弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を死刑に処する。
押収してあるペティナイフ1本(平成18年押第165号の3)を没収す
る。
押収してある小銭入れ1個(平成18年押第165号の1)及びジッポラ
イター1個(同押号の2)を被害者Aの相続人に還付する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,山口県で出生し,両親と生活していたが,被告人が小学生のとき父親
は病死し,その後は母親に養育されていた。そして,被告人は中学校卒業後,16
歳の誕生日を過ぎてから,新聞配達のアルバイトをするようになり,1年ほど働い
たが,次第に同居していた母親に対して,金銭問題や日常生活について不満を募ら
せるようになり,平成12年7月,母親に対して借金のことや被告人が交際してい
た女性に無言電話をしたことなどを問いつめるなどしているうちに怒りが爆発し,
金属バットで母親を撲殺する事件を起こした。被告人は,この事件により,同年9
月に中等少年院送致の処分を受け,少年院に約3年間収容され,成人した後である
平成15年10月に少年院を仮退院し,山口県下関市内の更生保護施設に短期間入
所した後,住み込みのパチンコ店店員の仕事を見つけて就職して働きだし,平成1
6年3月末日に少年院を退院となり,保護観察も終了した。被告人は,二,三軒の
パチンコ店で働いたが,平成17年1月ころまでにはこれを辞め,同年2月ころ,
知人から俗にゴト師と呼ばれ,パチンコ店等でゴト行為と言われる不正な方法によ
りパチンコ玉や,コインを取得して利益を上げる集団の親方を紹介され,ゴト師集
団に加わり,その一員として福岡を拠点に各地でゴト行為を行うようになり,同年
7月ころからは大阪に移動し,その後,一旦福岡に戻ったものの,同年11月11
日に再び大阪に来て,ゴト行為を始めた。しかし,パチンコ店側の対策が進んでい
たこともあり,被告人は,ゴト行為で儲けることはできないと考え,これを続ける
ことに嫌気が差し,同月13日,親方に辞めたいと言ったところ,罵るようにきつ
,,()「」く叱責され腹を立てて拠点としていた大阪市以下略所在のマンションB
の部屋を飛び出し,近くの公園で野宿した。被告人は,翌14日にかけて,今後の
身の振り方を考えたが,行く当てもないままに親方のところには戻らないことを決
め,荷物を取りに一旦上記マンションの部屋に戻り,親方に辞める挨拶をして,上
記公園に戻り,先のことを考えるうちに,自分には守るものも失うものも,居場所
もないという思いが湧き,どうせ自分を引き止める人もいないなら,やりたいこと
をやってしまおうと考えるようになり,母親を撲殺したときに快感を覚えたことを
思い起こして,人を殺したくなり,また,その際に女性なら強姦してしまおう,お
金を持っていたらそれも奪おうなどと考え,それを行う場所については,勝手が分
かり,場所の状況を把握していることと自分を罵った親方に対する当てつけの意味
も込めて,ゴト師集団の拠点の部屋がある上記マンション「B」とすることとし,
同マンションの住人を狙うことに決めた。そして,被告人は,同月15日,犯行に
使用するためのペティナイフをコンビニエンスストアで購入し,同日夜から翌16
日未明にかけて,上記マンションの階段や通路をうろつき,殺害する相手とその機
会をうかがったが,その日の犯行はあきらめて,上記マンションから立ち去り,同
日午後7時前ころ,犯行に使用するためにコンビニエンスストアで更に金槌を購入
した。
(罪となるべき事実)
被告人は
第1大阪市(以下略)所在のマンション「B」に出入りする住人を監視する場所
を確保するために,同マンションに隣接し,同区(以下略)に所在するC看守
に係るD株式会社建物の屋上に上ろうとして,平成17年11月16日午後1
0時ころ,同社のフェンス・塀等で囲繞された敷地に,上記マンション「B」
の3階通路から,上記敷地内にある同社事務所兼冷蔵倉庫西側外壁部分に飛び
移ってその樋等に取り付いて立ち入り,もって人の看守する建造物に侵入した
第2マンション居室に侵入し,女性を強いて姦淫するとともに殺害して金員を強
取しようなどと企て,同月17日午前2時過ぎころ,上記マンション「B」J
号室A(当時27歳)方に,玄関から立ち入って侵入し,同室内において,そ
,,,(.のころ同女に対し殺意をもって所携のペティナイフ刃体の長さ約12
1センチメートル(平成18年押第165号の3)でその左胸部,左顔面等)
を突き刺すなどし,その間強いて同女を姦淫し,同日午前2時30分ころ,同
所において,同女を心臓刺創による出血により失血死させて殺害し,同日午前
2時過ぎころから同日午前2時30分ころまでの間,上記A方に同居していた
(),,,E当時19歳に対しても殺意をもって上記ペティナイフでその左胸部
右顔面等を突き刺すなどし,その間強いて同女を姦淫し,同日午前2時30分
ころ,同所において,同女を心臓刺創による出血により失血死させて殺害した
上,同室にあったA所有に係る現金500円在中の小銭入れ外1点(時価15
00円相当)及びE所有に係る現金5000円を強取し,さらに,上記のとお
,,りA及びEを殺害するなどした犯跡を隠蔽するため同日午前3時30分ころ
