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平成10年(行ケ)第143号審決取消請求事件(平成12年5月15日口頭弁論
終結)
          判     決
     原      告  紫香楽教材粘土株式会社
     代表者代表取締役  【A】
     原      告  日本フイライト株式会社
     代表者代表取締役  【B】
     上記両名訴訟代理人弁護士松村信夫
     同         和田宏徳
     同         中島純一
     被      告  松本油脂製薬株式会社
     代表者代表取締役  【C】
     訴訟代理人弁護士  叶   智加羅
     同         東谷宏幸
     同    弁理士  【D】
          主     文
    特許庁が、平成9年審判第4513号事件について、平成10年3月27
日にした審決を取り消す。
    訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告ら
   主文と同旨
 2 被告
   原告らの請求を棄却する。
   訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告らは、名称を「軽量粘土」とする特許第2117876号発明の特許権
者である(以下、この特許及び発明を、それぞれ「本件特許」、「本件発明」とい
う。)。本件特許の出願から設定登録までの経過は次のとおりである。
   昭和63年11月 1日 出願
   平成 元年 6月 5日 手続補正(審決記載の「第1回補正」、以下「第
1回補正」という。)
   平成 2年 5月10日 出願公開
   平成 5年11月25日 手続補正(審決記載の「第2回補正」、以下「本
件補正」という。)
   平成 6年 9月 7日 出願公告
   平成 8年12月 6日 設定登録
   被告は、平成9年3月18日、原告らを被請求人として、本件特許につき無
効審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成9年審判第4513号事件として審理したうえ、平
成10年3月27日に「特許第2117876号発明の特許を無効とする。」との
審決をし、その謄本は同年4月16日、原告らに送達された。
 2 特許請求の範囲
  (1) 願書に最初に添附した明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求
の範囲の記載
    熱可塑性重合体殻中に揮発性膨張剤を内包した熱膨張性粒子を加熱膨張さ
せた微小中空球を主成分としたことを特徴とする超軽量粘土。
  (2) 本件補正に係る明細書の特許請求の範囲の記載
    粒子中に気体を内包する軽量微小素材を主素材とし、これに合成粘結剤
と、馴合液材と、添加物とを加えて構成される軽量粘土において、上記軽量微小素
材が粒径1~200ミクロンの微小中空球であり、その外殻が単一の空間を内包
し、該外殻がアクリロニトリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共
重合樹脂から形成されることを特徴とする軽量粘土。
 3 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、(1)本件発明の要旨を本件補正に係る
明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定し、(2)本件補正が、明細書の要旨を変
更するものであるから、本件特許出願の日は、本件補正時である平成5年11月2
5日とみなすべきものであるとし、(3)本件発明が、特開平2-123390号公報
(審決甲第3号証、本訴甲第6号証、以下「引用例」という。)に記載された発明
と実質的に同一であるから、本件特許は、特許法29条1項3号の規定に反してな
されたものであり、同法123条1項1号(平成5年法律第26号による改正前の
もの)の規定により無効とすべきものであるとした。
第3 原告ら主張の審決取消事由の要点
 1 審決の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例の記載をそのまま摘記した部
分の認定(審決書15頁5行~16頁1行)、本件発明と引用例に記載された発明
とを対比すると、前者が、外殻を単一の空間を内包するもののみに限定しているの
に対し、後者が、該限定をするか否か不明である点でのみ相違するとの認定(同1
7頁3~7行)及び該限定は当業者が適宜選択設定し得る単なる設計事項であっ
て、該点で両者に実質的な差異があるとは認められないとの判断(同頁7~9行)
は認める。
   審決は、本件補正が明細書の要旨を変更するものであると誤って判断した
(取消事由)ことにより、本件特許出願の日が本件補正時である平成5年11月2
5日とみなすべきものであるとして、本件発明を引用例記載の発明と対比し、本件
発明が引用例記載の発明と同一であって、本件特許は、特許法29条1項3号の規
定に反してなされたものであるとの誤った結論に至ったものであるから、違法とし
て取り消されなければならない。
 2 取消事由(本件補正が明細書の要旨を変更するとの判断の誤り)
   審決は、本件補正において、本件明細書の特許請求の範囲に、「合成粘結
剤」、「馴合液剤」、「添加物」を記載した点、また、軽量微小素材の粒径として
「1~200ミクロン」を、微小中空球の外殻を形成するものとして「アクリロニ
トリルないし塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」を記載した点
が、いずれも当初明細書の記載から自明であったとはいえないから、本件補正は明
細書の要旨を変更するものであると判断したが、次のとおり、それは誤りである。
  (1) 要旨変更の基準
    本件補正については、平成5年法律第26号による改正前の特許法41条
が適用されるところ、同条の「願書に最初に添附した明細書・・・に記載した事項
の範囲内」であるとは、当初明細書に直接表現された事項のみならず、当初明細書
に直接表現されていなくとも、その記載から見て、出願時に当業者にとって自明で
ある事項もこれに含まれ、かつ、自明である事項とは、当初明細書に記載された技
術内容を出願時に客観的に判断するとき、それに記載してあったことに相当すると
認められる事項、すなわち当初明細書の記載から示唆される事項をいうものであ
る。また、当初明細書から見て当業者に自明でない事項(発明的事項を含む)の補
正をした場合であっても、それが参考的事項であって、これにより特許請求の範囲
に記載された技術的事項が何ら実質的に変更されないときは、その補正は要旨変更
ではないと解される。
