弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告が,中労委平成12年(不再)第56号事件につき,平成15年3月19日付けでした命令を取り消す。
2 訴訟費用のうち,参加によって生じた分は被告参加人の負担とし,その余は被告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
 被告参加人(以下「参加人」という。)は,原告が参加人の団体交渉申入れを拒否したことが不当労働行為に当たる
として,平成11年5月12日,大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)に対し救済申立てを行ったと
ころ(大阪地労委平成11年(不)第39号事件),大阪地労委は,別紙1のとおりの救済命令(以下「初審命令」と
いう。)を行った。原告は,平成12年11月1日,初審命令を不服として,被告に対し再審査を申し立てたところ(
中労委平成12年(不再)第56号事件),被告は,平成15年3月19日付けで上記申立てを棄却する旨の命令(以
下「本件命令」という。)を行った。
 本件は,原告が,本件命令の取消しを求めた事案である。
 1 争いのない事実
(1)原告は,有価証券の売買取引等を行うために必要な有価証券市場を開設することを目的として設立された会社(
平成13年4月1日に会員組織の公益法人から株式会社に組織変更された)であり,仲立証券株式会社(以下 「仲立
証券」という。)は,原告において有価証券の売買取引等の媒介の業務を行っていた会社である。
(2)仲立証券は,平成11年4月27日,同年5月28日付けで廃業すること及び会社を解散することを決定した。
参加人は,この決定に関して,平成11年5月6日,原告に対して,①仲立証券の企業再開と組合員の雇用を確保する
こと,②組合員を原告や証券関係の業界で再雇用すること等を議題とする団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)
を申し入れたが,原告はこれを拒否した(以下「本件団体交渉拒否」という。)。
(3)参加人は,平成11年5月12日,本件団体交渉拒否が不当労働行為に当たるとして,大阪地労委に対し救済申
立て(大阪地労委平成11年(不)第39号事件)を行った。
(4)大阪地労委は,平成12年10月26日,原告の参加人に対する使用者性を認め,本件団体交渉拒否は不当労働
行為に該当するとして,原告に対し,別紙1のとおり,①平成11年5月6日付けの参加人の団体交渉申し入れについ
て,媒介業務の廃止に伴う媒介業務に従事していた参加人仲立分会組合員の雇用問題を議題とする団体交渉に応じなけ
ればならないこと,②前記①に関する文書を手交することを命じた。
(5)原告は,平成12年11月1日,大阪地労委の上記救済命令を不服として,被告に対し再審査を申し立てた(中
労委平成12年(不再)第56号事件)。
(6)被告は,平成15年3月19日,原告の上記(5)の再審査申立てを棄却する旨の決定をした。
(7)なお,参加人仲立分会組合員40名は,大阪地方裁判所に対し,本訴原告を被告として,雇用契約上の権利を有
することの確認等を求める訴えを提起したところ(大阪地方裁判所平成12年(ワ)第6801号),同裁判所は,平
成14年2月27日,上記組合員らの請求を棄却する旨の判決を言い渡した。参加人仲立分会組合員らは控訴したが(
大阪高等裁判所平成14年(ネ)第975号),大阪高等裁判所は,平成15年6月26日,控訴を棄却する旨の判決
を行い,上記組合員らは,上告及び上告受理の申立てをしたが(最高裁判所平成15年(オ)第1561号,同年(
受)第1667号),最高裁判所は,同年12月18日,上告を棄却し,上記事件を上告審として受理しない旨の決定
をした。その結果,原告は,参加人仲立分会組合員らを原告の従業員として取り扱う法的義務がないことが裁判上確定
した。
2 争点及び当事者の主張
(1)原告の使用者性の存否(争点1)
【原告の主張】 最高裁平成5年(行ツ)第17号同7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁(以下
「朝日放送事件最高裁判決」という。)によれば,雇用主以外の事業主が労働組合法7条にいう「使用者」に当たるた
めには,当該基本的な労働条件等について,雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定
することができる地位になければならない。そして,本件団体交渉の交渉事項は,参加人仲立分会組合員らの雇用問題
であるから,原告が労働組合法7条にいう「使用者」に当たるというためには,原告が仲立証券従業員の解雇等の雇用
問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあることが必要であ
る。しかるに,原告は,参加人仲立分会組合員らの解雇等の雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ
具体的に支配,決定することができる地位にはなかった。よって,原告は,労働組合法7条にいう「使用者」には当た
らない。
【被告の主張】
ア 労働組合法7条の「使用者」とは,労働契約関係又はそれに準じた関係を基盤として成立する団体的労使関係上の
一方当事者を意味するものであるから,労働契約上の使用者ではないが実際上それに近似した地位にある企業も「使用
者」と認められ得るところ,親会社(ここで「親会社」とは,商法上の議決権の過半数所有するという意味での「親会
社」ではなく,一般的にある企業が他の企業を実質的に支配する関係にある場合に,その支配する企業を「親会社」,
支配される企業を「子会社」という。)が株式所有,役員派遣,下請関係などによって子会社の経営を支配下におき,
その従業員の労働条件について現実的かつ具体的な支配力を有している場合には,親会社は子会社従業員の労働条件に
ついて子会社と並んで労働組合法7条にいう「使用者」たる地位にあるというべきである。
イ 仲立証券は,以下のとおり,制度面,資本関係及び人事面において,原告に依存せざるを得ない立場又は従属的な
立場にあったことから,原告が仲立証券に対して相当な支配力を有していたものである。
(ア)制度面
 原告の基本的な機能である大量の有価証券の売買取引等需要と供給の円滑な処理及び公正な価格形成を図るために
は,仲立証券が行う正会員間の売買取引の媒介業務は重要な役割を担っていたものであって,その意味で仲立証券は原
告の上記機能の中に組み込まれていたということができる。また,媒介業務の存否は原告の採用する執行方法の如何に
依存していたことから,原告における執行方法の変更は仲立証券の経営を大きく左右するという関係にあった。
(イ)資本関係
 原告は,仲立証券の株式の27パーセントを保有しており,大証正会員協会(以下「正会員協会」という。)も25
パーセントを保有し,合算すると52パーセントと過半数を占めているところ,正会員協会は,原告の会員の福祉の増
進等を図ることを目的とした組織であり,歴代の常務理事等には原告の理事が就任していることに照らすと,正会員協
会は,その存立目的や会員構成からみて,原告と同一歩調をとる可能性が高いといえる。
(ウ)人事面
 仲立証券の代表取締役には,原告出身のP1(以下「P1社長」という。)やP2(以下「P2社長」という。)が
就任しており,両社長が仲立証券の再建策の検討を行っていたものであるが,両社長が原告の出身であることから,仲
立証券の再建策に対して,原告は自らの意向を反映しやすい関係にあったといえるのであり,他方,仲立証券としても
原告の援助,協力を強く期待することができる関係にあったといえる。加えて,平成9年9月1日以降の急激かつ大幅
な仲立手数料(媒介業務を伴う売買取引について仲立証券に対して支払う手数料)率の引下げ及び立会外売買制度の導
ページ(1)
入という原告の施策の変更が,仲立証券の仲立手数料収入の大幅な減少を招来し,仲立証券の経営に大きな打撃を与え
たのであって,これらの施策の変更が仲立証券従業員の基本的労働条件である賃金の削減に直接の影響を与えたという
べきである。
 また,媒介業務に携わる仲立証券従業員の作業内容,作業手順等の労働条件は,原告が定める諸規定等によって大き
な制約を受けていたといえる。
ウ 原告は,上記イ記載の支配力を実際に行使して,仲立証券従業員の基本的労働条件である雇用問題を左右する仲立
証券の再建策検討等に積極的に関与し,これを実行に移していたということができる。
 加えて,本件団体交渉の交渉事項は,組合員の今後の雇用確保等を含む雇用問題について団体交渉を求めたものであ
ると解されるところ,労働組合法7条2号の趣旨・目的に照らして,仲立証券従業員の雇用問題に関しては,仲立証券
の再建策検討等に積極的に関与しこれを実行に移していた原告と参加人との間で団体交渉を行うべき必要性は大きいと
いわなければならない。
エ 以上を総合して判断するに,原告は,平成9年10月の仲立証券の再建策検討及び平成10年3月の支店廃止等の
経営方針に対する積極的関与並びにその実行を通じて,仲立証券従業員の基本的な労働条件である雇用問題に対して,
現実的かつ具体的な支配力を有していたということができる。
 したがって,原告は,本件における団体交渉上の当事者であり,労働組合法7条2号の「使用者」に該当する。
オ この点,原告は,朝日放送事件最高裁判決により,労働組合法7条の「使用者」に当たるためには,当該労働条件
を自ら決定することができることが必要であると主張するが,①原告の上記主張は,労働組合法7条の使用者について
は労働契約関係の有無のみによって判断するのではなく,不当労働行為救済制度の目的に即して決定すべきであるとの
朝日放送事件最高裁判決の基本命題に反するものであるし,②朝日放送事件最高裁判決は,社外労働者を受け入れてい
る場合について,すなわち他の事業主の指揮命令系統下で就労することを前提とする社外労働者受入れの事例について
判断したものであって,本件命令のような親子企業の事例について判断したものではないから,原告の上記主張は失当
である。
【参加人の主張】
ア 労働組合法7条の「使用者」とは,労働者の労働関係上の諸利益に影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にある一
切の者をいう。
イ 被告の主張イ記載の事情に加え,以下のような事情に照らすと,原告は,制度面,資本関係及び人事面において,
仲立証券に対する支配力を有していた。
(ア)制度面について
 仲立証券が行う媒介業務は,原告の本来的業務とみるべきものであり,実質的には,仲立証券は原告の一部門とみる
べき存在である。
 原告の定款においては,当初は,「仲立会員は,証券会社であって,本所の市場における有価証券の売買取引等の媒
介を専業とするものでなければならない」と,その後は,「仲立会員は,証券会社であって,本所の市場における有価