株式会社F所有に係る,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない上記
マンション「B」J号室(鉄骨コンクリート造,床面積約35.3平方メート
ル)において,同室北側居室床面に敷かれたカーペットにライターで点火して
放火し,その火を同室床面等に燃え移らせ,よって,同室の床面及び壁面を焼
損(焼損面積合計約0.1524平方メートル)させた
第3業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前2時過ぎころ,第2
記載のA方において,刃体の長さが6センチメートルをこえる第2記載のペテ
ィナイフ1本を携帯した
ものである。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,判示第2の各強盗殺人,強盗強姦の訴因について,被告人は,被害者
2名に対する暴行行為,すなわち殺害行為に及んだ時点においては金品を奪う意思
はなく,殺人自体を目的としていたのであるから,強盗殺人,強盗強姦罪の成立は
認められず,殺人罪,窃盗罪及び強姦罪の成立が認められるに過ぎないと主張する
ので,判示事実を認定した理由について補足して説明する。
1被告人の強盗の故意に関する供述の内容
被告人は,捜査官に対し,ゴト師集団から離脱した後,自分には守るものも失
うものもなく,居場所もないなどと気づき,やりたいことをやってしまえ,人を
殺したいなどと思い,それと共に相手が女性だったら,強姦もしよう,お金も奪
おうなどと考えて「B(以下「本件マンション」という)の住人を襲うこと,」。
とし,ナイフなどを購入するなどした上,犯行の機会をうかがい,本件犯行に及
んだ旨一貫して供述し,公判廷においてもこれと同様の供述をしている。また,
被告人は,捜査官に対し,ゴト師集団から抜けた時点で,3万数千円程度の所持
金があったものの,ホテル代や食事代なども考えると10日間位で所持金がなく
なってしまうこと,しかし,被告人には身元を保証してくれる人はおらず,サラ
金はすでにブラックリストに載って借金などできず,その後の収入のあてもなか
ったこと,泊めてくれるような友人もないため金銭を節約するために公園で寝泊
まりしていたこと,そこで,本件マンションの住人を殺害しようと考えた際に殺
害するだけでなく,その人の持っている金銭も奪ってやろうと思ったことなど金
品強取の意思を有するに至った心情についても具体的に供述している。
2上記供述の信用性
上記のように,被告人は本件犯行以前から金品強取の意思を有していたことを
一貫して供述しているところ,この点の供述は自然で格別不合理な点は見当たら
ず,被害者を殺害した後に金品強取の意思を生じたのに,あえて殺害行為前から
金品強取の意思があったという虚偽の供述をする理由は見出しがたい。そして,
被告人がゴト師集団から飛び出した時点における客観的な状況は,被告人が供述
するように,収入の目途もなく,そのままでは所持金も早晩無くなることが明ら
かな状態であって,被告人のこれまでの生活状況や交友関係からすると,被告人
において,直ちに援助を求めることが可能な人物が見あたらなかったということ
ができ,被告人の置かれていた状況は,殺人が主目的であったとしても,同時に
金品強取の意思を有していたとする被告人の当時の心情に整合するものである。
なお,弁護人は被告人には本来的なコミュニケーション能力の欠落があり,供
述調書の記載内容とその内面における真意との間に質的な相違,乖離があるとし
て,供述調書の記載内容の信用性を争うが,被告人は公判廷において,弁護人,
検察官,裁判官の質問の意味を十分理解し,それぞれの質問に十分対応した回答
をし,質問の趣旨が不明な場合にはその意味を聞き直し,答えたくない質問ある
いは答えられない質問についてはそのように回答するなどしており,そのコミュ
ニケーション能力において,弁護人が指摘するような表現と真意に相違ないし乖
離が生じるような問題は見受けられない。
以上によれば,被告人の強盗の故意に関する上記供述の信用性は高いものとい
うことができる。
3殺人目的の強さと強盗罪の成立
弁護人らは,殺人そのものに快楽を覚えていたとすれば,その故意は,殺人そ
のものであり,強盗の故意は成立しないのであって,そのことは被告人が本格的
な物色行為を行っていないことからも明らかであると指摘するが,たとえ,主た
る目的が殺人にあって,それが相当に強い場合でも,同時に財物を奪う目的もあ
って,殺人行為が財物を奪う手段にもなっていることを理解しながら,殺害行為
を行っていれば,強盗殺人罪における強盗の故意に欠けるところはないというべ
きである。本件においては,上記のように,被告人は犯行後の生活費等に充てる
ために金銭も欲しかったというのであるから,殺人に向けた被告人の心理的指向
が強かったからといって,強盗の故意を否定する理由にはならない。なるほど,
被告人は格別の物色行為をしたことについては供述しておらず,少なくとも本棚
引き出し内の金銭などについてまで綿密な物色行為をしていないことは明らかで
,,あるが被告人が被害者を殺害することを主たる目的としていたことに照らすと
