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裁判例


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平成16年(行コ)第176号 特許料納付書却下処分取消請求控訴事件(原審・
東京地方裁判所平成15年(行ウ)第514号)(平成16年7月7日口頭弁論終
結)
          判    決
       控訴人        A
       訴訟代理人弁護士   菊 池   秀
       被控訴人       特許庁長官 小 川   洋
       指定代理人      千 葉 俊 之 
       同          菊地原 正 彦
       同          小 林   進
       同          佐 藤 一 行
          主    文
      本件控訴を棄却する。
      控訴費用は控訴人の負担とする。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 特許番号2618268号の特許権に係る第5年分特許料納付書に関し,被
控訴人がした平成14年4月1日付けの却下処分を取り消す。
第2 事案の概要
   控訴人は,特許番号2618268号の特許権(以下「本件特許権」とい
う。)の第5年分の特許料(以下「第5年分特許料」という。)及び割増特許料
(以下,併せて「本件特許料等」という。)の追納期限の経過後である平成13年
12月12日に,追納期限を徒過したことにつき特許法(以下「法」という。)1
12条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」が存在するとして,
本件特許料等の納付書(以下「本件納付書」という。)を被控訴人に対し提出した
ところ,被控訴人は,平成14年4月1日付けで,本件納付書について,手続を却
下する旨の却下処分(以下「本件却下処分」という。)をした。
   本件は,控訴人が,本件却下処分の取消しを求めた事案であり,原判決は,
控訴人が追納期限までに本件特許料等の納付をしなかったことにつき法112条の
2第1項の「その責めに帰することができない理由」は存在しないから,本件却下
処分に違法はないとして,控訴人の請求を棄却し,これに対し,控訴がされたもの
である。
   本件において,争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,
次のとおり当審における当事者の主張を付加,補充するほかは,原判決「事実及び
理由」欄の第2「事案の概要」の「1 争いのない事実等」,「2 争点」及び
「3 当事者の主張」に記載のとおりである(ただし,上記引用箇所中,「特許査
定の日」とあるのをいずれも「特許付与日」に改め,原判決4頁5行目の「平成1
3年3月11日」を「平成13年12月5日」に,同5頁16行目の「法112条
2項」を「法121条2項」にそれぞれ訂正する。)から,これを引用する(な
お,以下において,「パトラフィー」は,スウェーデン王国ストックホルム所在の
パトラフィー・エービーを,「CPA」は,英国チャネルアイランズ,ジャージー
島所在のコンピュータ・パテント・アンニュイティーズ・リミテッド・パートナー
シップを指す。)。
 1 控訴人の主張
 (1) 法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」には,
「当事者が相当な注意を払ってもなお納付期限を徒過したような場合」が含まれる
と解すべきである。この解釈は,同条項の文言に反するものではなく,特許料の不
納のために失効した特許権の回復に関する規定の創設を欧米諸国から要請されたこ
とに応えて,法の国際的調和を図るために,平成6年の法改正において同条項が新
設されたという経緯を考慮すると,むしろ,同条項の趣旨に沿った解釈である。
    米国では,相当程度慎重な人間が払うであろう適切な注意が払われていれ
ば,遅延した維持年金の納付が認められる扱いとなっている。欧州特許庁において
も,「状況によって必要とされる相当な注意をしたにもかかわらず,欧州特許庁に
対し期間を遵守することができなかった」場合には「請求により,自らの権利を回
復することができる」(欧州特許条約122条(1))とする一般規定が,特許料
の追納に関しても適用され,代理人が適切なチェックシステムを設け,再確認の態
勢をとっていたような場合には,相当の注意を払ったものとして扱われ,本件にお
ける日付入力のような単純入力を担当する事務補助者については,適任な者を選任
して合理的な監督をしてさえいれば,その者に職業代理人と同等の厳格な注意水準
は要求されず,その補助者にミスがあったとしても権利の回復を認める扱いとなっ
