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平成28年5月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年(ワ)第33070号特許権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成28年2月16日
判決
原告シブヤ精機株式会社
同訴訟代理人弁護士永島孝明
安國忠彦
朝吹英太
安友雄一郎
同補佐人弁理士若山俊輔
磯田志郎
被告近江度量衡株式会社
同訴訟代理人弁護士松浦康治
今井浩
柏木秀一
福井琢
黒河内明子
黒田貴和
遠山秀
和田陽一郎
新井理栄
金子朝彦
迫友広
同補佐人弁理士楠本高義
浅野哲平
竹本松司
白石光男
一宮誠
主文
1被告は,原告に対し,8705万5000円及びこれに
対する平成25年12月26日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の,その余を被
告の各負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙イ号物件目録記載の製品(以下「イ号物件」という。)の生産,
使用,譲渡,貸渡し,輸出若しくは輸入,又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲
渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
2被告は,その占有に係るイ号物件及びその半製品を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2億2062万円及びこれに対する平成25年12月
26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「農産物の選別装置」とする特許権(以下「本件特許
権1」という。)及び「青果物の内部品質検査用の光透過検出装置」とする特
許権(以下「本件特許権2」という。)を有する原告が,被告によるイ号物件
及び別紙ロ号~ホ号物件目録記載の各製品(以下,それぞれを「ロ号物件」な
どという。)の製造及び販売が本件特許権1を,ロ号物件,ニ号物件,ホ号物
件及び別紙へ号物件目録記載の製品(以下「ヘ号物件」という。また,ロ号~
へ号物件を併せて「被告製品」という。)の製造及び販売が本件特許権2をそ
れぞれ侵害すると主張して,被告に対し,①特許法100条1項,2項に基づ
きイ号物件の生産等の差止め及び廃棄等を,②本件特許権1及び2の侵害に係
る民法709条,特許法102条2項に基づく損害賠償金2億2062万円又
は民法709条,特許法102条3項若しくは民法703条に基づく損害賠償
金若しくは不当利得金の一部である5000万円,並びに,これに対する特許
権侵害行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成25年12月26日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案
である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実)
⑴当事者
ア原告は,農業用選果・選別システム及び農業用設備機器の製造販売等を
目的とする株式会社である。
イ被告は,各種計量・計測機器又は装置の製造販売,検査・選別のための
機器又は装置の製造販売等を目的とする株式会社である。
⑵本件各特許権
ア原告は,後記の本件特許権1(以下,その特許出願の願書に添付され
た明細書及び図面を「本件明細書1」という。)を平成20年5月9日か
ら有しており,の本件特許権2(以下,その特許出願の願書に添付され
た明細書及び図面を「本件明細書2」という。)を同日から後記存続期間
の満了日まで有していた。
本件特許権1
特許番号第3702110号
発明の名称農産物の選別装置
出願日平成10年10月23日(特願平10-302617)
登録日平成17年7月22日
本件特許権2
特許番号第3249628号
発明の名称青果物の内部品質検査用の光透過検出装置
出願日平成5年3月31日(特願平5-74193)
登録日平成13年11月9日
満了日平成25年3月31日
イ本件特許権1に係る特許請求の範囲の請求項1並びに本件特許権2に係
る特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,
それぞれに係る発明を「本件発明1」,「本件発明2-1」及び「本件発明
2-2」という。また,本件発明1,2-1及び2-2に係る各特許を
「本件特許」と総称する。)。
本件特許権1の請求項1(本件発明1)
「搬送手段に連結されていない受皿と,農産物供給位置から農産物包装
作業位置に渡って農産物を載せた受皿を搬送する搬送手段とを備え,こ
の搬送手段には,この受皿上の農産物を選別仕分けする情報を計測する
ために上記搬送手段の途中に設定された計測軌道領域,及び該計測軌道
上で計測された仕分け情報に基づいて個々の受皿上の農産物を排出する
ように所定の仕分区分別の仕分ラインが多数分岐接続されている搬送手
段下流側の仕分排出軌道領域を設定し,前記各受皿に,その上に載せら
れている農産物の仕分け情報を直接又は識別標識を介して間接的に読出
し可能に記録し,前記仕分排出軌道領域の上流に設けた読出し手段によ
り個々の受皿の農産物仕分け情報を読出して該当する仕分区分の仕分ラ
インに該受皿を排出する農産物の選別装置において,
前記仕分排出軌道領域から前記仕分ラインに排出されずにオーバーフロ
ーした受皿を前記搬送手段の上流側に戻すリターンコンベアを設けると
共に,このリターンコンベアにより戻した受皿を前記搬送手段に送り込
む位置を,前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間と
したことを特徴とする農産物の選別装置。」
本件特許権2の請求項1(本件発明2-1)
「搬送コンベアにより水平に搬送面上を移送され,中央部に貫通した穴
を有し,その上部に青果物を載せて移送するトレーと,この搬送コンベ
ア上のトレーに載った青果物に対し複数の光源により周囲から光を照射
し,照射された青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫
通した穴を通して該青果物の一部表面に対向する受光手段と,この受光
手段に上記透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するように青果物と
上記受光手段の対向位置の間に配置される遮光手段と,複数の発光光源
からの照射光を上記受光手段及び遮光手段のの間を除く青果物の周囲か
ら該青果物を照射する投光手段とを備えたことを特徴とする青果物の内
部品質検査用の光透過検出装置。」
本件特許権2の請求項2(本件発明2-2)
「請求項1において,青果物の周囲から該青果物を照射する投光手段は,
複数の発光光源をトレーの搬送路上から両横方向に外れて青果物の周囲
に配置されていることを特徴とする青果物の内部品質検査用の光透過検
出装置。」
ウ本件発明1,2-2及び2-2は,それぞれ次の構成要件に分説される
(以下,個別の構成要件をその段落番号に従い「構成要件1A」などとい
う。)。
本件発明1
1A搬送手段に連結されていない受皿と,農産物供給位置から農産物
包装作業位置に渡って農産物を載せた受皿を搬送する搬送手段とを
備え,
1Bこの搬送手段には,この受皿上の農産物を選別仕分けする情報を
計測するために上記搬送手段の途中に設定された計測軌道領域,及
び該計測軌道上で計測された仕分け情報に基づいて個々の受皿上の
農産物を排出するように所定の仕分区分別の仕分ラインが多数分岐
接続されている搬送手段下流側の仕分排出軌道領域を設定し,
1C前記各受皿に,その上に載せられている農産物の仕分け情報を直
接又は識別標識を介して間接的に読出し可能に記録し,
1D前記仕分排出軌道領域の上流に設けた読出し手段により個々の受
皿の農産物仕分け情報を読出して該当する仕分区分の仕分ラインに
該受皿を排出する農産物の選別装置において,
1E前記仕分排出軌道領域から前記仕分ラインに排出されずにオーバ
ーフローした受皿を前記搬送手段の上流側に戻すリターンコンベア
を設けると共に,このリターンコンベアにより戻した受皿を前記搬
送手段に送り込む位置を,前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情
報読出し手段の間としたことを特徴とする
1F農産物の選別装置。
本件発明2-1
2A搬送コンベアにより水平に搬送面上を移送され,中央部に貫通し
た穴を有し,その上部に青果物を載せて移送するトレーと,
2Bこの搬送コンベア上のトレーに載った青果物に対し複数の光源に
より周囲から光を照射し,照射された青果物から出る透過光を受光
するように上記トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に
対向する受光手段と,
2Cこの受光手段に上記透過光以外の外乱光が入光するのを阻止する
ように青果物と上記受光手段の対向位置の間に配置される遮光手段
と,
2D複数の発光光源からの照射光を上記受光手段及び遮光手段の
(「遮光手段のの」は誤記と認める。)間を除く青果物の周囲から該
青果物を照射する投光手段とを備えたことを特徴とする
2E青果物の内部品質検査用の光透過検出装置。
本件発明2-2
2F請求項1において,青果物の周囲から該青果物を照射する投光手
段は,複数の発光光源をトレーの搬送路上から両横方向に外れて青
果物の周囲に配置されていることを特徴とする
2G青果物の内部品質検査用の光透過検出装置。
⑶被告の行為
ア被告は,別紙ロ号~ヘ号物件目録記載の各集出荷場,集出荷選果施設又
は選果場における選果装置を競争入札により次の価格で落札し,以下の年
月頃に各物件を納入した。
ロ号物件平成20年3月3億7400万円
ハ号物件平成22年3月11億4155万円
ニ号物件平成23年3月5億8000万円
ホ号物件平成23年5月5億7800万円
へ号物件平成24年3月4億7500万円
イロ号~へ号物件は,それぞれ別紙ロ号~へ号物件目録記載に対応する構
成を有している(ただし,上記目録の記載のうち下線部は原告の主張であ
り,被告はこれを争っている。)。
⑷消滅時効の援用
原告は平成25年12月16日に本件訴訟を提起した。被告は,平成27
年9月7日の本件第10回弁論準備手続期日において,原告のロ号及びハ号
物件に係る民法709条,特許法102条2項又は3項に基づく各損害賠償
請求権について消滅時効を援用する意思表示をした。
2争点
⑴被告製品の構成要件充足性(原告は,ロ号~ホ号物件が本件発明1の,ロ
号及びニ号~へ号物件が本件発明2-1の,ニ号〜へ号物件が本件発明2-
2の各技術的範囲に属すると主張し,被告らは後記ア~オ以外の構成要件の
充足性を争っていない。)
ア構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕
分区分の仕分ライン」の充足性(ロ号~ホ号物件)
イ構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の
間」の充足性(ロ号~ホ号物件)
ウ構成要件2B「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」及び「ト
レーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)
エ構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ
号,ホ号及びへ号物件)
オ構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びへ号物件)
⑵本件特許についての無効理由の有無(乙4文献,乙5文献及び乙14文献
の意義は後記のとおり)
ア乙4文献等による本件発明1の新規性又は進歩性の欠如
