弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の申立
一 請求の趣旨
1 旧沖縄弁護士会〔沖縄の弁護士法(一九六七年立法第一三九号)の規定による
沖縄弁護士会をいう。以下同じ。〕が昭和四七年四月三〇日付書面(沖弁第四八八
号)をもつて、原告に対してなした、原告の弁護士名簿登録を拒絶する旨の処分を
取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、学校法人A大学法学部において、昭和四〇年四月一日から七年以上に
わたり、国際法(国際取引法)を担当する助教授の職にあり、沖縄における弁護士
法四条二号、四号によつて沖縄の弁護士となる資格を有する者であつた。なお、右
期間の在職により、原告は日本の弁護士法(昭和二四年法律第二〇五号)五条三号
によつて日本の弁護士となる資格をも有していた。
2 原告は、沖縄の弁護士法による弁護士として登録すべく、昭和四六年九月一六
日、旧沖縄弁護士会に対して、同法八条による登録の請求をしたところ、同弁護士
会は、請求の趣旨第一項記載の書面をもつて、原告の登録を拒絶する旨を原告に通
知し、同年五月四日原告はこれを受領した。しかしながら、右処分は不当である。
よつて、同弁護士会のした右処分の取消を求める。
なお、原告が本訴により右処分の取消を求める利益を有することは、二の2に主張
するとおりである。
二 訴訟要件に関する当事者の主張
1 被告
(一) 原告が登録の請求をした旧沖縄弁護士会は、沖縄の本土復帰と同時にその
法的根拠を失つて消滅したものであり、また、右弁護士会と日本の弁護士法に基づ
いて設立されたものとなつた復帰後の沖縄弁護士人会とではその設立の根拠法、会
員たる弁護士の資格を異にするのであつて、原告の請求する権利および義務を承認
する関係は存在しない。したがつてまた、被告弁護士会には原告の求める沖縄の弁
護士法四条二号、四号を根拠とする弁護士名簿登録をする権限はこれを有しないの
である。かように、被告は本訴の正当な当事者となりえないものであるから、原告
の訴は不適法として却下を免れない。
(二) つぎに、原告は、原告に対する処分が取り消されるときは、被告弁護士会
においてさきに原告においてした登録の請求を日本弁護士連合会に進達する手続を
取るべきことになるから訴の利益が存すると主張するが、旧沖縄弁護士会が原告か
ら請求を受けたのは、沖縄の弁護士法による登録についてであり、日本の弁護士法
による登録については、なんらの請求もなく、また処分もないから、右は本件処分
の取消を利益あらしめるものではない。
(三) かりに、原告が沖縄の弁護士法による弁護士となる資格に基づいて、日本
弁護士連合会に対する進達の手続を求めているとするならば、被告弁護士会は、右
の資格による登録の請求を同連合会に進達する義務にないから、原告には訴の利益
がなく、また、被告弁護士会は、旧沖縄弁護士法に基づく弁護士資格については審
査権を有しないから、本訴は無意味である。
(四) また、旧沖縄弁護士会による処分があつたところで、原告はいつでも日本
の弁護士法による登録の請求をなしうるのであつて、日本の法律上、なんらの不利
益を受けるものではないから、本訴によつて処分の取消を求める利益を有しない。
したがつて、いずれにせよ、本訴は不適法として却下を免れない。
2 原告
(一) 被告は、本訴につき正当な当事者でないと主張するが、「琉球列島及び大
東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」五条一項は、琉球諸島及び
大東諸島における裁判所が本土復帰前にした民事の最終的裁判が有効であつて、そ
の効力を完全に存続させる旨、同条二項は、復帰の日に右の裁判所に係属している
民事事件については、日本国が裁判権を引き継いで、引き続き裁判及び執行をする
旨定めており、また、昭和四六年六月一七日公表の「復帰後の沖縄における外国人
および外国企業の取扱いに関する愛知外務大臣発マイヤー駐日アメリカ合衆国大使
あて書簡」五項一号には、外国人自由職業者の取扱いが定められているが、右書簡
は、外国人自由職業者を例外的に保護する目的で発せられたものである。さらに、
一国の領土の変更があつた場合には、その領域の行政上の事項に関するすべての権
利義務は、譲受国により当然に承継されるとするのが国際法上の原則である。
右の定めと国際法上の原則からすれば、本土復帰前に沖縄の司法機関が取り扱つた
