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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,11万5972円を支払え。
2被告は,原告に対し,17万7704円を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,平成18年6月15日付け社会保険庁長官の裁定により,
原告には障害基礎年金の受給権が平成15年9月20日に発生しており,平成
15年8月分以降の国民年金保険料(以下「保険料」という。)については,
国民年金法89条1号によりその納付義務が免除されているとして,同裁定後
に,沼津社会保険事務所長に対し,原告が同裁定前に同法93条1項の規定に
より前納していた平成15年4月分から平成19年3月分までの保険料の法定
免除及び還付の処理を求めたところ,沼津社会保険事務所長から,(a)上記受
給権発生後に支払われた平成16年4月分から平成19年3月分までの保険料
は還付し,(b)上記受給権発生前に支払われた平成15年4月分から平成16
「()」年3月分までの保険料は同法89条柱書所定の既に中略前納されたもの
として還付しない処理を受けたことから,被告に対し,①この処理は,国民年
金法89条に違反し,前納した被保険者を差別的に取り扱うもので不当である
などとして,公法上の不当利得返還請求として,上記(b)のうち平成15年8
月分から平成16年3月分までの保険料10万5190円及びこれに係る遅延
損害金相当額1万0782円の合計11万5972円の還付ないし支払を求め
る(請求の趣旨第1項)とともに,②原告の法定免除及び還付の処理手続を担
当した沼津社会保険事務所の職員らが,その処理を怠慢によって遅延させ,原
,,告に暴言を述べるなどの違法行為をしこれによって原告が精神的苦痛を受け
還付手続の遅延による損害を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づく損害
賠償請求として,精神的損害15万円及び上記(a)の還付保険料に係る遅延損
害金(15か月分)相当額2万7704円の合計17万7704円の賠償を求
めている(請求の趣旨第2項)事案である。
1関係法令の定め
()国民年金制度は,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわ1
れることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及
び向上に寄与することを目的とするものであり(国民年金法1条,その被)
保険者は,①20歳以上60歳未満の日本国内に居住する者(次の②又は③
に該当する者及び被用者年金各法に基づく老齢給付等の受給権者を除く。同
法7条1項1号。以下「第一号被保険者」という,②被用者年金各法の。)
(。「」。),被保険者及び組合員又は加入員同項2号以下第二号被保険者という
③第二号被保険者の配偶者のうち主として第二号被保険者の収入により生計
を維持する20歳以上60歳未満の者(同項3号。以下「第三号被保険者」
という)のいずれかである。。
()国民年金の被保険者は,保険料を納付しなければならず(同法88条12
項,その納付義務は,被保険者期間の計算の基礎となる月(同法11条1)
項)ごとに発生し,翌月末日までに納付しなければならないとされる(同法
87条2項,91条)が,被保険者は,将来の一定期間の保険料を前納する
(),,ことができ同法93条1項この場合において前納すべき保険料の額は
前納に係る期間の各月の保険料の合計額から,その期間の各月の保険料の額
を年4分の利率による複利現価法によって前納に係る期間の最初の月から当
該月までのそれぞれの期間に応じて割り引いた額の合計額を控除した金額と
される(同条2項,同法施行令8条1項。)
()被保険者は,次のアないしウのいずれかに該当するに至ったときは,そ3
の該当するに至った日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属す
る月までの期間に係る保険料について,既に納付されたもの及び同法93条
1項の規定により前納されたものを除き,納付することを要しない(同法8
9条柱書。)
ア障害基礎年金又は被用者年金各法に基づく障害を支給事由とする年金た
る給付その他の障害を支給事由とする給付であって政令で定めるもの(障
害基礎年金又は被用者年金各法による障害厚生年金・障害共済年金等)の
受給権者(最後に厚生年金保険法47条2項に規定する障害等級に該当す
る程度の障害の状態(以下「障害状態」という)に該当しなくなった日。
から起算して障害状態に該当することなく3年を経過した障害基礎年金の
受給権者(現に障害状態に該当しない者に限る)その他の政令で定める。
者を除く)であるとき(国民年金法89条1号,同法施行令6条の5第。
2項各号。)
イ生活保護法による生活扶助その他の援助であって厚生労働省令で定める
もの(生活保護法による生活扶助,らい予防法の廃止に関する法律による
援護)を受けるとき(国民年金法89条2号,同法施行規則74条。)
ウ上記ア及びイに掲げるもののほか,厚生労働省令で定める施設(国立及
び国立以外のハンセン病療養所国立保養所などに入所しているとき同,)(
法89条3号,同法施行規則74条の2。)
()第一号被保険者は,国民年金法89条各号のいずれかに該当するに至っ4
たときは保険料の免除理由及びそれに該当した年月日等を記載した届書国,(
民年金保険料免除理由該当届)に,国民年金手帳を添えて,14日以内に社
会保険事務所長に提出しなければらない(同法施行規則(ただし,平成19
年厚生労働省令第95号による改正前のもの。以下同じ)75条。。)
()被保険者が国民年金法93条1項の規定により保険料を前納した後,前5
納に係る期間の経過前において被保険者がその資格を喪失した場合又は第一
号被保険者が第二号被保険者若しくは第三号被保険者となった場合において
は,その者の請求に基づき,前納した保険料のうち未経過期間に係るものを
還付することとし(同法施行令9条1項,同法施行規則80条,その還付)
額は,被保険者の資格を喪失した時又は第一号被保険者が第二号被保険者若
しくは第三号被保険者となった時において,当該未経過期間につき保険料を
前納するものとした場合におけるその前納すべき額に相当する金額とする
(同法施行令9条2項。)
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
()原告の受傷及び保険料の納付1
ア原告は,平成▲年▲月▲日,静岡県沼津市α内の交差点において,自転
車を運転中に乗用車と接触する交通事故に遭い,同事故により○等の傷害
を負い,その結果,○,○の各障害(以下「本件障害」という)が残存。
した(乙1,2,28)。
,,イ原告は平成14年4月分から平成16年3月分までの保険料について
それぞれ平成14年4月4日及び平成15年4月8日に各1年分の保険料
を国民年金法93条1項の規定により前納していたが,平成16年ころ,
社会保険庁に赴き,同庁運営部年金保険課年金審査専門官に保険料の納付
の要否等について相談したところ,障害基礎年金の受給権の発生に係る裁
定がされるまで,保険料の納付義務が発生することから,保険料を納付し
ないと不利益に取り扱われるおそれがあり,また,障害基礎年金の受給権
発生日(初診日から起算して1年6月を経過した日(障害認定日)以降)
に納付した保険料が還付されるとして,保険料を納付するよう勧められた
ことから,平成16年4月分から平成19年3月分までの保険料について
も,平成16年4月23日,平成17年4月8日,平成18年4月24日
にそれぞれ各1年分の保険料を前納した(甲1,乙7,11の2)。
()原告の前納した保険料の一部の還付に至る経緯2
ア原告は,平成18年5月1日,社会保険庁長官に対し,本件障害が残存
したことを理由に国民年金法による障害基礎年金の裁定請求をした乙,。(
3,4)
イ社会保険庁長官は,同年6月15日,原告に対し,本件障害が障害等級
2級8号に該当する障害であり,その障害基礎年金の受給権発生日(障害
認定日)を平成15年9月20日とするとともに,2年後に再審の必要が
あるとする有期認定をする旨の裁定をし(以下「本件裁定」という。),障害
基礎年金の支給を開始した(乙4,20)。
ウ原告は,平成18年7月4日,沼津市役所経由で,沼津社会保険事務所
長に対し,国民年金保険料免除理由該当届を提出した(乙5)。
エ沼津社会保険事務所長は,平成19年8月9日,原告に対し,平成16
年4月分以降の保険料が免除される旨の国民年金保険料免除理由該当通知
書を送付した(乙6)。
オ社会保険庁長官は,平成19年8月13日,原告が前納した平成16年
4月分から平成19年3月分までの保険料が過誤納であるとして,これを
還付する旨の決定を行い,原告に対し,国民年金保険料過誤納額還付・充
当通知書によりその旨を通知するとともに,還付請求をするよう通知した
上で,平成16年4月分から平成19年3月分までの保険料について還付
請求を行う旨の記載のある国民年金保険料還付請求書の用紙を送付した。
(乙8,9)
カ原告は,平成19年8月17日,社会保険庁長官に対し,上記オの国民
年金保険料還付請求書の用紙を用いて還付請求をし,社会保険庁長官は,
原告に対し,同月31日,上記オの決定に基づき,48万0210円の還
付をした(乙9,10)。
()本件訴えの提起に至る経緯3
ア原告は,平成19年9月14日,静岡社会保険事務局社会保険審査官に
対し,前記()エの国民年金保険料免除理由該当通知について,毎月ごと2
に保険料を納付する被保険者や保険料を納付していない被保険者に比べて
不利益を受けており,また,沼津社会保険事務所長の国民年金法89条の
規定の解釈に不服があるとして,審査請求をしたが,同審査官は,同年1
1月9日,上記通知に係る決定が抗告訴訟の対象となる行政処分には当た
らず,また,国民年金法89条の規定に関する不満については立法政策の
問題であって審査請求の対象とならないことを理由として,上記審査請求
を却下する決定をし,同月12日,原告にこれを通知した(甲2,3,。
乙11の1・2)