被害者を強姦し殺害することに夢中になって金品を物色することを忘れており,
また既に放火行為を行ってしまったために早く逃げる必要があって,十分な物色
行為を行えずに,目に付いた金品を持ち去ったという被告人の供述は,被告人が
本件当時興奮状態にあったと考えられることなどに照らせば不自然とは言えず,
この点は強盗の故意を否定する事情とは言えない。
4まとめ
以上によれば,被告人は本件犯行前から強盗の故意を有していたものと認めら
れるので,関係証拠を総合し,被告人に対しては,強盗殺人,強盗強姦罪が成立
するものと認定した次第である。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法130条前段に,判示第2の所為のうち,住居侵
入の点は同条前段に,各被害者に対する強盗殺人の点は,いずれも同法240条後
段に,各被害者に対する強盗強姦の点は,いずれも同法241条前段に,非現住建
造物等放火の点は同法109条1項に,判示第3の所為は平成18年法律第41号
による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条に,それぞれ該当する
ところ,判示第2の各強盗殺人と各強盗強姦は,それぞれの被害者毎に一個の行為
が2個の罪名に触れる場合であり,また,判示第2の住居侵入と各被害者に対する
強盗殺人及び強盗強姦との間,判示第2の住居侵入と非現住建造物等放火との間に
はそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項前段,後段,10条により
結局判示第2を1罪として刑及び犯情の最も重い被害者Aに対する強盗殺人罪の刑
,,で処断することとし所定刑中判示第1及び第3の罪についてはいずれも懲役刑を
判示第2の罪について死刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるが,そ
の一罪につき死刑を選択したので,同法46条1項本文により他の刑を科さないこ
ととして,被告人を死刑に処し,押収してあるペティナイフ1本(平成18年押第
165号の3)は判示各強盗殺人及び各強盗強姦の用に供したもので被告人以外の
者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,押収
してある小銭入れ1個(同押号の1)及びジッポライター1個(同押号の2)は判
示第2の被害者Aに対する強盗殺人罪の賍物で被害者に還付すべき理由が明らかで
あるから,刑事訴訟法347条1項によりこれを同被害者の相続人に還付すること
とし,訴訟費用は同法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこと
とする。
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人らは,被告人はアスペルガー症候群等の広汎性発達障害の影響により,相
互的社会関係等において質的障害があり,そのため行動制御能力の著しい減退が生
じており,被告人は犯行当時心神耗弱の状態にあったと主張するが,当裁判所は,
被告人は広汎性発達障害であるとは認められず,また,行動制御能力が著しく減弱
していたものではなく,完全責任能力を有すると判断したので,以下その理由を説
明する。
1G鑑定の内容
被告人の精神鑑定を行った鑑定人G医師の鑑定書及び公判供述(以下,両者を
併せて「G鑑定」という)の概要は,以下のとおりである。。
()被告人には統合失調症,躁うつ病,あるいは非定型精神病や神経症性障害1
は存在しない。
()アスペルガー症候群,その他広汎性発達障害の有無2
アスペルガー症候群とは,知能は正常範囲であるが,社会性・対人相互関係
の障害,例えば人の表情を含めた言葉以外の対人交流のシグナルを読み取れな
い,コミュニケーションの障害,例えば聞き手の気持ちに全くお構いなしに次
々にしゃべり,質問したり,話をしても相手の反応に注意を払わない,想像力
の障害,例えば数字などの習得は得意だが,抽象的な思考が苦手などの特徴を
もつものである。そして,臨床症状としては,幼児期から学齢期には,集団行
動ができない,集中力がない,多動である,興味のあることを独りで一生懸命
にやる,遊び友達がなかなかできない,形式張った難しい言い回し,手先の不
,。器用さ青年期になると異性とうまく付き合えないなど種々の症状が出現する
被告人の幼児期の様子は分からないが,学齢期については,多動や注意の障害
などは見られず,手作業も不器用ではなく,チームプレーにも参加していた。
言葉遣いやイントネーションにも異質なところはなく,几帳面であり,対人関
係で,仲間をつくったり,楽しみを分かち合ったりして,情緒的な相互関係を
作ることができない点はあるが,突然の状況にも機転のきいた態度をとること
ができ,その場の雰囲気や相手の意図を的確に読み取り,相手によって態度を
使い分けることができ,表情や言葉に込められたシグナルを読み取っており,
言葉を字義どおりに解釈したり,比喩が通じないということはなく,特殊なこ
とや変わったことに熱中したり,強迫的なこだわりを持ったこともなく,音や
光に対しての感覚過敏もないことから,社会的・対人相互関係の障害は見い出
