弁護士法人ITJ法律事務所

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           主       文
本件控訴を棄却する。
           理       由
 本件控訴の趣意は,主任弁護人伊藤誠基,弁護人飯田泰啓及び同塚越正光連
名提出の控訴趣意書(同訂正申出書3通を含む。)に,これに対する答弁は,検察
官藤原光秀提出の答弁書に,それぞれ記載されたとおりであるから,これらを引
用する。
 そこで,原審記録及び証拠物を調査し,当審における事実取調べの結果をも併
せて検討する。
 原判決が認定している「罪となるべき事実」の要旨は,次のとおりである。
一 A1に対する強盗殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺,死体遺棄事 件(以
下,これらを併せて「A1事件」という。)
 被告人は,X1と共謀の上,
(一) 平成6年7月19日午後1時ころ,a県b市内の産業廃棄物最終処分場にお
いて,A1(昭和32年10月4日生)に対し,被告人が回転弾倉式けん銃で銃
弾3発をその頭部に撃ち込んで殺害してその反抗を抑圧し,アタッシュケース
等と普通乗用自動車(BMW,時価約400万円相当)を強取した。
(二) 同日午後2時55分ころ,B1銀行c支店において,被告人がA1名義の払
戻請求書を偽造し,強取した預金通帳と共に提出して行使し,現金1000万
円をだまし取った。
(三) 殺害後,X1がA1の死体を積んだ自動車を運転して搬送し,同月21日午
前6時20分ころ,同県d市内の造成地(以下,「d造成地」という。)において,
A1の死体を被告人が掘削機(以下,「ユンボ」という。)を操作して埋めるなど
して遺棄した。
二 A2に対する恐喝事件(以下,「A2事件」という。)
 被告人は,X1と共謀の上,同年10月27日午前8時35分ころ,c市内の市営
住宅の一室において,金融業を営むA2(昭和20年11月15日生)に対し,被
告人が回転式けん銃様のものを突き付け,X1がけん銃は本物であるなどと述
べて脅迫するとともに金銭の交付を要求し,その結果,同日午前11時14分こ
ろ,畏怖したA2から約束手形の差入れと引替えに現金100万円を脅し取っ
た。
三 A3に対する強盗殺人,死体遺棄,有印私文書偽造,同行使,詐欺,窃盗事
件(以下,これらを併せて「A3事件」という。)
(1) 被告人は,X1及びX2と共謀の上,
(一) 同年11月20日午後8時ころ,同県e市内の倉庫敷地において,A3(昭
和6年9月9日生)に対し,被告人及びX1が暴行を加え,被告人が上記け
ん銃で銃弾1発をその頭部に撃ち込んで殺害してその反抗を抑圧し,その
場で手提げかばん等を,同県g郡h町のA3の自宅で半円真珠等を,同所
付近の月極駐車場で普通乗用自動車2台を強取した。
(二) 殺害後,X1及びX2がA3の死体を積んだ自動車を運転して搬送し,同
月22日午後3時30分ころ,d造成地において,A3の死体を被告人がユン
ボを操作して埋めるなどして遺棄した。
(三) 同月21日午後2時5分ころ,B2銀行c支店において,A3名義の預金
払戻(兼当座貸越)請求書を偽造し,強取した預金通帳と共に提出して行
使し,現金227万円をだまし取った。
(2) 被告人は,単独で,
(一) 同日午前11時49分ころから同月23日午後1時7分ころまでの間,5回
にわたり,強取したクレジットカードを不正に使用して商品をだまし取るなど
した。
(二) 同月22日午後4時28分ころ,c信用金庫f支店において,強取したカー
ドを使用して現金自動預入支払機から現金20万円を引き出して窃取し
た。
(3) 被告人は,L1と共謀の上,
(一) 同日午後零時10分ころ,h町役場において,L1がA3名義の印鑑登録
証明書交付申請書を偽造し,強取した印鑑登録証と共に提出して行使し
た。
(二) 同月24日午後1時15分ころ,同県i郡j町内の飲食店において,被告人
がA3名義の委任状を偽造し,同日午後1時55分ころ,B2銀行e西支店に
おいて,L1が強取に係る定期積金預金通帳等と共に提出して行使した。
本件は,以上のようなA1事件,A2事件及びA3事件からなる事案である。
第1 理由不備の主張について
論旨は,要するに,(1)A2事件における他事件と異なる「回転式けん銃様
のもの」という認定の問題(控訴理由第1点),(2)A3事件における物色時間
帯の愛人との通話の不自然性(同第19点),(3)X1証言の全体的な信用性
(同第20点),(4)犯行動機の認定が漠然としたものであること(同第21
点),(5)被告人の人間性と犯人像とのかい離の問題についての説明に欠け
ること(同第22点),の各点において,原判決には理由不備の違法がある,と
主張する。
しかし,原判決には刑訴法335条所定の有罪判決の理由として必要な事
項が記載され,各事実について有罪の認定をした詳細な理由を付しているこ
とはその判文上明らかである。(1)については,公訴事実が,けん銃ではなく,
けん銃様の物とされているのは,現実にけん銃が発射されていないこと,使
用された物が発見されていないことなどによるものであると解されるところ,
原判決は,その訴因を前提とし,その内容に従った認定をしているのである
から,所論の指摘する点は理由不備の主張に当たらず,いずれの犯行にも
同一のけん銃が使用されたとするX1の供述部分の信用性に関わる主張に
すぎない。また,(2)ないし(5)についても,理由不備をいうが,その実質はいず
れも被告人の犯人性ないしはその証拠の信用性を争う趣旨に帰するもので
あるから,理由不備の主張には当たらない(その所論については,次の事実
誤認の主張に対する判断の中で具体的な検討を加える。)。論旨は理由がな
い。
第2 事実誤認の主張について
論旨は,要するに,被告人は,A1事件,A3事件のうち強盗殺人,死体遺
棄の点及びA2事件については,犯人ではなく,また,その余の事実について
は,被告人は客観的な行為自体に関与してはいるが,X1から告げられたこ
とを信用していたため,通帳やカードについては強取されたものであることを
知らず,権限が与えられていたと認識していたから犯意がなく,したがって,
被告人は本件公訴事実のすべてにつき無罪であるのに,いずれも有罪の認
定をしている原判決には事実の誤認があり,これが判決に影響を及ぼすこと
は明らかである,というのである。
そこで検討するに,原判決挙示の関係各証拠によれば,原判決が「罪とな
るべき事実」で認定した各事実が優に認められ,その「事実認定の補足説
明」(以下,「補足説明」という。)で認定,説示するところも,一部(A1事件に
ついての殺害状況,同事件のアリバイ判断の点等の判断の一部)を除き,お
おむね正当として是認することができるのであって,当審における被告人質
問等の事実取調べの結果を加えて検討しても,その認定は左右されない。
1 被告人の犯人性について
A1事件,A3事件の強盗殺人及びA2事件の各犯行において,被告人が
犯行現場において共同実行している犯人であるかどうかにつき,被告人は,
共同実行のみならず共謀の事実についても終始一貫して否定しているのに
対し,共犯者とされるX1は,被告人が共同実行者である旨の詳細な供述を
している。以下,これらの各事件につきX1の供述の信用性も含め検討する
が,検討の順序として,まず,被害者の供述のあるA2事件,次いで,共犯者
X2の供述のあるA3事件,最後に,被害者やX1以外の他の共犯者の供述
のないA1事件の順に行うこととする。
(1) A2事件の犯人性について
被害者であるA2の供述はおおむね次のとおりである。①被害状況につ
き,事件当日である平成6年10月27日午前8時35分ころCと入れ替わり
にX1がA2の事務所に入ってきた際,A2はいきなり「銭出せ。」と言われて
見上げると,A2の約1メートル前にA2とは面識のない男が土足で立って
いて,回転式けん銃(自動装てん式でないことは明瞭に目撃している。)を
両手で握り腕を前に伸ばし銃口をA2の頭部に向けて突き付け,「下の階
段に2人おる。今,下に行った男はもう上がってきやへんやろ。」などと述べ
た。A2とX1が応接間へ移動し,X1がA2に現金を必要とする事情として
暴力団y1の若い衆3人が借金の取立てに泊まり込みで来ている旨説明し
たが,その間,その男は応接間の出入口付近に立っていた。その男はそ
のほかには何も話さず,同日午前9時15分前ころA2方から立ち去る際
に,A2が名前を聞いたが,答えなかった。②その男の特徴につき,黒色サ
ングラスをかけ,帽子をかぶり,黒っぽいジャンパーのような上着に黒色ズ
ボンという服装であったが,年齢はX1より少し若く見え,やせ型で身長は
それほど高くなく,ひ弱そうな体つきであり,顔立ちも優しそうに見えた。③
その男と被告人との同一性につき,A2は,同年12月4日刑事の訪問を受
けて十四,五枚の面割り写真を見せられて,その男の顔写真があるのに
気付いたものの,刑事にはそのことを告げず,刑事からその氏名等を聞き
出そうとしたが,教えてくれなかった。その後,同月29日e警察署での面通
しにより,逮捕されている男が横顔や顎の感じからしてもその男に間違い
なかったため,初めて,犯人である旨を警察官に告げた。
A2は以上のとおり供述しているところ,被害者であるA2がこの点につ
いて殊更虚偽の供述をするような事情は特にうかがわれない。A2が被告
