弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人竹原五郎三の上告理由について。
 一 原審の確定した事実及び原審の判断
 (一) 原審の確定した事実によれば、
  (イ) 上告人らは、共同して、昭和三九年四月一〇日、訴外Dに対し、同人
の夫訴外Eを連帯債務者として、三五〇万円を貸し渡すとともに、右両名との間に
従来からの貸金を合わせ貸金元本四八五万円、弁済期日同年五月一〇日、利息月一
分とする準消費貸借契約を締結し、そのころ右債権を担保するため、Dとの間に同
人らが弁済期日に右債務の履行を遅滞したときは代物弁済としてD所有の本件建物
(原判決の引用する第一審判決添付目録記載の建物)の所有権が上告人らに移転す
る旨の停止条件付代物弁済契約を締結し、同年四月一四日右代物弁済契約を原因と
する停止条件付所有権移転の仮登記を経由した。しかし、上告人らは、Eと友人関
係にあつた等のことから、右のとおり停止条件付代物弁済契約を締結したものの、
期限到来後も直ちに本件建物の所有権取得を主張せずに、本件建物の処分代金から
弁済を受けてもよいと考え、翌四〇年二月九日ごろEに対し本件建物売却の委任状
を交付した。なお、右代物弁済契約締結当時における本件建物の価額は約八五〇万
円であつた。
  (ロ) 被上告人B1は、Dに対して三〇万円の金銭債権を有する一般債権者
であつて、本件建物につき強制競売の申立をし、競売開始決定を得、昭和四二年二
月二三日競売申立の登記がされ、また、被上告人B2石油株式会社は、昭和三九年
二月二八日D、Eに対し、同人らを連帯債務者として四〇万二八九九円を貸し渡し、
その担保としてDから本件建物につき抵当権の設定を受け、昭和四二年一一月四日
抵当権設定登記を経由した。
 というのであり、右事実認定は、原判決の挙示する証拠に照らし是認することが
できる。
 (二) 上告人らの本訴請求は、上告人らが前記停止条件付代物弁済契約における
条件の成就によつて本件建物の所有権を取得したことに基づき、右建物の仮登記の
本登記手続を得るにつき、右仮登記に劣後する上記各登記を有し、登記上の利害関
係人である被上告人らに対して不動産登記法一〇五条一項、一四六条一項の承諾を
求めるものであるところ、原審は、右事実に基づき、上告人らとDとの間の本件建
物についての停止条件付代物弁済契約は、契約締結時における本件建物の価額と弁
済期日までの元利金額とが合理的均衡を欠いており、かつ、上告人ら自身弁済期日
経過後も条件成就による所有権取得を主張せず、本件建物の売却代金による弁済を
了承していた点等に徴すると、Dが弁済期日に債務の履行を遅滞したときは、上告
人らにおいて、本件建物を換価処分し、これによつて得た金員から債権の優先弁済
を受け、残額は清算金としてこれをDに返還する趣旨の債権担保契約であると解す
べきであり、上告人らが、本件仮登記の本登記手続をするため、不動産登記法一〇
五条一項、一四六条一項に基づき、登記上利害関係を有し、かつ、本件建物からそ
の有する債権について優先弁済を受ける地位にある被上告人ら(もつとも、B1は
抵当権その他の優先弁済権を有するものではないが、既に競売開始決定を得て本件
建物から債権の弁済を受ける地位を取得している者であるから、これを優先弁済権
者と同様に取り扱うのが、相当である。)に対して承諾を求めるには、本来は、被
上告人らのDに対する債権額と同額の金員を支払うのと引換えにのみこれをするこ
とができるのであるが、本件の場合には、上告人らの本訴提起前既に本件建物につ
きB1によつて強制競売手続が開始されているのであるから、上告人らは、もはや
前記法条の適用を主張すること、即ち、被上告人らに対し前記承諾を求めることは、
同人らの有する債権相当額の金員の支払と引換えであつても許されず、既に開始さ
れている競売手続に参加してのみ自己の債権の優先弁済をはかりうるにとどまるも
のというべきである(最高裁昭和四二年(オ)第五五七号同四五年三月二六日第一
小法廷判決・民集二四巻三号二〇九頁参照)として、上告人らの本訴請求を排斥し
ているのである。
 二 金銭債権担保目的の代物弁済予約等の性質
 債権者が、金銭債権の満足を確保するために、債務者との間にその所有の不動産
につき、代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約又は売買予約により、債務の不
履行があつたときは債権者において右不動産の所有権を取得して自己の債権の満足
をはかることができる旨を約し、かつ、停止条件付所有権移転又は所有権移転請求
権保全の仮登記をするという法手段がとられる場合においては、かかる契約(以下
