弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告光洋精工株式会社は、別紙物件目録記載のジヨイントヨーク自動組立機J
YA―I型を販売又は貸渡してはならない。
2 被告光洋機械工業株式会社は、前項記載のジヨイントヨーク自動組立機を製
造・販売してはならない。
3 被告光洋精工株式会社は、第1項記載のジヨイントヨーク自動組立機を廃棄せ
よ。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 第3項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の特許権(以下(一)の特許権を「本件原特許権」、その発明を
「本件原発明」と、(二)の特許権を「本件追加の特許権」、その発明を「本件追
加発明」と、(三)の特許権を「本件分割にかかる特許権」、その発明を「本件分
割発明」という)を有する。
(一) 発明の名称 カルダン継手の組立法及び組立装置
出願 昭和三九年八月二七日(特願昭三九―四八八三四)
優先権主張 一九六三年(昭和三八年)八月二七日ドイツ国出願J二四三二二
公告 昭和四四年七月二五日(特公昭四四―一六八四一)
登録 昭和四七年一〇月一六日(第六六二五七九号)
特許請求の範囲
「1 略
2 2つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内に、継手十字体のピンを収容
するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカルダ
ン継手の組立装置において、継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置に
おく機構を有し、軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対
的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されておりこの押込力発生装置
と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていることを特徴とする、カルダン継手
の組立装置。」
(二) 発明の名称 カルダン継手の組立装置
出願 昭和四一年一一月一日(特願昭四一―七二一八九)
優先権主張 一九六五年(昭和四〇年)一二月一〇日ドイツ国出願J二九五六三号
公告 昭和四八年三月一九日(特公昭四八―八九四九)
登録 昭和四九年一月八日(第七一三八八九号)
特記 特許第六六二五七九号の追加
特許請求の範囲
「2本の被結合軸の端部に形成された二又部の孔内で、継手十字体のピンが半径方
向並びに軸方向に負荷可能な軸受けによつて収容されているカルダン継手の組み立
て装置、それも、軸受けを押し込むプランジヤが、二又部の腕に対して相対的に孔
の軸線方向で移動可能な押し込み力発生装置と結合されており、この押し込み力発
生装置と二又部の腕との間に反力伝達部材が配置されており、更に押し込み方向と
は逆方向の押し込み力発生装置の移動距離を制限するストツパーが設けられている
形式の組み立て装置において、押し込み作業の開始前に、押し込み力発生装置とス
トツパーとが、被結合軸の二又部の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態
で、二又部の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能であることを特徴とする、カルダ
ン継手の組み立て装置。」
(三) 発明の名称 カルダン継手の組立装置
出願 昭和三九年八月二七日(特願昭五〇―九三六八六)
優先権主張 一九六三年(昭和三八年)八月二七日西ドイツ国出願P一五二七五五
七・一
公告 昭和五一年八月七日(特公昭五一―二六五六七)
登録 昭和五三年八月二二日(第九一九九九七号)
特記 特願昭三九―四八八三四特許出願の分割である特願昭四四ー八一〇四一特許
出願の分割
特許請求の範囲
「2つの被結合軸のフオーク端部のフオーク腕に形成された孔内に、継手十字体の
ピンを収容するための半径方向ならびに軸方向に負荷可能な軸受けが配置されてい
る形式のカルダン継手の組立装置であつて、継手十字体を軸のフオーク部に対して
正しい相対位置におく機構と、プランジヤにより軸受けを前記の孔内に押し込んで
継手十字体のピンに遊びなしに接触させる機構と、プランジヤの押し込み方向とは
逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合
するフツクを有している保持クランプを使用してフオーク腕を弾性変形させて拡開
させる機構とを有し、
軸受けが前記孔内で固定された後に前記弾性変形を解除すると軸受けが継手十字体
のピンに圧着されることを特徴とするカルダン継手の組立装置。」
2 本件各発明の構成要件(要部)及び作用効果
(一) 本件原発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(イ) 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内に、継手十字体のピンを
収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されている形式のカ
ルダン継手の組立装置であること。
(ロ) 継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構を有するこ
と。
(ハ) 軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対的に孔の
軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されていること。
(ニ) この押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されているこ
と。
 本件原発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
 二叉腕の厚さの公差やピンの長さの公差に無関係に、軸受とピンとを遊びなしに
接触させることができ、両方の軸の軸線が継手十字体の中心を通るようにすること
によつて、両方の軸の回転中に生ずる力を申し分なく受容できる。
(二) 本件追加発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(い) 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の孔内で、継手十字体のピンが
半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受によつて収容されているカルダン継手の組
立装置であること。
(ろ) 軸受を押込むプランジヤが、二叉部の腕に対して相対的に孔の軸線方向で
移動可能な押込力発生装置と結合されていること。
(は) この押込力発生装置と二叉部の腕との間に反力伝達部材が配置されている
こと。
(に) 押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動距離を制限するストツパーが
設けられている形式の組立装置であること。
(ほ) 押込作業の開始前に、押込力発生装置とストツパーとが、被結合軸の二叉
部の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二又部の孔の軸線方向で一緒
に調節移動可能であること。
本件追加発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
 ストツパーの調節範囲を広くして、
種々異なる寸法のカルダン継手を同一の組立装置によつて組立てうることにより、
カルダン継手の組立作業をできるだけ機械化して組立作業に要する経費を安価にで
きる。
(三) 本件分割発明の構成要件(要部)は次のとおりである。
(a) 二つの被結合軸のフオーク端部のフオーク腕に形成された孔内に、継手十
字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受が配置されて
いる形式のカルダン継手の組立装置であること。
(b) 継手十字体を軸のフオーク部に対して正しい相対位置におく機構を有する
こと。
(c) プランジヤにより軸受を前記の孔内に押込んで継手十字体のピンに遊びな
しに接触させる機構を有すること。
(d) プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されか
つ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用し
て、フオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有すること。
(e) 軸受が前記孔内で固定された後に前記弾性変形を解除すると、軸受が継手
十字体のピンに圧着されること。
本件分割発明は、右の構成により次の作用効果を奏する。
 軸受が最初からある程度のばね力をもつて継手十字体のピンに圧着されることに
より、軸受カツプの底と継手十字体のピンとの間の摩滅に基づく軸方向の遊びを補
償することができる。
3 被告らの行為
 被告光洋精工株式会社(以下「被告光洋精工」という)は、各種ベアリング及び
その部品の製造販売、これに関連する装置の製造販売等を目的とする会社であり、
被告光洋機械工業株式会社(以下「被告光洋機械」という)は、工作機械・産業機
械、その他の機械・器具・工具及び装置並びに金属製品の製造販売等を目的とする
会社である。被告光洋精工は、被告光洋機械が製造した別紙物件目録記載のジヨイ
ントヨーク自動組立機JYA―I型(以下「被告装置」という)を買入れ、これを
訴外鈴木自動車工業株式会社に無償で貸与するかたわら、継手十字体用のベアリン
グを同会社に販売している。
4 被告装置の構成
 被告装置において、調節ナツト(26)は、
案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節するものであつて、これは、ヘツド
ボデー(10)の後壁より前方に突出した送りピストン(29)のおねじ(29)
′に螺合されており案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ(19)の最大前
進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置で案内パンチ押軸(18)と調
節ナツト(26)とが接触しないように調節することもできる。
 右のように、ヘツド前進位置で調節ナツト(26)が案内パンチ押軸(18)に
接触しないように調節しておくことによつて、被告装置は、別紙作動目録(一)記
載の自動作業形式(Ⅰ)・(Ⅱ)、手動作業形式(Ⅰ)の各作動をさせることがで
きる。このことは、被告装置が手動・自動の作動を選択できる旨説明されているこ
とによつても裏付けられる。すなわち、被告装置には、これを操作するための操作
盤若しくは操作パネルがあり、被告装置の別紙取扱説明書には、操作パネルのセレ
クトスイツチが動作を手動・自動させる場合に選択するスイツチである旨記載さ
れ、自動・手動の場合の操作方法が説明されている。当業者は、これによつて右各
作業形式の操作を容易にすることができる。
 右各作業形式においては、調節ナツト(26)が案内パンチ押軸(18)と接触
しないから、軸受(6)は、カシメツール(20)を前進させる前に案内パンチ
(19)によつて押込まれることはない。すなわち、この場合には、第1油圧シリ
ンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させてカシメツール(20)を前進さ
せる際、スペーサーリング(22)がカシメツール(20)により連行されて案内
パンチ(19)の後端に当接し、カシメツール(20)と案内パンチ(19)とが
一体となつて軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触
するまで押込むのである。したがつて、自動作業形式(Ⅰ)の(一)ないし(三)
の工程、自動作業形式(Ⅱ)の(一)・(二)・(三)′の工程、手動作業形式
(Ⅰ)の(一)・(二)・(三)″の工程では、軸受(6)の押込みが行われてい
ないから、送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)は押込みに関与せ
ず、
自動作業形式(Ⅰ)・(Ⅱ)の(四)の工程、手動作業形式(Ⅰ)の(四)″の工
程で押込みが行われるから、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)が
押込みに関与することになる。
被告装置が以上の作業形式を採ることを前提として、被告装置の構成を分説する。
(一) 本件原発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次のと
おりとなる。
(イ)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の二叉腕(1)の軸受孔
(4)に、十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負
荷可能な軸受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(ロ)′ 二叉部の軸受孔(4)内に十字軸を収容したカルダン継手をセツトする
下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)により、継手の両方の軸の軸線が継手十
字体の中心点を通るように保持しておく機構を有すること。
(ハ)′ 軸受(6)を押込み固定するカシメツール(20)及びこのカシメツー
ルとともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)が、二叉腕(1)に対して相対
的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(1
5)と結合されていること。
(ニ)′ この押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と二叉腕
(1)との間に、反力伝達部材であるフツク連結レバー(31)及びフツク(3
2)が配置されていること。
(二) 本件追加発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次の
とおりとなる。
(い)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内で、
十字軸のトラニオン(5)が半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)によつ
て収容されているカルダン継手の組立装置であること。
(ろ)′ 軸受(6)を押込むカシメツール(20)及びこのカシメツール(2
0)とともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)が、二叉部(1)の腕に対し
て相対的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置(11)・(12)・(1
4)・(15)と結合されていること。
(は)′ この押込力発生装置(11)・(12)・(14)・(15)と二叉腕
(1)との間に反力伝達部材(31)・(32)が配置されていること。
(に)′ 押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動距離を制限するストツパ
(16)が設けられている形式の組立装置であること。
(ほ)′ 押込作業の開始前に、押込力発生装置(11)・(12)・(14)・
(15)とストツパ(16)とが、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の
軸線方向で所定の相互間隔を保つた状態で、二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方
向で一緒に調節移動可能であること。
(三) 本件分割発明の構成要件に対応して、被告装置の構成を分説すると、次の
とおりとなる。
(a)′ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉部の二叉腕(1)の軸受孔
(4)に、十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負
荷可能な軸受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(b)′ 継手十字体を軸の二叉腕(1)に対して正しい相対位置におく機構を有
すること。
(c)′ 軸受(6)を軸受孔(4)内に押込み固定するカシメツール(20)及
びカシメツールとともに軸受(6)を押込む案内パンチ(19)とにより、軸受
(6)を十字軸のトラニオン(5)に遊びなしに接触させる機構を有すること。
(d)′ カシメツール(20)及び案内パンチ(19)の押込方向とは逆方向に
移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部に二叉腕(1)の内面と係合するフ
ツク(32)を有しているフツク連結レバー(31)を使用して、二叉腕(1)を
弾性変形させて拡開させる機構を有すること。
(e)′ 軸受(6)が軸受孔(4)内で固定された後に二叉腕の弾性変形を解除
すると、軸受(6)が十字軸のトラニオン(5)に圧着されること。
5 本件各発明と被告装置との対比
(一) 本件原発明と被告装置との対比
(1) 本件原発明の構成要件(イ)と被告装置の構成(イ)′とを比較する。
 被告装置の二叉腕(1)は本件原発明の二叉部に、二叉腕(1)の軸受孔(4)
は孔に、
十字軸のトラニオン(5)はピンにそれぞれ該当するから、構成(イ)′が構成要
件(イ)を充足することは明らかである。
(2) 本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)′とを比較する。
 本件原発明において、継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく
機構とは、被結合軸の軸線が継手十字体の中心点を通るようにし、かつ継手十字体
のピンを二叉部の孔に対して同心位置におく機構を意味する(本件原発明にかかる
特許公報(甲第一号証、以下「本件原特許公報」という)二欄七行目ないし一四行
目、四欄三三行目ないし三六行目、七欄五行目ないし八行目参照)。右機構は、本
件原発明出願時の技術水準において当業者が自明な事項のうちから自由に選択して
よいのであつて、本件原発明にかかる特許明細書(以下「本件原特許明細書」とい
う)にはその内容を限定するなんらの記載もない。甲第一三、第一四号証は、本件
原発明出願時に公知であつた右機構の例である。
 被告装置では、案内パンチ(19)の軸線とカルダン継手の二叉腕(1)の軸受
孔(4)の軸線を一致させた後、送りピストン(29)を僅かに後退させ、ヘツド
(9)を若干戻す。その間に下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつてカ
ルダン継手を固定する。固定された後においては、トラニオン(5)が二叉腕
(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対位置におかれていることになる。そし
て、ボルト(66)・(67)を調節して隙間(8)がなくなるようにすれば、上
部バイス(3)が取付けられている支持体(55)は移動しなくなり固定される。
支持体(55)が固定されていない場合でも、下部チヤツク(2)及び上部バイス
(3)により被結合軸を固定すれば支持体(55)が動くことはない。
 すなわち、被告装置は、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつて継手
十字軸を正しい相対位置においているのであつて、被告装置の構成(ロ)′の機構
は、本件原発明にいう正しい相対位置におく機構に該当し、構成要件(ロ)を充足
する。
(3) 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と被告装置の構成要件(ハ)′・
(ニ)′とを比較する。
① 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)について
 本件原発明は、特許法三八条により併合出願されたカルダン継手の組立法につい
ての方法発明(その特許請求の範囲は、「2つの被結合軸の端部に形成された二叉
部の孔内に、継手十字体のピンを収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能
な軸受が配置されている形式のカルダン継手の組立法において、継手十字体を軸の
二叉端部に対して正しい相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに
遊びなしに接触するまで二叉端部の腕の孔内に押込み、この押込力によつて生ずる
反力を二叉腕のところで支えることを特徴とする、カルダン継手の組立法。」であ
る)を直接実施する装置に関する発明である。本件原発明は、反力に関する限り、
押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える装置に関するものであり、二
