弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
一原告らの訴えを却下する。
二訴訟費用は、原告らの負担とする。
○事実
第一編当事者の求めた裁判
第一原告ら
一被告が、動力炉・核燃料開発事業団に対して、昭和五八年五月二七日になした、高速
増殖炉「もんじゆ」にかかる原子炉設置許可処分は無効であることを確認する。
二訴訟費用は、被告の負担とする。
第二被告
一本案前の申立
主文同旨
二本案の申立
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二編当事者の主張
第一章請求の原因
別紙一記載のとおり
第二章被告の本案前の主張
原告らの本件無効確認の訴えは、以下に述べるとおり、不適法であるから、却下されるべ
きである。
第一法律上保護された利益の不存在
原告らは本件許可処分の無効確認を求めているが、原告らが本件許可処分により侵害され
ると主張する利益は法律上保護された利益ではないから、原告らは本件許可処分の無効確
認を求める原告適格を有せず、本件無効確認の訴えは、この点において不適法であり、却
下を免れない。
一法律上保護された利益の意義
抗告訴訟の原告適格を有するとするためには、当該処分により自己の権利若しくは法律上
保護された利益が侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者でなければならないと
解するいわゆる法的利益救済説が判例上確立している。
すなわち、最高裁判所昭和五三年三月一四日第三小法廷判決(民集三二巻二号二一一ペー
ジ。以下「ジユース表示事件最高裁判決」という)は、伝統的な法的利益救済説の立場。

堅持することを確認し、同説のいう前記「法律上保護された利益」の意義に関して「法、

上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的と
して行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であつて、それは、
行政法規が他の目的、特に公益の実現を目的として行政権の行使に制約を課している結果
たまたま一定の者が受けることとなる反射的利益とは区別されるべきものである」と判。

し、更に、その後も、森林法に基づく保安林指定解除処分の取消訴訟(いわゆる長沼ナイ
キ基地訴訟)について同法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」に該当する者
の限度で原告適格を肯定し、
その余の周辺住民の原告適格を否定した最高裁判所昭和五七年九月九日第一小法廷判決
(民集三六巻九号一六七九ページ。以下「長沼ナイキ基地訴訟最高裁判決」という、。)

地法五条に基づく農地転用許可処分の取消訴訟について隣接土地所有者の原告適格を否定
した最高裁判所昭和五八年九月六日第三小法廷判決(集民一三九号四五七ページ、判例時
報一〇九四号二一ページ)及び伊達火力発電所に係る公有水面埋立免許処分等の取消訴訟
について当該公有水面の周辺の水面において漁業を営む権利を有する者の原告適格を否定
(())した最高裁判所昭和六〇年一二月一七日第三小法廷判決昭和五七年行ツ第一四九号
が、いずれも法的利益救済説に立つことを明らかにしている。
二法的利益救済説における行政法規の保護法益の解釈の方法
法的利益救済説の見地からは、原告らが本件許可処分の無効確認を求めるにつき法律上の
利益を有する者であるか否かは、まず、原告らが本訴において本件許可処分により侵害さ
れ又は必然的に侵害されるおそれがあると主張する生命、身体等の利益が、法律上保護さ
、、、れた利益すなわち本件許可処分の根拠となつた行政法規である原子炉等規制法二三条
二四条等の関係規定が原告らの個人的利益を保護することを目的として被告の右許可権限
の行使に制約を課していることにより保障されている利益であるか否かによつて決せられ
ることになる。
そして、本件許可処分の根拠となつた右原子炉等規制法の関係規定の保護法益を解釈する
に当たつては、次に指摘するいくつかの基本的事項に留意しなければならない。
1そもそも、前掲各最高裁判所判決をはじめとする多数の裁判例によつて確立された法
的利益救済説の考え方は、法律上保護された利益と反射的利益との峻別と並んで、公益と
個人的利益との峻別をその方法論的特徴とするものであり、右の概念の区別は、法的利益
救済説における基本的な意義、機能を有するものである。
もとより、公益といえども、その内容は、現在及び将来における不特定多数者に帰属する
顕在的又は潜在的な利益の集積されたものと見ることもできるから、公益の概念自体は、
究極的にはこれを個々人の利益に還元して考えることも論理上不可能ではないといえよ
う。
しかしながら、抗告訴訟における原告適格の問題は、
つまるところ主観訴訟としての抗告訴訟を客観訴訟としての民衆訴訟といかにして区別す
べきかの問題ということができるのであつて、原告適格の問題としての公益と個人的利益
(更には法律上保護された利益と反射的利益)の概念は、この抗告訴訟と民衆訴訟との区
別に関する法的利益救済説における基本的な判断枠組みを提供するものであり、その概念
としての正当性はつとに判例によつて承認されてきたところである。右の公益と個人的利
益との区別をあいまいにすることは、とりもなおさず、法的利益救済説の提供する判断枠
組みを形骸化し、ひいては、法的利益救済説そのものを否定することにほかならない。行
政法規が公益を保護している場合、これを個人の利益にまで還元して、これをもつて法律
上保護された利益とみるべきものとすれば、あらゆる行政法規における公益保護規定は個
人的利益をも保護したものと解することができることとなつて、ひいては、国民、住民は
どのような行政庁の処分に対しても法律上保護された利益を侵害されたものとして争訟を
、、提起することが許されることとなり事実上常に民衆訴訟を認めることになるのであつて
それは主観訴訟と客観訴訟との区別を前提とする行訴法の建前を根本から否定することと
なる。ちなみに、いわゆる利益救済説が、一部学説の唱道にもかかわらず、下級審段階に
おいてもほとんど受け容れられるに至らなかつたのも、右利益救済説においては、どのよ
うな生活利益がそのいうところの「保護に値する利益」に該当するか否かについての明確
な判断基準を提供し得なかつたからにほかならない。
2一般に、公益保護のための私権制限に関する惜置についての行政庁の処分(本件許可
処分も、これに該当する)が、その根拠となつた行政法規の規定に違反し、法の保護す。

公益を違法に侵害するものであつても、右公益に包摂される不特定多数者の個別的利益の
侵害は単なる法の反射的利益の侵害にとどまるから、このような侵害を受けたにすぎない
者は、右処分の無効確認を求めるについて原告適格を有しない。そして、例外的に、特に
行政法規が、一般的公益と並んで、特定の者の個人的な利益をも、右の公益の中に包摂な
いしは吸収解消されないところの個別的利益としてこれを保護しているものと解される場
合に限り、右処分により右利益を違法に侵害された特定の個々人につき、
当該処分の無効確認を訴求する原告適格を肯認することができるのである。
3本件における右の保護法益の解釈に当たつては、ジユース表示事件最高裁判決及び長
沼ナイキ基地訴訟最高裁判決等の示すところに従い、本件許可処分の根拠となつた原子炉
等規制法の関係規定の具体的な規定内容に即して、権限行使の要件を定めその行使に一定
の制約を課している法の趣旨、目的等についての右関係規定の合理的な解釈を通じて行う
という方法によるべきである。
三原子炉等規制法の関係規定の保護法益
以上の点を踏まえ、本件許可処分の根拠となつた原子炉等規制法の関係規定の保護法益に
つき考察する。
1原子炉等規制法は、原子炉の設置につき許可制を採り、原子炉を設置しようとする者
は内閣総理大臣の許可を受けなければならない(同法二三条一項)とする一方、内閣総理
大臣が右原子炉の設置許可処分を行うためには、当該申請が同法二四条一項一号ないし四
号所定の各要件に適合するものであることを要するとして、内閣総理大臣の右許可権限の
。、、行使に制約を課しているそして原子炉の設置許可に係る原子炉等規制法の関係規定は
専ら、同法一条、二四条一項各号所定の一般的公益の保護を目的とするものであつて、右
の一般的公益と並んで原子炉施設の周辺住民等の個人的利益をも、右の公益の中に包摂な
いしは吸収解消されないところの個別的利益としてこれを具体的に保護しようとする趣旨
を窺わせる規定は一切存しない。
(一)すなわち、原子炉等規制法は、原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これ
らの利用が計画的に行われることを確保し、あわせてこれらによる災害を防止して公共の
安全を図るために、原子炉の設置及び運転等に関して必要な規制を行うこと等を目的とす
る(同法一条)いわゆる規制法の範ちゆうに属するものであつて、右のような公益目的の
実現のため、本来的には国民の自由な活動にゆだね得る原子炉の設置についても、許可制
を採用する等の所要の規制を行うこととしているものである。したがつて、当然のことな
がら、右許可の要件について定める同法二四条一項一号ないし四号の各規定も、以下に述
べるとおり、いずれも専ら公益の保護を目的とするものであつて、原子炉施設の周辺住民
等の個人的利益の保護を目的とするものではないのである。
(1)原子炉等規制法二四条一項一号は、
「原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」を原子炉設置許可の要件と。

る。
同法が、右規定への適合性を要件としているのは、我が国における原子力の研究、開発及
び利用は平和の目的に限つて行われなければならない(基本法二条、原子炉等規制法一条
参照)からにはかならず、右一号への適合性の要求が、専ら右の公益の実現を目的とする
ものであつて、原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものではないこ
とは明らかなところである。
(2)原子炉等規制法二四条一項二号は「その許可をすることによつて原子力の開発、

び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」を原子炉設置許可の要件とす。
る。
同法が、右規定への適合性を要件としているのは、原子力の開発及び利用の分野が広範か
つ多岐にわたつており、また、その成果が得られるまでには長年月と多額の資金及び多数
の人材を要するものであること等にかんがみ、原子炉の設置は長期的視野に立つて計画的
に行われなければならない(同法一条参照)からにほかならず、右二号への適合性の要求
が、専ら右の公益の実現を目的とするものであつて、原子炉施設の周辺住民等の個人的利
益の保護を目的とするものではないことは明らかなところである。
(3)原子炉等規制法二四条一項三号は「その者に原子炉を設置するために必要な技、

的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力
があること」を原子炉設置許可の要件とする。。
同法が、右規定への適合性を要件としているのは、原子炉が高度の技術を集約して設置、
運転されるものであり、かつ、原子炉の設置には多額の資金を要するものであることにか
んがみ、主として原子炉の利用による災害の防止を、原子炉を利用する者の人的、組織的
及び資金的な面から担保し、もつて公共の安全を図ろうとする(同法一条参照)ものにほ
かならず、右三号への適合性の要求が、専ら右の公益の実現を目的とするものであつて、
原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものではないことは明らかなと
ころである。
(4)原子炉等規制法二四条一項四号は「原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料、

質、核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障がないものであ
ること」を原子炉設置許可の要件とする。。
同法が、
右規定への適合性を要件としているのは、原子炉の利用は、何よりも安全の確保を旨とし
て、これによる災害を防止して公共の安全を図りつつ行われなければならない(同法一条
参照)ことにかんがみ、主として原子炉施設の設計面からこれを担保しようとするものに
ほかならず、右四号への適合性の要求が、専ら右の公共の安全という公益の実現を目的と
するものであつて、原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的とするものではな
いことは明らかなところである。原告ら主張のような原子炉施設の周辺住民等の個人的利
益は、右四号の規定が保護する公共の安全という一般的公益に完全に包摂されるものであ
り、右公益が実現されることによつて周辺住民等は均しく原子炉等による災害から必然的
に保護されることとなるのであるから、右周辺住民等の個人的利益はまさに反射的利益に
すぎない。したがつて、右四号の規定の存在をもつて、原子炉等規制法が右周辺住民等の
個人的利益をも、右の公共の安全という一般的公益と並んで、右の公益中に包摂ないしは
吸収解消されないところの個別的利益として具体的に保護しているものと解することは到
底できないのである。
(二)また、原子炉の設置許可に係る原子炉等規制法の関係規定中には、他に、同法の
保護する右の一般的公益と並んで原子炉施設の周辺住民等の個人的利益をも、具体的に保
護しようとする趣旨を窺わせる規定は何ら存しない。
2長沼ナイキ基地訴訟最高裁判決が、森林法の保護する自然災害の防止等の一般的公益
のみならず、これと並んで、森林の存続によつて不特定多数者の享受する生活利益のうち
同法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」の個人的な生活利益をも、右の一般
的公益の中に吸収解消されないところの同法の保護する個別的利益であると解し、右「直
接の利害関係を有する者」につき保安林指定解除処分の取消訴訟についての原告適格を肯
認した理由は、同法が右「直接の利害関係を有する者」に対し、保安林の指定又は解除に
ついての申請権を付与する等同法二七条一項、二九条、三〇条、三二条のような特別の規
定を置いてその利益保護を図つていること並びに、旧森林法において、右の者に保安林指
定の解除処分についての訴願及び行政訴訟の提起を認めていた沿革が存在することの二点
に尽きるのであつて、仮に、
右の森林法の各規定及び旧森林法時代からの沿革の存在がないものとすれば、右「直接の
利害関係を有する者」につき、保安林指定解除処分の取消訴訟についての原告適格を肯認
するに由ないものといわなければならない。
要するに、右長沼ナイキ基地訴訟最高裁判決の原告適格の判断において示された方法論の
基本的特徴は、名宛人に対する授益的行政処分ないしは公益保護のための私権制限に関す
る措置についての行政庁の処分の取消訴訟においては、第三者であるいわゆる周辺住民な
いし付近住民の原告適格に関する判断を、当該行政処分の根拠実定法(森林法)に具体的
に規定された概念(直接の利害関係を有する者)を基礎として、これについての関係「」

定の解釈を通じて行うという方法によつているところにあるということができるのであ
る。
これに対し、本件許可処分は、原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用
が計画的に行われることを確保し、あわせてこれらによる災害を防止して公共の安全を図
るという原子炉等規制法一条所定の公益目的を実現するための方法として同法が採用した
原子炉の設置に係る一般的禁止を、個別的に解除する性質の処分であるから、保安林指定
解除処分と同様、右最高裁判所判決のいう「公益保護のための私権制限に関する措置につ
いての行政庁の処分」に該当するものであり、原子炉の設置許可に係る原子炉等規制法の
関係規定を子細に検討しても、行政庁の右設置の許否の判断について、原子炉施設の周辺
住民に対し、意見書等の提出権を付与したり、聴聞手続等への参加を保障する趣旨の規定
を見出すことはできないし、いわんや、右許可後における当該許可の取消し(同法三三条
参照)等についての申請権を付与するような規定を見出すことはできないのである。した
がつて、本件許可処分について原子炉施設の周辺住民に原告適格を肯認することはできな
いものである。
なお、従前の原子炉設置許可処分取消訴訟についての原告適格を肯定する各下級審判決の
示す原子炉等規制法二四条一項三号、四号の規定の保護法益の解釈の方法は、形式的には
ともかく、実質的にはジユース表示事件最高裁判決及びその後の前掲最高裁判所各判決等
の確立した判例の採る解釈方法とは異質のものであつて、右保護法益の解釈についての先
例としての価値を有しないものというべきである。
3以上のとおり、
本件許可処分の根拠となつた原子炉等規制法の関係規定は、専ら、同法一条、二四条一項
各号所定の一般的公益の保護を目的とするものであつて、右の一般的公益と並んで、原子
炉施設の周辺住民等の個人的利益をも、右の公益の中に包摂ないしは吸収解消されないと
ころの個別的利益としてこれを具体的に保護しているものと解することのできないことは
明らかであり、本件原子炉施設の周辺に居住するとする原告らが本件許可処分によつて侵
害されると主張する個人的な利益は、原子炉等規制法上保護された利益ではなく、同法の
保護する右の一般的公益に包摂され、この公益の保護を通じて反射的に保護される利益に
すぎないものであるから、原告らは、本件許可処分の無効確認を求める原告適格を有しな
い者であるといわなければならない。
四利益侵害の不存在
原告らは、また、本件許可処分によりその主張の利益を侵害され又は必然的に侵害される
おそれがある者ではないから、原告らは、この点においても、本件許可処分の無効確認を
求める原告適格を有しない。
1前述のとおり、処分の無効確認を求めるにつき原告適格を有するというためには、当
該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害され
るおそれがある者でなければならない(ジユース表示事件最高裁判決参照。)
しかして、右の原告適格を基礎付ける法律上の利益を構成する「利益侵害」は、もとより
処分の事実上の結果では足りず、処分の法律上の効果としてのそれであることを要するも
のであることはいうまでもない。このことは、前記の法的利益救済説の立場からすれば自
明のことであるが、例えば、長沼ナイキ基地訴訟最高裁判決も、このことを当然の前提と
したところであり(民集三六巻九号一六九〇ページ以下、判決理由三項参照、また、前)

農地法五条に基づく農地転用許可処分の取消訴訟についての最高裁判所昭和五八年九月六
日判決及び前掲伊達火力発電所に係る公有水面埋立免許等の取消訴訟についての最高裁判
所昭和六〇年一二月一七日判決の明示するところでもある。
2そこで、本件についてみると、前述のように、原子炉等規制法は、同法一条所定の公
益目的を実現するために、本来的には国民の自由な活動にゆだね得る原子力利用の分野に
ついて所要の規制を行ういわゆる規制法の範ちゆうに属するものであつて、原子炉の設置
許可処分は、
申請者に対し、原子炉の設置に関する一般的禁止を申請に係る原子炉につき解除して、当
該原子炉を適法に設置し得る自由を回復せしめる法律上の効果を有するものにすぎず、そ
れ自体としては、当該原子炉施設の周辺住民等の第三者の法律上の地位に変動を及ぼす性
質のものではない。
したがつて、原告らが、本件許可処分によりその主張の利益を侵害される者でないことは
明らかである。また、以下に述べるとおり、原告らは、本件許可処分によりその主張の利
益を必然的に侵害されるおそれがある者にも当たらない。
(一)原子炉設置許可手続は、原子炉の利用に係る安全性を確保するために原子炉等規
制法等が予定している規制手段のすべてではなく、同法等が定めている一連の段階的安全
規制の体系全体の冒頭に位置する一手続にとどまるものであり、原子炉設置許可が与えら
れても、右の許可を受けた者は、同許可のみでは、原告ら主張のような利益侵害発生の原
因となるべき当該原子炉の運転ができる地位を取得するものではない。すなわち、原告ら
が重大明白な瑕疵がある原子炉設置許可処分によつて原子炉施設の周辺住民に生ずると主
張する被害は、右許可によつて直接生ずるものではなく、原子炉設置者の原子炉運転行為
という事実行為がなされることによつて、初めて生ずるおそれが出てくるという性質のも
のである。
本件原子炉施設の設置許可から運転に至る手続の概略を整理すれば(1)原子炉を設置、

ようとする者が、内閣総理大臣の原子炉設置許可(原子炉等規制法二三条一項)を受けた
後に(2)工事に着手するためには、具体的な設計及び工事の方法について内閣総理大、

の認可を受けなければならず(原子炉等規制法二七条、更に、本件原子炉施設は電気事業
法六六条二項の自家用電気工作物に該当するため同法七〇条に基づき具体的な工事計画に
ついて通商産業大臣の認可が必要である、そして(3)原子炉の運転を開始するため。)、

は(a)内閣総理大臣の使用前検査を受けて、これに合格しなければならず(原子炉等、

制法二八条、また(b)保安規定を定め、これにつき内閣総理大臣の認可を受けなけ)、

ばならず(原子炉等規制法三七条、更に(4)運転開始後においても、一定の時期ご)、

に定期検査を受けなければならない(原子炉等規制法二九条)のである。
(二)右のような、
原子炉の利用に係る法的安全規制の体系から明らかなとおり、法律は、原子炉の利用につ
いて、これを段階的に区分し、それぞれの段階に対応して、設置の許可、設計及び工事の
、、、、、方法の認可使用前検査同合格保安規定の認可定期検査等の規制手続を介在せしめ
それぞれ原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性の確保、原子炉施設の
詳細設計に係る安全性の確保、原子炉施設の工事に係る安全性の確保、原子炉施設の実際
の運転管理に係る安全性の確保等を図るものとしているのである。
(三)そして、前述のような本来的な法律上の効果を有する原子炉設置許可処分を、右
のような原子炉の利用に係る安全性を確保するために原子炉等規制法等が規定している一
連の段階的規制手続の体系に位置付けてその法的性質を考察するならば、右処分は、安全
規制の機能面においては、当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性
の確認にとどまるものであり、また、後続手続との関係においても、被許可者に対し、右
の規制手続の次段階に進み得る地位、すなわち、設置許可を受けた原子炉について当該原
子炉施設の詳細設計に係る設計及び工事の方法の認可申請をなし得る地位を付与するとい
う前記の本来的効果に付随する一種の手続的効果が認められるにとどまるのであつて、直
接、これにより被許可者に当該原子炉の運転という事実行為を行い得る地位を付与する性
質のものではない。もともと、申請者は、右の設置許可を得たとしても、右にみた後続の
行政処分等に際しての審査を受けて合格しない限り、原告ら主張のような利益侵害発生の
原因となるべき当該原子炉の運転という事実行為を行うことができる地位を取得すること
はできないものである。
(四)これを要するに、原告ら主張のような利益侵害は、もともと原子炉設置者の当該
原子炉の運転という事実行為によつて初めて生じ得るものであること、原子炉設置許可処
分は、法的安全規制の機能面において、当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針
に係る安全性の確認にとどまるものであり、これにより被許可者に対して、直接、当該原
子炉の運転という事実行為を行い得る地位を付与する性質のものではないこと、原子炉施
設の設計及び工事の方法の認可、使用前検査合格及び保安規定の認可という後続の行政処
分は、
右にみた原子炉等規制法等による原子炉の利用に係る段階的安全規制の体系に照らすと、
それぞれ原子炉設置許可処分とは異なる独自の安全規制上の機能を有し、別異の要件に基
、、づいてなされ別異の法律上の効果を有する別個の行政処分であること等にかんがみれば
原子炉設置許可処分がなされても、その段階においては、事実上も、原告ら主張のような
、、利益侵害なるものが発生するおそれがあるということはできずその発生の蓋然性の有無
程度及びその具体的内容は、前記の後続行政処分ないしは事実行為をまたなければ確定す
ることができない性質のものというべきである。いわんや、将来における右のような利益
侵害をもつて、原子炉設置許可処分の法律上の効果として必然的にもたらされる結果であ
るとすることは到底できないところである。
(五)なお、従前の原子炉設置許可処分取消訴訟についての裁判例は、右の処分による
、、、利益侵害を積極に解しているがその理由付けは分明を欠くのであつていずれの判決も
少なくとも、法律上の利益を構成する利益侵害とは、処分の事実上の結果では足りず、法
律上の効果としてのそれであることを要することについて、正当な認識を欠いていること
は明らかである。
第二行訴法三六条の要件の欠如
原告らは、本件許可処分の無効確認を求めているが、原告らは、本件原子炉施設の設置、
運転の差止めを求める民事訴訟等現在の法律関係に関する訴訟によつて目的を達すること
ができるのであるから、本件無効確認の訴えは、行訴法三六条の要件を欠き、この点にお
いても不適法であり却下を免れない。
一無効確認訴訟の補充性
1まず、初めに確認しておかなければならないのは、行訴法三条四項及び三六条以下の
定める無効等確認の訴え(以下、特に明示しない限り処分の無効確認の訴えについて述べ
る)は、取消訴訟中心主義を採る行訴法の下において、かつ過去の法律関係の確認訴訟。

例外的な場合にのみ許容されるとする民事訴訟及び行政事件訴訟を通じての訴訟法の一般
原則の下において、例外的、補充的な訴訟であるということである。
行訴法に先立つ行政事件訴訟特例法(以下「行特法」という)の下においては、各種行。

事件訴訟の類型及びその相互の位置付けが明確でなかつたために、十分な理論的吟味を欠
いたまま、実務上必要以上に無効確認の訴えが許容されてきたといわれている。これに対
し、
現行の行訴法の制定に当たつては、右のように行特法時代の無効確認の訴えが、実務上い
わば便宜的に幅広く許容されてきたことに対する反省の上に立つて、前記のとおり無効確
認の訴えが例外的、補充的訴訟として位置付けられたことは周知のとおりである。
したがつて、行訴法の下において、無効確認の訴えは漫然と便宜的に認められるべきでな
く、その要件が十分に吟味されなければならないことは当然である。
2行訴法三六条をめぐる学説の対立とその意義
行訴法三六条の規定の解釈をめぐつては、種々の見解があるが、従来の学説の対立状況を
評価するについては、右の学説の対立状況が行特法時代からの経緯、特に行訴法制定前後
における立法論的な議論と密接な関連を有していること及び右各学説が念頭に置いている
問題状況は農地買収処分をめぐる問題や課税処分をめぐる問題といつた伝統的な行政処分
を中心としたある程度限られた類型の紛争であつて、今日生起し得る多様で複雑化した法
律関係を包括的に検討した上でのものでは必ずしもなかつたこと(特に本件のような周辺
住民の提起するいわゆる環境行政訴訟を視野に入れたものでなかつたことはいうまでもな
い)に留意する必要がある。例えば、無効確認が求められている当該処分と後続処分と。

関係が問題とされるが、この関係は極めて多様であり、かつ当該処分及び後続処分に対し
て当該原告が有している利害関係も極めて様々な類型、態様のあり得るところであり、更
に、当該処分と「現在の法律関係」との関係も極めて多様であつて、従来の学説の対立の
理論的枠組みが果たして右のような多様な法律関係に対して包括的に妥当するものであつ
たかは疑問の存するところである。
3最高裁判所昭和五一年四月二七日第三小法廷判決(民集三〇巻三号三八四ページ。以
下「最高裁昭和五一年判決」という)及びその射程距離について。
(一)最高裁昭和五一年判決は「納税者が、課税処分を受け、当該課税処分にかかる、

金をいまだ納付していないため滞納処分を受けるおそれがある場合において、右課税処分
の無効を主張してこれを争おうとするときは、納税者は、行政事件訴訟法三六条により、
右課税処分の無効確認を求める訴えを提起することができるものと解するのが、相当であ
る」と判示して租税未納付の場合における課税処分の無効確認の訴えの適法性を肯定した
ものであるが、
右判示以上に行訴法三六条についてどのような見解を採るものかを明らかにしたものでは
ない。
もとより、最高裁昭和五一年判決が右事案において、右の結論を採つたことは、右事案が
「現在の法律関係に関する訴え」として租税債務不存在確認の訴えという公法上の当事者
訴訟の提起が可能と考えられる事案について当該処分無効確認の訴えの適法性を肯定した
のであるから、右判決は、現在の法律関係に関する訴えに還元することが可能であれば、
それだけで無効確認の訴えの利益を否定する見解(以下「法律関係還元説」という)は。

