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平成21年10月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第3493号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月28日
判決
東京都中央区<以下略>
原告株式会社クレハ
同訴訟代理人弁護士山内貴博
同田中昌利
同上田一郎
同古川裕実
同東崎賢治
同訴訟代理人弁理士森田憲一
同山口健次郎
同補佐人弁理士脇村善一
富山市<以下略>
被告テイコクメディックス株式会
社訴訟承継人日医工ファーマ
株式会社
同訴訟代理人弁護士小南明也
主文
1被告は,原告に対し,5301万4217円及び内金56万7450
円に対する平成19年2月21日から,内金5244万6767円に対
する平成20年12月5日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告
の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
()(主位的請求)1
ア被告は,別紙被告製品目録(甲)記載の製品を製造し,販売し,又は販
売のために展示してはならない。
イ被告は,その占有する別紙被告製品目録(甲)記載の製品を廃棄せよ。
(予備的請求)
ア被告は,別紙被告製品目録(乙)記載の製品を製造し,販売し,又は販
売のために展示してはならない。
イ被告は,その占有する別紙被告製品目録(乙)記載の製品を廃棄せよ。
()被告は,原告に対し,328万5098円及びこれに対する平成19年22
月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()被告は,原告に対し,1億2714万2816円及びこれに対する平成23
0年12月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()訴訟費用は被告の負担とする。4
()仮執行宣言5
2請求の趣旨に対する答弁
()原告の請求をいずれも棄却する。1
()訴訟費用は原告の負担とする。2
()仮執行免脱宣言3
第2事案の概要
本件は,経口投与用吸着剤並びに腎疾患治療又は予防剤及び肝疾患治療又は予
防剤についての特許権を有する原告が,被告において別紙被告製品目録(甲)記
載の製品(以下「被告製品」という)を製造,販売する行為は上記特許権を侵。
害する行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製
品の製造,販売等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めるととも
に,特許法184条の10第1項に基づく補償金139万7914円及び民法7
09条に基づく損害賠償金1億2903万円の合計1億3042万7914円並
びに内金328万5098円(上記補償金及び上記損害賠償金のうち平成18年
8月4日から同年10月31日までの間に係る損害賠償金188万7184円の
合計額)に対する請求又は不法行為の後の日である平成19年2月21日(訴状
送達の日の翌日)から,内金1億2714万2816円に対する不法行為の後の
日である平成20年12月5日(平成20年12月1日付け訴えの変更申立書送
達の日の翌日)から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求めた事案である。
なお,本件訴訟係属中に被告製品の仕様変更があり,原告は,主位的に,仕様
変更後の被告製品についても原告の特許権を侵害するものであるとして,変更前
,(())後の被告製品を区別せず商品名で特定される被告製品別紙被告製品目録甲
の製造販売差止め及び廃棄の請求を行い,予備的に,変更前の仕様の被告製品の
在庫のロット番号で特定される被告製品(被告製品目録(乙)記載1()及び21
())の販売差止め及び廃棄と,変更前の仕様の被告製品(同目録記載1()及び12
2())の製造販売の差止め及び廃棄の請求をしているものである。2
第3争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない)。
1当事者
()原告は,化学工業薬品,化学工業品,農薬,医薬品,医薬部外品等の製造1
及び販売等を業とする株式会社である(甲1。)
(「」。),,()テイコクメディックス株式会社以下テイコクというは医薬品2
医薬部外品,動物用医薬品,医療用機械器具等の製造販売及び輸入販売等を
業とする株式会社であった(甲2。被告は,平成21年6月1日,テイコ)
クメディックス株式会社を吸収合併した(弁論の全趣旨(以下,テイコク)
と被告を区別せず「被告」という。。)
2原告の有する特許権
()原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請1
求項1を引用する請求項6の発明を「本件発明1」といい,請求項2を引用
する請求項6の発明を「本件発明2」といい,これらの発明を合わせて「本
件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特
許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という)を有して。
いる。
特許番号第3835698号
発明の名称経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及
び肝疾患治療又は予防剤
出願日平成15年10月31日
優先日平成14年11月1日
国際公開日平成16年5月13日
登録日平成18年8月4日
【特許請求の範囲】
【請求項1】
,.フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され直径が0
01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が
1000㎡/g以上であり,そして細孔直径7.5~15000nmの細
孔容積が0.25mL/g未満である球状活性炭からなるが,但し,式
(1:)
R=(I-I)/(I-I)(1)15352435
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折15
強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°における35
回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°にお24
ける回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,
ことを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】
全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に
記載の経口投与用吸着剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とす
る,腎疾患治療又は予防剤。
()本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した2
構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。。)
Aフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,
B直径が0.01~1mmであり,
Cラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/
g以上であり,そして
D細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g
未満である
E球状活性炭からなるが,
F但し,式(1:)
R=(I-I)/(I-I)(1)15352435
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°にお15
ける回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)35
が35°における回折強度であり,Iは,X線回折法による回24
折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭
を除く,ことを特徴とする,
G経口投与用吸着剤を有効成分とする,
H腎疾患治療又は予防剤
()本件発明2を構成要件に分説すると,構成要件AからHは,本件発明1と3
同じであり,構成要件Eの前に次の構成要件が加わる。
I全塩基性基が0.40meq/g以上の
3原告は,平成16年6月14日,被告に対して,本件特許に係る出願(国際
公開番号)の特許請求の範囲の内容を記載した通知書(甲11WO2004/039381
の1。以下「本件通知書」という)を発送し,本件通知書は,同月15日,。
被告へ到達した(甲11の2。)
4被告の行為
被告は,平成16年9月,別紙被告製品目録(甲)記載1の「キューカル細
粒分包2g(以下「被告製品1」という)及び同目録記載2の「キューカ」。
ルカプセル286mg(以下「被告製品2」という)の製造,販売を,業」。
として開始し,現在も,製造,販売を継続している。
(なお,被告は,平成20年3月に被告製品の仕様を変更し,構成要件Dを充
足しないものに変更したと主張しているので,以下,この仕様変更前の被告製
品1を「被告製品1-1,被告製品2を「被告製品2-1」といい,仕様変」
更後の被告製品1を「被告製品1-2,被告製品2を「被告製品2-2」と」
いう。また,被告製品1-1と2-1を合わせて「仕様変更前被告製品」とい
い,被告製品1-2と2-2を合わせて「仕様変更後被告製品」という)。
5被告製品の構成
被告製品1及び2は,いずれも炭素源としてフェノール樹脂を使用した経口
投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾患の一つである慢性腎不全の治療薬であ
るから,構成要件A,G及びHを充足する。また,被告製品1及び2は,ふる
いの目開き0.01~1mmの範囲に対応するふるい通過百分率(%)が,い
ずれも90%以上であるから構成要件Bを充足し,ラングミュアの吸着式によ
って比表面積を計算すると,被告製品1の比表面積は1390㎡/gであり,
被告製品2の比表面積は1330㎡/gであるから構成要件Cを充足し,さら
に,被告製品1及び2の全塩基性基はいずれも0.67meq/gであるから
構成要件Iを充足する。
仕様変更前被告製品は,水銀圧入法によってその細孔直径7.5~1500
,.,0nmの細孔容積を測定すると被告製品1-1については014mL/g
.。被告製品2-1については011mL/gであるから構成要件Dを充足する
第4争点
1被告製品は,構成要件E及びFを充足するか
2仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか
3本件特許は無効とされるべきものか
4今後構成要件Dを充足する被告製品が製造販売される可能性が高いか本,,(
件特許権の侵害のおそれの有無)
5補正後の発明の内容を通知する必要があるか(補償金請求に関し)
6補償金の額
7不法行為に基づく損害賠償の額
第5争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品は,構成要件E及びFを充足するか)について
〔原告の主張〕
()構成要件E(球状活性炭からなる)について1
ア被告製品が球状活性炭からなるものであることは被告製品の説明書甲,(
5)の記述(球形吸着炭)から明らかである。「」
イ被告は,本件発明における「球状活性炭」は,①ピッチ類を用いた従来
の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調整して得られた,球状で比
表面積が100㎡/g以上の多孔質体であること,②①で得られた多孔質
体に対して,付加工程(酸化処理,還元処理など)を実施しないこと,と
いう要件を満たさなければならないと主張し,被告製品は,付加工程を経
ておらず,②を満たさないものであるから,構成要件Eは充足しない旨主
張する。
しかしながら,後記ウに述べるように,本件明細書の記載からすれば,
被告の主張する②の要件は導かれず,被告の主張は失当である。
また,後記エのとおり,仮に被告主張の②の要件を前提としても,被告
製品の製造工程には,被告が主張する「付加工程」なるものはないから,
被告の主張は失当である。
ウ本件発明における「球状活性炭」の意義
(ア)本件明細書の「球状活性炭」及び「表面改質球状活性炭」の意義
本件明細書の段落【0014】には「球状『活性炭』とは,球状の熱
硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことに
よって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上で
あるものを意味する」と記載されており「球状の熱硬化性樹脂など。,
の炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる
多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上であるもの」とい
う要件を満たす限り「球状活性炭」に該当するものと定義付けられて,
いる。
一方で,本件明細書では「前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及,
び還元処理して得られる多孔質体,すなわち「表面改質球状活性炭」」
という概念を定義し(0017「球状活性炭」と「表面改質球状【】),
活性炭」を並列的に記載している。
これらの本件明細書の記載を整合的に解釈するならば,本来は「球状
」,「」活性炭の概念に含まれるものであっても特に表面改質球状活性炭
として定義されるものは「球状活性炭」から除かれて,両者は互いに重
複しない概念とされたものと解すべきことになる。本件発明に即して言
えば「球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活,
処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が1
00㎡/g以上であるもの」から「前記の球状活性炭を,前記の酸化処
」,「」理及び還元処理して得られる多孔質体を除いたものが球状活性炭
であると定義付けられていることになる。そして,本件明細書の記載に
よれば,除く対象となり得るものとしては「前記の球状活性炭を,前,
記の酸化処理及び還元処理して得られる多孔質体」というもののみであ
る。
要するに,本件発明における「球状活性炭」とは「球状の熱硬化性,
樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって
得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上であるも
の(要件①)であって,かつ「前記の酸化処理及び還元処理』をし」,『
ていないもの(要件②)であると解すべきである。」’
したがって「酸化処理」だけがされたもの,又は「還元処理」だけ,
がされたもの,あるいは,その他何らかの処理をしたものであっても,
それが「前記の酸化処理及び還元処理」という双方の処理をしたもので
ない限り「球状活性炭」の概念に含まれるのである。,
そして,被告の主張を前提としても,被告製品の製造工程において,
還元処理が行われていないことについては,被告は明らかに争わないの
であるから,被告製品は「球状活性炭」に該当し,構成要件Eを充足す
ることは明らかである。
(イ)被告は,上記のような,本件明細書の記載上明らかな「前記の酸化処
理及び還元処理をしていないもの」という要件(要件②)から論理を’
,「(,飛躍させ本件明細書の記載に何らの根拠もない付加工程酸化処理
還元処理など」という要件(要件②)を導入しているものであって,)
許されない解釈である。
被告は,本件明細書の段落【0004】から【0006】の記載を根
拠とする。しかし,まず,段落【0006】の記述は,表面改質球状活
性炭について説明しているものであり,球状活性炭について説明してい
るものではないから,球状活性炭について被告が主張する要件②を導く
根拠とはなりえない。
次に,段落【0004】及び【0005】の記述は「ピッチ類から,
球状活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔質性
球状炭素質物質」と比較して「熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球
状活性炭」が「酸化処理及び還元処理」すなわちその双方の処理を実施
する前の状態にもかかわらず,有益な選択吸着性を示すことを述べてい
るにとどまる。すなわち,酸化処理又は還元処理など何らかの処理が行
「」,われた球状の活性炭を球状活性炭から排除する趣旨の記載ではなく
「」,酸化処理及び還元処理の双方を加えられた従来の活性炭に比較して
「酸化処理及び還元処理」の双方が加えられなくても,本件発明におけ
る「球状活性炭」が有益な選択吸着性を示すという事実を述べたにすぎ
ない。したがって,被告が根拠とする本件明細書の記載は,いずれも被
告の主張の根拠とはなり得ないものである。
そもそも,本件発明における球状活性炭は「特異な細孔構造」を有,
しているために,毒性物質の選択吸着性能が著しく向上するものである
(本件明細書【0012】参照。具体的には,直径が0.01~1m)
mであり,比表面積が1000㎡/g以上であり,細孔直径7.5~1
5000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であることが要件とな
っている(請求項1。すなわち,本件発明においては,フェノール樹)
脂又はイオン交換樹脂を炭素源としたもののうち,直径が特定の範囲内
であり(本件明細書【0022,十分な大きさの比表面積を有しな】)
がら(本件明細書【0023,ある範囲内の大きさの直径を有する】)
細孔の容積が小さい(本件明細書【0024)球状活性炭を得ること】
によって,本件明細書に記載されているとおりの顕著な作用効果を導い
ているのである。つまり,本件発明の主眼は,出発材料としてフェノー
ル樹脂又はイオン交換樹脂を用いるとともに「特異な細孔構造」を有,
しているところにあり「酸化処理及び還元処理」を行わないことを発,
明の構成要件として含むものではないことも,請求項1にそのことにつ
いて記載がないことから明らかである。したがって,請求項1に記載さ
れている要件に加えて「球状活性炭」に「付加工程(酸化処理,還元,
処理など)を実施しない」などという新たな要件を加える理由など一切
存在せず,被告の主張は失当である。
エ被告製品の製造工程に「付加工程」なるものが存在しないこと
本件明細書中に「付加工程」なる文言は存在しない。被告の主張によれ
,「」,ばそれは官能基を導入調整するための工程を指すものであるとされ
被告は,被告製品の下記の製造工程cないしeによって全酸性基量が抑え
られており,これらの工程が付加工程に当たる旨主張している。しかしな
がら,下記の工程は,いずれもそのような付加工程なるものに該当しない
ことは明らかである。

工程c回転炉温度を約950℃に維持しながら水蒸気の供給を停止
し,二酸化炭素ガスを約20分間供給する
工程d回転炉を傾斜して,炉内の活性炭を,炉の下部に置いた容器
に排出する。排出に際しては,容器の頂部,底部から二酸化炭
素ガスを流入させて容器中の空気と置き換え,活性炭を外気に
触れさせないようにする
工程e炉内の活性炭のすべてを容器に排出した段階で容器頂部二,(
()。)酸化炭素ガスを逃がすための開口部小孔が空けられている
に蓋をして空気の流入を遮断し,約6時間を要して100℃程
度まで冷却する
まず,工程cでは,温度を950℃に維持しながら,二酸化炭素ガスを
供給している。ここで,二酸化炭素ガス(炭酸ガス)は,賦活反応を引き
起こすガスであり(本件明細書【0014】参照,二酸化炭素ガスによ)
る賦活反応については,850℃より高い温度で進行するとされているこ
と(甲25,28,及び炭酸ガス賦活は,実際には水蒸気と併用される)
場合が多いとされること(甲25)からすれば,工程cにおいて生じてい
る反応は,賦活反応と考えることが合理的である。また,この事実を測定
によって示すために,原告は,実験(甲29)を行ったところ,工程cと
同様の条件の下で窒素ガスを注入した場合と比べて二酸化炭素ガスを注入
することにより,活性炭の比表面積が増加した。したがって,工程cは,
賦活反応が行われている工程であり,何ら「官能基を導入調整するための
工程」ではない。
工程d及びeにおいては,炉内の活性炭を外気に触れさせないように容
器に排出し,空気の流れを遮断しながら,約6時間かけて100℃まで冷
却しているにすぎない。そして,約950℃もの高温になっている活性炭
を空気中において冷却しようとすれば発火することは明らかであるから,
工程d及びeは,賦活処理終了後の活性炭を外気に触れることによって発
火などが起こることを防ぎつつ,回転炉から容器に移しかえて冷却する過
,。,程であり活性炭を製造する上で当然に必要な過程にすぎないすなわち
工程d及びeは何ら「官能基を導入調整するための工程」ではない。
以上より,工程cないしeが「付加工程」に該当するという被告の主張
は成り立つ余地はない。
()構成要件F(回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く)2
について
ア被告製品につき,反射式デフラクトメーター法により回折角(2θ)1
,()。5°24°及び35°における回折強度をそれぞれ測定した甲10
そして,測定された回折強度を基に,構成要件Fで定義されている回折強
度比Rを算出した結果,被告製品1のR値は1.11であり,被告製品2
のR値は1.10であったから,被告製品はいずれも構成要件Fを充足す
る。
イX線回折法による測定では,反射式デフラクトメーター法を採用するこ
とが当業者にとって自明であること
(ア)X線回折法については,日本工業規格(JIS)及び日本薬局方にお
いてそれぞれ関連する規格が定められており,その内容に実質的な相違
点はない。炭素材料の製造,利用,評価の際に用いる測定法の規格とし
ては,これら当業者が実験などを行う際に当然に参考にするであろう権
,(),威のある規格に加え日本学術振興会が定めた測定法学振法もまた
一般的な規格として,当業者の間で広く普及している。よって,当業者
であれば,本件のような試料についてX線回折法による測定を実施する
に際しては,特段の指定がされない限り,JIS,日本薬局方,学振法
で定められた規格等に従い測定方法を決定するのが通常である。
(イ)X線回折装置におけるX線の検出,測定方法は,フィルムを用いた写
真法とカウンタ(計数管)を利用したカウンタ法がある(甲12。デ)
フラクトメーター法は,後者のカウンタ法に属し,カウンタによる自動
記録方式のX線回折計(デフラクトメーター)を用いた検出,測定方法
のことをいう。
本件発明の請求項1及び同項を引用している請求項に関して構成要件
,(),該当性を判断するためにはX線回折法により回折角2θが15°
24°,35°である際の回折強度を測定することになる。上記の写真
法では,ある回折角における回折強度を定量的に測定することが困難で
ある。したがって,十分な精度をもって定量的に測定することが可能な
カウンタ法を使用することは,当業者にとって自明である。そして,カ
ウンタ法としては,デフラクトメーター法が代表的な方法であり,JI
S,日本薬局方,学振法のいずれにおいても,本件のような試料を測定
する方法として,デフラクトメーター法のみが測定方法として記載され
ている。すなわち,当業者にとって,本件発明の請求項1の記載を見れ
ば,デフラクトメーター法を用いて回折強度を測定することは自明とい
える。
さらに,甲第10号証の実験における「反射式」デフラクトメーター
法で測定したときの記載は,デフラクトメーターを用いて,X線の入射
する方向と試料面及び試料面と計数装置との角度が等しくなるように操
作する,いわゆる対称反射法によってX線回折の測定を行ったことを示
す趣旨である。JISに記載されているX線回折装置の基本構造は,対
称反射式を用いて測定することを前提としているし(甲14の2~3
頁,日本薬局方には「ゴニオメーターはX線の入射する方向と試料),
面及び試料面と計数装置との角度を走査する装置である。通例,両角度
が等しくなるように走査する対称反射式で測定するとの記述があり甲」(
15の90頁,対称反射式を用いることが明記されている。)
このように,X線回折法によって構成要件に定めた回折角における回
折強度を測定し,その値から回折強度比(R値)を算出する場合には,
「反射式デフラクトメーター法」を採用することが当業者にとって自明
であることは明らかである。
ウR値の測定条件は,当業者にとって自明であるか,又は当業者が技術常
識に従って適宜に決定すれば支障がない内容であること
(ア)X線の線源としてCuKα線を用いることについて
X線回折法においては「測定試料に適した波長のX線が得られるよ,
うに対陰極の種類を選択(甲15の90頁)した上で,当該試料の回」
折強度を測定することとなる。
そして,活性炭などの炭素材料に関してX線回折法を使用して分析す
る場合,X線の線源のターゲット(対陰極)については銅(Cu)を用
いることが通例である(甲12の44頁,甲14の20頁,甲15の9
0頁。また,日本薬局方(甲15)にも記載があるとおり,活性炭な)
どを試料としてX線回折法を行う場合においては「波長に分布のある,
連続X線部分を除き,単色化した特性X線のみを用いる(甲15の9」
0頁)ことが必要であるところ,当業者であれば,特性X線として,X
線強度が強く,容易に単色化することが可能なX線の線源としてCuK
α線を用いることは当然である。なお,具体的に学振法では,CuKα
線を用いることが明記されている(甲13の25頁。)
よって,当業者であれば,X線の線源としてCuKα線を用いること
は自明である。
(イ)その余の測定条件について
試料作成及びその余の測定条件については,回折強度を正確に測定す
るという測定の趣旨に合致する範囲内で,当業者が技術常識に従って適
宜に決定,設定すればよいものである。
a試料の粉砕について
試料の粉砕については,JIS(甲14,32)において「粒径,
の大きい試料は,必要に応じて乳鉢などを用い手動又は専用の機械に
よって粉砕して10μm以下の粒径になるようにすると記載され4」(
頁「5.試料及びその調整方法,日本薬局方(甲15)にも同様」)
の記載があることから(90頁右欄11行「通例,試料粉末を無配向
化する方法として試料をめのう乳鉢等で粉砕し,試料を粉砕して」)
測定することは,当業者であれば当然に行うべきことである。原告に
よる測定(甲10,16)においても当然に行われている。
b試料板にアルミニウム板を用いること
試料板として,アルミニウム板を用いることも,日本薬局方等に明
記されており(甲15の90頁右欄8行「通例,測定試料はアルミニ
ウム又はガラス製の平板試料ホルダーの充てん部に粉末試料を充てん
成形することにより調整する,アルミニウム板を用いることは当」)
業者にとって当然のことである。被告が使用したX線回折装置を販売
している株式会社リガク電機においても,アルミ試料板とガラス試料
板のみが一般に販売されている。
なお,被告の実験報告書(乙6)においては,試料板としてアルミ
ニウム板の他に,プラスチック板も使用している。しかしながら,活
性炭のような炭素材料のX線回折の測定では,炭素原子に対するX線
の透過力が大きいので,プラスチックの試料板を使用すると,プラス
チックの構造(炭素が含まれている)の回折強度を拾ってしまう可。
能性があるため,当業者にとって,活性炭のX線回折強度を測定する
,。際に試料板としてプラスチック板を使用することは常識的ではない
,「」(),(,),このことはX線回折の手引き甲12JIS甲1432
日本薬局方(甲15)及び学振法(甲13)において,試料板として
プラスチック板を使用することが記載されておらず,また,被告が使
用したX線回折装置の製造者である株式会社リガク電機を始め,原告
の調査した限りではいずれの会社からも,被告が使用したプラスチッ
クの試料板が標準試料板として販売されてないことからも明らかであ
る。
c補正について
原告の実験報告書(甲10,16)においては,装置誤差を補正す
るために,標準物質として一般的な物質であり,JIS(甲32の6
頁「6.標準物質)において,好ましい標準物質として挙げられて」
いる高純度ケイ素(シリコン)粉末を使用して回折強度の補正を行っ
,(,ておりその旨は実験報告書にも明記されている甲10の3頁9行
甲16の2頁。)
また,吸収因子及びローレンツ偏光因子に関する補正を行う必要が
ないことは,JIS(甲14,32)及び日本薬局方(甲15)に,
,。同因子に関する補正についての記載がないことからして当然である
エ当業者に委ねられる測定条件によって,R値の測定結果が相違すること
はないこと
(ア)被告は,R値は測定方法及び試料作成方法によって変動するため固有
値を取り得ないと主張する。
確かに,個々の試料に関する回折強度それ自体の絶対値は,測定条件
により異なるので固有値ではない。しかしながら,変化するのは回折強
度の絶対値のみであり,ある回折角におけるベースライン強度を差し引
いた回折強度を基準にしたとき,その強度に対するその他の回折角にお
()けるベースライン強度を差し引いた回折強度の比率すなわち相対強度
は変化しない。
具体的に説明すると,以下の図1に示すように,X線回折法により実
際に測定値として得られる回折強度の値は,回折強度(Y)とベースラ
イン強度(BL)との和(Y+BL)である。以下の図1では,回折角
(2θ)15°における回折強度(I)とベースライン強度(BL)15
を示す。
ここで,ある「物質S」を測定条件C1のもとで,X線回折法で測定
