弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人ら
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人らは,控訴人らに対し,それぞれ朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,
産経新聞,日本経済新聞,北国新聞,北陸中日新聞,人民日報(中華人民共
和国北京市a号,中国青年報(同国石家庄市b号)の各朝刊の全国版下段)
広告欄に二段抜きで,別紙2(謝罪広告(案)記載の謝罪広告を,見出し)
及び被控訴人らの名は4号活字をもって,その他は5号活字をもって1回掲
載せよ。
(3)被控訴人らは,控訴人らに対し,連帯して,別紙3(請求額等一覧表)の
請求額欄記載の各金員及びこれらに対する同別紙損害金起算日欄記載の各日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)なお,訴訟承継前原告A1及び同A2は,原審において,被控訴人らに対
し,それぞれ前記(2)と同趣旨の謝罪広告の掲載請求及び1100万円の損
害賠償請求をしたが,同原告らはいずれも原審口頭弁論終結前に死亡したた
め,控訴人番号4−①ないし⑦の控訴人ら及び同5−①ないし⑦の控訴人ら
は,共同相続人として訴訟手続を承継し,当審において,前記(2)及び(3)の
とおり請求の趣旨を訂正した。
2被控訴人国
主文同旨。
3被控訴人会社
主文同旨。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,第二次世界大戦中に中国大陸から日本国内へ連行され,石川県七尾
市(以下,単に「七尾」ということがある)所在の被控訴人会社(当時の商。
号はY)で港湾荷役作業等の労働に従事した者ないしその遺族であって,現在
中華人民共和国に居住する控訴人らが,被控訴人らの強制連行,強制労働によ
り精神的苦痛等を被ったとして,被控訴人両名に対し,(1)国際法違反,(2)
中華民国民法の不法行為,(3)日本民法の不法行為,(4)債務不履行(安全配
慮義務違反)に基づき,さらに,被控訴人国に対し,強制労働を課した企業に
対し何らの刑事制裁措置(強制労働条約25条)も取らなかった不作為の義務
違反があるとして,(5)国家賠償法(以下「国賠法」という)1条1項に基。
づき,それぞれ日本及び中華人民共和国の新聞紙上への謝罪広告掲載並びに損
害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)及びこれに対する訴状送達日の翌日から支
払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた訴訟の控訴審である。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人
らが本件控訴を提起した。
2前提事実
次のとおり付加,補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2章の第
2及び第3に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下,引用に
係る原判決中「原告X1「原告X2「原告X3」はそれぞれ「控訴人X,」,」,
1「控訴人X2「控訴人X3」と「原告A1「原告A2」はそれぞれ」,」,,」,
「A1「A2」と読み替えるものとする。」,
(原判決の補正)
(1)原判決3頁26行目「廬溝橋事件」を「盧(蘆)溝橋事件」と改める。
(2)原判決5頁1行目「北支那開発会社」を「北支那開発株式会社」と改める。
(3)原判決6頁6行目「北支労働事情視察団を」の前に「企画院の主催で」を
加える。
(4)原判決6頁10行目「1420名」の前に「中国人労働者」を加える。
(5)原判決6頁26行目「港湾運送業統制方針要綱」の前に「同じく昭和16
年9月」を加える。,
(6)原判決7頁2行目「設立する方針がとられた」を「設立し,原則として。
一港一社として,水上小運送,船内荷役及び港湾作業元請の各分野の企業を
合同させ作業能率の向上を図る一方,各企業を統括する統制団体を設立する
方針とされた」と改める。。
(7)原判決8頁3行目から10行目まで(第2章の第2の3)を削る。
(8)原判決8頁11行目の前に,次のとおり加える。
「3控訴人らなどに関する事実
本件中国人労働者らのうち,控訴人X1(控訴人番号1,同X2(控訴)
人番号2,同X3(控訴人番号3)及びA3は,中国から昭和19年11)
月16日あるいは同月17日に七尾へ到着し,A1(訴訟承継前原告)及び
A2(訴訟承継前原告)は中国から神戸(同年10月ころ到着)を経由して
昭和20年4月27日ころ七尾へ到着し,それぞれ,被控訴人会社で労働に
従事した。
昭和20年8月15日の終戦後数日経って,本格移入に係る中国人労働者
の被控訴人会社における稼働は停止したが,本件中国人労働者らのうち,A
3は,同年9月11日,七尾で死亡した。控訴人X1,同X2,同X3,A
1及びA2は,同年11月24日七尾を離れ,その後中国へ集団帰国した。
(以上につき,甲3の3,甲29,194ないし198,丙3)
その後,A1は平成19年8月8日死亡し,A2は同年11月4日死亡し
た(弁論の全趣旨」)。
(9)原判決12頁26行目の次に,改行の上,次のとおり加える。
「7ジュネーヴ第四条約
次のような条項がある。
(1)7条
締約国は,第十一条,第十四条,第十五条,第十七条,第三十六条,
第百八条,第百九条,第百三十二条,第百三十三条及び第百四十九条に
明文で規定する協定の外,別個に規定を設けることを適当と認めるすべ
ての事項について,他の特別協定を締結することができる。いかなる特
別協定も,この条約で定める被保護者の地位に不利な影響を及ぼし,又
はこの条約で被保護者に与える権利を制限するものであつてはならない。
被保護者は,この条約の適用を受ける間は,前記の協定の利益を引き
続き享有する。但し,それらの協定に反対の明文規定がある場合又は紛
争当事国の一方若しくは他方が被保護者について一層有利な措置を執つ
た場合は,この限りでない。
(2)147条
前条にいう重大な違反行為とは,この条約が保護する人又は物に対し
て行われる次の行為,すなわち,殺人,拷問若しくは非人道的待遇(生
物学的実験を含む,身体若しくは健康に対して故意に重い苦痛を与。)
え,若しくは重大な傷害を加えること,被保護者を不法に追放し,移送
し,若しくは拘禁すること,被保護者を強制して敵国の軍隊で服務させ
ること,この条約に定める公正な正式の裁判を受ける権利を奪うこと,
人質にすること又は軍事上の必要によつて正当化されない不法且つし意

的な財産の広はんな破壊若しくは徴発を行うことをいう。
..
(3)148条
締約国は,前条に掲げる違反行為に関し,自国が負うべき責任を免か
れ,又は他の締約国をしてその国が負うべき責任から免かれさせてはな
らない。
8条約法条約
次のような規定がある。
(1)35条(第三国の義務について規定している条約)
いずれの第三国も,条約の当事国が条約のいずれかの規定により当該
第三国に義務を課することを意図しており,かつ,当該第三国が書面に
より当該義務を明示的に受け入れる場合には,当該規定に係る当該義務
を負う。
(2)53条(一般国際法の強行規範に抵触する条約)
締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は,無効である。こ
の条約の適用上,一般国際法の強行規範とは,いかなる逸脱も許されな
い規範として,また,後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規
範によつてのみ変更することのできる規範として,国により構成されて
いる国際社会全体が受け入れ,かつ,認める規範をいう。
(3)64条(一般国際法の新たな強行規範の成立)
一般国際法の新たな強行規範が成立した場合には,当該強行規範に抵
触する既存の条約は,効力を失い,終了する」。
3争点
(1)強制連行,強制労働の事実(争点①)
(2)国際法違反に基づく請求につき
国際法ないし国際慣習法による責任の成否(争点②)
(3)中華民国民法に基づく請求につき
中華民国民法の適用の有無(法例11条1項とこれを前提とする中華民国
民法の適用の有無,日本法の累積適用規定による制限の有無(争点③))
(4)日本民法の不法行為に基づく請求につき
ア国家無答責の法理(控訴人らと被控訴人国との間につき(争点④))
イ被控訴人らの共同不法行為の成否(争点⑤)
ウ除斥期間の抗弁及び除斥期間の適用制限等(争点⑥)
(5)債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく請求につき
ア被控訴人らと本件中国人労働者らとの間における,安全配慮義務を生ず
べき特別の社会的接触関係の有無(争点⑦)
イ安全配慮義務違反の有無(争点⑧)
ウ消滅時効の抗弁及び時効援用権の濫用(争点⑨)
(6)被控訴人国に対する国賠法に基づく請求につき
強制労働を課した企業に対し強制労働条約25条に定める刑事制裁措置を
取らなかった被控訴人国の不作為の義務違反の有無(争点⑩)
(7)上記(2)ないし(6)の各請求に共通の抗弁
日華平和条約・日中共同声明等による請求権の放棄(争点⑪)
(8)損害等
ア控訴人らの損害額(争点⑫)
イ謝罪広告掲載請求の当否(争点⑬)
4争点に関する当事者の主張(別紙4,別紙5)
当審において控訴人ら及び被控訴人らがそれぞれ追加補充した主張を別紙5
(当審における当事者の主張)のとおり付加するほかは,別紙4(当事者の主
張)のとおりである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所の判断の骨子
当裁判所は,次のとおり,控訴人らの請求をいずれも棄却すべきであると判
断する。その理由は,次項以下に判示するとおりである。
①被控訴人らによる強制連行及び強制労働の事実を認めることができる。
②国際法ないし国際慣習法に基づく請求は認めることができない。
③中華民国民法に基づく請求は認めることができない。
④被控訴人国が積極的施策として中国人労働者の強制連行,強制労働を計画,
実行し,被控訴人会社が七尾への連行に関与し被控訴人会社における過酷な
労働に従事させたことは,被控訴人らの共同不法行為を構成するものという
べきであり,国家無答責の法理を理由に被控訴人国の責任を否定することは
相当ではない。
⑤被控訴人国と本件中国人労働者らとの間に安全配慮義務を生ずべき特別の
社会的接触関係を肯定することはできず,被控訴人国に対する債務不履行
(安全配慮義務違反)に基づく請求は認められない。被控訴人会社につき,
本件中国人労働者らを劣悪な環境の下で過酷な労働に従事させたことは,債
務不履行(安全配慮義務違反)に該当する。
⑥被控訴人国が強制労働を課した企業に対し強制労働条約25条に定める刑
事制裁措置を取らなかったことを理由とする国賠法1条1項に基づく請求は
認めることができない。
⑦被控訴人らの不法行為ないし被控訴人会社の債務不履行(安全配慮義務違
反)を理由とする控訴人らの請求権は,いずれも,日中共同声明によって裁
判上訴求する権能を失ったというべきであり,上記各請求権に基づく控訴人
らの請求はいずれも棄却を免れない。
⑧謝罪広告の掲載請求についても,日中共同声明によって裁判上訴求する権
能を失ったというべきであり,いずれも棄却を免れない。
2争点①(強制連行,強制労働の事実)について
(1)本件に関連する主な事実経緯
強制連行・強制労働に関する事実(中国人労働者の日本への移入の経緯,
中国人労働者の被控訴人会社への配置と同会社での労働状況及び送還事情,
本件中国人労働者らの個別的事情等,日本の第二次世界大戦後の処理に関)
する事実,本件提訴に至る経緯等本件に関連する主な事実経緯については,
次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第4章の
第1(135頁13行目から174頁4行目まで)に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(原判決の補正)
ア原判決136頁16行目から21行目までを次のとおり改める。
「(ウ)厚生省,軍需省,運輸通信省
中国人労働者の労務の割当て及び管理は,軍需省(同省所轄の事業所
につき)及び運輸通信省(港湾など同省所轄の事業所につき)と協議の
下に厚生省が当たる。また,中国人労働者の輸送に関する配車斡旋等は
運輸通信省が行う」。
イ原判決136頁22行目の「(オ)」を「(エ)」と改める。
ウ原判決136頁24行目の括弧内に「甲3の3,甲30,92」を加え
る。
エ原判決137頁4行目から5行目にかけての「北支那開発会社」を「北
支那開発株式会社」と改める。
オ原判決137頁26行目「設立されており」を「港湾運送業等統制令に
より設立された全国的な中央統制団体であり」と改める。
カ原判決138頁8行目「就任した」を「就任し,後に同人が日本倉庫。
業会会長にも就任することになった」と改める。。
キ原判決138頁18行目から139頁1行目までを次のとおり改める。
「港湾における中国人労働者の移入及び管理については,昭和19年
4月1日付け運輸通信省通牒海運港第1542号「華人労務者ノ取扱
方ニ関スル件」をもって港運業会に委任すべき旨の運輸通信省の命令
があったことから,港運業会が,移入及び管理の主体となって直接管
理の下に中国人労働者を港運業会会員に使用させることとした。そし
て,港運業会は「港湾荷役華工管理要領(管理要領,甲95)及び」
「華工使用ニ関スル指示要綱(指示要綱,甲96)を策定し,これ」
らに従って中国人労働者の管理に当たることとした。上記管理要領で
は,労務の需給状況及び中国人労働者の受入態勢の適否を考慮の上,
),主務官庁の承認を得て中国人労働者の配置港を決定すること(1項
中国人労働者を配置する港には,港運業会が華工管理事務所を設置し,
中国人労働者の管理に関する事務を処理させること(5項,中国人)
労働者の管理に必要な施設は港運業会の指導の下に事業主が設置する
が,港運業会がその施設使用料の全部又は一部を支払うものとするこ
と(6項)などが規定されていた。
こうして,港運業会は,運輸通信省の指示・指導の下,大東亜省そ
の他関係官庁,船舶運営会,北京・上海両大使館等の絶大な後援を得
て中国人労働者を確保することとなった」。
ク原判決139頁8行目末尾に次のとおり加える。
「同事務所は,被控訴人会社の使用権限に属する倉庫を改造して宿舎,
事務所等全般的な受入施設としたものであり,管理要領によれば,当該
施設の設置は事業主が行うが,その使用料の全部又は一部を港運業会が
支払うこととされていた」。
ケ原判決140頁2行目「華北労工協会等の現地機関が」を「華北労工協
会が他の現地機関との連携の下に」と改める。
コ原判決140頁9行目から10行目までにかけての「就労期間,賃金,
食糧事情などの労働条件に関する定めもされていた」を「契約期間を原。
則として2年とすること,賃金は中国において通常支払われるべき額を標
準として定められるべきこと,食事は中国食を給することなどが定められ
ていた」と改める。。
サ原判決140頁14行目から16行目にかけての「契約期間に加え,使
用者が中国人労働者を使用する「使用条件」として休日,賃金,就業時間,
住居などの労働・生活条件が」を「契約期間を1年とすることに加え,使
用者が中国人労働者を使用する「使用条件」として,賃金の最低保証額,
四大節のほか中国における休日を公休日とすること,就業時間は国内の例
によること,住居の設置につき朝鮮人労働者の住居と接続させないことな
どの基本方針が」と改める。
シ原判決140頁17行目「北支労働事情視察団が」の前に「同年12,
月」を加える。,
ス原判決140頁19行目「1(4)のとおり」を「1(4)イのとおり」と改
める。
セ原判決140頁21行目の括弧内に「甲6,78,171」を加える。
ソ原判決140頁26行目末尾に「なお,本件次官会議決定の内容は,(
資料によって若干のばらつきがあり,正確なものを確定することは証拠上
困難である」を加える。。)
タ原判決141頁1行目から15行目までを次のとおり改める。
「(ア)中国人労働者の供出又はその斡旋は,中国の日本大使館,日本軍
及び国民政府(華北の場合は華北政務委員会)の指導の下,現地の労務
統制機関(華北の場合は華北労工協会)が行う。
(イ)中国人労働者は,訓練された元俘虜又は元帰順兵のほか募集による
者とする。
(ウ)中国人労働者を国民動員計画産業中,鉱業,荷役業,国防土木建築
業及び重要工業その他必要と認めるものに従事させる。
(エ)中国人労働者の契約期間を原則として2年間とする。
(オ)中国人労働者の移入については,毎年度の国民動員計画に計上して,
計画的移入を図る。
(カ)中国人労働者を使用する事業場は関係庁と協議の上,厚生省が選定
する。移入に関する細目手続は別途定める。
(キ)中国人労働者の管理については,次のような点に留意し,中国人労
働者の慣習に急激な変化を来さないようにする。
a現地から同行した日系指導員を中国人労働者の直接責任者とし,
