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平成27年5月28日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成26年(ネ)第10112号特許専用実施権侵害行為差止等請求控訴
事件
(原審・東京地方裁判所平成25年(ワ)第31341号)
口頭弁論終結日平成27年4月9日
判決
控訴人有限会社ホール・ワークス
訴訟代理人弁護士牧山美香
訴訟代理人弁理士佐藤英昭
被控訴人株式会社スリーストン
訴訟代理人弁護士楠純一
訴訟代理人弁理士村松義人
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,原判決別紙1「被告製品目録」記載の各製品(以下「被
告製品」と総称し,それぞれの製品を「被告製品1」などという。)を製
造し,販売してはならない。
3被控訴人は,被告製品を廃棄せよ。
4被控訴人は,控訴人に対し,400万円及びこれに対する平成25年
12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1訴訟の概要
⑴本件は,発明の名称を「パチンコ台取付装置」とする特許権(特許
番号第4910154号。以下,この「特許」を「本件特許」といい,
この特許権を「本件特許権」という。)の専用実施権を有する控訴人が,
被控訴人による被告製品の製造,販売は上記専用実施権を侵害する旨
主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,
被告製品の製造,販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法70
9条,特許法102条1項に基づき,上記専用実施権侵害による損害
の賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年12
月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金
の支払を求めた事案である。
⑵原判決は,本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載に係
る発明(以下「本件発明」という。)と被告製品との間の相違点(以下
「本件相違点」と総称し,各相違点を「本件相違点1」などという。)
のうち,本件相違点3及び4に係る被告製品の構成は,最高裁平成1
0年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁に示されて
いる均等の第1要件を充足するものの,第3要件を充足しないから,
被告製品が本件特許の特許請求の範囲に記載された構成と均等なもの
としてその技術的範囲に属するということはできないとして,控訴人
の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,控訴を提起した。
なお,本件相違点3及び4は,以下のとおりである。
ア本件相違点3
本件発明においては,「スライドベース」の固定用垂直面に縦長
小判穴が設けられ,「スライドボルト支持用垂直面」に縦長穴が設
けられ,上記縦長小判穴及び縦長穴に「スライドボルト」が上下方
向に移動可能に保持されているのに対し,被告製品においては,上
下方向に移動不可能に軸支したスライド用ボルト114を備え,ス
ライドタップ115が仕舞われたケース117が,バネ117Cに
よる上向きの付勢力に抗した下向きの外力を与えられることによ
り,下方向に移動可能とされている点。
イ本件相違点4
本件発明においては,「スライドタップ」が「スライドベース」
の底面中央開口に吊下げ状態で取り付けられているのに対し,被告
製品においては,「スライドタップを収納したケース」がケース蓋
117B下面とスライドタップ115上面との間に配置されたバ
ネ117Cを介して,スライドベース部112Aと後板111Bと
に囲まれた開口部に吊下げ状態で取り付けられている点。
2前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定でき
る事実。弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)
前提事実は,原判決の「事実及び理由」の第2の1に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
3争点
⑴均等侵害の成否について(争点1)
ア均等論の各要件について
イ本件相違点以外の相違点の存否について
⑵差止請求等の当否について(争点2)
⑶損害論について(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1均等侵害の成否について(争点1)
【控訴人の主張】
以下のとおり,本件発明と被告製品は,被告製品が,本件発明の特許
請求の範囲に記載された構成のうち,本件相違点1ないし5に係る構成
を備えていない点において異なる部分が存するが,被告製品は,均等の
成立要件(第1要件ないし第3要件)を全て充足しているから,本件発
明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するものというべき
である。
⑴均等論の各要件について
ア本件相違点1について
(ア)第1要件について
「ベースレール」を「スライドベース」に固定する方法は,設
計事項にすぎず,本件発明の本質的部分ではない。
(イ)第2要件について
上記固定方法につき,本件発明の「リベット固定」を,被告製
品の「ネジ留め固定」に置き換えても,「ベースレール」を「ス
ライドベース」に永久的に締結するという本件発明の目的を達成
することができ,本件発明と同一の作用,効果を奏する。
(ウ)第3要件について
上記固定方法として「リベット固定」及び「ネジ留め固定」の
いずれを採用するかは,設計事項であるから,当業者は,上記置
換を容易に想到し得た。
(エ)被控訴人の第5要件に関する主張について
本件特許出願手続において本件特許の出願人が本件特許請求の
範囲から意識的に除外したのは,「ベースレールとスライドベー
スがごく容易に分離するという構成」である。
本件特許権者の側において,「ネジ留め固定」が本件発明の技
術的範囲に属しないことを承認したり,又は,外形的にそのよう
に解されるような行動をとった事実は,存在しない。
イ本件相違点2について
(ア)第1要件について
本件発明及び被告製品のいずれにおいても,「ベースレール」
は「スライドベース」に永久的に締結されて分離しないことが前
提となっていることから,「スライドボルト支持用垂直面」を「ス
ライドベース」及び「ベースレール」のいずれに設けるかは,設
計事項にすぎず,本件発明の本質的部分ではない。
(イ)第2要件について
上記前提に鑑みると,本件発明の構成要件D3のうち「スライ
ドボルト支持用垂直面」が「スライドベース」に設けられている
という部分を,被告製品の構成d3における「スライドボルト支
持用垂直面」に相当する後板111Bを「ベースレール」に設け
ることに置き換えても,本件発明の目的を達することができ,「ス
ライドボルト」を支持又は保持するという,本件発明と同一の作
用,効果を奏する。
(ウ)第3要件について
「スライドボルト支持用垂直面」を「スライドベース」及び「ベ
ースレール」のいずれに設けるかは,設計事項であるから,当業
者は,上記置換を容易に想到し得た。
ウ本件相違点3及び4について
(ア)第1要件について
a本件相違点3に関し,島枠構造の高さと台枠の高さとの差が
自動調整されるという効果は,「グリップベース」が台枠の高
さに応じて上下方向に移動可能であるという構成によって得ら
れるものであるから,本件発明の本質的部分は,「グリップベ
ース」の上下方向の可動性であり,「スライドボルト」の上下
方向の可動性ではない。
b本件相違点4に関し,「スライドベース」の開口部に吊下げ
状態で取り付けられるのが「スライドタップ」であるか,「スラ
イドタップ」を収納した「ケース」であるかは,本件発明の本
質的部分ではない。
c本件相違点3及び4に係る構成について,「スライドベース」
の固定用垂直面の縦長小判穴,「スライドボルト支持用垂直面」
に形成された縦長穴,「スライドボルト」及び「スライドタップ」
の構成(構成要件D3及びD4)は,2つの機構,すなわち,
「スライドベース」にリベット固定された「ベースレール」が
島上部枠構造の下面にネジ留め固定される機構(構成要件D1
及びD2)と,「グリップベース」と「グリップアーム」とによ
り台枠上板が挟持される機構(構成要件D5及びD6)の係わ
り合わせ方の1つにすぎず,その構成自体は,本件発明の本質
的部分ではない。
d被控訴人の第1要件に関する主張について
本件発明の「スライドボルト」は,被告製品と同様に,板バ
ネ37により,上向きの付勢力を加えられているのであるから
(甲2【0040】),「スライドボルト」が上向きの付勢力を
加えるバネなどを介さずに取り付けられているという被控訴
人の主張は,誤りである。
また,グリップベース35が,パチンコ台アセンブリの取付
前において,重力により,ベースレール32よりも下方にあり,
島枠構造に押し入れられた台枠2によってその高さまで「押し
上げられる」というのは,本件発明の一実施例にすぎない。
前述した板バネ37による上向きの付勢力を用いたり,「ス
ライドボルト」と,これを差し込む「スライドベース」の縦長
小判穴及び「スライドボルト支持用垂直面」の縦長穴との嵌合
をきつくしたりすれば,パチンコ台アセンブリの取付前におい
て,グリップベース35が重力によって下方に移動することは
ない。また,本件明細書(甲2)の段落【0043】に「グリ
ップ機構40は,(中略)挿入された台枠高さに応じて上下す
ることで自動的にグリップの高さ調整がなされる。」と記載さ
れていることに鑑みれば,本件発明の「自動調整」は,グリッ
プベース35が台枠2によって「押し下げられる」ことによっ
ても,実現されるといえる。
被控訴人の主張は,本件発明の「自動調整」を,前述したと
おり一実施例にすぎない,グリップベース35が台枠2によっ
て「押し上げられる」ことによるものに限定した点において,
誤りがある。
(イ)第2要件について
a本件相違点3に関し,本件発明においては,外力が加えられ
ると,「スライドボルト」が下がり,これによって,「スライ
ドボルト」に螺合された「スライドタップ」及び「スライドタ
ップ」に溶接固定された「グリップベース」が下がる。
他方,被告製品においては,外力が加えられると,「ケース」
が下がり,「ケース」に溶接された「グリップベース」が下が
る。
以上によれば,本件発明において,外力が加えられたときに,
「スライドボルト」が下がる構成を,「ケース」が下がる構成
に置き換えても,「グリップ機構が設けられているグリップベ
ースが下がる」という作用により,「島枠構造の高さと台枠の
高さとの差を自動調整する」という効果を奏することができる。
b本件相違点4に関し,構成要件D4の「スライドベースの底
面中央開口に吊下げ状態で取付けられたスライドタップ」を,
構成d4の「スライドベース部112Aと後板111Bとに囲
まれた開口部に吊下げ状態で取付けられた,スライドタップを
収納するケース117」に置き換えても,「島枠構造の高さと