人の写真を見せられた際,犯人であることに気付きながら,その旨すぐに
警察官に告げようとしなかったのは,A2がy1に所属するような者を犯人と
して警察官に告げた場合には報復等身辺の危険性を招きかねないことを
恐れたためであると推測できるのであって,面通しの時点において,その
男が既に逮捕され,しかもy1とは無関係な者であることを知らされて安心
し,犯人であることを警察官に明らかにしたものと見ることができる。しか
も,A2がその男を目撃した状況は約40分間にも及び,その間近距離で横
顔などを含めて見ており,面割りの方法も妥当であることからして,A2の
面割り供述の信用性は高度であることが認められる。
他方,原判決が認定しているとおり,被告人は,事件当日の午前7時46
分,午前8時29分,32分の3回にわたり,X1と携帯電話で連絡を取って
いること,Cは,A2に融資を申し込んでおきながら,X1らが押し入る直前
にA2方を退出したまま戻って来なかったこと,被告人は,その所持する携
帯電話から,Cに対し同日午前9時35分から2分24秒間にわたり通話し
ていることが認められるところ,X1に対する電話はX1と行動を共にしてい
ることを,Cが戻らなかったことはCが手引きをしたことをそれぞれ示す情
況事実である。さらに,Cに対する電話は,電話をした時刻が,犯人の退出
時間後間もなくの時点であることからすると,手引きをしたCに手引きの謝
意を伝えるとともに,その後の経過及び結果を知らせたことを推認させるも
のである。この点についてはCは自己負罪を恐れて内容を明確にしない
が,被告人が自ら通話をしていること自体は,被告人も認めているのであ
って(なお,携帯電話を被告人が常時携帯している状態で使用していたこ
とについても被告人の供述により明らかである。),この事実は,被告人が
犯行現場にいてけん銃を突き付けていたという事実を裏付ける重要な情
況証拠というべきである。加えて,被告人は,Cに対する電話の趣旨につ
き,勾留中に当時の妻Dを介してCと口裏合わせを行い,原審第6回公判
においてCにそれに沿う偽証をさせたことが認められる。
他方,A2事件に関するX1の供述は極めて詳細なものであり,A2の供
述とよく符合している。X1は,A2を襲撃することにした経緯,強盗殺人を
被告人と共謀した経緯,被告人がけん銃で射撃する役割を果たすことにな
っていたこと,しかし,X1が,その場の成り行きからその計画を変更し,被
告人に退去するように指示するに至ったこと,その後100万円を脅し取っ
たことなどについても詳細に供述しているところ,その供述は,被害者であ
るA2の供述と矛盾するところがほとんどなく,Cの供述や関係証拠とも符
合するものであって,信用性は極めて高いと認められる。
これに対し,被告人は,本件犯行を全面的に否認するのみならず,A2
のことを全く知らないと供述しているが,上記のとおり犯行現場にいたこと
が明らかであるのみならず,被告人の新携帯情報ツール(当庁平成15年
押第15号の12)の「電話帳」の「個人リスト」にはA2の電話番号と住所が
登録されているなどの事実に照らし,A2を全く知らないとする供述は信用
できない。
以上とほぼ同旨の内容を含め犯人性に関する事実関係,証拠関係につ
いて詳細に判示している原判決の認定は正当である。そうすると,被告人
はA2事件の犯人であることを優に認めることができる。
(2) A3事件の犯人性について
X1の共犯者であるX2の供述はおおむね次のとおりである。①A3殺害
の犯行状況等につき,事件当日の同年11月20日午後7時30分ころ,X1
との待ち合わせ場所で,X1が乗っていたシビックの運転席に黒色帽子(キ
ャップ)をかぶりサングラスをかけた男が座っているのを見た。X2は,打合
せのとおり,同日午後8時前ころA3を誘い出し,カリブに同乗させて殺害
現場まで連れてきた後,X1の指示でカリブからシビックの運転席に移動し
て間もなく,けん銃の発射音がしたので振り向くと,カリブの助手席側の外
にX1が,後部左側ドアの外にその男が立っていた。シビックから降りてカリ
ブに戻り,運転席側ドアを開けて車内を見ると,A3は後部座席で頭を運転
席側に向け右腹を下にした状態で倒れており,車内には強烈な火薬の臭
いがしていた。その男はすぐにシビックに乗り込み,X1からA3のかばんを
受け取って走り去った。その男は,X2に顔を見られないように振る舞って
おり,一度も声を出さなかった。その後,X2は,死体を載せたカリブを運転
し,同県k郡l町のゲームセンターでX1と落ち合った際,X1の運転車両に
はサングラスの男が乗っており,その車の先導でc市内のマンションの駐
車場に行き,カリブをそこに置いて自分はX1の運転車両の助手席に乗り
移ったが,その男は後部座席におり,3名で翌21日午前3時ころまでに同
県g郡h町の月極駐車場へA3の車を奪取しに行った。その男はこの時も
終始無言であった。X2はその男が駐車場で降りた際BMWの方へ歩く後
ろ姿をよく見ている。その姿は犯行現場の犯人と同一人物といえる。②上
記サングラスの男の特徴につき,X2と似た太っていない体型で,身長は1
70センチメートル弱のX2より少しだけ高く,黒っぽいジャンパーとズボンと
いう服装であった。③X1にその男が誰かと尋ねたところ,X1から「あれ,w
1のXちゃんやないか。」と,いかにもX2にも当然にそのことが分かってい
るのではないかという口調で言われたが,その後ろ姿とゲーム喫茶w1を
経営していた被告人とで特に違和感がなく,その後,X1はその男を「X」と
名前で言うようになった。
以上のような供述をしているところ,X2が犯人につき殊更虚偽の事実を
言う事情はうかがわれない。そして,上記のようなサングラスの男の特徴と
して供述するところも被告人のそれと合致している上,X1が共犯者である
X2に対し,その男が被告人でないのに,被告人である旨殊更に虚偽の説
明をするような事情もうかがわれない。この点については原判決が補足説
明第3の2(10)イにおいて説示しているとおりである。
のみならず,関係証拠によれば,被告人は,原判示のとおり,A3殺害
の翌21日y2でユンボを借り受け,同月22日Eに電話でユンボの操作を依
頼し,Eをして同日午後3時ころd造成地で穴を掘らせた後,報酬5万円を
手渡して口止めをしたことが認められるのであって,被告人が死体遺棄の
犯行を実行していることが明らかである。被告人はこれを否定するが,y2
の申込みを被告人がしていることやEが虚偽の供述をする理由は見出せ
ないこと,現にその現場からA3の死体が発掘されていること等からして
も,これを否定する被告人の供述は信用できない。
しかも,被告人は,A3の財産のうち預金以外の分については,自ら確
保し,処分している。すなわち,被告人は,同月21日午後8時ころh町の月
極駐車場においてFに対し上記奪取に係る車両であるA3のクラウン白色
を引き渡していること,同日昼ころA3の亡妻G名義のカードで残高照会を
し,A3名義のクレジットカードを使用し,同日午後2時5分ころB2銀行c支
店においてA3名義の預金払戻(兼当座貸越)請求書を偽造し,預金通帳
と共に提出行使して現金227万円をだまし取り,A3名義のクレジットカー
ドを使用して詐欺や窃盗を重ねたこと,同月22日ころの午後Hに対し半円
真珠等を見せて鑑定を求めネックレスの売却を依頼したこと,知人のL1に
A3を名のらせて,同月22日午後零時10分ころh町役場においてA3名義
の申請書を偽造,行使して印鑑登録証明書10通を入手したこと,同日午
後1時24分ころから午後2時36分ころまでの間B2銀行e西支店において
A3の定期積金を解約しようとしたが,拒否されたこと,同月24日午後1時
すぎ同支店に電話をかけた後,A3名義の委任状を偽造した上,同日午後
1時55分ころこれを提出行使し再度定期積金の解約を試みたが,L1が逮
捕されて失敗に終わったこと等の原判決認定の事実が,L1の供述を含む
関係証拠により明らかである。なお,L1が逮捕されて間もなく被告人が警
察に出頭するに先立ち,捜索を逃れるために証拠物や重要書類などを衣
装ケースに入れて,知人に託しているところ,その中からA3名義の預金通
帳,キャッシュカード類,印鑑等も多数発見されているが,これらは,被告
人が本件犯行の犯人であることを推認させる重要な情況証拠である。
以上のような本件犯行後における被告人の関与の状況等は,その内容
や被告人の主導性に照らし,それ自体,被告人が本件犯行の実行正犯で
あることを高度に推認させる事情と認められる。さらに,被告人は,警察に
出頭する直前だけでなく勾留中にも本件につき積極的な罪証隠滅工作を
しているが,この点も被告人が犯人であることを更に推認させる事情と見
ることができる。
共犯者であるX1は,X2との犯行計画,襲撃対象をA3と決めたいきさ
つ,被告人との共謀状況,犯行現場を決めた状況,X1が被告人と待ち合
わせた状況,X2がA3を誘い出した状況,犯行を実行した状況,当初の打
合せではX2の分担とされていたのに,被告人が自らA3のBMWを奪い,
A3の自宅の鍵を受け取って,財物の強取行為に及んでいる状況,その後
の死体遺棄を含めた一連の状況等について,詳細な供述をしているとこ
ろ,その供述はX2の供述ともおおむね符合しているのみならず,関係証
拠とも符合していて高度の信用性が認められる。
被告人は,A3事件について,強盗殺人,死体遺棄を除く犯行の外形的