イ原告は,平成20年1月17日,上記アの決定を不服として,社会保険
審査会に対し,再審査請求を行ったが,同審査会は,同年2月29日,法
定期間経過後にされた再審査請求であることを理由として,上記再審査請
求を却下する決定をした(甲3,乙12の1ないし3)。
ウ原告は,平成20年8月28日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3争点
()国民年金法89条柱書により法定免除の対象から除外される保険料の範1

()ア沼津社会保険事務所の職員らの原告に対する違法行為の有無2
イ原告の損害の有無
4争点に関する当事者の主張の要旨
()争点()(国民年金法89条柱書により法定免除の対象から除外される保11
険料の範囲)について
(原告の主張の要旨)
ア国民年金法89条柱書及び同条1号は,被保険者が障害基礎年金の受給
権者となったときは,保険料について,受給権発生日の属する月の前月か
ら納付することを要しないとして法定免除される旨を規定するとともに,
既に納付されたもの又は同法93条1項の規定により前納されたものを法
定免除の範囲から除外しているが,この「前納されたもの」とは,前納さ
れた保険料で受給権発生日の属する月の前月までのものを意味すると解す
べきである。
この解釈により,同法93条3項が,前納された保険料について,各月
が経過した際にそれぞれその月の保険料が納付されたものとみなすと規定
していることと矛盾なく説明することができるし,月ごとに納付する被保
険者や保険料を納付していない被保険者に比べ,原告のように,○して稼
動できず,収入もないにもかかわらず,指定された期日に保険料を前納し
た被保険者が,差別的な取扱いを受けて不平等な結果を招くことを避ける
ことができる。
イ原告の障害基礎年金の受給権発生日は,平成15年9月20日であるか
ら,上記アの解釈によれば,同年4月8日に同法93条の規定により前納
した平成15年4月分から平成16年3月分までの保険料15万6770
円のうち,受給権発生日の属する日の前月である平成15年8月分から平
成16年3月分までの保険料10万5190円(国民年金の保険料を前「
納する場合の期間及び納付すべき額を定める件(昭和49年社会保険庁」
告示10。甲4)別表第二参照)についても,保険料を納付することを要
しないものとして法定免除されると解されるので,既に前納された同期間
の保険料10万5190円は還付されるべきであるし,これを還付しない
ことによる遅延損害金1万0782円も支払われるべきである。
(被告の主張の要旨)
ア国民年金制度は,社会保障制度の一環として,所得の喪失又は減少の危
機に瀕する場合に,共同連帯の思想に基づいて,年金等の給付を行うこと
により,国民が貧困に陥ることを防止し,国民生活の安定とその向上を図
ることを目的とし(国民年金法1条,個々の国民による保険料の拠出に)
基づく社会保険方式を採用し,同法88条1項は,国民年金の被保険者が
原則として保険料を納付する義務を負担することを定めている。
他方,同法89条は,法定免除を定め,一定の場合に保険料の納付を要
しないこととする。同条は,上記のとおり,国民年金制度が拠出型の年金
制度を採用し,国民年金の被保険者が原則として保険料の納付義務を課さ
れるという国民皆保険を採用し,拠出能力のない者も被保険者とすること
により,広く公的年金制度による所得保障を及ぼす一方,拠出能力がない
場合には,①そのような場合ほど年金制度による保障が必要とされ,②あ
る時期において負担能力がなくても後に負担能力が生ずることもあるか
ら,負担能力のない時期(免除期間)については例外的に保険料納付義務
を負わせないこととした上で,免除期間についても国庫負担分に係る年金
額を支給するという仕組みを導入したものである。
イこのように,国民年金法は,原則として被保険者には保険料の納付義務
があり,法定免除を拠出能力がない場合における例外的な取扱いとしてい
ることからすれば,法定免除該当事由発生前に既に前納された保険料につ
いては,法律上,法定免除該当事由発生日前の拠出能力の点について支障
がないとみなされる時点で前納したものと認められ,拠出能力がない場合
に該当しないため,納付義務を免除する必要がないといえ,また,保険料
納付済期間(同法27条1号)として保険料が算定されるなど年金の給付
額が減額されないことから,結果的に被保険者の意思に沿うことになる。
なお,被保険者の資格を喪失した場合には,前納した保険料についても
還付の対象となるが(同法93条4項,同法施行令9条1項参照,被保)
険者の資格喪失の場合には,被保険者の資格喪失期間について国民年金保
険制度による保障がされないことから,前納された保険料であっても当然
に還付されるものであって,その拠出能力の点に着目した制度ではなく,
これと法定免除の場合とを同一に考える必要はない。
ウさらに,同法89条柱書の「既に納付されたもの及び第九十三条第一項
の規定により前納されたものを除き」との文言からすれば,同条各号所定
の事由が発生した日の時点で,既に納付された保険料及び同法93条1項
により前納された保険料については,その事由に該当する日の属する月の
前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間の保険料であって
も,同法89条による法定免除の対象期間に含まれないという制限を設け
ているものであることは,一見して明白であるし,他方,同条各号所定の
事由が発生した日の時点で既に納付され又は前納された保険料について,
法定免除の対象から除外される期間を限定的に解することも文言上できな
い。
エ以上のとおり,国民年金法89条柱書は,法定免除該当事由の発生日の
時点で既に前納された保険料については,当該前納に係る対象期間のすべ
てについて法定免除の対象としない旨を定めているものであって,当該期
間については,被保険者には原則どおり納付義務が発生し,保険料が納付
されたものとみなされるべきであるから,原告が障害基礎年金の受給権発
生日(平成15年9月20日)の時点で既に前納していた同年8月分から
平成16年3月分までの期間の保険料についても,原告には納付義務が発
生しており,法定免除の対象とならないので,還付の対象とならない。
オ上記のとおり,本件において,原告に対し還付すべき保険料は存在しな
いから,遅延損害金が発生する余地はない。
()()争点()ア沼津社会保険事務所の職員らの原告に対する違法行為の有無22
について
(原告の主張の要旨)
ア(ア)原告は,平成18年5月1日以前から,当時の沼津社会保険事務所
総合相談室室長であったP1に対し,口頭で,保険料の免除及び還付に
ついて相談しており,障害基礎年金の裁定に係る通知を受けた後の同年
6月16日,P1に対し,口頭で,保険料の免除及び還付の処理を依頼
していたものであって同年7月4日付け保険料法定免除理由該当届乙,(
第5号証)は,P1が原告の依頼に基づいてその時期になりようやく沼
津市役所の職員に依頼して作成させたものであるし,同日以降,月に2
回の頻度で沼津社会保険事務所を訪れ,P1と面談し,還付手続の進捗
状況等を尋ねたが,当時の法定免除及び還付に関する運用や国民年金保
険料免除理由該当届及び還付請求書等の必要書類に関する説明は一切さ
れず,還付手続を処理している最中である旨の説明をされていたのであ
り,結局,1年以上も,平成16年4月分から平成19年3月分までの
保険料の免除手続や還付手続が遅延したものであり,これは社会保険庁
のシステムへの入力処理を怠っていた可能性が極めて高い。
なお,原告は,P1から乙第23号証のファックス文書の送付を受け
ていない。
(イ)また,原告は,平成19年3月ころ,保険料の前納通知の送付を受
けたことから,同年4月4日,沼津社会保険事務所を訪れ,同通知が送
付された理由の説明を求めたところ,当時の同社会保険事務所国民年金
保険料課課長であったP2から,沼津市役所の職員の誤記が原因である
旨の虚偽の説明を受けた。
さらに,原告は,同月ころ,P2から,平成15年8月分から平成1
6年3月分までの国民年金保険料の還付を受けられない旨の説明を受け
たことから,その理由の説明を求めたが,納得のできる説明を受けられ
ず,また,不服申立ての方法に関する適切な説明がされなかったことか
ら,平成16年4月分から平成19年3月分までの国民年金保険料の免
除及び還付を求める時期が遅れた。
イ加えて,原告は,平成19年8月ころ,沼津社会保険事務所の年金相談
センターで還付手続を受ける際,同社会保険事務所の職員の対応につき抗
議したところ,年金相談センターの職員(P3)から「次回の障害認定を
取り消してやる」との暴言を述べられた。。
(被告の主張の要旨)
ア国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員
が個別の国民等に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民等
に損害を与えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずること
を規定するものであり,具体的には,公務員の個々の国民に対する職務上
の法的義務の有無及びその内容の確定と,その義務に係る義務違反の有無
によって,当該公務員の行為の違法性が判断され,本件における各職員の
行為等については,各職員において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽
くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合に
限り,違法の評価を受けるものというべきである。
イ社会保険庁長官の原告に対する平成18年6月15日付け本件裁定は,
2年の有期認定とされており,2年後に再審査において障害等級が減退す
る可能性のある裁定であるといえ,そうすると,原告には,将来に老齢基
礎年金を受給する可能性が残っており,その受給額が減額されるおそれが
存していたといえ,原告の前納していた平成19年3月分までの保険料に
ついては,平成11年3月24日付け社会保険庁運営部年金指導課課長補
佐通知(乙18)による取扱いに従い,納付を優先させて法定免除及び還
付の対象外とすることとし,他方,平成19年4月分からの保険料につい