せない。特に,アスぺルガー症候群の人の場合,人の心を読むことができない
と思われるが,被告人は本件犯行の前日にマンションの廊下で被告人を不審に
思った住人に不意に声をかけられたとき,パニックに陥ることなく,すぐに視
線を合わせて,けんかしたから頭を冷やしていたんだと,臨機に対処していた
り,本件によって逮捕されて取調べを受けていた際に,取調官の雰囲気を感じ
取り,相手の意図を読み取ったり,現場の再現のときに,立ち会った1人の刑
事が面白いことを言って少し笑わせていたと被疑者ノートに書き記していたエ
ピソードがあり,相手の意図,心,雰囲気を読めるというのは,アスペルガー
症候群の人とは明らかに違うといえる。また,鑑定に関与した精神科医師及び
2名の臨床心理士に対して,被告人は,相手により,また,その場の雰囲気に
より,それぞれ異なった態度で接しており,同一検査者でも関係性が変化する
ことで被告人の態度が短期間に変わっており,対人態度が一本調子で単純であ
り,相手を見たり,場の雰囲気を見て変えることがないアスぺルガー症候群や
広汎性発達障害の人とは明らかに異なる。
また,自閉性,言語発達の遅れ,常同性・同一性保持などの症状がより強い
他の広汎性発達障害にも該当しない。
()人格障害等の有無3
被告人は,幼少期から親密で情緒的な人間関係を避けてきたことから,IC
D−10の統合失調症質人格障害(分裂病質人格障害)の診断基準にほぼ該当
する。
また,被告人は,幼少期からの衝動性と攻撃性及び青年期・成人での殺人と
いう暴力性を特徴として有し,ICD−10の非社会性人格障害の診断基準の
ほぼすべてに該当する。
さらに,被告人は,本件前に母親を殺害し,本件犯行では被告人と全く無関
係の姉妹を殺害しながら,後悔や反省はまったく口にせず態度にも表さず,憐
憫や同情心のなさ,後悔や良心のなさ,道徳心や規範意識のなさ,共感性のな
さなど,情性が欠如している上,被告人には,殺人あるいは身体的苦痛を与え
ることにより性的興奮と快感を得る性的サディズム(快楽殺人)があり,しか
も性的興奮よりも殺人そのものに快楽を感じていたものである。
()刑事責任能力4
被告人は,殺人,強姦等を事前にかなり周到に計画,準備して実行し,犯行
後の罪証隠滅行為や逃亡も計画的に周到に実行したものであること,また,周
囲の状況により本件犯行の実行を一時延期したり,本件犯行後にも状況を判断
して再び犯行を実行するまでには至らなかったことなどから,行為を制御する
能力は保たれていたと考えられ,被告人は本件犯行当時,是非善悪を弁識する
能力及びその能力に従って行動を制御する能力は充分に保たれていた。
2G鑑定の信用性
弁護人は,上記G鑑定について,被告人との面接が限られた回数で,会話した
時間は短く,面談が機能しなかったため,犯行の事情については調書に依拠して
いるのであり,また,幼児期の情報が乏しい点や心理テストにより発達障害を除
外することにも問題があり,さらに,被告人がH少年院に入所していた当時,被
告人を診察した精神科医のI医師が1年10か月にわたり22回も面接を重ね,
実質的な会話を豊富に行った上で,被告人をアスペルガー症候群とする診断をし
ていることに照らし,その信頼性には疑いがあると主張する。
G医師は,1972年から30年以上の間,精神科医として勤務し,刑事事件
についても50件もの豊富な精神鑑定の経験を有している。
また,G医師は,本件鑑定において,一件記録を精読するとともに,被告人の
小・中学生当時の指導要録と少年鑑別所入所時の心理検査所見を検討し,平成1
8年6月21日から同年9月21日まで10回にわたり被告人との面接を行い
(そのうち,前半の5回はそれぞれ1時間ないし2時間の面接を行い,後半の5
回については,被告人が拒否的な態度をとったため,10分から20分程度の短
時間で終わったという状況である,被告人の小・中学校の担任教諭3名と面。)
接して,被告人の小・中学生当時の生活状況,友人関係,家族関係などについて
聞き取り調査をしている。そして,G鑑定は,これらに加え,頭部MRI検査,
SPECT検査,脳波検査,睡眠脳波検査,臨床心理士による心理検査,知能検
査結果等を含む十分な鑑定資料に基づき,かつ,一般的な診断基準の下で実証的
,,。かつ合理的に判断しているものでG鑑定の信用性信頼性は高いものといえる
なお,上記I医師は,被告人には,他人との関係性を正常に把握することや,
他人が何を考えているかを読み取って適切なコミュニケーションをとったり,振
る舞いをすることができないという特徴があることから,アスペルガー障害の特
徴の一つである対人相互性の質的な障害があると考え,被告人にアスペルガー障
害の疑いがあると判断し,公判廷においても,同様に証言している。
しかしながら,I医師は,母親を殺害しているのに反省の態度を示さない被告
人の処遇について,少年院からの要請で,臨床的観点から診察,面談を重ねてい
たもので,鑑別診断を主目的とした診断を行ったわけではなく,G鑑定とは目的
及びその手法が異なり,I医師は,DSM−ⅣやICD−10等の一般的な診断
基準に則った検討を厳密に行ったことはなく,むしろ,一般的な診断基準に当て
はめると,アスペルガー症候群には該当しないと言うべきであるとも証言してい