台枠の高さとの差を自動調整する」という効果を奏することが
できる。
c被控訴人の第2要件に関する主張について
本件発明における「自動調整」とは,「グリップ機構」その
ものに何らかの力を加えて高さを調整しなくても,台枠を島枠
構造に挿入するという動作のみによって「グリップ機構」の高
さが調整されることを意味する。
そして,被告製品においても,台枠が「グリップ」に向かっ
て挿入されるという外力が加わったとき,ケース117が下が
るという構成により,本件発明と同様に,「グリップ機構」そ
のものに何らかの力を加えることなく,台枠を島枠構造に挿入
するという動作のみによって「グリップ機構」の高さが調整さ
れ,「自動調整」が実現される。
したがって,被告製品においては,自動的に高さが調整され
るとはいえない旨の被控訴人の主張は,誤りである。
(ウ)第3要件について
a本件相違点3に関し,外力が加えられたときに,「グリップ
機構が設けられているグリップベースが下がる」作用をもたら
す構成につき,「スライドボルト」が下がる構成(構成要件D
3)と,「スライドボルト」は固定され,「ケース」が下がる
構成(構成d3,d4)との相違は,設計事項であり,前者を
後者に置換することについては,当業者が容易に想到し得た。
b本件相違点4に関し,「スライドベース」の開口部に,「ス
ライドタップ」を吊下げ状態で取り付けるか(構成要件D4),
その「スライドタップ」を「ケース」に収納するか(構成d4)
は,設計事項にすぎず,前者を後者に置換することについては,
当業者が容易に想到し得た。
また,甲9号証(特開2011-24979号公報)には,
「スライドボルト」を移動不可能とし,「ケース」を採用する
技術が開示されている。本件明細書の実施例においては,被告
製品におけるバネ117Cと同様に,上向きに付勢された1対
の板バネを設けることが開示されていることに鑑みれば,本件
発明に,甲9号証に開示されている上記の公知技術を適用する
ことによって,本件相違点3に係る本件発明の構成を,被告製
品の構成に置換することは,当業者において容易に想到し得た
といえる。
c被控訴人の第3要件に関する主張について
被控訴人は,置換の容易性を否定する根拠の1つとして,被
告製品がケース117及びバネ117Cの構成を採用したこと
によって,本件発明にはない作用,効果を実現している旨主張
するが,それらは,本件発明においても生じ得るものといえる。
⒜すなわち,本件発明においても板バネ37が設けられてお
り,これによって,「スライドボルト」は,被告製品と同様
に,上向きの付勢力を加えられている。
⒝本件発明においても,「スライドボルト」並びにそれに螺
合された「スライドタップ」及び「グリップベース」が,「ス
ライドベース」の固定用垂直面の縦長小判穴及び「スライド
ボルト支持用垂直面」の縦長穴に,上下方向に移動可能に保
持され,パチンコ台の傾斜が変更された際,「グリップベー
ス」の傾斜にも追従できるので,「グリップベース」及び「グ
リップアーム」は,破損せず,台板上板の挟持力にも影響し
ない。
⒞被告製品において,「グリップベース」の初期位置が「ベ
ースレール」の下面と面一になる位置であるとしても,「ベ
ースレール」は,約3mmの厚みを有する鉄板であるから,
島枠構造と台枠との高さの差が3mm以下の場合は,台枠上
板の小口が「ベースレール」と干渉するという不具合が生じ
る。
そもそも,本件発明において,被告製品と異なり,「グリ
ップベース」が重力によって下方に移動するとは限らず,し
たがって,その初期位置が,「ベースレール」よりも下方に
限定される理由はない。
また,「グリップベース」の初期位置が,重力により,「ベ
ースレール」よりも下方にある場合においても,本件明細書
(甲2)の段落【0067】及び【0068】には,「グリ
ップベース」と台枠上板との干渉を解消する構成が開示され
ている。
⒟本件明細書(甲2)には,「スライドボルト調整工具」を
用いて「スライドボルト」に嵌合するアタッチメントを回転
させることが開示されているところ,この「スライドボルト
調整工具」の構造は,被告製品1及び2が備える「タイミン
グベルト」そのものである。
(エ)原判決の判断の誤りについて
a原判決は,①被告製品においては,スライド用ボルト114
を上下方向及び左右方向に移動不可能に軸支しながら,グリッ
プベース118につき,上下方向の移動等を可能にするために,
本件発明には存在しないケース117という新たな構成を付加
するなどしたこと,②また,甲9号証記載のパチンコ台取付装
置(以下「甲9パチンコ台取付装置」という。)において,「腕
木部材45(取付装置を台枠上板に固定する部材)の上下方向
の可動性が確保されるのは,クサビ部材46の両側面にうがた
れた長穴64と移動部材19の側面から突出した支点ピン63
との係合によるものであって,本件発明及び被告製品とは構成
を異にする」として,パチンコ台取付装置を含む技術分野にお
いて,本件相違点3及び4に係る技術が被告製品の製造の時点
で公知であったと認めることはできないことを根拠として,本
件相違点3及び4に係る本件発明の構成を被告製品の構成に置
換することは当業者が容易に想到することができないと判断し
た。
しかしながら,以下のとおり,「スライドボルト」を移動不可
能として「ケース」を採用すること及び「バネ」の採用は,い
ずれも被告製品の製造の時点において公知の技術であり,これ
らの公知の技術を適用すれば,本件相違点3及び4に係る本件
発明の構成を被告製品の構成に置換することは,当業者が容易
に想到し得たものといえる。
⒜甲9パチンコ台取付装置において,腕木部材45は,長穴
64と支点ピン63との係合により,上下方向の可動性が確
保されている。
しかしながら,甲9号証記載の発明(以下「甲9発明」と
いう。)の本質的部分は,本件発明及び被告製品における「グ
リップベース」に相当する腕木部材45を上下方向に可動と
し,このことによって,台枠の高さ等に差異があっても,自
動的に調整される点にある。長穴64及び支点ピン63の係
合という構成自体に甲9発明の本質的部分が存するとはい
えない。
そして,甲9号証には,甲9パチンコ台取付装置につき,
①螺子18は,基材17の後壁28の支持穴29を貫通して,
先端を前壁21の支持穴30に回転自在に嵌合しており(甲
9【0046】),上下方向への移動が不可能である,②螺子
18には,移動部材19が螺子穴35で螺合しており,移動
部材19は,規制板37で回転を規制されて前後に移動する
(甲9【00047】),③クサビ部材46は,移動部材19
の横穴62に設けた支点ピン63により長穴64で支持さ
れ,揺動自在に吊り下げられている(甲9【0053】)と
いう技術が開示されているところ,螺子18,移動部材19,
クサビ部材46は,それぞれ被告製品のスライド用ボルト1
14,スライドタップ115,ケース117に対応するもの
である。
したがって,甲9パチンコ台取付装置において,被告製品
のスライド用ボルト114に対応する螺子18は,スライド
用ボルト114と同様に,上下方向に移動することができず,
また,被告製品のケース117に対応するクサビ部材46は,
ケース117と同様に,上下移動が規制された移動部材19
に揺動自在に吊り下げられている。なお,クサビ部材46は,
被告製品のケース117のように,スライドタップ115に
対応する移動部材19を包み込むものではないが,この点は
単なる部材の形状の相違にすぎず,適宜の設計変更によって
置換え容易な事項である。これらの点によれば,クサビ部材
46は,被告製品のケース117Cに相当するものといえる。
以上によれば,甲9号証には,「スライドボルト」を移動
不可能とし,「ケース」を採用することが開示されていると
いえる。
⒝被告製品は,平成25年3月に開発されたものであるとこ
ろ,控訴人によって平成24年春頃に製造された本件発明の
実施品(甲14。以下「甲14実施品」という。)は,「スラ
イドボルト」の固定用垂直面側に位置し,「スライドボルト」
を上方に押し上げるように作用する「く」の字型のバネを備
えたものであり,被告製品よりも先に市場に出ていた。
すなわち,甲14実施品においては,「グリップベース」,
「スライドタップ」及び「スライドボルト」が溶接又は螺合
により固定されており,「スライドボルト」は,その先端が
「スライドベース」の固定用垂直面の縦長小判穴に支持され,
常に「く」の字型のバネの弾性力によって上方向に働く付勢
力を受けるとともに,その付勢力に抗した下向きの外力を与
えることにより下方向に移動可能とされている。
これに対し,被告製品においては,「グリップベース」は
「ケース」と溶接固定され(原判決添付別紙3のホ-28),
「スライドボルト」に螺合された「スライドタップ」は,「ケ
ース」に「仕舞われた状態」となっており(原判決添付別紙
3のホ-17,19),「ケース」は,常にバネの弾性力によ
って上方向に働く付勢力を受けるとともに,その付勢力に抗
した下向きの外力を与えることにより,下方向に移動可能と
されている(原判決添付別紙3のホ-26)。
⒞以上のとおり,甲14実施品においては,「スライドベー
ス」の固定用垂直面の縦長小判穴に支持された「スライドボ
ルト」の先端部分が下方向に移動できるように,「く」の字
型のバネが用いられ,被告製品においては,「ケースに仕舞
われたスライドタップ」が下方向に移動できるように,バネ
が用いられている。
甲14実施品と被告製品との上記相違は,「グリップベー
ス」を上下方向に移動可能に構成するに当たり,「スライド
ボルト」を「グリップベース」と共に動くようにするか,固
定するかという相違に由来するものといえる。
そして,前記⒜によれば,甲9号証には,被告製品の「ケ
ース」に相当する「クサビ部材」が開示されていることにも
鑑みると,当業者において,甲14実施品に用いられた技術
及び甲9号証記載の技術を適用して,本件相違点3及び4に
係る構成要件D3及びD4の構成を被告製品のように置換
することを,容易に想到し得たといえる。
b原判決は,被告製品1及び2においては,「タイミングベル
ト」が採用され,パチンコ台アセンブリの前面からスライドタ
ップ115を前後に移動することでパチンコ台の傾斜角を調整
することができるという付加的な効果が得られている,この構
成は,スライド用ボルト114を移動不可能に軸支しなければ,
採用することが困難である旨を判示し,この点も,本件相違点
3及び4に係る本件発明の構成を被告製品の構成に置換するこ
とは当業者が容易に想到することができないという判断の根拠
としている。
しかしながら,以下によれば,本件明細書(甲2)に開示さ
れている「スライドボルト調整工具」の構造は,被告製品1及
び2が備える「タイミングベルト」そのものであるから,原判
決がいう「付加的な効果」は,「スライドボルト」が移動可能
に保持されている本件発明においても得られるものといえ,し
たがって,原判決の前記判断は,誤りである。
すなわち,本件明細書(甲2)の段落【0088】及び【0
089】並びに甲2号証の図11によれば,本件発明に係るパ
チンコ台取付装置の傾斜調整は,パチンコ本体を開き,前面か
ら手を伸ばして「スライドボルト」を回転させることにより,
「スライドボルト」に螺合されている「スライドタップ」を前
後に移動させることによって行うものであるが,手の代わりに,
「スライドボルト調整工具」によって「スライドボルト」を回
