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平成15年(ネ)第3657号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・大阪地方裁
判所平成14年(ワ)第12752号)
             判      決
    控訴人(1審原告)      タキロン株式会社
    訴訟代理人弁護士     滝 井 朋 子
同              小 野 昌 延
    補佐人弁理士         森     治
被控訴人(1審被告)     田島ルーフィング株式会社
被控訴人(1審被告)     株式会社タジマ
両名訴訟代理人弁護士     竹 田   稔
同              川 田   篤
補佐人弁理士         友 松 英 爾
同              小 栗 久 典
主      文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して273万6409円及びこれに対す
る平成14年12月19日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
3 被控訴人株式会社タジマは、控訴人に対し、235万7317円及びこれに
対する平成13年12月1日(不法行為の日の後)から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
4 訴訟費用は、1、2審とも被控訴人らの負担とする。
5 仮執行宣言
 (以下、控訴人を「原告」、被控訴人田島ルーフィング株式会社を「被告田島ル
ーフィング」、被控訴人株式会社タジマを「被告タジマ」という。また、原判決引
用部分に「別紙」とあるのを、いずれも「原判決別紙」と読み替える。)
第2 事案の概要
1 本件は、発明の名称を「階段構造」とする特許権(特許番号第319114
3号)を有する原告が、施工業者らによる原判決別紙物件目録1、2記載の各階段
構造の構築工事は上記特許権を侵害するものであり、被告らは、その共同不法行為
者又は教唆者もしくは幇助者であるとして、被告らに対し、民法709条、719
条1、2項、特許法102条2項に基づく損害賠償を請求した事案である。
 原審は、上記各階段構造は上記特許発明の技術的範囲に属しないとして、原
告の請求をいずれも棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 本件の基本的事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり付
加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」のうち
2頁11行目から16頁15行目までに記載のとおりであるから、これを引用す
る。
(1) 2頁13行目の「被告田島ルーフィング株式会社(以下「被告田島ルーフ
ィング」という。)」を「被告田島ルーフィング」と、同16行目の「被告株式会
社タジマ(以下「被告タジマ」という。)」を「被告タジマ」と、3頁11行目の
「被告田島ルーフィング」を「被告田島ルーフィングら」と、同12行目の「後
記(3)の工事」を「後記(3)のイ号構造に係る工事」と各改める。
(2) 3頁24行目の「被告構造のc」の次に「(原判決別紙物件目録1、2記
載の各(原告の主張)、(階段構造の構成)c)」を、5頁16行目の「先行技術
文献①」の次に「〔実開昭59-78432号のマイクロフィルム、乙7の2〕」
を、同行目の「②」の次に「〔特開昭61-113952号公開特許公報、乙7の
3〕」を、6頁4行目の「先行技術文献」の前に「前記の」を各加え、同行目の
「(実開」から同5行目の「乙7の2)」まで及び同行目の「(特開」から同6行目
の「乙7の3)」までをいずれも削る。
(3) 8頁2行目の「痛めにくく」を「傷めにくく、」と改め、9頁1行目の
「被告構造のc’」の次に「(原判決別紙物件目録1、2記載の各(被告らの主
張)、(階段構造の構成)c’)」を加え、10頁24行目の「相違する。」とし
て」を「相違する」旨述べて」と改める。
(4) 13頁25行目の「セメントTHは、」の次に「チクソトロピー性を高
め、平場への塗布性を高めるとともにダレ性を改善して垂直面やコーナー部にも使