証券の売買取引等の媒介を重要な業務とするものでなければならない」と定めていたこと,仲立証券の収入に占める仲
立手数料の割合が高いこと及び原告は仲立証券の大阪証券取引所外の債券取引についても特別手数料を徴収していたこ
とに照らすと,仲立証券は,原告と離れて独自に自由に事業を展開することはできなかった。
(イ)資本関係について
 仲立証券の株式は,原告,正会員協会のほか,有限会社北浜親和会(以下「北浜親和会」という。)が26パーセン
ト,有限会社北浜水明会(以下「北浜水明会」という。)が22パーセントを保有していたところ,北浜親和会及び北
浜水明会は,設立の経緯,その出資持分の保有者等に照らすと,原告の意に沿うように株主権を行使すると考えられる
から,結局,実質的には,原告が仲立証券の株式の100パーセントを保有していたものというべきである。
(ウ)人事面について
 原告が昭和60年に仲立証券の株式を取得して以降,原告の出身者9名が仲立証券の役員又は管理職に就任している
ほか,仲立証券解散後も原告出身者3名が仲立証券の清算人に就任している。とりわけ,平成7年以降は,原告の意の
ままに,P1社長,P2社長が,仲立証券の社長に就任している。
ウ 原告は,上記イ記載の支配力を背景として,仲立証券に対し,従業員の賃金カットを指示するなど仲立証券の従業
員の労働条件に対して決定的な影響力を及ぼしており,また,仲立証券の解散に至る一連の経過についても決定的な影
響力を行使した。
エ 以上によれば,原告は,仲立証券の従業員の労働関係上の諸利益に影響力ないし支配力を及ぼし得る地位にあった
ことは明らかであり,労働組合法7条にいう「使用者」に当たるものというべきである。
オ この点,原告は,朝日放送事件最高裁判決により,労働組合法7条の「使用者」に当たるためには,当該労働条件
を自ら決定することができることが必要であると主張するが,朝日放送事件最高裁判決は,社外労働者を受け入れてい
る場合について,すなわち,他の事業主の指揮命令系統下で就労することを前提とする社外労働者受入れの事例につい
て判断したものであって,本件命令のような親子企業の事例について判断したものではない。したがって,原告の上記
主張は失当である。
(2)義務的団体交渉事項該当性(争点2)
【原告の主張】
ア 前記争いのない事実(7)記載のとおり,参加人仲立分会組合員らは,本訴原告を被告として,雇用契約上の権利
を有することの確認等を求める訴えを提起し,最高裁判所まで争ったが,前記組合員らの敗訴が裁判上確定した。した
がって,本件団体交渉の交渉事項である参加人仲立分会組合員らの雇用問題は,実現可能性がないのであるから,義務
的団体交渉事項には当たらない。
イ 義務的団交事項に当たるか否かは,労働組合の構成員である労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係
の運営に関する事項であって,使用者が処分可能なものか否かによって判断すべきであるところ,以下のとおり,本件
団体交渉の交渉事項は,いずれも,義務的団体交渉事項ではない。
(ア)「仲立証券を企業再開し,仲立分会組合員の雇用確保を図ること」については,企業再開をするか否か,雇用を
するか否かは,憲法に保障された「営業の自由」「採用の自由」の範疇に属するものであって,企業の専権的自由に属
するものであるから,義務的団体交渉事項ではない。
(イ)「原告において仲立分会組合員を再雇用するか否か」も,原告の「採用の自由」の範疇であって義務的団体交渉
事項ではない。
(ウ)「原告が日本証券業協会及び関係機関において仲立分会組合員を再雇用すること」は,原告が自由に処理・処分
できる事柄ではなく,「自ら決定することのできる労働条件」ではないから義務的団体交渉事項ではない。
【被告及び参加人の主張】
 原告は,「仲立証券を企業再開し,仲立分会組合員の雇用確保を図ること」「原告において仲立分会組合員を再雇用
するか否か」について,憲法上の「営業の自由」「採用の自由」を根拠として,義務的団体交渉事項に当たらないと主
張する。しかし,労働組合法7条2号の目的は,使用者による正当な理由のない団体交渉拒否を不当労働行為として禁
止し,労働組合の固有の権能である団体交渉権を活発に行使し得るようにすることにある。使用者に「採用の自由」が
あるからといって,労働者の重要な労働条件である採用や再雇用等の雇用問題に関して団体交渉を行うこと自体を否定
ページ(2)
するような主張は,憲法28条によって保障されている団体交渉権を不当に侵害するものであって到底許されるもので
はない。
 また,原告は,「原告が日本証券業協会及び関係機関において仲立分会組合員を再雇用すること」が義務的団体交渉
事項に当たらない理由として,原告が「自ら決定することのできる労働条件ではない」と主張する。しかし,原告は,
平成9年10月の仲立証券の再建策検討及び平成10年3月の支店廃止等の経営方針に対する積極的関与並びにその実
行を通じて,仲立証券従業員の基本的な労働条件である雇用問題に対して,現実的かつ具体的な支配力を有していたの
である。したがって,原告は,仲立証券従業員の雇用問題に対して処理権限を有していたのであるから,上記の原告の
主張は失当である。
(3)被救済利益の喪失の有無(争点3)
【原告の主張】
 争点2【原告の主張】において述べたとおり,参加人仲立分会組合員らが本訴原告を被告として提起した雇用契約上
の権利を有することの確認等を求める訴えについては,上記組合員らの請求を棄却する旨の判決が確定した。したがっ
て,本件団体交渉の交渉事項は,もはや実現不可能となったのであり,当該交渉事項は消滅したものというべきであっ
て,参加人の被救済利益は消滅したというべきである。
【被告及び参加人の主張】
 争う。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
 当事者間に争いのない事実,証拠(文章中に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
なお,文末に証拠等の記載がない事実は,当事者間に争いのない事実である。
(1)当事者等
ア 原告は,有価証券の売買取引を行うために必要な市場を開設することを目的として証券取引法に基づき昭和24年
に大阪証券取引所として設立された会員制の公益法人であり,本件再審査係属中の平成13年4月1日に株式会社に組
織変更したものである。なお,以下で触れる定款,諸規程及び組織等は,上記組織変更前のものである。
 原告は,公益性や投資家の保護の観点から,有価証券(株券や債券等)の現物取引や株価指数先物取引,株価指数オ
プション取引等の先物・オプション取引(以下,これらの取引を「有価証券の売買取引等」という。)が公正,円滑に
行われるように運営することをはじめ,会員の動向把握や情報収集等の管理,取引市場施設の管理等を行い,これらの
業務は,証券取引法,同法施行令等の法令や原告の定款,業務規程,業務規程施行規則等に規定されていた(乙18【
7頁】,19【2頁】,弁論の全趣旨)。
 原告は,証券会社を会員としていたが,その会員は,本件初審申立時には,有価証券の売買取引等を重要な業務とす
る正会員(本件初審申立時の原告定款8条1項)と,正会員間の有価証券の売買取引等の媒介(有価証券の売買取引等
が行われる際に正会員の証券会社から受けた売買注文を一定のルールに従って付け合わせ売買取引を成立させること)
を重要な業務(以下,この業務を「媒介業務」という。)とする仲立会員(同定款8条2項)とに分けられていた。
 正会員は,いわゆる一般の証券会社のうち一定の資格を持ち原告に加入を認められた証券会社であり,その数は約1
10社であった。また,仲立会員は,本件初審申立時には,仲立証券1社であった。しかし,本件初審審問終結時に
は,仲立会員は存在せず,原告の定款においても8条2項その他仲立会員に関する規定は削除された。
 原告の最高意思決定機関は会員総会であり,業務執行に関する議決機関は理事長及び常任理事等で構成する理事会で
あり,理事長の諮問機関として,専門的分野を扱う会員委員会等の常設委員会が設置されていた。原告の運営の基本方
針を決定するのは理事会であり,この理事会の下に会員部(会員である証券会社の動向等について把握する業務)や人
事部等の部があり,これらの部で働く原告の従業員数は,本件初審審問終結時約290名であった。(乙18【7頁】
,乙19【2頁】)
 原告と正会員88社は,原告会員の福祉増進,施設やサービスの提供を図ることを目的として,正会員協会を設けて
いた。正会員協会の歴代の常務理事や監事には,原告の理事が就任し,原告従業員が出向し事務を行っていた。
イ 参加人は,肩書地に事務所を置く労働組合であり,大阪市αのβ地区を中心とする証券会社や証券関係機関等の従
業員によって組織されており,その組合員数は本件初審審問終結時約300名であった。仲立証券には,参加人の仲立
分会が組織されている。(弁論の全趣旨)
ウ 仲立証券は,原告が開設する有価証券市場(大阪証券取引所)において媒介業務等を行うことを目的とする株式会
社であるが,その目的に従い独自の事務所(本店及び支店),資産,従業員を持ち,自己の計算で営業活動を展開し,
法人の実体としては原告とは独立した存在であったところ,後記(6)コのとおり,平成11年5月28日に清算法人
となり,本件再審査審問終結時も清算手続を続行中である。ちなみに,仲立証券の本件初審申立時の従業員数は41名
であり,全員が参加人仲立分会の組合員であった。
(弁論の全趣旨)
 原告において正会員間の媒介業務を行う証券会社は,原告発足の当初は11社あったが,順次統合され,昭和60年
には仲立証券1社となった。仲立証券の資本構成は,昭和60年から原告が資本参加し,仲立証券が解散した当時に
は,発行済株式のうち原告が27パーセント,正会員協会が25パーセント,北浜水明会が22パーセント,北浜親和
会が26パーセントをそれぞれ保有していた(なお,北浜水明会,北浜親和会の株式保有の経過については,後記(
4)テ記載のとおりである。)。
 また,原告が昭和60年に仲立証券の株式を取得して以降,別紙2のとおり,原告出身者等が仲立証券の役員又は管
理職に就任した(甲20,乙2,乙B38,弁論の全趣旨)。
 なお,原告定款71条5項,70条3項は,原告の理事長,常任理事は,その在職中証券業に従事することができな
いと規定していたところ,昭和62年5月19日に施行された定款の付則は,「定款71条5項において準用する70
条3項の規定にかかわらず,当分の間,仲立証券の取締役又は監査役については,理事会の承認を受けて,その業務に
従事することができる。」と規定している(乙B87)。
エ 仲立証券は,従業員の労働条件について,就業規則を定めるほか,参加人との間で昭和36年3月31日に労働協
約を締結し,本件初審申立時まで当該労働協約が継承されてきた。その結果,仲立証券の従業員の賃金のベースアップ