事実自体についてはほぼ認めつつ,①ユンボのレンタルは同月22日朝w
2でX1から,②残高照会等は同月20日夜w3事務所前でX1から,③A3
の預金の払戻しは同月21日昼ころa会館でX1の代理人と称するIから頼
まれたなどと弁解している。しかし,これらの点についての弁解は関係証
拠に照らして信用できないのみならず,①については,原判決がその補足
説明第3の2(4)イにおいて説示しているとおり,その弁解は,X1からレンタ
ルを依頼されたという日時がその代金支払より後となる不合理な弁解であ
って,被告人がX1と会った時刻を問題とするまでもなく,信用できない。ま
た,②及び③の弁解についても,他人名義の口座の残高照会や大金の払
戻しを行う理由につき,被告人はX1の話を信じたというのみで,合理的な
説明ができないのであるから,この弁解も信用できない(その詳細は原判
決補足説明第3の2(3)イのとおりである。)。
以上と同旨の内容を含め犯人性に関する事実関係,証拠関係について
詳細に判示している原判決の認定は正当である。そうすると,被告人が強
盗殺人の現場において殺害行為に加わっていることは,以上の証拠から
明らかであるのみならず,死体遺棄の実行正犯であること及びその余の
犯行についても有罪であることが明らかである。
(3) A1事件の犯人性について
A1事件においてはA2事件やA3事件とは異なり目撃者等が存在しない
ものの,関係証拠によれば,被告人の携帯電話から,X1の携帯電話(殺
害前日の同年7月18日午後8時55分,午後9時2分,午後10時27分),
ポケットベル(午後9時24分,殺害当日の同月19日午前8時49分,午前
9時12分)への通話連絡があることから,X1と密接に連絡を取り合ってい
た状況がうかがわれるのみならず,とりわけ,A1の自宅マンション(午前1
0時56分),事務所(午前10時57分),携帯電話(午後零時34分,57分)
にも通話がされている事実が認められるところ,これらのA1との通話連絡
状況は,X1と被告人とが行動を共にして本件犯行に及んだことを裏付け
る重要な情況証拠というべきである。
すなわち,A1の自宅への10時56分及びその1分後のA1事務所への
10時57分の通話は,それ自体がその時点で被告人がX1と同行していた
ことを明確に示す情況証拠として重要であるのみならず,X1の証言する状
況ともよく符合している。さらに,A1の携帯電話への2度にわたる連絡に
ついても,同様に被告人が殺害現場でX1と一緒に居合わせたことを推認
させる情況証拠であるのみならず,上記の通話状況はA1を殺害現場であ
るb市内のw4近くの産業廃棄物最終処分場へおびき出す過程に関するX
1の証言とよく符合し,X1の供述する前後の状況とも併せ自然に理解でき
るものである。
この点につき,被告人は,午前10時56分,57分の通話については,
多分自分のポケットベルに連絡が入ったので折り返し電話をしたものと思
うと弁解するが,その通話内容や用件についても述べていないばかりか,
A1の自宅の電話に折り返しの電話をした1分とたたないうちにA1事務所
の電話番号がポケットベルに表示され,これに折り返し電話をするというの
は極めて特異なことであるから,その供述は信用できず,X1の供述すると
おり行動を共にする中での通話と見るほかはないものである。また,午後
零時34分及び午後零時57分の2回にわたるA1の携帯電話への通話に
ついての被告人の弁解も,ポケットベルに入った番号に折り返し電話した
ものであり,いずれもX1が出ていると思うから,X1がA1の携帯電話を使
用していたのではないか,と弁解するが,被告人の携帯電話に直接かけ
ず,ポケットベルに入電させるのは,う遠であり不自然といえるし,当日以
降の行動が極めて特異で印象的なものであるのに,その直前の通話内容
については記憶がないというものであって,本件当日の通話状況について
の供述としては信用性のないものというほかはない。
さらに,被告人は,A3事件の場合と同様に,A1のめぼしい財産をおお
むね自ら意のままに処分している。すなわち,被告人は,A1殺害の犯行
当日の同月19日午後2時55分ころB1銀行c支店においてA1名義の払
戻請求書を偽造し,預金通帳と共に提出行使し,現金1000万円を払い戻
してだまし取った(なお,翌20日午前には実姉からの借金200万円につき
205万円を振込送金して返済しているが,その資金は犯行により得られた
ものとしても矛盾はない。)ほか,当日夜Jに対し電話等でX1の内妻である
K方前に駐車中のA1のBMWをw3事務所へ移動するよう依頼したこと,
翌20日午後2時ころL6に小切手6通を交付して現金化を依頼し,その謝
礼としてA1のクレジットカード1枚を交付して使用させ,自らも同日午後8
時ころm県n市内においてA1のクレジットカードを使用していること(この点
についてはA1の失踪を印象づける意図もうかがわれるものである。),同
月21日にもカード会社に使用可能かを確認し,自らo市内等においてクレ
ジットカードを使用したほか,Mに対してもA1の運転免許証と共にクレジッ
トカード3枚を交付して使用させたことなどの事実が,関係証拠により明ら
かである(その詳細は補足説明第1の1(4)において説示されているとおり
である。)。
のみならず,原判示のとおり,A1の死体は,A3と同じdの造成地に埋め
られていたところ,被告人は,死体遺棄の犯行において中心的な役割を果
たしている。すなわち,被告人は,殺害当日の同月19日夕方パチンコ店に
いたNに対しユンボによる穴掘りを依頼したこと,翌20日午前10時30分
ころy2でユンボを借り受け,Nをして同日夕方d造成地においてユンボで
穴を掘らせたこと,同月21日早朝w5地下駐車場で死体を載せていたV8
クラウンのバッテリーが上がっていたので,隣人にブースターケーブルを借
りてエンジンを始動させて移動させたこと,d造成地において携帯電話でN
からユンボの操作方法を聞きながら,穴を埋め戻したことが認められる。こ
れらの点については原判決が補足説明第1の3(9)(10)において詳細に説
示するとおりであって,以上の認定に反する被告人の供述は信用できない
ことが明らかである。
以上のような本件犯行後における被告人の関与の状況は,その内容や
被告人の主導性に照らし,それ自体,被告人が本件犯行の実行正犯であ
ることを推認させる事情として十分なものと認められる。また,A1事件とA
3事件とは,X1又はX1側の共犯者において被害者をおびき出し,自動車
内で被害者の頭部にけん銃を発射して殺害し,預金通帳等在中のかばん
や高級乗用車を強奪した後,被害者の死体をdの造成地に埋めて遺棄す
るという点において,犯行態様及びその前後の行動に類似性が高いこと等
も,A1事件の共犯者とA3事件の共犯者とは同一人物による犯行であるこ
とを推認させるものである。さらに,A2事件でも,A2にけん銃を突き付け
た共犯者が被告人であることが明らかであり,A1事件の犯人がこれらの2
事件の犯人と同一であることの推認は更に高まるものということができる。
共犯者であるX1は,犯行計画,襲撃対象をA1と決めたいきさつ,被告
人との共謀状況,X1が被告人と待ち合わせた状況,犯行現場を決めた状
況,A1を被告人の携帯電話で誘い出した状況,犯行を実行した状況,被
告人が自らA1のBMWを奪い,走り去った状況,再び落ち合い預金通帳
と印鑑を使用して銀行から払戻しを受けに行く状況,死体を隠匿し,その
間に被告人がm県n市の方に行っていたことを知った状況,死体遺棄をし
た状況等,一連の状況について,詳細な供述をしているところ,その供述
は,以上の事実とも符合し,その主要な部分は補強されているということが
できることからして,おおむね高度の信用性が認められる。特に,被告人
が当日X1と行動を共にし,犯行現場にA1をおびき出す際被告人の携帯
電話が使用されている状況についてのX1の供述は迫真的であり,被告人
が現場にいて犯行に関与し,A1の車両を奪い去った人物であることにつ
いては疑問の余地がない。被告人がX1と落ち合うまでの電話の状況も,
そのような行動を前提としても不自然な点は見出されない。これと異なり,
犯行当日は午後2時半にX1と会うまではX1と行動を共にしていないとして
犯行を否認する被告人の供述は信用できない。なお,預金の引出しはX1
から頼まれたとの弁解は,いくらX1の依頼がしつこくても,1000万円もの
多額であることに照らし甚だ不自然というほかない(その詳細は原判決補
足説明第1の3(6)のとおりである。)。また,A1のBMW,クレジットカード
は被告人がX1から担保として預かったもので,X1から使用の承諾を得て
いるとの弁解も,関係者の供述と整合性を欠く点が多いから信用できない
(その詳細は同(7)において説示されているとおりである。)。
以上と同旨の内容を含め強盗殺人につき被告人の犯人性に関する事
実関係,証拠関係について詳細に判示している原判決の認定はほぼ正当
として是認することができる。そして,以上のような事実を総合すると,被告
人がA1事件の強盗殺人の犯行現場に居合わせ実行行為を分担した犯人
であるのみならず,死体遺棄の実行正犯であること及びその余の犯行に
ついても有罪であることが明らかである。
2 X1証言の全体的な信用性に関する所論について
所論は,原判決は共犯者とされるX1の自白に依拠して被告人の有罪を認
定しているのに,X1証言の信用性につき部分的,断片的な検討を加えてい
