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裁判例


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○ 主文
原判決を取り消す。
控訴人の本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し香取郡<地名略>田七
一七平方メートルの換地として<地名略>田六九二平方メートルを指定した処分は
無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
旨の判決を求め、被控訴代理人は、本案前の申立として主文第一、二項同旨の、本
案の申立として控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張と立証は、左記のほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれ
を引用する。
(被控訴人)
第一 本案前の主張
一 控訴人は、本訴において、被控訴人が昭和四四年一月一〇日付換地処分通知書
により行つた土地改良法による換地処分の無効確認を求めているのであるが、行政
処分の無効確認訴訟は、行政事件訴訟法第三六条の規定により「無効等確認の訴え
は、当該処分・・・・・・に続く処分により損害を受けるおそれのある者、その他
当該処分・・・・・・の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、
当該処分・・・・・・の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関
する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができ
る」ものとされているところ、控訴人が本訴を提起したのは昭和四八年七月一九日
であり、既に換地処分に基づく登記等の手続がすべて終了しているので、右換地処
分に続く処分により控訴人が損害をうけるおそれがある、ということはできない。
また、控訴人は、右換地処分の無効を前提として、控訴人主張の従前の土地につき
換地処分をうけた者を被告とする土地明渡及び土地所有権移転登記抹消登記請求等
の現在の法律関係の訴えを提起することができるわけである。
よつて、控訴人は前記換地処分の無効確認を訴求する原告適格(訴の利益)を有し
ないので、本件訴の却下を求める。
二 控訴人は、仮に本件換地処分の無効を前提として、従前の土地の所有権を主張
し、土地明渡等の請求が可能であるとすれば、控訴人の従前の土地部分だけに限
り、土地改良事業や全体的換地計画が排除される結果となるので、土地改良法の趣
旨・目的に根本的に反することになり、また、かかる訴訟が許されるとすれば、あ
たかも従前地の位置、形状を同じくする換地処分がなされたと同様の請求が許され
ることとなるから、かかる訴訟は認められず、本件換地処分の無効確認訴訟は適法
であると主張している。しかし、右主張は以下に述べるとおり理由がないものと思
料する。
(1) 争点訴訟または無効確認訴訟のいずれの場合においても、控訴人に対する
本件換地処分の効力の有無が前提または訴訟の対象となるのであり、全体の換地計
画が訴訟の対象となるわけではない。従つて、土地改良法による換地処分につき争
点訴訟を認めるとすれば、土地改良法の趣旨目的に反するということはできない。
(2) また、本件換地処分の無効を前提とする争点訴訟において、換地処分が当
然無効であるという理由により控訴人が従前の土地につき所有権を有するとされ
て、所有権確認、土地明渡等の判決が確定したときには、被控訴人は当該判決に拘
束されないが、本件換地処分の無効につき争点効が生ずるので、被控訴人は判決の
趣旨に従い、土地改良法所定の手続により新らたに換地処分を行わなければならな
いこととなる。また、行訴法第四五条の争点訴訟において、このような争点効の理
論が認められないとすれば、行訴法第四五条で準用されている第二三条の訴訟参加
によることなく、民訴法の補助参加の規定により換地処分をした被控訴人を補助参
加させるか、または訴訟告知をすることにより判決の効力を被控訴人に及ぼすこと
ができるわけである。
のみならず、行政実務に照して、判決の効力が行政庁である被控訴人に及ばないと