したときに実際に回折角(2θ)15°,24°及び35°において測
定される回折強度をI,I,Iとすると,それらの回折強度は,152435
以下の式(1-1(1-2)及び(1-3)で表される。),
I=Y+BL・・・1-1)1515(
I=Y+BL・・・1-2)2424(
I=Y+BL・・・1-3)3535(
上記において,Yは,測定条件C1での回折角(2θ)15°にお15
いて「物質S」の構造に起因する回折強度であり,Yは,測定条件,24
C1での回折角(2θ)24°において「物質S」の構造に起因する回
折強度であり,Yは,測定条件C1での回折角(2θ)35°におい35
て「物質S」の構造に起因する回折強度である。また,BLは,測定条
件C1でのベースライン強度である。
前記式(1-1(1-2)及び(1-3)を,本件特許の請求項),
1で規定するR値の計算式
R=(I-I)/(I-I)15352435
に代入して整理すると,以下の式のとおりとなる。
次に,前記と同じ「物質S」を別の測定条件C2のもとでX線回折法
で測定したときに実際に回折角(2θ)15°,24°及び35°にお
いて測定される回折強度をI’I’,I’とする。回折強度Y152435,
の絶対値は,測定条件の変化に応じてそれぞれ変化するが,各回折強度
。,相互間の相対強度は物質に固有の値であるから変化しないしたがって
測定条件C1から測定条件C2への変化に伴って,回折角(2θ)15
°での回折強度I’における「物質S」の構造に起因する回折強度が15
1524測定条件C1での回折強度Yのn倍になるとすると,回折強度I’
における「物質S」の構造に起因する回折強度もYのn倍に,回折強24
度I’における「物質S」の構造に起因する回折強度もYのn倍に3535
なるまたベースライン強度BLも測定条件の変化に伴ってB。,(),「
L」に変化する。したがって,それらの回折強度は,以下の式(2-’
1(2-2)及び(2-3)で表される。),
I’=nY+BL・・・2-1)1515’(
I’=nY+BL・・・2-2)2424’(
I’=nY+BL・・・2-3)3535’(
前記式(2-1(2-2)及び(2-3)を,本件特許の請求項),
1で規定するR値の計算式
R=(I-I)/(I-I)15352435
に代入して整理すると,以下の式のとおりとなる。
このように,同じ「物質S」について,測定条件をC1からC2に変
化させてもR値は変化しないのである。
R=
I24-I35
I15-I35
=
(Y15-BL)-(Y35-BL)
(Y24-BL)-(Y35-BL)
=
Y15-Y35
Y24-Y35
R=
I'15-I'35
I'24-I'35
=
(nY15-BL')-(nY35-BL')
(nY24-BL')-(nY35-BL')
=
nY15-nY35
nY24-nY35
=
Y15-Y35
Y24-Y35
(イ)R値の持つ意味
活性炭においては,回折角35°付近にX線回折の回折ピークが存在
しないことは明らかであるから(この事実は,乙1の2の9の996頁
のFig.10及びFig11を見ても明らかである,実際には,。)
回折角35°における回折強度(Y)は0であり,IはBLの回折3535
強度と一致する。
また,当業者であれば,回折角24°における回折強度(Y)が炭24
素質材料の002面(炭素の結晶構造が積層構造であり,その積層面に
相当)に起因する回折強度であり,試料を構成する炭素の骨格構造を示
したものであることは容易に把握することができる。そして,R値と比
表面積(すなわち,試料の細孔構造)とがおおむね比例関係にあること
(甲18の1の12頁)を併せて考えれば,回折角15°における回折
強度(Y)が試料の細孔構造を反映したものであり,R値は測定対象15
試料の細孔構造と炭素の骨格構造の比を示すパラメータであると容易に
理解することができる。
そのようなパラメータが,測定装置や試料作成方法等によって変動す
るはずはないから,R値が測定条件によって変化しないことは,R値の
持つ意味を考察することによっても示されるといえる。
オ被告の実験報告書(乙6)を根拠とする主張に対する反論
(ア)試料の厚さについて
被告は,試料の厚さが異なるとR値が異なると主張する。しかしなが
ら,R値は,回折強度の比率(すなわち相対強度)であり,仮に,被告
の主張するとおり,回折強度比であるR値が試料の厚さにより異なると
すれば,X線回折強度の測定及びそれに基づく物質の同定・定量などを
行うに際し,試料の厚さは測定の再現性や測定精度という観点から非常
に重要な因子であるということになる。
にもかかわらず,原告が提出したX線回折強度の測定に関するJIS
等各種文献(甲12~15)はおろか,被告が提出したX線回折強度の
測定に関する文献(乙1の2の10・11)にも,測定試料の厚さを正
確に規定する必要があることは一切記載されていない。例えば,格子定
数や結晶子の大きさを測定するために制定された学振法の25頁「4-
1回折線図形の測定(甲13)には「X線用試料をメノウ乳鉢中」,
でよく混合した後,X線回折計付属の試料板に均一に充填する」としか
,。,記載されておらず試料の厚さについては一切触れられていないまた
(),「.()」JIS甲32においても7頁81回折データの整理3
に「X線強度はバックグラウンドを差し引いた回折X線のピーク高さを
相対強度として求める」との記載があり,相対強度を利用して物質を。
同定することが記載されている一方で,4頁「5.1.2粉体試料の
試料ホルダへの充てん」には「試料ホルダには,金属やガラスなどの板
に穴又はくぼみを付けたものを用いる」としか記載されておらず,試。
料の厚さについては触れられていない。さらに,JIS(甲32)の35
頁「4.5データ処理」には測定条件として記録すべき事項が記載さ
,。,れているもののそこにも試料の厚さに関する記載は一切ない加えて
被告が提出する証拠である「X線分析(乙1の2の10)の53頁に」
も,粉砕した試料の成形方法として「1)ガラス板(中略)などに1(
.,()。」「()~15mmの浅いくぼみを作りこれに試料をつめる後略2
アルミ板,ガラス板など(厚さ2mm)に1×2cmくらいの四角の窓
をあけ,これに粉末試料をつめる(後略」と記載されているのみで。)
あり,試料の厚さに関する厳格な記載は存在しない。
すなわち,回折角における相対強度の測定においては,測定の趣旨に
合致する範囲において,当業者が適切と考える厚さで試料を作成し,測
定を行えば構わないとされているのである。
この点につき,原告が行った実験の報告書(甲33)では,試料厚さ
を0.8mmから2.3mmまで変化させているにもかかわらず,R値
はいずれの厚さにおいても1.1であった。
(イ)測定装置について
a被告は,測定条件によってR値や回折強度が異なると主張し,被告
の提出する乙第6号証には「ほぼ同じ試料厚みで測定したRINT1
100のR値とRINT2400のR値とは一致しなかった」との記
載がある(乙6の3頁。)
bしかしながら,そもそも,測定装置が違うと回折強度比が異なると
すれば,分析手法としてのX線回折法そのものが成り立たないことに
なる。もし,乙第6号証に記載されているとおり,測定装置によって
回折強度比(相対強度)であるR値に0.85から1.56までの違
いがあるとすれば,同じ物質を測定しても装置によって回折強度比が
50%以上も異なる(すなわち,装置によって当該物質のX線回折図
形が大きく異なる)ことになる。そのようなことがもし発生すると。
すれば,JIS(甲32の7頁以下,同35頁以下)に記載されてい
るようなX線回折図形が物質特有であることを根拠とするX線回折法
による物質の同定そのものが全く不可能になる。しかし,現実にX線
回折法による物質の同定が幅広く使用されている(相対強度を指標と
した国際的に共通の粉末X線データベース(JIS35頁)が存在す
る)ことは明らかな事実である。このような観点からすれば,測定。
装置によって回折強度比は異ならないことは明らかである。
さらに,乙第6号証の測定結果から,その3頁「5.考察(2」)
に記載されているような結論を導くことも非科学的である。測定装置
の相違によってR値が異なることを測定結果の比較によって立証する
ためには,測定装置以外の条件を同じにしなければならないことはい
うまでもない。しかしながら,例えば乙第6号証の表1に記載されて
いる測定結果と,表2における測定結果を比較すると,試料板が異な
る(表1ではプラスチック試料板,表2ではアルミ試料板。すなわ)
ち,表1と表2の実験結果を比較し,その結果が相違しているとして
も,測定装置のみならず,試料板までも異なっている以上,試料板の
相違による影響の可能性を否定することができず,その比較は意味の
あるものではない。よって,そのような条件下での比較結果から,測
定装置の違いによって測定結果が異なるという結論を導くことは不可
能である。
c乙第6号証の表1と同じ測定装置で,かつアルミ試料板を用いて測
,.。定した結果が乙第14号証のFig1として被告より開示された
その結果によれば,回折角15°における回折強度と回折角24°に
おける回折強度がほぼ等しいこと,すなわちR値が約1であることが
容易に読み取れる。他方乙第6号証の表2に記載されている測定結果
から算出されるR値もまた約1であり,これは,表1とは異なる測定
装置でアルミ試料板を用いて測定した結果である。これらをまとめる
と以下のとおりである。
測定装置試料板R値記載箇所
プラスチック1.4乙6・表1RINT1100
アルミ1.0乙6・表2RINT2400
アルミ約1乙14・1RINT1100Fig.
これらの事実からは,仮に被告による測定結果が正しいとしても,
試料板に適切な素材を使用すれば測定装置が異なってもR値は変動し
ないことが判明し,また,乙第6号証の表2記載のデータ及び乙14
のFig.1から読み取れるデータと比較して,乙第6号証の表1に
,()記載のデータにおいてR値が変動している原因は試料板及び敷板
にプラスチックを使用していることにあることが明確になった。
(ウ)小角散乱による影響の補正について
乙第6号証においては,解析方法②(乙6の2頁())として,小角4
散乱による影響を補正しているようであり,当該補正を行ったデータと
,。して表3を記載しもって補正前後におけるR値が異なる旨を主張する
しかしながら,乙第6号証には,いかなる補正が行われたのかについて
の記載がなく,反論の必要はないものである。また,小角散乱による影
響について補正を行うこと自体,各種文献(甲12~15)にも一切記
載がない上に,R値の算出においては既にベースライン補正を行ってい
ることから,全く不要な作業であるといわざるを得ない。
なお,乙第6号証には「測定データのうち小角散乱に由来するもの,
は測定した全領域においてバックグラウンドとして寄与する」との記載
があり(乙6の2頁,参考文献3が挙げられているものの,参考文献)
3にはそのような趣旨の記載はない。また「データ処理により小角散,
乱によるバックグラウンドを求め,測定データからバックグラウンドを
差し引いて回折強度を求めた」との記載があり「データ処理」を裏付,
けるものとして参考文献4が挙げられているものの,参考文献4には当
該データ処理に関する記述は一切ない。このように,乙第6号証の参考
資料を検討しても,被告の行った補正方法は明らかにならず,被告の主
張は何らの根拠もないものである。
(エ)同じ試料厚さでかつ同じ測定装置を用いても,R値が異なるとの主張
について
被告は,乙第6号証を根拠に,同一の測定機器を用い,かつ試料の厚
さその他同じ条件によっても,測定のたびにR値が一定でないと主張す
る。しかしながら,R値は,回折強度比(相対強度)である以上,測定
ごとに異なる数値を示すはずがないことは前記のとおりである。
なお,乙第6号証の「5.考察(3」では,RINT1100によ)
る測定結果(表3)及びRINT2400による測定結果(表2)を基
に,R値がばらついていると述べている。しかしながら,表2及び表3
,,に記載されている測定結果のうち厚さが違う試料の測定結果の比較は
既に乙第6号証の考察(1)において評価されているのであるから,考
察の(3)において述べられるべきは,表2に記載されている同一試料
厚さの測定結果の比較(すなわち,試料厚さが0.3,0.6,1.9
mmのそれぞれの複数回の実験結果)に基づく考察のみであるべきであ
る。また,試料厚さが0.3,0.6,1.9mmのそれぞれ複数回の
実験結果についても,同じ試料について二度測定したのか,それとも厚
さをそろえた試料を複数作成し,それぞれについて測定を行ったのか不
明確である。このような基本的な考察ができておらず,また,実験報告
書としての基本的な記述が欠けていること自体,乙第6号証の信用性を
著しく減殺させるものである。
(オ)乙第6号証の実験結果の問題点について
乙第6号証には,使用されているX線発生装置2種(①封入式X線管
球,②回転体陰極型X線発生装置)を比較すると,②で発生するX線の
方が強いにもかかわらず(②の方が高出力のX線を発生させるための装
置であることに加え,印加電流も②は①の2倍である,②で測定し。)
たX線回折強度の絶対値(表2)と比較して,①で測定したX線回折強
度の絶対値(表1)の方が大きいという,不合理な結果が記載されてい
る。
また,表2に記載されている測定結果のうち,試料層厚0.6mmの
一番目の数値(I:407,I:519,I:107。単位はい152435
ずれもcps)は,ベースラインであるIの値が他の多くの測定値よ35
りも大きいにもかかわらず,Iの測定値が表2に掲載された測定値の15
中で最も小さい値となっており,この測定結果が物質固有のX線回折図
形(回折プロファイル。この場合には,炭素の回折プロファイル)を。
示してない,すなわち,X線回折の基本的な条件すら満たしていない結
果であることは明白である。
さらに,表1に記載の実験結果においては,表2記載の実験結果と異
なり,試料層厚が増加するに従い,一方的にR値が減少している。試料
層厚に反比例してR値が一方的に減少することは不可解としかいいよう
がなく,このような実験結果は,何らかの作為が入っているという疑い
を抱かざるを得ない。
このように,乙第6号証に不合理な結果が記載しされている一方で,
回折強度を測定した際のチャート等の一次データが添付されていないこ
とを考慮すれば,乙第6号証に記載されている実験結果には,何らかの
作為,又は当業者であれば測定に際して当然に排除するべく様々な配慮
を行う測定ノイズが含まれている可能性が高い。
〔被告の主張〕
()構成要件E(球状活性炭からなる)について1
ア以下に述べるように,本件発明における「球状活性炭」は単純な意味で
の「球状」の「活性炭」という用語ではなく,厳密に定義付けられなけれ
ばならないものであり,被告製品はその「球状活性炭」には該当しない。
イ本件発明における「球状活性炭」の意義
(ア)本件発明は「熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球状活性炭は,,
酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもかかわらず,生体
内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に
,(,)優れておりしかも有益物質である消化酵素例えばα-アミラーゼ
等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸着性を有することを見出
し」たこと,及び「その選択吸着性の程度が,前記特公昭62-116
11号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優れていることを見出
した」ことに基づくものである(本件明細書【0004】参照。)
本件明細書においては,前記の見出した事実が「驚くべきこと」であ
ると記載されているばかりか,さらに,従来技術では「ピッチ類から調
製される球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理して官能基を導入する
ことによって,前記の選択吸着性が発現されることになると考えられて
いたので,酸化処理及び還元処理を実施する前の球状活性炭の状態で選
択的吸着能を発現すること,及びその吸着能が従来の経口投与用吸着剤
」「」よりも優れているという本発明者による前記の発見も驚くべきこと
であると記載されている(本件明細書【0005】参照。)
その上で「前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理すること,
によって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒症性物質のひと
つと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益
物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少
ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭62-11611号
公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも一層向上する」と記載されて
いる(0006】参照。【)
なお「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面,
改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用吸着剤の炭素源と
して用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として熱硬化性樹脂を用
いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ類を用いる従来の
製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製することができる。本発
明の経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表面改質球状活性炭
は,例えば,以下の方法によって製造することができる(本件明細。」
書【0013「最初に,熱硬化性樹脂からなる球状体を,炭素と反】),
応性を有する気流(例えば,スチーム又は炭酸ガス)中で,700~1
000℃の温度で賦活処理すると,本発明の経口投与用吸着剤として用
いる球状活性炭を得ることができる。ここで,球状『活性炭』とは,球
状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行う
ことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g
以上であるものを意味する。本発明においては1000㎡/g以上が好
ましい(0014)と記載されているように「球状活性炭」は,。」【】,
ピッチ類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の方法によって調整さ
れた多孔質体であること,球状で比表面積が100㎡/g以上であるこ
とも記載されている。
(イ)すなわち,本件発明の本質的部分は,本件明細書の記載から「フェノ
ール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球状活性炭」であ
ることは一目瞭然であり,この構成によって,従来技術と同等以上の選
択吸着性能を有する経口投与用吸着剤を極めて容易に得ることができる
というものである。
ところが「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造,
すること」をその本質的部分とするにもかかわらず「フェノール樹脂,
()」又はイオン交換樹脂を炭素源として製造した球形の活性炭多孔質体
との構成は,公知技術(乙1の2の1,2,7)である。
そうであるとすれば,その本質的部分を構成する「球状活性炭」の要
件(構成要件E)は,単に「球状」の「活性炭」であるとか「球状」,
の「多孔質体」などのように一般的な意味に理解してはならず,厳密に
定義付けられなければならない。
(ウ)そして,本件明細書の上記記載によれば,本件発明の「球状活性炭」
は「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を炭素源として従来と同じ,
(,)製造方法ピッチ類の場合と同様に熱処理後賦活処理を行う製造方法
で調製することによって容易に得られるもの(多孔質体,球状で比表面
積が100㎡/g以上)であり,その後に官能基を導入調製するための
付加工程(例えば,酸化処理及び還元処理などの工程)を実施しなくて
も,従来技術と同等以上の選択吸着性を有する経口投与用吸着剤を得る
ことができるとするものである。換言すれば,その後に付加工程を実施
,「」。して得られた物質は本件発明の球状活性炭の概念には含まれない
(エ)以上からすれば,本件発明における「球状活性炭」とは,①ピッチ類
を用いた従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製して得ら
れた,球状で比表面積が100㎡/g以上の多孔質体であること,②①
で得られた多孔質体に対して,付加工程(酸化処理,還元処理など)を
実施しないことの2つの要件を満たすものでなければならない。
ウ被告製品は,本件発明の「球状活性炭」に該当しないこと
(ア)被告製品の製造工程
被告製品は,以下のような工程で製造されるものである。
工程a球形粒状フェノール系樹脂を炉に入れ,窒素ガス気流下,約8
00℃で炉内に約30分間滞留させて炭素質材料を得る。
(),,工程b炭素質材料約50kgを回転炉に仕込み水蒸気雰囲気中
約950℃で約13時間賦活処理を行い,活性炭を生成する。
工程c回転炉温度を約950℃に維持しながら水蒸気の供給を停止
し,二酸化炭素ガスを約20分間供給する。
工程d回転炉を傾斜して,炉内の活性炭を,炉の下部に置いた容器に
排出する。排出に際しては,容器の頂部,底部から二酸化炭素ガ
スを流入させて容器中の空気と置き換え,活性炭を外気に触れさ
せないようにする。
工程e炉内の活性炭のすべてを容器に排出した段階で,容器頂部(二
()。)酸化炭素ガスを逃がすための開口部小孔が空けられている
に蓋をして空気の流入を遮断し,約6時間を要して100℃程度
まで冷却する。
(イ)上記のように,被告製品の製造工程においては,球形粒状フェノール
系樹脂に対する熱処理工程(工程a,水蒸気賦活処理工程(工程b))
に加えて,二酸化炭素ガス供給工程(工程c,炉からの排出工程(工)
程d,冷却工程(工程e)を経て,活性炭(被告製品)を得るもので)
ある。このように,空気の流入を遮断し,二酸化炭素を供給して炉内の
雰囲気を二酸化炭素ガスに変えて約950℃で保持した上で,炉から排
出し,さらに二酸化炭素ガス雰囲気下で冷却工程を経ることで,全酸性
基量が際だって少なく毒素物質の吸着性能が向上した活性炭を得ること
ができるのである。
すなわち,被告製品の製造工程における工程cからeは,前記付加工
程(酸化処理,還元処理などの工程)に相当することは明らかである。
(ウ)以上からすれば被告製品は付加工程を実施しないとの要件前,,「」(
),「」記イ(エ)の要件②を満たさないものであり本件発明の球状活性炭
には該当せず,構成要件Eを充足しない。
(エ)原告は,工程cにおいて,二酸化炭素ガスを供給していることは,賦
活処理と考えることが合理的であると主張する。
しかしながら,賦活処理は,既に工程bで行っているのであるから,
再び賦活処理を行う必要性など全く存在しない。二酸化炭素ガスが賦活
反応を引き起こすガスであることは確かであるものの,既にb工程によ
って水蒸気雰囲気中で賦活処理を行っているのであるから,この二酸化
炭素ガス供給工程は,単純な賦活工程ではなく,既に工程bによって導
入された官能基を調整するための工程であると理解すべきである。
また,原告は,工程d及びeが冷却工程にすぎないと主張する。
確かに,工程d及びeは,活性炭を製造する上で当然に必要な冷却過
程の範疇に含まれることは当然である。しかしながら,単なる冷却であ
。,れば自然に放置することで十分である工程d及びeを経ることにより
.()全酸性基量014meq/g未満という低い数値が得られた乙13
ので,被告製品の製造工程においては,自然放置ではなく,あえて製造
工程dおよびeを経ているのであって,このことからすれば,二酸化炭
素ガス流入による冷却工程は,既に導入された官能基を調整するための
工程であると理解すべきである。
()構成要件F(回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く)2
について
ア本件明細書には,R値を含めた回折強度に関連する説明を根拠付ける記
,,。載は一切なく原告の主張する測定方法測定条件を採用する根拠はない
イ原告の実験報告書について
(ア)原告の提出する実験報告書(甲10)には,以下のように記載されて
いる。
()測定装置a
X線回折装置(株式会社リガク製「RAD-rC/PC化)」
()試料作成方法b
試料を120℃で3時間減圧乾燥する。
アルミニウム試料板(35×50m㎡,t=1.5mmの板に2
0×18m㎡の穴を空けたもの)に充填する。
()測定方法c
グラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線(波
長λ=0.15418nm)を線源とする。
反射式デフラクトメーター法による。
()測定条件d
X線発生部及びスリットの条件
印加電圧40kV,電流100mA
発散スリット=1/2°,受光スリット=0.15mm,散乱
スリット=1/2°
()回折図形の補正e
ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する補正行
わず。
標準物質用高純度シリコン粉末(111)回折線を用いて回折角
を補正。
(イ)以上の条件等について,原告が証拠を用いて説明したのは()だけc
であり,それ以外について全く合理的な説明がされていない。
X線回折強度測定に際して使用する試料の粉砕の程度や試料作成方
法,充填方法等に注意しなければ,その回折強度測定の再現性は失わ
れるのであるから,物質特定のためにはそれらの測定条件を明確にし
ておかなければならない。それにもかかわらず「()試料作成方法」,b
において,試料を粉砕したかどうか,粉砕したとしてどの程度粉砕し
たか「アルミニウム試料板(35×50m㎡,t=1.5mmの板,
に20×18m㎡の穴を空けたもの」を用いたのはなぜか,それに)
対して試料をどの程度の強度で充填したかについては全く記載されて
ない。
また,通常,X線回折法に基づいて回折強度を測定する場合,補
正をするのが一般的であるにもかかわらず「()回折図形の補正」に,e
おいては,一切補正を行っていない。これについても,なぜ補正を
しないのかについて全く記載されていない。
ウ測定方法によって全く異なる回折強度値となること
(ア)乙第1号証の2の10には,X線回折強度の測定に際しては,十分に
細かい試料を用いなければ測定の再現性が失われること,粒子の粉砕の
程度(大きさ)は45μm以下であること,粉砕した試料を平板状に形
,,,.成する方法として①ガラス板アルミ板プラスチック板等に1~1
5mmのくぼみを作り,これに試料をつめる場合と,②厚さ2mmのア
ルミ板,ガラス板等に1×2cm位の四角の窓をあけてこれに粉末試料
をつめる場合があること,充填に際して注意を要するべきことなどが記
載されている。
また,乙第1号証の2の11には,X線回折強度の測定の試料作成に
際しては,メノウ乳鉢で150メッシュ標準篩をすべてが通過するよう
に粉砕すること,試料板に試料を充填する前に試料と標準物質を十分に
混合し,均一に充填することが必要であることなどが記載されている。
要するに,X線回折強度測定に際して,使用する試料の粉砕の程度や
試料作成方法,充填方法などに注意しなければ,その回折強度測定の再
現性が失われるということであり,換言すれば,物質特定のために回折
強度値を用いる場合は,それらの測定条件を明確にしておかなければな
らないということである。
(イ)原告は,ある回折角におけるベースライン強度を差し引いた回折強度
を基準にしたとき,その強度に対するその他の回折角におけるベースラ
イン強度を差し引いた回折強度の比率(すなわち相対強度)は,変化し
ないと主張する。
この主張は,測定条件を変化させた場合,回折角15°における試料
の構造に起因する回折強度がn倍になると,回折角24°及び35°に
おける同試料の構造に起因する回折強度もn倍になることを,その前提
としている。しかしながら,なぜ,そのような前提が成り立つかについ
ての理由は不明であり,原告の主張はその前提を欠くものである。
また,原告は,ベースライン強度を一定値と想定しており「回折角,
35°における回折強度(Y)は0であり,IはBLの回折強度と3535
一致する」と主張する。
しかしながら,この前提も誤っている。甲第13号証の26頁の脚注
7には「バックグラウンドは付図1の如く水平に引く。()回折線の,112
場合は89°,()回折線の場合は75°,()回折線の場合は57110004
°,()回折線の場合は29°付近を基準とするとよい」とされてお002。
り,解析の対象とする結晶面によって異なる角度の値をバックグラウン
ドとして使用する旨が記載されている。そして,小角散乱の影響を考え
ると,通常は,それをバックグラウンド(小角側に行くほど立ち上がる
ようなカーブを描くので,一定値(=横軸に平行)ではない。乙14参
照)として差し引くのが技術常識である。回折角35°における回折強
度をバックグラウンドとして,全角度領域において差し引くことの理論
的根拠は全く薄弱である。
エ被告の実験報告書(乙6)について
被告が行った実験の結果(乙6)によれば,測定装置①()RINT1100
,.,.,.,.及びプラスチック試料板を用い試料層厚を0810112
,..。2に変更した結果R値は129~156と大きく異なる値をとった
また,ほぼ同じ試料厚で測定した測定装置①によるR値(1.56,1.