ては,法定免除の対象とする旨の処理を行ったことには十分な合理的理由
があったといえる。
そして,沼津社会保険事務所においては,平成19年4月に原告からの
指摘を受けたことを契機として,原告の保険料免除期間について再調査を
行い,平成18年9月29日付け社会保険庁運営部年金保険課長通知(乙
19の2)に基づく取扱いの変更がされたことを踏まえ,受給権発生日の
時点で既に前納されていた平成16年4月分から平成19年3月分までの
保険料についても,法定免除の対象となる旨の修正をし,原告に同期間分
の保険料を還付している。
上記の取扱いの変更は,有期認定の場合における老齢基礎年金の年金額
について,従前は法定免除により不利益が生じないような取扱いをしてい
たところ,本来的には還付し得るものであることから還付することとし,
還付によって生じ得る不利益については,個々人の自己責任にゆだねるこ
ととしたものであって,従前の取扱いによっても原告に不利益が生じてい
たとはいえない。
ウ他方,原告については,平成18年5月1日の時点においては,障害基
礎年金の受給権が発生しているか否かが明らかではなかったのであって,
国民年金保険料免除理由該当届又は国民年金保険料還付請求書が提出され
ておらず,また,平成19年8月17日に原告名義の国民年金保険料還付
請求書が提出されていることからすれば,原告が同日以前に還付請求を行
っていたとするのは誤りである。
また,平成18年9月29日以前に国民年金保険料免除理由該当届が提
出されていた被保険者については,同日付け通知による取扱い変更後の運
用が必ずしも被保険者にとって有利になるものではなく,むしろ,将来,
障害基礎年金が受給されない場合に老齢基礎年金の受給額が減少する不利
益が生ずるリスクを被保険者の選択・責任とするものであるから,同日以
後に改めて国民年金保険料免除理由該当届が提出された場合や被保険者か
ら何らかの問合せ等がされた場合を除き,同日付け通知による取扱い変更
後の運用に従った還付はあえて積極的には行われていなかったのであり,
原告は平成19年4月4日より前に法定免除に関する問い合わせ等をして
いなかったのであるから,その保険料について還付を行う必要はない。
そして,沼津社会保険事務所の国民年金保険料課のP2は,原告が平成
19年4月4日に前納した保険料の還付に関する問い合わせをしたことか
ら,原告に対し,原告の平成16年4月分から平成19年3月分までの保
険料は還付できるが,平成15年8月分から平成16年3月分までの保険
料は還付できない旨説明したところ,原告は,平成19年4月11日,還
付されない保険料があることを不服として,平成16年4月分から平成1
9年3月分までの保険料が還付されることも許さないとし,P2も,還付
手続を進行させると国民年金法上の消滅時効(同法102条4項)による
不利益が生ずるおそれがあり,また,原告と沼津社会保険事務所との間の
関係が悪化することを懸念して,原告に対する還付手続を進めることを見
合わせた。
このような経緯から,沼津社会保険事務所の職員らとしては,原告が国
民年金保険料還付請求書を提出した平成19年8月17日までの間,原告
に対する還付手続に着手できなかったものであり,その提出後速やかに処
理をして,同月31日に原告に対し上記還付請求に係る還付をしたもので
あり,その対応が違法であるということはできない。
()争点()イ(原告の損害の有無)について32
(原告の主張の要旨)
原告は,P1に対し,原告への保険料の還付を求めていたが,十分な説明
を受けられず,約15か月間にわたり数十回も沼津社会保険事務所へ出向か
され,同社会保険事務所において長時間待たされた後に門前払いをされるよ
うな対応を受けるなど,多大な肉体的・精神的苦痛を被り,また,同社会保
険事務所の職員から暴言を受けたことにより精神的苦痛を被ったものであ
り,その損害としては,未還付保険料の遅延損害金相当額2万7704円と
慰謝料15万円との合計である17万7704円を下らない。
(被告の主張の要旨)
原告の主張は争う。
なお,還付をするには,会計法令に定められた手続を経る必要があり,還
付請求と同時に還付をすることは事実上不可能であるから,国民年金の保険
料還付請求権の履行期については,還付を行うために必要な事務手続を合理
的に完了する時期までは到来しないと解すべきである。本件では,上記のと
おり,原告の還付請求の14日後に還付しているのであるから,上記事務手
続を合理的に完了する時期までに還付が行われたというべきであり,遅延損
害金が発生する余地はない。
第3争点に対する判断
1争点()(国民年金法89条柱書により法定免除の対象から除外される保険1
料の範囲)について
()国民年金法89条柱書の「既に納付されたもの及び第九十三条第一項の1
規定により前納されたもの」の範囲
ア国民年金制度は,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわ
れることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし(国民年金法
1条,被保険者の拠出した保険料を基として年金給付を行う保険方式を)
制度の基本とするものであり(同法87条,年金給付に要する費用に充)
てる保険料について,政府がこれを徴収することとされ(同条1項,そ)
の納付義務は,第一次的に被保険者が負担することとされる(同法88条
1項。国民年金の被保険者は,原則として日本国内に住所を有する20)
歳以上60歳未満の者とされ(同法7条1項,通常の稼働年齢層に限定)
されているものの,①保険料の拠出能力が低いとされている者こそ年金に
よる所得保障を必要としていること,②保険料の拠出能力は変動するもの
であり,年金という長期保険制度においては,被保険者期間の一時点にお
ける保険料の拠出能力の有無から制度の対象外とすることは,国民年金制
度の意義に反するほか,事務処理上も煩雑に過ぎるといえることから,保
険料の拠出能力の有無を要件とせず,上記要件を充たす者すべてを国民年
金の被保険者になるものとし,さらに,等しく保険料を拠出する義務を課
するものとしている(同法87条3項参照。)
このように,国民年金法においては,原則として,一定の年齢層の者を
被保険者とし,所得の多寡又は所得活動上の差異にかかわりなく,等しく
一定の保険料を拠出すべきものとする一方で,一定の要件を備える場合,
すなわち,拠出能力がなく,又は保険料を納付させる意味がないと認めら
れる場合には,保険料の納付義務を免れさせ,その納付を要しないものと
する制度として,(Ⅰ)法定の要件に該当すれば別段の手続を経ることなく
保険料の納付義務を免れる法定免除の制度(同法89条)及び(Ⅱ)申請に
基づき都道府県知事の決定によって保険料の納付義務を免れる申請免除制
度(同法90条ないし90条の3)がそれぞれ設けられている。
イ国民年金保険制度における被保険者のうち,保険料の拠出能力がないこ
とが客観的に明らかな者及び将来に老齢基礎年金を受給する必要がないこ
とが客観的に明らかな者については,その保険料の納付を免れさせるべき
ことが客観的に明らかであるから,国民年金法は,上記の客観的事由に該
当することをもって,以後の保険料の納付義務が発生しないこととし,具
,,体的には①保険料の拠出能力がないことが客観的に明らかな場合として
(a)生活保護法による生活扶助又はらい予防法の廃止に関する法律による
援護を受けるとき国民年金法89条2号同法施行規則74条及び(b)(,)
国立及び国立以外のハンセン病療養所,国立保養所又はその他厚生労働大
臣が指定する施設に入所したとき(同法89条3号,同法施行規則74条
の2)を,②老齢基礎年金を受給する必要がないことが客観的に明らかな
場合として,障害基礎年金又は被用者年金各法に基づく障害を支給事由と
する年金たる給付その他の障害を支給事由とする給付であって政令で定め
るもの(被用者年金各法による障害厚生年金又は障害共済年金等)の受給
権者(最後に障害状態(厚生年金保険法47条2項に規定する障害等級に
該当する程度の障害の状態)に該当しなくなった日から起算して障害状態
に該当することなく3年を経過した障害基礎年金の受給権者(現に障害状
態に該当しない者に限る)その他の政令で定める者を除く)であると。。
き(国民年金法89条1号,同法施行令6条の5第2項各号)を,それぞ
れ法定免除事由として定め,上記①又は②の事由に該当する場合には,当
然に,保険料の納付義務が発生せず,その納付を要しないこととしている
と解される。
ウ上記ア及びイにおける我が国の国民年金制度の目的・性格及び法定免除
制度の趣旨を前提として,同法89条柱書が法定免除の対象となる保険料
について「既に納付されたもの及び第九十三条第一項の規定により前納さ
れたものを除き」との限定を付している範囲を検討するに,法定免除の効
力が,上記イのとおり,同法89条各号の定める法定免除事由の発生によ
り何らの手続を経ることなく当然に発生するものであって,当該事由の発
生日の属する月の前月から当該事由に該当しなくなる月までの期間に係る
保険料の納付義務を発生させないこととするものであることからすれば,
法定免除事由に該当するに至った日を基準として,その前後に納付され又
は前納された保険料について当該日と納付又は前納の日との前後によって
別個に取り扱うことには合理性があるというべきであり,また,同法89
条柱書の文理(被保険者(中略)が次の各号のいずれかに該当するに至「
つたときは(中略)期間に係る保険料は,既に納付されたもの及び第九,
十三条第一項の規定により前納されたものを除き,納付することを要しな
い)からすれば,法定免除事由に該当するに至った日より前に納付さ。」
れ又は前納された保険料については,当該保険料の保険期間による限定を
加えることなく,一体のものとして法定免除の対象から除外されるものと
解するのが相当であるというべきである。
そして,このように解することについては,①法定免除事由に該当する
に至った日より前に納付され又は前納された保険料は,同法89条各号の
定める法定免除事由に該当するか否かが客観的には不確定な時点において
拠出されたものであって,その時点においては,当該被保険者につき保険
料の納付義務を免れさせるべき客観的事由の存否が未確定の状態にあった
