弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人安達幸衛、同高木善種、同岩本宝の上告理由第一点について。
 原審の確定した事実関係のもとにおいては、上告人A1と被上告人らとの間の本
件土地建物の売買契約締結に関する訴外D弁護士の行為が、双方代理にあたらず、
また弁護士法二五条に違反するものでもないとした原審の判断は、正当として是認
することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二点について。
 右売買契約においては、上告人A1本人の了承を得て、残代金一五〇〇万円を別
件訴訟の勝訴判決確定後一か月以内に支払う旨の約定がなされたものであり、その
支払期限を契約成立後一年以内と定めたものではないとした原審の認定判断は、原
判決挙示の証拠に照らして肯認することができ、右認定判断の過程に所論の違法は
ない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実の認定
を非難するものであつて、採用することができない。
 同第三点について。
 原審は、残代金支払時期に関する右約定を上告人A1本人において了承していた
ことが認められ、同上告人がこれと異なる意図をもつていたとは認められないとし
ているのであつて、この点の認定判断は、原判決挙示の証拠に照らして肯認するこ
とができる。したがつて、所論の錯誤の主張を排斥した原審の判断に所論の違法は
なく、論旨は、原審の事実の認定を非難し、その認定と異なる前提に立脚した主張
をするものであつて、採用することができない。
 同第四点について。
 原審の認定するところによれば、上告人A2は、上告人A1と親族で、同上告人
の主宰する株式会社の取締役の職にあるなどの関係にあり、同上告人の意を受けて
被上告人らとの間に本件土地建物の売買契約解消の交渉をしたことがあつたこと、
上告人A2は、被上告人らが本件土地建物を上告人A1から買い受け、すでに本件
土地上に鉄筋コンクリート造旅館をも新築して本件土地を占有使用しており、上告
人A1と訴外Eほか四名との間の本件土地に関する別件訴訟も実質上被上告人らの
ために追行されているなどの事情を知りながら、被上告人らに秘し、みずから右訴
外人らと交渉して、訴外人らの登記の抹消、示談金の支払と訴訟の取下を内容とす
る示談契約を成立させ、これと前後して、上告人A1との間に土地交換契約を締結
して本件土地所有権を取得しその旨の登記を経由したものであること、上告人A2
が右交換契約を締結した目的につき、首肯するに足りる理由が認められず、その目
的は、本件土地につき被上告人ら名義の登記がなされることを妨げ、被上告人らの
本件土地所有権取得の効果を対抗要件の欠缺により失わしめるにあつたものと推認
されること、以上の事実が認められる。そして原審の右認定判断は、挙示の証拠に
照らして肯認することができる。右事実関係のもとにおいては、上告人A2は、い
わゆる背信的悪意者として、被上告人らの本件土地所有権取得についての登記の欠
缺を主張する正当な利益を有しないものと解すべきであつて、これと同趣旨の原審
の判断は、正当として是認することができる。原審の認定判断に所論の違法はなく、
論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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