転させることもできる。この「スライドボルト調整工具」は,
前面からの回転をギヤーで上方に伝達し,後ろ向きの「スライ
ドボルト」に嵌合するアタッチメントを回転させる構造であり,
同構造は,被告製品1及び2が備える「タイミングベルト」そ
のものである。
エ本件相違点5について
(ア)第1要件について
本件発明の本質的部分は,「台枠下板の島枠構造へのはめ込み
位置の調節」という効果を奏するという点にあり,下部取付装置
のはめ込み位置調整機構を,「ウェルドボルト」及び「ラチェッ
ト機構」のいずれにするかという点にあるのではない。
(イ)第2要件について
本件発明の下部取付装置のはめ込み位置調整機構である「ウェ
ルドボルト」を「ラチェット機構」に置き換えても,「台枠下板
の島枠構造へのはめ込み位置の調節」という本件発明の目的を達
成することができ,本件発明と同一の効果を奏する。
(ウ)第3要件について
「ラチェット機構」は,本件発明の下部取付装置の「グリップ
機構」においてもクイック調整機能として用いられており,この
点に鑑みると,本件発明の「ウェルドボルト」を,クイック調整
機能を有する「ラチェット機構」に置き換えることについては,
当業者が容易に想到し得たものといえる。
⑵本件相違点以外の相違点の存否について
本件発明の構成と被告製品の構成との間の相違点は,本件相違点
のみであり,被控訴人が後記【被控訴人の主張】⑵において本件相違
点以外の相違点として主張する点は,いずれも一致点に当たるという
べきである。
ア被告製品は,「2本のベースレール部111A」(構成d2,原判
決添付別紙3のホ-1)を有し,これは,本件発明の「2枚のベー
スレール」(構成要件D2)に相当するものである。
イ被告製品の,「スライドベース部112Aと後板111Bとに囲
まれた開口部」(構成d2)は,本件発明の「スライドベースの固
定用垂直面底部の底面中央開口」(構成要件D2)に相当する。
すなわち,被告製品の上記「開口部」は,「平面視した場合の形
状が,後方が開放された略コの字型」となるスライドベース部材1
12(原判決添付別紙3のホ-4)における「略コの字型」の「開
放」部に該当し,これは,「スライドベース部材112の前板11
2Bの底部のスライドベース部112A」(構成d2)により,そ
の中央部分に作成される空間であるから,スライドベース部材11
2単体によって,その「底面中央」に構成されるものといえる。そ
して,構成要件D2の「開口」は,「くぼんだ所」を意味する「穴」
を含むものであるから,「略コの字型」の「くぼんだ所」,すなわち,
「略コの字型」の「穴」である被告製品の上記「開口部」は,本件
発明の構成要件D2の「開口」に相当する。
【被控訴人の主張】
以下のとおり,被告製品は,均等の成立要件を充足していないから,
本件発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件
発明の技術的範囲に属するものとはいえない。
⑴均等論の各要件について
控訴人の主張は争う。
すなわち,本件相違点,特に,本件相違点1,3及び4は,いずれ
も,①本件発明の本質的部分に関するものであり,②本件相違点に係
る本件発明の構成要件を被告製品の構成に置換した場合に,本件発明
と同一の作用,効果を奏するとはいえず,かつ,③当業者においてそ
のような置換に想到することが容易であったともいえないから,被告
製品は,均等の第1要件ないし第3要件をいずれも充足せず,また,
第5要件も充足しない。
ア本件相違点1について
(ア)控訴人の第2要件の主張について
被告製品の「ネジ留め固定」は,ネジを取り外すことによって,
「ベースレール」と「スライドベース」とを容易に分離でき,し
たがって,両部材を永久的に締結するという作用,効果を奏しな
い。
(イ)第5要件について
本件発明の構成要件においては,「ベースレール」と「スライ
ドベース」の固定方法が「リベット固定」と特定されている(構
成要件D2)一方で,部材の固定方法については,「ヒンジを介
して開いて固定」(構成要件A),「ネジ留め固定」(構成要件
D1,D2,E1),「溶接固定」(構成要件D5),「グリッ
プベースの下部に固定」(構成要件D6)及び「押圧固定」(構
成要件E3)という様々な異なる表現が用いられている。
この点に鑑みると,本件特許権者は,「ベースレール」と「ス
ライドベース」の固定方法をあえて「リベット固定」に限定し,
他の固定方法を排除したものと解されるから,両部材を「ネジ留
め固定」(構成d2)する被告製品は,本件発明の特許出願手続
において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たると
いえる。
イ本件相違点3及び4について
(ア)控訴人の第1要件の主張について
本件相違点3に関し,以下によれば,本件発明の本質的部分は,
「グリップベース」の上下方向の可動性にではなく,「スライド
ボルト」の両端を「スライドベース」の固定用垂直面の縦長小判
穴と「スライドボルト支持用垂直面」の縦長穴にそれぞれ支持さ
せることで,「スライドボルト」を上下方向に移動可能に保持さ
せるという構成要件D3の構成に,存する。
したがって,本件相違点3は,本件発明の本質的部分に関する
ものである。
aすなわち,本件明細書(甲2)の段落【0066】及び【0
068】の記載によれば,本件パチンコ台取付装置においては,
パチンコ台アセンブリ10が取り付けられる前は,グリップベ
ース35が,重力により,ベースレール32よりも下方に位置
している。
そして,パチンコ台アセンブリ10の取付時において,グリ
ップベース35が,島枠構造に押し入れられた台枠2によって
その高さまで押し上げられることによって,外力を要すること
なく,高さが自動的に調整される。
この調整には,スライドベース31の固定用垂直面の縦長小
判穴31e及びスライドボルト支持用垂直面の縦長穴31fに,
上向きの付勢力を加えるバネなどを介さずに取り付けられ,重
力により,穴の下端に当たり吊り下げられた,上下に移動可能
なスライドボルト33が必須の構成である。
bまた,「スライドボルト」の上下方向の可動性は,「グリップ
ベース」の上下方向の可動性という効果を得るために不可欠な,
正に解決原理に相当する部分である。
cさらに,パチンコ台取付装置の上部取付装置において,「グ
リップベース」が台枠の高さに応じて上下方向に可動であると
いう構成は,乙6号証(特開平10-80563号公報),乙7
号証(特開2007-259961号公報),乙14号証(特開
平3-191977号公報)及び乙15号証(「ぱちんこ台取付
機『どんぴしゃ』Eタイプ新登場」と題する文書)に開示され
ている先行技術によって,本件特許出願時において既に公知と
なっていた。
したがって,「グリップベース」が台枠の高さに応じて上下
方向に可動であるという構成は,本件発明の本質的部分とはい
えない。
(イ)控訴人の第2要件の主張について
本件相違点3に関し,本件発明においては,前記(ア)aのとお
り,パチンコ台アセンブリ10を取り付ける際,グリップベース
35が台枠2に押し上げられることによって,外力を要せず,自
動的に高さが調整される。
これに対し,被告製品においては,ケース117に取り付けら
れたグリップベース118が,バネ117Cの上向きの付勢力に
抗した下向きの外力を与えられることによって,下方向に移動可
能とされるのであるから,自動的に高さが調整されるとはいえず,
したがって,本件発明と同一の作用,効果を奏するとはいえない。
(ウ)控訴人の第3要件の主張について
以下によれば,本件相違点3は単なる設計事項ではなく,当業
者において,本件相違点3に係る被告製品の構成を容易に想到し
得たとはいえない。
a本件相違点3に関し,被告製品におけるバネ117Cは,本
件明細書(甲2)及び甲9号証のいずれにも,開示も示唆もさ
れていない。
bさらに,被告製品は,ケース117及びバネ117Cの構成
を採用したことにより,本件発明にはない,以下の作用,効果
を実現している。
⒜グリップベース118及びグリップアーム119は,パチ
ンコ台アセンブリの傾斜によって生じる台枠上板301の
傾斜に,ケース117の揺動により追従することができるの
で,破損せず,台枠上板301の挟持力にも影響はない。
⒝被告製品においては,バネ117Cの弾性力により,グリ
ップベース118と固定されているケース本体117Aが
常に上向きに付勢されているので,グリップベース118の
初期位置は,その下面がベースレール部材111の下面と面
一となる上方位置である(原判決添付別紙3のホ-29)。
このような構成により,被告製品においては,台枠を島枠
構造に入れ込む際,グリップベース118(並びにその下部
に設けられたグリップアーム119及びグリップ機構12
0)が島上部構造401の下方に移動してくる台枠上板30
1に干渉することはない。
(エ)原判決の判断に誤りはないこと
以下のとおり,本件相違点3及び4に係る被告製品の構成が,
均等の第3要件を充足しないという原判決の判断に,誤りはない。
aまず,原判決は,本件相違点3及び4に関する判断において,
被告製品は,①本件発明には存在しないケース117という新
たな構成を付加していること,②スライドタップ115につき,
その左右に盛り上げ部を設けることによって,ケース本体11
7Aの内面で摺動できるようにしていること,③スライドタッ
プ115の上部の盛り上げ部116に円形の固定穴116A
を設け,この固定穴116Aとケース蓋117Bとの間に,バ
ネ117Cを圧縮された状態で収納していることにおいて,本
件発明と相違している旨認定した。
⒜上記の相違につき,甲9号証に記載されている技術をもっ
て,被告製品の「ケース」が公知であったということはで
きない。また,控訴人は,「スライドタップ」に「盛り上げ
部」を形成する点については,何らの公知技術も主張して
いない。
そして,バネの点に関し,原判決の認定(前記③)は,単
なるバネの存否にとどまらず,バネの態様及び設置箇所,さ
らに,バネを設置するために「スライドタップ」など他の部
品をどのように構成するかという点にまで及んでいる。
したがって,当業者が本件相違点3及び4に係る置換を容
易に想到し得たというためには,上記の点についての主張,
立証を要するところ,控訴人は,そのような主張,立証をし
ていない。
⒝甲14実施品は,本件発明の実施品ではない。
すなわち,本件発明の「スライドボルト」は,全体が上
下方向に移動するものであるのに対し,甲14実施品の「ス
ライドボルト」は,右側端部は縦長の穴の内部において上
下方向に移動できるよう支持されているものの,左側端部
は同部を軸とした回転のみが可能なようにヒンジ接続され
ており,全体が上下方向に移動することはない。
そして,甲14実施品の「く」の字型のバネは,ヒンジ
で基端を片持ちされた「スライドボルト」を同基端中心に
回転させるために,「スライドボルト」の先端を押し上げる
ものであり,上下方向に移動可能な「スライドボルト」全
体を押し上げるものではない。
これに対し,被告製品のバネ117Cは,コイルバネで
あり,甲14実施品の「く」の字型のバネとは異なる。
そして,被告製品は,「ベースレール部材111に下向
きの外力が加えられたときは下方向の移動が可能であり,
また,斜め方向の外力が加えられたときは前後方向への揺
動が可能である(原判決添付別紙3のホ-26,ホ-29)」