イ乙5文献等による本件発明2-1及び2-2の進歩性の欠如
ウ乙14文献等による本件発明2-1の進歩性の欠如
エ本件発明2-1及び2-2に係る実施可能要件違反
⑶消滅時効の成否
⑷損害又は不当利得の額
3争点についての当事者の主張
⑴争点⑴(被告製品の構成要件充足性)について
ア構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕
分区分の仕分ライン」の充足性(ロ号~ホ号物件)
(原告の主張)
構成要件1Bの「所定の……仕分ライン」及び1Dの「該当する……仕
分ライン」とは,仕分工程の態様を特に限定していないことに照らすと,
大きさの階級(以下単に「階級」という。)及び品質の等級(以下単に
「等級」という。)に関する仕分区分が同じ農産物が排出される仕分ライ
ンをいうのであって,受皿を排出する際に排出すべき仕分ラインが仕分け
情報に基づいて特定されていれば足りると解される。
ロ号~ホ号物件は,いずれも一定の規則に従ってトレーを排出すべきプ
ールコンベア(本件発明1の「仕分ライン」に相当する。)を決定し,こ
れに同じ等級階級情報を有するトレーが排出される構造を有しているから,
構成要件1B及び1Dを充足する。
(被告の主張)
構成要件1Bにおける「仕分区分別の仕分ライン」は「所定の」とあり,
その一般的語義からして,農産物の階級及び等級の仕分区分があらかじめ
定まったものをいうと解すべきである。このことは,①本件明細書1にお
いて,受皿がオーバーフローする場合は仕分区分別に設定されている仕分
ラインのうちいずれかが満杯でそれ以上の受皿を受け入れられない状態に
なる場合をいう(段落【0025】),その仕分区分に設定された仕分コン
ベアに排出する(段落【0043】),本件発明1の技術的意義はリターン
コンベアの存在によって各仕分ラインに貯溜する受皿の数を大きく設定す
る必要性を軽減できて装置全体を小型にすることができることにある(段
落【0060】)との各記載はあらかじめ仕分区分が定まった場合を前提
にしたものであると考えられること,②本件特許権1に係る特許請求の範
囲の請求項2は「請求項1において,前記仕分ラインは,仕分けるべき全
ての区分毎に少なくとも一条設けられていることを特徴とする農産物の選
別装置」とされており,仕分ラインが仕分区分に応じてあらかじめ定まっ
ていることを前提とする構成であると解されるところ,同請求項2が本件
発明1を引用していること,③本件発明1に係る特許出願について,引用
文献(乙9)と同一の発明であって新規性を欠くとの拒絶理由通知(乙1
0)に対する出願人の意見書(乙11)において,上記引用文献における
発明が仕分ラインごとに排出されるべき農産物の仕分区分があらかじめ定
まっていることを指摘し,「所定の仕分区分別の仕分ライン」の意味を解
釈する根拠とした上で上記発明が構成要件1Bを充足することを認めたこ
と,以上のことからも明らかである。
また,構成要件1Dの「該当する」は,同1Bの「所定の」と同義と考
えられる。
ところが,ロ号~ホ号物件は,階級及び等級の仕分に関する情報に基づ
いてコンベアから排出されるべき仕分ラインは不定であり,読み出し装置
においても,等級階級情報のほかに時々刻々変化するプールコンベアにつ
いての情報も読み出さなければ農産物を排出すべきプールコンベアが決め
られない構造になっているから,構成要件1B及び1Dを充足しない。
イ構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の
間」の充足性(ロ号~ホ号物件)
(原告の主張)
ロ号~ニ号物件は,構成要件1Eを明らかに充足する。
ホ号物件においてリターンコンベアで上流側に戻された受皿が選別コ
ンベアに送り込まれる位置はラベル貼付装置と第4のICリーダの間で
あるところ,計測エリアのうち構成要件1Eの「計測軌道領域」に対応
する部分は,空洞計測装置から重量計測装置及び外観計測装置を経て内
部品質検査装置が設けられた領域までである。内部品質検査装置の後に
ラベル貼付装置があり,仮に外観検査装置がその直後に設けられている
としても,上記部分は外観検査装置までである。このことは,農産物の
検査計測が第4のICリーダに到達する前に完了しており,同ICリー
ダは検査計測の完了の有無及び規格外であるか否かを判定してトレーの
排出先を決定するのみの機能を有していることからも明らかである。
したがって,ホ号物件は構成要件1Eを充足する。
(被告の主張)
本件明細書1においては,仕分排出軌道領域で排出されずにオーバー
フローし,リターンコンベアで上流側に戻されたフリートレイを選別コ
ンベアに送り込む位置を,計測軌道領域の終端と仕分け情報読出し手段
の間としたことが本件発明1の重要な特徴であるとし,その作用効果は,
農産物の荷口の混同が防止されることにあると記載されている。
ロ号~ニ号物件は,リターンコンベアの終端が計測軌道領域の終端と
前記仕分け情報読出し手段の間に存在するが,上記の作用効果を奏する
ためのものでないから,構成要件1Eを充足しない。
ホ号物件は,別紙ホ号物件構成図のとおり,リターンコンベアで上流
側に戻されたトレーが選別コンベアに送り込まれる位置が,本件発明1
の計測軌道領域に相当する計測エリアの終端と第4のICリーダの間で
はなく,同エリア内にある同ICリーダよりも上流側であるから,構成
要件1Eを充足しない。仮にこれを形式的に充足するとしても,この構
成を採用することによる上記作用効果をホ号物件は奏していない。
原告は,同ICリーダに農産物が到達する前にその検査計測が完了し
ていることなどから同ICリーダが計測軌道領域に含まれないと主張す
る。しかし,同ICリーダはトレー上の農産物が検査計測未了又は規格
外であれば上記トレーを再計測コンベアに排出させて再度仕分け情報を
計測する検査を受けさせる機能を有しており,計測軌道領域に含まれる
から,原告の主張は失当である。
ウ構成要件2B「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」及び「ト
レーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)
(原告の主張)
構成要件2Bの「搬送コンベア上のトレーに載った青果物」とは,光を
照射する対象がトレーの上部に載って搬送コンベアによって移送されてき
た青果物であることをいうと,「トレーの貫通した穴を通して該青果物の
一部表面に対抗する受光手段」とは,受光手段がトレーの中央部に貫通し
た穴を通して青果物の一部表面に対向することをいうと解すべきである。
ロ号物件においては,トレー上に農産物を載置させた状態で搬送ライン
上を搬送させており,測定エリアの内部品質検査部内にも,同ライン上の
農産物を載置させたトレーを搬送することで上記農産物を搬入しているこ
とが明らかであるから,投光手段から光が照射される対象は内部品質検査
部内に搬入された農産物であるということができ,構成要件2B「この搬
送コンベア上のトレーに載った青果物に……光を照射し」を充足する。ま
た,内部品質検査部内の所定の位置でトレーが停止するとコンベアの下に
設置された検査装置がトレーの貫通穴に嵌合するよう上方に突出し,上記
検査装置の受光遮光部材の中心の穴に設置された光ファイバーがトレーの
貫通穴を通して設けられた検査装置の受光遮光部材の内部において農産物
の底部に対向しているのであって,構成要件2B「トレーの貫通した穴を
通して該青果物の一部表面に対向する受光手段」を充足する。
(被告の主張)
ロ号物件では,内部品質検査を行うために投光手段から光を照射する際,
農産物が持上部材によってトレーの上方に持ち上げられており,トレーに
載っていないから,構成要件2Bの「トレーに載った青果物」を充足しな
い。また,透過光を受光する光ファイバーの先端部が遮光部材内に設置さ
れていることから,持上部材によってスイカが上方に持ち上げられる際,
上記先端部もトレーにある貫通穴を通過して上方に持ち上げられるので,
受光手段が「トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に対向」し
ないから,この点でも構成要件2Bを充足しない。
エ構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ
号,ホ号及びへ号物件)
(原告の主張)
ロ号,ホ号及びへ号物件は,トレーに載った青果物に対して複数の光源
により周囲から光を照射しているから,構成要件2Bの「複数の光源」及
び2Dの「複数の発光光源」を充足する。被告の後記主張は,複数の発光
光源を用いて照明光学系を構成することで単一発光光源による照明と同一
の電力でより多い光量を得ることができるという本件明細書2の記載(段
落【0017】)の理解を誤っていることに基づくものであるから,失当
である。
(被告の主張)
構成要件2Bの「複数の光源」及び2Dの「複数の発光光源」は,複数
の発光光源を用いて照明光学系を構成することで単一の発光光源による照
明と同一の電力でより多い光量を得ることができるものをいうと解すべき
である。ところが,ロ号,ホ号及びへ号物件は,こうした複数の光源を有
していないから,構成要件2B及び2Dを充足しない。
オ構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びへ号物件)
(原告の主張)
構成要件2C及び2D「遮光手段」は,「受光手段に上記透過光以外の
外乱光が入光するのを阻止するように青果物と上記受光手段の対向位置の
間に配置された遮光手段」という特許請求の範囲の記載から明らかなよう
に,受光手段に青果物から出る透過光以外の外乱光が入光するのを阻止す
るために青果物と上記受光手段の対向位置の間に配置されれば足り,「遮
光部材」がトレーとは別に存在する必要があると解釈する必要はない。
ホ号物件は,トレーの上面がこれに載置された農産物と接触することに
よってハロゲンランプからの発光が直接受光装置に入ることを防止してい
るから,構成要件2C及び2Dの「遮光手段」を充足する。
へ号物件は,トレーに保護リングが備えられているところ,保護リング
が形状的に遮光作用を奏する可能性がある上,通常の梨の場合,その下部
全体が保護リングにも接触することで,外乱光が生じるか否かと無関係に
その構造上本来的に遮光作用を奏するものであるから,構成要件2C及び
2Dの「遮光手段」を充足する。
(被告の主張)
ホ号物件は,農産物と受光手段の対向位置の間に配置される「遮光手段」
を有しないから,構成要件2C及び2Dを充足しない。原告は,トレーの
上面に形成された凹部が遮光手段に該当すると主張するが,本件発明2-
1において「遮光手段」は「トレー」と別に設けられる必要があり,この
ことはトレーそのものが遮光手段をなり得る請求項を平成10年2月18
日の補正(乙27)により追加したが,平成13年4月24日の補正によ
り削除したという本件特許権2の出願経過に照らしても明らかである。
へ号物件につき,構成要件2Cにいう「遮光手段」は「透過光以外の外
乱光」に対して遮光効果を奏するものである必要があると解されるところ,
へ号物件は透過光以外の光がそもそも受光部に入らない構成であり,かつ,
保護リングが遮光作用を奏していないから,構成要件2Cを充足しない。
原告は,保護リングの下部全体が構造上遮光作用を奏すると主張するが,
仮に遮光作用を有するとしてもその作用は透過光に対するものであるから,
失当である。
⑵争点⑵(本件特許についての無効理由の有無)について
ア乙4文献等による本件発明1の新規性又は進歩性の欠如
(被告の主張)
本件発明1の特許出願前に公表された刊行物である特開平5-500
41号公報(乙4。以下「乙4文献」という。)には,①受皿が搬送路
と連結されておらず,かつ,農産物供給位置から農産物包装作業位置に
わたって農産物を載せた受皿を搬送する搬送手段を備えていること(構
成要件1Aに相当),②搬送手段に相当する選別コンベアの所定位置に
青果物の等級階級情報を計測する読取計測手段が設けられ,かつ,第2
仕分コンベア上の受皿のバーコードマークから読み取られた受皿の等級