しても、控訴人が争点訴訟で勝訴したときには、控訴人の従前地が第三者に換地処
分されている関係上、被控訴人がこれを放置することが許されず1被控訴人は、争
点訴訟の当事者に関係がある従前地につき、改めて換地処分をやり直さざるをえな
いから、これにより事実上の解決がはかられることとなる。従つて、争点訴訟が許
されるとすれば、裁判所が従前の土地につき換地処分をしたのと同様の効果が生ず
る、ということはありえないのである。
右のような次第であつて、本件換地処分の無効確認訴訟が認められないとすれば、
控訴人の権利の救済をはかることができないということはできない。よつて、本件
は現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない場合に該当し
ないので本訴は不適法である。
三 次に控訴人は、土地改良法の換地処分の法的性格、特徴を理由に、換地処分の
無効確認訴訟が認められるべきであるとも主張している。しかし、右主張も次に述
べるとおり理由がないものと思料する。
(1) 既に述べたとおり、争点訴訟または処分の無効確認訴訟のいずれの場合に
おいても、施行地区または工区全体の換地計画、換地処分が訴訟の対象となるわけ
でなく、控訴人が無効を主張している当該換地処分の効力の有無が争点訴訟ではそ
の前提となり、また無効確認訴訟では訴訟の対象となることに変わりがない。
本件換地処分につき、これらの訴訟において、当然無効であるとする判決がなされ
たときには、右換地処分には公定力が生じているということはできないから、控訴
人の当該従前地につき換地処分がなされていない状態となる。すなわち、控訴人勝
訴判決により本件換地処分がなされなかつたのと同様の効果が生ずるだけであり、
裁判所が控訴人の当該従前地を換地とする換地処分をしたと同様の効果が生ずるも
のではない。
従つて、土地改良事業の施行者である被控訴人は判決の趣旨に従い、控訴人の当該
従前地の換地処分及び当該従前地を換地とした関係権利者の換地処分をやり直すこ
とになるのであり、換地処分の無効確認判決に限り、施行地区または工区全体の換
地計画または換地処分が当然無効になるということはないのである。よつて、控訴
人の主張するように換地処分の性格から無効確認訴訟が認められなければ控訴人の
権利または利益の救済をはかることができないということはできない。
(2) 控訴人は、おそらく無効確認訴訟においては、行訴法第三八条で同法第三
三条の判決の拘束力に関する規定が準用されるので、紛争の蒸し返し、すなわち、
将来、同一理由による換地処分の繰り返しを防止することができるから、無効確認
を求める利益があると主張しているものと窺われるが、前項(2)において述べた
とおり争点訴訟では行訴法第三三条が準用されていないので、拘束力が処分庁及び
関係行政庁に生じないのであるが、争点である本件換地処分の無効につき、争点効
が認められるべきであり、仮に認められないとしても、民訴法による補助参加の規
定の活用により判決の効力を処分庁に生じさせることができる。また、行政実務上
も処分庁が争点訴訟の判決を無視して同種の処分を繰り返すということは信義則上
許されないものといわなければならない(行訴法は行政庁の訴訟参加の場合でも上
訴権だけを認めている)。
のみならず、行政処分の無効確認訴訟は処分による権利侵害を排除することを目的
とするから、当該処分を離れて、将来の同種の処分を防止するための純然たる予防
訴訟としての機能を認めることは、行訴法第三六条の立法趣旨に副わないものとい
わなければならない。
(3) しかも、無効確認訴訟では、判決の効力が第三者に及ばないから、判決の
拘束力が処分庁である被控訴人に生じたとしても、控訴人の当該従前地を換地とす
る換地処分をうけた第三者に対し判決の効力が及ばない。従つて、本件換地処分に
つき無効確認判決がなされたとしても、これらの者が換地処分をうけた土地につき
取得時効を援用したときは、被控訴人が当該換地処分を取消して、新らたな換地処
分をすることは事実上不可能であり、控訴人は結局権利の救済をうけることができ
なくなるおそれがあるが、争点訴訟ではこれを防ぐことができる。
右に述べたとおり行訴法第三六条の規定は行政処分の無効の場合における救済制度
を原則として争点訴訟によらしめることとし、無効確認訴訟を制限しているのであ
