原告は,抗弁(2)イのとお
り,誹謗中傷を繰り返し,原告との信頼関係は完全に失われたとの理由により,別
紙契約書17条及び18条に基づき,平成12年3月7日をもって本件契約を解約
する旨の意思表示をし,また,平成11年12月7日付け通知書(内容証明郵便
物)(乙18)をもって,同旨の意思表示をした(以下「本件解約」という。)こ
とは,本件訴訟上明らかである。
    そこで,本件解約の効力について検討する。
  (2) 争いのない事実,顕著な事実,証拠(甲1ないし4,9,11,26(枝
番を含む。),32,34ないし36,46,乙2,3,7,9,10,14,1
7,22,23,27,38,41,証人C,証人D,証人E,原告代表者)及び
弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。これに反する証拠は,前掲各証拠
に照らし,採用することができない。
   ア 原告は化粧品等の販売等を目的とする株式会社であり,被告会社は化粧
品等の製造,売買等を目的とする株式会社であるところ,原告は,被告会社製品の
取引について締結された本件契約に基づき,被告会社本社の受注センターに対して
化粧品の注文をして,被告会社から化粧品を仕入れ,単に商品名,価格,商品コー
ドを記載しただけのカタログを事業所等の職場に配布して電話やファクシミリでま
とめて注文を受けて配達する方法(いわゆる「職域販売」)によって,これらを主
に2割引きで販売していた。この場合,顧客と対面しての被告会社化粧品の使用方
法等の説明,相談等は全く予定されていない。被告会社側は,原告が職域販売の方
法によって化粧品を販売していることを知っていたが,平成10年12月18日ま
で,原告との間でこれを問題にしたことはなかった。
   イ 東京高等裁判所は,平成6年9月14日,原告が提起した別件訴訟(同
裁判所平成5年(ネ)第4019号地位確認等請求控訴事件)について,請求棄却の
判決を言い渡し,職域販売が対面販売を定めた特約店契約に反し,その債務不履行
を構成する旨判示した。
   ウ 原告は,上記イの判決を受け,職域販売を縮小して店頭販売を行うこと
とし,別紙「原告の本店および全国一一か所の支店(新店舗)一覧表」記載のとお
り,平成6年11月7日以降,全国各地に順次支店を開設した。原告は,支店で販
売する商品を本店において仕入れ,これを各支店に送って販売していた。その後,
原告の職域販売による売上高は減少し,全体の売上高に占める割合は2ないし5パ
ーセントとなった。
   エ 原告代表者Fは,各支店を開設する前に,被告会社の営業担当者であっ
たCに対し,その旨を伝えるとともに,再三にわたり,各支店ごとに本件契約と同
様の契約を締結するように申し入れた。Cは,その都度,被告会社関東支店支店長
であったE及び被告会社東京第一営業所所長であったDに対し,Fの上記申入れを
伝えたが,E及びDは明確な返答をしなかった。
   オ E,D及びCは,平成8年5月14日,取引制度の改正について説明す
るため,原告の本店を訪問した。その際,Fが各支店ごとに契約を締結するように
申し入れたのに対し,Eらは,各支店ごとに契約を締結することは難しいが,これ
までどおり,商品は支店の分も本店に出荷するから,それを支店に回せばよい旨述
べた。同年6月5日,F,D及びCが会食をした際にも,同様のやりとりがあっ
た。
   カ 原告及び被告会社は,同月14日,別紙契約書(甲3)を作成した(こ
れは厳密には新たな契約の締結であるが,本件契約と連続性を有するものであり,
別紙契約書の作成後は,本件契約の内容は別紙契約書記載のとおりとなったものと
解されるから,別紙契約書記載の契約も「本件契約」と称することとする。)。C
は,原告から別紙契約書を受領する際,Fに対し,商品は支店の分も本店に出荷す
る旨述べた。
   キ Fは,平成9年2月ころ,被告会社側に対し,各支店ごとに契約を締結
するように申し入れ,同年4月17日,E及びDと会った際,各支店の従業員に対
してカウンセリングのトレーニングを行うように申し入れたが,Eらは,各支店と
は契約を締結していないとの理由でこれを拒否し,また,Fの契約締結の申入れに
対しても,各支店と契約を締結すると,近所の店がうるさいし,東京の数字(売上
高)が減ってしまうとの理由により,これを拒否した。
   ク Eは,同月27日,被告会社本社営業統括本部長であった諸星宛の「富
士喜本店の取引について」と題する書面(甲35)を作成し,諸星に対し,これを
送付した。上記書面には,原告に対する売上高が増大していること,全国各支店の