用可能な接着剤としたものであり、」を加え、14頁18行目の「本件特許権侵害
行為」を「本件特許権侵害行為に係る共同不法行為」と改める。
(5) 16頁3行目末尾に「被告らが引用する文献等には、本件発明におけるよ
うな階段下地のコーナー部と床シート裏面との間に生じる隙間を充填するという技
術思想は全く開示されておらず、これらと本件発明とが実質的に同一であるとか、
これらから本件発明が容易に推考し得たということはできない。」を加える。
(6) 16頁15行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「5 争点1に係る当審における付加主張
(原告の主張)
(1)ア 本件発明の「接着剤」は、階段用床シートの踏み面の位置ずれを
完全に防止するが、もともと合成樹脂製の階段用床シートは柔軟性がかなり低いた
め、階段下地のコーナー部に対して階段用床シートを隙間なく完全密着させること
が困難であるとともに、本件発明のように、階段用床シートを階段下地の踏み面に
接着剤で接着するときは、コーナー部との間の完全密着が一層困難となる。階段の
コーナー部は、階段の昇降に際して、正逆双方向の頻繁かつ最も過酷な圧力・衝撃
力を受ける部分であり、同部分において階段用床シートが階段下地から浮いて階段
下地との間に隙間を残置しているということは致命的な欠陥となる。
 本件発明は、階段用床シートと階段下地との間に不可避的に生じ
るこのコーナー部の隙間を除去解消するために、この部分に「シーリング剤」を用
い、もって、階段用床シートとコーナー部との間の隙間を塞ぎつつ床シートと階段
下地を接合するという技術を確立したものである。
 したがって、本件発明の「接着剤」と「シーリング剤」とは、そ
の果たすべき技術的役割とこれに求められる性質・機能が異なるのはもちろんであ
るが、そのことから直ちに、両者が別成分の物質でなければならないということに
はならない。たまたま同一の物質が、両者の性質と機能を併有していれば、それ
は、本件発明の「接着剤」であると同時に本件発明の「シーリング剤」でもあると
いうことになるだけである。
イ そして、本件明細書には、「接着剤」と「シーリング剤」の目
的・用途及び機能について言及がされているが、本件明細書においても、早期審査
に関する事情説明書(乙7の1)においても、両者の成分の違いについては何ら言
及されていない。
(2)ア 原告は、平成16年3月に市場より入手した被告タジマのセメン
トTHの500gパック入り及び9kg缶入りについて、その粘度と固形分(「不
揮発分」とも呼ばれる。以下「固形分」という。)について実験(甲40)をした
が、その結果は、次のとおりである。
(ア) 粘度については、500gパック入りは3万6500mPa・sで
あり、9kg缶入りは2万4000mPa・sであった。その差は1万2500mPa・sにも
なり、500gパック入りは、9kg缶入りに比べて約52%も粘度が高い。
(イ) 固形分については、500gパック入りが72.5%であ
り、9kg缶入りは67.5%であった。500gパック入りの方が5.0%も固形
分が多い。
 このように粘度・固形分が異なれば、両者が同一のものであると
は到底いえず、また、上記結果は、本件明細書の【0019】欄に記載された好ま
しい「シーリング剤」の態様である「接着剤よりも固形分が多く粘度が高い」との
記載と合致する。
イ また、セメントTHに関する被告タジマのカタログ等の内容(甲
39参照)、殊に、被告タジマの技術資料(甲3の2)は、カタログに添付される
ため、形式的に踏み面も折り曲げ部もオープンタイムについては同一の記載がなさ
れているが、実際に業者が施工において従うところの「アクサンスかいだん施工要
領書」(甲6)では、施工上の問題発生の可能性からオープンタイムを同一の記載
とすることはできず、折り曲げ部には20~60分のオープンタイムを要し、踏み
面部では指触で指につかない程度と記載して、これら二つの部位で異なるオープン
タイムを指示していることは、ことさら名称を同じくしているセメントTHには異
なるグレードのセメントTHが存在することを疑わさせるものである。
(3) 「オープンタイム」とは、その用語のとおり、容器に収納されてい
る被収納物を容器から出して空気にさらしておく(オープン)時間の意である。接
着剤などには、時に、接着最適の濃度よりも多量の揮発性溶剤が用いられているこ
とがあるところ、接着施工後には、接着剤は2以上の被着物質間に閉鎖される状態