ている。したがって,我が国の法112条の2第1項の「その責めに帰することが
できない理由」の解釈としても,同条項が欧米諸国からの要請により特許料不納に
より失効した特許権の回復措置について国際的調和を図るために設けられたという
経緯を最大限斟酌し,欧米諸国の扱いと均衡のとれた解釈を採用し,「当事者が相
当な注意を払ってもなお納付期限を徒過したような場合」も含むものとして解釈す
べきである。
 (2) 原判決は,パトラフィーの担当者から本件特許料等の納付事務を依頼され
たCPAの担当者が,本件特許権に関するデータ入力をデータ入力担当者に任せた
ままにし,特許付与日が正確に入力されたかどうかを確認しなかったことに重大な
過失があるとする。しかし,この点に関する原判決の判断は,以下に述べるとおり
誤りである。
   ア CPAでは,パトラフィーの担当者からの2001年(平成13年)9
    月5日付け電子メール(以下「本件依頼メール」という。)による本件特
許料等の納付依頼を受けて,顧客の依頼を受け付ける部門からデータ入力担当者に
対し,本件特許権に関するデータをCPAのコンピュータに入力する指示が出され
た。データ入力担当者は,指示に従って,本件特許権に関するデータをCPAのコ
ンピュータに入力したが,その際,パトラフィーから送られてきた本件依頼メール
の特許付与日の記載が「1997-03-11」となっていたのを日・月の順で日
付を表記する英国式表記であると誤解し,真の特許付与日は登録日である1997
年(平成9年)3月11日であるのに,誤って同年11月3日と特許付与日を入力
してしまった。その結果,コンピュータ上で本件特許料等の第5年分納付期限が2
001年(平成13年)11月3日と管理され,本件特許料等を追納期限の同年9
月11日までに納付することができなかった。
   イ CPAでは,データの誤入力の可能性を考え,データ入力担当者とは別
に,経験を積んだチェック担当スタッフが入力されたデータの点検を行うこととな
っていた。具体的には,最初の入力担当者が特許権に関するデータをコンピュータ
に入力すると,コンピュータが当該入力担当者の入力したデータの一覧(セッショ
ン)を作成し,印刷する。セッションには,国,知的財産権の種類,特許番号,ク
ライアント(代理人)名のほかに,データ入力担当者が入力した特許付与日からコ
ンピュータが計算した特許料納付日が表示される。チェック担当者は,セッション
のデータと依頼者から送られてきた依頼内容のデータとを照らし合わせて,誤入力
がないかどうかを確認するよう義務付けられており,実際,本件においても,CP
Aのインストラクションチームのテクニカルアドバイザーが,以上のマニュアルに
従って,データ入力担当者の入力したデータのチェックを行った。また,CPAの
マニュアルによれば,データ入力者自身も,入力した特許付与日からコンピュータ
が計算した特許料納付日や有効期限を,依頼者が送ってきた特許料納付日や有効期
限のデータと対比して自己チェックするように求められていた。
     さらに,日付の入力に関し,CPAでは,スタッフに対して,日付の表
記方式に日付を日・月の順で記載する英国式と月・日の順で記載する米国式とがあ
るので両者を混同しないよう注意を促す十分な教育を行っており,コンピュータ入
力画面上でも,使用中の日付表記が英国式と米国式のいずれであるかを表示してデ
ータ入力者に注意を喚起するシステムとなっていた。
     本件は,適切な管理・監督態勢,チェック態勢を採用していたにもかか
わらず,代理人の補助者の偶発的ミスによって特許権が失効した事例である。
   ウ 以上のように,CPAでは,英国式と米国式の日付表記について混同が
生じないよう,十分なスタッフ教育を行い,データ入力担当者が入力したデータを
別の経験を積んだスタッフが二重にチェックする態勢を整えていたにもかかわら
ず,本件では,二重チェックを入力ミスがすり抜けてしまい,追納期限までに本件
特許料等を納付することができなかったものである。CPAとしては,特許料納付
を代行するものとして,合理的に必要と考えられるあらゆる措置を講じていたので
あり,したがって,この点で,CPA(その担当者)に重大な過失があるとした原
判決には,重大な事実誤認がある。本件のような事故は,大量の特許権の管理を行
う以上,どんなに注意を用いてもごくわずかの割合で不可避的に発生するものであ
り,その防止のためにチェックの人数を増やしたりすることは経済的合理性を欠く
もので,不合理に高い注意レベルを要求するものである。
(3) 以上のとおりであるから,本件においては,控訴人が法定の追納期限まで
に本件特許料等を納付しなかったことにつき,「その責めに帰することができない
理由」があったというべきである。
2 被控訴人の主張
 (1) 法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」につい