信号に従って排出装置を動作させ,階級別に等級を混在して仕分コンベ
アに搬送される青果物入りの受皿を等級別に仕分けること(同1Bに相
当),③受皿上の青果物の仕分け情報を受皿のコード番号と共にアドレ
スメモリ部が更新記憶するようになっていること(構成要件1Cに相
当),④上記第2仕分コンベアの上流側に配置された第2仕分読取装置
により読み取られた受皿のバーコードマークに基づいて等級読出部がア
ドレスメモリ部から読み出した等級信号を排出制御部へ入力し,排出制
御部があらかじめ排出位置設定部で指定された排出位置に対応する排出
装置に対して等級別排出信号を受皿の進行と同期させて出力すること
(同1Dに相当),⑤上記第2仕分コンベア上で(オーバーフロー等に
より)排出されない青果物入り受皿を合流コンベアの始端部に還元する
リターン手段が設けられているとともに,仕分け情報読出し手段に相当
する上記第2仕分読取装置が合流コンベアより下流にあること(同1E
に相当),⑥農産物の選別装置であること(同1Fに相当)が開示され
ている。
したがって,乙4文献に記載された発明は本件発明1の特許出願前に
頒布された刊行物に記載された発明(特許法29条1項3号)である。
仮に,上記⑤につき,仕分ラインのいずれかが満杯でそれ以上の受皿
を受け入れられずにオーバーフローの状態にある場合の処理について開
示がないとされ,この点が相違点であるとしても,上記のオーバーフロ
ーが生じ得ることは乙4文献に記載された発明においても極めて容易に
認識し得る。また,被告が松本ハイランド農業協同組合から受注して平
成10年3月30日までに納入したスイカの集出荷施設(乙3,15,
20~22,32)におけるパレタイザー積込工程(箱詰めされたスイ
カをロボットパレタイザーによりパレットに積み込む工程)は,製品ル
ープコンベア(構成要件1Eの「リターンコンベア」に相当)により戻
した製品箱を製品箱搬送コンベアに送り込む位置を,同コンベアからプ
ールコンベアに排出するために必要な情報である製品箱に印刷された等
級階級の文字を認識する装置より上流とした点で構成要件1Eと一致す
る。以上に加え,周知慣用技術(乙23)を併せ考慮すれば,構成要件
1Eを採用することを当業者が容易に想到し得るから,本件発明1は特
許出願前に当業者が容易に発明をすることができたもの(特許法29条
2項)である。
(原告の主張)
乙4文献は,①構成要件1Bの「搬送手段下流側の仕分排出軌道領域」
に対応する領域において,青果物が仕分コンベアによって階級数に応じ
た数設けられた分岐コンベアに排出され,次いで第2仕分コンベアによ
って等級数よりも所定数少ない数の箱詰プール装置に仕分けるという2
段階で仕分ける構成である点,②構成要件1Dにつき,第2仕分コンベ
ア上を搬送中に読み取られた等級の排出位置が指定されていない場合に
はリターンコンベアによって第2プールコンベアに送られる点及び「読
出し手段」に相当する第2仕分読取装置が仕分排出軌道領域の中間に設
けられている点,③装置全体が受皿のオーバーフローが生じないように
構成されており,構成要件1Eの「仕分ラインに排出されずにオーバー
フローした受皿」に関する技術事項について何ら開示していない点,以
上において本件発明と相違する。
したがって,本件発明1は新規性を欠くものでない。
上記相違点を前提とすれば,本件発明1を想到する動機付けはない。
また,被告が主張する前記パレタイザー積込工程は,仮にこれが公然実
施されていたものであるとしても,同一の等級及び階級のスイカが箱詰
めされた製品箱を搬送する工程に関するものであって,農産物の選別装
置に関するものでない上,構成要件1Eの内容を開示していない。した
がって,乙4文献の記載及び被告の主張する周知慣用技術に基づいて本
件発明1を容易に想到し得ない。
イ乙5文献等による本件発明2-1及び2-2の進歩性の欠如
(被告の主張)
本件発明2-1の特許出願前に公表された刊行物である特開昭50-
78378号公報(乙5。以下「乙5文献」という。)に開示された発
明は,①搬送コンベアにより水平に搬送面上を移送され,中央部に貫通
した孔を有し,その上部に青果物を載せて移送するコンベア台(トレー)
を有すること(構成要件2Aに相当),②上記コンベア台に載った青果
物に対して一対(複数)の光源により光を照射し,照射された青果物か
ら出る透過光を受光するように上記青果物の一部表面に対向する受光手
段を有すること,③青果物と受光手段の対向位置の間に配置される不透
明視準板及び干渉フィルタ(遮光手段)があること(同2Cに相当),
④光源からの照射光を上記受光手段及び遮光手段の間を除く青果物の周
囲から青果物に照射する投光手段を備えたことを特徴とすること(同2
Dに相当),⑤青果物の内部品質検査用の光透過検出装置であること
(同2Eに相当)から構成されている。
上記②は,複数の光源に対して受光手段が一つである本件発明2-1
の構成と異なり光源と受光手段が一対一の関係にある点において構成要
件2Bと相違するが,特開平3-160344号公報(乙14。以下
「乙14文献」という。)において透過光方式の内部品質検査装置に関
して複数の光源と単一の受光装置という構成が開示されており,コンベ
アで搬送される途中で青果物の内部品質を検査することは昭和50年前
後当時既に発明及び考案の対象となっていたことを踏まえると,上記相
違点につき乙5文献及び乙14文献に各記載の発明を組み合わせること
は,当業者であれば容易に想到することができる。
これに対し,原告は,乙5文献においては,上記①につきコンベア台
が搬送コンベアと独立していないこと及びトレーに貫通した穴を有して
いないこと並びに上記③につき不透明視準板が遮光手段でないことなど
も相違点である,上記②に関し,複数の発光光源を用いて照明光量を増
大させることで単一の光源に強力なランプを用いる場合に比べて電力増
大を少なくして光量が増大する効果が得られる特徴を有する本件発明2
-1を乙5文献の記載から容易に想到することができないと主張する。
しかし,上記①及び③は相違点でなく,仮に相違点であるとしても,①
は特開平4-322778号公報(乙13。以下「乙13文献」とい
う。),③は乙14文献において各開示されており,当業者であれば容易
に想到される。上記②は,被告が行った実験(乙24,29,33)に
みられるとおりそうした効果が得られること自体が誤りであるから,前
提を欠く。したがって,原告の主張はいずれも失当である。
本件発明2-2は,同2-1に構成要件2Fを加えた発明である。同
また,同2-2の特許出願前に公開された特開平3-137976号公
報(乙7。以下「乙7文献」という。)の第2図及び第7図には照明装
置により青果物の周囲から光を当てて光学的に撮像する点が,特開昭6
3-42411号公報(乙8。以下「乙8文献」という。)の実施例欄
の記載及び第1図~第5図には搬送コンベア上の物体の周囲から小型ラ
ンプにより光を当てる点が各開示されていること,並びに,特開昭59
-87082号公報(乙18。以下「乙18文献」という。)の第6図
及び特開平4-104041号公報(乙19。以下「乙19文献」とい
う。)の第1図及び第3図に照らすと,トレーの搬送路周囲に発光光源
を配置する際に搬送路上から両横方向に外れて配置することは当業者が
容易に想到することができる。
したがって,本件発明2-1及び2-2は,乙5文献その他の上記各
文献に基づいて特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたも
のである。
(原告の主張)
乙5文献に開示されている発明は,①構成要件2Aにつき,搬送コン
ベアのリンクに回動自在に枢着されたコンベア台が「トレー」に該当し
ない点及び上記コンベア台が貫通孔を有することが記載されていない点,
②同2Bにつき,一対一対応の光源と受光手段が2組ある構成であって
複数の光源に対して一つの受光手段を有するものでない点,「搬送コン
ベア上のトレーに載った青果物」に対して光を照射すること及び照射さ
れた青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した孔を
通して上記青果物の一部表面に対向する受光手段が開示されていない点,
③同2C及び2Dにつき,不透明視準板の孔が透過光以外の外乱光の入
光を阻止するものでない点,以上において本件発明2-1と相違する。
一方,乙14文献には,搬送コンベアと独立して設けられ,青果物を
載せて搬送コンベアによって移送されるトレーについて記載がない。ま
た,乙5文献,乙13文献及び乙14文献は,複数の発光光源を用いて
照明光学系を構成することで,単一の発光光源による照明と同一の電力
でより多い光量を得ることができ,ムラの少ない透過光を得ることがで
きるという本件発明2-1の技術的意義を記載又は示唆していない。そ
うすると,乙5文献に上記各文献を組み合わせても上記相違点を当業者
が容易に想到することはできない。
乙5文献に開示されている発明では,孔を射照するように投光手段で
あるレーザを配置する必要がある。このことは,構成要件2F「複数の
発光光源をトレーの搬送路上から両横方向に外れて青果物の周囲に配置
されている」という構成を採用することを阻害する要因となる。また,
乙7文献及び乙8文献に記載されているのは形状寸法及び外観表面状態
を計測するための光源であり,青果物の内部品質を検査するために青果
物内を通過させる光源と異なるし,乙18文献及び乙19文献は構成要
件2Aの「トレー」を採用した搬送方式によっていないから,乙5文献
の記載と乙7文献その他の文献を組み合わせることも当業者において容
易に想到し得ない。
したがって,本件発明2-2も進歩性を欠くものでない。
ウ乙14文献等による本件発明2-1の進歩性の欠如
(被告の主張)
本件発明2-1の特許出願前に公表された刊行物である乙14文献には,
①青果物に対して複数の投光装置により近赤外線(光)を照射し,青果物
に当てられた近赤外線が青果物の内部で拡散反射し,拡散反射した後青果
物の外部に出た光が集光レンズにより集められ,その光を受光するように
配置されたファイバ端(受光手段)と,②青果物内部からの反射光を入光
するフード及びフードの青果物との接触する一端に配設されたゴム製光遮
蔽物と,③フードの外側に配設された複数の投光装置からの近赤外線光を,
青果物の周囲から上記青果物を照射する手段とを備えた青果物の成分測定
装置という発明が開示されており,構成要件2A所定のトレーを有しない
こと及びトレーを有していないために構成要件2B所定の「照射された青
果物から出る透過光」が「トレーの貫通した穴を通して」「受光手段」に
受光されないことの2点で相違する。
もっとも,乙13文献においては,「スラット状のコンベアで構成され
た搬送手段により水平に搬送面上を搬送され,中央に抜穴を有し,その上
部に青果物を載せて移送する受皿」という構成要件2A相当の内容と,
「搬送手段の受皿に載った青果物に対し,小巾スラットの搬送面に形成さ
れた検出用穴と受皿の抜穴とを介して特定波長領域の光を照射してその反
射光量を計測する品質検査装置」という同2B相当の内容が各開示されて
おり,いずれも選果機等に適用されるものであることに照らすと,上記相
違点につきこれらを組み合わせることは当業者において容易に想到される。
したがって,本件発明2-1は,乙14文献及び乙13文献に基づいて
特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
(原告の主張)
乙14文献に記載されている発明は,測定ヘッド部を青果物に当てて検
査するものであり,搬送中に青果物の等級を判定するものでない上,青果
物を載せて搬送コンベアによって移送されるトレーについて開示していな
い。また,青果物の下面とゴム製外乱光遮へい物及びゴム製光遮へい物と
を直接接触させて検査するものである。
これに対し,乙13文献に記載されているのは,搬送中に受皿上の青果
物の等級を判定する発明である。これらの各発明を組み合わせようとする
と,受皿の孔の中に測定ヘッド部を配置することとなり,受皿を移動させ