注文及び全国の職域販売が増大していると考えられること,原告から各支店ごとの
取引を申し込まれたが,取引はできない旨伝えたことなどが記載され,また,「富
士喜が全国的規模で広がりを見せる状況から,MF(マックスファクター)の将来
にとって職域販売の広がりと安売り店の広がりは,危険ではないかと危惧する。」
「現場では,法的に許される範囲で出荷の調整ができればと考えています。」など
と記載されている。
   ケ Fは,同年6月25日,E及びDと会食をした際,各支店ごとに契約を
締結することを拒否されたのに対し,文書で回答するように求めたので,Eは,F
に対し,同年8月1日付け書簡(乙22)を手渡した。上記書簡には,「今回お申
し出を頂きました貴社10店舗との取引開始の依頼の件につきまして,各店舗の雰
囲気,周辺環境,当社サポート体制等,種々考慮致しましたが,何れの店舗も取引
を開始するには至らないとの判断に到達しましたので,誠に申し訳ありませんが,
取引の開始はご遠慮させて頂きたく存じ上げます。」などと記載されている。
   コ 被告会社パートナーストア中部支店支店長であったGは,平成10年3
月17日,Hに対し,「中部地区ディスカウント店出店ラッシュの報告」と題する
電子メール(甲36)を送信し,Hは,Eに対し,これを転送して,その点につい
て情報をつかんでいるか否かを尋ねた。上記電子メールには,原告が名古屋市にデ
ィスカウント店を出店することを予定していること,近隣にムラサキヤや三越とい
う主力店が存在し,今後それらの売上げに大きな影響が出ることは必至であること
などが記載され,また,「今後の対策として出荷を控える等の手段は公取委の関係
上難しいと思いますが口座店のみの店頭売りに見合う納品だけに止める事その努力
が必要かと思います。」「現既存店にとっては死活問題とされており,メーカーに
対する対応を問う声が日増しに膨れている関係上何らか努力している旨のポーズを
執らざるを得ません。」「この種の問題は過去頻繁に有りましたが最近我社の主力
店の近郊に発展しております」などと記載されている。
   サ 最高裁判所は,同年12月18日,上記イの判決に対する上告事件(同
裁判所平成6年(オ)第2415号地位確認等請求事件)について,上告棄却の判決
を言い渡した。
   シ 被告会社は,原告に対し,平成10年12月18日付け書簡(内容証明
郵便物)(乙7)を送付した。上記書簡には,「当社はこれまで,貴社におかれま
しては当社の販売理念及び販売施策を理解され,マックスファクターパートナース
トア契約書の各条項に則り当社化粧品のご拡販にあたられていると信じておりまし
た。然るに,これまで当社が調査し入手した情報によりますと,貴社は当社から買
い受けた化粧品のほとんどについて,契約書に記載された店舗において直接消費者
に対し小売販売していないことが判明致しました。これは先の契約条項に違反し両
者間の信頼関係を損なうものであり誠に遺憾に存じます。つきましては,当社は貴
社に対し,今後は当社化粧品の全てを契約書に記載された貴社店舗で直接消費者に
小売販売するよう約束することを求めるものであります。」などと記載されてい
る。
   ス 原告は,職域販売の顧客に対し,同月24日付け「職域配達販売全面中
止のお知らせ」と題する書面(甲46)を送付し,同月29日,職域販売を完全に
中止したが,各支店における商品の販売は継続した。
   セ 原告は,本店の従業員に被告会社によるカウンセリングのトレーニング
を受けさせ,上記トレーニングを受けた者は,各支店の従業員に対し,カウンセリ
ングについて説明していた。原告の本店及び各支店においては,カウンセリングコ
ーナーが設けられ,カウンセラーが顧客の求めに応じて,被告会社化粧品について
カウンセリングを行うこととなっていた。
   ソ 原告の被告会社からの仕入高の推移は,別紙「マックスファクター仕入
実績表」記載のとおりであり(なお,各月の仕入高は,前月21日から当月20日
までの仕入高の合計である。),原告の支店の増加に伴い,仕入高も年々増大し,
平成10年の仕入高の月平均は5000万円以上に上っていた。
   タ 被告会社は,原告に対し,平成11年2月25日付け回答書(内容証明
郵便物)(乙9)を送付した。上記回答書には,原告の各支店との取引開始を見合
わせる理由は,「推奨販売が必要とされる当社商品を,これまで貴社本店から各支
店へ(それもパートナーストア契約第6条に抵触して推奨販売も行っていないので
はないかと疑われる各支店に)勝手に移動されていたこと,貴社本店において本当
に守られているかどうか疑問のある「推奨販売」の実行(パートナーストア契約書
