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平成16年(行ケ)第56号 審決取消請求事件(平成16年6月23日口頭弁論
終結)
          判           決
    原      告   A
       訴訟代理人弁護士   原   秋 彦
同          水 野 信 次
同          豊 田 賢 治
       被      告   株式会社デリカ
訴訟代理人弁理士   野 原 利 雄
          主           文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2000-35182号事件について平成15年10月8日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
 被告は,別添審決謄本後掲のとおり,欧文字の「CECIL McBEE」
を横書きし,その中の「BEE」の部分の下に片仮名文字で小さく「セシル マク
ビー」と横書きしてなり,指定商品を別表第25類「洋服,コート,セーター類,
ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ショ
ール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,帽子,バンド,ベル
ト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除
く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」
とする商標登録第4136718号商標(平成8年10月1日登録出願,平成10
年1月19日登録査定,同年4月17日設定登録,以下「本件商標」という。)の
商標権者である。
 原告は,平成12年4月10日,本件商標の商標登録を無効にすることにつ
いて審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2000-35182号事件(以下
「本件審判事件」という。)として審理した上,平成14年2月19日,「登録第
4136718号の登録を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」とい
う。)をした。
 被告は,同年3月28日,第1次審決の取消訴訟(当庁平成14年(行ケ)
第151号事件,以下「前訴」という。)を提起し,東京高裁は,同年12月26
日,第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。)をした。その
後,原告は,最高裁に上告受理の申立てをしたが,平成15年7月11日に不受理
決定がされ,前訴判決は確定した。
 特許庁は,前訴判決の確定を受けて,本件審判事件の審理を再開した上,同
年10月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審
決」という。)をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 本件審決の理由
 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標は,商標法4条1項
8号に該当し,同法46条1項1号の規定により無効にすべきものであるとの請求
人(原告)の主張に対し,前訴判決が確定していることを指摘した上,「・・・上
記判決は,次のように判示した」(審決謄本5頁第1段落)に続けて,「1.『他
人の氏名』について 商標法第4条第1項第8号の『他人の氏名』がフルネームで
なければならないとされているのは,他人の氏名については,芸名や略称等と異な
り,著名性が要件とされていないため,氏又は名だけでよいとすると,同号による
保護の範囲が広がりすぎ,商標権の取得が過度に妨げられる結果を招くと考えられ
るからである。このような見地からすると,『他人の氏名』であるフルネームに当
たるか否かの判断に当たっては,厳格な取扱いをすべきであり,外国人について,
ミドルネームがある場合には,これもフルネームに含まれる,と解するのが相当で
ある。請求人の米国政府発行のパスポートによれば,請求人の氏名として,『Su
rname』が『*****』であり,『Givennames』が『****
******』であるとの記載があることが認められ,これにより,請求人のフ
ルネーム,すなわち,全く省略されていない形で示された請求人の氏名は,『**
*************』であると認めることができる」(同頁第2段落
~第3段落),「2.『著名な略称』について 商標法第4条第1項第8号の適用
においては,『CECILMcBEE』は,請求人の略称であるというべきである
から,同号の適用による保護を受けるためには,それが著名でなければならない。
証拠によれば,請求人は,ジャズ・ミュージシャン(ベース奏者)として,我が国
のジャズ・ミュージックの分野の者(ファンを含む。)の間では,ある程度知られ
ているということができる。しかしながら,同号にいう著名性が認められるために
は,我が国において,特定の限られた範囲にとどまらず,世間一般に,あるいは,
少なくとも問題となる商標の指定商品・役務の分野で,広く知られていることが必
要であるというべきである。各証拠からは,請求人が,我が国において,ジャズ・
ミュージックの分野である程度知られていることが認められるだけで,それを超え
て広く知られていると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はな
い。そうすると,我が国において,請求人の知名度は,ジャズ・ミュージックとい
う限られた範囲にとどまっているというべきであり,請求人の略称としての『CE
CILMcBEE』について,同号にいう著名性を認めることはできない」(同頁
第4段落~第7段落)と説示し,さらに,「然るに,審決を取り消す判決が,その
事件について当事者たる行政庁である特許庁を拘束することは,行政事件訴訟法第
33条第1項の規定から明らかである。そうすると,本件商標については,上記の
1及び2に示したように審決を取り消す旨の判断がされ,その判決は確定している
ものであるから,結局,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に違反して登録さ
れたものとすることはできない。したがって,本件商標の登録は,商標法第46条
第1項の規定により,これを無効とすべきでない」(同頁下から第2段落~6頁第
2段落)と判断した。
第3 原告主張の本件審決取消事由
 本件審決は,前訴判決の判示内容を誤解した結果,行政事件訴訟法33条1