つていないと解されるし、また、右租税債務不存在確認訴訟の認容判決には関係行政庁に
対する拘束力が認められている(行訴法四一条一項、三三条一項)にもかかわらず当該処
分無効確認の訴えの適法性を肯定したから、当該処分無効確認判決の拘束力によつて同一
処分を防止する必要がある場合は行訴法三六条後段の「現在の法律関係に関する訴えによ
」(「」。)つて目的を達することができない場合にあたると解する見解以下拘束力説という
も採つていないと解されるけれども、被告は、右法律関係還元説や拘束力説に依拠してい
るわけではないから、被告の主張が最高裁昭和五一年判決によつて否定されるものでない
のは明らかである。
(二)次に、原告らは、最高裁昭和五一年判決の射程距離については、課税処分の問題
に留まらず、一般的に後続処分の防止を目的とする予防的無効確認訴訟につき「現在の、

律関係に関する訴えによつて目的を達することが」可能であることを理由として無効確認
訴訟を否定することはしないという趣旨であると解することについて異論はない旨を主張
するが、このように解する根拠はなく、まして右のように解することについて「異論がな
い」というのは原告らの独断である。。
(三)そして、一般に、民事訴訟において、確認訴訟は紛争の予防的機能を有している
とされており、また行訴法三六条前段は「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受、

るおそれのある者」が無効等確認の訴えを提起できる場合があることを明定しており、そ
のような場合に無効等確認訴訟は続行処分の予防訴訟的機能を有しているということがで
きるであろうから、右のような意味において無効等確認訴訟が予防訴訟的機能を有してい
ることは、最高裁昭和五一年判決を引き合いに出すまでもなく、自明のことである。
原告らは「予防的無効確認訴訟」という言葉を再三用いて、それによつて、被告の主張、

対する反論を行つたつもりのようであるが、抽象的に「予防的無効確認訴訟」といつてみ
ても、それ自体で特段意味のあることではない。
(四)更に、原告らは、最高裁昭和五一年判決の立場は「予防的無効確認訴訟の本質、

いし目的を、端的に「後続処分の阻止」それ自体に置き、同訴訟に「現在の法律関係に関
する」民事訴訟等とは別個かつ独自の存在意義を見出すところにその特徴がある」旨を。

由なく主張し、加えて「予防的無効確認訴訟の趣旨は、無効な行政処分につき、未だこ、

に続く処分が存する場合には、当該後続処分の阻止という独自の目的のために、先行処分
それ自体を争う訴訟類型を認めようというところにあり、物権的請求権としての妨害予防
請求権等に基づく民事訴訟とは本来制度趣旨が異なるのであるから、同訴訟の必要性を、
民事訴訟の存在を理由として否定したり、同訴訟を、民事訴訟との関係で、補充的、例外
的と考える理由は全く存しない」旨を主張する。
しかし、そもそも「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれ」がある場合
に無効確認の訴えが許容されるのは、そのような場合に、現在の法律関係に関する訴えを
提起することができないことが多いからか、又は当該事案において現在の法律関係に関す
る訴えによつて目的を達することができないからにほかならないのであつて、後述すると
おり、本件のように現在の法律関係に関する訴えが存し、かつそれによつて十分目的を達
することができる場合に、過去の法律関係を対象とする無効確認の訴えを許容する理由は
ないというべきである。
(五)なお、原告らは「抗告訴訟と民事訴訟は、訴訟の対象、勝訴の要件及び効果、、

点、欠点が異なり、各要件をみたすかぎり、いずれも許容されるべき」である旨を主張し
ているが、一般論として抗告訴訟と民事訴訟とが「各要件をみたすかぎり、いずれも許容
されるべき」であることはいうまでもないが、本件では無効確認の訴えはその要件を満た
さないものである。もつとも、右原告らの主張は、同一の事項について広く抗告訴訟と民
事訴訟との併用を肯定しようとする見解とも解されるが、判例上は右のような併用が認め
られたことはなく、現行法の解釈上右のような併用を肯定する見解を採るべきではない。
4まとめ
以上のとおり、
、「」、行訴法三六条のうち当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者
「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者「現在の」、

律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」の各要件を理論的にどの
ように位置づけるかについては、従来の学説上定説がないのみならず、学説の対立の理論
的枠組みの正当性にも疑問が存する上、判例上も右各学説の位置付けに従つて判断されて
いるとはいえない状況にあることにかんがみ、かつ行訴法三六条の問題は、結局、行政処
分の無効等確認の訴えが過去の法律関係を対象とする例外的、補充的訴訟であることを前
提としつつ、それが当該紛争を実効的に解決するための有効・適切な手段であるか否かを
現在の法律関係についての他の訴訟類型とも比較しつつ判定するという問題であることに
照らして、以下においては、本件無効確認の訴えが右のような意味において本件紛争の有
効・適切な解決手段であるかを検討し、本件無効確認の訴えの適法性を肯定することは行
訴法三六条の趣旨に適合しないものであることを明らかにすることとする。
二本件許可処分と後続処分との関係
本件許可処分は原子炉等規制法二三条一項四号が規定する内閣総理大臣の原子炉設置許可
であるが、本件原子炉施設を設置、運転するためには、右原子炉設置許可を受けたのみで
は足りず、更に原子炉等規制法二七条に基づき、原子炉施設の工事に着手する前に、原子
炉施設に関する設計及び工事の方法について内閣総理大臣の認可(以下「設計等の認可」
という)を受けなければならないものであることは既に述べたところである。。
右の設計等の認可は本件許可処分との関係においては一連の手続のうちの後続処分という
ことができる。そこで、右設計等の認可との関係で、本件において原告らは、行訴法三六
条前段の「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に当たるか
否かという問題が生ずる。
ここで注意しなければならないのは、仮に行訴法三六条前段を根拠に無効確認訴訟が後続
処分を未然に防止するという予防訴訟的機能を有することがあるとの見解を採るとして
も、
それは後続処分を受けること自体によつて当該原告が損害を被るため後続処分を予め防止
する必要があるにもかかわらず、後続処分も一個の行政処分である以上、
行政庁の第一次的判断権の尊重という観点から本来事前にその後続処分の発動を差し止め
るような訴訟は無名抗告訴訟としてであれ、原則的に許されないが、後続処分がなされて
しまうと損害が生じてしまい事後的な救済では救済が不十分であることから、右のように
先行処分が無効な場合には、例外的に先行処分の無効確認訴訟を許容し後続処分の予防訴
訟的な機能を無効確認訴訟に果たさせようとするものにほかならないということである。
すなわち、例えば無効確認訴訟が許される課税処分とその後続処分である滞納処分との関
係を見ると、課税処分が無効であるにもかかわらず、後続の滞納処分がなされると、当該
名宛人の財産が差押えられる等して滞納処分を受けたこと自体によつて直ちに損害を受け
るのであつて、滞納処分に対する取消訴訟では救済が遅きに失し、滞納処分を事前に差止
める無名抗告訴訟は仮に許容される余地があるとしても例外的なものにすぎないものであ
ることから、課税処分が無効である場合に後続の滞納処分を予防するために例外的に予防
訴訟的機能を有する訴訟として端的に課税処分の無効確認訴訟を許容する(なお、場合に
よつては課税処分の執行が停止(行訴法三八条三項、二五条)されることもある)こと。

合理性が認められるのであつて、最高裁昭和五一年判決も右のような趣旨で理解し得るも
のである。
これに対し、本件の場合について見ると、本件許可処分の後続処分である設計等の認可が
なされても、それ自体によつて原告らに損害が生ずるものではなく、原告らに損害が生ず
る余地があるとすれば、それは原子炉設置者が現実に原子炉施設を設置して運転すること
によるものであつて後続処分である設計等の認可を事前に防止しなければ原告らに損害が
生じてしまうという関係にはなく、むしろ、直接的に現実の原子炉施設の運転行為を事前
に差止める必要があるのであれば例えば物権的請求権としての妨害予防請求権に基づく民
事訴訟が予定されているのである。
したがつて、本件許可処分がその後続処分として設計等の認可を予定しているからといつ
て、本件無効確認の訴えを提起した原告らが行訴法三六条前段の「当該処分又は裁決に続
く処分により損害を受けるおそれのある者」に当たると解する根拠はないといわなければ
ならない。
三本件無効確認の訴えと「現在の法律関係に関する訴え」
原告らにおいて、本件原子炉施設の設置、
運転によつて原告らの権利が侵害されると主張するのであれば、端的に原告らの有する権
利に基づいて、本件原子炉施設の設置、運転の差止めを求める民事訴訟(例えば所有権に
基づく妨害予防訴訟あるいは、現実の原子炉施設の運転開始後において妨害排除訴訟)と
いう「現在の法律関係に関する訴え」が用意されているのである。そして、原告らが現に
訴外動燃に対して提起している差止請求も、原告らが主張する人格権、環境権が差止請求
権の根拠となり得るものでないことをおくとすれば、右類型の民事訴訟ということができ
るであろう。そこで、以下において、本件許可処分の無効確認訴訟と差止民事訴訟とを比
較し、いずれが本件紛争を有効かつ適切に解決し得るものであるかについて検討し、もつ
て本件無効確認の訴えが行訴法三六条後段の「現在の法律関係に関する訴えによつて目的
を達することができないもの」に該当しないことを明らかにすることとする。
原告らが本件訴訟において主張していることは、要するに、本件原子炉施設は危険であつ
て、これが設置、運転されると本件原子炉施設から放出される放射性物質等によつてその
周辺に居住する原告らに被害が発生するということである。
、、、ところで一般に原子炉施設を含めて何ぴとかが何らかの施設を設置する場合において
その施設が周辺住民に被害を及ぼすことのないようにその安全性を確保する全面的かつ第
一次的責任を負うのは当該施設の設置者であることはいうまでもなく、当該施設の安全性
について行政庁が法律に基づいて規制、監督を行う場合においても、その規制、監督が、
例えば原子炉施設については極めて厳重に行われているといつても、右のような原子炉設
置者の第一次的安全確保責任を肩代りするものでないことはいうまでもなく、法律が行政
庁の規制、監督に果たさせている役割は一定の限界があり、特に個別の法律に基づく個々
の行政処分が果たすべき役割は、その行政処分の要件の審査の対象として法律が予定して
いる事項が限られていることから当然その範囲に限定されることはいうまでもない。
これを本件許可処分についてみれば、まずその根拠法令である原子炉等規制法自体の性格
からして、原子炉施設の安全性にかかわる事項のうち、原子力固有の事項を対象としてい
ることから、原子力固有の事項でないもの、例えば、
本件原子炉施設から排出される温排水の熱的影響のような火力発電所でも同様に生ずる事
項は本件許可処分の審査の対象として原子炉等規制法が予定するものではないのである。
また、原子炉施設の設置に直接、間接に関連する事項であつても、原子炉設置許可の際に
そのすべてが審査の対象となるのではなく、原子炉等規制法は、核原料物質、核燃料物質
及び原子炉の利用につき、これを各種分野に区分し、それぞれの分野の特質に応じて、そ
れぞれの分野ごとに一連の所要の安定規制を行うという方法に基づいてその体系が構成さ
れているのである。すなわち、同法は(1)第二章の各規定によつて製錬の事業に関す、

一連の規制を(2)第三章の各規定によつて加工の事業に関する一連の規制を(3)、、

四章の各規定によつて原子炉の設置、運転等に関する一連の規制を(4)第五章の各規、

によつて再処理の事業に関する一連の規制を(5)第六章の各規定によつて右の各章の、

定の適用を受けない核燃料物質等の使用等に関する一連の規制をそれぞれ行うこととし、
これにより同法一条所定の目的を実現しようとしているのである。したがつて、原子炉設
置許可手続を、右のような原子炉等規制法における原子力の利用に関する安全規制の体系
の中に位置付けて、いわば横断的な観点から、原子炉設置許可に際しての安全審査の対象
となる事項を考察すれば、それが、原子炉施設自体の安全性に直接関係する事項にのみ限
られるものであることは明らかである。このことから、例えば、本件原子炉施設に核燃料
物質を搬入する際の安全性のごときは、本件許可処分に際しての安全審査の対象となるも
のではなく、別途原子炉等規制法五九条の二等に基づいて規制されるのである。
また、右の原子炉施設自体の安全性に直接関係する事項であつてもそのすべてが原子炉設
置許可に際しての安全審査の対象となるのではなく、前記のとおり原子炉等規制法は段階
、()的安全規制を採用し原子炉設置許可の後続処分として前記の設計等の認可同法二七条
を要求し、この認可の段階において原子炉施設の詳細な設計に係る安全性を審査すべきも
のとしていることからすれば、原子炉設置許可に際しての安全審査の対象となるのは原子
炉施設自体に直接関係する事項のうち、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係
る安全性のみであることは明らかである。
このように、
原子炉設置許可に際しての安全審査は、それが、行政庁による安全規制が本来的に有して
いる前記のような二次的な性格からする一般的な限界のほかに、右のような原子炉等規制
法の体系の中での原子炉設置許可の位置付け、機能分担の見地からする事項的な限界を有
していることが留意されなければならない。
しかして、本論に戻つて、本件原子炉施設の周辺住民たる原告らが本件原子炉施設によつ
て被害が発生する蓋然性が存すると主張する本件紛争の有効、適切な解決のために、本件
許可処分の無効確認訴訟と本件原子炉施設の設置、運転差止めを求める民事訴訟のいずれ
、、がより実効的な解決手段であるかを見るとき行政庁のする原子炉設置許可というものが
右に見たとおり、原子炉施設の安全確保に関連する機能全体の中において極めて限定され
た機能を有するにすぎないことから、本件許可処分の無効確認訴訟において審査される事
項も極めて限定され、したがつて、右に述べたような本件原子炉施設による周辺住民に対
する被害発生の蓋然性の有無という本件紛争の本体的内容の解決のため果たし得る役割も
限られたものにすぎない。
これに対し、訴外動燃を相手方として、本件原子炉施設の設置、運転の差止めを求める民
事訴訟はまさに周辺住民たる原告らが、原子炉施設を自ら設置、運転し、その安全性の確
保につき第一次的かつ全面的な責任を負う立場にある原子炉設置者を相手とし、当該原子
炉施設によつて原告らに被害発生の蓋然性が有るか否かを直接の争点とするものであう
で、
本件紛争の解決のための有効、適切な手段であることは明らかなところである。
したがつて、右のような端的かつ実効的な「現在の法律関係に関する訴訟」が用意されて
いる以上、例外的、補充的訴訟としての本件無効確認訴訟を許容する理由は全く存しない
といわなければならない。
また、以上のことは行政事件訴訟における司法審査の方法という観点からも容易に理解し
得るところである。
すなわち、原子炉設置許可処分は、許可権者である内閣総理大臣において検討すべき内容
及びその許可要件を定める原子炉等規制法二四条一項各号の文言に照らして、広汎かつ高
度な原子力行政に関する政策的事項についての総合的判断と原子炉施設の安全性について
の専門技術的判断とに基づいてなされるところの裁量処分であることはあきらかであつ
て、
このような裁量処分に対する行政事件訴訟における司法審査の方法は、裁判所が行政庁と
同一の立場に立つて直接的かつ全面的な審査を行ういわゆる司法判断代置方式によるので
はなく、行政庁の判断を前提にその判断過程に著しい不合理があつて裁量権の逸脱、濫用
に当たる事由があるか否かを審理する(なお、これが取消訴訟における行政処分の取消原
因たる瑕疵の存否の審理であり、無効確認訴訟では更にその瑕疵が重大、明白であるか否
かが審理の対象であることはいうまでもない)ものである。。
右のように行政事件訴訟における司法審査の方法という面から見ても、本件無効確認訴訟
は、本件原子炉施設から原告らに対する被害発生の蓋然性の有無を直接の審理の対象とす
るものではなく、それとは全く異なつた視点から極めて限定された審査をするものにすぎ
ず、これに対し、本件原子炉施設の設置、運転の差止めを求める民事訴訟は原告らに対す
、、る被害発生の蓋然性の有無を直接の審査の対象とするものであつて本件紛争のより直接
簡明な解決手段であることは明らかである。
以上のとおり、原告らは、行訴法三六条後段の「現在の法律関係に関する訴えによつて目
的を達することができないもの」にも該当しないから、本件無効確認訴訟の訴えの利益を
有せず、本件無効確認の訴えは不適法として却下を免れない。
第三章被告の本案前の主張に対する原告らの反論
第一本件許可処分の無効を求めるについての法律上の利益について
一はじめに
被告は、原告らが本件許可処分によつて侵害されると主張する利益は法律上保護された利
益ではないから、原告らは本件許可処分の無効確認を求める原告適格を有しないとして本
件無効確認の訴えの却下を求めているのでこの点について次のとおり主張する。
二法的利益救済説に対する批判
1行訴法九条、三六条は抗告訴訟の原告適格として「処分等の取消を求めるにつき法律
上の利益を有する者」あるいは「処分等の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有
する者」であることを求めている。被告は右「法律上の利益」を権利又は法律上保護され
た利益の意味であるといういわゆる法的利益救済説を固執し、判例上も確立していると主
張しているが、このように狭義に解する理由は全くない。
抗告訴訟は違法な行政処分によつて侵害される権利、利益を保障するという考えから作ら
れた制度であるから、
実体行政法規によつて明文上保護された権利又は法的利益を侵害された者が原告となりう
るのは当然であるが、それ以外にも実体行政法規には規定されていない事実上の利益が侵
害を受けた場合であつても、侵害の結果生ずる原告の不利益が直接的または重大であつて
その危険や不安を除去する必要があると見られる場合にも先の場合と同様、原告適格を認
められるべきである。この意味でいわゆる法的保護に値する利益説が正しいといえる。
2このように解せず、被告が主張するように権利又は法律上保護された利益を厳しく限
定するのは、すべての行政法規がその目的ないし立法技術上の考慮から直接国民の権利又
は利益を保護する明文の規定を置いているとはいえないため、多くの場合国民の救済の途
を閉ざす結果となり不当である。最高裁判決も文言上は法的利益救済説を採用していると
されているが、実質的にはこのような配慮から実体行政法規がその権利又は利益を保護し
ているかの判断において弾力的に解釈して原告適格を肯定せざるを得なくなつてきてい
る。
被告が原告らの利益を単なる反射的利益と決めつけ原告適格なしと主張するのは、抗告訴
訟の本質を無視するものである。
三法的利益救済説によつても原告適格は肯定される
この法的保護に値する利益救済説が今日では学説上通説となつているが、裁判上もまた、
法的利益救済説に依りながら各行政法規の個別的解釈のうえで法的保護に値する利益説と
さして変らない結果を導き出している判決例が少なくない。
仮に行訴法九条、三六条にいう「法律上の利益を有する者」につき、これを法律上保護さ
れた利益を侵害された者と解するとしても、右にいう法律上保護された利益の内容につい
ては、法律の特定条項のみによらず、当該法律全体、更には憲法をはじめとする法体系全
体に照らして周到な考察をすべきことはいうまでもない。
以下、この点を本件に即して具体的に明もかにすることとする。
1平和利用目的への限定と原告適格
基本法二条は、原子力の研究、開発及び利用は、平和目的に限るものとし、また、原子炉
、、、等規制法一条は原子炉の利用を平和の目的に限定することを同法の目的の一とし更に
同法二四条一項一号は「原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと」を使用
。、、許可の要件とするこれらの規定は憲法に示された個々人の平和のうちに生存する権利
、、利益を確保することを目的とし特に軍事目的に利用されやすい原子力の性質にかんがみ
これを具体的に規定したものである。
また、非平和目的の原子炉が設置運転されるときは、必然的に外部からの攻撃の対象とさ
れることになる。イスラエルがイラクの原子炉に対し、一九八一年六月七日、核兵器製造
用であるとして奇襲爆撃した事実は、この可能性が現実的な可能性であることを示すもの
である。このような事態となれば、原子炉施設の付近住民もまた右攻撃の危険にさらされ
ることになり、更には原子炉等が攻撃により破壊された場合における核燃料物質、核分裂
生成物等の放射性物質若しくはこれによつて汚染された物による重大な災害の危険にさら
されることとなる。したがつて、法による平和目的への限定は、とりわけ原子炉施設付近
、。住民の平和と安全のうちに生存する具体的な権利利益の確保をも目的とするものである
2原子力開発及び利用の計画的遂行と原告適格
原子炉等規制法一条は、原子炉の利用が計画的に行われることを確保することを同法の目
的の一とし、同法二四条一項二号は「その許可をすることによつて原子力の開発及び利用
の計画的な逐行に支障を及ぼすおそれがないこと」を原子炉設置許可の要件とする。これ
について被告は、原子力の開発及び利用の分野が広範かつ多岐にわたつており、多年にわ
たり多額の資金と多数の人材を要することになるから、長期的視野に立つて計画的に行わ
なければならないからであるとし、要するに経済的目的によるものであるとするが、この
ように限定する理由はない。
核原料物質及び核燃料物質の利用全体についてみれば、その採掘若しくは国内搬入から使
用、再処理を経て廃棄物の処分に至るまでの全過程において、技術的、経済的な見通しを
持つた計画性が確保されないままにその利用が行われるときは、右物質やこれによつて汚
染された物が右いずれかの段階に集中することになり、これによる災害の危険が避け難い
ものとなることは明らかである。
また、ある特定の原子炉についてみても、その建設から運転を経て廃炉に至るまでの全経
過において、技術的、経済的な見通しを持つた計画性が確保されないままにその設置運転
が行われるときは、原子炉付近住民は、これまた核燃料物質等やこれによつて汚染された
物による災害の危険にさらされることも明らかである。法による計画的遂行の確保は、
付近住民の生命、身体及び財産に対するかかる危険を防止することをも重要な目的として
いるのである。
3災害の防止、技術的能力等と原告適格
()、、、一基本法二条は原子力の研究開発及び利用は安全の確保を旨とすべきものとし
また、原子炉等規制法一条は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉による災害を防止する
ことを同法の目的の一とし、更に同法二四条一項四号は「原子炉施設の位置、構造及び、

備が核燃料物質、核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害の防止上支障が
ないものであること」を、また、同条同項三号は「原子炉を設置するために必要な技術、

能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力が
あること」をそれぞれ原子炉設置許可の要件としている。
被告は、公益と個人的利益とを峻別すべきであるとし、これらの規定は専ら公共の安全と
いう公益の実現を目的とするものであつて、原子炉施設周辺住民等の個人的利益の保護を
目的とするものではないと主張するが、しかし、何故に公益と個人的利益を峻別しなけれ
ばならないのか、何故にこれらの規定が公益の保護のみを目的とし、個人的利益の保護を
目的としないと解すべきなのかにつき、何ら実質的な理由を示し得ていない。
原子炉から生ずる災害によつて害される周辺住民の利益は、個人的利益としてみても後述
するように極めて重大な利益であり、法がこれを単に公益的見地からのみ保護しようとし
ているものとは解しえず、個人的利益の見地からもこれを保護しているものと解さなけれ
ばならない。
したがつて、前記規定は、物的施設、人的組織の両面から原子炉等による災害を防止する
ことを目的とするものであり、右災害によつて侵害される個々の住民の、生命、身体及び
財産上の安全をも保護法益とするものであることは明らかである。
(二)また、原子炉等規制法二四条一項四号が、原子炉施設の「位置」が災害防止上支
障のないことを要件としていること、同法の付属法規である原子炉規則一条の二第七号、
一条の三第一項五号、二項六、七、一〇号、告示二条、一〇条一項及び同法二四条一項四
号の解釈について事実上重要な意義を有する安全設計審査指針、原子炉立地審査指針、気
象指針等はいずれも原子炉施設周辺における放射線被曝を軽減し、
右施設周辺住民が原子炉事故による災害を受けることを防止することを重要な目的として
いることからも原子炉等規制法が右災害によつて侵害される個々の住民の生命、身体及び
財産上の安全を保護法益としていることが理由づけられる。
(三)右の結論は、原子炉等規制法と公害対策基本法との対比上からもその根拠を見い
出すことができる。
すなわち、原子炉等規制法の目的は、同法一条に規定するとおりであり、同法二四条一項
三、四号の要件の目的は前記のとおりであるところ、同法は、基本法二〇条の「放射線に
よる障害を防止し、公共の安全を確保するため、放射性物質及び放射線発生装置に係る製
造、販売、使用、測定等に対する規制その他保安及び保健上の措置に関しては、別に法律
で定める」との規定を受けて制定されたものであつて、同法の精神にのつとつて制定され
たものである。しかも、右両法は、国民の健康保護と生活環境の保全とを目的(公害対策
基本法一条)として制定された公害対策基本法八条の「放射性物質による大気の汚染、水
質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法その他の関係法律
で定めるところによる」との規定を受けての法律である。したがつて、以上の各法規の法
体系上の位置からすれば、原子炉等規制法二四条一項四号の目的とするところは、公害に
ついての国の基本的政策を示した法律であつてこの下に位置付けられる公害規制のための
諸法規の解釈基準としての法的性格を持つ法律である公害対策基本法の目的とするところ
と同一であると解される。そして、同法は、関係する個々人の利益を全体としてとらえた
とも解される「生活環境の保全」という目的のほかに「国民の健康保護」をも目的とし、