ることができなくなるという阻害要因がある。したがって,これらの組合
せを当業者は容易に想到し得ず,本件発明2-1は特許出願前に当業者が
容易に発明をすることができたものでない。
エ本件発明2-1及び2-2に係る実施可能要件違反
(被告の主張)
本件明細書2においては,同一の電力でより多い光量を得るという課題
があり,光量を複数にすることでこの課題が解決する効果があると記載さ
れている(段落【0017】,図4)が,被告が行った実験結果(乙24,
29,33)によれば,発明の詳細な説明の記載内容についてその効果を
確認することができず,どのようにすれば光源を複数にすることで単一の
発光光源による照明と同一の電力でより多い光量を得るのかが何ら明確に
記載されていない。
したがって,本件明細書2は,上記課題を解決する手段について,発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすること
ができる程度に明確かつ十分に記載したもの(平成14年法律第24号に
よる改正前の特許法36条4項)でない。
(原告の主張)
被告は,被告が行った前記実験結果によれば光源を複数にすることのみ
では同一の電力でより多い光量を得るという課題の解決手段にならないこ
とを前提とし,本件明細書2の記載がどのようにすれば光源を複数にする
ことで単一の発光光源による照明と同一の電力でより多い光量を得るのか
が何ら明確に記載されていないと主張する。しかし,前記実験結果は本件
明細書2の記載と乖離した特異な実験条件に基づいているから,本件発明
2-1及び2-2の効果を確認したものでない。
したがって,被告の主張は失当である。
⑶争点⑶(消滅時効の成否)について
(被告の主張)
原告は,遅くともロ号物件の納品の約2か月後である平成20年5月頃に
これを現認し,同年中に本件特許権1及び2を侵害することを認識した。ま
た,原告は,ロ号物件と同様の構成をハ号物件が採用していることを,遅く
ともこれを納入した平成22年3月に認識した。上記各時点から本訴提起日
である平成25年12月16日までに消滅時効期間の3年が経過している。
(原告の主張)
ロ号及びハ号物件が本件特許権1ないし2を侵害していることを原告が知
るにはその設置場所の立入りの許可を得て各製品を検証しなければならない
ところ,本件特許権1ないし2の侵害を認識したのは,ロ号物件につき平成
25年1月9日,ハ号物件につき同年6月12日である。原告は,消滅時効
期間が経過する前に本訴を提起した。
⑷争点⑷(損害又は不当利得の額)について
(原告の主張)
ア特許法102条2項に基づく主張(損害の額)
ロ号~ヘ号物件の落札価格は3億7400万円,11億4155万円,
5億8000万円,5億7800万円及び4億7500万円であり,その
限界利益は5632万円,7377万円,5738万円,9529万円,
5360万円であるところ,本件発明1の寄与率は集出荷施設における選
別設備の不可欠かつ中心的機能に照らし50%を,同2-1及び2-2の
寄与率は内部品質検査装置を備えた選別設備が存在しなければ集出荷施設
として成り立たないことに照らし30%をそれぞれ下回らない。加えて,
本件発明1及び2-1又は2-2のいずれの技術的範囲にも属することが
明らかなものについては,複数の特許が寄与してより高い価値が生み出さ
れたものとして,より高い寄与率を認めるべきである。
以上によれば,特許法102条2項に基づき,ロ号物件につき本件特許
権1及び2の侵害を併せて5000万円,ハ号物件による本件特許権1の
侵害につき3689万円,ニ号物件につき本件特許権1及び2の侵害を併
せて5000万円,ホ号物件による本件特許権1の侵害につき4765万
円,へ号物件による本件特許権2の侵害につき1608万円の合計2億0
062万円が原告の損害額となる。
イ特許法102条3項に基づく主張(損害又は不当利得の額)
被告製品の売上額は上記アのとおりであるところ,農業用選果機であり,
その製造者が数社に限定されていること,顧客が農業協同組合に限定され,
競争入札による取引であること,一度納入すると次の販売機会まで長期間
を要することなどからすれば,本件発明1,2-1及び2-2の実施料相
当額は合計で被告製品の売上額の10%を下回らない。したがって,原告
が本件発明1,2-1及び2-2の実施に対して受けるべき金銭の額は3
億1450万円を下らないから,この額が原告の損害額又は被告の不当利
得額となる。
ウ弁護士及び弁理士費用
本件訴訟を追行するに当たって相当な弁護士及び弁理士費用額は200
0万円を下らない。
エまとめ
以上によれば,原告は被告に対し,①民法709条,特許法102条2
項に基づく損害賠償金2億2062万円(上記ア及びウ),又は,②民法
709条,特許法102条3項若しくは民法703条に基づく損害賠償金
若しくは不当利得金の一部である5000万円(上記イ)及びこれらの各
遅延損害金を請求することができる。
(被告の主張)
争う。
特許法102条2項所定の被告製品の利益を算定するに当たり,売上げか
ら被告製品の製造及び施工に係る仕入れ,外注工賃等の費用及び社内の労務
費,旅費日当等を控除すべきである。
ニ号物件については,原告は入札に参加していないから,損害が発生し得
ず,同項は適用されない。
加えて,農産物の集出荷施設においては荷受設備,製函設備その他の設備
があること,本件発明1の技術的意義はリターンコンベアの採用及びその戻
し位置の特定という点のみであって被告製品において大きな意義を有さず,
その回避が容易である上,被告製品において受皿がオーバーフローしてリタ
ーンコンベアに送られることが稀であること,本件特許権1を侵害しなけれ
ば入札に参加できない事情がないことからすれば,ロ号~ホ号物件の利益に
対する本件発明1の寄与率は2.5%,売上げに対する実施料率は0.1
5%とすべきである。また,内部品質検査装置が集出荷施設のごく一部にす
ぎないこと,本件発明2-1及び2-2が技術的意義に乏しく代替技術が存
在することなどからすれば,ロ号,ニ号及びへ号物件の利益に対する本件発
明2-1及び2-2の寄与率は0.3%,0.9%及び0.2%,売上げに
対する実施料率は0.07%,0.2%及び0.04%とすべきである。
第3当裁判所の判断
1争点⑴(被告製品の構成要件充足性)について
⑴争点⑴ア(構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該
当する仕分区分の仕分ライン」の充足性。ロ号~ホ号物件)について
ア構成要件1B及び1Dに係るロ号~ホ号物件の構成につき,原告が別紙
ロ号~ホ号物件目録の各1b及び1dのとおりであると主張するのに対し,
被告は下線部を争うが,ロ号~ホ号物件において農産物をどのプールコン
ベア(本件発明1の「仕分ライン」に相当する。)に排出するかが等級階
級情報(同「仕分け情報」に相当する。)だけでなくプールコンベアに存
在するトレーに関する情報に基づいて定まること,各プールコンベア上の
トレーの集積状態に応じて排出先となるプールコンベアが適宜変動し得る
ことは争いがない。被告が,構成要件1Bの「所定の」及び1Dの「該当
する」とは各仕分ラインへの仕分区分があらかじめ固定的に設定されてい
ることをいい,動的に変更されるものを含まない旨主張するのに対し,原
告は排出先となる仕分ラインが排出の時点において特定されていれば「所
定の」及び「該当する」に当たる旨主張するので,以下,検討する。
イまず,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載をみると,構成要件1B
として「計測軌道上で計測された仕分け情報に基づいて個々の受皿上の農
産物を排出するように所定の仕分区分別の仕分ラインが多数分岐接続され
ている……仕分排出軌道領域」が設定される旨記載され,「仕分け情報に
基づいて……排出するように」が「所定の……仕分ライン」を修飾してい
ることに照らすと,「仕分ライン」は農産物が載置された個々の受皿の排
出先であり,農産物の仕分区分別に設けられるもので,仕分け情報に基づ
いて上記受皿が排出できるものであることを意味するものと解される。ま
た,受皿の排出先を決めるに当たっては,計測軌道上で計測された仕分け
情報に基づくとされるが,それ以外の情報,例えば,排出時にプールコン
ベアに存在する受皿に関する情報を考慮することは排除されていない。そ
して,一般に「所定」とは「定まっていること」(乙25)といった意味
を有する用語である。そうすると,構成要件1Bの「所定の」とは,仕分
け情報に基づいて上記受皿の排出先が決まるように仕分ラインが定まって
いることを意味するものと解される。
また,同1Dにつき特許請求の範囲には「仕分排出軌道領域の上流に設
けた読出し手段により個々の受皿の農産物仕分け情報を読出して該当する
仕分区分の仕分ラインに該受皿を排出する」と記載されているところ,
「該当する」は「一定の条件等に当てはまること」といった意味を有する
用語である。そして,「読出し手段により……農産物仕分け情報を読出し
て」に引き続いて「該当する……仕分ライン」と記載されていることに照
らすと,構成要件1Dにいう「該当する」とは,ある受皿の農産物仕分け
情報を読み出した結果,その受皿がいずれか一つの仕分区分に当てはまる
ことを意味するものと解される。
以上によれば,「所定の」及び「該当する」については,個々の受皿の
仕分け情報を読み出した後に排出先が決定される時点でその受皿が排出さ
れるべき仕分ラインが定まっていればよく,あらかじめ固定的に設定され
ていなくてもよいと解するのが相当である。
ウこの点につき,念のため本件明細書1(甲2)の発明の詳細な説明の記
載を見ると,本件発明1は受皿がコンベアに連結されていないいわゆるフ
リートレイ式の受皿を用いた農作物の選別装置に関するものであり,この
ような選別装置は,コンベアと不可分の走行バケットを用いる方式に比し,
仕分区分を変更しやすいとされている(段落【0001】~【0003】)
ところ,本件発明1は仕分工程の構成をより柔軟に変更できるようにする
ことを目的の一つとするものである(段落【0010】,【0016】)。そ
うすると,仕分ラインにおける仕分区分の設定をあらかじめ固定するもの
に限定することは上記目的に反すると考えられる一方,本件明細書1には
仕分区分が仕分作業の過程で適宜変更されるものを排除する旨の記載は見
当たらない。このような本件明細書1の発明の詳細な説明の記載は,上記
イの解釈を裏付けるということができる。
エ以上を前提にロ号~ホ号物件が構成要件1Bの「所定の」及び1Dの
「該当する」を充足するかどうかについて検討するに,ロ号~ホ号物件は
いずれも「計測エリア上で計測された等級階級情報及びプールコンベアに
存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレー上のスイカ等を排出
するプールコンベアを適宜選択」する構成であり,農産物の排出先のプー
ルコンベアが仕分け情報に基づいて排出先を決定する時点までに定まるも
のと解されるから,構成要件1Bの「所定の」を充足する。また,仕分エ
リアの上流に設けた第2のICリーダ(ロ号~ニ号物件)又は第4のIC
リーダ(ホ号物件)により個々の受皿のスイカ等の等級階級情報を読み出
してこれに対応する仕分区分のプールコンベアにその受皿を排出する構成
であるから,構成要件1D「該当する」を充足すると判断するのが相当で
ある。
オこれに対し,被告は,①本件明細書1の発明の詳細な説明欄にあらかじ
め仕分区分が定まった場合を前提にしたと考えられる記載があること,②
本件発明1を引用する請求項2記載の発明があらかじめ仕分ラインが定ま
っていることを前提とする構成であること,③原告が本件発明1に係る特
許出願経過において仕分ラインごとに排出されるべき農産物の仕分区分が
あらかじめ定まっている旨の意見を述べたこと,以上のことから構成要件
1Bの「所定の」及び1Dの「該当する」は農産物の階級及び等級の仕分
区分があらかじめ定まったものをいうと解すべきであると主張する。しか
し,本件発明1には仕分区分があらかじめ固定された態様のものも含まれ