仮登記担保契約という。)を締結する趣旨は、債権者が目的不動産の所有権を取得
すること自体にあるのではなく、当該不動産の有する金銭的価値に着目し、その価
値の実現によつて自己の債権の排他的満足を得ることにあり、目的不動産の所有権
の取得は、かかる金銭的価値の実現の手段にすぎないと考えられる。したがつて、
このような仮登記担保契約に基づく法律関係(以下仮登記担保関係という。)の性
質及び内容については、右契約締結の趣旨に照らして当事者の意思を合理的に解釈
し、かつ、関連法律制度全般との調和を考慮しながらこれを決定しなければならな
い。
 この見地に立つて考えると、仮登記担保関係における権利(以下仮登記担保権と
いう。)の内容は、当事者が別段の意思を表示し、かつ、それが諸般の事情に照ら
して合理的と認められる特別の場合を除いては、仮登記担保契約のとる形式のいか
んを問わず、債務者に履行遅滞があつた場合に権利者が予約完結の意思を表示し、
又は停止条件が成就したときは、権利者において目的不動産を処分する機能を取得
し、これを基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に
帰せしめること(特段の事情のないかぎり、この方法が原則的な形態であると解さ
れる。)又は相当の価格で第三者に売却等をすることによつて、これを換価処分し、
その評価額又は売却代金等(以下換価金という。)から自己の債権の弁済を得るこ
とにあると解するのが、相当である。
 三 仮登記担保権の実行
 仮登記担保権の内容は前述のようなものであるから、仮登記担保権者は、債務者
が債務を履行しなかつたときは、これにより取得した目的不動産の処分権の行使に
よる換価手続の一環として、債務者に対して仮登記の本登記手続及び右不動産の引
渡を求め、更に、第三者がこれを占有している場合には、その者が不法占有者であ
るときは直ちに、また賃借人であるときでも、その賃借権が仮登記担保権者におい
て本登記を経由すればこれに対抗することができなくなるものであるかぎり、本登
記を条件として、その第三者に対し右不動産の明渡を求めることができると解すべ
きである。他方、右不動産の換価額が債権者の債権額(換価に要した相当費用額を
含む。)を超えるときは、仮登記担保権者は、右超過額を保有すべきいわれはない
から、これを清算金として債務者に交付すべきであり、その清算金の支払時期は、
換価処分の時、即ち、(イ)適正評価額による所有権取得の方法によるいわゆる帰
属清算の場合には、仮登記担保権者が目的不動産の評価清算によりその所有権を自
己に帰属させる時(この場合債務者は、清算金の支払があるまで本登記手続義務の
履行を拒みうるものと解すべきである。)、(ロ)第三者に対する売却等によるい
わゆる処分清算の場合には、その処分の時であると解するのが、相当である。そし
て、清算金の支払時期である右換価処分の時に仮登記担保権者の債権は満足を得た
こととなり、これに伴つて仮登記担保関係も消滅するものというべく、その反面、
債務者は、右時期までは債務の全額(換価に要した相当費用額を含む。)を弁済し
て仮登記担保権を消滅させ、その目的不動産の完全な所有権を回復することができ
るが、右の弁済をしないまま債権者が換価処分をしたときは、確定的に自己の所有
権を失い、その後は仮登記担保権者に対して前述の清算金債権を有するのみとなる
ものと解すべきである。
 四 後順位の差押債権者、抵当権者らに対する清算金支払義務の存否
 右に述べたように、仮登記担保権者は、目的不動産の換価処分により差額を生じ
たときはこれを清算すべきものであるが、仮登記担保権者がかような清算金の支払
義務を負うのは、債務者又は仮登記後に目的不動産の所有権を取得してその登記を
経由した第三者に対してのみであつて、仮登記後に目的不動産を差し押えた債権者
や、これにつき抵当権の設定を受けた第三者等は、仮登記担保権者と直接の清算上
の権利義務の関係に立つものではない。仮登記担保権者による権利の実行には、実
質上担保権の実行として、あたかも抵当権に基づく不動産の競売に類似する点があ
るとしても、その故をもつて、これらの権利者が、競売手続における競売代金の配
当のように、一定の優先順位に従つて自己の債権の満足に充てられる金額につき、
自己に給付せらるべき清算金として、仮登記担保権者に直接その支払を請求しうる
ものとすることはできない。けだし、目的不動産の価値が競売以外の事由によつて
金銭債権に変じても、不動産の差押は当然これに効力を及ぼすものではなく、また、
不動産上の担保権も物上代位の方法によつてのみこれに追及しうるにすぎないもの
であるから、これらの権利者が差押又は担保権の効力それ自体として仮登記担保権