おり、右にいう「国民の健康」とは、全体としての国民の健康というよりは具体的に健康
を害される個々の国民たる個人の健康を指しているというべきであるから、同法は具体的
な個々人の権利、利益をも保護していると解される。そこで、原子炉等規制法二四条一項
四号も、公害対策基本法と同様、個々の住民の個人的利益としても保護している、すなわ
ち、周辺住民の生命、身体等をも保護目的としているといえるのである。
(四)よつて、仮に法的利益救済説の立場に立つとしても、本件許可処分の対象とされ
た原子炉施設の近隣に居住する原告らに、
本件許可処分の無効確認を求める原告適格が存在することは明らかである。
(五)以上と同様の理由により、従前の原子炉設置許可処分取消訴訟についての下級審
判決、すなわち、伊方発電所(一号炉)についての松山地方裁判所昭和五三年四月二五日
判決及びその控訴審判決である高松高等裁判所昭和五九年一二月一四日判決、福島第二原
子力発電所についての福島地方裁判所昭和五九年七月二三日判決、東海第一発電所につい
ての水戸地方裁判所昭和六〇年六月二五日判決は、いずれも原子炉施設周辺住民の原告適
格を肯定している。
四現実化した周辺住民の被害
原告らはいずれも本件原子炉施設周辺の住民であり、右施設から直線距離にして数キロな
いし六〇キロメートルの範囲に居住している。したがつて、原子炉の平常運転時において
も一定の量を超える放射性物質の放出が続けば、原告らのごとき原子炉施設周辺に居住す
る者が放射線による被曝の結果、健康を害するおそれのあること及び原子炉の炉心溶融や
格納容器の破壊等の災害が発生し、大量の放射線の放排出があれば、原告らの多くの者が
放射線被曝により死亡若しくは発病することとなるおそれのあることは、いずれも経験則
上明らかである。ことに請求の原因で述べたように昭和六一年四月に発生したソビエトの
チエルノブイリ原子力発電所の事故によつて更にそれよりも広範囲の住民及び環境に重大
な影響を及ぼすことが歴史的事実としても明確になつた。
第二行訴法三六条の要件の充足について
一予防的無効確認訴訟の許容性
1無効な行政処分について、未だこれに続く処分(後続処分)が存する場合に、当該後
続処分の阻止を目的として、既になされた先行行政処分それ自体を争う訴訟類型が「予防
的無効確認訴訟」であるところ、右訴訟が許容されるためには、特に行訴法三六条後段の
「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関縣に関する
訴えによつて目的を達することができないものに限り」との要件が必要か否かについて、
種々の見解が対立していた。
2右予防的無効確認訴訟について最高裁昭和五一年判決は「納税者が、課税処分を受、
け、
当該課税処分にかかる税金をいまだ納付していないため滞納処分を受けるおそれがある場
合において、右課税処分の無効を主張してこれを争おうとするときは、納税者は、行政事
件訴訟法三六条により、
右課税処分の無効確認を求める訴えを提起することができるものと解するのが、相当であ
る」旨を判示して、いわゆる二元説(行訴法三六条前段前半の「当該処分又は裁決に続。

処分により損害を受けるおそれのある者」については前記後段の要件は不要であるとする
立場をいう)又はいわゆる一元説(同条前段前半の「当該処分又は裁決に続く処分によ。

損害を受けるおそれのある者」であつても、また、同条前段後半の「当該処分又は裁決の
無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」であつても前記後段の要件を必要
とする立場をいう)の中の目的達成説(前記後段の要件のうちの「目的を達する」との。

言に予防訴訟的機能を含ましめ、現在の法律関係に関する訴えに還元することが可能であ
つても、それによつては目的を達することができない場合には右要件が充足されるとする
見解)と呼ばれる見解を採ることを明らかにした。。
3そして、最高裁昭和五一年判決の射程距離については、課税処分の問題に留まらず、
一般的に後続処分の防止を目的とする予防的無効確認訴訟につき「現在の法律関係に関、
する訴えによつて目的を達することが」可能であることを理由として無効確認訴訟を否定
することはしないという趣旨であると解することについて異論はない。
したがつて、当該行政処分の無効を前提とする「現在の法律関係に関する訴訟」を原則的
訴訟形式とし、無効確認訴訟をその補充的例外的な訴訟形式として制限すべきだという被
告の主張は、こと予防的無効確認訴訟に関する限りはそれ自体誤りである。
、、、4ところで最高裁昭和五一年判決の立場は予防的無効確認訴訟の本質ないし目的を
端的に「後続処分の阻止」それ自体に置き、同訴訟に「現在の法律関係に関する」民事訴
訟等とは別個かつ独自の存在意義を見出すところにその特徴があり、無効な行政処分(先
行処分)につき、未だこれに続く処分(後続処分)が存する場合には「現在の法律関係、

関する訴え」の可否とは関係なく、当該後続処分の阻止という独自の目的のために「紛、

」。の根源である当該先行処分それ自体を争う独自の訴訟類型を認めようとするものである
被告は、原子炉施設の運転行為による損害を事前に防止するためには、物権的請求権とし
ての妨害予防請求権に基づく民事訴訟等が予定されている旨を主張するが、前述したよう
に、予防的無効確認訴訟の趣旨は、
無効な行政処分につき、未だこれに続く処分が存する場合には、当該後続処分の阻止とい
、、う独自の目的のために先行処分それ自体を争う訴訟類型を認めようというところにあり
前記民事訴訟とは本来制度趣旨が異なるのであるから、同訴訟の必要性を、民事訴訟の存
在を理由として否定したり、同訴訟を、民事訴訟との関係で、補充的、例外的と考える理
由は全く存しない。
二行訴法三六条前段の該当性について
原告らは、次に述べるとおり、本件許可処分に続く処分(後続処分)により損害を受ける
おそれのある者に該当するから本件訴えの原告適格を有する。
1本件許可処分の後続処分の内容と性格
(一)後続処分の内容
(1)本件許可処分に関し、原子炉等規制法上の後続処分として以下の各処分が予定さ
れている。
(1)原子炉施設工事に着工するために必要な処分
(、)設計及び工事方法についての内閣総理大臣の認可設計及び工事方法の認可同法二七条
(2)原子炉を使用し、運転を開始するために必要な処分
(a)原子炉施設の工事及び性能についての内閣総理大臣の検査とこれの合格(使用前
検査・合格、同法二八条)
()(、)b原子炉の保安規定についての内閣総理大臣の認可保安規定の認可同法三七条
(3)原子炉を継続的に使用、運転するために必要な処分
原子炉本体などについての内閣総理大臣の毎年一回の定期検査(同法二九条)
(2)右の各後続処分のうち、予防訴訟としての本件無効確認訴訟にとつて有意的と思
われる右(1(2)め各処分の審査内容等は次のとおりである。)
(1)設計及び工事方法の認可
(a)イ原子炉本体、ロ核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設、ハ原子炉冷却系統施設、
、、、、二計測制御系統施設ホ放射性廃棄物の廃棄施設へ放射線管理施設ト原子炉格納施設
チその他原子炉の付属施設についての設計(詳細設計)及び工事の方法
(b)イ圧力容器、熱交換器、管等の耐圧強度、ロ燃料体、減速材等の耐熱、耐放射線
等の強度、ハ放射線しやへい、二原子炉施設の耐震性、ホ炉心の核的設計及び熱的設計、
へ安全弁及び逃がし弁の吹出量、ト核燃料物質貯蔵施設の核燃料物質の臨海防止、チ制御
設備の制御能力、り前各号に掲げる事項のほか、長官が必要と認める事項についての計算
結果(以上「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則。、」。)
(2)使用前検査・合格
(a)原子炉施設の性能に関する事項、その他(試験炉規則三条の四。)
(b)右使用前検査は、原子炉施設の工事が前記の認可を受けた設計及び記載された仕
様どおり発揮されることなど、技術上の基準に適合していることが確認された場合に合格
とされ(原子炉等規制法二八条二項、試験炉規則三条の五、この場合使用前検査合格証)

交付される(試験炉規則三条の六。)
(3)保安規定の認可
(a)イ原子炉施設の運転に関すること、ロ原子炉施設の運転及び利用の安全審査に関
すること、ハ被曝放射線量、放射性物質の濃度及び放射性物質によつて汚染された物の表
、()。面の放射性物質の密度の監視並びに汚染の除去に関することその他試験炉規則一五条
(b)右保安規定が核燃料物質、核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災
害の防止上十分でないと認めるときは、内閣総理大臣はこれを認可することができないと
されている(原子炉等規制法三七条二項。)
(二)後続処分の性格
(1)本件において、先行処分である本件許可処分が(1)内容の基本性と総体性、、
(2)
審査手続の厳格性と慎重性(3)後続処分及び原子炉使用・運転に対する前提性(4)、、
内容の瑕疵の、後続処分及び原子炉使用・運転に対する承継可能性などの諸点から、原子
炉利用の段階的安全規制の中でも原始的かつ中核的な手続であり、したがつて、本件許可
処分それ自体によつて原告らの法律上の利益が必然的に侵害されるおそれのあることは、
明らかであるが、このことは本件許可処分の後続処分の重要性をいささかも減ずるもので
はない。
(2)すなわち、設計及び工事方法の認可においては、原子炉の設置許可(処分)にか
かる原子炉施設の基本設計を瑕疵のないものとして前提にしつつ、その具体化された設計
(詳細設計)を審査し、かつ詳細設計にかかる施設の機器等が正常に作動し、基本設計上
の機能が発揮されることを計数上の根拠をもつて予測し、これらによつて始めて原子炉の
建設工事が可能となるものである。
また、使用前検査においては、物理的に完成した原子炉施設について実際の試験、検査を
実施することを通じて設置許可や設計及び工事方法の認可にかかる原子炉施設の機能、性
能等を追試し、これらによつて始めて原子炉の使用が可能となるものである。
更に、保安規定の認可においては、
原子炉設置者による原子炉施設の運転・管理が適正かつ安全になされるか否かを原子炉等
による災害の防止という観点から審査し、これらによつて始めて原子炉の運転が可能とな
るものである。
(3)以上のとおり、本件許可処分の各後続処分は、それ自体独自の意義をもつた独立
の行政処分として、原告ら付近住民にとつてはその利益侵害がより具体的、現実的となる
ような段階的過程にある行政処分であり、これら各後続処分自体が原告らの法律上の利益
を侵害するおそれのあることが明らかである。そしてこの点は、各後続処分の根拠規定が
原子炉設置許可基準の根拠規定(原子炉等規制法二四条一項)と同等(例えば、保安規定
の認可基準を定める原子炉等規制法三七条二項は「保安規定が核燃料物質、核燃料物質、

よつて汚染された物又は原子炉による災害の防止上十分で(あること」と規定する、))

るいはこれを敷衍した(例えば、使用前検査の合格基準を定める原子炉等規制法二八条二
項二号は、原子炉による災害を防止するための各種安全装置等が、所定の技術上の基準に
適合することを使用前検査合格基準としている)規定を有していることからも窺われる。
(4)被告は、本件訴訟の予防訴訟としての利益の存否に関し「本件許可処分の後続、

分である設計等の認可がなされても、それ自体によつて原告らに損害が生ずるものではな
く、原告らに損害が生ずる余地があるとすれば、それは原子炉設置者が現実に原子炉施設
を設置して運転することによるものであつて後続処分である設計等の認可を事前に防止し
なければ原告らに損害が生じてしまうという関係にはない」旨を主張している。しかしこ
の主張は、原告らの利益侵害は後続処分をまたなければ確定することができないとする被
告自身の主張と矛盾するのみならず、一般に行政処分の名宛人以外の第三者が当該処分の
効力を争う場合には、当該第三者は当該処分「それ自体」によつて利益侵害を受けるとい
う構造にはなく、常に当該処分の名宛人の行為あるいは当該処分によつて名宛人が得た法
的地位が媒介となつて当該第三者の利益侵害が発生することになることは自明であつて、
被告の主張のように解すべき法律上の根拠はなく、また、そのように解すると当該処分の
名宛人以外の第三者が予防訴訟の形式で当該処分の効力を争うことがおよそ不可能となら
ざるをえなくなるから、
いずれの観点からもかかる主張が成立する余地はない。
2予防訴訟の利益の存在
予防訴訟としての無効確認訴訟が許容されるためには、後続処分によつて損害を受けるお
それのあることが必要とされる。
これを本件について見れば、前記の各後続処分によつて原告らが損害を受けるおそれがあ
ること、したがつて、これら後続処分を予防する利益が存在することは以下の諸点から明
らかである。
(一)後続処分による新たな危険の発生ないし既存の危険の拡大
(1)被告は(1)原子炉設置許可に際しての安全審査の対象となる事項は原子炉施、

の基本設計ないし基本的設計方針に係る安全性に関する事項に限られること(2)原子、

施設自体の安全性に関係する事項であつても詳細設計や具体的運転管理に関する事項は設
置許可に際しての安全審査の対象に含まれないこと(3)原子炉施設の具体的な建設及、

工事は、設計及び工事方法の認可を受けた詳細設計に基づいてなされること(1)原子、

施設の建設及び工事が完了しても使用前検査に合格しなければこれを使用することはでき
ないこと(5)保安規定の認可を受けなければ原子炉を運転することはできないこと、、

どを主張する。
(2)被告の右主張は、これらの事実から「本件許可処分によつては原告らの法律上の
利益を侵害するおそれがない」との結論を導く点において根本的な誤りを犯していること
は明らかであるが、原子炉の段階的安全規制において、現に運用されている各段階の審査
内容の説明としては誤りではない(かかる審査制度や運用状況の当否は別問題である。)
この場合「それぞれの段階において、かつ、その全過程を通じて、所要の安全確保が図ら
れている」ということは、同時に、それぞれの段階において各別に安全確保が図られねば
ならないような危険性の内在を意味することに留意すべきである。すなわち、原子炉の段
階的安全規制において、各段階での審査対象や審査手続が異なるとすれば、それぞれの段
階は原子炉設置許可に基本的に枠組みされつつも、これとは異なる質と量の危険性を内在
させた過程であるといわねばならない。
(3)例えば、原子炉施設の具体的な建設及び工事は、認可を受けた詳細設計に基づい
てなされるとされ、この際の詳細設計とは原子炉施設・構造物の素材や各種機器、部品等
の性能、品質をも含むものと解されるが、
仮にこれもの詳細設計に瑕疵があり、これを看過して設計及び工事方法の認可が与えられ
たならば、その瑕疵は当該施設自体の瑕疵に直結することは多言を要しない。そしてこの
場合の原子炉施設の瑕疵は、右設計及び工事方法の認可という後続処分によつて生じた新
たな危険ということができる。
また使用前検査・合格は、前記のとおり物理的に完成した原子炉施設について実際の試験
や検査を実施するものであるから、その実施方法の適正を欠いて原子炉施設の機能等の評
価を誤つた場合、これが原子炉施設の事故に結びつく高度の危険性を有することは明らか
である。
更に、保安規定は原子炉施設の具体的な運転管理方法等を定めるものであり、とりわけ事
故時の対処にかかわる保安規定に不備、欠陥があつたならば冷却材喪失や出力暴走等の大
規模な原子炉事故を惹起しかねないことはスリーマイル島原子力発電所やチエルノブイリ
原子力発電所の各事故の例からも明もかである(前記の原子炉等規制法三七条二項の規定
はかかる観点からも理解される。)
(4)以上のとおり、本件の各後続処分はいずれも本件許可処分に基本的に枠組みされ
つつも、これとは区別しうる新たな危険を発生させる可能性があり、そうでない場合でも
原子炉設置許可自体に含まれている基本的な瑕疵を看過して、これを建設-使用-運転の
過程を通じて更に拡大化、現実化させる可能性を有するものであるから、原告らにはこれ
ら後続処分を予防する利益がある。
(二)損害発生の現実化・具体化
(1)原子炉の段階的安全規制とは、原子炉の設置許可を起点とし、原子炉の運転を到
達点とするそこに至るまでの各段階的な行政手続と理解され、各段階を経ずに到達点に至
るような短絡方法は存在しない。それは、観念的な原子炉が現実的な存在へと形式されて
いく連続的な過程である。
そしてこのことは、同時に原子炉設置許可という起点において孕まれていた瑕疵、すなわ
ち、危険性が観念的なものから現実的なものへと発展していく過程でもある。
(2)原子炉の危険性を理由として本件許可処分の無効を主張する原告らにとつてかか
る無効事由を帯びた設置許可が次の行政手続の段階へと進行し、当該原子炉の危険性が一
層の現実性を有するに至ることは到底容認し難いことであり、これらの進行を阻止するこ
とには十分の利益と必要性があるといわねばならない。
すなわち、
設計及び工事方法の認可がなければ原子炉施設の建設に着手しえず、使用前検査・合格と
保安規定の認可がなければ原子炉を使用し、運転することはできないのであるが、これら
の建設-使用-運転が原子炉設置許可に孕まれていた危険性を現実化し、これによつて原
、、、告らの受ける損害も具体化していくことが明らかである以上原告らにはより現実化し
具体化していく危険性、すなわち損害を予防する手段が与えられるべきである。
(3)右の観点に立つ時、本件の各後続処分は原告らにとつてこれを予防する利益のあ
る後続処分となることは明らかである。
(三)本件許可処分の基本性と後続処分の独自性
(1)被告は、課税処分と滞納処分の例を引き、この場合においては後続処分たる滞納
処分を受けること自体によつて直ちに損害を受けるのに、本件では後続処分それ自体によ
つて原告らに損害が生ずることはなく、したがつて原告らは後続処分それ自体によつて損
害が生ずることはないから原告らは後続処分により損害を受けるおそれのある者の要件に
該当しないと主張する。
(2)右主張には、本件の各後続処分が本件許可処分との関係において、例えば右の課
税処分に対する滞納処分の例とは異なり、独自の処分性ないし独立した別個の損害発生の
可能性を有しないとの趣旨をも含んでいるかと推測される。
(3)しかしながら、滞納処分の独自性、独立性といつても先行処分たる課税処分の瑕
疵が現実化するという点においては本件と何ら相違はない。少なくとも、無効確認訴訟の
許容性という視点から論ずる場合、課税処分と全く異なる瑕疵が滞納処分の段階で新たに
生ずるなどということはありえない。滞納処分を受けるおそれを理由として課税処分の無
効確認を求めることは、すなわち、当該課税処分の瑕疵が滞納処分の形をとつて現実化す
ることを阻止せんとするものに他ならず、かかる構造は本件許可処分とその後続処分の関
係においても全く同様である。
(4)本件における各後続処分の独自性、独立性を否定するならば同旨の理由で滞納処
分のおそれを理由に課税処分の無効確認を求めることもまた不許とせざるをえなくなるか
ら、前記のような理解は失当であり、いずれにせよ、原告らの本件許可処分の各後続処分
を予防する利益の存在は否定しえないものである。
三行訴法三六条後段の該当性について
原告らは、
次に述べるとおり行訴法三六条の「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律
上の利益を有する者で、当該処分又は裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の
法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」という要件をも充足す
るから、この点においても本件訴えの原告適格を有する。
1行訴法三六条は「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を、
有する者で、当該処分又は裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に
関する訴えによつて目的を達することができないもの」につき、無効確認の訴えの原告適
格を認めている。
原告らが、右要件のうちの前半、すなわち「当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるに
つき法律上の利益を有する者」という要件に該当することは、前記第一本件許可処分の無
効を求めるについての法律上の利益について、において述べたとおりである。
2そこで、右要件の後半(同法三六条後段)について検討する。
いわゆる補充的無効確認訴訟(同条後段の「当該処分又は裁決の存否又はその効力の有無
を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」に
限り、補充的に認められる訴訟類型をいう)に関して、最高裁判所昭和四五年一一月六。

第二小法廷判決(民集二四巻一二号一七二一ぺージ)は、農地の買収処分無効確認の訴え
において「当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達、
することができないとは、処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とす
る当事者訴訟または民事訴訟によつては、本来、その処分のため被つている不利益を排除
することができないことをいうのである」旨を判示して「処分の無効を前提とする現。、

の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない」とは、当該「処分に基づ
いて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟または民事訴訟によつて
は、本来、その処分のため被つている不利益を排除することができないことをいう」と解
し、行訴法三六条後段にいう「現在の法律関係に関する訴え」とは「当該処分の無効を、

提とする『当事者訴訟』または『民事訴訟」を指すことを明らかにした。』
したがつて、右最高裁判決の立場によれば、結局、行訴法三六条後段の、
当該「処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することが
できない」という要件の該当性如何については「当該処分の無効を前提とする当事者訴、

(行訴法四条」又は「当該処分の無効を前提とする民事訴訟、すなわち「処分若しく)」、

裁決の存否又はその効力の有無」が争点となる「私法上の法律関係に関する訴訟(行訴法
四五条。いわゆる争点訴訟と呼ばれるもの」の形態をとることができるかどうかだけ。)

問題になり、それ以上の障害事由はない。
これを本件について見ると、原告らについては、本件許可処分の無効を前提とする当事者
訴訟又は争点訴訟が考えられないことは明白であるから、本件訴えは行訴法三六条後段の
要件をも充足していることは疑う余地がない。
3ところで、被告は、本件被害発生に関しては、抗告訴訟は補充的なものであつて、原
子炉設置者である訴外動燃を相手方としている民事差止訴訟で十分目的を達しうるのだか
ら、無効確認訴訟を認める必要はない旨を主張している。
右の主張を善解し、右民事差止訴訟をもつて、行訴法三六条後段の「処分の存否又はその
効力の有無を前提とする『現在の法律関係訴訟」であるというのであれば、それは重大』

誤りである。
すなわち、行訴法三六条後段の「現在の法律関係訴訟」とは、単に「現在の法律関係に関
する訴え」であるだけでは足りず、同時に「処分の無効等を前提とする」訴えでもなけ、

ばならない。そして、この両要件をみたす民事訴訟を「争点訴訟(行訴法四五条)と呼」

ことは前記のとおりである。
しかし、右民事差止訴訟は「現在の法律関係に関する訴え」ではあつても、本件許可処、

の「無効等を前提とする」訴えでありえないことは疑う余地がない。つまり、民事差止訴
訟が行訴法三六条後段の「争点訴訟」でないことは明らかであるから、原告らについて、
本件許可処分の無効を前提とする当事者訴訟又は争点訴訟が考えられないことは明白であ
る。
4最後に、行政訴訟と民事差止訴訟との関係について触れ、被告の前記主張が、失当で
あることを明らかにする。
すなわち、行政訴訟と民事差止訴訟とは、訴訟の対象、勝訴する場合の要件、勝訴した場
合の効果がいずれも異なり、その訴訟の利点、欠点が異なつている。
特に、行政の判断過程や行政手続の統制という訴訟目的は、本件では特に重要であるとこ
ろ、同目的は、
行政訴訟になじむものであるが、民事訴訟によつて同目的を有効に達しうるかどうかには
疑問がある。
また、行政訴訟(抗告訴訟)の場合は行政処分を対象とするのに対し、民事訴訟の場合は
隣人の権利侵害などを根拠にした、損害賠償請求訴訟とかあるいは差止め請求訴訟を起こ
すことになり、行政訴訟と民事訴訟は、それぞれ要件、効果を異にするので、それぞれ有
用であつて、いずれかを原則とし、他方を補充的とするような関係にはないはずである。
したがつて、抗告訴訟と民事差止訴訟は併用できるのであり、いずれかを禁止するならそ
れなりの明文の規定が必要である。
、、被告の主張に従えば第三者に対する行政処分を争う抗告訴訟は認められないことになり
抗告訴訟の存在理由が大幅に減殺される不合理がある。したがつて、要件をみたすかぎり
いずれの訴えも許容すべきで、民事差止訴訟が許されるからといつて抗告訴訟を許さない
ことは、原告の本来有する裁判を受ける権利を侵害することになろう。
それゆえ、原子炉設置許可処分により原子炉が設置・運転されることとなる土地の周辺住
民が許可処分の際の安全審査が不十分であつて処分が違法であり、生命・身体侵害に対す
る法的保護を受けられなかつたと主張するのであれば、無効確認ないし取消訴訟によるべ
きであり、処分の無効ないし取消事由のみを主張していきなり設置工事の差止めを求める
民事訴訟を提起することはできないが、安全性を欠く原子炉の操業によつて生命・身体等
に危険が生ずるというのであれば、人格権や環境権等に基づき原子炉設置工事及び操業の
差止め等を求める民事差止訴訟を提起できることは当然である。すなわち、原子炉の安全
性欠如に関し、処分の違法性(処分要件の存否)を争う場合は取消訴訟ないし無効確認訴
訟によるべきであり、同訴訟においては人格権等の侵害は安全審査に当たり見落した瑕疵
によつてどのような被害がおこりうるかという面で審査に影響を及ぼしうるが、直接には
。、、審査の対象とならない一方人格権の侵害を争う場合は民事差止訴訟によるべきであり
同訴訟においては処分の違法性は、侵害行為の態様という面で審理に影響を及ぼすが直接
の審理の対象とはならない。
以上のように、原子力発電による生命・健康等の被害を防止するため、原子炉の設置の許
可に基づく発電者の行為を阻止するためには、前記二つの請求は、
同じく生命・健康を守る目的で共通であつても、それぞれ要件・効果を異にするのであつ
て、それぞれが有用であり、両方を併用することが必要且つ不可欠であるのである。
第四章請求の原因に対する認否
別紙二記載のとおり
第三編証拠(省略)
○理由
第一本案前の申立について
被告は、本件無効確認の訴えは、原告らに(一)法律上保護された利益が不存在であり、
また(二)行訴法三六条の要件を欠如するものであるから、不適法として却下を免れな、

旨主張するので、まず、右本案前の申立について判断する。
一訴外動燃は、昭和五五年一二月一〇日被告に対して「もんじゆ」にかかる原子炉設置
許可申請をなし、これに対し、被告は、昭和五八年五月二七日、本件許可処分をしたこと
は当事者間に争いがない。そして、本件審理の経過は、原告ら(当初は選定当事者により
訴訟追行)が昭和六〇年九月二六日当裁判所に対し、同一訴状により、被告を相手方とす
る本件許可処分無効確認訴訟(行政訴訟)と訴外動燃を相手方とする原子炉施設の建設・
運転差止請求訴訟(民事訴訟)を併合提起し、双方が併合審理されていたところ、昭和六
二年二月二〇日の第四回口頭弁論期日において当裁判所が右併合事件から行政訴訟事件を
分離したうえ、行政訴訟事件について審理を終結したものである。
二ところで、本件は、被告が訴外動燃に対し、昭和五八年五月二七日になした本件許可
処分についての取消訴訟の出訴期間経過の後になつて、原告らが、本件許可処分には重大
かつ明白な瑕疵があると主張してその無効確認を訴求するものである。そこで、原告らの
本件訴えの適法性について検討する。
本件許可処分の根拠法規である原子炉等規制法二四条一項四号は、専ら公共の安全という
公益のみを保護することを目的とするものではなく、それとともに当該原子炉施設周辺住
民の個別具体的な利益をも保護する目的を有するものと解しうるところから、原告らが、
本件許可処分の取消しを求めるについて訴えの利益を有すると解する余地のあることは原
告ら主張のとおりである。
しかしながら、進んで、原告らが本件許可処分の無効確認まで求めうる利益(原告適格)
を有するか否かについては、当裁判所は、以下に述べるとおり、これを消極に解するのが
相当であるから、本件訴えは不適法であつて、却下を免れない、と判断する。
第二
一行訴法が、
現在の法律関係に関する訴えであつて形成訴訟である「取消訴訟(同法三条二項)を抗」