ということができ,このような被保険者については,法定免除制度による
優遇的な措置を講ずべき必要性自体も減殺されているということができ,
また,②被保険者が納付し又は前納した保険料は,当該被保険者期間に有
,,効に納付されたものとして当該被保険者の老齢基礎年金の算定において
保険料納付済期間の月数(同法27条1号)として考慮され,将来に老齢
基礎年金の受給を選択する場合には,法定免除の対象期間として処理され
る場合に比べ,保険料の算定において有利な取扱いを受けられるのである
から,法定免除の対象として取り扱われないことが一概に被保険者にとっ
て不利益になるものということはできず,さらに,③同法89条柱書によ
り法定免除の対象から除外される保険料の納付又は前納の範囲を,その納
付又は前納がされた日と法定免除事由に該当するに至った日との前後によ
って区分することは,法定免除の対象となる保険料であるか否かを明確に
区別することができることから,その事務処理上の便宜にも適うといえ,
これらの事情によれば,法定免除制度の趣旨等及び根拠法規の文理に沿っ
て導かれる上記の解釈は,その実質においても一定の合理性を有するもの
ということができる。
,,,エまた国民年金法における障害基礎年金は被保険者が障害者となって
日常生活に支障を来したり,日常生活に著しい制限が加えられたりして所
得が減少した場合に,その生活の安定が損なわれることを防止することを
目的とする給付であり,同法89条1号が,被保険者が,障害基礎年金の
受給権者について,その受給権を得た日の属する月の前月以降の保険料の
納付義務を免れることとするのは,障害基礎年金の受給権が認められるよ
うな重い障害を持つ者については,その後の稼動能力の回復がほとんど期
待できず,他方,その所得保障については,一般に老齢基礎年金に比べて
被保険者に有利な障害基礎年金の給付が受けられることから,将来の老齢
基礎年金の受給に向けて保険料を納付させる意味が減殺されることが客観
的に明らかになることによるものと解されるところ,同号の法定免除につ
いてみても,①被保険者が障害基礎年金の受給権発生日より前に納付し又
は前納した保険料については,将来に老齢基礎年金を受給する必要がない
ことが客観的に明らかであるとはいえない時点において支払われた保険料
であるといえ,その時点では保険料を納付させる意味がないことが客観的
に確定しておらず,また,②障害基礎年金と老齢基礎年金とが併給される
ことがなく,一般には前者の方が障害者に有利であることを考慮しても,
将来に老齢基礎年金の受給権を取得した場合に,同年金の受給を選択して
その給付を受ける可能性が全くなくなるとはいえない以上,法定免除の対
象として取り扱われることが一概に被保険者にとって不利益になるものと
いうことはできないし,さらに,③事務処理上の便宜の点についても,他
の法定免除事由の場合と障害基礎年金の受給権発生の場合とで法定免除の
対象となる保険料の範囲に係る取扱いを異にする煩雑さを回避できる利点
があることからすれば,上記ウにおいて述べた解釈については,法定免除
事由が障害基礎年金の受給権発生である場合(国民年金法89条1号)に
ついても妥当するものとして,障害基礎年金の受給権発生日より前に納付
され又は前納された保険料については,当該保険料の保険期間による限定
を加えることなく,一体のものとして法定免除の対象から除外されるもの
と解するのが相当であるというべきである。
オ(ア)この点について,原告は,<A>国民年金法93条3項は,同条1項
により前納された保険料については,前納に係る期間が経過した際に,
それぞれその月の保険料が納付されたものとみなす旨規定しており,そ
うすると,既に同法93条1項により前納された保険料として,同法8
9条によって法定免除の対象から除外される保険料の範囲は,原告の障
,,害基礎年金の受給権発生日の時点で期間を経過している部分すなわち
,,同日の前月分より前の保険料に限定されると解すべきであることまた
<B>原告の障害基礎年金の受給権発生日より前に前納した保険料が法定
免除の対象から除外されるとすれば,誠実に受給権発生日より前に一定
期間分の保険料を前納した被保険者が,月ごとに納付する被保険者又は
未納者に比べて不利益な取扱いを受けることになり,差別的な結果を招
くことになる旨主張する。
(イ)まず,原告の上記<A>の主張について検討するに,国民年金法93
条1項の規定により前納された保険料は,あらかじめ将来の保険期間に
係る保険料を納付するものであるとともに,預り金としての性質も併せ
持つものであると解されることから,保険料の納付については,前納さ
れた保険料に係る各月が経過することによって生ずる納付義務につい
,()てそれぞれ納付されたものとみなされることとされている同条3項
ところ,仮に,法定免除の対象から除外される保険料が同条3項の規定
により納付されたとみなされるものに限定されるのであれば,同法89
条柱書において「納付されたもの」に加えて「第九十三条第一項の規定
により前納されたもの」を規定する必要はないところ,あえて「納付さ
れたもの」に加えて「第九十三条第一項の規定により前納されたもの」
が規定されており,しかも,この前納された保険料から,法定免除事由
に該当するに至った日の属する月の前月以降の期間に係る保険料を除外
する規定は存しないことからすれば,法定免除事由に該当するに至った
日(障害基礎年金の受給権発生日)より前に前納された保険料のうち,そ
の日の属する月の前月以降の期間に係る保険料が法定免除の対象から除
外される範囲に含まれないと解することはできないといわざるを得な
い。また,前納された保険料の法的性質については,あらかじめ将来の
保険料を納付する性質と預り金としての性質とを併せ持つものと解され
ることからすれば,前納された保険料のうち,保険期間が経過していな
い部分と既に保険期間が経過している部分とを必ずしも別個に取り扱わ
なければならないものではなく,法定免除の対象に含まれるか否かは,
専ら同法89条柱書の解釈にゆだねられているということができるか
ら,前記ウ及びエで述べた同条柱書の解釈が,同法93条3項の規定と
抵触するということもできないのであって,上記<A>の主張は理由がな
い。
(ウ)次に,原告の上記<B>の主張について検討するに,国民年金法93
条1項の前納制度は,国民年金の被保険者の収入状況が多様であること
に配慮して,その納付方法を毎月ごとに納付する方法のほか,事前に一
定期間をまとめて納付する方法を認め,被保険者の便宜に資する趣旨で
設けられたものであると解されるところ,同法89条柱書において,法
定免除事由に該当するに至った日より前に納付され又は前納された保険
料が保険料の期間の区別なく一体のものとして法定免除の対象から除外
されるとしても,前記ウ及びエのとおり,①法定免除事由に該当する前
の時点においては,当該被保険者につき法定免除による優遇措置を講じ
る必要性が減殺されており,また,②被保険者が納付し又は前納した保
険料は,法定免除の対象から除外されるとしても,将来に老齢基礎年金
の受給を選択する場合には保険料の算定において有利な取扱いを受けら
れるという点で,一概に不利益を受けるものとはいえず,さらに,③国
民年金の管理に係る事務処理上の便宜に資するといった点も考慮すれ
ば,保険料を前納する場合と月ごとに納付する場合とで取扱いを異にす
ること自体が直ちに不合理な取扱いであるということはできないし,未
納の場合には,誠実に前納した被保険者と異なり,将来に老齢基礎年金
の受給を選択したとしても本来受けるべき保険給付額を受けることがで
きないことも考慮すれば,被保険者のうち保険料を前納した者と月ごと
に納付する者又は未納者との間で保険料の取扱いを異にする結果となる
としても,そのことをもって直ちに不合理に差別的な取扱いであるとい
うことはできず,上記<B>の主張は理由がない。
()上記()の検討を前提として,原告の平成15年8月分から平成16年321
月分までの保険料が法定免除の対象となるか否かについてみるに,前記前提
事実によれば,①社会保険庁長官は,平成18年6月15日,原告の本件傷
病による障害の程度について,障害等級2級8号に該当する障害であり,そ
の受給権発生日は平成15年9月20日であり,2年の有期認定とする旨の
裁定をしたこと(前記前提事実()イ,②原告は,平成15年4月8日,2)
平成15年4月分から平成16年3月分までの期間の保険料について,同法
93条1項の規定による前納をしたこと(同()イ)がそれぞれ認められる1
ことからすれば,原告の平成15年8月分から平成16年3月分までの保険
料は,いずれも原告の障害基礎年金の受給権発生日である平成15年9月2
0日より前に既に同項の規定により前納された保険料であると認められ,同
法89条柱書に規定する「既に(中略)第九十三条第一項の規定により前納
されたもの」に該当するものといえる。
そうすると,上記()で述べた国民年金法89条柱書の解釈によれば,原1
告の平成15年8月分から平成16年3月分までの期間の保険料について
は,同法89条による法定免除の対象から除外されているものというべきで
,,あり各月の経過によって各月の納付義務が逐次有効に発生するのであって
上記期間の各月が経過した際に逐次納付されたものとみなされるのであるか
ら(同法93条3項,いずれの期間の保険料についても既に有効に発生し)
た納付義務に基づく納付による弁済の効果が生じたものということができ,
他に,原告が前納した上記期間の保険料について,その納付による弁済の効
果が失われ,被告においてこれを原告に還付すべき義務の存在をうかがわせ
る特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の平成15年8月分から平成16年3月分までの保険料
の還付を求める請求は理由がないといわざるを得ない。
()そして,上記()のとおり,被告において原告の前納した平成15年8月32
分から平成16年3月分までの保険料を還付すべき義務の存在を認めること
はできないのであるから,上記期間の保険料について遅延損害金の支払義務
が発生する余地はなく,その余の点について検討するまでもなく,原告の上
記期間の保険料に係る遅延損害金相当額の支払を求める請求は理由がないと
いわざるを得ない。