ての原判決の解釈に誤りはない。「料金の不納により効力を失った特許権の回復」
について,我が国は,国内の他の制度との整合性を図りつつ法112条の2第1項
を設けたものであるから,その解釈において国内法との整合性を採ることは当然の
ことである。同条項を他国の立法例と同様に解釈しなければならない理由は存在し
ない。
 (2) 控訴人は,CPAでは日付の入力について二重三重のチェックをしてお
り,必要と考えられるあらゆる措置を講じていたにもかかわらずミスが生じたと主
張するが,入力ミスについてだれ一人として疑問を抱かなかったのは,チェック態
勢が機能していなかったことの証左である。パトラフィーから送信された「大至急
の支払依頼に関する件」と題する本件依頼メールに記載された日付を英国式表記と
理解すると,特許付与日,特許料納付日,倍額による納付日の各対応関係が極めて
不合理なものとなるから,日付表記に疑義があることは容易に判断できることであ
る。本件特許料等の納付期限の徒過は,パトラフィーからの本件依頼メールには上
記のとおり緊急の支払依頼であることが表示され,慎重な対応をすべき特許料の支
払事務であることが明白であったにもかかわらず,CPAの担当者が依頼文書の内
容と入力したデータとの照合を怠り,コンピュータを過度に信頼したために生じた
ものであることが明らかである。CPAの担当者には,基本的注意義務についての
重大な違反があり,相当な注意を払っていたとはおよそ評価し得ないから,「その
責めに帰することができない理由」はなく,このような過失は,原判決の判示のと
おり,控訴人の過失と同視すべきものである。
 したがって,原判決には,控訴人の主張するような解釈の誤りも,事実誤
認も存在しない。
第3 当裁判所の判断
 1 法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由」の意義に
ついて
   法112条の2第1項の「その責めに帰することができない理由によ
り・・・納付することができなかったとき」とは,天災地変のような客観的な理由
又は通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお避けることのできな
かった原因により納付をすることができなかった場合を意味するものと解するのが
相当である。
   この点について,控訴人は,法112条の2が特許料の不納のために失効し
た特許権の回復に関する規定の創設を欧米諸国から要請されたことに応えて平成6
年の法改正で新たに設けられたという経緯を考慮すると,同条1項にいう「その責
めに帰することができない理由」は,欧米諸国の例にならって,「当事者が相当な
注意を払ってもなお納付期限を徒過したような場合」も含むものとして解釈すべき
であると主張する。
   確かに,法112条の2が上記のとおり新設された背景には,「特許法等の
改正に関する答申」(平成6年9月,工業所有権審議会,乙12)にも述べられて
いるように,パリ条約5条の2第2項では,「同盟国は,料金の不納により効力を
失った特許の回復について定めることができる」と規定され,特許料の不納により
失効した特許権の回復を認める制度を設けることが国内外から要望されていたとい
う事情や,特許制度の国際的調和を図るという意図が働いていたということができ
る。しかし,そのような事情の下に,特許料の不納により失効した特許権の回復を
認めるための要件を規定するものとして採用された「その責めに帰することができ
ない理由により・・・納付することができなかった場合」との文言は,その文理
上,「相当な注意を払っても・・・納付することができなかった場合」とは明らか
に一線を画するものである。また,他の規定(例えば,法121条2項,民訴法9
7条1項)において用いられている同様の文言「その責めに帰することができない
理由(事由)」については,過失がある場合を含まないとする厳格な解釈が採られ
ている。これらのことからすれば,法112条の2が新設された経緯等を考慮に入
れても,同条1項の「その責めに帰することができない理由」が,控訴人の主張す
るような広い解釈を許容するものとして規定されたと解することはできず,控訴人
の主張する解釈を採用することは到底できないというべきである。控訴人は,諸外
国における立法例や運用について種々主張するが,特許料の不納により失効した特
許権の回復が諸外国においてどのような要件の下に認められているかは,同要件に
ついて定めた我が国の法規である法112条の2第1項の解釈を左右するものでは
ない。
 2 「その責めに帰することができない理由」の存否について
 (1) 以上の解釈を前提として,控訴人に「その責めに帰することができない理
由」があったかどうかについて検討すると,本件特許料等がその追納期限である平
