弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人石川耕三作成の控訴趣意書に記載されているとおりで
あるから,これを引用する。
論旨は,要するに,被告人を禁錮2年6月の実刑に処した原判決の量刑が重過ぎ
て不当であり,刑の執行を猶予するのが相当である,というのである。
そこで,記録を調査して検討する。
本件は,平成28年8月11日夜,普通乗用自動車(軽四)を運転中に,スマー
トフォンでポケモンGOのゲームアプリを起動して停車中などにそのゲームの操作
を行うなどしていた被告人が,スマートフォンの電池残量が不足していると考え,
車内で充電しようとして充電コードを差し込むことに気を取られ前方左右の注視を
怠ったために,進路前方の横断歩道上を自転車で横断中の当時29歳の被害者の発
見が遅れ,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車をその自転車に衝突させて被
害者をも路上に転倒させ,2週間後に,被害者を高エネルギー外傷によるびまん性
軸索損傷により死亡させた,という過失運転致死の事案である。
被告人は,スマートフォンの充電作業に気を取られ,前方左右を注視するという
自動車運転者としての基本的な注意義務をないがしろにした結果,本件死亡事故を
引き起こしたものである。また,本件犯行時の被告人の運転状況(過失の内容を含
む。)を具体的にみてみると,以下のような点を指摘できる。すなわち,被告人は,
被害者と同じく横断歩道上で,被害者のすぐ前を自転車で走行していた被害者の知
人については全く気付いておらず,被害者についても衝突直前になってようやく気
付いたというのであるから,この点のみをとっても,過失の程度が非常に大きいと
いえる。しかも,被告人は事故直前に大きく蛇行運転をし,対向車線にもはみ出す
などという危険な態様で走行しており,そのような危険な態様で走行していること
を当然に認識したはずであるのに,スマートフォンの充電作業を続けた末に本件事
故を惹起したのである。被告人の運転行為の危険性は明らかであり,本件は,たま
たま一時的に脇見をしてしまった結果起きた事故というようなものではなく,原判
決が指摘するとおり,被告人の注意が自動車の運転よりもスマートフォンに向けら
れていた結果起きた事故であって,いわば起こるべくして起こったものと評価され
てもやむを得ない。所論が,態様の悪質性は高いとはいえないとして種々指摘する
点を考慮しても,本件が単純な過失による事故とは一線を画する事案であるとする
原判決の認定,評価に何ら誤りはない。
所論は,ポケモンGOを操作中に死亡事故を起こした別事件を挙げて,これとの
比較の観点から,被告人はスマートフォンの画面を見てポケモンGOの操作をして
いたわけではないとか,本件は夜間の交通閑散な状況での事案であり,交通量の多
い時間・場所でのものでないなどといって,原判決の評価を争うようである。しか
し,原判決も,被告人が,事故時にスマートフォンの画面を凝視したり,ゲームの
操作等をしていたと認めているわけではないから,所論と異なる前提に立つもので
はない。また,本件時は暗くて視認状況はよくなく,前方左右の注視義務の程度が
特段軽減されるような事情も認められない上,被告人がよく通る道で進行方向に横
断歩道があると知っていたことや,スマートフォンの充電作業により蛇行運転にま
でなったことからすると,当然その作業を中止し,前方左右を注視する必要性は高
かったといえるのに,それを続けた点で,非難の程度は相当強いというべきである。
被害者は,2週間後に死亡しており,結果はもとより重大であって,被告人によ
る見舞金(15万円)の支払などの慰謝の措置を受けた後も,遺族はなお厳しい処
罰感情を有している。
原判決は,以上によれば,本件は禁錮刑の実刑をもって臨むべき事案であるとし
た上で,被告人の真摯な反省の態度,前科前歴がないこと,任意保険により賠償が
見込まれること,前述のように遺族に一定の慰謝の措置を講じていることなどの事
情をも考慮し,被告人を禁錮2年6月(求刑は禁錮3年6月)に処するのが相当で
あるとの判断を示している。原判決のこの判断は,執行猶予を付さなかった点はも
とより,刑期の点でも,重過ぎて不当であるとまでは認められない。
所論は,被告人の真摯な謝罪と反省,被害弁償の見込みがあること,慰謝の措置
が講じられたことに加え,運転免許の取消処分を受けたこと等により再犯可能性は
小さいこと,実名報道による社会的制裁を受けたこと,交通事故抑止につなげるべ
く社会的周知活動を行っていること,若年で前科がないこと等被告人のために酌む
べき事情を改めて指摘し,原判決はこれらの事情を十分に考慮していないと主張す
るようである。しかし,原判決も,その時点で既に主張・立証されていたこれらの
いわゆる一般情状に関する事情については,明示的に指摘していないものも含め,
相応に考慮して量刑判断をしたものと考えられ,その結論に照らしてみても,これ
らの事情により原判決の結論は左右されない。さらに,所論は,過失運転致死等の
量刑傾向を指摘して,原判決の量刑が不当に重いと主張する。所論の指摘する事例
と比較する限り,本件が飽くまで過失によるものであり,被害者数が1名の事案で
あることに着目すれば,原判決の量刑はやや重いとみる余地がないではない。しか
し,量刑傾向は,これを把握すること自体容易ではないし,ある程度の時間の経過
と共に変わり得るものであるから,これと比較をすることは必ずしも容易でない。
その上,本件は,危険な態様での運転行為を伴う過失の程度が非常に大きい事案で
あり,単純な過失による事故とは一線を画するものであることを考慮すると,所論
指摘の量刑傾向と単純に比較して,刑の軽重を論じるのは相当とはいい難い。本件
の過失の大きさ等を考慮すれば,所論の指摘を踏まえてみても,原判決の量刑が重
過ぎて不当であるとまではいえない。
したがって,論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判
決する。
平成29年9月26日
名古屋高等裁判所刑事第2部
裁判長裁判官村山浩昭
裁判官入江恭子
裁判官赤松亨太

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