訴訟の原則的訴訟形態とし、過去の法律関係の確認訴訟である「無効等確認訴訟(同法」

四条四項)をその例外的ないし補充的訴訟形態としていることは、同法の文理及び沿革に
照らし明らかである。
そして、過去の法律関係の確認訴訟は、現存する紛争の直接かつ抜本的解決のために、最
も適切かつ必要と認められる場合に限り例外的に許容されるという民事訴訟、行政訴訟を
通じての一般原則にかんがみると、同法三六条が無効等確認訴訟の許容される要件を限定
している趣旨も、民事訴訟における確認の利益と同様(1)無効等確認訴訟によつて保、

される法的利益の存否及び2無効等確認訴訟という方法によることが他の争訟方法訴()(
訟類型)による場合に比して当事者間の紛争解決にとつて有効かつ適切といえるか否かの
見地から当該訴訟の訴えの利益の有無を判断するべきことを示しているものと解するのが
相当である。そして、右の理は、同条全体の文言に照らしても、同条前段の「当該処分又
は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」が無効等確認訴訟を提起する場合
とそれ以外の場合とで特別の差異はないと解するのが相当である。
加えて、無効等確認訴訟は、ごく例外的に許容されるにすぎない後続処分の差止訴訟(い
わゆる義務づけ訴訟)と同一の効果を既往の先行係争処分の表見的効力を排除するという
形式を経由することにより実現するという実質を有するところから、その許容されるべき
場合、ことに原告が当該処分ないし後続処分の名宛人でなく、当該処分ないし後続処分の
本来の効果としては原告に何らの権利利益の剥奪も義務の賦課もないときにおける、その
保護されるべき法律利益の程度、方法選択の適否の点の判断は、慎重に考慮されなければ
ならない。
二そこで検討するに、本件で、原告らの主張するところは、要するに、訴外動燃が設置
しようとする高速増殖炉及びその付属施設(原子炉等規制法二三条二項五号参照)は、。

険であつて、これが設置・運転されると本件原子炉施設から放出される放射性物質等によ
つて、その周辺に居住する原告らの生命・身体・財産等に被害が発生するものであつて、
これを看過してなされた本件許可処分は無効であるというものであるところ、原告らにと
つて、本件訴えに比して、
より有効かつ適切といえる方法として、次に述べるとおり、本件原子炉施設の設置者であ
る訴外動燃に対し、右原子炉の建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を考えることが
できる。
、、1本件許可処分の根拠法令である原子炉等規制法は同法一条に明示されているとおり
原子力基本法の精神にのつとり、主として、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用に
おける必要な規制を行うことを目的として、基本法一四条に基づいて制定されたものであ
るから、原子炉等規制法の定める規制は、原子力の研究、開発及び利用に固有の事項を対
象とするものというべきである。
したがつて、右原子力の利用等に固有の事項でないもの、例えば、原子炉施設から排出さ
れる温排水の熱的影響(火力発電所においても同様に生ずる事項であることは、明らかで
ある)については、本件許可処分の審査の対象として同法が予定するものではない。。
2また、原子炉等規制法は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用について各種分
野に区分し、それぞれの分野の特質に応じて、それぞれの分野ごとに一連の所要の安全規
制を行うという体系により構成されている。
すなわち、同法は、その規制の対象を(1)製錬事業(第二章(2)加工事業(第三、)、
章、)
(3)原子炉の設置、運転等(第四章(4)再処理事業(第五章(5)核燃料物質)、)、

の使用等(第六章(6)国際規制物資の使用(第六章の二)に区分して、これらにつ)、

て各別に一連の規制を行い、これによつて、同法一条所定の目的を達成しようとしている
ものであつて、同法の右体系に照らせば、原子炉の設置に関する規制(同法第四章)は、
右の他の分野の規制までもその対象とするものではなく、原子炉設置許可に際して安全審
査の対象となる事項は、原子炉の設置、運転等に直接関係する事項に限定されるというべ
きである。
したがつて、原子炉の設置、運転等に直接関係しない事項、例えば、使用済燃料の再処理
及び運搬の安全性等は、原則として、本件許可処分に際しての審査の対象となるものでは
なく、原子炉等規制法の体系上、使用済燃料が原子炉施設にとどまり右施設との関わりを
持つている場合を除いては、別個の法規制の対象となるのであり、例えば、使用済燃料の
、(、、)再処理については同法第五章の運搬については同法第六章特に五九条五九条ノ二
の規制を受けるにすぎないと解すべきである。
3更に、原子炉等規制法は、本件原子炉施設の運転に至るまで、原子炉設置の許可のほ
かに、主務大臣である内閣総理大臣によつて(1)詳細な設計及び工事の方法についての
()、()()()、()認可同法二七条2a原子炉運転開始のための使用前検査同法二八条b
保安規定に対する認可(同法三七条)をそれぞれ受けなければならず、また、運転開始後
も(3)主務大臣による定期検査(同法二九条)を受けなければならないとして、必要な
一連の規制を段階的に定めている。
右段階的規制に照らすと、原子炉設置許可に際しての安全審査の対象となる事項は、原子
炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項に限定されるというべきである。
したがつて、原子炉施設の基本設計の内容でないことが明らかな事項、例えば、国や県の
行う防災対策は、本件許可処分に際して審査の対象となるものではない。また、原子炉の
廃炉、解体については、原子炉等規制法上、原子炉設置許可に際しての規制とは別に、同
法三八条、六五条、六六条等によつて、規制されることが明らかであるから、これも本件
許可処分に際しての安全審査の対象となるものではない。
4以上のように、被告のする本件許可処分は、原子炉施設の安全確保に関連する機能全
体からは、きわめて限定された役割を果たしているにすぎず、本件許可処分の無効確認を
求める本件訴訟においてもその審理の対象となる事項も前記の制約を受け、原子炉施設に
特有の事項であつて、原子炉施設の基本設計ないし基本設計方針にかかる安全性に関する
事項に限られることになる。
なお、この点について、原告らは、原子炉設置許可処分においては「核燃料の生産、原、

炉の運転、発電、運転平常時の放射線漏れ、温排水の排出拡散、事故時の防災、廃棄物の
処理・使用済燃料の再処理、廃炉」という「核燃料サイクル全体」についての安全性を審
査の対象とするべきであり、また、行政訴訟の審理の対象とするべきである旨を主張する
が、右主張は、立法論としてはもとかく、解釈論としては、前示の原子炉等規制法の体系

構造に照らして、相当ではないといわざるをえない。
5これに対し、訴外動燃に対する民事訴訟は、本件原子炉施設の設置者であり、本来、
その安全性について周辺住民に対し全面的かつ第一次的責任を負う訴外動燃を相手方とし
て(原子炉等規制法による規制は、
内閣総理大臣等において右設置者の行動に制約を加えて公共の安全確保を図ろうとするも
のであるが、これによつて、設置者の民事上の責任を免除ないし軽減したり肩代りするも
のではない、本件原子炉施設の建設・運転によつて、原告らに生命・身体・財産等の。)

害発生の蓋然性があるか否かを直接の争点とするものであり、直截かつ実効的な訴訟形式
であつて本件紛争の抜本的解決のための有効かつ適切な手段というべきである(この民事
訴訟においては、右被害発生の蓋然性判断に必要な限度において、原子炉施設に特有の事
項であつて、原子炉施設の基本設計ないし基本設計方針にかかる安全性に関する事項以外
についても審理判断の対象となりうることになる。しかして、本件のごとき事案は、。)

効確認の訴えにより当該処分につき手続事項を含めてその処分の違法性自体を確定してそ
れを基点として展開した法律関係を覆滅するのでなければ、現存する紛争の直接かつ抜本
的な解決をはかることができない類型のものとはいえない。
三しかも、本件においては、本訴と同一訴状において本訴と併合を求めて提起された訴
外動燃に対する民事訴訟が、正に本件原子炉施設の建設・運転の差止めを求めているので
。、、、あるのみならず右民事訴訟において原告らが実際に主張する差止めを求める理由が
本件許可処分の無効を理由とし、又はその前提としているものであることは記録上明らか
である。
四以上のとおり、他に民事上の有効かつ適切な保護手段があり、しかも、その保護手段
を現実のものとして行使している本件原告らには、前記の例外的・補充的性格を持つ無効
等確認訴訟を求めるべき利益はないというべきである。
五原告らは、この点につき、行訴法三六条後段にいう「訴え」は同法四五条一項の訴訟
類型に限られるなどと縷説する。
しかしながら、もし原告らのような解釈をとるならば(1)原告らが処分の名宛人であ、

ような場合、例えば、処分の内容が右処分により原告らに何らかの受忍義務が生じ、いわ
ば私法上の差止請求権が収用されたというような場合には、その差止請求権収用の効力の
無効を前提とする私法上の差止請求の訴えなど現在の法律関係の訴えを提起することによ
つて原告らの目的を達しうるから特段の事情がない限り、当該処分の無効確認訴訟は不適
法となる(同法四五条一項、三六条後段参照(2)他方、。)。
原告らを名宛人とする右のような処分がなされず、原告らに対し直接には右のような収用
の効力を持たないと解すべき、本件許可処分のごとき処分がなされた場合には(1)と、

逆に、原告らは、その名宛人でないにもかかわらず、その処分の無効確認を訴求できる一
、。、、方私法上の差止訴訟の提起も許容されるという結果にならざるを得ないしかし右は
それ自体不権衡というべきであるのみならず、また、無効確認訴訟と他の訴訟方法との間
における方法選択の適否といつた観点からも合理性を欠き、公平を期すべき救済手段とし
て平仄の合わないこと多言を要しないというべきである。
結局、原告らの右主張は、当裁判所の採用するところではない。
六なお、原告らは、無効確認訴訟につき講学上それが予防訴訟的機能を有するとされて
いることを根拠として本件の原告適格を根拠づけようともするが、右の主張も、確認訴訟
という訴訟類型が一般には紛争の予防的機能を有するとの点は首肯できても、そのことか
ら直ちに本件の原告適格を肯定すべき根拠とはなり得ないことが明らかであり、また、原
告らの右主張するところが、もし何らかの後続処分が存するときはこれを差し止めるため
先行処分の無効確認訴訟は一般に許容されて然るべきであるというのであれば、後続処分
、、も一個の行政処分である以上本来事前にその後続処分の発動を差し止めるような訴訟は
無名抗告訴訟としてであれ、原則的に許されない点に徴しても、右は当裁判所の採用しう
るところではない。
原告らの引用する最高裁判所昭和五〇年(行ツ)第九四号、昭和五一年四月二七日第三小
法廷判決(民集三〇巻三号三八四頁)も課税処分について当該処分の名宛人たる原告の原
告適格に関する事実である等、事案を異にし、本件に適切ではない。
第三
一以上に加えて、当裁判所は、次のとおり、原告らは行訴法三六条前段にいう「後続処
分により損害を受ける者」に該当しないと判断する。
二この点につき、被告は、原告らは本件許可処分によつても、また、後続処分によつて
も、その直接の効果としてその権利を剥奪されたり義務を課せられたりすることはなく、
原子炉の操業という「処分」とは別個の事実行為により損害が生ずる余地があるのにすぎ
ず、後続処分「による」損害はない旨主張する。しかしながら、原告らが、後続処分その
ものの効果としてその権利を剥奪され、
又は義務を賦課されるという関係になくても、後続処分に際し原告らの個別具体的な利益
がその処分要件中に考慮されているときには、当該原告らは後続処分「による損害を受け
る者」にあたるというべきであるから、この点についての被告の主張は失当である。
三そこで、進んで、右の点につき考察するに、原子炉等規制法上、本件許可処分の後続
処分と目されうるものをみると(1)同法二七条の認可(一具体的な設計及び工事の方、

)、()()、についての内閣総理大臣の認可2同法二八条の検査内閣総理大臣の使用前検査
(3)同法三七条の認可(保案規定に対する内閣総理大臣の認可)等がある。
しかし、右(1)及び(2)の処分は、本件許可処分がされたことを前提にしたうえで、
(イ)
設置許可の際審査された原子炉施設にかかる安全性への配慮を含む基本的設計を基に、更
に具体的な設計及び工事方法が工事着手前になされているか、また(ロ)そのような設、

に従つた工事等が現実に行われたかを審査するという、いわば本件許可処分に付随する処
分であると解され(このことは、右(1)及び(2)の処分にあつては本件許可処分のよ
うな厳格な手続、例えば同法二四条二項のような手続が法定されていないこと及びその処
分要件に徴し明らかである、もとより右各処分とも、それ自体原告らの権利利益を剥。)

し、又は原告らに何らかの義務を課すべきものとはいえず、また、これら処分要件中に原
告らの個別具体的利益を考慮すべきものと解すべき何らの規定もなく、結局、右(1)及
()。び2の各処分による原告らの損害を論ずる余地はこれを見出し難いというほかはない
四更に、右(3)の処分については、その内容(規制対象)は、原子炉施設の基本設計
にかかる原子炉の構造等自体の安全性、原子炉設置者の設置・運用能力などを審査する本
件許可処分ないしこれに続く前記(1)及び(2)の処分とは異なり、右のような審査を
、、経て完成し供用しうる状態となつた原子炉の運転細目にかかわる保安規定の認可であり
そして右(3)の処分を申請できる者は、原子炉等規制法二三条一項の許可を受けた者に
限られるとされており(同法二三条の二第一項、三七条一項参照、右によれば、保安。)

定自体当該原子炉設備がその安全性を含む同法二四条一項各号の要件を具備していること
を当然の前提として定められていることは明らかである。
ところで、
同法三七条二項は「保安規定が核燃料物質、核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉
による災害の防止上十分でないと認めるときは、前項の認可をしてはならない」旨規定。
し、
同法二四条一項四号のそれと類似する文言形式を用いている。しかしながら、これが直ち
に周辺住民の個別具体的な利益を処分要件として考慮した規定であると解すべきか否かは
更に吟味検討されなければならない。
しかして、同法二四条一項四号の規定が前記のごとく公益のみを保護することを目的とす
るものではなく周辺住民の個別具体的利益をも保護することを目的とすると解釈できる余
地があることは前示のとおりではあるものの、右の根拠は、その文理上一義的に明らかな
ものではなく、右が積極に解しうる根拠は、原子炉設置許可処分は同法による原子炉の設
置、運転等に関する一連の規制中の冒頭に位置しており、原子力委員会及び原子力安全委
員会の意見を聴いてこれを尊重しなければならないとするなど、最も厳格な手続と要件を
、、有する基本的かつ中心的な規制であること及び原子炉設置許可がされれば後続の手続は
右許可にかかる原子炉施設の基本設計には瑕疵がなく、これに基因する災害のおそれはな
いものとして進められ、右基本設計にのつとつた詳細設計、工事、運転等がされる限りに
おいては、それ自体に個別の瑕疵(基本設計の瑕疵に比べて相対的に重要性は低いとみち
れる)が発見されない限り後続の手続においても認可、合格等の処分がされることが予。

されていることといつた、原子炉設置許可処分がこれら一連の手続中において占める位置
とこれによつて生ずべき後続処分に及ぼす影響という実質上の配慮に求められるというこ
とができる。
他方、同法三七条二項の認可処分については、原子炉設置許可処分の場合と異なり、原子
力委員会、原子力安全委員会の意見を聴かなければならない等の厳格な手続要件が定めら
れていないうえ、かえつて、同法二四条一項四号の要件審査を受けこれを具備しているこ
とを当然の前提としていること、保安規定の内容として同法三七条一項所定の主務省令の
定めるところ、更に同法三七条四項は原子炉設置者及びその従業員に対し保安規定の遵守
を義務づける旨の内部規定を設けている点など、両者の手続の厳格性に対する軽重、規定
の性格、相対的な内容の重要性等を対比考察すると、
同法が前記(3)の処分(保安規定に対する内閣総理大臣の認可)にあたり原告らの個別
具体的利益までもこれを保護する趣旨であると解するのは飛躍があり、にわかに首肯でき
ない。もとより、右(3)の処分自体が原告らを名宛人としてその権利利益を剥奪し義務
を課すような内容をその効果としていないことも明らかであり、そうすると、右(3)の
処分そのものによる原告らの損害を肯定するに由ないものとしなければならない。
四その他原告らが本件許可処分の後続処分によつて何らかの「損害」を被ると認むべき
事情はなく、したがつて、原告らは未だ行訴法三六条前段にいう後続処分により損害を受
ける者にあたらないというべきである。
第四結論
以上の次第であつて、原告らの本件訴えは、訴えの利益を欠き、不適法であるから、その
余の点について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、
行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官横山義夫園部秀穂白石哲)
別紙一
第一章請求の原因
(はじめに)
第一当事者
一、原告
原告らは、いずれも請求の趣旨第一項記載の「もんじゆ」の設置場所である福井県敦賀市
白木地区周辺、福井県内の各肩書住所地に居住し、職を有する者であり、その生活地域の
位置からして、本件施設における事故発生の際はもとより、平常運転時においても大気や
海水中に放出される放射性物質によつて生命・身体を損傷され、その生活、職業等に重大
な被害を受けることを免れない者である。
二、被告内閣総理大臣
被告内閣総理大臣(以下「被告総理大臣」という)は、原子炉等規制法二三条一項四、。
号、
同法施行令六条の二第一項一号の規定により「もんじゆ」の設置許否の権限を有するも、

である。
第二無効確認をもとめる行政処分の存在
訴外動燃は、昭和五五年一二月一〇日、被告総理大臣に対して「もんじゆ」にかかる原、

炉設置許可申請をなし、被告総理大臣は昭和五八年五月二七日、請求の趣旨第一項記載の
とおりの許可処分(以下「本件許可処分」という)をした。、。
本件許可処分には、以下で述べるごとく重大かつ明白な瑕疵が存している。このことによ
り、適正な審査に基づく許可処分がなされることによつて保護されるべき原告らの安全は
重大な脅威にさらされることになつた。よつて、原告らは、
この許可に基づく建設・運転によつて発生するであろう被害を防止するべく、本件許可処
分の無効確認を求めるものである。
第一部序論
第一高速増殖炉の構造と「もんじゆ」の概要
一、高速増殖炉の定義と歴史
1原子力発電の定義
(一)ウランやプルトニウムなど、核分裂性物質の核分裂連鎖反応を制御しながら持続
させる装置を原子炉という。原子炉はその目的によつて、研究用、原子炉試験用、材料試
験用、発電用、推進機関用、プルトニウム生産用、アイソトープ生産用、医療用などに区
別することができる。
(二)原子炉を運転している時は、核分裂によつて多量のエネルギー(熱)が放出され
る。これを冷却材によつて炉外に取り出し、その取り出した熱を動力源として発電を行う
のが原子力発電である。
2発電用原子炉の分類
(一)発電用原子炉は幾つかの観点から分類することができるが、大別すると、
(1)核分裂反応に関与する中性子の速度によつて、高速中性子炉と熱中性子炉
(注)高速中性子〇・五メガeV以上のエネルギーを持つ中性子
(注)熱中性子周囲の物質と熱平衡にある中性子で、二〇度Cの物質の場合のエネルギ
ーは、〇・〇二五eV
(2)転換率の1を前後にして、増殖炉と転換炉
(注)転換率原子炉の中で核分裂性物質が一個消費された時に、中性子を吸収すること
によつて燃料親物質が核分裂性物質に変換される割合。転換率が1より大きい場合、これ
を増殖比という。の二つに分けることができる。
(二)右の分類とは別に、燃料、制御材、減速材、冷却材など原子炉を構成する材料に
よつても発電用原子炉を分類することができる。これによる分類は左記のとおりである。
(三)現在、実用炉として世界で最も多く建設ないし運転されている発電用原子炉は、
いわゆる軽水炉と呼ばれるもので、これは二%から三%のウラン二三五を含んだ二酸化ウ
ラン(低濃縮ウラン)を燃料とし、減速材と冷却材に軽水(普通の水)を使用し、かつ増
殖機能を有しない(転換率が一以下)熱中性子炉である。日本で稼働中の商業用の発電原
子炉も、ほぼ全てが右の軽水炉である。
3高速増殖炉の定義
(一)高速増殖炉とは、高速中性子による核分裂の連鎖反応によつて生ずるエネルギー
を利用して、一方では動力を生産しながら(発電、)
他方ではこの連鎖反応に必要な核燃料を消費する速さよりも、燃料親物質に右の高速中性
子を吸収させて新たに核分裂性物質を生産する速さの方が大きい(増殖させる)原子炉の
ことをいう(動力炉・核燃料開発事業団法二条一項。)
()、、「、」、二高速増殖炉は俗に発電をしながら燃やした以上の燃料を作り出すとか
将来軽水炉にとつて代わる「夢の原子炉」とも宣伝されている。
このような宣伝が、如何に虚偽に満ちたものであるかは、以下に詳論するとおりである。
4高速増殖炉の歴史
(一)核分裂連鎖反応が持続することは、一九四二年一二月二日、E・フエルミらによ
るシカゴ大学のCP-1炉によつて初めて実証された。そのE・フエルミは、一九四五年
に「増殖型原子炉を最初に完成する国こそ原子エネルギーの競争の上で著しい優位を持、
ちうる」と予言したと伝えられる。
(二)前記のとおり、今日、発電用原子炉は軽水炉が圧倒的主流となつているが、歴史
的にはフエルミの右予言からうかがえるとおり、アメリカにおける高速増殖炉の実験・研
究がこれに先行した。即ち、一九四六年に実験炉クレメンタイン(熱出力二五KW)の実
験が開始され、一九五一年一二月二〇日にはナトリウムを冷却材とする高速増殖実験炉E
BR-1(熱出力一二〇〇KW)が、世界ではじめて核分裂のエネルギーを動力源とする
発電に成功した。
(三)しかし、E・フエルミの名を冠し、二〇年余の歳月と一億三〇〇〇万ドルを投じ
て計画、建設が進められた高速増殖実験炉(E・フエルミ炉)が、発電時間通算わずかに
五二時間、プルトニウムの生産(燃料増殖)に至つてはゼロという無惨な結果により解体
に追い込まれたこと(一九七二年八月)に象徴されるとおり、高速増殖炉は、今日でもな
お「夢の原子炉」たる域を出ていない。各国の高速増殖炉開発の歴史は、表1のとおりだ
が、後発の軽水炉がまがりなりにも商業ベースに乗つているのと比較する時、実証炉の開
発にすら成功していない事実は、高速増殖炉の原理的、技術的困難さとそれ故の危険性を
端的に示している。
二、高速増殖炉の構造
1高速増殖炉の原理
(一)高速増殖炉の原理は、一言でいえば、核燃料物質(ウラン二三五、又はプルトニ
ウム二三九)が核分裂を起こす割合より、
核分裂によつて発生した中性子を吸収してウラン二三八がプルトニウム二三九に変わる割
合が大きくなる(転換率を一以上にする)ように原子炉の設計を工夫することである。軽
水炉のような熱中性子炉でも一部の熱中性子は、ウラン二三八に吸収されて核分裂性のプ
ルトニウムに変わるが、その転換率は一よりはるかに小さい。
(二)増殖比を高めるために、原子炉は次のような構造を持つ。
(1)一回の核分裂あたりの中性子の発生量が多い核燃料を用いる。これにより、過剰
の中性子を発生させ、ウラン二三八に吸収されてプルトニウムを生成する中性子の割合を
多くする。一回の核分裂あたりの中性子発生量は、ウラン二三五が二・五八、プルトニウ
ム二三九が三・〇九(但し、一・五メガeVの高速エネルギー領域における)であり、こ
の点から使用する核燃料にはプルトニウムが適することになる。
(2)一回の核分裂あたりの中性子の発生量を高め、かつ余分な反応で失われる中性子
を少なくするため、エネルギーの高い高速中性子を利用して核分裂を行わせる(高速中性
子を利用する増殖炉なので高速増殖炉と呼ばれる。)
(3)原子炉をできるだけ小型にし、かつ、炉心を親物質で囲むことにより(これをブ
ランケツトという、核分裂の連鎖反応に必要な中性子以外の中性子の余分な反応や原子)

外への漏出を防ぐ。
(4)高速中性子を利用するので減速材(中性子を熱中性子のエネルギーレベルまで低
)、。下させる物質は不要だが小型の原子炉から効率よく熱を取り出す冷却材が必要となる
水(軽水)は減速材としても作用するので、これを冷却材に用いることはできず、ナトリ
ウム(液体)が最適とされている。
(5)高速中性子による核分裂の確率は、熱中性子に比べて約一〇〇分の一と小さく、
核分裂連鎖反応を維持することが困難なので燃料には核分裂性物質の濃度の高いものプ、(
ルトニウム燃料の場合には、プルトニウムの混合割合が高いもの)を使用する。
(三)要するに、コンパクトにエネルギーが詰まつた高温の原子炉、換言すれば高温で
出力密度の高い原子炉というのが高速増殖炉の基本的イメージである。
(注)出力密度原子炉の炉心の単位体積あたりの熱出力。この「炉心」については、炉
心の体積として燃料体のみ、あるいは冷却材を含めたもの、又は炉心全体を指す場合など
がある。
2高速増殖炉の種類
(一)高速増殖炉の燃料は(1)ウランを使用するもの(2)プルトニウムを使用、、

るもの(3)ウランとプルトニウムの混合物を使用するものなどがある。又、冷却材に、
は、
水銀、ヘリウム、空気、ナトリウム(液体)などの種類がある。しかし、今日、西側各国
で開発が進められている高速増殖炉は、ほとんど全てが燃料にはウランとプルトニウムの
混合酸化物(プルトニウムの富化度=混合割合二〇%前後、冷却材にはナトリウム(液)
体)
を使用する形式といつてよい。
(二)原子炉構造には、大別してループ型とタンク型の二種類がある。前者は原子炉容
器内に炉心及びブランケツト燃料集合体(親物質、中性子反射体、燃料一時貯蔵ポツト)

内蔵されている。後者は、右の各機構のほか、一次冷却材循環ポンプと中間熱交換器も原
子炉容器内に内蔵されている「もんじゆ」はループ型(図1、フランスが開発をすす。)

