弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事    実
 控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人らに対し金四万四百十五円及び
これに対する昭和三十一年三月二十四日から完済まで年五分の割合による金員を支
払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代
理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において証
拠として当審証人A、Bの各証言を援用したほか原判決の事実摘示と同一であるか
らこれを引用する。
         理    由
 第一、次に記す(一)乃至(六)の諸事実については、当裁判所は原審通りの認
定をなすものであつて、その理由は原判決理由の当該関係部分中判決書十二枚目表
一行目から十四枚目表七行目「確定日附の証書がない」までを引用するほか「当審
証人A同Bの各証言によるももとより右認定を左右することはできない」と附加す
る。
 (一) 千葉県印旛郡a町b字cd番地の一畑一町歩は元被控訴人の先々代訴外
Cの所有であつたところ、右Cは隠居し、被控訴人の先代Dが家督相続し、更に右
Dが隠居して被控訴人が家督相続し、右土地の所有権を承継取得した。
 (二) 右Cが右土地を所有していた当時同人がこれを訴外Eに賃貸し、その後
更に控訴人らの先代Fに賃貸し、同人が耕作していた。
 (三) 終戦後自作農創設特別措置法の制定に伴い右土地は昭和二十二年七月二
日政府が被控訴人から買収し同日更に控訴人ら先代Fが政府から売渡を受けて右土
地の所有権を取得した。
 (四) 右土地の周辺に生立していた控訴人ら主張の杉立木八十本(控訴人らが
本件損害賠償を請求しているのは内三十三本についてである)が昭和三十一年三月
二日伐採せられた。
 (五) 控訴人らの先代Fは昭和三十五年一月死亡しその子である控訴人ら六名
が右Fの遺産を共同相続した。
 (六) 右杉立木は控訴人ら先代Fの植樹したものとは認められず却つて被控訴
人の先々代Cが大正の末期ごろに杉苗として植え、それが成長したもので、その所
有権は右Cに属し、前記の通り相続により被控訴人先代D、ついで被控訴人に順次
承継せられた。従つて本件土地が自作農創設特別措置法により買収せられた当時地
上の本件杉立木は被控訴人の所有に属していた。
 第二、そこで控訴人らの予備的主張について以下判断する。
 本件杉立木の生立していた畑地は、自作農創設特別措置法に基く行政処分により
昭和二十二年七月二日当時の所有者たる被控訴人から政府が買収し、同日政府がこ
れを控訴人ら先代Fに売渡したもので、地上の本件杉立木が伐採せられた当時右畑
地は同人の所有に属していたことは当事者間に争がない。
 控訴人らは、本件杉立木は立木法の適用を受けず又樹木の集団若くは個々の樹木
として明認方法を施されていないから取引上独立の不動産として所有権の客体とな
らず土地の定着物として土地と共に移転すべきものであるから、本件畑地が政府に
より被控訴人から買収せられると共に右杉立木も買収せられ、控訴人ら先代Fが政
府から本件畑地の売渡を受けたことにより之と共に右杉立木の所有権も同人に於い
て取得したと主張し、被控訴人はこれに対し、政府の右畑地買収及び売渡処分にお
いて本件杉立木は、当事者の意思に基き畑地から全く除外せられていたのである、
従つて右杉立木が立木法の適用を受けずまた慣習上認められる明認方法を施されて
いないものであつても、このことからして直ちに畑地と共に買収売渡処分に付され
たものとなすべきでなく、却つて右買収売渡処分の目的から除外せられたものとな
すべきである、本件杉立木の価額が畑地の買収売渡の価額に算入せられていないこ
とによつても右除外の事実は明かである、よつて自作農創設特別措置法による本件
畑地買収処分後も本件杉立木の所有権は依然被控訴人に属し、被控訴人の自由処分
に任せられていたものであると主張する。
 <要旨第一>よつて案ずるに、本件杉立木につき立木法による登記がなされておら
ず又いわゆる明認方法も施されていなかつたことは本件弁論の全趣旨か
ら明白である。従つて法律上右立木は本件畑地の一部と看做されるべきことも当然
である。しかしかかる地上の立木も自作農創設特別措置法による農地の買収処分に
おいて土地からこれを除外して買収処分をなすことの可能なことは本件買収後昭和
二二年法律二四一号によつて改正された自作農創設特別措置法第一五条の法意に照
らしても明らかであつて、(昭和三三年二月一三日最高裁判決、民判集一二巻二号
二三二頁以下参照)もしこれを除外して買収処分がなされた場合は、立木の所有権
はその敷地である農地の所有権と共に買収されることなく、従て右立木の所有権は
農地の売渡を受けた者にも移転することがないといわなければならない。よつて本
件において、政府が被控訴人の本件畑地を買収処分に付した際果して地上の立木を
除外して手続を施行したかどうかを検討する。
 (一) 原審における検証の結果(第一、二回)、原審証人Dの証言(第一、二
回)、原審における被控訴本人訊問の結果、当審証人B、Aの証言及び成立に争の
ない乙第五号証の記載を綜合すると、本件畑地の買収処分当時右地上に生立してい
た本件伐採に係る杉立木三十三本は樹齢二十年位で目通り一尺程度のもので、其の
他にも五十数本の同様の杉と右杉よりも数年樹齢の古い松立木約三十本が生立し、
その価額は合計して少くとも五千円を超えていたものと認められるのに対し、買収
価額は三千五百四十六円二十四銭であつて、此の額は買収の対象たる畑地のみの価
額に相当し、即ち右立木の価額は全く買収価額に算定されていないこと明らかであ
る。而して右検証の結果によるも本件立木が本件畑地の従物としての効用を果して
いるものとは認め得ない。(二)当審証人A、Bの供述によれば本件畑地の買収に
