弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役壱年、同Bを懲役壱年六月に各処する。
     原審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人両名の弁護人高橋正蔵、同相沢登喜男共同作成名義
の控訴趣意書(補充申立書を含む。)に記載されたとおりであるから、ここにこれ
を引用するが、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 控訴趣意第一点(事実誤認、法令適用の誤)について。
 所論の要旨は、原判決は被告人両名に対し判示第一事実を認定して背任罪の規定
を適用したが、右は事案の誤認かまたは法令適用の誤である。被告人Aには、判示
財団法人CF地方本部長名義の約束手形を振出す権限のないことは、原審証人Dの
尋問調書ならびに原審第五回および第一八回各公判調書中の被告人両名の供述記載
に照らして明らかである。従つて、判示各約束手形はいわゆる無権代理人の振出し
たものであるから、これによつてCは右約束手形上の債務を負担する理由はなく、
背任罪にいわゆる財産上の損害を被つていない。もつとも、手形の振出行為が無権
代理であつても、第三者が代理人に権限があると信ずるのがもつともであつて、し
かも本人に責があると認められる場合には、民法または商法の規定によつて本人が
手形上の責任を負わなければならないという、いわゆる表見代理の救済規定の適用
のあることはもちろんである。しかしその適用を認め得る第三者というのは、当該
手形振出行為の相手方に限り、その後の手形取得者を含まないと解すべきところ、
判示G外一一名の者は、判示各約束手形振出行為の直接の相手方でないから、右に
より表見代理の救済規定の適用は受けない。仮りに百歩を譲り右第三者を当該手形
振出行為の直接の相手方に制限せず、その後の手形取得者をも含むとの一部学説の
立場をとつても、判示G外一一名の者が表見代理の救済を受け得べき第三者である
かどうか明らかでないというにある。
 しかし、原判決挙示に係る判示第一事実の関係証拠を総合すれば、
 (一)、 判示Cは、Eほか一名の寄付行為をもつて、昭和二七年四月一八日設
立せられた財団法人であつて、その目的は、郵政省職員の殉職者遺族、公傷病退職
者、その他の退職者およびその遺家族または一般の生活困窮者に対し、授産その他
必要と認める救済施設をするとともに、郵政省職員の生活向上と、郵政事業の利用
者に対する便益の増進とに寄与することとし、右目的を達成するため、(一)生業
の補導、生業資金の貸付および教育費の授取、(二)生活必需物資の生産修理加工
販売およびあつせん、(三)郵政職員の生活の安定または向上に資する事業、
(四)郵政事業の利用者に対する便益の増進に資する事業、(五)その他本会の目
的達成に必要な事業を行うものであること。
 (二)、 Cは本部(主たる事務所)を東京都港区a町b丁目c番地に置き、地
方本部を名古屋市ほか九ケ所の郵政局所在地に置いていること
 (三)、 C本部には、会長一名、理事長一名、理事若干名、監事若干名、評議
員若干名を置き、会長は会務を総理し、理事長は会長の指揮を受け、緊急の必要あ
る事項および特に理事会を開く必要がないと認められる事項について理事を代表
し、これを処理することができ、常務は理事長または理事が処理し、地方本部に
は、地方本部長を置き、地方本部長は本部の指揮に従い、地方本部を代表して地方
業務を掌理すること
 (四)、 被告人Aは、C設立直後である昭和二七年六月ごろ、同会F地方本部
長に就任し、昭和二十九年九月二六日退職するにいたるまでの間、管下四県下(愛
知県、三重県、岐阜県、静岡県)における地方業務を掌理していたこと
 (五)、 同被告人はCF地方本部長として管下四県下職員の厚生福祉をはかる
ため、生活必需物資の購入に関する契約の締結および代金支払等の代理権限を有
し、右代金の支払については小切手をもつてし、C振出名義の約束手形をもつてす
ることは内規により禁じられていたが、F地方本部の特殊性(同会発足当時から毎
月約二、〇〇〇万円の大量の取引があり、そのうち約一、〇〇〇万円は手形取引に
よらざるを得なかつた。)にかんがみ、同会発足当時から昭和二九年六月ごろまで
の間F地方本部長名義で約束手形を振出し、これをもつて支払いにあてることを本
部において黙認していたこと
 (六)、 判示第一の各約束手形は、同被告人が、CF地方本部長としての前記
(五)の権限を踰越して振出したものであつて、右手形の受取人である判示Gほか
一一名の者において、それぞれ手形の外観、および同被告人や判示Hの手形振出原
因の説明等により、同被告人に右各手形を振出す権限があると信ずべき正当の理由
を有したこと
 をそれぞれ認定することができる。そして以上の認定事実によれば、Cは、被告
人Aの代理権限踰越による本件各約束手形の振出行為により、民法一一〇条の適用
によつて右手形上の債務を負担し、背任罪にいわゆる財産上の損害を被つたもので
ある(なお、民法一一〇条の第三者には、当該手形振出行為の相手方である受取人