  (2) 「合成粘結剤」を記載した点について
    「合成粘結剤」が本件補正により初めて記載された文言であり、これが、
「カルボキシメチルセルロース(粉)」と「カルボキシメチルセルロース(粉)を典型
例とするその他のもの」であること(審決書7頁17行~8頁7行)は認める。
    審決は、この点について、「当初明細書には、『合成粘結剤』に代わり得
る文言も見当たらず、該当する物質として『カルボキシメチルセルロース(粉)』の
記載はあるが、『カルボキシメチルセルロース(粉)を典型例とするその他のもの』
については示唆する記載もない。・・・当初明細書において、・・・該『その他の
もの』があり得ることさえ示唆されていないことから、該『その他のもの』を含む
ことを明確に表明した『合成粘結剤』が当初明細書の記載から自明であったとは言
えない。」(同8頁8行~9頁1行)と判断した。
    しかしながら、「合成粘結剤」とは、主素材である軽量微小素材の結合を
図り、粘性を出すための素材であるが、人工粘土の製造において、合成粘結剤とし
て、「カルボキシメチルセルロース」の他に、「メチルセルロース」あるいは「ポ
リビニルアルコール」等の「カルボキシメチルセルロースを典型例とするその他の
もの」を使用することは、本件特許出願当時、当業者に周知のことであった。
    そして、本件発明の本質は、粘土の主素材として、従来は「シラスバルー
ン」等が用いられていたのを、「粒子中に気体を内包する軽量微小素材」を用いる
ことにより、粘土の軽量化を図ったという点にあり、この新たな主素材以外の合成
粘結剤、馴合液材及び添加物についての本件明細書の記載は、これまでの粘土につ
いての汎用的技術要素を述べ、従来周知の事項を補足説明したものにすぎない。し
たがって、本件補正によって、「カルボキシメチルセルロース(粉)を典型例とする
その他のもの」を含むことが明確にされた「合成粘結剤」との記載が追加されたと
しても、当初明細書の技術的事項を実質的に変更するものではなく、要旨変更に当
たるものではない。
  (3) 「馴合液材」を記載した点について
    「馴合液材」が本件補正により初めて記載された文言であり、これが、
「水」、「常温水」、「油など水以外のその他のもの」及び「水にポリオールエー
テル粉を添加し、攪拌分散させた水溶液」であること(審決書9頁6~10頁1
行)は認める。
    審決は、この点について、「当初明細書には、『馴合液材』に代わり得る
文言も見当たらず、該当する物質として『水』、『常温水』、及び『常温水にポリ
オールエーテル粉を添加し、攪拌分散させた水溶液』の記載はあるが、『油など水
以外のその他のもの』については示唆する記載もない。そして、従来、粘土に『油
など水以外のその他のもの』を加えることが知られていたとしても、本件発明で特
定される粘土にまでこれを加えることが当然のこととされていた訳ではないから、
『油など水以外のその他のもの』を含む『馴合液材』が当初明細書の記載から自明
であったとは言えない。」(同10頁2~14行)と判断した。
    しかしながら、「馴合液材」とは、合成粘結剤の作用を助け、主素材、添
加物などを馴合させるための液材であるが、人工粘土の製造において、馴合液材と
して、「油など水以外のその他のもの」を使用することは、本件特許出願当時、当
業者に周知のことであった。
    そして、本件発明の本質が、軽量微小素材を主素材として用いた点にあ
り、馴合液材についての本件明細書の記載が、これまでの粘土についての汎用的技
術要素を述べ、従来周知の事項を補足説明したものにすぎないことは上記のとおり
であり、したがって、本件補正によって、「油など水以外のその他のもの」を含む
「馴合液材」との記載が追加されたとしても、当初明細書の技術的事項を実質的に
変更するものではなく、要旨変更に当たるものではない。
  (4) 「添加物」を記載した点について
    「添加物」が本件補正により初めて記載された文言であり、これが、「香
料や色素など」、「パルプ(繊維粉)」、「繊維粉」であること、当初明細書に、
添加物として、「岩石粉」、「パルプ繊維紛」、「繊維粉」等の記載があること
(審決書10頁19行~11頁17行)は認める。
    審決は、この点について、「当初明細書には、添加される物質とし
て・・・『香料や色素など』については示唆する記載もない。そして、従来、粘土
に『香料や色素など』を加えることが知られていたとしても、本件発明で特定され
る粘土にまでこれを加えることが当然のこととされていた訳ではないから、『香料
や色素など』を含む『添加物』が当初明細書の記載から自明であったとは言えな
い。」(同11頁15行~12頁4行)と判断した。
    しかしながら、人工粘土の製造において、添加物として、「香料」や「色
素」を使用することは、本件特許出願当時、当業者に周知のことであった。
    そして、本件発明の本質が、軽量微小素材を主素材として用いた点にあ
り、添加物についての本件明細書の記載が、これまでの粘土についての汎用的技術
要素を述べ、従来周知の事項を補足説明したものにすぎないことは上記のとおりで
あり、したがって、本件補正によって、「香料や色素など」を含む「添加物」との
記載が追加されたとしても、当初明細書の技術的事項を実質的に変更するものでは
なく、要旨変更に当たるものではない。
  (5) 軽量微小素材の粒径として「1~200ミクロン」を記載した点について
    軽量微小素材の粒径「1~200ミクロン」が当初明細書に記載されてい
ないこと(審決書12頁9~10行)は認める。
    審決は、この点について、「この数値範囲が、従来、粘土に用いられる軽
量微小素材の一般的粒径の範囲として良く知られた範囲内のものであるとしても、
本件発明で特定される粘土の該粒径をこの数値範囲にすることが当然のこととされ
ていた訳ではないから、この数値範囲が当初明細書の記載から自明であったとは言
えない。」(同頁11~17行)と判断した。
    しかしながら、この点の補正は、当初明細書において無限定であった軽量
微小素材の粒径を、「1~200ミクロン」と数値限定したものであって、単に特
許請求の範囲を減縮したものにすぎないから、当初明細書に記載した事項の範囲内
における補正であって、要旨変更に当たるものではない。
    また、軽量微小素材の粒径を1~200ミクロンとすることは、平成元年
6月5日の第1回補正に係る明細書に記載されているから(なお、第1回補正は、
本件特許出願に係る公開公報である引用例の頒布時より前になされたものであ
る。)、仮に、該粒径として「1~200ミクロン」を記載した点が要旨変更に当
たるとしても、本件特許出願の日を、本件補正時である平成5年11月25日とみ
なす根拠とはなり得ない。
  (6) 微小中空球の外殻を形成するものとして「アクリロニトリルないし塩化ビ
ニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」を記載した点について
