弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人加藤美文の上告理由について
 原審の適法に確定したところによると、(1) 上告人は、昭和三七年以来、福岡
県京都郡a町の町長及びD森林組合(以下単に「森林組合」という。)の組合長理
事の職にあつた、(2) 昭和四〇年九月、森林組合において主任の職員が欠けその
後任を必要とする事情が生じたところから、上告人は、かねて町職員として採用さ
れることを希望してその旨を上告人に申し出ていた訴外Eをその後任に据えようと
したが、同人が、森林組合職員と町職員との給料の格差が大きいことなどを理由に
森林組合職員として採用されることに難色を示したため、上告人は、森林組合に対
する財政的援助とすることをも考慮して、同人を昭和四〇年一一月一日付で一応町
職員として採用したうえ、同日付で森林組合への出向を命じた、(3) 同人は、同
日以降昭和四八年四月三〇日までの間、町職員の身分を有しながら、町長の指揮監
督を受けず、森林組合の事務所でその事務の統轄責任者として執務した、(4) 同
人が右の期間に行つた事務は、専ら森林組合の事務であつて、その間に兼ねて町の
事務を行つたことはない、(5) 上告人は、その間に同人に対し、町予算の林業総
務費職員給与から総額七九六万一五五五円の給与を支払つた、というのである。
 右事実関係によれば、上告人は、Eを、森林組合の職員の一員として専ら森林組
合においてその事務に従事させながら、その給与については、町がこれを負担する
ことができるようにするため、同人を直接森林組合職員として採用せず、一たん町
職員に任命したうえで森林組合に派遣するという措置をとつたことが明らかである。
そして、森林組合は、地方公共団体の行政組織に属するものではなく、森林の所有
者によつて組織された団体にほかならないものであつて、町長が、かかる森林組合
に、町職員を、その身分を保有させたまま派遣し、町長の指揮監督を離れて、実際
の執務上は、町職員としてではなく、専ら森林組合の職員としてその事務に従事さ
せることは、法令又は条例に基づかない違法な措置というほかないところ、上告人
は、右にみたように、Eに対する給与を町が負担することができるようにするため
にこのような違法な行為に出たものであるから、結局、同人に町予算から前記給与
を支払つたことにより、上告人は、違法にa町の公金を支出したものといわなけれ
ばならない。
 論旨は、Eが右の期間森林組合において従事した事務の一部は町の行政事務であ
ると主張するが、仮に森林組合が行つていた事務の中に本来町の行政事務に属すべ
きものがあつたとしても、それは委託等によつて森林組合の事務に属することにな
つたものと解すべきであるから、本件給与の支払を違法な公金の支出にあたると解
すべきことに変りはなく、また、仮に森林組合が町に代行してその行政事務を行つ
ていてこれにより町がその分の費用の支出を免れたものとみることができるとして
も、このような利益とEに対する給与の支払との間に直接の因果関係はないから、
損益相殺の余地はなく、したがつて、論旨は、原判決の結論に影響しない点につい
て原判決を非難するものにすぎないというべきである。
 以上のとおりであるから、本件給与の支払を違法な公金の支出にあたるとして上
告人にその内金一〇〇万円相当の損害賠償を命じた原審の判断は、結局正当であつ
て、論旨は採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    鹽   野   宜   慶
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    宮   崎   梧   一
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次

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