項の解釈適用を誤り(取消事由1),また,審理再開後,請求人である原告に対
し,本件商標が商標法4条1項8号に規定する「著名な略称」に当たるか否かにつ
いて,十分な主張立証の機会を与えず,原告の審級の利益を侵害した(取消事由
2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。仮に,そうでないとし
ても,本件審決は,原告の氏名の略称の著名性についての認定判断を誤った(取消
事由3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(行政事件訴訟法33条1項の解釈適用の誤り)
(1) 本件審決は,上記第2の2のとおり,前訴判決が確定していること及びその
判示内容を指摘した上,「3.まとめ」として,「然るに,審決を取り消す判決
が,その事件について当事者たる行政庁である特許庁を拘束することは,行政事件
訴訟法第33条第1項の規定から明らかである。そうすると,本件商標について
は・・・審決を取り消す旨の判断がされ,その判決は確定しているものであるか
ら,結局,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとす
ることはできない。したがって,本件商標の登録は,商標法第46条第1項の規定
により,これを無効とすべきでない」と判断した。しかしながら,本件審決の上記
判断は,前訴判決の判示内容を誤解した結果,行政事件訴訟法33条1項の解釈適
用を誤ったものである。
(2) 前訴判決においては,本件商標が原告の氏名の著名な略称を含むものである
か否かは,判断の理由とはされていない。
 確かに,前訴判決は,その「事実及び理由」欄の「第5 当裁判所の判
断」の「2 取消事由4(著名性の認定判断の誤り)について」の(2)の項におい
て,原告の氏名の略称が著名性を獲得しているか否かについて,証拠を引用しなが
ら認定判断し,「我が国において,被告(注,本訴原告)の知名度は,ジャズ・ミ
ュージックという限られた範囲にとどまっているというべきであり,被告の略称と
しての『CECIL McBEE』について,商標法4条1項8号にいう著名性を
認めることはできない」と結論付けている。
 しかしながら,前訴判決は,上記認定判断に先立って,「審決(注,第1
次審決)中には,『CECIL McBEE』の著名性について,『「CECIL
 McBEE(セシル マクビー)」がジャズ・ミュージシャンとして,ある程度
の著名性を獲得して』いる・・・との記載がある。しかしながら,審決の上記記載
は,『CECIL McBEE』が被告のフルネームであり,商標法4条1項8号
の『他人の氏名』に当たるから,著名性を必要としないという前提の下で,一応の
判断を示したものにすぎないことが明らかである。審決は,『CECIL McB
EE』が略称であることを前提にした上での著名性の判断はしていないというべき
である・・・」と判示しており,その上で,「仮に,審決の上記記載が,『CEC
IL McBEE』が略称であると仮定した上で,著名性を獲得していると判断し
たものであるとしても,この判断は誤りというべきである」に続けて,上記の認定
判断をしている。すなわち,前訴判決においては,第1次審決は,「CECIL 
McBEE」が原告の氏名の略称であることを前提にした上での著名性の判断をし
ていないと解しているのであるから,結局,原告の氏名の略称が著名性を獲得して
いるか否かについての前訴判決の上記認定判断は,判決の結論に影響を及ぼさない
全くの傍論である。
(3) 本件審決は,上記(1)のとおり,行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく
取消判決の拘束力により,前訴判決の著名性に関する判断が特許庁を拘束すると判
断したが,上記(2)のとおり,前訴判決の著名性に関する判断は,判決の結論に影響
を及ぼさない全くの傍論にすぎないのであるから,行政庁に対する拘束力を有する
ものではない。にもかかわらず,当該判断が拘束力を有するとした本件審決の判断
は,明らかに行政事件訴訟法33条1項の解釈適用を誤った違法なものである。
2 取消事由2(審級の利益の侵害)
 原告は,本件審判事件において,本件商標が商標法4条1項8号に規定する
「他人の氏名」に当たるか否かについては主張立証を尽くしたものの,本件商標が
同号に規定する「著名な略称」に当たるか否かについては,十分な主張立証の機会
を与えられていない。にもかかわらず,審理再開後,特許庁がただの一度の口頭審
理をも経ず,原告に対し,全く攻撃防御の機会を与えないまま,本件審決をしたこ
とは,原告の審級の利益(前審判断経由の利益)を侵害するものであって,違法で
ある。
 確かに,第1次審決前の審判手続において,請求人である原告は,原告の氏
名としての「CECIL McBEE」の著名性について主張立証したが,それ
は,飽くまで,商標法4条1項8号に規定する「他人の氏名」としての保護を受け
るためには,人格権の毀損が客観的に認められるに足りる程度の著名性が必要であ
ると解されていることに配慮したにすぎず,同号に規定する「著名な略称」として
保護を受けるための要件である「著名性」を主張立証したものではない。そして,
前者の意味での著名性と後者の意味での著名性とでは,著名性の程度が異なると解
されるから,前者について主張立証の機会が与えられていても,後者については,
別途,主張立証の機会が与えられなければならないし,また,その際,原告には,
専門官庁である特許庁の判断を受けるべき正当な利益があるというべきである。
3 取消事由3(原告の氏名の略称の著名性に関する認定判断の誤り)
(1) 仮に,取消事由1及び2が理由がないとしても,本件審決は,原告の氏名の
略称としての「CECIL McBEE」について,商標法4条1項8号に規定す
る著名性がないとの誤った認定判断をしたものであって違法である。
(2) 商標法4条1項8号の趣旨は,自己の氏名,名称等が,他人によりその商品
又は役務について商標として使用され,それによって当該自己の氏名,名称等と当
該他人の商品又は役務との間に何らかの関係があるように認識され,当該氏名,名
称等を有する者がこれを不快とし,その人格権が毀損されたと感じるような場合に
おいて,そのことが,社会通念上,客観的に明らかであると認められるときは,当
該氏名,名称等を有する者の人格権を保護する点にある。ただ,その際,戸籍で確
定される「氏名」とは異なり,「略称」はある程度それを採用する者の恣意が介在
するものであり,そのすべてを保護することは行き過ぎであると考えられることか
ら,「略称」が同号による保護を受けるためには,明文で著名性が要件とされてい
ることからもうかがわれるとおり,「氏名」の場合よりも高度な著名性が必要であ
るとされている。