2争点()ア(沼津社会保険事務所の職員らの原告に対する違法行為の有無)2
について
()国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員1
が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害
を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定す
るものであるから,公務員による公権力の行使に係る行為に同項にいう違法
があるというためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張す
る者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要であ
ると解される(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日
第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,同平成18年(受)第263
号同20年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号1005頁参照。)
()そこで,以下,上記()を前提として,沼津社会保険事務所において原告21
との対応を担当したP1,P2又は他の同社会保険事務所の職員(以下,併
せて「沼津社会保険事務所の職員ら」という)の各行為に上記()の違法。1
があるか否かについて検討するに,その検討の基礎となる事実として,前記
前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
ア社会保険庁においては,平成11年3月24日付け都道府県民生主管部
(局,国民年金主管課(部)長あて社会保険庁運営部年金指導課課長補)
佐通知「障害基礎年金受給権者にかかる国民年金保険料の取り扱いについ
て(乙18。以下「平成11年通知」という)を発出し,障害基礎年」。
金の受給権が遡及して発生した受給権者の国民年金の保険料について,従
前の取扱いについて,障害の程度が減退(軽快)しない場合においてのみ
受給権発生時に遡って還付できるという特例的な取扱いを行ってきたとし
た上で,今後も同取扱いを引き続き実施し,障害の程度が減退しない場合
にのみ受給権発生時に遡って還付することとし,障害の程度が減退する可
能性がないことが確定していない場合には還付の処理手続を行わないこと
とする取扱いを実施するものとし,同通知により,都道府県を通じて社会
保険事務所及び市町村に対する同取扱いの周知・指導が行われていた乙。(
18,弁論の全趣旨)
イ沼津社会保険事務所においては,平成18年当時,同社会保険事務所総
合相談室が1階総合受付の隣に年金相談センターを設け,主に利用者の年
金請求など,年金の支給に関する相談を行い,具体的には,保険の支給を
受けようとする者に,請求書の記載内容やその方法,必要書類等の相談に
応じて,その説明をするほか,各請求の受付をする事務を担当していた。
なお,同社会保険事務所においては,総合相談室とは別の部署である年金
給付課が,請求書が受け付けられられた後の審査や入力処理等を担当して
いたほか,年金相談センターが繁忙な場合には来訪者の相談の事務も担当
していた。
原告は,平成18年4月17日,沼津社会保険事務所を訪れ,上記年金
,,相談コーナーにおいて障害基礎年金の請求方法等について質問をしたが
当初,対応した職員との間で十分に意思の疎通ができなかったことから,
当時の同社会保険事務所の総合相談室室長であったP1及び他の職員の2
名で原告との対応をすることとなった。P1らは,原告が,障害基礎年金
を受給するための手続を執ることを希望しており,右手に障害があるため
に請求書等を作成することができないことを問題としているものと解し,
原告名義の国民年金障害基礎年金裁定請求書及び国民年金病歴状況等申立
書を代筆してその作成を代行するとともに,裁定請求をするための必要書
類である診断書等(国民年金法施行規則31条2項各号参照)を持参する
よう伝えた。
原告は,同年5月1日,同年2月10日に作成された診断書を持参して
同社会保険事務所の年金相談センターを訪れ,その障害の状態を示すレン
,。トゲンフィルムを追完することとして障害基礎年金の裁定請求を行った
(以上につき,甲1,乙2,3,20ないし22,28)
ウ社会保険庁長官は,同年6月15日,原告の障害の程度について,障害
等級2級8号に該当するとし,その障害認定日を平成15年9月20日と
し,2年の有期認定とする旨の本件裁定をした。本件裁定の通知を受けた
原告は,平成18年6月16日又は19日,沼津社会保険事務所の年金相
談センターを訪れ,対応したP1に対し,上記障害基礎年金に係る本件裁
定の内容について,2年後に再審が必要となる理由についての説明を求め
るとともに,国民年金の保険料の免除を受ける手続について相談をした。
(甲1,乙5,20,21,24)
エ原告は,同月19日,静岡社会保険事務局に電話をし,同社会保険事務
局年金課職員に対し,①上記ウの本件裁定について,(a)原告の障害の一
部(○の部分)のみが回復した場合に,その障害がいかなる障害等級に該
当するかという事項,(b)障害基礎年金診断書の記載事項,(c)公立学校
共済組合への加入記録の入手方法に関する説明を求めるとともに,②退職
共済年金・障害基礎年金・老齢基礎年金の65歳以降の受取方法と今後の
保険料の納付の要否について説明を求めた(乙21,27)。
同社会保険事務局年金課の職員は,同月20日,上記①の質問事項につ
いては,原告に対し,同日午後4時ころ,上記①(a)ないし(c)に関する
回答を記載した「連絡事項」と題する書面(乙27の3枚目)を,○の障
害に関する障害等級の認定方法に関する文献の一部の写し(同4ないし8
枚目)及び平成7年2月9日付けP4理事長外作成の「関節可動域表示な
らびに測定法(平成7年2月改訂)(同9ないし11枚目)を添付資料と」
して併せてファックス送信し,回答した(乙21,24,27)。
同社会保険事務局年金課の職員は,原告に上記送信をした日である平成
18年6月20日,P1に電話をし,原告から電話で説明を求められたこ
と,同年金課の回答として上記ファックス文書を原告に送信したことを報
告し,併せて,上記②の質問事項については,回答案を示した上で,沼津
社会保険事務所から原告にこれをファックス送信するよう指示し,P1に
対し,同回答案をファックス送信するとともに(乙27の1,2枚目,)
同回答案の電子データを電子メールで送信した(乙21,24,27)。
上記回答案(乙27の2枚目)には,<ア>原告は,65歳以降,老齢基
礎年金と退職共済年金とを併せた年金か,障害基礎年金と退職共済年金と
を併せた年金のいずれかを選択して受給することができること,<イ>原告
は,60歳までの保険料の納付を続けても保険料支払期間が40年に満た
ないところ,障害等級2級に該当する障害者の受ける障害基礎年金の金額
は,40年間保険料を納付した老齢基礎年金の金額と同額であるから,障
害基礎年金と退職共済年金の合計額の方が,老齢基礎年金と退職共済年金
の合計額よりも多額になること,<ウ>上記<イ>の理由から,(a)原告が6
5歳以降も引き続き障害基礎年金を受給することができる場合には,国民
年金の保険料の納付を継続する利益はないが,(b)原告の症状が改善する
などして65歳以降に障害基礎年金を受給することができない場合には,
老齢基礎年金を受給することになるため,国民年金の保険料の納付を継続
した方がよいと考えられること,<エ>原告においては,上記<ア>ないし<
ウ>の事情を踏まえた上,平成19年4月以降の保険料について,法定免
除の処理手続をするか又は納付を継続するかを選択する必要があることの
説明が記載されていた(乙27)。
オP1は,上記回答案を受信した日である平成18年6月20日当時,同
月15日付けの原告の障害基礎年金に係る本件裁定が2年の有期認定とさ
れており,平成11年通知の取扱いに従えば,原告が保険料を前納してい
る平成19年3月分までの保険料については,直ちに法定免除の対象とな
るものではなく,平成19年4月分以降の保険料のみが法定免除の対象と
なり,前納された保険料が還付されることはないと考えていたことから,
上記エの回答案と同内容の回答書を原告に送付することにより,原告に前
納している平成19年3月分までの保険料が還付されないことが伝わると
,,考え上記エの回答案と同内容の回答書にファックス送付状を付した上で
平成18年6月20日午後5時ころ,原告にこれをファックス送信した。
(乙21,23,24)
カ原告の法定免除の処理手続を担当した沼津社会保険事務所の職員は,平
成18年6月ころ,原告の上記ウの本件裁定では2年後に再審が必要とさ
れていたことから,その障害の程度が減退しない場合であるか否かが不確
定な段階であると判断し,平成11年通知にのっとった取扱いによれば,
原告は平成19年3月分までの保険料を前納していたことから,平成19
年4月分以降の保険料のみが法定免除の対象となるものと考えていた。そ
して,同職員は,原告からの同人の障害により申請書類を記載することが
できない旨の相談内容及びそれまでの経過を考慮すると,原告の法定免除
の処理手続に係る必要書類を代筆してその作成を代行し,法定免除の処理
手続を進めるのが相当であると考え,沼津市役所の職員に記載事項を指示
して原告の国民年金保険料免除理由該当届の作成を代行させることとし,
その際「該当年月日」欄の記載について,当初は,平成19年4月1日,
からとするよう指示したものの,その後,同欄には障害基礎年金の受給権
発生日を記載すべきことに気付き,同欄の記載を平成15年9月20日に
訂正するよう指示し,沼津市役所の職員をして,その旨の国民年金保険料
免除理由該当届(乙5)の作成を代行させ,平成18年7月5日,沼津市
役所から沼津社会保険事務所に提出させた(甲1,乙5,21,22)。
沼津社会保険事務所においては,国民年金に係る情報を電子データとし
て管理・運用していたことから,国民年金保険料免除理由該当届が提出さ
れた場合には,その記載事項の確認をした後に当該届出事項を電子データ