という作用を生じ,同作用に基づいて,「ベースレール部材」
が台枠の傾斜に追随できるという効果が得られる。この効
果は,バネ117Cが,コイルバネであることから,全体
としてたわんで前後方向に曲折できることによって,実現
するものである。
甲14実施品の「く」の字型のバネによっては,上記効
果を奏することができない。
bスライドボルト調整工具60は,被告製品1及び2が備え
るタイミングベルト122とは,全く異なるものである。
すなわち,スライドボルト調整工具60は,曲折可能な軟
性の素材からなるベルト状の部材を有していない。また,ス
ライドボルト調整工具60は,右側の上下に伸びる部材から
左方向へ水平に伸びる4本の棒状の部材に支持された4つ
の「ギヤー」,すなわち,歯車を備えており,これらが互い
にかみ合うことによって,最下部の歯車の回転が最上部の歯
車まで伝達されるものであると考えられる。
以上によれば,本件明細書には,「タイミングベルト」に
ついての開示も示唆もされていないというべきである。
⑵本件相違点以外の相違点の存否について
本件発明と被告製品との間には,本件相違点の他にも,以下の
2つの相違点が存在するが,控訴人は,これらの相違点が存在す
ることを前提とした均等の各要件を充足することの主張をしてい
ないから,被告製品が本件発明と均等なものであるとの控訴人の
主張は,失当である。
ア構成要件D2につき,本件発明の「2枚のベースレール」は,
独立した2枚の部材で構成されるものであるのに対し,被告製
品の「2本のベースレール部111A」(構成d2)は,ベー
スレール部111Aから垂直に立ち上がった板状の後板111
Bで接続されていることから(原判決添付別紙3のホ-1),
上記「2枚のベースレール」とは異なるものである。
したがって,本件発明の構成には「2枚のベースレール」が
存在するのに対し,被告製品の構成には存在しないという相違
点がある。
イ構成要件D2につき,本件発明の「底面中央開口」は,単体
のスライドベース31に構成されているものである。
他方,被告製品の「開口部」(構成d2)は,スライドベー
ス部材112単体に構成されているものではなく,スライドベ
ース部材112と,ベースレール部材111の一部である後板
111Bとの組合せにより形成されるものであるから,本件発
明の「底面中央開口」とは異なる。
また,「開口」は,通常,「その全周囲をぐるっと取り囲ま
れた穴」を意味しており,本件特許権者は,本件特許の出願過
程において,「スライドベース」を,上記の意味の「開口」を
備えたものに限定したといえるところ,被告製品のスライドベ
ース部材112が備える2本のスライドベース部の間には,切
欠きないしスリットはあっても,上記の意味の「開口」は存在
しない。
以上によれば,本件発明の構成には「底面中央開口」が存在
するのに対し,被告製品の構成には存在しないという相違点が
ある。
2差止請求等の当否について(争点2)
原判決11頁5行目から12行目に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
3損害論について(争点3)
原判決11頁14行目から24行目に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,被告製品が,少なくとも均等の第1要
件及び第3要件を充足することを認めることはできないから,本件発
明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するということは
できないものと判断する。
1均等の第1要件(非本質的部分)について
⑴本件発明について
本件発明は,「パチンコ台アセンブリを島枠構造に取付ける際,ビ
ス,釘を使わず,台枠寸法,厚みの違いに対応し,傾斜角を調節可
能なパチンコ台取付装置に関する」(甲2【0001】)ものである
ところ,本件明細書及び本件特許出願に係る願書に添付された図面
(甲2。以下,本件明細書と図面を併せて「本件明細書等」という
場合がある。また,下記記載中に引用する図面について別紙1甲2
図面を参照。)には,概要,以下のとおり記載されている。
ア従来の技術の問題点
(ア)遊技場には,島と呼ばれる複数のパチンコ台を取り付ける
島枠構造が設けられている。
メーカーから出荷されるパチンコ台は,パチンコ本体とヒン
ジ付きの台枠がアセンブリされているもの(以下「パチンコ台
アセンブリ」という。)である。
従来は,あらかじめパチンコ台取付装置を島枠構造に固定し
ておき,パチンコ台アセンブリから台枠を分離してパチンコ台
取付装置に固定し,その後にパチンコ本体を取り付けるという
方法(特開2004-81762号公報)によって,パチンコ
台を島枠構造に設置していた(甲2【0002】,【0004】,
【0005】,【0012】)。
(イ)従来のパチンコ台の台枠は木製であり,その厚み寸法は1
9mmであったが,より薄い,すなわち,5mmから18mm
の厚み寸法を有する軽金属(アルミ系)製や合成樹脂製の台枠
が開発されてきた。
従来のパチンコ台取付装置は,上記のとおり新たに開発され
た台枠の材質や厚み寸法の違いに対応できなかったので,台枠
の材質,寸法,形状が異なっても使用可能なパチンコ台取付装
置が求められるようになった(甲2【0006】,【0007】)。
台枠の高さ寸法については,メーカーによって,806mm
から810mmの幅があり,台枠を固定する島枠構造について
も,遊技場により,上下の横桟の高さ寸法が数mm単位で異な
っていた。
このことから,パチンコ台の上部の取付装置には,島枠構造
の高さと台枠の高さとの間に差があっても,自動的に調整され
て取付け可能な構造が求められていた(甲2【0008】,【0
009】)。
前記(ア)のとおり,パチンコ台アセンブリから台枠を分離し
てパチンコ台取付装置に固定し,その後にパチンコ本体を取り
付けるという方法については,上記分離のために作業時間を要
する上,上記取付けまでの間にパチンコ本体を通路に保管する
スペースを要するので,島の両側への取付作業を並行して進め
ることが難しいという問題があった。
そこで,パチンコ台を,パチンコ本体と台枠がアセンブリさ
れた状態のまま,容易に取り付けることができるパチンコ台取
付装置が求められていた(甲2【0010】)。
さらに,パチンコ台を島枠構造に取り付けた後に,容易に傾
斜角度を調整できる構造も求められていた(甲2【0011】)。
イ本件発明が解決しようとする課題
前記アの問題に鑑み,本件発明は,①台枠が金属製やプラスチ
ック製であっても,また,台枠の厚みが変化しても,ロック機構
を容易に調整して台枠を完全にグリップする機構及び②島枠構
造の高さと台枠の高さとの間に差があっても,自動的にその差を
調整できる構造を備え,かつ,③パチンコ台を,パチンコ本体と
台枠がアセンブリされた状態のまま,島枠構造に取り付けること
ができるパチンコ台取付装置を提供する(甲2【0013】から
【0015】)。
ウ本件発明に係るパチンコ台取付装置(以下「本件パチンコ台取
付装置」という。)の構造
以下,本件パチンコ台取付装置の構造を,本件発明の実施形態
に即して説明する。
(ア)本件パチンコ台取付装置100の構成
本件パチンコ台取付装置100は,各2台の上部取付装置3
0及び下部取付装置50から構成される。甲2号証の図1は,
側面図であり,一対の上部取付装置30及び下部取付装置50
のみが示されているが,実際には,パチンコ台アセンブリ10
の左右両端に,それぞれ一対の上部取付装置30及び下部取付
装置50が配置されている(甲2【0026】)。
なお,パチンコ台アセンブリ10は,パチンコ本体1に,台
枠2が,上下のヒンジ2dによって組み込まれている。台枠2
は,台枠上板2a,台枠下板2b及び両端の台枠側板2cから
なる額縁状の枠である(甲2【0025】)。
上部取付装置30は,①スライドベース31,②スライドベ
ース31の底部裏側31gの両側にリベット固定された2枚の
ベースレール32(図1及び図2においては,1枚のみ示され
ている。),③スライドボルト33,④スライドボルト33に螺
合され,前後に移動可能なスライドタップ34,⑤スライドタ
ップ34に溶接固定されたグリップベース35,⑥グリップベ
ース35の下部に固定されたグリップアーム36及び⑦グリッ
プアーム36を回動させるグリップ機構40から構成されてい
る(甲2【0033】,図1,図2)。
下部取付装置50は,①固定ベース51,②ウェルドボルト
52,③プッシュアーム53及び④プッシュアーム53を回動
させるグリップ機構40から構成されている(甲2【0057】,
図4⒜)。
(イ)本件パチンコ台取付装置100によってパチンコ台を取り
付ける方法
本件パチンコ台取付装置100によって,パチンコ台アセン
ブリ10は,島上部枠構造20a及び島下部枠構造20bに固
定され,島枠構造20にはめ込まれる(甲2【0025】)。
パチンコ台アセンブリ10を島枠構造20に取り付ける方法
は,以下のとおりである。
パチンコ台アセンブリ10を島枠構造20に取り付ける前に,
あらかじめ本件パチンコ台取付装置100を島枠構造20に固
定しておく。
すなわち,上部取付装置30は,スライドベース31の固定
用垂直面31bを島上部枠構造20aの後面に,ベースレール
32を島上部枠構造20aの下面に,それぞれネジ留め固定す
る。
下部取付装置50は,固定ベース51を島下部枠構造20b
の上面にネジ留め固定する(甲2【0027】,【0028】,図
1,図2,図7)。
パチンコ台アセンブリ10を島枠構造20に取り付ける際,
①上部取付装置30においては,レバー43をロック位置まで
押し上げ,これによって,グリップベース35とグリップアー
ム36で,台枠上板2aを挟み込んで固定し,②下部取付装置
50においては,レバー43をロック位置まで押し下げ,これ
によって,プッシュアーム53先端のプッシュ部54が,台枠
下板2bを島下部枠構造20bに押圧して固定する(甲2【0
029】,【0030】,【0039】,図1,図2,図6)。
(ウ)グリップ機構40
前記(ア)のとおり,上部取付装置30のグリップアーム36
ないし下部取付装置50のプッシュアーム53を回動させる
グリップ機構40においては,ロック板ピン42aがコイルバ
ネ44により後方に付勢されており,ラチェットボルト45の
調整によりロック板ピン42aを前後させることによって,レ
バー43の回転支点を間接的に移動させ,グリップアーム36
及びプッシュアーム53の挟み込む角度(挟む厚さ)を容易に
調整でき,仕様変更等により台枠の厚さが変わっても,対応し
得る(甲2【0031】,【0050】から【0053】,図1,
図2)。
(エ)上部取付装置30の自動高さ調整機能
スライドボルト33は,その先端が,スライドベース31の
固定用垂直面31bの縦長小判穴31eに,ボルト頭部33a
側が,スライドボルト支持用垂直面31cの縦長穴31fに,
それぞれ差し込まれる。
ボルトハンガー39は,ボルト頭部33aとボルト本体との
間に形成されたワッシャー状のボルトリング33bと,スライ
ドボルト支持用垂直面31cとの間に差し込まれ,スライドボ
ルト支持用垂直面31cにネジ留めされる。
スライドボルト33は,ボルトハンガー39の縦長穴39a
により前後移動が規制され,他方,スライドベース31の固定
用垂直面31bの縦長小判穴31eの長径とスライドボルト3
3の縦方向の径の長さとの差の範囲内において,上下方向に移