るのであり,被告の指摘する上記①~③の各点はそのような態様に関する
記載等とみることができるから,これらをもって仕分区分が動的に変更す
るものが本件発明1の技術的範囲外にあるとみることは相当でない。した
がって被告の主張はいずれも採用できない。
⑵争点⑴イ(構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出
し手段の間」の充足性。ロ号〜ホ号物件)について
ア構成要件1Eにつき,特許請求の範囲には「前記計測軌道領域の終端と
前記仕分け情報読出し手段の間」とあるところ,そのうち「前記計測軌道
領域」は,構成要件1Bによれば「搬送手段の途中に設定され」るもので
あって,「受皿上の農産物を選別仕分けする情報を計測するため」の領域
をいう。また,「仕分け情報読出し手段」は,構成要件1B及び1Dによ
れば仕分区分別の仕分ラインが多数分岐接続されている仕分排出軌道領域
の上流に設けられ,個々の受皿の農産物仕分け情報を読み出す機能を有す
るものを意味すると解される。なお,「農産物を選別仕分けする情報」及
び「仕分け情報」の意義は特許請求の範囲には記載されていないが,本件
明細書1(甲2)によれば農産物の「等級(グレード)」及び「階級(サ
イズ)」を意味することが明らかである(段落【0006】)。
イ以上を前提にロ号~ホ号物件が構成要件1Eを充足するか否かを検討す
る。
ロ号~ニ号物件については,リターンコンベアにより戻したトレーを
搬送ラインに送り込む位置は,別紙ロ号~ニ号物件目録の各1eのとお
り,検査エリアの終端すなわち「計測軌道領域の終端」と,第2のIC
リーダすなわち「仕分け情報読出し手段」の間であるから,構成要件1
Eを充足すると認められる。
ホ号物件については,構成要件1Eに係る構成につき原告が別紙ホ号
物件目録の1eのとおりであると主張するのに対し,被告はその下線部
につき「検査エリア内」とすべき旨主張するが,その構成については,
①トレー上のスイカにつき,別紙ホ号物件構成図における第1のICリ
ーダの上流において空洞,外観及び重量が,第1のICリーダの下流に
ある第2のICリーダと第3のICリーダの間において内部品質が,第
3のICリーダの下流かつ第4のICリーダの上流において外観がそれ
ぞれ検査され,記録されるものであること,②第4のICリーダが通過
するトレーの識別情報を読み取ってコンピュータに送信し,コンピュー
タが等級階級情報等を呼び出し,規格外又は検査未了の場合は同リーダ
の下流において最初に分岐する再計測コンベアに排出されて再度第1の
ICリーダの上流に回送され,そうでない場合は仕分エリアに排出され
ること,③リターンコンベアの終端が前記外観の検査記録位置と第4の
ICリーダの間に位置すること,以上につき当事者間に明らかに争いが
ない。
そうすると,上記①によればスイカの等級階級情報は前記外観の検査
及び記録位置までに検査及び記録が終わるべきものとされているといえ
るから同位置までが「前記計測軌道領域」に,②によれば第4のICリ
ーダは検査及び記録されたスイカの等級階級情報を読み取る機能を有し
ているから「情報読出し手段」に各該当するのであって,これらと上記
③を併せてみれば,リターンコンベアの終端が「前記計測軌道領域」の
終端と「前記仕分け情報読出し手段」の間に位置していると認めること
ができる。
したがって,ホ号物件は,構成要件1Eを充足すると判断するのが相
当である。
ウこれに対し,被告は,①ロ号~ホ号物件は農産物の荷口の混同防止とい
う構成要件1Eの作用効果を奏していない,②ホ号物件の第4のICリー
ダは受皿上の農産物が検査計測未了又は規格外であれば上記受皿を再計測
コンベアに排出させて再度仕分け情報を計測する検査を受けさせる機能を
有しているから計測軌道領域に含まれると主張するが,上記①の点は本件
明細書1において構成要件1Eの作用効果を限定する趣旨の記載が見当た
らないことに照らし,②の点は上記ア及びイの説示に照らし,いずれも
失当である。
⑶争点⑴ウ(構成要件2B「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」
及び「トレーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」の充足性。ロ号
物件)について
アまず,「この搬送コンベア上のトレーに載った青果物に対し複数の光源
により周囲から光を照射し」の部分の解釈について判断する。
本件発明2-1の特許請求の範囲の記載において,「複数の光源によ
り周囲から光を照射」される対象は「搬送コンベア上のトレーに載った
青果物」であるとされており,「載った」は一般に「物が何かの上に置
かれる」といった意味を有する(大辞林〔新装第二版〕2018頁参照)
と解されるところ,被告は光が照射される時点において上記青果物が
「トレー」に接触した状態にあることを要すると主張するものである。
そこで判断するに,本件発明2-1は,上部に青果物を載せて搬送コ
ンベア上を移送するトレーと,このトレーに載った青果物に光を照射し,
照射された青果物から出る透過光を受光する受光手段と,この受光手段
に上記透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するように配置される遮
光手段と上記青果物を照射する投光手段を備えた構成とした発明であり,
その目的の一つはより効率的に透過光の光量を得ることができて感度の
よい検出ができる透過光方式の方法を実現できる光透過検出装置を提供
することにある(発明が解決しようとする課題。本件明細書2の段落
【0011】)。上記の本件発明2-1の構成及び目的に照らせば,青果
物は光を照射する箇所に移送されるまで及び照射後はトレーに載せて搬
送コンベア上を移送する必要があるが,照射の時点ではトレーに直接載
っている必要はないということができる。また,本件明細書2には,上
記遮光手段の実施例として穴開き弾性シートが挙げられ,上記トレーの
上部全体にこれをかぶせてその上に青果物を載せることが示されている
(段落【0020】,【0036】~【0038】,【図3】)。そうすると,
構成要件2Bの「トレーに載った青果物」は,構成要件2Aの「その上
部に青果物を載せて移送するトレー」との記載を受けて,トレーと青果
物の移送中の位置関係を規定したものであって,光を照射する箇所まで
に至るトレーの上に存在していれば足り,照射の時点において青果物の
下部がトレーと接触した状態にあることは要しないものと解するのが相
当である。
イ次に,「穴を通して該青果物の一部表面に対向する受光手段」の部分の
解釈について判断する。
本件発明2-1の特許請求の範囲の記載によれば,「受光手段」は
「照射された青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通
した穴を通して該青果物の一部表面に対向する」とされるところ,一般
に「通す」とは「こちら側からあちら側までつきぬく」,「経由する。介
する」(広辞苑〔第六版〕1993頁参照)といった意味を有する用語
である。また,「受光手段」自体の構成については特許請求の範囲にお
いて限定されていないが,その一例としてこれが光ファイバーである場
合には,その一端が青果物に対向され,他端が分光器に接続されるとさ
れている(本件明細書2中の課題を解決するための手段及び作用,段落
【0016】及び実施例,段落【0030】)。そして,本件発明2-1
は上記アの目的を実現するためにトレーに貫通する穴及び遮光手段を設
け,受光手段を青果物の一部表面に対向させるという構成を採用するこ
とにしたものであり(課題を解決するための手段及び作用,段落【00
14】及び【0015】),これにより内部品質検査に供される光は上記
の穴を通過した透過光に限られることになる。そうすると,受光手段が
「穴を通して該青果物の一部表面に対向する」態様は,受光手段の全体
が上記の穴の下側にある場合だけでなく,その先端が上記の穴を突き抜
けて対向する場合を含むものと解される。
加えて,本件明細書2(甲4)において,穴開き弾性シートに青果物
を載せた状態で穴の下側がその周囲を適当な遮光部材で囲った暗所とな
るようにすれば青果物に対抗させる受光手段をこの暗所に配置すること
が容易となること(段落【0019】),遮光部材に相当する吸着パッド
が上下動してトレーの貫通穴を突き抜けて青果物に接触する実施例(実
施例1。段落【0029】)があることが記載されていることからすれ
ば,受光手段の先端がトレーの貫通した穴を突き抜けて対向する場合を
否定していないということができる。
ウ上記ア及びイを前提にロ号物件を見ると,別紙ロ号物件目録記載の構成
ロ2bの下線部については争いがあるが,証拠(乙35の1~4)及び弁
論の全趣旨によれば,トレーが搬送コンベア上の内部品質検査装置の位置
まで移送され,その位置で停止すると,同装置に備え付けられた持上部材
が持ち上がってトレー中心の貫通穴を突き抜けてスイカと接触し,スイカ
がトレーと接触しない状態になり,さらに,持上部材中にある透過光を受
光する光ファイバーの先端部もトレーにある貫通穴を通過して上方に持ち
上げられることが認められる。
このようなロ号物件の構成は,上記ア及びイで判示したところに照らせ
ば,構成要件2Bの「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」及び
「トレーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」を充足するものと
認められる。
エこれに対し,被告は,前記第2の3⑴ウ(被告の主張)のとおり主張す
るが,いずれも採用することができない。
⑷争点⑴エ(構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充
足性。ロ号,ホ号及びへ号物件)について
ア別紙ロ号,ホ号及びへ号物件目録の各構成2dのとおり,ロ号物件は多
数設置されたLEDを,ホ号及びへ号物件は複数のハロゲンランプをそれ
ぞれ有し,それぞれがスイカ又は梨の周囲から光を照射するものであるか
ら,構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」を充足する
と認められる。
イこれに対し,被告は,①本件明細書2における「本発明の上記光透過検
出装置は,複数の発光光源を用いて照明光学系を構成することで,単一発
光光源による照明と同一の電力で,より多い光量を得ることができる」と
の記載(段落【0017】)を根拠として,構成要件2B及び2Dの「複
数の(発光)光源」は上記記載の機能を有していることを要するものと解
釈すべきであり,これを前提に,②ロ号,ホ号及びへ号物件の光源は単一
発光光源による照明と同一の電力でより多い光量を得ることができるもの
でない旨主張する。
そこで検討するに,上記①については,本件明細書2(甲4)によれば,
本件発明2-1は,透過光方式によって青果物の内部品質を測定すると透
過光が減衰する問題点があり,光量を大きくすると発熱量及び電力量が増
大し,受光感度を増大すると精度の低下や内部品質を測定するのに不適な
光となるといった不都合が生じる(発明の背景と従来技術。段落【001
0】)ことから,単に光源の光量を増大するのではなくより効率的に透過
光の光量を得ることができて感度の良い光の照明,検出ができる透過光方
式の方法を実現できる光透過検出装置を提供するもの(発明が解決しよう
とする課題。段落【0011】)であり,複数光源により青果物の周囲か
ら照明することについて,上記①の記載(段落【0017】)のほかに,
単一の強力な光源ランプを用いるのと比べてムラの少ない透過光として得
ることができ,かつ,発熱を考慮してレンズ系統を用いて光源を青果物か
ら離す必要もなくなるもの(課題を解決するための手段及び作用。段落
【0018】)と記載されている。そうすると,上記①の記載は,要する
に,受光部分において透過光を充分に受光できるようにすることを問題と
し,単一の光源を用いる場合と比較して発明の効果を説明するにすぎず,
発光光源が複数であること以上にその構成を限定する趣旨の記載とみるこ