ることからすると,I医師の上記診断上の見解により,G鑑定の信用性が減殺さ
れるものではない。
そして,アスペルガー症候群等の広汎性発達障害の診断においては,その確定
診断に至るためには幼児期の本人の行動等に関する情報の必要性が高いとされて
いるものの,被告人について幼児期の情報が乏しいという点については,G医師
もそれを踏まえて判断をしているのであり,これが故にG鑑定の信用性が格別減
,,,殺されると考えるべき理由はなくまた心理テストを利用することについても
その効用の限界や種々の見解があることなどをG鑑定は十分考慮しながら参照し
ているに過ぎないのであって,同じく信用性を減殺すべき理由とはならない。
3被告人の責任能力の関連する行動状況等について
()本件犯行の計画性1
被告人は,ペティナイフ,金槌,手袋を本件犯行の前に購入し,ペティナイ
フ及び金槌は殺害の凶器として,手袋については犯行の際の指紋を残さないよ
うにするために準備し,犯行の際に持参している。また,ゴト師集団の下を去
,,,って本件マンションの住人を殺害することを決意してから2日間にわたり
長時間かけて,本件マンションの様子をうかがうなどしており,その途中で,
犯行の機会をうかがったが適当な機会が得られなかったとしてその日の犯行を
,,,一旦あきらめ後日を期すなどもしており被告人は本件犯行を決意してから
犯行を計画,準備し,計画に叶う犯行の機会を慎重にうかがった上で,実行に
及んでいることが認められる。
()犯行態様及び犯行後の行動2
被告人は,人を殺害し,被害者が女性であったら強姦もし,金も奪い,放火
しようと考えた上,実際に本件マンションのJ号室にAが帰宅したところを襲
って所携のペティナイフで刺し,強姦し,さらに,Eが帰宅したことから,同
,,,人に対しても同様の行為を行い金品も奪って室内に放火して逃走するなど
ほぼ予定どおりに犯行を遂行している。
また,被告人は,被害者両名を強姦する際,被害者の下腹部に射精し,その
後,それをふき取りトイレに流したり,犯行現場から指紋等が発見され被告人
の犯行であることが発覚するのを防ぐために,室内を放火し,その後,犯行現
場を離れた後に,着ていた衣服に血痕が付着しているおそれがあることから,
これを洗濯し,ペティナイフ,金槌などを神社の倉庫に隠匿するなど,種々の
罪証隠滅行為を行っている。
()犯行動機3
被告人は,ゴト師集団から離れた後,自分には何も失うものはないので,し
たいことをしようと考え,母親を殺害した時の興奮を再度味わいたいと思い,
さらに,本件マンションで事件を起こせば,ゴト師の親方の下へも警察が事情
聴取に行き,同人はマンションに住めなくなり,ゴト行為もできなくなるだろ
,,,うと考え同人への当てつけにもなると考え本件マンションの住人を殺害し
被害者が女性であったら強姦もしようなどと考えたというのである。
このような,被告人の本件犯行動機は,極めて身勝手かつ短絡的で,また自
己中心的であるにとどまらず,殺人に快楽を覚えるという点では猟奇的なもの
を感じざるを得ないが,了解不能であるとはいえない。
()本件犯行時の記憶4
被告人は,本件犯行を決意した経緯,犯行準備行為,犯行態様,犯行後の行
動について相当具体的に供述しており,特に,被害者両名を殺害し,強姦した
際の状況についての供述は迫真的で,一貫しており,大きな欠落はない。そし
て,行動の詳細部分について一部記憶の不明確な部分はあるものの,被告人は
犯行時に相当程度の興奮状態にあったものと思われ,そのような状況下の行動
について若干記憶の不明確な部分があったとしても格別不自然とは言えず,ま
た,それが被告人に何らかの障害があったことを示すものとは言えない。した
がって,犯行当時,被告人に記憶障害や意識障害は生じていなかったと認めら
れる。
()本件犯行前の行動等5
被告人は,中学校卒業後16歳から新聞配達の仕事を無難に行っていたり,
少年院退院後は,パチンコ店の店員をし,その後,ゴト師集団に所属し,その
一員として生活し,本件犯行直前において,パチンコ店側の対策が進み,使用
していた体感機によるゴト行為により利益が得にくい状況になったとの状況分
析の下,このままゴト行為をしていても儲からないと考えて,ゴト師の親方の
下を去ることとしている。
このように,被告人は,職業が長続きしなかったり,違法行為を生業とする
など,社会的適応能力においてある程度の不足がうかがわれるものの,他人と
共同ないし集団で生活することができ,合理的に儲けることができる方法を考
えるなど的確な判断力と,それなりの社会生活能力を有していたものと認めら
れる。
4結論
信頼性の認められるG鑑定によれば,アスペルガー症候群などの広汎性発達障
害は認められず,統合失調症質人格障害,非社会性人格障害,性的サディズムと
いう障害が認められるものの,同鑑定及び上記の各認定事実,すなわち,本件犯
行の計画性,計画に従い,状況を判断して計画を一時延期したりしたうえ,目的
に従って犯行を遂行していること,罪証隠滅工作の状況,犯行動機に了解可能性
があること,犯行時において記憶障害ないし意識障害が認められないこと,被告
人は一定の社会生活能力を有していたことなどからすると,被告人は,本件犯行