り、控訴人主張のような理由(換地処分の性格)により本訴が許されるという根拠
にはならないものと思料する。
第二 本案についての主張
控訴人は本件換地処分が土地改良法(昭和三九年六月二日法律第九四号による改正
後の法律)第五三条第一項第二号の照応の原則に違反し当然無効であるとし、その
無効事由として、本件従前の土地の東側の改良区域外の土地は宅地化しており、本
件従前の土地は地目が田となつているが、将来の宅地化が見込まれるので、換地処
分にあたつては、将来の宅地としての用途、利用条件についても考慮されるべきで
あり、これを考慮していない本件換地処分は当然無効であると主張している。
しかし、本件換地処分がなされた昭和四四年一月一〇日当時(但し、土地改良法第
五四条第四項の公告は同年二月一四日である)は勿論、現在においても本件従前の
土地及び附近の農地が控訴人の主張するように近く宅地化されるという客観的状況
になかつたことは明らかである。しかも、本件土地改良事業の施行地域である小松
並木工区は、農業振興地域の整備に関する法律(昭和四四年七月一日法律第五八
号、同年九月二七日施行)施行後、神崎町において農業振興地域整備計画に基づき
農用地区域に指定されており、これを農地以外に転用するには同法の制限をうける
こととなつている。従つて、本件従前の土地が客観的にみて将来宅地化が見込まれ
ていたということはできない。
のみならず、土地改良法により土地改良事業として行う区画整理及びかんがい排水
施設の整備等は農地としての利用の増進を目的とするものであつて、土地区画整理
法による土地区画整理事業のように公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を目的
とするものではない。このように土地改良事業の区画整理は、不規則に存在する圃
場を適正な圃場に整備することが主要な目的であり、しかも本件工区は、従来、田
越の水を利用して農耕していたという経緯があつたので、農地の両側に用水路と排
水路をそれぞれ配置し、各組合員の換地が用水路及び排水路にいずれも接するよう
に区画整理をすることが計画されていたのである。このため、控訴人が字寺前に所
有している農地だけを従前の土地として換地をすることになると東西に長細い形状
となることが予想されたので、被控訴人の工区長などが控訴人に対して同人が本件
工区内に所有する他の農地と交換分合するなどの方法により地形を整形化すること
を勧告し、換地計画を樹立するにあたり、訴外Aが換地としてうけることになつて
いる<地名略>田六九四平方メ-トルと控訴人の換地予定地<地名略>田一〇八四
平方メートルとが隣接しているので、これを利用しての交換案もしくは控訴人の換
地予定地である<地名略>及び五九五番の両土地とAの換地予定地<地名略>の土
地(本件換地の隣接地)との交換案などにつき協議してきたが、控訴人はこれに応
じなかつた。そして控訴人は本件従前の土地につき字寺前に換地することを希望し
たので、被控訴人は昭和四二年に本件換地部分を同人の一時利用地に指定したとこ
ろ、控訴人はこれに対して何らの異議を申立てることなく、本件換地処分がされる
まで同土地で耕作を継続してきた経緯があるため、被控訴人は本件土地に換地処分
を行つた次第である。
右に述べたとおり、本件換地を含めて小松並木工区が将来宅地化されるという見込
が全くなかつたのであるから、被控訴人が本件換地処分にあたり宅地としての利用
条件を配慮しなかつたとしても本件換地処分は適法有効であつて、当然無効である
ということはできない。
(控訴人)
第一 被控訴人の本案前の主張について
一 被控訴人の本案前の抗弁は、要するに、本件換地処分の無効を前提とすれば、
控訴人は、控訴人の従前地を換地として指定を受けた者に対して、従前地の所有権
に基づいて土地明渡請求等の現在の法律関係の訴を提起できるから、本件無効確認
訴訟には訴の利益がないというにある。そして、本件において被控訴人主張のとお
り換地処分に基づく登記等の手続がすべて終了していることは認める。
しかし乍ら、控訴人が求めているのは右控訴人に対してなされた換地処分の無効確
認だけなのであつて、被控訴人らの行つた土地改良事業そのものや、換地計画の全
体を否定しようとするものではないのである。ところで控訴人において、右換地処
分の無効を前提として、従前地の所有権を主張して、訴外Aをはじめとする隣接の