になるため、このような接着剤接着にあたっては、予め余分な溶剤を放出させるこ
とが適当である。したがって、接着剤には、オープンタイムということが頻繁に登
場する(甲35の1)が、シーリング剤(材)についても、2以上の物質間の隙間
を塞ぐ結果、シーリング剤(材)の溶剤の放出が困難となるような事情や、その他
にもシーリング剤(材)中の溶剤を予め放出させた後に本来の作業をすることが便
宜であるような事情があれば、オープンタイムという概念が生じ得ることは当然の
事理である(JISなどで、シーリング剤〔材〕については、ことさらにオープン
タイムが論じられないのは、シーリング剤〔材〕の場合は、例えば目地を塞ぐ等、
2以上の物質間に閉ざされないオープンな状態で使用される場合も多いことによる
と思われる。)。
(被告らの主張)
(1)ア 原告は、本件発明の「シーリング剤」に代えて接着剤を用いた場
合でも、それが本件発明の「シーリング剤」としての性質・機能を有していれば、
その接着剤は本件発明の「シーリング剤」にも該当する旨の主張をしているが、か
かる主張は、本件明細書の記載及び本件特許出願の経過に明らかに反し、失当であ
る。当業者が、本件明細書の記載から原告主張のように理解することはあり得な
い。
イ また、原告は、本件明細書等には「接着剤」と「シーリング剤」
との成分の違いについては言及されていない旨主張しているが、実際には、接着剤
とシーリング剤(材)とでは、その粘度は桁違いに異なる。例えば、原告のシーリ
ング剤(材)である「タキボンド♯650」の粘度は、25℃かつ1rpmの条件にお
いて2500~7000Pa・s、25℃かつ100rpmの条件において70~200
Pa・sであるが(乙19の2)、シーリング剤(材)における粘度の単位(Pa・s)
は、接着剤における粘度の単位(mPa・s)と比べて1000倍大きいので、これを接
着剤における粘度の単位(mPa・s)に換算すると250万~700万mPa・s及び7万
~20万mPa・sとなり、いずれの測定条件においても、原告の接着剤である「タキボ
ンド♯607」の粘度(乙19の1)より桁違いに大きい。被告タジマのシーリン
グ剤(材)である「EKシール」においても、接着剤の単位に換算すると90万~
130万mPa・s(乙20)と、同様である。
 また、シーリング剤(材)は、ほとんど固形分から成っており、
例えば、上記原告のシーリング剤(材)における固形分の含有量は「95±2」
%、上記被告タジマのシーリング剤(材)においても99%以上(乙20)と、そ
の固形分の含有量は、原告及び被告タジマの接着剤の固形分(乙19の1、27)
を大きく上回る。
(2) 原告による実験結果(甲40)における被告タジマのセメントTH
の500gパック入り及び9kg缶入りの粘度は、いずれも被告タジマの「セメン
トTH 性状性能表」(乙3の1。「使用時の粘度」として「2万~6万mPa・s(2
0℃)」なる記載がある。)の範囲内である。
 また、粘度や固形分については、同一の接着剤においても、原料の
計測誤差や製造時の温度及び湿度等の影響により、ある範囲内でばらつきが生じる
ことは周知の事項であって、原告の実験結果における粘度及び固形分の差異も、製
造年月日が異なるために多少ばらつきが生じたにすぎないと考えられるから、上記
実験結果程度のばらつきは、接着剤としての同一性に影響を及ぼすものではない。
 以上のことは、被告タジマの依頼に係る株式会社島津総合分析試験
センターの平成15年3月31日付け分析結果報告(乙26)によれば、イ号構造
に使用したセメントTHと同一ロット(乙25)の製品の固形分は、セメントTH
の500gパック入りについては71.6%、9kg缶入りについては75.0%
(いずれも、上記報告書の「表1」から固形分である「ウレタン樹脂分」及び「無
機充填剤」を合計した数値)と、9kg缶入りの方が500gパック入りよりも固
形分が3.4%多いという原告による実験結果とは逆の結果を示していることや、
被告タジマにおいて、製造年月日(平成16年1月23日)が同一であるセメント
THの500gパック入りと9kg缶入りについて粘度及び固形分を測定したとこ
ろ(乙27)、粘度は、500gパック入りが3万5600mPa・s(20℃・10
rpm)、9kg缶入りが3万9000mPa・s(20℃・10rpm。その差は9.6
%)、固形分は、500gパック入りが67.3%、9kg缶入りが66.9%