,.,.)()(.50131129と測定装置②によるR値0RINT2400
99,1.18,0.73,0.99,1.05,0.85,0.95)
は一致せず,R値は一定でないことが明らかとなった。さらに,小角散乱
による影響を補正で除去したところ,R値は0.19,0.26であり,
補正を行わなかった場合のR値(0.85~1.56)とは全く異なる値
が得られた。
以上のとおり,R値及びその前提となる回折強度は,測定方法はもちろ
ん,その測定のために作成する試料の作成方法や補正の有無によっても大
きく変動するものであり,およそ物質の特定において固有値を取り得ない
ことは明らかである。
2争点2(仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか)
〔原告の主張〕
()仕様変更後被告製品が低細孔容積品を有効成分とする腎疾患治療又は予防1
剤であり,本件特許の構成要件を充足すること
ア仕様変更後被告製品が,低細孔容積品と高細孔容積品の2種類の物質に
截然と区別されること
(ア)水による分離実験と細孔容積の測定(甲60の1)
仕様変更後被告製品について水による分離を行うと,浮遊品と沈降品
とにきれいに分離される。仕様変更後被告製品における浮遊品と沈降品
の割合は,浮遊品が約4割で,沈降品が約6割である。
そして,浮遊品及び沈降品について「細孔直径7.5~15000n
mの細孔容積」を測定したところ「細孔直径7.5~15000nm,
の細孔容積が0.25mL/g未満」という構成要件Dについて,浮遊
品はすべてこれを充足せず,沈降品はすべてこれを充足することが明ら
かとなった。
「.」,.沈降品の細孔直径75~15000nmの細孔容積の値は0
1mL/g前後であり,構成要件Dの閾値(0.25mL/g)を大き
く下回る。また,沈降品の細孔容積が0.0851~0.1468mL
/gの間に分布しているのに対し,浮遊品の細孔直径は0.5574~
0.8233mL/gの間に分布しており,絶対値としておおよそ1桁
も異なる。同一サンプル内であるにもかかわらず,これら沈降品の細孔
容積と浮遊品の細孔容積の比をとると,1:5.5~1:7.8と大き
な差異があることがわかる。このような差異は,均一な仕様の下に製造
された物質を分離した場合には生じ得ない。さらに,平成21年2月9
日付け測定分析結果報告書において用いられた試料について,浮遊品の
細孔容積と沈降品の細孔容積との加重平均をとり,全体の細孔容積を求
めると,平均で0.316mL/gとなるが,全体の細孔容積が0.3
16mL/gである物質の6割を取り出した場合の細孔容積が0.08
51~0.1468mL/gであり,残り4割を取り出した場合の細孔
..,容積が05574~08233mL/gとなるような物質を想定し
細孔容積がどのように分布するかを試算してグラフ化すると二つのピー
クが表れ,これによると,仕様変更後被告製品は,細孔容積の大きい浮
,,遊品群と細孔容積の小さい沈降品群との2種類の物質の混合物であり
前者が約4割の重量を,後者が約6割の重量を占めるものであると考え
られる。
すなわち,仕様変更後被告製品には,構成要件Dを満たすものが約6
割も含まれているものの本件特許権の侵害品沈降品に非侵害品浮,()(
遊品)が混合しているため,全体としては,たまたま構成要件Dを充足
しないような測定結果が得られているものにすぎないのである。
(イ)被告による実験報告書(乙37)について
(),,被告から提出された実験報告書乙37は仕様変更前被告製品と
仕様変更後被告製品及び原告製品(クレメジンカプセル200mg)に
ついて,比重の異なる溶液での分離を試みた実験であるが,以下に述べ
るように,この実験結果は,原告の主張を裏付けるものと評価できる。
実験報告書(乙37)の3頁の分離結果に基づいて,仕様変更前被告
製品,仕様変更後被告製品及び原告製品の比重ごとの分布を表にすると
下記のとおりとなる。
比重
1.01.01.31.31.51.51.71.71.9~~~~~
仕様変更前
17.7%3.0%24.3%36.6%18.4%被告製品
仕様変更後
22.8%0.0%22.7%37.1%17.5%被告製品
原告製品
0.0%0.0%0.0%13.7%86.3%
注目すべきは,仕様変更後被告製品の比重のうち,1.0~1.3の
欄が0.0%になっていることである。すなわち,比重1.0以下の範
囲(22.8%)と,比重1.3以上1.9以下(76.2%)とに截
然と分かれているのである。適切に管理された工程から得られる測定値
の分布が正規分布に近い分布となることは当業者の技術常識であり甲,(
64の115頁,均一の仕様の下に同一の工程で製造された物質であ)
れば,上記のような分布の分断は生じ得ないものである。このような分
布の分断が生じていることは,仕様変更後被告製品の中に低細孔容積品
と高細孔容積品の2種類の物質が見られるというばかりではなく,低細
孔容積品と高細孔容積品とが,比重1.0を境に連続しているのではな
く,比重1.0以下の高細孔容積品と比重1.3以上の低細孔容積品と
に截然と区別される別個の物質であることを示しているのである。
イ本件特許の構成要件の文言が,2種類の物質の混合物である仕様変更後
被告製品も包含していること
本件特許の構成要件のうち構成要件D「細孔直径7.5~15000n
mの細孔容積が0.25mL/g未満であり」は「腎疾患治療又は予防,
剤(構成要件H)の有効成分である「経口投与用吸着剤(構成要件G)」」
を構成する「球状活性炭(構成要件E)を限定する構成要件である。」
医療用医薬品においては,有効成分にその他の成分を配合して製剤とす
ることが一般的に行われており,このことは当業者の技術常識である。そ
して,細孔容積に関する構成要件Dを含め,構成要件AないしFを充足す
る球状活性炭が存在し,そのような球状活性炭を有効成分とする腎疾患治
療又は予防剤があるとすれば,その腎疾患治療又は予防剤は,本件発明の
技術的範囲に含まれる。この結論は,仮にその腎疾患治療又は予防剤が同
時に他の成分を含有していたとしても変わりはない。
本件明細書に「更に他の薬剤であるアルミゲルやケイキサレートなど,
の電解質調節剤と配合した複合剤の形態で用いることもできる(00。」【
35)との記載があることも,本件発明の技術的思想の範囲内に構成要】
件AないしFを充足する球状活性炭を有効成分とし,同時に他の成分をも
含有する腎疾患治療又は予防剤が含まれていることを示すものである。
したがって,細孔容積に関する構成要件Dは,腎疾患治療又は予防剤全
体を対象として判定されるべきものではなく腎疾患治療又は予防剤が含有
する有効成分たる球状活性炭のみを対象として判定されるべきものであ
り,このことは,本件特許の特許請求の範囲の文言から自明である。
ウ仕様変更後被告製品が本件特許の構成要件Dを充足すること
,.,前記のとおり仕様変更後被告製品が比重10以下の高細孔容積品と
比重1.3以上の低細孔容積品という截然と区別される別個の物質の混合
品であることは明らかである。
そして,測定分析結果報告書(甲60の1)によれば,低細孔容積品の
細孔容積は,0.1mL/g前後(0.0851~0.1468mL/g
。),(.)の間に分布しているであり構成要件Dの限界値025mL/g
を大きく下回るものである。
そうすると,低細孔容積品は,本件特許の構成要件AないしFを充足す
る有効成分たる球状活性炭に該当する。仕様変更後被告製品は,この構成
要件を充足する有効成分と同時に他の成分である高細孔容積品をも含有す
る腎疾患治療又は予防剤であり,前記のとおり,このような仕様変更後被
告製品が本件特許の構成要件を充足することは,本件特許の特許請求の範
囲の文言から自明である。
()仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)が混合物であることを2
捨象したとしても,その少なくとも一部の製品は,本件特許の構成要件を充
足すること
ア仕様変更後被告製品が混合物であることを捨象し,一体の物として構成
要件充足性を判定するとしても,以下のとおり,仕様変更後被告製品の少
なくとも一部の製品は,本件特許の構成要件を充足するから,仕様変更後
被告製品の製造,販売は,本件特許権を侵害するものであり,また,本件
特許権を侵害するおそれがある。
イ仕様変更後被告製品の測定結果としては,原告従業員作成の実験報告書
(甲51,53)と,株式会社島津テクノリサーチ(以下「島津テクノリ
」。)(,,サーチという作成の測定分析結果報告書乙15の1乙23の1
乙24,甲59の1)が存在する。
これらの測定結果に含まれる測定値は,合計121件であるが,これら
の測定値は,あくまで仕様変更後被告製品全体から一部をサンプルとして
取り出し測定したことによって得られた値にすぎず,これらの測定値の最
大値・最小値がそのまま仕様変更後被告製品全体の最大値・最小値を示す
ものではない。しかも,仕様変更後被告製品は,ばらつきが大きいため,
その測定値(細孔容積)は相当幅のあるものとなっている。
そのため,これらの測定値を表面的に認識するだけでは,分析として不
十分である。仕様変更後被告製品のばらつきの大きさを考慮し,測定値の
分布の状況をも検討することによってこそ,被告が製造,販売する仕様変
更後被告製品の全体像を認識することが可能となり,かつ,本件特許権侵
害の有無及びそのおそれを判断することが可能となるものである。
そこで,上記の観点から各測定結果の内容を分析し,整理して述べるこ
ととする。
ウ各測定結果の内容
(ア)原告従業員作成の実験報告書(甲51,53)
当該実験報告書(甲51,53)の測定対象は,①被告提供の被告製
品1-2(ロット番号7FA,7FB,7HA,7HB,8AA,②)
市販の被告製品1-2(ロット番号7HB,8AA,8CA,8DA,
8FA,8GA,8GB,③被告提供の被告製品2-2(ロット番号)
7GA)及び④市販の被告製品2-2(ロット番号7GA)である。
縮分操作は行われていない。
測定結果は,別紙測定結果一覧「甲51」欄及び「甲51,甲53」
欄の記載のとおりであり,①被告提供の被告製品1-2につき10件,
②市販の被告製品1-2につき21件,③被告提供の被告製品2-2に
つき2件,④市販の被告製品2-2につき3件の合計36件の測定値が
得られ,そのうち②市販の被告製品1-2の3件(ロット番号8DA,
8FA,③被告提供の被告製品2-2の1件(ロット番号7GA)及)
び④市販の被告製品2-2の2件(ロット番号7GA)の合計6件の細
孔容積が0.25mL/g未満であった。
(イ)原告依頼に係る島津テクノリサーチ作成の平成21年1月8日付け測
定分析結果報告書(甲59の1)
当該測定分析結果報告書(甲59の1)の測定対象は,①被告製品1
-2(ロット番号8AA,8CA,8DA,8FA,8GA,8GB,
8GC)及び②被告製品2-2(ロット番号7GA,8HA)である。
縮分操作が行われている。
,「」,測定結果は別紙測定結果一覧甲59の1欄記載のとおりであり
54件の測定値が得られ,そのうち①被告製品1-2の1件(ロット番
号8DA)の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
(ウ)被告依頼に係る島津テクノリサーチ作成測定分析結果報告書(乙15
の1,23の1,24)
当該各測定分析結果報告書(乙15の1,23の1,24)の測定対
,(,,,,象は①被告製品1-2ロット番号7FA7FB7HA7HB
8AA,8CA,8DA,8FA,8GA,8GB,8GC)及び②被
告製品2-2(ロット番号7GA,8HA)である。
縮分操作が行われている。
測定結果は,別紙測定結果一覧「乙15の1,23の1,24」欄記
載のとおりであり,被告製品1-2につき25件,被告製品2-2につ
き6件の合計31件の測定値が得られ,細孔容積が0.25mL/g未
満となる測定値はなかった。
エ測定結果の分析
(ア)縮分操作の有無による測定結果の相違の対比
前記のとおり,原告従業員の実験報告書(甲51,53)では,合計
36件の測定値が得られ,測定値は,0.193~0.457の範囲に
分布し,6件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
これに対し,原告又は被告依頼に係る島津テクノリサーチ作成の測定
分析結果報告書(甲59の1,乙15の1,23の1,24)では,合
計85件の測定値が得られ,測定値は,0.2428~0.3846の
範囲に分布し,1件の細孔容積が0.25mL/g未満であった。
このように,原告従業員の実験報告書に比して,島津テクノリサーチ
作成の測定分析結果報告書は,細孔容積の分布の範囲が狭く,細孔容積
が0.25mL/g未満となる測定値が少ない。この差異は,縮分操作
の有無によるところが大きいと考えられる。
(イ)縮分の影響について
縮分操作とは,乙第15号証の1頁に「アルミ袋・カプセルを開き,
1包分(約2g)を混ぜ合わせた後,二分器で縮分」と記載されている
とおり,試料を均一に混合する操作である。縮分操作を行うと,試料が
均一に混合されるため,原試料のばらつきが大きくても,縮分操作後の
試料は,ばらつきが抑制されることになる。
したがって,島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書(甲59
の1)に信頼性があることは当然であるが,原告従業員による実験報告
書(甲51,53)も,原試料のばらつきを忠実に反映させた点で高い
信頼性を有するものである。
そして,原告従業員の実験報告書(甲51,53)によれば,仕様変
更後被告製品については,大きなばらつきの中で,構成要件Dを満たす
サンプルがあることが客観的に示されている。また,島津テクノリサー
チによる測定分析結果報告書(甲59の1)は,縮分操作をしてばらつ
きを抑制しても,なお,構成要件Dを満たすものが含まれていることを
示している。
〔被告の主張〕
()被告製品1-2のロット番号7FA,7FB,7HA,7HB,8AA,1
8GA,8GB及び8GC,並びに,被告製品2-2のロット番号8HAに
ついては,被告の依頼による島津テクノリサーチの測定分析結果報告書(乙
,,),(,15の123の124のみならず原告従業員の実験報告書甲51
53)及び原告の依頼による島津テクノリサーチの測定分析結果報告書(甲
59の1)においても,ほとんどの試料について細孔直径7.5~1500
0nmの細孔容積は0.25mL/g以上の結果が出ており,構成要件Dを
充足しないことは明らかである。
()なお,原告従業員の実験報告書(甲51,53)によれば,被告製品1-2
2のロット番号8DA及び8FAと被告製品2-2のロット番号7GAにつ
いて,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満
の結果が6回測定されたとされる。
しかしながら,被告が測定分析を依頼した島津テクノリサーチによる測定
分析結果報告書(乙15の1,23の1,24)によれば,いずれも細孔直
径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g以上との測定結果
となっており,これに反する原告が自社内部で行ったにすぎない分析結果は
信用性が低い(下記()参照。4)
()また,被告製品1-2のロット番号8DAについては,原告が島津テクノ3
リサーチに依頼した測定分析の結果報告書(甲59の1)において,1回だ
け0.25mL/g未満の数値(0.2428)が測定されている。
もっとも,その試料であるロット番号8DAについては,同じ実験方法に
よって測定しているデータ9件のうち8件が0.25mL/g以上を示し,
9件の平均値が0.2839であること,及びこの種の製品においては,完
全な均一性を要求することは不可能であり,ばらつきが出ることはむしろ当
然であることからすれば,たまたま生じた測定誤差の範囲内としか考えられ
ない。
()原告従業員の実験報告書は信頼性がないこと4
ア原告は,縮分操作を行うと,試料が均一に混合されるため,原試料のば
,,,らつきが大きくても縮分操作後の試料はばらつきが抑制されるとして
縮分を行っていない原告従業員の実験報告書(甲51,53)の分析結果
も,試料のばらつきを忠実に反映させた点で高い信頼性を有するなどと主
張する。しかしながら,以下に述べるように,この原告の主張は誤りであ
り,縮分が行われていない同実験報告書は信頼性がない。
イ縮分操作とは,試料を均一に混合する操作ではないこと
本件発明における構成要件Dを充足するかどうかを測定するに際して,
本件明細書【0029】に記載された測定装置(水銀ポロシメーター(例
えば,社製「)による必要がある。MICROMERITICSAUTOPORE9200」)
しかしながら,島津テクノリサーチの有する水銀ポロシメーター「島津
-マイクロメリティックス社製オートポア9220形」において,測定試
料を入れる標準セル(容積5cc)のステム容積は約0.4ccであり,
,.。,その試料容量としては被告製品では約04gが適切であるそのため
1回服用量が2gである被告製品においては,その母集団(2g)が測定
操作上多すぎるため,全体を一括して測定することができない。
そこで,その量を標準セルに入れる適正量0.4gに減らす必要がある
が,その減量に際して,その特性を維持し,母集団の平均組成を変えない
ように分析試料を作成する必要がある。
「分析の基礎技術(乙31)に「試料の縮分」につき「主として固」,,
体試料を取り扱う場合に,前述のようにして採取した試料は分析操作上多
すぎるのでなるべく平均組成をかえないようにしてその量をへらさなけれ
ばならない。この操作を縮分()という」と記載されているとおreduction。
りである。
以上の操作を縮分というのであって,縮分が試料を均一に混合する旨の
原告主張は誤りである。
ウ縮分は,試料のばらつきを抑制するものではないこと
このように,縮分操作は,原試料のばらつきを抑制するものではない。
母集団全体から直接の分析対象となる分析試料を適切に選択していかな
ければ,その全体の性質は明らかとならない。ここで「試料」とは「分,,
析に提供されたもの,または分析対象となるものから採取し,母集団(バ
)」,ルクの本質的性質を保持するような方法で選ばれた物質の部分をいい
「試料採取過程(サンプリング」とは「大量物質から小部分の物質を抜)
き取り,その部分がどの点から見ても母集団(バルク)の特性をもつ代表
となるように分析試料を作って行く,いく段もの過程」をいう。さらに,
「縮分」とはこのサンプリングの一過程であり「二段試料(大口試料を一
定の方式で分割して得た量の少ない試料)から一定の方式で試料の量を少
なくし,分析試料にいたる過程」である。そして,この「縮分」を経て得
られた「分析試料」は「分析のために供せられる最終試料」であり「分,,
析試料は均一であるとみなされ,また分析の対象となる母集団の特性を保
持している必要がある」とされる(以上について,乙32。。)
そして,この縮分のために用いる器械が「縮分器」である。例えば,試
料縮分器の代表的メーカーである筒井理化学器械株式会社の試料縮分器の
パンフレット(乙33)には「粉粒体は移動や攪拌により,粒度,比重,
差に基づく分離,偏析が起こるため,粉粒体製品の試験を行う時,試料の
縮分を適切にしなければ信頼できる結果が得られません」と記載してい。
る。
エ本件明細書には記載がないものの,縮分による試料作成が技術常識であ
ること
縮分による試料作成が技術常識であることを示す文献が多数存在する
(乙31,32,34~36。)
他方,本件明細書においては,縮分操作について言及されていない。し
かしながら,前記技術常識に基づけば,適切なサンプリング操作である縮
分を経た後の試料についての実験データが記載されているものと理解せざ
るを得ない。
本件発明の従来技術とされる「特公昭62-11611公報(乙4)」
の7欄には「一般にヒトを対象とする場合に経口投与量は1日当り1~,
5gを3~4回に分けて服用し,更に症状によって適宜増減する。投与形
態は散剤,顆粒,錠剤,糖衣錠,カプセル懸濁剤,乳剤等いずれも取り得
る」と記載されており,炭素質吸着剤を構成する球形炭素質物質を1粒ず
つ経口投与するのではなく,1~20gを3~4回に分けて服用すること
を前提としている。すなわち,1回当たり数百mg~数gを経口投与する
のであるから,球形吸着炭が集合体として機能し,その効果を奏すること
が当然の前提となっている。
そして,本件明細書においても,経口投与用吸着剤を1粒1粒単独で機
能させるのではなく,前記従来技術を当然の前提とした上で(本件明細書
【0035】参照,球状活性炭又は表面改質球状活性炭の集合体として)
用いることが明確に記載されている。
例えば,本件明細書【0022】においては,本件発明の球状活性炭の
直径は0.01~1mmであり,その確認方法は,その範囲に対応するふ
るい通過百分率が90%以上であることとされており,球状活性炭の集合
体を構成する各粒の直径にばらつきがあることを当然の前提としている。
また,本件明細書に実施例として記載されているものは,一定量の試料
のまとまりをもってその作用効果を検証している。
さらに,細孔容積を水銀圧入法によって測定するとされていること自体
が,細孔分布に関しては間接的な測定法であり,材料全体の平均的な情報
を得るものである。特許庁が公開している標準技術集「2-1-1有機
高分子多孔質体の機能と物性/評価方法/多孔性「2-1-1-2細」
孔分布(Hg圧入法(乙30)には,水銀圧入法は,細孔分布を間接)」
的に測定するものであり,材料全体の平均的な情報を得るための手法であ
ることが記載されている。
このように,測定対象物質を入れる試料容器の容量に限りがある以上,
集合体である試料の細孔分布を測定するために,適切なサンプリングをし
なければ集合体全体の情報を的確に得ることができない。
そして,このサンプリング方法について,本件明細書には明示されてい
ないのであるから,当業者の技術常識に従って判断せざるを得ないのであ
。,,,,.る仮にこのサンプリングについていいかげんな方法例えば29
9gの中から適当に試料容器の容量に応ずる量だけ抜き取って測定したの
であれば,その得られた数値はたまたまそのような数値であったというだ
けであり,その集合体の物性値を的確に表現しているとは到底いえない。
()水による分離実験の誤り5
ア原告は,被告製品につき水による分離実験(甲60の1)を行い,浮遊
品と沈降品との混合物であると主張する。
しかしながら,水に浮くか沈むかというのは,活性炭の集合体から構成
される被告製品において1粒1粒の活性炭の比重が1より大きいものと,
小さいものが含まれているというだけのことであり,水による分離実験な
どというのは全く意味のないものである。
被告が行った実験(乙37)のように,溶液の比重を調整すれば,被告
製品も原告製品も,すべて沈降品となったり,すべて浮遊品となったり,
沈降品と浮遊品とに分離されたりする結果となるのであって,原告製品は
比重1.7で浮遊品2割,沈降品8割に分離するのである。被告製品は,
たまたま,比重1で分離したというだけである。
イまた,原告は,被告製品を水で分離した沈降品と浮遊品の細孔容積につ
いて測定した結果を主張している。しかしながら,いったん,水に浸した
ものを乾燥させたとしても微小な細孔構造が変化していることは十分に考
えられるから,その測定結果は信頼性がないものである。
ウ原告は「全体としては,たまたま構成要件Dを充足しないような測定,
結果が得られているものにすぎない」と主張する。
しかしながら「たまたま」ではなく,構成要件Dを充足しないような,
測定結果が得られるように被告が仕様変更を行った必然の結果である。む
しろ,全体として構成要件Dを充足しない測定結果が得られていることが
重要なのである。
被告製品の医薬品としての用法・用量においては,1日6gを3回に分
けて経口投与する。よって,その細孔直径7.5~15000nmの細孔
容積の値は,1回投与量2g(母集団)に対して,偏りがないようにサン
プリングして測定されなければならない。原告の主張する測定方法は,サ
ンプリングに関する技術常識を無視して,母集団をあえて2つに分けて,
それぞれを試料とする偏ったサンプリングを行った結果であり,恣意的な
測定といわざるを得ない。
3争点3(本件特許は無効とされるべきものか)
〔被告の主張〕
()無効理由①(補正による新規事項の追加)1
ア本件発明における構成要件Fは「但し,式(1:R=(I-I),)1535
/(I-I)(1(中略)で求められる回折強度比(R値)が1.2435)
4以上である球状活性炭を除く」とするものであり,形式的には「除くク
レーム」の形となっている。この構成要件Fは,本件特許出願に関する拒
絶査定不服審判において,同日にされた特許出願(以下「別件特許出願」
といい,この出願に係る特許を「別件特許」という。乙1の2の6)に係
る発明と同一(特許法39条2項)である旨の平成18年3月13日付け
拒絶理由通知(乙3の6)を回避するために,同年5月15日付け手続補
正書(以下「本件補正」という。乙3の8)によって追加された事項であ
る。
特許庁の審査基準の記載からすれば,①たまたま先行技術と重複する場
合において,②先行技術とは技術思想が顕著に異なり,③重複する部分を
除外しても発明の本質的部分が残る場合(すなわち,除外した残りの部分
に発明の本質的部分があり,依然としてそれが願書に添付した明細書等に
記載した事項に裏付けられている場合)に限って,例外的に「除くクレー
ム」が許されると解すべきである。
本件特許出願と別件特許出願は,出願人が同一(原告)であり,しかも
。,,その技術思想はほとんど同じであるさらに重複する部分を除外すると
本件発明の本質的部分は何も残らず,本件特許の出願に係る願書に最初に
添付した明細書等(以下「本件当初明細書」という。乙2の2)には何も
裏付けられていないことになるのであるから,本件補正は許されない。
イ本件補正によって,新たな技術的事項が導入されたこと
(ア)構成要件Fは,R値が1.4以上である場合を除いている点で,本件
補正前の発明に対し技術的意味での限定を加えており,換言すれば,本
件補正後の発明は補正前の発明と比較してその技術的範囲が相違する。
(イ)本件明細書には,R値に関する記載がない。R値という概念は一般的
技術用語ではないから,R値に係る構成要件Fの追加により,どのよう
な球状活性炭が除かれるのか,また何のために除くのかという技術的な
意味を理解することはできないし,R値が1.4未満の球状活性炭をど
のようにして製造するのかも不明である。さらに,単に特定の物質だけ
をその権利範囲から除外するという態様とは全く異なり,R値1.4以
上という一定の範囲をすべて除外してしまうものであるから,除かれた
後に残された球状活性炭が果たして発明の効果を奏するのか不明であ
る。
,,,,しかもR値の計算根拠となる回折強度はその測定装置測定条件
補正の有無などによって様々な値が導かれる。そのため,どのような測
定条件等によって得られた回折強度比(R値)かを明示しなければ,何
,。,を除き何を残したかという境界を確定することができないすなわち
いかなる測定条件等を前提とした回折強度比(R値)かによってその技
術的範囲が変化するのである。