や賞与の交渉は,専ら仲立証券と参加人仲立分会との間で行われており,ベースアップ等の問題に対するストライキも
仲立証券に対して実施されてきており,原告が当事者となったことはなかった。また,労働時間,休憩時間,休日をは
じめその他の労働条件についても,仲立証券自身によって決定されており,原告がこれに関与することは一切なかっ
た。さらに,仲立証券の従業員の採用,解雇,配置,懲戒についても,仲立証券自身が決定していた。(乙43【16
ないし18頁】,乙B59【12ないし16頁】,弁論の全趣旨)
(2)有価証券の売買取引等について
ア 有価証券の売買取引等の概要
(ア)証券取引所市場は,大量の有価証券の売買取引等の需要と供給が円滑に処理され,需給を反映した公正な価格を
形成するのが基本的な機能であることから,「価格優先」「時間優先」という競争売買の原則や市場集中の原則を基本
にして営まれてきた(ただし,市場集中の原則は,本件初審審問終結時には既に廃止されている。)。なお,原告にお
いては,「価格優先」「時間優先」の原則を適用しない特定銘柄制度,立会外分売制度等も存在する(ただし,特定銘
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柄制度は既に廃止されている。)。
(イ)大阪証券取引所内で行われる有価証券の売買取引等は,通常,証券会社からの売買の注文,売買注文の付合せ,
売買取引の成立,決済という手順で行われ,平成10年ころまでの売買取引方法としては,以下に述べるような,いわ
ゆる「手商い」「システム売買」と呼ばれる売買取引があり,平成8年に導入された「日経300先物スプレッド取
引」等や平成9年に導入された「立会外売買制度」の例外を除き,いずれも媒介業務を必要としていた。
a 手商いの概要は次のとおりである。
手商いとは,大阪証券取引所内の売買立会場において,証券会社の売買担当者の手の動き(ハンドサイン)を伝達手段
として行われる売買取引である。
(a)顧客の売買注文を受けた証券会社は,店舗等から大阪証券取引所内の売買立会場に設置されたそれぞれの証券会
社専用の電話(この電話を「場電」という。)又は専用の端末機を通じて売買立会場内の証券会社の売買担当者に注文
の内容を伝える。売買立会場内の証券会社の売買担当者は,売買立会場の中央(この区画はカウンターに囲まれており
カウンター内を「ポスト」という。)付近に待機している証券会社の売買担当者(「場立ち」という。)にハンドサイ
ンで注文内容を伝える。
(b)場立ちは,売買立会場内の区画の中(ポスト)にいる仲立会員に注文の内容を伝える。仲立会員は,売買注文内
容を「注文控(板)」と呼ばれるボードに,注文の値段や注文の時間等を特定の方式で記載する。このような注文が
次々と仲立会員に伝えられる中で,仲立会員は,複数の注文控(板)を見ながら「価格優先」「時間優先」の原則に基
づいて注文の付合せを行い,これによって売買取引が成立する。
(c)仲立会員と同じポスト内にいる原告の従業員は,有価証券の売買取引等が公正に行われるように審査,監視する
などの管理を行うとともに,約定値段等をポスト内の端末装置に入力する。それと同時にこれらの数値が大阪証券取引
所の売買立会場の株価表示装置(ボールド)や証券会社の株価表示板などに示され,一般投資家に現在の株価を知らせ
ることになる。
 システム売買の概要は次のとおりである。
システム売買とは,売買注文入力装置等を使って行われる売買取引である。
(a)証券会社から専用端末機を通じて売買注文がなされ,即時に大阪証券取引所の装置(「中央処理装置」と呼ばれ
る。)に登録される。登録された売買注文は,「価格優先」「時間優先」の原則に従って集計・整理がなされ,大阪証
券取引所の端末機の画面に表示される(この画面表示されたものは「注文控(板)」と呼ばれる。)。
(b)仲立会員は,画面に示された注文控(板)を見ながら一定のルールに従って,端末機を操作して売買注文を付け
合わせ,売買取引を成立させる。
(c)原告の従業員は,原告の端末機に表示される取引状況を見て,適正な取引が行われるように審査,監視するなど
の管理を行う。
 原告は,このような仲立証券の行う媒介業務の作業内容や作業手順,作業時刻等について,業務規程や業務規程施行
規則を定めていた。業務規程中の次のような定めがその例である。
業務規程30条
 仲立会員は,正会員から取扱銘柄について,次の各号に定めるところにより呼値の委託を受けるものとする。
① 板呼値については,当該銘柄の取引ポストにおいて,売買立会開始時の20分前から売買立会終了時までの間
② システム呼値については,仲立会員端末装置により,売買立会開始時の25分前から売買立会終了時までの間
業務規程34条
 仲立会員は,呼値の板への記載,板呼値及びシステム呼値についての付合せ,売買照合システムにおける端末装置に
よる入力,売買契約照合書への記載その他取扱銘柄の売買取引の媒介業務について,一切の責任を負うものとする。
 また,原告の作成した「運用の手引き」(乙B71)には,売買取引の状況が特別気配や注意気配の場合の注文控(
板)の操作方法等が記載されている。
 他方,仲立証券も,原告の業務規程等を実施するための細目として,媒介業務を行うに当たり必要な事項について媒
介業務規程で定めているほか,債券売買取引や株券先物取引,株券オプション取引等の媒介業務に関する媒介業務規程
の特例や付随する取扱規則等を定め,これらを網羅した媒介業務規定集という冊子を作成していた。
(エ)有価証券の売買取引等は,基本的に売買立会時間内に行われるが,例えば大型株の上場など売買取引量に大幅な
変化が見込まれるときなどは,売買立会時間が変更されたことがあった。また,原告は,平成元年には年末の立会日を
変更し,平成3年4月には午後の立会開始時刻を変更したほか,昭和63年9月には休日に講習を開催するなどし,こ
のような原告による売買立会時間等の変更等に伴い,仲立証券は,従業員の休暇や勤務時間を変更した。(弁論の全趣
旨)
(オ)証券会社は,有価証券の売買取引等を行うに当たり,原告に対しては定率会費を支払い,仲立証券に対しては媒
介業務を伴う売買取引について一定の手数料(仲立手数料)を支払っていた。
(カ)本件初審申立時には,国内にあった8証券取引所のうち,媒介業務を主要な業務とする証券会社は,原告のほ
か,東京証券取引所,名古屋証券取引所の3証券取引所に存在するだけで,他の5か所の証券取引所には存在せず,そ
れぞれの証券取引所が直接媒介業務を行っていた。
イ 有価証券の売買取引等制度の変更
(ア)有価証券の売買取引等におけるシステム売買は,金融・資本市場の自由化やグローバル化等を背景に,昭和63
年10月に日経225先物取引で開始されたのをはじめ,平成元年12月からは日経225オプション取引で,平成3
年2月からは一部の株券の売買取引で行われるようになった。
 平成8年,日経300先物スプレッド取引において,会員の証券会社がシステム売買を行う際,仲立会員による媒介
業務を経ることなく証券会社のコンピュータの端末機を操作して売買取引を行うシステム(以下「完全自動執行」とい
う。)に移行したのをはじめ,幾つかの売買取引において,次第に完全自動執行に移行していった。
(イ)東京証券取引所は,平成9年11月14日,証券会社とその顧客が予め銘柄,価格,数量を決定して売注文と買
注文を同時に申し込む取引(以下「大口クロス取引」という。)について立会外売買制度を導入し,その媒介に係る手
数料を不要とした。これに続き,原告も,同年12月8日,大口クロス取引について,媒介業務を必要としない立会外
売買制度を開始した。大口クロス取引は取引額が大きく,立会外売買制度の開始により大阪証券取引所内での売買取引
が減少し,これに伴い仲立証券の手数料収入は著しく減少した。
 立会外売買制度の導入に関しては,平成9年9月29日,原告常務理事P3,同常務理事P4(以下「P4常務」と
いう。)らと仲立証券のP1社長らが話し合った際,P4常務は,P1社長に対し,参加人との交渉においては,原告
の説明と平仄を合わせて対処してもらいたい等と述べた(乙B75)。
(ウ)大阪証券取引所では,仲立証券が営業を休止したことに伴い,平成11年4月13日,株券の売買取引が完全自
動執行に移行した。
(エ)大阪証券取引所では,平成11年7月26日,転換社債に係る売買取引がシステム売買に変更されるとともに完
全自動執行に移行したことにより,すべての株券や債券に係る取引が完全自動執行に移行し,これをもって大阪証券取
引所における媒介業務は消滅した。
ウ 仲立手数料率とその変遷
(ア)仲立会員(仲立証券)は,本件初審申立時には,その媒介業務を行うに当たって,原告業務規程38条に基づ
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き,原告の定める料率により仲立手数料を徴収するものと定められていた。仲立手数料の具体的な料率は,業務規程施
行規則28条に定められており,下記(ウ)のとおり,これまで幾度か改定されてきた。
(イ)仲立手数料率改定の手続は,原告の担当課が作成した改定案を稟議し理事長及び常任理事が決裁した後,原告内
に設置されている理事長の諮問機関である会員委員会に諮問して了承を得,理事会で報告を行い,その後大蔵省に届け
出るという手順を踏んで実施されていた。また,改定された仲立手数料率は,原告が発行する広報紙「所報」に掲載さ
れていた。
(ウ)仲立手数料率は,従来,株券等の売買取引額が多額になるほど料率が下がる逓減料率方式を採用していた。本件
に関連する平成9年9月以降の仲立手数料率改定の状況は,以下のとおりであった。
a 平成9年9月1日,1回の売買代金が10億円を超える大口の株券等の売買取引について,それまでの仲立手数料
率をおおむね半分に引き下げた。
b 平成10年2月1日,仲立手数料率をそれまでの逓減料率方式から売買取引額の多寡によって変動しない固定料率
方式に改め,その料率を万分の0.244とした。
c 平成10年5月1日,仲立手数料率を40パーセント引き下げて万分の0.146とした。
d 平成11年4月13日,仲立証券の営業休止に伴い,仲立手数料を徴収しないこととした。
 なお,原告は,aないしcの改定について,事前に仲立証券に対しその旨通知していた。
(3)仲立証券の経営状況及び金融システム改革の動きについて(平成5年3月から平成9年6月まで)
ア 参加人と仲立証券との労働協約(乙B20)中には,合理化に伴う労働条件の変更に関して,次のとおり規定され
ている(乙B20,弁論の全趣旨)。
第9章 その他
(事務機構の変更等の事前通知)
 会社は事務機構の変更並に事務の機械化,合理化については事前に組合に通知するものとし,それに伴う労働条件の
変更については組合と協議決定するものとする。
イ 仲立証券は,媒介業務以外に,大阪証券取引所外において,証券会社や金融機関を顧客として債券等の仲介業務等
を行っていたが,昭和60年9月期当時には,手数料収入約35億円のうち,仲立手数料収入ではない大阪証券取引所
