弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人赤木暁、同松岡浩の上告理由について。
 原判決の確定するところによれば、本件約束手形は、上告人が訴外D精錬株式会
社(以下Dと略称)に宛てて振り出したものであるところ、これをDは訴外株式会
社E合金所(以下Eと略称)に、Eは更に訴外株式会社F銀行に順次裏書譲渡し、
その後Eが右銀行から裏書譲渡を受けこれを被上告人に裏書譲渡して、現に被上告
人がその所持人であるという。
 ところで、原審における上告人の主張としては、Eは本件手形振出の原因関係た
る債権債務の消滅を知る悪意の手形取得者であるから、Eから隠れた取立委任裏書
によって本件手形を取得した被上告人に対して、上告人は右抗弁事由をもつて手形
金の支払を拒みうるし、かりに被上告人が通常の裏書譲渡によつて本件手形を取得
したものとしても、被上告人自身右抗弁事由を知つて取得しているのであるから、
右同様に手形金の支払を拒絶できるというにあつたが、原判決は、振出人たる上告
人がその主張の右抗弁事由をもつて所持人たる被上告人に対抗して手形金の支払を
拒絶できるためには、所持人およびその前者のすべてがいずれもその事由を知つて
取得したことを主張立証しなければならない(所持人が隠れた取立委任裏書を受け
たものであれば所持人についてはその必要がない。)のであつて、そのうち一人で
も善意者があれば、同人に対しては勿論、同人から裏書譲渡によつてその権利を承
継取得した後者に対しても、たといそれが悪意の取得者であつたとしても、振出人
はその者に右抗弁事由を主張して手形金の支払を拒絶できない筋合であるところ、
本件にあつては、前示F銀行が善意者と推認されるから、上告人主張の抗弁事実の
存否およびEの被上告人に対する裏書譲渡が隠れた取立委任としてなされたもので
あると否とを問わず、善意の右銀行から裏書譲渡を受けて同銀行の有する手形上の
権利をそのまま承継取得したEに対しても、また同会社から更に裏書譲渡を受けた
被上告人に対しても、上告人主張の抗弁事由は対抗できない旨判示して、最高裁判
所昭和三五年(オ)第二三号同三七年五月一日第三小法廷判決(民集一六巻五号一
〇一三頁)を参照として掲げている。
 しかし、本件にあつては、善意の取得者たる前示銀行から裏書譲渡を受けたEは、
もともと右銀行に対し本件手形を裏書譲渡したものであり、更に同銀行より戻裏書
を受けた関係にあるから、事実関係が原判決参照の前記判例の場合と異るものとい
わねばならない。手形の振出人が手形所持人に対して直接対抗し得べき事由を有す
る以上、その所持人が該手形を善意の第三者に裏書譲渡した後、戻裏書により再び
所持人となつた場合といえども、その手形取得者は、その裏書譲渡以前にすでに振
出人から抗弁の対抗を受ける地位にあつたのであるから、当該手形がその後善意者
を経て戻裏書により受け戻されたからといつて、手形上の権利行使について、自己
の裏書譲渡前の法律的地位よりも有利な地位を取得すると解しなければならない理
はない。それ故、本件にあつては、振出人たる上告人は、戻裏書により再び所持人
となつたEに抗弁事由を対抗できるものといわねばならず、Eから被上告人に対す
る裏書譲渡が隠れた取立委任によるものであるとすれば被上告人に対してもこれを
対抗しうることになるわけである。(当裁判所昭和三六年(オ)第一二七〇号同三
九年一〇月一六日第二小法廷判決参照)。
 してみれば、原判決の右の点に関する判断は誤つているといわねばならず、その
誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであり、この点を指摘する論旨は理由がある。
 よつて、原判決は破棄を免れないところ、本件は更に審理を尽すべき点があるか
ら、原審に差し戻すのを相当とし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致を
もつて、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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