弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主   文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が,控訴人に対し,平成14年12月3日付けでした「交通機動
隊運用要領」を公開しないとの決定を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の概要,争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,当審における
主張を2及び3のとおり補足するほか,原判決「第2 事案の概要」欄のと
おりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の補足主張
(1)ア 本件運用要領の制定が本件条例の施行の日前であるとしても,これ
(の写し)が,日々新たに配属される交通機動隊員の閲覧に供され,あ
るいは,交付され,継続的に適用される準則として本件請求時において
も通用しているのであるから,大分県警察本部の職員が組織的に常時用
いるものとして,被控訴人が管理しているものである。
イ これを,本件条例の施行の日前に作成された一体の文書であるとし
て,作成日付けである平成13年3月8日作成の公文書として把握する
ことは,一般人の観念からしても認められない。
ウ したがって,本件運用要領は,現在,本件条例2条2項本文に定める
「職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が管理している」公
文書に該当することは明らかというべきであり,本件条例附則2項によ
り本件条例の適用外とする考えは,明らかに本件条例の解釈適用を誤っ
ており,違法である。
(2) 交通機動隊員と本件運用要領(写し)
 ア 交通機動隊員は不変ではないから,少なくとも,本件条例の施行日
(平成13年4月1日)以降,新たに赴任してきた同隊員がいるはずで
ある。
 イ そして,交通機動隊長は,日々新たに配属される同隊員各位に対し,
配属の都度,本件運用要領を複写したもの(以下「本件運用要領(写
し)」という。)を交付しているはずである(交付の際,本件公文書の
表題部(以下「本件表題部」という。)(の写し)も付いているか否か
は分からないが,これは重要ではない。)。
ウ 同隊員は,大分県警察本部職員として,交通機動隊の職務執行に当た
って,本件運用要領(写し)を,いわば「準則」として,常に利用可能
な状態において用いている。
(3) 公文書の概念
 本件条例2条2項本文は,公文書を次のとおり定義している(以下,同
本文に定める公文書を,カギ括弧を付けて「公文書」という。)。
ア 実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書等であること(以
下「要件【ア】」という。)
イ 当該実施機関の職員が組織的に用いるもの(以下「要件【イ】」とい
う。)
ウ 当該実施機関が管理しているもの(以下「要件【ウ】」という。)
(4) 本件運用要領(写し)の「公文書」該当性
 ア 交通機動隊員は,大分県警察本部の職員であり,本件運用要領(写
し)は,
(ア) 同隊員が同隊長から「取得」した文書であるから((2)イ参照),
要件【ア】を充足しているし,
(イ) 本件運用要領(写し)を作成する「複写」行為は,要件【ア】の
「作成」に含まれる。
 イ (2)の事実に照らすと,交付を受けた本件運用要領(写し)を,
(ア) 同隊員が組織的に用いるものであることは明らかであるから,要
件【イ】を充足しており,
(イ) 公的に保管しているものであって,個人的な文書として保有して
いるのではないから,要件【ウ】を充足している。
ウ 本件運用要領(写し)は,正式文書と重複する「公文書」の写しに該
当するから,
(ア) これを個人資料であって「公文書」には該当しないとの被控訴人
の主張は誤りである。
(イ) というのは,個人資料とは,研究資料や備忘録等,正式文書の内
容を個人的に記憶なり,確認なりするための写し等をいう(甲4の9
頁中の3(1)参照)からである。
(5) まとめ
したがって,
ア 本件条例施行後に,交通機動隊に配属された職員に,交付されている