    該記載に関連するものとして、当初明細書に、該外殻が「熱可塑性重合
体」、具体的には「塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-
アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹
脂」を主成分とすることが記載されていること(審決書13頁12~20行)は認
める。
    審決は、この点について、「この当初明細書の記載から把握できる共重合
樹脂は、アクリロニトリルが共通であることから、せいぜい、『アクリロニトリル
を少なくとも一成分とする共重合樹脂』であり、『塩化ビニリデンを少なくとも一
成分とする共重合樹脂』までも読み取ることはできない。また、従来、『塩化ビニ
リデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂』で外殻を形成した微小中空球自体が
知られていたとしても、当初明細書に記載された目的・効果を達成するために、粘
土にこれを用いることが当然のこととされていた訳ではないから、該点は当初明細
書の記載から自明であったとは言えない。」(同14頁1~13行)と判断した。
    しかしながら、上記のとおり、当初明細書に、微小中空球の外殻が「塩化
ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂」を主成分とすることが記載されていた
以上、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」が当初明細書に含
まれていたことは明らかである。
    また、「熱可塑性重合体」に、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とす
る共重合樹脂」が含まれることは、本件特許出願当時、当業者に周知のことであっ
たから、本件補正によって、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹
脂」との文言が追加されたとしても、単に従来周知の事項を補足説明したものにす
ぎない。
    したがって、この点の補正が要旨変更に当たるものではない。
  (7) 以上のように、本件補正が明細書の要旨を変更するものであるとした根拠
となる各点についての審決の判断は、いずれも誤りであるから、本件補正が明細書
の要旨を変更するものであるとする審決の判断も誤りである。
第4 被告の反論の要点
 1 審決の認定・判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本件補正が明細書の要旨を変更するとの判断の誤り)について
  (1) 要旨変更の基準について
    特許請求の範囲の補正が要旨変更に当たるか否かは、当該補正が当初明細
書の記載から見て、当業者にとって自明な事項であるかどうかという基準によって
判断されるが、かかる自明事項であるかどうかということと、その発明の属する技
術分野において周知事項であるかどうかということとは、問題を異にし、たとえ周
知事項であっても、それが自明事項であるかどうかは、当該発明の目的との関係に
おいて判断されるべき事柄である。
    しかるときは、本件発明が、広く「粘土」に関するものではなく、「軽量
粘土」に関するものであるから、補正事項が当初明細書の記載から見て自明といえ
るためには、それが粘土の技術分野において周知技術であるだけでは足りず、「軽
量粘土」の発明の目的・効果との関係において判断した場合に、その事項自体が記
載してあったことに相当すると認められなければならず、「軽量粘土」の発明の目
的との関係で、補正された事項が周知かどうかが判断されるべきものである。
  (2) 「合成粘結剤」を記載した点について
    原告らは、「合成粘結剤」が、主素材である軽量微小素材の結合を図り、
粘性を出すための素材であって、人工粘土の製造において、合成粘結剤として、
「カルボキシメチルセルロース」の他に、「メチルセルロース」、「ポリビニルア
ルコール」等の「カルボキシメチルセルロースを典型例とするその他のもの」を使
用することは、本件特許出願当時、当業者に周知のことであったと主張するが、原
告らが述べるような機能を持つ素材を「合成粘結剤」ということが、本願特許出願
時において、「軽量粘土」の技術分野において周知であったとする根拠はなく、
「合成粘結剤」として「カルボキシメチルセルロースを典型例とするその他のも
の」が「軽量粘土」の技術分野において周知であったということもできない。
    また、原告らは、本件発明の本質が、粘土の主素材として「粒子中に気体
を内包する軽量微小素材」を用いることにより、粘土の軽量化を図ったという点に
あり、この新たな主素材以外の合成粘結剤、馴合液材及び添加物についての本件明
細書の記載は、これまでの粘土についての汎用的技術要素を述べ、従来周知の事項
を補足説明したものにすぎないとも主張するが、原告らの主張によれば、「合成粘
結剤」は、主素材である軽量微小素材の結合を図り、粘性を出すための素材である
から、本件発明における軽量化という目的が、軽量微小素材の存在のみによって達
成されるということはできず、合成粘結剤や、さらに馴合液剤、添加物により影響
されることが明らかである。
  (3) 「馴合液材」を記載した点について
    原告らは、「馴合液材」が、合成粘結剤の作用を助け、主素材、添加物な
どを馴合させるための液材であって、人工粘土の製造において、馴合液材として、
「油など水以外のその他のもの」を使用することは、本件特許出願当時、当業者に
周知のことであったと主張するが、原告らが述べるような機能を持つ素材を「馴合
液材」ということが、本願特許出願時において、「軽量粘土」の技術分野において
周知であったとはいえず、「馴合液材」として「油など水以外のその他のもの」が
「軽量粘土」の技術分野において周知であったとすることもできない。
    また、原告らは、本件発明の本質が、軽量微小素材を主素材として用いた
点にあり、馴合液材についての本件明細書の記載が、これまでの粘土についての汎
用的技術要素を述べ、従来周知の事項を補足説明したものにすぎないとも主張する
が、上記のとおり、本件発明における軽量化という目的が、馴合液剤等によって影
響されることは明らかである。
  (4) 「添加物」を記載した点について
    原告らは、人工粘土の製造において、添加物として、「香料」や「色素」
を使用することは、本件特許出願当時、当業者に周知のことであったと主張する
が、「軽量粘土」に「香料や色素など」を「添加物」として加えることが周知であ
ったとする根拠はなく、また、「香料や色素など」の添加物が、本件発明の目的・
効果と無関係であると断定することもできない。