とはできない。
したがって,被告の上記①の主張及びこれを前提とする②の主張はいず
れも採用することができない。
⑸争点⑴オ(構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性。ホ号及びへ号物
件)について
アホ号物件について
原告は,構成要件2C及び2Dの「遮光手段」につきトレー自体に遮光
のための手段が設けられる場合もこれに含まれることを前提に,ホ号物件
のトレーの上面が上記構成要件を充足すると主張する。
そこで判断するに,本件発明2-1は,特許請求の範囲に記載されたと
おり,「トレーと」,「受光手段と」,「遮光手段と」,「投光手段とを備えた
ことを特徴とする……光透過検出装置」であり,「トレー」は「搬送コン
ベアにより……移送する」もの,「遮光手段」は「この受光手段に……配
置される」ものとされている。そうすると,「遮光手段」は,遮光という
機能を果たすものであれば全てこれに当たるとみるのは相当でなく,トレ
ーと別個の部材で構成されることを要すると解するべきである。
また,本件明細書2(甲4)を見ると,遮光手段は特に限定されるもの
ではないが,実施例においても吸着パッド(図1),弾性パッド(図2)
又は穴開き弾性シート(図3)というトレーと別の部材のもののみが記載
されており,上記解釈と符合するということができる。
以上を前提にホ号物件が構成要件2C又は2D「遮光手段」を充足する
かどうかについて検討すると,トレーとは別に遮光手段となる部材が設け
られていないことは明らかであるから,上記構成要件を充足するとは認め
られない。
イへ号物件について
証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,ヘ号物件においては別紙へ号
物件構成図のとおりトレー上に保護リングが着脱可能に設けられており
(「トレー断面図」及び「トレー写真」参照),これに梨を載せるとその下
部と保護リングが接触する(「進行方向から見た側面拡大図」参照)と認
められる。そして,梨の側方に照射された光は梨の表面及びトレー内部に
おいてあらゆる方向に反射及び散乱すると考えられることに照らすと,保
護リングによってこうした反射光及び散乱光が梨の下部ひいては受光部に
到達することが妨げられると解される。また,遮光手段が青果物の傷付き
防止作用を兼ねることは本件明細書2に開示されている(段落【002
0】)。したがって,ヘ号物件は上記構成要件を充足すると認められる。
これに対し,被告は,へ号物件において行った実験結果(乙28)に照
らし,保護リングは遮光作用を奏しないから「遮光手段」に当たらない旨
主張するが,上記実験結果は保護リングの有無によって糖度の測定精度に
有意差が生じなかったことを示すにすぎず,これをもって保護リングが遮
光作用を有しないとはいえないから,被告の上記主張を採用することはで
きない。
2争点⑵(本件特許についての無効理由の有無)について
⑴争点⑵ア(乙4文献等による本件発明1の新規性又は進歩性の欠如)につ
いて
ア新規性の欠如について
被告は,乙4文献(特開平5-50041号公報)に本件発明1の構
成が全て開示されていると主張する。
そこでまず,本件発明1のうち構成要件1Eの前段「前記仕分排出軌
道領域から前記仕分ラインに排出されずにオーバーフローした受皿を前
記搬送手段の上流側に戻すリターンコンベアを設ける」について検討す
ると,このうち「オーバーフロー」は,一般に「水などがあふれ出るこ
と」を意味することに加え,本件明細書1(甲2)の発明の詳細な説明
欄において,受皿がオーバーフローする場合として,仕分区分別に設定
されている仕分ラインのうちいずれかが満杯でそれ以上の受皿を受け入
れられない状態にある場合及び排出装置の動作不良,故障などの場合が
あるとされており(段落【0025】),こうした場合にはオーバーフロ
ーした受皿が自動的に再度仕分け工程に戻されるので従来の選別コンベ
アの終端部にプール部を設けて手作業で包装していた不具合を解消でき
るという効果を奏する(段落【0060】)と記載されている。これに
加え,前記1⑴の「所定の」「該当する」「仕分ライン」につき説示した
ところに照らすと,「オーバーフロー」とは所定の仕分ラインに排出す
べき受皿が当該仕分ラインに排出されずに滞留することをいい,構成要
件1Eの「リターンコンベア」はこのような意味においてオーバーフロ
ーした受皿を搬送手段の上流側に戻すコンベアをいうものと解するのが
相当である。
一方,乙4文献には,①「仕分読取装置の後段で搬送路に沿って仕分
クラスの数よりも所定数少ない数設けられ,送られてくる排出信号によ
り作動して青果物入り受皿を前記搬送手段から排出させる排出装置」,
「仕分クラス別の排出位置の指定が切換可能で且つ該仕分クラスのうち
排出位置の指定ができない排出位置設定部」及び「搬送手段に接続され
排出装置により排出されない仕分クラスの青果物入り受皿を前記仕分読
取装置の前段へ還元するリターン手段」を構成要素とすること(特許請
求の範囲の請求項1),②発明が解決しようとする課題は,青果物を箱
詰めするための手段を等級及び階級の仕分クラスの数と同数配置するこ
とに起因する問題を改善することであること(発明の詳細な説明欄の段
落【0003】,【0004】),③上記仕分制御手段は,読み出した仕分
クラスの排出位置が排出位置設定部に指定されていないときは排出信号
を出力せず,当該仕分クラスの青果物入り受皿は排出装置の前を通過し
てリターン手段へ送られるものであること(段落【0008】),④好ま
しい実施例において,供給過剰な仕分区分の青果物入り受皿は排出装置
よりも前段(上流)の第1プールコンベアにおいて余剰分をプールし,
排出位置の指定がない青果物入り受皿はこれを戻すためのリターン手段
上にある第2プールコンベアでプールしておき,所定量に達したときに
上記第1プールコンベアからの送り出しを停止して上記第2プールコン
ベアからの送り出しを開始する構成となっていること(段落【001
2】,【0028】,【0029】),以上の記載がある。
こうした記載に照らすと,乙4文献記載のリターン手段は,仕分クラ
スの数よりも所定数少ない排出装置しか設けられていないことから,排
出されないものとされる仕分クラスに該当する青果物入り受皿を還元す
るものであって,排出されるべき受皿が排出されない場合,すなわち,
本件発明1にいうオーバーフローが生じた場合を想定したものでないか
ら,構成要件1Eの「リターンコンベア」に該当しないというべきであ
る。したがって,乙4文献記載の発明は少なくともこの点において本件
発明1と相違するから,本件発明1が新規性を欠くということはできな
い。
イ進歩性の欠如について
上記アの相違点に関し,被告は,前記のオーバーフローが生じるこ
とは当業者にとって自明の事項であり,乙4文献記載の発明においても
これが生じることを容易に認識し得ることを前提に,同発明に他の公知
公用技術及び周知慣用技術を併せ考慮すれば,上記相違点に係る本件発
明1の構成は当業者において容易に想到できると主張する。
そこで判断するに,一般に青果物の選別装置においてオーバーフロー
が生じ得ることが当業者にとって自明であったとしても,乙4文献記載
の発明は,上記アにおいて説示したとおり,前記のオーバーフローが
生じる事態を想定したものではないから,そうした事態を前提とする他
の技術を組み合わせることの動機付けがあるとは認め難い。この点をお
くとしても,被告の主張するパレタイザー積込工程は箱詰めされたスイ
カの箱の搬送工程に関するものであって,農産物を載せた受皿を搬送す
る農産物の選別装置に関する本件発明1とは前提となる技術が異なるし,
被告のいう周知慣用技術(乙23)は仕分物品の合流衝突を回避する機
能を備えた合流シートに関するものであり,前記のオーバーフローに対
応する技術であるとは認められない。
したがって,乙4文献記載の発明に他の技術を組み合わせて上記相違
点に係る構成要件1Eの構成に想到することが当業者に容易であるとは
認められない。
⑵争点⑵イ(乙5文献等による本件発明2-1及び2-2の進歩性の欠如)
について
ア被告は,乙5文献(特開昭50-78378号公報)に開示された発明
につき,複数の光源に対して受光手段が一つである本件発明2-1の構成
要件2Bと異なり光源と受光手段が一対一の関係にない点において相違す
るが,乙14文献と組み合わせることにより構成要件2Bを想到すること
は当業者に容易であると主張する。
イそこで判断するに,証拠(乙5,14)及び弁論の全趣旨によれば,乙
5文献記載の発明は,果実の両側部分に光ビームを照射し,それぞれによ
って判明するビーム透過率特性の差によって果実の内部特性を検査するも
のであること,乙14文献は,青果物に当てられる測定ヘッド部内にある
複数の投光装置により下方から青果物に光を照射し,青果物からの反射光
を集光レンズを介して受光して青果物における吸光度を測定することによ
り青果物の糖度などを測定するようにした検査装置に係る発明を開示して
いることが認められる。
ウ上記各文献記載の発明を対比すると,光照射の方式及び測定原理におい
て技術的思想が大きく異なり,乙5文献記載の発明の光源と受光手段の配
置を乙14文献記載のものにあえて置き換える動機付けを見いだすことが
できない。
そうすると,上記アの相違点について構成要件2Bの構成を想到するこ
とが当業者に容易であると認めることはできない。
エしたがって,被告主張のその余の相違点について判断するまでもなく,
本件発明2-1が進歩性を欠くとは認められない。本件発明2-2は,前
引用する発明であるから,同発明
と同様に進歩性欠如をいう被告の主張は失当である。
⑶争点⑵ウ(乙14文献等による本件発明2-1の進歩性の欠如)について
ア被告は,乙14文献(特開平3-160344号公報)に開示された発
明につき,構成要件2A所定のトレーを有しないこと及びトレーを有して
いないために構成要件2B所定の青果物から出る透過光が「トレーの貫通
した穴を通して」受光手段に受光されないことの2点において相違するが,
乙13文献と組み合わせることにより,構成要件2A及び2Bを想到する
ことは当業者に容易であると主張する。
イそこで判断するに,乙14文献は前記⑵イのとおりの発明を開示してい
るものである。他方,乙13文献には,青果物を載置するための多数の受
皿を載せて搬送する搬送手段,受皿の載置位置を検出する等級検出装置そ
の他の構成を有する選別機用のコンベア装置であって,搬送中に受皿に設
けられた穴と搬送面の穴とを介して搬送面の下方から受皿に載せられた青
果物の下部における熟度その他の品質を検出することができること(段落
【0008】~【0010】),品質検査装置は特定波長領域の光を照射し
てその反射光量を計測するものであること(段落【0023】,図7)が
記載されている(乙13)。
両者を対比すると,両文献記載の発明はいずれも青果物に対して光を照
射してその品質を検査する装置を有する点で共通する一方で,乙13文献
記載の発明においては搬送手段を備える点,乙14文献記載の発明は青果
物に測定ヘッドを当てて品質を検査する点が他方と相違する。こうした相
違点を前提に乙14文献記載の発明に乙13文献記載の発明を組み合わせ
ようとすると,青果物の下方にある穴に上記ヘッドを貫通させて青果物に
当てるための移動手段が必要となるところ,こうした移動が円滑に行える
ことについて何ら主張立証がないから,これらを直ちに組み合わせること
ができるとはいえない。
そうすると,原告主張の他の相違点について判断するまでもなく,本件
発明2-1が進歩性を欠くとは認められない。
⑷争点⑵エ(本件発明2-1及び2-2に係る実施可能要件違反)について
ア被告は,本件明細書2において,光源を複数にすることで同一の電力で
より多い光量を得るという課題が解決できるという記載(段落【001
7】)を実現する方法が何ら明確に記載されていないと主張する。
イそこで判断するに,本件発明2-1及び2-2が解決しようとする課題
は,単に光量を増大するのではなく,より効率的に透過光の光量を得るこ