外で行う店頭債券手数料が約40パーセントを占めていた。仲立証券の収入に占める店頭債券手数料の割合は,翌年度
の昭和61年9月期には約33パーセントに落ち込み,以降,その割合は減少し続け約17パーセントないし24パー
セント程度にとどまり,逆に市場内仲立手数料収入の割合が増大した。
 なお,仲立証券は,当時,大阪証券取引所外の債券取引においては,大阪証券取引所内の取引の約2倍の手数料を徴
収していたため,債券取引について市場内外の執行条件の均衡を保持する等のために,原告と仲立証券との間で,大阪
証券取引所外の債券取引について債券特別手数料を徴収する旨の覚書が策定された。もっとも,平成5年以降は,仲立
証券の原告に対する上記債券特別手数料の支払は免除された。(乙B53,54,弁論の全趣旨)
ウ 仲立証券の平成5年3月期の経営状況は,営業収益が約19億2800万円であり,そのうち仲立手数料による収
入が約17億3500万円とピーク時から半減したのに対し,営業費用として約23億2600万円を要し,経常損益
は約3億8600万円の赤字であった。仲立証券の経常損益は,平成5年3月期の決算期以降,赤字のまま推移し黒字
になることはなかった。
エ 平成7年5月,仲立証券の代表取締役に,それまで原告専務理事を務めていたP1社長が就任した。P1社長の仲
立証券への代表取締役就任は,原告の意向に沿うものであった。(乙43【1ないし3頁】,乙A64【1ないし3
頁】)
オ 仲立証券は,平成7年10月16日,取締役会を開き,仲立証券の経営が平成5年3月期に赤字に転落し今後も黒
字に復する見込みがないことから,役員報酬の据置きや役員賞与の不支給,電話代金やコピー印刷等の事務費の軽減,
従業員への交通費支給方法の変更等経費削減に取り組むこと等を内容とする合理化策を決定し,その旨従業員に通知
し,順次実施していった。
カ P1社長は,平成7年11月,仲立証券の従業員に向けて「社員の皆さんへ」と題する,仲立証券の経営の現状と
見通しを示す文書(乙A14)を配付し,その中で仲立証券の将来の見通しが厳しいこと,仲立証券が制度的に安穏と
した職域ではないこと,従業員が一致協力して難局に立ち向かう必要があること,経営上の拠点として東京支店の運営
を重視する必要があることを訴えた。
キ 橋本龍太郎首相は,平成8年11月,当時の三塚大蔵大臣及び松浦法務大臣に対し,金融システムの改革を指示
し,その内容は「我が国金融システムの改革」と題して公表された。これは,金融市場の競争が世界的なレベルで激化
する中で,金融システムの改革の必要性を促し,活力ある市場づくりのための方向性を示したものであり,具体的な検
討項目の中には,「幅広いニーズに応える商品・サービス(証券・銀行の取扱業務の拡大)」「多様なサービスと多様
な対価(各種手数料の自由化)」等が挙げられていた。
ク 旧大蔵省の証券取引審議会総合部会は,前記キの指示を受けて,我が国の金融システムの改革検討を進め,平成9
年5月,「信頼できる効率的な取引の枠組み」と題する報告書をまとめたが,その中で,「証券会社から取引所への発
注方法については,取引所として事務処理の合理化・効率化を図る観点から,立会場のあり方の見直しを含め,システ
ム化を一層進める努力を行う必要がある。」との提言をした。上記提言に基づいて,平成9年6月,大阪証券取引所内
に,理事会の構成員である会員理事や正会員協会の役員などがメンバーとなってビッグバン対策委員会が設置され,証
券取引所間の競争に対処するための具体的な施策が検討された。
(4)仲立証券の再建策をめぐる経緯(平成9年4月から平成10年7月まで)
ア 仲立証券は,平成9年4月,調査企画室を設置し,同社の業務内容を抜本的に改変するための様々な試案(乙A
4)を検討した。例えば,原告の定款を改正して一般の証券会社と同様に原告の市場内で売買取引ができるようにする
こと,また原告の業務の一定部分を肩代わりすること等の案が考えられた。仲立証券のP1社長は,前記のとおり業容
拡大の施策として原告の業務の一定部分を肩代わりすることを想定していたため,原告の協力が不可欠と考え,原告の
協力を要請すべく,原告に相談を持ちかけた。会員組織であった原告の業務には,会員に対する管理,監督という業務
があり,特に財務内容等が悪化している会員からは原告の会員部(担当P5常務理事,以下「P5常務」という)がヒ
アリングを行い,再建策について意見交換や相談に応じていたので,P1社長からの相談には,P5常務が対応した。
P1社長は,P5常務に対し,前記施策を提示したが,同人は,特に意見を述べなかった。(甲12【42頁】,乙A
64【24頁】,弁論の全趣旨)。
 なお,仲立証券の平成9年3月期決算における営業収益は約21億5400万円(うち仲立手数料収入は約21億3
100万円),営業費用は約22億2000万円であり,経常損益は約6300万円の赤字であった。
イ 仲立証券は,平成9年9月1日及び同月2日,取締役会を開き,同社の再建のために,前記アの案の下に,仲立証
券の業容拡大,新会社の設立等を検討した。
ウ 仲立証券は,平成9年9月16日,同社の再建策を決定し,原告に説明した。当該再建策においては,仲立証券が
出資して資本金3億円の子会社を設立すること,子会社の業務として株券やデリバティブ(金融派生商品)の取次業務
等を行うことが考えられていた。しかし,仲立証券は,原告との意見交換後,資金の調達が困難であること等から子会
社の設立は不可能であるとの結論に達し,再建策を検討し直すこととした。(乙A6ないし12,弁論の全趣旨)
ページ(5)
エ 仲立証券は,平成9年10月8日,新たな再建策とこれに伴う人員削減策をまとめた。この人員削減策は,仲立証
券の従業員142名について,①40名を希望退職させる,②仲立証券東京支店を他社に売却し東京支店に勤務する1
7名を退職させた後他社に引き継がせる,③従業員20名については,主に個人投資家を顧客とする証券会社を設立
し,これに転籍させる,④従業員30名については,原告のビルのメンテナンスや清掃等を行う代行会社を設立し,こ
れに転籍させる,⑤残った35名が仲立証券の業務を行う,という内容であった。大別して,退職57名,転籍50
名,残留35名ということになる(以下,この再建案を「57・50・35再建案」という。)。仲立証券は,原告に
対し,上記再建案を示して意見と協力を求めたが,参加人には再建案を公表しなかった(弁論の全趣旨)。
 また,仲立証券は,平成9年10月から,役員報酬の25パーセント削減を実施した。
オ 仲立証券は,平成9年10月17日,20日,22日の3日間にわたり,原告との間で話合いを持った。原告から
は,専務理事であるP6(以下「P6専務」という。),P4常務,P5常務,同人事部長であるP7(当時。後に常
務理事となったため,以下「P7常務」という。)らが,仲立証券からはP1社長がそれぞれ出席した。P1社長は,
原告に対し,「57・50・35再建案」を示して協力を求めた。しかし,原告は,この再建案は,仲立証券の自助努
力が足りず原告に過度に依存していること,現実的裏付けに乏しいことを理由に協力に応じられないとの態度をとっ
た。仲立証券と原告との話合いは,平成9年10月22日に一旦決裂しかかった。
 ところで,大阪証券取引所市場においては,平成9年12月8日株券売買の全面システム化に伴って正会員が立会場
に派遣していた場立ちを引き揚げることになったが,一方債券売買は従来通りの立会場形式の取引が残される予定であ
ったところ,債券売買だけのために場立ちを派遣することは不経済であることから正会員から原告に対し立会業務の代
行をしてほしいとの強い要請があり,原告はこの要請に応じる必要があった。また,平成9年秋ころ,大阪証券取引所
市場において,アメリカにおけるスペシャリストのように,市場に常時,売・買気配を提示して,一般投資家の注文に
応じる,いわゆるマーケットメイク的営業を行って,大阪証券取引所市場における値付き率の向上を目指す証券会社の
設立も検討されていた。このようなことを背景に,原告側から,P1社長に対し,原告において代行業務を行う会社と
証券会社を設立する計画があること,会社を設立したときには設立会社に仲立証券従業員を受け入れる用意があるとい
う考えが提案された(ちなみに,立会業務の代行会社は後記キのとおりKBSが設立されたが,証券会社は設立に至ら
なかった)。仲立証券は,原告の上記提案に基づき,従業員142名のうち50名を退職させ,50名を原告が設立す
る代行会社と証券会社とで各25名ずつ採用し,仲立証券に42名を残留させる再建案(以下,この再建案を「50・
50・42再建案」という。)を策定したが,仲立証券に残留する42名の処遇については結論は出なかった。また,
P1社長は,原告に対し,上記「50・50・42再建案」はあくまでも仲立証券の構想であり,原告は関知しないこ
ととする旨を確約した。(乙13,弁論の全趣旨)
カ P1社長は,平成9年11月14日,「50・50・42再建案」のうち50名の退職部分を実行するために,社
内に,「退職勧奨措置について」と題する書面を掲示し,従業員の自宅に「社員の皆さんへ」と題する文書を送付した
(以下,当該退職勧奨措置を「希望退職」という。)。希望退職の内容は,募集年齢を54歳以下,退職申出期間を1
か月,退職に応じた社員には,通常の退職金の他に年齢等に応じた退職優遇金の加算や再就職支援金として基本給の1
2か月分を支給するというものであった。これに対し,参加人は,平成9年11月14日,仲立証券が新しい道を真摯
に模索することなくいきなり希望退職を提案したとして強く抗議し,これを撤回するように迫ったが,仲立証券は参加
人の撤回要求に応じなかった。(乙3,13【2頁】,17【20,21頁】,33,41【6,7頁】,乙A15,
28【6,7頁】)
 平成9年11月14日時点での仲立証券の従業員は142名であり,希望退職に応じた従業員は51名(このうち組
合員は13名)で,そのうち仲立証券を退職後に後記キの北浜ビジネスサービス株式会社に採用された従業員は16名
いた(乙41【6,7頁】,乙A28【6,7頁】)。
キ 平成9年12月12日,北浜ビジネスサービス株式会社(以下「KBS」という。)が設立された。KBSの業務
は,一般の証券会社において原告の立会場に派遣する担当者の業務が著しく減少したため,その担当者に代わって立会
業務を代行するものであり,平成10年1月5日から業務を開始した。KBSは,同じ日に設立された大証オフィスサ
ービス株式会社(以下「大証オフィス」という。)の100パーセント出資により設立されたものである。なお,大証
オフィスは,原告が100パーセント出資する大証システムサービス株式会社(以下「大証システム」という。)と正
会員協会とが共同出資し設立した会社である。
 P1社長は,KBSについて,平成9年12月15日に行われた参加人との団体交渉の席上で,「最近,証券業界に
関連した業務を行う会社が,原告・業界の出資によって設立されることを聞いた。渡りに船ということでその話に乗っ