叉腕を拡開させることまでをも発明の要旨とするものではない。
 このことは、本件原特許明細書の特許請求の範囲の記載自体によつて明らかであ
るばかりでなく、同特許明細書の発明の詳細な説明において、「本発明の要旨とす
るところは、継手十字体および被結合軸の二叉腕を互いに正確な相対位置においた
後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押
込み、その際に押込力に基く反力を二叉腕のところで支える点にある。」(本件原
特許公報三欄一四行目ないし一九行目)と記載されていることによつても明らかで
あり、更に、同特許明細書のうち実施態様に関する説明において、実施態様1とし
て前記方法発明の特許請求の範囲の記載と全く同一の方法が記載されている(同公
報八欄三九行目ないし九欄三行目)ところ、実施態様5として本件原発明の特許請
求の範囲の記載と内容的に一致する装置が実施態様1の方法を実施するものとして
記載されている(同公報九欄一七行目ないし二二行目)こと、これとは別に実施態
様2として二叉腕を拡開させる方法が記載されている(同公報九欄四行目ないし九
行目)ことによつても、
また本件原発明の要旨及び装置の機能を詳細に説明した記載(同公報三欄三四行目
ないし四三行目)によつても裏付けられる。
 したがつて、本件原発明の眼目は、軸受を押込む際に押込力によつて生ずる反力
を二叉腕のところで支えて、二叉腕を弾性変形させないようにする装置であるこ
と、すなわち、個々の軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉端部
の腕の孔内に押込むためのプランジヤが、孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置
と結合されている機構、及び、この押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで
支えるための反力伝達部材が、押込力発生装置と二叉腕との間に配置されている機
構、とを具備する装置であることにある。
 ここで押込力とは、軸受をその押込方向に押込もうとする力をいい、「個々の軸
受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉端部の腕の孔内に押込む」
(同公報一〇欄二〇行目、二一行目)力をいうから、プランジヤが軸受の底面に接
触するまでの間におけるピストンを移動させる力は押込力とはいわない。また、反
力とは、押込力と同じ大きさの力であつて押込力とは反対方向の力をいう。この反
力は、押込力によつて生じ、軸受と二叉端部の腕のところで生ずるものであり、こ
こで発生した反力を二叉腕に伝達、作用させて弾性変形を防止するのに用いられる
ものである。
 そうすると、構成要件(ハ)・(ニ)における押込力発生装置は、一方において
軸受押込用のプランジヤと結合され、他方において二叉端部の腕との間に押込力に
よつて生じた反力を二叉端部の腕に伝達するための反力伝達部材が配置されている
とともに、二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可能であることを要
し、かつそれで足りる。また、反力伝達部材は、二叉腕を支えるために用いられる
ことを要し、かつ、それで足りる。なお、「軸受を押込み固定するプランジヤ」
は、軸受を押込む作用のみを行う押込みプランジヤと、かしめ(固定)作用のみを
するかしめプランジヤとが別体を構成する場合と、一つのプランジヤが押込作用と
かしめ作用とを兼有する場合とを含む。また、「軸受を押込み固定するプランジヤ
が、
ヽヽヽヽヽ押込力発生装置と結合されており」という場合の「結合」の態様は問わ
ない。
② 自動作業形式(Ⅰ)を採つた場合における被告装置について
 被告装置において、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手の二叉腕
(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させると同時に、トラニオン(5)を二叉腕
(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対位置におき、下部チヤツク(2)及び上
部バイス(3)でカルダン継手を固定した後に、フツク連結レバー(31)を下降
させ、第2ピストン(15)を油圧により後方に弱い圧力で後退させ、フツク(3
2)と二叉腕(1)の内側に当接させる。ストツパ(16)を固定し、更に第2ピ
ストン(15)の右端面に作用する油圧を強める(拡開は行われない)。次いで、
第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進させ、カシメツール(2
0)を前進させてスペーサーリング(22)を介して案内パンチ(19)を軸受ケ
ース(7)の端面がトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、か
つこの位置でカシメツール(20)によつてカシメ作業を終了させる。この押込・
固定作業の間、二叉腕(1)はフツク(32)によつて支えられているので、二叉
腕(1)は内側に弾性変形しない。
 右工程において、調節ナツト(24)と第2ピストン(15)に形成されたおね
じとは締付けられていて間隔(S)は零であり、かつストツパ(16)はロツクさ
れているので、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を強めても第2ピストン(1
5)は動かない(押込方向と反対方向に後退しない)。このような場合、第2油圧
シリンダ(12)内の油は剛体と化する。これによつてフツク連結レバー(31)
は押込力発生装置に固定された状態となる。
 次いで、第1油圧シリンダ(11)内に油圧力が加えられることによつて押込力
が発生し、第1ピストン(14)によつてカシメツール(20)が前進せしめられ
る。この押込力によつて押込力と等しくかつ方向が反対の反力が生ずる。反力は伝
達されるから、ここで発生した反力は、
カシメツール(20)・第1ピストン(14)・第1油圧シリンダ(11)内の圧
力油を通つて第2油圧シリンダ(12)と第1油圧シリンダ(11)との隔壁に達
し、かつ第2油圧シリンダ(12)の圧力油・第2ピストン(15)・フツク連結
レバー(31)・フツク(32)を介して二叉腕(1)に伝達される、その際第2
油圧シリンダ(12)内の油圧は一定に保たれているから、第1油圧シリンダ(1
1)・第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は一つの剛体と考えら
れ、フツク連結レバー(31)は、第1油圧シリンダ(11)に直接取付けられて
いるのとなんら変わりがない。
 かくして、被告装置では、二叉腕(1)側で押込力に基づく反力が発生し、この
反力は、前記経路を介してフツク連結レバー(31)及びフツク(32)に、更に
二叉腕(1)に順次伝達される。二叉腕(1)は、同じ大きさの押込力と反力との
作用を受けるので力の釣合が生じ、内側に弾性変形しない。
③ 手動作業形式(Ⅰ)を採つた場合における被告装置について
 被告装置において、案内パンチ(19)を軸受ケース(7)の端面がトラニオン
(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(2
0)によつてカシメ作業を終了させるまでの工程は、自動作業形式(Ⅰ)の場合と
同一であり、二叉腕(1)が弾性変形しない点も同様である。そして、手動作業形
式(Ⅰ)においては、右工程の後に二叉腕(1)が拡開されるのであるが、本件原
発明は、拡開のための装置までをも発明の要旨とするものではないから、これを無
視して差支えない。
 そうすると、手動作業形式(Ⅰ)においても、自動作業形式(Ⅰ)の場合と同様
に、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を強めても第2ピストン(15)は不動
で、第2油圧シリンダ(12)内の油は剛体と化し、第1ピストン(14)が押込
力によつて前進し、この押込力に基づく反力が第2ピストン(15)からフツク連
結レバー(31)及びフツク(32)を介して二叉腕(1)に伝達され、二叉腕
(1)は、同じ大きさの押込力と反力との作用を受けるので弾性変形しない。
④ 被告装置の構成(ハ)′・(ニ)′について
 右に検討したところによれば、被告装置における押込(作業)とは、送りピスト
ン(29)を再び前進させ、フツク(32)を二叉腕(1)の内側面に当接させ、
ストツパ(16)を固定し、その後に第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン
(14)を前進させてカシメツール(20)をスペーサーリング(22)の前端が
案内パンチ(19)の後端に当接するまで前進させるという準備工程(ここまでの
工程は押込工程ではない)を経た後、スペーサーリング(22)によつて案内パン
チ(19)が軸受ケース(7)の端面を押込み始める時から該端面に遊びなしに押
込むまで、をいうのである。したがつて、被告装置において、軸受(6)を押込も
うとする押込力によつて生じた反力がフツク連結レバー(31)及びフツク(3
2)を介して二叉腕(1)に伝達されるという点で、構成(ハ)′・(ニ)′にお
ける第1・第2各油圧シリンダ(11)・(12)及び第1・第2各ピストン(1
4)・(15)は、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)にいうところの押込力発
生装置に該当する。そして、被告装置においては、カシメツール(20)が軸受
(6)を押込み固定するプランジヤに該当し、案内パンチ(19)が軸受(6)を
押込むプランジヤに該当する。カシメツール(20)は押込力発生装置(第1ピス
トン(14))と固定的に結合しており、案内パンチ(19)は第1ピストン(1
4)と機能的に結合している。押込力発生装置の一部である第1油圧シリンダ(1
1)は、二叉腕(1)の軸方向で移動可能である。そうすると、構成(ハ)′は構
成要件(ハ)を充足する。
 次に、第2油圧シリンダ(12)内の圧力油が剛体化した後は、第1油圧シリン
ダ(11)・第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は一つの剛体とみ
なされる。したがつて、フツク連結レバー(31)は、第1油圧シリンダ(11)
(押込力発生装置の一部)に固定されているのと同じである。そうすると、構成
(ニ)′におけるフツク連結レバー(31)及びフツク(32)は構成要件(ニ)
における反力伝達部材に該当し、
構成(ニ)′は構成要件(ニ)を充足する。
(4) 結論
 以上のとおり、被告装置の構成は本件原発明の構成要件を充足し、被告装置はこ
れによつて本件原発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は本件
原発明の技術的範囲に属する。
(二) 本件追加発明と被告装置との対比
(1) 本件追加発明が本件原発明と追加の関係に立つ以上、両者の構成要件・機
能において重複するところがあるのは当然である。本件追加発明の構成要件(い)
は本件原発明の構成要件(イ)と同一内容であるから、前記本件原発明と被告装置
との対比におけるのと同様の理由により、被告装置の構成(い)′は本件追加発明
の構成要件(い)を充足する。
(2) 本件追加発明の構成要件(ろ)と被告装置の構成(ろ)′とを比較する。
 本件原発明の押込力・反力・押込力発生装置等に関して主張したことは、本件追
加発明の押込力・反力・押込力発生装置等についてもそのままあてはまる。そし
て、本件追加発明の要旨は、「ストツパーの調節範囲を広くして、種々異なる寸法
のカルダン継手を同一の組み立て装置によつて組み立て得るようにするものであつ
て、その要旨とするところは、押し込み作業の開始前に、押し込み力発生装置とス
トツパーとが、被結合軸の二又部の腕の孔の軸線方向で所定の相互間隔を保つた状
態で、二又部の腕の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能であるようにした点に存す
る。」(本件追加発明にかかる特許公報(甲第二号証、以下「本件追加特許公報」
という)八欄二行目ないし一〇行目)のであり、右の構成(構成要件(に)・
(ほ))にこそ本件追加発明の重要な特徴がある。すなわち、本件追加発明は、二
叉腕の拡開が行われることを前提とするものであるが、発明の要旨としては、押込
作業前において押込力発生装置とストツパーとが右のような相互間隔を保つた状態
で軸線方向で調節移動できるという点にあり、かつこれをもつて足り、拡開がどの
ような態様・方法・順序で行われるかは発明の要旨ではない。右の意味で拡開がな
されることを前提にすると、本件追加発明の押込力発生装置は、
一方では軸受を押込む装置であるとともに、他方では押込み過程中における反力の
伝達を仲介し、かつ二叉腕を反力伝達部材により拡開する作用を行うものである。
 被告装置の押込力発生装置をみるに、自動作業形式(Ⅰ)(ただし(S)が零で
ない場合)を採る場合、第2油圧シリンダ(12)は第1油圧シリンダ(11)と
一体をなし、第1油圧シリンダ(11)の一部をなすということができるのであ
り、また第2ピストン(15)は、フツク(32)を介して二叉腕(1)を拡開す
る際の拡開量を規制するものであつて、第2ピストン(15)が間隔(S)だけ移
動(後退)する場合、その移動した時点で第2油圧シリンダ(12)に固定されて
一体化し、第2油圧シリンダ(12)の一部となる。そして、第2油圧シリンダ
(12)内に圧力油が供給され第2ピストン(15)が間隔(S)だけ後退する
と、第2油圧シリンダ(12)、第2ピストン(15)、圧力油は互いに一体とな
り、あたかも第1油圧シリンダ(11)の付属物のごとき形で、第1油圧シリンダ
(11)及び第1ピストン(14)による軸受(6)の押込作業に参加する。かく
して、被告装置において、第1油圧シリンダ(11)・第1ピストン(14)・第
2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)をもつて移動可能な押込力発生装
置とすべきものであり、第2ピストン(15)は移動可能な押込力発生装置の一部
である。
 そして、被告装置において、カシメツール(20)が本件追加発明の軸受を押込
み固定するプランジヤに、案内パンチ(19)が同じく軸受を押込むプランジヤに
該当し、カシメツール(20)が押込力発生装置(第1ピストン(14))と固定
的に結合し、案内パンチ(19)が第1ピストン(14)と機能的に結合している
ことは、本件原発明と被告装置との対比で主張したとおりである。そうすると、構
成(ろ)′は構成要件(ろ)を充足する。
(3) 本件追加発明の構成要件(は)と被告装置の構成(は)′とを比較する。
 被告装置において、フツク連結レバー(31)を介してフツク(32)が、
押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)に連結されているが、前記のと
おり第2ピストン(15)は移動(後退)した時点で第2油圧シリンダ(12)と
一体化しその一部となるので、フツク(32)は、移動可能な押込力発生装置の一
部である第2油圧シリンダ(12)に連結されているのと同じである。したがつ
て、構成(は)′におけるフツク連結レバー(31)及びフツク(32)は、構成
要件(は)における反力伝達部材に該当し、構成(は)′は構成要件(は)を充足
する。
(4) 本件追加発明の構成要件(に)と被告装置の構成(に)′とを比較する。
 被告装置において、本件追加発明のストツパーに該当するのはストツパ(16)
である。すなわち、ストツパ(16)を係止機構(17)によりロツク及びロツク
解除シリンダ(13)にロツクして位置を固定した後、二叉腕(1)を(定寸)拡
開する際、押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)が、ストツパ(1
6)と第2ピストン(15)との間に配置されて両者間に所望の間隔(S)を維持
する作用をするばね(23)のばね力に打ち勝つて、押込方向とは逆方向にストツ
パ(16)のフランジ面に当たるまで後退する。ストツパ(16)は固定されてい
るので第2ピストンの自由端面が当たつても動かない。したがつて、ストツパ(1
6)が押込力発生装置の一部である第2ピストン(15)の移動距離を制限してい
ることになるから、構成(に)′は構成要件(に)を充足する。
(5) 本件追加発明の構成要件(ほ)と被告装置の構成(ほ)′とを比較する。
 被告装置において、送りピストン(29)が油圧によつて前進せしめられると、
ストツパ(16)及び押込力発生装置が一緒に二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線
方向で前進するが、ストツパ(16)と第2ピストン(15)との間隔(S)は、
調節ナツト(24)とばね(23)とにより所定の相互間隔を保つた状態を維持す
る。すなわち、押込作業の開始前に、ストツパ(16)と押込力発生装置の一部で
ある第2ピストン(15)とが、
所望の間隔(S)を保つた状態で二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で一緒に
移動可能である。したがつて、構成(ほ)′は構成要件(ほ)を充足する。
(6) 結論
 以上のとおり、被告装置の構成は本件追加発明の構成要件を充足し、被告装置は
これによつて本件追加発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は
本件追加発明の技術的範囲に属する。
(三) 本件分割発明と被告装置との対比
(1) 本件分割発明の構成要件(a)と被告装置の構成(a)′とを比較する。
 被告装置の二叉部の二叉腕(1)は本件分割発明のフオーク端部のフオーク腕
に、二叉腕(1)の軸受孔(4)は孔に、十字軸のトラニオン(5)はピンにそれ
ぞれ該当するから、構成(a)′が構成要件(a)を充足することは明らかであ
る。
(2) 本件分割発明の構成要件(b)と被告装置の構成(b)′とを比較する。
 本件分割発明における継手十字体を軸のフオーク部に対して正しい相対位置にお
く機構の意味及び解釈は、本件原発明の構成要件(ロ)(継手十字体を軸の二叉端
部に対して正しい相対位置におく機構を有すること)の意味及び解釈がそのままあ
てはまる(ただし、本件分割発明のフオーク部は本件原発明の二叉部に対応す
る)。そして、これを前提として被告装置をみると、被告装置は下部チヤツク
(2)及び上部バイス(3)によつて継手十字体を正しい相対位置においている、
といいうるのであつて、この点も本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置との対比
について主張したところがそのままあてはまる。したがつて、構成(b)′は構成
要件(b)を充足する。
(3) 本件分割発明の構成要件(c)と被告装置の構成(c)′とを比較する。
 被告装置において、第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進さ
せて、カシメツール(20)をスペーサリング(22)の前端が案内パンチ(1
9)の後端に当接するまで前進させ、これによつて案内パンチ(19)が軸受ケー
ス(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込む。した
がつて、
被告装置のカシメツール(20)及び案内パンチ(19)が構成要件(c)のプラ
ンジヤに該当し、構成(c)′は構成要件(c)を充足する。なお、本件分割発明
は、押込力発生装置と二叉腕との間に保持クランプが配置されることを要件とする
ものでないから、被告装置において、押込力発生装置と二叉腕(1)との間に保持
クランプに該当する部材が配置されているか否かを検討する必要はない。
(4) 本件分割発明の構成要件(d)と被告装置の構成(d)′とを比較する。
 被告装置において、押込方向と逆方向に移動する第2ピストン(15)は案内パ
ンチ(19)の押込方向とは逆方向に移動可能な部分である。そして、第2ピスト
ン(15)にその一端が枢着されているフツク連結レバー(31)を下降させ、第
2ピストン(15)を弱い圧力で後退させ、フツク連結レバー(31)の他端部で
あるフツク(32)を二叉腕(1)の内側面に係合させ(ストツパ(16)をロツ
ク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(17)によつて固定し)、第2
ピストン(15)を油圧により後退させて二叉腕(1)を弾性変形させて拡開する
のである。したがつて、構成(d)′は構成要件(d)を充足する。
(5) 本件分割発明の構成要件(e)と被告装置の構成(e)′とを比較する。
 被告装置において、軸受(6)の押込・固定後第2ピストン(15)を前進させ
てフツク(32)を二叉腕(1)から前へ離して二叉腕(1)の弾性変形を解除す
ると、二叉腕(1)はその弾性変形によつて生じた戻りばね力に基づいて再び最初
の位置に戻ろうとするが、軸受(6)が二叉腕(1)の軸受孔(4)内で既に固定
されているので最初の位置に戻ることができず、戻りばね力が軸受(6)に作用し
てこれを十字軸のトラニオン(5)に圧着する。したがつて、構成(e)′は構成
要件(e)を充足する。
(6) 結論
 以上のとおり、被告装置の構成は本件分割発明の構成要件を充足し、被告装置は
これによつて本件分割発明と同一の作用効果を達成している。よつて、被告装置は
本件分割発明の技術的範囲に属する。
6 右のとおりとすると、