動の自由が与えられた状態で,回転可能に取り付けられる(甲
2【0034】,【0036】,図2から図4)。
スライドボルト33に螺合されたスライドタップ34は,ス
ライドベース31の底面中央開口31dに吊り下げられた状態
であり,スライドボルト33の回転に伴って底面中央開口31
dを前後に移動できる(甲2【0037】,【0038】,図2,
図3⒝)。
スライドタップ34に溶接固定されたグリップベース35及
びその下部に溶接固定されたベース41に組み込まれたグリ
ップ機構40も,スライドベース31の底面中央開口31dに
吊り下げられた状態で取り付けられており,上下方向に可動の
自由度が与えられている(甲2【0039】,【0043】,【0
045】,図2,図3⒝⒞)。
パチンコ台アセンブリ10が本件パチンコ台取付装置100
に固定される前,スライドベース31の固定用垂直面31bの
縦長小判穴31e及びスライドボルト支持用垂直面31cの縦
長穴31fに差し込まれているスライドボルト33は,重力に
より,縦長小判穴31e及び縦長穴31fの各下端に当たって
いる状態にある。
スライドボルト33に螺合されたスライドタップ34の下方
に溶接固定されたグリップベース35も,島上部枠構造20a
の下面に固定されたベースレール32より下に位置している
(甲2【0066】,【0070】,図3⒝⒞,図7,図8⒜))。
台枠2のはめ込みを開始すると,台枠2の高さが,グリップ
ベース35が吊り下げられている位置よりも高ければ,台枠上
板2aが,板バネ37にガイドされてグリップベース35を先
端から押し上げ始める。このとき,グリップベース35が押し
上げられるのに伴い,スライドタップ34及びスライドボルト
33も押し上げられる(甲2【0068】,【0071】,図8⒝)。
なお,板バネ37は,グリップベース35の先端に取り付け
られ,下方にあるグリップベース35から斜め上向きに曲げら
れており,先端が島上部枠構造20aの下面に当たっている。
板バネ37は,台枠2の挿入時において,グリップベース35
を,台枠上板2aとの衝突を避けながら,島上部枠構造20a
と台枠2との間隙に誘導する役割を果たす(甲2【0041】,
【0067】,図2,図8⒜⒝⒞)。
台枠2を最後まではめ込むと,台枠上板2aが台枠2の高さ
までグリップベース35を押し上げる。これによって,グリッ
プベース35の高さは,台枠2の高さに応じて自動的に調整さ
れる。この調整に伴い,グリップベース35に固定されたグリ
ップアーム36及びグリップ機構40の高さも,同様に,台枠
2の高さに応じて自動的に調整される(甲2【0068】,【0
072】,図8⒞)。
(オ)パチンコ台アセンブリ10を島枠構造20に取り付けた
後に,傾斜角度を調整する方法
前記(エ)のとおりボルトハンガー39により前後移動が規制
されているスライドボルト33を回転させて,スライドボルト
33に螺合されたスライドタップ34を前後に移動させ,スラ
イドタップ34に取り付けられたグリップベース35及びグリ
ップ機構40全体を前後に移動させることによって,台枠2の
上部を傾けて所望の傾斜位置に調整する。
この調整は,ヒンジ2dを介してパチンコ本体1を開き(甲
2の図1),前面から手でスライドボルト33を回転させて行
う。
また,スライドボルト調整工具60を用いれば,上記調整を
容易に行うことができる。スライドボルト調整工具は,前面か
らの電動ドライバーの回転をギヤーで上方に伝達し,後ろ向き
のスライドボルト33に嵌合するアタッチメントを回転させる
構造を備えている(甲2【0085】,【0087】から【00
89】,図11)。
エ本件発明の効果
本件発明の効果は,本件パチンコ台取付装置が,①パチンコ台
を,メーカーからの出荷時の状態,すなわち,パチンコ本体と台
枠がアセンブリされた状態のまま,島枠構造に取り付けることが
できる,②島枠構造の高さと台枠の高さとの差を自動調整できる
ので,パチンコ台を容易に島枠構造にはめ込むことができる,③
取付後のパチンコ台の傾斜角度の調整を短時間で容易に行い得
る,④「グリップ機構」が台枠の厚さの変化に対応できるので,
台枠の材質や厚みの変更に対応し得るというものであり,前記ア
の従来の技術の問題点が解決される(甲2【0020】から【0
022】)。
⑵本件特許出願時の公知技術について
ア被控訴人は,パチンコ台取付装置の上部取付装置において,「グ
リップベース」が台枠の高さに応じて上下方向に可動であるとい
う構成は,乙6号証,乙7号証,乙14号証及び乙15号証に開
示されている先行技術によって,本件特許出願時において既に公
知となっていた旨主張する(前記第3の1【被控訴人の主張】⑴
イ(ア)c)。
イしかしながら,以下のとおり,乙6号証,乙7号証,乙14号
証及び乙15号証は,いずれも「グリップベース」を上下方向に
可動とすることにより,台枠の高さ等に応じて自動的に高さを調
整するという構成を開示しているとはいえない。
(ア)すなわち,乙6号証には,側面視L字型の支持部材32に
穿たれた縦長の穴により上下方向の位置が調整されるという
構成を有するパチンコ台取付機が開示されているところ,支持
部材32は,台枠上板に相当する部材にネジ留め固定されるも
ので,「グリップベース」に相当する部材とはいえない上,上
記のネジ留め固定により自動的に高さ調整がされるものでは
なく,ネジ留め固定後に支持部材32の上記縦長の穴の前後に
螺合されたナットを締める作業を伴うものと認められる(乙6
【0021】,【0026】,図1から図3参照)。
(イ)乙7号証には,構成要件D1及びD2に相当する機構,す
なわち,島上部枠構造の後面に「スライドベース」がネジ留め
固定されるとともに,「スライドベース」にリベット固定され
た「ベースレール」が島上部枠構造の下面にネジ留め固定され
る機構,並びに,構成要件D5及びD6に相当する機構,すな
わち,「グリップベース」と「グリップアーム」とにより台枠
上板が挟持される機構を有するパチンコ台取付装置が開示さ
れており,上記両機構は,それぞれ固定部,挟持部と称されて
いる。
しかしながら,乙7号証には,固定部を上下方向に可動とす
ることによって,台枠高さに差があっても「グリップベース」
に相当するつめ4の高さが自動的に調整されるという構成は,
記載も示唆もされていない。
(ウ)乙14号証に開示されているパチンコ台取付装置は,島本
体にあらかじめ取り付けられた一対の固定装置基部に,アーム
の挿通されたメインシャフトを取り付け,アームの下端を遊戯
台上部に設けられた上部ホルダの横長穴(スロット)に取り付
けることで,上部ホルダが滑動可能かつ回動可能となるという
構成を有するものであり,本件発明とは,基本的構成を異にす
る。
(エ)乙15号証に開示されているパチンコ台取付装置について
は,台枠を固定する部材が上下方向の可動性を有するものか否
か,上記証拠上,不明であり,したがって,自動的に高さが調
整される機能の存否自体も,不明といわざるを得ない。
⑶本件発明の本質的部分について
ア特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許
発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付
ける特徴的な部分,換言すれば,同部分が他の構成に置換される
ならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと
評価されるような部分をいうものと解される。
イ本件発明についてみると,本件明細書等には,前記⑴ア,イ及
びウ(エ)のとおり,①従来の技術の問題点として,台枠の高さ寸
法については,メーカーにより幅があり,島枠構造についても,
遊技場により,上下の横桟の高さ寸法が異なっていたという点が
挙げられ,これに対応するために,島枠構造の高さと台枠の高さ
との間に差があっても,自動的に調整できる構造を備えたパチン
コ台取付装置の提供が,課題の1つとされていたこと,②本件発
明は,同課題を,上部取付装置30の自動高さ調整機能によって
解決するものであることが記載されている。
ウそして,上部取付装置30の自動高さ調整機能につき,本件明
細書等には,前記⑴ウ(エ)によれば,概要,以下のとおり記載さ
れている。
すなわち,スライドボルト33を,スライドベース31の固定
用垂直面31bの縦長小判穴31e及びスライドボルト支持用垂
直面31cの縦長穴31fに差し込んで,スライドベース31の
固定用垂直面31bの縦長小判穴31eの長径とスライドボルト
33の縦方向の径の長さとの差の範囲内において,上下方向に移
動できるようにして,パチンコ台アセンブリ10の取付前は,重
力により,縦長小判穴31e及び縦長穴31fの各下端に当たっ
た状態にする。
スライドボルト33をこのように構成することによって,スラ
イドボルト33に螺合されたスライドタップ34に溶接固定され,
スライドベース31の底面中央開口31dに吊り下げられた状態
で取り付けられているグリップベース35も,スライドボルト3
3と同様に,上下方向に移動でき,かつ,上記取付前は,重力に
よって下がった状態になる。
そして,パチンコ台アセンブリ10の取付時において,台枠2
の高さが,グリップベース35が吊り下げられている位置よりも
高ければ,グリップベース35は,上記のとおり上下方向に移動
できるので,台枠上板2aにより,台枠2の高さまで押し上げら
れる。このとき,グリップベース35に固定されたグリップアー
ム36の高さも,同様に,台枠2の高さに応じて自動的に調整さ
れる。
エ以上によれば,グリップベース35が上下方向に移動可能であ
ることは,上部取付装置30の自動高さ調整機能に必須の要件で
あるところ,このグリップベース35の可動性は,「スライドボル
トが上下方向に移動可能に保持されること」という構成によって
確保されている。
したがって,「スライドボルトが上下方向に移動可能に保持され
ること」によって,「スライドボルト」に螺合されている「スライ
ドタップ」に固定された「グリップベース」が,パチンコ台アセ
ンブリの取付前は,重力により下がっており,同取付時において,
台枠の高さよりも低い場合,台枠上板により,台枠の高さまで押
し上げられるという点は,島枠構造の高さと台枠の高さとの間に
差があっても自動的に調整できる構造を備えたパチンコ台取付装
置の提供という課題の1つを解決する,上部取付装置30の自動
高さ調整機能を基礎付ける特徴的な部分というべきである。
したがって,「スライドボルトが上下方向に移動可能に保持され
ること」によって,「スライドボルト」に螺合されている「スライ
ドタップ」に固定された「グリップベース」が,パチンコ台アセ
ンブリの取付前は,重力により下がっており,同取付時において,
台枠の高さよりも低い場合,台枠上板により,台枠の高さまで押
し上げられるという点は,本件発明の本質的部分であるものと認
められる。
⑷被告製品の構成について
本件相違点3及び4に関連する被告製品の構成の詳細は,以下の
とおりである(なお,下記記載中に引用する図面について別紙3被
告製品図面を参照。)。
ア被告製品は,パチンコ本体と台枠300から成るパチンコ台ア
センブリを,そのアセンブリされた状態のまま,島枠構造400
にはめ込んで固定するものであり,島上部枠構造に固定する左右
一組の上部取付装置100及び島下部枠構造の上面部に固定す