るにすぎず,証言全体の評価を欠いているから,X1の証言の信用性判断に
は理由不備があるなどと主張する(控訴理由第20点)。
しかし,原判決は,情況証拠や被害者のA2,共犯者のX2,その他関係者
の証言等を事件ごとに詳細に検討し,これらと対比しながらX1証言の信用性
を判断しているのであり,部分的,断片的な検討を加えているにすぎないとす
る所論は前提を欠く。したがって,X1証言の信用性を検討せずこれを鵜呑み
にしているという所論は当たらない。
X1は,被告人がA1事件,A2事件及びA3事件の現場における実行正犯
者であり共犯者である旨証言するところ,上記のとおり,その証言は,被告人
やX2との共謀状況,殺害前後の行動,殺害状況等につき具体的かつ詳細な
内容のものであって,捜査及び公判を通じておおむね一貫しているのみなら
ず,A1及びA3の死体をd造成地に遺棄したことや衣装ケースに入っていた
重要な証拠物の所在等の点で秘密の暴露を含んでいる上,A2やX2の供述
と合致し,多数の証拠物等の客観的証拠や関係者らの供述等による豊富な
裏付けがあることからすると,高度の信用性を有するものというべきである。
なお,X1の自白にはA2事件で使用したけん銃の種類(当初は,被害者のA
2の供述により明らかな回転式けん銃ではなく,自己の所持する小型自動装
てん式けん銃(タイタン)を犯行に使用した旨明らかに虚偽の供述をしてい
た。)やその処分等の点で変遷があるものの,A1事件及びA3事件の取調べ
が開始されていない段階では被告人をかばう気持ちがあり,同一の凶器を使
用したことを秘匿していた旨それなりに納得できるような説明をしているから,
このような変遷をもって自白の信用性が減殺されるものとは認められない。
もっとも,一般に共犯者の自白には自己の刑責を軽減したり第三者の関
与を隠ぺいするため虚偽の供述をする危険があるとされているから,X1証
言の信用性については慎重に吟味されねばならず,このことは原判決が指
摘し,所論も強調するとおりである。しかし,上記のとおり,A2事件について
は被害者であるA2の目撃供述,A3事件については共犯者であるX2の目撃
供述からも,被告人が各犯行現場にいたことは明らかであり,A1事件につい
ても被告人の携帯電話の発信記録からしても当時X1と行動を共にしていた
ことが推認される。また,A1事件及びA3事件に共通するけん銃の使用や犯
行後の被告人の行動,特に死体遺棄への深い関与や強取された通帳による
預金引出し,自動車等の処分,カードの使用,A2事件及びA3事件での罪証
隠滅工作等の被告人の犯人性を示す情況証拠が認められる。したがって,こ
れらの情況証拠ともよく符合する被告人の犯人性に関するX1の証言の基本
的な部分の信用性が高度なものであることは明らかである。
なお,弁護人は,被告人の供述の信用性に関する原判決の認定,説示に
対し各事件ごとに反論する(当審弁論第6項)が,いずれも上記判断を左右
するに足りないというべきである。被告人の供述には,他の明白な証拠があ
る点についてもこれに反する供述をするところが少なからず認められるなど,
全体として信用性に乏しいといわざるを得ない。たとえば,d造成地に穴を掘
った理由として,2回とも廃棄物の投棄のためであると供述するところ,これ
に反する証拠が十分に存するにもかかわらず,被告人は敢えて不合理な弁
解をしている。けん銃の所持の事実については,被告人と親しい多数の者の
信用性が高度な供述があるにもかかわらず,これを否定している。証拠隠滅
工作も明白であるのに,いずれもこれを否定する供述をしている。このように
責任逃れに終始する供述態度が認められるのであって,その点からしても全
体として供述内容の信用性に乏しいというべきである。
以下,所論が個別的に指摘する点にかんがみ,所論に即して説明を補足
する。
 3 A2事件に関する所論について
(1) 所論は,A2の目撃供述につき,①目撃状況に関し,けん銃様の物を突
き付けた男が黒色サングラスを外したことがあるという点は経験則に反す
る,②A2の警察に対する被害申告の経過が不明朗である,③A2の人物
像からして,信用性は認められない,と主張する(控訴理由第12点)。
しかし,A2の供述に信用性が認められることは前示のとおりであるのみ
ならず,①については,犯人の男が黒色サングラスを外すことはうかつな
行為といえても,所論のようにあり得ないこととはいえず,したがって,その
供述部分が経験則に反する内容のものということはできないから,外した
のを目撃したとの証言に信用性がないことにはならないし,殊更虚偽を述
べる事項にも当たらないから,A2証言の信用性は所論指摘の点により何
ら左右されない。②については,A2はX1の交友者の写真面割りの際に被
告人がサングラスの男であると気付いていたのに,当初は警察官に対し恐
喝の被害事実を申告しなかったという経緯は所論指摘のとおりであるもの
の,A2が自分でその男を探し出して仕返しをしようと考えていたためかど
うかはともかく,被告人の写真を犯人のそれと指摘することを控えたことに
ついては前示のとおり了解できるところであって,その後犯人の面割り写
真の中から被告人の写真を選び出して犯人を明らかにしたからといって,
所論のようにA2の目撃供述が信用性に欠けるとはいえない。さらに,③に
ついても,A2は所論のようないわゆる高利の街金融業者であるとしても,
それをもって恐喝事件の被害者が本物のけん銃を突き付けて脅されたと
いう供述の信用性まで否定すべき理由にはならない。
したがって,サングラスの男と被告人との同一性について,A2の目撃供
述の信用性を肯定している原判決の判断に誤りはないというべきである。
(2) 所論は,被告人が自分の方からC宛に電話した事実はなく,X1からの電
話であると考えて折り返し電話としてかけたにすぎないものであって,この
点に関する被告人の供述の一貫性,被告人とCとの関係の希薄さ,会話
内容の不自然さ,C供述,特に原審第40回公判証言のあいまいさに照ら
すと,その後この点につき口裏合わせをしているとしてもなお,被告人がC
の番号にかけた電話の趣旨は結局不明というほかないのに,Cの検察官
調書(甲331号証)に信用性を認め,被告人がCに対する謝礼の趣旨で電
話したものと認定している原判決は,供述調書の信用性の判断を誤ってい
る,と主張する(控訴理由第13点)。
しかし,Cの上記調書は,詳細かつ自己に不利益な内容のものであっ
て,原審公判証言よりもはるかに信用性が高いと認められる。被告人は,
Cとの間で「X1さん見えませんか」という一方的なものであった旨の口裏合
わせを行っていることが認められるところ,2分24秒間という通話時間の
長さに照らしても,そのような内容の電話である旨の被告人の弁解は到底
信用できず(この点については原判決が補足説明第2の2(2)において詳細
に説示しているとおりである。),前示のとおり犯行現場から退出した後,
手引きをしたCに対し連絡を取ったものと認めるのが相当である(前示のと
おり事態の展開状況を参考に知らせる趣旨をも含むものと推測される。)。
被告人とCとの関係が希薄であるからといって,それだけではこのような連
絡があり得ないとはいえず,被告人がCの電話番号を知っていたことは,
被告人の携帯電話からのCの電話への通話につき,数日前である同年1
0月21日午後2時25分と50分の2回にわたる記録があることからもうか
がわれるところである。以上と異なる趣旨のCの公判証言は,同人の検察
官調書と対比し回避的であって信用性が乏しい。
したがって,原判決の上記調書の信用性判断に誤りはないのみならず,
被告人は当日午前9時35分の電話でCと何らかの連絡を取っている事実
は,被告人のA2事件における犯人性に関する有力な情況証拠になるもの
である。
(3) 所論は,Cが手引きをした共犯者であるというX1の証言については,C
の否認,X1のあいまいな証言,X1の供述の変遷等から合理的な疑いを
抱かざるを得ないのに,X1の証言を鵜呑みにしてCを共犯者と断定してい
る原判決は,証拠の評価を誤っている,と主張する(控訴理由第11点)。
しかし,この点に関するX1の証言は具体性に富み,所論のようにあいま
いであるとはいえない。Cの退出と入れ替わりにX1らが立ち入った後,C
が再びA2事務所に戻っていない事実に照らしても,Cが手引きをした旨の
X1の供述の信用性は明らかである。検察官がCを起訴しなかったからと
いって,それだけで所論のように捜査機関が被告人の関与の証拠が薄弱
であることを自認しているものとはいえない。したがって,原判決がX1やC
の供述の評価を誤っているという所論は採用できない。
(4) 所論は,Oが被告人方に犯行時間帯に電話をかけ被告人と通話してい
る事実と被告人がA2の事務所にいた事実とは両立し難いから,被告人に
はアリバイが成立するのに,アリバイ主張を排斥している原判決は誤りで
ある,と主張する(控訴理由第14点)。
確かに,関係証拠によれば,OはA2事件当日の午前11時すぎから約1
時間w3事務所で被告人から自動車保険料の集金をし,昼食も一緒にして
いることが認められる。しかし,犯行時間帯である午前9時を挟んだ30分
間に被告人宅に電話をかけて保険料の集金の打合せをしたというOの証
言は,普段の連絡方法から当日電話をかけた時間帯を推測しているにす
ぎないものであって,信用性に乏しく,被告人がその時間帯にA2事務所内
にいなかったことを示す証拠としての信用性は薄弱というほかはない。か