 しかしながら,商品や役務の出所の混同を防止することを目的とする商標
法4条1項15号の規定とは別個に,同項8号の規定が人格権保護を目的として設
けられていることからすれば,「略称」の保護の要件として要求されている著名性
の程度は,出所混同の蓋然性が認められる程度の高度なものである必要はないとい
うべきである。
(3) 上記(2)を前提に,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」
の著名性について検討すると,以下のとおり,原告の音楽活動及びその宣伝広告素
材並びにそれに付随するマスメディアでの露出を通じて,原告の氏名の上記略称
は,本件商標の商標登録出願時において,既に,日本全国のみならず,世界的に見
ても著名性を獲得していたということができる。
ア 原告は,1960年代から現在まで,実に40年以上にわたってプロの
ジャズミュージシャンとして活躍し,しかも,その大部分の期間において世界最高
峰のジャズベーシストとして君臨してきており,原告が演奏に参加した作品は数え
切れないほど存在する。我が国で販売された作品だけでも,優に100作品を超え
ており,それらの作品媒体及びその宣伝広告素材のいずれにおいても,原告を指し
て「CECIL McBEE」又は「セシル・マクビー」と表示している(甲4~
13,44)。
イ 原告は,1980年代初頭には世界最高峰のジャズベーシストの地位を
確固たるものにしており,以来20年以上にわたり,トップアーティストとして活
動しているところ,我が国においては,初来日した1982年(昭和57年)以
降,BやCといった世界に名だたるミュージシャンとセッションを組んで,東京
都,横浜市,大阪市,名古屋市,札幌市,福岡市,広島市,仙台市など,全国津々
浦々で公演活動を展開してきている(甲14~25,42~45)。
ウ 音楽活動及びその宣伝広告素材等の頒布を通じて,原告が著名となるに
つれて,原告は,雑誌(甲23~31,44,46-1~8),新聞(甲32~4
0,45),テレビ,ラジオ等(甲16-2,甲44)のメディアでも取り上げら
れるようになり,そうしたメディアでの露出によって,原告の氏名の上記略称は一
層著名性を獲得してきている。
 また,インターネット・サーチエンジンである「Google」によ
り,「CECIL McBEE」をキーワードとして検索を実行すると,原告の音
楽活動に関するサイトが多数検出される(甲41)。このことは,被告による長年
の本件商標の使用にもかかわらず,「CECIL McBEE」が,原告の氏名の
略称として,確固たる著名性を獲得していることを示すものである。
第4 被告の反論
 本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
1 取消事由1(行政事件訴訟法33条1項の解釈適用の誤り)について
(1) 本件審判手続において,請求人である原告は,本件商標が,原告の「氏名」
又は「著名な略称」に該当することを理由に,本件商標は,商標法4条1項8号に
違反して登録されたものである旨主張していたのであるから,本件商標が原告の氏
名(本名のフルネーム)に当たらないからといって,必ずしも,同号に違反して登
録されたものではないということにはならない。すなわち,前訴判決が,原告の請
求を認めて本件商標の登録を無効とした第1次審決を違法として取り消すために
は,「CECIL McBEE」は原告の氏名(本名のフルネーム)であるとの認
定を否定するだけでは十分でなく,原告の氏名の略称であると認定した「CECI
L McBEE」について,略称としての著名性を否定する必要があったというべ
きである。
 したがって,第1次審決で,原告の氏名の略称としての「CECIL M
cBEE」の著名性に関する判断が明確にされていたか否かにかかわらず,前訴判
決においては,第1次審決を取り消す旨の判決主文を導く上で,略称としての著名
性を否定することが必要なのであって,当該判断を示した部分は,決して傍論など
ではない。まして,本件においては,第1次審決前の審判手続及び前訴において,
当事者は,「CECIL McBEE」の著名性について十分に主張立証活動を行
い,第1次審決も「ある程度の著名性」を認定しているのであるから,前訴判決
が,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」の著名性について判断
することは,なおさら不可欠であったというべきである。
(2) ここで,審判において審理判断されなかった公知事実との対比における特許
無効原因を審決取消訴訟において主張することは許されない旨の判例(最高裁昭和
51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁)との関係について検討する
と,本件では,具体的に特定された「CECIL McBEE」という原告の名前
を根拠とする無効原因であるという点において,「氏名」に該当することを理由と
する主張も,「著名な略称」に該当することを理由とする主張も異ならないのであ
るから,無効原因として両者は同一というべきである。そうすると,第1次審決が
略称としての著名性に関する判断をしていない場合でも,前訴判決がその点に関す
る判断をすることは,何ら上記判例に違反するものではない。このことは,審判段
階において,商標法4条1項8号に違反して登録されたものであるから無効である
との主張がされていれば,他人の名称と同一である旨の主張が明示的にされていな
くとも,審決取消訴訟の段階で当該主張をすることができるとした判決例(東京高
裁昭和56年11月5日判決・無体例集13巻2号793頁)からも明らかであ
る。
(3) 以上によれば,前訴判決は,「CECIL McBEE」は原告の「氏名」
(本名のフルネーム)ではないとする判断と,原告の氏名の略称としての「CEC
IL McBEE」について,商標法4条1項8号にいう著名性を認めることはで
きないとする判断との双方によって,本件商標は同号に違反して登録されたもので
あるとする第1次審決の判断を否定したものであると解されるから,上記二つの判
断が,いずれも行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく拘束力を有することは明
らかである。
 したがって,本件審決には,原告主張に係る同項の解釈適用の誤りはな
い。
2 取消事由2(審級の利益の侵害)について
 原告は,特許庁が,審理再開後,原告に対し,攻撃防御の機会を与えないま
ま,本件審決をしたことは,原告の審級の利益(前審判断経由の利益)を侵害する
ものである旨主張する。しかしながら,第1次審決前の審判手続及び前訴におい
て,原告は,「CECIL McBEE」という原告の名前の著名性について,十