る左右一組の下部取付装置200から成る(構成aからc,図1)。
本件相違点3及び4に係る被告製品の構成は,上部取付装置1
00に設けられたものであるところ,前記固定に際し,上部取付
装置100は,①スライドベース部材112を島上部枠構造40
1の後面にネジS1で留め,2本のベースレール部111Aを島
上部枠構造401の下面にネジS2で留め,さらに,②島上部枠
構造401に挿入された台枠上板300を,上側からは,グリッ
プベース118で押さえ,下側からは,グリップベース118の
下部に固定されたグリップアーム119で押圧する(構成d,d
1,d2,d5,d6,図1,図2,図3,図6)。
イスライド用ボルト114は,①その前側の端部に設けられた前
軸114Bが,スライドベース部材112の前板112Bに穿た
れた円形の丸孔112B3によって(図4),②その後側の端部
に設けられた後軸114Aが,事実上円形の丸孔113X(押え
板113の長切欠き113A上端の半円形の部分と,ベースレー
ル部材111の後板111Bの切欠き111B1とがなす)によ
って(図8),回転可能に,かつ,上下方向に移動不可能に軸支
されている(構成d3,原判決添付別紙3のホ-13から15,
図2,図3,図6,図7)。
ウスライド用ボルト114に螺合されたスライドタップ115は,
バネ117Cと共に,ケース117に収納されている。
ケース117は,上面が開放された略直方体形状のケース本体
117Aと,その上に取り付けられるケース蓋117Bとを備え
ている。
ケース117は,スライドベース部材112の前板112Bの
底部のスライドベース部112Aと後板111Bとに囲まれた
開口部に,吊下げ状態で取り付けられており,スライド用ボルト
114の回転によって前後に移動可能である(構成d4,原判決
添付別紙3のホ-20,図2,図3,図6。)。
スライドタップ115の上側には,その上面に円形の固定穴1
16Aが穿たれた盛り上げ部116が設けられており,また,ケ
ース蓋117Bの上面には,パンチ孔117B2が穿たれ,その
下方は,パンチ孔117B2の径に対応する内径を有する円筒形
状の突出部(図示されていない。)をなしている。
バネ117Cは,その上端及び下端を,それぞれケース蓋11
7Bのパンチ孔117B2の下方の突出部,スライドタップ11
5上面の盛り上げ部116の固定穴116Aの内周面に固定され
て,圧縮された状態で収納されている(原判決添付別紙3のホ-
18,25,26,図3)。
エ以上の構成において,ケース117は,圧縮されたバネ117
Cの弾性力によって,常に上方向に働く付勢力を受け,その付勢
力に抗した下向きの外力を与えられることにより,下方向に移動
でき,斜め方向の外力を与えられることにより,前後方向に揺動
できる(原判決添付別紙3のホ-26)。
グリップベース118は,ケース117のケース本体117A
の下面に溶接固定されているので,ケース117と同様に,バネ
117Cの弾性力によって,常に上方向に働く付勢力を受け,2
枚のベースレール部材のベースレール部111Aの間にはまり込
んでおり,下向きの外力を与えられることにより,下方向に移動
できる(構成d5,原判決添付別紙3のホ-29,図2,図3,
特に図5)。
そして,グリップベース118の下部に固定されたグリップア
ーム119も,ケース117と同様に,バネ117Cの弾性力に
よって,常に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与えら
れることにより,下方向に移動できる(構成d6)。
⑸検討
ア前記⑷によれば,本件相違点3及び4に関連する被告製品の構
成について,概要,以下の事実が認められる。
すなわち,被告製品は,スライド用ボルト114を上下方向に
移動不可能に軸支する一方,ケース117という部材を採用し,
これをスライドベース部112Aと後板111Bとに囲まれた開
口部に吊下げ状態で取り付けている。
このように吊下げ状態で取り付けられたケース117の中に,
スライドタップ115と共に,バネ117Cを,ケース蓋117
Bとスライドタップ115との間に圧縮された状態で収納するこ
とによって,ケース117が,バネ117Cの弾性力により,常
に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与えられることに
よって下方向に移動できるようにしている。
そして,ケース117にグリップベース118を溶接固定し,
その下部にグリップアーム119を固定することによって,台枠
上板300を上下から押さえて島上部枠構造に固定するグリップ
ベース118及びグリップアーム119も,ケース117と同様
に,常に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与えられる
ことにより,下方向に移動できるようにしている。
イ以上によれば,被告製品は,前記⑶エのとおり本件発明の特徴
的な部分に係る「スライドボルトが上下方向に移動可能に保持さ
れること」との構成を備えず,スライド用ボルト114が上下方
向に移動不可能に軸支されている。
そして,被告製品においては,移動不可能に軸支したスライド
用ボルト114に,スライドタップ115及びバネ117Cを収
納したケース117を吊り下げ,ケース117及びこれに固定さ
れたグリップベース118が,バネ117Cの弾性力により,常
に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与えられることに
より,下方向に移動できるという構成が採用されているものと認
められ,同構成によって,島枠構造の高さと台枠の高さとの間に
差がある場合,上部取付装置の高さが自動的に調整されるものと
推認できる。
したがって,被告製品は,「グリップベース」を上下方向に可動
とすることで台枠の高さ等に差異がある場合でも,自動的にその
高さが調整される点で本件発明と共通するが,被告製品の自動調
整機能は,「グリップベース」が,①常時,重力に抗して上方向に
働く付勢力を受ける点及び②下向きの外力を与えられることによ
り,下方向に移動できる,すなわち,押し下げられる点において,
本件発明の上部取付装置30の高さ調整機能とは,大きく異なる。
前記⑶エのとおり,「スライドボルトが上下方向に移動可能に保
持されること」によって,「スライドボルト」に螺合されている「ス
ライドタップ」に固定された「グリップベース」が,パチンコ台
アセンブリの取付前は,重力により下がっており,同取付時にお
いて,台枠の高さよりも低い場合,台枠上板により,台枠の高さ
まで押し上げられるという点は,本件発明の本質的部分というべ
きである。
そうすると,本件発明の構成要件D3において,「スライドボル
ト」が上下方向に移動可能に保持されているのに対し,被告製品
の構成d3においては,スライド用ボルト114が上下方向に移
動不可能に軸支されているという本件相違点3は,本件発明の本
質的部分に係るものというべきである。
よって,被告製品は,均等の第1要件(非本質的部分)を充たさ
ない。
⑹控訴人の主張について
ア控訴人は,本件相違点3に関し,①本件発明の本質的部分は,
「グリップベース」の上下方向の可動性であり,「スライドボルト」
の上下方向の可動性ではない(第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(ア)
a),②本件相違点3及び4に関し,「スライドベース」の固定用
垂直面の縦長小判穴,「スライドボルト支持用垂直面」に形成され
た縦長穴,「スライドボルト」及び「スライドタップ」の構成(構
成要件D3及びD4)は,「スライドベース」にリベット固定され
たベースレールが島上部枠構造の下面にネジ留め固定される機構
(構成要件D1及びD2)と,「グリップベース」と「グリップア
ーム」とにより台枠上板が挟持される機構(構成要件D5及びD
6)の係わり合わせ方の1つにすぎず,その構成自体は,本件発
明の本質的部分ではない旨主張する(第3の1【控訴人の主張】
⑴ウ(ア)c)。
イしかしながら,前記⑶エのとおり,本件発明は,上部取付装置
30の自動高さ整機能によって,島枠構造の高さと台枠の高さと
の間に差があっても,自動的に調整できる構造を備えたパチンコ
台取付装置の提供という,従来の技術の問題点に係る課題の1つ
を解決するものであるところ,上記機能に必須の要件といえるグ
リップベース35の上下方向の可動性は,グリップベース35が
固定されたスライドボルト33が,「上下方向に移動可能に保持さ
れること」という構成によって確保されている。
この点に鑑みると,本件発明においては,「グリップベース」の
上下方向の可動性よりも,その必要不可欠な前提である「スライ
ドボルト」の上下方向の可動性が,本質的部分を構成するものと
みるべきである。
ウまた,前記⑶ウのとおり,本件発明において,「スライドボルト」
の上下方向の可動性は,スライドボルト33が,スライドベース
31の固定用垂直面31bの縦長小判穴31eの長径とスライド
ボルト33の縦方向の径の長さとの差の範囲内において,上下方
向に移動の自由が与えられた状態で,取り付けられているという
構成によって,確保されている。
さらに,グリップベース35が,スライドボルト33に螺合さ
れたスライドタップ34に溶接固定され,スライドベース31の
底面中央開口31dに吊り下げられた状態で取り付けられている
という構成によって,グリップベース35を,上下方向の可動性
が確保されたスライドボルト33の動きに追随させ,パチンコ台
アセンブリの取付前は,重力により下がり,同取付時において台
枠よりも低いときは,その高さまで押し上げられるようにしてい
る。
以上によれば,本件相違点3及び4に係る本件発明の「スライ
ドベース」の固定用垂直面の縦長小判穴,「スライドボルト支持用
垂直面」に形成された縦長穴,「スライドボルト」及び「スライド
タップ」のこれらの構成は,本件発明の課題の1つである上部取
付装置30の自動高さ調整機能を実現するためのものといえるか
ら,本件発明の本質的部分に関わるものというべきである。
エ控訴人は,被控訴人の第1要件に関する主張について,本件発
明においても板バネ37が設けられており,これによって,「スラ
イドボルト」は,被告製品と同様に,上向きの付勢力を与えられ
ていることから,「スライドボルト」が上向きの付勢力を加えるバ
ネなどを介さずに取り付けられているという被控訴人の主張は誤
りである旨主張する(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(ア)d)。
(ア)本件明細書(甲2)においては,板バネ37につき,「グリ
ップベース35の先端と島上部枠構造20aの間に位置し,台
枠2挿入時に台枠上板2aとグリップベース35との衝突を避
け確実に島上部枠構造20aと台枠2との間隙に誘導するもの
である。」(【0041】),「グリップベース35の先端に取付け
られた板バネ37は下方にあるグリップベース35から斜め上
向きに曲げられており先端が島上部枠構造20aの下面に当た
り台枠2が嵌め込まれる際のガイドとなっている。」(【006
7】),「図8(b)は,台枠2が嵌め込み始められ,台枠上板2
aが板バネ37にガイドされてグリップベース35を先端から
押上げはじめた状態を示す。」(【0071】)と記載されており,
他に,板バネ37の機能を説明する記載はない。