者に対し直接清算金の交付を請求しうる根拠はなく、また、仮登記担保権者は、そ
の義務の履行として清算金を債務者(又は第三取得者)に支払えばなんら利得する
ところがないこととなるので、仮登記担保権者と後順位差押債権者らとの間に不当
利得に類似する関係が成立するものとは考えられないからである。のみならず、右
のような直接の清算上の権利義務の関係を認めるときは、本来非訟手続である競売
手続においてのみ適切になしうる多数債権者相互間及びこれらの債権者と債務者と
の間の錯綜した権利関係の処理を、その処理に適しない訴訟手続による仮登記担保
権の実行手続において要求することとなり、種々の不都合な結果を生ずるのをまぬ
がれない。例えば、競売手続においては、多数債権者のそれぞれの取分に関する紛
争は配当表(又は計算表)に対する異議及びその後における配当異議訴訟によつて
処理され、右紛争と関係のない部分についてはそのまま手続が進行し、清算が結了
するという仕組がとられているのに対して、仮登記担保権者による本登記手続及び
その承諾請求訴訟においては、後順位債権者らの取分に関する紛争は、紛争当事者
間の争訟としてではなく、債務者及び後順位債権者らからの原告たる仮登記担保権
者に対する重複する引換給付の抗弁としてあらわれ、それらの争点については必ず
しも矛盾しない解決が保障されないばかりか、本来この紛争に関係のない原告が、
その渦中に巻き込まれ、無用の負担と危険を負わされることとならざるをえないし、
また、競売手続においては、いつたん配当額が確定すれば、これらの関係者間では
後日紛争が再燃することは殆んどないが、本登記手続請求等の訴訟では、原告と各
被告との間においてそれぞれ清算金額が確定しても、それは被告ら相互間において
は効力をもたないから、後日これらの者の間で重ねて紛争が生ずることを防止する
ことができないのである。他方、右のように後順位の差押債権者や抵当権者らに対
して仮登記担保権者に対する直接の清算金請求権を認めなくても、これらの権利者
は、その債務名義又は物上代位権によつて、債権者が仮登記担保権者に対して有す
る清算金債権を差し押え、取立命令等を得て債権の満足を得ることができるのであ
るから、特に大きな不利益を受けることもない。しかも、いわゆる帰属清算の場合
においては、清算金の支払と仮登記の本登記手続とが同時履行の関係に立つこと前
述のとおりであり、この場合、後順位の差押債権者や抵当権者らは、仮登記担保権
者からの本登記の承諾請求に対し、その承諾義務が本来本登記義務の履行されるべ
きことを前提とする性質のものであることにかんがみ、自己独自の抗弁として、債
務者(又は第三取得者)に対する清算金の支払との引換給付の主張をすることがで
きるものと解されるから、清算金の支払確保のために特段の手数を要することもな
い。右に述べたところと牴触する当裁判所の従前の判例は、その限度でこれを改め
る。
 以上のように仮登記担保関係を理解するとすれば、本件停止条件付代物弁済契約
は上告人らのDらに対する債権を担保するために締結されたものであること前記の
とおりであるから、その契約に基づく法律関係について原判決が示した判断は、前
記説示に沿う範囲において正当であり、また、その認定判断に誤りはないから、論
旨は採用することができない。
 五 競売手続と仮登記担保権の実行
  原判決は、本件においては上告人らの本訴提起前に既に本件建物につきB1に
よつて強制競売手続が開始されており、かかる場合においては、上告人らは、右競
売手続に参加し、その手続内においてのみその債権の優先弁済をはかりうべく、右
手続を排除して自己の処分権の行使によつて債権の満足をはかることは許されず、
したがつて、そのためにする被上告人らに対する不動産登記法一〇五条一項、一四
六条一項に基づく本件建物仮登記の本登記の承諾請求も許されないと判示して、上
告人らの本訴請求を排斥している。そこで、右見解の当否を検討することとする。
 (一) 原判決は、仮登記担保権者が目的不動産の競売手続に参加して自己の債権
の優先弁済を受けることができることを前提としているので、まずこの点から考え
てみると、
 前述のように、仮登記担保権は、その権利者が目的不動産を換価し、その換価金
をもつて自己の債権の満足をはかることを目的とし、その換価の方法として目的不
動産を正規の競売手続によらないで処分する権利を設定し、かつ、仮登記によつて
これを保全しようとするものであつて、右処分権の取得は目的不動産の簡易迅速な
換価手段としての意義を有するにすぎないから、抵当権など民法上の法定担保権の
ように、その権利自体としてはこれに基づいて目的不動産の競売を申し立てること
ができないものであるとしても、第三者の申立によつて当該不動産につき競売によ