連絡や世話に当たらせる。また,できる限り供出時の編成を利用し,
作業に関する命令は日系指導員及び中国系責任者を通じて発するこ
ととし,中国人労働者に対する直接の命令は厳に慎む。
b就労地到着後は十分な休養を与えた上で就労させる。
c住居は湿気予防に留意し朝鮮人労働者住宅と近接させない。
d食事は中国人労働者の通常食を支給するものとし,食糧の手当に
ついては農商省が特別の措置を講ずる。
e賃金は国内の賃金を標準に支給する。
f就労時間は国内の例による。
g四大節のほか中国における休日を公休日とする。
(ク)中国人労働者の移入及び送還に必要な経費は原則として事業場の負
担とするが,さしあたり必要であれば国家補償等適当な方法を講じる。
(ケ)中国人労働者の輸送は日満支関係機関において手配する。
(甲3の1,3の3,甲6)
イ華人労務者内地移入手続
また,本件次官会議決定とともに定められた「華人労務者内地移入手
続」には,次のような事項が含まれていた(甲3の3)。
(ア)厚生省が中国人労働者の事業場への割当てを決定した場合,大東亜
省に通報するとともに,事業場別割当表を内務省に送付すること。そ
の通報を受けた大東亜省が中国人労働者の引継輸送月日等を決定して
厚生省に通報し,厚生省から関係庁府県を通じてこれを事業主に通報
すること。
(イ)厚生省は中国人労働者の引継,輸送,到着後の措置に遺憾なきよう
期するとともに,引率責任者を選定して大東亜省に通報すること。
(ウ)中国人労働者が就業地に到着したときは,その中国人労働者数,到
着年月日,輸送途中の概況等を,事業主から各地の国民職業指導所,
庁府県を通じて厚生省に報告すること。
(エ)中国人労働者の異動,災害,紛擾その他事件が発生したときは,事
業主から警察署及び国民職業指導所を経て庁府県を通じ厚生省,内務
省及び大東亜省に報告すること。
(オ)事業主は,毎月末現在の中国人労働者の勤労状況を国民職業指導所
を経由して庁府県に報告し,庁府県はこれをとりまとめて厚生省及び
大東亜省に報告すること。
(カ)中国人労働者の移動(就業場所の変更等)については原則として認
めないが,やむを得ない場合は厚生省の稟議を経て認めることができ
るものとすること。
(キ)労務の終了により帰国者が確定したときは,帰国者名簿及び帰国予
定年月日等を事業主から国民職業指導所及び警察署を経由し庁府県を
通じて厚生省,内務省及び大東亜省に報告すること。また,事業主に
おいて引率責任者を付し,来日の場合に準じて帰国させるとともに,
国民職業指導所及び警察署を経由し現地機関引渡完了の概況を報告さ
せること。
ウ国民動員計画への計上」
チ原判決141頁22行目から25行目までを次のとおり改める。
「中国人労働者の供出は,その実情に応じ,次の(ア)ないし(ウ)のとお
り,行政供出,訓練生供出,特別供出,自由募集の4形態をとったが,供
出総数3万8935人(試験移入を含む)の供出形態及び供出機関別の。
内訳は次のとおりであり,華北労工協会扱いによる行政供出及び訓練生供
出が全体の約9割を占め,その中心となっていた。
(供出地域(供出機関)(供出形態)(人員数))
華北華北労工協会行政供出24,050(61.8%)
同上訓練生供出10,667(27.4%)
朌華北運輸股公司特別供出1,061(2.7%)
華中日華労務協会自由募集1,455(3.7%)
国民政府特別供出682(1.8%)
満州福昌華工株式会社特別供出1,020(2.6%)
合計38,935(100.0%)
(甲3の1,甲30」)
ツ原判決141頁26行目,143頁21行目,144頁1行目,同頁3
行目,同頁7行目,148頁6行目,150頁11行目,152頁8行目,
157頁11行目,同頁12行目,同頁13行目から14行目にかけての
各「本件被害者ら」をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める。
テ原判決142頁5行目から6行目にかけての括弧内に「甲30」を加え
る。
ト原判決142頁10行目から11行目までを「華北労工協会は,昭和1
9年3月,対日供出指示注意事項(対日供出に関する指示注意事項)「」
を作成し,訓練生供出の手順や中国人労働者の管理等について次の事項そ
の他細かに定めていた」と改める。。
ナ原判決143頁15行目「行政供出の実態は」の前に次のとおり加える。
「本格移入後の華北における中国人労働者の供出,斡旋は華北労工協会
が中心となってこれに当たったが,本件次官会議決定で掲げられていた元
俘虜,元帰順兵等からの供出は極めて少なく,本格移入に着手した昭和1
9年二,三月ころ,既に,労働者の確保が困難であることは明らかであり,
中国人労働者を強制的に供出するしかない状況であった。そして」,
ニ原判決144頁13行目から22行目までを次のとおり改める。
「華北労工協会からの中国人労働者を日本に移入し就労させるに際し,
主に鉱業や土木建築業の分野では,個別の事業主ごとに華北労工協会との
間で契約書を交わす例が多く(ただし,個別事業主ではなく鉱山統制会な
どの中央統制団体が契約主体となった例もないではなかった,その使。)
用条件については華北労工協会が作成した対日供出実施細目に従うことと
されていた。これらの事業分野における華北労工協会と事業主との契約書
及び対日供出実施細目の内容はおおむね以下のとおりであり,ほぼ共通し
ている」。
ヌ原判決146頁3行目を「就労時間は日本人の一般労働者と同様とす
る。公休日は,四大節は日本人の一般労働者に順じ,そのほか中国におけ
る休日につき公休日を設ける」と改める。。
ネ原判決146頁13行目から17行目までを次のとおり改める。
「中国人労働者の指導のため,中国人労働者おおむね500名に対し
日系駐在所長1名,中国系駐在員1名を付すこととし,その経費は事
業主が華北労工協会に予納する。駐在員は華北労工協会の所属とする
(なお,鉱業分野では,併せて事業主又はその監督官庁の嘱託とする
場合もあった」。)。
ノ原判決146頁25行目と26行目の間に次のとおり加える。
「ところで,港湾荷役業の分野における中国人労働者の移入等につき,
華北労工協会との間の契約書や対日供出実施細目の具体的内容は明らかで
はない(原資料は現存していないものと思われる)が,中央統制団体で。
ある港運業会が華北労工協会との間で契約を締結し,後記のとおり移入し
た中国人労働者を各事業主たる港湾運送業者へ配置する形をとっていた。
そして,港運業会の指示要綱や被控訴人会社との本件使用契約書によれば,
例えば七尾では,事業主たる被控訴人会社が直接中国人労働者に賃金を支
払うのではなく,被控訴人会社が七尾華工管理事務所に賃金相当額を払い,
直接中国人労働者に賃金を払う場合は七尾華工管理事務所がこれを行うこ
ととするなど,華北労工協会の対日供出実施細目の内容とは若干異なる特
徴を有していた(甲29,30,92,94ないし96,丙3」。)
ハ原判決147頁2行目「を発出し」から3行目「定められた」まで,。
を「厚生省発勤第103号・内務省発警第6号)を発出し,次官会議を(
もって「華人労務者内地移入ニ関スル方針」及び「華人労務者内地移入要
綱」を決定し本格移入を実施することになった旨伝えた」と改める。。
ヒ原判決147頁11行目「港湾運送業界においては」を「港湾運送業,
界においても,昭和18年,同19年ころには,他の重要工場へ労働力が
移されるなどして必要な労働力を安定的に確保することが困難な状況に
なっていたことに加え,特に日本海沿岸地方では,海上輸送経路の変更に
伴い荷役が増加し,労働力不足は極めて逼迫していた。被控訴人会社にお
いてもその状況は同様であって,日本人や朝鮮の労働者のみでは到底労働
力不足をまかなうことができず,加えて,日本,満州,中国の共存共栄の
将来性にも資するものとして,中国人労働者の移入を求めることとなった。
こうして」と改める。,
フ原判決147頁20行目の括弧内に「甲30,173,174,丙3」
を加える。
ヘ原判決148頁1行目の「港運業会は」の次に「昭和19年8月」,,
を加える。
ホ原判決148頁4行目「華北交通」の次に「1939年4月に設立さ(
れた華北の交通運輸会社」を加える。)
マ原判決148頁26行目「指示要綱」の前に「管理要領及び」を加える。
ミ原判決149頁1行目「甲29添付の契約書」を削り,同頁2行目()
末尾に「本件使用契約書による」を加える。()
ム原判決150頁3行目から6行目までを次のとおり改める。
「(ウ)被控訴人会社における中国人労働者の就労の構造
以上のような本件使用契約及び指示要綱のほか管理要領の定めに従い,
被控訴人会社は本件使用契約書を港運業会に差し入れ,港運業会が指示
する中国人労働者の賃金相当額を支払う場合は被控訴人会社が七尾華工
管理事務所に支払い,直接中国人労働者に支払うのは原則として七尾華
工管理事務所が行うものとされていた。また,労務に関しては,作業の
当日,七尾華工管理事務所の門前で同事務所から被控訴人会社が中国人
労働者の引渡しを受け,労務終了後は同じく七尾華工管理事務所の門前
で被控訴人会社から同事務所へ引き渡し,就労中は被控訴人会社がその
指導及び保護に関する一切の責任を負い,七尾華工管理事務所はこれを
監督し,同事務所への帰所から次の出勤までの生活面は同事務所が全責
任を負っていた。このように,被控訴人会社における中国人労働者の就
労形態については,港運業会及び七尾華工管理事務所がいわば労務供給
請負業を行うものであったということができる。
(以上(ア)ないし(ウ)につき,甲29,30,95,96,丙3,原審控訴
人X1本人」)
メ原判決152頁1行目「七尾華工管理事務所の事業報告書」を「本件事
業場報告書」と改める。
モ原判決153頁9行目から10行目までを「なお,宿舎の入口では,警
察官が常時見張りをしていた」と改める。。
ヤ原判決156頁8行目「16名」を「15名(港運敦賀で死亡した1名
を除く」と改める。。)
ユ原判決157頁6行目「中国に送還されたのは」から8行目「中国人労
働者らは」までを「2名は終戦後知人を頼るなどして神戸華工管理事務所
へ向かったまま七尾に戻らず,残る382名(A3を除く本件中国人労働
者らを含む)は中国へ集団送還された。この382名の中国人労働者ら。
は」と改める。
ヨ原判決157頁10行目の括弧内に「甲29,丙3」を加える。
ラ原判決158頁5行目,160頁25行目,163頁20行目の各末尾
にそれぞれ「第一次連行」を加え,158頁25行目,161頁14()
行目の各括弧内にそれぞれ「甲3の3,甲29,丙3」を加え,164頁
1行目の括弧内に「甲3の3,丙3」を加える。
リ原判決159頁14行目末尾に「第二次連行」を加え,160頁9()
行目の括弧内に「甲3の3,甲29,丙3」を加える。
ル原判決162頁5行目,163頁3行目の各末尾にそれぞれ「第四次(
連行」を加え,162頁12行目,163頁16行目の各括弧内にそれ)
ぞれ「甲3の3,甲29,丙3」を加える。
レ原判決169頁4行目の括弧内に「乙81」を加える。
ロ原判決171頁4行目「において」から6行目「仰いでいること」まで
を「と題する外務省管理局第二部(経済部)第二課(大陸課)長等から同
管理局長等に対する決裁文書において,近く来日が予想される中国側調査
団への説明に備える目的で調査を実施することについて決裁を仰いでいる
こと」と改める。
ワ原判決171頁8行目及び14行目の各「作成担当者」をいずれも「作
成部局の課長」と改める。
ヰ原判決172頁18行目の「上記の」を削る。
ヱ原判決172頁19行目から20行目にかけての括弧内に「甲115な
いし117」を加え「甲)155」を削る。,(
ヲ原判決173頁9行目「1988」を「1989」と改める。
ン原判決173頁16行目の括弧内に「甲235の1ないし5,甲236
ないし238」を加える。
(2)強制連行・強制労働の事実について
以上のとおり,昭和12年7月の日中戦争開戦,昭和16年12月の太平
洋戦争開戦と戦局が拡大するにつれ,国内の労働力は著しく不足し,朝鮮半
島からの労働力移入によっても追い付かず,鉱業等の分野における業界団体
から中国人労働者の移入を求める声が出るようになり,被控訴人国は,昭和
17年11月の本件閣議決定により国家政策として中国人労働者の日本への
移入を決定し,昭和18年4月からの試験移入を経て,昭和19年2月の本
件次官会議決定をもって中国人労働者の日本への本格移入を進め,昭和20
年8月の終戦までに合計3万8935人の中国人労働者を中国から供出した。
この中で,港湾運送業界においても,昭和19年には,被控訴人会社を含む
事業者が労働力不足を解消するため中国人労働者の移入を積極的に要望し,
中央統制団体である港運業会が取りまとめを行う形で中国人労働者の斡旋を
行い,同年から昭和20年にかけて本件中国人労働者らを含む中国人が被控
訴人会社を含む各事業者の下で労働に従事するに至ったものである。
そして,本件次官会議決定やこれとともに定められた「華人労務者内地移
入手続」の規定上は,中国人労働者につき日本国内の労働条件と同等程度と
しつつ中国人労働者の慣習に急激な変化を来さないように配慮するなどした
内容になっていたものの,現実には,本件中国人労働者らは,中国において
日本軍の兵士に取り囲まれるなどして,その意思に反する形で時には暴力に
よりその身柄を拘束された上,中国国内の労工訓練所に収容され,その後,
日本軍の兵士が監視する自由のない状況で労工訓練所から青島などの出港地
まで陸路移動し,出港地から行き先も告げられることなく貨物船に乗船させ
られて交戦中の相手国である日本の下関港まで移動させられ,結局,七尾ま
で連行され,戦時的統制下に置かれていた被控訴人会社へ配置されたのであ
る。また,被控訴人会社では,警察官や被控訴人会社従業員の監視する中,
十分な休憩もなく長時間にわたって重労働を強いられ,賃金の支払を受ける
こともなく,作業上の不手際があれば暴力を加えられるなどして労働に従事
し,宿舎では港運業会の出先機関である七尾華工管理事務所の管理下に置か
れ,外出の自由はなく,食事は当時の日本国内における食糧事情を勘案して
もなお質・量とも不十分なものであったといわざるを得ず,さらに,衣服や
就寝場所,入浴等の衛生状態についても配慮がされなかったのであって,到
底自由な意思に基づく労働であったということはできない。
したがって,本件中国人労働者らが昭和19年,20年当時受けたものは,
正に強制連行,強制労働そのものであったというべきである。
(3)被控訴人会社の主張について
被控訴人会社は,本件中国人労働者らに対する本件加害行為の事実関係に
ついて,強制労働に従事させたことはなく,本件中国人労働者らに対しては,
県告示の法定労働時間に従っており,休日も与えていたし,七尾華工管理事
務所に本件中国人労働者らの使役料を支払い,同事務所を通じて本件中国人
労働者らに賃金を支払っており,生活面や医療面の待遇も日本人と同等以上
のものであった旨主張し,外務省報告書(甲3の1ないし5)や本件事業場
報告書(甲29,丙3)にもこれに沿う部分がある。
しかし,上記主張が採用できないことについては,次のとおり補正するほ
か,原判決の「事実及び理由」欄の第4章の第2の2(2)及び(3)(175頁
7行目から176頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(原判決の補正)
ア原判決175頁17行目の「本件被害者ら中国人労働者」を「本件中国
人労働者ら」と改める。
イ原判決175頁21行目の「被害時点から」を「本件中国人労働者らが
日本に連行されてから」と改める。
ウ原判決176頁1行目及び13行目の各「事業場報告書」をいずれも
「本件事業場報告書」と改める。
エ原判決176頁8行目「事情として」の次に「被控訴人会社等の各事,
業者から港運業会への賃金相当額の支払が現実に行われていたかどうかは
明らかではないものの」を加える。,
3争点②(国際法ないし国際慣習法による責任の成否)について
(1)被控訴人らにつき国際法ないし国際慣習法による責任はいずれも認めるこ
とができない。その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の第4章の第3の
1ないし5(176頁25行目から186頁5行目まで)に記載のとおりで
あるから,これを引用する。
(2)したがって,控訴人らの国際法ないし国際慣習法に基づく請求は,その余
の点について判断するまでもなく,認めることができない。
4争点③(中華民国民法の適用の有無)について
(1)本件につき被控訴人らのいずれについても中華民国民法の適用を認めるこ
とができないことについては,次のとおり原判決を補正するほか,原判決の
「事実及び理由」欄の第4章の第4(187頁1行目から190頁8行目ま
で)に記載のとおりである(ただし,文中の「本件被害者ら」をいずれも
「本件中国人労働者ら」と改める)から,これを引用する。。
(原判決の補正)
ア原判決187頁7行目から15行目までを次のとおり改める。
「法例(明治31年法律第10号)は,国際私法に関する定めをして
いるところ,国際私法は,渉外的な私法関係に適用すべき法律を内外の私
法の中から選択,指定する規範である。ここでいう渉外的私法関係とは,