  (5) 軽量微小素材の粒径として「1~200ミクロン」を記載した点について
    原告らは、この点が、当初明細書において無限定であった軽量微小素材の
粒径を、「1~200ミクロン」と数値限定したものであって、単に特許請求の範
囲を減縮したものにすぎないから、当初明細書に記載した事項の範囲内における補
正であって、要旨変更に当たるものではないと主張するが、当初明細書に数値限定
のない発明について、数値限定を新たに加える補正は、当初明細書の数値限定をさ
らに減縮する補正とは異なり、新たな構成要件の付加に該当するものであって、当
然に当初明細書に記載した事項の範囲内における補正といい得るものではない。
    また、原告らは、軽量微小素材の粒径として「1~200ミクロン」を記
載した点が、第1回補正に係る明細書に記載されているから、これが要旨変更に当
たるとしても、本件特許出願の日を、本件補正時である平成5年11月25日とみ
なす根拠とはなり得ないと主張するが、それだけの理由で審決が違法であるとする
ことはできない。
  (6) 微小中空球の外殻を形成するものとして「アクリロニトリルないし塩化ビ
ニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」を記載した点について
    原告らは、「熱可塑性重合体」に、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分
とする共重合樹脂」が含まれることが、本件特許出願当時、当業者に周知であった
と主張するが、軽量粘土の微小中空球の素材として、「塩化ビニリデンを少なくと
も一成分とする共重合樹脂」が本件特許出願時に周知であったとする根拠はない。
    また、本件発明の目的の達成に、微小中空球の外、合成粘結剤や馴合液材
が関与することは上記のとおりであるから、本件発明において微小中空球の素材が
「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」であるか、「アクリロニ
トリルを少なくとも一成分とする共重合樹脂」であるかが、合成粘結剤や馴合液剤
との関連性を無視して、本件発明の目的・効果と無関係であるとすることもできな
い。
  (7) 以上のとおり、本件補正が明細書の要旨を変更したものであるとする審決
の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本件補正が明細書の要旨を変更するとの判断の誤り)について
  (1) 本件補正について適用される平成5年法律第26号による改正前の特許法
41条は、「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した
明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又
は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と定めるところ、
ここでいう「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」に
は、必ずしも明細書に直接表現されていなくとも、明細書の記載からみて、出願時
に当業者にとって自明である技術的事項もこれに含まれるものと解される。そし
て、そのような自明である事項に当たるというためには、その事項自体が、その考
案の属する技術分野において周知の技術的事項であって、かつ、当業者であれば、
その発明の目的から見て当然にその発明に適用できるものと容易に判断することが
でき、その事項が明細書に記載されているのと同視できるものであることを要する
ものと解すべきである。
    そこで、まず、当初明細書の記載に基づき、本件発明の目的・内容等につ
いて検討する。
    当初明細書(甲第3号証添付)には、前示のとおり、「熱可塑性重合体殻
中に揮発性膨張剤を内包した熱膨張性粒子を加熱膨張させた微小中空球を主成分と
したことを特徴とする超軽量粘土」(特許請求の範囲)の発明が記載され、その発
明の詳細な説明には、「従来の技術」として、「従来の工芸用や教材用等に使用さ
れる粘土は、岩石粉等の重い無機物の添加量が多いため、大きな構造物を作つた場
合に、突出部が自重で変形したり、薄く延ばしたり細く伸ばしたりすることによ
り、折れ曲がる。・・・これらの欠点を解消するために、粘土の軽量化がなされて
いる。すなわち、粘土の軽量化のためにシラスバルーンを主成分とした技術があ
る。」(同号証添付明細書1頁13行~2頁6行)との記載が、「発明が解決しよ
うとする課題」として、「シラスバルーンを主成分とした工芸教材用等の粘土は、
未だ岩石粉(重炭酸カルシウム、タルク、クレー等)を多く混合しており、また、
シラスバルーンが製造工程中に容易に破砕されることが多く・・・粘土の軽量化に
大きな妨げとなっている。また、シラスバルーンは、黄褐色の特有な色を有するた
めに白色度の高い粘土が得られにくく、・・・本考案は上記課題に鑑み、充分な軽
量化を実現し得るとともに、乾燥後の彩色に際し鮮明な色付けができる粘土の提供
を目的とする。」(同2頁8行~3頁1行)との記載が、「実施例」として、「本
発明に使用する熱膨張性粒子は、外殻が塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合
樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹脂、メチルメタクリレート-アクリ
ロニトリル共重合樹脂を主成分とし、内部に揮発性流体膨張剤としてプロパ
ン・・・等の炭化水素を内包製造方法等は特公昭42-26524号公報に記載さ
れたものである。本用途の場合は上記の粒子を加熱処理して膨張させた微小中球体
を使用する。また、本発明の粘土においては、熱膨張性微小中空球を3~20部
(重量部)、繊維粉を10~30部、カルボキシメチルセルロースを10~20部
それぞれ粉末にして混合攪拌し、均一な粉末混合物とする。一方、常温水50~6
0部にポリオールエーテル粉を3~8部添加し、攪拌分散させた水溶液を作り、前
記粉末混合物に添加して混練する。・・・本発明の実施例では具体的に、熱膨張性
微小中空球12部、パルプ繊維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の
粉末を混合攪拌し、・・・別にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散
し、・・・上記粉末混合物に添加し混練して製造した。粘土の製造工程中、熱膨張
性微小中空球が特有の弾力性を有するため熱膨張性微小中空球が破砕されることも
ほとんどなかった。・・・熱膨張性微小中空球は、光を乱反射する性質があるの
で、白色度の高い繊維粉と混合することにより・・・極めて白色度の高い粘土が得