ていった」,「仲立の社員を優先的に採用してもらうことになった」と発言した。なお,複数の新聞が,KBSの設立
について,「仲立証券の受皿会社」「仲立証券からの移籍者や退職者ら約25人を受け入れる」と報じた。
 KBSは,会社設立後,平成9年12月15日から同月19日にかけて社員を募集したが,P1社長が仲立証券従業
員の優先採用を働きかけたこともあって,仲立証券からは,前記カのとおり従業員16名が採用され,また年明けの平
成10年1月6日から同月21日にかけて行われた追加募集の際にもさらに3名が,さらに同年9月にも2名が採用さ
れた(後記(5)のイ)。
 KBSの社長,取締役らの役員はいずれも原告の出身者であり,社員は全て仲立証券退職者であった。
ク 仲立証券は,平成9年12月15日,参加人及び同仲立分会に対し,平成10年4月から従業員の基本給を約20
パーセント減額することや,役職手当を一部廃止すること等を内容とする賃金制度の改定案を提案した(乙34)。
 また,仲立証券は,平成9年末,取締役を7名から3名に減少させるとともに,部長,次長の役職手当を半額に減ら
し,参事等の役職手当を廃止した。このように仲立証券は経費の削減に努めたが,同社の平成10年3月期の決算は,
営業収益が約15億3400万円(このうち,仲立手数料収入は約15億1300万円),営業費用が約18億680
0万円で,経常損益は約3億3400万円の赤字であった。(乙2,40,41【8,9頁】,乙A26,28【8,
9頁】)
ケ 原告のP4,P7の両常務は,平成10年3月11日,P1社長に対し,「理事長を含む原告内部の打合せで仲立
証券東京支店の廃止もやむを得ないとの結論に達した,したがって,第二会社設立も白紙に戻して検討せざるを得な
い。また,撤退した場合には仲立証券の自主廃業も視野に入れて検討してもらいたい」旨申し入れた。東京支店を仲立
証券生き残り策の重要拠点として位置付け,再建策を模索していたP1社長は,P4,P7の両常務に対して,同支店
の廃止は再建構想の前途を危うくすると考えて同支店の業務の継続を主張した。このころには,「50・50・42再
建案」に対する原告の姿勢は消極的なものとなっていた。(乙10【3頁】,13【4頁】,43【57頁】,乙A6
4【57頁】) なお,後記(5)エ及び(6)コのとおり,仲立証券は,平成10年10月1日に東京支店を廃止
し,平成11年5月28日には営業を廃止するに至っている。
 また,P1社長は,平成10年4月ころ行われた参加人との団体交渉において,次のような発言をした(乙4,7)

① 平成10年4月1日の団体交渉
 「私は,原告の責任は問わないと言ってきた。それは,これまで実施されてきた全面システム化等,個々の諸施策を
是と考えてきたからである」,「以前から私の示してきた『50・50・42再建案』は仲立証券をスリム化してでも
残すことを前提にしたものである」。
② 平成10年4月22日の団体交渉
ページ(6)
「『50・50・42再建案』については,原告と合意したものであり私見ではない」。
コ 参加人は,平成10年4月30日,原告に対し,仲立証券の「親会社」として仲立証券従業員の雇用等の問題に関
して責任があるとして団体交渉の開催を求めた。これに対し,原告は,仲立証券の合理化やこれに伴う人員削減の問題
は仲立証券内の労使間で話し合う問題であり,原告と団体交渉する議題にはなじまないとの理由でこれを拒否した。
サ 仲立証券は,平成10年6月1日,従業員の基本給を約2割削減することとし,同月から実施した。なお,これに
先立ち,原告のP4常務は,平成10年4月15日,P1社長に対し,賃金カットは4月実施が望ましいが,5月実施
ということで,来週までに強行実施の意思表示をしてほしい旨述べた。(乙13【7,8頁】,17【18,19頁】
,41【8頁】,43【142ないし151頁】,乙A28【8頁】,64【142ないし151頁】)
 参加人は,平成10年6月1日,原告に対し,仲立証券は仲立手数料率が切り下げられたことにより経営危機に陥っ
たので,仲立証券の手数料率の引下げを撤回することや仲立証券の経営を再建すること,仲立証券の従業員の雇用を保
障すること等を求めて団体交渉の開催を要求した。原告は,参加人に対し,前記コと同様,団体交渉事項になじまない
として団体交渉の開催を拒否するとともに,仲立手数料率に関して,これを引き下げたのは,東京証券取引所等との競
争激化のためであると答え,郵便で団体交渉申入れの文書を返送した。
シ 参加人は,平成10年6月8日,原告に対し,団体交渉拒否について抗議したところ,原告のP4常務は,仲立証
券の経営上の問題に関しては,原告は当事者の立場にはないから団体交渉には応じられないと答えた。さらに,参加人
は,平成10年6月15日,原告に対し,前記サの団体交渉申入書が返送されたことについて抗議したところ,原告の
P4常務は,団体交渉の当事者ではないと答えるとともに,「50・50・42再建案」は,P1社長から直接聞いて
いないと述べた。
ス P1社長は,平成10年6月22日,仲立証券の代表取締役を辞任することを表明し,同日開催された参加人との
団体交渉の席上,辞任は健康上の理由によるものであると説明したが,「(私は)敵前逃亡」とか「私の行為は万死に
値するもの」という発言もした。(乙5,6【3頁】,9)
 この時点で仲立証券の後任の社長は全く決まっておらず,P1社長は,仲立証券の役員をはじめ,原告や正会員協会
の役員にも社長就任を依頼したが,いずれも断られた(乙44【1ないし3頁】)。参加人は,平成10年6月23
日,原告に対し,P1社長が辞任を表明したことや,仲立証券の経営問題に関して原告の考えを問いただした。これに
対し,原告のP4常務は,「50・50・42再建案」は原告が決めたものではなく,仲立証券の経営上の問題に関し
ては原告は答える立場にないと答えた。
セ 原告においては,平成10年6月30日,定時会員総会が開催されたが,その直前,参加人組合員が抗議行動のた
め原告に出向き,退去を求める原告の役職員と押し問答になり,もみあいの状態になった。
ソ 参加人は,平成10年7月9日,原告に対し,再度,仲立手数料率の引下げ等の仲立証券の問題に関して団体交渉
の開催を要求したが,原告のP7常務は,これまでと同様の答弁を繰り返して要求書の受取を拒否した。
タ P1社長は,平成10年7月14日,原告のシステム部に在籍していた時の部下で大証オフィスに出向していたP
2社長に仲立証券の社長就任を依頼した。P2社長は,当初固辞していたが,P1社長の再三の依頼により引き受ける
こととした。P1社長が,P2社長に対し,仲立証券への社長就任を依頼したのは,後に原告の理事長となるP8の「
原告のOBから探したらどうか。」という示唆によるものであった。(甲13【20頁】,乙43【123ないし12
5頁】,乙A64【123ないし125頁】)
チ 平成10年7月22日,仲立証券で臨時株主総会及び取締役会が開かれ,P1社長は辞任し,P2社長が代表取締
役に就任した。なお,参加人は,同日開かれた仲立証券との団体交渉の席上で,P1社長の辞任表明の撤回を求めた。
また,P1社長は,同日の団体交渉の場で,「『50・50・42再建案』は事実の問題であり否定できない。それは
原告と仲立の私との約束である」と発言した。P2社長は,翌23日,P1社長から業務の引継ぎについて説明を受け
た。P2社長は,仲立証券の業務内容・財務状況を更に詳細に把握するために時間が必要であるとして,それが終わる
まで参加人との団体交渉を含め関係先との交渉を勝手に進めないよう役職員に指示した。(乙8,35,44【9ない
し12頁】)
ツ それから数日後,ある参加人組合員の自宅に,差出人P1社長名義で幾つかの文書が同封された封書が届いた。そ
れらの文書には,仲立証券の経営問題を巡って,仲立証券と原告とが折衝した際の日時,出席者氏名,発言内容等が時
系列で記載されていた。(乙10ないし15)
テ 仲立証券の役員は,同社の株式を一定数保有することとされ,役員が交代すると,通常,額面額で後任者に引き継
ぐこととされていた。P1社長は,仲立証券の代表取締役在任中に,北浜親和会を設立し(なお,P1社長が5万円,
仲立証券が295万円を出資した。),同社において,仲立証券の経営合理化に伴い,役員数の削減を実施する際に,
その役員が保有している仲立証券の株式合計5万2000株を買い取っていた。その買取資金は,仲立証券が貸し付け
た。P2社長が仲立証券の代表取締役に就任するに当たって,P1社長の保有していた同社の株式1万6000株及び
P2社長就任直後に同社の専務取締役であったP9が退任にしたことに伴い同人が保有していた1万3000株を処理
する必要が生じた。P2社長は,平成10年7月末,北浜水明会を設立し,同社において,上記株式(合計2万900
0株)を買い取った。また,P2社長は,仲立証券が解散するとの決議をした際にも,同社の常務取締役P10と監査
役P11が保有していた株式合計1万5000株を北浜水明会において買い取った。北浜水明会の設立及び株式購入資
金は,P2社長には資金がなかったため,原告の関連会社である大証システムからの300万円の借入金を資本金に充
て,中央コンピューターサービス株式会社(以下「中央コンピューター」という。)からの2200万円の借入金を株
式購入資金に充てた。(乙54【89ないし109,118ないし121頁】,乙B94,弁論の全趣旨)
ト P1社長は,仲立証券が希望退職者を募集した際,これに応募した従業員のうち3名を慰留し,上記3名が仲立証
券に残ったところ,その後,上記サのとおり従業員の基本給が減額されたのに伴い,上記3名の退職金が減額されるこ
ととなった。原告のP7常務は,上記3名に対し,退職金の減額分を填補し,当該填補分相当額を中央コンピュータか
ら顧問料として受領した。(乙B92【6,7頁】,93【21ないし24頁】)
ナ なお,平成4年5月には,原告が中心となり,株式売買システムに関するワーキンググループが設置されたが,仲
立証券に関して何らかの結論が出されることはなかった(乙B86,弁論の全趣旨)。
 また,平成10年2月には,原告,日本証券業協会大阪地区協会,正会員協会及び大阪証券福祉事業団により,大阪
団体業務検討委員会が設置され,当該委員会は,業界団体の経費見直しという観点から各団体の統廃合を含めて検討を
行うことを目的としていたが,仲立証券も統廃合の検討対象団体とされ,仲立証券に関する問題を扱う小委員会は原告
が担当することとされた。結局,上記委員会において,仲立証券について何らかの検討がされることはなかった。(甲
8,12【119ないし122頁】,13【12ないし14頁】,乙53【71頁】,乙B95,弁論の全趣旨)
(5)P2社長就任から仲立証券の自主廃業決定に至るまでの経緯(平成10年7月から平成11年3月まで)
ア 参加人は,平成10年7月30日,大阪地労委に対し,原告及び仲立証券を被申立人とする救済を申し立てた(平
成10年(不)第44号事件)。