私法の規律の対象となる関係を意味するものであり,国際私法において準
拠法を決定するに当たっては,国家利益が格別配慮されていることはない。
これに対し,控訴人らが主張する中華民国民法の不法行為に基づく請求は,
公権力の行使によって損害を受けた私人の国に対する損害賠償請求という
性格を有し,当該損害賠償請求権の存否に関しては,公権力の行使の適否
が判断の対象とならざるを得ないものと解され,その公権力の行使の適否
に関する判断は,その後における国の行政権,立法権の行使やそのあり方
に重大な影響を与えるものであって,国家利益と密接な関係を有する公法
的な側面を持つことは否定し難い」。
イ原判決188頁6行目「国際私法である法例」を「国際私法に関して定
めた法律である法例」と改める。
ウ原判決189頁25行目「我が国の公益」を「我が国における社会の公
益」と改める。
エ原判決190頁7行目から8行目までを削る。
(2)以上のとおり,被控訴人国については,法例11条1項によってその準拠
法を定めることは相当ではないから,同条項を介して中華民国民法が適用さ
れると解することはできず,また,被控訴人会社については,不法行為の原
因事実発生地は日本というべきであるから,中華民国民法を適用することは
相当ではない。
したがって,控訴人らの被控訴人らに対する中華民国民法に基づく請求は,
その余の点について判断するまでもなく,いずれも認めることができない。
5争点④(国家無答責の法理)について
(1)権力的作用ないし公権力の行使にあたる公務員の行為であること
控訴人らは,被控訴人国に対し,本件中国人労働者らを含む中国人に対す
る強制連行,強制労働政策の計画及び実行そのもの,あるいは,同政策の具
体的実行に関与した日本軍人や警察官など被控訴人国の被用者(広い意味で
の公務員)による個々の行為について,日本民法の不法行為に基づく請求を
しているところ,前段でいう政策の計画実行についてはもちろん,後段でい
う公務員の個々の行為についても,前記のとおり,戦時下における労働力確
保のため,本件閣議決定あるいは本件次官会議決定に基づく国策の実行とし
て,又は,国家権力を背景として国策実行のために,本件中国人労働者らを
日本に強制的に連行し,被控訴人会社における強制労働を余儀なくさせたも
のであるから,その根拠・性質・態様等からして,国家の権力的作用ないし
公権力の行使に当たるものというべきである。
この点,控訴人らは,本件加害行為の発端である中国人内地移入事業は労
務供給事業であり私的経済活動であると主張する。しかし,本件加害行為が
一面において私人間で行われる労務供給と同じような側面を有するものであ
るとしても,一連の経過に照らせば,上記のような国策の実行という本質的
な根拠・性質・態様等が否定されるものではなく,大審院判例が後記のとお
りいわゆる「権力的作用」の範囲を限定的にとらえていたと解する余地があ
ることを考慮してもなお,本件においては,権力的作用であることを否定す
ることはできないというべきである。
他方,被控訴人国は,控訴人らの主張する強制連行,強制労働は職権濫用
行為であって国の官吏としての行為とはいえないとして,当該個人の賠償責
任が問題となるにとどまるなどと主張するようである。しかし,本件中国人
労働者らに対する強制連行,強制労働は,前記認定事実のとおり,国策の実
行としてあるいは国家権力を背景に,交戦中の相手国たる中国の国民を日本
国内の軍需会社あるいは軍需充足会社に動員して重労働を強いるというもの
であり,一部の官吏が個別に何らの法的根拠もなく職権を濫用して行ったと
いうものではなく,組織的に行われたものであったことは明らかというべき
である。また,個別の事案において本件中国人労働者らの身柄を強引に拘束
し,劣悪な環境下で重労働を強い,時に暴力を加えるなどしていた点も同様
であり,国策の実行あるいはその一環としてなされたことに変わりはなく,
若しくはその目的達成の手段としてなされたものであって,客観的に職務執
行の延長線上にある行為であるといわざるを得ない。そのような観点からす
ると,本件では,被控訴人国の官吏としての行為ではない単なる私的な違法
行為と評価できるものではないというべきであるから,被控訴人国の上記主
張は採用できない。
(2)行政裁判法,裁判所構成法及び民法の諸規定について
ア被控訴人国の権力的作用としての加害行為によって被害を受けた者の被
控訴人国に対する損害賠償等の請求につき,行政裁判法及び裁判所構成法
の規定のみから直ちに,被控訴人国の責任を否定することができないこと
については,原判決第4章の第5の1(1)(190頁12行目から19行
目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
イまた,平成16年法律第147号による改正前の民法(明治29年4月
27日法律第89号)715条又はいわゆるボアソナード民法(明治23
年4月21日法律第28号,未施行のまま,明治29年法律第89号を
もって廃止された)373条の規定ないしその制定過程から,被控訴人。
国の賠償責任が否定されると解することができないことについては,原判
決第4章の第5の1(2)(190頁21行目から192頁18行目まで)
に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,被控訴人国は,民法の法典調査会における起草委員の発言につき,
最終的には,当時のドイツのようにする趣旨かとの質問に対し当該起草委
員がこれを肯定する発言をしており,当時のドイツにおいては,学説は
種々あったものの,国家には特別法のない限り公権力の行使につき財産上
の責任がないとするものであったと主張する。しかし,仮に,当該起草委
員が最終的には国家に責任がないとの趣旨と解されるような発言をしたと
しても,一連の審議経過からすると,国賠法の制定・施行前における権力
的作用ないし公権力の行使としての加害行為によって損害を受けた者の国
又は公共団体に対する請求に関し,民法の不法行為規定が適用されるか否
かについては,民法の解釈に委ねられていたとの前記判断は左右されない
と解するのが相当であって,少なくとも,上記のような請求について国等
の責任を否定することが法政策として採用されていたとまでは断定できな
いものというべきである。
ウしたがって,いわゆる国家無答責の法理は,当時の日本の法制において
基本的法政策として採用されていたというよりは,民法等法律の解釈に委
ねられた問題あるいは判例法理であったというべきである。
(3)国賠法施行前における権力的作用に関する不法行為規定の適用の有無
ア国の権力的作用ないし公権力の行使によって損害を受けた私人の国に対
する損害賠償請求に関しては,権力的作用に当たる行為の適否が判断対象
とならざるを得ないところ,権力的作用は必然的,内在的に私権の侵害,
制約を伴うものが少なくない。また,権力的作用に当たる行為の適否,す
なわち,その行為の違法性や責任の有無に関する判断は,国の立法権,行
政権の行使のあり方等に重大な影響を与えることもあり得る。さらに,当
該行為の違法性,有責性は当該行為当時の法令と公序に照らして判断され
るべきものでもある。こうした観点から,国の権力的作用に当たる行為に
ついて,生じた結果が違法と考えられることから直ちに不法行為法上の違
法性・有責性を肯定することは相当ではない場合があり得るとする法解釈
も考えられ,国賠法施行前における国の権力的作用に当たる行為について
は,国の法的な賠償責任を否定するとのいわゆる国家無答責の法理による
ことが相当と考えられる事案があり得るものと考えられる。
しかしながら,このことから,直ちに,国賠法施行前の,純然たる私経
済的活動以外のすべての国の活動に係る加害行為について,およそ国の賠
償責任が成立する余地がないとまでは解されない。
イ国賠法施行前の事例に関する大審院判決(甲15参照。ただし,現行の
国賠法2条に規定するような公の営造物の設置管理の瑕疵に関する事案を
除く)及び最高裁判決をみると,結論的に国等の賠償責任を否定したも。
のがほとんどである。
しかしながら,初期の大審院判例には,国等の賠償責任を肯定する余地
に言及したものがある(大審院明治26年1月13日判決・大審院判決録
明治26年1頁,大審院明治27年10月20日判決・大審院判決録明治
27年460頁。その後「公共の利益のため」との根拠で国等の賠償),
責任を否定したものが現れ(大審院明治43年3月2日判決・民録16輯
169頁,やがて「統治権に基づく権力行動「支配権に基づく(権),」,
力)作用」等の理由で国等の賠償責任を否定するに至ったということがで
きるが,それらの事案は,滞納処分に関するもの(大審院昭和16年2月
27日判決・民集20巻2号118頁,印鑑証明事務に関するもの(大)
審院昭和13年12月23日判決・民集17巻24号2689頁)等であ
り,当該事案における個別具体的行為の違法性は肯定されても,一般論と
しては現在の国賠法1条1項の解釈上も直ちに違法とはいえない類型のも
のが少なくない。また,官吏の職権逸脱,濫用によって故意に他人の権利
を侵害したような事案では,当該官吏個人の賠償責任は認めつつも,もは
や国等の行為とはいえないとの理由で国等の賠償責任を否定する傾向に
あったということができ(大審院昭和12年3月31日判決・民集16巻
7号387頁,大審院昭和15年1月16日判決・民集19巻1号20頁,
前掲大審院昭和16年2月27日判決等,さらに,権力的作用に当たら)
ない行為を比較的広くとらえ,あるいは私法関係の問題としてとらえるこ
とによって,国等の賠償責任を肯定する余地を認めたものと解される例も
少なくない(大審院大正7年10月21日判決・民録24輯2000頁,
大審院昭和11年6月8日判決・民集15巻11号928頁,最高裁昭和
31年4月10日判決・集民21号665頁等。)
これらの判例に照らすと,国等の賠償責任が肯定又は否定される範囲,
その根拠等については,判例が終始一貫し,確立していたとは断定できな
いというべきである。もっとも,例えば,法令等の根拠に基づく正当な手
続の過程で官吏に軽度あるいは通常程度の過失があったと認められる事案
において,現在の国賠法1条1項の解釈上違法とされる余地があるものに
つき,国等の賠償責任が否定されている場合があり,それをもっていわゆ
る国家無答責の法理を採っていたということはできるものと解される。し
かしながら,そのことから直ちに,あらゆる国等の権力的作用について国
等の責任が一切生じる余地がないとされていたとまでは断定できない。少
なくとも,例えば,明らかに国等の権力的作用に該当すべき行為であり,
かつ,明治憲法下においても許容されないであろう重大な人権侵害という
べき事案などについて,直接国等の賠償責任を否定した大審院判例は見当
たらないのであって,そのような事案について,解釈上,民法の不法行為
規定を適用する余地は残されているものと解するのが相当である。
ウところで,本件加害行為は本件閣議決定,本件次官会議決定等に基づく
国策として実行されたものであるところ,本件次官会議決定では,元俘虜,
元帰順兵その他募集により中国人労働者を確保し日本へ移入するとされて
いたが,他方で,被控訴人国は昭和19年度だけでも3万人という中国人
労働者の動員計画を定め,本格移入を決定した直後の昭和19年二,三月
には上記方法による中国人労働者の確保が困難な実情が明らかとなってお
り,強制的に供出せざるを得ない状況下で,被控訴人国はその状況を認識
しつつ国策として遂行したものといわざるを得ず,官吏個人による職権の
逸脱,濫用にとどまるものではない。そして,本件強制連行,本件強制労
働は,中国人にとって交戦中の相手国であり遠く離れている日本へ行かさ
れ,敵国たる日本の軍需会社や軍需充足会社等で就労させられるものであ
り,連行中あるいは到着後に常時監視を受け,労働条件や衛生状況の面で
も劣悪な状況下であったことからすると,任意に行われたと解する余地は
ないばかりか,甚だしく人倫にもとる行為といわざるを得ない。そして,
このような本件加害行為は,個人の尊厳を旨として民法を解釈しなければ
ならないとする昭和22年法律第222号による改正後の同法2条の規定
が遡及効を有すること(同法附則4条)や本件加害行為当時の日本が既に
ハーグ陸戦条約及び強制労働条約を批准していたことも併せ考慮すると,
当時の法令と公序に照らしても著しく違法・不当であるとの評価は免れず,
権力的作用ないし公権力の行使が必然的,内在的に私権の侵害・制約を伴
うこと,違法性の判断が国の立法権・行政権の行使に与える影響の大きさ,
違法性・有責性は行為当時の法令と公序等に照らして判断されるべきであ
ること等を考慮しても,本件加害行為の上記違法性は左右されないという
べきである。そうすると,前記の大審院判例で国等の責任が否定された事
案と比較してみても,このような著しく違法・不当な強制連行,強制労働
の事案にまで国家無答責の法理が及ぶものとは考え難いものといわざるを
得ない。
(4)国賠法附則6項の解釈について
国賠法附則6項は「この法律施行前の行為に基づく損害については,な,
お従前の例による」と定めているが「なお従前の例による」の通常の法。,
令用語の解釈としては,法令を改正又は廃止した場合に,改廃直前の法令を
含めた法制度をそのままの状態で適用することを意味するものである。そう
すると,同項の「従前の例」には,国賠法施行前の実定法のみならず,実定
法の解釈として当時確立していた判例法理も含まれるものと解するのが相当
である。
そして,前記のとおり,国賠法施行前の判例において,純然たる私経済的
活動以外のすべての国の活動に係る加害行為についておよそ国の賠償責任が
成立する余地がないとされていたとまでは断定できず,むしろ,本件強制連
行,本件強制労働のように当時の法制下においても個人の尊厳を損なうもの
と評価されるような違法性・不当性の著しい事案については,不法行為法上
の賠償責任を肯定することが法解釈上整合性を有するものと考えられ,また,
そうした事案について直接判断した判例は見当たらないから,賠償責任を肯
定するとの判断が判例に抵触するものでもない。
よって,国賠法附則6項に「従前の例による」と定められていることを
もっては,国賠法施行前における国のあらゆる権力的作用に当たる行為につ
いて国家無答責の法理によるべきことが示されているということはできない。
(5)小括
したがって,本件強制連行,本件強制労働のように当時の法制下において
も個人の尊厳を損なうものと評価されるような違法性・不当性の著しい事案
については,民法の不法行為規定の適用を前提として判断をするのが相当で
あると解される。
6争点⑤(被控訴人らの共同不法行為の成否)について
(1)被控訴人国について
被控訴人国は,戦時下における国内労働力不足を受けて,本件閣議決定,
本件次官会議決定に基づき,中国人労働者を国内へ移入して港湾運送業,鉱
業,土木建築業等の労働に従事させることを決定するとともに,本格移入に
当たり「華人労務者内地移入手続」を定め,厚生省,大東亜省,内務省,,
農商省,国民職業指導所,警察署その他関係庁府県が協力して,中国人労働
者の事業場への割当て,輸送月日の決定,食糧の手当て,輸送概況の把握,
治安面の保護取締り,事業場における勤労状況の把握等を行うこととした。
中国人労働者の確保は,本格移入に着手した当初から中国人の意思に反して
強制的に行わなければ達成し得ないことが明らかであり,これを華北労工協
会が中心となって行ったものの,身柄の確保,労工訓練所への収容に際して
は日本軍が協力した。本件中国人労働者らは,このような被控訴人国の積極
的施策として日本に移入されたのであり,その実態が強制連行,強制労働そ
のものであって,著しく違法・不当と評価されるべきものであることは前記
のとおりである。
したがって,被控訴人国の上記一連の施策の実行は,民法上の不法行為
(709条,715条)に該当する。
(2)被控訴人会社について
被控訴人会社は,労働力不足から中国人労働者の移入を求めて港運業会を
通じ厚生大臣及び運輸通信大臣に中国人労働者の斡旋を申請し,港運業会を
介して中国人労働者の斡旋を受け,移入された中国人労働者の配置を受けた
ものである。もっとも,中国人労働者が日本へ上陸するまでの間の輸送・引
継への関与や中国人労働者の被控訴人会社への割当ての決定等は中央統制団
体である港運業会によってなされており,そこに被控訴人会社自身ないしそ
の従業員の具体的関与を認めることは証拠上困難であるが,下関港に到着し,
又は,神戸で就労していた,本件中国人労働者らを含む中国人を七尾へ輸送
する際には,港運業会の現地事務所である七尾華工管理事務所と相談の上,
自社の従業員を派遣して中国人労働者の輸送に付き添っていたのであり,そ
こに被控訴人会社の具体的関与があったことは明らかである。そして,七尾
に到着後は,被控訴人会社が,本件中国人労働者らの指導及び保護に関する
一切の責任を負って前記のような強制労働に従事させた。
被控訴人会社における本件中国人労働者らの労働は,そもそも交戦中の,
中国人にとって対戦国たる日本国内の軍需の充足上必要とされる会社(昭和
20年2月には軍需充足会社に指定された)における稼働である上,常時。