第6条に明記してある)と,推奨販売の実施が期待できないような他店への「卸売
り販売」を当社が禁止していることについて,貴社の他の支店がこれらを遵守され
るかどうか,当社としては極めて疑わしいと考えていることなど」であるなどと記
載されている。
   チ 被告会社は,原告に対し,同年4月30日付け回答書(内容証明郵便
物)(乙10)を送付した。上記回答書には,「当社は当社商品の貴社浅草本店へ
の今後の出荷量を,当社の調査に基づき,貴社浅草本店の一般消費者に対する予想
販売額として,取敢えず月額50万円と設定」するなどと記載されている。
   ツ 被告会社は,同年6月24日までの原告の商品の注文に対しては,これ
に応じて商品を出荷していたが,原告の別紙商品目録記載の商品の注文に対して
は,これに応じず,その後も,原告に対し,一部の例外を除き,商品を出荷しなか
った。
   テ 原告は,被告会社に対し,同年7月23日付け通知書(内容証明郵便
物)(乙17)を送付した。上記通知書には,被告会社が原告の口座から5241
万3173円を引き落としたことに関し,「日本の刑法第二三五条窃盗罪に該当す
るものと断定されることです。」「日本という法治国家では,窃盗がばれたからと
いって,金を返しても,罪を免れることはできないことになっているのです。」
「事柄は,警察における刑事事件以外の何ものでもありません。」などと記載され
ている。
   ト 原告は,同年8月26日,当裁判所に対し,本件訴訟を提起した。
  (3) 別紙契約書17条に基づく本件解約について
ア 原告による対面販売条項違反行為について
被告会社は,原告は対面販売を予定しないいわゆる「職域販売」を行っ
ていたから,対面販売条項に違反する旨主張する。
確かに,上記認定のとおり,原告は,本件契約を締結した昭和40年こ
ろから平成10年12月29日までの間,職域販売を継続し,この場合,顧客と対
面しての被告会社化粧品の使用方法等の説明,相談等は全く予定されていないので
あるから,これは対面販売条項に違反するものというべきである。
しかしながら,上記認定のとおり,被告会社側は,原告が職域販売の方
法によって化粧品を販売していることを知っていたが,平成10年12月18日ま
で,原告との間でこれを問題にしたことはなかった。
また,原告は,平成6年9月14日,別件訴訟において,職域販売が対
面販売を定めた特約店契約に反し,その債務不履行を構成する旨の判決を受け,職
域販売を縮小して店頭販売を行うこととし,同年11月7日以降,全国各地に順次
支店を開設した。原告の本店及び各支店においては,カウンセリングコーナーが設
けられ,直接又は間接にトレーニングを受けたカウンセラーが顧客の求めに応じ
て,被告会社化粧品についてカウンセリングを行うこととなっていた。
その後,原告の職域販売による売上高は減少し,全体の売上高に占める
割合は2ないし5パーセントとなった。そして,原告が職域販売を完全に中止した
平成10年12月29日から本件解約まで約1年間が経過していた。
以上によれば,被告会社は,長年にわたり原告の職域販売を黙認してい
たうえ,平成6年9月以降,職域販売を縮小して店頭販売を行い,原告の本店及び
各支店においては,顧客の求めに応じ,随時被告会社化粧品の使用方法等の説明,
相談等をする態勢が一応整えられていたものであり,その後,原告の職域販売によ
る売上高は著しく減少し,原告が職域販売を中止してから本件解約まですでに約1
年間が経過していたのであり,これらの点に後記イの事情(被告会社は,原告が契
約を締結していない(したがって,対面販売が保障されない)原告の各支店におい
て商品を販売することを容認していたこと)をも併せ考慮すると,本件解約の時点
においては,本件契約の基礎にある信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の
事情があるものというべきである。
したがって,原告による対面販売条項違反行為を理由とする本件解約は
無効というべきである。
イ 原告による店別契約条項違反行為について
(ア) 被告会社は,原告は被告会社から仕入れたマックスファクター化粧
品のほとんどを直接消費者に小売りすることなく,被告会社と特約店契約を締結し
ていない原告の新設店舗に流用して販売していたと主張する。
 確かに,本件契約においては,原告は原告が購入した商品を原告本
店のみにおいて消費者にのみ直接小売販売するものとされているところ,上記認定
のとおり,原告は,平成6年11月7日以降,全国各地に順次支店を開設し,原告
は支店で販売する商品を本店において仕入れ,これを各支店に送って販売していた