(その差は0.4%)と、ほぼ同一の値を示したことによっても裏付けられる。
(3) 原告は、シーリング剤(材)についても、オープンタイムという概
念があり得る旨主張するが、本件発明が、接合材料として、階段用床シートと踏み
面との重なり部分を「接着剤」、階段用床シートとコーナー部との重なり部分を
「シーリング剤」とそれぞれ特定した階段構造という「物の発明」であることから
すると、その技術的範囲は、オープンタイムというような接着剤の塗布方法に関す
る概念とは何の関係もないというべきであるし、オープンタイムが不可欠であるも
のでもシーリング剤(材)たり得る旨の原告の主張は、原告自身の製品でも、接着
剤である「タキボンド♯607」の品質証明書には、オープンタイムを10分~6
0分設けることを前提とした記載がある(乙19の1)が、シーリング剤(材)で
ある「タキボンド♯650」の品質証明書には、その点の記載がない(乙19の
2)事実とも矛盾し、原告自身を含む当業者の技術的常識に反する。」
第3 争点に対する判断
1当裁判所も、被告構造は本件発明の技術的範囲に属しないものであり、その
余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり付加、訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」
中の「第3 争点1(本件発明の構成要件C「シーリング剤」の充足性等)に対す
る当裁判所の判断」1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 19頁8行目の「しかし、」から同20行目の「相違するというべきであ
る」までを、改行の上、次のとおり改める。
 「 しかし、本件明細書の特許請求の範囲の記載においては、「接着剤」な
る用語と「シーリング剤」なる用語が、わざわざ区別して用いられており、これに
接した当業者は、明細書中の他の部分に、両者が同一のものであってもよいなどの
格別の記載や示唆がない限り、両者を異なるものと認識するのが通常であると解さ
れるし、また、そのような理解が、後記する当業界の技術用語の通常の意味とも合
致するものといい得る。
 ところが、本件明細書中の発明の詳細な説明等においても、上記格別の
記載や示唆は何ら見出せないばかりか、かえって、実施例に係るが、「接着剤」と
「シーリング剤」を対比しての記載の中には、「シーリング剤4としては、接着剤
より固形分が多く粘性が高いシリコン樹脂系シーリング剤、ウレタン樹脂系シーリ
ング剤、ポリサルファイド系シーリング剤等が好適に使用される。」(0019。
ただし、下線は当裁判所が付したものである、以下同じ。)、「コーナー部12に
垂れにくいシーリング剤4を付着する。」(0022)、「接着剤3、シーリング
剤4、粘着剤5等の…接合剤の粘度、接着力、粘着力などは、階段下地1と床シー
ト2との接合強度や貼り合わせ作業等を考慮して適宜選択すればよい。」(002
5)等の、両者の物性が異なるものであることを示唆する記載がみられるし、ま
た、本件明細書の全体の記載に徴し、本件発明の「接着剤」は、床シートと階段下
地の踏み面との重なり部分を全体的により強固に接合することにより、踏圧による
床シートのズレをなくすという点で、結合力の強さが要求されるものであるのに対
し、本件発明の「シーリング剤」は、床シートと階段下地のコーナー部との重なり
部分の接合に際し、コーナー部に生じる隙間を塞ぎ、昇降時の踏圧による床シート
のコーナー部でのヘコミやズレも激減させるという点で、密閉性や弾性力の高さが
要求されるものであることが明らかである。
 そうである以上、これらの記載に接した当業者としては、両者の成分等
も異なるものと認識するのが自然であるということができる(なお、原告は、前記
1(2)の(0019)の記載をもって単なる実施例の記載にすぎない旨主張している
が、「接着剤」におけるウレタン樹脂系一液型接着剤やエポキシ樹脂系二液型接着
剤、「シーリング剤」におけるシリコン樹脂系シーリング剤、ウレタン樹脂系シー
リング剤等が例示として掲げられていることは明らかとしても、「接着剤より固形
分が多く粘性が高い」なる部分は、単なる例示というより、両者の物性の違いを示
唆するものと理解することができるから、原告の上記主張は採用することができな
い。)。
 そうすると、本件発明の「接着剤」と「シーリング剤」とは、成分を異
