弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人久保田美英の上告理由第一点について。
 農地に関する権利移動の制限を規定する農地法三条一項の但書がその掲げる各号
の一に該当する場合を例外として、これに知事の許可を要しない旨を定めているこ
とは所論のとおりであり、同法三六条の規定によつて農地についての所有権その他
の使用収益権が設定され又は移転される場合が右三条一項但書の第一号に規定され
ていることも所論のとおりであるが、右三六条は国が買収した農地等を売り渡す場
合の規定であつて、本件の如く私人相互間で行われる権利変動には適用のないもの
であるから、同条一項一号所定の世帯員の死亡又は農地法二条六項四号所定の事由
を云々して原判決の判断を非難する点は、すべて採用の余地ないものというべく、
所論(5)の論旨中、Dの応召の事実を認める以上はEが雇傭労務者であつて耕作
権を有しないことを判断すべきであるとの所論は、その実質、正清が賃借権に基づ
いて本件農地を耕作していたとの原審認定と異る事実を主張して原判決の判断を論
難するに帰着し、採用できない。
 同第二点について。
 所論は、兵役に従事したため耕作管理不能となつた農地の管理及び兵役解除後の
農地引渡のことを云々するが、これは、本訴請求原因として主張され認定判断を経
た事項とは関係のないことを論ずるものであつて、採用の限りでない。
 同第三点について。
 所論は、原審の専権たる証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにすぎず、採用
できない。
 同第四点ないし第七点について。
 所論は、いずれも農地法二条六項四号を云々するが、論旨第一点について述べた
と同様、ひつきよう、判決に影響のないことを論ずるものであつて、上告理由とし
て採用の限りでない。又、知事の許可の不要をいう所論は、独自の見解であつて採
るを得ない。
 同第八点および第九点について。
 所論は、原審が適法になした事実認定について異を唱え、原審認定外の事実を掲
げて原判決を非難するに帰着し、採るを得ない。
 また所論は、農地法二〇条一項を云為するが、同条項は農地の賃貸借の解除等に
つき知事が許可しうる場合を規定するものであるところ、本件において知事の許可
の存しないことは原判決の認定するところであるから、同条項を以てする所論は判
決に影響のないことをいうにすぎないものとして採用の限りでない。
 同第一〇点について。
 所論は、原審の専権たる証拠の取捨事実の認定を非難し、農地法二〇条を掲げて、
判決に影響のないことを論ずるものであつて採用できない。
 同第一一点について。
 論旨は、それ自体として具体的記載に欠ける。原判決には判決に影響すべき法令
違背も理由そごも存しないから、第一点ないし第一〇点の論旨の総括としてこの論
点が掲げられているとしても採用できない。
 上告代理人松本茂の上告理由第一点について。
 上告人は、本件農地引渡請求の請求原因として、訴外Dが戦地より帰還したら直
ちに返還する約定でその時までこれを一時耕作管理させたことを主張し、その約旨
による返還を主張している。しかし、原審は右約定の成立を認めなかつたのである
から、本件農地の所有権が上告人に存するか否かを判断するまでもなく上告人の請
求は認容できないとした点に原判決の判断遺脱をいう余地はない。
 同第二点について。
 所論指摘の事実を原判決(一審判決引用)が挙示の証拠関係によつて認定してい
ることは、その判文上明らかであり、記録に徴し右認定は肯認できるから、原審が
証拠に拠らずして事実認定をしたとの所論は、採用できない。
 同第三点について。
 原判決(一審判決引用)は、同判示認定の事情に徴し、本件農地の賃貸借は一時
賃貸借(当時施行の農地調整法九条二項但書参照)をなしたものとはいえないと判
定した上、所論「何時でも請求に応じ農地を返還する」旨の約定は、本件農地の如
き水稲栽培の目的従つて収穫季節ある土地の賃貸借においては賃借人に不利なもの
というべきであるから、当時施行の農地調整法九条四項により該約定は存しないも
のとみなされるとし、上告人の返還請求すなわち解約申入は民法六一七条二項によ
り収穫季節後、次の耕作着手前になしたもの以外はその効力がない旨判示しており、
右認定判断は、すべて肯認できる。
 本件賃貸借につき「何時でもその請求に応じ農地の返還をするなどの定めで右農
地を耕作させるに至つたものである」との認定をした以上は、契約の本質ないし条
理に照し、特段の事由による一時賃貸借とみるべきであつて、前示のような原審判
断には至るべきでないとする所論は、独自の見解にすぎず、採用できない。
 又、論旨は、上告人の解約申入は再三再四なされ収穫季節後、次の耕作着手前に
も勿論なされているとして、この点に関する審理不尽をいうが、右は原審において
主張のない事項であり、従つて原判決に所論違法はない。
 同第四点について。
 被上告人B1が本件農地の耕作権を放棄してはいないとした原判決の判断は、そ
の説示に徴し首肯できる。従つて、この点の理由不備をいう所論は、採用できない。
 同第五点ついて。
 被上告人B2の耕作につき上告人の承諾なき転貸をいう論旨は、原審認定にそわ
ないことを主張するものであり、所論解約申入に知事の許可を要しないことをいう
点は独自の見解を述べるにすぎず、いずれも採用できない。
 従つてまた、右所論を前提とする違憲の主張も採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    石   坂   修   一

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