監視され,不手際があれば会社従業員から暴力を受け,100キログラムも
の重い荷物を運ぶ作業を繰り返し行っていたにもかかわらず十分な休憩がな
いまま長時間労働を強いられるといったものであり,外出の自由がなく賃金
の支払もされていないのに,食事や衣服等も極めて不十分な支給しか行わな
いなど,個人の尊厳を著しく損ねる違法・不当なものであったといわざるを
得ない。
したがって,被控訴人会社による本件強制連行への関与及び本件強制労働
は違法なものであり,民法上の不法行為(709条,715条)に該当する
ことは明らかである。
(3)共同不法行為の成否について
本件強制連行及び本件強制労働は手段,目的として不可分の関係にあり,
被控訴人会社が港運業会を介して中国人労働者の斡旋を受けたという側面は
あるものの,一連の流れを総合評価すれば,被控訴人国と被控訴人会社が共
同して本件中国人労働者らを中国から七尾へ連行し労務に従事させたという
ことができるから,被控訴人らの行為は共同不法行為(民法719条)に該
当するものと評価すべきである。
7争点⑦(被控訴人らと本件中国人労働者らとの間における,安全配慮義務を
生ずべき特別の社会的接触関係の有無)について
(1)直接契約関係のない当事者間の安全配慮義務の成立要件
原判決の「事実及び理由」欄の第4章の第6の1(195頁16行目から
26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)七尾における被控訴人らと本件中国人労働者らとの関係
ア控訴人らは,本件中国人労働者らに対する被控訴人らの安全配慮義務と
して,生命・身体の最低限の安全性を確保する労働・生活条件を整えるた
め,①生命・健康を維持するに十分な食糧を与える義務,②生命・健康を
維持していける程度の労働条件で働かせる義務,③健康を維持し,人とし
ての尊厳を保ちうるような生活状態で暮らすことができるような住環境と
衣服を与えるべき義務があったとし,被控訴人らが,かかる安全配慮義務
に違反し,七尾において上記①ないし③のいずれも配慮をせず本件中国人
労働者らを港湾荷役作業に従事させたと主張している。
そこでまず,七尾での就労における被控訴人らと本件中国人労働者らと
の関係をみると,前記認定事実のとおりであるが,要約・補足すれば次の
とおりである。
イ中国から移入した中国人労働者の各事業場への割当て及び管理について
は,厚生省が運輸通信省と協議しつつこれにあたることとされていたが,
実際の配置に際しては,運輸通信省の委任により中央統制団体である港運
業会が主体となって中国人労働者の配置先となる事業場を決定し(なお,
中国から労働者の供出を受けるにあたって締結される華北労工協会との使
用契約も被控訴人会社などの各事業場ではなく港運業会が締結してい
た,港運業会が設置した華工管理事務所(七尾では七尾華工管理事務。)
所)が中国人労働者の管理に関する事務を処理することとしていた。なお,
中国人労働者の就業場所の変更等についても厚生省の稟議を要するとされ
ていたこと(華人労務者内地移入手続)からすると,各事業場への割当て
の場合と同様,具体的な異動先の決定は港運業会が主体となり厚生省及び
運輸通信省の承認を得て行っていたものと推認される。
港運業会と被控訴人会社との間では,港運業会の発した管理要領及び指
示要綱並びに両者間の本件使用契約書に基づき,就労中の中国人労働者の
保護,指導は,港運業会の監督の下に被控訴人会社が一切の責任を負い,
宿舎への帰所から次の出勤までの間は,七尾華工管理事務所が全責任を負
うこととされていた。中国人労働者の就労中,個々の具体的作業(船内作
業,沿岸作業,貨車積作業,移行作業)のうちいずれに配置させるかは,
被控訴人会社の勤労部長の指揮の下に決定され,必ずしも毎日作業箇所が
同一というものではなかった(甲29,丙3。)
),就労場所は被控訴人会社の作業場すなわち埠頭であり(甲29,丙3
宿舎のある七尾華工管理事務所は被控訴人会社の使用権限に属する倉庫を
改造した建物内に設置されていた。
官庁関係では,所轄警察署が,華工管理事務所職員及び中国人労働者の
思想面,管理の適否,中国人労働者の衣食住の適否,衛生保健や風紀の保
持等について指導監督し,所轄海運局が,管理の適否,荷役力増強の指導
監督を行う立場にあった(甲29,丙3。また,事業主は,毎月末に中)
国人労働者の勤労状況を関係各庁を通じて厚生省及び大東亜省に報告すべ
きものとされていた。
ウ中国人労働者の労働条件等に関し,本件次官会議決定では,就労時間は
国内の例によること,四大節その他中国における休日を公休日とすること,
賃金は国内の賃金を標準とすること,食事は中国人労働者の通常食を支給
するものとし,食糧の手当について農商省が特別の措置を講ずること,作
業に関する命令は現地から同行した日系指導員等を通じて発することとし
直接の命令を厳に慎むことなど基準となるべきものが定められていたが,
より具体的な労働条件(何時から何時まで就労するか,何月何日を休日と
するか,賃金を何円とするか等)について国側が規定したものは見当たら
ず(なお,港運業会の管理要領及び指示要綱には,被控訴人会社が港運業
会に対し,中国人労働者の使用料を支払うこと及びその具体的金額が定め
られていた,被控訴人会社もしくは港運業会において決定されていた。)
ものと推認される。
(3)被控訴人国について
以上を前提に,まず被控訴人国についてみると,そもそも被控訴人国と中
国人労働者との間で直接契約を締結することが想定されていたものとは認め
られず,実際,被控訴人国と本件中国人労働者らとの間に直接の契約関係は
存在しないので,両者間に契約関係と同視し得る関係があったか否かが問題
となる。そして,被控訴人国は,港運業会を介して間接的にではあるが,本
件中国人労働者らを被控訴人会社へ配置することに関与し,労働条件の基準
となるべきものや作業における命令のあり方等を定めているということがい
える。しかし,被控訴人国が国策として中国人労働者を移入し,移入した中
国人労働者を被控訴人会社へ配置することを決定したとしても(ただし,本
件では,具体的な配置の決定は港運業会が主体的に行っている,そのこ。)
とから直ちに,七尾における就労について被控訴人国と中国人労働者との間
で契約関係と同視し得る関係があったということにはならない。また,就労
中における指揮監督は,被控訴人会社が中心となり,中央統制団体たる港運
業会の監督を間接的に受けるというものであり,被控訴人国が関与したのは
その指針となるべきものを事業主(ないしは港運業会)に示し,あるいは,
勤労状況の報告を事業主に求めるなど,事業主に対するものにとどまってお
り,具体的作業について直接中国人労働者を指導,指揮していたとは認めら
れない。さらに,中国人労働者の具体的な就業時間や日々の作業内容等を被
控訴人国が決定したとまでは認められず,中国人労働者の就業場所は被控訴
人会社の作業場であって,被控訴人国の施設において就労したものではない。
もとより,被控訴人会社は私法人であり営利法人であって(甲29,丙2,
3,被控訴人会社の営む運送業の発展は,戦時下の日本における輸送力強)
化という側面を有するものの,被控訴人国の事業ではない。所轄警察署等の
関係官庁が中国人労働者に直接関係したのは思想面や治安の維持であり,中
国人労働者の管理や中国人労働者の衣食住,保健衛生等については,七尾華
工管理事務所におけるそれらの適否を指導監督するというものであって,中
国人労働者との関係では,港運業会ないし被控訴人会社を介した間接的なも
のといわざるを得ない。
こうしてみると,被控訴人国と本件中国人労働者らとの間に,実質的に雇
用契約と同視できるような社会的,経済的関係があったということはできな
いものというべきである。
この点,控訴人らは,当時の日本が戦時体制にあり,国家総動員法の下,
被控訴人会社も統制下に置かれていたことを指摘して,被控訴人国が中国人
労働者から労務の提供を受けていたと主張する。この点,確かに被控訴人会
社は軍需の充足上必要とされた会社であり(昭和20年2月軍需充足会社に
指定された,当時,国家総動員法による勅令として港湾運送業等統制令。)
が発令され,国家の政策遂行に協力することを目的とする中央統制団体であ
る港運業会のもと,被控訴人会社も業務を展開していたということがいえる
が,これらの被控訴人国による統制は,事業主ないしはその事業内容に向け
られたものであり,個々の労働者を直接指揮監督するものとはいえない。ま
た,本件加害行為が戦時下における労働力不足を解消するため国策として実
行されたものであるとしても,そのことから,被控訴人国と中国人労働者と
の間で雇用契約に準ずるような法律関係が成立していたと評価することはで
きない。
なお,港運業会は,港湾運送業等統制令により設立された団体であり,昭
和19年2月に現役の陸軍中将が会長に就任するなど,被控訴人国と密接な
関連を有していたという意味において半官半民の性格を有することは否定で
きないが,被控訴人国の機関であるとまではいえず,港運業会による指揮監
督を被控訴人国の指揮監督と同視することはできない。
したがって,本件中国人労働者らの七尾における就労に関して,被控訴人
国と本件中国人労働者らとの間に実質的に雇用契約と同視できるような社会
的,経済的関係を認めることはできないから,控訴人らの被控訴人国に対す
る安全配慮義務(債務不履行)に基づく請求は,その余の点について判断す
るまでもなく,理由がないものといわざるを得ない。
(4)被控訴人会社について
これに対し,被控訴人会社についてみると,被控訴人会社と本件中国人労
働者らとの間の直接の雇用契約ないしこれに準ずる契約関係は証拠上判然と
しないが,前記のとおり,本件中国人労働者らは,被控訴人会社の保護,指
導,指揮のもとで労務に従事していたのであるから,被控訴人会社と本件中
国人労働者らとの間には,実質的に雇用契約と同視できるような社会的,経
済的関係があったことは明らかというべきである。
8争点⑧(安全配慮義務違反の有無)について
被控訴人会社は,前記のとおり本件中国人労働者らと実質的に雇用契約と同
視できるような社会的,経済的関係にあり,その就労に際し,生命・健康を維
持していける程度の労働条件で働かせる義務があるというべきである。また,
本件中国人労働者らが祖国から家族を置いて日本に来て就労しており,衣食住
について事業主側が提供することを前提にしたものであったことからすれば,
生命・健康を維持するに十分な食糧を与える義務及び健康を維持し,人として
の尊厳を保ち得るような生活状態で暮らすことができるような住環境と衣服を
確保すべき義務も認められるというべきである。
しかし,本件強制労働の実態は前記認定事実のとおりであり,本件中国人労
働者らの労働条件,食糧,住環境,衣服につき配慮を欠いたものといわざるを
得ず,その改善,是正措置を講じることもなかったのであるから,被控訴人会
社は,上記の安全配慮義務に違反したものと認められる。
9争点⑩(強制労働を課した企業に対し強制労働条約25条に定める刑事制裁
措置を取らなかった被控訴人国の不作為の義務違反の有無)について
被控訴人国について,強制労働を課した企業に対し強制労働条約25条に定
める刑事制裁措置を取らなかった不作為の義務違反を理由とする国賠法上の請
求が認められないことについては,原判決の「事実及び理由」欄の第4章の第
3の6(186頁7行目から23行目まで)に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
10争点⑪(日華平和条約・日中共同声明等による請求権の放棄)について
(1)日中共同声明5項に基づく請求権放棄の抗弁について
控訴人らの被控訴人らに対する不法行為に基づく請求権及び被控訴人会社
に対する債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく請求権が,日中共同声明
5項によって裁判上訴求する権能を失ったものと解すべきことについては,
次のとおり原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第4章の
第7(199頁9行目から204頁8行目まで)に記載のとおりであるから,
これを引用する。
(原判決の補正)
ア原判決202頁17行目末尾に次のとおり加える。
「この点,請求権の放棄(前記のとおり,請求権自体を実体法的に消滅
させる趣旨ではなく,裁判上訴求する権能を失わせるという意味における
放棄)に関する条項は,サンフランシスコ平和条約で定められた中国を含
む連合国の管轄下にある日本の在外資産の処分等と無関係ではなく,また,
世界情勢,日本の賠償能力,個別的民事裁判上の権利行使を許容した場合
の影響,両国間の事後の関係その他種々の観点から両国間において交渉,
協議され日中共同声明の発出に至ったものであるというべきところ,強制
連行,強制労働が控訴人ら主張の国際慣習法としてのユス・コーゲンスに
反するものであるとしても,強制連行,強制労働に係る損害賠償請求権の
放棄に関連する条項について,そもそも当該条項を含む条約等の締結時に
おける事情あるいは他の条項との関係と切り離して有効,無効を論ずるこ
とはできず,また,当該請求権の放棄を定めた条項が無効になるとの国際
慣習法の存在を認めることはできないというべきである」。
イ原判決203頁15行目と16行目の間に改行の上,次のとおり加える。
「なお,サンフランシスコ平和条約の請求権放棄に関する条項につい
ては,原案の段階では連合国の賠償請求権のみ明記されていたところ,日
本側からそれでは範囲が不明確であると主張して「連合国及びその国,
民」の請求権であることが明確化されたという経緯があることが認められ
る(乙72。これに対し,日中共同声明で日本国政府が上記のような修)
正を求めなかったのは,前記のとおり,当時,日本国政府が,戦争賠償及
び請求権の処理は日華平和条約によって解決済みであるとの立場であり,
敢えて修正を求めればその立場に誤解が生ずるおそれがあったためと考え
ることができるから,日本国政府がサンフランシスコ平和条約の場合と同
様の修正を求めなかったことをもって,中国国民の個人の請求権を含めず
に処理する意図であったものと解することはできない。むしろ,サンフラ
ンシスコ平和条約26条後段は「日本国が,いずれかの国との間で,こ,
の条約で定めるところよりも大きな利益をその国に与える平和処理又は戦
争請求権処理を行つたときは,これと同一の利益は,この条約の当事国に
も及ぼされなければならない」と規定している。この規定に照らすと,。
日本国政府が日中共同声明において中国国民の請求権を存続させる趣旨で
あったとすればサンフランシスコ平和条約のすべての当事国との関係でそ
のように解さなければならないことになるはずであるが,日本国政府がそ
のような帰結を容認したとは考え難く,また,日本国政府がそのような帰
結を容認したと認めるべき具体的事情も証拠上見いだせない。他方,日中
共同声明の発出に至るまでの日中交渉において,請求権放棄条項を含む日
華平和条約に対する日中両国の立場の違いは大きな課題の一つであり(乙
78,戦争賠償及び請求権の処理は日華平和条約によって解決済みとの)
日本国政府の立場を,中華人民共和国政府が把握していなかったとは考え
難く,日本国政府がサンフランシスコ平和条約と異なり中華人民共和国国
民の個人の請求権を存続させることを容認したものと,中華人民共和国政
府において誤解したと認めるべき事情も見いだし難い」。
(2)当審における控訴人らの主張について
ア日中共同声明5項における請求権放棄の対象について
控訴人らは,日中共同声明5項には日本からの放棄条項がなく,このこ
とは,日中両国の武力衝突法違反による請求権がいずれも放棄されていな
いことを意味するから,武力衝突法違反についての請求権である控訴人ら
の請求権は放棄の対象ではないと主張する。
しかし,前記のとおり,日中共同声明がサンフランシスコ平和条約の枠
組みと異なる趣旨を有していると解することはできず,日中共同声明の発
出に当たり日本国がサンフランシスコ平和条約と同様の修正を求めなかっ
たのは日華平和条約との関係があったからであると解されるから,控訴人
らが主張する武力衝突法違反による請求権を含め,戦争の遂行中に生じた
すべての請求権を相互に放棄することを明らかにしたものというべきであ
る。したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。
イ日中共同声明5項の趣旨等について
(ア)控訴人らは,国家が対人主権を理由に個人の損害賠償請求権を自由に
処分することは許されないと主張する。この点,中華人民共和国内にお
ける請求権の取扱いや補償の有無等の当否について論ずることは相当で
はないものの,一般的に,国家は条約において自国民の財産を処分し,
自国民の請求権を放棄するなど,自国民の私的権利に一定の効果をもた
らすことはできるものと考えられており(乙69,89参照,連合国)
の国民の請求権放棄を明記したサンフランシスコ平和条約が,前記のと
おり日本国のほか48か国の署名するところとなった経緯(3か国を除
き批准された)等に照らすと,少なくとも国際法上,自国の国民個人。
の賠償請求権について,相手国又はその国民に対し裁判上訴求する権能