る換価手続が開始されている場合には、手続上可能なかぎり、仮登記担保権者にお
いて、みずから右不動産の換価処分を実施することに代えて、右の競売による換価
手続に参加し、その手続内において換価金から自己の債権の満足をはかることもで
きるものと解するのが、相当である。けだし、仮登記担保権者に右のような参加を
認めても、後述のように、実質上右権利者に対してその本来有する以上の利益を与
えるわけではなく、また、競売手続におけるその他の利害関係人に格別の不利益を
課することとなるものでもないのみならず、もし仮登記担保権者にそのような参加
を認めないとすれば、仮登記担保権者は、その権利を実行するためにはその妨げと
なる競売手続の排除を求めざるをえず、競売手続が仮登記担保権者に登記上劣後す
る抵当権者らの申立にかかる場合や強制競売申立の登記が仮登記におくれている場
合には、折角開始された競売手続が仮登記担保権の実行によつて覆滅され、更には、
競落が確定したのちにおいても競落人の取得した所有権が追奪されることとなる等、
競売手続の安定を著しく阻害する結果を生ずることをまぬがれないのであつて、ひ
としく不動産の換価手続である仮登記担保権の実行手続と競売手続との関係を合理
的に調整するゆえんではなく、実際上当を得たものということができないからであ
る。
 右のように、仮登記担保権者に競売手続への参加を認めるべきものとした場合、
登記簿上からはその権利が仮登記担保権であること及びその被担保債権の存在と金
額とが明らかでないから、登記された民法上の担保権のように、競売裁判所が職権
でこれを斟酌し、競落に伴うこれらの権利の消除の前提として競売代金の一部を当
然にその被担保債権の弁済に充てなければならないとすることはできないけれども、
民訴法六四八条四号又は競売法二七条四項四号により不動産上の権利者としてその
債権(権利)を証明して届け出た者は、競売手続に参加し、競売代金の配当にあず
かることもできるのであるから、仮登記担保権者は、民訴法又は競売法の右規定に
より、自己の権利が仮登記担保権であること及び被担保債権とその金額を明らかに
して競売裁判所に届け出て、競売代金から自己の債権の弁済を受けることを求める
ことができ、この場合の競売代金の配当における優先順位は、他の担保権との関係
においては専ら登記の順位によつて決すべきものと解するのが、相当である。もつ
ともこのように解するときは、仮登記担保権者は仮登記のままでその優先順位を主
張しうることとなるが、それは、右権利者が仮登記のままの状態においても、その
権利の実行として換価処分の権能を行使し、その一環として所有権の本登記をする
ことによつて債権の排他的満足を得る法的地位を取得していることによるものであ
つて、仮登記の段階で、その本登記がされた場合と同様の権利主張、即ち所有権の
取得そのものについての対抗力を認めるわけではないから、単なる登記の順位保全
の効力を有するにすぎない仮登記に対して本登記を経由した場合と同様の効力を与
えるものであるというにはあたらないのみならず、これにより自己の権利に影響を
受ける後順位抵当権者らは、もともと仮登記の本登記手続による仮登記担保権の実
行そのものを容認し、ひいて自己の登記の抹消を甘受せざるをえない地位にあるの
であるから、仮登記担保権者に右のごとき権利主張を許しても、これによつてなん
ら格別の不利益を被るものではないのである。
 (二) そこで進んで、仮登記担保権者が右のように不動産競売手続に参加してそ
の被担保債権の優先弁済を受けることができるとした場合、仮登記担保権者は、目
的不動産につき競売手続が行われるかぎり、たとえそれが登記上自己の権利に劣後
する差押又は抵当権に基づくものであつても、常に右手続に参加し、その中におい
てのみ自己の債権の満足をはからなければならないものと解すべきかどうかを考え
てみると、
  仮登記担保権者が右の競売手続の開始に先立つて既にその権利の実行に着手し、
そのための強制的手段として本登記手続又はその承諾請求訴訟を提起している場合
には、あたかも租税滞納処分が競売手続に先行している場合と同様に、後の競売手
続の開始によつて先着手にかかる自己固有の権利実行手続を放棄させられるいわれ
はないから、そのまま従前の手続を追行し、これと牴触する競売手続の排除を求め
ることができるものと解すべきである。しかしながら、これと反対に、競売手続が
先行している場合には、仮登記担保権者に前記のような右手続への参加による債権
満足の道が存し、これによつて目的を達することができる以上、仮登記担保権者と
しては、原則としてこれによるべきであつて、自己の仮登記が登記上先順位である
ことを奇貨として、自己固有の権利実行手続に固執し、ひいて既存の競売手続を無