にする異なる物質であると解するのが相当であり、また、このことは、証拠(乙1
9の1、2、20、27)及び弁論の全趣旨から、実際の接着剤とシーリング剤
(材)では、その粘度や固形分に大差があることがうかがわれること(例えば、原
告のシーリング剤〔材〕である「タキボンド♯650」の粘度は、250万~70
0万mPa・s〔25℃・1rpm〕及び7万~20万mPa・s〔25℃・100rpm〕であり
〔乙19の2。ただし、mPa・sに換算〕、原告の接着剤である「タキボンド♯60
7」の粘度1万~3万mPa・s〔25℃・20rpm。乙19の1〕よりはるかに大きい
し、固形分の点でも、例えば、上記原告のシーリング剤〔材〕の固形分の含有量
「95±2」%〔乙19の2〕は、上記原告の接着剤の66~76%〔乙19の
1〕を大きく上回っている。)からも裏付けられるところである」
(2) 19頁24行目及び22頁9行目の各「「接着剤」」の前にいずれも「本
件発明における」を加える。
(3) 23頁14行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 また、原告は、たまたま同一の物質が、本件発明の「シーリング剤」と
「接着剤」の性質・機能を併有する場合は、そのいずれにも該当するというだけで
あって、本件発明の「シーリング剤」と「接着剤」とが別成分の物質でなければな
らないとする理由はない旨主張する(原告の付加主張(1)ア)が、原告主張のように
いうことができないことは、既にみたところから明らかというべきであり、さら
に、原告は、本件明細書においては、「接着剤」と「シーリング剤」の目的・用途
及び機能についての言及がされているだけで、両者の成分の違いには何ら言及され
ていないとも主張している(原告の付加主張(1)イ)が、本件明細書(甲2)におい
て「接着剤」と「シーリング剤」なる用語を格別の注記もなく用いているものであ
る以上、既にみた当業界における技術用語の通常の意味に照らしても、原告主張の
ように、これらの用語を、目的・用途及び機能によって区別される単なる機能的表
現としてのみ用いるものと解することはできない。」
(4) 24頁22行目の「同じ成分の」を削り、25頁17行目末尾の次に改行
の上、次のとおり加える。
「 また、原告は、上記事情説明書には、本件発明の「接着剤」と「シーリ
ング剤」との成分の違いには何ら言及されていないとも主張しているが(原告の付
加主張(1)イ)、前記(1)の事情説明書の記載(殊に、「本願請求項1の発明は、階
段用床シートと踏み面との重なり部分を接着剤により、階段用床シートとコーナー
部の重なり部分をシーリング剤により、それぞれ区別して接合する点において構成
が相違する。」、「上記のように、本願請求項1、2の発明は、接着剤とシーリン
グ剤と粘着剤とを使い分け、階段用床シートと踏み面、コーナー部、蹴上げとのそ
れぞれの重なり部分を区別して接合した」)に照らし、原告自身が、本件発明の
「接着剤」と「シーリング剤」とを、構成自体において相違する異なる物質として
認識していたことは明らかというべきである。」
(5) 25頁18行目の「被告構造のb」の次に「(原判決別紙物件目録1、2
記載の各(原告の主張)、(階段構造の構成)b)、b’(上記各目録記載の各
(被告らの主張)、(階段構造の構成)b’)」を、同20行目の「被告構造の
c」の次に「、c’」を、同23行目の「表現上の相違にとどまる」の次に「〔な
お、この点では、被告構造のb、b’も同様である。〕」を各加える。
(6) 27頁17行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 これに対し、原告は、セメントTHの500gパック入りと9kg缶入
りについてした実験結果(甲40)に基づき、粘度については、500gパック入
り(3万6500mPa・s)が9kg缶入り(2万4000mPa・s)よりも約52%も粘
度が高く、固形分についても、500gパック入り(72.5%)が9kg缶入り
(67.5%)よりも5%も固形分が多く、このように粘度・固形分が異なれば、
両者が同一のものであるとは到底いえないなどと主張する(原告の付加主張(2)
(ア))。
 しかし、原告による実験結果(甲40)における被告タジマのセメント
TH(500gパック入り及び9kg缶入り)の粘度は、いずれも被告タジマの
「セメントTH 性状性能表」の範囲内であること(乙3の1)、粘度や固形分に
