弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人門前武彦の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴
法四〇五条の上告理由にあたらない。なお、原判決の認定した事実によると、被告
人は、長期間営業を継続する意思のもとに、五二〇〇万円という多額の資金を投下
して賭博遊技機三四台を設置した遊技場の営業を開始し、警察による摘発を受けて
廃業するまでの三日間、これを継続し、その間延べ約一四〇名の客が来場して合計
約七〇万円の売上利益を挙げたというのであり、その他原判示の諸事情に徴すると、
被告人に賭博を反覆累行する習癖があり、その発現として賭博をしたと認めるのを
妨げないというべきであり、これと同旨を説く原判決は正当として是認することが
できる。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官塚本重頼の反対意見が
あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
 裁判官塚本重頼の反対意見は、次のとおりである。
 一 多数意見は、上告趣意を排斥し本件上告を棄却すべきものとしている。しか
し、私は、以下の理由により右の多数意見に賛成することができず、原判決は刑訴
法四一一条一号、三号により破棄されるべきであると考える。
 二 原判決の認定事実によれば、被告人は、昭和四九年一二月一四日、Aから、
同人の経営していた公訴事実記載の遊技場を代金五二〇〇万円で譲り受け、同日夕
刻、親戚のBを営業責任者と定め、同人をして前経営者の営業方法をそのまま踏襲
させることにして、右営業の引継ぎを受けさせ、これを経営することになつたこと、
同店舗には、米国製スロツトマシン遊技機三四台が設置され、営業者側と遊技客と
の間で公訴事実記載の方法による遊技機の利用によるコインの得喪及びコインの換
金を通じ、相互に偶然の勝敗により財物の得喪を争うことを営業の内容としていた
こと、被告人が右営業を譲り受けた後三日目の同月一六日夜、警察官により、公訴
事実記載の遊技客三名と営業者側との間の賭博行為が現認されて摘発を受け、その
ため、被告人は同日限りで右営業を廃止したこと、被告人が営業を行つた右三日間
の売上額は合計約七〇万円であり、その間、延べ約一四〇人の遊技客が来場し、し
たがつて、これに相応する回数の賭博行為が行われたと推認されること、及び、被
告人は、多年にわたつて大阪府内で鋳造業(この営業収入、月額約七―八〇万円)
を営んでおり、本件当時、工場、住宅及びその敷地など相当多額の資産を有してお
り、賭博罪などの前科はなく、平生、賭事に親しんでいた事実もない、というので
ある。なお、本件証拠によれば、被告人は、もともと遊技場の経営などに関心をも
つていなかつたのであるが、昭和四九年一〇月ころ、以前から種々面倒をみていた
前記Bから、同人の経営するプラスチツク加工業が営業不振であり、遊技場が儲か
るらしいので、これを経営したいから資金上の援助をしてもらいたい旨を懇請され
たため、適当な遊技場の営業の売り物があるならば、被告人がこれを買い受けBを
営業責任者として雇い入れようなどと約束していたところ、たまたま、同年一二月
一〇日ころ、ゴルフ場で知合いの前記Aから、本件遊技場の営業を譲渡したい旨の
話を聞いたこと、そこで、被告人は、単独で及び前記Bとともに同店舗を見に出か
けたところ、同店が繁昌している様子であつたほか、その売上額が一日約二〇万円
程度であるということ、Aにおいては共同経営者と折合いを欠いているため営業を
処分しようというのであること、さらに、他にも譲受希望者がいるなどという話を
聞き、急拠、右営業を譲り受ける気持になり、同月一四日、前記の代金を支払つて
右営業を譲り受けたものであること、右店舗における前記のような営業方法は少な
くとも数箇月以前から継続されてきており、前記Aは警察当局から営業方法につき
警告を受けたりしていたようであるが、そのような事情はAらから被告人に対して
伝えられることがなかつたこと、また、被告人は前記のとおり警察による摘発をう
けて営業を廃止した後、まもなく、同店舗の賃借権を含む営業設備一切を処分した
ことなどの事実を認めることができる。
 三 刑法一八六条一項にいう賭博の常習性とは、賭博を反覆累行する習癖をいい、
行為者の属性として認められるものであるというのが、確定した判例であり、ここ
に習癖とは、性癖、習慣化された生活ないし行動傾向、人格的、性格的な偏向など
をいうと理解される。そして、このような常習性を認定するにあたつては、行為者
に賭博の前科があるというような特定の資料が要求されるものではなく、当該賭博
行為の態様や反覆の回数、期間、又は行為者の性行などに照らして、これを認定す
ることも妨げないところである。本件のようないわゆる賭博遊技機を設置した遊技