被告光洋精工が被告装置を業として販売・貸渡し、被告光洋機械が被告装置を業と
して製造・販売することは、原告の有する本件各特許権を侵害することになる。
 よつて、原告は、特許法一〇〇条一、二項により、被告光洋精工に対して被告装
置の販売・貸渡しの差止めと被告装置の廃棄を、被告光洋機械に対して被告装置の
製造・販売の差止めを、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)について
本件原発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可能で
あるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、被告らは原告と異なる
見解を有している。
 本件原発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は次のとおりであ
る。
 両方の軸及び継手十字体を互いに正確な相対位置においた後に、ピンの長さ及び
二叉腕の厚さに無関係に軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込む
ことができ、この押込過程中に二叉腕が押込力によつて弾性変形せしめられず、か
つ押込後に軸受が最初からある程度のばね力をもつて継手十字体のピンに圧着され
ているようにすることができ、その結果、軸受と孔との間の摩滅に基づく軸方向の
遊びを補償できる。
(二) 同2(二)について
 本件追加発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可
能であるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、被告らは原告と異
なる見解を有している。
本件追加発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は次のとおりであ
る。
 本件追加発明は、ストツパー若しくは組立装置全体を取替えることなしに種々異
なる寸法のカルダン継手を組立てることが可能である。また、二叉部の腕の厚さの
公差に基づく変化も極めて簡単に補償して、すべてのカルダン継手において継手十
字体のピンに対する軸受のばね圧着力の大きさを常に同じにすることができる。
(三) 同2(三)について
 本件分割発明の特許請求の範囲の記載を原告主張の構成要件に分説することは可
能であるが、その一つ一つの用語の有する技術内容については、
被告らは原告と異なる見解を有している。
本件分割発明の作用効果についての主張は争う。その作用効果は本件原発明の作用
効果と同一である。
3 同3のうち、別紙物件目録の記載について以下指摘する部分の表現を争い、そ
の余の事実は認める。右部分は次のとおり訂正・変更・付加・削除されるべきであ
る。
(一) 第1図に示された装置が被告装置であるカルダン継手組立機の一部である
ことを明確にするために、第1図の説明文中、「カルダン継手組立機の一部の縦断
面略図、」との表現を、「カルダン継手組立機の一部の装置の縦断面略図、」と訂
正されるべきである。
(二) 第2ピストン(15)が第2油圧シリンダ(12)内で摺動するのは当然
のことであるから、「第2ピストン(15)が摺動可能に設けられている。」との
表現は、「第2ピストン(15)が装入されている。」と訂正されるべきである。
(三) 「(22)はスペーサリングで、第1ピストン(14)によつてカシメツ
ール(20)を前進させる際、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオ
ン(5)に隙間がなくなるまで押込むようにカシメツール(20)の前進量を規定
するためのものである。」のうち、「案内パンチ(19)を介して軸受(6)をト
ラニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むように」との部分は削除されるべきで
ある。
 スペーサーリング(22)はカシメツール(20)の前進量を規定するためのも
のであつて、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)の端面に
隙間がなくなるまで押込むためのものではない。軸受(6)はカシメツール(2
0)を前進させる前にすでに案内パンチ(19)によつてトラニオン(5)の端面
に隙間がなくなるまで押込まれている。
(四) 「しかし、この間隔(S)が零になるようにナツト(24)を締付けるこ
ともできる。」との部分は削除されるべきである。
 被告装置においては、この間隔(S)は第2ピストン(15)とストツパ(1
6)の両者をその間隔(S)を保つたまま第2油圧シリンダ(12)内への低圧油
の供給によつて後退させ(一次拡開)、
係止機構(17)によつてストツパ(16)を軸方向に固定させたうえ、更に高圧
油を供給することによつて、この間隔(S)を保持するばね(23)を圧縮させな
がら間隔(S)が零になるまで第2ピストン(15)を更に後退させ二次拡開を行
うのである。
 もし、原告主張のように、二叉腕(1)の二次拡開を無視し、この間隔(S)を
零にしてカルダン継手の組立てを行うとすれば、二叉腕(1)は僅かに一次拡開さ
れるだけで所定量の拡開が行われず、したがつて軸受(6)固定後二叉腕(1)の
所定の戻りばね力(予圧)を軸受ケース(7)の底面と十字軸のトラニオン(5)
の端面に与えることができないから、所期の組立てを行うことができない。
(五) 「(26)は案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節するナツト
で、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピストン(2
9)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介しての案内パン
チ(19)の最大前進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置で、案内パ
ンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように調節することもでき
る。」との部分は、「(26)は案内パンチ押軸(18)の位置を調節するナツト
で、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピストン(2
9)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介して案内パンチ
(19)の最大前進位置を決定する。」と表現するのが妥当である。すなわち、被
告装置において、「ヘツド前進位置で、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(2
6)とが接触しないように(調節ナツト(26)を)調節する」ことはできない。
このような操作をすれば、軸受及び十字軸の位置決めをすることができなくなる。
(六) 「そして、挟持部材(61)・(62)は、突起(57)・(58)と挟
持部材(61)・(62)間にそれぞれ配置されたばね(63)・(64)によつ
て互いに付勢されて他方の支柱(54)に固着された凸状部材(65)を挟持して
いる。」の次に、「したがつて、上部バイス(3)が取付けられた支持体(55)
は、
その枢着支点(56)を中心にバネ(63)・(64)の撓みによつて僅かに移動
しうる状態にある。」との説明が付加されるべきである。
(七) 「ボルト(66)・(67)は調節ボルトであつて、作業開始前に下部チ
ヤツク(2)の中心に上部バイス(3)の把み位置の中心を一致するように調節す
る際、第5図に示す状態から隙間(δ)がなくなるまでねじ込んで支持体(55)
を固定したり、作業開始後に隙間(δ)をあけておいて作業できるようにしたり、
隙間がなくなるように締付けておいて作業できるようにするためのものである。」
のうち、「位置の中心を一致」から後の文章、すなわち、「するように調節する際
……できるようにするためのものである。」の部分は、現実の構造と作業手順に合
致する表現としては、「調節するための調節ボルトであつて、調節作業後は、挟持
部材(61)・(62)に対しそれぞれ隙間(δ)を保つている。」とするのが正
確である。
4 同4のうち、被告装置が原告主張の作業形式によつて作動できるとの事実は否
認し、被告装置が本件各発明に対応して原告主張の構成に分説できるとの主張を争
う。
5 同5、6の主張は争う。
三 被告らの主張
1 被告装置に関する原告主張の各作業形式について
 原告主張の作業形式は、いずれも観念上のものであつて現実に被告らが採用して
いる作動方法ではない。現実に被告らが用いている作動方法は、別紙作動目録
(二)記載のとおりである。被告装置は、同目録記載の作動方法による自動組立装
置として実用に供されているのであつて、手動組立装置としては実用に供されてい
ない。被告装置は、手動で行う単品生産ではなく、セツトされた作業工程に従つた
大量生産を目的としたものであり、手動切換用スイツチは大量生産を行うための準
備ないし点検のために設けられたものにすぎない。そもそも、本件各発明にしろ被
告装置にしろ、大量生産に適するように作業を機械化して製作費を低廉にすること
を目的としている。このような装置について、わざわざ製品を一つ一つ生産する手
動式のものを想定して検討を加えること自体非常識である。
現実に用いられない概念的に案出された作業形式を特許権侵害の議論の対象とすべ
きではない。
 のみならず、原告主張の手動式作業は、原告の指定する順序に従つて行つても技
術的に種々の難点が生じる。
 まず、原告主張の作業形式では、ヘツド前進位置で調節ナツト(26)が案内パ
ンチ押軸(18)に接触しないように調節しておくことが前提となるが、調節ナツ
ト(26)は、送りピストン(29)の前進とともに前進させられる案内パンチ押
軸(18)に後端を押される案内パンチ(19)が、軸受ケース(7)の内底面を
十字軸のトラニオン(5)の端面に接触させたときに、十字軸の中心が組立機の作
業線X―X軸、Y―Y軸の交点に一致するように、案内パンチ(19)の最大前進
位置を決めるためのものであり、これによつて十字軸の中心が被結合軸の軸線に一
致することになる。原告主張の作業形式では、調節ナツト(26)が右機能を果せ
ないために十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とを一致させることができず、不
良品しか製造できない。
 すなわち、二叉腕(1)の軸受孔(4)は、実際には被結合軸の軸線にその中心
が一致するように加工されておらず、芯ずれが生じているのが普通である。被告装
置は、このような被結合軸を組立てるときに、二叉腕(1)に加わる異常な力を逃
がすために上部バイス(3)の支持体(55)が僅かに移動しうるようになつてい
る。したがつて、下部チヤツク(2)によつて固定された被結合軸は不動である
が、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸は移動しうる状態であつて、い
まだ二つの被結合軸の軸線と十字軸の中心との一致は行われていない。
 右一致が行われるのは被告ら主張の十字軸の位置決め工程においてである。この
工程において、前進する送りピストン(29)は、同ピストンの先端に螺着された
調節ナツト(26)の端面を、案内パンチ押軸(18)の後端面に当接させて案内
パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押し進めることにより、四方から軸
受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。ところ
で、案内パンチ(19)は、
軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させたとき
に、十字軸の中心が被告装置の組立機の作業線X―X軸とY―Y軸との交点(組立
機の作業中心)に一致するように、その最大前進位置が調節ナツト(26)で後記
のとおり調節されている。したがつて、案内パンチ(19)が四方から同時に軸受
(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に接触させる
ことにより、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸が十字軸と一緒に移動
し、この移動に追従して上部バイス(3)を取付けた支持体(55)も移動して、
十字軸の中心と組立機の作業中心とが一致し、下部チヤツク(2)に固定された被
結合軸の軸線に十字軸の中心と上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸の軸
線とが一致する。
 そして、調節ナツト(26)による案内パンチ(19)の最大前進位置の調節・
決定は準備作業として次のとおり行われる。案内パンチ(19)の最大前進位置
は、軸受ケース(7)の底面が十字軸のトラニオン(5)の端面に接触したときの
対称位置にある各軸受ケース(7)の外底面間の距離a(別紙作動目録(二)添付
第16図参照)によつて規定される。距離aと同じ直径aを有する円柱形のセツト
ゲージ(同目録添付第17図参照)の脚を下部チヤツク(2)に挿入して固定す
る。次に、調節ナツト(26)を後退させておいて、ヘツドボデー(10)を最大
前進位置におき、調節ナツト(26)をセツトゲージ・案内パンチ(19)・案内
パンチ押軸(18)・調節ナツト(26)の各面が当接して密着するまで前進さ
せ、その位置にロツクナツト(27)で固定する。
 ところが、原告主張の作業形式では、案内パンチ(19)の最大前進位置を調節
するための調節ナツト(26)及びロツクナツト(27)が、調節ナツト(26)
の機能を全く奏しえない状態にまで締込まれているため、手動作業形式(Ⅰ)の
(三)″の工程において、送りピストン(29)を再び前進させて案内パンチ(1
9)の先端が二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)の底面に当たる位置
にヘツド(9)を前進させても、
案内パンチ(19)は、二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受(6)をばね
(41)の力で押すだけで、送りピストン(29)の力の作用を調節ナツト(2
6)及び案内パンチ押軸(18)を介して受けることがないから、軸受(6)を押
込んで軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するま
で押込むことがない。したがつて、上部バイス(3)によつて挟持された二叉腕
(1)が十字軸と一緒に移動するということがなく、これにともない上部バイス
(3)を取付けた支持体(55)も移動しないから、下部チヤツク(2)に固定さ
れた被結合軸(下部二叉腕)の軸線に、十字軸の中心と上部バイス(3)によつて
挟持された被結合軸(上部二叉腕)の軸線とが一致しえない。
 のみならず、原告主張の作業形式において、カシメツール(20)を前進させて
軸受(6)を押込みかしめる場合に、被告装置はX軸・Y軸の四方から押込みを行
うのであるから、X軸方向(Y軸方向)の対向する左右の押込みかしめ力に差があ
るとすれば、力の弱い側の十字軸・軸受ケース(7)・案内パンチ(19)・案内
パンチ押軸(18)は、反対側の強い押込みかしめ力に負けて、押込方向とは反対
方向に案内パンチ押軸(18)の後端が調節ナツト(26)に当接するまで後退さ
せられる。その結果、十字軸の中心と被結合軸の軸心線とが一致せず、芯ずれを生
じる。対向する左右の押込みかしめる力を同じ大きさにしても、摺動部の抵抗、圧
油の流れる量等の要因で、実際に出ている左右の力には不均衡が生じやはり芯ずれ
が生じる。そうすると、原告主張の各作業形式では精度のよい製品を作ることはで
きず不良品を作るだけであるから、現実に実用に供しえないことは明らかであり、
被告装置において原告主張の各作業形式を考慮することは意味がない。
 次に、自動作業形式(Ⅰ)の(三)の工程で間隔(S)を零にする場合が想定さ
れているが、被告装置において間隔(S)は是非必要なものであり、これによつて
正確なカルダン継手を製作することができるのである。間隔(S)を零にすれば、
不良品を作るだけである。
 また、
ロツク及びロツク解除シリンダ(13)にストツパ(16)を固定している係止機
構(17)の固定作用を同シリンダ(13)内の油圧を低下させることによつて解
除する、との工程についていえば、油圧作用の性質上、ロツク及びロツク解除シリ
ンダ(13)内の油圧がストツパ(16)のロツクを解除する状態まで瞬時に減圧
することはないから、ストツパ(16)が完全にロツク解除されるまでに、高圧の
油圧作用を受けている第2ピストン(15)とストツパ(16)とが一緒に後退を
始める。その結果ストツパ(16)は係止機構(17)内で摩擦的に摺動し、スト
ツパ(16)と係止機構(17)の接触面を極度に摩耗し、装置の使用を不能にし
てしまう。
 更に、カシメツール(20)によるカシメ作業が終了した後に二叉腕(1)を高
圧で拡開する場合、この拡開に要する力は二叉腕(1)の弾力とカシメツール(2
0)のカシメ力の和よりも大きな力でなければならず、そのような強い力で二叉腕
(1)のそれも肉厚の薄い先端部を引張ると、二叉腕(1)の先端部を破壊するお
それがあり、また、作業者が二叉腕(1)の拡開時間を、作業者がスイツチ切換操
作により軸受ケース(7)とトラニオン(5)の端面に与える所望の予圧量が得ら
れる程度のカシメの付加的進行に合せて適正に調節することは不可能である。
 以上のとおり、被告装置において原告主張の各作業形式を採ることはできない。
現実に用いられている別紙作動目録(二)記載の作業方法を前提として、被告装置
の構成を分説すると次のとおりとなる。
(一) 本件原発明の構成要件に対応した構成の分説
(イ)″ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内に、
十字軸のトラニオン(5)を収容するための半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸
受(6)が配置されている形式のカルダン継手の組立装置であること。
(ロ)″ 二叉腕(1)の軸受孔(4)内に、十字軸のトラニオン(5)が挿入配
置されるとともに、
各軸受孔(4)内に外方から軸受(6)が挿入されて十字軸のトラニオン(5)を
軸受孔(4)内で回動自在に支持するように予備組立されたカルダン継手の両方の
軸を支持する下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)と、上部バイス(3)が取
付けられ装置の一作業線方向に僅かに移動自在に設けられた支持体(55)と、二
叉腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊
びなしに接触するまで押込んで継手の両方の軸の軸線に対し十字軸の中心を一致さ
せるとともに、トラニオン(5)の端面に対して軸受(6)を位置決めする案内パ
ンチ(19)とにより、下部チヤツク(2)に固定された被結合軸の軸線に、十字
軸の中心と上部バイスによつて挟持された被結合軸の軸線とを一致させる機構を有
すること。
(ハ)″ 二叉腕(1)の軸受孔(4)内に既に押込まれた軸受(6)を軸方向に
固定するためのカシメツール(20)が、送り油圧シリンダ(28)内の油圧によ
り不動の状態に位置決めされたヘツドボデー(10)の一部を構成する第1油圧シ
リンダ(11)内の第1ピストン(14)と結合されていること。(ニ)″ ヘツ
ドボデー(10)の一部を構成する第2油圧シリンダ(12)内の第2ピストン
(15)と二叉腕(1)との間には、二叉腕(1)を引張り拡開するフツク連結レ
バー(31)及びフツク(32)が配置されていること。
(二) 本件追加発明の構成要件に対応した構成の分説
(い)″ 二つの被結合軸の端部に形成された二叉腕(1)の軸受孔(4)内で、
十字軸のトラニオン(5)が半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)によつ
て収容されているカルダン継手の組立装置であること。
(ろ)″ 予備組立てされたカルダン継手の軸受(6)をトラニオン(5)の端面
に遊びなしに接触するまで押込む案内パンチ(19)が、案内パンチ押軸(18)
を介して機台(52)に不動に固定された(二叉部の腕(1)に対して相対的に孔
の軸方向で移動不可能な)押込力発生装置(28)・(29)と連結されているこ
と。
(は)″ この押込力発生装置(28)・(29)と二叉腕(1)との間に反力伝
達部材なるものは全然配置されていないこと。
(に)″ 押込方向とは逆方向に移動し、二叉腕(1)をフツク連結レバー(3
1)及びフツク(32)を介して引張り拡開する第2ピストン(15)の移動距離
を制限するストツパ(16)が設けられている組立装置であること。
(ほ)″ 押込作業の開始前に、押込力発生装置(28)・(29)とストツパ
(16)とが、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で所定の相
互間隔を保つた状態で二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線方向で一緒に調節移動可
能でないこと。
(三) 本件分割発明の構成要件に対応した構成の分説
本件原発明の構成要件に対応した構成の分説(イ)″・(ロ)″・(ハ)″・
(ニ)″に同じ。
2 本件原発明と被告装置との対比