分に主張立証しているから,原告の上記主張は失当である。
 この点について,原告は,第1次審決前の審判段階における主張立証の対象
は,氏名としての著名性であって,略称としての著名性ではない旨主張するが,氏
名であろうと,略称であろうと,いずれも同じ「CECIL McBEE」という
同一の名前なのであるから,その著名性の判断に何ら異なるところはない。したが
って,前者について主張立証した以上は,後者についても主張立証したに等しく,
やはり,原告の主張は失当である。
3 取消事由3(原告の氏名の略称の著名性に関する認定判断の誤り)について
(1) 「商標法4条1項8号により,他人の商標登録を阻止すべき『略称』の著名
性とは,原告の主張するような一地方のものでは足らず,全国的なものでなければ
ならない」(前掲東京高裁昭和56年11月5日判決,最高裁昭和57年11月1
2日・民集36巻11号2233頁)ことからも明らかなとおり,商標法4条1項
8号において,「略称」について求められる著名性の程度は,少なくとも,同項1
5号にいう出所の混同が生じる程度以上のものでなければならないというべきであ
る。
 このような違いは,同項8号は,私的利害の調整を主目的とした規定であ
って,出所の混同を防止して一般世人の利益を幅広く保護しようとする同項15号
の規定ほどには公共性が強くないことに基づくものであり,出願人の商標採択の自
由を制限してまでも,略称を有する者との利害の調整を図ろうとする同項8号の趣
旨からして,その適用要件である著名性の程度を厳しく解釈すべきことは当然のこ
とというべきである。
(2) 本件において問題とすべき著名性は,我が国における,特に本件商標の指定
商品に係る被服関係の取引者,需要者の間における著名性であって,原告の音楽活
動の関係者,ジャズ音楽の専門家又はこれに興味を持っている者(ジャズファン)
の間における著名性ではない。したがって,そうした者たちが原告のことを知って
いるからといって,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」に商標
法4条1項8号所定の著名性があるということにはならない。
 上記(1)のとおり,同号所定の著名性の程度は,少なくとも,同項15号所
定の出所の混同が生じる程度以上のものでなければならないことからすれば,原告
の氏名の略称としての「CECIL McBEE」に,同項8号にいう著名性が認
められるためには,我が国において,特定の限られた範囲(ジャズ音楽の分野)に
とどまらず,当該範囲を超えて,世間一般,あるいは,少なくとも問題となる本件
商標の指定商品(被服等)の分野で,全国的に広く知られていることが必要という
べきである。
 そして,原告が本件審判事件及び前訴において提出した証拠(乙15-1
~28)に,本件訴訟において原告が新たに提出した証拠(甲4~46)を加えて
も,我が国において,原告の知名度は,ジャズミュージックという限られた範囲に
とどまっているというべきであり,原告の氏名の略称としての「CECIL Mc
BEE」について,商標法4条1項8号にいう著名性を認めることはできない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(行政事件訴訟法33条1項の解釈適用の誤り)について
(1) 本件審決は,上記第2の2のとおり,前訴判決が確定していること及びその
判示内容について説示した上,「然るに,審決を取り消す判決が,その事件につい
て当事者たる行政庁である特許庁を拘束することは,行政事件訴訟法第33条第1
項の規定から明らかである。そうすると,本件商標については・・・審決を取り消
す旨の判断がされ,その判決は確定しているものであるから,結局,本件商標は,
商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものとすることはできない。した
がって,本件商標の登録は,商標法第46条第1項の規定により,これを無効とす
べきでない」(審決謄本5頁下から第2段落~6頁第2段落)と判断した。
 これに対し,原告は,原告の氏名の略称が著名性を獲得しているか否かに
ついての前訴判決の認定判断は,判決の結論に影響を及ぼさない傍論にすぎず,本
来,行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく拘束力を生じないのに,本件審決
は,前訴判決の判示内容を誤解した結果,前訴判決の当該認定判断が拘束力を有す
るとしたものであって,同項の解釈適用を誤ったものである旨主張する。
(2) 当事者間に争いのない事実及び証拠(甲1~3,乙1~5,7,9~14,
15〔枝番省略〕)によれば,本件審判事件及び前訴の経緯として,以下の事実を
認めることができる。
ア 原告は,平成12年4月10日,本件商標の商標登録を無効にすること
について審判の請求をし,その際,審判請求書(乙1)において,請求の理由とす
る「無効事由」として,「本件登録商標(注,本件商標)は,商標法第4条第1項
8号に該当し,同法第46条第1項1号により,無効にすべきものである」と主張
し,「無効原因」として,「本件登録商標は・・・審判請求人(注,原告)の氏名
と全く同一である。すなわち,本件登録商標は,審判請求人の氏名であるセシル 
マクビー(英文ではCECIL McBEE)と全く同一であるばかりでな
く,・・・英文のCECIL McBEEの下にカタカナで,セシル マクビーと
横書きしていることに示されるとおり,念が入っており,勿論,審判請求人は,こ
んなことに同意していない。審判請求人は,ジャズ・ミュージシャンとして,世界
的に知られており,日本のジャズ・ミュージシャンとして著名なBとコンビを組ん
で,日本でもミュージック・ショーをしばしば開いている。審判請求人は,著名な
自分の氏名が勝手に,被請求人(注,被告)によって,審判請求人の承諾を得ずに
第4136718号商標登録として,登録されていることを知り,請求の趣旨記載
の審決を求めるものである」と主張するとともに,証拠方法として,商標登録原簿
謄本(審判甲1,本訴乙15-1),商標公報(審判甲2,本訴乙15-2)のほ
か,著名性に関する証拠として,雑誌記事(審判甲3-1~3,本訴乙15-3-
1~3),コンサートツアーのプレスリリース文書(審判甲4,本訴乙15-
4),コンサートのパンフレット(審判甲5-1~6,本訴乙15-5-1~6)
並びにCD「CECIL McBEE mutima」のカバー,背帯及び解説書
(審判甲6,本訴乙15-6)を提出した。
イ 本件審判事件の被請求人である被告は,平成12年7月17日,審判事
件答弁書(乙3)を提出し,①「CECIL McBEE」が原告の「氏名」,す
なわち本名のフルネームであることを示す証拠はない,②「CECIL McBE