られ、・・・シラスバルーンの代りに熱膨張性微小中空球を使用・・・することに
より、シラスバルーンを使用した粘土のように撹拌混合するほど比重が増加すると
いったこともなく、粘土の全体重量を・・・押えることができ、」(同4頁9行~
7頁16行)との記載がある。
    これらの記載によれば、当初明細書には、従来の粘土の、重いという問題
点を解決すべく、シラスバルーンを主成分とする軽量粘土があるが、撹拌混合によ
りシラスバルーンが破砕されて比重が増大することや、特有の色を有し、白色度の
高い粘土が得られにくい等の問題が未だ存在するため、本件発明は、これらの課題
の解決のため、シラスバルーンに代えて、「熱可塑性重合体殻中に揮発性膨張剤を
内包した熱膨張性粒子を加熱膨張させた微小中空球」を主成分とする構成を採用し
たことにより、該微小中空球が、軽く、特有の弾力性があって、破砕されることも
ないため、粘土の全体重量を大幅に軽減するとともに、該微小中空球が、光を乱反
射するため、白色度の高い繊維粉と混合して白色度の高い粘土を得ることができる
との作用効果を奏するものであるとの記載があることが認められる。
    そこで、以下、本件補正が明細書の要旨を変更するものであると審決が判
断するに当たって、その根拠とした事項について順次検討する。
  (2) 微小中空球の外殻を形成するものとして「アクリロニトリルないし塩化ビ
ニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」を記載した点について
    便宜上、この点から検討する。
    微小中空球の外殻を形成するものに関し、当初明細書の特許請求の範囲
に、「熱可塑性重合体殻中に揮発性膨張剤を内包した熱膨張性粒子を加熱膨張させ
た微小中空球」との、特に種類を限定しない「熱可塑性重合体」とする記載がある
ことは前示のとおりである。他方、当初明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る
記載中には、前示(1)のとおり、「本発明に使用する熱膨張性粒子は、外殻が塩化ビ
ニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂、酢酸ビニル-アクリロニトリル共重合樹
脂、メチルメタクリレート-アクリロニトリル共重合樹脂を主成分とし、」との、
3種類の重合体樹脂が挙げられているが、この記載が、単に、特許請求の範囲記載
の「熱可塑性重合体」樹脂の具体例を例示したものであって、粘土の軽量化及び白
色度の向上という本件発明の効果は、シラスバルーンに代えて用いる微小中空球
が、軽く、弾力性を有していて粉砕されにくく、光を乱反射する性質を有すること
により達成されるものであること、したがって、前示本件発明の効果は、用いるべ
き「熱可塑性重合体」が、微小中空球を形成できないとか、微小中空球を形成して
も、シラスバルーンと同様、容易に破砕されるとか、呈色する等の特段の事由がな
い限り、その種類に格別左右されることなく達成されるであろうことは、当業者で
あれば、当初明細書の記載に基づき、技術的に自明のこととして理解するものと認
められる。
    被告は、本件発明における軽量化という目的の達成が、軽量微小素材(微
小中空球)の存在のみならず、合成粘結剤、馴合液剤、添加物により影響されるか
ら、これらとの関連性を無視して、該目的が、微小中空球の素材が「塩化ビニリデ
ンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」であるか、「アクリロニトリルを少なく
とも一成分とする共重合樹脂」であるかと無関係である(すなわち、「熱可塑性重
合体」の種類に左右されない)とすることはできないと主張するが、該主張は、当
初明細書に前示(1)のとおり記載された本件発明の効果が、合成粘結剤、馴合液剤、
添加物により具体的にどのような影響を受けるかという点、また、用いるべき「熱
可塑性重合体」が、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」であ
るか、「アクリロニトリルを少なくとも一成分とする共重合樹脂」であるかによっ
て、具体的に本件発明の目的・効果にどのような相違が生じるかという点につい
て、それぞれ主張、立証を欠くものであって、採用し得ない。
    しかるところ、昭和55年10月15日第9刷発行の【E】外1名著「プ
ラスチックの実際知識」(甲第19号証)及び昭和52年2月15日18版発行の
【F】外2名著「工業化学基礎講座7 高分子工業化学」(甲第20号証)には、
いずれも塩化ビニリデンを1成分とする共重合物が掲載されており、これらの文献
がプラスチックの分野における一般的概説書であると認められることも併せ考える
と、本件特許の出願当時、塩化ビニリデンを1成分とする共重合体樹脂が、当業者
にとって周知であったものと認められ、また、これらの文献を含め、塩化ビニリデ
ンを1成分とする共重合体樹脂が、微小中空球を形成できないとか、微小中空球を
形成しても、シラスバルーンと同様、容易に破砕されるとか、呈色する等の事情が
存することを認めるに足りる証拠は存在しない。
    加えて、前示のとおり、当初明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る記
載中に例示されている3種類の重合体樹脂のうち、塩化ビニリデン-アクリロニト
リル共重合樹脂は、塩化ビニリデンを1成分とする共重合体樹脂にほかならない。
    そうすると、当業者であれば、本件発明の目的から見て、「塩化ビニリデ
ンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」が、微小中空球の外殻を形成する「熱可
塑性重合体」として、本件発明に適用することができると判断することは容易であ
って、「塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」は、当初明細書に
記載されていたと同視できるものであると認めることができる。
    被告は、本件特許出願時に、軽量粘土の微小中空球の素材として「塩化ビ
ニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」が周知であったとする根拠はない
とも主張するが、上如のとおりであるから、この主張も採用することができない。
    したがって、審決が、「当初明細書の記載から・・・『塩化ビニリデンを
少なくとも一成分とする共重合樹脂』までも読み取ることはできない。また、従
来、『塩化ビニリデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂』で外殻を形成した微
小中空球自体が知られていたとしても、当初明細書に記載された目的・効果を達成
するために、粘土にこれを用いることが当然のこととされていた訳ではないから、