(一) 被告装置の構成(イ)″が本件原発明の構成要件(イ)を充足することは
認める。
(二) 本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)″とを比較する。
 本件原発明の構成要件(ロ)に示された機構については、本件原特許明細書の詳
細な説明中で、当業者(出願当時その発明の属する技術分野における通常の知識を
有する者)が容易にその実施をすることができる程度に具体的な開示がなされてい
ない。
 すなわち、本件原特許明細書添付の第1図ないし第4図(本件原発明の組立装置
を略示等した図)を説明する中で、「継手十字体5は軸1に対して直角なピン6お
よび7を有しているが、この十字体は図示していない保持装置によつて掴まれて軸
1および二叉腕の孔910に対して正しい相対位置におかれる。」(本件原特許公
報四欄三二行目ないし三六行目)と記載され、同第8図(組立装置を示した図)を
説明する中で、「軸1に対して直角な両方のピン6および7は図示していない保持
装置によつて、二叉腕2および3の孔9および10に対して正しい位置に固持され
ている。」(同公報七欄五行目ないし八行目)と記載されている。ところで、第1
図と第8図に示す組立装置では、
二叉腕2・3の孔9・10に継手十字体5のピン6・7が宙に浮かんだ状態で示さ
れており、また軸受13は二叉腕2・3の外側に押込前の位置にあるので、本件原
発明では、予備組立しない方法でカルダン継手を組立てる組立装置を対象としてい
るといわざるをえないが、その場合、継手十字体を軸の二叉端部に対しどのように
して正しい相対位置におくのか、その具体的機構については、前記載以外に明細書
になんらの説明もない。したがつて、当業者が明細書に基づいて右機構を実施しよ
うとしても実施することができず、このような明細書の記載が特許法三六条四項・
五項に違背することはいうまでもない。右のとおり本件原特許は特許法一二三条所
定の無効原因を有しているから、本件侵害訴訟の関係でいえば、本件原特許権は実
体を備えない発明につき付与されたと評価されるべきであり、その権利行使を否定
されるべきである。なお、甲第一三、第一四号証の装置は、本件原発明に適用しえ
ない構造となつているから、これをもつて右指摘の発明の未開示を償うことはでき
ない。
 被告装置において二つの被結合軸の軸線に十字軸の中心を一致させるのは、前記
のとおり別紙作動目録(二)記載の位置決め工程の方法による。これを略記する
と、調節ナツト(26)により案内パンチ押軸(18)を介して最大前進位置があ
らかじめ調節された案内パンチ(19)が、四方より軸受ケース(7)の底面をト
ラニオン(5)の端面に接触するまで押込んだときに、上部バイス(3)によつて
挟持された被結合軸すなわち二叉腕(1)が十字軸と一緒に移動し、この移動に追
従して上部バイス(3)を取付けた支持体(55)も移動して、下部チヤツク
(2)に固定された被結合軸の軸線に、十字軸の中心と上部バイス(3)によつて
挟持された被結合軸の軸線とが一致するのである。
 以上のとおりであつて、本件原発明は構成要件(ロ)において無効原因を有する
ものであり、これを看過して登録された本件原特許に基づく権利行使は否定される
べきであるから、被告装置が本件原特許権を侵害していないことは明らかである。
のみならず、
被告装置の構成(ロ)″が構成要件(ロ)を充足しないことも明らかである。
(三) 本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と被告装置の構成(ハ)″・(ニ)
″とを比較する。
(1) 本件原発明について
本件原発明は、反力による二叉腕の拡開をその技術内容に包含するものである。
 本件原特許明細書の発明の詳細な説明によれば、本件原発明においては、一つの
シリンダーによつて、一方では軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで
押込み、他方では二叉腕の端部の内面に保持クランプを引掛けておき、前記押込み
の後更に押込みを続け、押込力によつて生ずる反力によつてストツパーによる規制
距離まで二叉腕の拡開が行われる。これにより軸受が最初からある程度のバネ力を
もつて継手十字体に圧着される(以下「予圧」という)。このように、軸受を継手
十字体のピンに接触するまで押込むだけでなく、更に二叉腕に予圧のための拡開を
加え軸受を軸方向に固定することによつて、産業上利用しうる実用的なカルダン継
手を得ることができる。
 本件原発明が反力による拡開を要旨とするものであることは、本件原特許明細書
の記載によつて裏付けられる。すなわち、本件原発明の課題は、「両方の軸および
継手十字体を互いに正確な相対位置においた後に、ピンの長さおよび二叉腕の厚さ
に無関係に軸受を継手十字体のピンに遊びなしに接触するまで押込むことができ、
この押込過程中に二叉腕が押込力によつて弾性変形せしめられず、かつ押込後に軸
受が最初からある程度のばね力を以つて継手十字体のピンに圧着されているように
することである。」(本体原特許公報三欄六行目ないし一三行目)。右課題を解決
するために、本件原発明は前記特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用した
が、その技術的意味について、「本発明の要旨とするところは、継手十字体および
被結合軸の二叉腕を互いに正確な相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体
のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込み、その際に押込力に基く反
力を二叉腕のところで支える点にある。軸受をピンに完全に接触するまで押込んだ
後に押込力をさらに作用させると、
二叉腕に作用する反力により二叉腕がそのつどあらかじめ調整せしめられている距
離だけ押込方向とは逆の方向に弾性変形で拡開せしめられ、その際に軸受は二叉腕
の孔内でこれと相対的に移動して、継手十字体のピンに遊びなしに接触した状態に
とどまる。二叉腕の拡開が終了した時或いはその後で、ピンに遊びなしに接触して
いる軸受が二叉腕の孔内で固定される。次いで押込力を取除くと、二叉腕の拡開に
よつて生じる戻りばね力が軸受に作用し、軸受をピンに圧着する。」(同公報三欄
一四行目ないし三〇行目)と説明している。すなわち、押込過程中においては、軸
受を軸の二叉端部の腕の孔内に押込む際の押込力によつて生ずる反力を二叉腕に伝
達するとともに、二叉腕のところで支えることによつて二叉腕を弾性変形させない
ようにする(同公報三欄三四行目ないし四三行目、四欄七行目ないし一二行目、四
欄三七行目ないし五欄二行目参照)一方、「押込後軸受13がある程度のばね作用
を以つてピンに圧着されているようにするためには、装置11が押込方向とは逆の
方向に一定距離だけ動き得るようにしなければならない」(同公報五欄八行目ない
し一一行目)。その詳細は、「部分14によつてひき続き二叉腕2に伝達される反
力は、二叉腕および装置11を、ストツパーによりあらかじめ調整されている距離
だけ押込方向とは逆の方向に動かす。要するに二叉腕はその最初の位置から押込方
向とは逆の方向に弾性変形せしめられる。この弾性変形と同時に軸受13が孔内に
対して相対的に動かされる。この状態で第4図に示されており、この状態で軸受1
3は図示していない形式で孔9内に固定され、軸の回転中に押込方向とは逆の方向
で軸受に作用する軸方向の力が二叉腕2に伝達されるようにする。押込力を取除く
と、二叉腕2は弾性変形によつて生じた戻りばね力に基いて再び最初の位置に戻ろ
うとする。しかし二叉腕2の孔の内で軸受が既に固定されているので、二叉腕はそ
の最初の位置にもはや戻ることができず、従つて戻りばね力に軸受13に作用して
これを継手十字体のピン7に圧着する。」(同公報五欄三八行目ないし六欄一〇行
目)と説明されている。"
そして、拡開中或いは拡開直後の軸受の固定によつて、継手十字体の組立が完了す
る(同公報六欄一一行目ないし一三行目、三六行目ないし四五行目参照)。
 次に、本件原発明における反力は、押込力と同じ大きさの力であつて、押込力と
は逆の方向の力であり、押込力によつて押込力の発生と同時に同じ発生源で生ずる
力である。このことは、本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目、四欄三七行目
ないし五欄二行目、七欄九行目ないし一三行目の記載のほか、同特許公報七欄三七
行目から八欄五行目までの「軸受を押込むためには先ずシリンダ室43に導管Ⅱを
介して圧力油が供給されて、ピストン面43に圧力が作用せしめられる。これによ
り生ずる力はばね32を介してプランジヤ20に伝達されて、軸受13が二叉腕2
の孔9内に押込まれる。ばね32のばね力はピストンとプランジヤとがこの最初の
押込段階ではまだ剛性的に結合されているような大きさに定められている。シリン
ダ室42内に生ずる圧力は同時にシリンダ面44に作用して、これを押込方向とは
逆の方向に押そうとする。この圧力は保持クランプ14を介して二叉腕2に伝達さ
れて、この二叉腕のところで押込力を釣合する。これにより二叉腕2は押込過程中
に最初の位置を維持する。」との記載、及び同報八欄一五行目から二七行目までの
「軸受13がプランジヤ20によつて継手十字体のピン7に遊びなしに接触するま
で押込まれると、導管Ⅱひいてはシリンダ室42内の圧力が増大せしめられる。軸
受13は既にピン7に接触しているので、それ以上押込まれず従つてピストン面4
3およびシリンダ面44に作用する力はばね32を圧縮してかしめプランジヤ46
を孔9内に押込み、これにより突起が形成される。同時にシリンダ面44および保
持クランプ14を介して力が二叉腕2に伝達されて、二叉腕がシリンダ30と一緒
に押込方向とは逆の方向に動かされて、ピン状突出部33が楔面41に接触せしめ
られる。この場合ばね37は圧縮される。」との記載によつて裏付けられ、また、
本件原特許出願経過書類中の昭和四三年一月八日付出願人の意見書(乙第一号証の
四)、
同年六月一二日付出願人の意見書(同号証の六)の記載、特許庁審査官の昭和四七
年六月二九日付特許異議の決定(同号証の二一)によつても支持される。
 仮に、原告主張のように反力が軸受と二叉腕のところで生ずるとして反力の伝達
経路を見ると、伝達される反力は、シリンダのピストン面43で力が釣合い相殺さ
れて消えてしまい、二叉腕を支える力とはなりえない。すなわち、二叉腕を支える
力としての反力は、シリンダのピストン面43に対向するシリンダ面44に押込力
によつて生じ、この反力が伝達されて二叉腕のところでこれを支える力となつて現
われる、と理解すべきである。
 また、本件原発明における押込力発生装置について、本件原特許明細書の特許請
求の範囲には、「軸受を押込み固定するプランジヤが、二叉端部の腕に対して相対
的に孔の軸方向で移動可能な押込力発生装置と結合されておりこの押込力発生装置
と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されている」と記載され、更に同明細書の発
明の詳細な説明中において、「押込力発生装置は、二叉腕の孔の方向で移動可能な
シリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンと成つており、このピストンは
押込プランジヤと結合されていて、例えば圧力油によつて押される。この場合シリ
ンダは、二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有している。」(本件原特許
公報四欄七行目ないし一二行目)、「押込力発生装置が、二叉腕の孔の方向で移動
可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能で押込プランジヤと結合されている
ピストンとより成つており、シリンダが、二叉腕に作用する保持クランプを有し」
(同公報九欄二八行目ないし三二行目)と説明されている。
 右明細書の記載及び説明によると、押込力発生装置は、(ⅰ)二叉腕の孔の方向
で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンから構成されてい
る、(ⅱ)このピストンは軸受を押込み固定するプランジヤと結合されている、
(ⅲ)シリンダは二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有している、という
三つの特徴を持つものである。
(2) 被告装置について
 被告装置において、
軸受(6)の押込みがなされるのは、別紙作動目録(二)記載の位置決め工程にお
いて、送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)によつてである。
 すなわち、予備組立てされたカルダン継手を下部チヤツク(2)及び上部バイス
(3)で保持した後、送り油圧シリンダ(28)内に油圧路(39)から圧油を供
給し、送りピストン(29)を送り油圧シリンダ(28)の前壁に当接するまで前
進させ、ヘツドボデー(10)を案内レール(40)に沿つて前進させる。この送
りピストン(29)の前進により案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)
は、緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(10)と一緒に前
進する。案内パンチ(19)の先端が軸受ケース(7)の底面に当接すると、前進
する送りピストン(29)は緩衝用押軸(45)及び案内パンチ押軸(18)を介
して案内パンチ(19)を押しているばね(41)を圧縮しながら前進し、送りピ
ストン(29)の先端に螺着された調節ナツト(26)の端面を案内パンチ押軸
(18)の後端面に当接させて、送り油圧シリンダ(28)内の油圧で案内パンチ
押軸(18)及び案内パンチ(19)を押進め、これにより案内パンチ(19)が
二叉腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を
十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。ここで軸受(6)の押
込みが完了する。この場合、送り油圧シリンダ(28)内の油圧は、一方では送り
ピストン(29)を軸受(6)の押込方向に押出し、他方では送り油圧シリンダ
(28)を逆方向に反力の作用で移動させようとするが、送り油圧シリンダ(2
8)は、位置決め装置(42)によつて位置が固定され、下端両翼部(48)を案
内レール(40)にボルトと締付板(49)で締付けられて不動に固定されている
から、送りピストン(29)の押込力によつて反力が生じても逆方向に移動するこ
とはない。換言すれば、仮に、
送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)・ヘツドボデー(10)・緩衝
用押軸(45)・案内パンチ押軸(18)・案内パンチ(19)を本件原発明の押
込力発生装置とみなしても、これらの装置において押込方向とは逆の方向への運動
は全く行われず、反力を二叉腕(1)で支えることはできない。また、これらの装
置と二叉腕(1)との間に反力伝達部材が配置されていないのであるから、押込過
程において押込力によつて生ずる反力を二叉腕(1)のところで支えて二叉腕
(1)の弾性変形を防止することも行われない。
これを要するに、被告装置においては、押込みに際して押込力によつて生ずる反力
を利用していない。
 被告装置においては、別紙作動目録(二)記載のとおり、二叉腕(1)の拡開は
一次拡開工程と二次拡開工程の二つの工程で行われるが、いずれも拡開に用いられ
る力は、押込力と関係なく、押込力によつて生ずる反力とも関係ない。
 すなわち、軸受ケース(7)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接
触させた後、フツク(32)を昇降装置(44)により降下させ、その部分(3
3)を二叉腕(1)の端部に引掛ける位置においた後、第2油圧シリンダ(12)
内に低圧油を供給し第2ピストン(15)を後退させることによつて、第2ピスト
ン(15)に連結された連結レバー(31)を介してフツク(32)の部分(3
3)を二叉腕(1)の端部に当接させ、二叉腕(1)を低圧油により僅かに一次拡
開させる。右の低圧油は第2ピストン(15)だけでなくストツパ(16)をも一
緒に後退させるが、第2ピストン(15)とストツパ(16)との間にはばね(2
3)が設けられており、調節ナツト(24)によつてあらかじめ定められた間隔
(S)を保持したまま後退する。その後、ロツク工程を経てこの状態を固定した
後、第2油圧シリンダ(12)内へ更に高圧油を供給して第2ピストン(15)を
ばね(23)を圧縮しながらストツパ(16)に当接するまで、すなわち間隔
(S)を零にするまで後退させ、これにより二叉腕(1)はフツク(32)によつ
て引張られて二次拡開が行われる。そうすると、
被告装置における一次拡開・二次拡開は、軸受(6)の押込みに関係のない第2油
圧シリンダ(12)と第2ピストン(15)によつて行われるのであるから、押込
力によつて生ずる反力を利用していないことは明らかである。
 被告装置においては、別紙作動目録(二)の軸受固定の工程で、第1油圧シリン
ダ(11)・第1ピストン(14)により軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔
(4)内にその軸方向に固定する。
 すなわち、二叉腕(1)を二次拡開させた状態で第1油圧シリンダ(11)内へ
圧油を供給して第1ピストン(14)を前進させ、この第1ピストン(14)の先
端にナツト(21)で結合されたカシメツール(20)の先端を、案内パンチ(1
9)と同心的に二叉腕(1)の軸受孔(4)内に圧入させる。圧入時に、カシメツ
ール(20)の先端部外周に設けられた突起(20)′により、軸受孔(4)の内
壁を部分的に冷間塑性変形させて軸受ケース(7)の外底面上に複数個の突起
(4)′を形成させ、この突起(4)′により軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔
(4)内に軸方向に固定する。そうすると、第1油圧シリンダ(11)・第1ピス
トン(14)は、軸受(6)の固定のために機能しており、押込みや拡開とは関係
のないことが明らかである。
 以上のとおり、被告装置においては、押込み、拡開、軸受固定のそれぞれに必要
な力は、それぞれ必要な範囲で別系統の油圧装置を設けて力の発生源を異にしてお
り、反力を使用して装置を単純化する考え方を採つていないのであるから、本件原
発明の技術思想とは異なる技術によるものである、というべきである。
 原告は、被告装置において第1油圧シリンダ(11)・第2油圧シリンダ(1
2)・第1ピストン(14)・第2ピストン(15)が押込力発生装置に該当する
と主張する。右主張は、被告装置を原告のいう自動作業形式(Ⅰ)・(Ⅱ)、手動
作業形式(Ⅰ)という作動方法により作動させることを前提としたもので、その当
を得ないことは既に指摘したとおりである。のみならず、次のとおり被告装置の構
造からも押込力発生装置に該当しないことが明らかである。
 まず、
第1油圧シリンダ(11)は、二叉腕(1)の軸受孔(4)に軸受(6)を固定す
る際及び固定中、軸受孔(4)の方向には移動できない。すなわち、第1油圧シリ
ンダ(11)を構成するヘツドボデー(10)は、送り油圧シリンダ(28)内に
圧油を供給した状態を維持して送りピストン(29)を同シリンダ(28)の前壁
に当接させて常に軸方向に固定され、軸受(6)の固定完了まで継続して後退しな
いようにされている。したがつて、第1油圧シリンダ(11)は、本件原発明の押
込力発生装置を構成するシリンダのように二叉腕の孔の方向で移動可能ではない。
 また、第1油圧シリンダ(11)内で滑動可能な第1ピストン(14)の先端に
ナツト(21)で結合されたカシメツール(20)は、二叉腕(1)の軸受孔
(4)内に既に案内パンチ(19)によつてその軸受ケース(7)の底面が十字軸
のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込まれた軸受(6)を、そ
の軸方向に固定するだけである。したがつて、第1ピストン(14)は、本件原発
明の押込力発生装置を構成するピストンのように軸受を押込み固定するプランジヤ
に結合されていない。
 次に、第2油圧シリンダ(12)・第2ピストン(15)は、二叉腕(1)を拡
開させるのに用いられるものであるから、本件原発明を構成するシリンダとピスト
ンでないことは明らかである。
以上のとおりであつて、構成(ハ)″・(ニ)″は構成要件(ハ)・(ニ)を充足
しない。
(四) 結論
よつて、被告装置は本件原発明の技術的範囲に属しない。
3 本件追加発明と被告装置との対比
 被告装置は、構成(い)″が本件追加発明の構成要件(い)を充足するほか、以
下の理由により、構成(ろ)″・(は)″・(に)″・(ほ)″はそれぞれ構成要
件(ろ)・(は)・(に)・(ほ)を充足しないことが明らかであるから、本件追
加発明の技術的範囲に属しない。
 本件追加発明における押込力発生装置は本件原発明の押込力発生装置と同一であ
り、これと二叉部の腕との間に設けられた反力伝達部材が押込力によつて生ずる反
力を二叉部の腕に伝達し、
これによつて押込工程での二叉腕の弾性変形を防止するとともに軸受固定工程での
二叉腕の拡開を行うことも、本件原発明と同一である。したがつて、本件追加発明
が反力による二叉腕の拡開をその技術内容に包含すること、反力とは押込力と同じ
大きさの力であつて押込力とは逆の方向の力で押込力によつて押込力の発生と同時