えって,関係証拠によると,当日午前9時55分に被告人がOのポケットベ
ルに連絡したことが認められ,Oが被告人に電話をかけたのは,そのころ
であることが推認される。したがって,アリバイ主張を排斥している原判決
に誤りはない。
なお,被告人が祖母Pとの電話をきっかけにしてp町立病院に入院中の
Qを見舞ったのは,同年11月1日の1回だけであったと認められ,所論の
主張する犯行当日午後の見舞いの事実が認められないことについては原
判決説示(補足説明第2の3(3))のとおりである。
そうすると,被告人がA2事件の犯人であると認定している原判決に事実
の誤認は見出せない。
4 A3事件に関する所論について
(1) 所論は,同月21日午後2時36分すぎにL1がB2銀行e西支店を出てか
ら午後3時59分に被告人がX1の内妻K方にいたX1に対し死体を埋め終
わったことにつき電話をかけたとされるまでの83分間には,被告人がL1と
合流してw3事務所まで戻り,d造成地に向かい,Eにユンボによる穴の掘
削を指示し,被告人がこれを埋め戻して死体遺棄を完了することは不可能
であるから,被告人が死体遺棄行為に及ぶことは不可能であるのに,被告
人が死体遺棄行為をしたとしている原判決の認定は誤りである,と主張す
る(控訴理由第15点)。
しかし,ユンボの掘削,埋戻し作業の所要時間を実験結果に従い26分
間と仮定し(実験結果をもって実際に要した時間より短時間であることをう
かがわせる事情は特に見当たらない。),車での移動については,最短の
所要時間を採用すると,合計73分間程度で移動と作業を完了することが
可能であることになる。また,所論のいうロスタイムを加えることにしても,
被告人方への立ち寄りはせいぜい5分間程度であり,L1にたこ焼きを食
べさせた点も,被告人がw3事務所前で営業している義父Rからたこ焼きを
もらってL1に渡せば済むことであって,これに要した時間はごく短いと考え
てよいから,合計七,八分間で十分に可能と見るのが相当である。そうす
ると,所論の83分間の中で被告人が死体遺棄を完了することができること
になるから,これが不可能であるとする所論は採用できず,実際にも同程
度の時間がかかっていることをむしろ裏付けているというべきである。
(2) 所論は,20日深夜被告人がシビックでA3方から強取品を持ち帰り,そ
の後被告人とX1がX2と合流するためにセンティア又はシビックでl町のゲ
ームセンター「w6」に向かったと判示している点につき,同夜被告人がシビ
ックを運転してw7ないしw3事務所に戻ってきた事実はなく,X1の証言に
よればw7にシビック又はセンティアが放置されることになるのに,これを誰
が取りに来たのか,どこへ移動させたのか不明であり,使用車両の点でも
X2の証言と矛盾があって信用できないのに,X1の証言に信用性を認めて
いる原判決は,証拠の評価を誤っている,と主張する(控訴理由第17
点)。
しかし,A3殺害後被告人がとった行動については,X1とX2の証言が一
致していることから,被告人が犯行後A3宅に侵入してそこにあった半円真
珠等の財物を強取している事実を推認できる上,w7の一室に半円真珠等
の被害品が搬入されていることが他の証拠によっても確認できることに照
らすと,これに沿うX1の証言は十分に信用できる。のみならず,使用車両
の点はささいな事柄であって重要性に乏しいから,仮にX1の証言の細部
に誤りがあっても,被告人が深夜A3方から強取品を持ち帰り,その後l町
のゲームセンターに向かった旨のX1の供述の信用性については,他の証
拠によっても裏付けられているところからして,その信用性は左右されな
い。
(3) 所論は,A3の死体を載せたカリブをc市q町の月極駐車場からr市のy3
駐車場へ移動させたことにつき,共犯者の協力が必要であるから,単独で
移動したというX1は真の共犯者をかばい立てするための虚偽供述をして
いるのに,この点につきX1の証言を採用している原判決の認定は誤りで
あり,この点にもX1の供述の信用性の乏しさが現れている,と主張する
(控訴理由第18点)。
しかし,カリブのcからrへの移動については,X1の証言でも一応の説明
はできているし,死体の置かれた車両をcのマンション駐車場に置きっ放し
にすることの危険性を考えると,その夜のうちに発見されにくいy3の駐車
場に移動させたこと自体については,死体が発見されるのを防止する措置
として必要かつ合理的であるといえる。仮に所論のように協力者がいるとし
ても,X1がその名前を出すのをはばかる者とも考えられる。所論は,Cの
営むy3駐車場へ移動させた後の移動手段を問題とするが,名前を出しに
くい者に車で迎えに来させるなどの方法もあることからすると,この点につ
いてあいまいな供述をしていることを理由にX1の証言の信用性が左右さ
れることになるものではなく,そもそもこの点は,所論の指摘にもかかわら
ず,ささいな事項にすぎないというべきであり,車の移動に関するX1の証
言の信用性はこれにより左右されるものではない。したがって,X1の証言
中所論指摘の部分が信用できないとし,ひいては本件の共犯者が被告人
であるとのX1の供述の基本的な部分の信用性に疑いを生じさせるとの趣
旨に解される所論は,前提を欠き採用できない。
(4) 所論は,A3方で物色している最中と思われる時間帯には,被告人が愛
人に携帯電話で連絡している事実が認められるところ,そのような行為は
A3事件における被告人の行動としては不自然というほかはないから,被
告人の犯人性を否定する事実と評価すべきであるのに,原判決がそのよ
うに評価していないのみならず,その理由をも示していないのであって,被
告人の犯人性についての認定判断を誤っているとの趣旨に解される主張
をする(控訴理由第19点)。
しかし,被告人がA3方における物色の時間帯に愛人と通話をすること
自体をもって所論のように不自然であるとはいえないから,被告人のA3事
件への関与を否定すべき事実であるとする所論は,そもそも前提を異にす
るものであり,採用できない。
(5) 所論は,X1が引き当たりの際にカリブの車内から発見したとされている
弾丸につき,①平成7年2月のカリブの押収や検証から8か月後の同年1
0月という弾丸の発見時期,②鑑定嘱託書の作成日付が発見前であり,発
見日時も捜査報告書と一致していないこと,③人血検査の行えないほど微
量の固形物以外に血痕,組織片等の付着物が認められていないという不
自然さからすると,その弾丸は外部から不正に持ち込まれたという疑いが
あるのに,その証拠価値を認めている原判決は誤りである,と主張する
(控訴理由第16点)。
確かに,弾丸の鑑定嘱託書2通(甲552号証,555号証)の作成日付
が警察官証人のいうような誤記であると認めるには慎重にならざるを得な
いが,鑑定嘱託書の参考事項欄の,X1の引き当たりの際発見された旨の
記載と併せて見ると,誤記であるとする供述の信用性を否定し難い。所論
のいうように弾丸が外部から持ち込まれたと仮定すると,A1事件と同一の
けん銃(弾丸の条痕が相互に一致している。)がどこかにあり,それを使用
して発射した弾丸を警察官が入手したということにならざるを得ないが,そ
のような特異な事情をうかがわせる証拠は全くなく,およそ推測の域を出る
ものではない。カリブ車内で弾丸が発見されないまま経過し,後に発見さ
れることになったことについては,解体業者の廃棄物置場での保管状況や
その後の警察の倉庫内における保管状況等に照らし相応の理由が見出さ
れることからすると,当初発見されなかったため不存在と考えられていたと
ころに,X1が自白したことからカリブへの引き当たりが行われ,その際X1
の供述に従い発見に至ったということがあっても,これを不自然とすること
はできない。いずれにせよ,所論のように外部から不正に持ち込まれたと
いう疑いは否定すべきである。弾丸に微量の赤褐色固形物の付着の点
も,血痕予備検査では陽性反応があったことからすると,貫通銃弾である
こととの矛盾はないというべきであり,弾丸がカリブ車内のどの位置に滞留
していたのかは明らかでない以上,血液付着が少ないからというだけで,
所論のように外から持ち込まれたとの疑いを抱かせることになるものでは
ない。
したがって,弾丸の証拠価値を否定する所論は採用できず,原判決の
上記弾丸の証拠評価に誤りはないというべきである。なお,この点に関す
る所論は,これのみではそもそも被告人の犯人性を左右するものとはいえ
ない。
そうすると,所論の指摘する点を検討しても,被告人がA3事件の犯人であ
ることにつき合理的な疑いは見出せず,原判決に所論のような事実誤認は
認められない。
 5 A1事件に関する所論について
(1) 所論は,A1の事務所の事務員であったSが,その事務所でX1からの電
話を受けたのは,当日午前9時40分ころから午前10時ころまでの間であ
るのに,午前10時57分と認定している原判決は誤りである,と主張する
(控訴理由第10点)。
しかし,Sの供述によっても,X1がA1事務所のSに電話をかけたのは1
回しかないことが認められるところ,被告人の携帯電話の発信記録を含む
関係証拠によれば,その時刻は,午前10時57分であると認められる。所
論は,Sの当初供述(甲274号証)が正しく,その訂正供述(甲275号証)
はつじつま合わせであり,電話は当初供述のとおりにかけられている,と
いうが,当初の供述は大まかな記憶によるものにすぎず,捜査官が客観