(イ)そして,板バネ37に関する本件明細書の上記記載及び甲2
号証の図8(b)によれば,板バネ37は,グリップベース3
5の先端に取り付けられ,上方に屈曲し,その先端が島上部枠
構造20aの下面に当接しているものであることが認められる。
そして,グリップベース35が台枠上板2aによって押し上げ
られると,板バネ37の弾性力により,上記押上げに係る上方
向の外力に抗した下方向の力がグリップベース35に働き,こ
れによって,グリップベース35は,台枠上板2aとの衝突を
避けながら,島上部枠構造20aと台枠2との間隙に誘導され
るものと推認できる。
すなわち,本件明細書等によれば,板バネ37は,下方向の
力を加えるものとして構成されていることが認められ,他方,
上方向の力を加える構成については,本件明細書等に記載され
ていない。
(ウ)以上によれば,本件発明において,「スライドボルト」が板
バネ37によって上向きの付勢力を加えられているとは認めら
れず,控訴人の前記主張は採用できない。
オ控訴人は,被控訴人の第1要件に関する主張について,①本件
発明において,板バネ37による上向きの付勢力を用いたり,「ス
ライドボルト」と,これを差し込む「スライドベース」の縦長小
判穴及び「スライドボルト支持用垂直面」の縦長穴との嵌合をき
つくしたりすれば,パチンコ台アセンブリの取付前において,グ
リップベース35が重力によって下方に移動することはないこと,
②本件明細書(甲2)の段落【0043】に「グリップ機構40
は,(中略)挿入された台枠高さに応じて上下することで自動的に
グリップの高さ調整がなされる。」と記載されており,同記載によ
れば,グリップベース35が台枠2に押し下げられることによっ
ても,本件発明の「自動調整」が実現されることを根拠として,
「グリップベース」が重力によって下方に移動するとは限らず,
したがって,その初期位置が,「ベースレール」よりも下方に限
定される理由はない旨主張する(前記第3の1【控訴人の主張】
⑴ウ(ア)d)。
しかしながら,前記エのとおり,本件発明において,板バネ3
7は,下方向の力を加えるものとして構成されており,したがっ
て,「スライドボルト」が板バネ37によって上向きの付勢力を
加えられているとは認められない。
また,前記⑶ウのとおり,本件発明において,スライドボルト3
3は,スライドベース31の固定用垂直面31bの縦長小判穴3
1e及びスライドボルト支持用垂直面31cの縦長穴31fに差
し込まれて保持されている(構成要件D3)。この構成において,
スライドボルト33は,縦長小判穴31eの長径とスライドボル
ト33の縦方向の径の長さとの間に差があることによって,その
差の範囲内において上下方向に移動できる。
この点に鑑みると,スライドボルト33と,縦長小判穴31eと
縦長穴31fとの嵌合をきつくして,パチンコ台アセンブリ10
の取付前に,スライドボルト33に螺合されたスライドタップ3
4に溶接固定されたグリップベース35が重力によって下方に移
動しないようにすれば,スライドボルト33の上下方向の可動性
が大幅に失われ,同可動性を前提とする上部取付装置30の自動
高さ調整機能が損なわれることになり得る。
なお,控訴人が指摘する本件明細書(甲2)の段落【0043】
の記載は,パチンコ台の更新時において(甲2【0002】),台
枠の高さが従前のパチンコ台とは異なるパチンコ台を取り付ける
ことになっても,グリップ機構40がそれに対応できることを意
味するものと解される。同記載のみをもって,パチンコ台アセン
ブリの取付前において「グリップベース」が重力によって下方に
移動せず,台枠に押し下げられることにより,高さが自動的に調
整される場合があるということはできない。
以上によれば,控訴人の前記主張は,採用できない。
2均等の第3要件(置換容易性)について
(1)控訴人は,①本件発明においても,「スライドボルト」は,被
告製品と同様に,上向きの付勢力を加えられている,②本件発明に
おいて,被告製品と異なり,「グリップベース」の初期位置が「ベ
ースレール」よりも下方に限定される理由はない,③本件相違点3
及び4は,設計事項に係るものにすぎない,④「スライドボルト」
を移動不可能とし,「ケース」を採用することなどは,公知の技術
であったとして,本件相違点3及び4に係る本件発明の構成を被告
製品の構成に置換することは,当業者が容易に想到し得た旨主張す
る。
⑵本件相違点3及び4に関し,本件発明の構成要件D3及びD4に
係る構成についての本件明細書の記載内容の概要は,前記1⑶イ
(イ)のとおりであり,構成d3及びd4に関する被告製品の構成の
概要は,前記1⑸アのとおりであるところ,以下のとおり,両者は,
構成及び機能において大きく異なるものといえる。
アすなわち,被告製品においては,スライド用ボルト114につ
き,「上下方向に移動可能に保持される」本件発明の「スライドボ
ルト」とは正反対に,「上下方向に移動不可能に軸支」する構成と
した。
さらに,被告製品は,スライドタップ115を収納するケース
117及びバネ117Cという本件発明にはない部材を採用し,
スライド用ボルト114にケース117を吊り下げ,ケース11
7の中に,バネ117Cを,ケース蓋117Bとスライドタップ
115との間に圧縮された状態で収納することにより,ケース1
17が,バネ117Cの弾性力により,常に上方向に働く付勢力
を受け,下向きの外力を与えられることにより,下方向に移動で
きるよう構成した。
イそして,被告製品は,同構成によって,前記1⑸イのとおり,
ケース117に固定されたグリップベース118が,ケース11
7と同様に,バネ117Cの弾性力により,常に上方向に働く付
勢力を受け,下向きの外力を与えられることにより,下方向に移
動でき,これによって,島枠構造の高さと台枠の高さとの間に差
がある場合,上部取付装置の高さが調整されるものと推認できる。
同調整機能は,グリップベース118が,①常時,重力に抗して
上方向に働く付勢力を受ける点及び②下向きの外力を与えられ
ることにより,下方向に移動できる,すなわち,押し下げられる
点において,上下方向に移動可能な「スライドボルト」に固定さ
れた「グリップベース」が,「スライドボルト」と同様に,パチ
ンコ台アセンブリの取付前は,①重力により下がっており,②同
取付時において,台枠の高さより低い場合,台枠上板により,台
枠の高さまで押し上げられるという,本件発明における上部取付
装置30の自動高さ調整機能とは,全く異なるものといえる。
ウ控訴人は,本件発明における板バネ37によって,「スライド
ボルト」が,被告製品と同様に上向きの付勢力を加えられている
旨主張するが(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(ウ)c⒜),
前記1⑹エのとおり,同主張は採用できない。
エ控訴人は,本件発明において,「グリップベース」が重力によ
って下方に移動するとは限らず,したがって,その初期位置が,
「ベースレール」よりも下方に限定される理由はないと主張する
が(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(ウ)c⒞),前記1⑹オ
のとおり,同主張は,採用できない。
⑶控訴人は,①本件相違点3に関し,外力が加えられたときに,「グ
リップ機構が設けられているグリップベースが下がる」作用をもた
らす構成につき,「スライドボルト」が下がる構成(構成要件D3)
と,「スライドボルト」は固定され,「ケース」が下がる構成(構
成d3,d4)との相違及び②本件相違点4に関し,「スライドベー
ス」の開口部に,「スライドタップ」を吊下げ状態で取り付けるか(構
成要件D4),その「スライドタップ」を「ケース」に収納するか(構
成d4)との相違は,いずれも設計事項にすぎず,本件発明の構成
要件を被告製品の構成に置換することについては,当業者が容易に
想到し得た旨主張する(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(ウ)a,
b)。
アしかしながら,①の点については,前記⑵のとおり,本件発明
と被告製品は,「グリップベース」を上下させる構成が全く異な
り,控訴人主張の相違は,設計事項に当たらない。
また,②の点については,被告製品においては,単に,「スラ
イドタップ」を「ケース」に収納しているのではなく,「スライ
ドタップ」と「ケース」の蓋との間に「バネ」を圧縮された状態
で収納し,これによって,「ケース」が「バネ」の弾性力により
常に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与えられること
によって下方向に移動できるように構成しているのであるから,
「スライドタップ」を吊下げ状態で取り付けるか,その「スライ
ドタップ」を「ケース」に収納するかは,設計事項とはいえない。
イ以上によれば,前記①及び②がいずれも設計事項にすぎないこ
とを前提とする控訴人の前記主張は,その前提を欠き,採用でき
ない。
⑷控訴人は,①甲9号証には,「スライドボルト」を移動不可能とし,
「ケース」を採用することが開示されている,②控訴人によって平
成24年春頃に製造された甲14実施品は,被告製品のバネ117
Cと同様に,「スライドボルト」に対し,常に上方向に働く付勢力を
与える「く」の字型バネを備えているとして,当業者において,上
記の甲9号証記載の公知技術や甲14実施品に用いられた公知技術
を適用して,本件相違点3及び4に係る構成要件D3及びD4の構
成を被告製品のように置換することを,容易に想到し得た旨主張す
る(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(エ)a)。
ア甲9号証について
甲9号証には,「パチンコ島にパチンコ台を取り付ける取り付け
装置」に関する発明が記載されているところ(甲9【0001】),
甲9パチンコ台取付装置の構成は,以下のとおりである(なお,
下記記載中に引用する図面について別紙2甲9図面を参照。)。
(ア)甲9パチンコ台取付装置は,上下一対の「取り付け装置」(以
下「取付装置」と表記する。)からなり,上部の取付装置は,①
パチンコ台の「取り付け手段」(以下「取付手段」と表記する。)
及び②「傾き調整手段」によって構成され,「取付手段」は,「傾
き調整手段」に連結されている(甲9【0012】,【0040】)。
(イ)取付手段38は,バネ材質の腕木45,クサビ部材46及
び6角頭の押圧螺子47とで構成される。
腕木45は,①先端に,L型の部材を固着して前進規制部4
8を形成し,②胴部49に,対向する枢支穴50を備えた支点
部51を形成し,③後端の押圧部52に,螺子穴54を設けて
いる。
クサビ部材46は,その下方の枢支穴46aにおいて腕木4
5の支点部51を枢着し,腕木45を揺動自在に吊り下げてい
る。
押圧螺子47は,腕木45後端の押圧部52の螺子穴54に
螺合されている(甲9【0014】,【0016】,【0051】,
【0052】,図4から図6。)。
(ウ)傾き調整手段15は,基材17,基材17に両端を枢支さ
れる螺子18,螺子18に螺合された移動部材19及び移動部
材19に螺合された規制ボルト20とで構成される。
基材17は,取り付け部16,16aを備え,これらによっ
て傾き調整手段15をパチンコ島の横部材2に固定している。
取り付け部16は,ビス穴22を備えた取り付け板23によっ