換地配分を受けた者に対し、土地明渡等の請求が可能であるとするならば、右控訴
人の従前地の部分だけに限り土地改良事業や全体的換地計画が排除される結果とな
る。これは土地改良法の趣旨・目的に根本的に反することになることは明白であ
る。またかゝる訴訟か許されるとするならば、右土地改良事業や全体的換地計画に
基づき、公法上の強権的公権力の発動としてなされる行政処分(換地)を排除し、
あたかも従前地の位置・形状を同じくする換地処分がなされたのと同様の請求が許
されることゝなり、行政処分を司法機関が強制する義務付け訴訟を認容する結果に
なる。かゝる訴訟がそもそも認められないことは明白である。
二 換地処分は、換地計画にある従前地の全ての位置・範囲の変更を行うものであ
るから、個々の権利者に対する換地処分は単に少数の権利者に対する換地処分との
関連を有するに止まらず、他の多数の権利者に対する換地処分とも密接な関連を有
しているのであつて、このため換地処分の効力発生時期についてもこれを区々とせ
ず、換地処分が行われた旨の公告のあつた日の翌日をその効力発生時期として(法
五四条の二第一項)、多数の権利者の権利関係を一挙に変動させ、もつて権利関係
相互の矛盾・衝突の生ずるのを防いでいるものである。
このような換地処分の性格からすれば、個々の権利者に対する換地処分が、換地計
画に存する瑕疵(法五三条一項)を理由に取消され(少くとも取消訴訟が提起し得
ることは争いがない)、または無効と確認された場合には、右いずれの場合にも、
その結果は次々と他の多数の権利者(区域内の全権利者)の換地処分にも波及し
て、必然的に換地計画の変更(法五三条の四)を必要とし、場合によつては事業計
画そのものゝ変更(法四八条)が必要とされる。逆に言えば、抗告訴訟によつて換
地処分が取消された場合には、当該取消にかゝる従前地が単純に復活し、換地がな
されなかつた状況にすることを法が予定しているものではなく、その場合には処分
の取消によつて、当該権利者に関連する土地の位置・範囲が確定されなかつたとい
う状況になるだけであり、速やかに行政庁による換地計画の変更若しくは事業計画
をも含めた計画変更という新らたな処分をさせようと予定していると解さざるを得
ない。
かように解釈しなければ、取消す旨の判決によつて当該権利者の従前地が他の権利
者の換地と重畳的に復活すると解することゝなり、法が制度的に回避しようとした
権利関係相互の矛盾・衝突を却つて惹起させてしまうからである。
かように理解すると、換地処分に対する抗告訴訟のうち、無効を主張する場合に
は、行訴法三六条との関係で、換地処分の無効、従つて従前地の土地につき他の権
利者がその者に対してなされた換地処分により使用収益している部分の明渡を請求
し、若しくは従前地の土地の位置・範囲の登記簿を改めて創設せしめて、何者かゝ
ら抹消若しくは移転登記請求をせよ(誰に対して、どのような登記請求をせよと構
成するのか全く不明である)とする民事訴訟若しくは争点訴訟しか許されないと理
解するのは、誠に滑稽である。
仮に百歩を譲り、右の民事訴訟等が許されるとすると、前述したとおり、行政庁が
定めた処分を司法権により一方的に覆えす結果となり、三権分立の大原則に反する
ことゝなる。しかもその内容を検討すると、民事訴訟の結果当該土地を奪われた他
の権利者は、換地計画の変更が制度的に確保されないのであるから、従前地と比較
して著しく少ない面積の土地しか換地されなかつた結果になり、これは照応の原則
(法五三条一項)に反すること明らかであり、また他の権利者に対して民事訴訟を
提起し得ることゝなつて、前述のように権利相互の矛盾・衝突のため際限のない訴
訟が行われる結果となる。法がかゝる状況を予定し、承認しているとは到底解すこ
とができないものである。
第二 控訴人の本案の主張
本件換地部分を含む字寺前の土地は、改良区全体から見ると端の部分に存在し、道
路を挾んで東側の改良区域外の土地は宅地化しており、地目は田となつているが、
将来の宅地化が見込まれていた。
現在、東側用水路はU字溝が敷設されているが、宅地からの雑排水が流入してお
り、右用水路からの取水でも農業用水に適するが、将来は田としての耕作が出来な
くなる虞れがある。千葉県内では土地開発が急速に進んでおり、下水道の完備は遅
れているところ、本件換地部分は右のように宅地に隣接していて、土地開発の中で