とができ,かつ,照明ムラ等を原因として果内部の光路が偏ることのない
光透過検出装置を提供することにある。また,光源を複数とすることの効
果については,被告の指摘するもの(段落【0017】)のほか,①青果
物をその周囲から照明することになるので単一の光源に比べて透過光の光
路が青果物内部で偏ることが抑制され,ムラの少ない透過光が得られるこ
と,②光源の発熱量の減少に伴い単一の光源に比べて光源を青果物から離
す必要がないことが記載されている(段落【0018】)。そして,本件明
細書2においては,複数の光源を青果物の上方(実施例1。段落【002
8】),下方(同2。段落【0031】)又は側方(同3。段落【0037】)
に配置する例が示されている。そうすると,当業者は上記実施例を参考に
複数の光源の配置を適宜行うことによって上記課題を解決することが可能
であるといえるから,本件明細書2の記載が実施可能要件(平成14年法
律第24号による改正前の特許法36条4項)に欠けることはないと解す
べきである。
3争点⑶(消滅時効の成否)について
⑴被告は,ロ号物件が本件特許権1及び2を侵害することを遅くとも平成2
0年中に,ハ号物件がロ号物件と同様の構成を採用していることを遅くとも
平成22年3月までにそれぞれ原告において認識していたから,本訴提起日
までに消滅時効期間が経過したと主張する。
⑵そこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,①被告製品の
ような農産物の選別装置は,入札方式による納入がされており,納入先の意
向によって仕様が変わり得ること,②ロ号物件が落札された金沢市農業協同
組合砂丘地集出荷場のスイカ選別装置の基本設計書において,同選別装置は,
フリートレイ方式で,近赤外線方式の内部品質センサー及び自動箱詰装置を
有し,同装置にオーバーフローラインを設けることが望ましい旨の記載があ
ること(甲14),③上記出荷場の2階には原告が設置した設備があり,原
告の担当者が立ち入ることができるが,ロ号物件は2階から一見してその構
成を把握可能なものでないこと(乙61の1,2),④ハ号物件が落札され
たきょうわ農業協同組合共和町メロン集出荷選果施設のメロン選別装置の見
積条件書において,同選別装置は,荷受プールコンベア方式によるもので,
フリートレイ式を採用し,エラー対策としてリトライラインを有する内部品
質センサーを有し,最低限の仕分プールコンベア数で効率よく仕分できるも
ので,プールラインからのオーバーフロー品及び指定品用として手積部を設
けるものである旨の記載があること(甲15),⑤本件特許権1及び2の侵
害の有無につき原告が平成25年1月9日にロ号物件の,同年6月12日に
ハ号物件の各調査を行ったこと(甲5,6),以上の事実が認められる。
⑶本件発明1及び2-1は,搬送手段,受皿,仕分ライン,読出し手段,あ
るいは,トレー,受光手段,遮光手段その他多数の構成物から構成されてい
るから,本件特許権1及び2の侵害の有無を認識するには実際に納入された
装置について詳細な調査を経ることが必要であると考えられるところ,上記
事実関係によれば,本件において入札前に示された仕様に合致するというだ
けでは本件発明1,2-1及び2-2の実施となるかは判断できないこと,
納入後にも原告の担当者はロ号及びハ号物件の構成を詳細に把握することが
できず,実際に調査を行ったのは平成25年になってからであることが明ら
かである。そうすると,被告の主張する時期までにロ号物件が本件発明1及
び2-1の技術的範囲に,ハ号物件が本件発明1の技術的範囲に属すると原
告が認識していたと認めることはできない。
したがって,ロ号及びハ号物件につき消滅時効は成立しない。
4争点⑷(損害又は不当利得の額)について
以上によれば,ロ号~ホ号物件が本件発明1の,ロ号,ニ号及びへ号物件が
本件発明2-1の,ニ号及びへ号物件が本件発明2-2の各技術的範囲に属す
るものであり,また,原告による本件特許権1又は2の行使が制限されること
はないから,これを前提に損害又は不当利得の額について判断する。
⑴特許法102条2項に基づく主張(損害額)について
ア売上高
前記前提事実⑶アのとおり,ロ号~へ号物件の落札価格はそれぞれ3億
7400万円,11億4155万円,5億8000万円,5億7800万
円及び4億7500万円であり,被告は被告製品の納入によりこれら金額
の売上げを得たと認められる。
イ控除すべき費用の額及び被告の利益額
原告が,ロ号~へ号物件に係る売上高から控除すべき仕入れ及び下請け
に係る原価はそれぞれ3億1768万円,10億6778万円,5億22
62万円,4億8271万円及び4億2140万円にとどまると主張する
一方,被告はこれを争うとともに,社内の労務費等を控除すべきであると
主張し,その額は少なくとも被告作成の原価・利益額比較表(乙59)の
とおりであると主張する。
そこで判断するに,被告製品の製造及び施工に当たって仕入れ及び下請
けに要した費用については,証拠(乙37~45,47~50,54~5
9)及び弁論の全趣旨によれば,こうした費用を要したことが認められる
もののその具体的金額については被告の提出する各証拠間に変遷があり,
原告が主張する上記各金額を上回る額を認めるに足りない。社内の労務費
等については,被告製品の製造及び施工のために発生した変動費用である
と認めるに足りる証拠はない。そうすると,上記比較表記載の原価額を控
除すべきものとする被告の主張は失当というほかない。
したがって,原告が自認する上記各金額の限度で前記売上高から控除し
て利益額を算出するのが相当であり,ロ号~へ号物件についてそれぞれ5
632万円,7377万円,5738万円,9529万円及び5360万
円であると認められる。
ウ推定を覆滅する事情
本件の各発明が被告の上記利益に寄与した割合について,本件発明1に
つき被告は2.5%,原告は50%であると,同2-1及び2-2につき
被告はロ号物件につき0.3%,ニ号物件につき0.9%,へ号物件につ
き0.2%,原告は30%であるとし,その余の部分につき特許法102
条2項の推定が覆滅する旨主張する。
そこで判断するに,本件明細書1(甲2)によれば本件発明1は農産物
の選別装置に関するものであって主としてリターンコンベアを設けること
及びその終端を工夫したことに,同2(甲4)によれば本件発明2-1及
び2-2は内部品質検査装置に係るものであって主として複数の光源を設
け,遮光手段を工夫したことに,それぞれ技術的意義があるものと認めら
れる。その一方で,前記1⑴のとおりロ号~ホ号物件はプールコンベアに
設定される仕分区分が集積状態によって適宜変動する構成を採用しており,
その結果,そうでない構成と比べてオーバーフローする青果物入り受皿の
数が減少するものと認められ,その限度において本件発明1が被告の上記
利益に寄与した割合が減少すると考えられる。
また,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,①ロ号~へ号物件は,選
別設備及び内部品質検査装置のほかに荷受設備(ニ号物件を除く。),箱詰
設備,封函・製品搬送設備,製函・空箱搬送設備その他の設備から構成さ
れるものであり,上記イの利益にこれらの製造及び施工に係る利益が含ま
れていること(乙38~41),②ロ号~へ号物件の各設置場所に関する
入札条件(甲14~18)上,少なくともリターンコンベアの戻し位置を
本件発明1所定の位置にすること及び内部品質検査装置において本件発明
2-1及び2-2所定の複数の発光光源を設けることは必須の要件とされ
ていなかったこと,以上の事実が認められる。
上記の技術的意義及び事実関係によれば,上記利益額の一部については
特許権侵害による原告の損害額であるとの推定を覆滅する事情があると認
められ,その割合は本件発明1につき75%,同2-1及び2-2につき
95%と認めるのが相当である。
エ小括
したがって,特許法102条2項に基づいて算定される損害額は,上記
イの利益額に対し,本件発明1につき25%,同2-1及び2-2につき
5%を乗じた額であり,その合計額は7905万5000円(ロ号~へ号
物件につきそれぞれ1689万6000円,1844万2500円,17
21万4000円,2382万2500円及び268万円)であり,原告
がこれを上回る損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。
なお,被告は,ニ号物件につき原告が入札に参加していないから損害が
発生し得ず,同項の適用がないと主張するが,同項は原告による特許権の
実施を要件とするものでなく,被告による特許権侵害行為がなかったなら
ば原告が利益を得られたであろうとの事情があればその適用が認められる
ところ,原告と被告が競合関係にあること,被告が本件特許権1又は2を
侵害しない構成の装置として入札した場合に落札し得たか不明であること
に照らせば原告が入札に参加しなかったことのみで同項の推定が覆滅する
とはいえないと解される。
⑵特許法102条3項に基づく主張(損害又は不当利得の額)について
ロ号~へ号物件の売上高は前記⑴アのとおりである。
本件発明1の実施料率について原告は10%,被告は0.15%と,同2
-1及び2-2に係る発明の実施料率について原告は10%,被告はロ号物
件につき0.07%,ニ号物件につき0.2%,へ号物件につき0.04%
と主張するところ,前記⑴ウにおいて説示した事情に照らすと,本件発明1
につき2%,同2-1及び2-2につき全体として0.5%であると認める
のが相当である。
したがって,特許法102条3項に基づいて算定される損害又は不当利得
の額は,前記売上高に対し上記各割合を乗じた額であり,その額は6061
万6000円(ロ号~へ号物件につきそれぞれ935万円,2283万10
00円,1450万円,1156万円及び237万5000円)であり,こ
れを上回る損害又は不当利得の額を認めるに足りる証拠はない。
⑶弁護士及び弁理士費用
本件訴訟を追行するに当たって相当な弁護士及び弁理士費用額は800万
円と認められる。
⑷小括
前記⑴及び⑵によれば,特許法102条2項に基づく損害額が同条3項に
基づく損害又は不当利得の額を上回るから,同条2項に基づく請求を認容す
べきである。
5まとめ
以上によれば,原告は,被告に対し,民法709条,特許法102条2項に
基づき損害賠償金8705万5000円及びこれに対する遅延損害金を請求す
る限度で理由があり,その余の請求は理由がない。
なお,原告はイ号物件を被告が製造販売するおそれがあるとしてその生産の
差止め等を求めるが,そのようなおそれを認めるに足りる証拠はない。
第4結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官萩原孝基
裁判官中嶋邦人
(別紙)
イ号物件目録
被告が生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸出若しくは輸入し,又はその譲渡
若しくは貸渡しの申出をする以下の構成を有する農産物選別システム。
1a搬送ラインに連結されていないトレイと,農産物供給領域から農産物箱詰装
置に渡って農産物を載せたトレイを搬送する搬送ラインとを備え,
1bこの搬送ラインには,このトレイ上の農産物の品質を検査するために搬送ラ
インの途中に設定された検査領域,及び検査領域上で計測された検査結果に基
づいて個々のトレイ上の農産物を排出するように所定の仕分区分別のプールコ
ンベアが多数分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分領域が設定され,
1c各トレイに,その上に載せられている農産物の検査結果を直接又は識別標識
を介して間接的に読出し可能に記録し,
1d仕分領域の上流に設けたICリーダにより個々のトレイの農産物検査結果を
読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレイを排出する農産物選別
システムであって,
1e仕分領域からプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレイを搬