本件運用要領(写し)は「公文書」に該当するから,
イ 被控訴人は,本件運用要領を開示すべきである。
3 2に対する被控訴人の認否・反論
(1)ア (1)アの主張事実は認める。
 イ (1)イ及びウの主張は争う。本件運用要領は,本件表題部に記載され
たとおり,添付文書であり,本件表題部と一体となった平成13年3月
8日付けの公文書として把握されるべきである。
(2) (3)の主張事実は認める。
(3) (4)及び(5)の主張は争う。
ア 本件運用要領は,
(ア) 交通機動隊長が,隊員各位に対して,事務処理の手順,要領等に
ついて指示するために,平成13年3月8日に作成されたものである
が,
(イ) 本件表題部で,従前の交通機動隊運用要領を廃止し,新たに制定
した旨を明示している。
イ 本件表題部と本件運用要領からなる本件公文書は,
(ア) 一個の公文書(組織共用文書)であるが,
(イ) 警察本部長を実施機関とする改正部分が施行された日(平成14
年7月1日)前の同13年3月8日に作成されているから,
(ウ) 本件条例附則2項の規定に基づき,本件条例の適用対象外であ
る。
ウ 交通機動隊長が,上記施行日以後に同隊に配属された職員に,本件運
用要領(写し)を交付しているとしても,同(写し)は,
(ア) 当該職員がその職務において個人的に利用することを目的として
取得したもので,
(イ) 当該職員個人において編集,保管され,また,当該職員個人にお
いて自由に廃棄等の処分ができるから,
(ウ) それは,正式文書と重複する「公文書」の写し等であって(甲4
の9頁中の3(1)①参照),「公文書」には該当しない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実
 当事者間に争いない事実と,双方の主張によれば,次のとおりである。
(1) 本件請求に係る文書は,
ア 平成13年3月8日付け作成の本件表題部に明記された添付文書とし
ての,同日付け作成の本件運用要領を指し,
イ その実質は,本件条例附則2項の規定に基づく本件条例の適用対象外
になるかどうかを一応捨象して考えれば,「公文書(組織共用文書)」
に該当する。
(2)ア 本件条例の施行日は同年4月1日であり,
 イ 特に,本件条例2条1項中,警察本部長に関する部分(警察本部長を
「実施機関」とする部分)の施行日は,同年7月1日である。
(3) したがって,本件表題部及び本件運用要領とも,その作成日は,いず
れも(2)の施行日前である。
〔本件条例附則1項(乙2,5)〕
(4) 本件運用要領は,交通機動隊長が,同隊員各位に対して,事務処理の
手順,要領等について指示するために作成されたものであるから,同隊長
は,(2)イの施行日以後に同隊に配属された新たな職員に対し,本件運用
要領の内容を周知徹底させるため,それを複写した本件運用要領(写し)
を交付することになる。
2 控訴人の第2の2(1)の主張について
 (1) 同主張は,本件運用要領の制定(作成日)が本件条例の施行の日前で
あるとしても,
ア 本件運用要領(又はその写し)が,日々新たに配属される交通機動隊
員の閲覧に供され,あるいは,交付され,
イ その内容は,本件請求時においても通用しているのであるから,
ウ 閲覧に供され,あるいは,交付された時期を問わないで,作成日付け
である平成13年3月8日作成の公文書として一律に把握することは,
一般人の観念からしても認められない,
エ 閲覧に供され,あるいは,交付された時期において作成された公文書
に等しい
という趣旨であろうと解される。
(2) しかし,(1)の考えは,いかにも文理に反する,独自の主張であって,
採用できない。
3 控訴人の第2の2(2)ないし(4)の主張について
 (1) 前記認定事実及び被控訴人の主張によれば,本件条例施行日以後に,
交通機動隊に配属された新たな職員は,同隊長から,本件運用要領(写
し)の交付を受けているものと推認される。
 (2) そこで,本件運用要領(写し)が「公文書」に該当するか否かについ
て検討するに,本件条例について,大分県がしている解説(甲4の9頁中
の3(1)①参照)によれば,次のとおりであるが,当裁判所もこの見解は
相当と解する。
  ア 実施機関の職員が,その職務において個人的に利用することを目的と
して取得したもので,かつ,第三者から見て公文書と完全に分別されて