ている実証炉「スーパーフエニツクス(図2)はタンク型である。」
三、高速増殖炉の特徴
1発電の原理における軽水炉との比較
(一)火力発電は、ボイラーで石油や石炭を燃やしてその熱によつて蒸気を作り、蒸気
の力でタービンを回して発電する。これに対して原子力発電(高速増殖炉を含む)は、石
油や石炭を燃やす代わりに、原子炉内の核分裂反応で発生する熱によつて蒸気を作るもの
で、その後の発電の原理は火力発電と同一である。発電用原子炉の種類及びその中で最も
実用化されているのが、減速材と冷却材に軽水(普通の水)を用いる軽水炉であることは
前記のとおりである。軽水炉には、加圧水型炉と沸騰水型炉の二種類がある。
(注)加圧水型炉とは、軽水炉のうち原子炉内で冷却材(軽水)を沸騰させない炉の型式
をいう。つまり、原子炉内の圧力を一五〇気圧前後という高圧にして、三〇〇度C前後の
水を蒸気にさせないで炉内及び配管を循環させる。この型式では、発電用タービンに供給
する蒸気を発生させるために熱交換器(蒸気発生器)を別に設ける。これに対し、原子炉
、。内で冷却材を沸騰させ発生した蒸気を直接タービンに供給する型式を沸騰水型炉という
(二)高速増殖炉も(1)炉心で発生した熱を熱交換器に導き、ここで二次冷却材と、

間で熱交換を行う(2)熱を受けとつた二次冷却材は、さらに蒸気発生器を通して水と。

交換を行い蒸気を発生させる。
(3)発生した蒸気がタービンを回して発電するという、発電の原理自体は軽水炉と変わ
らない。特にその構造は加圧水型の軽水炉に似ている。但し、高速増殖炉の場合、冷却系
が一次、二次の二系統に及び、さらにその外側に蒸気(水)系がある点が軽水炉と異なつ
ている「もんじゆ」の主要系統は図3、加圧水型軽水炉の主要系統は図4のとおりであ。
る。
2高速増殖炉の特徴
同一出力規模(電気出力一〇〇万KW)の高速増殖炉と軽水炉との簡単な比較は表2のと
おりである。全体に軽水炉に比べ高温かつ高出力密度であることに注意を要する。高速増
殖炉の主な特徴は以下のとおりである。
(一)高速中性子の利用
(1)核分裂あたりの中性子の発生量を高めるとともに余分な反応で失なわれる中性子
を少なくするために高速中性子を利用する。軽水炉では、エネルギーの低い熱中性子を利
用する。
(2)高速中性子の場合、熱中性子に比較し、約一〇〇分の一の確率でしか核分裂を生
ヒさせず、そのため核分裂連鎖反応を持続させるための燃料の温度が高くなり、又その量
(臨界量)も多くなる。但し、高速中性子の持つ高いエネルギー領域では、熱中性子によ
()、。つては分裂しない親物質ウラン二三八にも核分裂が生じ原子炉の出力の一部を担う
(二)核分裂性物質の増殖
(1)高速増殖炉では炉心のまわりをウラン二三八で囲み(ブランケツトという、炉)

、、からでる高速中性子をこれに吸収させて核分裂性物質であるプルトニウム二三九の増殖
生産を行う。増殖率(又は転換率)は次の式で表される。
増殖率=核分裂性物質の正味の(生成-吸収-消滅損失-漏洩)生成率/核分裂性物質の
吸収消費率
(2)増殖能力は物質によつても差があり、中性子の高速エネルギー領域では、プルト
ニウム二三九が高い。
増殖は、原子炉の炉心と、ブランケツトの両領域で生じ、そのうち六〇%から七〇%は炉
心で、残りはブランケツトで生じる。実際の高速増殖炉の増殖率は一・一五から一・一四
の間と言われている。一「もんじゆ」の場合一・二。)
(3)軽水炉でも一部の中性子はウラン二三八に吸収されて核分裂性物質であるプルト
ニウム二三九を生成するが、増殖機能は持たない。
(三)プルトニウム燃料の使用
(1)前記のとおり、高速増殖炉で使用する燃料にはいくつかの種類があるが、今日で
は、
ウランとプルトニウムの混合酸化物が一般的である。燃料全体に占めるプルトニウムの割
合(プルトニウム富化度)は大体二〇%前後で、電気出力一〇〇万KWの高速増殖炉の場
、。、、合その量は約二トンになる運転が継続されプルトニウムの増殖が行われた場合には
原子炉内のプルトニウムの総量は数トンに達するものと予測される。
これに対し軽水炉では、二%から三%前後のウラン二三五を含んだ二酸化ウランを燃料と
して使用するのが一般的で、その量は、電気出力一一〇万KWの東京電力福島第二原子力
発電所二号炉の場合、一四二トンである。
(2)燃料は、ステンレス鋼などの被覆材でおおわれ、上下にブランケツト用のウラン
と核分裂で生じたガスを貯める部分(プレナム)を配置し、これらで一本の燃料要素(燃
料ピン)を構成する。そして、燃料要素を数十本ないし数百本束にして六角形に組立て、
。()。、その周囲をステンレス鋼などで覆うこれを燃料集合体ラツパー管という燃料要素
燃料集合体、及びこれらの炉心への配置は図5のとおりである。
(3)プルトニウムを多量に内蔵することは、その毒性や、アメリシウム、キユリウム
など超ウラン元素の副産物の生成などの点から、高速増殖炉の管理を極めて困難なものに
する。
(四)液体ナトリウムの使用
(1)高速増殖炉の冷却材の種類は前記のとおりだが、今日では液体ナトリウムの使用
が一般的である。
ナトリウムは(1)熱伝導率が水の一〇〇倍以上と高く、熱移送特性が良いため高温状、

の高速増殖炉に適する(2)沸点が八八一度Cと高く、運転温度領域(一五〇度Cから、

五〇度C位までの間)で液状を保ち、軽水炉のように炉内を加圧する必要がなく、又、二
相流とならないこと(3)比較的安価であること、などの利点があるとされている。、
(2)他方、ナトリウムは(1)化学反応性が高く、空気や水と爆発的に反応するこ、
と、
(2)素材に対する腐食性が強いこと(3)中性子照射を受けて放射化し、強い放射能、

持つこと、などが欠点として指摘されている。
(3)ナトリウムは一次系、二次系の各冷却系のループを循環し(図3参照、原子、)

を冷却してその奪つた熱で蒸気を発生させ、発電タービンを動かす。これらの複雑な配管
経路、循環経路でナトリウムの右の欠点が露呈する危険性は高い。
(五)中性子照射
(1)表2の中性子束の数値から明らかなとおり、高速増殖炉の炉心では、軽水炉に比
べて中性子の量が一桁から二桁大きくなる。表2で、中性子束が一〇の一五乗(一〇〇〇
兆)ということは、毎秒一平方センチメートルの断面を通る中性子の個数が一〇〇〇兆個
に達することを意味する。仮にこの原子炉を一年間運転し続けると、一平方センチメート
ルの断面を通り抜ける中性子の数は、一〇の二二乗個(一兆の一〇〇億倍)に達し、重量
も五〇ミリグラムと、十分に計量可能となる。
(2)原子炉の炉心の構造材は、右の量の中性子の照射を受けるため、その耐久性が問
題となる。特に、燃料を被覆しているステンレス鋼は、中性子照射の効果によつてスエリ
ングと呼ばれる膨張が生じ、上下を固定されたラツパー管(燃料集合体)を内側に曲げる
ことになる。その結果、炉心の燃料密度が増して反応度が増加し、出力暴走に至る危険性
がある。
(六)高い出力密度
高速増殖炉の出力密度は、同規模の軽水炉に比べて一桁近くと大きい(表2参照。出力)

度が高いということは、原子炉が小型の割に力が大きいということであるが、これは同時
に、運転が定常状態を外れた時には直ちに出力暴走となりうろことを意味し、それだけ原
子炉の制御が困難を増すことになる。
(七)不安定な動特性
(1)原子炉を安定的に運転するためには、遅発中性子の制御が大きな意味をもつ。
(注)即発中性子と遅発中性子
核分裂に際し、発生する中性子を核分裂中性子という。核分裂中性子の中には、核分裂に
よつて即発的に発生する中性子(即発中性子)と、ある程度遅れて発生する中性子(遅発
中性子)がある。遅発中性子は、ある種の核分裂生成物(遅発中性子先行核)のベータ崩
壊の結果放出されるもので、核分裂の瞬間からの遅れ時間の異なる六つのグループに分類
。、、される熱中性子レベルでの遅発中性子の発生割合はウラン二三五の場合約〇・六七%
プルトニウム二三九の場合約〇・二二%である。
軽水炉の場合、遅発中性子は即発中性子の一万倍前後の寿命(〇・四秒から数十秒)を持
つので、この遅発中性子を制御して、原子炉を主に制御することになる。
(2)しかし、高速増殖炉では、即発中性子の寿命が一〇〇万分の一秒以下と軽水炉に
比べてはるかに短く、又、遅発中性子の割合も小さいため、これの制御が極めて困難とな
る。
そして前記の出力密度が高いこともあつて、原子炉の出力が何かの要因で変化した場合の
原子炉の状態(これを動特性という)は不安定さを増し、制御困難となる。
(3)大型の高速増殖炉では、冷却材(液体ナトリウム)が沸騰すると中性子の吸収作
用が低下して、中性子が過剰となり、これが核分裂の増大、したがつて出力の増加をもた
らす(これを正の反応度係数-ボイド係数1を持つという)という特性を有しており、こ
のような作用が原子炉の動特性を一層不安定なものにする。
(八)炉心崩壊の可能性
高速増殖炉は出力密度が高いため、炉心内の発熱量と冷却機能のバランスが崩れると、軽
、。、水炉に比べて急速に出力が上昇し燃料の破損やナトリウムの沸騰が惹き起こされる又
ナトリウムが沸騰して気泡が生じた場合、発生した中性子の吸収度合が低下し、一層出力
が増加することになる(軽水炉の場合、冷却材は減速材も兼ねるので、これの沸騰、喪失
は、減速能力の低下をもたらし、これにより出力も低下する。これらの特性から、高速)

殖炉は燃料の変形等のわずかな原因が炉心崩壊をもたらす危険性が高い。後に述べるEB
R-1炉、E・フエルミ炉の事故もこの危険に起因する。
(九)核爆発(爆発的な暴走事故)の可能性
右八の要因き加え、高速増殖炉の燃料配置は、核分裂反応が最高になるように設計されて
いないため(軽水炉の場合は、最高の反応を保つように設計されている、燃料の変形な)

によつて更に反応が増大し、制御不可能な即発臨界の状態に達し、爆発的な出力暴走とな
る危険性がある。又、暴走を免れて炉心崩壊(溶融)となつた場合でも、溶融して一体化
した燃料が再度臨界状態に達して(再臨界)爆発的な出力暴走となる危険性がある。
(注)即発臨界即発中性子だけで核分裂連鎖反応の持続(臨界)が可能となる状態。即
発中性子の制御が困難なことは前記のとおり。
四「もんじゆ」の施設計画及び構造計画、
1高速増殖炉における「もんじゆ」の位置
(一)日本の高速増殖炉開発は、原子力委員会の長期原子力開発利用計画に基づき、昭
和四二年から訴外動燃を中心とし、国公立及び民間機関がこれに協力するナシヨナル・プ
ロジエクトとして自主開発の建前で進められてきたこれに基づき高速増殖実験炉常「」。「
陽)発電設備を有しない)が同四五年に訴外動燃によつて建設着工され、同五二年四月」

臨界に達した。
「もんじゆ」の設計は、同四三年に開始された。
(二)訴外動燃によれば「もんじゆ」の開発目的は「高速増殖炉を我が国において、、

、、、、、用化するため大型実用炉に至る中間規模の原型炉を自主開発しその設計製作建設
運転の経験を通じて、高速増殖発電炉の性能、信頼性、安全性を実証するとともに、経済
性が将来の実用炉の段階で在来の発電炉に対抗できる目安を得、併せて実用炉建設の段階
での我が国産業界の国際競争力を得ようとする」ものとされている。
(三)現在の計画で高速増殖炉の実用化の目途は、二〇一〇年ころとされており「も、

じゆ」の建設、運転によつてこれを実証するものとされている「もんじゆ」の建設費用。

当初計画で四〇〇〇億円にのぼり、これを国と電力九社が負担することになつている。し
かし、昭和六〇年二月に、建設費用は一挙に五九〇〇億円(国の負担四〇〇〇億円、電力
各社の負担一九〇〇億円)へと増加した。アメリカに典型的に見られるとおり(一九八三
年一〇月、開発予算否決による計画中止、過大な財政負担は高速増殖炉開発を行き詰ま)

せる最大の要因の一つとなつており「もんじゆ」も又、この例にもれないものと思われ、
る。
2「もんじゆ」のプラント配置計画
(一)全体配置
(1)「もんじゆ」は福井県敦賀市白木地区に建設が予定されている。全体配置図は図
7のとおりである。
(2)敷地中央部を標高四二・八メートル及び標高二一・〇メートル(一部標高三一・
〇メートル)に敷地造成し、これが主要施設の敷地とされる。標高四二・八メートルの整
地面に北側よりメンテナンス・廃棄物処理建物、原子炉建物を取り囲む原子炉補助建物が
設置され、標高二一・〇メートルの整地面にデイーゼル建物、タービン建物等が設置され
る。
復水器冷却水は敷地前面港湾内より深層取水し、放水ピツトを経て港湾外に放水される。
なお、建設時の重量物の搬入等のため、敷地前面に港湾が設置される。
(二)建物及び構造物
(1)主要建物の断面図は図8のとおりである。
(2)原子炉建物は、原子炉格納容器外部遮蔽建物、原子炉格納容器及び内部コンクリ
ート構造物からなつている。
原子炉格納容器外部遮蔽建物は、原子炉格納容器の円筒部及び上部半球部を覆う内径約五
二・五メートル、地上高さ約四六メートルの鉄筋コンクリート造で、
原子炉格納容器円筒部との間はアニユラスを形成している。
原子炉格納容器は、内径四九・五メートル、全高約七九メートル、上部半球、下部皿形鏡
円筒型の鋼板溶接構造で、岩盤上に設置されている。原子炉格納容器への出入口として通
常用エアロツク、非常用エアロツク及び機器搬入口を設け、又、格納容器上部には、ポー
ラクレーンが装備される。ポーラクレーン架台は、直接本体鋼板に取り付ける構造となつ
ている。
内部コンクリート構造物は、原子炉格納容器内機器を、支持収納するものである。ナトリ
ウムを保持する機器を収納する部屋には鋼性ライニング等が設けられ、運転時には窯素ガ
ス雰囲気となる。
基礎盤は標高約五メートルの岩盤上に設置されており、原子炉建物、原子炉補助建物と共
通の鉄筋コンクリート造である。
(3)原子炉補助建物は、平面約九八メートル×約一一三メートル、主要構造は鉄筋コ
ンクリート造で原子炉建物を取り囲んでいる建物であり、部屋に収納する機器設備は二次
主冷却系設備、補助冷却設備、一次アルゴンガス系設備、廃棄物処理設備、燃料受入貯蔵
設備、換気空調設備、補機冷却水設備等である。又、建物の一部にはステンレス鋼ライニ
ングされた燃料池がある。基礎盤は標高約八・五メートルの岩盤上に設置される。なお、
排気筒は鋼板製で原子炉補助建物の屋上に設置され、排気口の地上高さは約一一〇メート
ルである。
タービン建物は、平面約三六・五メートル×約八三・〇メートル、地上高さ約一八・五メ
ートルで地上鉄骨造地下鉄筋コンクリート造の建物であり、建物内にはタービン発電機、
復水器、給水加熱器、給水ポンプ、所内ボイラ及び補機類等を収容している。
なお、主要機器の搬出人のために天井走行クレーンが装備されている。
デイーゼル建物は平面約三五・五メートル×約三七・五メートル、地上高さ約二二・〇メ
ートルで鉄筋コンクリート造の建物であり、建物内にはデイーゼル発電機等を収容してい
る。発電機用の燃料タンクは屋外地下に設置されている。
メンテナンス・廃棄物処理建物は約四六メートル×約五六メートルで主要構造体が鉄筋コ
ンクリート造の建物であり、建物内には共通補修設備並びに廃棄物処理設備等を収容して
いる。
固体廃棄物貯蔵庫は鉄筋コンクリート造で敷地北側の標高四二・八メートルに設置されて
いる。事務管理建物は鉄筋コンクリート造、
整地標高二一・〇メートルに設置され、事務室、食堂等が設けられている。又、本建物内
には緊急時の対策所が設置される。
開閉所は、タービン建物の南側の整地標高三一・〇メートルに設置され、遮断器、断路器
等が設けられる。
その他の設備として淡水供給設備、排水処理設備、取放水設備、港湾施設等がある。
3「もんじゆ」発電プラント計画の概要
(一)全体構造
「もんじゆ」の主要目は表3、主要系統は図3、各国の高速増殖炉の主要目との対比は表
4のとおりである。
「もんじゆ」はプルトニウムとウランの混合酸化物を燃料とするナトリウム(液体)冷却
の高速増殖炉で、熱出力は七一・四万KW、電気出力は二八万KWである。
、、原子炉で発生する熱はループ型で構成される一次ナトリウム冷却系によつて取り出され
中間熱交換器を介して二次ナトリウム冷却系に伝えられる。二次ナトリウムの熱は、ヘリ
カルコイル型の蒸気発生器によつて過熱蒸気を発生させ、これが発電機に直結するタービ
。、、ンに供給される冷却材のナトリウムは大気圧に近い圧力で運転され冷却材漏洩の際は
ガードベツセルにより冷却材を確保し、又、自然循環による冷却機能を持つ設計になつて
いるとされる。ナトリウムの液面を生ずる原子炉容器などでは、その液面上を不活性なカ
バーガス(アルゴンガス)で覆い、空気との接触による化学反応を回避するとされる。
(二)原子炉
1原子炉は炉心及び炉内構造物を円筒状の鋼製原子炉容器に納めたものである図()、(
1。一次冷却材の温度は、原子炉容器入口が三九七度C、出口が五二九度Cで、ナトリ)

ムの沸騰温度に比べて低いので加圧を要しないとされる。
(2)炉心は、炉心燃料集合体、制御棒集合体と、これらを取り囲むブランケツト燃料
集合体及び中性子遮蔽体によつて構成され、全体としてほぼ六角形の断面形状をしている
(図5。炉心燃料集合体はプルトニウム富化度の異なる二種類に分け、出力分布の平坦)

を図る二領域炉心とされている。
(3)ブランケツト燃料集合体(二酸化ウラン)は、炉心燃料領域から漏れる中性子を
吸収してプルトニウム燃料への転換を行い、増殖比を高めると同時に外部への中性子漏れ
を防ぐ機能を持つとされる。
(三)冷却系
(1)一次冷却材はポンプによつて原子炉に送られ、炉心通過の際に加熱され、五二九
度Cになつて中間熱交換器に入り、
その熱を二次冷却系に伝えた後、三九七度Cの温度となつてポンプに戻り、同様のサイク
ルをくり返す。一次冷却系は、冷却材の循環に支障をきたすことのないように、最低レベ
ル以上に機器が設置され、レベル以下に位置する機器についてはガードベツセル内に収納
され、これらにより冷却材の喪失を防ぐとされる。
(2)二次冷却材は、中間熱交換器に三二五度Cで流入し、五〇五度Cで流出する。こ
の冷却材は蒸気発生器で過熱蒸気を発生させた後、同様のサイクルをくり返す。一次系と
二次系の境界では二次系側を高圧とし、中間熱交換器に破損が生じても一次系の放射化し
たナトリウムが二次系に漏洩するのを防ぐとされる。
()、、3二次冷却系にはナトリウム・水反応生成物収納設備及び水漏洩検出設備を設け
水・ナトリウム反応による二次系の圧力上昇(二次系圧力五kg/cm2G、蒸気系圧力
一六五kg/cm2G)と、反応生成物の外部放出を防ぐとされる。
(四)工学的安全施設
(1)工学的安全施設とは、原子炉施設の破損、故障等に起因して原子炉内の燃料の破
損等による多量の放射性物質の放散の可能性がある場合に、これらを抑制又は防止するた
めの機能を備えるよう設計された施設をいう。工学的安全施設は、原子炉格納施設、アニ
ユラス循環排気装置、ガードベツセル、補助冷却設備及び一次アルゴンガス系収納施設よ
り成つている。
(2)原子炉格納施設は、事故時に原子炉からの放射性物質の放散を防止するものであ
り、原子炉格納容器及び外部遮蔽建物により構成されている。原子炉格納容器円筒部と外
部遮蔽建物との間には密閉されたアニユラス部が設けられている。一次冷却材を含む機器
配管の置かれている各室はナトリウム漏洩事故時の火災の抑制のため窒素雰囲気とされて
おり、漏洩ナトリウムとコンクリートの接触を防止するため、鋼性のライナ又は貯留槽が
設置されている。
アニユラス部はアニユラス循環排気装置のアニユラス循環排気フアンにより、常時負圧に
保たれ、原子炉格納容器内に放射性物質が放出される事故時には、原子炉格納容器からア
ニユラス部に漏洩した空気は浄化再循環され、一部が排気筒に導かれる。
(3)一次冷却系の機器は高所に配置され、これにより原子炉冷却材バウンダリで冷却
材漏洩事故が発生した場合にも、冷却材の循環と炉心の冷却が行えるとされている。又、
低位置に設置される機器にはガードベツセルを設け、原子炉容器液位を許容レベル以上に
保持できるとされる。一次冷却材漏洩事故時には、設計上、ガードベツセル及び配管の高
所配置により原子炉容器の一次冷却材液位を確保しつつ、補助冷却設備により炉心の崩壊
熱除去が可能とされている。
、。一次アルゴンガス系収納設備は常温活性炭吸着塔収納設備及び隔離弁より構成される
一次アルゴンガス漏洩事故時における常温活性炭吸着塔からの放射性物質の放出量を抑制
するため、常温活性炭吸着塔は常温活性炭吸着塔収納設備内に設置される。
(五)放射性廃棄物廃棄施設
放射性廃棄物廃棄施設は、気体廃棄物処理設備、液体廃棄物処理設備及び固体廃棄物処理
設備に大別される。
(1)気体廃棄物処理設備
気体廃棄物の主な発生源は一次アルゴンガス系設備、燃料取扱及び貯蔵設備、炉上部搭載
機器等からの廃ガスである。これらの廃ガスは、常時負圧に保たれている廃ガス受入管に
て受け入れ、廃ガス圧縮機により加圧・圧縮し、廃ガス貯槽に送られる。その後、活性炭
吸着塔装置へ送り、放射性希ガスをホールドアツプすることにより廃ガス中の放射能を減
衰した後、放射性物質の濃度を監視しながら排気筒から放出するとされる。
(2)液体廃棄物処理設備
液体廃棄物の主な発生源は、燃料取扱及び貯蔵設備廃液、共通補修設備廃液、放射性廃棄
物廃棄施設廃液、建物ドレン、洗濯液である。
液体廃棄処理設備は、設備廃液及び建物ドレン処理系統及び洗濯廃液処理系統より構成さ
れる。
(3)固体廃棄物処理設備
放射性固体廃棄物は、その種類によつて次のように分類し、それぞれに応じた処理を行う
とされる。
(1)蒸発濃縮装置濃縮廃液は、濃縮廃液を遠隔操作でアスフアルト固化ドラム詰めに
する。
(2)使用済樹脂は、遠隔操作でアスフアルト固化ドラム詰めにする。
(3)使用済活性炭はドラム詰めにする。
(4)使用済排気用フイルタは、発生場所で放射性物質が飛散しないように梱包する。
(5)雑固体廃棄物は、圧縮可能なものはベイラによつて圧縮減容し、ドラム詰めにす
る。右記のドラム詰廃棄物あるいは梱包体は固体廃棄物貯蔵庫に保管する。
()。6使用済制御棒集合体等は水中燃料貯蔵設備及び固体廃棄物貯蔵プールに貯蔵する
第二「もんじゆ」設置許可処分手続きの重大かつ明白な違法性
一、
「もんじゆ」設置許可処分手続きの概要
1「もんじゆ」の原子炉設置許可申請は、昭和五五年一二月一〇日、訴外動燃から被告
総理大臣(科学技術庁)に対してなされた。
科学技術庁では、昭和五六年一二月ころまでに、一応の安全審査をなし、その結果(動力
炉・核燃料開発事業団の「もんじゆ」発電所の原子炉設置に係る「安全審査書」案)を添
えて、昭和五七年五月一四日、原子力安全委員会に対し「原子炉等規制法第二四条第二、

、、」。の規定に基づき当該基準の適用について貴委員会の意見を求めるとの諮問を行つた
、()()。同諮問は法二四条一項三号技術的能力及び同四号災害防止についてのみされた
2原子力安全委員会は、同日、原子炉安全審査会に対し、調査審議を求め、同安全専門
審査会は、翌五八年四月二〇日「本原子炉の設置後の安全性は確保しうるものと判断す、
る」との結論を原子力安全委員会に報告し、同安全委員会は、同月二五日付けで、同結論
を妥当なものとして、内閣総理大臣に答申した。
右安全専門審査会は、aを部会長とする合計二八名の審査委員により構成されている第一
。、()六部会において調査審議をなしたその審議内容等は原子力安全委員会月報第五五号
に記載されている程度しか公表されていない。その内容の概要は次のとおりである。

原子炉安全専門審査会の審議の概要
「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉『もんじゆ』発電所の原子炉の設置に係る安全性
について」審議の概要を、項目に従い順次列記すると、以下のとおり。
(一)調査審議の結果
本原子炉の設置後の安全性は確保しうるものと判断する。
(二)調査審議の方針等
(1)調査審議の対象
(「」「」)動力炉・核燃料開発事業団のもんじゆ発電所の原子炉設置に係る安全審査書案
と(高速増殖炉「もんじゆ」発電所設置許可申請書)とを併せて検討
(2)調査審議の方針
「原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について」に従い「高速増殖炉、

安全性の評価の考えかたについて」に照ちし、スリーマイルアイランド原子力発電所二号
炉で発生した事故をふまえて「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」及び「動、、
力炉・核燃料開発事業団もんじゆ発電所の原子炉の設置に係る公開ヒアリング」にだされ
た意見等についても、参酌する。
(3)審査指針等
各種の審査指針等が羅列されている。
これらは、原子力安全委員会が昭和五三年一一月八日付けをもつて決定を行い、昭和五四
年二月一六日付けをもつて、原子炉安全専門審査会へ指示した「原子炉立地審査指針等に
ついて」に含まれる指針等のうち、次の各指針等を参考にしたものである。
「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」
「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」
「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量
について」
以上を用いて判断し、
「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」
「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針について」
「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について」
「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針について」
「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針について」
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」
「発電用軽水型原子炉施設における事故時の放射線計測に関する審査指針について」
「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」
「放射性液体廃棄物処理施設の安全審査に当たり考慮すべき事項ないしは基本的な考えか
たについて」
以上を、判断の際の参考にした。
(三)調査審議の内容
(1)立地条件
(2)原子炉施設の安全設針
(3)平常運転時の被曝線量評価
(4)運転時の異常な過渡変化の解析
(5)事故解析
(6)「事故」より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象の解析
(7)立地評価
以上、例えば(7、立地評価のところで「したがつて『原子炉立地審査指針等』で要)、、