参加人の請求した救済の概要は次のとおりである。
① 原告に対し,仲立手数料率の回復
② 原告に対し,仲立証券の組合員の給与減額分の回復
③ 原告に対し,仲立手数料率の回復や仲立証券の組合員の給与減額分の回復等を議題とする団体交渉応諾
④ 仲立証券に対し,組合員の賃金カット分の回復及びバックペイ
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 なお,この時点での仲立証券の従業員数は70名であった(弁論の全趣旨)。
イ P2社長は,平成10年8月31日,仲立証券内に再建プロジェクトチームをつくり,媒介業務から貸金業や貸株
業等に業務転換するという再建案を策定するとともに,従業員に対し,希望退職者を募集することを発表した。前記希
望退職募集の内容は,退職募集人員を20名程度,退職募集期間は平成10年9月1日から同月21日まで,募集に応
じた従業員に対しては,通常の退職金に加え退職優遇金として300万円を加算支給し再就職支援金として基本給の2
4か月分を支給するというものであった。当該希望退職の募集に対し,従業員6名が応募して退職し,さらに2名が退
職してKBSに採用され,その結果,仲立証券の従業員は62名となった。
(弁論の全趣旨)
ウ 参加人は,P2社長の再建策には反対であると表明し,再建策の撤回を要求した。参加人の主張は,飽くまで媒介
業務を主要な業務と位置付けた上で,株券の売買取引等の監視業務等原告の業務の一部を仲立証券に移管するほか他の
業務を新たに開拓していくべきであるというものであった。参加人は,団体交渉で,P2社長に対し,前記参加人の主
張内容を受け入れるように要求したが,P2社長は,参加人の提案は自助努力の姿勢が足りないとして受け入れなかっ
た。(乙18【4頁】,23【7頁】,26,42【15,16頁】,45【34頁】,乙A31【15,16頁】)
 その後,P2社長は,平成10年末までに,参加人に対し,仲立証券が再建を図る新たな方策として,介護福祉事業
や労働者派遣事業,警備業務,株式のインターネット取引等の業務を模索していることを口頭で提案した(乙38,4
1【15ないし17頁】,乙A28【15ないし17頁】)。
 しかし,参加人は,上記と同様の理由でP2社長の提案を拒否し,以後,頻繁に開催された団体交渉においても,再
建策を巡る労使双方の基本的な考え方は対立したままであった(乙26ないし28)。
エ 仲立証券は,平成10年10月1日,東京地区での証券業界の競争激化のために収益が減少したことを理由に,東
京支店を廃止した。当時東京支店には従業員7名が在籍していたが,1名のみが大阪に戻り,他の6名は退職した。
オ 参加人は,平成10年11月6日,仲立証券の経営危機についての原告のこれまでの対応は極めて不誠実であると
して,組合員数名が原告を訪れ,P6専務を取り囲んで強く抗議した。
カ 仲立証券では,平成10年末までの間,断続的に役員の間で経営再建策についての議論が交わされたが,当面は経
営を存続していくべきであるという主張と,財源に余力のあるうちに清算し,従業員にも分配すべきであるという主張
が対立してまとまらなかった(乙44【23頁】,45【35頁】)。
キ P2社長は,平成10年12月2日,原告に対し,仲立証券の将来像を問う文書を書き送った。これに対し,原告
が平成10年12月18日に回答した内容は,「証券取引の電子化は時代の趨勢であり」,「証券会社においても…(
中略)…スピーディで信頼性が高くかつ低コストで利便性の高い取引の場を希望するニーズが高まってきていると思わ
れ」,そのためには,「業界の動向を十分見定めるとともに,貴社に何が期待されているかの意見を聴取され,対策を
考えられることが必要かと思われます」というものであった。また,末尾には,「本所としては,貴社に意見を申し上
げる立場にはありませんが,折角のお尋ねですので,上記の通り感想を述べさせていただきました。」とあった。
ク P2社長は,平成11年1月21日,原告及び証券会社123社に対し,有価証券の売買取引等の完全自動執行へ
の移行,仲立手数料の扱い,仲立証券のとりうる方向性等に関する意見を求めた(乙16,21)。
 これに対して,44社から回答があったが,その内容は,株券等の完全自動執行を進めるべきである,仲立手数料を
なくしてほしい,今後仲立証券は媒介業務以外の分野に進出すべきである等の意見が多数であった(乙39)。
ケ 参加人と仲立証券は,この間,頻繁に団体交渉を開催していたが,平成11年2月18日の団体交渉は約4時間に
わたって行われ,当該団体交渉では,仲立証券の再建策を巡って,組合員がP2社長に対し厳しい言葉を投げかけた
り,机を何度もたたいたりするなどの行為もあった。この後,P2社長は約3週間出社せず,同年3月8日から再び出
社した。(乙20,24【26ないし28頁】,29,44【36頁】,45【44ないし46頁】)
コ P2社長は,出社しない期間中の平成11年3月3日,原告のP7常務と会い,仲立証券が営業を休止せざるを得
ない可能性もあり,その場合には媒介業務に支障が生じるおそれもあると説明した。P2社長は,平成11年3月下
旬,電話で原告のP5常務に対し,営業休止する場合の手続について問い合わせたところ,P5常務は,P2社長に対
し,手続についての所管は会員部であるから会員部長に話をするように答えた。
 なお,仲立証券の平成11年3月期における営業収益は約4億3200万円(うち仲立手数料収入は約4億2100
万円),営業費用は約9億8000万円(このうち人件費が約8億7000万円)であり,経常損益は約6億2900
万円の赤字であった。
(6)仲立証券の自主廃業決定から本件申立てに至る経緯等(平成11年4月以降)
ア 仲立証券が自主廃業を決定した平成11年4月12日には,次のような動きがあつた。
(ア)仲立証券は,取締役会を開き,仲立証券の経営見通しについて,①平成5年3月期以来赤字が連続し,今後とも
好転が期待できず,②他業種への転身を図ろうとしたが不可能であったので,この時点では,まだ仲立証券の財務状況
が債務超過に陥ってはいないものの,これ以上営業を継続することは不可能であるとの判断の下,翌13日から営業を
休止し,自主廃業すること及び4月27日に臨時株主総会を開いて会社解散決議を提案することを決定した。この決定
に基づいて,仲立証券は,直ちに,原告に対し,会員脱退承認申請を提出した。
 なお,上記決定について,原告が仲立証券に対して何らかの指示等をしたことはなかった(甲12【53頁】)。
(イ)原告は,仲立証券から会員脱退承認申請が提出された直後,急遽理事会を開催し,仲立証券が行っていた媒介業
務は原告が行うこととし,実際には当該業務につきKBSから従業員を出向として受け入れた。また,原告は,会員で
ある一般証券会社の代表者等に対し,仲立証券が営業休止することを伝えた。
 なお,仲立証券は,営業休止について,参加人に対し,事前の連絡はしなかった(乙22【1頁】)。
(ウ)参加人は,午後3時ころ,仲立証券が営業休止及び自主廃業を決定したことを知り,直ちにP2社長に対し団体
交渉を開催するよう要求した。午後4時から社員説明会を兼ねた団体交渉が開催され,団体交渉は午後10時ころまで
続いた。P2社長は,団体交渉の席上,仲立証券は平成5年3月期以来連続赤字であり業績好転の見込みもないので,
剰余金がなくなる前に会社解散の手続をとりたいと説明し,従業員は翌13日から仲立証券の事務所に待機するよう告
げた。これに対し,参加人は,営業休止や自主廃業は参加人との事前協議事項であるのに,これらの措置はそれに違反
してなされた違法不当なものであると強く抗議した。(乙22【1ないし3,8頁】,23【18,19頁】,36,
41【21,22頁】,乙A28【21,22頁】)。
イ 翌日の平成11年4月13日には,次のような動きがあった。
(ア)媒介業務は,原告が仲立手数料なしで直接行うことになり,従前の売買立会場とは別の場所を売買立会場とし,
転換社債等の売買取引が開始された。
(イ)参加人は,仲立証券の営業休止が,参加人との協議もなく強行されたとして,仲立証券の従業員が大阪証券取引
所内で引き続き就労できるよう闘争することを決定し(参加人はこの闘争を「就労闘争」と呼んでおり以下この用語を
使用する。),仲立分会の組合員を含む数十名の組合員及び非組合員である仲立証券の従業員らが,就労闘争として大
阪証券取引所の立会場内に立ち入ろうとしたところ,原告の職員がこれを制止した。しかし,多数の参加人組合員が,
その制止を振り切って立会場内に入り込み,制止して退去を求めようとする職員を取り囲んで厳しく問いただすなどの
抗議行動を行った。
(ウ)原告は,参加人執行委員長に対し,就労闘争は原告の施設管理権を侵害し業務を妨害する深刻で重大な違法行為
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である旨文書で通告したが,就労闘争は,翌日以降も行われ,約1週間にわたって続いた。就労闘争を知った仲立証券
も,平成11年4月19日,仲立証券の従業員に対し,大阪証券取引所の立会場内に立ち入らないように求めた文書を
同所の入口に掲示した。
ウ 参加人は,平成11年4月15日,大阪地労委に対し,前記(5)アの平成10年(不)第44号事件に係る実効
確保の措置を申し立てた。申立ての概要は,①仲立証券に対し,仲立証券の解散及び従業員の解雇の禁止,②原告に対
し,仲立証券の株主総会における会社解散決議の賛成の禁止を求めるものであった。大阪地労委は,この措置申立てに
対し,平成11年4月30日,仲立証券に対しては,同社の自主廃業・解散に関して,事態の緊急性に鑑み,組合員の
身分,処遇につき参加人と十分協議を行うよう求める旨の文書勧告を行った。原告に対しては,本件担当審査委員が口
頭により,仲立証券の解散に関して,組合員の身分,処遇等に影響を及ぼすものであるから,審査手続の円滑な進行を
図るため,特段の配慮を求める旨の要望を行った。
エ 仲立証券は,平成11年4月16日,希望退職者を募集した。その内容は,募集期間を平成11年4月26日まで
の10日間,希望退職に応じた従業員に対しては通常の退職金に加え,再就職支援金として一律600万円,5月分の
給与及び平成11年夏期手当として基本給・家族手当・住宅手当の1.2か月分をそれぞれ支給するというものであっ
た。当該希望退職の募集に対し,当時在籍していた従業員61名中20名が応じたがいずれも非組合員であり,応じな
かった41名はすべて組合員であった。(乙22【24頁】,37,41【23頁】,乙A17,28【23頁】)
 なお,参加人は,平成11年4月16日,原告に対し,仲立証券の解散の問題について団体交渉を開くよう要求した
が,原告は当事者の立場にないとして応じなかった(乙25,弁論の全趣旨)。
オ 仲立証券は,平成11年4月27日,臨時株主総会を開催し,同年5月28日付けで廃業すること及び解散するこ
とを決議するとともに,従業員41名に対し,同日付けで解雇する旨通知した。参加人は,総会の翌日の平成11年4