のであるから,これは形式的には店別契約条項に違反するものといえる。
 しかしながら,上記認定のとおり,原告代表者Fは,各支店を開設
する前に,被告会社の営業担当者であったCに対し,その旨を伝えるとともに,再
三にわたり,各支店ごとに本件契約と同様の契約を締結するように申し入れ,ま
た,平成8年から平成9年にかけて,被告会社関東支店支店長であったE及び被告
会社東京第一営業所所長であったDに対しても同様の申入れをしたのに対し,Eら
は,各支店ごとに契約を締結することは難しいが,これまでどおり,商品は支店の
分も本店に出荷するから,それを支店に回せばよい旨述べて,各支店ごとに契約を
締結することを拒否したのであるから,被告会社は,原告の各支店と別途契約を締
結することなく,原告が本店において仕入れた商品を各支店において販売すること
を容認していたものというべきである。
 そうすると,原告が被告会社の上記容認に基づいて各支店において
商品を販売したからといって,形式的にはともかく,実質的には店別契約条項に違
反するものとはいえないし,信頼関係を破壊するものともいえない。かえって,被
告会社が自己の態度を翻し,原告による店別契約条項違反行為を理由として本件解
約をすることこそ,まさに原告の信頼を裏切るものであり,これが信義則に違反す
ることは明らかである。
 したがって,原告による店別契約条項違反行為を理由とする本件解
約は無効というべきである。
(イ) この点,被告会社は,Dが支店での取引を容認した事実はないと主
張し,これに沿う証拠(証人D)がある。
しかしながら,E及びDは原告が本店において仕入れた商品を各支
店において販売することを容認していた旨の証人Cの証言は,具体的かつ詳細で,
被告会社の内部事情に精通した者でしか知り得ない供述内容であって,迫真性に富
み,反対尋問にも動揺することなく一貫していることや,証人Cはすでに被告会社
を退職していることをも併せ考慮すると,その証言の信用性は高いものというべき
である。これに対し,証人Dの証言は,被告会社の従業員という立場からの制約を
受けることは免れないところであり,証人Cの上記証言と対比すると,これに反す
る証人Dの証言部分をそのまま信用することはできないから,被告会社の上記主張
は理由がない。
 また,被告会社は,契約条項に明白に違反する取引を容認するとい
う被告会社にとって非常に重要な意思決定をCが行う権限はないのであり,Cの容
認を被告会社の意思表示と解釈することはできないとか,Dが仮に支店での取引を
容認していたとしても,これを被告会社の意思表示と解釈することができないのは
Cの場合と同様であると主張する。
 しかしながら,被告会社の末端の営業担当者であったCが被告会社
に無断で原告による店別契約条項違反行為を容認するという重大な行為に及ぶとは
およそ考えられず,証人Cもその証言においてこれを強く否定していることをも併
せ考慮すると,上記容認は被告会社の意を受けたCにより,被告会社の方針として
行われたものとみるのが相当である。上記認定のとおり,E及びDも原告が本店に
おいて仕入れた商品を各支店において販売することを容認していたことや,被告会
社本社側は原告が各支店において商品を販売していることを知りながら商品を出荷
していたと推認することができること(上記(2)ア,エ,オ,カ,ク,コ及びソ)
も,上記判断を裏付けるものである。したがって,被告会社の上記主張は理由がな
い。
ウ 信頼関係の破壊について
被告会社は,原告は被告会社に対し,平成11年7月23日付け通知書
において,被告会社及び被告代表取締役両名の行為が刑法235条の窃盗罪に該当
すると断定し,「事柄は警察における刑事事件以外の何ものでもありません。」
「日本という法治国家では,窃盗がばれたからといって,金を返しても,罪を免れ
ることはできない。」などと,被告会社及び被告代表取締役両名に対する誹謗中傷
を繰り返すなど,常識を超えた対応をとり,本件契約における信頼関係を破壊した
と主張する。
しかしながら,上記通知書の記載(上記(2)テ)は,被告会社が原告の口
座から5241万3173円を引き落としたことに関するものであるところ,その
点について被告会社の対応に問題があったことは後記3(2)のとおりであって,原告
から非難されてもやむを得ない面があることは否定することができないし,一般に
自己の権利を主張する際に誇張した表現方法を用いることはまま見られるところで
あって,上記通知書の記載内容には穏当を欠く点があるものの,これが社会通念上
是認される限度を超えるものとまでは認め難い。