的な証拠を指摘して記憶を喚起させること自体不当ではなく,その訂正さ
れた内容に照らせば,同証言の信用性が乏しいということにはならない。
なお,弁護人が指摘するT作成のメモの記載内容は当初供述と同じである
という点(当審弁論第4項)も,その記載内容は後に上部に書き加えられた
ものであることがメモの写し自体から明らかであり,Sの記憶の正確性に疑
問があることからすると,この判断を左右するようなものとはいえない。
したがって,Sの供述に変遷があるからといってX1の架電時刻に関する
原判決の認定に誤りがあることにはならない。
(2) 所論は,当日午後1時前後の犯行時間帯における被告人の携帯電話に
よる通話状況はA1殺害の犯行と両立し難いから,これと矛盾する不自然
な架電記録は被告人に有利な証拠と評価すべきであるのに,被告人をA1
事件の実行犯と認定する原判決は経験則違反の証拠評価をしている,と
主張する(控訴理由第9点)。
しかし,犯行時間帯及びその直後に犯人がNやL3等の知人や被告人
の家族に電話をかけたりすることは,一見奇異な印象を抱かせるように見
えるけれども,例えば犯行に関する事項で必要な連絡をしたり,犯行のカ
ムフラージュのために行ったり,その他色々な意図の下に行われることが
あり,自宅への通話についても相手が誰であるかを含め色々な理由が考
えられる。のみならず,A1の携帯電話への通話状況(午後零時34分,57
分)は,A1を殺害場所へおびき出す過程に関するX1の証言内容とよく符
合する。しかも,関係証拠によれば,射撃の方法によるA1殺害の犯行は
短時間で終了し,その実行犯は直ちに現場を立ち去っていることが認めら
れるから,被告人が方々へ電話をかけるのも決して不自然ではない。とり
わけ,Nに連絡を取ろうとしている通話状況(午後1時4分,31分,35分,
午後2時18分)は,それがA1殺害後に死体を遺棄することに関連するも
のと見ることができ,殺害終了の時期をうかがわせるものとして,X1の証
言をよく裏付けるものとなっているのであって,所論のように被告人に有利
な証拠であるとはいえない。
したがって,被告人の通話状況に関する原判決の証拠評価に経験則違
反はない。
(3) 所論は,被告人には当日午後r市内のy4でマフラーを修理していたとい
うアリバイがあるのに,これを否定している原判決には誤りがある,と主張
する(控訴理由第5点)。
確かに,領収書(前同押号の56在中のもの)の存在やy4の総勘定元帳
の記載(その内容については,原審第56回公判調書中の証人Uの供述部
分及びこれに添付されている写しにより認めることができる。)からすると,
被告人が当日y4でマフラー修理等の代金を支払った事実自体は否定し難
いところであるが,それにより認められるのは上記代金の支払だけであっ
て,実際にマフラーの修理が行われた日は証拠上明らかとはいえない。し
かも,Uのいう被告人の来訪時間は,日常の生活や稼働状況からの推測
でしかなく,十分な裏付けのあるものとはいえない。さらに,被告人が当日
午後2時55分にB1銀行c支店でA1の口座から1000万円を引き出して
いることからしても,その前後にマフラーの修理が行われているとは考えに
くい。のみならず,そもそも被告人が当日ソアラを運転していたというのは,
前後にファミリアを運転しているという関係証拠により明らかな事実との整
合性に欠けるというべきである。領収書の存在は犯行後得た金により既に
修理を終えていた修理代金の支払をしたとしても矛盾しない(姉に対する
借金返済の送金も,翌日午前中に行われている。)ことからすると,当日代
金の支払に赴いた事実は否定できないというべきであるが,当日y4でソア
ラの修理をし,その際被告人が居合わせたというUの証言は,当日の行動
であるかどうかにつき明確な根拠に欠け具体性に乏しいものといわざるを
得ず,その信用性は乏しいというべきである。したがって,被告人が本件当
日午後1時から午後3時まで間の約1時間y4でマフラーの修理を待ってい
たというUの証言は,少なくとも事件当日のこととする点において信用でき
ないというべきであるから,被告人にはアリバイは成立しない。そうすると,
被告人が当日午後3時10分から午後4時までの間にy4に赴くことができ,
その際修理等が行われたかのようにいう原判決の認定には疑問があると
いうべきであるが,アリバイが成立しないとする結論においては正当であ
る。
(4) 所論は,被告人の使用車両につき,被告人がA1殺害後BMWに乗って
現場を逃走し,その後もBMWに乗り続けていたというX1の証言は,被告
人がソアラの修理のためy4を訪れていること,BMWをJとVに依頼してK
方から引き取らせている事実と矛盾し整合性がとれていないから,その信
用性に重大な疑問が残るのに,その一部を不採用とし,被告人が午後3時
ころK方でBMWをファミリアに乗り換えたとする原判決の認定は,証拠に
基づかないものである,と主張する(控訴理由第8点)。
しかし,関係証拠によれば,被告人が当日午後7時59分と午後8時29
分の2回Jに電話をかけて依頼し,JとVがBMWをK方から引き取っている
事実は認められるものの,被告人がソアラの修理のためy4を訪れている
事実は上記(3)のとおり認め難い。被告人が当日ソアラを使用しておらず,
ファミリアとBMWの使用にとどまるとすれば,そもそも所論のように整合
性がないことにはならないから,使用車両とX1の証言とが整合性を欠くと
いう所論は採用できない。確かに,原判決は,X1に現金を渡した被告人が
K方からBMWでどこかへ走り去ったというX1証言を採用せず,BMWか
らファミリアに乗り換えた旨認定しているが,たとえ乗換えの時期に誤りが
あるとしても,被告人の犯行への関与等に影響を及ぼすことにはならな
い。
(5) 所論は,被告人がd造成地においてNに携帯電話でユンボの操作方法を
教わりながら穴を掘り,A1の死体を埋めて遺棄したことにつき,①当時d
造成地はw8の通信エリア外であって,携帯電話による通信が不可能又は
著しく困難であること,②仮にNからユンボの操作方法を教えられた事実
があったとすると,被告人がその後のA3事件でEにユンボの操作を依頼
するのは不自然であること,③携帯電話を片手に持ってユンボのレバーの
操作の教えを受けるのは非現実的であることからして,その証明は不十分
であるのに,上記事実を認定している原判決は誤りである,と主張し,被告
人は死体遺棄にも関与していないと主張する(控訴理由第7点)。
しかし,上記のとおり,関係証拠によれば,被告人が死体遺棄を自ら実
行していることを含め,所論の指摘する点につき原判決が説示するところ
は正当と認められる。そして,①の点については,サービスエリア外とされ
ていても通話可能な場所があること,通話可能かどうかは地形や電波状
態,機種の性能いかん等とも関係すること等からすると,サービスエリア外
であるというだけで通話不能ということはできず,現に通話記録によると,
丁度その時刻ころに被告人がNに5分51秒間にわたり電話をかけて通信
している事実が認められるから,所論のような疑問はない。②の点につい
ては,被告人がA3事件でEにユンボの操作を依頼したのは掘削について
であり,Nから教えられてしたことは埋戻しであり,これについては被告人
が自ら行っていること,NがA3事件当時服役中であったことなどを考慮す
ると,掘削につきEに依頼したことに何ら不自然な点があるとはいえない。
③についても,ユンボを操作しながら携帯電話を使うことが直ちに不可能と
まではいい難いのみならず,仮に操作中は通話をすることが困難であると
しても,操作を中断すれば通話内容を聞き取ることは可能であることは明
らかであるし,Nも操作しながら通話することが可能であることを認める供
述をしていることからしても,所論のように非現実的とはいえない。
したがって,所論の指摘する点は,被告人が死体遺棄行為を実行したこ
とにつき疑いを抱かせるものではないから,原判決には所論のような事実
誤認はない。
(6) 所論は,頭部の射創順位につき,X1証言は殺害状況が鑑定書と一致せ
ず,その信用性に重大な疑義があるのに,X1証言は命中部位を誤認した
内容のものとなっているから,その証言をもって鑑定書と矛盾しないという
原判決は誤りである,と主張する(控訴理由第6点)。
しかし,関係証拠によれば,原判決が①左後頭下部,②左頬部,③左前
額部の順である旨認定するところは,致命傷が③であること,各射創によ
る損傷の程度等に照らして考察する限り,最も合理的と認められるから,
現場にいて犯行に関わったX1の供述として,その順序自体につき虚偽の
供述をする理由は見出し難いというべきである。
所論は,X1はA1の殺害状況のみならず殺害の実行犯,殺害場所につ
いても自己又は第三者を庇うため適当な作り話をしている疑いが濃厚であ
る,と主張する。
しかし,被告人が犯行現場にいてX1と共にA1の殺害に関与したことは
既に認定しているとおりであり,被告人がA1の殺害を実行したというX1の
証言については,被告人がA2にけん銃を突き付けている事実及びA3殺
害の実行犯であるという事実(X2証言による被告人及びX1の車外におけ
る位置関係によっても裏付けられている。)に照らしても,これをうかがうこ
とができる。そして,A1事件は,前説示のとおり,A3事件と極めてよく似た
犯行態様のものであり,事後の行動にも一致点が多く見出される上,同一
のけん銃が使用されていることなどに照らすと,殺害時の詳細な状況につ