月28日以降,仲立証券との間で断続的に団体交渉を行った。
カ 参加人は,平成11年5月6日,原告に対し,①仲立証券の企業再開と組合員の雇用を確保すること,②組合員を
原告や証券関係の業界で再雇用すること等を議題とする団体交渉を申し入れたが,原告は,団体交渉議題になじまない
として申入れを拒否した(本件団体交渉拒否)。
キ 参加人は,平成11年5月12日,本件団体交渉拒否は不当労働行為に当たるとして,大阪地労委に本件救済申立
て(平成11年(不)第39号事件)を行った。
ク P2社長は,平成11年5月24日,今回が自主退職を募る最後の機会であり,清算事務に移行すると十分な退職
金が支払われないこと等を理由に,希望退職を募ることを発表した。その内容は,会社が解散する前日の平成11年5
月27日までに希望退職に応じた場合は,通常の退職金に加え600万円の再就職支援金と平成11年夏期手当として
基本給・家族手当・住宅手当の1.2か月分を支給するというものであった。しかし,この希望退職の募集には,従業
員41名のうち誰も応募しなかった。
ケ 参加人は,平成11年5月27日,大阪地労委に対し,原告及び仲立証券を被申立人として,①仲立証券に対し,
解雇の撤回,②原告に対し,仲立証券の組合員に対する雇用の確保を求めて不当労働行為救済申立て(平成11年(
不)第48号事件)を行った。大阪地労委は,前記救済申立てを最初の救済申立事件(平成10年(不)第44号事
件)に併合して審理し,平成13年5月9日,仲立証券の営業廃止,従業員の賃金引下げ及び解雇はいずれも不当労働
行為には当たらないとして,申立てを棄却する決定をした。参加人は,平成13年7月24日,この棄却命令を不服と
して,被告に再審査を申し立てた(中労委平成13年(不再)第36号事件)。
コ 仲立証券は,平成11年5月28日,営業を廃止し,清算手続を開始し,清算人にはP2社長が就任した。従業員
で全員組合員である41名に対しては,5月分の給与と退職金及び夏期手当相当分として基本給1.2か月分が支給さ
れた。なお,仲立証券は,本件再審査審問終結時においても清算手続を続行中である。
2 争点1(原告の使用者性の存否)について
(1)労働組合法7条にいう「使用者」の意義について検討するに,一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうもの
であるが,同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除,是正して正常な労使関係を回復するこ
とを目的としていることにかんがみると,雇用主以外の事業主であっても,当該労働者の基本的な労働条件等につい
て,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にある場合には,その限りにおい
て,上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(朝日放送事件最高裁判決参照)。これに対
し,参加人は,労働組合法7条にいう「使用者」とは,労働者の労働関係上の諸利益に影響力ないし支配力を及ぼし得
る地位にある一切の者をいうと主張するが,このような,外延が幾らでも広がるような開放的な概念によって「使用
者」を定義することは相当ではなく,参加人の上記主張を採用することはできない。
 本件において,原告が,仲立証券の従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではないことは当事者間
に争いがない。そして,本件団体交渉拒否において問題とされている団体交渉事項は,参加人仲立分会組合員らの雇用
問題である。すなわち,前記争いのない事実(2)ないし(4)によれば,参加人が原告に対し申し入れた団体交渉事
項は,「①仲立証券の企業再開と組合員の雇用を確保すること,②組合員を原告や証券関係の業界で再雇用すること」
であり,労働委員会が命じた救済命令も,「平成11年5月6日付けの参加人の団体交渉申し入れについて,媒介業務
の廃止に伴う媒介業務に従事していた仲立分会組合員の雇用問題」を議題とする団体交渉に原告は応じなければならな
いと命じている。そうだとすると,原告が本件団体交渉に応じる義務があるというためには,原告において仲立証券の
事業再開と同証券従業員の雇用を確保しなければならないという程にあるいは原告や証券関係の業界で仲立証券従業員
を再雇用しなければならないという程に原告は仲立証券従業員の基本的な労働条件等を支配決定することができる地位
にあった,換言すれば,原告が,仲立証券従業員の雇用確保等(以下「本件雇用問題」という。)について,雇用主で
ある仲立証券と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったということがいえて,
はじめて労働組合法7条にいう「使用者」に当たると解するのが相当である。よって,以下,前記観点に照らし,原告
が,仲立証券従業員の本件雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することがで
きる地位にあったといえるか否かについて検討することにする。
(2)仲立証券の再建策に対する原告の支配,決定力の存否
ア まず,最初に,原告は,仲立証券の再建策に対し,同証券と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定する
ことができる地位にあったのか否かという点について判断する。
イ 前記認定事実によれば,①仲立証券は平成9年4月業務内容を抜本的に改変するための試案を作成し,これらの試
案を原告のP5常務に提案したこと(前記1(4)ア),②仲立証券は同年9月から10月当時子会社を設立する再建
策の検討や「57・50・35再建案」を策定し,これらについて原告と協議したり原告の意見を求めたりしていたこ
と(同(4)ウ,エ),③仲立証券は同年10月17,20,22日の3日間にわたり原告との間で話合いを持ち,原
告から原告が代行会社と証券会社を設立する案が提出され,この提案に基づき,仲立証券は,「50・50・42再建
案」を策定したこと(同(4)オ),④P1社長が原告に対し仲立証券従業員の優先的採用を働きかけたこともあって
21名の仲立証券従業員が原告設立にかかる代行会社KBSに採用されたこと(同(4)カ,キ),⑤原告は,平成1
0年3月11日,理事長を含む原告内部の結論として仲立証券の東京支店廃止,自主廃業を申し入れていること(同(
4)ケ)が認められる。このような原告の対応に照らすと,原告は仲立証券従業員の本件雇用問題に影響を及ぼす仲立
証券の再建策の検討にあたり一定の関与をしていたものということができる。
ウ しかし,原告が仲立証券の再建策の検討にあたり一定の関与をしたのは次の理由からであることが認められる。す
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なわち,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,①原告が仲立証券からの再建策の相談に乗ったのは,原告の業務の
一つとして,会員に対する管理,監督という業務があり,特に財務内容等が悪化している会員からは原告の会員部にお
いてヒアリングを行い,再建策について意見交換等を行っており,その一環として行ったという側面が認められること
(前記1(4)ア,エ),②仲立証券は,原告における唯一の仲立会員であって,その再建策の成否が原告の営業にも
重大な影響を及ぼすことが明らかである(現に,仲立証券が自主廃業を決定した後,仲立証券が行っていた媒介業務は
原告が行うこととなり,また,原告は,参加人による就労闘争に巻き込まれている)など原告としても仲立証券の再建
に無関心でいることはできないこと(同(1)ア,同(6)ア,イ,弁論の全趣旨)が認められ,これらの事実を考慮
すれば,原告が仲立証券の再建策の検討にあたり一定の関与をしたことにも一応それなりの理由があるといえ,仲立証
券の再建策の検討に対し原告が一定の関与をしたことをもって,原告が労働組合法7条にいうところの仲立証券従業員
の「使用者」たる立場にあると根拠付けることは困難である。
エ かえって,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,①仲立証券が同社の業務内容を抜本的に改変するための試案
や「57・50・35再建案」を作成しこれを原告に提示したのは,試案内容が仲立証券において原告の業務の一定部
分を肩代わりすることなど仲立証券の経営再建のためには原告の協力が必要であったためであり,また,原告が仲立証
券の相談に乗ったのは,前記ウ①で述べたとおり,原告の業務の一つとして,会員に対する管理,監督という業務があ
り,特に財務内容等が悪化している会員との間では再建策について意見交換等を行っており,本件の関与はその一環と
して行ったという側面があること(前記1(4)ア,エ),②原告が平成9年10月22日にP1社長に対し子会社設
立の話をしたのは,当時原告においてそのような会社設立構想があり,わざわざ仲立証券の従業員を救済するために会
社設立を検討したとは言い難いこと(同(4)オ,弁論の全趣旨),③原告は,平成10年3月11日,理事長を含む
原告内部の結論として仲立証券の東京支店廃止,自主廃業を申し入れていたにもかかわらず,仲立証券のP1社長は,
東京支店の業務の継続を主張し,結局,同支店は同年10月1日まで業務を継続するなどしており,仲立証券は,原告
の意向とは異なる再建構想を持ち,その実現に努力していたこと(同(4)ケ,(5)エ),④原告は,仲立証券が廃
業及び会社解散を決定するに際し,仲立証券に対し,何らの指示等も出しておらず,上記決定は仲立証券の取締役会が
独自の判断で行ったものであること(同(6)ア(ア))が認められる。これらの事実に照らすと,原告は仲立証券の
求めに応じその再建策の検討にあたってはいたものの,その採否の最終判断及び実行は仲立証券に委ねられており,原
告において仲立証券従業員の本件雇用問題を決定しているということはできない(むしろ,本件雇用問題を決定してい
たのは仲立証券である)。そうだとすると,原告は,仲立証券の事業再開と同証券従業員の雇用を確保しなければなら
ないという程にあるいは原告や証券関係の業界で仲立証券従業員を再雇用しなければならないという程に原告は仲立証
券従業員の基本的な労働条件等を支配決定することができる地位,換言すれば,原告は,参加人仲立分会組合員らの雇
用の確保等本件雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位に
あったということはできない。
オ 小括
 以上によれば,仲立証券の再建策に対する原告の関与という観点から,原告が,労働組合法7条にいうところの「使
用者」に当たるとの結論を導くことは困難であるというべきである。