E」が原告の「雅号,芸名,筆名」であるか,又は,原告の氏名の「略称」である
とするならば,商標法4条1項8号の適用に当たって,その著名性が要求される
が,そのことを示す証拠はない,③仮に,「CECIL McBEE」が原告の
「氏名」であると認められるとしても,本件商標に係る指定商品は,原告及び原告
の音楽活動とは関連性のない商品(被服等)であり,また,被告による本件商標の
使用の実情からしても,本件商標の使用は,原告及び原告の音楽活動に何らの影響
も与えないから,本件商標の使用が,商品の出所混同を生じさせ,あるいは,原告
の人格権を毀損するおそれはなく,したがって,本件商標は,商標法4条1項8号
に違反して登録されたものではない,④原告による無効主張は,同号による私益保
護の限界を超えるものとして,権利の濫用に当たる旨主張した。
ウ 原告は,平成13年8月24日,審判事件弁駁書(乙2)を提出し,原
告は,本件商標の商標登録出願時はもちろん,本件商標の関連商標として被告が主
張する商標の商標登録出願時(昭和59年10月23日)よりも,はるか以前から
ニューヨークのミュージック・ジャズの世界に登場し,著名となっていたものであ
り,本件商標はこれを盗用したものである旨主張し,雑誌記事等(審判甲7-1~
甲10-2,本訴乙15-7-1~乙15-10-2,このうち乙15-7-1及
び2以外は英文)を提出した。
エ 特許庁は,審理の結果,平成14年2月19日,「登録第413671
8号の登録を無効とする。」との第1次審決(甲3)をした。
 第1次審決の理由の要旨は,①「CECIL McBEE(セシル マ
クビー)」は,原告の氏名(本名のフルネーム)であることが認められるから,本
件商標は,請求人である原告の氏名よりなる商標であり,かつ,本件商標の登録出
願に関しその承諾を得ていないことは明らかである,②被請求人である被告は,上
記イ③の主張をし,さらに本件商標の採択の経緯を主張するが,「本件商標の指定
商品は,特殊の商品とはいえない大衆向けの生活必需品に関する商品であること及
び被請求人(注,被告)が本件商標を使用している事実等を勘案するとしても,
『CECIL McBEE(セシル マクビー)』がジャズ・ミュージシャンとし
て,ある程度の著名性を獲得してる事実よりすれば,前記判断(注,上記①の判
断)に影響を及ぼすものではない」(甲3の5頁下から第3段落),③したがっ
て,本件商標は,商標法4条1項8号に違反して登録されたものであるから,同法
46条1項の規定により,その登録を無効とすべきものである,というものであっ
た。
オ 被告(前訴原告)は,同年3月28日,第1次審決の取消しを求めて前
訴を提起し,取消事由として,第1次審決は,原告の請求人適格の欠如を見過ごし
(取消事由1),原告の「氏名」の認定判断を誤り(取消事由2),商標法4条1
項8号の解釈適用を誤り(取消事由3),原告の略称の著名性の認定判断を誤った
(取消事由4)旨主張した。
 これに対し,原告(前訴被告)は,被告の上記各主張を争うとともに,
前訴における追加の証拠方法として,原告の出演歴に関するインターネット情報
(前訴乙11-1,本訴乙15-11-1,英文),原告の演奏写真(前訴乙11
-5,12-1,本訴乙15-11-1,15-12-1),原告の紹介記事等
(前訴乙12-2~11,本訴乙15-12-2~11,英文),雑誌記事(前訴
乙13-1~3,本訴乙15-13-1~3,英文),新聞記事(前訴乙14,本
訴乙15-14,英文),レコードジャケット(前訴乙15-1~9,本訴乙15
-15-1~9,英文),雑誌記事(前訴乙16-1~4,本訴乙15-16-1
~4,英文),公演パンフレット(前訴乙17-1~7,本訴乙15-17-1~
7),インターネット情報(前訴乙18~25,本訴乙15-18~25),原告
のパスポート(前訴乙26,本訴乙15-26,英文)などを提出した。
カ 東京高裁は,同年12月26日,第1次審決を取り消す旨の前訴判決
(甲2)をした。
 前訴判決は,まず,「事実及び理由」欄の「第5 当裁判所の判断」の
「1 取消事由2(被告〔注,本訴原告〕の氏名の認定判断の誤り)について」の
項において,米国政府発行の原告のパスポートにより,原告の「Surname」
は「** ***」であり,「Given Names」は「***** ** 
***」であって,原告のフルネーム,すなわち,全く省略されていない形で示さ
れた原告の氏名は,「***** ** *** ** ***」であると認める
ことができ,ミドルネームの「** ***」もフルネームに含まれるから,原告
の氏名(本名のフルネーム)が「CECIL McBEE」であるとした第1次審
決の認定は誤りであり,被告の取消事由2の主張は理由がある旨判断した(甲2の
10頁~13頁)。
 その上で,前訴判決は,同「2 取消事由4(著名性の認定判断の誤
り)について」の「(1)」の項において,「上記1で述べたところによれば,商標法
4条1項8号の適用においては,『CECIL McBEE』は,被告の略称であ
るというべきであるから,同号の適用による保護を受けるためには,それが著名で
なければならない。審決(注,第1次審決)中には,『CECIL McBEE』
の著名性について,『「CECIL McBEE(セシル マクビー)」がジャ
ズ・ミュージシャンとして,ある程度の著名性を獲得して』いる・・・との記載が
ある。しかしながら,審決の上記記載は,『CECIL McBEE』が被告のフ
ルネームであり,商標法4条1項8号の『他人の氏名』に当たるから,著名性を必
要としないという前提の下で,一応の判断を示したものにすぎないことが明らかで
ある。審決は,『CECIL McBEE』が略称であることを前提にした上での
著名性の判断はしていないというべきであるから,上記記載内容の当否を問題とす
るまでもなく,審決は取消しを免れない」(甲2の13頁)とし,さらに,同
「(2)」の項において,「仮に,審決の上記記載が,『CECIL McBEE』が
略称であると仮定した上で,著名性を獲得していると判断したものであるとして
も,この判断は誤りというべきである」(同頁)に続けて,原告の氏名の略称とし
ての「CECIL McBEE」の著名性について証拠を踏まえて検討し,「我が
国において,被告(注,本訴原告)の知名度は,ジャズ・ミュージックという限ら
れた範囲にとどまっているというべきであり,被告の略称としての『CECIL 
McBEE』について,商標法4条1項8号にいう著名性を認めることはできな
い」(同15頁)と判示した。
キ その後,原告は,最高裁に上告受理の申立てをしたが,平成15年7月
11日に不受理決定がされ,前訴判決は確定した。
ク 特許庁は,前訴判決の確定を受けて,本件審判事件の審理を再開した
が,一度の口頭審理も経ず,原告及び被告に全く攻撃防御の機会を与えないまま,