に同じ発生源で生ずる力であることも本件原発明と同一である。
 そして、本件追加発明は、構成要件(に)・(ほ)に記載されたようなストツパ
ーを設けることにより、「軸受けが継手十字体のピンに遊びなしに接触せしめられ
た後に、更に押し込み力を作用させると、被結合軸の二又部の腕が拡開せしめられ
て、これにより軸受けが最初からある程度のばね力を以て継手十字体のピンに圧着
されることになる。これによつて摩滅に基づいて生ずる遊びが補償される。二又部
の腕の拡開中に、押し込み力発生装置も押し込み方向とは逆の方向に移動せしめら
れるが、前記のばね圧着力の大きさがすべてのカルダン継手において同じであるよ
うにするためには、押し込み力発生装置のこの移動運動を一定の大きさに制限する
ストツパーを設けなければならない。」(本件追加特許公報七欄九行目ないし二一
行目)との課題を解決している。これに対して被告装置の押込力発生装置は、送り
油圧シリンダ(28)と送りピストン(29)とからなり、送り油圧シリンダ(2
8)は機台(52)上に固定され、送りピストン(29)には案内パンチ押軸(1
8)を介して軸受押込用の案内パンチ(19)が連結されていて、送り油圧シリン
ダ(28)及び送りピストン(29)と二叉腕(1)との間に反力伝達部材に該当
する部材は存在しない。
 したがつて、本件原発明と被告装置との比較の場合と同じく、被告装置の構成
(ろ)″・(は)″が本件追加発明の構成要件(ろ)・(は)を充足しないが、更
に、被告装置の右構造からして、押込方向とは逆方向の押込力発生装置の移動が行
われず、押込力発生装置の移動距離を制限するストツパーに該当するものは存在せ
ず、押込作業の開始前に、
押込力発生装置とストツパーとが被結合軸の二叉部の孔の軸線方向で所定の相互間
隔を保つた状態で、二叉部の孔の軸線方向で一緒に調節移動可能である機構は存在
しないのであるから、構成(に)″・(ほ)″は構成要件(に)・(ほ)を充足し
ない。
4 本件分割発明と被告装置との対比
(一) 本件分割発明は、本件原発明を別な表現によつて重ねて権利付与を受けた
にとどまり、実質的には本件原発明と同一の発明である。
 本件原発明の構成要件(イ)・(ロ)に対し、本件分割発明の構成要件(a)・
(b)は、「被結合軸の端部に形成された二叉腕の孔内に」を「被結合軸のフオー
ク端部のフオーク腕に形成された孔内に」と、「二叉端部」を「フオーク部」と、
それぞれ言い換えているのみで、他の部分は同一の表現をしており、右表現を変え
た箇所も内容的には同一であるから、本件分割発明の構成要件(a)・(b)は本
件原発明の構成要件(イ)・(ロ)と同一である。
 また、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と本件分割発明の構成要件(c)・
(d)とをみるに、構成要件(ハ)のうちの「軸受を押込み固定するプランジヤが
……押込力発生装置と結合されている」と、構成要件(c)の「プランジヤにより
軸受を前記の孔内に押込んで継手十字体のピンに遊びなしに接触させる機構」とは
実質的に同一であり、構成要件(ハ)のうちの「二叉端部の腕に対して相対的に孔
の軸方向で移動可能な押込力発生装置」と、構成要件(d)のうちの「プランジヤ
の押込方向とは逆方向に移動可能な部分」とは実質的に同一であつて、右「プラン
ジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分」が「装置11」のみを意味するもの
であることは、本件原特許明細書及び本件分割発明にかかる特許明細書(以下「本
件分割特許明細書」という)の記載(本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目、
三七行目ないし四二行目、本件分割発明にかかる特許公報(甲第五号証、以下「本
件分割特許公報」という)四欄九行目ないし一四行目、三三行目ないし三五行目、
五欄一行目ないし五行目)が共通し、同様の装置を開示していること、
及び本件分割発明が本件原発明の出願に対する分割出願にかかるものであることに
よつて裏付けられる。
 すなわち、本件分割発明の特許請求の範囲の記載事項は、特許法四四条・四一条
の規定から、本件原発明の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の
範囲内に限られるところ、本件原発明の明細書には、「押込力発生装置は、二叉腕
の孔の方向で移動可能なシリンダと、このシリンダ内で滑動可能なピストンと成つ
ており、このピストンは押込プランジヤと結合されていて、例えば圧力油によつて
押される。この場合シリンダは、二叉腕に作用する反力伝達用保持クランプを有し
ている。」と記載されている(本件原特許公報四欄七行目ないし一二行目)ほか、
装置についての開示は全くなく、したがつて、本件分割発明の「プランジヤの押込
方向とは逆方向に移動可能な部分」は押込力発生装置のシリンダ以外に存在しな
い。そして、本件原発明が押込力によつて生ずる反力を利用した二叉腕の弾性変形
防止と二叉腕の拡開を技術内容とするものであることは前記のとおりであり、本件
分割発明においても、押込力発生装置のシリンダに保持クランプのフツクが枢着さ
れ、押込力発生装置がプランジヤの押込方向と逆方向に移動するのは押込力に生ず
る反力によるものであり、これ以外の他の力によつて移動するとの開示はない。し
たがつて、構成要件(ハ)の「二叉端部の腕に対して相対的に孔の軸方向で移動可
能な押込力発生装置」と構成要件(d)の「プランジヤの押込方向とは逆方向に移
動可能な部分」とは技術内容として同一である。
 次に、本件原発明の構成要件(ニ)の「この押込力発生装置と二叉腕との間に反
力伝達部材が配置されていること」には、本件分割発明の構成要件(d)の「プラ
ンジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフ
オーク腕の内面と係合するフツクを有している保持クランプを使用してフオーク腕
を弾性変形させて拡開させる機構」が対応するところ、「保持クランプ」という用
語が「反力伝達部材」の「反力伝達」という限定をはずす目的で用いられている
が、
本件原特許明細書及び本件分割明細書における「装置11と二叉腕(フオーク腕)
2との間には押(し)込(み)力に基(づ)く反力を伝達するための保持クランプ
14が設けられている。」(本件原特許公報四欄四〇行目ないし四二行目、本件分
割特許公報四欄一二行目ないし一四行目)との開示と、前記のとおり、「プランジ
ヤの押込方向と逆方向に移動可能な部分」が「装置11」(押込力発生装置)のみ
を指すことからすると、「保持クランプ」は「反力伝達部材」と同一である、とい
うことができる。
 右のとおり、本件原発明の構成要件(ハ)・(ニ)と本件分割発明の構成要件
(c)・(d)とは同一である。なお、本件分割発明の構成要件(e)は、発明の
作用を表現したにとどまるものであるから、発明の必須の構成要件には当たらな
い。
 そうすると、本件分割発明の構成要件はいずれも本件原発明の構成要件と同一で
あるから、本件分割発明と本件原発明とは同一の発明である。
 本件分割発明が本件原発明と同一であることは、被告光洋精工のした同じ理由に
よる異議申立に対し、原告が「前記部分(押込方向とは逆方向に移動可能な部分)
のプランジヤの押込方向とは逆方向の移動距離を制限するストツパー」を構成要件
の一つとして特許請求の範囲に加える、という補正をすることにより、右異議申立
の理由が当たつていることを認め、これを回避しようとしたことからも裏付けられ
る。
 なお、特許庁審査官は、特許異議の決定において、本件分割発明がフオーク腕を
弾性変形させて拡開させる機構として構成要件(d)を採用した点において本件原
発明と異なるとし、この相違点によつて、本件分割発明は、保持クランプをフオー
ク腕に引掛ける前に装置を適当な位置に動かすだけでフオーク腕の厚さの公差を容
易に補償することができる、との特有の作用効果を奏するとの理由で、本件分割発
明と本件原発明とが異なるとし、一方、原告のした前記補正に対する却下決定にお
いて、本件分割発明がフオーク腕の厚さに無関係にフオーク腕の弾性変形を利用し
て軸受を継手十字体のピンに圧着さすることを目的とするものである、と認めた。
しかしながら、
ピンの厚さ及びフオーク腕の厚さに無関係に、軸受を継手十字体のピンに遊びなし
に接触するまで押込むことができるという発明の目的は、本件分割発明に限つたこ
とではなく、本件原発明にもうたわれているところ(本件原特許公報三欄六行目な
いし一〇行目)であつて、本件分割発明に特有のものではない。したがつて、前記
特許異議の決定のごとく、作用効果が本件分割発明に特有のものであるということ
はできず、この判断が誤つていることは明らかである。
(二) 本件分割発明と本件原発明とは同一であるから、本件原発明と被告装置と
の対比におけるのと同様の理由で、被告装置は、本件分割発明の構成要件を充足せ
ず、その作用効果も本件分割発明のそれと同一ではないから、本件分割発明の技術
的範囲に属しない。
四 原告の反論
1 被告装置の特定について
 被告らの主張は、被告装置が被告ら主張の作動方法だけでしか行われないとの前
提に立つものであつて、右のほかに原告主張の自動作業形式(Ⅰ)・(Ⅱ)及び手
動作業形式(Ⅰ)のごとき作動方法を行いうる機構を持つた装置であることを無視
したものである。被告装置が原告主張の各作業形式によつて作動できるものである
以上、かかるものとしてその構造を特定しなければならない。
 被告装置において、調節ナツト(26)をヘツド前進位置で案内パンチ押軸(1
8)と接触しないようにあらかじめ調節しておけば、軸受(6)は、カシメツール
(20)を前進させる前に案内パンチ(19)によつて押込まれることはない。す
なわち、この場合には、第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)を前進
させてカシメツール(20)を前進させる際、スペーサーリング(22)がカシメ
ツール(20)により連行されて案内パンチ(19)の後端に当接し、カシメツー
ル(20)と案内パンチ(19)とが一体となつて、軸受ケース(7)の端面をト
ラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで押込むのである。したがつて、
「案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラニオン(5)に隙間がなくなるま
で押込むように」との表現は必要である。
 被告装置において、
調節ナツト(24)を調節して間隔(S)を零にすることができるのは明らかであ
るから、その旨の表現は正確であり、削除する必要はない。
 被告装置において、調節ナツト(26)を調節することにより、案内パンチ押軸
(18)と調節ナツト(26)が接触しないようにすることは可能である。このよ
うな操作をした場合、十字軸を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におくことが
できることについては、本件原発明の構成要件(ロ)と被告装置の構成(ロ)′と
を比較した際の主張のとおりであり、なんらの支障も生じない。したがつて、調節
ナツト(26)の構造等の説明・表現は、原告主張のとおりとするのが正当であ
る。
 ボルト(66)・(67)が調節可能であり、これを調節して隙間(δ)がなく
なるように締付けることが可能である以上、ボルト(66)・(67)の構造等の
説明・表現は、原告主張のとおりとするのが正当である。
2 原告主張の各作業形式について
 本件各発明は装置に関する発明であつて、作業方法に関する発明でない。装置発
明についての特許権侵害の有無については、侵害の対象とされた装置が装置として
当該装置発明の構成要件を充足するか否かを問題とすべきであつて、その装置が現
実にどのような作業形式を採つているかは問題にならないし、問題とすべきでな
い。その装置が当該装置発明の構成要件と同一の構成を具備している以上、それが
現実にどのような作業形式のもとに運転されていようと、当該装置発明の技術的範
囲に属し、当該特許権を侵害することは明らかである。
 被告装置の取扱説明書には、手動切換スイツチの使用が自動作業の準備ないし点
検に限られるとの説明はないし、被告装置が大量自動生産を目的としたものである
としても、手動で操作することができ、手動作業に必要な構成を具備し、その構成
が本件各発明の構成要件と一致する以上、その技術的範囲に属するというべきであ
る。本件各発明及び被告装置においては、大量生産といつても、トラニオンを二叉
腕に予備組立し又は予備組立されたカルダン継手を装置に取付け、工程終了後カル
ダン継手を取外すのはすべて手で行うのである。
この意味では被告装置は半自動式、逆にいえば半手動式である。手動か自動かの相
違は、サイクルの中のボタンの各操作を手動でするか自動でするかの点に存在する
のみである。組立装置の各工程の進行速度は、自動・手動を問わずゆつくりしたも
のであつて、これを手動で行う場合には各工程ごとのスイツチ操作の時間が余計に
かかるだけである。しかも、原告主張の各作業形式で作業した場合、不良品でなく
実用に供しうる製品が出来上るのである。
 被告らのいう、原告主張の各作業形式では十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線
とを一致させることができないとの点は、芯ずれが生じている(二叉腕(1)の軸
受孔(4)の中心が被結合軸の軸線に一致せず、ずれている)という特殊なケース
に関するものであるが、原告は、このような特殊なケースを問題にしているのでは
なく、芯ずれを生じていない被結合軸を組立てる場合について侵害の主張をしてい
るのである。
 芯ずれを生じていない場合には、その作業開始前に二叉腕に異常な力が加わるこ
とがないから、二叉腕に加わる異常な力をできるだけ逃がすために上部バイス
(3)の支持体(55)が移動しうるようにする必要はなく、したがつて挟持部の
ところで隙間(δ)を与える必要はない。調節ボルト(66)・(67)を締切り
隙間がない状態で上部バイス(3)により被結合軸をつかむと、上部バイス(3)
を取付けた支持体(55)は不動に固定される。また、下部チヤツク(2)は既に
組立機のX軸とY軸との交点を通る垂線に同軸に配置されていて、下部チヤツク
(2)によつてつかまれた被結合軸は組立機に不動に固定されているので、被結合
軸を上部バイス(3)でつかむとそれぞけで必ず被結合軸の軸線と十字軸の中心と
が一致する。すなわち、十字軸は軸の二叉端部に対して正しい相対位置におかれ
る。この場合、下部被結合軸が下部チヤツク(2)により不動に固定されているの
で、十字軸は下部二叉腕によりX―X軸方向への移動を阻止され、上部被結合軸が
上部バイス(3)により不動に固定されているので、十字軸は上部二叉腕によりX
―X軸方向に垂直なY―Y軸方向への移動も阻止され、
上下の二叉腕はフツクで引張られていて移動しない。したがつて、被結合軸の軸線
は十字軸の中心を通ることになる。
 被告らは、カシメツール(20)を前進させて軸受(6)を押込みかしめる場合
に左右の押込みかしめる力に差があるため十字軸の中心と被結合軸の軸心線とが一
致しない、と主張する。しかし、被告装置において、左右両側のかしめ力を決める
油圧の大きさは同一の油圧源から送られる等しい圧力のものであるから、両者の力
に問題となる程の力の差は生じない。摺動部の抵抗の大きさや圧油の流れる量の差
によつて、カルダン継手の仕上がりの精度になんらかの差異が生じたとしても、か
かる差異は、カルダン継手の製作上及び販売上問題となる程のものではない。
 また、被告らは、原告主張の各作業形式において装置の使用を不能にし又は装置
を破壊するおそれのある場合が生じる、と主張するが当たらない。被告装置を手動
形式(Ⅰ)で操作した場合、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)の油圧を低下
させて係止機構(17)の固定作用を解除する工程においては、ロツク及びロツク
解除シリンダ(13)内の油圧が解放されているから、ストツパ(16)が係止機
構(17)内でごく僅かに摺動することがあつても、それがストツパ(16)と係
止機構(17)の接触面を極度に摩耗し、装置の使用を不能にしてしまうおそれは
全くない。更に、カシメ作業が終了した後、二叉腕(1)を高圧で拡開する場合で
も、被告装置が有する圧力制御弁によつて高圧を適当な値に設定しておけば、二叉
腕(1)の先端が破壊するおそれは全くない。
3 発明未開示による無効の主張について
 本件各特許権は、全部特許庁における適法な審理を経て特許登録されたものであ
る。登録された特許権は、これが無効との審決が確定するまで有効なものとして取
扱われるべきである。そして、登録された特許権が無効であると主張するために
は、特許庁に対して無効審判の請求を行い無効審決を求めるべきであつて、この無
効審判手続を経ないまま特許権の効力を否定することは、我が国の法制度上許され
ない。また、
特許の無効事由を主張しその事由をもつて特許発明の技術的範囲を制限する理由と
することも、侵害訴訟の場合においては許されない。したがつて、本件において、
継手十字体を軸の二叉端部に対して正しい相対位置におく機構について、技術の開
示がないから無効であるとか、権利の行使が否定されるとかの主張をすることは筋
違いである。
4 反力について
 本件原発明は、押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支えることによ
り、二叉腕の弾性変形を防止することを目的とするものであつて、反力による二叉
腕の拡開を目的とするものではない。このことは、既に主張した本件原特許明細書
の記載によつて明らかである。被告らの指摘する本件原発明の要旨についての明細
書の記載のうち、「本発明の要旨とするところは、継手十字体および被結合軸の二
叉腕を互いに正確な相対位置においた後に、個々の軸受を継手十字体のピンに遊び
なしに接触するまで二叉腕の孔内に押込み、その際に押込力に基く反力を二叉腕の
ところで支える点にある。」(本件原特許公報三欄一四行目ないし一九行目)の部
分までが本件原発明の要旨に関する記載であつて、その後に続く、「軸受をピンに
完全に接触するまで押込んだ後に押込力をさらに作用させると、二叉腕に作用する
反力により二叉腕がそのつどあらかじめ調整せしめられている距離だけ押込方向と
は逆の方向に弾性変形で拡開せしめられ、その際に軸受は二叉腕の孔内でこれと相
対的に移動して、継手十字体のピンに遊びなしに接触した状態にとどまる。二叉腕
の拡開が終了した時或いはその後で、ピンに遊びなしに接触している軸受が二叉腕
の孔内で固定される。次いで押込力を取除くと、二叉腕の拡開によつて生じる戻り
ばね力が軸受に作用し、軸受をピンに圧着する。」(同公報三欄一九行目ないし三
〇行目)の記載は、本件原発明の要旨とは無関係である。このように解すること
が、文章の常識的な理解の仕方であり、原告がさきに主張した明細書の記載、なか
んずく特許請求の範囲の記載にも副うことになる。
 本件原特許明細書の発明の詳細な説明には、なるほど二叉腕を拡開する技術も開
示されているから、
当業者がこの記載に基づいて実施すれば、二叉腕の拡開まで行うことができるが、
発明の詳細な説明に記載してある事項全部が発明の要旨となるものではなく、その
記載の中からその発明の構成に欠くべからざるものを拾いあげたもの、すなわち特
許請求の範囲に端的に表現されたもののみが発明の要旨をなすのである。
 被告らは、予圧のための手段を講じないと産業上利用しうべき実用的なカルダン
継手を得ることができない、と主張するが、予圧をかけないカルダン継手で産業上
利用しうべき実用的なカルダン継手も製造されている。現に、予圧のための拡開を
加えないのみか、軸受と継手十字体のピンとの間に所望の大きさの遊びを生ぜしめ
るように押込む技術も、産業上利用されうべきカルダン継手として要求され、かか
る技術は既に特許登録されている(甲第一一号証)。本件原特許明細書の実施態様
についての記載中にも、押込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える方法
及び装置が、押込後に更に押込力を作用させて二叉腕を拡開させる方法及び装置と
は、別個の完成した技術的事項として記載されているのであつて、この記載は、押
込力によつて生ずる反力を二叉腕のところで支える方法及び装置が、独立の完成し
た実用的技術であることを物語つている。
 次に、本件原発明における反力は押込力によつて生じ、軸受と二叉腕のところで
生ずるものであつて、押込力の発生源と同じ発生源で生ずるものではない。本件原
特許明細書において、反力は特別の定義を与えられていないから、それは学術上普
通に用いられる意味で理解されるべきである。この意味での反力は、ある物体に外
力が作用したとき、ある物体とその支持部分との接合点(接合面)に、その物体の
動きを拘束するように生じる力で、外力と大きさが等しく方向が反対の力であると
されている。このように、反力は、ある物体に外力が作用するときその物体の動き
を拘束する場所で発生するものであつて、拘束のない場所では発生しないものであ
る。もちろん、反力は伝達されうる力であるから、伝達経路のいかなる場所におい
ても捉えることができるが、この場合でも、
反力がその場所で発生したと考えてはならない。本件原発明においては、軸受を押
込む際に押込力によつて軸受と二叉腕のところで生ずる反力が、押込力とは反対方
向で大きさが等しい点に着目し、この反力をプランジヤ・押込力発生装置・反力伝
達部材により二叉腕に作用させて、二叉腕が弾性変形するのを防止することを目的