そうすると,本件補正により,以上のような追加的説明が明細書に記
載される必要があるのであって,そのような追加的説明を要すること自
体,新たな技術的事項を導入することにほかならない。
(ウ)本件補正により技術的範囲が変更されたことは,本件明細書において
実施例として記載されていた事項(後記()イのとおり,本件明細書に2
記載されている実施例は,いずれもR値の記載はないものの,すべてR
値1.4以上のものの実験結果である)のすべてが実施例でなくなっ。
たことからも明らかである。
実施例とは,当該発明の実施の形態を具体的に示したものであり,発
明の実施形態において特許出願人が当該発明を実施するために最良と思
うものが記載されるのであるから,これが除外されたということは,請
求項に係る発明の大きな部分を占めた部分が除外されたというべきであ
り,技術的範囲が大きく変更されたことになる。
しかも,原告は,出願経過において,本件補正により除外された実施
例の選択吸着率が公知技術と比べて優れていることを根拠として本件発
明の特許性を説明してきたのであるから,その意見書における説明自体
を根底から覆すことになる。
本件補正によって,実施例のすべてが除外されたのであるから,実施
例に裏付けられない発明となったのであり,新たな技術的事項が導入さ
れたことが明らかである。
(エ)原告は,本件補正に当たり,手続補足書(乙3の9)に沿えて実験成
績証明書A及びBを提出し,回折強度比(R値(それに関連する測定)
方法,測定条件なども記載されている)を含めた物性値の測定結果や。
製造方法,効果などを説明している。
すなわち,R値1.4以上のものを除いた部分の本件発明による経口
投与用吸着剤がその発明の効果を奏することが本件当初明細書に記載さ
れていないことを原告が認めていたからこそ,前記実験成績証明書2通
を提出して明細書の記載を追加したものである。
これは,本件補正によって,請求項に係る発明の成立性を裏付けるデ
ータを示す必要性(従来の実施例を交換する必要性)が生じたこと,す
なわち追加的説明が必要であることを端的に示すものであり,本件補正
によって,新たな技術的事項が導入されたことを原告が自認したものに
ほかならない。
(オ)原告は,別件特許に係る明細書においては,R値1.4以上のもので
なければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定を経てお
り,その明細書には,従来公知の経口投与用表面改質球状活性炭のR値
は1.4未満であり,1.4以上のものは見出されていなかったこと,
...本件特許出願人が14以上のものと14未満のものを比較すると1
4以上のものにつきβ-アミノイソ酪酸の吸着能が向上し,毒性物質の
選択吸着性が向上することを見出したこと,その選択吸着性が向上した
ことを示す実施例として表1,2が記載されている。
しかるに,本件発明においては,本件補正によってR値が1.4以上
のものを除くのであるから,R値が1.4未満のものでも,毒性物質の
選択吸着性などが向上することが示されなければならない。
本件補正前の発明では,実際の技術思想よりも広いクレームで記載さ
れていたため,R値には無関係に選択吸着性が向上するという技術思想
のはずであった。
ところが,構成要件Fを追加することで,R値が1.4以上であるこ
とを必須条件とする別件特許出願に係る発明と矛盾する内容となってし
まったため,なぜこれと同じ作用効果が奏するのかという点についての
技術的疑問が発生することになり,それに対して技術的説明を加える必
要が出てきた。もちろん,これに対して適当な理由を付けることはでき
るであろうが,このような説明をしなければならなくなったということ
は,本件当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術
的事項だけでは説明できない事項が発生したということであり,結局,
本件補正によって,新たな技術的事項が導入されたということになる。
()無効理由②(明細書の記載不備()―構成要件Fに関して)21
ア特許法36条4項1号違反(無効理由②-1)
本件明細書には,回折強度比(R値)に関する具体的な説明が一切存在
せず,R値を求めるために必要な回折強度の測定方法,測定条件(試料の
粉砕の程度や試料の厚さなど)についても一切記載されていない。また,
特定のR値(1.4未満)を有する球状活性炭を得るための炭化条件など
の製造条件についての説明も一切記載されていないから,本件発明を実施
するためにR値が1.4未満の球状活性炭を製造することができない。原
告は手続補足書とともに実験成績証明書2通を提出しており,この実験成
績証明書による補足がなければ,R値1.4以上のものを除いたものが具
体的には何も示されていないのである。
よって,本件明細書においては,本件発明を当業者が実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ特許法36条6項1号違反(無効理由②-2)
R値が1.4以上であることを要件とする別件特許の明細書(乙1の2
の6)の記載と本件明細書の記載はほとんど同一であり,別件特許出願の
明細書に記載された実施例1~5と,本件明細書に記載された実施例1~
,,,,,4及び参考例1とではその比表面積細孔容積平均粒子径全酸性基
全塩基性基,α-アミラーゼ残存量,DL-β-アミノイソ酪酸残存量,
選択吸着率が全く同じ値であり,同一物としか理解できない。
そして,別件特許の明細書の実施例1~5のR値は,すべて1.4以上
となっているから,本件明細書において実施例として具体的に開示されて
いるもののR値はすべて1.4以上のものということになる。
すなわち,構成要件Fが追加された結果,本件明細書に実施例として開
示されたものは本件発明の実施例ではなくなったのであり,そのため,本
件明細書においては,特許を受けようとする発明が記載されていないこと
になっていることは明らかである。
ウ特許法36条6項2号違反(無効理由②-3)
前記のとおり,回折強度は,試料の粉砕の程度などの試料の作成方法や
試料の厚さなどの測定条件によって変動するものであり,およそ物質の特
定において固定値を取り得ないものである。そして,本件明細書には,R
値を求めるための必要な回折強度の測定方法についての記載は全くなく,
また,本件特許出願時において,球状活性炭の回折強度の測定における試
料作成方法や測定条件が技術常識として確立していたとはいえなかった。
,,.すなわち本件明細書の記載や出願当時の技術常識からしてもR値1
,,4以上を除くという要件により具体的にどのような球状活性炭が含まれ
どのようなものが除かれるのかが分からず,本件発明は不明確であること
は明らかである。
()無効理由③(明細書の記載不備()―構成要件Dに関して)32
ア特許法36条4項1号違反(無効理由③-1)
本件明細書には,本件発明の実施例として記載されているのは「フェ,
ノール樹脂を炭素源とした球状活性炭(実施例1,2)のみであり「細」,
孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL/gあるいは0.
」,。06mL/gのものに限られそれ以外のものは一切記載されていない
また,本件明細書には,上記実施例のものを得る方法しか記載されてお
らず,細孔容積を0.25mL/g未満で0.06mL/gより大きくし
たものや0.04mL/gよりも小さくしたものをどのようにして得るこ
とができるのかについても,また,それらが本件発明の効果を奏するかに
ついても全く記載されていない。
さらに,イオン交換樹脂を炭素源とした球状活性炭については,その細
孔容積をどのようにして0.25mL/g未満にするかも,また,本件発
明の効果を奏するかについても全く記載されていない。
よって,本件明細書においては,本件発明を当業者が実施することがで
きる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ特許法36条6項1号違反(無効理由③-2)
前記のとおり,本件明細書には,本件発明の実施例として記載されてい
るのは「フェノール樹脂を炭素源とした球状活性炭(実施例1,2),」
のみであり「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL,
/gあるいは0.06mL/g」のものに限られ,それ以外のものは一切
記載されていない。
すなわち,本件明細書においては,構成要件D(細孔直径7.5~15
000nmの細孔容積が0.25mL/g未満)で特定された球状活性炭
のうち,わずかな範囲のものしか開示されていないのである。
よって,本件発明は,本件明細書において発明として記載していない範
,,囲についてまで特許を受けようとするものであり本件明細書においては
特許を受けようとする発明が記載されていないことは明らかである。
()無効理由④(進歩性の欠如)4
本件発明は,当業者が下記の公知文献(乙1の2の1~5・7)に記載さ
れた発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件特
許は無効とされるべきものである。

①特開平11-292770号公報(発明の名称「マトリックス形成亢
進抑制剤,出願人呉羽化学工業株式会社,公開日平成11年10月」
26日,乙1の2の1。以下「公知文献1」という)。
(「」,②特公昭61-1366号公報発明の名称球型活性炭の製造方法
出願人住友ベークライト株式会社,公開日昭和58年12月12日,
公告日昭和61年1月16日,乙1の2の2。以下「公知文献2」と
いう)。
③北川浩ほか「フェノール-ホルムアルデヒド樹脂の水蒸気賦活(工」
業化学雑誌73巻10号2100~2104頁,1970年〔昭和45
年,乙1の2の3。以下「公知文献3」という)〕。
「」(,④北川浩フェノール樹脂を原料とする活性炭の製造日本化学会誌
1972年〔昭和47年,No.6,1144~1150頁,乙1の〕
2の4。以下「公知文献4」という)。
⑤特開2002-308785号公報(発明の名称「経口投与用吸着
」,,,剤出願人呉羽化学工業株式会社公開日平成14年10月23日
乙1の2の5。以下「公知文献5」という)。
⑥特開平7-165407号公報(発明の名称「イオン交換体から作ら
れた活性炭小球体,出願人ハッソ・フォン・ブリュッヒャーほか,」
公開日平成7年6月27日,乙1の2の7。以下「公知文献6」とい
う)。
ア公知文献1記載の発明に,公知文献2又は公知文献3ないし5を組み合
わせることにより「フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1」を容易,
に想到し得たこと
,「,.(ア)公知文献1には有機合成高分子を原料として製造され直径が0
05~2mmであり,比表面積が500~2000㎡/gであり,細孔
半径100~75000オングストローム(細孔直径20~15000
nm)の空隙量が0.01~1ml/gである経口投与用の球形活性炭
を有効成分とする,腎疾患の治療剤若しくは予防剤」の発明が記載され
ている。
(イ)一致点
公知文献1に記載された発明と「フェノール樹脂を炭素源とする本件
発明1」とを対比すると,両者は,経口投与用の球状活性炭に関するも
のである点(構成要件E,G,腎疾患の治療剤若しくは予防剤である)
点(構成要件H)で,それぞれ共通し,球状活性炭の直径及び比表面積
(構成要件B,C)において重複する。
(ウ)相違点
a構成要件A
「フェノール樹脂を炭素源とする本件発明1」は,球状活性炭の炭
素源がフェノール樹脂に特定されているのに対し,公知文献1に記載
された発明は,球状活性炭の炭素源が有機合成高分子という上位概念
で特定されている点で一見相違する。
b構成要件D
本件発明1の球状活性炭は,細孔直径7.5~15000nmの細
孔容積が0.25mL/g未満(構成要件D)であると特定されてい
るが,公知文献1に記載された発明の球状活性炭は細孔半径100~
75000オングストローム(細孔直径20~15000nm)の空
隙量が0.01~1ml/gであると特定されている点で,文言上は
相違する。
しかしながら,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.
25mL/g未満であれば,これよりも狭い範囲の細孔直径20~1
5000nmの細孔容積は,必然的に0.25mL/g未満となる。
したがって,本件発明1の球状活性炭と公知文献1に記載された発
明の球状活性炭とは,構成要件Dの点において重複するものであり,
実質的な相違点とはいえない。
c構成要件F
本件発明1は「R値が1.4以上の球状活性炭を除く(構成要,」
件F)と特定されているが,公知文献1に記載された発明はこのよう
な特定はない。
しかしながら,構成要件Fは,単に,別件特許出願との重複部分を
除くために追加されたものであり,その特定自体に技術的な意義は見
出せず,実質的な相違点とはいえない。
(エ)構成要件Aの相違点に関する容易想到性
下記の公知文献によれば,公知文献1に記載された発明においてフェ
ノール樹脂を採用することは,当業者にとって容易に想到し得るもので
ある。
a公知文献2
公知文献1では,有機合成高分子を炭素源とする球状活性炭の具体
例として,公知文献2に記載の球状活性炭を引用している。そして,
公知文献2には,フェノール樹脂を炭素源とする球型活性炭の製造例
が具体的に示されている。
そうすると,公知文献1には,フェノール樹脂を炭素源とした球状
活性炭を製造することが実質的に記載されているのであり,公知文献
1に記載された発明において,公知文献2記載のフェノール樹脂を用
いることは,当業者が容易に想到し得たものである。
b公知文献3ないし5
公知文献3及び4の記載によれば,フェノール樹脂を原料として活
性炭を製造すれば,1000㎡/g以上の比表面積が得られること,
そして,細孔半径30オングストローム(細孔直径6nm)以下のミ
クロ孔が細孔の大部分を占める細孔構造となり,細孔半径が30オン
グストロームより大きい細孔の容積は,少なくとも0.1mL/g以
下となることが理解される。
また,公知文献5には,細孔直径20~15000nmの細孔容積
が大きくなればなるほど有益物質の吸着が起こりやすくなるため,有
益物質の吸着を少なくする観点からは,前記細孔容積は小さいほど好
ましいと記載されている。
したがって,有益物質の吸着を少なくするために,公知文献1に記
載された発明において,公知文献3及び4に記載されているようなフ
ェノール樹脂を炭素源として用いることは,当業者であれば容易に想
到し得たことである。
イ公知文献1に記載された発明に,公知文献5及び6を組み合わせること
により「イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1」が容易に想到し得,
たこと
(ア)一致点
公知文献1に記載された発明と「イオン交換樹脂を炭素源とする本件
発明1」とを対比すると,両者は,経口投与用の球状活性炭に関するも
のである点(構成要件E,G,腎疾患の治療剤若しくは予防剤である)
点(構成要件H)で,それぞれ共通し,球状活性炭の直径及び比表面積
(構成要件B,C)において重複する。
(イ)相違点
イオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1では,球状活性炭の炭素源
がイオン交換樹脂に特定されているのに対し,公知文献1に記載された
発明では,球状活性炭の炭素源が有機合成高分子という上位概念で特定
されている点で一見相違する(構成要件A。なお,構成要件D及びFの
点について実質的な相違点とはいえないことは,前記ア(ウ)b及びcで
述べたとおりである。。)
(ウ)相違点に関する容易想到性
公知文献6は,球状活性炭に関するものであり,イオン交換樹脂を炭
素源として球状活性炭を製造することにより,細孔直径10~30nm
のメソポアを主体とする細孔構造が得られることが記載されていること
から,ここに記載の球状活性炭も,細孔直径7.5~15000nmの
細孔容積が0.25mL/g未満である蓋然性が高い。
そして,公知文献5からは,有益物質の吸着量を低下させるためには
細孔直径20~15000nmの細孔容積が小さいほど好ましいことが
理解される。
そうすると,有益物質の吸着量を低下させる目的で,細孔直径が小さ
い細孔を主体とする細孔構造を得るために,公知文献1に記載された発
明において,公知文献6に記載されるようなイオン交換樹脂を炭素源と
して用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。
ウ本件発明2は,公知文献1に記載された発明に公知文献2ないし6を組
み合わせることによって,当業者が容易に想到し得たものであること
(ア)本件発明2の構成要件AないしHに関しては,上記ア及びイで述べた
ことを引用する。
(イ)公知文献1に記載された発明は,構成要件I「全塩基性基が0.40
meq/g以上」に関する記載がない点においても本件発明2と相違す
る。しかしながら,この点に関しては,公知文献5に,球状活性炭の全
塩基性基を0.20~0.70meq/gとすることにより有毒物質の
吸着能を向上させることが記載されている。
したがって,公知文献1に記載された発明において,有毒物質の吸着
能を向上させるために,球状活性炭の全塩基性基を0.40meq/g
,()以上の範囲とすることは公知文献5及び公知文献2ないし4及び6
の記載に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
〔原告の主張〕
()無効理由①(補正による新規事項の追加)について1
本件当初明細書に記載された本件発明の最大の特徴は,炭素源を出発材料
として,従前用いられていたピッチに代えてフェノール樹脂又はイオン交換
樹脂を使用して調製した経口投与用吸着剤が優れた選択吸着率を有すること
を見出した点にある。そして,本件補正は「R値が1.4以上である球状,
活性炭を除く」旨の補正であり,この補正は,同じ出願人により同日に出願
された別件特許との重なりを解消するために,別件特許に係る発明として開
示された「R値が1.4以上である球状活性炭」を除外するものであって,
本件発明の技術情報とは無関係であり,何ら新たな技術事項を付加するもの
ではない。
これを知的財産高等裁判所特別部平成20年5月30日判決の判断基準に
照らすと,経口投与用吸着剤の炭素源(出発材料)として熱硬化性樹脂を使
用したという本件当初明細書に記載された本件発明の最大の特徴は,本件補
正後も全く同じであり,また,優れた選択吸着率を獲得するに至ったという
本件当初明細書に記載された本件発明の効果もまた同じである。
したがって,本件補正は,本件当初明細書に開示された本件発明に関する
技術事項に新たな技術事項を付加したものではなく,特許法17条の2第3
項に違反するものでないことは明らかである。
()無効理由②(明細書の記載不備()―構成要件Fに関して)について21
ア特許法36条4項1号違反(無効理由②-1)の主張について
,,,被告は本件明細書にR値を求めるために必要な回折強度の測定方法
測定条件についての記載がない旨を主張する。しかしながら,前記のとお
り,反射式デフラクトメーター法を採用し,X線の線源としてCuKα線
を用いることは当業者にとって自明のことであり,その他の測定条件は,
当業者に委ねられるものの,その条件によってR値が変化することはない
ので,回折強度の測定方法,測定条件について記載がないことは何ら問題
とならない。
また,被告は,本件明細書に,特定のR値を有する球状活性炭を得るた
めの製造条件についての説明が記載されていないとも主張する。しかしな
がら,活性炭において1.4付近のR値は,本件特許の出願時の常法に沿
って製造された活性炭が普通に有している物性値であり,R値が1.4未
満の活性炭を製造するために,R値が1.4以上の活性炭の製造方法とは
基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。そもそも,構成要
件Fは,別件特許出願との重複部分を除外するための除くクレームであっ
て,何ら技術的な意義を有するものではないのであるから,特許法36条
4項1号違反の問題は生じない。
さらに,被告は,実験成績証明書を実施可能要件に関する不備を補うた
めに提出したかのごとく主張する。しかしながら,実験成績証明書は,除
くクレームにより,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該
請求項に記載した事項から除外したものであることを具体的に実験結果を
示すことにより明らかにしたものであって,その実験に用いた原料,処理
手段等のいずれも本件当初明細書の記載の範囲内のものであった。
イ特許法36条6項1号違反(無効理由②-2)の主張について
被告は,手続補正の結果,本件明細書に具体的な実施例として開示され
ていたものがすべて本件発明の実施例ではなくなってしまったと主張す
る。
しかしながら,本件発明の場合,構成要件Fは,本件発明の技術的思想
として1つのまとまりのある概念として把握される発明につき,権利請求
部分と権利放棄部分との境界を定めるものにすぎないから,本件当初明細
書の発明の詳細な説明の欄の記載によって,1つのまとまりのある概念と
して把握される発明につき,全体として本件当初明細書に開示ないし公開
されているのである。
そして,活性炭において,1.4付近のR値は,本件特許の出願時の常
,.法に沿って製造された活性炭が普通に有している物性値でありR値が1
4未満の活性炭を製造するために,R値が1.4以上の活性炭の製造方法
とは基本的に異なる特別の技法を必要とするものではない。
,.,そうすると実施例がたまたまR値14以上のものに属するとはいえ
当該部分は,技術的思想として1つのまとまりのある概念として把握され
る発明領域に含まれるものであって,当業者がこれら実施例を含む明細書
の発明の詳細な説明の欄を参酌すれば,この領域に含まれるR値1.4未
,,満の部分についても所望の結果が得られるものと認識し得るのであって
サポート要件が満足されていることは明らかである。
ウ特許法36条6項2号違反(無効理由②-3)の主張について
被告は,本件明細書にR値についての具体的な説明がないと主張する。
しかしながら,R値は,本件特許の請求項1において明確に定義されて
おり,当業者は,R値の定義を明確に理解することができる。
また,被告は,本件明細書に回折強度の測定方法の記載がないこと,R
値が変動するものであり固有値を取り得ないものであること,試料の作成
方法や測定条件は本件特許出願時の技術常識ではなかったことを主張す
る。しかしながら,これらの主張に理由がないことは,前記のとおりであ
る。
()無効理由③(明細書の記載不備()―構成要件Dに関して)について32
ア被告は,本件明細書に実施例として記載されているのは,フェノール樹
脂を炭素源とした球状活性炭のみであり,細孔直径7.5~15000n
mの細孔容積0.04mL/gあるいは0.06mL/gのものに限られ
ることが特許法36条4項1号,同条6項1号に違反すると主張する。
イしかしながら,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積の制御は,
本件当初明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,当業
者が容易に実施することのできるものである。
すなわち,細孔直径7.5~15000nmの細孔は,メソ孔又はマク
ロ孔と呼ばれる細孔であり,これらの細孔の容積は,本件特許の出願当時
(,の技術常識に基づいて容易に制御することができる甲18の2の1~4
乙1の2の3・4。)
なお,イオン交換樹脂を炭素源として使用する場合に関しては,本件明
細書の参考例1において,細孔容積が0.42mL/gの場合の例が記載
されており,さらに前記の実験成績証明書Aにおいて,0.0891mL
/gの場合の例が記載されており,フェノール樹脂の場合と同様に,細孔
容積が制御可能であることが分かる。
さらに,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積を制御することが
容易であることを具体的なデータによって示したものが,2007年(平
成19年)8月10日付け実験成績証明書(甲18の2の5)である。こ
れが示すように,参考例1において,フェノール樹脂を炭素源として球状
活性炭を調製し,得られた球状活性炭について各種の物性を測定した。そ
の結果,得られた球状活性炭は,細孔直径7.5~15000nmの細孔
容積が0.08mL/gのものであり,その他,本件特許の請求項1で規
定する直径及びラングミュアの吸着式により求められる比表面積の要件を
それぞれ満足していた。また,R値は1.34(1.4未満)であり,選
択吸着率は2.9であった。
以上のように,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積は,本件明
細書の記載及び本件特許の出願時の常法を利用して種々に制御することが
可能であり,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が例えば0.0
8mL/gである球状活性炭は,当業者が常法に従って製造することが可
能であり,特許法36条4項1号に違反しない。
ウ以上のように,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積の制御は,
本件当初明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて当業者
が容易に実施することができるものであるから,本件明細書には,本件発
明が記載されていることは明らかである。したがって,特許法36条6項
1号違反も存在しない。
()無効理由④(進歩性の欠如)について4
アフェノール樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載
された発明と公知文献2とを組み合わせることによる容易想到性の主張に
ついて
(ア)確かに,公知文献1においては,活性炭を有効成分とする腎臓等の疾
患の治療又は予防剤が開示されている。そして,球状活性炭の原料とし
て「オガ屑,石炭,ヤシ殻,石油系若しくは石炭系の各種ピッチ類又,
は有機合成高分子」の6種が列挙されている。
しかしながら,これらの原料は,一般的な活性炭の原料である上に,
本件特許の出願前に多孔性球状炭素質物質からなる経口投与用吸着剤と
しては,ピッチを原料とする吸着剤のみが実施されていたこと,及び公
知文献1の実施例が石油系ピッチのみである事実を考慮すると,それ以
外の列挙された原料は,経口投与用吸着剤としての適用可能性を全く考
慮せず,また,医療用としての適性も無視して,吸着剤としての広範な
用途に対する一般的な活性炭の原料を単に列挙したものにすぎないこと
は,当業者に自明である。
公知文献1で球状活性炭の原料として有機合成高分子が列挙されてい
,,るからといってそれが医療用としての吸着適性を実際に備えているか
さらには経口投与用吸着剤としての適性を実際に備えているかについて
は,当業者といえども,全く予測することができないものである。