同年10月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をした。本
件審決の理由は,上記第2の2のとおりである。
(3) 以下,上記認定事実に基づき,前訴判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1
項)の範囲について検討する。
ア まず,本件審判事件における請求人の主張について見ると,請求人であ
る原告は,主位的に,本件商標が原告の「氏名」と同一であることを根拠として,
予備的に,本件商標が原告の「氏名の著名な略称」と同一であることを根拠とし
て,本件商標は,商標法4条1項8号に該当し,同法46条1項1号により無効と
すべきものである旨主張していたものと認めるのが相当である。
 なお,上記予備的主張については,審判請求書(乙1)の記載上は,必
ずしもその存在が明確であるとまではいうことができないが,本件審判手続の被請
求人であり,前訴原告である被告は,一貫して,その存在を前提とした反論を行
い,第1次審決及び前訴判決もその存在を前提に判断をしていると解される上,本
件訴訟においても,原告及び被告の双方とも,その存在を前提に主張立証を行って
いるものと見られる。そうすると,審判請求書(乙1)における,「審判請求人
は,ジャズ・ミュージシャンとして,世界的に知られており,日本のジャズ・ミュ
ージシャンとして著名なBとコンビを組んで,日本でもミュージック・ショーをし
ばしば開いている。審判請求人は,著名な自分の氏名が勝手に,被請求人(注,被
告)によって,審判請求人の承諾を得ずに第4136718号商標登録として,登
録されていることを知り,請求の趣旨記載の審決を求めるものである」との記載を
もって,上記予備的主張の趣旨であると善解することを妨げる事情はない。
イ 第1次審決は,上記アの原告の主位的主張に基づき,「CECIL M
cBEE(セシル マクビー)」は原告の氏名(本名のフルネーム)であると認め
られるとして,本件商標の商標登録を無効とした。
 その際,第1次審決は,被請求人である被告が,「CECIL McB
EE」が原告の「氏名」であると認められる場合に備えた予備的主張として,本件
商標に係る指定商品は,原告及び原告の音楽活動とは関連性のない商品(被服等)
であり,また,被告による本件商標の使用の実情からしても,本件商標の使用は,
原告及び原告の音楽活動に何らの影響も与えないから,本件商標の使用が,商品の
出所混同を生じさせ,あるいは,原告の人格権を毀損するおそれはなく,したがっ
て,本件商標は,商標法4条1項8号に違反して登録されたものではない旨主張し
ていたこと(上記(2)イ③)に答えて,「CECIL McBEE(セシル マクビ
ー)」がジャズ・ミュージシャンとして,ある程度の著名性を獲得している事実等
を挙げて,被告の当該主張を排斥したが,「CECIL McBEE」の著名性に
関する第1次審決の上記説示は,飽くまで,原告の上記主位的主張に対する判断の
中でされたものであり,原告の上記予備的主張に対する判断,すなわち,原告の氏
名の略称としての「CECIL McBEE」の著名性に関する判断は示されてい
ないと解される。
ウ 前訴判決は,第1次審決を違法として取り消したが,その理由は,原告
の氏名(本名のフルネーム)が「CECIL McBEE」であるとした第1次審
決の認定は誤りであるという点にあった。したがって,この点に関する前訴判決の
判断が,行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく拘束力を有することは明らかで
ある。
 他方,前訴判決は,上記(2)カのとおり,原告の氏名の略称としての「C
ECIL McBEE」の著名性について証拠を踏まえて検討し,「我が国におい
て,被告(注,本訴原告)の知名度は,ジャズ・ミュージックという限られた範囲
にとどまっているというべきであり,被告の略称としての『CECIL McBE
E』について,商標法4条1項8号にいう著名性を認めることはできない」(甲2
の15頁,以下「本件判示事項」という。)とも判示している。しかしながら,前
訴判決は,本件判示事項の判示に先立ち,「審決(注,第1次審決)中には,『C
ECIL McBEE』の著名性について,『「CECIL McBEE(セシル
 マクビー)」がジャズ・ミュージシャンとして,ある程度の著名性を獲得して』
いる・・・との記載がある。しかしながら,審決の上記記載は,『CECIL M
cBEE』が被告のフルネームであり,商標法4条1項8号の『他人の氏名』に当
たるから,著名性を必要としないという前提の下で,一応の判断を示したものにす
ぎないことが明らかである。審決は,『CECIL McBEE』が略称であるこ
とを前提にした上での著名性の判断はしていないというべきであるから,上記記載
内容の当否を問題とするまでもなく,審決は取消しを免れない」(甲2の13頁)
と説示して,第1次審決を取り消すべき理由としては,原告の氏名(本名のフルネ
ーム)が「CECIL McBEE」であるとの認定が誤りであるという理由のみ
で足りるとの判断を明示している。さらに,本件判示事項は,「仮に,審決の上記
記載が,『CECIL McBEE』が略称であると仮定した上で,著名性を獲得
していると判断したものであるとしても,この判断は誤りというべきである」(甲
2の13頁)との判示に続くものであるところ,上記イのとおり,第1次審決で
は,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」の著名性に関する判断
は示されていないのであるから,以上によれば,略称としての著名性に関する本件
判示事項は,飽くまで,念のために記載されたものにすぎず,いわゆる傍論とし
て,行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく拘束力を有するものではないという
べきである。
 なお,この点に関し,被告は,前訴判決が,第1次審決を取り消すため
には,「CECIL McBEE」は原告の氏名(本名のフルネーム)であるとの
認定を否定するだけでは十分でなく,原告の氏名の略称としての「CECIL M
cBEE」の著名性を否定する必要があり,本件判示事項は,後者の点についての
判断を示したものであるから,行政事件訴訟法33条1項に基づく拘束力を有する
旨主張する。しかしながら,前訴判決の上記判示に照らすと,前訴裁判所は,「C
ECIL McBEE」が原告の氏名(本名のフルネーム)であるとした第1次審
決の認定を否定するのみならず,本件のような商標登録の無効理由の有無を争点と
する事案においては,専門技術的な特許庁の第1次的な判断を待つ必要性がそれほ