いてはともかく,被告人は射撃を担当する立場で犯行に加担していると見
るのが自然であることからすれば,被告人がA1に対してもけん銃を発射し
ているものと推認するのが相当である。
もっとも,X1は,殺害現場に誘い出したA1をクラウンの後部座席に招き
入れて運転席から後ろを向いて雑談を始め,被告人は車外で書類を広げ
物件を調べているように装っていたが,クラウンの後部左側に近付き,車
内で会話をしていたA1の背後から銃弾3発を発射した旨供述するところ
(その再現状況につき,実況見分調書。甲99号証),その際,A1が1発目
の射撃を受けて発した言葉や2発目の射撃を受けて発した言葉の内容
は,創作が困難な内容といえることからして,これをX1自身が間近で聞い
たことについては信用性が認められる。しかし,X1が,A1が元の妻にかけ
ようとした電話の番号を聞いた上,A1に代わってその女性に電話をかけ
てやると言い,運転席側から外に出て,その番号を押して呼び出し音が鳴
ったなどと供述するところは,殺害を共同して行う立場にある者の行為とし
てはいかにも不自然であり,X1自身の行為を矮小化している疑いがある。
また,2発目を発射した後うわごとめいた言葉を発しているのに,結果を見
届けないで立ち去る被告人に向かい,まだ生きていると告げて,立ち去り
つつある被告人を呼び戻そうとしたところ,被告人からお前やるかと言わ
れたが,X1がこれを断ったために,被告人が車に戻っていき3発目を発射
して殺害したというX1の供述の内容も,やはり不自然という感を免れな
い。しかも,X1の証言によれば,X1自身は当初は運転席にいたというの
であり,X1自身にも弾丸が当たりかねない危険な位置関係から発砲され
ていることにもなりかねない点においても,いささか不自然に思われる。し
たがって,殺害状況に関するX1の証言は,そのままには信用することはで
きないというべきである。
この点については他に目撃者等の証拠のない部分であるところ,X1が
殺害に関する自己の関与を小さくするために事実と異なる供述をした可能
性を否定し難く,X1がA1の注意を引き付けていただけであるかのように
述べる部分については十分な信用性を認め難いというべきである。X1は,
A1の携帯電話を取り上げるにとどまらず,A3事件と同様,A1殺害の際に
抵抗できないような力を加えるなどの加担行為に及んでいる可能性があ
り,また,2発の発射によっても死亡するに至らなかったことから途中で射
撃を交替している可能性も完全には否定しきれない。しかし,被告人とX1
とが犯行を共同実行するに至った経緯や,その後のA2,A3事件における
被告人の役割からすると,自衛隊経験者である被告人が射撃役として加
わっていると見るのが自然である。
ただ,射撃をした者がいずれであるかは,本件の犯行全体から見る限
り,それほど重要な問題ではないといえるのであって,少なくとも被告人及
びX1が共謀の上現場においてA1をけん銃により殺害している事実には
変わりがないばかりか,仮にX1がけん銃の発射行為に加わっているとし
ても,被告人は強盗殺人の実行行為を現場において共同して行っているこ
とに変わりはないから,被告人のA1に対する強盗殺人の犯情をほとんど
左右しないというべきである。
結局,X1証言の信用性は,A1事件におけるX1の現場加功の態様の
点においては十分とはいえないが,被告人が現場で共同して犯行を実行
していることについては,前示のとおり明らかであり,所論指摘の点をもっ
て被告人の犯人性が左右されることになるものではない。
そうすると,被告人がA1事件の犯人であることにつき合理的な疑いはな
く,原判決に所論のような事実誤認は認められない。
6 けん銃に関する所論について
関係証拠によれば,L2は平成5年10月6日ころ恐喝未遂事件で警察に出
頭する際,o市s区内のガソリンスタンドにおいて,被告人に対し,コルト社製
38口径回転弾倉式けん銃1丁及び実包4発をL3に渡すよう依頼して,上記
けん銃等をトランクに積んだ自動車を引き渡したこと,被告人は同日夕方ころ
の電話でL3から上記けん銃等を自己の手元に置くことの了承を得たこと,被
告人は同年11月ころNに対し上記けん銃等を預け,更にNは平成6年2月上
旬ころL4に対し上記けん銃等を預けたが,同年3月中旬ころ喫茶w1で被告
人に返還したこと,被告人は同年8月ころL3を通じて38口径用の弾を調達し
ようとしていたことなどの事実が認められる(その詳細は原判決補足説明第1
の1(1)のとおりである。)。これらの事実を総合すると,本件各犯行当時被告
人が上記けん銃等を保管所持していたことが推認できる。
もっとも,保管事実のみから直ちにそれが本件の各犯行に使用されたこと
になるものではなく,あくまでも本件で使用された可能性があることを示すも
のにどまるというべきであるが,本件当時被告人がけん銃を保管している事
実があれば,本件で使用された弾丸と適合するところから,被告人保管の上
記けん銃が犯行に使用された可能性が高いことが認められることになる。こ
の点は,被告人の犯人性を更に一層高めるものとして重要な情況事実となる
とともに,X1の供述の信用性を補強するものといえる。
なお,原判示のとおり,本件各強盗殺人の凶器として使用された38口径
のけん銃は,結局発見されていないところ,被告人が所持していたけん銃は
同一の口径のものであって,出頭前,捜索逃れのために衣装ケースの中に
所持していたけん銃を入れている蓋然性が高いこと(なお,仮にそうでないと
すれば,被告人が所持するけん銃の所在が不明になる。)に照らすと,被告
人の所持するけん銃が本件各犯行に使用された蓋然性は高いというべきで
あるが,上記けん銃以外の38口径のけん銃が使用されたという可能性も完
全に否定し去ることはできない。しかし,凶器である38口径のけん銃の種類
や,誰がこれを所持していたかなどの点は,被告人の犯人性を左右するよう
な決定的な重要性を有するものとはいえないのであって,仮に本件各犯行の
いずれかに上記けん銃とは別のけん銃が使用されているとしても,被告人の
犯人性が左右されることにはならないのみならず,その犯情に特に大きな差
異をもたらすものとも認め難い(仮に,この点に関するX1の証言に虚偽が含
まれているとしても,虚偽の供述のされやすいけん銃の保管関係に関するも
のであることからすれば,その全体的な信用性を左右するものではない。)。
以下所論に即して検討する。
(1) 所論は,被告人がL2からけん銃を預かった旨のL2及びL3の捜査段階
での供述につき,L2はZ刑事から関係者の調書を示して否認させないよう
誘導する不当な取調べを受け,L3も当時証人威迫罪で逮捕されていたた
め警察官の誘導に乗って虚偽の供述をしているという点において,信用性
を疑うべき事情があるのに,これらに信用性を認め,被告人のけん銃所持
を認定している原判決は証拠の評価を誤っている,と主張する(控訴理由
第2点)。
しかし,L2(甲66号証)及びL3(甲75号証)の検察官調書は,具体的
かつ詳細である上,相互に符合する内容であって,両名と被告人との親し
い関係に照らし被告人に不利益な事実を殊更に作り上げているような事情
はうかがわれず,高度の信用性を有するものといえる。L2やL3が所論の
ような理由で虚偽供述をしたという疑いは認められない。また,両名が原
審公判で証言を拒否したりあいまいな供述をしたりしているのは,被告人
や自己に不利な供述をすることをはばかる気持ちによるものといえるか
ら,所論のように捜査段階における供述より公判廷での証言の方がはる
かに信用性が高いことを示すものとはいえない。
そうすると,L2及びL3の捜査段階における供述につき証拠評価を誤っ
ているという所論は採用できない。
(2) 所論は,被告人が所持していたとされるけん銃,弾,ケースに関するL
2,N,L4,X1ら関係者の供述の不一致はあまりにも大きく,その証拠価
値はないに等しいのに,被告人がL2から預かったけん銃をNに預けてい
た旨認定している原判決は証拠の評価を誤っている,と主張する(控訴理
由第3点)。
しかし,被告人が所持していた上記けん銃の特徴に関するL2,Nらの証
言は,回転弾倉式,38口径,コルト社製,黒色,馬の絵のマークという点
でほぼ合致しているから,十分に信用することができる。
さらに,所論は,①上記けん銃を7年間所持していたL2は「ダイヤモンド
バック」と特定する(当審弁14号証)のに対し,けん銃に興味のあるNは
「コブラ」と特定し,けん銃の種類が一致していない,②上記けん銃のケー
スは,風呂敷包みのようなものというL4の証言は布製巾着袋というNの証
言と大きく食い違い,ビニール製巾着袋というMの証言はL2,Nの証言と
も異なる,③弾の色も,NとX1の証言は明白に食い違っている,と指摘す
る。しかし,①「ダイヤモンドバック」も「コブラ」もコルト社製,38口径,回転
弾倉式のけん銃であることに変わりがなく,両者の形状もむしろ類似して
いるものといえる。この点についてはL5の供述を含め,おおむね供述が一
致している。②入れ物については,A1事件前の段階では,各供述の内容
は赤色系統で袋状のものという形状等の点で大筋において一致していると
いえる(この点については,原判決補足説明第1の2(3)のとおりである。)。
なお,後になると,けん銃のケースは被告人が当初預かった時点における
物と異なる物になっているが,ケースを途中で取り替えることも十分にあり