ついては地上の立木についての代金は支払われていないが、凡そa町農地委員会に
おいては本件買収当時地主と小作人から農地申告のある場合は之に基づいて買収を
為し特に実地調査を為さないのが原則であつて、耕作者と所有者から立木のある旨
の申出がなければ、その農地には立木がないものと見なして買収する実情に在つた
ことを認め得べく、(三)成立に争のない乙第五号証の記載竝に原審証人G、当審
証人Bの供述竝に弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人に対する本件畑地の買収の
告示にも亦買収令書にも単に目的の畑地を特定する地番、面積、賃貸価額、買収対
価等を記載したにとどまり、地上の立木の生立すること乃至之に関する記載は何等
為されなかつたことを認め得べく、(四)当審証人B、Aの供述によれば同人等は
本件買収当時a町の居住者で同町農業委員会に関係していた者であつて、本件地上
に前示認定の如き年数を経た相当の太さの立木が相当多数生立していたことを知つ
ていたことを認め得るから、他に反対の事実の認められない本件においては、買収
手続に関与した同町農地委員会の委員も亦前示立木の生立を知つていたものと推認
し得べく、従つて当時の立木の価額を正確に算定し得ないことは勿論であつたろう
が、その価額が土地価額に匹敵する程度のものであることは考え得たものと推測さ
れるから、公平を旨とし利害関係を離れた委員会において土地のみの価額を以て右
の如き価値を有する立木までも含むとするが如き趣旨の買収決定を敢えて為したも
のとは到底考え得られないと言うべく(五)而も当審証人Aの供述によれば、a町
農地委員会においては買収農地に立木の生立していた場合の実例は本件以外にはな
かつたが、農地の中に事実上の宅地を含んだ場合、之を分筆除外して買収した例は
あり、本件も同様の取扱になると思う旨の供述をしているが、此の供述から推測す
れば、本件買収処分は地上生立の立木を除外して為したものと解しても、当時の農
地委員会に取つて全く予想外のこと又は考え<要旨第二>及ばないことであつたとは
到底思われない。以上(一)乃至(五)の事実を綜合して考えると、前示認定の如
く本件買収のための公告及び買収令書には当時生立の立木を除く旨明記
されてはいなかつたが、委員会としては当初から黙示的にこれを目的物から除外し
ていたものと認定すべきである。当審証人Bの供述中右の認定に反する部分は同人
の主観的意見と見るべきであるから、これを以て右認定を覆すことを得ず、他に認
定を左右するに足る資料はない。
 尤も右の認定によれば、本件買収処分には立木を除外する旨の黙示的意思表示が
加わつていたことになるところ、一般に行政行為殊にそれが要式行為たる場合には
(買収処分は自創法第九条の解釈上買収令書の交付による要式行為と解せられ
る)、黙示的意思表示は許されないとの説もあるが、本件買収処分について言えば
此の黙示の意思表示は買収処分の範囲を減縮する意味を有し所有者にとつて有利な
ものであるから、之を否定する理由に乏しいと言うべきである。のみならず若し右
の理論に従つて黙示の意思表示を許さず農地の所有権に従つて移転するとするなら
ば、所有者は自創法第十四条の対価の額に対する不服の訴を以て争うべきだと言う
のであろうが、本件の如く、農地の価額を上廻る価額の立木のあるに拘らず、これ
を全く考慮しないで農地のみの価額を以て買収価額とした場合は、所有者において
はその価額の関係上恐らく立木を除外したものと安心して同条による不服の訴を問
題としないのが自然であろうし(従つて同条所定の期間の経過によつて不服申立の
道は永久に閉されてしまう)、それにも拘らず当該立木の所有権は農地と共に法律
上当然国に移転する結果となるであろう。しかし斯る結果を是認することは立木に
つき補償なくして所有権を徴収することとなり憲法第二十九条に違反する疑が濃
く、到底賛同し得ないと謂わざるを得ない。
 控訴人等は、立木法の適用なく又明認方法も施してない以上本件立木は土地の所
有権と共に当然に移転すべきである旨主張するが、既に述べた通り、自創法第三条
による買収の場合には目的物たる農地から生立の立木を除外すること理論上も可能
であり、本件においては上記認定の如く黙示的に之を除外したものであるから、国
から売渡を受けた控訴人等先代、従つて控訴人等は、国の買収した限度のものを取
得することを以て満足するの外はない(控訴人等先代は耕作者として本件買収計画
の公告、売渡通知等に掲げた本件買収、売渡の価額を注意すれば目的物の中には本
件立木を含まないことは自ら推測し得た筈であることも考慮すべきであろう。)ま
た以上の結論は旧地主をして他人の土地に樹木を所有する結果を生ぜしめることと
なり、その法律関係を如何に解すべきかについて問題が生ずるのであるが、此の点
は生立の立木を除外して農地を買収し得ることが可能である以上、これを明示して
為した場合にも生ずる問題であり、結局立法の不備とは言はざるを得ず、これを理
由にして農地買収の場合には生立の立木を除外することを許さないとするのは、本
末を顛倒した概念論というべきである。
 しからば本件杉立木は伐採当時その所有権はなお被控訴人にあつて、控訴人ら先
代Fの所有には属しなかつたものというべく、よつて被控訴人あるいは同人より権
利を譲受けた第三者において右杉立木を伐採処分してもこれにより控訴人ら先代の
権利を侵害したものとなすことはできず、従て控訴人らに本件損害賠償請求権は生
じないものとなさざるを得ない。
 すなわち控訴人らの請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がない。よ
つて訴訟費用について民事訴訟法第九五条、第九三条、第八九条を適用して主文の
とおり判決する。
 (裁判長判事 鈴木忠一 判事 谷口茂栄 判事 宮崎富哉)

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