ど高くなく,第1次審決の取消しの後に再開される本件審判事件の審判体に対する
事実上の審理指針を示すことが相当であるとの考慮から,本件判示事項を,上記の
とおり,いわゆる傍論として判示したものであることがうかがわれるから,被告の
上記主張は採用の限りではない。
エ 以上によれば,前訴判決の判断のうち,行政事件訴訟法33条1項の規
定に基づく拘束力を有するのは,原告の氏名(本名のフルネーム)が「CECIL
 McBEE」であるとした第1次審決の認定は誤りであるという点であって,原
告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」の著名性に関する本件判示事
項は,同項に基づく拘束力を有するものではないというべきである。
(4) 進んで,本件審決が,前訴判決の判示内容を誤解し,行政事件訴訟法33条
1項の解釈適用を誤ったものであるかについて検討する。
 本件審決の上記第2の2の理由中,「然るに,審決を取り消す判決が,そ
の事件について当事者たる行政庁である特許庁を拘束することは,行政事件訴訟法
第33条第1項の規定から明らかである。そうすると,本件商標については,上記
の1及び2に示したように審決を取り消す旨の判断がされ,その判決は確定してい
るものであるから,結局,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に違反して登録
されたものとすることはできない」(審決謄本5頁下から第2段落~6頁第1段
落)との説示部分(以下「本件説示部分」という。)については,確かに,前訴判
決が,原告の氏名(本名のフルネーム)が「CECIL McBEE」であるとし
た第1次審決の認定は誤りであるという点のみならず,原告の氏名の略称としての
「CECIL McBEE」の著名性に関する前訴判決の本件判示事項について
も,行政事件訴訟法33条1項の規定に基づく拘束力を有すると判断したかのよう
に理解される余地があり,その意味で,本件審決には,少なくとも,措辞において
適切を欠く面があることは否定できない。
 しかしながら,第1次審決において,原告の氏名の略称としての「CEC
IL McBEE」の著名性に関する判断それ自体ではないにせよ,「CECIL
 McBEE(セシル マクビー)」がジャズ・ミュージシャンとして,「ある程
度の」著名性を獲得しているとの判断が示されていることからすれば,当該審判体
としては,第1次審決の時点において,原告を示す名前としての「CECIL M
cBEE」について,その著名性は,飽くまで,「ある程度」のものであって,商
標法4条1項8号が要求する略称としての著名性の要件を満たすほどのものではな
いとの心証を形成していたことがうかがわれる。また,前訴判決の本件判示事項が
果たす上記事実上の審理指針としての役割とあいまって,本件審決を担当する審判
体も,本件審決時において,原告の氏名の略称としての「CECIL McBE
E」について,商標法4条1項8号にいう著名性を認めることができないとの心証
に至っていたことは,本件審決の理由(上記第2の2)からも十分に推認できると
ころである。そうすると,本件審決の本件説示部分は,本来,事実上の審理指針に
すぎない本件判示事項について,法律上の拘束力を有すると判断したかのように理
解される余地がある点において正確さを欠くものの,必ずしも,原告主張のよう
に,当該審判体が,前訴判決の判示事項を誤解し,その結果,行政事件訴訟法33
条1項の解釈適用を誤ったものであるとまで断定することはできないというべきで
ある。そればかりでなく,仮に,本件審決に原告主張のような誤りがあったとして
も,後記3のとおり,本件訴訟において原告が当裁判所に新たに提出した証拠を含
めて検討しても,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」につき著
名性を認めることができないのであるから,その誤りは,本件審決の結論に影響を
及ぼすものであるとはいえず,結局,本件審決を取り消すべき理由とはならないと
いうほかはない。
(5) 以上によれば,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(審級の利益の侵害)について
 原告は,特許庁が,審理再開後,原告に対し,攻撃防御の機会を与えないま
ま,本件審決をしたことは,原告の審級の利益(前審判断経由の利益)を侵害する
ものであって,違法である旨主張する。
 しかしながら,上記1(3)アのとおり,本件審判事件において,請求人である
原告は,主位的に,本件商標が原告の「氏名」と同一であることを根拠として,予
備的に,本件商標が原告の「氏名の著名な略称」と同一であることを根拠として,
本件商標は,商標法4条1項8号に該当し,同法46条1項1号により無効とすべ
きものである旨主張していたものと認めるのが相当であるところ,上記1(2)におい
て認定した事実経緯によれば,原告は,第1次審決前の審判手続において,略称と
しての著名性の点を含め,原告を示す名前としての「CECIL McBEE」に
ついて,その著名性を主張立証する機会を十分に与えられ,現実にも,ある程度の
主張立証を行っていたものと認められるから,原告の上記主張は採用の限りではな
い。
 この点について,原告は,第1次審決前の審判手続において,原告が主張立
証していたのは,原告の「氏名」としての著名性であって,原告の「略称」として
の著名性ではないとし,前者の意味での著名性と後者の意味での著名性とでは著名
性の程度が異なるから,前者について主張立証の機会が与えられていても,後者に
ついては,別途,主張立証の機会が与えられなければならないなどとも主張する。
しかしながら,もとより,請求人である原告が,本件商標が原告の「氏名」と同一
であることを根拠とする主位的主張が認められる公算が大きいとの判断の下,上記
予備的主張に係る「著名性」の主張立証には力を入れないということはあり得ない
ことではないが,それは飽くまで請求人自身の判断と責任においてすべきことであ
り,主位的主張と予備的主張の双方を主張した以上は,本来,第1次審決前の審理
終結時において,主位的主張のみならず,予備的主張についても,十分に主張立証
を尽くしておくべきことは当然である。
 したがって,前訴判決による第1次審決の取消し後に再開された審判手続に
おいて,改めて,当事者に対し,主張立証の機会を与えなければならないとする理
由はないから,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(原告の氏名の略称の著名性に関する認定判断の誤り)について
(1) まず,商標法4条1項8号の趣旨について検討すると,同号が,他人の氏名
等を含む商標について登録を受けることができないと規定する趣旨は,当該他人の