される立地条件は満足されており、周辺公衆との離隔は確保されていることを確認した」
と総括されているように(二(2(3)で羅列、引用された各種の審査指針等の基、)、)、

を満足するという形で(1)ないし(6)でも(7)と同様にまとめられている。、、
(四)調査審議の経緯
審査会は、昭和五七年五月一八日に開催された第四〇回審査会において第一六部会を設置
した。同審査委員は、昭和五八年四月現在a部会長外二七名である。
同部会は、昭和五七年六月一一日、第一回部会を開催し、調査審議方針を検討するととも
に、以下の三グループに分けた。
Aグループ(主として施設担当)
Bグループ(主として環境担当)
Cグループ(主として地質、地盤、地震、耐震設計担当)
昭和五八年四月一二日の部会で部会報告書を決定し、これを受けた審査会は、昭和五八年
四月二〇日第五〇回審査会において本報告書を決定した。
(五)公開ヒアリングの参酌状況については「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉、
もんじゆ発電所の原子炉の設置に係る公開ヒアリング」における意見等の参酌状況につ
いて(昭和五八年四月二五日付け原子力安全委員会)という文書が作成されている。
この文書の特徴は、全部は公開されない資料に基づき、判断理由を詳しく示さないまま、
住民から提起された高速増殖炉の安全性に関する疑問は既に解決済みであり、何ら根拠が
ないと述べ、一方的独断をしていることである。
3被告総理大臣は、前記原子力安全委員会の答申を受けて、同年五月二七日、本件原子
炉設置許可処分をなした。
二、審査体制の不公正
1原子力安全委員会は、原子力利用に関し「安全の確保のための規制」を行う任務が、

り、委員五名をもつて組織されるが、同委員の選任は、被告総理大臣が両議院の同意をえ
て任命する。
同委員会に、原子炉安全専門審査会が置かれるが、同審査会を構成する審査委員は、被告
総理大臣が任命する。
2前記各委員会等の委員には、原子炉の危険性を指摘する学者(いわゆる原発設置反対
派)は存在せず、委員会での議論は、原子炉の安全性について総合的な議論がなされる仕
組みになつていない。
又、委員等の任命が被告総理大臣の恣意にゆだねられるために、不公正な委員会体制とし
て帰結している。
昭和五三年一〇月、原子力安全委員会が原子力委員会から分離独立したのは、従来の原子
力委員会がしばしば原子力行政の推進に傾きがちになり、もう一つの任務である安全確保
を軽視していた弊害を取りのぞくためであつたのに、原子力安全委員会には、原子炉の安
、。全性について客観的公平な判断ができる基礎となる委員構成が右のように欠如している
三、審査基準の違法性
1審査基準設定の違法性
原子炉の安全性を審査する場合の審査基準は、日本国憲法三一条により、法律に根拠がな
ければならない。すなわち原子炉は、その安全性が十分確保されず、事故が発生したとき
は、国民の生命、身体、財産に重大な危害を与えるものであるだけに、
原子炉の安全性の審査基準は法律に規定されなければならない。しかし、同審査基準は、
。、。法律には全く規定がないこの違法性は重大であり本件許可処分の無効事由を構成する
又、原子炉の安全性について、原子力安全委員会の内規である各種の審査指針が安全審査
の基準として設定されているが同設定についても法律に設定根拠がない確かに原、、。、「
」、「、子力委員会及び原子力安全委員会設置法の第一三条には原子炉に関する規制のうち
安全の確保のための規制に関すること(同第二号)という規定はあるが、これは原子炉」

。、、安全性に関する審査基準を規定したものでないことはいうまでもないただこの規定が
原子炉の安全性審査の判断に当たつて用いられる前記の各種審査指針等を決定する根拠規
定であるという弁解はありうるとしても、この規定は、いわば白地規定であつて、この規
定があるからといつて右審査指針等は法律に根拠があるとはいえない。
そのうえ、同審査指針等を決定するに際して、原子炉の危険性を指摘する学者の意見がほ
とんど考慮されていないことなど手続的不公正があり、これも原子炉の危険性からして、
重大な違法性があり、本件許可処分の無効事由を構成する。
2審査基準自体の違法性
原子炉の安全性を審査する場合の審査基準が、前記各種審査指針であるとして、これらの
各種指針=審査基準自体の違法性は、これらが原子力安全委員会において独自に作成した
ものでなく(原子力安全委員会には十分なスタツフ、設備がなく、独自に審査基準を作成
する能力はない、アメリカの審査基準を模倣したものとの指摘があることや、およそ概)

的であつて、審査基準の名に価しないものであることから、審査基準自体の違法性も重大
かつ明白であつて、本件許可処分の無効事由を構成すると考えられるが、審査基準それ自
体の違法性は、個々の審査指針=審査基準の問題点に帰着するので、別に論じる。
四、本件許可処分手続の違法性
1本件許可の審査手続は、前記「安全審査の概要」記載のとおりであるが、この手続の
特徴は、被告総理大臣が本件許可処分を、原子力安全委員会の判断、より正確には、原子
炉安全専門審査会の安全審査についての判断の結論のとおりに従つてなしており、被告総
理大臣としては、原子炉の安全性について独自の判断をなす余地がないことである。
2本件許可の要件
原子炉設置許可の際の安全審査は、
核燃料取得から廃棄物の最終処理に至るまでの、いわゆる核燃料サイクル全体についての
総合的な審査でなければならない。というのは、原子炉、特に高速増殖炉を含む核燃料サ
イクルは、技術的に未開発で安全が十分確立されているとはいえず、いつたん事故が発生
し、放射性物質が閉塞された回路から漏出したり、放射性廃棄物が管理不可能になる事態
が発生すれば、国民の生命、身体、健康に重大な危害を与えるだけに、いわゆる核燃料サ
イクル全体についての総合的な審査をなし、いやしくも国民の生命等にいささかの危険も
生じさせてはならない。
とくに本件の場合は、軍事利用に連なるプルトニウムを燃料として使用する高速増殖炉で
あるだけに、平和利用の目的が保障されなければならない。又、プルトニウムの管理の困
難性もより厳しい安全保障体制を必要としているのである。
、、、、、「、原子力基本法はその第二条に原子力の研究開発利用について平和目的に限り
安全の確保を目的として「民主、自主、公開」の基本方針を規定する。同方針の下に、」

理府に、原子力委員会及び原子力安全委員会が置かれるが、とくに原子力安全委員会は、
原子炉の設置許可に関して、安全確保のための総合的審査を行うべき使命をもつ(原子力
委員会及び原子力安全委員会設置法第一三条。)
この場合、原子炉等規制法は、昭和三二年に制定されたが、同法の体裁が核燃料物質等の
製練の事業、加工の事業、原子炉の設置、再処理など各分野毎に規制し、核燃料サイクル
を予定した総合的な条項は欠落したものになつていることが注目される。
すなわち法制定にあたり、商速増殖炉の危険性などについては、全く議論がなされていな
。、、、いのであるしたがつて本件許可手続では日本国憲法第三一条の規定の趣旨からして
より総合的に安全性が確保されるべきであり、そのため核燃料サイクル全体について不測
の事故が起こりうることを想定し、十分な総合的な審査がなされるべきであるが、これら
の総合的な審査は何らなされておらず、もつぱら炉工学的安全審査に限定された本件許可
手続は、重大かつ明白な違法性がある。
本件許可にあたり審査は「原子炉安全専門審査会」における、いわゆる炉工学的安全性、

限定された。前述のとおり安全審査は、総合的になされなければならず、右以外に環境放
射能、温排水、核燃料の再処理、核燃料の輸送、固体廃棄物処理、
廃炉などの問題を総合的に考慮し、かつ福井県嶺南地方のような原子力発電所の集中した
、。立地がなされているもとで周辺にどのような影響があるかが検討されなければならない
したがつて、本件許可処分は、総合的かつ実質的な安全審査を欠くもので、重大かつ明白
な違法性がある。
3本件許可についての「民主、公開」原則の違反
本件許可処分をなすにあたつては、原子力基本法第二条に規定する「自主、民主、公開」
の三原則のうち「民主、公開」の原則が保障されるべきである。原子炉は、平常時にお、

ても放射性物質を排出し、事故時においては、地元住民の生命、健康等に重大な危害を与
えるだけに、住民は、当該原子炉の安全性の審査に当たり、その資料の公開と公聴会など
安全性審査手続に参加する権利があるというべきである。
(一)原子炉安全専門審査会が、本件の安全審査をなしているが、その審査過程及び審
査資料は公開されておらず、問題点についての討論内容が不明である。同審査会には、い
わゆる反対派の委員が構成メンバーになつていないだけに審査過程、用いられた資料等を
公開して広く国民が議論しうる機会を与えることがより必要であり、それが手続の民主性
を保障することになる。
右の非公開性は、原子力基本法第二条に違反するもので、重大かつ明白な違法性がある。
(二)公開ヒアリングの問題点-住民参加のないこと
原子力安全委員会は「もんじゆ」設置許可に関わる公開ヒアリングを、昭和五七年七月、

日、敦賀市において実施し、同結果を参酌したとしているが、この公開ヒアリングは、手
続的にも内容的にも民主、公開原則に違反している。
すなわち右公開ヒアリングは、一回きりで、質問者、質問事項等は地域を限定してあらか
じめ募集されたうえ、同委員会で適宜選別したものに限定され、質問時間も十分に限定さ
れ、討論は原則として許されない。右公開ヒアリングで指摘された問題点も、単に参酌さ
れるのみでよく、何ら解決されなくてもよいことになつている。高速増殖炉のように安全
性その他について多くの疑問、問題点が指摘されているものに、一回きりの公開ヒアリン
グでもつて安全が保障されるはずはない。住民側が任意に学者を選び、十分公開された資
料でもつて必要な討論が保障されることが、最低限要求される民主的手続である。この保
障がないままになされた本件許可処分は、重大かつ明白な違法性がある。
4住民の疑問に応えていないこと-重大かつ明白な違法性
「高速増殖炉など建設に反対する敦賀市民の会(以下「会」という)は、昭和五一年四」

一五日に結成された。ついで同年七月二五日には、福井県労働組合評議会や「会」なども
加わり「原子力発電に反対する福井県民会議(以下「県民会議」という)が、結成さ、」

た。
右の「会」などの結成に至る経過は、高速増殖炉の建設が計画されるまでに若狭湾岸に集
中して多数の原子力発電所が設置され、しかも、当初の国側の安全性保障の言明とは全く
逆に、多くの事故、故障が発生しているにもかかわらず「事故隠し」が再三行われると、

うような背景があり、にもかかわらず今回高速増殖炉の建設が計画されるという事態に我
「。、慢できなくなつた住民がこれ以上の原発進出はごめん技術的に未開発な高速増殖炉が
住民の一部にすぎない原発誘致賛成派の利権欲しさのために誘致されるのは、絶対に反対
する」ということで立ち上がつたのである。
「県民会議」等に結集する住民は、やみくもに反対してきたのではない。
たとえば、住民の意見を反映させるためにあらゆる機会を利用する立場で、建設を前提と
した従来の公開ヒアリングの問題点を指摘し、その改善がなされ住民の意思が尊重されれ
ば、公開ヒアリングに参加するという姿勢をとつたのである。
科学技術庁に対する公開ヒアリング改善の要望は次のとおりであつて、日本国憲法第三一
条の趣旨からして、極めて当然のことである。
(1)安全審査に係る全ての資料を公開し、縦覧期間を十分保障すること。
(2)陳述人は、地域に限定せず、申し出たものには誰でも陳述させること。とくに科
学者、専門家による技術的討論が十分尽くせるような運営を計ること。時間的制約はしな
い。
(3)公開ヒアリングの結果は、住民に広く周知徹底させること。そのうえで建設の可
否を住民投票にゆだわること。
科学技術庁は、右要望をすべて拒否した。
そこで「会「県民会議」では、建設手続を進めるにすぎない公開ヒアリングの実力阻止」

争の方針を決める一方「住民ヒアリング」を開催した。この「住民ヒアリング」は「県、、
民会議」主催の「もんじゆ」の検討会であり、国の安全審査を批判する内容となつた。
この「住民ヒアリング」をもとにした「意見書」が作成され、原子力安全委員会等に提出
されたが、同「意見書」では、
全資料の公開を求めることと高速増殖炉の各種の危険性について指摘しているが、今日に
至るも、被告らからは全資料の公開もなく、資料に基づいた適切な反論もなく、討論の機
会の提供もない。
高速増殖炉の安全性に疑問が指摘されている以上、本件許可処分に至るまでに同疑問の解
明がなされていないのは、高速増殖炉がこれまでの原子力発電所以上に極めて危険なもの
で、安全な制御が困難であると言われているだけに、手続的にみて、その違法性は重大か
つ明白というべきである。
5まとめ
本件許可審査手続は、高速増殖炉についての総合的安全審査を欠き、かつ手続、資料の民
主性、公開制にも欠け、住民自治の観点を全く欠落しており、同手続には、重大かつ明白
な違法性がある。
第二部放射線と放射性物質の危険性
一、核燃料サイクルの各段階における被害の発生
高速増殖炉を含む原子炉の主要な危険性は、放射線による危険性である。この放射線は、
直接原子炉から漏れ出し、あるいは放射性物質が環境に漏れて、これがそこで壊変する際
に放出される。
この放射性物質(放射線)により、既に多数の被害が生している。古くは放射線の影響に
対して全く無知であつた時代における、研究者等の大量被曝による被害、広島、長崎にお
、、、ける原子爆弾投下多くの核実験による被害更には医療用を初めとするX線による被害
各種原子力施設における被害等々がそれである。これらによつて、既に現在までに多量の
放射性物質が環境中に放出されている。
放射性物質による被害のうち、特に以下においては、本件に関連するいくつかの放射線被
害を見ることとする。
1ウラン鉱山による被害
自然界に存在する物質で原子炉等の燃料となるのはウランである。このウランの鉱石を採
掘するウラン鉱には、ウランを初めとする多種の放射性物質を含んだ粉塵及び放射性のガ
スがあふれている。そこで、ここで労働した鉱夫に肺ガンその他のガンを発生させる等の
被害を生じさせている。
2ウラン選鉱工場による被害
ウラン鉱石は、粉砕され、
硝酸溶液で処理されて使用可能なウランが抽出される。この操作の後に残された廃棄物に
は元の鉱石の八五パーセントの放射能が含まれたままである。この廃棄物は、通常大きな
溜池等に溜められて保管されるが、その溜池のダムが決壊するなどして大量の放射性物質
が流出してしまう事故が、過去多発している。この廃棄物の主要な放射性物質はトリウム
二三〇であるが、その半減期は八万年であり、したがつて、これらの事故により将来極め
て長期にわたつて放射能被害が発生することとなるのである。
3ウラン濃縮工場による被害
選鉱によつて取り出された天然ウランの中には、ウラン二三四、二三五、二三八が存在す
る。このうち核燃料となりうるウラン二三五の割合を高めるのが、ウラン濃縮である。こ
の過程でも、ウランの粉塵によつて労働者が被曝する被害が発生している。
4原子炉による被害
原子炉では、ウラン等の核分裂により多量の放射性物質が生産される。この原子炉の中で
も原子力発電所の原子炉は出力が大きく、したがつて、発生させる放射性物質の量もまた
大量である。その放射性物質は、特に事故が生じなくとも日常的に多量に放出され、これ
によつて既に甚大な被害が発生していると推測することができる。又、ひとたび原子炉の
事故が発生すれば、それによる多量の放射性物質が環境に漏出し、大きな被害を与えるこ
ととなる。過去多くの原子炉事故が発生しているが、その最も大きな事故がTMI原発事
故である。この事故では、原子力を推進しようとする者により今までおよそ起こりえない
事故とされてきた仮想事故を上回る規模にまで事故が進展し、極めて多量の放射性物質が
環境に放出された。これによりTMI原発の風下地域に多くのガン患者を発生させる等の
被害を発生させた。
又、本件と同様の高速増殖炉であるアメリカのフエルミ炉においても一九六六年燃料棒が
一部溶融する事故が発生している。同炉では、更に放射性ナトリウムが漏出する事故があ
り、結局、同炉は廃炉となるに至つている。
5再処理工場による被害
再処理は、原子炉で生じた使用済燃料を処理して、燃え残りのウラン二三五を取り出し、
更にプルトニウムを分離抽出する過程である。使用済燃料中には、燃え残りウラン及び各
種の核分裂生成物が多量に存在するが、これらを取り出して処理するため、まず燃料棒を
破壊する。そこで、放射性物質が環境に漏れやすく、
過去多数の環境汚染、労働者被曝の事例を生じている。また再処理は臨界に達しやすいプ
ルトニウムを扱うため、臨界事故もまた多数発生している。
6放射性廃棄物による被害
放射性廃棄物は、その性質上、放置しておけば自然に分解してなくなるというものではな
く、各固有の半減期に従つて減少していくにすぎない。そこで、数一〇万年、数一〇〇万
年といつた極めて長い期間の保管が必要となつてしまう。この間に事故が生じないという
保障は全くない。又、現にその取扱いを誤つたためと思われる大事故も生じている。
7輸送事故
燃料採掘から廃棄物となるに至る過程において、核物質はその各過程を輸送されて移動す
る。そこで、過去その過程の中で、トラツクの衝突、列車転覆、船舶の沈没等の事故が起
き、環境が放射能によつて汚染されて、人等が被曝する被害が生じている。
既に多量の放射性物質が生産されている「もんじゆ」は、これに加えて後述するような。

険な炉内部に多量の放射性物質を擁し、更に新たに生み出そうとするものである「もん。

ゆ」は、これによつて現場で働く人々、周辺住民を初めとした地域的に極めて広範囲の人

のみならず、子々孫々に至るまでの人類全体に多大の危害を加えるものである。
二、放射線の種類
放射線には、物理的な性質上種々のものが含まれる。これを大別すれば、電子等の荷電粒
子及び中性子等の非荷電粒子によつてなる粒子線と電磁波によつてなる電磁放射線とに分
れる。粒子線であるベータ線、アルフア線、中性子線、電磁波であるX線、ガンマ線等は
物質と反応してその物質を電離させる能力があり、総称して電離放射線と呼ばれる。
これらの電離放射線のエネルギー量は、分子を結合させているエネルギーより非常に高い
エネルギーのレベルにある。そこで、その結合を優に破壊することができる。
ところで、これら放射線の個別のエネルギーは、その線量に必ずしも関係するとはいえな
い。漏洩する放射性物質の量が少なければ、線量は減少するが、その放射性物質一原子の
崩壊することにより発生する各放射線のエネルギーは、変りがない。電子線であるベータ
線を例にとつてこれを単純化していえば、飛びかう電子のスピードが各個別のベータ線の
エネルギーを決め、これに飛びかう電子の個数を掛けて線量が定まるということができる
のである。これは他の放射線であつても同様であつて、
電磁波であるX線、ガンマ線においても個別の放射線のエネルギーを定めるのは電磁波の
振動数であり、同じ振動数の電磁波は同じエネルギーを有するのである。
同じエネルギーを有する放射線も、その種類によつて物質に与える影響の程度は異なる。
例えばアルフア線は透過性に乏しい(プルトニウムのアルフア線は皮膚を〇・〇四ミリメ
ートルも走れば止つてしまう)が、これは逆に透過する物質にその持つエネルギーを与え
やすいことを示すものであるから、生体に対しても極めて強い破壊力を有するのである。
三、放射性物質の種類
このような放射線を生み出す放射性物質には、各元素毎に種々のものが存在する。放射性
物質が放射性を有するのは、原子核が不安定であつて、これが自然に壊れてしまい、その
、、際に放射線を放出するからであるが各放射性物質にはそれぞれ固有の壊れやすさがあり
これに従つて崩壊する。この固有の壊れやすさに反比例するのが、各放射性物質の半数が
壊変する時間である半減期である。
、、()、又放射性物質の壊れ方にはアルフア粒子ヘリウム原子核を放出するアルフア壊変
電子を放出するベータ壊変及びガンマ線を放出するガンマ壊変がある。ある放射性物質が
どのような壊変をするかは、それぞれの放射性物質によつて特有である。
放射性物質の環境内、生体内での行動は、それぞれの元素の化学的性質により定まる。し
たがつて、生体内に取り込まれてとどまりやすい放射性物質はそこで濃縮され、壊変して
周辺の組織に大きな影響を与えることとなる。
四、放射線の危険性発現の機制
1放射線による生体内分子の破壊
荷電粒子の場合を見るならば、これが飛んで生体を構成する物質の分子に衝突し、若しく
はその近傍を通過して荷電粒子が飛ぶ経路に沿つた分子の、更にこれを構成する電子にエ
ネルギーを与える。その結果、エネルギーを与えられた電子は分子から飛び出し、あるい
、()。はエネルギーの高い状態となつて分子はより不安定な反応性の高い状態におかれる
取り去られた電子が分子を構成する原子間を結合させる働きを持つたものであれば、分子
は放射線によつて直接的に破壊されてしまう。又、それ以外の場合においても他の反応を
介し、分子の破壊を導く。
、、。荷電粒子以外の放射線においても終局的には荷電粒子同様の効果を及ぼすこととなる
即ち、非荷電粒子は原子核に衝突することによりこれを跳ね飛ばし、
これにより荷電粒子である反跳原子核を生じさせ、あるいは原子核に吸収されてこれを不
安定な原子核にして、その壊変をもたらす。ガンマ線等の場合には、コンプトン効果等に
より高速電子を発生させることにより荷電粒子同様の電離作用を及ぼすこととなる。
ところで、一個の放射線(ベータ線ならばベータ線の中の一個の電子)の持つエネルギー
は、生体を構成する分子内の化学的結合を維持しているエネルギーの何万倍何一〇億倍も
、。の全く桁違いに大きなものであつてそれぞれ優に分子を破壊するに足る力を有している
この個別の放射線のエネルギーは、ほぼ線量と関係なく定まるといえるから、どんなに線
量が少なかろうと、一つの放射線はそれぞれ十分に生体内の分子を破壊することができる
エネルギーを有するのである。そこで、どんな少ない線量であれ放射線の照射を受けた生
体組織の分子は、その影響を(線量による碓率的な大小はあつても、必ず受けることと)

る。衝突された分子の側から見れば、自分に衝突する放射線(それは自己を破壊するに十
分なエネルギーを有している)があるか否かが問題であり、自分に衝突する放射線がある
以上、自分以外のどれだけ多くの分子に他の放射線が衝突したか(これが即ち線量という
ことができる)は、全く関係のないことである。
したがつて、生体を構成する分子に対する影響という微視的意味では、放射線の線量がい
かに小さくとも必ず確率的に影響が存在し、即ち「しきい値」は存在しえないのである。
2放射線による生体に対する遺伝的あるいは遺伝学的影響
(一)生体におけるDNA(デオキシリボ核酸)の重要性
生体において最も重要な分子は、遺伝子の本体であるDNAである。生物を形成するため
に必要な(ほとんど)すべての情報がこのDNAに乗せられているといつてよく、これを
必要に応じて取り出すことにより生体の各部が作られる。
DNAは、二重らせん構造の長大な分子であるが、人の体細胞の場合、このDNAは同一
情報について一対のみ存在し、生殖細胞においては同一情報につき一個しか存在しない。
人などの高等生物では、DNAは蛋白質などと結合した染色体(クロマチン)という形で
存在する。
(二)DNAの構造及び機能
DNAはリン酸と糖と塩基の結合体(ヌクレオチド)が重合してできた長い鎖が二本並ん
だ二重らせん構造を有する分子である。
このヌクレオチドを構成する塩基にはアデニン、チミン、シトシン、グアニンの四種があ
つて、この塩基のDNAにおける並び方が即ち遺伝情報となつている。より具体的には、
()、塩基の連続した三個の並び方これをコドンというがそれぞれ一つのアミノ酸に対応し
ある目印で区切られコドンの並び方が、これを基にして作られる蛋白質のアミノ酸の並び
方を規定するのである。又、DNAの二本の鎖は、その一本のある部分にアデニンがあれ
ば他の一本のこれに向かい合つた部分には必ずチミンがあり、同様シトシンに対する部分
にはグアニンがあつて、相補的な安定した構造となつている。細胞が分裂する時にはこの
DNAが複製されるが、その複製はDNAの二本の鎖がほどけ、それぞれに以前の他の一
本同様の相補的な鎖が形成されて、以前と同一の構造を持つたDNAが形成されてなされ
る。したがつて、一旦誤つた塩基の順序のDNAが形成されれば、その誤つた遺伝情報は
安定して存在し続けることとなり、容易に元に戻ることがない。
(三)発ガンにおける遺伝子(染色体)の役割
人は、五〇兆から六〇兆の細胞から構成されている。このすべての細胞は同じ染色体、同
、、、じ遺伝子を有し必要なすべての遺伝子のセツトを有しているがそれぞれ必要に応じて
例えば皮膚の細胞であれば、皮膚として必要な遺伝子のみが実際に機能して皮膚としての
細胞になるように(他の遺伝子が眠つているように)調節されている。このような複雑な
、()。調節によりそれぞれの細胞がそれぞれ特有の機能の細胞として生まれるのである分化
この分化の機能が失われ、異常な機能を有するに至つたのがガン細胞であり、その過程が
ガン化であるが、ガン化には、ガン遺伝子と呼ばれる一群の遺伝子が関与する。即ち、ガ
ン化は遺伝子レベルでの変化を伴うものなのである。このガン遺伝子が活性化することに
よつてガンが発生するが、ある種のガン遺伝子の活性化には点突然変異(DNAの塩基配
列の変化の意味における突然変異)が関与することが知られている。このガン化には、点
突然変異が大きな役割を果しているのである。
このようにして生じた突然変異が、その後長い期間を経て(他のガン遺伝子の突然変異に
よらない活性化などのいくつかの段階を経て、真に悪性な腫瘍となる。もちろん、同じ)