に帰せしめて関係者に無用な損害を被らしめることは、仮登記担保権の行使として
の正当な法的利益を有するものということはできない。それ故、仮登記担保権者は、
この場合には、原則として先行の競売手続の排除を求めることができず、ただ、換
価後の清算を必要としない場合、自己の責に帰することのできない事由により右手
続内において債権の弁済を受ける機会を失つた場合、競売手続が長期にわたつて停
止し迅速な債権満足を得る見込みがない場合等、特に自己固有の権利の実行につい
て正当な法的利益を有する場合にのみこれが許されるものと解するのが、相当であ
る。
 六 結論
  右五で述べたところによつて本件をみると、本件記録によれば、上告人らは、
本件建物につき仮登記担保権の実行として別にその所有者Dに対し右建物の仮登記
の本登記手続請求訴訟を提起し、上告人ら勝訴の判決が確定しているところ、もし、
右訴訟提起の時がB1による本件建物の強制競売手続開始の時より前であれば、既
にこの点において上告人らの本訴請求が認容される可能性があるが、原審の確定し
た事実によつてはその前後関係が明らかでなく、原判決はこの点において審理不尽
の違法があるというべきである。のみならず、本件が、右五の(二)の末段において
述べたような仮登記担保権者が特に自己固有の権利の実行について正当な法的利益
を有する場合であるならば、上告人らの本訴請求は認容される可能性があるという
べきであるところ、上告人らはなんらこの点につき主張、立証をしていないが、こ
れは原審が釈明権の行使を怠つたことによるものと考えられるから、原判決にはこ
の点においても審理不尽の違法があることをまぬがれない。それ故、原判決を破棄
し、更に以上の点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが、相
当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官大隅健一郎の補足意見があるほか、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大隅健一郎の補足意見は、次のとおりである。
 昭和四五年三月二六日及び同年八月二〇日の最高裁判所第一小法廷判決(民集二
四巻三号二〇九頁、同九号一三二〇頁)は、貸金債権担保のため、債務者との間に
その所有の不動産につき売買予約又は代物弁済予約の形式をとる契約を締結し、こ
れを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者が、担保目的実現
の手段として目的不動産につき本登記をするため、登記上利害関係を有する第三者
に対しその承諾を訴求する場合において、第三者が抵当権者その他自己の債権につ
き目的不動産から優先弁済を受けうる地位を有する者(目的不動産につき仮差押を
した債権者もこれに準ずる。)であるときは、右第三者は、目的不動産の価額から
債権者の有する債権額を差し引いた残額の支払と引換えにのみ本登記の承諾義務を
履行すべき旨を主張することができるものと解すべきである、という趣旨の判示を
している。私は、当時、これらの判決に関与した者の一人であるが、右の考え方に
は疑問があるのをまぬがれないので、いまはこれを改めて、上述の債権者のごとき
「仮登記担保権者は、目的不動産の換価処分により差額を生じたときはこれを清算
すべきものであるが、仮登記担保権者がかような清算金の支払義務を負うのは、債
務者又は仮登記後に目的不動産の所有権を取得してその登記を経由した第三者に対
してのみであつて、仮登記後に目的不動産を差し押えた債権者や、これにつき抵当
権の設定を受けた第三者等は、仮登記担保権者と直接の清算上の権利義務の関係に
立つものではな」く、「競売手続における競売代金の配当のように、一定の優先順
位に従つて自己の債権の満足に充てられる金額につき、自己に給付せらるべき清算
金として、仮登記担保権者に直接その支払を請求しうるもの」ではなく、したがつ
て、その支払と引換えにのみ本登記の承諾義務を履行すべき旨を主張しうるものと
解することはできない、とする本判決の考え方に従うこととする。その理由は、本
判決自体において詳しく述べているとおりである。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    吉   田       豊
 裁判官大隅健一郎は退官につき、裁判官小川信雄は海外出張につき、いずれも署
名押印することができない。
         裁判長裁判官    村   上   朝   一

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