成13年9月11日までに納付されなかった経緯は,以下のとおりである(証拠を
掲げたもの以外は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認められる事実
である。)。
ア 本件特許権の第5年分特許料の納付期限は平成13年3月11日であ
り,法112条1項,2項に基づく追納期限は同年9月11日である。控訴人は,
本件特許料等の納付に関する事務を,特許事務を行っているスウェーデン王国のパ
トラフィーに依頼することとし,同年8月23日,パトラフィーの担当者に対し,
ファックスにより,本件特許料等の納付を依頼し,特許料等の納付に必要な金額を
送金した。
   イ パトラフィーの担当者は,同年9月5日付けの本件依頼メール(乙1
0)により,特許事務を専門としている英国のCPAに対し,本件特許料等の納付
を依頼した。本件依頼メールは,「大至急の支払依頼に関する件」(Urgent
PaymentOrder)と題し,「本件は,あなたの記録にはない案件です。現地代理人に
問題があるので,以下についてあなたに依頼したいと思います。下記についてでき
る限り早期に特許料の納付をして下さい。我々は,受領書と共に請求書が送られて
くるのを待っています。この手続を行うことができるかどうかについて,できる限
り早期に知らせて下さい。」と依頼の趣旨を述べ,納付を依頼する特許権につい
て,「国:日本」,「特許番号:2618268」,「年度:5」,「期限:20
01-03-11(倍額による場合:2001-09-11)」,「申請者:
A」,「国際出願日:1988-06-03」,「特許付与日:1997-03-
11」と表示したものであった。この依頼を受けて,CPAの担当者は,平成13
年9月5日付けの電子メールにより,パトラフィーの担当者に対し,上記依頼を了
解した旨伝え,CPAのコンピュータに本件特許権に関するデータを入力した(以
上甲6,13,14,乙8~11)。
   ウ 本件依頼メールには,上記のとおり,本件特許権の特許付与日が「19
97-03-11」と表示されていたところ,データを入力した担当者は,これを
英国式表記(日・月の順に表記する方式)によるものと理解し,コンピュータに特
許付与日を「1997年11月3日」と入力した。コンピュータは,特許付与日が
入力されると,その日付に基づいて特許料の納付期限を計算し,表示するようにプ
ログラムされているため,特許付与日が1997年11月3日と入力されたことに
より,コンピュータにおいては,第5年分特許料の納付期限が2001年(平成1
3年)11月3日として誤って管理されることになった(甲13,14)。CPA
では,入力担当者が入力したデータは,データ一覧(セッション)として印刷さ
れ,これをチェック担当者がチェックすることになっていたが,チェックを行った
担当者は,上記データ一覧に本件特許権の第5年分特許料の納付日として表示され
た「2001年11月3日」が誤りであることに気付かなかった(甲13,1
4)。
   エ 以上の経緯により,コンピュータ上で本件特許権の第5年分特許料の納
付期限が「2001年11月3日」となっていたため,CPAの担当者は,本件特
許料等の追納期限である平成13年9月11日までに本件特許料等を納付しなかっ
た。
 (2) 我が国においては,特許権を存続させるためには,所定の納付期限内に特
許料を納付することが求められ,納付がされない場合には当該特許権は消滅する制
度(法107条,108条,112条)が採用されている。このような制度の下に
おいて,特許料の納付期限及び追納期限を確認することは,特許権を維持,管理す
るに当たって,最も基本的かつ重要な事項であるといわなければならない。
    本件特許料等の納付手続に係る事務を依頼されたCPAは,特許料の納付
等の事務の遂行を専門とする事務所であり(そのホームページ〔甲10〕によれ
ば,全世界3万の顧客について,特許,意匠及び商標の更新を管理する世界最大の
知的財産権関連サービスの提供者であり,我が国にも代理人事務所を置いてい
る。),また,我が国における特許料の納付についての事務を受任したのであるか
ら,その事務を遂行する上で,基本的な事項を十分に把握,確認して過誤が生じな
いような措置を採るべき注意義務があった。特に,特許料等の納付の管理に不可欠
な日付に関しては,その表記法に「月・日」の順で表記する米国式と「日・月」の
順で表記する英国式とがあり,両者を混同すれば,特許権に関する手続において法
定の期限を遵守できないことによる重大な結果を招来するのであるから,依頼され
た納付事務の遂行に当たっては,依頼文書に表示された特許付与日,特許料等の納
付日等がいずれの表記方式で記載されたものであるかを慎重に確認し,過誤が生じ
ないよう十分な注意を払うことが要請されていたというべきである。
    ところが,上記(1)の認定事実に照らすと,CPAのデータ入力担当者が本