いる状態で,個人において保管し,自由に廃棄等の処分ができる,いわ
ば個人資料は,「公文書」に該当しないものであり,
 イ 具体的には,専ら職員個人が自己の職務の遂行の便宜のためにのみ利
用することを目的として作成し又は取得した文書が,アの個人資料に該
当し,
 ウ イを更に例示すれば,個人的な事務の流れ図や取扱いマニュアル,自
己研鑽のための研究資料,備忘録,正式文書と重複する公文書の写し等
がこれに当たるものと解される。
 (3) 問題の所在
ア (2)アないしウの点は,控訴人も承認しているものと思われる。
  イ そこで,問題は,本件運用要領(写し)が,(2)ウにいう「正式文書
と重複する公文書の写し」に該当するか否かである。
(4) 検討
  ア ところで,本件運用要領(写し)は,
(ア) 「正式文書たる本件運用要領」
(イ) 「と重複する」
(ウ) 「公文書たる」
(エ) 「本件運用要領」
(オ) 「の写し」
そのものである。
  イ そうとすれば,
(ア) 本件運用要領(写し)は,
(イ) (2)ウにいう「正式文書と重複する公文書の写し」に該当するとい
うべきである。
ウ 控訴人は,本件運用要領(写し)は,日々新たに配属される交通機動
隊員に,組織として正式に認識,徹底させるために,配属の都度交付さ
れるものであるから,それ自体,すなわち同(写し)が正式な公文書で
あるから,「正式文書と重複する公文書の写し」には該当しないと主張
するが,採用できず,イの結論は動かない。その理由は,次のとおりで
ある。
(ア) 形式的(文理的)に考えれば,アのとおりである。
(イ) 実質的に考えても,
a 控訴人主張のように解すれば,本件条例附則2項の規定に基づ
き,本件条例の適用対象外の公文書であっても(したがって,施行
日以後であれば「公文書」に該当するようになったはずの公文書で
あっても),現に,その写しを,仕事上多数の職員が(これが「組
織的」といえるかどうかも問題であるが,一応この点はおく。),
本件条例施行日以後に利用さえしていれば,すべて「公文書」に該
当する(「公文書」に転化する。)ということを承認することにつ
ながるが,これは,上記2項の規定が,本件条例の適用対象外を規
定した趣旨を没却させることになる。
b 行政機関において,実施機関が作成した正式文書,すなわちその
原本そのものを日常的に使用することは,実務的には皆無に等し
い。
c 実務的には,原本は別途大切に保管し,日常的に,組織的又は個
人的に使うのは,その写しである。
d 上司から,仕事の資料として交付された重要文書の写しを,隊員
が個人的に廃棄したからといって,公用文書毀棄罪(刑法258条
参照)に問える可能性があるということは,いかにもおかしい。
(ウ) 換言すれば,
a 原本作成の時点では,本件条例の施行の日前であった関係で,
「公文書」ではなかった文書(適用除外文書であった。)が,
b 写しを作成した段階で,その写しそのものがすべて「公文書」と
なる(適用除外が外れる。)
という控訴人の立論は,特段の規定ないし事情がない限り,肯認し難
いところ,本件では,そのような規定も事情も見当たらない。
(エ) 控訴人は,現在も通用しているいわば準則的な文書は,公開され
るべきであるという考えのもとに,本件請求をしているようである
(控訴人の平成16年1月7日付け準備書面4頁中のハ参照)。その
気持ちは理解できないわけではない。しかし,本件条例3条の規定の
趣旨にかんがみても,上記考えは,条例の解釈の域を超えるものとし
て,採用できない。
エ そうとすれば,その余の点について判断するまでもなく,
(ア) 本件請求は理由がないから,
(イ) 本件処分は適法であり,
(ウ) (イ)と同旨の原判決は,結論において相当である。
 4 結論
 よって,
(1) 本件控訴は理由がないので,これを棄却し,
(2) 控訴費用は,控訴人に負担させることとして,
主文のとおり判決する。
     福岡高等裁判所第1民事部
          裁判長裁判官  簑   田   孝   行
             裁判官  駒   谷   孝   雄
             裁判官  藤   本   久   俊 

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