を失わせることがおよそ一切許されないと解することはできない。
(イ)なお,最高裁平成19年判決に関する平成19年4月27日の中華人
民共和国外交部報道官の一問一答の内容は,同国駐日本国大使館のホー
ムページ(日本語版)によれば,次のとおりである(甲240)。
「問日本の最高裁は27日,日本が中国の侵略していた時期に被害を
受けた中国人労働者が日本の建築会社(中略)に対して起こした賠償訴
訟についての上告審判決を言い渡し,中国政府が『中日共同声明』の中
で放棄した対日戦争賠償請求権は個人の損害賠償等の請求権を含めてい
ると解釈できるとの考えを示した。これは中国政府による対日戦争賠償
請求権放棄問題について,日本の最高裁が一方的に行った司法解釈であ
る。これについて中国側のコメントをもらいたい」。
「答中国政府が『中日共同声明』の中で明らかにした対日戦争賠償請
求権の放棄は両国人民の友好と共存に着眼して行った政治的な決断であ
る。中国側が再三にわたって行った厳正な申し入れを顧みず,この条項
を一方的に解釈した日本最高裁の行為に我々は強く反対する。
日本最高裁が『中日共同声明』について行った解釈は違法なものであ
り,無効だ。中国側の関心に真剣に対処し,この問題を適切に処理する
よう我々は日本政府に求める。
日本は中国侵略戦争中,中国人民を強制連行し,奴隷のように扱った。
これは日本軍国主義が中国人民に対して犯した重大な犯罪行為であり,
現在も適切に処理されていない現実的で重大な人権問題でもある。中国
側はすでに,歴史に責任を負う姿勢で問題を適切に処理するよう日本側
に求めた」。
上記回答内容は,本件類似の強制連行,強制労働の事案について,そ
れが重大な違法行為であることを改めて指摘するものであるが,日中共
同声明5項において個人の請求権が放棄されているとの判断に対する見
解を問うたのに対し,個人の請求権放棄自体について正面から回答した
ものとは必ずしもいえない。また,上記回答は,平成7年5月4日付け
中華人民共和国外交部新聞司長の民間賠償請求に関する「賠償問題は既
に解決している。この問題におけるわれわれの立場に変化はない。もち
ろん日本の中国侵略戦争は未だ問題を残しており,これら問題は今に
至っても関係する中国人に精しん的損害を残している」との発言(乙。
85)やその後の同国外交部長の発言(乙86,87)とその趣旨を異
にするものであるとも断定し難い。
したがって,強制連行,強制労働が重大な人権問題であり違法行為で
あることを,日本側において改めて十分認識すべきであることは当然で
あるが,上記回答自体は,日中共同声明5項により戦争の遂行中に生じ
たすべての請求権が相互に放棄されたとの前記判断を左右するものでは
ないというべきである。また,控訴人らが,最高裁平成19年判決及び
多くの戦後補償裁判に関する中華人民共和国政府の対応として指摘,主
張しているところについても,同国政府ないし政府関係者による上記一
連の発言等と趣旨を異にするものとは認め難いから,請求権放棄に関す
る前記判断を左右するものではない。
ウ信義則違反ないし権利濫用について
控訴人らは,被控訴人らが日中共同声明5項に基づく請求権放棄の抗弁
を主張することは,信義則に反し,又は,権利濫用にあたると主張する。
しかし,前記のとおり,日中共同声明5項は,中国国民が日中戦争の遂
行中に生じたすべての請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせるこ
とを含むものであると解されるから,被控訴人らが請求権放棄の抗弁を裁
判上主張することは,当該条項が本来予定するところと異なるものではな
く,本件加害行為の悪質性や被控訴人国が外務省報告書の存在を長らく明
らかにしなかったことをもって,信義則違反あるいは権利濫用を基礎づけ
る事情ということはできない。また,被控訴人国が政府答弁として,日中
共同声明5項について外交保護権の放棄を定めたものと述べていたとの点
(乙83参照)については,請求権放棄について外交保護権の観点から述
べ,あるいは,個人の請求権が実体法上消滅したという趣旨ではないとの
趣旨で述べられたものと解され,必ずしも,個人が裁判上訴求する権能に
ついての発言ではないと解する余地があるから(乙123参照,信義則)
違反ないし権利濫用と解すべき事情ということはできない。
結局,控訴人らが主張するところは,請求権放棄を定めた条項自体の不
当性をいうものであるとも解されるが,その点については上記(引用に係
る原判決を含む)で判断したとおりであり,採用の限りではない。。
エ日中共同声明5項の国内法的効力について
控訴人らは,日中共同声明5項につき,国内法上の措置を必要とせず効
力を認めるのは誤りであると主張する。
しかし,同項が個人の請求権について裁判上訴求する権能を失わせると
の規定であると解することができる以上,中国国民が日中戦争の遂行中に
生じた日本国又はその国民(法人を含む)に対する個別の請求権に基づ。
き裁判上訴求し,これに対して相手方から同項に基づく請求権放棄の抗弁
が主張された場合,裁判所としては当該抗弁に基づき当該請求を認めない
判断をすれば足りるのであって,同項が,具体化すべき法令なくして執行
できないような内容であるとはいえず,また,証拠上,日中両国が国内的
に追加的措置が必要であるとの意思を有していたと認めるべき事情も見当
たらない。
したがって,同項の内容を具体化するための国内法上の措置は格別必要
としないものと解するのが相当である。
(3)小括
したがって,控訴人らの被控訴人らに対する請求権は,いずれも日中共同
声明5項により裁判上訴求する権能を失ったというべきであるから,その余
の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求は棄却を免れない。
11謝罪広告の掲載請求(争点⑬)について
なお,控訴人らは,損害賠償請求のほか謝罪広告の掲載も請求しているとこ
ろ,債務不履行を理由とする謝罪広告掲載の請求は根拠を欠くものであるから
認められず,また,不法行為を理由とする当該請求については,いかなる事情
をもってその根拠とするものか必ずしも明確とはいい難いものの,いずれにせ
よ,謝罪広告掲載に関する請求権も,日中共同声明5項によって放棄された請
求権に含まれ,裁判上訴求する権能を失ったものと解すべきであるから,上記
謝罪広告掲載に関する請求は,結局,理由がないことに帰する。
第4結論
以上の次第で,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件
控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決
する。
名古屋高等裁判所金沢支部第1部
裁判長裁判官渡辺修明
裁判官桃崎剛
裁判官浅岡千香子
(別紙1∼3省略)
別紙4(当事者の主張)
第1争点①(強制連行,強制労働の事実)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第1(13頁
17行目から42頁23行目まで)に記載のとおりであるから(ただし,争点⑤
等に係る主張部分である,16頁6行目から9行目まで,21頁24行目から2
2頁2行目まで,26頁7行目から8行目まで,37頁9行目から10行目まで
を除く,これを引用する。。)
(原判決の補正)
1原判決18頁4行目,19頁4行目,24頁14行目,同頁24行目,35
頁16行目から17行目にかけての各「事業場報告書」をいずれも「本件事業
場報告書」と改める。
2原判決20頁15行目及び26頁9行目の各「本件被害者ら」をいずれも
「本件中国人労働者ら」と改める。
3原判決22頁4行目「本件被害者ら中国人労働者」を「本件中国人労働者
ら」と改める。
4原判決35頁22行目「原告X6と」から23行目「相続した」までを。
「控訴人X6とA3は親族関係にある」と改める。。
第2争点②(国際法ないし国際慣習法による責任の成否)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第2(42頁
25行目から59頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決43頁22行目,48頁14行目,同頁15行目,同頁19行目の各
「本件被害者」をいずれも「本件中国人労働者」と改める。
2原判決44頁3行目,同頁8行目,48頁17行目,同頁21行目,51頁
11行目の各「謝罪広告の」をいずれも「謝罪広告掲載の」と改める。
第3争点③(中華民国民法の適用の有無−法例11条1項とこれを前提とする中
華民国民法の適用の有無,日本法の累積適用規定による制限の有無)について
原判決「事実及び理由」欄の第3章の第3(59頁13行目から67頁22行
目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第4争点④(国家無答責の法理)について(控訴人らと被控訴人国との間につ
き)
原判決「事実及び理由」欄の第3章の第5(70頁25行目から83頁18行
目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
第5争点⑤(被控訴人らの共同不法行為の成否)について
1控訴人らの主張
(1)被控訴人国は,本件強制連行,本件強制労働を国策の重要な柱として位置
づけ,関係業界と一体となって企画,実行したのであり,その違法性は明白
であって,被控訴人国の本件中国人労働者らを含む中国人に対する強制連行,
強制労働政策の計画,実行そのものが,違法かつ有責である。仮にそれが認
められないとしても,同政策の具体的実行に関与した日本軍人や警察官など
被控訴人国又は国の機関に雇用されていた被用者の個々の行為は違法かつ有
責である。
(2)被控訴人会社は,当時,激増する貨物の荷役に労務員が不足し,強制連行
された中国人労働者の強制労働なくしては成り立たない状況にあったのであ
り,それがため,被控訴人国と一体となって,あるいは国策に進んで協力し,
本件中国人労働者らを含む多数の中国人を強制労働させて利益を得ていたも
のであり,被控訴人国とともに,その不法な強制連行,強制労働について責
任を負わなければならないことは明らかである。
2被控訴人会社の主張
争う。
第6争点⑥(除斥期間の抗弁及び除斥期間の適用制限等)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第6(83頁
20行目から92頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決85頁17行目「原告らが」の前に「しかし」を加える。,
2原判決86頁22行目から23行目にかけての「本件被害者ら中国人労働
者」及び同頁24行目の「中国人労働者」をいずれも「本件中国人労働者ら」
と改める。
第7争点⑦(被控訴人らと本件中国人労働者らとの間における,安全配慮義務を
生ずべき特別の社会的接触関係の有無)について
1控訴人らの主張
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第7の1
(1)及び(2)(93頁3行目から105頁12行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決96頁16行目から22行目までを次のとおり改める。
「また,華北労工協会は,労工訓練所(俘虜収容所)から中国人労働
者を選んで,使役事業主に供給することになっている。そして「供,
出は事業主との雇用契約成立後決定のこと」とされ,使役事業主と中
国人労働者との間で雇用契約が成立することが予定されていた」。
(2)原判決96頁26行目「実施細目」を「華北労工協会が作成した『華人労
務者対日供出実施細目(以下「対日供出実施細目」という」と改める。』。)
(3)原判決98頁11行目「指示注意事項」を「対日供出に関する指示注意『
事項(以下「対日供出指示注意事項」という」と改める。』。)
(4)原判決100頁2行目,101頁10行目の各「実施細目」をいずれも
「対日供出実施細目」と改める。
(5)原判決100頁10行目,101頁1行目,102頁26行目の各「本件
被害者ら」を削る。
(6)原判決103頁20行目,同頁21行目,104頁4行目,同頁11行目,
同頁13行目,同頁23行目,同頁24行目から25行目にかけて,105
頁7行目,同頁8行目の各「本件被害者ら」をいずれも「本件中国人労働者
ら」と改める。
(7)原判決103頁23行目,同頁26行目,104頁1行目,同頁9行目,
105頁11行目から12行目にかけての各「所属労働者」をいずれも「所
属労働者である本件中国人労働者ら」と改める。
(8)原判決105頁4行目の「中国人労働者」及び同頁5行目から6行目にか
けての各「中国人労働者ら」をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める。
(9)原判決105頁11行目の「供給先事業主は」を「供給先事業主である,
被控訴人会社は」と改める。,
2被控訴人国の主張
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第7の2
(106頁12行目から111頁6行目まで)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決107頁18行目,同頁19行目,同頁20行目,109頁16行
目,111頁5行目の各「本件被害者ら」をいずれも「本件中国人労働者
ら」と改める。
(2)原判決107頁23行目,111頁2行目の各「原告ら」をいずれも「本
件中国人労働者ら」と改める。
3被控訴人会社の主張
原判決「事実及び理由」欄の第3章の第7の3(1)(原判決111頁9行目
から13行目まで)に記載のとおりである(ただし,文中の「本件被害者ら」
をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める)から,これを引用する。。
第8争点⑧(安全配慮義務違反の有無)について
1控訴人らの主張
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第7の1
(3)(105頁14行目から106頁10行目まで)に記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決105頁15行目,同頁22行目,106頁3行目,同頁7行目の
各「本件被害者ら」をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める。
(2)原判決106頁9行目から10行目にかけての「本件被害者ら」を「本件
中国人労働者らないしその遺族である控訴人ら」と改める。
2被控訴人会社の主張
原判決「事実及び理由」欄の第3章の第7の3(2)(原判決111頁14行
目から16行目まで)に記載のとおりである(ただし,文中の「本件被害者
ら」をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める)から,これを引用する。。
第9争点⑨(消滅時効の抗弁及び時効援用権の濫用)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第8(111
頁19行目から114頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(原判決の補正)
1原判決111頁22行目,113頁17行目の各「本件被害者ら」をいずれ
も「本件中国人労働者ら」と改める。
2原判決111頁25行目から26行目にかけての「第1回口頭弁論期日」を
「原審甲事件第1回口頭弁論期日」と改める。
3原判決112頁1行目,113頁24行目の各「第1回口頭弁論期日」をい
ずれも「原審乙事件第1回口頭弁論期日」と改める。
4原判決113頁19行目,同頁20行目の各「中国人労働者」をいずれも
「本件中国人労働者ら」と改める。
5原判決113頁22行目から23行目にかけての「第2回口頭弁論期日」を
「原審甲事件第2回口頭弁論期日」と改める。
6原判決114頁2行目「事業場報告書」を「本件事業場報告書」と改める。
第10争点⑩(強制労働を課した企業に対し強制労働条約25条に定める刑事制
裁措置を取らなかった被控訴人国の不作為の義務違反の有無)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第4(67頁
25行目から70頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
1原判決68頁16行目から19行目までを次のとおり改める。
「したがって,かかる被控訴人国の不作為は,違法な公権力の行使が行わ
れているという意味において,国賠法1条1項に基づく責任が発生している
というべきであり,被控訴人国は損害賠償責任を免れない」。
2原判決69頁2行目から4行目までを削る。
3原判決69頁5行目から10行目までを次のとおり改める。
「イ被控訴人国は,強制労働条約25条の義務について,他の締結国に対
して負う義務であり,それが控訴人らとの関係でも負担する職務上の義務