時において,自己の行為が社会的に非難されるものであることを理解して,自己
の判断に従って行動する相応の能力を有していたものであって,本件犯行当時,
完全な責任能力を有していたと認められる。
(量刑の理由)
1事件の概要
本件は,被告人が単独で犯した建造物侵入,住居侵入,強盗殺人,強盗強姦,
銃砲刀剣類所持等取締法違反,非現住建造物等放火の事案であるが,その概要は
以下のとおりである。
,,被告人は自ら進んでゴト師集団の一員としてゴト行為をして生活していたが
その親方と反目して,平成17年11月14日,その集団を離れ,公園で野宿し
て思案するうちに,自分には守るものも,失うものも,居場所もないのだから,
,,やりたいことをやってしまえなどと考え過去に母親を金属バットで撲殺した際
興奮と快感を覚えたことを思い起こし,人を殺したくなり,人を殺すとともに,
相手が女性であったら強姦もしよう,金も奪おうなどと決意した。そして,翌1
5日に凶器として,ペティナイフを購入し,ゴト師集団の親方に対する当てつけ
もあって,その拠点があった本件マンションの住人を狙うこととし,本件マンシ
ョンを下見しながら犯行の機会をうかがったが機会を見出せず,その日の犯行は
一度見送り,さらに,殺害の際に被害者により大きな苦痛を負わせてより大きな
快感を得るために,同月16日には金槌を購入し,同日夜,強盗殺人などの対象
,,とする人物を探すために本件マンションに出入りする人物を監視しようとして
同マンションに隣接する会社の建物外壁の樋等に取り付いて同社の敷地内に侵入
した(判示第1の犯行。)
その後,被告人は,一旦,本件マンション付近を離れ,同月17日午前零時過
ぎころ,本件マンションに戻り,同マンション内で住人が帰宅するのを待ち伏せ
ていたが,そのころまでには強盗殺人等の犯行を犯した後,証拠を隠滅するため
に放火することも考えるに至った。被告人は,同日午前2時過ぎころ,被害者で
あるA(以下「被害者姉」という)が4階でエレベーターから降りて帰宅しよ。
うとしているのを見つけて狙いを定め,後ろからあとをつけて行き,同女が同マ
ンションJ号室の玄関ドアを開けた瞬間,後ろから突き飛ばして一緒に室内に入
,,,り玄関ドアを閉めて施錠し転倒して起き上がろうとする同女の心臓目掛けて
ペティナイフを力一杯付き出したが,同女が上げた腕が当たってペティナイフの
刃が逸れ,同ナイフは同女の左頬に突き刺さった。被告人は,仰向けに倒れて抵
抗できなくなった同女の首付近をつかんで室内の奥の方へと引きずっていった
上,両腕で膝を抱えて座る体勢をとる同女の腕などを突き刺した。その際,被告
人は,ペティナイフで刺されて,力無く倒れる同女の姿を見て,快感と性的興奮
を感じ,無抵抗な状態になった同女を強姦し,放火した際に死体が燃えやすいと
考え,ぐったりとしている同女の身体をベッドの上に放り投げた。被告人は,た
ばこでも吸いながら同女のとどめの刺し方と証拠隠滅のための放火の具体的な方
法を考えようと思い,玄関のある部屋の方に戻ったが,そのとき,被害者姉と同
居していた被害者E(以下「被害者妹」という)が帰宅してきた。被告人は,。
その鍵を開けようとする物音に気付き,被害者妹をも殺害することを決意し,ペ
ティーナイフを持って,玄関ドアの脇に潜み,室内に入って来た被害者妹の口元
を右手で塞ぎ,左手に持ったペティナイフを被害者妹の心臓目掛けて突き刺し,
同女は,崩れ落ちるように倒れた。そのとき,被告人は同女をも強姦するために
その両足を両手でつかんで,奥の部屋へ引きずっていった。被害者妹を引きずっ
ているとき,被告人は同女が苦しむ姿を見て興奮し,さらに性的興奮を増すため
に被害者妹の顔面などをペティナイフで切り付けながら強姦した。そして,被告
人は,ベランダに出て,たばこを吸った後,奥の部屋に戻り,被害者姉,被害者
妹の順に,逆手に持ったナイフを胸部目掛けて体重をかけて突き刺し,各被害者
を絶命させた。その後,被告人は,被害者のジッポライターで部屋のカーペット
に火を着け,室内にあった小銭入れ,封筒に入っていた五千円札をライターと共
に持ち去り,玄関ドアの鍵を閉めて同室を出た(判示第2及び第3の犯行)。
2犯行態様等
被告人は,強盗殺人などの一連の犯行を実行するため使用する適当な凶器を選
択し,購入場所についても購入者が判明しにくいような店舗を選び,犯行場所を
慎重に下見して犯行計画を検討した上,犯行機会をうかがうなど,いずれも入念
かつ周到な準備等を行い,ほぼ当初の目的どおりに犯行を遂行しているもので,
犯行後も正面玄関から出ると目撃されやすいとして本件マンション2階から隣接
する建物に飛び移って逃走するなど,犯行の発覚を避けるための行動を冷静に行
っているのであって,犯行は極めて計画的かつ巧妙である。
本件各強盗殺人,強盗強姦等の犯行は,被害者2名の不意を突き,上記のよう
に,いずれも,被害者らに対し,いきなりナイフを心臓目掛けて突き刺し,ある
いは突き刺そうとするなどして抵抗できない状態に陥れ,その後,更にナイフで
身体を突き刺したりして被害者らが苦しみあるいは力無く崩れるように倒れる様
子等に快感や興奮を覚えながら,各被害者を強姦し,とどめを刺すために瀕死の
状態にあった各被害者の胸部にペティナイフを突き刺して絶命させたという極め
