弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中破上告人勝訴部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判
所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人阿部清治の上告理由一について。
 所論の債務免除に関する上告人の主張は認められないとした原審の認定判断は、
原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができる。原判決に所論の違法はな
く、論旨は採用することができない。
 同二について。
 原審は、上告人は、株式会社D製作所がE信用組合(以下単に組合と略称する。)
に対して負担していた借受金債務の連帯保証をしていたが、昭和三九年九月下旬、
同組合F支店において、支店長代理Gと折衝した結果、当時残存していた債務元本
の半額三三万三三一三円を上告人より翌一〇月以降毎月一万円宛割賦支払うとの合
意をしたうえ、右合意に基づいてその支払をしたこと、したがつて、右支払金につ
いては債務元本に充当するとの特約がGと上告人間に成立したことを認めたが、G
には組合を代理して右のような特約をする権限はなく、また、Gが支店長代理であ
るということだけで同人に代理権があると信ずべき正当の事由があつたとはいえな
いし、上告人よりGの基本代理権についてなんらの主張がないから、表見代理の成
立も認められないとして右特約に関する組合の責任を否定したのである。
 思うに、組合において支店長代理という名称が代理権を伴わない職制上の名称と
して用いられていたとしても、支店長代理という名称は、言葉の意味からすれば支
店長の代理人であることを表示するものであり、かかる名称を有する者とその所属
の支店店舗内において、組合に対する債務につき折衝をし前述のような合意をする
相手方は、特に支店長代理にその代理権がないことを知るべき特別の事情のないか
ぎり、支店長代理に代理権があると信ずるのは無理からぬことであつて、そう信ず
るにつき民法一一〇条にいう正当の事由があるというべきである。そうすると、正
当の事由についての原審の前述の判断には、民法一一〇条の解釈・適用を誤つた違
法があるといわなければならない。
 また、Gは、組合の上告人に対する本件債権について、前述のとおり、支店長代
理として上告人と折衝し、上告人よりその割賦支払を受ける旨合意し、組合は、右
支払金の弁済充当関係は別として、異議なくこれを収受していたのであつて、右事
実関係のもとにおいては、Gに基本代理権のあつたことが容易に窺われるのである
から、右事実関係が明らかになつているにもかかわらず、原審が、Gの基本代理権
につき上告人よりなんらの主張がないとしたことには、適切な釈明権の行使を怠り、
審理を尽くさなかつた違法があるものといわなければならない。
 そして、右の各違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、
原判決中上告人敗訴の部分は破棄を免れないところ、更に基本代理権の主張を明確
にさせ、代理権ありと信ずべき正当の事由の有無につき審理を尽くさせるため、右
部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻すのを相当とする。よつて、民訴法四〇
七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
 裁判官大隅健一郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫

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