農地として永続する見通しが少ないのである。純然たる農用地と異つて宅地化が見
込まれる農地については、換地の照応性の判断において、農地としての用途・利用
条件と同時に、将来の宅地としての用途・利用条件についても考慮されなければな
らない。
まず、換地の農地としての利用を考えると、従前地の道路に面する部分が約八〇メ
ートルであつたのに対し換地は約八メートルであつて、農作業に支障を来たしてい
る。用排水についてみるに、従前は、寺前地区の中央に水路があり用排水に利用し
ていたが、当該土地は乾田であつて特に排水路がなくとも耕作に支障は無かつたの
である。現在でも右地区は、西側の排水路から取水をしていて、別個の排水路がな
くても耕作に支障がないのである。現在では東側用水路にU字溝があり、北の部分
にある吐水口から用水路を経て取水することもできる。さすれば、控訴人が主張す
るように原判決添付図面(三)のように換地したところで、訴外Aの土地も控訴人
の土地も共に用水路の面で何等耕作に支障がないのである。
将来の宅地化という観点から考えると、道路に面する部分が八メートルで細長い土
地では宅地としての利用には重大な支障がある。
これに対し訴外日改に対する換地は、従前地に比較して、農地としても宅地として
もその利用条件の改善には格段の差がある。控訴人に対する換地が農作業の面で
も、将来の土地利用の面でも著しく不利益であるのに対して、日改に対する換地が
著しく有利なのである。本件換地は、結局照応の原則に反して無効と言わざるを得
ない。
(当審における証拠)(省略)
○ 理由
控訴人主張の請求原因一の事実は当事者間に争いがない。そこで、先ず、本件訴え
の適否について判断する。
成立に争いない甲第四号証によれば、被控訴人が土地改良法に基づいて設立された
土地改良区であり、控訴人が本件訴訟で無効確認を求めている処分は、被控訴人が
同法の規定によつて行う土地改良事業の必要上、所定の手続に従つてなされた換地
処分であつて、右処分が公権力の主体たる公共団体がその行為によつて直接国民の
権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められた行政事件訴訟法
三条二項の「行政庁の処分」にあたることは明らかであるから、本訴は同条四項に
いう行政処分の「無効等確認の訴え」に該当するものである。そして、同法三六条
によれば、行政処分の無効等確認の訴えは、当該処分に続く処分(いわゆる後続処
分)により損害を受けるおそれのある者、その他当該処分の無効等の確認を求める
につき法律上の利益を有する者で、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とす
る現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、
提起することができるとされているところ、本件処分は、被控訴人の主張するとお
りこれに基づく登記等の手続がすべて終つてすでに完了していることは当事者間に
争いがないのであるから、本件処分に対する被控訴人によるいわゆる後続処分が行
われ、これにより控訴人が損害を受けるおそれがあるものとは認められない。従つ
て、本件訴訟の適否は、控訴人が本件処分の無効を前提とする現在の法律関係に関
する訴えによつてその目的を達することができないものであるかどうかにかかるも
のというべきであるが、この点の基礎的事実関係についての控訴人の主張は必ずし
も明瞭であるとは云いがたいものがある。そして、若し控訴人所論のとおり、本件
処分が無効であるとすれば、控訴人はこのことを前提に、依然として従前の土地で
ある前<地名略>田七一七平方メートルの所有権を失つていない筋合いとなるので
あるから、控訴人としては、その所有権者として、当該土地について換地による現
在の所有者とされている者を相手方として当該土地の所有権の確認、所有権に基づ
く明渡、或いは登記抹消手続請求等の訴えを提起することができ、これによつてそ
の目的を達することができるものと考えられるのである。そうであるとすれば、控
訴人は本件無効確認訴訟の原告適格を欠くものであつて、本件訴えは不適法である
といわざるをえないものである。
これについて、控訴人は、多数の権利者に関係する換地処分の性格、或いは、土地
改良法の趣旨、目的を挙げて縷々反論するが、換地処分が多数の権利者に関係する