該点は当初明細書の記載から自明であったとは言えない。」として、本件補正にお
いて、微小中空球の外殻を形成するものとして「アクリロニトリルないし塩化ビニ
リデンを少なくとも一成分とする共重合樹脂」を記載した点が要旨変更に当たると
した判断は誤りであるといわざるを得ない。
  (3) 「合成粘結剤」を記載した点について
    審決の理由中、「合成粘結剤」が本件補正により初めて記載された文言で
あり、これが、「カルボキシメチルセルロース(粉)」と「カルボキシメチルセルロ
ース(粉)を典型例とするその他のもの」であることは、原告らにおいて争わないと
ころである。
    しかして、当初明細書に、本件発明の構成上、軽く、特有の弾力性を有す
る熱可塑性重合体殻の熱膨張性微小中空球を粘土の主成分としたことが記載されて
いることは、前示(1)のとおりであるところ、かかる熱可塑性樹脂製の弾性体である
該微小中空球自体は、粘性、可塑性ないし成形性、保形性、他の物体との接着性等
の粘土に不可欠な特性を有していないことは技術常識であり、したがって、該主成
分のみで粘土を構成することは不可能であり、本件発明は、該主成分に加えて、粘
土に前示粘性等の各特性を付与し、主成分を粘結する機能を有する成分を当然含む
べきことは、当業者において、技術的に自明なこととして理解されるものと認めら
れる。
    しかるところ、当初明細書の発明の詳細な説明に、実施例として、「本発
明の粘土においては、熱膨張性微小中空球を3~20部(重量部)、繊維粉を10
~30部、カルボキシメチルセルロースを10~20部それぞれ粉末にして混合攪
拌し、均一な粉末混合物とする。一方常温水50~60部にポリオールエーテル粉
を3~8部添加し、攪拌分散させた水溶液を作り、前記粉末混合物に添加して混練
する。・・・本発明の実施例では具体的に、熱膨張性微小中空球12部、パルプ繊
維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を混合攪拌し、・・・別
にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、・・・上記粉末混合物に添
加し混練して製造した。」との記載があることは、前示(1)のとおりであり、カルボ
キシメチルセルロース(粉)については、さらに、当初明細書(甲第3号証添付)
に、「カルボキシメチルセルロース粉の添加量が5部未満では粘土の可塑性が乏し
くなり、20部を越えると手に付着し易くなり、造形が困難になる。」(同号証添
付明細書5頁14~16行)との記載があって、これらの記載からすれば、カルボ
キシメチルセルロース粉の添加量が適正であるときは、粘土に必要十分な粘性、可
塑性を与えること、すなわち、カルボキシメチルセルロース(粉)が、前示のとお
り、本件発明が当然に含んでいるべき、粘性等の特性を有さない主成分の微小中空
球を粘結する成分であることが理解される。したがって、当初明細書において、カ
ルボキシメチルセルロース(粉)は、「粘結剤」あるいは「合成粘結剤」と称されて
はいなかったにしても、そのように称することのできる成分として、具体的に記載
されていたことが認められる。
    ところで、特開昭54-153826号公報(甲第9号証)には、「温度
70℃以上、加熱時間10分間以上で加熱処理脱水した粒度10~200メッシュ
の木粉・・・に、・・・繊維・・・を混合し、更に水溶性糊剤を加えて混練しつつ
水を加えて針入度を100~350に調整することより成る木質粘土の製造法」
(同号証特許請求の範囲請求項3)の発明が記載され、その発明の詳細な説明に
は、「糊剤を用いる主目的は接着であり、水溶性糊剤としてはCMC(カルボキシ
メチルセルロース)、MC(メチルセルロース)、α化デン粉などがある。添加量
を1~10部としたのは1部未満では接着力が弱くなり、10部を超えると製品が
ベタツイて工作がし難くなるためである。」(同号証3頁右上欄2~7行)との記
載があるところ、これらの記載によれば、当該木質粘土の製造法(木紛自体が、粘
性等の粘土に不可欠な特性を有さないこと、したがって、該粘土も、主成分に加え
て、粘土に粘性等の各特性を付与し、主成分を粘結する機能を有する成分を当然含
むべきことは、技術常識上明らかである。)の発明における「水溶性糊剤」が、
「接着」との用語を用いているものの、粘土の主成分である木粉を粘結する「粘結
剤」と称されるべき成分であること、及び該成分として、カルボキシメチルセルロ
ース以外に、メチルセルロースやα化デン粉などがあることが理解される。また、
特開昭57-130080号公報(甲第14号証)には、「化学糊等の粘着剤を含
んだ・・・造形用発色粘土」(同号証特許請求の範囲)の発明が記載され、その発
明の詳細な説明には、「本例粘土1は、容積比で,焼成した火山灰25%、パルプ
センイ20%、塩化コバルトの水溶液50%、メチルセルロースの合成糊料5%を
配合して練り上げたものである。・・・粘着剤、増粘剤となる合成糊料の配合によ
って造形性のある化学粘土となっている。」(同号証2欄14行~3欄4行)、
「化学糊等の粘着剤の成分は問わず、繊維素グリコール酸ナトリウムのセルローズ
誘導体等種々のものとすることができる。」(同号証4欄12~15行)との各記
載があり、これらの記載によれば、当該化学粘土の発明において、粘着剤・増粘剤
と称されている化学糊あるいは合成糊料が、本件補正に係る明細書記載の粘結剤に
相当する成分であって、その具体例として、メチルセルロースがあり、さらに、繊
維素グリコール酸ナトリウムのセルローズ誘導体等種々のものもこれに当たり得る
ことが理解される。
    そうすると、本件特許の出願当時、本件補正に係る明細書記載の「粘結
剤」に相当する成分として、粘土の製造に使用することができるものとしては、一
般に、カルボキシメチルセルロース以外に、少なくともメチルセルロースがあるこ
とは、当業者にとって周知の事項であったものと認められる。そして、前示(1)のと
おり、本件発明の目的が、粘土の主成分として、シラスバルーンに代えて、熱可塑
性重合体殻の熱膨張性微小中空球を用い、粘土の軽量化及び白色度の向上という効
果を奏することにあることに鑑みれば、当業者が、当該粘結剤に相当する成分とし
ては、カルボキシメチルセルロースの外に、一般に用いられるメチルセルロースも
本件発明に適用することができると判断することは容易であって、「メチルセルロ
ース」は、当初明細書に記載されていたと同視できるものであると認めることがで
きる。
    被告は、「合成粘結剤」として「カルボキシメチルセルロースを典型例と
するその他のもの」が「軽量粘土」の技術分野において周知であったということは
できないと主張するが、当初明細書(甲第3号証添付)及び本件補正に係る明細書
(甲第5号証添付)の記載に照らして、本件発明が、粘土の軽量化を解決すべき技