として入力処理する作業が必要であり,入力処理がされると,法定免除の
期間が自動的に確認され,1か月以内にその結果を国民年金保険料免除理
由該当通知書により届出人に通知する態勢がとられ,その際には,同通知
書は原本自体を送付する関係から写しを保管しない処理をしていたが,平
成11年通知による取扱いに従った処理を行うため,届出日前に保険料が
納付され又は前納された期間については自動的には法定免除の対象とされ
ないように設定されていた。このため,原告の国民年金保険料免除理由該
当届(乙5)についても,上記処理と同様の処理がされたことから,原告
が前納した平成19年3月分までの保険料は自動的には法定免除の対象と
されず,同年4月分以降の保険料を法定免除の対象とする処理がされ,平
成18年7月末ころ,原告にその旨の国民年金保険料免除理由該当通知書
が送付された(甲1,乙5,6,21,22,弁論の全趣旨)。
(なお,原告は,同年7月末ころに同通知書が送付された記憶はないとす
るが,上記の一般的な処理の取扱いに照らし,殊更にその通例と異なり同
通知書の送付がされなかったとは認め難い)。
キ沼津社会保険事務所においては,平成18年当時,国民年金保険料課が
被保険者に対する保険料の還付事務を担当していた。同課の職員は,原告
の上記カの国民年金保険料免除理由該当届について,上記カのとおり,平
成11年通知による取扱いに従い,原告が前納した平成19年3月分まで
の保険料については,直ちに法定免除の対象となるものではないものとし
て処理されたことを踏まえ,還付の対象となる保険料はないものとして,
還付の処理手続を行わなかった(乙21ないし23)。
ク社会保険庁においては,平成18年9月29日付け三重社会保険事務局
長あて社会保険庁運営部年金保険課長通知「国民年金保険料の還付に係る
事務の取扱いについて(回答(庁保険発第0929001号。乙19)」
の2。以下「平成18年通知」という)を発出し,障害基礎年金に係る。
裁定がされ,その受給権が遡って発生した場合には,当該受給権発生日以
降に納付された保険料(同日の属する月の前月以降の保険料に限る)を。
還付することとし,併せて,障害の程度が軽快する可能性がある被保険者
については,保険料の還付に際し,将来に老齢基礎年金を受ける上で不利
益な取扱いを受けるおそれがある旨を説明し,その上で当該被保険者が還
付対象となる期間に係る保険料を納付済みとすることを希望する場合には
追納制度により対応する旨の取扱いに変更することとし,同通知により,
同取扱いに従って還付手続を実施するよう,都道府県を通じて社会保険事
務所及び市町村に対する同取扱いの周知・指導が行われるようになった。
そして,平成18年通知の発出に伴い,平成18年通知の発出後に国民年
金保険料免除理由該当届が提出された場合のみならず,平成18年通知の
発出以前に同届が提出されていた事案であっても,平成18年通知の発出
後に改めて還付手続の実施を求められた場合には,平成18年通知による
取扱いに従って還付手続を実施する取扱いが採られるようになった(乙。
19の1・2,同22)
ケ原告は,平成19年3月ころ,沼津社会保険事務所から,同年4月分か
ら平成20年3月分までの保険料の前納を勧奨する内容の葉書が郵送され
たことから,原告の保険料の法定免除の届出に対応した処理及び還付手続
がされていないものと考え,平成19年4月4日,沼津社会保険事務所の
国民年金保険料課を訪れ,同課長のP2と面談し,同葉書が郵送されてき
た経緯の説明を求めるとともに,従前に原告が納付していた保険料が還付
されないことへの不満を告げた(乙22)。
P2は,同日,平成18年通知に従った取扱いによれば,原告の平成1
6年4月分から平成19年3月分までの保険料については,還付の対象と
なると考え,原告に対し,同期間分の保険料については,平成18年通知
による取扱いの変更により還付できることとなった旨を伝えるとともに,
平成15年8月分から平成16年3月分までの保険料については,同通知
による取扱いの変更後も,そもそも法定免除の対象とならず,還付するこ
とができない旨説明した。これに対し,原告は,同日,P2に対し,①平
成18年4月以降の沼津社会保険事務所の職員らの対応に不備があるこ
と,②平成15年8月分から平成16年3月分までの保険料が法定免除の
対象とならない理由が納得できないことを理由に,平成18年4月以降の
経過を示す文書及び上記期間の保険料が法定免除の対象とならない理由に
ついて上級の行政機関の意見書をそれぞれ提出するよう求めた。また,原
告は,平成16年4月分から平成19年3月分までの保険料の還付を受け
てしまうと,平成15年8月分から平成16年3月分までの保険料の還付
を認めるよう争うことができなくなると考え,平成19年4月11日,P
2に対し,平成16年4月分から平成19年3月分までの還付請求手続を
しない旨告げた(乙22)。
P2は,同年4月13日,原告に対し「原因についての確認」と題す,
る書面(甲1)を交付し,同書面により,①P1の原告に対する保険料の
還付についての説明内容の法的根拠,②国民年金保険料免除理由該当届を
沼津市役所の職員が作成し提出した経緯,③原告の前納した保険料が国民
年金保険料免除理由該当届の提出後に自動的に還付の対象とならなかった
理由,④平成15年8月分から平成16年3月分までの保険料の還付を受
けられない理由につき社会保険庁に照会中であることをそれぞれ報告し,
その上で,平成19年4月下旬ないし5月ころ,改めて平成16年4月分
から平成19年3月分までの保険料の還付手続を進めることについて原告
の理解を求めたが,原告は,この要請を断った(甲1,乙22)。
コP2は,原告と沼津社会保険事務所の職員らとの間の上記経緯に照らす
と,仮に,原告に無断で法定免除及び還付の処理手続を進行させ,国民年
金保険料免除理由該当通知書や国民年金保険料過誤納額還付・充当通知書
とともに,国民年金保険料還付請求書の用紙を原告に送付してその請求を
促す手続を執ると,原告の還付請求権について消滅時効が進行し成立して
しまう危険があるし,また,原告の反発を招いて紛争を惹起するおそれが
あると考え,上記手続を執ることなく,原告が平成16年4月分から平成
19年3月分の保険料の還付を受けることについて理解を示すのを待つこ
ととした(乙21,22)。
サ沼津社会保険事務所長は,原告が,平成19年8月3日,年金相談セン
ターを訪れ,上記期間の保険料の還付手続を進めることに同意した旨の報
告を受けたことから,原告に上記期間の保険料の還付をするため,上記期
間の保険料について法定免除の処理を進め,原告に対し,同月9日,国民
年金保険料免除理由該当通知書(乙6)によって,原告の平成16年4月
分以降の保険料について免除する旨の通知をし,平成19年8月13日,
国民年金保険料過誤納額還付・充当通知書(乙8)によって,平成16年4
月分から平成19年3月分までの期間の前納された保険料が過誤納となり
還付対象期間に当たるとして,上記36か月分の過誤納額48万0210
(,,円の全額が還付される旨を通知するとともになおこの通知については
前記カの通例の取扱いと異なり,それまでの原告との折衝の経緯等を踏ま
え,事後の紛争に備え,通知書の写しを保管する処理がされた,上記。)
期間の保険料の還付を求める旨の国民年金保険料還付請求書の用紙を送付
して,還付請求をするよう通知し,これを受けて,原告は,平成19年8
月17日,上記還付請求書の用紙に所要の事項を記載して,還付請求をし
た(乙6,8ないし10,22,弁論の全趣旨)。
シ社会保険庁長官は,同月31日,上記コの原告からの上記期間の保険料
の還付請求に基づき,上記36か月分の過誤納額48万0210円を原告
の指定する銀行口座への振込送金により支払った(乙10)。
ス社会保険庁長官は,平成20年9月18日,再度,原告の障害の程度を
障害等級2級8号,2年の有期認定とする裁定をし,同年11月21日,
その障害の程度について,永久認定とする旨の改定をした(乙29の1。
・2)
()上記()の認定事実を前提として,以下,沼津社会保険事務所の職員らの32
各行為に上記()の違法があるか否かについて検討する。1
アまず,平成18年4月ないし同年8月ころの沼津社会保険事務所の職員
らの行為が違法といえるか否かについて検討するに,上記()の認定事実2
によれば,①P1は,平成18年4月18日,沼津社会保険事務所の年金
相談コーナーにおいて,原告の障害基礎年金の裁定請求手続について相談
,,を受けたことからその申請書等を代筆してその作成を代行するとともに
必要書類の準備等を指示し,その結果,原告は,同年5月1日には,障害
基礎年金の裁定請求に至り,同年6月15日付けで障害基礎年金の受給権
に係る本件裁定を受けたこと(前記()ウ,また,②P1は,平成182)
年6月16日又は同月19日,原告から上記裁定の内容の説明要求及び保
険料の免除手続等についての相談を受けた際には,原告の障害は軽快する
可能性がないことが確定していなかったため,平成11年通知による取扱
いを踏まえ,平成18年6月20日,平成19年4月分以降の保険料につ
いて,法定免除の届出をするか又は保険料の納付を継続するかを判断する
必要がある旨のファックス文書を送付することにより,上記相談に対して
一応の回答をしていること(同ウないしオ,さらに,③沼津社会保険事)
務所の職員は,平成18年7月4日,原告の国民年金保険料免除理由該当
(),届乙5を沼津市役所の職員に代筆させてその作成及び届出を代行させ
これにより,(a)沼津社会保険事務所長において,同年7月末ころ,原告
の平成19年4月分以降の保険料について法定免除とする処理を行い(同
カ,(b)沼津社会保険事務所の国民年金保険料課の職員において,原告)
の国民年金保険料免除理由該当届について,平成11年通知による取扱い
に従い,還付される保険料がないものとして,還付の処理手続を行わなか
ったこと(同キ)が認められる。
このような一連の経過からみれば,P1を含む沼津社会保険事務所の職
員らは,原告から,平成18年4月18日以降,障害基礎年金の裁定請求
手続について相談された際には,その請求書等の書類を代筆してその作成
を代行したり,必要書類の準備を指示するなど対応し,また,原告の障害
基礎年金に係る本件裁定がされた平成18年6月15日以降,その障害認