人格権を保護する点にあるところ,同号が,他人の「氏名」については著名性を要
件としていないのに対し,他人の「略称」についてはこれを要件としているのは,
戸籍によって通常確定される「氏名」(在外外国人の場合はパスポート等によって
通常確定される「本名のフルネーム」。以下,同じ。)とは異なり,略称について
は,これを使用する者がある程度恣意的に選択する余地があること,そして,著名
な略称であって初めて氏名と同様に特定人を指し示すことが明らかとなり,氏名と
同様に保護されるべきことによるものと解される。
 上記のとおり,同号が略称について規定する著名性とは,略称について,
使用する者が恣意的に選択する余地のない氏名と同様に保護するための要件である
から,それが認められるためには,当該略称が,我が国において,特定の限られた
分野に属する取引者,需要者にとどまらず,その略称が特定人を表示するものとし
て,世間一般に広く知られていることが必要であるというべきである。なぜなら
ば,同号の趣旨は,上記のとおり,当該他人の人格権の保護にあるところ,特定の
限られた分野においてのみ知られている略称について,その分野に属さない商品又
は役務に商標として使用されても,当該他人の人格権が侵害されたということはで
きないし,また,同号所定の著名性が認められる他人の略称は,分野を問わず,す
べての指定商品及び指定役務について商標登録を受けることができなくなるのであ
るから,特定の限られた分野に属する取引者,需要者のみに知られている略称につ
いて,すべての指定商品及び指定役務について商標登録の阻害事由となると解する
ことは,商標登録を受けようとする者に酷な結果をもたらすといわざるを得ないか
らである。
 これに対し,原告は,同号において「略称」保護の要件として要求されて
いる著名性の程度は,出所混同の蓋然性が認められる程度の高度なものである必要
はない旨主張するが,そうした主張が,略称を有する者の保護に偏した見解であっ
て失当であることは,上記より明らかというべきであるから,採用の限りではな
い。
(2) 以上を前提に,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」の著
名性について検討する。
ア 原告が,「CECIL McBEE」の著名性について,本件審判事件
及び前訴で提出した証拠(本訴乙15-3~10,乙15-11-1及び5,乙1
5-12-1~乙15-25)は,上記1(2)ア,ウ及びオのとおりであり,そのほ
とんどが英文であることからしても,そもそも,我が国における原告の氏名の略称
の著名性ないし知名度を示す証拠としての価値は低いというべきである。
イ また,原告が本件訴訟において新たに提出した証拠の多くは,レコード
及びCDのジャケット(甲4~13〔昭和53年~平成7年〕),我が国における
コンサートツアーのパンフレット等(甲14,15-1,3,甲16-2~10,
甲17-1~9,甲18-1~9,甲19-1~8,甲20-1,3~8,甲21
-1~7,甲22-1,2,以上〔昭和63年~平成8年〕),ジャズ雑誌の記事
等(甲15-2,甲16-1,甲20-2,甲23~31,甲46-1~8,以上
〔昭和51年~平成16年〕)並びにジャズ・ミュージックの演奏家,評論家,雑
誌記者等の陳述書(甲42~45)であって,いずれも,ジャズ・ミュージック関
係の分野で作成,頒布された文書等であることが明らかであり,ジャズ・ミュージ
ック関係の分野における原告の知名度を示す証拠としては格別,原告の氏名の上記
略称が,我が国において,世間一般に広く知られていることを示す証拠としては,
それほど有力なものと見ることはできない。
 原告は,いわゆる一般紙の新聞記事(甲32~40〔昭和63年~平成
8年〕,ただし,甲38及び40には,原告の氏名の略称の記載はない。)をも提
出するが,いずれも,芸能面ないし文化面等における記事と見られるものであるこ
とからすれば,それらは,主として,ジャズ・ミュージックに興味を持つ読者を対
象とするものであると認めるのが相当である。さらに,インターネットの平成16
年5月31日付け検索結果(甲41)については,キーワードを「CECIL M
cBEE」とした日本語のウェブページにおける検索結果であって,我が国におけ
る原告の知名度を測る際の一つの資料とはなり得るが,そもそも,本件商標関係の
ウェブページを含めて約2460件という検索結果の件数自体(原告関係のウェブ
ページは,その当初100件中わずか10~15件程度であると認められ,全体に
占める割合もほぼ同程度であると推認できる。),我が国における上記(1)の著名性
を基礎付ける資料としては件数的に十分ではないと見るのが相当であるし,検索さ
れた原告関連のウェブページは,すべてジャズ・ミュージックに関係するものであ
ると推認されるから,その件数をもって世間一般に対する知名度を示すものである
ということもできない。
ウ 以上によれば,本件全証拠を総合しても,本件商標の登録出願時(平成
8年10月1日)及び登録査定時(平成10年1月19日)において,「CECI
L McBEE」が,ジャズ・ミュージシャン(ベース奏者)である原告を示す略
称として,ジャズ・ミュージック界の関係者やジャズファン等,我が国におけるジ
ャズ・ミュージック関係の分野に属する者の間において,ある程度知られていたと
の事実は認められるものの,それを超えて,「CECIL McBEE」が,特定
人である原告を指し示す氏名の略称として,世間一般に広く知られていたとの事実
を認めることはできず(なお,この点は,本件商標の指定商品に係る被服関係の取
引者,需要者の間においても同様である。),他にこれを認めるに足りる証拠はな
いというべきである。
(3) そうすると,原告の氏名の略称としての「CECIL McBEE」につい
て,商標法4条1項8号に規定する「略称」としての著名性を認めることはできな
いから,これと同旨の本件審決に誤りはなく,原告の取消事由3の主張は理由がな
い。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
        東京高等裁判所知的財産第2部
               裁判長裁判官 篠  原  勝  美
          裁判官 古  城  春  実 
          裁判官 早  田  尚  貴

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
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経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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