術課題とし、それを達成したことによって、明細書上、これを「超軽量粘土」ある
いは「軽量粘土」と称していることは明らかであって、そのような「超軽量粘
土」、「軽量粘土」が、一般の粘土と別個の性質・形態の粘土であるとされている
わけではないから、補正事項が当初明細書の記載から見て自明といえるかどうか
を、発明の目的との関係において判断すべきであるということは、特に「軽量粘
土」の技術分野なるものを考慮すべきことを意味するものではなく、むしろ、本件
発明において、軽量化を達成した具体的な技術手段と、該補正事項との技術的な関
連性の有無・内容に着目すべきことを意味するものである。そして、かかる観点か
ら見て、当業者が、粘結剤に相当する成分としては、カルボキシメチルセルロース
の外に、一般に用いられるメチルセルロースも本件発明に適用することができると
判断することが容易であって、「メチルセルロース」は、当初明細書に記載されて
いたと同視できるものであると認められることは前示のとおりであり、また、カル
ボキシメチルセルロースやメチルセルロースが、人工的に合成されるもので、「合
成粘結剤」とも称し得るものであることも当業者にとって自明であると認められる
から、被告の前示主張を採用することはできない。
    さらに、被告は、本件発明における軽量化という目的の達成が、軽量微小
素材(微小中空球)の存在のみならず、合成粘結剤、馴合液剤、添加物により影響
されるとも主張するが、この主張が採用し難いことも前示のとおりである。
    したがって、本件補正によって、本件明細書に「合成粘結剤」との記載を
なし、カルボキシメチルセルロース(粉)の外に、「カルボキシメチルセルロース
(粉)を典型例とするその他のもの」(例えばメチルセルロース)を含ましめたこと
が、明細書の要旨を変更するものということはできず(仮に、「粘結剤」ないし
「合成粘結剤」との呼称自体が周知ではなかったとしても、その点が左右されるも
のではない。)、審決が、「当初明細書には、『合成粘結剤』に代わり得る文言も
見当たらず、該当する物質として『カルボキシメチルセルロース(粉)』の記載はあ
るが、『カルボキシメチルセルロース(粉)を典型例とするその他のもの』について
は示唆する記載もない。・・・当初明細書において、・・・該『その他のもの』が
あり得ることさえ示唆されていないことから、該『その他のもの』を含むことを明
確に表明された『合成粘結剤』が当初明細書の記載から自明であったとは言えな
い。」と判断したことは誤りといわなければならない。
  (4) 「馴合液材」を記載した点について
    審決の理由中、「馴合液材」が本件補正により初めて記載された文言であ
り、これが、「水」、「常温水」、「油など水以外のその他のもの」及び「水にポ
リオールエーテル粉を添加し、攪拌分散させた水溶液」であることは、原告らにお
いて争わないところである。
    しかるところ、当初明細書の発明の詳細な説明に、実施例として、「本発
明の粘土においては、熱膨張性微小中空球を3~20部(重量部)、繊維粉を10
~30部、カルボキシメチルセルロースを10~20部それぞれ粉末にして混合攪
拌し、均一な粉末混合物とする。一方常温水50~60部にポリオールエーテル粉
を3~8部添加し、攪拌分散させた水溶液を作り、前記粉末混合物に添加して混練
する。・・・本発明の実施例では具体的に、熱膨張性微小中空球12部、パルプ繊
維粉18部、カルボキシメチルセルロース粉12部の粉末を混合攪拌し、・・・別
にポリオールエーテル粉5部を常温水53部に分散し、・・・上記粉末混合物に添
加し混練して製造した。」との記載があることは、前示(1)のとおりであり、水につ
いては、さらに、当初明細書(甲第3号証添付)に、「水の添加量は50部未満で
は粘土が硬すぎて造形作業がしにくく、60部を越えると軟化して造形性が乏し
く、さらに軽量化を達成できない。」(同号証添付明細書6頁3~5行)との記載
がある。
    これらの記載によれば、当初明細書に、「『水』、『常温水』、及び『常
温水にポリオールエーテル粉を添加し、攪拌分散させた水溶液』の記載はある」
(審決書10頁4~6行)ことのみならず、水(常温水)が、本件発明の粘土にお
ける唯一の液体成分として存在し、熱膨張性微小中空球、繊維粉、カルボキシメチ
ルセルロース、ポリオールエーテル粉という液状でない成分を馴合させる(馴み合
わせる)機能を果たして、粘土に柔軟性を与えていることが、当業者において、技
術的に自明なこととして理解されるものと認められる。換言すれば、非液状成分を
馴合させ、粘土としての柔軟性を与えるために、液体成分を要することは自明であ
り、本件発明において、水(常温水)は、そのような液体成分として、すなわち、
「馴合液材」と称されてはいなかったにしても、そのように称することのできる成
分として、当初明細書に具体的に記載されていたことが認められる。
    ところで、特開昭60-53983号公報(甲第16号証)には、「ワッ
クス、常温で液状又は半固体状で不乾性の動植物油又は鉱物油等の油分、HLBが
10~15の非イオン界面活性剤および/又はアニオン界面活性剤、および焼石こ
うよりなる油ねんど組成物」(同号証特許請求の範囲)の発明が記載され、その発
明の詳細な説明に、「この発明で用いられる常温で液状又は半固体状で不乾性の動
植物油又は鉱物油としては、やし油、ひまし油、オリーブ油、ラノリン、流動パラ
フイン、ワセリン等が例示でき、さらにポリブテン等の合成油状物質があげられ
る・・・これらの油分は油ねんど組成物に柔軟性と延伸性を与えるもので、・・・
油分が25部を越えると軟かくて形くずれしやすくなり4部より少ないと粘性が小
さくかつもろくなる。」(同号証2頁左上欄7~18行)との記載があり、また、
特開昭60-182478号公報(甲第17号証)には、「ワックス、常温で液状
又は半固体状で不乾性の動植物油又は鉱物油等の油分、HLBが10~15の非イ
オン界面活性剤および/又はアニオン界面活性剤、焼石こう、潮解性およびアルコ
ール可溶性の無機塩、および吸湿性ある常温液状の多価アルコールよりなる油ねん
ど組成物」(同号証特許請求の範囲)の発明が記載され、その発明の詳細な説明
に、「常温で液状又は半固体状で不乾性の動植物油又は鉱物油」について、前示特
開昭60-53983号公報(甲第16号証)の記載とほぼ同様の記載(甲第17
号証2頁左上欄10~20行)があるところ、これらの記載によれば、当該各油粘
土組成物の発明において、「常温で液状又は半固体状で不乾性の動植物油又は鉱物
油等の油分」が、他の成分を馴合させ、粘土としての柔軟性を与える機能を有して
いること、すなわち、本件補正に係る明細書記載の馴合液材に当たる成分であるこ
とが理解される。
    そうすると、本件特許の出願当時、本件補正に係る明細書記載の「馴合液
材」に相当する成分として、粘土の製造に使用することができるものとしては、一