事件はもとより、他の公共的機関ことに公共的使命を有する弁護士会が取り扱つた
事務、その機関の構成メンバーの地位等が、原則として、復帰後、相当の機関に承
継され、または承認されることを前提として、本土復帰が実現したものというべき
であつて、人権の擁護、社会正義の実現を使命とする弁護士会が、復帰を境にして
同一性を失うとか、または復帰前の旧沖縄弁護士会の取扱事項であつたものを復帰
後の被告弁護士会が承継しないとするいわれはない。そして、右協定ないし書簡に
は、旧沖縄弁護士会または同会が取り扱つた事項に関して有していた権利および義
務の承継について格別の規定はないが、かような場合には、前記国際法上の原則に
より、沖縄の弁護士会は本土復帰の前後を通じて同一性を失わず、または失わない
場合に準じて取り扱わるべきであり、また、旧沖縄弁護士会が取り扱つた事項に関
して有していた権利および義務は、被告弁護士会が当然承継すべきものである。
なお、「沖縄の弁護士資格者等に関する本邦の弁護士資格等の付与に関する特別措
置法」(昭和四四年法律第三三号)も復帰前後の沖縄弁護士会の同一性および取扱
事項に関する権利および義務の承継を否定していないし、「沖縄の復帰に伴う特別
措置に関する法律」(昭和四六年法律第一二九号、以下、本法を「特措法」とい
う。)四八条は、旧沖縄弁護士会と復帰後の沖縄弁護士会とが同一性を保つている
ことを前提とするものと解すべきである。
(二) しかして、旧沖縄弁護士会がした本件処分が取り消されるときは、原告の
した登録の請求は、日本弁護士連合会に対する登録の請求の進達を求めるものとし
て取り扱われるべきものとなると解すべきであるから、本訴はその利益を有するも
のである。
○ 理由
一 原告が旧沖縄弁護士会に対して、その主張の資格に基づいて沖縄の弁護士とな
るべく、弁護士名簿への登録を請求したところ、同弁護士会が、昭和四七年四月三
〇日付書面をもつて原告に対しその請求にかかる登録を拒絶する処分をしたこと
は、被告の明らかに争わないところであるから、被告においてこれを自白したもの
とみなすべきである。
二 被告は、旧沖縄弁護士会のした右処分に関する権利義務関係を承継するもので
はないと主張するので検討する。
本訴は、沖縄が日本本土に復帰する直前「昭和四七年五月一二日に原告から旧沖縄
弁護士会を被告として提起されたものであり、旧沖縄弁護士会は、復帰後、特措法
四八条により沖縄の弁護士法に相当する法令である弁護士法に基づく相当の法人と
して沖縄弁護士会となつたものと解すべきである。しかして、同条にいう、「本土
法令に相当する沖縄法令に基づく法人」が「当該沖縄法令に相当する本土法令に基
づく相当の法人となる」との趣旨は必ずしも明らかでないが、もともと、法人格は
法律の規定によつて付与されるものであつて、当該法令がその効力を失うときは法
人格も消滅するものと解すべきであるから、なんらの規定もなければ、沖縄の弁護
士法が復帰に伴い失効した時点において旧沖縄弁護士会もその法人格を消滅するも
のと解すべき筋合であるけれども、他方、特措法三六条ないし三九条、四一条、四
三条がそれぞれ所定の法人について本土の既存の法人等にその権利義務が承継され
ることを定めているのに、四八条所定の法人についてはかかる文言を用いていない
ことに徴すれば、前者については、復帰前の沖縄における法人はそれぞれ復帰の日
に原則に従い法人格を失つて消滅するものとしてその権利および義務の承継関係を
定めたものであり、後者(四八条所定の法人)については、特別にその法人格を消
滅せしめないまま本土の相当法令に基づく法人に移行せしめることによつて、復帰
前の法人が有していた権利および義務は、復帰後の相当法人が当然にこれを有する
こととなるものとした趣旨と解される。
したがつて、被告弁護士会は、旧沖縄弁護士会が有していた権利および義務関係の
当事者となる結果、本訴の被告たる地位を取得したものと解すべきであるから、右
にいう権利義務関係を承継するものでないとし、正当な当事者でないことを理由に
本訴の却下を求める被告の本案前の抗弁は理由がない。
三 よつて、原告が本訴によつて本件登録拒絶処分の取消を求める利益の有無につ
いて検討する。
原告が、旧沖縄弁護士会に対してなした本件登録の請求は、沖縄の弁護士法の規定
による弁護士名簿への登録をし、復帰前の沖縄における弁護士となることを目的と
するものであつたことは、その主張に徴して明らかであるところ、沖縄の弁護士法
は昭和四七年五月一五日の本土復帰と同時にその効力を失つたものと解すべきこと