さらに,本件発明では,単なる吸着特性のみでなく,適切な選択吸着
性能を示すこと,また,酸化及び還元処理の実施前であっても優れた吸
着特性を示すことが重要な作用効果とされており,上記有機合成高分子
を原料とする球状活性炭がこのような特性を示すか否かは,当業者とい
えども,予測することができないことであった。
したがって,公知文献1から,本件発明である有機合成高分子を炭素
源とする球状活性炭からなる経口投与用吸着剤に想到することは,当業
者といえども決して容易なことではない。
(イ)原告は,公知文献1の記載から球状活性炭の原料として公知文献2に
記載のフェノール樹脂を用いることは,当業者が容易に想到し得たこと
であると主張する。
しかしながら,公知文献1において,フェノール樹脂の上位概念であ
る有機合成高分子は,6つの選択肢の1つにすぎず,しかも,有機合成
高分子は,その選択肢の中でも選択される動機付けが低いものである。
また,公知文献2において,確かにフェノール樹脂が記載されている
ものの,これも14種類の樹脂のうちの1つの選択肢として記載されて
いるにすぎない。
イフェノール樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載
された発明と公知文献3ないし5とを組み合わせることによる容易想到性
の主張について
(ア)公知文献3は,吸着剤として一般に使用される活性炭に関するもので
あり,特別な用途に使用する活性炭に関するものではなく,医療用の活
性炭や,経口投与用吸着剤として使用する活性炭については,全く開示
がなく,それを示唆する記載もない。
また,公知文献3は,粉砕活性炭に関するものであるところ,このよ
うな粉砕活性炭の物性値を,本件発明で用いる球状活性炭の物性値と比
。,,較することは無意味であるなぜなら本件発明で用いる球状活性炭は
球状であることが効果との関係で重要な意味を有しているからである。
(イ)公知文献4は,廃棄物としてのフェノール樹脂を活性炭の原料として
使用することを視野に入れた研究報告であり,その用途は,市販の水処
理用活性炭を挙げている程度であり,同文献中には医療用の活性炭や,
経口投与用吸着剤として使用する活性炭については全く開示がなく,示
唆もない。
また,公知文献4に記載されている活性炭も,粉砕活性炭であり,球
状活性炭に関する記載はない。
(ウ)公知文献5は,原告の先行特許に関するものであるが,これはピッチ
を炭素源とする球状活性炭に関するものであり,本件発明のフェノール
樹脂を炭素源として製造した球状活性炭については開示も示唆もない。
ウイオン交換樹脂を炭素源とする本件発明1について,公知文献1に記載
された発明と公知文献5及び6とを組み合わせることによる容易想到性の
主張について
公知文献6は,一般的な吸着剤として使用される活性炭に関するもので
あり,医療用,特に経口投与用吸着剤として使用する活性炭については開
示も示唆もない。
エ本件発明2について,公知文献1に記載された発明と公知文献2ないし
6とを組み合わせることによる容易想到性の主張について
,,,本件発明2に係る請求項2は請求項1の従属項であり前記のとおり
本件発明1が進歩性を有するのであるから,本件発明2も当然に進歩性を
有している。
4争点4(今後,構成要件Dを充足する被告製品が製造,販売される可能性が
高いか(本件特許権の侵害のおそれの有無))
〔原告の主張〕
,,仕様変更後被告製品の少なくとも一部の製品は構成要件Dを充足しており
今後も,構成要件Dを充足する製品が製造,販売される可能性が高い。
()前記のとおり,縮分操作を経ない原告従業員作成の実験報告書(甲51,1
53)では,合計36件の測定値が得られ,測定値は0.193~0.45
,.。,7の範囲に分布し6件の細孔容積が025mL/g未満であったまた
(,縮分操作を経た島津テクノリサーチによる測定分析結果報告書乙15の1
23の1,24,甲59の1)では,合計85件の測定値が得られ,測定値
は0.2428~0.3846の範囲に分布し,1件の細孔容積が0.25
mL/g未満であった。
縮分操作を経た分析試料は,どの点から見ても母集団の特性を持つ代表と
なる(乙32の468頁)のであるから,少なくとも,縮分操作を経て,細
孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.2428)が得られた被告製
品1-2のロット番号8DAに,構成要件Dを充足する製品が含まれている
ことは疑う余地がない。
()これに対し,被告は,ロット番号8DAにおける細孔容積が0.25mL2
/g未満の測定値(0.2428)につき,たまたま生じた測定誤差の範囲
内であると主張する。
,,しかしながらロット番号8DAについての縮分操作を経た測定値9件は
0.2428の測定値を除いたとしても,0.2587~0.3478とい
う広い範囲に分布しており,このような大きなばらつきを示していることか
らすれば,細孔容積が0.25mL/g未満である製品が含まれていたとし
ても何ら不自然ではない。このような大きなばらつきの中に0.2428と
いう測定値を置いてみれば,その測定値が決して誤差ではなく,信用するこ
とができるものであることは明らかである。
()また,被告製品1-2のロット番号8FAについては,縮分操作を経ない3
で,細孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.209)が得られてい
る。縮分操作を経た測定結果は,0.2572~0.2937という,0.
25に近い範囲で分布しており,縮分操作を経ない測定値として0.209
の他に0.251という測定値が得られていることからすれば,細孔容積が
0.25mL/g未満である製品が含まれている可能性は相当程度高いと考
えられる。
()さらに,被告製品2-2のロット番号7GAについては,縮分操作を経な4
,,.(.,いで5件中3件細孔容積が025mL/g未満の測定値0193
.,.)。,02290234が得られている縮分操作を経た測定値としては
0.2625~0.3175という幅のある測定値が得られており,縮分操
作を経ない測定値のうち,細孔容積が0.25mL/g未満となった測定値
の割合が高い(60%)ことからすれば,細孔容積が0.25mL/g未満
である製品が含まれている可能性は相当程度高いと考えられる。
()これらは,限られたサンプルの測定結果から,代表的なものを取り出した5
ものであるが,このように限られたサンプルについての縮分操作を経た測定
結果ですら,細孔容積が0.25mL/g未満の測定値(0.2428)が
得られ,かつ,0.2428~0.3846と相当幅の広い範囲に分布して
いることからすれば,被告は,細孔容積をコントロールする意思がないか,
あるいは,コントロールする製造能力がないかのいずれかであるといわざる
。,,,.を得ない現実に製造販売されている被告製品の中には細孔容積が0
25mL/g未満の製品が多数存在していることが容易に推認される。
このことに加え,被告が仕様変更の具体的内容を明らかにしていないこと
も併せて考慮すれば,被告が今後,仕様変更を元に戻し,構成要件Dを充足
する被告製品を製造,販売する可能性は高いといわざるを得ない。
()前記のとおり,仕様変更後被告製品も構成要件Dを充足するので,仕様変6
(()更前及び仕様変更後の被告製品のいずれについても別紙被告製品目録甲
),,で特定される被告製品その製造販売の差止めが認められるべきであるが
仮に,仕様変更後被告製品が構成要件Dを充足しないとしても,上記のとお
り,仕様変更前の被告製品の製造,販売を再開する可能性は高く,また,既
に全部が販売されて在庫が存在しない点について立証がないのであるから,
その差止めが認められるべきであり,別紙被告製品目録(乙)で特定される
被告製品(同目録記載1(1)及び2(1)のロット番号で特定されるもの
は仕様変更前被告製品の在庫であり,同目録記載1(2)及び2(2)は,
今後,仕様を戻して製造されるおそれのある被告製品を指す)の製造,販。
売の差止めを予備的に請求する。
〔被告の主張〕
,,()原告は仕様変更後被告製品が侵害品と非侵害品の混合物であると主張し1
被告が被告製品の製造をコントロールすることができていないか,又は意図
的に混合しているのであり,いずれ仕様変更前被告製品に戻る可能性を否定
することはできないなどと主張する。
しかしながら,特定細孔直径の細孔容積を制御することは当業者において
適宜なし得る事項であり(乙28添付の審決書43頁参照,被告もそのよ)
うにして制御して0.25mL/g以上になるように意図的に仕様変更した
。,。,ものである原告は仕様変更後被告製品を混合品などと主張するしかし
非侵害品と侵害品をわざわざ作成してそれを混合するなどというのは,原告
の誤った仮定に基づくものである。
()原告は,仕様変更前被告製品について差止請求を認容すべきと主張する。2
しかしながら,被告は,被告製品1-1については平成19年4月,被告製
品2-1については平成18年6月を最後に製造を中止し,販売については
平成20年3月に完了しており,それ以降は,製造販売を完全に中止してい
る。
()原告は,既に全部が販売されて在庫が存在しない点について立証がないと3
主張する。しかしながら,被告は,仕様変更後被告製品を現に製造販売して
おり,仕様変更前被告製品をあえて製造販売する必要性のないことは明らか
である。
,(),()また被告製品の使用期限は3年であり甲5別紙被告製品目録乙
記載1(1)の各ロット番号が付されたものは,既に使用期限が到来してい
るか,間もなく使用期限が到来するものであり,在庫品が存在していたとし
ても,廃棄処分をせざるを得ないのであるから,販売の差止めの必要性はな
い。
(())5争点5補正後の発明の内容を通知する必要があるか補償金請求に関し
〔原告の主張〕
,,()原告は本件特許に係る出願が国際公開された後の平成16年6月14日1
被告に対して,発明の内容を記載した通知書(本件通知書)を発送し,本件
通知書は,同年6月15日に被告に到達した。被告は,その後の平成16年
9月に被告製品の製造,販売を開始し,現在に至るまで継続しているため,
原告は被告に対し本件通知書の到達日以降本件特許権の設定登録日平,,,(
),成18年8月4日の前日までに被告によって販売された被告製品について
特許法184条の10第1項に基づく補償金支払請求権を有する。
,,()被告は原告が被告に送付した本件通知書に記載された特許出願の内容が2
本件発明の内容と異なるとして,補償金請求の要件を欠くと主張する。
特許出願人が出願公開後に第三者に対して特許出願に係る発明の内容を記
載した書面を提示して警告をするなどして,第三者が上記出願公開がされた
特許出願に係る発明の内容を知った後に,補正によって特許請求の範囲が補
正された場合において,その補正が元の特許請求の範囲を拡張,変更するも
のであって,第三者の実施している物品が補正前の特許請求の範囲の記載に
よれば発明の技術的範囲に属しなかったのに,補正後の特許請求の範囲の記
載によれば発明の技術的範囲に属することとなったときは,出願人が第三者
に対して特許法65条又は184条の10に基づく補償金支払請求をするた
めには,上記補正後に改めて出願人が第三者に対して所定の警告をするなど
して,第三者が補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを要する。これに
対し,その補正が,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の
範囲内において補正前の特許請求の範囲を減縮するものであって,第三者の
実施している物品が補正の前後を通じて発明の技術的範囲に属するときは,
上記補正の後に再度の警告等により第三者が補正後の特許請求の範囲の内容
を知ることを要しないと解される(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷
判決・民集42巻6号489頁参照。)
これを本件についてみると,原告が行った特許法184条の10所定の警
告(本件通知書)において記載した国際特許出願に係る特許請求の範囲は,
以下のとおりである(下記請求項4のうち請求項1を引用する発明を「本件
原発明4-1」といい,請求項2を引用する発明を「本件原発明4-2」と
いい,これらをまとめて「本件原発明」という。。)
【請求項1】
,.,熱硬化性樹脂を炭素源として製造され直径が001~1mmであり
そしてラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000㎡/g
以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤。
【請求項2】
全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性炭からなる請求項1に
記載の経口投与用吸着剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とす
る,腎疾患治療又は予防剤。
本件原発明を構成要件に分説し,本件発明の構成要件と対比すると下記の
表のとおりである。
本件発明1本件原発明4-1
Aフェノール樹脂又はイオン交換A’熱硬化性樹脂を炭素源として製
樹脂を炭素源として製造され,造され,
.,.,B直径が001~1mmでありB直径が001~1mmであり
Cラングミュアの吸着式により求Cラングミュアの吸着式により求
められる比表面積が1000㎡/gめられる比表面積が1000㎡/g
以上であり,そして以上である
D細孔直径7.5~15000n―
mの細孔容積が0.25mL/g未
満である
E球状活性炭からなるが,E球状活性炭からなることを特徴
とする,
F但し,式(1:R=(I-―)15
I)/(I-I)(1)352435
〔式中,Iは,X線回折法による15
回折角(2θ)が15°における回
折強度であり,Iは,X線回折法35
による回折角(2θ)が35°にお
ける回折強度であり,Iは,X線24
回折法による回折角(2θ)が24
°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が
.,14以上である球状活性炭を除く
ことを特徴とする,
G経口投与用吸着剤を有効成分とG経口投与用吸着剤を有効成分と
する,する,
H腎疾患治療又は予防剤H腎疾患治療又は予防剤
本件発明2本件原発明4-2
Aフェノール樹脂又はイオン交換A’熱硬化性樹脂を炭素源として製
樹脂を炭素源として製造され,造され,
.,.,B直径が001~1mmでありB直径が001~1mmであり
Cラングミュアの吸着式により求Cラングミュアの吸着式により求
められる比表面積が1000㎡/gめられる比表面積が1000㎡/g
以上であり,そして以上であり
D細孔直径7.5~15000n―
mの細孔容積が0.25mL/g未
満であり
I全塩基性基が0.40meq/I全塩基性基が0.40meq/
g以上のg以上の
E球状活性炭からなるが,E球状活性炭からなることを特徴
とする,
F但し,式(1:R=(I-―)15
I)/(I-I)(1)352435
〔式中,Iは,X線回折法による15
回折角(2θ)が15°における回
折強度であり,Iは,X線回折法35
による回折角(2θ)が35°にお
ける回折強度であり,Iは,X線24
回折法による回折角(2θ)が24
°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が
.,14以上である球状活性炭を除く
ことを特徴とする,
,G経口投与用吸着剤を有効成分とG経口投与用吸着剤を成分とする
する,
H腎疾患治療又は予防剤H腎疾患治療又は予防剤
上の表のとおり,本件原発明は,本件発明と構成要件Aにおいて異なり,
構成要件D及びFを欠くものである。そして,本件原発明の構成要件A’中
の熱硬化性樹脂については本件原発明の国際特許出願に係る明細書乙「」,(
2の2)において「出発材料として用いる前記の熱硬化性樹脂として,具,
体的には,フェノール樹脂(中略)を用いることができる(7頁15行。」
目「また,前記の熱硬化性樹脂として,イオン交換樹脂を用いることも),
できる(7頁22行目)と記載されているから,本件発明の構成要件A。」
は,本件原発明の構成要件A’を願書に最初に添付した明細書に記載した事
項の範囲内において減縮したものである。
,,’,このように原告が行った補正は本件原発明の構成要件Aを減縮して
本件発明の構成要件Aとし,構成要件D及びFによる限定を加えたものであ
り,補正前の特許請求の範囲を願書に最初に添付した明細書に記載した事項
の範囲内において減縮するものである。そして,被告製品が本件発明の各構
成要件を充足するのと同一の理由により,被告製品は,本件原発明の各構成
要件を充足し,本件原発明の技術的範囲に属するのであって,補正の前後を
通じて発明の技術的範囲に属するものである。
()したがって,原告が本件補償金請求権を行使するためには,補正の後に再3
度の警告等により被告において補正後の特許請求の範囲の内容を知ることを
要しないことは,最高裁判例により明らかである。
〔被告の主張〕
(。)被告が原告から平成16年6月14日付け通知書甲11の1本件通知書
の送付を受けたことは認める。
しかしながら,本件通知書の受領後に,数度の補正を経た平成18年6月1
6日付け手続補正書(乙3の11)によって,現在の本件発明の内容に変更さ
れている。そして,原告は,前記補正によって変更された本件発明について,
被告に通知していないため,補償金支払請求の要件を欠いている。
6争点6(補償金の額)
〔原告の主張〕
平成16年9月から本件特許権の設定登録日の前日である平成18年8月3
日までの被告製品の販売高は2795万8285円と推定される。
,,。また被告製品に係る本件特許権の実施料率は販売価格の5%を下らない
よって,特許法184条の10第1項に基づく補償金の額は139万791
4円となる。
〔被告の主張〕
平成16年9月から平成18年8月3日までの被告製品の販売高が2795
万8285円であるとの原告の主張は争う。この期間の被告製品の売上高は,
合計1891万5000円である。
被告製品に係る本件特許権の実施料率が販売価格の5%を下らない旨の主張
は争う。
7争点7(不法行為に基づく損害賠償の額)
〔原告の主張〕
()特許法102条2項が適用されるべきであること1
ア原告は,本件発明の実施品を製造・販売していない。しかしながら,原
告は,平成3年12月からクレメジンカプセル200を,平成12年7月
(,「」。),からクレメジン細粒以下これらをまとめて原告製品というを
それぞれ現在に至るまで製造販売しており,これらの原告製品は,被告製
品の競合品であるから,特許法102条2項(損害額の推定)が適用され
るべきである。
イ権利者が自ら権利者製品の製造・販売を全く行っていない場合には,逸
失利益は発生していないから,特許法102条2項は適用されない。これ
に対し,権利者が特許発明の実施品とはいえないものの,侵害品の競合品
を製造・販売している場合に,同項が適用されるかどうかについては,学
,。説は分かれており先例となるべき裁判例もあるとは言い難い状況である
もっとも,下記のとおり,本件においては,被告らによる被告製品の製
造・販売がなければ,原告は,その分,原告製品を製造・販売することが
できたのであり,逸失利益相当の損害が発生したことは明らかである。
,,,すなわち原告製品及び被告製品はいずれも医療用医薬品であるから
市場における需要が所与のものとして一定程度存在しており,同種の製品
が登場したからといって市場が拡大するわけではない。さらに,原告製品
及び被告製品は,先発医薬品と後発医薬品の関係にある。このような状況
において,被告らは,原告製品の後発医薬品であると称して被告製品を製
造・販売しているのであるから,原告製品と被告製品は市場を完全に奪い
合う関係にある。現実に医師により経口投与用吸着剤が処方される場合に
,,おいて仮に後発医薬品と称する被告製品が存在しなかったからといって
何も処方しないという選択肢はあり得ない。そうすると,原告製品と被告
製品は医療用医薬品市場において完全に競合していることは明らかであ
り,後発医薬品と称する被告らによる被告製品の製造・販売によって,先
発医薬品である原告製品の製造・販売が減少し,原告製品の製造・販売に
,。,よって得られたはずの利益が失われたことは疑う余地がないすなわち
特許法102条2項の基礎にある,侵害者が侵害品の販売等により一定額
の利益を上げている場合には,権利者も同額の利益を上げられたはずであ
るという経験則が,本件事案では認められるのである。
ウ現実には,特許を利用した事業戦略として,構成要件の一部を異にする
複数の特許出願を行い,又は,構成要件の一部を異にする複数のクレーム
を設定した特許出願を行うなどの方法により,一定の範囲の技術に関して
特許権を取得するものの,取得した特許権のすべてに係る発明を実施する
のではなく,その一部についてのみ実施することは,通常の特許戦略であ
。,,,る特に医療用医薬品に関する特許の場合には関連する複数の特許権
複数のクレームに応じてそれぞれ臨床試験を行った上で医薬品製造承認申
請を行い,それぞれに対応した医療用医薬品の製造承認を得て製造・販売
を行うことは考えられない。それにもかかわらず,そのような非現実的な
行動をとらなければ,権利者が実際に選択した医療用医薬品に対応する特
許権又はクレーム以外の特許権又はクレームについては特許法102条2
項の適用を受けられないとすると,侵害者を不当に利する結果となり,発
明の保護が到底図れないことは明らかである。
()損害の額について2
ア被告が受けた利益の額
市場動向等によれば,被告製品の売上高は,平成18年8月4日から同
年12月31日までの間については3000万円を,平成19年1月1日
から同年12月31日までの間については1億7500万円を,平成20
年1月1日から同年10月31日までの間については1億8600万円を
それぞれ下らないものと推認される。
そうすると,平成18年8月4日から平成20年10月31日までの間
の被告製品の売上高は,3億9100万円を下らない。
上記被告製品の売上高に占める被告の利益の額の割合は,被告の親会社
に当たる日医工株式会社の第44期(平成19年12月1日から平成20
年11月30日まで)有価証券報告書に記載された連結損益計算書(甲6
1)には,売上総利益の売上高に占める割合が48.3%である旨の記載
があることからすれば,30%を下らないものと推認される。
そうすると,被告の侵害行為により,被告が受けた利益の額は,下記の
計算式のとおり,1億1730万円を下らない。
(計算式)
3億9100万円×0.3=1億1730万円
イ弁護士等費用
原告は,被告による本件特許権侵害行為のため,本件訴訟の提起を余儀
なくされた。本件事案の内容,性質,被告による訴訟追行の状況等にかん
がみれば,本件特許権侵害行為の差止め,被告製品の廃棄及び損害賠償を
得るために原告が要した弁護士等費用のうち,本件特許権侵害行為と相当
因果関係のある損害は,1173万円を下らない。
ウ損害額合計
したがって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,1億290
3万円の損害賠償義務を負う。
()経費に関する被告の主張については,いずれも争う。3
被告が控除すべきであるとする中間体加工賃,篩化加工賃及び充填包装加
工賃の「賃」という用語が,人件費を含むものとして用いられているとすれ
ば,人件費に該当する部分は,被告が被告製品を販売しなかった場合に支払
を免れた性質のものとは認められず,これを被告製品の売上のために追加的
に要した費用として控除することはできないというべきである。
また,販売管理費や開発費を控除すべきとする主張についても,それらの
費目が製造又は販売に直接必要な変動費,個別固定費に該当することについ
,。ては何ら主張立証されておらず控除することはできないというべきである
()寄与度考慮による減額に関する被告の主張について4
寄与度考慮による減額が認められるのは,侵害品全体の販売利益を権利者
の損害と推定して,権利者にその権利行使を認めることは,権利者に過大な
保護を与えることになって相当ではないからである。すなわち,特許法10
2条2項において「侵害者がその侵害の行為により一定額の利益を受けて,
いること」が推定の前提とされたのは,侵害者が侵害品の販売等により一定
額の利益を上げている場合には,権利者も同額の利益を上げられたはずであ
るという経験則が存在するとされていることによるものであり,寄与度減額
すべき場合とは,侵害者の侵害行為がなかったとすれば,権利者が侵害品の
製造販売数量と同数の権利者製品を製造販売することができていたとはいえ
ず,上記経験則がそのまま妥当するとはいえない場合である。
,,,本件では原告製品と被告製品は先発医薬品と後発医薬品の関係にあり
後発医薬品と称する被告製品の製造販売によって,先発医薬品である原告製
品の製造販売が減少し,原告製品の製造販売によって得られるはずの利益が
失われたことは疑う余地がなく,上記経験則がそのまま妥当することは明ら
かである。
〔被告の主張〕
()特許法102条2項が適用されないこと1
ア原告は,本件発明の実施をしていないから,被告の行為によって本件発
明の実施を妨げられたことにより被る損害が原告に発生することはあり得
ない。
よって,本件では,特許法102条2項が適用される余地はない。
イ原告は,原告製品と被告製品が競合品であることを前提として主張して
いるが,両者は競合品ではなく,先発医薬品と後発医薬品として互いに棲
み分けているものである。仮に,競合品であれば,薬価の低い被告製品が
原告製品の販売を席捲するはずであるが,現実は全く異なる。一般に後発
医薬品に対する評価は未だ確定しているとはいえず,後発医薬品の値段が
安いと分かっていても,あえて値段の高い先発医薬品を選択する医師,患
者も少なくない。そのため,被告製品の市場全体におけるシェアは1%程
度しかない。
つまり,価格面の長所だけでは割り切れない別の要素を考慮して,先発
医薬品が選択されているのであり,すなわち,原告製品と被告製品は市場
において競合していないということである。
()仕様変更前被告製品の製造販売によって被告が得た利益2
ア被告製品1-1については,1包は2gで,1箱は84包であるので,
1箱は168gであるところ,薬価は,1g当たり106.2円,仕切値
,,。は薬価の80%であるから1箱当たりの売価は1万4273円である
また,出荷数は,9896箱である。
そして,1箱当たり,原材料費,加工費(中間体加工賃,篩化加工賃及
び充填包装加工賃)及び試験費として合計5895円,販売管理費として
3854円の経費がかかっており,これらの経費を売上から控除すべきで
ある。
そうすると,被告が被告製品1-1の販売によって得た利益は,下記計
算式のとおり,4476万9000円(千円未満切捨て)となる。
(計算式)
(万円-円-円)×箱=万円1427358953854989644769504
イ被告製品2-1については,1箱は588カプセルであり,薬価は,1
カプセル当たり30.5円,仕切値は薬価の80%であるから,1箱当た