般に、水以外に、少なくとも、やし油、ひまし油、オリーブ油、ラノリン、流動パ
ラフイン、ワセリン等、あるいはポリブテン等の合成油状物質などの油成分がある
ことは、当業者にとって周知の事項であったものと認められる。そして、前示(1)の
とおり、本件発明の目的が、粘土の主成分として、シラスバルーンに代えて、熱可
塑性重合体殻の熱膨張性微小中空球を用い、粘土の軽量化及び白色度の向上という
効果を奏することにあることに鑑みれば、当業者が、当該「馴合液材」に当たるも
のとしては、水以外に、これら周知の油分も本件発明に適用することができると判
断することは容易であって、「油など水以外のその他のもの」は、当初明細書に記
載されていたと同視できるものであると認めることができる。
    被告は、「馴合液材」として「油など水以外のその他のもの」が「軽量粘
土」の技術分野において周知であったとすることはできないと主張するが、「軽量
粘土」の技術分野なるものを考慮する余地がないこと、当業者が、馴合液材に当た
るものとしては、水以外に、前示周知の油分も本件発明に適用することができると
判断することが容易であって、「油など水以外のその他のもの」は、当初明細書に
記載されていたと同視できるものであると認められることは前示のとおりであり、
また、本件発明における軽量化という目的が、馴合液剤等によって影響されるとの
主張が採用し難いことも前示のとおりである。
    したがって、本件補正によって、本件明細書に「馴合液材」との記載をな
し、水(常温水)の外に、「油など水以外のその他のもの」を含ましめたことが、
明細書の要旨を変更するものということはできず、審決が、「当初明細書には、
『馴合液材』に代わり得る文言も見当たらず、該当する物質として『水』、『常温
水』、及び『常温水にポリオールエーテル粉を添加し、攪拌分散させた水溶液』の
記載はあるが、『油など水以外のその他のもの』については示唆する記載もない。
そして、従来、粘土に『油など水以外のその他のもの』を加えることが知られてい
たとしても、本件発明で特定される粘土にまでこれを加えることが当然のこととさ
れていた訳ではないから、『油など水以外のその他のもの』を含む『馴合液材』が
当初明細書の記載から自明であったとは言えない。」と判断したことも誤りであ
る。
  (5) 「添加物」を記載した点について
    審決の理由中、「添加物」が本件補正により初めて記載された文言であ
り、これが、「香料や色素など」、「パルプ(繊維粉)」、「繊維粉」であるこ
と、当初明細書に、添加物として、「岩石粉」、「パルプ繊維紛」、「繊維粉」等
の記載があることは、原告らにおいて争わないところである。
    しかるところ、粘土の製造において、香料や色素などを添加することは、
前示特開昭54-153826号公報(甲第9号証)に、染料、顔料を添加するこ
と(同号証4頁左上欄3~11行、右上欄7~9行)が、前示特開昭57-130
080号公報(甲第14号証)に、発色剤として塩化コバルトを混練することが、
特開昭62-4347号公報(甲第10号証)に、染料、顔料を用いること(同号
証4欄1行)が、特開昭61-102683号公報(甲第11号証)に、香料を吸
着させた多孔性シリカ微粉末を配合すること(同号証特許請求の範囲)が、特開昭
55-21350号公報(甲第12号証)に、染料を用いること(同号証3欄42
行~4欄2行)が、それぞれ記載されていることに照らして、本件特許の出願当
時、当業者にとって周知の事項であったものと認められる。そして、前示(1)のとお
り、本件発明の目的が、粘土の主成分として、シラスバルーンに代えて、熱可塑性
重合体殻の熱膨張性微小中空球を用い、粘土の軽量化及び白色度の向上という効果
を奏することにあることに鑑みれば、当業者が、当該周知事項を本件発明に適用す
ることができると判断することは容易であって(なお、粘土の白色度が高いこと
が、色素による着色の彩度を高めることは、技術常識といえるものである。)、
「香料や色素などを添加すること」は、当初明細書に記載されていたと同視できる
ものであると認めることができる。
    被告は、「軽量粘土」に「香料や色素など」を「添加物」として加えるこ
とが周知であったとする根拠はないと主張するが、「軽量粘土」に限定する必要が
ないことは前示のことより明らかであり、また、「香料や色素など」の添加物が、
本件発明の目的・効果と無関係であると断定することもできないとの主張が採用し
難いことも前示のとおりである。
    したがって、本件補正によって、本件明細書に「添加物」との記載をな
し、「岩石粉」、「パルプ繊維紛」、「繊維粉」の外に、「香料や色素など」を含
ましめたことが、明細書の要旨を変更するものということはできず、審決が、「当
初明細書には、添加される物質として・・・『香料や色素など』については示唆す
る記載もない。そして、従来、粘土に『香料や色素など』を加えることが知られて
いたとしても、本件発明で特定される粘土にまでこれを加えることが当然のことと
されていた訳ではないから、『香料や色素など』を含む『添加物』が当初明細書の
記載から自明であったとは言えない。」と判断したことも誤りであるといわざるを
得ない。
  (6) 軽量微小素材の粒径として「1~200ミクロン」を記載した点について
    審決は、軽量微小素材の粒径の数値範囲が「1~200ミクロン」である
点が、当初明細書に記載されておらず、当初明細書の記載から自明であったとはい
えないとし(審決書12頁9~17行)、本件補正は、この点を理由としても、明
細書の要旨を変更するものであるとする(同14頁17~19行)が、「粒径を1
~200ミクロンとする点・・・は、第1回補正で明細書の発明の詳細な説明の欄
に記載された」(同12頁18~20行)ものであり、審決は、この点を、本件特
許出願の日を本件補正時である平成5年11月25日とみなすべきことの根拠とし
ていないことが窺われ(同14頁19行~15頁1行の「本件発明の出願日は、上
記①~③、及び⑥のなお書きから、第2回補正時の平成5年11月25日とみなす
べきものである。」との判断に、④である粒径の数値範囲の記載の点が含まれてい
ない。)、そうであれば、軽量微小素材の粒径として「1~200ミクロン」を記
載した点が、要旨変更に当たるか否かは、結局、審決の結論に影響を及ぼすもので
はない。
  (7) 以上のとおりであるから、本件補正が明細書の要旨を変更するものであっ
て、本件特許出願の日を本件補正時である平成5年11月25日とみなすべきであ
るとした審決の判断は誤りである。
 2 よって、原告らの請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田中康久
裁判官 石原直樹
裁判官   長沢幸男

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