としており(本件原特許公報二欄一三行目ないし三欄一九行目参照)、この目的を
達成するため、前記特許請求の範囲の構成を採用したのであるが、これを本件原特
許明細書は、「装置11と二叉腕2との間には押込力に基く反力を伝達するための
保持クランプ14が設けられている。従つて二叉腕2は一方の側からは押込力によ
つて、他方の側からは押込力と同じ大きさの反力によつて負荷される。これにより
二叉腕に作用する力が釣合せしめられるので、二叉腕は押込過程中その位置を不動
に保つ。」(同公報四欄四〇行目ないし五欄二行目)と説明し、他の箇所でもこれ
に副う説明をしている(同公報三欄三四行目ないし四三行目、四欄七行目ないし一
二行目参照)。
 以上の反力についての通常の意義及び本件原特許明細書の記載に照らすと、反力
は軸受と二叉腕との関連において把握すべきものであり、軸受と二叉腕のところで
生ずると解すべきである。被告らの指摘する本件原特許公報四欄七行目ないし一二
行目、四欄三七行目ないし五欄二行目、七欄九行目ないし一三行目の記載、及び本
件原特許出願経過書類中の記載中には、反力が押込力発生装置内で発生する、との
被告らの主張に副う記載は全くない。また、同公報七欄三七行目ないし八欄五行
目、八欄一五行目ないし二八行目の記載も、前記反力の通常の意義を前提にすれば
次のとおり理解されるのであつて、なんら被告らの主張を裏付けるものではない。
すなわち、軸受を押込む際押込力が軸受を押込むと二叉腕のところに反力が発生
し、この反力は同時にシリンダ面44に伝達される。押込力の発生と反力の発生及
び反力のシリンダ面44への伝達はすべて同時に行われ、シリンダ室42内に生ず
る圧力は同時に二叉腕のところに反力を発生せしめ、
その反力はシリンダ面44に作用してこれを押込方向とは逆法向に押そうとする。
 次に、被告らは、反力がシリンダのピストン面43で力が釣合つて消えてしまう
と主張するが、このようなことはありえない。けだし、押込力と反力とが相殺され
て消えてしまうのであれば、押込力は存在しなくなり、軸受を押込むことは不可能
になるからである。この場合、伝達された反力は押込方向と釣合つているにすぎ
ず、このような釣合は、プランジヤの中間においても圧力油中においてもシリンダ
面44においても反力伝達部材の中でも生じており、二叉腕のところでも押込力と
反力とが釣合つている。そして、前記部材のどの部分でも押込力と反力とが釣合つ
ているということは、取りも直さず反力が伝達されていることを意味する。
5 本件分割発明と本件原発明が同一であるとの点について
 本件原発明では、二叉腕を押込方向とは逆の方向に拡開させる機構を有すること
を発明の要旨とするものではない。これに対し、本件分割発明では、保持クランプ
を使用してフオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有することを発明の必須
要件とする。この点が本件原発明と本件分割発明とのもつとも顕著な違いである。
被告らの主張は、二叉腕を拡開させることを本件原発明の要旨に含めることを前提
とするもので、その前提が誤つていることは既に指摘したとおりであり、被告らの
主張は当たらない。
 本件分割発明の構成要件(d)、すなわち、「プランジヤの押込方向とは逆方向
に移動可能な部分に一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフ
ツクを有している保持クランプを使用して、フオーク腕を弾性変形させて拡開させ
る機構を有すること」と、「本件原発明の構成要件(ニ)、すなわち、「この押込
力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていること」とは同一ではな
い。本件原発明では、反力伝達部材が押込力発生装置と二叉腕との間に配置されて
いることのみが要件であり、反力伝達部材が押込力発生装置と二叉腕とにどのよう
に取付けられるかは要件とならない。これに対して本件分割発明では、一方におい
て、
保持クランプは押込力発生装置と二叉腕との間に配置されていることを要件とせ
ず、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分とフオーク腕の内面との間
に配置されれば足り、他方において、保持クランプは押込方向とは逆方向に移動可
能な部分に一端部を枢着されるように取付け、他端部をフオーク腕の内面と係合す
るように取付けることを要件とするものである。そして、右のように特別な態様で
取付けることにより、保持クランプを容易に二叉腕に引掛けることを可能ならしめ
る。右の作用効果は本件分割発明に特有のものであり、本件原発明のそれと異な
る。
 被告らの指摘する本件原発明の目的(本件原特許公報三欄六行目ないし一〇行
目)は、発明の解決課題をうたつたものであり、発明の詳細な説明の欄に記載され
たものにすぎないから、これによつて特許請求の範囲を限定するのは誤りである。
そして、構成要件(d)のうちの「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な
部分」は「装置11」のみを指すものではない。これに関して、被告らの指摘する
本件原特許明細書及び本件分割特許明細書の各記載部分は、単なる実施例も含めて
すべて発明の詳細な説明欄の記載にすぎず、これらによつて特許請求の範囲を限定
することはできない。また、原告が異議申立手続中に手続の補正をしたのは、本件
分割発明の特徴を更に一層明確化することにより、異議申立手続を速やかに終結さ
せるべきであると考えたからであつて、特許異議申立の理由が当たつていることを
認めた趣旨に理解すべきでない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1の事実(原告が本件各特許権を有すること)は当事者間に争いがな
く、右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一、第二号証、第
五号証によれば、本件各発明の構成要件は原告主張のとおり(本件原発明につき
(イ)・(ロ)・(ハ)・(ニ)、本件追加発明につき(い)・(ろ)・(は)・
(に)・(ほ)、本件分割発明につき(a)・(b)・(c)・(d)・(e)の
各構成要件)に分説することができる。
二 被告らが、
請求原因3記載の営業を目的とする会社であり、同請求原因記載のとおり被告装置
(被告装置の特定・表示につき争いのあることは後記のとおり)を製造・販売又は
貸与していることは当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告光洋機械は被告
装置を業として製造・販売し、被告光洋精工は被告装置を業として貸与しているも
のと認めることができる。
 さて、被告らは、被告装置の特定・表示につき、請求原因に対する認否3(一)
ないし(七)のとおり争うのであるが、この点に関する争点は、原告が別紙作動目
録(一)記載の各作業形式により被告装置を作動しうるとの前提に立つのに対し、
被告らが右前提を否定する点にあり(ただし、請求原因に対する認否3(一)・
(二)の点を除く)、このことは、当然のことながら、被告装置の構成の分説にお
ける争点ともなっている。したがって、原告主張の作業形式により被告装置の作動
が可能であるか否かを検討する。
 原告主張の別紙作動目録(一)記載の各作業形式では、いずれも、軸受(6)及
び十字軸が予備組立によりカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)に挿入され
た状態でカルダン継手が組立装置に配置されるのであるが、この予備組立の具体的
作業方法、予備組立完了後のカルダン継手の状態についての原告の主張は明らかで
ない。
 被告らの主張によると、予備組立は別紙作動目録(二)の一項記載のとおり行わ
れる。その予備組立作業の手順によると、同目録添付第1図に示すように、軸受
(6)が二叉腕(1)の一方の軸受孔(4)内に外側から約半分程度押込まれ(第
1図の(4))、十字軸のトラニオン(5)が二つの軸受孔(4)内に内側から挿
入され(第1図の(5))、他方の軸受孔(4)にも軸受(6)が外側から押込ま
れて(第1図の(6))、一方の被結合軸への十字軸の取付けが行われるのである
が(第1図の(7))、この場合、軸受(6)の軸受孔(4)への圧入は、第1図
の(8)・(9)に示すように圧入治具の角度θの斜面が軸受孔(4)内の角度α
の斜面に当接するまで行われる、というだけであるから、
二叉腕(1)の二つの軸受孔(4)内において軸受ケース(7)の底面とトラニオ
ン(5)の端面との間に生ずる各隙間が等しい長さになるとはいえない。したがつ
て、一般に十字軸の中心が被結合軸の軸線に一致するとはいえない。このことは、
二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心が被結合軸の軸線に一致する場合(芯ずれのな
い場合)であると一致しない場合(芯ずれのある場合)であるとを問わず、同じ結
論になる。他方の被結合軸への十字軸の取付けについても同様であるから、予備組
立されたカルダン継手においては、一般に十字軸の中心は二つの被結合軸の軸線に
一致しない、というほかはない。
 予備組立に関する被告らの右主張につき、原告から特段の反論・反証がないの
で、原告主張にかかる予備組立も右のとおり行われるものと解して妨げない。そう
すると、原告主張の各作業形式においても、予備組立されたカルダン継手は、十字
軸の中心が二つの被結合軸の軸線に一致していないのが常態である、ということが
できる。
 原告主張の各作業形式の(一)の工程では、このように予備組立されたカルダン
継手を組立装置に配置し、送りピストン(29)を前進させることにより、ヘツド
(9)全体を前進させて案内パンチ(19)の先端を二叉腕(1)の軸受孔(4)
内にある軸受(6)の底面に当て、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手
の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させる。この段階では、軸受孔(4)
の軸線が案内パンチ(19)の軸線に一致する、すなわち組立装置の作業線に一致
するのみで、配置されたカルダン継手の十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが
一致していないことに変わりはない。原告主張の各作業形式の(二)の工程では、
この状態のカルダン継手を下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつて把
持・固定するだけであるから、依然として右一致のないことに変わりがない。その
後の原告主張の各工程でも、これを一致させうるような操作は行われない。原告主
張の工程(四)又は(四)″における押込みに際して、
調節ナツト(26)は案内パンチ押軸(18)と接触しないようにあらかじめ調節
されているので、案内パンチ(19)が軸受ケース(7)の内底面を十字軸のトラ
ニオン(5)の端面に接触させたときに、十字軸の中心が二つの被結合軸の軸線に
一致するようにその最大前進位置を決めることはできないし、それ以外に右一致が
もたらされるような操作をなすとの主張・立証はないから、案内パンチ(19)
は、軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触するまで
押込むにすぎず、押込完了後に十字軸の中心が二つの被結合軸の軸線に一致するこ
とはない。
 一方、被告ら主張の別紙作動目録(二)の作動方法によると、準備作業の段階
で、右一致が得られるように調節ナツト(26)を調節して案内パンチ(19)の
最大前進位置が決められており、十字軸の位置決め工程において、送りピストン
(29)の前進にともない案内パンチ(19)が所定の最大前進位置まで押進めら
れて、四方から軸受ケース(7)の底面をトラニオン(5)の端面に遊びなしに接
触させると、上部バイス(3)によつて挟持された被結合軸が十字軸と一緒に移動
し、案内パンチ(19)の最大前進位置によつて規定される十字軸の中心と被告装
置の組立機の作業線X―X軸、Y―軸の交点との一致点への十字軸の中心の移動調
節がなされ、十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線との一致が得られる仕組みとな
つている。
 原告主張の各作業形式では、十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とがずれた状
態のカルダン継手ができるのみである。そして、前掲甲第一、第二号証、第五号証
により認められるように、カルダン継手について所期の製品をうるためには、継手
十字体(被告装置における十字軸)の中心を二つの被結合軸の軸線に一致させるこ
とが不可欠の技術事項であるから、原告主張の各作業形式により得られるカルダン
継手が産業上利用しうる製品といえないことは明らかである。
 原告は、芯ずれの生じていない(二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心が被結合軸
の軸線に一致するように加工されている)予備組立されたカルダン継手を使用すれ
ば、
十字軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが一致した製品が得られる、と主張する
が、右主張のカルダン継手を使用する場合でも右所望の製品が得られないことは前
説示のとおりである。また、原告は、被告装置の表示・その取扱説明書に被告装置
が手動で作動しうる旨の記載がある、と主張するが、前説示の際問題としたのは、
自動・手動のいずれで作動するかではなく、自動・手動に限らず、原告主張の各作
業形式では、調節ナツト(26)が機能しないことを前提としているために、十字
軸の中心と二つの被結合軸の軸線とが一致した製品が得られない、ということであ
る。仮に被告装置が手動で作動しうるとしても、原告主張の手動作業形式(Ⅰ)の
作動方法では不良品を製造することとなる。原告の右主張は理由がない。
 以上のとおり、原告主張の各作業形式では産業上利用しうる所望の製品は製造し
えない。被告らは前認定の目的を有する会社であつて、このような不良品を製造す
るような作動方法で運転される被告装置を製造・販売・貸渡し等しているとは考え
られない。被告装置は、現実には原告主張の各作業形式で作動されていない、とい
うほかはない。したがつて、原告主張の各作動方法を前提にする被告装置の特定・
表示についての主張並びに右特定・表示を前提にした被告装置の構成の分説の主張
は、いずれも現実になされていない作動方法を前提にするものであつて採用するこ
とができない。
 原告は、装置発明の侵害対象は装置そのものであるから、装置の作動方法がどの
ようなものであるかは問題とならないかのごとく主張するが、当たらない。装置発
明に基づく特許権侵害訴訟において、差止めの対象とされうる装置が、現実に存在
する装置であることを必要とすることは論を俟たない。本件においては、装置発明
に基づく原告の権利に対して現実に存在する被告装置が何であるか、すなわち現実
に存在する被告装置の特定・表示をいかにすべきか、これに基づく構成の分説がど
のようになるかを問題にしているのであつて、これを決定するために被告装置の作
動方法が問題になるのである。そして、
現実に採られていない架空の作動方法に基づく装置の特定・表示及びこれに基づく
構成の分説が、現実に存在する装置の特定・表示及びこれに基づく構成の分説とい
えないことは明らかである。原告の右主張は理由がない。
 そうすると、原告主張の別紙物件目録の記載のうち、被告らの指摘する請求原因
に対する認否3(三)ないし(七)の点については、被告ら主張のとおりに訂正・
変更・付加・削除がなされるべきである。同3(一)の第1図の説明文及び同3
(二)の第2ピストン(15)の装設態様に関しては、原告主張の表現が不当とま
でいうことはできないから、原告主張どおりの表現で差支えないと考える。
三 原告主張の各作業形式を採り得ないことは右にみたとおりであるが、原告の主
張に鑑み、右各作業形式で作動させた被告装置と本件各発明とを対比検討する。
 まず、被告装置が本件原発明の構成要件(ロ)、本件分割発明の構成要件(b)
を充足するかについてみるに、構成要件(ロ)、構成要件(b)にいう「継手十字
体を軸の二叉端部(フオーク部)に対して正しい相対位置におく機構」とは、前掲
甲第一号証、第五号証によれば、少なくとも、被結合軸の軸線が継手十字体(被告
装置では十字軸)の中心を通るようにしうる機構を意味する、ということができる
(本件原特許公報二欄七行目ないし一四行目、本件分割特許公報二欄一一行目ない
し一八行目)。しかるところ、原告は、被告装置において、各作業形式の(二)の
工程の下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によるカルダン継手の把持・固定
をもつて右の「正しい相対位置におく機構」に該当する、と主張するのであるが、
被告装置において、各作業形式の(二)の工程で下部チヤツク(2)及び上部バイ
ス(3)によつてカルダン継手を固定しても、二つの被結合軸の軸線は十字軸の中
心を通らないことはさきに判示したとおりであるから、原告の右主張が理由のない
ことは明らかである。したがつて、被告装置は、本件原発明の構成要件(ロ)、本
件分割発明の構成要件(b)を充足しない。
次に、被告装置が本件追加発明の構成要件(は)、
本件分割発明の構成要件(d)を充足するかについて判断する。
 まず、本件追加発明の拡開の機構をみるに、前記争いのない事実によると、本件
追加発明は本件原発明に対して追加の関係にあるが、前掲甲第二号証によれば、本
件原発明の装置を使用する際に、押込み終了後押込力を更に作用させると、二叉腕
が押込方向と逆方向に所定の距離だけ拡開せしめられ、この際押込力発生装置も二
叉腕の拡開量と同じ距離だけ押込方向と逆の方向に移動し、この移動運動を制限す
るためにストツパーが設けられるが、該ストツパーは種々に異なる寸法のカルダン
継手に応じて押込力発生装置の位置を調節するための調節範囲が極めて狭く、本件
追加発明は、これを改良して前記特許請求の範囲記載の構成を採用したものであ
る、と認められる(本件追加特許公報三欄三行目ないし四欄二六行目、七欄九行目
ないし八欄一〇行目)。
 ところで、前掲甲第一号証によると、拡開の方法について本件原特許明細書に開
示されているのは、軸受を継手十字体のピンに完全に接触するまで押込んだ後に押
込力を更に作用させると、軸受がピンに接していてそれ以上これを押込むことがで
きないので、押込力は軸受を介しピンに作用して二叉腕には作用せず、したがつて
力の釣合が崩れ、反力伝達部材によつて引き続き二叉腕に伝達される反力が二叉腕
を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形させて拡開させ
る、というものであり(本件原特許公報三欄一四行目ないし三〇行目、五欄三〇行
目ないし六欄一〇行目)、これ以外の方法・機構による拡開の開示はなされていな
い。そして、前掲甲第二号証によると、本件追加特許明細書で実施例として開示さ
れている拡開の機構も本件原特許明細書に開示のそれと同一である、と認められる
のである(本件追加特許公報六欄三行目ないし二〇行目)。そうすると、本件追加
発明の構成要件(は)にいう反力伝達部材は、拡開に際して押込力に基づく反力を
利用するための反力伝達部材としての機能を営むことを必要とするものである、と
解することができる。
 原告は、
本件追加発明においては構成要件(に)・(ほ)に掲げられた事項が発明の要旨を
なすものであつて、拡開の態様・方法・順序は発明の要旨とならない旨主張する。
しかし、構成要件(に)・(ほ)に掲げられた事項が本件追加発明の眼目である、
とはいいえても、だからといつて、拡開の態様・方法・順序が発明の要旨でないと
はいえない。けだし、本件追加発明の特許請求の範囲には、押込力発生装置と二又
部の腕(以下「二叉腕」という)との間に反力伝達部材が配置されていることが必
須の構成要件として掲げられており、右の反力伝達部材の意味内容は、特許請求の
範囲の記載のみでは不明であるので、明細書の発明の詳細な説明や実施例の記載に
基づいてこれを明確にすることになるが、その結果はさきに検討したとおり、押込
力に基づく反力を利用した拡開の機構の一部を構成する部材として理解されるので
あり、拡開の態様・方法は右のようなものとして一義的に確定され、発明の要旨の
一部を構成する、といいうるからである。原告の右主張は理由がない。
 右説示の本件追加発明の拡開の機構に照らし、被告装置における拡開の機構をみ
ると、原告主張の各作業形式を通じて、被告装置の第2ピストン(15)に枢着さ
れたフツク連結レバー(31)・フツク(32)が二叉腕(1)に当接され、第2
油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から圧油が供給されて第2ピストン(1
5)が押込方向とは逆方向に後退させられることにより、拡開が行われる(ただ
し、自動作業形式(Ⅰ)で間隔(S)を零にした場合には拡開は行われない)。そ
して、原告の主張によると、第1油圧シリンダ(11)によつて動かされる第1ピ
ストン(14)がカシメツール(20)を前進させて押込みかしめ作業を行うので
あるが、原告主張の各作業形式において、右第1油圧シリンダ(11)などによる
押込みかしめ作業は、拡開工程の前又は後に独立して行われ、拡開工程中には押込
方向に第1ピストン(14)を前進させるための第1油圧シリンダ(11)を作動
させていないことが明らかである。換言すれば、右拡開は、第1油圧シリンダ(1
1)の作動していない状況のもとで、