ものであるとしても、控訴人が従前地の所有権を主張して前記の如き訴を提起する
に格別支障があるとは解し得ないし、また右訴えにおいて換地処分が無効とされて
も、従前地と位置・形状を同じくする換地処分がなされたのと同様なものとなるわ
けではなく、司法機関が行政庁に斯かる内容の行政処分を義務づけたり強制したり
する結果となるものでないことも改めていうまでもない。もとより、本件換地処分
が前示の如き訴訟形態による裁判の前提として無効とされることになれば、被控訴
人としては事実上換地計画の変更等を含めた換地処分のやり直しを迫られることが
ありうるとしても、そのことのゆえに、行訴法三六条の適用上本件無効確認訴訟が
適法として許容されるものということはできない。控訴人の主張は採用できない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく控訴人の本件訴えは不適法で
あつて、これを適法として本案判決をした原判決は不当であるからこれを取消し、
本件訴えは却下することとして、行訴法七条、民訴法三八六条、八九条を適用し主
文のとおり判決する。
(裁判官 田中永司 安部 剛 岩井康倶)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 被告が、原告に対し香取郡<地名略>田七一七平方メートルの換地として<地
名略>田六九二平方メートルを、訴外Aに対し<地名略>所在の田の換地として<
地名略>所在の田を各指定した処分はいずれも無効であることを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は被告改良区の小松並木工区内に香取郡<地名略>田七一七平方メートル
(以下本件従前の土地という)を所有していたところ、被告は昭和四四年一月一〇
日、本件従前の土地の換地として、<地名略>田六九二平方メートル(以下本件換
地という)を指定する旨の処分をなし、右処分は右同日原告に通知された。
2 しかしながら、右換地処分は次の理由により無効なものである。
(一) 土地照応の原則違反
本件従前の土地は別紙図面(一)のとおり農道に接する部分が長く、農作業を行な
うのに極めて便利な土地であつたところ、本件換地は別紙図面(二)のとおり形状
において本件従前の土地と極端に異なり、また、農道に接する部分も短かく、農作
業の遂行が困難な状況となつた。右の次第で本件換地処分は土地改良法五三条一項
二号(なお、本件換地処分当時は昭和四七年法律三七号による改正前で同条一項一
号)にいう従前の土地と照応しない違法があるものといえ、無効とされるべきもの
である。
(二) 公序良俗違反
原告は本件換地処分がなされる前後に数回にわたり被告に対し、口頭または書面で
本件換地の指定につき異議を述べ、かつ、原告所有の本件従前の土地に対しては別
紙図面(三)のとおりに換地の指定をされるように希望していたにも拘らず、被告
はこれを無視して本件換地処分を強行したものである。
しかして、右の原告の希望は何等他の関係権利者に迷惑を及ぼすところがないもの
であるが、これを容れずになされた本件換地処分は前記(一)に述べたとおり原告
に多大な不利益を蒙らせるものであるところ、被告改良区における土地改良事業に
おいて、かような不利益な処分を受けたものは、全関係権利者二六六名中原告ただ
一人であつて、いわば村八分的な差別扱いというほかなく、かかる本件換地処分は
民法九〇条にいう公序良俗違反として無効とされるべきである。
3 しかるところ、本件換地処分は本件従前の土地と接する訴外A所有の香取郡<
地名略>所在の田の換地として、同じく本件換地と接する同所<地名略>所在の田
を指定した換地処分と密接不可分の関係にあるので、本件換地処分が無効なもので
ある以上、右訴外人に対する右換地処分もまた無効とされることを免れないもので
ある。
4 よつて、原告は本件換地処分ならびに右訴外人に対する換地処分がいずれも無
効であることの確認を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 1項の事実はすべて認める。
2 2項の事実のうち、本件従前の土地ならびに本件換地がいずれも原告主張のと
おりの形状であること、原告から本件換地の指定につき異議が述べられたことはい
ずれも認めるが、(一)の土地照応の原則違反および(二)の公序良俗違反により
無効であるとの主張はいずれも争う。