りの売価は,1万4347円である。また,出荷数は1411箱である。
そして,1箱当たり,原材料費,加工費(中間体加工賃,篩化加工賃及
び充填包装加工賃)及び試験費として合計8562円,販売管理費として
3874円の経費がかかっており,これらの経費を売上から控除すべきで
ある。
そうすると,被告が被告製品2-1の販売によって得た利益は,下記計
算式のとおり,269万6000円(千円未満切捨て)となる。
(計算式)
(万円-円-円)×箱=万円143478562387414112696421
ウ開発費の控除について
被告製品は,原告製品と同等な後発医薬品として,厚生労働省に対して
その製造承認申請をし,その承認を得た医薬品である。
被告は,先発医薬品の基礎となる特許(乙4)の有効期間が満了した段
階で製造販売を開始するため,その期間満了を見越して,販売開始の数年
前から準備を開始している。準備期間中においては,原材料樹脂の選定,
試作品(球形吸着炭)の製作,試作品の各種試験などの試行錯誤を経て,
規格定立を行った。また,製造承認申請に必要な生物学的同等性試験,安
定性試験などを経た上で,申請に至った。この間,調査,開発に要する人
件費,交通費,通信費,試験委託費用,申請費用などを要している。
さらに,実際の製造段階に至っては,製造に要する工場設備の整備,充
填包装に要する充填機の整備などの費用も要している。
先発医薬品の開発に比較すれば少額であることはもちろんであるが,開
発経費などを全く要さないような,例えば,他人の商品形態を模倣した製
品を製造販売したという事案などとは全く異なるのである。
これらに要した人件費,外注費その他費用を合計すれば少なく見積もっ
ても7000万円は下らず,被告製品1-1,被告製品2-1の利益率算
定に際しては,これらも当然考慮されなければならない。
仮に,被告製品の販売を現段階で完全に停止しなければならないとした
,。場合はこれらの開発費用はすべて経費として控除されなければならない
そうすると,被告は,被告製品の製造販売によって利益をほとんど得てい
ないことになる。
もっとも,被告は,被告製品1-2,同2-2に仕様変更したため,そ
の製造販売の停止の必要はないと判断されるものと考えられる。今後も,
その製造販売を継続することを前提に,被告製品の販売期間を7年と仮定
した場合,1年当たり1000万円を開発費として計上すべきである。そ
,,して被告製品1-1及び被告製品2-1の販売期間は約1年であるから
利益算定に際しては開発費として1000万円を控除すべきである。
()被告製品に対する本件発明の寄与率3
以下に述べる事実からすれば,被告製品に対する本件特許の寄与率は極め
て低く,実質的にゼロである。
ア被告製品が後発医薬品であること
被告製品は,本件発明の実施品ではない原告製品と同等なものと認めら
れて製造販売を承認された後発医薬品であり,被告製品は原告製品に比べ
て薬価(国家によって決定される公定価格)が2割から3割低くなってい
る。被告製品の市場シェアはわずか1%にすぎないが,この1%という販
売が可能なのは,国家が後発医薬品制度を設け,その薬価を先発品に比べ
て低く設定しているからである。先発品メーカー,後発品メーカーにどの
程度の利益を享受させるかは,特許とは全く別の観点から設定された国家
の政策事項である。
被告が被告製品を医薬品として販売することができるのは,後発医薬品
,。として厚生労働省から製造承認を取得しその保護を得ているからである
すなわち,被告の製造,販売行為は,この厚生労働省から許可された権利
の行使であって,この特許発明とは関係しない厚生労働省から許可された
後発医薬品として有する地位が,被告製品の販売量増大に大いに貢献して
いるのである。
イ被告製品が本件発明の実施の有無と関係なく医薬品として販売されてい
ること
仮に,仕様変更前被告製品が本件発明の侵害品であり,かつ,本件発明
が被告製品の販売に大きく寄与しているとした場合,その仕様変更後被告
製品が従来どおり販売することができていることの説明がつかない。原告
の説明によれば,本件発明は,従来技術であるピッチを炭素源として得ら
れる活性炭(原告製品がこれにあたる。乙4)に比べて選択吸着性能が格
段に向上しているとのことであり,その作用効果を根拠として本件特許取
得に至っている。
この理屈からすれば,仕様変更前被告製品は本件発明の作用効果により
選択吸着性能に優れ,仕様変更後被告製品は本件発明の作用効果を奏しな
いから選択吸着性能が劣り,被告は,選択吸着性能が格段に異なった製品
を販売していることになる。
しかしながら,そのような事実は全くなく,仕様変更の前後を通じて同
様の医薬品として販売を継続している。これは,本件発明の作用効果は,
実際には存在しないか,製品性能には影響せず販売に関して影響しないも
のであることを示すものであり,被告が得た利益に対して本件発明が全く
寄与していないことは明らかである。
ウ原告が本件発明を実施していないこと
原告製品は,本件発明の実施品ではなく,原告は,選択吸着性能が優れ
ていないとする従来技術の製品を従来どおり製造販売している。このこと
からすれば,本件発明の作用効果はないか,又は,本件明細書で強調して
いるほど大したものではなく,少なくとも製品性能として考慮に値しない
ものであることを原告も認識しているといわざるを得ない。
エフェノール樹脂を炭素源として粒状活性炭を製造すること自体は公知技
術であり,被告製品において本件発明は全く寄与していないこと
本件発明は,活性炭の原料としてフェノール樹脂なる物質を初めて作り
上げたとか,フェノール樹脂を用いた球状活性炭を初めて作り上げた,あ
るいは腎疾患等の治療予防用として初めて経口投与用球状活性炭を世に送
り出したというものではなく,単に,公知物質であり,かつ,球状活性炭
の原料として多用されているフェノール樹脂を転用して,既に存在してい
た原告製品の原料であるピッチをそれに変えたという程度のものであり,
進歩性の程度は極めて低い。
また,経口投与用吸着剤の炭素源としては本件発明以外の原料も考え得
るのであり,選択吸着性能を向上させるための代替技術(例えば,炭化賦
)。活工程で様々な工夫をすることで官能基を付加するなども多数存在する
このように,被告製品の製造は,公知技術の実施であり,本件発明の進
歩性を仮に肯定したとしてもその程度は極めて低く,かつ,他の代替技術
も存在するのであって,被告製品の販売により得た利益に対して本件発明
は全く寄与していない。
第6当裁判所の判断
1争点1(被告製品は,構成要件E及びFを充足するか)について
()構成要件E(球状活性炭からなる)について1「」
被告は,後に官能基を導入調製するための付加工程を実施したものは,本
件特許の特許請求の範囲の「球状活性炭」に含まれない旨主張するので,ま
ず「球状活性炭」の意義について検討する。
ア「球状活性炭」の意義
,「」,,,(ア)本件発明の特許請求の範囲において球状活性炭は原料直径
比表面積,細孔容積,R値によって限定されているにとどまり,その製
造方法によっては,特定されていない。
(イ)本件明細書の中においては,球状活性炭又は表面改質球状活性炭に関
係して,以下のとおり記載されている。
aフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造され,直径
が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる
比表面積が1000㎡/g以上であり,全酸性基が0.40~1.0
0meq/gであり,全塩基性基が0.40~1.10meq/gで
あり,そして細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25
mL/g未満である表面改質球状活性炭からなるが,但し,式(1)
:R=(I-I)/(I-I(1〔式中,Iは,X線1535243515))
35回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I
は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であ
り,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折24
強度である〕で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である表
面改質球状活性炭を除くことを特徴とする経口投与用吸着剤請,,(【
求項4。】)
b本発明は,特異な細孔構造を有する球状活性炭からなる経口投与用
吸着剤,及び前記球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理することに
よって製造され,同様の特異な細孔構造を有する表面改質球状活性炭
からなる経口投与用吸着剤に関する(0001。【】)
c特公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,
特定の官能基を有する多孔性の球形炭素質物質(以後,表面改質球状
活性炭とよぶ)からなり,生体に対する安全性や安定性が高く,同時
に腸内での胆汁酸の存在下でも有毒物質の吸着性に優れ,しかも,消
化酵素等の腸内有益成分の吸着が少ないという有益な選択吸着性を有
し,また,便秘等の副作用の少ない経口治療薬として,例えば,肝腎
機能障害患者に対して広く臨床的に利用されている。なお,前記特公
昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤は,石油ピ
ッチなどのピッチ類を炭素源とし,球状活性炭を調製した後,酸化処
理,及び還元処理を行うことにより製造されていた(0003。【】)
d本発明者は,ピッチ類から球状活性炭を調製し,酸化還元すること
により得られる従来の多孔性球状炭素質物質からなる経口吸着剤より
も一層優れた選択的吸着性を示す経口投与用吸着剤の探求を進めてい
たところ,驚くべきことに,熱硬化性樹脂を炭素源として調製した球
状活性炭は,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態であるにもか
かわらず,生体内の尿毒症性物質のひとつと考えられるβ-アミノイ
ソ酪酸の吸着性に優れており,しかも有益物質である消化酵素(例え
ば,α-アミラーゼ)等に対する吸着性が少ないという有益な選択吸
着性を有することを見出し,更に,その選択吸着性の程度が,前記特
公昭62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも優
れていることを見出した(0004。【】)
e従来の多孔性球状炭素質物質,すなわち,前記特公昭62-116
11号公報(特許文献1)に記載の吸着剤で用いる表面改質球状活性
炭では,ピッチ類から調製される球状活性炭を更に酸化処理及び還元
処理して官能基を導入することによって,前記の選択吸着性が発現さ
れることになると考えられていたので,酸化処理及び還元処理を実施
する前の球状活性炭の状態で選択的吸着能を発現すること,及びその
吸着能が従来の経口投与用吸着剤よりも優れているという本発明者に
よる前記の発見は,驚くべきことである(0005。【】)
fまた,本発明者は,前記の球状活性炭を更に酸化処理及び還元処理
することによって調製した表面改質球状活性炭は,生体内の尿毒症性
物質のひとつと考えられるβ-アミノイソ酪酸の吸着性に優れてお
り,しかも有益物質である消化酵素(例えば,α-アミラーゼ)等に
対する吸着性が少ないという前記の有益な選択吸着性が,前記特公昭
62-11611号公報(特許文献1)に記載の吸着剤よりも一層向
上することを見出した(0006。【】)
g最初に,熱硬化性樹脂からなる球状体を,炭素と反応性を有する気
流(例えば,スチーム又は炭酸ガス)中で,700~1000℃の温
度で賦活処理すると,本発明の経口投与用吸着剤として用いる球状活
性炭を得ることができる。ここで,球状「活性炭」とは,球状の熱硬
化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことに
よって得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上
であるものを意味する。本発明においては1000㎡/g以上が好ま
しい(0014。【】)
hなお,熱硬化性樹脂からなる前記球状体が,熱処理により軟化して
,,形状が非球形に変形するかあるいは球状体同士が融着する場合には
前記の賦活処理の前に,不融化処理として,酸素を含有する雰囲気に
て,150℃~400℃で酸化処理を行うことにより軟化を抑制する
ことができる。また,前記の熱硬化性樹脂球状体を熱処理すると,多
くの熱分解ガスなどが発生する場合には,賦活操作を行う前に適宜予
備焼成を行い,予め熱分解生成物を除去してもよい。
i本発明による前記の球状活性炭の選択吸着性を一層向上させるに
は,こうして得られた球状活性炭を,続いて,酸素含有量0.1~5
0vol%(好ましくは1~30vol%,特に好ましくは3~20
vol%)の雰囲気下,300~800℃(好ましくは320~60
0℃)の温度で酸化処理し,更に800~1200℃(好ましくは8
00~1000℃)の温度下,非酸化性ガス雰囲気下で加熱反応によ
る還元処理をすることにより,本発明の経口投与用吸着剤として用い
る表面改質球状活性炭を得ることができる。ここで,表面改質球状活
性炭とは,前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及び還元処理して得
られる多孔質体であり,球状活性の表面に酸性点と塩基性点とをバラ
ンスよく付加することにより腸管内の有毒物質の吸着特性を向上させ
たものである(0017。【】)
(ウ)上記のとおり,本件明細書において,球状活性炭は「球状の熱硬化,
性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによっ
て得られる多孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上である
ものを意味する」と定義されている(上記g。)
そして,本件明細書には,熱硬化性樹脂の性状により,賦活処理の前
()に不融化処理や予備焼成を適宜行うことが明記されていること上記h
に照らすと,上記製造方法の記載は,球状活性炭の製造工程のうちの必
須工程を示したものと解するのが相当であり,これを当該熱処理,賦活
処理の前後や途中に他の処理が施されたものを排除する趣旨と解するこ
とはできない。
本件明細書中には,本件発明について,フェノール樹脂又はイオン交
換樹脂を炭素源とすることにより,酸化処理及び還元処理を実施する前
の状態であるにもかかわらず,高い選択吸着性能を有することを発見し
たとの記載があるものの(上記d,e,同記載は,ピッチ類から球状)
活性炭を調製し,酸化還元することにより得られる従来の多孔性球状炭
素質物質と比較して,本件発明の球状活性炭が酸化還元処理をしなくて
も有益な選択吸着性を示すことを述べているにとどまるのであり,本件
発明の球状活性炭に酸化処理や還元処理等が施されることがないことま
で意味すると解することはできない。むしろ,本件明細書には,酸化処
理及び還元処理を行うことにより,選択吸着性が一層向上することが記
載されており(上記i,これにより表面が改質された表面改質球状活)
性炭(前記の球状活性炭を,前記の酸化処理及び還元処理して得られ「
る多孔質体であり,球状活性の表面に酸性点と塩基性点とをバランスよ
」)く付加することにより腸管内の有毒物質の吸着特性を向上させたもの
であって,全酸性基が0.40~1.00meq/gであり,かつ,全
塩基性基が0.40~1.10meq/gであるものに関しては,請求
項4において特許請求されていることに鑑みると,フェノール樹脂又は
イオン交換樹脂を炭化及び賦活処理することにより得られた活性炭を,
その選択吸着性を高めるために酸化処理や還元処理が加えられたもの
も本件発明の技術的思想の範囲内にあるというべきであって上記表,,「
面改質球状活性炭」は「球状活性炭」の下位概念に相当し「球状活,,
性炭」のうち酸化及び還元処理を施した特に優れた選択吸着性を有する
ものに「表面改質球状活性炭」という名称を与えたものと解するのが相
当である。
そうすると,本件発明における「球状活性炭」は,本件明細書におけ
「,る定義である球状の熱硬化性樹脂などの炭素前駆体を熱処理した後に
賦活処理を行うことによって得られる多孔質体であり,球状で比表面積
が100㎡/g以上であるもの」であって,この要件を満たすものであ
れば,後に選択吸着性を高めるための官能基の調整処理(酸化処理や還
元処理)が行われたものであっても「球状活性炭」から除外されない,
ものと解される。
イそして,被告製品の有効成分である活性炭が「球状の熱硬化性樹脂など
の炭素前駆体を熱処理した後に,賦活処理を行うことによって得られる多
孔質体であり,球状で比表面積が100㎡/g以上であるもの」という要
件に該当することは,当事者間に争いがない。そうすると,被告製品は,
「球状活性炭からなる」ものと認められ,構成要件Eを充足する。
()構成要件F(R値が1.4以上である球状活性炭を除く,ことを特徴とす2
る)について
アR値計算の基礎となる回折強度の測定方法,測定条件について
(ア)被告は,本件明細書には,R値を算出するために必要な回折強度の測
定方法,測定条件について一切記載がなく,原告の主張する測定方法,
測定条件を採用する根拠はないと主張する。
しかしながら,回折強度の測定については,下記のとおり,日本工業
規格(JIS(甲32,日本薬局方(甲15)及び日本学術振興会))
が定めた測定法(学振法(甲13)があり,これらの規格によれば,)
本件のような球状活性炭の回折強度を測定するためには,反射式デフラ
クトメーター法を採用し,線源としては,CuKα線を用い,試料は粉
砕してアルミニウム板又はガラス板に均一に充填してして作成すること
,,が一般的であると理解することができるから原告の主張する測定方法
測定条件は,本件特許出願時における当業者の技術常識にかなうもので
あると認められる。なお,原告により本件特許と同日に出願された経口
投与用吸着剤の特許の明細書の発明の詳細な説明中には,球状活性炭の
回折強度比(R値)の測定につき,上記の測定方法を用いた旨の記載が
ある(乙1の2の6,段落【0041。】)

aJISK0131(甲32)の「X線回折分析通則」では,次
のとおりとされている。
5試料及びその調整方法(4頁)
粉体試料の粒径調整5.1.1
粒径の大きい試料は,必要に応じて乳鉢などを用い手動又は専
用の機械によって粉砕して10μm以下の粒径になるようにす
る。
粉体試料の試料ホルダへの充てん5.1.2
試料ホルダには,金属やガラスなどの板に穴又はくぼみを付け
たものを用いる。試料ホルダに試料を均一に,かつ,試料面が平
たんでホルダの面と一致するように充てんする。
1装置(20頁)
装置の概要1.1
(略)X線粉末回折装置は,X線を発生させるX線発生部,回
折X線の回折角度や散乱X線の散乱角度を測るゴニオメーター
部,X線を検出して計数し強度を測定する計数・指示記録部,及
び,これらを制御して回折データを収集し,そのデータを処理し
て分析する制御・データ処理部から構成されている。
X線発生部1.1.1
()X線管球1
(略)Cuが一般的に使用されるが,分析目的によって,Mo
やCo,Fe,Cr等も使用される。
b日本薬局方(甲15)の「粉末X線回折測定法」では,次のとおり
とされている。
装置(90頁)
通例,計数管を検出器としたディフラクトメーターを粉末X線
回折装置として用いる。ディフラクトメーターはX線発生装置,
ゴニオメーター,計数装置,制御演算装置等からなる。
(中略)粉末X線回折装置では波長に分布のある連続X線部分を
除き,単色化した特性X線のみを用いる(中略)測定試料に適。
した波長のX線が得られるように対陰極の種類を選択する。
ゴニオメーターはX線の入射する方向と試料面及び試料面と計
数装置との角度を走査する装置である。通例,両角度が等しくな
るように走査する対称反射法で測定する。
操作法(90頁)
(略)通例,有機化合物,高分子化合物の測定には銅を対陰極と
して用いる。
通例,測定試料はアルミニウム又はガラス製の平板試料ホルダ
ーの充てん部に粉末試料を充てん成形することにより調製する。
このとき,粉末試料粒子は原則として無配向化されたものを用い
る。通例,試料粉末を無配向化する方法として試料をめのう製乳
鉢等で粉砕し,微細結晶とする方法を用いる。
c学振法(甲13)の「人造黒鉛の格子定数および結晶子の大きさ測
定法」では次のとおりとされている。
1試料(25頁)
供試人造黒鉛材から約2gを採取し,メノウ乳鉢で全試料が1
50メッシュ標準篩を全通するように粉砕し試料とする。
4測定法(25頁)
X線用試料をメノウ乳鉢中でよく混合した後,X線回折計付属
の試料板に均一に充填する。
X線は,CuKα線を用い,CuKβ線はニッケルフィルター
。()。によって除く中略自動記録式X線回折計を用いて測定する
(イ)被告は,測定装置,試料の厚さ,試料板の素材,補正の有無等によっ
てR値は異なるのであって,固有値は取り得ないと主張し,これらの条
件を変えて測定した結果を乙第6号証として提出する。
a測定装置について
確かに,X線回折法において測定装置が異なりX線強度が異なるこ
となどにより回折強度の値が異なり得るものであり,原告の提出する
甲第16号証においても測定装置により異なる回折強度の値が測定さ
れている。
,,()()()しかしながらR値はR=I-I/I-I115352435
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における15
回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°35
における回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)24
が24°における回折強度である〕で求められる回折強度比のことで
あり(構成要件F,回折強度の値が変化することが,R値の変化に)
直結するものではない。むしろ,回折強度比は,物質の同定を行うた
めに用いられている値であり(甲32の35~39頁参照,測定装)
置によってこれが異なるとは考え難い。そして,原告の提出する甲第
16号証においても,回折強度比は,測定装置によってほとんど違い
はない(なお,I,I,Iの各値はバックグラウンドを除いて152435
いない数値であるため,その分同じ割合で変化するものではないもの
の,上記のR値の計算式によれば,バックグラウンドはR値から当然
に除かれているため,回折強度比は変化しないものと認められる。。)
測定装置によってR値が変化するとの被告の主張は採用することが
できない。
b試料の厚さについて
被告は,試料の厚さにより,測定値が異なると主張する。
,,しかしながら前記のX線回折法による測定法の各規格においては
試料の厚さは均一にするとする以外には特に指定はない。試料の厚さ
により回折強度値が異なることがあっても,回折強度比は異なるもの
とは認められないことは,上記測定装置の違いで述べたところと同様
である。原告の行った実験(甲33)においても,試料の厚さによる
R値の有意な変化は見られていない。
したがって,試料の厚さによってR値は変化しないものと認められ
るから,被告の主張は採用することができない。
c試料板の素材について
被告は,原告がアルミニウム試料板を用いた測定をしていることに
,,(),ついて根拠がないと主張し自ら提出する実験報告書乙6では
プラスチック試料板とアルミニウム試料板のそれぞれを用いて測定を
行い,異なる値が出たと主張する。
,,しかしながら前記のX線回折法による測定法の各規格においては
試料板として金属(アルミニウム)やガラス製を用いることとされて
おり,プラスチック製のものについては記載されていないこと,本件
のような有機合成高分子体を測定するための試料板として有機合成高
分子であるプラスチックを用いることは,測定結果に影響を及ぼす可
能性があると考えられることに照らすと,プラスチック製の試料板を
用いた乙第6号証の実験による測定値の正確性には疑問があるといわ
ざるを得ず,被告の主張は採用することができない。
d補正について
被告は,ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関する
補正を実施するかどうかでR値が変化するので,固有値がとり得ない
と主張する。
,,しかしながら前記のX線回折法による測定法の各規格においては
回折強度の補正を行うものとはされていない。特に,日本薬局方の規
格(甲15)においては「干渉性散乱X線の回折強度は(中略),,
偏光因子,多重度因子,ローレンツ因子,吸収因子などの影響を受け
る」としつつも,補正を実施するとはされてない。
,,,,したがって特に指定がなければローレンツ偏光因子吸収因子
原子散乱因子等に関する補正を実施しないことが当業者の技術常識で
あると認められるから,被告の主張は採用することができない。
e乙第6号証の実験報告書について
同実験報告書には,測定装置,試料板の素材,試料の厚さ,補正の
有無等の条件を変えて回折強度を測定してR値を求めたところ,これ
により異なるR値が得られたことが記載されている。
しかしながら,これまで述べたように,測定装置,試料の厚さによ
ってR値が変化することは考えにくいこと,また,プラスチック試料
板を用いたことにより値が変化している可能性があること,いかなる
補正が行われたのか明確ではないことから,同実験報告書の実験結果
をもって,R値が固有値をとり得ないものとすることはできない。
イそして,甲第10号証の実験報告書は,下記の測定方法により仕様変更
前被告製品の回折強度を測定したものであり,前記アのとおり,その測定
方法は,当業者の技術常識にかなう測定方法であると認められる。
「X線回折装置(株式会社リガク製「RAD-rC/PC化)を用」
いた試料を120℃で3時間減圧乾燥した後アルミニウム試料板3。,(
,.)5×50m㎡t=15mmの板に20×18m㎡の穴をあけたもの
に充填し,グラファイトモノクロメーターにより単色化したCuKα線
(波長λ=0.15418nm)を線源とし,反射式デフラクトメータ
ー法により,回折角(2θ)が15°,24°及び35°のそれぞれの
角度における回折強度を測定した。X線発生部及びスリットの条件は,
印加電圧40kV,電流100mA,発散スリット=1/2°,発光ス
リット=0.15mm,散乱スリット=1/2°である。また,回折図
形の補正には,ローレンツ偏光因子,吸収因子,原子散乱因子等に関す
る補正を行わず,標準物質用高純度シリコン粉末の(111)回折線を
用いて回折角を補正した」。
ウ甲第10号証の実験報告書によれば,被告製品1-1のR値は,1.1
1であり,被告製品2-1のR値は1.10であることが認められ,いず
れも1.4未満であることが認められるから,仕様変更前被告製品は,構
成要件F「回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,こ
とを特徴とする」を充足する。