第2油圧シリンダ(12)において発生する独自の力によつて行われるのであり、
原告主張の第1油圧シリンダ(11)の押込力に基づく反力によつて行われるので
はない。したがつて、拡開が行われる際、第2ピストン(15)と二叉腕(1)と
の間に配置されるフツク連結レバー(31)・フツク(32)は、押込力に基づく
反力を利用するための反力伝達部材としての機能を営むものではない。
 そうすると、本件追加発明における反力伝達部材は前記のような意味を有する部
材であるから、被告装置におけるフツク連結レバー(31)・フツク(32)は、
反力伝達部材に該当しないことが明らかである。したがつて、被告装置は、本件追
加発明の構成要件(は)を充足しない。
 また、後に説示のとおり、本件分割発明における保持クランプも、拡開に際して
押込力に基づく反力を利用するための反力伝達部材としての機能を営むものであ
る、ということができ、同様に、被告装置のフツク連結レバー(31)・フツク
(32)は右保持クランプに該当せず、被告装置は本件分割発明の構成要件(d)
を充足しない。
 なお、自動作業形式(Ⅰ)で間隔(S)を零にした場合は拡開が行われないが、
本件追加発明・本件分割発明は、前説示のとおり若しくは後に説示のとおり、拡開
の機構を発明の要旨の一部とすることが明らかであるから、拡開が行われない作動
方法を前提とした被告装置が本件追加発明・本件分割発明の構成要件を充足しない
ことはいうまでもない。
 以上のとおり、原告主張の各作業形式で作動させた被告装置と本件各発明を対比
すると、被告装置は、本件原発明の構成要件(ロ)、本件追加発明の構成要件
(は)、本件分割発明の構成要件(b)・(d)を充足せず、本件各発明の技術的
範囲に属しない、といわなければならない。
四 次に、前記特定された被告装置について、被告らの主張する別紙作動目録
(二)記載の作動方法をもしんしやくして、本件各発明と対比検討する。
 被告装置において、本件原発明の構成要件(ニ)、本件追加発明の構成要件
(は)にいう押込力発生装置に該当するのは、
案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)を押進めて二叉腕(1)の軸受孔
(4)内に軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン
(5)の端面に遊びなしに接触させるところの、送り油圧シリンダ(28)・送り
ピストン(29)である、と認められる。そして、本件原発明・本件追加発明で
は、押込力発生装置と二叉腕との間に反力伝達部材が配置されていることを必須の
構成要件とするのに対し、被告装置の押込力発生装置である送り油圧シリンダ(2
8)・送りピストン(29)と二叉腕(1)との間には反力伝達部材に相当するも
のが配置されていない。
 前掲甲第一、第二号証によると、本件原発明・本件追加発明は、右構成を採るこ
とにより、押込みに際しての押込力によつて生ずる反力を二叉腕に伝達し、二叉腕
で押込力と同じ大きさの反力の作用を受けて力の釣合が生ずることにより、二叉腕
の弾性変形を防止する作用を有し、本件追加発明は、押込終了後更に押込力を作用
させると、力の釣合が崩れ反力により二叉腕を拡開させる作用も有することが認め
られるところ、被告装置は、反力伝達部材に相当するものが配置されていないか
ら、右のような作用を有しない。なお、被告装置には、第2ピストン(15)にフ
ツク連結レバー(31)により枢着されたフツク(32)が二叉腕(1)に当接し
うる構造となつているが、フツク連結レバー(31)・フツク(32)は、第2油
圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から圧油が供給されて第2ピストン(1
5)が押込方向とは逆方向に後退させられることにより、二叉腕(1)を拡開させ
るものであつて、押込力発生装置(送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(2
9))の作動時には使用されていないから、押込力によつて生ずる反力を利用する
部材ではない。
 次に、本件分割発明は、「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分に
一端部を枢着されかつ他端部にフオーク腕の内面と係合するフツクを有している保
持クランプを使用して、フオーク腕を弾性変形させて拡開させる機構を有するこ
と」(構成要件(d))を必須の構成要件とする。右機構については、
前掲甲第五号証によると、本件分割特許明細書の発明の詳細な説明中の実施例で開
示されていて(本件分割特許公報四欄九行目ないし三五行目、五欄一行目ないし六
欄一行目)、これ以外に具体的開示はない。
 右開示例によると、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能な部分とは装置
11であり、装置11は、軸受13を継手十字体のピン7に遊びなしに接触するま
でフオーク腕2の孔9内に押込む作用を有し、フオーク腕2との間に設けられた押
込力に基づく反力を伝達するための保持クランプ14により、押込過程の際に生じ
る反力が装置11からフオーク腕2に伝達され、押込過程中、フオーク腕2が、一
方の側から押込力により他方の側から押込力と同じ大きさの反力により負荷されて
その位置を不動に保ち、押込完了後、更に押込力が作用されると、軸受13のカツ
プ底が継手十字体のピン7に接していてそれ以上これを押込むことができないので
力のバランスが崩れ、押込力は保持クランプ14を介してフオーク腕2を拡開し、
押込力を除去すると、フオーク腕2の弾性変形によつて生じたもどりばね力が軸受
13に作用してこれを継手十字体のピンに圧着する、とされている。右開示例は、
本件分割発明の課題・目的として本件分割特許明細書に掲げられたところ(本件分
割特許公報三欄一五行目ないし四〇行目)に照応する。
 ところで、本件分割発明は、本件原発明の特許出願から分割出願された特願昭四
四―八一〇四一特許出願から分割出願されて特許されたものであるから、その発明
の要旨とするところは、本件原発明にかかる特許の願書に最初に添付された明細書
又は図面に記載した事項の範囲内のものと解される。成立に争いのない乙第一号証
の一・二によれば、右明細書において、本件原発明の課題・要旨として記載された
ところ(右明細書の四頁一二行目ないし五頁一八行目)は、本件分割発明の前記課
題・目的の記載と同一であり、実施例として記載されたところ(右明細書の八頁一
一行目ないし九頁一一行目、一〇頁一行目ないし一二頁一一行目)は、本件分割発
明の前記開示例と実質的に同一である。そして、右乙号証によれば、
右明細書及び図面に記載された事項は、押込力発生装置により個々の軸受を継手十
字体のピンに遊びなしに接触するまで二叉腕の孔内に押込む際、押込力に基づく反
力を二叉腕のところで支えて二叉腕の弾性変形を防止すること、及び、軸受をピン
に完全に接触するまで押込んだ後更に押込力を作用させると軸受が継手十字体のピ
ンに接していてそれ以上これを押込まず、押込力が軸受を介して継手十字体のピン
に作用して二叉腕に作用せず、力の釣合が崩れ、反力伝達部材によつて引き続き二
叉腕に伝達される反力が二叉腕を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方
向に弾性変形させて拡開させ、次いで押込力を取除き二叉腕の拡開によつて生じる
もどりばね力により軸受を継手十字体のピンに圧着させる、ということであり、ま
た、右明細書及び図面において、押込力発生装置に該当するものとして装置11が
開示されており、これ以外のものの開示はない。
 そうすると、本件分割発明にいう「プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可能
な部分」とは、本件原発明明細書に記載された押込力発生装置以外のものを意味す
るとは解し難い。そして、本件原発明及び本件分割発明の各明細書の右記載から考
えると、本件分割発明の技術的骨子は、プランジヤの押込方向とは逆方向に移動可
能な部分とフオーク腕との間に前記態様で配置された保持クランプにより、押込過
程中一方からは押込力により他方からは押込力と同じ大きさの反力によつて負荷さ
れてその位置を不動に保つたフオーク腕が、押込完了後更に押込力の作用を受ける
と、軸受が継手十字体のピンに接していてそれ以上これを押込むことができなくな
り、押込力が軸受を介し継手十字体のピンに作用してフオーク腕に作用せず、力の
釣合が崩れ、保持クランプによつて引き続きフオーク腕に伝達される反力がフオー
ク腕を所定距離だけ最初の位置から押込方向とは逆の方向に弾性変形させて拡開さ
せることにある、と認めることができる。
 したがつて、本件分割発明の構成要件(d)所定の機構とは、押込力発生装置と
フオーク腕との間に反力伝達部材である保持クランプが前記態様で配置され、
押込力によつて生ずる反力を利用してフオーク腕を拡開させる機構である、と解す
るのが相当である。
 これを被告装置についてみるに、前記のとおり、押込力発生装置に該当するもの
は送り油圧シリンダ(28)・送りピストン(29)であるが、これと二叉腕
(1)との間には反力伝達部材である保持クランプに該当するものは配置されてい
ない。第2ピストン(15)と二叉腕(1)との間にはフツク連結レバー(3
1)・フツク(32)が配置されて二叉腕(1)を拡開するが、右拡開は、押込力
によつて生ずる反力を利用することによつてなされるものではない。
 以上のとおりであつて、被告装置は、本件原発明の構成要件(ニ)、本件追加発
明の構成要件(は)、本件分割発明の構成要件(d)を充足せず、当該構成要件に
基づく作用を果しえないことが明らかであるから、その余の点につき判断するまで
もなく、本件各発明の技術的範囲に属しない、というべきである。
五 そうだとすると、被告らが業として被告装置を製造・販売し、又は貸渡すこと
は、なんら本件各特許権を侵害するものではないから、右侵害を前提とする原告の
請求は、すべて理由がない。
 よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法
八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 金田育三 鎌田義勝 若林諒)
物件目録
ジヨイントヨーク自動組立機JYA―1型
 第1図は被告装置のカルダン継手組立機の装置の一部の縦断面略図、第2図は同
部分平面図、第3図は第1図のA―A線の断面図、第4図は支持体の支柱補強ブリ
ツジを除いた組立機全体の平面図、第5図は支持体の部分詳細拡大図、第6図は組
立機の正面図である。
 第1図において(1)はカルダン継手の二叉腕であつて、その各被結合軸が機台
(52)上に設けた下部チヤツク(2)及び支持体(55)に取付けた上部バイス
(3)によつて組立機に固定されるようになつている。(4)は二叉腕(1)に形
成された軸受孔、(5)は十字軸のトラニオン、(6)は軸受孔(4)に挿入され
た半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受、
(7)は軸受(6)の軸受ケースで十字軸のトラニオン(5)の周面にころがり接
触するニードル(8)を収容している。(9)は装置のヘツド全体を表わすもの
で、ヘツドの外殻を形成するヘツドボデー(10)を有している。ヘツドボデー
(10)は第1油圧シリンダ(11)と第2油圧シリンダ(12)とロツク及びロ
ツク解除シリンダ(13)を有している。第1油圧シリンダ(11)内に第1ピス
トン(14)が、第2油圧シリンダ(12)内に第2ピストン(15)が摺動可能
に設けられている。また、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)内にはストツパ
(16)が摺動可能に設けられ、このストツパ(16)の周囲に、ロツク及びロツ
ク解除シリンダ(13)へのストツパ(16)の固定及び固定を解除する係止機構
(17)が設けられている。(18)は案内パンチ押軸で第1油圧シリンダ(1
1)、第2油圧シリンダ(12)、ロツク及びロツク解除シリンダ(13)、第1
ピストン(14)、第2ピストン(15)及びストツパ(16)と同軸にこれらを
貫通して移動可能に設けられている。(19)は案内パンチで、後端を案内パンチ
押軸(18)によつて押されるように配置されている。(20)はカシメツールで
案内パンチ(19)と同軸にその外側に設けられ、摺動できるようになつている。
カシメツール(20)と第1ピストン(14)とはナツト(21)によつて固定連
結されている。(22)はスペーサリングで、第1ピストン(14)によつてカシ
メツール(20)を前進させる際、案内パンチ(19)を介して軸受(6)をトラ
ニオン(5)に隙間がなくなるまで押込むようにカシメツール(20)の前進量を
規定するためのものである。(23)はばねで、第2油圧シリンダ(12)の後方
に突出した第2ピストン(15)の後端部に形成された複数個の有底孔と、ロツク
及びロツク解除シリンダ(13)から前方に突出したストツパ(16)の前端部に
形成されたフランジとの間に挿入され、第2ピストン(15)の後端部とストツパ
(16)との間に間隔(S)を保持するために用いられる。(24)は調節ナツト
で、"
これに設けられた内つば(24)′でストツパ(16)のフランジに係合し、更
に、このナツト(24)のめねじは第2ピストン(15)の後端部に形成されたお
ねじに螺合され、このナツト(24)の調節により第2ピストン(15)の後端面
とストツパ(16)のフランジ面との間隔(S)があらかじめ決められる。しか
し、この間隔(S)が零になるようにナツト(24)を締付けることもできる。
(25)は調節ナツト(24)の弛み止め用のロツクナツトである。(28)はヘ
ツド(9)の送り油圧シリンダ、(29)は送りピストンでその前端部に形成され
たおねじ(29)′がヘツドボデー(10)の後壁に設けられためねじ(30)に
螺合固定されている。(26)は案内パンチ押軸(18)の最大前進位置を調節す
るナツトで、これはヘツドボデー(10)の後壁より前方に突出した前記送りピス
トン(29)のおねじ(29)′に螺合され、案内パンチ押軸(18)を介しての
案内パンチ(19)の最大前進位置を決定することもできるし、ヘツド前進位置
で、案内パンチ押軸(18)と調節ナツト(26)とが接触しないように調節する
こともできる。(27)は調節ナツト(26)の弛み止め用のロツクナツトであ
る。なお、ヘツドボデー(10)の後部両側には調節ナツト(26)及びロツクナ
ツト(27)を操作するための窓(50)が設けられている。(45)は緩衝用押
軸で、これは送りピストン(29)の中央を貫通しており、その長さの中程に設け
られたフランジ(46)が送りピストン(29)に形成せられた中空部(47)を
摺動しうるようになされ、かつ、フランジ(46)と中空部(47)の底との間に
ばね(41)が介在されることにより、この緩衝用押軸(45)の先端は案内パン
チ押軸(18)の後端に常に当接している。第2図の(31)は第2ピストン(1
5)の両側にピン(51)により枢着されたフツク連結レバー、(32)はフツク
連結レバー(31)に固定されたフツクで昇降装置(44)により上・下に運動で
きるようになつている。(33)は二叉腕(1)の端部に当接する部分である。な
お、"
各油圧シリンダには油圧路(34)・(35)・(36)・(37)・(38)・
(39)がロツク及びロツク解除シリンダ(13)には油圧路(43)がそれぞれ
設けられている。また、ヘツド(9)は案内レール(40)によつて案内されなが
ら移動するようになつている。(42)は送り油圧シリンダ(28)の位置決め装
置である。送り油圧シリンダ(28)は、第3図に示されているように、その下端
両翼部(48)をヘツド(9)と共通の案内レール(40)の両側立上り部に内方
突出状にボルト止めする締付板(49)で締付けることにより固定されている。
 第1図において、ヘツド(9)及び送り油圧シリンダ(28)は一個だけ図示さ
れているが、組立機全体では第4図に示すとおりヘツド及び送り油圧シリンダが前
後左右に交叉して四個配置されている。
 第4図ないし第6図に示すように、機台(52)上には間隔をもつて二本の支柱
(53)・(54)が設けられており、上部バイス(3)を取付けた支柱体(5
5)が、ヘツド(9)の上方を跨いでその一端側を一方の支柱(53)に軸(5
6)により枢着されている。支持体(55)の他端側の中程には平行に突出した突
起(57)・(58)が設けられており、その突起(57)・(58)に形成され
た孔にピン(59)が回動可能に嵌挿され、ピン(59)の一端部に固着されたハ
ンドル(60)により回動されるようになつている。ピン(59)には一対の挟持
部材(61)・(62)が、ピン(59)の軸方向に移動可能でかつピン(59)
と一体となつて回動可能に嵌挿されている。そして、挟持部材(61)・(62)
は、突起(57)・(58)と挟持部材(61)・(62)間にそれぞれ配置され
たばね(63)・(64)によつて互いに付勢されて他方の支柱(54)に固着さ
れた凸状部材(65)を挟持している。ボルト(66)・(67)は調節ボルトで
あつて、作業開始前に下部チヤツク(2)の中心に上部バイス(3)の把み位置の
中心を一致するように調節する際、第5図に示す状態から隙間(δ)がなくなるま
でねじ込んで支持体(55)を固定したり、
作業開始後に隙間(δ)をあけておいて作業できるようにしたり、隙間がなくなる
ように締付けておいて作業できるようにするためのものである。
第1図
<12342-001>
第4図
<12342-002>
第5図
<12342-003>
第6図
<12342-004>
作動目録(一)
 被告装置の作動についての以下の各作業形式では、調節ナツト(26)がヘツド
前進位置で案内パンチ押軸(18)と接触しないようにあらかじめ調節されてい
る。
自動作業形式(Ⅰ)は定寸拡開(間隔を(S)にする場合)を、自動作業形式
(Ⅱ)及び手動作業形式(Ⅰ)は定圧拡開を行う。
一 自動作業形式(Ⅰ)〔第2ピストン(15)の端部とストツパ(16)のフラ
ンジ面との間の間隔(S)は二叉腕の所望の拡開寸法(拡開寸法零を含む)に予め
調整されている。〕
(一) 軸受(6)及び十字軸が予備組立によりカルダン継手の二叉腕(1)の軸
受孔(4)に挿入された状態でカルダン継手を装置の下部チヤツク(2)、上部バ
イス(3)に配置し、送りピストンの右端面に加わる油圧を高めて送りピストン
(29)を前進させることにより、ヘツド(9)全体を第7図に示す初期位置から
前進させて案内パンチ(19)の先端を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受
(6)の底面に当て、案内パンチ(19)の軸線に対しカルダン継手の二叉腕
(1)の軸受孔(4)の軸線を一致させる(第8図)。すなわち案内パンチ押軸
(18)及び案内パンチ(19)は第1ピストン(14)、第2ピストン(15)
及びストツパ(16)の各中心に可動的に貫通されているので、ヘツド(9)全体
を送りピストン(29)により前進させると、送りピストン(29)の中空部(4
7)内にあるばね(41)によりフランジ(46)の後面を支えられた緩衝用押軸
(45)も前進し、したがつて案内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)も
前進して、案内パンチ(19)の先端が二叉腕(1)の軸受孔(4)内にある軸受
(6)(詳細な形状は第12図参照)の底面に当たる。案内パンチ(19)は当初
ヘツド(9)とともに前進するが、
案内パンチ(19)の先端が軸受(6)の底面に当たると、案内パンチ(19)は
軸受(6)の底面をばね(41)の作用で押し、軸受(6)の底面の形状に応じた
案内パンチ(19)の先端面に軸受(6)の底面をそわせる結果、案内パンチ(1
9)の軸線とカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の軸線が一致させられ
る。
(二) その後送りピストン(29)を僅か後退させ、ヘツド(9)を若干戻す。
その間に下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)によつてカルダン継手を固定す
る。その結果トラニオン(5)が二叉腕(1)の軸受孔(4)に対して正しい相対
位置におかれる。
(三) 送りピストン(29)を再び前進させてヘツド(9)を(一)の工程の第
8図の位置まで前進させる。この場合下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)が
カルダン継手を固定しているので、その状態は第9図に示すようになる。次にフツ
ク連結レバー(31)を下降させ、第2ピストン(15)を弱い油圧により後退さ
せ、フツク(32)を二叉腕(1)の内側面に当接させる。この際、あらかじめ調
節ナツト(24)によつてセツトされた第2ピストン(15)の端面とストツパ
(16)のフランジ面との間隔(S)はそのまま保たれている。このようにしてか
ら、ストツパ(16)をロツク及びロツク解除シリンダ(13)内の係止機構(1
7)によつて固定する。次に更に油圧を強め、第2ピストン(15)をその後端が
ばね(23)のばね圧に打ち勝つてストツパ(16)のフランジに当接するまで後
退させ、二叉腕(1)を拡開する(第10図)。間隔(S)を零に調整した場合拡
開は行われない。
(四) (三)の状態において第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(14)
を前進させて、カシメツール(20)を前進させる。この際所定距離前進するとス
ペーサリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接して、これによつ
て案内パンチ(19)は軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に遊び
なしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によるカシメ作
業が終了する(第11図)。
(五) その後第2ピストン(15)を前進させてフツク(32)を二叉腕(1)
から前へ離し(第12図)、次に第1ピストン(14)を後退させてカシメツール
(20)を初期の位置に戻す(第13図)。それから図示しない装置でフツク(3
2)を持上げてヘツド(9)を初期の位置に戻し、下部チヤツク(2)及び上部バ
イス(3)を解除する。
二 自動作業形式(Ⅱ)〔第2ピストン(15)の後端部とストツパ(16)のフ
ランジ面との間の間隔(S)を零になるように締切つておいて作業する〕
この形式の工程(一)、(二)、(四)、(五)は、自動作業形式(Ⅰ)の工程
(一)、(二)、(四)、(五)と同じである。(三)の工程が次のように変わ
る。
(三)′ 送りピストン(29)を再び前進させてヘツド(9)を(一)の工程、
すなわち第8図に相当する位置まで前進させる。次にフツク連結レバー(31)を
下降させ、第2ピストン(15)を後方に弱い圧力で後退させてフツク(32)を
二叉腕(1)の内面に当接させた後、更に油圧を高めて所定の圧力に上昇させる。
この際第2ピストン(15)の後退移動によりストツパ(16)がともに後退す
る。このようにして二叉腕(1)が拡開される。その後ロツク及びロツク解除シリ
ンダ(13)内の係止機構(17)によつてストツパ(16)を固定する。
三 手動作業形式(Ⅰ)〔この作業形式では第2ピストン(15)の後端部とスト
ツパ(16)のフランジ面との間の間隔(S)を零に締切つて作業が行われる〕
 前述の(一)、(二)の工程は、この作業形式でも同一である。ただし、間隔
(S)が零に調整されているので、その初期位置の状態は第14図に示すようにな
り、案内パンチ(19)の先端面に軸受(6)の底面を沿わせて、案内パンチ(1
9)の軸線とカルダン継手の二叉腕の軸受孔の軸線を一致させた(一)の工程の状
態は第15図に示すようになる。その後の工程は次のようになる。
(三)″ 送りピストン(29)を再び前進させて、ヘツド(9)を(一)の工程
の第15図に示す位置まで前進させる。この場合、
下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)はカルダン継手を固定しているのでその
状態は第16図に示すようになる。次にフツク連結レバー(31)を下降させ、第
2ピストン(15)を油圧により後方に弱い圧力で後退させ、フツク(32)を二
叉腕(1)の内側面に当接させる。次にストツパ(16)をロツク及びロツク解除
シリンダ(13)内の係止機構(17)によつて固定する。それから第2ピストン
(15)の左端面に作用する油圧を更に増加する(第17図)。
(四)″ (三)″の状態において第1油圧シリンダ(11)の第1ピストン(1
4)を前進させて、カシメツール(20)を前進させる。この際所定距離前進する
とスペーサリング(22)の前端が案内パンチ(19)の後端に当接して、これに
よつて案内パンチ(19)は軸受ケース(7)の端面をトラニオン(5)の端面に
遊びなしに接触するまで押込み、かつこの位置でカシメツール(20)によるカシ
メ作業が終了する(第18図)。
(五)″ その後ロツク及びロツク解除シリンダ(13)にストツパ(16)を固
定している係止機構(17)の固定作用を油圧路(43)を介してロツク及びロツ
ク解除シリンダ(13)内の油圧を低下することによつて解除する。その結果第2
油圧シリンダ(12)の油圧路(36)を介して加わる所定の高圧に依存して第2
ピストン(15)は後方に後退する。それとともに第2ピストン(15)に連結さ
れたフツク連結レバー(31)に固定されたフツク(32)は後方に移動して二叉
腕(1)を拡開する。この場合カシメ作業が付加的に進行する。この拡開終了位置
を第19図に示す。
(六)″ その後第2ピストン(15)を前進させ、フツク(32)を二叉腕
(1)から前へ離し、次に第1ピストン(14)を後退させてカシメツール(2
0)を初期位置に戻し、図示していない装置でフツク(32)を持上げてヘツド
(9)を初期位置に戻し、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)を解除する。
第7図
<12342-005>
第8図
<12342-006>
第9図
<12342-007>
第10図
<12342-008>
第11図
<12342-009>
第13図
<12342-010>
第14図
<12342-011>
第15図
<12342-012>
第16図
<12342-013>
第17図
<12342-014>
第18図
<12342-015>
第19図
<12342-016>
取扱説明書
5 操作方法
5―1 稼動準備
(1) 機械制御装置のメインノーヒユーズブレーカをONする。
〈状態〉 電源表示ランプON(白色)
(2) 運転準備釦を押す。
〈状態〉 運転準備表示ON(緑色)
○ 油圧用モータ起動しポンプが作動します。
○ 全ての油圧回路が作動可能となります。
(3) 圧力計の読みで回路設定圧力を定めます。
 圧力計(A)……140kg/cm3
 圧力計(B)……30kg/cm3 KD―280Aの油圧
 圧力計(C)……70kg/cm3 ユニツトを参照のこと。
(4) エア源コツクを開く。
 圧力計(F)……4kg/cm3
〈自動の場合〉
1 サイクルスイツチで”自動“を選択します。
2 サイクル起動釦を押します(キノコ型2個両手押し)。
〈手動の場合〉
4―2操作パネルの説明により操作して下さい。
4―2 操作パネル(付録の14番140050参照)
(1) (白色)表示ランプ
(2) 運転準備(黒色)釦
この釦を押すと油圧タンク部のポンプ1、2が作動します。
(3) 運転準備(緑色)表示ランプ
運転準備釦を押すと点灯します。
(4) 自動運転中(橙色)表示ランプ
サイクル用セレクターSWを自動に選択し、サイクル起動釦を押すと点灯します。
(5) サイクル
動作を手動、自動させる場合に選択するスイツチです。
(6) 起動
ベツド上にある2個のキノコ型の押し釦を両手で押すと、一サイクルの動作を終え
て停止します。
(7) 全停止(赤色)釦
この釦を押すと停止状態となり、すべての機能は動作できません。
(8) ヘツド寸動
ヘツド部、動作を寸動させたい場合、このスイツチを”入“に選択させ、ヘツド釦
を押すと、押している間のみ動作します。
寸動させない場合は、このスイツチを”切“に選択します。
(9) ヘツド
ヘツド部、動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択し、押釦を押して
動作させます。
(10) バイス
上部、下部固定装置で動作を、前進、後退させたい場合、このスイツチで選択しま
す。
また自動を選択しておけば、この動作は自動的に動作します。
(11) チヤツク
チヤツク部で動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択します。
(12) チヤツク
チヤツク1とは、コレツトチヤツク用で、バルブが励磁すればチヤツクします。
またチヤツク2とは、フインガーチヤツク用で、バルブが切れるとチヤツクしま
す。
(13) フツク
フツク上下位置で動作を上昇、下降及び引張りさせたい場合、このスイツチで選択
します。
(14) フツクロツク
フツクロツク部でロツクしたい場合、このスイツチを”入“に選択させます。ロツ
クしない場合に”切“を選択します。
(15) かしめツール寸動
かしめツールを寸動させたい場合、このスイツチを”入“に選択させ、かしめツー
ル釦を押すと、押している間のみ動作します。
寸動させない場合は、このスイツチを”切“に選択します。
(16) かしめツール
かしめツールの動作を前進、後退させたい場合、このスイツチで選択し、押釦を押
して動作させます。
<12342-017>
<12342-018>
作動目録(二)
一 被告装置の組立機にセツトされるのは、予備組立されたカルダン継手である。
 この予備組立されたカルダン継手は、第1図に示されたように、一対の被結合軸
の先端に設けられた二叉腕(1)に貫通状に形成された軸受孔(4)内に、十字軸
のトラニオン(5)が挿入配置されるとともに、前記各軸受孔(4)内に外方から
半径方向並びに軸方向に負荷可能な軸受(6)が挿入されて、十字軸のトラニオン
(5)を軸受孔(4)内で回動自在に支持しているものであり、軸受(6)の軸受
ケース(7)は、十字軸のトラニオン(5)の周面にころがり接触する複数個の円
筒状ニードル(8)を収容している。
 予備組立は次の順序で行う。ハンドプレスのテーブル上に取付けられた下方の圧
入治具に、
被結合軸の二叉腕(1)は、その軸受孔(4)を基準にして第1図の(2)ように
取付けられる。次に軸受(6)を第1図の(3)のように上部の軸受孔(4)に置
き、第1図の(4)のようにハンドプレスのラムに取付けた上方の圧入治具により
軸受(6)を軸受孔(4)内に約半分程度押込む。この状態で被結合軸をハンドプ
レスから取出し、軸受(6)を押込んだ方を下方にして第1図の(5)に示すよう
に十字軸を軸受孔(4)内に挿入する。そして再びこの状態で被結合軸をハンドプ
レスに第1図の(6)に示すようにセツトし、第1図の(3)と同様に、上方の軸
受孔(4)に軸受(6)を置き、上方の圧入治具により軸受(6)を軸受孔(4)
内に押込む。その結果、第1図の(7)に示すように、軸受ケース(7)の底面と
トラニオン(5)の端面との間に僅かな隙間が残された状態に予備組立されたカル
ダン継手が得られる。この隙間は十字軸の位置決め工程のため必要となる。軸受
(6)の軸受孔(4)内への圧入は、第1図の(8)に示した圧入治具の角度θの
斜面が第1図の(9)に示した軸受孔(4)内の角度αの斜面に当接するまで行
う。このようにして一方の被結合軸の二叉腕(1)の軸受孔(4)に軸受(6)の
押込み、十字軸の挿入が完了する。他方の被結合軸の二叉腕(1)の軸受孔(4)
内への軸受(6)の押込み、十字軸の挿入も前記作業を繰返すことによつて行われ
る。予備組立されたカルダン継手は第1図のようになる。
二 被告装置の組立機でカルダン継手を組立てる工程は、次のとおりである。
(一) カルダン継手の配置工程(第2図、第3図、第4図、第13図、第14図
及び第15図)
 一項で述べた予備組立されたカルダン継手を、組立機の下部チヤツク(2)及び
上部バイス(3)に、カルダン継手の二叉腕(1)の各軸受孔(4)の中心軸線X
軸Y軸が平面十字形に配置された各装置の軸受押込作業線X軸Y軸にほぼ一致する
よう、目視によつて配置する。この段階では、カルダン継手の各被結合軸は開放さ
れた下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)に装入されただけで固定されていな
い。
(二) X軸Y軸の軸線合わせ工程(第5図)
 この工程では、前記(一)の工程で組立機の下部チヤツク(2)及び上部バイス
(3)に配置されたカルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心軸線X軸Y
軸を軸受孔(4)に挿入された軸受(6)の軸受ケース(7)の底面を利用して組
立機の軸受押込作線X軸Y軸に一致させる。すなわち、送り油圧シリンダ(28)
内に油圧路(39)から圧油を供給し、送りピストン(29)を送り油圧シリンダ
(28)の前壁に当接しない範囲で前進させ、ヘツドボデー(10)を同体的に案
内レール(40)に沿つて前進させる。このとき案内パンチ押軸(18)及び案内
パンチ(19)は送りピストン(29)内にあるばね(41)によりフランジ(4
6)が押されている緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(1
0)とともに前進する。かくして、案内パンチ(19)の先端は軸受ケース(7)
の底面をばね(41)の作用で緩かに押し、軸受ケース(7)の底面を案内パンチ
(19)の先端に正しく沿わせることにより、その結果として二叉腕(1)の向き
を矯正し、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)の中心軸線X軸Y軸を案内
パンチ(19)による軸受押込作業線X軸Y軸に一致させる。
(三) 継手の保持工程(第6図)
 この工程では、前記(二)の工程で組立機の軸受押込作業線X軸Y軸に二叉腕
(1)の軸受孔(4)の中心軸線を一致させたカルダン継手を下部チヤツク(2)
及び上部バイス(3)で保持し、組立作業中この状態を維持する。すなわち、送り
油圧シリンダ(28)内に油圧路(38)から圧油を供給して前進位置にある送り
ピストン(29)を後退させ、これによつてヘツドボデー(10)案内パンチ(1
9)、案内パンチ押軸(18)を後退させる。この場合の後退は、前記(二)の工
程で軸受ケース(7)の底面を緩かに押している案内パンチ(19)の先端が軸受
ケース(7)の底面から離れる位置までである。その後、カルダン継手の下方の被
結合軸は組立機の作業中心に配置された下部チヤツク(2)で掴持され、
継手の上方の被結合軸は機台(52)上で水平にY軸方向に僅かに移動し得るよう
に設けられた上部バイス(3)でX軸方向に把持され、この状態は組立工程中維持
される。
(四) 十字軸の位置決め工程(第7図)
 この工程では、カルダン継手の二叉腕(1)の軸受孔(4)内に挿入された軸受
(6)を、その軸受ケース(7)の底面が十字軸のトラニオン(5)の端面に遊び
なしに接触するまで押込み、これにより十字軸をその中心が組立機の軸受押込作業
線X軸Y軸の交点に一致するように位置決めする。すなわち、送り油圧シリンダ
(28)内に油圧路(39)から再び圧油を供給し、送りピストン(29)を送り
油圧シリンダ(28)の前壁に当接するまで前進させ、ヘツドボデー(10)を案
内レール(40)に沿つて前進させる。この送りピストン(29)の前進により案
内パンチ押軸(18)及び案内パンチ(19)は、前記(二)の工程の場合と同様
に緩衝用押軸(45)の先端で押された状態でヘツドボデー(10)と一緒に前進
する。案内パンチ(19)の先端が軸受ケース(7)の底面に当接すると、前進す
る送りピストン(29)は緩衝用押軸(45)及び案内パンチ押軸(18)を介し
て案内パンチ(19)を押しているばね(41)を圧縮しながら前進し、送りピス
トン(29)の先端に螺着された調節ナツト(26)の端面を案内パンチ押軸(1
8)の後端面に当接させて送り油圧シリンダ(28)内の油圧で案内パンチ押軸
(18)及び案内パンチ(19)を押進め、これにより案内パンチ(19)が二叉
腕(1)の軸受孔(4)内の軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)の底面を十字
軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに接触させる。そして、送りピストン(2
9)の前進とともに前進する案内パンチ押軸(18)、したがつて案内パンチ(1
9)は、軸受ケース(7)の底面を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊びなしに
接触させたときに十字軸の中心が組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致す
るように、その最大前進位置を調節ナツト(26)で調整されており、組立機の各
装置は交叉するX軸Y軸に沿つて配置されているので、
二叉腕(1)の軸受孔(4)内の十字軸は、案内パンチ(19)が四方から同時に
軸受(6)を押込み、軸受ケース(7)を十字軸のトラニオン(5)の端面に遊び
なしに接触させることにより、十字軸の中心を組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の
交点に一致させる。そして、この状態は組立て完了まで維持される。
(五) 二叉腕の一次拡開工程(第8図)
 かくして、十字軸の中心が、組立機の軸受押込作業線X軸Y軸の交点に一致した
後、フツク(32)の部分(33)を二叉腕(1)の端部に引掛けて、低油圧によ
り二叉腕(1)を僅かに一次拡開させる。すなわち、フツク(32)は第7図の状
態で昇降装置(44)の作動により降下させられて、その部分(33)を二叉腕
(1)の端部に引掛ける位置においた後、第2油圧シリンダ(12)内に油圧路
(36)から低圧油を供給して第2ピストン(15)を後退させ、この第2ピスト
ン(15)の側部にピン(51)で枢着されたフツク連結レバー(31)をを介し
てフツク(32)の部分(33)を二叉腕(1)の端部に当接させ二叉腕(1)を
僅かに一次拡開させる。この場合、油圧路(36)から供給される低圧油は第2ピ
ストン(15)だけでなく、ストツパ(16)をも一緒に後退させるが、この第2
ピストン(15)とストツパ(16)とは、その間にばね(23)が設けられてお
り、調節ナツト(24)によつて、あらかじめ定められた間隔(S)を保持したま
ま後退するのである。
(六) ロツク工程(第8図)
 次いでストツパ(16)を軸方向にロツクする。すなわち、ロツク及びロツク解
除シリンダ(13)内へ油圧路(43)から圧油を供給して係止機構(17)の径
を収縮させてストツパ(16)の外周を緊縛して軸方向に固定する。かくして、第
2ピストン(15)及びストツパ(16)は間隔(S)を保つて後退した第8図の
状態で軸方向に固定され、二叉腕(1)は一次拡開の状態に維持されるのである。
(七) 二叉腕の二次拡開工程(第9図)
 前記(六)の工程で第一次拡開状態に保たれた二叉腕(1)は、更に間隔(S)
だけ二次拡開される。すなわち、
第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(36)から更に高圧油を供給して第2ピス
トン(15)を、ばね(23)を圧縮しながらストツパ(16)に当接するまで、
すなわち間隔(S)を零にするまで後退させ、これにより二叉腕(1)はフツク
(32)によつて引張られて拡開させられ、この状態は第2油圧シリンダ(12)
内へ油圧路(36)から引続き供給される圧油によつて維持される。
(八) 軸受固定の工程(第10図及び第11図)
 このように二叉腕(1)を二次拡開した状態においてカシメツール(20)を前
進させて、軸受(6)を二叉腕(1)の軸受孔(4)内にその軸方向に固定する。
すなわち、カルダン継手の二叉腕(1)をフツク(32)で二次拡開させた第9図
の状態で、第1油圧シリンダ(11)内へ油圧路(35)から圧油を供給して、第
1ピストン(14)を前進させ、この第1ピストン(14)の先端にナツト(2
1)で結合されたカシメツール(20)の先端を案内パンチ(19)と同心的に二
叉腕(1)の軸受孔(4)内に圧入させる。この場合のカシメツール(20)の前
進は、第1ピストン(14)の先端に設けられたスペーサリング(22)が案内パ
ンチ(19)の後端に当接することによつて制限される。この前進位置はあらかじ
めスペーサリング(22)の厚さによつて調節される。カシメツール(20)の先
端部外周には第11図に示す如く軸受孔(4)内の内径寸法より大きい寸法の突起
(20′)が複数個形成されており、圧入時にこの突起(20′)によつて軸受孔
(4)の内壁を部分的に冷間塑性変形させて軸受ケース(7)の外底面上に複数個
の突起(4′)を形成させ、この突起(4′)により軸受(6)をカルダン継手の
二叉腕(1)の軸受(4)内に軸方向に固定する。
(九) 軸受固定後の工程(第12図)
 軸受固定の後、第2油圧シリンダ(12)内の油圧を中立状態とすることにより
二叉腕(1)に対する拡開力を停止し、油圧路(43)からロツク及びロツク解除
シリンダ(13)内の圧油を抜いて係止機構(17)のストツパ(16)に対する
ロツクを解除し、
同時に第2油圧シリンダ(12)内へ油圧路(37)から圧油を供給して第2ピス
トン(15)を前進させ、二叉腕(1)に対する拡開力を解除する。次いで、圧油
を油圧路(34)から第1油圧シリンダ(11)内へ供給することにより、第1ピ
ストン(14)及びカシメツール(20)を後退させる。更に、昇降装置(44)
を作動させることによりフツク(32)を上昇させて、二叉腕(1)の端部から外
すほか、下部チヤツク(2)及び上部バイス(3)を開放するなど各装置について
それぞれ作業解除の操作を施したうえ、組立完了したカルダン継手を組立機から取
出す。
第1図
<12342-019>
第1図の(2)
<12342-020>
第1図の(3)
<12342-021>
第1図の(4)
<12342-022>
第1図の(5)
<12342-023>
第1図の(6)
<12342-024>
第1図の(7)
<12342-025>
第1図の(8)
<12342-026>
第1図の(9)
<12342-027>
第2図
<12342-028>
第5図
<12342-029>
第6図
<12342-030>
第7図
<12342-031>
第8図
<12342-032>
第9図
<12342-033>
第10図
<12342-034>
第12図
<12342-035>
第13図
<12342-036>
第14図
<12342-037>
第15図
<12342-038>
第16図
<12342-039>
第17図
<12342-040>

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