さらに,原告が上記通知書を送付した当時は,被告会社が原告の商品の
注文に対する承諾の意思表示をすべき義務(後記(5))に違反して商品の出荷を停止
し,原告に多大な損害を与えていた時期であったことをも考慮すると,上記通知書
の記載をもって本件契約の基礎にある信頼関係を破壊したものと評価することはで
きないから,被告会社の上記主張は理由がなく,上記ア及びイの判断を左右するも
のではない。
(4) 別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使(相当の予告期間を設けた解
約又は更新拒絶による契約終了)について
本件解約の目的について検討するに,上記認定のとおり,被告会社側は,
平成9年4月17日,近所の店がうるさいなどの理由により,原告の各支店と契約
を締結することを拒否したこと(上記(2)キ),同月27日,原告が全国に支店を開
設するなどし,原告に対する売上高が増大していることから,職域販売と安売り店
の広がりを危惧し,出荷の調整を検討していたこと(上記(2)ク),平成10年3月
17日,原告が名古屋市にディスカウント店を出店することを予定しているとの情
報を得たことから,近隣の定価販売をしている契約店舗の売上げに大きな影響が出
ることを懸念し,メーカーに対応を求める声が高まっていることから,出荷を控え
る等の手段は公正取引委員会との関係で難しいものの,契約店舗の店頭販売に見合
う数量の納品だけにとどめるなどの対策を取る必要があると考えていたこと(上
記(2)コ),平成11年4月30日付けで,原告に対し,原告の本店への商品の出荷
量を本店の一般消費者に対する予想販売額である月額50万円とする旨を通告し
(上記(2)チ),その後,原告の注文にかかる商品を出荷しなかったこと(上記(2)
ツ)を総合考慮すると,本件解約は,主として原告の各支店における商品の値引販
売を阻止する目的で行われたものと推認するのが相当である。そして,本件解約
は,原告による商品の値引販売を阻止するのみならず,一般的に商品の値引販売を
萎縮させて,その再販売価格を不当に拘束するという結果をもたらし,公正な競争
を阻害するおそれがあるから,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の
趣旨に照らし,公序良俗に違反するものというべきである。
したがって,本件解約は,別紙契約書18条に基づくものとしても無効と
いうべきである。また,被告会社の主張する相当の予告期間を設けた解約は別紙契
約書18条に基づく本件解約の言換え(あるいは類似の法律構成)にすぎないし,
更新拒絶の意思表示は本件解約に包含されるものであるというのであるから,これ
らについても上記の理が当てはまるものというべきである。
  (5)ア 以上によれば,本件解約は無効であるから,本件契約はなお存続してい
るものというべきである。
そして,上記1(2)のとおり,原告と被告会社は,本件契約締結の際,被
告会社は,在庫不足等の特段の事情がない限り,原告の商品の注文に対する承諾の
意思表示をしなければならないとの黙示の合意をしたものであり,これは本件契約
の内容をなすものと解されるから,在庫不足等の特段の事情を見いだすことのでき
ない本件においては,被告会社は,本件契約に基づき,原告の商品の注文に対する
承諾の意思表示をすべき義務を負うものであり,被告会社が上記意思表示をすれ
ば,原告は,被告会社に対し,原告の注文にかかる商品の引渡しを求めることがで
きる。
したがって,原告の商品引渡しを受けるべき地位の確認請求は,本判決
主文第1項の限度において理由がある。
イ 他方,原告は,請求の趣旨(2)のとおり,平成12年3月7日以降の商品
引渡しを受けるべき地位の確認を求めているから,過去及び将来の権利又は法律関
係の確認をも求める趣旨であると解される。
しかしながら,原告が現在本件契約上の地位にあることを確認すれば,
本件契約をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することになるのであるから,原告
が過去及び将来において本件契約上の地位にあることを確定することは,現在の法
律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために必要とはいえない。
したがって,原告が過去及び将来において本件契約上の地位にあること
の確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であり,却下を免れな
い。
 3 被告代表取締役両名に対する請求について
