弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主   文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理   由
 上告代理人岡崎耕三、同井藤勝義の上告理由第一点について。
 訴外D労働金庫が本件貸付当時、所論従業員組合が存在しないことを知悉してい
たものとは認め難いとする原審の認定判断は、挙示の証拠に照らして肯認すること
ができ、また、記録によるも、所論民法一一七条二項の過失に関する主張は、上告
人が原審において主張したものとは認められないから、原審がこの点について判断
を示さなかつたことに所論の違法があるとはいえない。したがつて、論旨は採用す
ることができない。
 同第二点について。
 労働金庫法が五八条においてその事業の範囲を明定し、その九九条において役員
の事業範囲外行為について罰則を設けていること、同法がその会員の福利共済活動
の発展およびその経済的地位の向上を図ることを目的としていることに鑑みれば、
労働金庫におけるいわゆる員外貸付の効力については、これを無効と解するのが相
当であつて、この理は、農業協同組合が組合員以外の者に対し、組合の目的事業と
全く関係のない貸付をした場合の当該貸付の効力についてと異るところはない(最
高裁判所昭和四〇年(オ)第三四八号、同四一年四月二六日第三小法廷判決、民集
二〇巻四号八四九頁参照。)。本件において、所論の貸付が前記労働金庫の会員で
ない者に対する目的外の貸付であつたことは原審の確定するところであるから、右
貸付行為はこれを無効とすべきが相当であり、原審がこれを有効なものと判示した
点は、所論指摘のとおり、法令の解釈適用を誤つたものというべきである。
 しかしながら、他方原審の確定するところによれば、上告人は自ら虚無の従業員
組合の結成手続をなし、その組合名義をもつて訴外労働金庫から本件貸付を受け、
この金員を自己の事業の資金として利用していたというのであるから、仮りに右貸
付行為が無効であつたとしても、同人は右相当の金員を不当利得として訴外労働金
庫に返済すべき義務を負つているものというべく、結局債務のあることにおいては
変りはないのである。そして、本件抵当権も、その設定の趣旨からして、経済的に
は、債権者たる労働金庫の有する右債権の担保たる意義を有するものとみられるか
ら、上告人としては、右債務を弁済せずして、右貸付の無効を理由に、本件抵当権
ないしその実行手続の無効を主張することは、信義則上許されないものというべき
である。ことに、本件のように、右抵当権の実行手続が終了し、右担保物件が競落
人の所有に帰した場合において、右競落人またはこれから右物件に関して権利を取
得した者に対して、競落による所有権またはこれを基礎とした権原の取得を否定し
うるとすることは、善意の第三者の権利を自己の非を理由に否定する結果を容認す
るに等しく、信義則に反するものといわなければならない。したがつて、上告人の
本訴請求は、この点において既に失当としてこれを棄却すべく、右請求を排斥した
原審の判断は、結論において正当であつて、本件上告は棄却を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁
判官全員一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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