すなわち、被告改良区は農業の生産性向上、ひいては農業構造の改善に資する目的
をもつて、土地区画整理、灌漑排水施設および農道等の新設・変更、農用地の集団
化等の土地改良事業を施行してきたものであるところ、本件従前の土地が属する小
松並木工区の事業計画においても、本件換地の東側道路沿いに用水路を設け、反対
の西側に排水路を配備して、土地の区画、形状を整理するという設計となつていた
ものである。しかして、本件換地は右計画に基づき指定されたものであるが、本件
従前の土地に比し、東側に用水路、西側に排水路が整備されて、その利用条件が改
善されているものである。なお、仮に原告主張の別紙図面(三)のとおりに換地の
指定をしたとすると、原告の換地は用水路のみに接して排水路と接することがな
く、他方、その西側の訴外Aの換地は排水路のみに接して用水路と接するところが
なく、前述の本件換地計画に反することは勿論、被告改良区の事業目的そのものに
も適合しないというべきである。なお、被告は原告からの異議の申出に対し、原告
の希望を容れることは右の理由で不可能である旨説明している。
以上の次第で本件換地処分は何等違法とされるところがない。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求の原因1項の事実(本件換地処分の存在と原告に対しその通知がなされた
こと)はすべて当事者間に争いがない。
二 請求の原因2項の(一)の事実のうち、本件従前の土地が別紙図面(一)のと
おりの、本件換地が別紙図面(二)のとおりの各形状をなしていることは、いずれ
も当事者間に争いがないところ、右の各図面を比較対照すれば、本件従前の土地と
本件換地がその形状において著しく異なることが明らかであると一応いえる。
そこで、本件換地処分が土地照応の原則に違反しているとの原告の主張につき判断
するに、いずれも原本の存在およびその成立につき争いのない甲一号証、乙一ない
し三号証および成立につき争いのない乙四号証ならびに証人B、同Cの各証言およ
び原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く)を総合すれば、以下の
1ないし8の各事実を認めることができ、これが認定に反する原告本人尋問の結果
の一部は右認定に照らし採用できず、そのほか右認定を左右するに足りる証拠はな
い。
1 被告改良区内の耕地は従前から灌漑の便がなく、雨水等によつて耕地内にでき
た溜池から村内共同して水を汲みあげ、各人の耕作に供していたこと
2 そこで、被告改良区の北方に位置する旧利根川から引水し、用水路および排水
路を完備して水利を確保することを主たる目的とし、あわせて、耕地の整備、農道
の拡幅・整備等を企図して被告改良区が設立されたものであること
3 そして、被告の事業計画の主たる内容は、旧来の道路の状況および地形に従つ
て各工区を定め、各工区ごとに耕地の両側にそれぞれ用水路と排水路を配置し、そ
の間の全耕地をその工区内の各人の従前の土地の所有面積の比率に応じて、用水路
および排水路にいずれも接するように平行な直線で区画して、各人の換地を整備し
(別紙図面(一)および(二)参照。但し、後述するように当初の計画では図面
(二)のごとく各区画の広狭が均一でないばらばらなものではなく、ある程度均一
化されたものを予定していた)、旧利根川からの引水を各耕地へ十分に確保するも
のであつたこと
4 ところで、一工区内における各人の従前の土地の所有面積が少ないと、その工
区の地形によつては、前述した各区画がいずれも用水路および排水路に接するとい
う必須条件を充たすためには、換地が極端に細長く区画され、ひいては農作業をす
るうえで支障を来たすことが予想されたところから、被告の当初の換地計画では、
二以上の工区に分散して従前の土地を所有する者について、互いに所有土地の交換
分合を遂げて、なるべく各人の耕地を一ケ所に集中し、その結果、一工区内におけ
る各区画の細分化を防止するとともに、各区画の均一化を目標としていたこと
5 しかしながら、各人が従前の土地の所在位置等に固執することが多く、結局、
右の交換分合が徹底されないまま換地処分がなされた結果、各工区内には極端に細
長い区画がかなりの数生じたこと
6 ところで、原告の本件従前の土地も比較的面積が狭く、その所在する小松並木