て冷酷なものである。被告人の刺突行為などにより,被害者姉には左頬部に深さ
約5.5センチメートルの刺切創,左胸部に心臓を貫通する深さ13ないし14
センチメートルの刺切創,左上腕部に長さ約21センチメートル,深さ約3セン
チメートルの刺切創などが,被害者妹には右頬部に深さ12ないし14センチメ
ートルの刺切創,右胸部に深さ約2センチメートルの刺創,左胸部に心臓を貫通
する深さ13ないし14センチメートルの刺切創,右前腕部に長さ約8センチメ
ートル,深さ約2センチメートルの刺切創が認められ,被害者らに苦痛を余儀な
くさせることへの被告人の執着と,殺害意思の強固さは際立っており,生命に対
する一片の畏敬の念すら感じられない凶悪かつ残虐非道な態様の犯行である。
また,非現住建造物等放火の犯行態様は,深夜で同じマンションには就寝中の
住民も多数いることを十分承知の上,証拠を隠滅する目的で,被害者らの遺体が
あり,燃えやすい物が相当ある室内のカーペットに火を放ち,ドアの鍵を閉めて
立ち去るという非常に危険性が高く,悪質なものである。
3犯行動機
被告人は,ゴト師集団の親方と仲違いして,集団から離脱し,行き場をなくし
て,本件犯行に思い至ったというのであるが,その行き場がなくなった経緯に同
情の余地はなく,また,自暴自棄から衝動的に殺人を犯したというほど追い込ま
れた状況にもなく,このような残虐な犯行に思い至ったことは,まさに,被告人
「」,,自身がそれは自分の欲求であると述べるように被告人自身に強い殺人欲求
殺人願望があり,他人を傷つけ殺すことに魅入られた被告人の特殊な人格,性格
に由来するものというほかない。そして,被告人には生命に対する尊重の念が全
く感じられず,本件は母親を殺害した際に感じた快感を再び得たいとし,無関係
,,,な他人に苦痛を与え殺害するということを主たる目的動機とするものであり
さらに性的欲望を満足させるために姦淫し,生活費等のために金品を強取しよう
などと企図したものであって,このような動機に酌量の余地が皆無であることは
論をまたない。
4犯行の結果等
被害者姉は明るい性格で幼いころから被害者妹や弟の面倒をみるような女性で
両親の支えともなり,長じては父の経営する会社の仕事でも大きな役割を担い,
本件犯行当時に勤務していた職場の関係者からも深い信頼を得ていたものであ
り,将来自ら会社を興したいとの夢を抱いて懸命に働いていたものである。
被害者妹も学校時代から活発な性格で,多数の友人に囲まれて青春を楽しみ,
慕っている被害者姉と最近になって同居して大阪市内で働き始め,間もなく迎え
る成人式に出席することを心待ちにしていたものである。
被害者らは20代と成人を間近に控えた若い姉妹であり,いずれも日々の生活
を前向きに懸命に生きていたもので,将来に対する夢や希望,さらには無限の可
能性を有していたものである。ところが,被告人の本件凶行により,被害者らの
夢や可能性は無惨にも打ち砕かれ,家族や友人との情愛,絆をも断ち切られて,
想像を絶する恐怖,苦痛,恥辱,無念の裡に生命を奪われたのであり,その結果
はまことに重大である。
また,本件放火の犯行結果も,本件マンションJ号室を335万円程度の改修
費を要する程度に焼損しているもので,その被害も大きく,建物所有者の処罰感
情も厳しい。
さらに,本件各強盗殺人,強盗強姦などの犯行が周辺住民に与えた恐怖感や社
会に与えた影響は大きく,また,放火の犯行も他の部屋に煙を充満させ,あるい
は消火の際の水損などにより相当額の損害を生じさせるなどしており,同マンシ
ョンの多数の住人に危険ないし不安を与えたものでその影響も大きい。
5遺族の被害感情等
本件のようなあまりにも悲惨な犯罪被害により,愛する家族,親族を失った両
親,兄弟,親族らの衝撃,落胆の深さ,憤りの大きさ,激しさは察するにあまり
ある。その父親は,愛しみ育て将来を楽しみにしていた娘二人を奪われた落胆,
怒りを法廷において語り「私の願いが叶えられるのであれば,二人を返して欲,
しい「被害者姉が親となって私の孫を連れてきてくれる。そんな想像が近い。」
将来現実のものとなることを楽しみにしていました「被害者妹がどんな風に。」
成長してくれるのか,その将来を楽しみにしていました「この二人の思い,。」
関係のない被告人にナイフで刺される怖さ,痛さ,意識がなくなっていくつらさ
を分かって欲しい」などと述べ,その母親は,精神的負担等によって法廷での。
意見陳述さえできない状態で「今でも季節が替わるごとに被害者妹の部屋の寝,
具を代えてあげている。いつ帰ってきてもいいように母親として待ち続けても帰
ってくるはずもない娘を思い,これの繰り返しです。未だに二人の娘がこの世に
いないなんて信じていません「娘達は私の命であり,宝物です。娘を返して。」
下さい」と母としての心情を書面にしたためて裁判所に提出しており,また,。
被害者姉妹の兄であり弟でもある兄弟は,大切な姉,妹を取られてしまい何をす
るにもやる気が出ず,姉,妹が死んだことは認められない気持ちであり,悲嘆に
くれる父母を見て自分には何もできないむなしさだけがあることを述べ,いずれ
も,被告人に対して極刑を求めている。
6被告人の更生可能性
()被告人の経歴及び犯罪歴等1
被告人の父親はアルコール依存症気味で,家庭内で粗暴な行動に出る傾向の