ついては、計測誤差や製造時の温度及び湿度等の影響により、同一の接着剤でも、
ある範囲内でばらつきが生じること(乙21~23、24の1、2)、甲40の実
験で用いられた製品(セメントTHの500gパック入り及び9kg缶入り)のロ
ット番号は異なっており、実験結果の粘度及び固形分の差異も、製造年月日が異な
るために生じたばらつきとも考えられること、他方、株式会社島津総合分析試験セ
ンターの平成15年3月31日付け分析結果報告によれば、イ号構造に使用したセ
メントTHと同一ロット(乙25)の製品の固形分は、セメントTHの500gパ
ック入りについては71.6%、9kg缶入りについては75.0%(いずれも、
上記報告書の「表1」から固形分である「ウレタン樹脂分」及び「無機充填剤」を
合計した数値)と、上記原告の実験結果とは逆に、9kg缶入りの方が500gパ
ック入りよりも固形分が多い結果を示していること(乙26)、被告タジマにおい
て、製造年月日(平成16年1月23日)及びロット番号が同一であるセメントT
Hの500gパック入りと9kg缶入りについて粘度及び固形分を測定したとこ
ろ、粘度は、500gパック入りが3万5600mPa・s(20℃・10rpm)、9k
g缶入りが3万9000mPa・s(20℃・10rpm。その差は9.6%)、固形分
は、500gパック入りが67.3%、9kg缶入りが66.9%(その差は0.
4%)と、ほぼ同一の値を示したこと(乙27)に照らすと、むしろ、原告主張の
程度の差異をもって、セメントTHの500gパック入りと9kg缶入りとの同一
性を否定することはできないものというべきであるから、上記原告の主張は採用す
ることができない。
 また、原告は、セメントTHに関する被告タジマのカタログ等の内容の
検討(甲39参照)を基に、セメントTHには異なるグレードのものが存在するこ
とを疑わさせる旨主張する(原告の付加主張(2)イ)が、憶測の域を出ないものとい
わざるを得ず、採用の限りでない。」
(7) 27頁18行目の「これに対し」を「さらに」と、同末行の「痛めにく
く」を「傷めにくく」と、28頁17行目の「塗布して」を「塗布してから」と各
改める。
(8) 30頁9行目の「明らかである。」の次に「なお、原告は、シーリング剤
(材)についても、2以上の物質間の隙間を塞ぐ結果、シーリング剤の溶剤の放出
が困難となるような事情があれば、オープンタイムという概念が生じ得る旨主張す
る(原告の付加主張(3))が、上記原告の主張は、純理論的にはともかく、実際に
は、原告自身の製品でも、接着剤である「タキボンド♯607」の品質証明書に
は、オープンタイムを10分~60分設けることを前提とした記載がある(乙19
の1)が、シーリング剤(材)である「タキボンド♯650」の品質証明書には、
その点の記載がない(乙19の2)ことや、既にみたオープンタイムに関する技術
的常識等にもそぐわないものといわざるを得ず、にわかに賛成できない。」を加
え、同22行目の「属さない」を「属しないものである」と改める。
2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照ら
し、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判
決を含め、当審の認定、判断を左右するほどのものはない。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、い
ずれも理由がないから、原告の請求をいずれも棄却すべきところ、これと同旨の原
判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
 (平成16年4月28日口頭弁論終結)
 大阪高等裁判所第8民事部
           裁判長裁判官  竹  原  俊  一
              
            裁判官  小  野  洋  一
              
            裁判官  中  村     心

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ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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