これに対し,仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)のR値
については立証がなく,構成要件Fを充足していると認めることができな
い。
()以上によれば,仕様変更前被告製品は,構成要件E及びFを充足するもの3
と認められる。
そして,前記争いのない事実等5記載のとおり,仕様変更前被告製品は,
構成要件A,B,C,D,G,H及びIをも充足するのであるから,本件発
明の技術的範囲に属するものと認められる。
仕様変更後被告製品については,前記のとおり,構成要件Fを充足してい
ると認めることができず,本件発明の技術的範囲に属するものと認めること
はできない(なお,事案に鑑み,以下,争点2についても判断する。。)
2争点2(仕様変更後被告製品は,構成要件Dを充足するか)について
()仕様変更後被告製品(被告製品1-2及び2-2)について,その細孔直1
径75~15000nmの細孔容積について原告従業員が行った測定甲.,(
51,53)並びに島津テクノリサーチが行った測定(原告依頼のものは,
。,,,。),甲59の1被告依頼のものは乙15の123の124の結果は
別紙測定結果一覧のとおりである。
そして,これらの測定結果のうち,細孔容積が0.25mL/g未満との
結果となったのは,原告従業員が行った測定(甲51,53)では,被告製
品1-2のロット番号8DAを試料とした3つの測定結果のうち2つ,ロッ
ト番号8FAを試料とした3つの測定結果のうち1つ,及び被告製品2-2
のロット番号7GAを試料とした5つの測定結果のうち3つであり,島津テ
クノリサーチの測定(原告依頼のもの。甲59の1)では,被告製品1-2
のロット番号8DAを試料とした6つの測定結果のうち1つであった。その
他の測定結果は,いずれも0.25mL/g以上であった。
()島津テクノリサーチによる測定の結果は,上記のとおり,1つを除きすべ2
て0.25mL/g以上となっている。
なお,1つの0.25mL/g未満の測定結果は,別紙測定結果一覧の測
定結果のとおり,被告製品1-2のロット番号8DAの6つの結果のうちの
1つがそれであるが「0.2428」と0.25mL/gをわずかに下回,
っているのみである。
そして,甲第59号証の8頁によれば,この数値が出た試料は,そのすぐ
下の数値「0.2587」と同じ試料から採取されたものであり,かつ,試
料重量もほぼ同一であることが認められ,この2つの数値を総合すると,ロ
ット番号8DAの測定結果としては0.25mL/g以上と見ることもでき
ることから,上記「0.2428」は測定誤差の範囲内であると認めるのが
相当である。
()原告は,島津テクノリサーチの測定においては,縮分が行われ試料間のば3
らつきが抑えられているとした上で,被告製品においては原試料のばらつき
が大きいことから,これを忠実に反映させる必要があるのであり,縮分を行
わないで原告従業員が行った測定の結果(甲51,53)によれば,ロット
番号8DA,8FA及び7GAにおいて,細孔容積が0.25mL/g未満
の結果がいくつか検出されていることから,仕様変更後被告製品の一部は,
構成要件Dを充足する旨主張する。
証拠(甲59の1,乙15の1,23の1,24)によれば,島津テクノ
リサーチの測定においてされた縮分は,被告製品の1包分(約2g)を混ぜ
合わせた後,二分器で試料を二分したものであることが認められる。
そして,証拠(乙32,33)によれば,試料の全量を測定することがで
きない場合には試料量を減らす必要があり,その際に,試験者の恣意を入れ
ず試料の特定をなるべく保持するようにするための手法として,縮分による
操作が重要であり,特に本件のような粉粒体は,粒度や比重差による分離,
偏析が起こるため,混ぜ合わせの操作及び縮分の操作は,試料の採取の際に
偏りを生じさせないために必須の操作であると認められる。
以上からすれば,縮分操作を経ている島津テクノリサーチによる測定の結
,。,果は被告製品の構成を適切に測定したものと評価することができる他方
原告従業員による測定は,2gの被告製品からどのように試料0.8g又は
0.5g(甲51)ないしは0.6g(甲53)を採取したのか不明といわ
ざるを得ず,試料の採取過程において偏りが生じたことを否定することがで
きないのであるから,この測定結果を根拠とする原告の主張は採用すること
ができない。
()また,原告は,仕様変更後被告製品は,水に沈降する活性炭と浮遊する活4
性炭との混合物であると主張するとともに,水によって沈降した活性炭につ
いては,細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未
満であった(以上の実験結果として甲60の1)として,仕様変更後被告製
品は侵害品を有効成分として含有するものである旨主張する。
しかしながら,試料を水に入れたときに浮遊するものと沈降するものがあ
るということは,試料に比重が1よりも大きいものと小さいものが含まれて
いることを示すのみであり,それ以上の意味を見出すことはできない。原告
は,被告の行った比重の異なる溶液中での分離実験(乙37)において,比
重1.0~1.3の間の活性炭がなく,浮遊品と沈降品に完全に分離するこ
とができるから,仕様変更後被告製品は,全く異なる2種類の物質から成る
ものであるとも主張する。しかしながら,乙第37号証の実験結果から仕様
変更後被告製品が浮遊品と沈降品とに明確に分離されているとは認められ
ず,原告の主張は採用することができない。
また,沈降する活性炭も浮遊する活性炭も同じ炭素物質であるため,沈降
するものは密度が高く,浮遊するものは密度が低いものであると考えられる
ところ,平均粒子径が344μmないしは314μmの被告製品(甲7)に
おいて,細孔直径7.5~15000nmという比較的大きな細孔の容積が
大きければ活性炭の密度は低く,その結果水に浮遊し,その細孔容積が小さ
ければ密度は高く,その結果水に沈降する傾向にあるものと考えられる。そ
うすると,細孔容積の小さい傾向にある沈降品を集めて測定したところ細孔
容積が小さい結果が出たにすぎず,その結果は仕様変更後被告製品の測定と
して意味をなさないものであるといわざるを得ない。
そもそも,本件明細書(0029)が記載する構成要件Dについての【】
細孔容積の測定方法は,一定量の試料について圧力と水銀の圧入量から細孔
直径の細孔容積を測定する水銀圧入法であること,本件発明は腎疾患治療又
は予防剤であり,一定量を服用することをその前提としていること,及び本
,,件発明は特異な細孔構造を有する活性炭が体内の有毒な物質を多く吸着し
有益な物質の吸着が少ないという選択吸着性が高いことを作用効果とするも
のであって,製品全体としてそのような特異な細孔構造でなければ,選択吸
着性という作用効果を得ることができないことからすれば,細孔容積を測定
する場合には,なるべく試料全体の同一性を保持したサンプルを用いて行う
べきであり,原告の依頼により行われたような被告製品を水で分離してその
一部を取り出して測定する方法では,構成要件Dの充足性を判断することが
できないというべきである。
なお,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とする球状活性炭以外
の物質が混合されているような場合であれば,本件明細書の記載上,それを
除去した上で各数値を測定して,構成要件D等の充足性を判断する必要があ
ると考えられるものの,仕様変更後被告製品については,フェノール樹脂を
(,)炭素源とする球状活性炭のみ又は被告製品2については加えてカプセル
からなる以上,仮に原告が主張するように異なる活性炭の混合物であるとし
,。てもそれが全体として構成要件Dを充足するかを判断するのが相当である
()上に述べたところによれば,仕様変更後被告製品において,その細孔直径5
7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であることにつ
いては,これを認めるに足りる証拠はなく,仕様変更後被告製品が構成要件
Dを充足すると認めることはできない。
3争点3(本件特許は無効とされるべきものか)について
()無効理由①(補正による新規事項の追加)について1
ア特許法17条の2第3項は,第1項の規定により明細書等について補正
をするときは,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内に
おいてしなければならないと規定している。ここにいう「明細書等に記載
した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す
る者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての
記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,
上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入
するものでないときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」
であると解すべきである。
そして,特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付
加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されて
いるときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入
するものではないときは「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮で,
あるというべきであり,このことは本件補正のように,いわゆる除くクレ
ームを付加する補正においても妥当する。
イ原告は,平成15年10月31日,本件特許出願(特願2004-54
8107号。乙2の2参照)と,別件特許に係る特許出願(特願2004
-548106号。乙1の2の6。以下「別件特許出願」という)を行。
。,(),ったその後本件特許出願につき拒絶査定がされたため乙2の17
原告は拒絶査定不服審判を請求した(乙3の1。同手続中において,本)
件特許出願に係る発明が別件特許出願に係る発明と同一であるとの理由等
で拒絶理由通知が出された(乙3の6。そこで,原告が上記拒絶理由通)
知に対応して,平成18年5月15日に手続補正を行ったのが本件補正で
,()あり請求項及び発明の詳細な説明に下記の記載いわゆる除くクレーム
を付加するものである(乙3の8。)
但し,式(1:)
R=(I-I)/(I-I)(1)15352435
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回15
折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°にお35
ける回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が2424
°における回折強度である〕
().,で求められる回折強度比R値が14以上である球状活性炭を除く
すなわち本件補正は球状活性炭につきX線回折法による回折角2,,,(
θ)が15°,24°,35°における回折強度の比(R値)が1.4以
上であるものを除くとするものである。
一方,乙第2号証の2によれば,本件当初明細書に記載された発明は,
経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質
的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これによ
り,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,有益物質に対する吸着
が少なく尿毒症性物質の吸着性に優れるという選択吸着性が向上するとい
う効果を奏するとするものであることが認められる。
他方,別件特許の請求項1は,以下のとおりである(乙1の2の6。)
【請求項1】
直径が0.01~1mmであり,ラングミュアの吸着式により求めら
れる比表面積が1000㎡/g以上であり,そして式(1:)
R=(I-I)/(I-I(1)15352435)
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回15
折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°にお35
ける回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が2424
°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭からな
ることを特徴とする,経口投与用吸着剤
乙第1号証の2の6によれば,別件特許は,球状活性炭からなる経口投
与剤につき,その細孔構造に注目して,直径,比表面積のほか,最も優れ
た選択的吸着性を示すX線回折強度を示す回折角の観点からこれをR値と
して規定し,このR値が1.4以上であることを特徴とするものであるこ
と,球状活性炭に関し,本件特許とは異なり,フェノール樹脂又はイオン
交換樹脂を出発原料として特定せず,また,本件特許では従来技術に属す
るものとされるピッチ類を用いても調整が可能であるとして,このR値の
観点から球状活性炭を特定したものであることが認められる。
そうすると,球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭
素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,
本件特許出願に係る発明と別件特許出願に係る発明は同一であるというこ
とができる。そして,本件補正は,この両発明の重なり合う部分であるR
値が1.4以上である球状活性炭を本件特許出願に係る発明の特許請求の
範囲から除くことを目的とするものであり,前記の本件当初明細書に記載
された発明の内容に照らせば,特許請求の範囲の記載に技術的観点から限
定を加えるものではなく,新たな技術的事項を導入するものではないと認
めるのが相当である。
ウしたがって,本件補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮,
であるので,特許法17条の2第3項に違反するものではなく,本件特許
は,無効とされるべきものとは認められない。
エ被告の主張について
(ア)被告は,R値が1.4以上のものを除いていることの技術的意味やR
値が1.4未満のものの製造方法が不明であり,これらの点について本
来説明が必要なものであるから,本件補正により新たな技術的事項を追
加するものであるなどと主張する。
しかしながら,本件当初明細書(乙2の2)の「発明を実施するため
の最良の形態」における「本発明の経口投与用吸着剤として用いる球,
状活性炭又は表面改質球状活性炭は,前記のとおり,従来の経口投与用
吸着剤の炭素源として用いられてきたピッチ類に代えて,炭素源として
熱硬化性樹脂を用いる点を特徴としており,それ以外の点では,ピッチ
類を用いる従来の製造方法と実質的に同様の操作を利用して調製するこ
とができる(乙2の2の4頁)との記載に端的に示されているとお。」
り,本件特許出願に係る発明は,有益な選択吸着性という効果を導くた
めの課題解決方法として球状活性炭の炭素源に着目し,これを熱硬化性
樹脂(その後の補正を経て,最終的にはフェノール樹脂及びイオン交換
樹脂)とした点に最大の特徴があるものであって,それ以外の要素につ
,,いては経口投与用吸着剤としての基本的性質に反しない限度において
従来技術に従って適宜決定する余地のあることを前提とするものであ
り,その意味で,回折強度比(R値)についても,当業者(その発明の
属する技術の分野における通常の知識を有する者)において適宜決定す
べきことが予定されていたものというべきである。
本件当初明細書に開示された本件特許出願に係る発明の上記意義に照
らせば,R値に特別の限定がないことは,R値が1.4以上の場合であ
ると1.4未満の場合であるとを問わず,経口投与用吸着剤としての基
本的性質に反しない限りにおいて,すべてのR値が含まれることを前提
とするものと理解することができるのであって,本件補正も,そのよう
な理解を前提とした場合に別件特許出願に係る発明との間で生ずるR値
が1.4以上のものについての重複を排除するため,これを除外すると
いう意義を有するものである。
以上のような本件特許出願に係る発明における回折強度比(R値)の
意義ないし本件補正の意義に照らせば,回折強度比(R値)につきいか
なる値を設定するかは,本件特許出願に係る発明の技術的事項に対し影
響を与えるものではないというべきである。
(イ)被告は,原告は,R値の計算根拠となる回折強度は測定条件により異
なり得ることをもって,R値の意義等が一義的に明らかでない旨主張す
る。
しかしながら,前記のとおり,X線回折法については,日本工業規格
(JIS(甲32,日本薬局方(甲15,日本学術振興会が定めた)))
測定法(学振法(甲13)にそれぞれ規格が定められており,明細書)
にR値の測定方法に関する記載がなくとも,これらの規格に従って測定
方法を決定し得るものであり,また,測定条件についても当業者の技術
常識に従って適宜決定することにより,固有値を得ることができるもの
,,と認められるのであるからこれらについて明細書に記載のないことは
上記判断を左右するものではない。
(ウ)被告は,本件補正により実施例が除外されたとして,これをもって技
術的範囲が大きく変更されたことの根拠とする。
この点,本件発明に係る実施例を示す表1,2と別件特許発明に係る
実施例を示す表1,2とは,別件特許発明においてR値を付記している
ほかはすべて一致し,また,両発明に係る明細書の記載において,実施
例の基礎となる条件が一致することに鑑みれば,両発明における実施例
は同一のものであると認められる。
,,,そして被告の上記主張は両者を形式的に併せ考慮することにより
本件発明における実施例はR値1.4以上のものを表したものと評価し
て,本件補正後の本件発明に直接妥当する実施例が明細書の記載上存在
しなくなったとみるものである。
しかし,前記(ア)の説示から明らかなとおり,本件当初明細書におけ
る実施例は,R値にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオ
ン交換樹脂を用いたことにより,ピッチ類から得られる従来の経口吸着
剤よりも優れた選択吸着性を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施
する前の状態でも選択吸着性を発揮することを裏付けているものであっ
て,明細書の記載上,R値は付記されていないことからみても,当業者
は本件明細書における実施例の記載に接した場合,これがR値を1.4
以上のものに限定する趣旨と理解するものではないということができ
る。
なお,被告は,被告が別件特許の出願経過において,R値が1.4以
上のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと強調して特許査定
を経ているなどと主張する。しかしながら,本件当初明細書の記載をみ
れば,本件発明の技術思想は,課題を解決するための手段として炭素源
の種類に着目し,これに「フェノール樹脂又はイオン交換樹脂」を選択
することによって課題を解決し得るかどうかを問題とするものであるこ
とは明らかであって,同日出願の別件特許の出願経過等において原告が
「R値1.4以上」のものでなければ目的とする作用効果が奏しないと
主張していたとしても,これと課題の解決方法が異なる本件発明の作用
効果が否定されるわけではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(エ)被告は,本件補正により請求項に係る発明の成立性を裏付けるデータ
(実験成績証明書A及びB。乙3の9)を示す必要性が生じたことは,追
加的説明が必要であることを示すものであり,新たな技術的事項が導入
されたことを意味する旨主張する。
実験成績証明書Aは「イオン交換樹脂』を炭素源として用いた場,『
合でも,優れた選択吸着率を有する経口投与用吸着剤を得ることができ
ることを示すため(意見書〔乙3の7〕6頁30行~31行,実験」)
成績証明書Bは,本件補正により「除かれた部分』以外の本件発明に『
よる経口投与用吸着剤が優れた選択吸着性を有していることを具体的に
示すため(同7頁下から17行~下から16行)に提出されたもので」
ある。前記のとおり,本件当初明細書における実施例は,R値にかかわ
らず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いたことに
より,ピッチ類から得られる従来の経口吸着剤よりも優れた選択吸着性
を示し,かつ,酸化処理及び還元処理を実施する前の状態でも,選択吸
,,着性を発揮することを裏付けていたものであるから明細書の記載上は
実施例として不足はないということができる。
もっとも本件補正により構成が限定された結果本件発明の効果フ,,(
ェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いたことによりピッ
チ類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上すること)を
喪失するなど,本件発明の意義が失われることになるのであれば,本件
補正は本件当初明細書における技術的意義に変更を来すこととなり得る
ことからすれば,上記実験証明書の提出は,本件当初明細書の記載から
把握できる技術的事項,すなわち,前記「最大の特徴」により前記「効
果」が奏されることが,R値の大小にかかわらず妥当することを釈明す
るためにされたものと理解することができるのであって,これにより新
たな技術的事項が付加されたとか,その裏付けになるといえるものでは
ない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(オ)被告は,R値を1.4未満とする本件補正は,R値が1.4以上であ
ることを必須要件とする別件特許と作用効果の点で矛盾を来すから,本
件補正により新たな技術的事項が導入されたといえる旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件特許出願に係る発明は,R値のい
かんにかかわらず,炭素源として熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール
樹脂又はイオン交換樹脂)を用いることにより課題を解決するものであ
るのに対し,別件特許は,炭素源のいかんにかかわらず,R値を1.4
以上とすることにより課題を解決するものであって,課題解決のアプロ
ーチを異にする点で技術的思想を異にするものである。そうすると,別
件特許の明細書においてR値が1.4以上であることを必須要件である
としたとしても,直ちに両者が矛盾することになるものではないから,
被告の上記主張は採用することができない。
()無効理由②(明細書の記載不備()―構成要件Fに関して)21
ア特許法36条4項1号違反(無効理由②-1)の主張について
被告は,本件明細書中にはR値を求めるための回折強度の測定方法,測
定条件について記載がなく,また,1.4未満のR値を有する球状活性炭
を得るための製造条件についての説明もないので,本件発明を当業者が実
施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,回折強度の測定方法であるX線回折法に
ついては,規格が定められ,明細書にR値の測定方法に関する記載がなく
とも,これらの規格に従って測定方法を決定し得るものであり,また,測
定条件についても当業者の技術常識に従って適宜決定することにより,固
有値を得ることができるものと認められる。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ特許法36条6項1号違反(無効理由②-2)の主張について
被告は,手続補正の結果,本件明細書記載の実施例が,本件発明の実施
例ではなくなったと主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件当初明細書における実施例は,R値
にかかわらず,炭素源としてフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を用いた
ことにより,作用効果があることを示すものであり,明細書の記載上,R
値は付記されていないことからみても,当業者は本件明細書における実施
例の記載に接した場合,これがR値を1.4以上のものに限定する趣旨と
理解するものではないということができるのであって,被告の主張は採用
することができない。
ウ特許法36条6項2号違反(無効理由②-3)の主張について
被告は,回折強度の測定方法等の記載がなく,R値は固有値を取り得な
いものであるから,どのような球状活性炭が本件発明に含まれるのか不明
確であると主張する。
しかしながら,前記のとおり,測定方法等は当業者の技術常識から決定
できるのであり,R値は固有値を取ることができると認められるから,被
告の主張は採用することができない。
()無効理由③(明細書の記載不備()―構成要件Dに関して)32
ア特許法36条4項1号違反(無効理由③-1)の主張について
被告は,本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された
製造例が「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL/,
gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活
性炭」であることから,上記実施例以外の細孔容積に係る球状活性炭やこ
れを得る方法が記載されていないことは,実施可能要件を欠き,明細書の
記載不備(特許法36条4項1号違反)に当たる旨主張する。
しかしながら,本件明細書の段落【0013】及び【0024】の記載
は,炭素源に係る発明特定事項以外の発明特定事項について当業者が適宜
の設定をすることが可能であることを示唆するものであると理解すること
ができる。そして,証拠(甲18の2の1~4,乙1の2の3・4)によ
れば,本件特許の出願日当時,細孔容積の制御が多様な方法で可能であっ
たことは明らかである。
以上によれば,活性炭の細孔容積は,当業者において適宜制御可能であ
ると認めることができるから「フェノール樹脂及びイオン交換樹脂」を,
炭素源とする「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25m
L/g未満」の球状活性炭を製造することは,本件特許の出願日当時の技
術常識に基づいて当業者がなし得るものと認められ,その製造方法につい
て本件明細書に記載がないことをもって実施可能要件を欠くとはいえず,
被告の主張は採用することができない。
イ特許法36条6項1号違反(無効理由③-2)の主張について