件依頼メールに記載された特許付与日である「1997-03-11」を英国式の
日付表記によるものと誤解し,特許付与日を1997年11月3日とコンピュータ
に入力したため,コンピュータ上で第5年分特許料の納付期限が2001年11月
3日とされ,追納期限までに本件特許料等の納付がされなかったものである。
 (3) 控訴人は,上記のような入力ミスによる誤りは,合理的に必要と考えられ
るあらゆる措置を講じていてもごくわずかの割合で不可避的に発生する事故という
べきものであるから,CPAがその事務の遂行について相当の注意を欠いていたと
はいえないと主張する。
    しかしながら,パトラフィー担当者からCPAに送信された本件依頼メー
ルは,「大至急の支払依頼に関する件」(UrgentPaymentOrder)と題して急ぎの
依頼であることを明らかにしていたのであるから,これを処理するに当たり,納付
期限がいつであるかを確認し,期限に遅れることのないようにすることは,特許料
等の納付に関する事務を行うことを専門とする者が依頼事務を処理する上で,最も
基本的かつ重要な事項であったということができる。そして,本件依頼メールに
は,特許付与日だけでなく,「期限:2001-03-11(倍額による場合:2
001-09-11)」という納付期限及び倍額による追納期限も記載されていた
のであるから,依頼の緊急性を念頭に置き,通常の注意を払っていれば,それらの
日付表記が「日・月」の順による英国式表記ではなく米国式表記であることに当然
気付くか,少なくとも記載された日付に合理的な疑問を抱くべきものであった。な
ぜならば,2001年(平成13年)9月5日に「大至急」のものとして依頼され
た特許料納付の期限が約2か月先の同年11月9日であるというのは常識的にみて
不可解であり,しかも,本件依頼メールに記載された日付を英国式表記と理解する
と,特許料の納付日が11月3日,倍額による特許料の納付日がその6日後の11
月9日ということになり,その対応関係が極めて不自然なものとなるからである。
それにもかかわらず,CPAの入力担当者もチェックを担当した者も日付に関して
疑問を抱かず,依頼された本件特許料等の納付期限をパトラフィーの担当者に確認
することもしなかった。
    上記の事情からすると,CPAのデータ入力担当者は,データ入力に際し
て,依頼書に記載された日付が英国式表記であるか米国式表記であるかにつき十分
な注意を払うことを怠り,また,チェック担当者は,コンピュータに入力されたデ
ータを単に機械的にチェックするにとどまり,納付期限の遵守という観点から依頼
に係る納付の期限を本件依頼メールと照合して確認することを怠ったといわざるを
得ない。さらに,CPAにおける管理体制も,本件におけるような日付の入力ミス
による納付期限の徒過という過誤を防止するのに十分なものではなかったことは明
らかである。
 (4) そうすると,本件特許料等の納付について依頼を受けてその事務を遂行し
たCPAには,特許料納付の事務を遂行するに際して要求される基本的な注意義務
を尽くさず,本件特許料等を法定の期限までに納付することについて,相当の注意
を払わなかった過失があるというべきである。そして,パトラフィーを介して控訴
人から本件特許料等の納付に関する事務を依頼されて同事務を処理したCPAの担
当者の過失は,控訴人の過失と同視すべきものであるから,法定の追納期間内に本
件特許料等を追納しなかったことにつき,控訴人に法112条の2第1項の「その
責めに帰することができない理由」があったということはできない。控訴人は,控
訴人及びその依頼を受けたパトラフィは,本件特許料等が法定の追納期限までに納
付されるように万全の注意を払っており,パトラフィーから納付事務の遂行につき
依頼を受けたCPAに過失があったとしても,これを控訴人の過失と同視すること
ができない旨主張するが,独自の見解にすぎず,採用することができない。
 3 結論
   以上のとおり,法定の追納期間内に本件特許料等の追納をしなかったことに
つき,控訴人に「その責めに帰することができない理由」が存在しないことを理由
としてされた本件却下処分に控訴人の主張する違法はないから,その取消を求める
控訴人の請求は失当として棄却すべきものである。
   よって,以上と同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,
棄却することとし,主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所知的財産第2部
      裁判長裁判官    篠  原  勝  美
  裁判官    古  城  春  実
 
  裁判官    岡  本     岳

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