化が別個独立に多数の細胞において発生する必要はなく、
一個の細胞に生じればガン化は発生するのである。そして、その悪性化した細胞が、更に
増殖してガンとして検知しうるまでの大きさ(一グラムの大きさとしても約一〇億個の細
胞集団となつて初めて検知しうる)になるまでは、また長い期間(人間の場合、白血病の
あるものでは照射後三乃至五年、固形ガンの場合一〇乃至二〇年程度)の経過が必要なの
である。
(四)放射線の遺伝子に与える影響
放射線が染色体に照射されると、染色体は損傷を受ける。既述したように、生体分子を構
成する原子間の結合エネルギーは、放射線のエネルギーに比較して極めて小さいから、い
かに小さい線量の放射線であつても染色体を構成する分子を直接傷つけることができる。
又、放射線は生体内の水分子を活性化する。その活性化された水分子によつても染色体は
損傷を受けうる。放射線により、こうして直接または間接にDNAの二重らせんの一方の
鎖が切断されると、それが修復される段階において誤つた塩基が挿入されることにより、
染色体中のDNAの塩基配列が変えられることがある。このようにしてDNA配列が変え
られることを点突然変異という。あるいは放射線は、染色体の構造自体、更には染色体の
数まで変えてしまうこともある。これを染色体異常という。
このような変化は非可逆的であり、そのまま保存される。このような変化が体細胞のガン
遺伝子に起こつたのであれば、その後、長い期間を経てガンが発生する。又、このような
変化が生殖細胞に起きれば、その子のすべての細胞は、この生殖細胞と同様の突然変異し
た遺伝子を有することとなり、即ち遺伝的障害が発生する。
ところで、この遺伝的障害はほとんど劣性突然変異であつて、同種の劣性遺伝子を有する
人との間で子供を作ることがなければ、そのような変化は具体的に出現しない。したがつ
て、遺伝的障害が実際に知りうるのは何世代も後のこととなるのである。
結局、遺伝的障害においては、染色体(DNA)が極めて重要な、同種のものが一対しか
ないものであるため、放射線の影響はその線量に関係なく確率的に必ず発生し、又、ガン
の発生においては、一個のガン遺伝子の活性化であつてもガン化を促すことから、同様放
射線の影響はその線量に関係なく確率的に必ず発生するのである。しかし、いずれの障害
もその発生を知りうるのはきわめて長い期間を経た後であり、かつ、
それぞれの障害のうちどの障害が放射線によるものであるかを個別に知ることは不可能で
ある。
五、放射線障害の種類
1身体的障害
人間を含む哺乳類の身体に与えられる障害のうち、その体細胞に与える障害には、急性の
ものと晩発性のものとがある。急性障害には(1)けいれん・運動失調など神経系の障、
害、
(2)骨髄の新生能力喪失・白血球減少などの造血系の障害(3)食欲不振・消化不良、

下痢・腸内出血など消化器系の障害(4)脱毛・紅紫班・水疱・皮膚炎・色素沈着など、

膚の障害(5)結膜や鼻腔粘膜など粘膜の障害(8)血管内膜損傷及び出血(7)放、、、

線肺炎(8)精子減少・排卵異常・流産など生殖器系統の障害などが知られている。、
又、晩発性障害としては(1)慢性白血球減少症(2)白血病(3)ガン(4)白、、、、

障(5)寿命短縮(6)免疫力の低下などが知られている。、、
2遺伝的障害
身体に起こされる障害のうち、特にその生殖細胞またはその原基細胞に起こされる遺伝学
的障害が遺伝的障害であり、子孫に遺伝される。この中には、既述したように、DNAの
塩基配列の変化による点突然変異と、染色体の構造自体もしくは染色体の数までもが変え
られてしまう染色体異常とがある。
六、放射線の危険性評価
1はじめに
放射線障害は、歴史的に次第に解明されてきた。しかし、特に低・微量線量域における放
射線が、その線量に応じてどの程度の効果を人の身体に及ぼすかについては、現在に至る
も確立した見解は存在しない。それは(1)大部分の場合、被曝線量が正確に測定され、

おらず、線量を推定に頼つて算出する以外にないことが多いこと(2)被曝条件や被曝、

、()、団の特性が千差万別なこと3観察される効果である発ガン等は非常に少数であつて
統計的誤差を含みやすく、又、効果の生じるのが非常に長期間経過後であること、などの
理由から、線量と効果との関係を知ることが一般的に困難であることによる。
このように低・微量線量域における線量-効果関係に確立した見解が存在しない現状にお
いては、原子炉等を設置する際の放射線の危険性を評価するにつき、より安全を重視した
考え方をとる必要がある。即ち、ある線量において複数の危険性評価の見解があつて、い
ずれも確立した見解といえない場合、そのうちの最も危険であるとする見解に従つて評価
すべきなのである。
安全であるとの見解を採用して評価しようとしても、これが誤りである可能性は否定しえ
ないのであつて、そこで後にその危険性が具体化して被害が発生したならば、取り返しが
つかないこととなる可能性がある。これは、危険な賭けというはかなく、結局、最も安全
を重視した(危険性を高く認める)見解を採用すべきこととなるのである。
2線量と放射線障害との一般的関係
(一)「しきい値」の不存在
放射線障害に「しきい値」が存在するか否かは、過去大きな問題として議論されてきた。
しかし、現在「しきい値」が存在するとして主張する科学者はわずかである。前述した発
ガン、遺伝障害発生の機制からしても「しきい値」は存在しえない。殊に安全性の考え、

に従えば、到底「しきい値」が存在するとの前提には立つことができない。
(二)低・微量線量域における線量-効果関係
放射線障害に「しきい値」が存在しないとしても、線量の増加とそれによつてもたらされ
、。る障害の増加との関係がどのような関係に立つかについて種々の見解が提示されている
これについてアメリカ国立科学アカデミーの電離放射線の生物学的影響に関する委員会の
報告(BEIRIII)は、種々考えられるその関係の中から、直線型、直線-二次曲線
型及び二次曲線型の三つの型について詳細に考察した。しかし右報告も、確定的結論まで
は出しえていない。この点についての確立した見解は存在していないのである。すると、
原子炉における危険性評価において採用すべき安全性を重視した考え方に立てば、右の三
つの型のうち、最も危険性を高く評価する直線的比例関係を主張する見解を採用すべきで
ある。
(三)線量及び線量の分割
急性障害において、同一の線量であつてもこれを分割して何回かに分け、あるいは長期間
に少量ずつ被曝した場合の方が、障害は発生しにくいことが知られている。これは、少量
ずつ照射された方が、生じた損傷の修複される可能性が強いことによる。一方、晩発性障
、。害においても同様これが認められるかについてはやはり確定的な結論は出されていない
しかし、発ガンや遺伝的障害が遺伝子レベルでの障害を含むものであること及び遺伝子レ
ベルでの障害は、一日一生じた場合には安定的に維持されることからして、少量の線量に
分割し、あるいは長期間被曝しても、総線量が同じであれば効果は変わらないと見るべき
であり、
かつ安全を重視した考えに立つならば、このような微量の被曝の方が安全であるとの見解
は採用することができない。
3放射線の危険性の程度
(一)急性障害
急性障害は、全身または身体の大部分が短時間におよそ二〇ラド以上の被曝を受けた場合
に生じ、ほぼ五〇〇ラドで死亡率は一〇〇パーセントに達する。急性障害における放射線
の致死作用のうち最も重要なものは造血組織、とりわけ骨髄における影響である。骨髄の
幹細胞は放射線の影響を極めて受けやすい細胞である。骨髄細胞の破壊はすべての種類の
血液細胞の形成を抑制する結果を招く。一〇〇ラドから五〇〇ラドの線量域において、骨
髄の破壊の程度が著しい場合には、通常六週間以内に死亡する。五〇〇ラドから二〇〇〇
ラドの線量域においては、胃腸系の変化が原因で更に早期に死亡する。又、これ以上の非
常に高い線量を被曝した場合には、神経系の病理学的変化によつて更に急速に死に至る。
(二)低・微量線量域における障害
(1)ICRPの勧告におけるリクス係数
ICRPの一九七七年勧告は、一〇〇万人の人が一レムずつあびたときそれぞれの確率
的障害(発ガン、遺伝的障害という確率的に生じると考えられる障害)で何人が死亡する
かという放射線障害による死のリスク係数を、すべての年齢及び両性で構成された人間集
団に対するリスクの平均値として、白血病による死亡のリスクは一〇〇万人・レムあたり
二〇人、すべてのガンによる死亡のリスクは同ほぼ一〇〇人、遺伝的リスクは最初の二世
代で同四〇人、それ以下の全世代で同四〇人程度などと判断している。
(2)これに対しbらは、ハンフオード原子力施設の過去三〇年間に及ぶ、約二万八〇
〇〇人の放射線作業従事者の被曝記録と死亡調査をもとに、放射線によるガン死のリスク
評価を行つた。このデータから導かれたリスクは、全てのガンによる死亡に対して一〇〇
万人・レムあたり一〇〇〇人乃至二〇〇〇人もしくはそれ以上であつた。
(3)又、cは、医療用放射線被曝者、マーシヤル諸島住民などの低レベル被曝集団の
データを独自に整理した結果、全てのガン死に対する危険率として、一〇〇万人・レムあ
たり八〇〇人の値を出した。
(4)ところで、ICRPの危険率評価の際、最も重要なデータとされたのは、最大の
被曝者集団である広島、長崎における原爆被爆者データであつた。
その被曝線量の評価は、T65Dと呼ばれるものであり、被曝者のガン統計はABCCと
呼ばれるものである。ところが最近、広島、長崎データであるT65DとABCCのデー
タにつき誤りが指摘され、その再評価がなされるに至つている。
(5)このように低・微量線量域における危険性評価については、ICRP勧告による
評価がなされていたが、その妥当性につき疑問を提示する種々の知見が認められるように
なつてきている。すると、ここにおいても「しきい値」が存在しないと考えたのと同様、
安全性を重視する考え方が必要となる。したがつて、ICRPの一九七七年勧告における
データよりも危険性が高いと指摘するbらのデータを基礎としてすべてのリスク評価がな
されなければならない。ICRP自身「しきい値」が存在しないとする際には、安全性を
高くとろうとする考え方をとつているが、線量あたりの影響の評価においても同様の考え
方は当然とられなければならない。この結果、ガン死についてのリスク係数としては、一
〇〇万人・レムあたり一〇〇〇人乃至二〇〇〇人もしくはそれ以上というbらのデータを
採用すべきである。
七、「許容被曝線量」の違法性
1「許容被曝線量」の性格
「、、」、原子炉の設置運転等に関する規則等の規定に基づき許容被曝線量等を定める件は
、「」。、周辺監視区域外の一般住民につき許容被曝線量を年〇・五レムとしているそこで
この「許容被曝線量」がいかなるものであるかにつき見ることとする。
この「許容被曝線量」は、ICRPの一九五八年勧告による一般人に対する許容線量の年
〇・五レムをそのまま採用したものである。ところで右勧告は、単に職業人に対する許容
線量の一〇分の一の値を「被曝するかしないかの自由度が与えられておらず、かつその被
曝から直接の利益を何も受けていない」からとして定めたにすぎず、ICRP自身この値
を知見が十分ではないので、あまり生物学的意義を持たせるべきではないとして、この値
の線量の放射線が、人体に対し生物学的に影響を与える可能性のあることを認めている。
ところでICRPは、一九五八年以降次々に低線量域での発ガン、遺伝的障害といつた重
大な影響が新たに明らかにされていたにもかかわらず、その制限値を全く改定しようとし
ないで現在に至つている。これは、
ICRPがそもそも原子力利用者側の機関であるというその性格に由来する。
2「許容被曝線量」の違法性
そもそも放射線の人に対する影響には「しきい値」が存在しえないことは既に述べたと、

りである。したがつて、この「許容被曝線量」は、被害の生じないという意味での許容量
ではなく、単にこの程度は危険があつても「許容」する、だから被害を受ける可能性のあ
る者はがまんせよという「がまん量」でしかない。
このような「がまん量」でもいいとする根拠として挙げられるのは、人間生活における他
のリスクと比較して容認することができるとする相対リスク論及び原子力利用による利益
とリスクとを比較するバランス論である。しかし相対リスク論は、既存の容認基準を前提
とするものであつて、実質的な根拠とはなりえないものである。原子力利用によるリスク
は全く新たなリスクであり、相対リスク論は、人間生活における現に存在するリスクに、
このようなプラスアルフアーのリスクを加えていいとすることの根拠を与えるものとはい
えない。
一方バランス論の措定する「利益」とは、単なる経済的利益であつて、しかも極めて間接
的な、被害を受ける可能性のあるすべての人に与えられるとは必ずしもいえない利益であ
る。これに対する「危険」とは、人の生命身体に対する危険であり「利益」とは全く異、

の、憲法上も最も高度の保障を求められる価値に対する危険である。このような危険と比
較しうるのは、医療用放射線の場合のような同質の利益、生命身体にとつての利益しかあ
りえない。この意味でバランス論は、最も高度に保障されるべき利益の犠牲により、これ
に比して保障の程度の低いはずの経済的利益を確保にようとするものであつて、到底首肯
しうる根拠とはなりえない。比較しえない価値の間での比較をしようとする点で、全く不
当な根拠付けなのである。
したがつて、一般人についてこのような「がまん量」は妥当しえない。一般人はわずかで
あつても自己の生命身体に危険が及ぶことは拒否しうるのである。仮に経済的利益がある
からといつて、生命身体に対する危険を「がまんせよ」とは言いえない。にもかかわらず
このような議論がなされるのは、発ガン、遺伝的障害といつた個別の被害が、放射線以外
の他の原因による同種の被害と区別しえないために可視的ではないからである。個別の被
害が可視的であつて、
例えば原子炉由来の放射線によつてガンとなつたと知れる患者がいたとすれば、死期の迫
、「、」るこの患者に対してあなたは偶然に不幸だつたのだから諦めなさいがまんしなさい
と言えるであろうか。このような患者に「同じような被害者を発生させないように原子炉
はやめるべきだ」と言われ「同じような被害者が出たとしても諦めてもらう」などと言、

るであろうか。個別の被害を受ける者にとつては、自己の生命は、どのような経済的利益
とも比較しえないものであつて、そうであるからこそ、一個の生命は地球より重いと言わ
れるのである。このような比較における「がまん」はありえない。したがつて、放射線の
人体に与える影響につき「しきい値」が存在しない以上、一般人に対し放射線被曝をもた
らす施設を経済的利益のために容認することはできない。結局、被曝線量に「許容量」を
定めることは、単にその値までの危険をがまんせよという「がまん量」を定めることにす
ぎず、これは、憲法第一三条及び同二五条の生命、身体、健康に対する保障並びに憲法に
よる右保障を具体化した原子炉等規制法二四条一項四号に反することとなるのである。
3よつて、本件許可処分は、原子炉等規制法二四条一項四号の災害防止上支障がないと
、。の要件に反する違法な基準による結果としても災害防止上支障のある違法な処分である
八「めやす線量」の違法性、
1原子力委員会は、昭和三九年「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめや
すについて」を定め、さらに原子力安全委員会は、昭和五六年「プルトニウムを燃料とす
る原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」を定めて、その
中で事故に関する立地審査の際の「判断のめやす」としての被曝線量を定めている。、
右「判断のめやす」としての線量(めやす線量)の被曝によつても、被曝線量に「しきい
値」が存在しない以上「許容線量」の被曝同様必ず人の生命身体に対する被害を発生さ、

る。したがつて、これもまた「がまん量」でしかない。すると「許容線量」において述、

たと全く同様のことがこのめやす線量に対してもいえ、この基準は憲法第一三条及び同二
五条の生命、身体、健康に対する保障並びに憲法による右保障を具体化した原子炉等規制
法二四条一項四号に反するこよとなるのである。
2また、
右線量はいずれも「許容被曝線量」より更に極めて大きな線量とされている。即ち、昭和
三九年に定められた「判断のめやすについて」では、重大事故時のめやす線量は、非居住
地域につき甲状腺に対して一五〇レム、全身に対して二五レム、仮想事故時のめやす線量
は、低人口地帯につき甲状腺に対して三〇〇レム、全身に対して二五レムとされており、
昭和五六年に定められたプルトニウムに関するめやす線量では、骨に対して六ラド、肺に
対して一二ラド、肝に対して一五ラドとされている。しかし事故の際の被曝と平常時にお
ける被曝とは、何ら差異のあるものではなく、したがつて、右めやす線量は許容線量にも
反することとなり、違法な評価基準である。
これらは、具体的な発ガン等の症例の中から放射線被曝によるものと判定された、個々の
事例中の最低線量である最小限界線量をもとに定められたものとされる。これは、被曝者
集団のガン等の発生率の疫学的調査研究から個人の発ガン等の危険性を求めたものとは全
く異なるものである。しかし、発ガン等の発生リスクが、そもそも個別の個人からすれば
小さい(ICRPの評価によれば一〇〇万人レムあたり一〇〇人のガン死の確率)ことを
、、、考えれば何一〇人かの事例をとつてガンが発生した否かを問うというその考え方自体
極めて不合理かつ無意味なものである。確率的事象であることを前提にするならば、いか
に少ない線量であつても、事例が多数ありさえすればいずれ必ず症例として認められるも
のが出てくるはずである。したがつて、このような最小限界線量は、事例が重なるにつれ
無限に小さくなるはずであつて、はもかかわらずこれが未だ高い値であるということは、
単に極めて少ない事例しか検討していないからにすぎない。また、そうであるからこそ疫
学的調査研究がなされ、確率的なリスクが探究されているのである。
3また仮に、想定した事故について厳しい評価条件(真に厳しいといえるか否かがそも
そも問題であるが)をつけて過大に評価しているのだとしても(このような主張がなされ
ることがある、それであまりに過大な線量を設定したことをカバーしうる何らの保証も)

い。また、そのような厳しい条件をつけたのは、本来安全性の考え方に立つてのことであ
る「はず」である。にもかかわらず事故についての評価の基準であるめやす線量が、この
ようにあまりに過大な数値となつていたのでは、
「厳しい」評価基準を最初に設定した意味は何もないこととなる。したがつて、右基準は
「許容線量」に反する、ひいては原子炉等規制法二四条一項四号に反する違法な基準であ
ることとなる。
4よつて、本件許可処分は、原子炉等規制法二四条一項四号の災害防止上支障がないと
、。の要件に反する違法な基準による結果としても災害防止上支障のある違法な処分である
九、プルトニウムの危険性
1プルトニウムは原子番号九四の元素であつて、超ウラン元素の一つであり、原子番号
八九のアクチニウムから原子番号一〇三までの一五の元素からなるアクチノイドに属する
元素である。プルトニウム二三八、二三九等三四種の核種が知られている。
2プルトニウムは、この世で最も毒性が強い物質の一つといわれる極めて強い毒性の物
質である。その妥当性には、様々な疑義があるが、とりあえず現行の許容量をとつたとし
ても、一般人が肺に取り込む限度はプルトニウム二三九の場合、〇・〇〇一六マイクロキ
ユリー(重量にして四〇〇〇万分の一グラム程度)でしかない。このように大きな毒性の
生じる最大の原因は、それが破壊力の極めて大きいアルフア線を放出するアルフア壊変を
することにある。アルフア線は透過力が小さいが、そのため破壊力が極めて大きい。そこ
で、壊変するプルトニウムの近傍の物質に、極めて大きな影響を与え、したがつて生体に
取り込まれた場合、体内被曝効果が極めて大きくなるのである。
プルトニウムは、一般に酸化物として利用されるが、酸化プルトニウムは直径一ミクロン
前後の微粒子となつて空気中に漂いやすく、呼吸器系から生体内に取り込まれやすい。し
かし、一旦取り込まれると、酸化プルトニウムは非常に溶けにくい物質であるので、気管
や肺の繊毛、肺の組織に沈着し、長く留まつてその周囲の組織を長期間被曝し続ける。原
発事故の際に放出されるのは、主としてこの酸化プルトニウムである。
また水溶性プルトニウムは、消化器系を通じて体内に吸収され、吸収されたプルトニウム
は主として骨に集まりやすい性質を有する。こうしてプルトニウムは呼吸を通じて吸収さ
れたものは肺ガンを、消化器系を通じて吸収されたものは骨のガン、特に白血病を誘発し
やすいのである。
3プルトニウムは半減期が長く(プルトニウム二三九の場合二万四一〇〇年、自然に)

変して除去されるということが事実上考えられない。また、
プルトニウムは環境中での測定が容易でなく、漏洩したとしても正確にこれを知ることが
できない。
プルトニウムは、極めて核分裂しやすい物質であり、ある量があれば容易に臨界に達して
しまう。プルトニウム二三九の場合、球状のプルトニウムを厚さ一〇センチメートルの天
然ウラン反射材で包んだときの純度一〇〇パーセントのプルトニウムの臨界量は四・四キ
ログラムである。そこで、プルトニウムを扱うためには臨界とならないような設計(臨界
設計)が重要となる。
プルトニウムがこのように極めて核分裂しやすいため、プルトニウムを用いれば容易に核
兵器が製造可能である。
4また、金属プルトニウムは反応性に富み、空気中で酸化し、自然発火しやすい性質を
有する。ところが、プルトニウムの量がある程度以上あると、発火したプルトニウムに水
をかけようとしてもその水が介在することによりプルトニウムが臨界に達してしまう可能
性があり、極めて困難な事態になつてしまうのである。
一〇、その他高速増殖炉において特に問題となる放射性物質の危険性
1ナトリウム
(一)高速増殖炉においては、通常金属ナトリウムが冷却材として用いられる。この金
属ナトリウムは極めて化学反応性が高く、特に高温状態では更にその反応性は高くなる。
このため金属ナトリウムが水と接触すれば、爆発的に反応して水素ガスを発生させ、また
空気中でも燃える。また、この高い反応性のため原子炉構造材料を腐蝕させやすい。
(二)冷却材として用いられたナトリウムは、強い放射線に曝され放射化し、ナトリウ
ム二二(半減期が二・六年で陽電子とガンマ線とを出す)とナトリウム二四(半減期が一
五時間でベータ線とガンマ線を出す)とが生成される。
(三)ナトリウムは、自然界ではありふれた元素である。例えば塩化ナトリウムは、い
わゆる「塩」である。生体内においてナトリウムは生体膜を通過する物質輸送等に極めて
、、。重要な機能を有し生体の各部にわたつて広く分布して存在し血液等に入つて移動する
そこで、放射化したナトリウムが生体に取り込まれると、生殖細胞を含めた生体のあらゆ
る細胞の内外に容易に入り込み、これが壊変する際にその近傍の組織に大きな影響を与え
る。
2トリチウム
(一)トリチウムは、水素の質量数三の放射性同位体で、ベータ壊変する半減期一二年
の物質である。水素は、
自然界においてナトリウム以上に極めてありふれた元素であり、酸素と結合すれば水とな
り、生体のいかなる組織も欠くことができない元素である。そこでトリチウムは、普通の
水素のように、ナトリウム同様生殖細胞を含めた生体内のあらゆる細胞の中に入り込む。
のみならず、DNAを構成する普通の水素の代りに入り込みうる。そこで、これが壊変す
る際、取り込まれたDNA等の生体物質を初めその近傍の生体組織に極めて大きな影響を
与えるのである。
(二)トリチウムは、軽水炉においても生成されるが、高速増殖炉においては高速中性
子の作用により更にトリチウムが生成されやすい。ところが、トリチウムは水素の同位体
であるため、化学的には普通の水素と変わらない挙動を示し、これを分離することは不可
能に近い。そこで、トリチウムは水の形で廃気、廃液に容易に混入し、環境に漏出する。
第三部プルトニウム・リサイクルの違憲・違法性
第一核燃料サイクルとは
一、核燃料の流れに沿つて現在、実用炉として世界で最も多く運転されている軽水炉型原
子力発電所では、その燃料として、約三パーセントのウラン二三五を含んだ二酸化ウラン
を使用している。ウラン鉱山で採鉱されたウラン鉱石が被覆管におおわれた燃料棒に成型
、、加工され二酸化ウランというかたちで原子力発電所の原子炉の中に装荷されるまでには
ウラン鉱を八酸化三ウラン(イエローケーキ)に製錬し、製錬されたイエローケーキを六
フツ化ウランのかたちに転換し、核分裂物質であるウラン二三五の含有率を天然ウランの
〇・七パーセントから核燃料として使用できる約三パーセントにまで濃縮し、この濃縮ウ
ランを更に二酸化ウランに転換し、燃料棒のかたちに成型加工する、採鉱-製錬-転換-
濃縮-成型・加工という一連の工程を経る必要がある。
原子炉の中に装荷された二酸化ウランは、炉の中で核分裂反応を起こし熱エネルギーを発
生させるが、そのためウラン二三五が消費されてしまうので、毎年炉全体の核燃料の三分
の一ないし四分の一を取り替えて新しい核燃料を補充する必要が出てくる。こうして、核
燃料はある特定の設計された燃焼度に達すると、原子炉から取り出されるが、これは使用
済燃料といわれ、この中には、原子炉でウランの核分裂の際副産物として生成されたプル
トニウム、燃え残りのウラン、
そして約二〇〇種類にも及ぶといわれる強い放射能をもつた「死の灰」と呼ばれている核
分裂生成物が含まれている。
、、()核燃料サイクルとは以上に述べてきた原子力発電所で使用される核燃料の誕生採鉱
から墓場(廃棄)へ至るまでの、核物質の一連の流れをいう。この核燃料サイクルは、原
子力発電所を境として、原子力発電所への核燃料の供給(採鉱-製錬-転換-濃縮-成型