場の営業者について考えると、そのような営業を相当期間にわたつて継続し、多数
回にわたつて賭博行為を反覆累行した場合には、その行為自体に照らして、営業者
に賭博を反覆累行する習癖が獲得されたものと認めるのが相当であるし、さらに、
そのような期間を経過するにいたらない場合においても、営業を始めた動機が賭博
的興味、意欲などから出たものであるとか、営業者の性行、経歴、生活態度など諸
般の事情を総合して、営業者に賭博を反覆累行する習癖があるものと認定しうる場
合もありうる。しかし、習癖として賭博を行うことと営業として賭博を行うことと
は別個の観念であるから、賭博遊技機を設置した遊技場の営業者について、つねに
賭博の習癖があるとみることのできないことは当然であり、通常の遊技機を設置し
た遊技場の経営者が一時的に賭博遊技機を設置したにすぎない場合や賭博遊技機を
設置した遊技場の営業を単純な営利の意図から譲り受け、短期間これを継続したに
とどまるような場合において、そのことから直ちに当該営業者について賭博を反覆
累行する習癖があると認定することは許されないといわなければならない。
 このような見地に立つて、本件をみると、被告人の本件営業を譲り受けた動機及
び事情は、前記のとおりであつて、賭博的興味、意欲などに出たものではないこと、
営業を開始した後、警察による検挙を契機とするものではあるが、僅か三日間で営
業を廃し、まもなく営業設備一切を処分し、再び同種の営業を行わない態度を明ら
かにしていること、被告人に前科などなく、平生賭事をしていた形跡もなく、これ
まで堅実な生活を送つてきたようであることなどを考慮すると、被告人に本件営業
開始前に賭博を反覆累行する習癖があつたと認めることのできないことはもちろん、
右営業開始後においてもそのような習癖が獲得ないし形成されたものと認めること
は相当でないと考える。この点に関して、原判決は、(イ) 被告人が本件営業に
投下した資金の額及び予想された右営業の売上額などに照らし、「経済人の常とし
て」「資本の論理として」長期間賭博営業を継続する意思を有し、かつ、右賭博営
業は被告人の経済活動の面で大きな比重を占め、「資本的もしくは経済活動上の依
存性」が認められるとか、(ロ) あるいは、被告人が右営業を譲り受ける際、前
記Aから、「客に対しコインの換金を行う際、人目につかないように隠れてするよ
うに。」「やり方さえ間違わなければ警察に検挙される心配はない。」などと教え
られていた事実を認めることができるとし、被告人は警察による検挙の危険のある
ことを覚悟しながら多額の資本を投下して賭博営業を開始したものであり、これら
の事情に照らすと、被告人に賭博の習癖があつたものと認められるといい、多数意
見も、これを正当として是認するのである。しかし、原判示(イ)に掲げる諸点が
習癖の認定の要素であるとは思われないし、また、同(ロ)にいう換金の際に関す
る注意などが前記Aから前記Bに対して授けられていた事実を認めるべき証拠はあ
るが、それらの注意が営業の譲渡前に被告人自身に対しても伝えられていたと認め
ることができるかどうか疑問があるばかりでなく、仮りに(ロ)の事実が認められ
るとしても、前示の被告人に有利な諸事情一切を考慮すると、いまだ被告人に賭博
の常習癖があつたと認めるに十分でなく、要するに、原判決及び多数意見は、いわ
ゆる営業賭博を直ちに常習賭博に該当すると結論づけることに帰着し、首肯しがた
いところである。
 四 以上のとおりであつて、被告人には賭博の常習性を認めることができず、常
習賭博罪の成立を認める余地はないから、本件は簡易裁判所の専属管轄に属し地方
裁判所の管轄に属さないものとして管轄違の言渡をなすべきところ、原判決は事実
を誤認し、ひいては法令に違反したもので、その違法が判決に影響を及ぼすことは
明らかであり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。した
がつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決を破棄し、本件について管轄違を
言渡した第一審判決を維持し、検察官の控訴は理由がないものとして、同法四一三
条但書、四一四条、三九六条によりこれを棄却すべきであると考える。
  昭和五四年一〇月二六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   本   重   頼
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    栗   本   一   夫
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    鹽   野   宜   慶

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