(3)制度面,資本関係,人事面からみた原告の仲立証券に対する支配,決定の存否
ア 次に,制度面,資本関係,人事面の観点から,原告が仲立証券に対し,支配,決定力を有していたか否かについて
検討する。
 イ 制度面に関し,被告は,原告の基本的な機能である大量の有価証券の売買取引等需要と供給の円滑な処理及び公
正な価格形成を図るためには,仲立証券が行う正会員間の売買取引の媒介業務は重要な役割を担っていたものである
旨,参加人は,仲立証券の行っていた媒介業務は,原告が本来行うべき業務である旨,それぞれ主張する。しかし,被
告及び参加人の前記主張が事実であったとしても,そのことが,原告が,仲立証券従業員の本件雇用問題について,部
分的であれ雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったことの根拠となる
ものとはいえず,被告及び参加入らのこの点の主張は理由がなく,採用することができない。
ウ 次に,資本関係,人事面については,前記認定事実によれば,①資本関係については,原告は,仲立証券の株式の
27パーセントを保有しており,正会員協会も25パーセントを保有しているところ(同(1)ウ),正会員協会は,
原告の会員の福祉の増進等を図ることを目的とした組織であり,歴代の常務理事等には原告の理事が就任していること
(同(1)ア)に照らすと,原告と同一歩調をとる可能性が高いこと,②人事面については,仲立証券の役員人事につ
いては,昭和60年以降平成11年5月28日に営業を廃止するまでの間に,9名の原告出身者が,仲立証券の役員又
は管理職に就任したこと(同(1)ウ),P1社長は,原告の元専務理事,P2社長は原告の元部長であったこと(同
(3)エ,(4)ス,チ)がそれぞれ認められる。しかし,上記①及び②の各事実を総合しても,原告の判断如何によ
っては,間接的に仲立証券従業員の本件雇用問題に対して影響が及んでいたことは否定できないものの,だからといっ
て,直ちに,原告が,仲立証券従業員の雇用確保等本件雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体
的に支配,決定することができる地位にあったとまでいうことは困難である。
エ かえって,前記争いのない事実,認定事実及び弁論の全趣旨によれば,①仲立証券は,その沿革をみても,昭和6
0年に原告がその株式を取得して資本参加するまでは,原告との間における相互の株式の保有はなく,役員の交流,従
業員の出向等の関係はなく,証券取引法によって,原告とは全く別の組織として成立したこと,仲立証券は,これま
で,独自の事務所(本店及び支店),資産,従業員を持ち,自己の計算で営業活動を展開し,法人の実体としては原告
とは独立した存在として運営されてきた法人であること(前記1(1)ウ,弁論の全趣旨),他方,原告は平成13年
3月31日までは仲立証券らを含む会員で組織された公益法人であったこと(前記争いのない事実(1),前記1(
1)ウ,弁論の全趣旨),②原告は,仲立証券の株式の27パーセントを保有しているにすぎず,正会員協会の所有に
係る株式を含めても52パーセントを保有しているにとどまること(同(1)ア,なお,北浜水明会及び北浜親和会所
有に係る仲立証券の株式については,両社の設立経緯,その出資持分の保有者等の事情を考慮しても,直ちに原告所有
と同視することはできない。),③原告は,参加人仲立分会組合員40名との間の訴訟で,同組合員らを原告の従業員
として取り扱う法律上の義務がないことが裁判上確定していること(前記争いのない事実(7))が認められ,これら
の事実を考慮すると,原告が,仲立証券従業員の本件雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的
に支配,決定することができる地位にあったと認めることは困難である。
オ 小括
 以上によれば,制度面,資本関係,人事面の観点から,原告が,労働組合法7条にいうところの「使用者」に当たる
との結論を導くことは困難であるというべきである。
(4)労働条件面からの支配,決定力の存否
ア 最後に,労働条件面の観点から,原告が仲立証券に対し,支配,決定力を有していたか否かについて検討する。
イ 前記認定事実によれば,①原告による有価証券の売買取引等制度の変更,特に完全自動執行への移行に伴って仲立
証券の媒介業務は減少するものであり,媒介業務の存否は原告の採用する執行方法に依存するという関係にあったもの
で,平成11年7月26日までにはすべての株券や債券に係る取引が完全自動執行に移行したことにより媒介業務は消
滅したこと(前記1(2)イ),②原告は,平成9年9月1日から平成10年5月1日までの間に,3次にわたって仲
立手数料を引き下げたこと(同(2)ウ),仲立手数料率の改定は原告の理事長らの決済等の諸手続を経て決定される
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こと(同(2)ウ),原告が平成9年12月8日大口クロス取引について立会外売買制度を開始し,これにより仲立
証券の手数料収入が著しく減少したこと(同(2)イ),仲立証券の平成10年3月期決算における営業収益,仲立手
数料収入はいずれも前の期と比較して約6億円減少し(同(4)ク),平成10年6月1日,仲立証券は従業員の基本
給を約2割削減するに至っていること(同(4)サ)がそれぞれ認められる。しかし,上記①及び②の各事実から,原
告が,抽象的には,仲立証券従業員の雇用の確保等本件雇用問題に対して影響を及ぼし得る地位にあったという余地は
あるものの,そうだからといって,原告が,直ちに,仲立証券従業員の雇用確保等本件雇用問題について,雇用主と同
視できる程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったとまでいうことは困難である。
ウ かえって,前記争いのない事実,認定事実及によれば,①仲立証券は,従業員の労働条件について,自ら就業規則
を定めるほか,参加人との間で労働協約を締結していたこと,その結果,仲立証券の従業員の賃金,賞与の交渉は,専
ら仲立証券と参加人仲立分会との間で行われてきたこと,労働時間,休憩時間,休日をはじめその他の労働条件につい
ても,仲立証券自身によって決定されており,原告がこれに関与することは一切なかったこと,仲立証券の従業員の採
用,解雇,配置,懲戒についても,仲立証券自身が決定し,原告はこれに一切関与していないこと(同(1)エ),②
仲立証券の目的は,媒介業務に限定されておらず,実際にも,大阪証券取引所外において証券会社や金融機関を顧客と
して,債券等の仲介業務等を行っており,昭和60年9月期当時には,仲立証券の手数料収入約35億円のうち,仲立
手数料ではない大阪証券取引所外で行う店頭債券手数料が約40パーセントを占めており,媒介業務以外の分野におい
ては,独自の方針を打ち出すことも可能であったこと(同(1)ア,(3)イ),③原告は,参加人仲立分会組合員4
0名との間の訴訟で,同組合員らを原告の従業員として取り扱う法律上の義務がないことが裁判上確定したこと(前記
争いのない事実(7))が認められ,これらの事情を考慮すると,仲立証券従業員の雇用確保等本件雇用問題について
は,仲立証券のみがこれを支配,決定することができる地位にあったというべきであって,原告は,雇用主と同視でき
る程度に現実的かつ具体的に支配,決定することができる地位にはなかったものと認めるのが相当である。
エ なお,前記認定事実によれば,仲立証券の行う媒介業務の作業内容や作業手順,作業時刻等については,原告の業
務規定や業務規定施行規則によってその細部まで具体的に定められており,さらにこれを実施するための細目として仲
立証券も媒介業務を行うに当たり必要な事項について媒介業務規定等を作成していたこと(前記1(2)ア),媒介業
務に携わる仲立証券従業員は,その日常業務を行うに当たっても,同じポスト内にいる原告の従業員により審査,監視
されていたこと(同(2)ア)が認められるが,これらの点については,上記のような仲立証券の媒介業務の作業内容
や作業手順,作業時刻等に関する使用者性の存否の判断であれば格別,仲立証券従業員の雇用確保等本件雇用問題に関
する使用者性の存否の判断を左右するものではないというべきである。
オ 小括
 以上によれば,労働条件面の観点から,原告が,労働組合法7条にいうところの「使用者」に当たるとの結論を導く
ことは困難であるというべきである。
(5)まとめ
 前記(2)ないし(4)で検討したとおり,仲立証券の再建策に対する原告の関与,制度面,資本関係,人事面,労
働条件面の各観点から,原告の仲立証券に対する支配,決定力の存否,程度等を検討したが,原告は,仲立証券の事業
再開と同証券従業員の雇用を確保しなければならないという程にあるいは原告や証券関係の業界で仲立証券従業員を再
雇用しなければならないという程に原告は仲立証券従業員の基本的な労働条件等を支配決定することができる地位,換
言すれば,原告は,参加人仲立分会組合員らの雇用の確保等本件雇用問題について,雇用主と同視できる程度に現実的
かつ具体的に支配,決定することができる地位にあったということはできない。そうだとすると,原告は,仲立証券従
業員との関係で労働組合7条の「使用者」には該当せず,したがって,原告との間で不当労働行為の問題が生ずる余地
はないというべきであるから,その余の点を検討するまでもなく,被告のした本件命令は違法として取消しを免れな
い。
第4 結語
 以上のとおり,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官  難 波 孝 一
裁判官 三 浦 隆 志
裁判官世森亮次は,転官につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官  難 波 孝 一
(別紙1)
主       文
1 被申立人大阪証券取引所は,平成11年5月6日付けで,申立人大阪証券労働
組合から申出のあった団体交渉について,媒介業務の廃止に伴う媒介業務に従事
していた大阪証券労働組合仲立証券分会組合員の雇用問題を議題とする団体交渉
に応じなければならない。
2 被申立人は,申立人に対し,下記の文書を速やかに手交しなければならない。

年 月 日
大阪証券労働組合
執行委員長 P12 殿
大阪証券取引所
理事長 P8
 当所が,平成11年5月6日付けで,貴組合から申出のあった団体交渉について,媒介業務の廃止に伴う媒介業務に
従事していた貴組合仲立証券分会組合員の雇用問題を議題とする団体交渉に応じなかったことは,大阪府地方労働委員
会において,労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為と認められました。今後このような行為を繰り返さない
ようにいたします。
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