ある人物であり,また,その父親が小学生のときに死亡した後は,経済的に困
窮し,被告人は,中学校卒業後間もなく仕事に就いたが,その給料を母親が当
てにするという状態であって,家庭的には恵まれない生育歴であったと言うべ
きであるが,被告人は,16歳くらいの時点で,新聞配達の仕事を無難にこな
す程度の社会性,生活能力を有していたのであって,知能的にも特段劣るとは
いえない。
被告人は,17歳になる間際に,母親を殺害し,少年院に収容されて矯正教
育を約3年間受けているところ,一般的な生活規則の遵守などにおいては,問
題がなかったものの,母親を殺害したことについて反省の態度を示すことをか
たくなに拒み,この態度は,少年院係官の指導や精神科医師の定期的診察面談
などを受けてもほとんど変わらず,そのまま,仮退院を経て,処遇終了に至っ
ているのであり,被告人の性格に特異なものを見出さざるを得ない。
被告人は,少年院仮退院後,パチンコ店に仕事を求めるなどして,1年数か
月程度は,特段犯罪傾向のない社会生活を送っており,その間,知人との普通
の交流などもあったが,その後,ゴト行為という違法行為を生業とする犯罪者
集団に自ら進んで属すなど,反社会的な行動をとるようになり,その集団で親
方と仲違いして飛び出し,行き先がなくなった状態で,本件犯行を決意し行っ
た。
()被告人の本件犯行に現れた性格,性癖等2
,,,本件各強盗殺人強盗強姦の犯行において被告人の他人に対する加虐行為
特に殺人に対する欲求,嗜好が顕著に表れており,これは,母親を殺害した
後,それを反省悔悟しないばかりか正当化し,その際に快感を感じたことか
ら,矯正教育中から人を殺したいという気持ちを抱き続けていたことに由来
しているものであり,被告人の加虐行為,殺人を欲求する特異な性格,性癖
は相当に強固であるというほかない。鑑定人のG医師は,被告人のこのよう
な性格は,人格障害に該当し,性的サディズム,殺人そのものに快楽を感じ
ているもので,改善は非常に困難であるとの意見を述べている。
()反省の態度等3
被告人は,本件犯行により検挙され,間もなく犯行の全貌を自供するに至っ
,,たが反省悔悟の態度や被害者及び遺族に対する謝罪の意は全く示しておらず
死刑になるのは当然である旨平然と述べ,捜査段階において,同じような事件
を起こそうと思ってナイフを捨てずに神社の倉庫に隠していたと供述し,公判
廷においても本件と同じ状況に置かれたら同じことをする旨供述している。
()まとめ4
以上によると,被告人の殺人等に対する犯罪傾向は非常に強固で動かし難い
ものであり,年齢的には現在23歳と若年であるとはいえ,その特異な犯罪傾
向が改善される見込みは乏しく,更生を期待することは非常に難しい。
7結論
以上のように,被告人は,殺人による快感を得たいがために本件犯行を思い立
ち,さらに,性的欲求や金銭的欲求を満たすために,強姦,強盗行為をも行おう
と決意し,その準備のために建造物に侵入し,さらに被害者方に侵入した上,何
らいわれなく無関係の被害者2名を次々と強姦,殺害し,室内の財物を奪い,そ
の証拠隠滅のために放火をもしているのであって,2名の人命が奪われるなどし
たその結果は重大であり,その犯行は,残忍,冷酷かつ非道であって,各犯行の
計画性,巧妙性,遺族の被害感情,社会的影響,被告人が何らの反省の態度も示
さず,改善更生の期待が乏しいことなど総合的に考慮すると,被告人の刑事責任
は余りにも重い。
弁護人は,死刑は,国際的にも廃止に向かう趨勢にある過酷に過ぎる刑罰であ
り,本件においても,慎重に判断すべきものであると意見を述べる。死刑制度の
存続,廃止に関しては,各国の法制に委ねられていると解されるところ,本邦に
おいては,これを一般犯罪についても存置する法制を採用しており,死刑が究極
の峻厳な刑罰であり,その適用については,慎重な上にも慎重に判断すべきもの
であるにしても,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐
性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,
犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が
誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを
得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものと解されるところ,こ
れまで検討した諸事情によれば,本件においては,被告人が生育環境に恵まれな
かったことや若年であることなどを最大限考慮しても,なお,罪刑均衡の見地か
らも,一般予防の見地からも,極刑をもって臨むほかないものと言わざるを得な
い。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑死刑,ペティナイフの没収)
平成18年12月13日
大阪地方裁判所第4刑事部
並木正男裁判長裁判官
柳本つとむ裁判官
中陳睦子裁判官

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