被告は,本件特許の明細書に実施例(実施例1,2)として記載された
製造例が「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積0.04mL/,
gあるいは0.06mL/g」の「フェノール樹脂を炭素源とした球状活
性炭」のみであり,構成要件D(細孔直径7.5~15000nmの細孔
容積が0.25mL/g未満)で特定された球状活性炭のうち,わずかな
範囲のものしか開示がなく,いわゆるサポート要件を欠くと主張する。
しかしながら,本件明細書の表1,2には,細孔直径7.5~1500
0nmの細孔容積が0.42mL/gの場合に,選択吸着率が2.1と比
較的に劣っていることが示されていること,公知文献5(乙1の2の5)
には,細孔直径20~15000nmの細孔容積が小さくなるにつれて有
益物質の吸着量が低下すること,及び細孔容積が小さすぎると毒性物質の
吸着量も低下することが開示されており,このような知見は,本件出願日
(平成15年10月31日)当時において公知の技術であったと認めるこ
とができる。
そうすると,本件明細書における実施例の記載に加え,選択吸着能は,
(細孔容積が極小の場合を除き)その減少に応じて漸次発現する特性があ
る旨の上記知見を考慮すれば,当業者はこれにより優れた選択吸着率の達
成を認識することができるから,本件特許請求の範囲の記載は,本件明細
書における詳細な説明に記載したものであるということができ,サポート
要件違反との被告の主張は採用することができない。
()無効理由④(進歩性の欠如)について4
被告は,
ア.本件発明1のうちフェノール樹脂を炭素源とする発明は,公知文献1
に記載された発明に公知文献2又は公知文献3ないし5を組み合わせる
ことにより想到容易であり,
イ.本件発明1のうちイオン交換樹脂を炭素源とする発明は,公知文献1
に記載された発明に公知文献5及び6を組み合わせることにより想到容
易であり,
ウ.本件発明2は,公知文献1に記載された発明に公知文献2ないし6を
組み合わせることにより想到容易である
として,本件特許は進歩性を欠くものであり,特許無効審判により無効とさ
れるべきものであると主張する。
ア公知文献1に記載された発明に公知文献2又は公知文献3ないし5を組
み合わせることによる本件発明1の容易想到性の主張について
(ア)証拠(乙1の2の1)によれば,公知文献1には,活性炭を有効成分
とする,マトリックス形成亢進抑制剤に関する発明が記載されており,
具体的には「直径が0.05~2mmであり,比表面積が500~2,
000㎡/gであり細孔半径100~75000オングストローム細,(
孔直径20~15000nm)の空隙量が0.01~1/gであml
る経口投与用の吸着能に優れた球形活性炭を有効成分とする,肝疾患又
は腎疾患の治療若しくは予防に用いる剤」についての発明(以下「公。
知発明1」という)が記載されていると認められる。。
そうすると,本件発明1と公知発明1とは,いずれも「直径が0.0
5~1mmであり,比表面積が特定されたもので,そして特定範囲の細
孔直径の細孔容積を特定した球状活性炭からなる経口投与用吸着剤」。
である点において一致し,次の各点において相違する。
(相違点A)
球状活性炭を製造するための原料に関し,本件発明1では「フェ,
ノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とし」と特定しているのに対
し,公知発明1では,そのように特定していない点。
(相違点B)
比表面積の特定に関し,本件発明1では「ラングミュアの吸着式,
により求められる比表面積が1000㎡/g以上であり」と特定して
いるのに対し,公知発明1では「比表面積(メタノール吸着法によ,
る)が500~2000㎡/gであり」と特定している点。
(相違点C)
特定範囲の細孔直径の細孔容積を特定した点に関し,本件発明1で
は「細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/,
g未満」と特定しているのに対し,公知発明1では「細孔半径10,
0~75000オングストローム(細孔直径20~15000nm)
の空隙量が0.01~1mL/gである」と特定している点。
(相違点D)
本件発明1が,
「但し,式(1:)
R=(I-I)/(I-I)(1)15352435
〔式中,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が15°における15
回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)が35°35
における回折強度であり,Iは,X線回折法による回折角(2θ)24
が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除
く」と特定しているのに対し,公知発明1ではそのように特定され,
ていない点。
(イ)そこで,相違点Aについて検討する。
a既に述べたとおり,本件発明の技術的意義は,経口投与用吸着剤に
用いられる球状活性炭について熱硬化性樹脂(具体的にはフェノール
樹脂又はイオン交換樹脂)を炭素源として用いたことにより,ピッチ
類を用いる従来の球状活性炭に比べて選択吸着性が向上した点にあ
る。これに対し,公知発明1は,前記のとおり,肝疾患ないし腎疾患
治療に有効な吸着能を有する経口投与用の球状活性炭ではあるもの
の,その炭素源について具体的な特定がなく,しかも,具体的な炭素
源との関係で生じるピッチ類を用いる球状活性炭と比較した選択吸着
性の有無ないし大小といった効果については示唆するところがない。
したがって,公知発明1から本件発明を想到することが容易という
ためには,少なくとも公知発明1のような経口投与用の球状活性炭が
フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源とするものと置換可能で
あることが示唆されることのみならず,そのようにして置換された炭
素源と上記選択吸着性能との間に有意な関連があることをも示唆する
ものがなければならないというべきである。
bそこで,上記の観点に基づき相違点Aに係る構成の容易想到性につ
いて検討する。
()公知文献2(乙1の2の2)の記載によれば,同文献に記載されa
ている発明はフェノール樹脂を炭素源とする球状活性炭の製造に関
するものであるものの,接着剤や塗料等として従来から大量に製造
されていた各種の熱硬化性樹脂の乳化物について,真球に近い球状
活性炭を得ることが困難であったことからされた球状活性炭の製造
方法である。公知文献2のその他の記載を考慮しても,そもそも公
知発明1のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用につ
いては示唆する記載を見出すことはできないから,公知文献2に記
載された発明を公知発明1に組み合せることは,困難である。
したがって,公知文献2によって,相違点Aに係る構成に想到す
ることが容易であるということはできない。
()公知文献3(乙1の2の3)には,フェノール-アルデヒド樹脂b
を炭素源とする球形活性炭の吸着能についての研究が記載されてお
り,公知文献4(乙1の2の4)にはフェノール樹脂を原料とする
活性炭について,比表面積,細孔分布などを測定し,市販の水処理
用活性炭及び石炭を原料とする球形活性炭との比較を行った結果が
記載されているものの,両文献の中に,そもそも公知文献1記載の
発明のような医薬製剤としての経口投与用吸着剤への転用を示唆す
る記載を見出すことはできない。
また,公知文献5(乙1の2の5)には,医薬剤としての多孔性
球状炭素質物質からなる経口吸着剤について従来の吸着剤に比して
有益な選択吸着性を有するという発明が記載されているものの,そ
の有益な選択吸着性は,特定範囲の細孔容積に着目したことによる
ものであって,その炭素源について何ら特定するところがない。ま
た,その実施例を見ても,石油系ピッチから多孔性球状酸化ピッチ
を得,これに賦活処理等を施して多孔性球状炭素質物質を製造し,
その選択吸着性を計測しており,有利な選択吸着性を導くための炭
素源について何ら示唆するところがない。そうすると,このような
公知文献5に係る発明に接した当業者において,同発明(及び公知
発明1)から有利な選択吸着性を導くために炭素源を限定すること
を想到することは困難といわざるを得ない。
したがって,公知文献3ないし5によっても,相違点Aに係る構
成に想到することが容易であるということはできない。
イ公知発明1に公知文献5及び6を組み合わせることによる本件発明1の
容易想到性の主張について
本件発明1と公知発明1との一致点及び相違点は前記ア(ア)で認定した
とおりであり,公知文献5の記載内容については,前記ア(イ)b()で認定b
したとおりである。
公知文献6(乙1の2の7)には,イオン交換樹脂を炭素源とする活性
炭小球体の製造方法に関する発明が記載されていることが認められるもの
の,同文献中には,公知発明1のような医薬製剤としての経口投与用吸着
剤への転用について示唆する記載を見出すことはできない。
上に述べたところによれば,公知文献5及び6によっても,相違点Aに
係る構成に想到することが容易であるということはできない。
ウ公知発明1に公知文献2ないし6を組み合わせることによる本件発明2
の容易想到性の主張について
本件発明2は,本件発明1の構成を前提とするものであり,既に説示し
たとおり,本件発明1に係る構成に想到することが容易といえない以上,
本件発明2の構成に想到することが容易といえないことは,その余につい
て論ずるまでもなく明らかである。
エ以上のとおりであるから,被告の主張する各公知文献から,本件発明1
及び2に想到することが容易であったということはできない。
()以上のとおり,本件特許について,被告が主張する無効理由はいずれも認5
めることはできず,被告の主張はいずれも採用することができない。
4争点4(今後,構成要件Dを充足する被告製品が製造,販売される可能性が
高いか(本件特許権の侵害のおそれの有無)について)
()主位的請求について1
前記2のとおり,被告が現在製造販売している仕様変更後被告製品は,構
成要件Dを充足するとは認められないから,原告の主位的請求である別紙被
告製品目録(甲)で特定される被告製品(商品名を「キューカル細粒分包2
g「キューカルカプセル286mg」とする製品)の製造販売の差止請」,
求は,これを認容することができない。
()予備的請求について2
ア仕様変更前被告製品の在庫の販売のおそれについて
原告は,予備的請求として,別紙被告製品目録(乙)で特定される被告
製品の差止めを求めている。同目録記載1(1)及び2(1)は,ロット
番号で特定するものであり,これらは仕様変更前被告製品であることに争
いはない。
原告は,仕様変更前被告製品の全部が販売されて在庫が存在しない点に
ついて立証はないから,上記ロット番号で特定される被告製品の差止めを
認めるべきであると主張する。
しかしながら,証拠(甲5,乙38)及び弁論の全趣旨によれば,被告
製品の使用期限は製造より3年間であること,ロット番号の頭の数字が製
造年を示し(6」であれば2006年,それに続くアルファベットが「)
製造月を示す(A」であれば1月)ものであることが認められ,そうす「
ると,最も新しいものである「7DA」でも2010年(平成22年)4
月ころに使用期限が到来するものであることが認められる。このことと,
被告が,現在は仕様変更後被告製品を製造販売していることを考え合わせ
ると,仮に,被告がこれらのロットの在庫を保有していたり,今後,返品
等により在庫を保有することになったりしたとしても,それを販売する可
能性は低いといわざるを得ず,販売の可能性が高いとの原告の主張は採用
することができない。
したがって,予備的請求のうち,別紙被告製品目録(乙)記載1(1)
()(),及び21で特定される被告製品の製造販売の差止めに係る部分は
理由がない。
イ仕様変更前被告製品を新たに製造販売するおそれについて
原告は,仕様変更後被告製品の少なくとも一部は構成要件D(細孔直径
7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満であり)を充
足し本件特許権を侵害するものであるから,被告は,細孔容積をコントロ
ールする意思がないか,コントロールする製造能力がないかのいずれかで
あり,被告が今後,構成要件Dを充足する製品を製造,販売する可能性は
高いと主張する。
しかしながら,既に判断したとおり,仕様変更後被告製品につき,適切
に縮分操作を経て測定を行った実験においては,測定誤差と認められる1
つの結果を除き,いずれも細孔直径7.5~15000nmの細孔容積が
0.25mL/g以上であったのであり,この実験結果に照らすと,仕様
変更後被告製品が構成要件Dを充足しているということはできないから,
仕様変更後被告製品の少なくとも一部が構成要件Dを充足することを前提
とする原告の主張は採用することができない。
また,原告は,被告が仕様変更の具体的内容を明らかにしていないこと
を考慮すれば,被告が今後,仕様変更を元に戻し,構成要件Dを充足する
侵害品を製造,販売する可能性は高いと主張する。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,被告は,本件訴訟係属中にその
仕様を変更し,遅くとも平成20年3月ころには仕様変更前被告製品の製
造を完全に中止し,その後製造していないこと,それ以降は仕様変更後被
,()告製品のみを製造販売していること被告の代表取締役が陳述書乙38
において変更前の仕様に戻すことはしないと陳述していること,本判決で
仕様変更前被告製品につき本件特許権侵害が認められ,損害賠償請求が認
容されることを総合すれば,被告が,変更前の仕様に戻して構成要件Dを
充足する侵害品を製造販売するおそれが高いと認めることはできないとい
うべきである。
以上からすれば,被告が今後構成要件Dを充足する製品を製造,販売す
る可能性は高いとの原告の主張は,これを採用することができず,予備的
請求のうち,別紙被告製品目録(乙)記載1(2)及び2(2)で特定さ
れる被告製品の製造販売の差止めに係る部分についても,理由がない。
ウしたがって,原告の差止請求及びそれに付随する廃棄請求(予備的請求
も含む)は,いずれも理由がない。。
(())5争点5補正後の発明の内容を通知する必要があるか補償金請求に関し
について
()証拠(甲11の1・2)によれば,原告は,被告に対し,平成16年6月1
14日,国際公開された本件特許出願に係る発明の内容として「特許請求,
の範囲【請求項1】熱硬化性樹脂を炭素源として製造され,直径が0.0
1~1mmであり,そしてラングミュアの吸着式により求められる比表面積
が1000㎡/g以上である球状活性炭からなることを特徴とする,経口投
与用吸着剤【請求項2】全塩基性基が0.40meq/g以上の球状活性。
炭からなる請求項1に記載の経口投与用吸着剤(中略【請求項4】請求。)
項1~3のいずれか一項に記載の経口投与用吸着剤を有効成分とする,腎疾
患治療又は予防剤」と記載した内容証明郵便(本件通知書)を送付して警。
告し,同書面は,同月15日,被告に到達したことが認められる。
()被告は,本件通知書の受領の後に,補正により本件特許の特許請求の範囲2
が変更されており,再度の通知がないため,補償金支払請求権は発生してい
ないと主張する。
(),特許法184条の10同法65条も同様が補償金請求権の要件として
特許出願に係る発明の内容を記載した書面を示しての警告又は悪意を要求し
たのは,第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防
止するためであると解される。このような規定の趣旨に照らすならば,警告
後の補正によって登録請求の範囲が補正された場合において,その補正が願
書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において補正前
の特許請求の範囲を減縮するものであるときには,第三者が補正後の特許請
求の範囲の内容を知らなくとも不意打ちとはならないといえるから,上記補
正の後に再度の警告等をすることを要しないと解すべきである。
本件通知書に記載された特許請求の範囲の内容は前記認定のとおりであ
り,本件発明と比較すると,①「熱硬化性樹脂を炭素源として製造」が「フ
」,ェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として製造に補正されている点
(..②本件特許の構成要件D細孔直径75~15000nmの細孔容積が0
25mL/g未満が付加されている点及び③構成要件F回折強度比R),((
値)が1.4以上である球状活性炭を除く)が付加されている点で異なるも
のである。
しかしながら,①の相違点については,本件通知書において「熱硬化性樹
脂」としていたものを,熱硬化性樹脂である「フェノール樹脂又はイオン交
換樹脂」と具体化した補正であり,証拠(乙2の2)によれば,本件特許の
国際特許出願に係る明細書には,熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂及びイ
オン交換樹脂を用いることができる旨の記載があることが認められるから,
当該補正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内において補正前の特許請
求の範囲を減縮するものであることは明らかである。
②の相違点に関して,構成要件Dに関する事項として本件当初明細書(乙
2の2)に「本発明による経口投与用吸着剤として用いる球状活性炭又は表
面改質球状活性炭においては,一層優れた選択吸着性を得る観点から,細孔
直径7.5~15000nmの細孔容積が0.25mL/g未満,特に0.
。」(),2mL/g以下であることが好ましいとの記載がある9頁とともに
水銀圧入法による細孔容積の測定方法についての記載(10頁)及び実施例
の記載(17~18頁)があったことが認められ,構成要件Dを追加した補
正が本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,か
つ,同構成要件が追加されることで,特許請求の範囲が減縮されたものと認
められる。
また,③の相違点に関して,構成要件Fを追加した本件補正は,新たな技
術的事項を付加するものではなく,願書に最初に添付した明細書に記載した
事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲を減縮するものであると解す
べきことは既に述べたところから明らかである。
()したがって,上記の補正はいずれも,願書に最初に添付した明細書又は図3
面に記載した事項の範囲内において補正前の特許請求の範囲を減縮するもの
であって再度の警告等を要しないというべきであり,補償金請求の要件を満
たしているものと認められる。
6争点6(補償金の額)
()被告製品の売上高(平成16年9月から平成18年8月3日までの期間)1
平成16年9月から平成18年8月3日までの期間における被告製品の売
上高が,少なくとも1891万5000円であったことについて当事者間に
争いがなく,また,同金額を超えるものであったことについては,これを認
めるに足りる証拠はない。
()本件特許の実施料率2
本件特許は,従来技術の石油ピッチではなくフェノール樹脂又はイオン交
換樹脂を炭素源とすることにより優れた選択的吸着性があるとしているもの
の(本件明細書【0004【0005,原告は本件発明を実施してお】,】)
らず,従来技術である石油ピッチを炭素源とした球状活性炭の原告製品を製
造販売していることなどの事情を考慮すれば,本件において,本件特許の実
施料率は3パーセントと認めるのが相当である。
()このように,平成16年9月から平成18年8月3日までの期間における3
被告製品の売上高は,1891万5000円であり,本件特許の実施料率は
3パーセントであるから,この期間における補償金の額は,56万7450
円と認められる。
7争点7(不法行為に基づく損害賠償の額)
()被告は,原告が本件発明を実施していないことから,特許法102条2項1
は適用されないと主張する。
確かに,同項は,損害額の推定規定であり,損害の発生までをも推定する
規定ではないため,侵害行為による逸失利益が発生したことの立証がない限
り,適用されないものと解される。もっとも,侵害行為による逸失利益が生
じるのは,権利者が当該特許を実施している場合に限定されるとする理由は
なく,諸般の事情により,侵害行為がなかったならばその分得られたであろ
う利益が権利者に認められるのであれば,同項が適用されると解すべきであ
る。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告製品は,腎疾患治療薬(カプセル剤
及び細粒剤)である原告製品の後発医薬品として製造承認を受け販売されて
いるものであり,被告製品が製造販売されることで新たな需要を生み出すも
のではなく,腎疾患治療薬の市場において原告製品と競合し,シェアを奪い
合う関係にあること,球状活性炭の腎疾患治療薬における原告製品のシェア
が高いことが認められ,被告製品がなかったとした場合に原告製品ではなく
他の後発医薬品が売れたであろうとの事情を裏付ける証拠もない本件におい
ては,被告らによる侵害行為がなければ得られたであろう利益が原告に認め
られるのであって,本件には特許法102条2項が適用されるものと解する
のが相当である。
()特許法102条2項に基づく損害算定2
ア仕様変更前被告製品の売上高(平成18年8月4日以降)
被告は,仕様変更前被告製品の1箱当たりの売上高は,被告製品1-1
については1万4273円(1箱84包,被告製品2-1については1)
万4347円(1箱588カプセル)であり,本件特許登録日である平成
18年8月4日以降の出荷数は,被告製品1-1については9896箱,
被告製品2-1については1411箱と主張する。そして,1箱当たりの
売上高は薬価に基づいて算出していること,同出荷数を超える出荷があっ
たことを認めるに足りる証拠はないことから,平成18年8月4日以降平
成20年3月までの仕様変更前被告製品の売上高は,以下の計算式のとお
り合計1億6148万9225円と認められる。
なお,被告の主張によれば,仕様変更前被告製品の製造販売は,平成2
0年3月をもって完全に終了しているとされ,それ以降に仕様変更前被告
製品が製造販売されたことを認める証拠はない。
(計算式)
万円×箱+万円×箱=億万円142739896143471411161489225
イ仕様変更前被告製品の利益率
証拠(甲61)及び弁論の全趣旨によれば,被告の親会社である日医工
株式会社の平成18年12月1日から平成19年11月30日までの連結
会計年度における売上高に対する総利益の割合が48.3パーセントであ
り,営業利益が35.4パーセントであることが認められ,この事実から
すれば,原告が主張するとおり被告製品の利益率は30パーセントである
と認めるのが相当である。
なお,被告は,原材料費,加工費,試験費及び販売管理費の経費及び開
発費を売上から控除すべきであると主張する。しかしながら,被告の主張
するこれらの経費についての立証がされておらず,また,これらの費用が
侵害行為のために追加的に要した費用であるか明らかでないことからすれ
ば,これらを売上から控除して利益額を算定することは困難であるといわ
ざるを得ない。
ウ損害額
,,このように平成18年8月4日以降の仕様変更前被告製品の売上高は
1億6148万9225円であり,利益率が30パーセントであるから,
原告の被った損害額は,4844万6767円であると認められる。
()弁護士等費用3
本件訴訟の内容,認容額その他諸般の事情を考慮すれば,弁護士等費用と
しては400万円が相当であると認める。
()被告は,本件特許とは関係しない製造承認を受けたことに基づく後発医薬4
品としての地位が被告製品の売上に貢献していること,本件特許を侵害しな
いよう仕様変更をしても被告製品の販売を継続することができていること,
原告が本件特許を実施していないこと,本件特許の進歩性が極めて低く,か
つ,他の代替技術も存在することなどを主張して,寄与度減額すべきである
と主張する。
しかしながら,仕様変更前被告製品は,その全体が本件発明を実施してい
,,るものであること本件発明を実施することにより高い選択吸着性を実現し
原告製品の後発医薬品として製造承認を受けて製造販売してきたものである
と考えられることからすれば,被告の主張する事情をもって寄与度減額をす
べきと認めることはできない。
()以上によれば,平成18年8月4日から平成20年3月までの期間におい5
て仕様変更前被告製品が販売されたことより被った原告の損害は,4844
万6767円に弁護士等費用400万円を加えた5244万6767円と認
められる。
()なお,原告は,前記請求の趣旨()において,139万7914円の補償62
金請求に加えて,請求の趣旨()における請求と一部重複する期間である平3
成18年8月4日から同年10月31日までの期間における損害として請求
の趣旨()における請求とは別個に188万7184円を請求しているが,3
上記のとおり,本件の審理において,平成18年8月4日から平成20年3
月までの間における損害額の総額しか明らかにならず,その期間ごとの内訳
は明らかでないため請求の趣旨()で請求している期間に限った損害額は不2
明であるから,同請求は理由がないといわざるを得ない。
ただし,前記請求の趣旨()において,平成18年8月4日から平成203
年10月31日までの期間における損害及び弁護士等費用を請求しているた
め,同請求は,上記損害金全額(5244万6767円)について理由があ
ると認められる。
8結論
以上によれば,原告の請求のうち請求の趣旨()記載の被告製品の製造販売1
の差止め及び廃棄を求める部分(請求の趣旨())については,予備的請求も1
含めていずれも理由がないので,これを棄却することとする。
請求の趣旨()記載に係る請求(訴状記載の請求)のうち,特許法184条2
の10に基づく補償金56万7450円及びこれに対する訴状送達の日の翌日
である平成19年2月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,これを認容することとし,
その余は理由がないので,これを棄却することとする。
請求の趣旨()記載に係る請求(平成20年12月1日付け訴えの変更申立3
書記載の請求)のうち,不法行為に基づく損害賠償5244万6767円及び
これに対する同申立書送達の日の翌日である平成20年12月5日から支払済
みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので,
これを認容することとし,その余は理由がないので,これを棄却することとす
る。
そして,主文第1項については,仮執行宣言を付すこととし,仮執行免脱宣
言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官柵木澄子
裁判官舟橋伸行

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