であることにはならないと主張する。
しかし,強制労働条約25条の義務が他の締結国に対して負う義務であ
るとしても,あくまで条約の適用対象(救済対象)となっているのは強制
労働に従事させられる被害者個人であって,その個人に対して強制労働か
ら免れさせたり,過去の強制労働に対してしかるべき謝罪や補償をすると
いう具体的な行為がなされていなかった以上,国家の義務違反の有無が当
然に問題とされるべきである」。
4原判決69頁11行目「エ」を「ウ」に改める。
5原判決69頁24行目から70頁3行目までを削る。
6原判決70頁4行目「(3)」を「(2)」に,同頁16行目「(4)」を「(3)」に,
同頁23行目「(5)」を「(4)」に,それぞれ改める。
第11争点⑪(日華平和条約・日中共同声明等による請求権の放棄)について
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第9(114
頁26行目から134頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(原判決の補正)
1原判決124頁3行目,同頁26行目,134頁17行目,同頁18行目の
各「本件被害者ら」をいずれも「本件中国人労働者ら」と改める。
2原判決129頁10行目,130頁13行目の各「交換公文」をいずれも
「附属交換公文」と改める。
第12争点⑫(控訴人らの損害額)について
1控訴人らの主張
(1)損害の発生と額
次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の第3章の第10の
1(134頁22行目から135頁8行目まで)に記載のとおりであるから,
これを引用する。
(原判決の補正)
ア原判決134頁22行目,同頁26行目の各「本件被害者ら」を「本件
中国人労働者ら」と改める。
イ原判決135頁6行目から7行目にかけての「原告ら」を「本件中国人
労働者ら」と改める。
ウ原判決135頁7行目,同頁8行目の各「各原告毎に」を「本件中国人
労働者ら各人ごとに」と改める。
(2)相続
アA1について
A1は,平成19(2007)年8月8日に死亡した。控訴人X4−①
(控訴人番号4−①,妻,同X4−②(控訴人番号4−②,長女,同))
X4−③(控訴人番号4−③,長男,同X4−4(控訴人番号4−④,)
二女,同X4−⑤(控訴人番号4−⑤,三女,同X4−⑥(控訴人番))
号4−⑥,四女,同X4−⑦(控訴人番号4−⑦,五女)は,中華人民)
共和国の相続法により,A1の相続人(相続分各7分の1ずつ)となる。
したがって,上記控訴人らは,前記(1)の1100万円の損害賠償請求
権を157万1428円ずつ相続した。
イA2について
A2は,平成19(2007)年11月4日に死亡した。控訴人X5−
①(控訴人番号5−①,妻,同X5−②(控訴人番号5−②,長女,))
),同X5−③(控訴人番号5−③,二女,同X5−④(控訴人番号5−④
三女,同X5−⑤(控訴人番号5−⑤,四女,同X5−⑥(控訴人番))
号5−⑥,五女,同X5−⑦(控訴人番号5−⑦,六女)は,中華人民)
共和国の相続法により,A2の相続人(相続分各7分の1ずつ)となる。
したがって,上記控訴人らは,前記(1)の1100万円の損害賠償請求
権を157万1428円ずつ相続した。
ウA3について
A3は,A4(没年不明)と母親(没年不明)の四男であり,長男A5
(昭和34(1959)年死亡,二男A6(平成13(2001)年死)
亡,三男A7(1970年代に死亡)の4人兄弟である。)
A3は,昭和20(1945)年9月11日,婚姻することも子をもう
けることもなく死亡した。
控訴人X6(控訴人番号6)は,A7の娘であり,A3の遺族は,控訴
人X6のみであるから,同人が,中華人民共和国の相続法により,A3の
相続人となる。
2被控訴人らの主張
争う。
第13争点⑬(謝罪広告掲載請求の当否)について
1控訴人らの主張
本件中国人労働者らの被害の大きさ及び被害の質の特殊性を考慮するなら,
本件中国人労働者らの苦痛に対する慰謝の措置を講ずべきは当然である。
2被控訴人らの主張
争う。
別紙5(当審における当事者の主張)
第1争点④(国家無答責の法理)について
1控訴人らの主張
(1)大審院が権力的作用に関して一貫して国の賠償責任を否定していたわけで
はないこと
ア大審院明治26(1893)年1月13日判決・大審院判決録明治26
年1頁及び大審院明治27(1894)年10月20日判決・大審院判決
録明治27年460頁にみられるように,大審院は,1890年代前半,
権力的作用に関する国の不法行為責任を認めており,この時期の国家無答
責の法理は未確立であった。
イ大審院は,1900年ころまでは国家無答責の法理を用いず,その後,
公益を根拠とする公法関係における免責法理としてこれを活用するように
なり,1920年代ころになって徐々に,権力的作用という理由付けで同
法理を適用するようになった。
すなわち,当初は,行政処分に関わる事件や行政処分に起因する請求事
件は却下し,行政処分が介在しない損害賠償事件については実体判断に入
り賠償責任を認める判断を行っていた。1900年代に入ると,実体法上
の根拠(刑事訴訟法14条,不動産登記法13条,戸籍法6条)を示しな
がら公法関係事件には民法は適用できないとの判断をするようになった。
その後間もなく,実体法上の根拠の提示を断念する代わりに「公益」と,
いう免責根拠を示したが,大審院大正5(1916)年6月1日判決・民
録22輯1088頁(徳島市立小学校遊動円棒事故賠償請求事件)を転機
に,1920年代に入ると,これまで公法関係と考えられていた法関係に
も民法を適用して損害賠償責任を認めるようになった。また,行政処分に
ついては,法令により権力性が付与された権限行使に起因するものにつき
国家無答責の法理により免責するようにもなった。そして最終的に,同法
理が適用されるべき国等の行為を「統治権ニ基ク権力行動」という文言,
に定式化したのである。
ウ大審院は,1900年以降の時期においても,後に権力的作用とみなす
ことになる行為について民法を適用し国等の責任を認めていた。
すなわち,違法な滞納処分に起因する民事上の請求事件につき,192
0年ころまでは先決問題として多くの事案で救済が認められており,当初
は権力的作用とは位置付けられていなかった。この違法な滞納処分は,1
920年以降になって「統治権ニ基ク権力行動」との位置付けにより権力
的作用とみなされるようになったのである。
エまた,大審院昭和16年11月26日判決・大審院判決全集9巻11号
6頁は,権力的作用による損害について,民法の不法行為上の責任を肯定
した。
オ以上のとおり,大審院は,権力的作用について一貫して国の責任を否定
していたわけではない。そして,大審院判例において国等が免責される権
力的作用は極めて限定されたもので,この権力的作用ないし「統治権ニ基
ク権力行動」は,国賠法上の公権力の行使の概念とは異なる極めて狭義の
概念である。すなわち,戦前の判例は,行為の法的性質を当該行為の法的
根拠に基づいて明らかにし,その範囲を「統治権に基づく権力行動」や
「行政行為」に限定したのである。
カなお,最高裁昭和25年判決は,家屋の破壊行為が「経済的活動の性質
を帯びるものではない」ことのみを理由に国の責任を否定したが,経済的
行為ではないとしても非権力的作用か否かの不可欠な検証がなされておら
ず,戦前の判例の延長線上にある判例と捉えることはできない。
よって,最高裁昭和25年判決は,経済的活動の性質を帯びるものでは
ないという広い意味の「公権力の行使」概念を用いて国を免責した点で,
権力的作用に限って免責を認めた大審院判例を逸脱し,免責範囲の拡張を
行ったのである。原審において控訴人らが主張した最高裁昭和31年判決
との対比からも,最高裁昭和25年判決を国家無答責の法理に関する判例
として援用することの不当性は明らかである。
(2)本件加害行為は権力的作用ではないこと
ア大審院判例から明らかなように,権力的作用であるためには「権力性,
には法令の根拠が必要であること」と「当該行為が日本国の統治権に服す
る地域・者に対するものであること」が必要となる。
イ中国人強制連行・強制労働の発端である中国人内地移入事業は,中国人
の労働力を日本国家の戦時体制の中で如何に効率よく利用するかという総
合経済的問題であった。この中国人労働者の内地移入は,本件閣議決定で
も,労働者の募集,斡旋に基づくものと位置付けられ,それは現代の労働
者派遣事業と同じ性質を有する事業で,戦前においては職業紹介法に規定
する「労務供給事業」と同じ性質の事業であり,その行為は商行為に類似
し,又はそれに比肩できるものである。
よって,中国人内地移入事業は,あくまで中国人の募集,斡旋という労
務供給契約を根拠とするものであり,法令に基づき付与された権限の行使
ではなく,また,こうした根拠(権限規範)に照らすと,移入事業は総合
経済領域の問題として,極めて私経済的ないし私法的性格を有するもので
あることは明らかである。
ウさらに,中国人内地移入事業を場面毎に見ると,それは中国における労
働力の募集,中国から日本への労働力の輸送,日本における使役(雇用)
である。そして,労働者を募集してこれを輸送し,使役(雇用)する法律
関係は,法令により付与された権限に基づき国が私人に対して一方的に行
う徴兵や徴用とは明らかに異なり,私人と対等の関係においてなす私経済
活動の諸行為にほかならない。
ただし,本件は,本来私人と対等の関係においてなす行為であるべき募
集や輸送,使役(雇用)が予定どおり履行されず,中国人労働者の自由意
思によらない強制連行・強制労働という形で実行されたのである。しかし,
制度設計が予想どおり履行されず,中国人の自由意思によらないというだ
けで,契約に基づいているにすぎない中国人内地移入事業が,いきおい法
令により付与された権限に基づいて行われる徴用や徴兵に変化するという
ことはない。単に,募集,輸送,使役(雇用)の各私的経済行為が,労働
者の自由意思によらず契約に沿わない違法な形で行われ,押し付けられた
というにすぎないのである。また,大審院判例は,単に暴力的・強制的と
いうことから権力的作用か否かを判断したのではない。
そうすると,本件加害行為は,被控訴人国が法令による権限の付与もな
く違法な私的経済行為を行ったにすぎず,権力的作用でないことは明白で
ある。
(3)国賠法附則6項「従前の例」に判例法理を含まないこと
随時変更の可能性を含意して示される判例は,国会の改正手続なくして変
更されない法令とは異なり,画一性のない極めて不安定なものである。こう
した不安定な性質をもつ判例を「従前の例」に含むものとして裁判所を拘束
することは,国賠法施行前事例に対する裁判所の判断を不安定にさせるもの
であり,解釈の限界を超えるものである。
また,実務上も「従前の例」は,旧法令または改正以前の法令を指すと,
いうのが一般的な立場であり,内閣府法制局も同様の立場である。
そうすると,国賠法附則6項「従前の例」には,判例法理たる国家無答責
の法理は含まれないことになる。こうした解釈は,立法沿革的に,国の不法
行為について民法715条などの不法行為規定を適用することが予定されて
おり,また,民法の文言上も国の不法行為責任について適用することに何ら
の障害もなかったこととも矛盾しない。
(4)大審院判例の射程は本件加害行為に及ばないこと
仮に「従前の例」に判例を含むとしても,本件加害行為には国家無答責,
の法理は適用されず,被控訴人国は免責されない。
ア前記のとおり,大審院判例は権力的作用として免責される国の行為を,
法令上の根拠に基づき「統治権に基づく行動」や「行政処分」に限定し,
加えて,国の権力的作用による損害であっても,民法の不法行為規定の適
用を認める余地に言及している。
また,法令の文理上も,権力的作用による損害について国の損害賠償責
任を認めることには何らの支障もなく,学説上も,権力的作用であること
をもって直ちに民法の不法行為規定が適用されないとはされていなかった。
本件と同種事案で大審院判例の射程外とした福岡高裁平成16年5月2
4日判決,宮崎地裁平成19年3月26日判決のほか,新潟地裁平成16
年3月26日判決,広島高裁平成17年1月19日判決,東京高裁平成1
5年7月22日判決,東京地裁平成15年3月11日判決,山形地裁平成
20年2月12日判決等,国家無答責の法理を排斥した裁判例は多く存在
する。これらの裁判例も,国による行為が権力的作用であることの一事を
もって民法の不法行為規定の適用を排斥していない。
イ本件加害行為については,仮に権力的作用であっても,現憲法下ないし
は旧憲法下の個人の尊厳の見地や正義公平の理念から国家無答責の法理は
排斥され,民法の不法行為規定が適用される。また,個人の尊厳を基底と
して定められた憲法17条の委任により定められた法律の合憲限定解釈の
見地からも,国家無答責の法理が排斥される。
この点,原判決は,国家無答責の法理の実質は,国の公権力の行使につ
いて民法の不法行為規定は適用されないというものであり,憲法17条に
違反する実定法が存在し,これを適用するものではないから,国賠法附則
6項により同法理が適用されても,憲法に違反する法律の適用を是認する
ものではないし,民法の不法行為規定が適用されないという解釈も同様で
あるとする。また,同様の理由で,国家無答責の法理の適用が憲法98条
1項に反するとした控訴人らの原審の主張を排斥した。
しかし,同法理が民法の解釈に関する判例法理であるとの立場に立って
も,憲法17条の委任を受けて制定された国賠法の附則6項「従前の例」
に国家無答責の法理を含むものとし,民法の不法行為規定の適用を否定す
るという解釈により本件に同法理を適用するのであれば,法令自体は合憲
であるとしても当該法令の違憲的な適用ないしは運用の問題は生じる。
また,憲法98条1項との関係でも,同規定は,憲法に反する法令等の
効果を否定することにより現憲法の根本価値を徹底する趣旨であるから,
違憲の法令等の効果を否定するだけでなく,違憲的な法令の解釈に基づく
法令の適用ないしは運用がなされた場合にはその効果を否定することも当
然に含んでいるというべきであり,本件において憲法98条1項の規定に
反しないかとの問題は生じる。
よって,原判決の上記判断は,控訴人らの原審主張を排斥する理由には
ならない。
2被控訴人国の主張
(1)国家無答責の法理は判例法理ではないこと
原審でも主張したとおり,行政裁判法と旧民法が公布された明治23年の
時点で,国の権力的作用について国が賠償責任を負う旨の法規は制定されず,
また,民法の不法行為の規定はこれに適用しないという法政策が採用された
のであり,国賠法施行前において,国家の権力的作用について損害賠償が否
定されたのは,かかる法政策に基づき国に損害賠償を認める根拠規定を置か
ないこととしたためであるから,民法の解釈問題が生じる余地はない。
なお,原判決は,平成16年法律第147号による改正前の旧民法(明治
29年4月27日法律第89号)法典調査会における穂積陳重の発言を一部
引用した上で,国家無答責の法理を基本的法政策として採用するか否かは未
決定の問題として残されていた旨判示している。しかしながら,上記審議の
原判決引用部分には続きがあり,穂積陳重は,最終的には当時のドイツのよ
うにする趣旨かという質問に対し「サウデス」と答えてこれを肯定してい,
る。当時のドイツにおいては,学説は種々あったものの,国家には特別法の
ない限り公権力の行使につき財産上の責任がないとするものであったから,
上記穂積陳重の発言をもって国家無答責の法理を採用するか否かは未決定の
問題として残されていたとするのは誤っている。
(2)本件加害行為が権力的作用ではないとする控訴人ら主張の誤り
ア権力的作用とは,国又は地方公共団体がその権限に基づく統治作用とし
て優越的意思の発動として行う作用をいい(東京高等裁判所昭和52年4
月27日判決・高民集30号78頁,それが労働関係という私経済的側)
面を有するか否かは,当該作用が権力的作用であるか否かの認定とは無関
係であり,一つの行為について「私経済的側面」があったとしても,公,
権力による優越的な意思の発動として行われている以上は権力的作用とい
うほかない。
また,仮に旧日本軍人らが,何ら法的根拠もなく,本件中国人労働者ら
を脅して強制連行したのであれば,公権力の行使に名を借りた職権濫用行
為にほかならず,もはや官吏としての行為と見ることはできないから,国
の行為とはいえないのであって,官吏個人の賠償責任の有無が問題となる
にとどまり,そもそも国家に対する損害賠償の問題は生じない。
イ本件において問題となっているのは,国が,いかなる者に対して,権力
的作用を及ぼし得るかという問題(本件では,外国にいる外国人に対し,
国の統治権に基づく優越的な意思の発動としての強制的・命令的作用を適
法に及ぼし得るかという問題)ではなく,外国にいる外国人に対して,権
力的作用を及ぼした場合に,国が,その国内法上,損害賠償義務を負うか
否かの問題であるが,明治23年に行政裁判法及び旧民法が公布され,公
権力の行使について国は損害賠償責任を負わないという基本的法政策を採
用した当時の我が国の法制において,外国人が被害者である場合には権力