  (1) 争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認め
られる。
   ア 本件契約においては,代金については,前月21日から当月20日まで
の原告発注分(被告会社からの納品分)が翌月12日に原告の口座から自動引き落
としの方法で支払われることとなっていた。
   イ 原告は,平成11年6月28日に発注した商品が届かなかったため,同
月30日,被告会社CBD営業統括本部パートナーストア関東・東京第一営業所に
問い合わせたところ,同営業所のアカウントマネージャーのIは,原告の被告会社
に対する与信の限度を超えているから出荷を見合わせていると答えた(甲6,原告
代表者)。
   ウ 原告は,同年7月1日,原告の代金支払に対する懸念を払拭するため,
買掛金5241万3173円を被告会社の銀行預金口座に振り込み,被告会社に対
し,同日付け通知書(内容証明郵便物)(甲6)を送付して,入金を通知するとと
もに,商品の出荷を求めた(甲6,原告代表者)。
   エ 被告会社は,原告に対し,同月7日付け通知書(内容証明郵便物)(甲
7)を送付し,上記ウの金員を同月12日まで預かり,同日,これを売掛金の支払
に充当する旨を通知した(甲7)。
   オ 被告会社は,原告の口座からの自動引き落としを停止する措置を怠り,
同日,原告の口座から5241万3173円が自動的に引き落とされた。
   カ 被告会社は,原告に対し,原告の口座から上記オの金員を振り替えた旨
の同月19日付け代金振替通知書(甲10)を送付し,これは,同月21日,原告
に到達した(甲10,原告代表者)。
   キ 被告会社は,原告に対し,事務手続上の手違いにより原告の口座から上
記オの金員を自動的に引き落としたことを謝罪するとともに,上記オの金員を同月
26日までに返還する旨の同月22日付け書簡(内容証明郵便物)(乙16)を送
付し,これは,同月23日,原告に到達した(乙16,原告代表者)。
   ク 被告会社は,同月26日,5241万3173円を原告の口座に振り込
んだ。
  (2) 上記認定事実によれば,被告会社は,原告が同月1日に振り込んだ上
記(1)ウの金員を約定の決済日である同月12日に売掛金の支払に充当することとし
ていたにもかかわらず,原告の口座からの自動引き落としを停止する措置を怠った
ため,原告に多額の金員を二重に支払わせる結果となり,しかも,被告会社は,同
月20日から同月22日までの間にそのことに気づいたのであるから,速やかに上
記(1)オの金員を原告に返還すべきであったのに,これを同月26日まで返還しなか
ったものであり,このような被告会社の対応には問題があったものといわざるを得
ない。
    しかしながら,約定の代金支払方法は原告の口座からの自動引き落としの
方法であったこと,原告による上記(1)ウの振込みは原告の一方的な判断によるもの
で,約定とは異なる変則的な措置であったことからすると,被告会社が約定に従っ
た原告の口座からの自動引き落としを停止するという異例な措置を怠ったからとい
って,これを重大な落ち度と評価することはできないし,証拠(証人E)によれ
ば,被告会社が上記(1)オの金員を原告に返還する手続を取るためには相応の時間を
要するものと認められるから,同月26日に上記(1)オの金員を原告に返還したのが
遅きに失するとまで評価することは困難である。
    したがって,仮に,被告代表取締役両名に任務懈怠があったとしても,そ
の任務懈怠につき重大な過失があったと認めることはできない(なお,悪意があっ
たとはおよそ考えられない。)。
  (3) 以上によれば,原告の被告代表取締役両名に対する請求は,いずれも理由
がない。
第2 結語
   よって,原告の本訴請求のうち,商品引渡しを受けるべき地位の確認請求
は,本判決主文第1項の限度において理由があるから,これを認容することとし,
その余の確認の訴えは不適法であるから,これを却下することとし,その余の請求
はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担について
民訴法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。
   神戸地方裁判所第六民事部
       裁 判 長 裁 判 官     松   村   雅   司
   裁 判 官水   野   有   子
   裁 判 官増   田   純   平

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