て形成され,取り付け部16aは,対向したガイド溝24,こ
れらの間に設けられた螺子穴25,螺子穴25に螺合する押し
ボルト26及び連結部材27によって構成される。
螺子18は,基材17の後壁28の支持穴29を貫通して,
先端を前壁21の支持穴30に回転自在に嵌合し,空転部3
1を後壁28の支持穴29に臨ませており,Eリング32で
抜け防止されている。突端は6角状の操作部33としている。
移動部材19は,螺子18が回転すると,左右の規制板37
によって回転を規制されながら,前後に移動する。
規制ボルト20は,後退規制部41を構成するものであり,
移動部材19に取り付けられている(甲9【0014】,【00
44】から【0049】,図4から図7,図9)。
(エ)傾き調整手段15の移動部材19の横穴62に設けられ
た支点ピン63が,取付手段38のクサビ部材46に設けられ
た長穴64に挿入されている。
クサビ部材46は,支点ピン63に支持されて,移動部材1
9に揺動自在に吊り下げられており,長穴64の縦径の範囲内
において上下方向に移動自在である。クサビ部材46に吊り下
げられた腕木45も,同様に,上下方向に移動自在である(甲
9【0014】,【0017】,【0036】,【0053】,図6)。
(オ)パチンコ台をパチンコ島に取り付ける際の,上部の取付装
置の使用方法は,以下のとおりである。
aパチンコ島1の区画5内部の上下には,あらかじめ,甲9
パチンコ台取付装置,すなわち,一対の上下の取付装置7及
び7aが取り付けられており,これらによってパチンコ台6
の装着枠8を固定して,パチンコ台6をパチンコ島1に取り
付ける(甲9【0040】,【0061】,【0062】,図1)。
b当初,腕木45は,前進規制部48を下げて開放した状態
にある。
パチンコ台6をパチンコ島1に取り付ける際,パチンコ台
6の装着枠8の上桟8aの後端8bを取付装置7の規制ボ
ルト20に当てて後方への移動を規制しながら,押圧螺子4
7を回して腕木45の前進規制部48を上昇させることに
よって,パチンコ台6の装着枠8の上桟8aの下面を押し上
げ,その前端8eに,前進規制部48の先端のL型の部材を
対向して臨ませる。
次に,規制ボルト20を回してその後退規制部41で装着
枠8の上桟8aを前方に押し付けて移動させ,腕木45の前
進規制部48と後退規制部41で,装着枠8の上桟8aを挟
持してパチンコ島1の横部材2に固定する(甲9【0012】,
【0013】,【0054】,図5,図7,図9)。
c上記取付けに際し,クサビ部材46は,以下のとおり作用
する。
すなわち,押圧螺子47の操作時に,クサビ部材46は,
揺動支点よりも偏芯した箇所の押圧底59を押し上げられ
ることから,クサビの作用により,押圧螺子47が弛まなく
なる(甲9【0055】,図6)。
また,前記(エ)のとおり,クサビ部材46は,長穴64の
縦径の範囲内において上下方向に移動自在であり,クサビ部
材46に吊り下げられた腕木45も同様であることから,パ
チンコ島1の横部材2の下面と,パチンコ台6の装着枠8の
上桟8aとの間のすき間C(甲9の図7)が大きいときは,
腕木45を押し上げてから,パチンコ台6の装着を行うこと
ができ,腕木45の下側とパチンコ台6の内部カバーとの干
渉を防止することができる(甲9【0036】,【0056】)。
(カ)控訴人は,甲9パチンコ台取付装置においては,被告製品
のスライド用ボルト114に対応する螺子18が上下方向に
移動できず,また,クサビ部材46が被告製品のケース117
Cに相当することを根拠に,甲9号証には,「スライドボルト」
を移動不可能とし,「ケース」を採用することが開示されてい
る旨主張する(前記第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(エ)a⒜)。
前記(ウ)によれば,確かに,甲9パチンコ台取付装置の螺子
18は,被告製品のスライド用ボルト114に対応するものと
認められるところ,上下方向の可動性が与えられるようには構
成されていない。
他方,以下によれば,クサビ部材46は,被告製品のケース
117に相当するものとは認められない。
すなわち,前記1⑸アのとおり,被告製品におけるケース1
17は,スライドタップ115と共に,バネ117Cを,スラ
イドタップ115とケース蓋117Bとの間に圧縮された状
態で収納し,これによって,ケース117がバネ117Cの弾
性力により常に上方向に働く付勢力を受け,下向きの外力を与
えられることによって下方向に移動できるようにしているも
のである。
これに対し,甲9パチンコ台取付装置のクサビ部材46は,
バネを備えておらず,上方向に働く付勢力を受けるものでも
ない。
以上に鑑みると,クサビ部材46とケース117との間の
相違は,単なる部材の形状の相違にとどまるものとはいえず,
両者は,その基本的構成及び作用において明らかに異なるもの
というべきである。
(キ)以上によれば,甲9号証には,「スライドボルト」につき,
上下方向の可動性が与えられるように構成されていないもの
の,「ケース」の採用が開示されていないことは,明らかであ
る。
イ甲14実施品について
控訴人は,甲14実施品は,「スライドボルト」の固定用垂直
面側に位置し,「スライドボルト」を上方に押し上げるように作
用する「く」の字型のバネを備えたものである旨主張する(前記
第3の1【控訴人の主張】⑴ウ(エ)a⒝)。
しかしながら,甲14号証及び弁論の全趣旨によれば,甲1
4実施品において,①「スライドボルト」に相当すると思われ
る部材は,右側端部は縦長の穴の内部において上下方向に移動
できるよう支持されているが,左側端部は同部を軸とした回転
のみが可能なようにヒンジ接続されており,全体が上下方向に
移動しないことはなく,②「く」の字型のバネは,上記部材の
右側を上方に押し上げるものと推認され(甲14),常に弾性力
によってケース117を上方向に付勢するバネ117Cとは,
明らかに異なるものといえる。
ウ以上によれば,甲9号証には,少なくとも「ケース」の採用
が開示されていないことは明らかであり,また,甲14実施品
が備える「く」の字型バネも,被告製品のバネ117Cとは,
明らかに異なるものといえる。
したがって,当業者において,本件発明に,甲9号証記載の
公知技術及び甲14実施品に用いられた公知技術を適用しても,
本件相違点3及び4に係る被告製品の構成d3及びd4には至
らず,控訴人の前記主張は,採用できない。
⑸小括
以上に鑑みると,控訴人が本件相違点3及び4に係る構成の置
換容易性について主張するその余の点を判断するまでもなく,当
業者において,本件相違点3及び4に係る構成につき,本件発明
の構成要件D3及びD4を,被告製品の構成d3及びd4に置換
することを,容易に想到し得たものと認めることはできない。
よって,被告製品は,均等の第3要件(置換容易性)を充たさな
い。
3小括
以上のとおり,被告製品は,均等の第1要件(非本質的部分)及
び第3要件(置換容易性)を充たさない。
したがって,被告製品は,本件発明に係る特許請求の範囲に記載
された構成と均等なものとしてその技術的範囲に属するということ
はできない。
第5結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の
請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却した原判決は
結論において相当である。
よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官大鷹一郎
裁判官鈴木わかな
(別紙1)甲2号証図面
図1(彩色部分及び各部の名称は,裁判所による。)
本件パチンコ台取付装置100によって,パチンコ台アセンブリ1
0を島枠構造20に取り付けて固定した状態を示す模式図。パチンコ
台アセンブリ10の高さ方向は,破断線で省略されている(甲2【0
024】)。
図2(彩色部分及び各部の名称は,裁判所による。)
本件パチンコ台取付装置100の上部取付装置30の構成を示す正
面図。なお,グリップ機構40の内部構成を示すために,コイルバネ
44を省略し,ボデー41の手前の側板41bを透視した断面を示し
ている(甲2【0032】)。
図3(彩色部分及び各部の名称は,裁判所による。)
スライドベース31を示す。⒜は正面図,⒝は左側面図,⒞は右側
面図である(甲2【0034】)。
図4
⒜はボルトハンガー39の平面図,⒝はラチェット板46の平面図
である(甲2【0035】)。
図6
本件パチンコ台取付装置100の下部取付装置50の構成を示す
図。
⒜は正面図,⒝は固定ベース51の平面図,⒞はプッシュ刃54a
の底面及び正面を示す図である(甲2【0056】)。
図7
本件パチンコ台取付装置100を島枠構造20に取り付けた状態を
示す模式図。パチンコ台アセンブリ10が本件パチンコ台取付装置1
00に固定される前の状態を示す(甲2【0064】)。
図8
本件パチンコ台取付装置100の上部取付装置30の自動高さ調整
機能を説明する図。⒜は台枠2がはめ込まれる前,⒝は台枠2がはめ
込まれる途中,⒞は台枠2がはめ込まれた状態を示す。なお,⒞にお
いては,グリップベース35がベースレール32と重なる位置まで押
し上げられているが,ベースレール32の図示は省略されている(甲
2【0069】から【0072】)。
図11本件発明の傾斜調整機能を説明する模式図(甲2【0086】)。
(別紙2)甲9号証図面
図1:パチンコ台がパチンコ島に取り付けられた状態の正面図
図4:取付装置の分解斜視図
図5:取付装置の作用状態を示す側面図
図6:取付装置の分解斜視図
図7:取付装置の取付状態を示す側面図
図9:取付装置の取付状態を示す断面図
(別紙3)被告製品図面(いずれも乙1号証に掲載されているもの。)
被告製品1の上部取付装置及び下部取付装置
の使用状態を概略的に示す側面図
被告製品1の上部取付装置を,左斜め前方向やや下側から見た
状態を示す斜視図。なお,図中,「114A」は,「114B」の
誤記である。
被告製品1の上部取付装置を,左斜め後方向やや上側からみた状
態を示す分解図を含む斜視図
被告製品1の上部取付装置の平面図
被告製品1の上部取付装置の底面図
被告製品1の左透視側面図
被告製品1における上部取付装置のスライドボルトの構成を概略的に示す
左側面図
被告製品1における上部取付装置のベースレール部材を,補助部材を
取り除いて後方から見た状態を概略的に示す側面図
被告製品1の下部取付装置を,左斜め前方やや上側から見た状態を示す斜
視図
被告製品1の下部取付装置を,右斜め後方上側から見た状態を示す斜視

被告製品1の下部取付装置の左側面図
被告製品1のアジャスタ機構の構成を概略的に示す側面図
図13
被告製品1(図中の「被告製品⑴」)と被告製品2(図中の「被告製品⑵)
とを並置し,側面から撮影した写真
図14
被告製品1(図中の被告製品⑴)と被告製品2(図中の被告製品⑵)を並
置し,正面から撮影した写真
被告製品3を左斜め前方から撮影した写真
図16
被告製品3の第1金具を撮影した写真
図17
被告製品3の第2金具を撮影した写真
図18
被告製品3のスライド用ボルトの前端付近を拡大して撮影した写真
図19
被告製品のスライド用ボルトの後軸と第2金具の取付状態を撮影した写真

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