的作用につき民法の不法行為規定を適用して国家責任を肯定し,日本人が
被害者である場合のみに民法の不法行為規定の適用を否定して国家無答責
となるという立場を採っていたとは到底考えられない。
(3)国家無答責の法理の適用制限に関する控訴人ら主張の誤り
明治憲法下における国家無答責の法理は,当時の各国の立法例のすう勢で
あって,明治憲法下においてはもちろん,日本国憲法を前提とする現在の価
値観から見て,国家無答責の法理の合理性を否定することは,全く根拠のな
いことである。
第2争点⑦(被控訴人らと本件中国人労働者らとの間の特別の社会的接触関係の
有無)について
1被控訴人国の主張
(1)華北労工協会を通じて被控訴人国が中国人労働者を港運業会に供給してい
たとする点について
原判決は,被控訴人国が,華北労工協会を通じて本件中国人労働者らを港
運業会に供給していたと評価することができる旨判示する(原判決196
頁。)
しかし,原判決の上記判示が,被控訴人国と控訴人らとの間の特別な社会
的接触関係を認定する上でいかなる意味を持つかは全く不明である。仮に,
被控訴人国について労務供給契約事業者としての安全配慮義務をいう趣旨で
あるとすると,それが失当であることは,原審において主張したとおりであ
る。
(2)勤労管理を運輸通信省に担当させていたとする点について
ア原判決は,被控訴人国が,港湾運送業における勤労管理を運輸通信省に
担当させていたと判示し(原判決136頁,同事実から「国は中国人),
労働者に対する勤労管理を行うべき立場にあった」とし,これを特別な社
会的接触関係の根拠とするようである(原判決196及び197頁。)
イしかしながら,原判決が上記認定の根拠とする甲第177号証2頁には,
「運輸通信省所管事業所(例港湾)に対する勤労管理」との記載があるの
みであって,原判決の判示するような「港湾運送業における勤労管理」と
は記載されていないし,そもそも「港湾運送業における勤労管理」が,具
体的に何を意味するかは全く不明である。また,事業場における労務管理
は,本来各事業者が行うべきものであり,各事業者は,中国人労働者を使
用中,その指導並びに保護に関して一切の責任を負うこととされていた
(指示要綱2項)のである。
ウまた,仮に運輸通信省が港湾運送業における勤労管理を担当していたと
しても,そのことが個別の労働者との労働契約の締結や,その労務管理を
意味するものとは考えられない。
すなわち,中国人労働者の使用,管理の詳細については,本件閣議決定
及び本件次官会議決定に定めがあるが,これらはいずれも,中国人労働者
の使用条件や管理方法は使用者たる企業が決定すべきことを前提として,
被控訴人国が当該企業に対し,企業の行う労務管理等に関し一定の指針,
準則を示したものにすぎないと解される。
むしろ,このような場合の被控訴人国と個別の労働者との関係は,事業
者に対する必要な指示,命令を介してのみ行われる間接的な関係であるこ
とが明らかである。例えば,昭和16年法律第19号による改正前の国家
総動員法6条は,政府が使用者と従業者との間の労働条件等に介入するこ
とは認めていたものの,国が直接契約の当事者となったり,労働者に対す
る直接具体的な支配管理を及ぼしたりすることは想定されておらず,国家
が労働条件等について公権的介入をしたからといって,労働者と国家の間
に雇用関係ないしこれに準ずる法律関係が成立することはない。現在の労
働基準法においても,労働者と使用者が対等の立場において決定すべきこ
ととされている(同法2条)労働条件等について,国が様々な介入をする
こととしているが,これによって,国家と労働者との間に契約関係ないし
これに準ずる法律関係が成立することはない。
(3)運輸通信省が同省通牒に基づき中国人労働者の移入管理業務を港運業会に
委任していたとする点について
原判決は,運輸通信省が,昭和19年4月1日付け運輸通信省通牒に基づ
き,中国人労働者の移入・管理事務を港運業会に委任していたと判示し(1
38及び196頁,同事実から,被控訴人国が「中国人労働者の勤労管理)
を委任した」とする。
しかしながら,原判決が上記認定の根拠とする各書証(甲34,92,9
5)を見ても,原判決が上記「委任」の根拠とする運輸通信省通牒の内容が
全く明らかにされていない。そもそも上記「移入・管理事務」の内容が明ら
かではないばかりか,それを「委任」したとする意味も不明であり,運輸通
信省が中国人労働者に対する勤労管理を港運業会に委任したとの事実は認め
られない。
一方,関係各証拠によれば,中国人労働者の移入,管理を自ら行うべき立
場にあったのは,本来的には中国人労働者を使用する各事業者であり,現に
港湾荷役業以外の分野においては各事業者が自ら行ったが,港湾荷役業にお
いては,港運業会が各事業者に代わり又はこれと共同して行ったものと認め
られる。かかる仕組みにおいて,本来的に,被控訴人国が中国人労働者の移
入,管理を自ら行うべき立場にないことは明らかであり,実際にも行ってい
なかったのであって,被控訴人国がそのような地位・権限を有しない以上,
これを他に委任する契約を締結することなどおよそあり得ないというべきで
ある。
(4)被控訴人国と港運業会及び被控訴人会社との関係について
原判決は,港運業会が被控訴人会社との間で本件使用契約を締結し,中国
人労働者を被控訴人国の軍需関連産業である港湾荷役作業に従事させていた
こと,港運業会は被控訴人国の広範な統制権限に服すものとされていたこと,
被控訴人会社が被控訴人国の統制権限に服する港運業会の監督を常時受けて
いたこと,被控訴人会社は,被控訴人国の方針に沿って設立された会社であ
り,昭和20年には運輸通信大臣により軍需充足会社に指定されたことを認
定し,同事実から,被控訴人国は,被控訴人会社が本件中国人労働者らから
労務の提供を受けることによって,間接的に本件中国人労働者らから労務の
提供を受けたということができるとか,被控訴人会社との関係でも本件中国
人労働者らの就労状況,生活状況について指導・是正を求めることができた
と判示する(原判決197頁。)
しかし,上記判示によっても,被控訴人国は,飽くまで「間接的に」本件
中国人労働者らから労務の提供を受け,港運業会及び被控訴人会社を「介し
て」本件中国人労働者らの労務管理をすることができたというにすぎないの
であるから,被控訴人国について直接具体的な労務の支配管理性は認められ
ない。
(5)華北労工協会所属の日本人駐在員が運輸通信省の嘱託の身分を兼ねていた
とする点について
ア原判決は,被控訴人会社に駐在する,華北労工協会の日本人駐在員が,
被控訴人会社の監督官庁である運輸通信省の嘱託員の身分を兼ねていたこ
とが認められると判示し(原判決146及び197頁,同事実から,被)
控訴人国が「直接本件被害者らを支配管理していたとみることもできる」
などと判示する(原判決197頁。)
イしかし,原資料が現存していない港湾労働者に関する契約書ないし対日
供出実施細目において,駐在員が監督官庁(運輸通信省)の嘱託員として
の身分を有していたかどうかは,少なくとも証拠上は明らかではないとい
うべきである。すなわち,原判決が引用している書証のうち,華北労工協
会の駐在員を監督官庁の嘱託とする旨記載されているのは,甲第87号証
(194頁)及び甲第89号証の2(10頁)のみであり,その余の証拠
では,単に駐在員が華北労工協会に属する旨が記載されているにすぎない
(甲6号証41頁,甲30号証117頁,甲107号証243頁)か,抜
粋等のため駐在員の身分について何ら記載されていない(甲第176号
証。また,駐在員は,おおむね労工500名に対し日系駐在所長1,華)
系駐在員1を付することとされている(甲第87号証194頁,甲第89
号証の2の10頁)が,華系駐在員までもが運輸通信省の嘱託の身分を有
するとすることは疑問である。さらに,駐在員と同様の身分にあると思わ
れる,移入の際に付される指導員は華北労工協会に所属し,企業の嘱託と
されている(甲30号証54頁。)
ウまた,日本人駐在員が運輸通信省の嘱託の身分を有していることがいか
なる法的意味を持つかについては何ら判示されておらず,同事実をもって
被控訴人国が本件中国人労働者らを直接支配管理していたとする原判決の
判示には,論理の飛躍があるといわざるを得ない。
(6)原判決の判断の矛盾
安全配慮義務は,労働者の労務に服する義務に対応して,使用者が労務の
給付を受け,労働者の労務を支配管理する法律関係に付随して生ずる義務で
あるから,当事者間に直接の雇用関係がない場合に雇用関係に「準ずる法律
関係」があるというためには,何らかの合意に基づく法律関係が当事者間に
存在することを前提として,双方が忠実義務を負う関係にある必要があると
解される。
原判決のように「雇用契約等を締結したのに準ずる法律関係」を認定する
ことは,被控訴人国が本件中国人労働者らに対し,安全配慮義務を負うこと
と同時に,本件中国人労働者らも被控訴人国に対し,労務を提供する義務を
負うと判断したことを意味する。一方,原判決は,本件中国人労働者らがそ
の意思に反して中国から七尾まで強制的に連行され,過酷な港湾荷役作業に
従事させられたとし(原判決174頁,同行為に関与した被控訴人会社の)
行為は民法709条の不法行為に該当するとまで判示している(原判決19
0頁)のであるから,上記作業への従事は本件中国人労働者らの意思による
ものではなく,本件中国人労働者らがそのような強制労働に従事すべき法的
義務を生じさせる契約上又はこれに準ずる法律関係が存在しないことを当然
の前提としているはずである。
このような判示は矛盾しているというほかない。
2控訴人らの主張
(1)事実の評価について
原判決の認定する,華北労工協会を通じて被控訴人国が中国人労働者を港
運業会に供給していたとする点,勤労管理を運輸通信省に担当させていたと
する点,運輸通信省が同省通牒に基づき中国人労働者の移入管理業務を港運
業会に委任していたとする点,被控訴人国と港運業会及び被控訴人会社との
関係,華北労工協会所属の日本人駐在員が運輸通信省の嘱託の身分を兼ねて
いたとする点などはいずれも,被控訴人国が政策として中国人労働者の移
入・管理を行い,積極的に関わってきたことを示す事実である。一つ一つの
事実が直ちに特別な社会的接触関係を導くものではないが,これらの事実を
総合すれば,被控訴人国が中国人労働者から労務の給付を受け,中国人労働
者を支配管理していたと判断することには何ら論理の飛躍はない。
また,本件強制連行・強制労働当時,国が戦時体制を整えるべく,国家総
動員法を制定し,人的・物的資源をその統制下に置いていたという時代背景
があったからこそ,被控訴人国が中国人労働者からの労務の給付を受け,支
配管理をしていたということができるのである。
なお,被控訴人国は,現在の労働基準法においても国が様々な介入をして
いるのであって,国家が労働条件等について公権的介入をしたからといって
特別の社会的接触関係とはいえないと主張している。しかし,本件強制連
行・強制労働当時の国家介入は戦時体制において労働力を国が管理する目的
であったのに対し,現在の国家介入は労働者の保護の目的であって,根本的
に異なる。さらに,本件強制連行・強制労働時の国の介入の内容は,中国人
労働者の食事内容・就労期間・賃金等労働契約の根本をなす部分の詳細にわ
たっている点でも,現在の国家介入とは根本的に異なる。
(2)事実誤認があるとの被控訴人国の主張について
事実誤認として被控訴人国が指摘しているのは,証拠の些細な表現の違い
等にすぎない。
また,被控訴人国は,中国人労働者の移入・管理を運輸通信省が担当し,
港運業会に委任したとの原判決の事実認定には誤りがあると主張しているが,
被控訴人国が,国家総動員法体制下において,中国人労働者の内地移入を閣
議決定し,試験移入を経て本格的に移入を実施したという経緯を全く無視し
ている。中国人労働者の移入及び管理を国が国策として実施していたことは,
証拠上明らかである。
(3)原判決の判断に矛盾がないこと
直接の契約関係にない当事者間において安全配慮義務を認めたこれまでの
最高裁判例(最高裁平成2年11月8日判決・判例時報1370号52頁,
最高裁平成3年4月11日判決・判例時報1391号3頁)は,何らかの合
意や双方の忠実義務をメルクマールとして安全配慮義務を導いてはいない。
むしろ,同最高裁判例が重視しているのは,雇用契約に準ずるような「労務
の提供関係」と「指揮監督の関係」である。
なお,債務不履行責任と不法行為責任の境界領域はあいまいであって,不
法行為規範が妥当するから安全配慮義務は一切成立しないというものではな
い。
第3争点⑪(日華平和条約・日中共同声明等による請求権の放棄)について
1控訴人らの主張
(1)日中共同声明による放棄の対象
ア戦争法における2つの違法
戦争法では2種類の違法行為があり,両者は性質の異なるものである。
一つは,国家の戦争権についての違法である。近代国際法において,国
家の戦争権は制限されていて,国家は戦争権に違反して侵略戦争のような
戦争を起こした場合には,戦争賠償責任を負わなければならない。
他の一つは,武力衝突法での違法である。武力衝突法とは,戦争遂行中
の交戦法規(戦争手段に対する国際法の制限)と国際人道法(捕虜と文民
に対する人道的待遇)である。かかる法規への違反に対しては,侵略国か
被侵略国かは関係なく,国家責任を負わなければならない。
イサンフランシスコ平和条約で放棄されたもの
サンフランシスコ平和条約は,戦争権違反による責任と武力衝突法違反
による責任とを分けて規定をおいている。
連合国の放棄する権利につき,同条約14条bでは,戦争法上の2つの
責任に対応するように,連合国は「すべての賠償請求権」と「戦争遂行中
にとった行動から発生したその他の請求権」の二つの権利を放棄している。
これに対して,日本の放棄する権利につき,同条約19条aは「戦争状
態が存在したためにとられた行動から生じた連合国及びその国民に対する
日本国及びその国民のすべての請求権」と規定している。つまり日本が放
棄できるのはあくまでも武力衝突法違反による請求権のみであって,戦争
権違反による責任(すべての賠償請求権)ではない。第二次世界大戦「」
において戦争権違反を行ったのは侵略国たる日本のみであり,連合国では
ないのだから,このような規定の仕方は当然のことだったのである。
サンフランシスコ平和条約においては,戦争賠償について,このように
連合国の権利,日本の権利いずれについても,連合国の戦争権違反という
観念できないものを除いて,相互に放棄することとされた。
ウ日中共同声明の規定
日中共同声明がサンフランシスコ平和条約と決定的に異なるのは,同声
明には日本からの放棄の規定がないことである。
中国が放棄したのは,戦争権違反による日本に対する賠償請求権のみだ
ということである。戦争権違反による責任は,侵略国たる日本が一方的に
負担しているものだから,中国が一方的に放棄することが可能なことは,
サンフランシスコ平和条約における連合国と日本との関係と同じなのであ
る。ところが,同声明がサンフランシスコ平和条約と異なり日本からの放
棄条項がないということは,日中両国の武力衝突法違反による請求権は,
いずれも放棄されていないのである。
仮に,中国が武力衝突法違反による日本に対する請求権も放棄したのだ
とすると,同じく武力衝突法違反による中国に対する日本の請求権はどう
なったのか。戦争状態にある2国間において,戦争ルール違反が生じ得る
ことは当然予測されることである。ところが中国側の請求権のみが放棄さ
れ,日本側の請求権が放棄されないなどということがあるだろうか。およ
そ考えられないことである。
したがって,サンフランシスコ平和条約との比較において,日中共同声
明において中国が放棄したものは,日本の戦争権違反による賠償請求権の
みであり,武力衝突法違反による請求権は同声明では何ら放棄されていな
いのである。そして,本件で問題となっている控訴人らの日本国に対する
請求権は,国際人権法という武力衝突法違反についての請求権であり,日
中共同声明5項により請求権放棄がされていることはないのである。
(2)中華人民共和国政府の対応・論評
ア中国政府の外交部は,最高裁平成19年判決が中国側の意向を無視して
一方的に個人の請求権を含めて放棄したと解釈したことに対し,強く抗議
をしている。
また,上記事件について最高裁が口頭弁論を開くことを決定したことに
対し,平成19年3月13日の中国政府の外交部の報道官の定例記者会見
で,民間賠償請求に対する中国政府の立場を尋ねられたことに対し「1,
972年の『中日共同声明』署名時に,中国政府はすでに戦争賠償問題へ
の立場を明確に表明した。この立場に変更はない。指摘しておきたいのは,
労働者の強制徴用と奴隷的酷使は,日本の軍国主義が侵略戦争中に犯した
重大な罪の1つだということだ。日本側が歴史に責任を負う姿勢に基づき,
この問題に真剣に対処し,適切に処理することを望む」との見解を表明し
ている。
さらに,同年3月15日には,中国政府外交部が「中日双方は中日共,
同声明について一方的に解釈してはならない」と表明した。
これら最高裁平成19年判決の前後に中国政府が表明した見解では,い
ずれも日中共同声明は個人の請求権放棄まで含めた戦後処理を行うもので