定の方法等に係る説明等の対応をし,さらに,同年7月4日には,原告の
国民年金保険料免除理由該当届の作成を沼津市役所の職員に代行させるこ
とにより,原告に係る法定免除の届出に対応した処理を進め,同月末まで
,,にはその処理手続を了したものということができこれらの対応において
沼津社会保険事務所の職員らの懈怠等によって上記各手続が遅延したこと
を認めるに足りる証拠はない。
イところで,原告に係る法定免除及び還付の処理手続を担当した沼津社会
保険事務所の職員らは,平成18年4月から7月ころまで,平成11年通
知による取扱いに従った処理をしていたといえるところ,前記()クのと2
おり,社会保険庁においては,平成18年9月29日,平成18年通知を
発出し,障害基礎年金の受給権発生日以後に納付され又は前納された保険
料を還付する旨の取扱いにその取扱いを変更しており,このことからすれ
ば,そもそも,平成11年通知による取扱いに従った上記各行為の適否に
ついて検討する必要があるので,以下においてこれを検討する。
国民年金法及びその関係法令においては,障害基礎年金に係る裁定によ
って過去の時点に遡及してその受給権が発生する場合のように,保険料の
法定免除事由が遡及して発生する場合については,他の法定免除事由が発
生した場合との区別がされておらず,特に,障害基礎年金の受給権発生日
がその裁定の日以前に遡及する性質にあることからすれば,前記1のとお
り国民年金法89条柱書の明文の規定により法定免除及び還付の対象から
一律に除外されることが法文上明らかにされていると解される当該受給権
発生日より前に納付され又は前納された保険料と異なり,当該受給権発生
日からその裁定までの間に納付され又は前納された保険料については,裁
定の効果によって,遡及的に法定免除の対象となり納付することを要しな
いものとなる(なお,保険料の性質上,還付を受けずに納付された状態を
維持すること又は還付を受けた後に追納することは,いずれも可能である
と解される)ことを前提とした上で,裁定後の取扱いとして,どのよう。
な場合にどのような手続によって還付の処理が行われるのかという事項に
ついて,実務上は当然に問題となるところであるが,法令上これを定めた
明文の規定はなく,前記第2の1()のとおり,同法施行令9条1項及び5
同法施行規則80条において,前納した被保険者が被保険者資格を失った
場合に還付をするとのみ定められていることからすれば,国民年金法及び
その関係法令において,障害基礎年金の受給権が裁定により遡って発生す
る場合に,その遡及する期間中に納付され又は前納された保険料に関し,
どのような場合にどのような手続によって還付の処理が行われるのかにつ
いては,実務の運用にゆだねられているものと解さざるを得ない。
そして,平成11年通知による取扱いは,障害の程度が減退する可能性
がある場合には,受給権発生日から裁定日までに納付され又は前納された
保険料について,仮に,当然に還付手続を実施するとすれば,将来に障害
の程度が減退し,老齢基礎年金の給付を受ける必要が生じた場合に,受給
できる年金額が少なくなる不利益を被る結果となることから,そのような
不利益の発生を未然に防ぐため,被保険者を保護する後見的な見地から,
障害の程度が減退する可能性がなく被保険者に不利益が発生しないことが
確実な場合に限定して還付の処理手続を行い,それ以外の場合には還付の
処理手続を行わない取扱いを採っていたものと解され,このような取扱い
には,前記1()の国民年金法の制度趣旨に則した一定の合理性があると1
いえる。また,平成18年通知による取扱いは,受給権発生日から裁定日
までに納付され又は前納された保険料について,障害の程度が減退する可
能性の有無を問わず,当然に還付の処理手続を行うとした上で,被保険者
に対し還付を受けた場合の将来の不利益のリスクを説明し,被保険者が当
該保険料を納付済みとすることを希望する場合には,追納制度を利用する
ことにより,実質的には当該保険料を還付の対象から除外するのと同様の
処理を例外的に認めたものと解され,このような取扱いにも,前記1()1
の国民年金法の制度趣旨に則した一定の合理性があるといえる。そして,
そのような将来の不利益の回避をより重視して,障害の程度が減退しない
場合に限り還付の処理手続を行うとの限定を加えていた平成11年通知に
よる取扱いと,当面の保険料の還付を受ける利益の享受をより重視して,
そのような限定を加えず当然に還付の処理手続を行うとした上で,将来の
不利益の回避については被保険者の自己責任による追納の処理にゆだねた
平成18年通知による取扱いとは,それぞれ国民年金法及び関係法令に基
づく実務の運用の中で採り得る選択肢として許容され得る取扱いというこ
とができ,保護から自己決定への政策的な転換に基づく平成18年通知に
よる上記取扱い変更がされる前の時期において,平成11年通知による取
扱いに従った事務処理がされていたことについては,その事務処理に係る
行為をもって,国家賠償法上の違法があると評価することはできない。
そして,平成11年通知による取扱いに従った処理がされる場合に,受
給権発生日から裁定日までに納付され又は前納されて還付の処理手続が行
われていない保険料については,還付がされずに納付された状態が維持さ
れているとみるべきところ,保険料の法定免除及び還付に係る各手続は,
法定免除の効果にかんがみ,法定免除の処理が進行すれば当該保険料が自
動的に過誤納金と認定されて被保険者への還付の処理手続も開始されると
いう密接に関連した一連の手続の関係にあることを考慮すれば,平成11
,,年通知による取扱いに従い障害の程度が減退する可能性が残存する間は
還付されない保険料が納付された状態を維持しておくこととするため,当
該保険料の法定免除の処理を進行させず,当面は裁定日以降の保険料のみ
を対象として法定免除の処理を進めるという運用は,被保険者の保護のた
,,,めの後見的な観点に基づく対応であり他方このような運用によっても
被保険者は,上記の観点から当該保険料が還付されない以上,法定免除の
処理のみが早期に実施されないことにより具体的な不利益を受けるもので
はないことからすれば,平成11年通知による取扱いに従い,還付の処理
手続が行われていない保険料について,その法定免除の処理を進行させな
かったことをもって,国家賠償法上の違法があると評価することはできな
い。
したがって,沼津社会保険事務所長又は同社会保険事務所の職員らが,
平成18年4月から同年7月ころまでの間,原告の法定免除及び還付の処
理手続に当たり,平成11年通知による取扱いに従った処理をしていたこ
とについて,そのことをもって国家賠償法1条1項にいう違法があると評
価されるものではないと解するのが相当である。
ウ他方,平成19年4月以降の沼津社会保険事務所の職員らの行為につい
,,,,てみるに前記()の認定事実によれば①P2は平成19年4月4日2
原告から,平成19年4月分以降の保険料について前納を勧奨する内容の
葉書が郵送された理由及び保険料の還付を受けられない理由について不満
を述べられたことから,(a)平成18年通知により変更された還付手続の
取扱いによれば,原告の平成16年4月分から平成19年3月分までの保
険料を還付できることを伝えるとともに,(b)原告の平成15年8月分か
ら平成16年3月分までの保険料は還付の対象とならないことを伝えたこ
と,②原告は,上記(a)の期間の保険料の還付を受けると,上記(b)の期
間の保険料について還付の可否を争えなくなると考え,上記(a)の期間の
保険料の還付手続を進めることを拒絶していたこと,③P2は,原告の上
記①の要求に対し書面で回答をした上で,改めて上記(a)の期間の保険料
の還付を受けるよう勧めたが,原告から拒絶されたため,仮に原告に無断
,,で還付手続を進めると原告の還付請求権に係る消滅時効の進行が開始し
原告の反発を招いて紛争を惹起するおそれがあると考え,原告の同意を得
るまで還付手続を進行させることを見合わせていたことが認められるとこ
ろ,上記①ないし③の事実経過によれば,P2は,上記のような原告によ
る還付手続の拒絶に対し,従前の同社会保険事務所と原告との折衝等の経
過にかんがみ,原告の利益及び原告との関係に配慮して,法定免除及び還
付の処理手続を原告に無断で進行することを自制し,原告が理解を示して
同意するまで還付手続の進行を留保していたものということができる。こ
のことに加え,平成18年通知の発出前に提出された原告の平成18年7
,,月4日付け国民年金保険料免除理由該当届については同月末ころまでに
沼津社会保険事務所長によって,平成11年通知の取扱いに従い,既に平
成19年4月分以降の保険料を法定免除の対象とする処理がされていたも
のであって(前記()カ,その時点においては,沼津社会保険事務所に2)
,,おいて当該届出に対する法定免除の処理は終了していたといえるところ
前記イのとおり,法定免除手続と還付手続とは密接に関連した一連の手続
であるといえるので,仮に上記(a)の期間の保険料について更に法定免除
の処理を進めると(国民年金法施行規則75条ただし書。なお,同条ただ
し書は,平成19年厚生労働省令第95号による改正で新設され,その改
正規則は同年7月6日から施行されているので,同条ただし書により職権
で法定免除の手続を進められるのは,同日以降に限定される,改めて。)
法定免除理由該当通知書が送付されることとなるほか,還付手続も進行を
開始し,国民年金保険料過誤納額還付・充当通知書及び還付請求書の用紙
が原告に送付されることとなり(前記()サ参照,これらの書類が当時2)
の原告に送付されることは,原告の反発を招き同人との関係を更に悪化さ
せて紛争を惹起するおそれがあったということができ,他方,原告は当時
上記(a)の期間の保険料の還付を拒否していたのであるから,法定免除の
処理のみを早期に進行させないことにより具体的な不利益を受けるもので
はないといえ,むしろ法定免除及び還付の処理手続が進行すると,原告の
還付請求権の消滅時効の進行が開始するなどの不利益を被るおそれがあっ
たといえることも併せ考慮すれば,原告が上記(a)の期間の保険料の還付
を受けることに同意するまでの間,当該期間の保険料について法定免除及
び還付の処理手続を進めることを留保したP2の行為をもって,国家賠償
法上の違法があるということはできない。