得ることというべきであるから,直ちに同一性に疑問を生じさせる理由とは
ならない。③弾についても,全部又は一部が金色であったという限りでは,
証言が一致している。したがって,いずれも所論のように重大な違いがあ
るとはいえない。なお,A2事件で使用されたけん銃につき,A2は,回転式
のものであるが銃身の部分が長いものであると供述しているが,A2はけ
ん銃に詳しい者とはいえないから印象にとどまるというべきであって,犯行
に使用された物が被告人の所持していた物と同一の型のものであるとして
も矛盾するものとまではいえない。
(3) 所論は,被告人が出頭前Wに託した衣装ケース内にけん銃やアルマーニ
製ジャンパーを隠し入れたという事実につき,これはX1及びL5の作り話で
あって,被告人の荷造り作業の状況には全く触れずに,Vの証言のみに依
拠してけん銃を含む重要証拠の隠匿まで推認する原判決の認定は行き過
ぎであり,しかも,けん銃の処分に関し変遷を重ねているL5の供述は明ら
かに信用性がない上,X1の証言とL5の証言とは大きく食い違うのに,両
名の証言をほとんど無条件に信用できると判断している原判決は証拠の
評価を著しく誤っている,と主張する(控訴理由第4点)。
しかし,関係証拠によれば,L1の逮捕後,被告人にも警察への出頭要
請があることが当然に予期されるという緊迫した状況の下において,被告
人が慌ただしく衣装ケース内に重要な証拠として押収されるおそれのある
物品等を隠匿していることが明らかであって,けん銃だけを他に預ける余
裕に乏しいといえることからすると,けん銃も一緒に入れた蓋然性は高い
と認められる(なお,L3は,被告人から出頭前の電話で「L2から預かった
ものはちゃんとしてある。」と聞いていることが認められる。)。所論は,被告
人の荷造り作業の際に事情を知らない女性事務員のWが傍らにいたので
あれば,けん銃がケース等に入っていたとはいえ,同人が当然これに気付
くはずである,というが,ケースに入っている以上けん銃であることにはむ
しろ気付かないというべきであるから,所論のようにはいえない。なお,ア
ルマーニのジャンパーを被告人が当時使用していたことは,Yの供述によ
り裏付けられているのみならず,X1は,A2事件及びA3事件の犯行時に
被告人がこれを着用していたと供述するが,A2及びX2の供述によっても
被告人の着衣につき類似性がうかがわれる。
L5が,預かった衣装ケースの中にあったというけん銃の処分につき供
述を変遷させていることは,所論指摘のとおりであって,L5がけん銃を廃
棄したり第三者に譲渡又は預託したか否かは,結局不明というほかない。
さらに,X1及びL5の証言は,所論指摘のような不一致があるとはいえ,大
筋において合致している以上,十分に信用できるというべきである。したが
って,X1及びL5のけん銃保管に関する証言の基本的部分に信用性を認
めている原判決の判断に誤りはない。
 そうすると,けん銃に関しても,原判決につき判決に影響を及ぼすべき事実
誤認があるとはいえない。
7 その余の所論について
(1) 所論は,死刑相当の重大犯罪であるにもかかわらず,その成否の判断
に不可欠な事実である犯行動機の説明がないのに等しい原判決は死刑
判決として具備されるべき十分な理由を付していない,と主張する(控訴理
由第21点)。
しかし,関係証拠によれば,被告人は,当時手掛けていた墓地事業がう
まく進展しないことから,経済的に良好な状態でなかった上,協力者がい
たとはいえ,平成6年8月開店のw9や同年12月開店のw10のために事
業資金を必要とする時期でもあったことが認められる。しかも,被告人が取
得した現金を借金の返済等に充てている事実も認められる(翌日被告人
の姉の借金返済のための振込送金が行われている。)。そうすると,原判
決は,被告人の自白等がないこともあって,「量刑の理由」においては,詳
細な認定を避け「私利私欲のため」と説示しているにすぎないものと解され
るのみならず,被告人に本件各犯行の動機は十分に認められるから,原
判決には理由不備の違法がないのはもとより事実誤認の違法もないとい
うべきである。
(2) 所論は,凶悪なA1事件及びA3事件の犯人像,すなわち人の頭部を至
近距離から何のためらいもなく銃撃するという冷酷,残忍,非情な犯人と,
被告人の人間性,すなわち明朗,温厚な性格,人のためにとことん尽くす
優しい人柄との間には乗り越え難いものがあるのに,この点につき原判決
は判断を示しておらず,ひいては犯人性の認定を誤っている,と主張する
(控訴理由第22点)。
しかし,温厚で優しい性格面があるからといって,直ちに冷酷非情な犯
行を犯すことがないといえないことは経験的事実であるから,そのような性
格の一面を理由として犯人像と異なるとする立論に飛躍があることは多言
を要しないのであって,所論は前提を欠くというほかはない。
8 結論
以上のとおりであって,その他所論指摘の点につき原審記録及び証拠物
をつぶさに検討しても,上記各事件の認定事実につき合理的な疑いをいれる
余地はないとした原判決に誤りはなく,当審における事実取調べの結果を加
えても,この結論は左右されない。結局,事実誤認の論旨は理由がない。
第3 量刑に関する職権判断
事案にかんがみ,被告人を死刑に処した原判決の量刑の当否につき,職
権をもって判断を加える。
原判決が,A1事件及びA3事件における強盗殺人の罪質の悪質重大性,
確定的殺意に基づきけん銃で頭部を射撃したという殺害の手段・方法は冷酷
かつ残虐であって,犯行の態様は巧妙かつ計画的であること,被害者2名の
生命を奪った犯行の結果は甚だ重大であって,本件のごとき被害を被るいわ
れのない両名の無念さは勿論のこと,各遺族の処罰感情も峻烈であること,
死体を地中に埋めて遺棄し,罪証隠滅を図った犯行後の行状も極めて悪い
こと,短期間に連続して敢行された本件の社会的影響も大きいこと等の事情
を認定しているのは,証拠に照らし正当と認められる。
ところで,本件は,借金の返済等を迫られているX1が被告人にけん銃を
用いた強盗殺人による大金取得をもちかけ,共同して犯したものである。襲
撃の相手の選択,襲撃計画,被害者のおびき出しや,実行の最終判断(A2
事件では,当初の計画がX1の判断で変更されているといえることにも,この
点が現れていると考えられる。)などは,X1(X2を含めX1の側)が主体的に
担当していることからすると,犯行の実行計画等については,むしろX1が主
導的な立場で行動していたものということができる。また,X1は,各犯行に当
たっては,利得の分配につき,A1事件において銀行から払い戻した1000万
円の分配状況からも明らかなように平等な分配にあずかることを予定してお
り,これを意図していたものと認められ,また,役割分担を決めるに当たり,X
1には,奪った通帳による預金の払戻し等発覚の危険性につながりかねない
行為は自らは担当しないという用心深さもうかがわれる。しかし,被告人は,
けん銃を使用した殺害行為の実行を担当していること,死体の処理等につい
ても主導的であること,犯行による利益の確保につき被告人が積極的に行動
して有利な地位を占め,X1に比べて多額の利得を得ており,A1事件,A3事
件では,殺害の犯行後は,X1の意向や死体処理の不安にも構わず,主導的
に行動していること(特に,A3事件では,X2がA3宅で財物を物色するとの
当初の計画を現場で変更して,自らこれを行うことにし,貸金庫内の金品取
得のための行為についても死体遺棄等の予定を遅らせ優先させている。)が
認められる。したがって,本件各犯行を全体として見れば,被告人とX1とは
ほぼ対等の立場で行動していたことが認められるが,結果として実質的には
被告人の方がより重要な役割を果たしているというべきである。
このように,本件においては,けん銃を用いた強盗殺人事件を2件も犯し,
2人の貴重な生命を奪い,その犯情も上記のとおり悪質かつ重大であり,こ
れらの犯行において被告人の果たした役割等もX1のそれと比較して重大で
あること,被告人は暴力団関係者らとの交際もあるなど日常の生活態度にも
問題があること,被告人は終始不合理な弁解を続けていて責任逃れに終始
するその供述内容に照らし反省の情に乏しいといえること(これに対し,X1
は,死体の埋められている場所を明らかにし詳細な自白をして事案の真相解
明に協力し,反省の情を明らかにしている点において,被告人と情状を異に
しているといえる。)などの点にかんがみると,被告人の刑事責任は極めて重
大である。原判決の認定する被告人の経歴,前科関係等被告人に有利な事
情を十分に斟酌しても,その罪責は誠に重大であって,罪刑の均衡及び一般
予防の見地からも極刑をもって臨むほかないというべきである。したがって,
被告人を死刑に処した原判決の量刑は正当として是認することができる。
第4 結 論
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用
は,同法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文
のとおり判決する。
   平成16年3月22日
      名古屋高等裁判所刑事第1部
裁判長裁判官  小   出   錞   一
裁判官  久   保       豊
裁判官  手   﨑   政   人

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