前示のとおりであるから、かりに、原告が本件登録拒絶の処分を取り消す旨の判決
を得たとしても、原告はもはや沖縄の弁護士法の規定に基づく登録を受けて弁護士
となることができず、したがつて、その限りでは、原告が本訴の利益を有しないこ
とは明らかである。
ところで、原告は、本訴の利益を基礎づける理由として、本件登録拒絶処分が取り
消されたときは、原告のした登録の請求は、日本の弁護士法の規定によつて被告弁
護士会に対し、日本弁護士連合会に対する登録請求の進達を求めたものとして取り
扱われるべきものである旨主張するので、その主張の当否についてさらに検討を進
める。
本件において、かりに、原告に対する登録拒絶の処分が取り消されるときは、原告
において復帰前に旧沖縄弁護士会に対して登録の請求をしたが、いまだこれに対す
る処分がないまま復帰に至つた場合と同様の状態を生ずることとなるから、まず、
復帰前に旧沖縄弁護士会に対してなされた登録の請求につきこれに対する処分のな
いまま復帰の日を迎えた場合に、復帰後これをいかに取り扱うべきであるかについ
て考えてみるに、かかる場合の取扱いに関しては、復帰によつて生ずべき事態に対
処するために制定された特措法その他の法令にはなんらの直接の定めが見当たらな
い。すなわち、沖縄法令による免許等の効力の承継について定めた特措法五三条一
項によれば、同法施行前に、本土法令の規定に相当する沖縄法令の規定によりされ
た申請の手続は、別に法律に定めがある場合及び沖縄と本土との間において処分の
基準が著しく異なる等特別の理由がある場合を除き、政令(等)で定めるところに
より、それぞれ本土の相当規定によりされた処分または手続とみなされる旨定めら
れているが、沖縄の弁護士法八条に基づいてされた登録の請求について特別の定め
をした政令は存在しないのである。そして、かえつて、特措法一五六条に基づいて
制定された「沖縄の復帰に伴う法務省関係法令の適用の特別措置等に関する政令」
(昭和四七年政令九五号)七条には、旧沖縄弁護士会に対してされた懲戒の請求で
復帰の際まだ懲戒の手続を終えていなかつたものについては、復帰の日に日本の弁
護士法五八条一項の規定による懲戒の請求がされたものとみなす旨明文の規定が存
在するのに、登録の請求についてはこれに相当する規定がないこと、沖縄の弁護士
法に基づく弁護士の資格要件と日本の弁護士法に基づく弁護士の資格要件とが異な
ること、復帰前すでに沖縄の弁護士法による登録をして旧沖縄弁護士会に入会して
いた者も、従前から日本の弁護士法に基づく弁護士資格を有していたものである
と、復帰に際し、前記「沖縄の弁護士資格者等に対する本邦の弁護士資格等の付与
に関する特別措置法」に基づく、選考、試験によつて右の弁護士資格を取得した者
であるとを問わず、復帰によつて当然に日本弁護士連合会に登録している者とされ
ることなく、改めて入会すべき弁護士会を経て同連合会に登録の請求をさせるもの
とされたこと(前記特別措置政令四条一項、弁護士法八条、九条)等に徴すれば、
復帰前に旧沖縄弁護士会に対してされた登録の請求でいまだ登録の手続を終えてい
なかつたものは、復帰に際してこれを本土の相当法令である弁護士法に基づく登録
の請求とみなさないのが、右特別措置を定めた諸法令の規定の趣旨であると解する
のが相当である。したがつて、右のような登録の請求は沖縄の弁護士法が復帰と同
時に失効した時に、同時にその目的を失つて失効したものと解さなければならな
い。そうであるとすると、原告が旧沖縄弁護士会に対してした登録の請求について
もまた、かりにその登録拒否処分について取消の判決を得たとしても、これを日本
弁護士連合会に対する登録請求の進達を求めるものとして取り扱われるべきものと
解する余地はないこととなるから(原告がその主張のようにたまたま日本の弁護士
資格をも有するものであつたにしてもその理を異にするものでないことは、前説示
によつて明らかである。)、旧沖縄弁護士会が原告に対してなした本件登録拒絶処
分につき原告が本訴においてその取消を求める利益は、沖縄の本土復帰によつて同
時に消滅したものといわなければならない。
四 してみれば、原告の本件訴はその利益を欠く不適法なものであることに帰する
から、これを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 吉井直昭 仲本正真 宮城安理)

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