工区の地形から東西に細長い形状となることが予想されたところから、換地処分に
先立つ昭和四二年の一時利用地の指定に際して、当該工区の換地委員から原告に対
し、他工区にある原告所有のより広い土地の隣接土地と交換し、他工区に耕地を集
中するように勧めたが、原告がこれを受け入れず、本件従前の土地はそのままその
工区内に換地して欲しい旨希望したため、被告は昭和四二年ころ原告に対し、本件
換地と全く同一の位置、形状で本件従前の土地に対する一時利用地を指定したとこ
ろ、原告はそれから約二年間右一時利用地を耕作していたこと
7 そして、前記一項のとおり昭和四四年一月一〇日に本件換地処分がなされ、そ
の位置、形状は別紙図面(二)のとおりであるが、幅が約八メートル、奥行が約八
〇メートルのほぼ東西に細長い長方形となり、従前は別紙図面(一)のとおり東側
および南側で合計約七〇メートル近く農道に接していたところ、本件換地では東側
で約八メートル農道に接するのみとなつたこと
8 しかしながら、右の結果は本件従前の土地に隣接する訴外A所有の香取郡<地
名略>の田が本件従前の土地に比し面積が二倍近く広いため(別紙図面(一)参
照)、換地処分に当つては広い土地を優先するとの被告の換地委員の方針により、
同訴外人に対する換地として、南側全部が農道に接する<地名略>の田が指定され
たことによるものであること
(別紙図面(二)参照)
以上認定の各事実によれば、用・排水路を完備して全耕地の水利を確保するとの被
告改良区の事業目的を完遂し、一方、換地委員からの勧めを拒否して本件従前の土
地につき、その工区内に換地を指定して欲しいとの原告の希望を容れる以上、本件
換地が別紙図面(二)のとおりの形状となることは、避けえないものであつたこと
が認められ、また、右6に認定した原告が一時利用地として約二年間、本件換地部
分の土地を耕作して来た事実に徴すれば、農作業をするうえでの不便も少ないもの
と推認され、なお、訴外Aに対する換地処分が優先的に取扱われたことも首肯でき
るものであつて、結局、本件従前の土地と本件換地が形状において異なることを理
由に本件換地処分が土地照応の原則に反するとの原告の主張は、その理由がないも
のと解するほかない。
三 次に請求の原因2項の(二)の本件換地処分が公序良俗違反であるとの原告の
主張につき判断するに、原告が本件換地の指定につき異議を述べ、かつ別紙図面
(三)のとおりに換地の指定をするように希望していたことがあることは当事者間
に争いがないところであるが、原告の右希望が他の関係権利者に影響を及ぼさない
とか全関係権利者中原告ただ一人が村八分的な差別扱いをうけたとの原告の主張事
実は、本件全証拠によるもこれを認めることができず、むしろ、証人Bおよび同C
の各証言によれば、原告の前記希望は、前述した事業目的に照らし不可能である旨
十分説得がなされたことおよび原告の提案を実現するために、被告の換地委員らに
よつて原告と訴外Aとの間の調整を図つた経過もあるが、原告案によれば原告の換
地は排水路に、右訴外人の換地は用水路にそれぞれ接していないため、その間に新
たに用・排水路を配置する必要があり、そのため相当な減歩が生じることなどもあ
つて、結局、原告もこれに応じなかつたことが認められ、以上によれば公序良俗違
反であるとの原告の主張もまた理由がないことに帰する。
なお、証人B、同Cの各証言および原告本人尋問の結果によると、本件換地のある
小松並木工区に設けられた用水路は土を堀つただけの水路であるため、水漏れが激
しく、工区の下流にある本件換地ならびに訴外Aの換地までは用水が到達せず、現
実には西側の排水路をせき止めて取水している実情にあることが認められ、かよう
な用水路の不備が原告が本訴を提起した一因ともなつているものとうかがわれる
が、工区長である証人Cも証言しているように、右は本来用水路を堅固にするなど
して改善すべきものであつて、本件換地処分の効力を左右すべきものではない。
以上の次第で請求の原因2項の原告の主張はいずれも理由がないので、その余の点
を判断するまでもなく、原告の本訴請求は棄却を免れない。
四 よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条
を適用して主文のとおり判決する。
別紙図面(一)~(三)省略

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