弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
     当審の未決勾留日数中百日を被告人が言渡された本刑に算入する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添附してある被告人本人及び弁護人岸星一各作成名義控
訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断す
る。
 弁護人の論旨第一点について。
 <要旨第一>共同正犯は数人が相協力して自己の犯罪を実現する意思を以て犯罪を
行うもので正犯者各自の行為は自己のためにすると同時に他の正犯者の
ために奉仕し又他の正犯者の行為はこれを自己の犯罪を実現するに利用するもので
ある。即ち正犯者各人の行為は互に利用奉仕の関係に結ばれるため各正犯者は自己
の行為については勿論他の正犯者の行為についてもその責任を負うもので窮極する
ところ正犯者全体の行為は各正犯者に帰責せらるべきものである。故に犯罪を共謀
した以上は何等犯罪の実行に関与せず唯単に幇助的行為をなしたに止る場合更に何
等外部的行為をしなかつた場合でも他の者のなした行為についてその責任を負わね
ばならぬものであるから、被告人がAと金品を強取せんことを共謀した以上自己は
犯罪の実行に関与せずともAが右共謀に基きてなした金品強奪の行為についてその
責任を免かれない。共同正犯は以上の如き関係にあるから判決の判示としては共謀
の事実を判示した以上各人のなした行為を選別判示する必要はない。素より各人の
行為を夫々例示することは丁寧であり各自の犯情も判つて望ましいが法はそこまで
要求していないのである。しかうして金品強取を共謀したという事実自体は犯罪の
実行行為に属せず実行行為からみれば予備的のものであるから実行行為について犯
罪の日時場所を記載し犯罪を特定している以上共謀の点は自ら特定し又共謀行為自
体は時効や管轄に影響のないことであるから共謀の日時場所を判示する必要はな
い。以上のことは幾多判例の示すところで原判決は被告人の帰責について又犯外事
実の判示について所論のような違法はない。論旨はいずれも理由なきものとする。
 同論旨第三点について。
 刑事訴訟法第三百一条には所謂自白調書は犯罪事実に関する他の証拠が取調べら
れた後でなければその取調べを請求することができない旨記載してあるから先づ他
の証拠の取調が施行されてから後に自白調書の取調べの請求をなすべきである、し
かるに原審第二回公判調書によると検察官は他の証拠の取調べを請求しその証拠が
許容施行せられない内に右請求に続いて所謂自白調書の取調べの請求をしている
(この請求自体の順序もしかく明瞭ではないが調書に記載せられた順序と後に検察
官が順次朗読したとある記載から僅に推察せられる)この請求は違法である。しか
しながら右第三百一条の趣旨は裁判官に予断を抱かせないための規定であるから請
求の順序自体に重点があるのでなく証拠調の順序に主たる意義があり請求の順序に
違法の点があつても証拠調の施行について右の順序を誤らなければ予断を以て他の
証拠の取調をするといううれいはないのであるから、<要旨第二>検察官が他の証拠
調べの施行前に自白調書の取調べの請求をなした違法は被告人又は弁護人が右請求
をなした直後異議の申立をしなければ刑事訴訟法第三〇九条刑事訴訴規
則第二百六条第一項により責問権の放棄として救済せられるものと解するのが相当
である。同公判調書を見ると検察官は前記の如く証拠調べの請求をなしこれに対し
被告人及び弁護人は「書類の成立について異議なく証拠とすることに同意し且つ証
拠調をなすに異議ない」と述べ裁判官の証拠採用の決定に基き検察官は請求の書類
を請求の順序に従つて朗読した旨の記載があつて自白調書は他の証拠を取調べた後
になされたことが窺われるから証拠の取調については順序を誤つておらず検察官の
証拠取調べの請求について被告人及び弁護人は異議ない旨述べているから右検察官
の証拠取調請求についての違法はこれによつて治癒せられたものというべきであ
る。尚前記公判調書によると右自白調書の証拠調べが施行せられて後司法警察員の
意見書等が朗読せられているが意見書自体は証拠書類ではないのであるからその朗
読は証拠調というべきものではない。以上の理由によつて本論旨も採用しない。
(その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

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