送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリターンコン
ベアにより戻したトレイを搬送ラインに送り込む位置を,検査領域の終端とI
Cリーダの間とした
1f農産物選別システム。
(別紙)
ロ号物件目録
金沢市農業協同組合砂丘地集出荷場(住所は省略)に設置されたスイカ選別装置
であって,以下の構成を具備している。
ロ1a搬送ラインと結合されていないトレーと,供給エリアから箱詰エリアに渡
ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え,
ロ1b搬送ラインには,トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの
途中に設定された計測エリア,並びに計測エリア上で計測された等級階級情
報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレ
ー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し,個々のトレー上のス
イカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数
分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され,
ロ1c各トレーにはICチップが内蔵され,その上に載せられているスイカの等
級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し,
ロ1d仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのスイカ
の等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを
排出するスイカ選別装置であって,
ロ1e仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレー
を搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリター
ンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を,検査エリア
の終端と第2のICリーダの間とした
ロ1fスイカ選別装置。
内部品質検査システムは,以下の構成を具備している。
ロ2aローラーコンベア等の搬送ラインにより水平に搬送面上を移送され,中央
には,円形の貫通穴を有し,その上部にスイカを載せて移送するトレーと,
ロ2bコンベア上のトレーに載ったスイカに対し,持上部材を上下動機構により
トレーの貫通穴に嵌合するように上方に移動させ,持上部材の上部円形外周
部をスイカに押し当てた状態で,持上部材の内部に多数設置されたLEDに
より下方の周囲から光を照射し,照射されたスイカから出る透過光を受光す
るようにトレーの貫通した穴を通して該スイカの一部表面に対向する受光手
段と,
ロ2c光ファイバー先端部に透過光以外の外乱光が受光するのを阻止するように
スイカと光ファイバー先端部の対向位置の間に配置される筒状の受光遮光部
材と,
ロ2d多数のLEDからの照射光を光ファイバー先端部及び受光遮光手段の間を
除くスイカの周囲から該スイカを照射する投光手段とを備えたことを特徴と
する
ロ2eスイカの内部品質検査装置。
(別紙)
ハ号物件目録
きょうわ農業協同組合共和町メロン集出荷選果施設(住所は省略)に設置された
メロン選別装置であって,以下の構成を具備している。
ハ1a搬送ラインと結合されていないトレーと,供給エリアから箱詰エリアに渡
ってメロンを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え,
ハ1b搬送ラインには,トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの
途中に設定された計測エリア,並びに計測エリア上で計測された等級階級情
報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレ
ー上のメロンを排出するプールコンベアを適宜選択し,個々のトレー上のメ
ロンを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数
分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され,
ハ1c各トレーにはICチップが内蔵され,その上に載せられているメロンの等
級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し,
ハ1d仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのメロン
の等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを
排出するメロン選別装置であって,
ハ1e仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレー
を搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリター
ンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を,検査エリア
の終端と第2のICリーダの間とした
ハ1fメロン選別装置。
(別紙)
ニ号物件目録
熊本市農業協同組合北部選果場(住所は省略)に設置されたスイカ選別装置であ
って,以下の構成を具備している。
ニ1a搬送ラインと結合されていないトレーと,供給エリアから箱詰エリアに渡
ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え,
ニ1b搬送ラインには,トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの
途中に設定された計測エリア,並びに計測エリア上で計測された等級階級情
報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレ
ー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し,個々のトレー上のス
イカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数
分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され,
ニ1c各トレーにはICチップが内蔵され,その上に載せられているスイカの等
級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し,
ニ1d仕分エリアの上流に設けた第2のICリーダにより個々のトレーのスイカ
の等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを
排出するスイカ選別装置であって,
ニ1e仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレー
を搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリター
ンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を,検査エリア
の終端と第2のICリーダの間とした
ニ1fスイカ選別装置。
内部品質検査システムは,以下の構成を具備している。
ニ2aチェーンコンベアにより水平に搬送面上を移送され,中央には,円形の貫
通穴を有し,その上部にスイカを載せて移送するトレーと,
ニ2bチェーンコンベア上のトレーに載ったスイカに対し,複数のハロゲンラン
プにより周囲から光を照射し,照射されたスイカから出る透過光を受光する
ようにトレーの貫通穴を通してスイカの一部表面に対向する受光装置と,
ニ2c受光装置に透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するようにスイカと受
光装置の対向位置の間に配置される遮光手段と,
ニ2d複数のハロゲンランプからの照射光を受光手段及び遮光手段の間を除くス
イカの周囲から該スイカを照射する投光手段とを備えたことを特徴とする
ニ2eスイカの内部品質検査装置。
ニ2fスイカの周囲からスイカを照射する複数のハロゲンランプは,チェーンコ
ンベアの両側方に配置されている。
(別紙)
ホ号物件目録
きょうわ農業協同組合共和町スイカ集出荷選果施設(住所は省略)に設置された
スイカ選別装置であって,以下の構成を具備している。
ホ1a搬送ラインと結合されていないトレーと,供給エリアから箱詰エリアに渡
ってスイカを載せたトレーを搬送する搬送ラインとを備え,
ホ1b搬送ラインには,トレー上のスイカの品質を検査するために搬送ラインの
途中に設定された計測エリア,並びに計測エリア上で計測された等級階級情
報及びプールコンベアに存在するトレーに関する情報に基づいて個々のトレ
ー上のスイカを排出するプールコンベアを適宜選択し,個々のトレー上のス
イカを同一階級かつ同一等級ごとに仕分けするためのプールコンベアが多数
分岐接続されている搬送ライン下流側の仕分エリアが設定され,
ホ1c各トレーにはICチップが内蔵され,その上に載せられているスイカの等
級階級情報をICチップの識別情報を介して間接的に読出し可能に記録し,
ホ1d仕分エリアの上流に設けた第4のICリーダにより個々のトレーのスイカ
の等級階級情報を読出して該当する仕分区分のプールコンベアに該トレーを
排出するスイカ選別装置であって,
ホ1e仕分エリアからプールコンベアに排出されずにオーバーフローしたトレー
を搬送ラインの上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリター
ンコンベアにより戻したトレーを搬送ラインに送り込む位置を,検査エリア
の終端と第4のICリーダの間とした
ホ1fスイカ選別装置。
内部品質検査システムは,以下の構成を具備している。
ホ2aチェーンコンベアにより搬送面上を水平に移送され,中央部に貫通穴を有
し,その上部にスイカを載せて移送するトレーと,
ホ2bこのチェーンコンベア上のトレーに載ったスイカに対し,複数のハロゲン
ランプによりスイカの側方から光を照射し,照射されたスイカから出る透過
光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該スイカの一部表面に
対向する受光手段と,
ホ2cハロゲンランプからの光が直接受光装置に入ることを防止する構造と,
ホ2d複数のハロゲンランプからの照射光をスイカの周囲から該スイカを照射す
る投光手段を備えたことを特徴とする
ホ2eスイカの内部品質検査装置。
ホ2fスイカの周囲からスイカを照射する複数のハロゲンランプは,チェーンコ
ンベアの両側方に配置されている。
(別紙)
へ号物件目録
なのはな農業協同組合第1梨選果場(住所は省略)に設置された梨の内部品質検
査装置であって,以下の構成を具備している。
ヘ2aチェーンコンベアにより搬送面上を水平に移送され,中央部に貫通穴を有
し,その上部に梨を載せて移送するトレーと,
ヘ2bこのチェーンコンベア上のトレーに載った梨に対し,複数のハロゲンラン
プにより梨の側方から光を照射し,照射された梨から出る透過光を受光する
ように上記トレーの貫通した穴を通して該梨の一部表面に対向する受光手段
と,
ヘ2cハロゲンランプからの光が直接受光装置に入ることを防止する構造と,
ヘ2d複数のハロゲンランプからの照射光を梨の周囲から該梨を照射する投光手
段を備えたことを特徴とする
ヘ2e梨の内部品質検査装置。
ヘ2f梨の周囲から梨を照射する複数のハロゲンランプは,チェーンコンベアの
両側方に配置されている。

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