()アこれに対し,原告は,平成18年5月1日に障害基礎年金の裁定請求4
をする以前から,P1に対し,保険料の法定免除及び還付の処理手続につ
いて相談をし,あたかも同裁定請求の時点において既に還付請求をしてい
たかのような主張をする。
しかしながら,原告に障害基礎年金の受給権が発生するか否かは,社会
(),保険庁長官の裁定を経る必要があること国民年金法16条からすれば
仮に原告がP1に対し裁定請求の相談の際に保険料の法定免除及び還付に
ついても相談していたとしても,いまだ社会保険庁長官の障害基礎年金の
裁定がされていない時点においては,その相談をもって原告が社会保険庁
長官に対し還付請求を行っていたと認めることはできないし,また,その
ような相談をしていたことをもって,P1において原告のために裁定後に
還付請求の手続を代行するなどの職務上の法的義務が発生すると解するこ
ともできない。
イまた,原告は,平成18年6月16日にはP1に対し保険料の法定免除
及び還付の処理手続をするよう口頭で依頼し,その後も1月に2回程度の
頻度で沼津社会保険事務所を訪れ,その進行状況を尋ねていたが,P1か
らは,還付手続を処理中である旨の説明がされたのみで,平成11年通知
による取扱い及び平成18年通知による取扱いの変更並びに国民年金保険
料免除理由該当届及び還付請求書等といった必要書類に関する説明も受け
られなかった旨主張する。
しかしながら,原告が,平成18年7月以降,沼津社会保険事務所を訪
れて頻繁にP1と面談をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はな
く,また,前記()オのとおり,P1は,平成18年6月19日及び202
日当時,平成11年通知による取扱いに従うと原告に還付される保険料は
ないと考え,その旨のファックス文書を原告に送信していたのであるし,
沼津社会保険事務所の職員らにおいても,平成18年通知の発出前に同年
7月4日付けでされた原告の国民年金保険料免除理由該当届について,平
成11年通知による取扱いに従い,平成19年4月以降の保険料のみが法
定免除の対象になり,還付される保険料はないことを前提として処理して
いたのであって,沼津社会保険事務所の職員らが原告に対し前納された全
期間の保険料が還付されることを前提とした説明をしていたとは考え難
い。また,前記()イ及びキのとおり,沼津社会保険事務所においては,2
総合相談室ではなく,国民年金保険料課が保険料の還付手続の事務を処理
していたのであるから,総合相談室室長のP1が原告に対し相当期間にわ
たり還付手続の進捗状況を説明していたとの主張の内容自体が不自然であ
,,,るといわざるを得ずこれらの事情を総合すれば原告の主張するように
原告がP1に対し平成18年7月以降に毎月2回程度の頻度で還付手続に
ついて相談をし,P1から還付手続の処理中である旨説明がされていたと
認めることはできない。
そして,前記()カのとおり,沼津社会保険事務所の国民年金保険料課2
においては,平成18年当時,平成18年通知の発出前に原告の国民年金
保険料免除理由該当届(乙5)の提出がされたことに基づいて,平成11
年通知に従って還付の対象となる保険料がないことを前提とした事務処理
がされ,その後,前記()ケのとおり,上記国民年金保険料課において,2
平成19年4月に原告と面談をした際,平成18年通知による取扱いによ
れば,原告の前納した平成16年4月分から平成19年3月分までの保険
料の還付を受けられる旨を原告に対し説明し,その還付を受けることを勧
めた上で,原告がこれを拒絶したことから,原告の利益及び原告との関係
,,に配慮して原告の同意が得られるまで還付手続を留保していたのであり
平成18年通知が発出された後,原告が保険料の還付について不満を述べ
た際には,遅滞なく平成18年通知による取扱いに基づく説明がされ,還
付手続を進めるか否かは原告の選択にゆだねられていたものと認められる
のであるから,上記の事実経過の下で,還付手続を進めることに原告が同
意する前の時点において,P1又は他の沼津社会保険事務所の職員から,
原告に対し,国民年金保険料免除理由該当届及び還付請求書といった申請
書類などの還付に至る具体的な手続に関する説明がされなかったとして
も,そのことが違法と評価されるものではないというべきである。
なお,原告は,原告の国民年金保険料免除理由該当届(乙5)の該当年
月日欄の記載に誤りがあり,この記載を訂正したのが平成19年4月4日
以降であったため,原告に係る法定免除及び還付の処理手続が同年8月9
日に国民年金保険料免除理由該当通知書(乙6)がされるまで遅延してい
た旨主張する。
しかしながら,平成18年7月4日付け国民年金保険料免除理由該当届
(乙5)は,原告が障害基礎年金の受給権を取得したことを前提としてお
り,かつ,その証書記号番号等を明らかにし,備考欄には平成15年9月
20日という障害認定日の記載もされているのであって,このような客観
的な記載によれば,原告の障害基礎年金の受給権発生日が平成15年9月
20日であることは,仮に同届書の該当年月日欄の記載が平成19年4月
1日のままであったとしても把握できるのであって,上記誤記が原因で原
告に対する法定免除及び還付の処理手続が遅延したとの原告の主張は採用
できない。
ウさらに,原告は,平成19年4月4日,P2から,①沼津社会保険事務
所の職員の誤記が原因であった旨の虚偽の説明を受け,②平成15年8月
分から平成16年3月分までの保険料の還付を受けられない理由について
十分な説明を受けられず,③還付が認められる保険料の還付を受けても還
付が認められない保険料について不服申立て(審査請求)で争うことがで
きる旨の説明もされなかったため,還付請求をする時期が遅れた旨主張す
る。
しかしながら,前記()ケのとおり,P2は,平成19年4月当時,平2
成18年通知による取扱いを踏まえ,原告に対し,平成16年4月分から
平成19年3月分までの保険料について還付を受けられること及び平成1
5年8月分から平成16年3月分までの保険料については法定免除の対象
から除外されるので還付を受けられない旨を説明し,原告が回答を求めた
事項について回答する「原因についての確認」と題する書面(甲1)を交
付して更なる説明をした上で,改めて原告に対し還付を受けられる期間の
保険料の還付を受けるよう勧めていたことが認められ,前記1のとおり,
これは,国民年金法89条柱書の解釈として制度の趣旨等及び規定の文理
に沿って妥当な内容を説明して還付金の受領を勧奨したものといえるか
ら,①P2が還付がされる理由又はこれがされない理由として,殊更に国
民年金保険料免除理由該当届の記載の誤りといった無関係の事項の説明を
するとは考え難く,同人が原告にそのような説明をしたと認めることはで
きず,また,②国民年金法89条柱書の解釈について,P2の上記内容の
説明によって,前記1()オのとおり見解を異にする原告の納得が得られ1
なかったとしても,それは見解の相違に基づくものといわざるを得ず,そ
のことについてP2に職務上の法的義務の違反があったということはでき
ないし,③平成16年4月分以降の保険料の還付を受けてしまうとそれ以
前の期間の保険料の還付の可否を争えなくなるというのは,原告の当時の
見解に基づくものであって,このような誤解がP2の説明によって惹起さ
れたものとうかがわせる証拠はなく,上記のとおり,P2は原告に対し国
民年金法89条柱書の解釈として制度の趣旨等及び規定の文理に沿って妥
当な内容を説明して還付金の受領を勧奨し,原告は自らの当時の見解に基
づきこれを拒絶していたもので,従前の折衝等の経過に照らし,見解の相
違がある中での職員の説明で原告の納得を得ることは期待し難い状況にあ
ったと推認される以上,当該期間の保険料の還付に係る争訟方法に関する
説明内容についてP2に職務上の法的義務の違反があったとはいうことは
できない。
エなお,原告は,前記()スのとおり,平成20年9月18日に障害の程2
,,度について永久認定とする旨の改定を受けているがそれ以前においては
2年の有期認定とする旨の裁定しか受けておらず,障害の程度が減退する
可能性の有無は客観的に明らかではなかったと認められるので,上記改定
の存在は,前記()及び上記アないしウの判断を左右するに足りるもので3
はない。
オ加えて,原告は,沼津社会保険事務所の年金相談センターで還付手続を
する際,年金相談センターの担当職員から,次回の障害認定の際に原告の
障害基礎年金に係る裁定を取り消す旨の暴言を述べられた旨主張するが,
同社会保険事務所の職員からそのような内容の発言がされたことを認める
に足りる証拠はなく,かえって,前記()スのとおり,原告は,同社会保2
険事務所において,平成20年9月18日に,再度,障害基礎年金の受給
資格を有する旨の裁定を受け,同年11月21日には,障害の状態を障害
等級2級8号に該当するものと永久認定する旨の改定を受けていることも
考慮すれば,沼津社会保険事務所職員によって原告が主張するような内容
の発言がされたとは認められない。
()したがって,沼津社会保険事務所の職員らの原告の保険料に関する原告5
に対する説明又は当該保険料に係る諸手続に関する行為に国家賠償法1条1
項にいう違法があるということはできず,その余の点(争点()イ(原告の2
損害)について判断するまでもなく,原告が被告に対し同項に基づき損害)
賠償を求める請求は理由がないといわざるを得ない。
3なお,原告は,本件の口頭弁論終結後,平成21年3月27日付け準備書面
及び同月30日受付「追記」と題する書面を提出し,また,平成19年4月10
日ころに沼津社会保険事務所の職員から受領した書面,平成21年3月16日
付けで沼津市役所の職員が作成した陳述書及び平成20年10月14日付けで
沼津社会保険事務所の職員が作成した書面を提出したが,これらの書面を勘案
しても,前記1及び2の認定・判断が左右されるものとは認められない。
第4結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官岩井伸晃
裁判官三輪方大
裁判官小島清二は,転補につき署名押印することができない。
裁判長裁判官岩井伸晃

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