およびその後の手形取得者をも含むものと解するを相当とするから、判示Gほか一
一名の者が右第三者に該当することはもちろんである。)。
 従つて、原審が原判示第一事実の関係証拠により、同判示のように、被告人両名
が共謀の上、判示I株式会社およびJ株式会社の利益を図る目的で、被告人Aにお
いて、前記(五)の任務に背き(権限踰越)、判示CF地方本部長名義をもつて判
示約束手形一八通を振出し、判示Gほか一一名の者に対し、割引または債務支払の
ため交付し、よつてCに対し、財産上同額の損害を加えた事実を認定し、右被告人
両名の所為につき、背任罪の規定を適用処断したのは正当であつて、記録を精査し
ても、右事実認定に誤認を疑わしめる点はなく、また浅令適用の誤もない。本論旨
は、けつきよく独自の見解であつて、採用に値いしない。
 控訴趣意第二点(事実誤認)について。
 所論の要旨は、原判決は判示第二事実として、被告人両名は、判示融通手形二通
をあたかも商業手形のように装い、判示Lらを欺罔し、割引金名下に現金八五六、
三八〇円を詐取したものであるとの事実を認定し、被告人両名の右所為につき詐欺
罪の規定を適用したのは、事実誤認である。元来、融通手形あるいは商業手形とい
う語は法律用語でなく、近来経済界において使用せられるところであるが、手形法
上の効力については両者間に差異なく、いずれも振出人は所持人に対し手形金の支
払義務があり、融通手形であることの一事によつて振出人は所持人に対しその支払
の責を免れ得べきでない。従つて、融通手形を商業手形であるかのように装つたと
いう一事のみによつては、金員詐取の意図を推認し得べきでない。また判示K株式
会社は高利で金融を営む会社で、本件各手形が融通手形であることを了知していた
ものと思われ、融通手形であるとの予想があつたので、後日融通手形であるとの抗
弁が生ずる時に備え、判示証明書をとつたのであるというにある。
 <要旨>しかし、融通手形を割引くに際し、その相手方に対してことさらに右手形
を真の商業手形であるように積極的な手段を講ずることは、明らかな欺罔行
為であり、よつて相手方をしてその旨誤信せしめ、割引名下に金員を交付せしめる
行為は、詐欺罪を構成するものである。それゆえ、原判決が判示第二事実として、
被告人両名が共謀の上、判示融通手形二通について、判示K株式会社の代表取締役
Lおよび専務取締役Mから割引を受けるに際し、判示商取引に基く手形である旨虚
偽の証明書を作成して同人らにこれを交付し、さらに、直接右証明書の内容を確め
にきた両名に対し、同旨の言質を与え、よつてその旨誤信した両名をして、割引金
名下に判示金員を交付せしめた事実を認定し、被告人両名に対し、詐欺罪の規定を
適用処断したのは正当である(判示LおよびMが、判示手形を融通手形であると了
知していたという事実は証拠上認め得られない。)。なお、記録を精査しても、原
審の右事実認定に誤認を疑わしめる点はない。本論旨も理由がない。
 控訴趣意第三点(量刑不当)について。
 本件記録を精査し、原判決挙示の証拠、その他原審で取り調べた証拠を検討し、
さらに当審で取り調べた証拠を参酌するに、本件犯罪の動機、態様、罪質、被害金
額等にかんがみれば、被告人の経歴、家庭状況、Cおよび本件手形所持人らとの間
の示談成立等、所論を考慮にいれても、被告人両名に対する科刑は実刑を免れない
が原審の量刑はやや重きにすぎ不当に帰する。本論旨は理由がある。
 よつて本件各控訴は理由があるので、刑事訴訟法三九七条、三八一条、四〇〇条
但書により、原判決を破棄し当裁判所においてさらに判決する。
 原審が認定した事実を法律に照すと、被告人Aの原判示所為中、第一の点は各刑
法第二四七条、六〇条、罰金等臨時措置法二条、三条に、第二の点は刑法二四六条
一項、六〇条に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法
四七条、一〇条により、最も重い詐欺罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、同
被告人を懲役一年に処し、被告人Bの原判示所為中、第一の点は各刑法二四七条、
六五条一項、六〇条、罰金等臨時措置法二条、三条に、第二の点は刑法二四六条一
項、六〇条に、第三の点は同法九六条、罰金等臨時措置法二条、三条に、第四の点
は各工場抵当法四九条一項、二条二項、第一項本文に各該当するから、第一、第
三、第四の各罪の所定刑中懲役刑を選択するところ、以上は刑法四五条前段の併合
罪であるから、同法四七条、一〇条により、最も重い第二の詐欺罪の刑に法定の加
重をした刑期範囲内で、同被告人を懲役一年六月に処し、原審における訴訟費用
は、刑事訴訟法一八一条一項本文一八二条により、被告人両名の連帯負担とし、主
文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 影山正雄 裁判官 坂本収二 裁判官 水島亀松)

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