はないことを明らかにしている。最高裁平成19年判決,ひいては,これ
を踏襲する原判決は,中国政府の見解を無視して日中共同声明を解釈して
いるというべきである。
イ中国政府は,最高裁平成19年判決だけでなく,多くの戦後補償裁判の
結果(判決等)について論評している。個人の賠償請求権があるとの立場
から,いわゆる民間賠償請求を行っている同種訴訟について,中国政府が
関心を持っているだけでなく,裁判の結果に対しコメントを出し,日本政
府に補償も含めた責任のある適切な対応をするよう求めている。
本件のような強制連行・強制労働については,中国政府は「戦争遺留問
題」として,被害者個人への日本政府による補償を含めた適切な対応をす
ることを求めている。個人の請求権が放棄されていないという立場からの
日本政府への要求である。
中国政府は,決して,個人の請求権の問題が日中共同声明5項による放
棄によって解決済であるという態度をとっていない。
(3)日中共同声明5項に「国民」の文言がないこと(補足)
中国政府が,日中共同声明の交渉過程において最初に示したのは「中華,
人民共和国政府は,日本国に対する賠償の請求権を放棄する」との案文で。
あり,やはり国家間の賠償請求権のみを問題にしている。その後の交渉過程
において,日中両国政府の間で個人の請求権を問題にしたという資料はない。
つまり,中国政府は当初から国の請求権のみを問題にしていたのであり,
個人の請求権をも含めた処理などということは全く念頭に置いていなかった
ことがうかがわれる。日本政府も,個人の請求権について考慮しつつも,日
中国交正常化という大目的のために「国民」の文言をあえて入れなかった,
のである。戦後補償裁判についての前記中国政府の反応は,日中共同声明に
ついての上記のような交渉過程を裏付けるものといえる。
したがって,原判決は,中国政府の交渉態度に照らしても誤りである。
(4)請求権放棄の抗弁の主張は権利濫用又は信義則違反であること
仮に,日中共同声明5項が個人の請求権放棄を規定した条項とした場合,
被控訴人らが,同項に基づく請求権放棄の抗弁を主張することは,権利濫用
(民法1条3項)もしくは信義則違反(民法1条2項)にあたる。
ア一民間人であった本件中国人労働者らは,いきなり日本軍に拉致され海
を隔てた異国の地に連れ去られ,着るものも食べるものも住むところもど
れも人間らしい生活以下の環境に置かれ,朝から晩まで厳しく監視されな
がら苛酷な労働に従事させられた。被控訴人国は,原審において強制連
行・強制労働の事実関係につきその認否すら行わないという不誠実きわま
りない訴訟態度をとり続けたが,被控訴人らによる人権侵害の事実,個人
の尊厳を一顧だにしない非人道的処遇の実態が本裁判上も明らかになった。
強制連行・強制労働という甚だしい人権侵害を行った当事者たる被控訴
人らが,その強制連行・強制労働により発生した控訴人らの損害賠償請求
権につき,日中共同声明5項に基づく請求権放棄の抗弁を主張することは,
権利の濫用として許されるべきではない。
イ被控訴人国は,政府答弁として,日中共同声明5項が外交保護権放棄を
定めたものと明言していたにもかかわらず,最高裁平成19年判決を奇貨
として同条項が請求権放棄を定めたものと主張することは,禁反言の法理
に照らし,信義則に反するものというべきである。
ウ被控訴人国は,本件に関する証拠を意図的計画的に隠匿したのであり,
かかる被控訴人国が請求権放棄の抗弁を主張することは権利の濫用に当た
るというべきである。
すなわち,本件を含む強制連行・強制労働の実態を記録した「華人労務
者就労事情調査報告書について(甲第9号証)は,昭和35年3月17」
日に外務省中国課が出した文書であるが,かかる文書について,被控訴人
国は「全部焼却したそうでありまして,現在外務省としては,そうした,
資料を1部も持っておらない次第でございます」と同年5月3日,衆議。
院特別委員会で政府答弁を行っている。これは,第1に,強制連行・強制
労働の事実自体を闇から闇に葬り去ろうとした証拠隠滅行為と評価できる。
第2に,実際には報告書を所持しながら「全部焼却」し残存しないなどと
虚偽の国会答弁を行った点でも証拠隠滅行為と評価できる。
かかる意図的計画的な証拠隠滅行為を行った被控訴人国が請求権放棄の
抗弁を主張することは,正義・公平の理念に反し,権利の濫用として許さ
れないものというべきである。
エ最後に,日中共同声明5項が国家による個人の請求権放棄まで規定した
ものとすれば,かかる規定は国際法上の強行法規たるユス・コーゲンスに
違反するものであり,著しく重大な違法性を有する無効な規定である。
したがって,被控訴人らが請求権放棄の抗弁を主張することは,かかる
国際法上の強行法規に違反する条項を主張しているという意味でも,正
義・公平の理念に反し信義則違反に当たる。
(5)対人主権を理由に国が個人の請求権の処理を行い得るとした原判決の誤り
原判決は,国家が対人主権に基づき個人の請求権の放棄を行い得ることを
前提としている。
しかし,原判決は請求権放棄を行い得る理由として「対人主権」という,
文言以外には何らの説明を行っておらず,対人主権によりなぜ個人の請求権
の放棄が可能なのかについては全く説明をしていない。そもそも,原判決中
には「対人主権」についての定義もなく,原判決が「対人主権」をいかな,
る意味にとらえているかすら定かではない。
原判決が「対人主権」を理由とすればいかなる国民の権利や請求権も国家
が処理できると考えているとしたなら「対人主権」によって国家は国民の,
生殺与奪の権を握っていることになり,明らかに人権を無視した荒唐無稽な
見解である。
日本国憲法の教科書では「対人統治権」あるいは「対人高権」という文,
言が国民に対する支配権という意味で用いられていることがあるが「対人,
統治権」や「対人高権」は絶対的ではなく,憲法や国際法の制限に従うもの
であることは当然のことといわなければならない。そして,個人の損害賠償
請求権に関しては,国際法は,重大な国際人権法・国際人道法違反の被害者
は救済を受ける権利を有するとして発展してきたのであって,国家はそうし
た被害者の権利を自由に処分することはできない。
したがって,仮に「対人主権」なるものを認めるとしても,決して無制限
であってはならず,本件のような人道上の犯罪に該当するような損害賠償請
求権については,国家は個人に代わって請求権を放棄することはできないの
である。
(6)国内法上の措置を必要とせず国内法的効力が発生するとした原判決の誤り
ア原判決は,日中共同声明5項が定める請求権の放棄には,その内容を具
体化するための国内法上の措置を必要とせず,国内法上の効力が認められ
ると判示している。
しかし,そもそも国内法上の措置あるいは国内法上の効力とは,中華人
民共和国内のものをいうのか日本国内のものをいうのかが明らかではない。
また,なぜ国内法上の措置を必要とせずに国内法上の効力が認められるか
について,原判決は「請求権の放棄は,請求権に基づいて裁判上訴求する
ための権能を失わせることを意味するものであるから」という以外に何ら
の理由を述べていない。
イそもそも国際法規はそのままでは国内で適用または執行できず,国内法
への編入については憲法上特段の措置を経なければならない。比較憲法的
にみると,事前に条約の内容を法律として変型する必要があるとする変型
方式と条約をそのままの形で国内法として一般に受容し執行する一般的受
容方式の二つがある。変型方式の場合は,国内法上の措置なくして条約が
国内法的効力を有することはありえない。
多くの国が採用している一般的受容方式の場合であっても,条約の多く
は国家相互間の権利義務を定めるのが通例であるので,条約内容を私人相
互間または国家機関と私人との間の法律関係に適用するためには,国内法
による具体化が必要とされている。
日中共同声明5項をみると「中華人民共和国政府は,中日両国民の友,
好のために,日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言す
る」と定めたのみで,具体的な内容は一切規定していない。とするなら。
ば,日本国内であれ中国国内であれ,日中共同声明5項による請求権放棄
の国内法上の効力を認めるためには国内法による具体化が必要と考えるべ
きである。
ウ原判決は,控訴人らが求めた国際法を直接の根拠とした損害賠償請求権
については,国家と個人との間の権利義務関係を規律するためには明文上
の権利義務に関する規定や権利行使のための手続が定められていることを
要すると厳格に解釈して,これを認めていない。
その一方で,請求権放棄の場合には,その内容を具体化する国内法上の
措置を要せずして国内法上の効力を有すると判示した。
いずれも人道上の犯罪に関する損害賠償請求権の得失に関するものであ
るが,いかなる法的根拠に基づく損害賠償請求権をも放棄するという請求
権放棄の場面の方が,国際法上の請求権を追加して付与する場面に比べ,
個人への影響は甚大である。にもかかわらず,国際法上の請求権の場合に
は具体化する措置を必要とし,請求権放棄の場合はこれを不要とするのは,
明らかに均衡を失しているといわざるを得ない。
エしたがって,国内法上の措置を何ら要せずに請求権放棄の国内法上の効
力を認めた原判決には重大な誤りがある。
(7)ユス・コーゲンスについて(補足)
ア下記の経緯からすれば,強制連行・労働の禁止は,①後述の条約等の制
定を経て,遅くとも第2次世界大戦直後ころまでには,確固たる国際慣習
法となっており,②その後,1969(昭和44)年5月の条約法条約の
採択によって,国際慣習法としてユス・コーゲンスの地位を獲得したもの
である。
(ア)奴隷条約は,1926(大正15)年9月25日,日本も加盟する国
際連盟第7回総会で採択された。日本は同条約を批准していないも,パ
リ条約(1814年,1815年,ロンドン条約(1841年,ワ))
シントン条約(1862年)に連なる発展の結果,国際連盟の採択によ
り発効したものである。
このような国際法の歴史的発展の経過にかんがみれば,奴隷制及び奴
隷類似の慣行の禁止は,慣習国際法の強行規範またはユス・コーゲンス
の地位を獲得した最初の禁止と位置づけられ,この禁止は19世紀に始
まり20世紀初めまでには慣習国際法の地位を達成していたことが明ら
かである。
(イ)強制労働条約(ILO29号条約)は,1930(昭和5)年6月2
8日に採択され,日本も1932(昭和7)年11月21日に批准して
いる。同条約は,奴隷条約を補完するものとして起草されたものである。
奴隷条約から強制労働禁止条約へと連なる発展は,強制労働が,奴隷
的労働という個人の尊厳を否定する非人間的な重大な結果を招くという
認識のもと,人身の自由を保障する国際的な人権法規が発展し,国際慣
習法に至ったことを示すものである。
(ウ)日本が1911(明治44)年11月6日に批准したハーグ陸戦条約
3条においては,条約違反行為により損害を被った個人が当該交戦当事
者に対して直接損害賠償請求権を有することを定めている。
1949(昭和24)年のジュネーブ諸条約は,共通条項で,各条約
で保護された者の状況に不利な影響を及ぼし又は各条約上与えられる権
利を制限する別の特別協定を締約国が締結することを禁じている(6/6/
6/7条)ほか,締約国は条約の重大な違反行為に関して自国が負うべき
責任を免れ,又は他の締約国をしてその国が負うべき責任を免れさせて
はならないと規定する(51/52/131/148条。これらの内容は,ハーグ)
陸戦条約3条の趣旨を発展させたものであり,強制連行・強制労働のよ
うな,国際人道法の基本原則違反によって生ずる賠償請求権を放棄する
ことは許されないという規範が,国際慣習法として,国際社会に受容さ
れていく過程を如実に物語るものである。
(エ)第二次世界大戦直後制定された極東国際軍事裁判所条例第5条は,
「人道に対する罪」を定め,一般的な刑事手続と異なり,その適用を戦
争開始時点まで遡及させ刑事判決を下した。その結果について,日本政
府は1951(昭和26)年に連合国との間で平和条約を締結して判決
の正当性を承認しているばかりでなく,国際的にも格別の異議なく承認
されている。
この経過は,強制連行・強制労働のような「人道に対する罪」が,遅
くとも第二次世界大戦直前には,刑事犯罪として,既に国際慣習法とし
て形成定着していたものであることを示している。
(オ)上記のような条約の制定,それに連なる国際慣習法の生成にみられる
ような国際人権保障に向けた人類の長年にわたる努力の成果は,条約法
条約によって結実する。ユス・コーゲンスを規定した条約法条約は,1
969(昭和44)年5月,唯一反対票を投じたフランスを除き,国際
社会の圧倒的な承認のもとで採択されたのである。
強制連行・強制労働の禁止は,この時点で,国際法上の強行規範とし
てのユス・コーゲンスとしての地位を獲得したものである。
(カ)ユス・コーゲンスは,国際法において広く承認され,国際司法裁判所
において,1969(昭和44)年の北海大陸棚事件判決および198
6(昭和61)年のニカラグア事件(本案)判決で言及されている。
1993(平成5)年3月に国連の人権小委員会に提出された「ファ
ン・ボーベン最終報告書」は,重大な人権侵害に関して,個人または個
人の集団は,国際法の下で実効的な救済を受ける権利があり,重大な人
権侵害に対する被害回復に関する請求は時効に従うべきではなく,また,
いかなる者も,被害回復に対する請求権を放棄するよう強制されない旨
述べている。
2005(平成17)年12月16日に国連総会で採択された「重大
な国際人権法,国際人権法違反の被害者が救済及び補償を受ける権利に
関する基本原則およびガイドライン」は,奴隷の禁止や強制労働の禁止
といった重大な国際人権法の違反に対しては,時効は適用されてはなら
ないこと,前文においてハーグ陸戦条約に言及して,少なくとも190
7(明治40)年以後に国際人道法違反の被害者が救済を受ける権利を
有していたことを確認している。
また,人権小委員会は,著名な「マクドゥーガル最終報告書」及び
「マクドゥーガル最終報告書最新版」の提出を受け,2000(平成1
2)年の決議において,慣習国際法であるハーグ陸戦規則に違反した交
戦当事者は,被害者に対して損害賠償責任を負うのであり,その違反に
関する国家および個人の権利義務は,国際法の問題として,平和条約,
平和協定,恩赦またはその他いかなる手段によっても消滅させられ得な
いとみなしている。
近時もアメリカ合衆国下院議会(2007〔平成19〕年7月,オ)
),ランダ下院議会(同年9月,カナダ下院議会(同年11月)において
第二次世界大戦中に日本が行ったさまざまな非道な加害行為に関して,
日本に対して謝罪要求・補償要求が決議されているのである。これらの
決議は,平和条約によっても放棄することのできない責任があることを,
国際社会が認めていることを表している。
イ日本国が本件強制連行・強制労働という重大な国家犯罪を犯したにもか
かわらず,二国間のいわゆる請求権放棄条項により,中国人民の裁判上の
訴求権能を喪失せしめ,控訴人らの被害救済の途を完全に閉ざすことは,
強制連行・強制労働の禁止を内容とするユス・コーゲンスを逸脱するもの
であり,請求権放棄条項はユス・コーゲンスに違反するものとして無効で
ある。
2被控訴人国の主張
(1)最高裁平成19年判決により,控訴人らの損害賠償請求が,いかなる理由
によっても認容される余地がないことは明らかである。控訴人らの批判は控
訴人らの独自の見解を前提としたものであり,もとより失当である。
(2)日中共同声明5項は「戦争賠償の請求」のみに言及しているが,その結果
は日華平和条約による処理と同じであることを意図したものである。した
がって,ここには先の大戦に係る中国国民の日本国及び日本国民に対する請
求権の問題も処理済みであるとの認識が当然に含まれているのであり,中華
人民共和国政府においても,同様の認識であるものと承知している。
(3)以上のとおり,先の大戦に係る日本と中国との間の請求権の問題について
は,個人の請求権も含めて存在しないのであるから,日中間においては個人
の請求権の問題が解決されていない旨の控訴人らの主張は失当である。
3被控訴人会社の主張
(1)権利濫用及び信義則違反について
被控訴人会社は,そもそも国策に従属的に関わってきたにすぎず,また,
そもそも請求権放棄の対象となるものが戦時中の請求権であり,被控訴人会
社において請求権放棄の抗弁を主張することが権利の濫用に該当し,又は信
義則に違反するなどとはいえない。
(2)ユス・コーゲンスについて
日中共同声明5項は強制連行・強制労働を許容する条項を定めたものでは
なく,平和条約として個人の請求権を含め戦争の遂行中に生じたすべての請
求権を相互に放棄する条項を定めたものにすぎない。したがって,かかる条
項がユス・コーゲンスに違反し無効であるというためには,単に強制連行・
強制労働の禁止を内容とするユス・コーゲンスが存するというだけでは足り
ず,上記のような請求権放棄の禁止を内容とするユス・コーゲンスが存在し
なければならない。しかし,日中共同声明の発出及び日中平和友好条約の締
結当時,そのようなユス・コーゲンスが存在したとはいえない。

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