加工)と、それから排出される使用済燃料の処理・廃棄の二つの部分に分けられるが、前
()、()者に向う流れは上流アツパーストリーム後者に向う流れは下流ダウンストリーム
と呼ばれている。
二、ワンス・スルー型とプルトニウム・リサイクル型
1核燃料サイクルには、使用済燃料をそのまま固体廃棄物として貯蔵・処分してしまう
ワンス・スルー型と使用済燃料に含まれているプルトニウムを再処理工場で抽出・分離
し、
それを加工して再び核燃料として利用しようとするプルトニウム・リサイクル型の構想が
ある。
このプルトニウム・リサイクル構想とは、一〇〇万キロワツト級の軽水炉型原子力発電所
では、一年間フル稼動した場合そこで使用される約二七トンの核燃料である濃縮ウランか
ら約二〇〇キログラムのプルトニウムが副産物として生成されることになるが、この生成
されたプルトニウムに着目し、このプルトニウムを、再処理工程を経て、再び原子力発電
所の核燃料として利用するというものである。
2プルトニウム・リサイクル構想に基づく「核燃料サイクルの確立」は、石油・石炭に
代わる新しいエネルギー源であるウラン資源の有効利用という視点のみから、プルトニウ
ムの持つ危険性、再処理や廃棄物処理の技術的困難性、安全性等の問題を意識的に捨象し
、、、て原発推進派の一部から将来のエネルギー問題を解決する唯一の道であるかのように
さかんに喧伝されている。
しかしながら、原発推進派の中でも、再処理の技術的困難性や、経済的な採算性がとれな
いこと、さらにはプルトニウムが社会に単体分離して生み出されることによる核拡散、軍
事転用の危険性などから、核燃料サイクルにおいては、使用済燃料をそのまま固体廃棄物
として貯蔵・処分してしまうワンス・スルー型を志向すべきだという意見も有力に主張さ
れているのである。現に、原子力開発のトツプランナーを走つていたアメリカでも、カー
ター政権は、核拡散防止政策を打ち出し、
そのため商業用の高速増殖炉や再処理工場の建設・計画が凍結され、ワンス・スルー型の
選択をしたのであつた(しかし、現在のレーガン政権は、核兵器のプルトニウムの不足を
理由に、バーンウエル再処理工場の再開など、民間の商業用原子炉からの使用済燃料の軍
、。、事転用をはかろうとしたが一九八三年一二月工場閉鎖に至つた高速増殖炉についても
コスト的な面から撤退を余儀なくされていることは前述したとおりである。)
3しかるに、わが国の原子力政策は「もんじゆ」の計画、建設、そしてその許可に端、

にあらわれているように、原発推進派内部からも出されているプルトニウムの持つ猛毒性
の人体や環境に与える危険性、再処理や廃棄物処理の技術的困難性、安全性等に対する懸
、「」、念に眼を向けることなく限りあるウラン資源有効利用という視点のみに眼を奪われ
プルトニウム・リサイクル構想に基づく核燃料サイクルの道をすでに歩み出そうとしてい
る。
第二プルトニウム・リサイクルにおける高速増殖炉の位置
一、プルトニウム・リサイクルの中核としての高速増殖炉
プルトニウム・リサイクルには、再処理工場で回収されたプルトニウムと低濃縮ウランの
混合酸化物を、既存ないし新設の軽水炉型原子力発電所を利用して、そこでの核燃料とし
て用いるというプル・サーマル計画もある。しかし、やはり、プルトニウム・リサイクル
、。、の中核として原子力推進派によつて位置づけられているのは高速増殖炉である因みに
わが国の原子力委員会は、高速増殖炉について「消費した燃料以上の燃料を生産する画、

的な原子炉であり、軽水炉に比べウラン資源を数十倍も利用することが可能であるか
ら・・・・・・核燃料の資源問題を基本的に解決でき、将来の原子力発電の主流となるも
の(昭和五十九年版原子力白書)として「ウラン資源の有効利用」という観点から、」、

速増殖炉が将来プルトニウム・リサイクルの中核的位置を占めるものとしている。
二、プルトニウム・リサイクルの虚構性
しかしながら「ウラン資源の有効利用」という点は、燃料の増殖によつて燃料が倍量に、

るのに必要な時間の長さであるダブリング・タイム(倍増時間)の問題一つをとつても、
虚構に満ちたものであることがわかる。すなわち、現在のところ、世界で最も高速増殖炉
の開発技術が進んでいるといわれているフランスのフエニツクス炉で、
ダブリング・タイムは五〇-六〇年と言われ、それより進んだ実証炉でも二〇-三〇年か
かると言われている。そしてプルトニウム・リサイクルに不可欠な高速増殖炉燃料の再処
理は全くめどが立つていない。その間高速増殖炉で使用されるプルトニウムは、軽水炉で
発電の際副産物として生産されたプルトニウムに頼らざるを得なくなるであろう。したが
つて、もしも仮に高速増殖炉並びにプルトニウムの再処理の技術上の問題が克服されて、
わが国の開発目標どおり二〇一〇年頃に実用炉が完成されたとしても(この開発目標自体
電気事業連合会によつて延期される見通しである、高速増殖炉自身で増殖されたプルト)

ウムが自己循環するプルトニウム・リサイクルが回転しはじめるまでには、それから更に
二〇-三〇年の歳月を要することとなる。
一九八五年八月フランスのリヨンで開かれたIAEAの高速炉シンポジウムで、西独カー
ルスルーエ原子力研究所のd氏とインター・アトム社のe氏は、今日の状況の下では、高
速炉は増殖を行う必要はないとする注目すべき発表を行つた。この中で両氏は、SNR-
三〇〇について、当初一・二二に設計されていた転換費を初装荷炉心で〇・九六、その後
では一・〇五程度に引下げたとしている。その理由としては、大量のFBR燃料を再処理
する施設が存在していないこと、再処理、FBR燃料加工費用が高いことをあげている。
このように、プルトニウム・リサイクルが実用化されるメドは全くないといわなければな
らない。
三、プルトニウム社会への道を開く「もんじゆ」開発
わが国の原子力行政は、この虚構に満ちた「ウラン資源の有効利用」を錦の御旗に「も、

じゆ」の建設を突破口として、その高騰する建設費を度外視し、使用済燃料からのプルト
ニウム抽出・分離技術開発の目処もないままにプルトニウム・リサイクルに基づく核燃料
サイクルへの歯止めのない道へ歩み出そうとしている。
仮に原子力推進派の思惑通り、いくつかの高速増殖炉が動き始め、その使用済燃料の再処
理工場も稼働し始めるとすると、西暦二〇〇〇年には、プルトニウムの世界の年間生産量
は三〇-四〇トン、総累積量は三〇〇トンにも達すると予想される。そして各国の高速増
殖炉開発計画からすると、右プルトニウムの一〇分の一以上が日本国内に存在することに
なる。しかも、
その時点ではプルトニウムは消費されるよりも生産される量がはるかに多く、当分はさら
にたまり続けると考えられている。
ICRPが定めた、一般人のプルトニウム二三九の許容量でさえ、〇・〇〇一六マイク
ロキユーリー(重量にして四〇〇〇万分の一グラム程度)であること、一九四五年八月九
日長崎に投下された最も初歩的な原爆をつくるのに必要なプルトニウムの量が一〇キログ
ラム程度であることを考えると、西暦二〇〇〇年にはいかに多量の猛毒性を持つたプルト
ニウムが社会に氾濫するかを想像することができる。
四、プルトニウム社会の深刻な問題点
プルトニウムが多量に社会に氾濫するいわゆるプルトニウム社会では、第一にプルトニウ
ムの持つ猛毒性ゆえ、プルトニウム・リサイクルに関連する産業に従事する労働者の作業
中の労働者被曝、原子力発電所周辺の大気中にまき散らされる気体放射性物質や、使用済
燃料の貯蔵庫から漏れ出る放射能による原子力発電所周辺住民の被曝だけでなく、プルト
ニウム・リサイクルをつなぐ輸送途中の事故による沿道住民の被曝が問題となつてくる。
プルトニウムを積載したトラツクが、もし大都市を通過中事故などを起こせば、その被害
は甚大なものとなろう。
第二に、プルトニウムは、軍事転用が比較的簡易であるので、人類に現在以上に核戦争の
恐怖をもたらすことになる。一九七四年、インドは核実験を成功させたが、この実験に使
用されたプルトニウムはカナダより導入された原子炉から取り出した使用済燃料から抽出
されたものであつた。この事実は、現在核兵器を所有していない国も、通常の技術的基盤
を有する工業国であれば、プルトニウムさえあればいつでも核武装化しうることを物語る
ものである。
第三に、国家が、外国や国内の反体制派にプルトニウムが流出するのを極度に恐怖し、事
故につながるいかなる人間のミスも許されないが故に、危険なプルトニウムの管理という
名目のもとに、高度の情報管理社会の途を歩まざるを得なくなる。近時の原発関係作業従
事者に対する思想・信条を含めた厳重な管理チエツク、フランスのラ・アーグ再処理工場
から戻つてきたプルトニウムの東海再処理工場への国内輸送に対する過剰なまでの警備体
制、原子力基本法の「公開の原則」の見直しとその形骸化は、社会全体の管理の強化にも
つながるものでもある。
五、民主的討論を経ない、日本の高速増殖炉開発
ところで、
この危険なプルトニウム社会を選択するか否かについて諸外国では政府機関や議会がプ、「
ルトニウム社会」を包括的に把え、国民に対して問題提起をしようとする姿勢がうかがえ
る。
たとえばイギリスでは、ウインズケール再処理工場の拡張をめぐつて長期にわたるヒアリ
ングや検討作業が行なわれ、次期高速増殖炉CFR一号炉の開発にあたつて、一九七六年
九月に提出された王立環境委員会の「原子力と環境」報告でも「私たちがここで純粋に、

境上の理由から好ましいとする戦略は、CFR一号炉の開発を送らせることである。それ
によつて、プルトニウム経済の社会・政治的側面が十分検討され、議論される時間が得ら
。、、れようそうすることによつてCFRにつき進む前にその危険性の度合が広く理解され
当否の判断が可能となろう」と述べている。
またアメリカでも、一九七四年アメリカ原子力委員会が、プルトニウム社会につき、プル
トニウムを大規模に産業利用した場合に起こり得る影響について論じたGESMO報告と
いう報告がある。この報告も、基本的人権や民主主義の立場からプルトニウム社会が妥当
であるかどうかの議論が生ずるのは当然であることを前提としている。
しかるに、わが国においては、このようなプルトニウム社会への選択が国会などを通じた
国民の前での民主的討論にかけられることなく、既定の方針の如く、政府の原子力行政担
当者だけの手によつて秘密裡に決定され、国民に有無を言わさず推進されつつある。
国民の意見をまともに聞かず、十分な論議も尽さないまま、たつた一日だけの機動隊の壁
に守られた「公開ヒアリング」で、国民に対する民主的手続きを経たと豪語する「もんじ
ゆ」の計画・許可・建設過程こそ、原発推進勢力の狙う、危険で非民主的な管理社会の入
口に現在原告らを含む日本国民全体が置かれていることを如実に示すものである。
第三放射性廃棄物の危険性と見通しのない処理・処分
一、一般的な問題点
1はじめに
原子力発電が他の発電方式(水力や火力)と根本的に違う点は放射性廃棄物がでるという
点である。
放射性廃棄物の処理・処分の見通しがないままに原子力発電所を運転し続けるということ
は、かけがえのないこの地球を放射性廃棄物で汚染し続けるということであり、結局われ
われ人類そのものの生存をおびやかす暴挙である。
2放射性廃棄物の区分
原子力発電所からでたゴミつまり廃棄物はすべて放射性廃棄物になるので法律上は何の区
別もない。しかし取り扱い上、高レベル・中レベル・低レベルという区分がされている。
各レベルの放射能の目安は表5のとおりである。
(一)高レベル廃棄物
原子力発電所の使用済燃料中から直接由来するものつまり死の灰そのものの廃液とかそれ
を固化したものを高レベル廃棄物とよんでいる。
一〇〇万キロワツトの原発を一年間運転すると年当り約三〇トンの使用済燃料がでる。
日本の核燃料サイクルの方針に従えばそれらが再処理工場へ運ばれて、プルトニウムと燃
えのこりのウランを取り出すために化学処理(再処理という)をうける。この再処理の結
果廃液が残るがこの再処理廃液が高レベル廃液の本体である。
使用済燃料一トンを処理すると約一トンの高レベル廃液がでる。
(二)中レベル廃棄物
再処理廃液ではないもので放射能レベルが高いもの。
例えば使用済燃料の被覆管そのものなど。
(三)低レベル廃棄物
原発の運転中に放射性物質がもれて汚染が生じた場合に二次的に汚染したような物質、例
えば浄化系に使つている樹脂や機械のドレーン(機械からの水もれ排水を濃縮したもの)
など。
しかし低レベルだからといつて放射能的に危険性が少ないというレベルではない。
例えば低レベルといわれるドラム缶廃棄物の場合、二〇〇リツトルのドラム缶全体で一〇
、、〇ミリ・キユリーぐらいの放射能が含まれており人間の体内毒性という観点からみれば
核種にもよるが、数百人の致死量に当るものである。
3放射性廃棄物の寿命と毒性
図10は一〇〇万キロワツト級原子炉を一年間運転した場合に出される約三〇トンの使用
済燃料に含まれている高レベル廃棄物の数十億キユリーの放射能についての毒性変化を縦
軸にハザード・インデツクス(放射能レベルを水中の「許容濃度」にまで希釈するのに必
要な水量、横軸に時間をとつて表わしたものである。)
希釈をするのに必要な水量は、最初は約二〇兆トンであり、一〇〇年位経過してやつと地
上の全河川水量に減る程度である。
そして一〇〇〇年以降は超ウラン元素といわれるプルトニウム、ネプツニウム、アメリシ
ウム、キユリウムが残つているため毒性はほとんど落ちない。
さらにラジウム二二八のような娘核種が途中から生成して増えてくるため、
一億年たつても非常に高い毒性が残りつづけることになる。
この様な毒性の高さと無限ともいえる寿命の長さが放射性廃棄物の最大の問題である。
4放射性廃棄物の熱
放射性廃棄物の放射能は、基本的には熱に変るので、放射能が強いと熱出力も高くなる。
図11は使用済み燃料トン当りの高レベル廃棄物の熱出力の変化を表わしたものである。
原子炉からとり出した直後はトン当り一〇〇キロワツトの熱出力があり、一〇年経過後も
数キロワツトの熱出力を持ち続けているのである。
この熱出力が放射性廃棄物の貯蔵や処分を非常に困難にしているのである。例えば使用済
燃料一トンからとれる死の灰は、体積だけをいえば一〇リツトル位の容器に収めてしまう
ことができるが、一〇年経つても数キロワツトの熱を出すために容器それ自体が熱のため
に融解し、放射能がもれるという可能性があるのである。
5放射性廃棄物の発生量の現状と予測
表6は一九八四年七月に出された総合エネルギー調査会原子力部会の原子力発電設備容量
の見直しに伴う核燃料サイクル関連諸量の変化である。
この数値は一九八二年六月に試算したものを見直したものであるが、わずか二年間に数値
が変化するということは予測そのものに問題があるのであり、見直し後の数値の信頼性も
高いとは言えないが、この数値を前提としても二〇〇〇年度時点での使用済燃料の発生量
は単年度発生量が一六〇〇トンであり、累積量は一万九六〇〇トンにもなる。そして使用
済燃料を再処理すると一トン当り一トン程度の廃液が出るとすれば一万九六〇〇トンもの
大量の高レベル放射性廃棄物がでることになる。
東海再処理工場では一九八三年度時点で一五六トンの高レベル廃液を蓄積しているが、こ
の数値は、日本の原子力発電所の全使用済燃料のごく一部にしかすぎない。
例えば表6によつても一九八五年度時点における使用済燃料の累積発生量は三二五〇トン
にもなるのであつて、この大半はイギリスとフランスの再処理工場に輸送されて再処理が
なされることになつている。
また低レベル放射性廃棄物の発生量は二〇〇〇年度時点で単年度発生量が五万本(二〇〇
リツトルドラム缶換算)で累積発生量は一〇三万本(二〇〇リツトルドラム缶換算)にも
なる。
ところで表7は一九八三年度の低レベル放射性廃棄物であるがそれによれば一九八三年度
の単年度で二〇〇リツトルドラム缶換算にして四万七五四九本もの大量なものになる。そ
してこの数値を前述した二〇〇〇年度時点での単年度発生量の五万本とほぼ等しくなる。
二〇〇〇年度時点での原子力発電の設備容量は六二〇〇万キロワツトであるが、この数値
は一九八三年八月末現在の設備容量である一七一七・七万キロワツトの三倍以上であるた
め発生する低レベル放射性廃棄物発生量も三倍以上の約一五万本になるはずであるが、約
一〇万本を焼却処分するということで二〇〇〇年度時点での単年度発生量を五万本と推定
しているのである。
焼却処分をするということは大気中に放射能をまき散らすということであり、深刻な環境
汚染をもたらすものである。
また一九八三年度における低レベル廃棄物の累積的な保管量は原子力発電所全体で三八万
六三九八本(二〇〇リツトルドラム缶換算)になり、他の原子力施設からの分を合せると
五二万本もの大量の低レベル放射性廃棄物が累積されていることになる。
6海外返還廃棄物
現在国内の再処理施設のみならず、海外(英・仏)に委託した再処理も予定通りに進んで
いない(一九八三年までに海外に送られたもので再処理されたものは約二〇トンで契約量
の一%以下である)ので、再処理後の廃棄物は少量しか発生していない。
しかしながら今後海外の再処理機関に委託しえたとしても、結局再処理後の高レベル廃棄
物は抽出されたプルトニウムとともに、日本に返還されるのであるから、いずれにしろ再
処理後の高レベル廃棄物の最終処分方法の確立なくて原子力発電所を運転し続けることは
許されない。
現在の予測では一九九〇年ごろから再処理後の高レベル廃棄物が返還されてくるといわれ
ている。この時高レベル廃棄物は固化されて返還されるのであるが、この固化体は使用済
燃料一トン当りの死の灰を溶解してキヤニスターと呼ばれるステンレス鋼の容器の中に溶
かして流し込みガラスで固めたものでガラス固化体とよばれている。
このキヤニスターは内容量で一二〇リツトル、全容量で一四〇~一五〇リツトルになりこ
の中に使用済燃料一トンに当たる数十万キユリーもの大量の放射能が含まれており、この
様なものが毎年三〇〇体ぐらい日本に返還されてくることになるのである。
一キヤニスター当りの放射能は、
、。冷却期間にもよるが七〇万~八〇万キユリーにも達し数百~一千万人もの致死量に当る
そのなかには毒性も強く寿命も長い超ウラン元素(例えばネプツニウム二三七は半減期が
二一四万年)が多量に含まれるためその貯蔵はきわめて長期の安全性を必要とし、廃棄処
分は不可能である。さらに放射能の発熱作用によつて一体当り約二キロワツトの熱がでる
ためガラス体表面では百数十度、内側で四〇〇度近くに温度が上がりガラス固化体の安全
性を著しく損ねるおそれが多分にある。
ガラス固化体の技術は非常に不安定な状況にあり、日本ではまだ実物大の実験がまつたく
行われていないという状況にある。ガラスは非結晶で非常に不安定な物質であり、年の経
過と共に結晶化を起し、ひび割れを起す可能性もある。
また、キヤニスターに使用されるステンレス鋼の寿命は五〇年程度と言われているのであ
つて、高レベルの放射能による発熱の影響とあいまつて放射能もれの起る可能性は極めて
大きい。
7廃炉
(一)廃炉の見通し
原子力発電所の耐用年数は二〇年から三〇年といわれている。
日本では現在原子力発電所が二八基稼動しているが、これが稼動し始めたのは一九七〇年
からであり、仮に耐用年数が三〇年だとしても二〇〇〇年ぐらいから年に二基ずつぐらい
が廃炉になる予定である。
(二)廃炉の廃棄物
長期に運転した原子炉はそれ自身が中性子によつて放射能を強く帯びている。
図12は炉心のシユラウドという部分に残存する放射能を表わしている。この炉心シユラ
ウドの部分の放射能は、当初はコバルト六〇の放射能の半減期のみを問題にすればよいと
、。考えられていたが現在ではニツケル六三という放射能が大量に残ることがわかつてきた
ニツケル六三は半減期が一〇〇年であるから一〇〇年たつても半分にしか減らないという
ことであり、炉心シユラウド自体一千年以上に渡つて厳重な管理のもとに貯蔵しなければ
ならないことになる。
表8は一一〇万キロワツトの沸騰水型原子炉を廃炉にした場合の廃棄物発生量の試算であ
る。高レベル廃棄物が一〇〇トン、中レベル廃棄物が一〇〇〇トン、低レベル廃棄物が三
万五〇〇〇トン、低レベル廃棄物のうち極低レベルと称しているものが二万トンあり、そ
れよりさらに低レベルと考えられる鋼材とかコンクリートが六〇万トンも出てくるのであ
る。
(三)本件審査においては「もんじゆ」に関する廃炉についての審査がまつたくなされ
ていない。よつて本件許可処分は原子炉等規制法第二四条一項四号の要件を充足しておら
ず、重大かつ明白なる違法が存するものである。
二、高速増殖炉による放射性廃棄物の問題点
1高速増殖炉の放射能
高速増殖炉も核分裂に基づいた原子炉であるから、同じ出力(発電量)に対しては、軽水
炉とほぼ同じだけの核分裂生成物(死の灰)ができる。
しかし、高速増殖炉の場合には軽水炉にないような放射能の問題が生ずる。
(一)ナトリウム
放射性物質としてのナトリウムの性質と危険性は第二部一〇において述べたとおりである
が、大型の高速増殖炉ではナトリウム二四の生成量は二〇〇〇~三〇〇〇万キユリーにも
達しよう。このため一次冷却材の流路にそつて放射線レベルを著しく高めることになり、
。、労働者被曝は軽水炉の場合に比しはるかに大きくなろうナトリウム二二の生成量は一〇
〇〇〇キユリー程度と比較的少ないが、その寿命が長いために無視できない存在である。
(二)トリチウム
トリチウムの危険性は第二部一〇において述べたとおりである。
軽水炉の場合でもトリチウムは生成し、核燃料再処理のときに環境汚染の原因となるが、
高速増殖炉では高速中性子の作用によつてトリチウムができやすくなる。軽水炉の場合の
数十倍が生成されると予想されている。
(三)プルトニウムなどの超ウラン元素の問題
高速増殖炉の炉心は一般に二〇~三〇%のプルトニウムを燃料として内蔵しているから軽
水炉の場合に比べ、もともとプルトニウムの存在量が多い。さらに炉心とブランケツトに
存在するプルトニウムの一部は、核分裂をせずに中性子を吸収してより重い元素に変つて
いく。
この現象は軽水炉のウラン燃料の中に副産物としてプルトニウムが生まれることと似てお
り、副産物としてプルトニウムからアメリシウム、キユリウムなどの超ウラン元素ができ
るのである。その大体の生成量を軽水炉の場合と比較したのが表9である。
超ウラン元素のできる量は軽水炉の場合より多く、しかもこれら超ウラン元素の寿命は非
常に長く減衰して無害になるまで一〇〇万年程かかるのである。そしてこれら超ウラン元
素はプルトニウムと同じような猛毒のアルフア線を出すため、その管理や取り扱いの厳し
さは極めて大きく、放射性廃棄物の安全な貯蔵や、
その他の管理を決定的に困難にしている。
2高速増殖炉の使用済燃料の特性
表10は高速増殖炉からの使用済燃料の特性を軽水炉の使用済燃料の数値と比較したもの
である。
炉心燃焼度は軽水炉の二~三倍になり、崩壊熱、プルトニウム含有量、核分裂生成物含有
量、放射能温度のいずれも軽水炉より大幅に高くなる。特にプルトニウムの含有量は約二
十倍(炉心燃料)高くなる。
三「もんじゆ」における固体廃棄物の問題点、
1「もんじゆ」における固体廃棄物の種類と年間推定発生量
「もんじゆ」における固体廃棄物の種類と年間推定発生量は原子炉設置許可申請書の添付
書類9の第四・四-一表によれば表11のとおりである。
2「もんじゆ」における固体廃棄物の処理・処分の方法
許可申請書二七頁によれば、固体廃棄物の廃棄設備という項目で次の様に述べている。
「1)構造(
a主な固体廃棄物としては、廃液蒸発濃縮装置及び洗濯廃液蒸発濃縮装置の濃縮廃液、
使用済脂肪、使用済活性炭、雑固体、使用済排気用フイルタ及び使用済制御棒集合体等で
ある。固体廃棄物の廃棄設備は、固体廃棄物のアスフアルト固化装置、圧縮可能な雑固体
廃棄物を圧縮するためのベイラ、運搬装置、固体廃棄物貯蔵庫等からなる。濃縮廃液及び
使用済樹脂は固化処理した後ドラムに詰めて貯蔵保管する。
圧縮可能な雑固体廃棄物はベイラにて圧縮処理し、ドラム詰めにする。使用済活性炭はド
ラム詰めとし、使用済廃棄用フイルタ類は梱包する。発生した固体廃棄物は敷地内に所定
の遮蔽設計を行つた固体廃棄物貯蔵庫に保管する。また、使用済制御棒集合体等は水中燃
料貯蔵設備及び固体廃棄物貯蔵プールに貯蔵する。
なお、海洋投棄など最終的に処分する場合には関係官庁の承認を受ける。
b主な機器
(省略)
(2)廃棄物の処理能力
固体廃棄物貯蔵庫は発生する固体廃棄物の約一五年分を貯蔵保管する能力がある。なお、
必要がある場合には増設を考慮する」。
3安全審査書における固体廃棄物の処理・処分に関する判断内容
安全審査書の一一七頁~一一八頁の放射性固体廃棄物処理設備と題する項目では次の様に
述べている。
「放射性固体廃棄物処理設備は、遮へい、遠隔操作等によつて、従事者の被曝線量を合理
的に達成できる限り低減できる設計であることが要求される。また、放射性固体廃棄物貯
蔵設備は、
発生する放射性固体廃棄物を貯蔵する容量が十分であるとともに、放射性固体廃棄物の貯
蔵による敷地周辺の空間線量率を合理的に達成できる限り低減できる設計であることが要
求される。
このため、審査に当たつては、従事者の被曝低減対策、放射性固体廃棄物の発生量、固体
廃棄物貯蔵庫の貯蔵及び遮へい能力等について検討を加えた。
濃縮廃液及び使用済樹脂はアスフアルト固化装置によりアスフアルトと混合加熱し、水分
を蒸発して、ドラム詰めされる。ドラム充填室には、従事者の被曝線量を低減できるよう
遮へい壁、鉛ガラス等が設けられるが、ドラム缶の移動及びドラム詰めは、遠隔操作で行
えるよう設計される。圧縮可能な雑固体廃棄物はベイラにて圧縮処理し、ドラム詰めされ
る。また、使用済活性炭はドラム詰めされ、使用済排気用フイルタ類は梱包される。
したがつて、放射性固体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当なものと判断する。
一方、固体廃棄物貯蔵庫は推定される放射性固体廃棄物の約一五年分を貯蔵保管できるこ
とになつており、必要に応じて増設される。
なお、使用済制御棒集合体等は、その放射能を減衰させるために水中燃料貯蔵設備及び固
体廃棄物貯蔵プールに貯蔵保管される。
放射性固体廃棄物の貯蔵保管に当たつては、従事者の被曝線量を低減するため、必要なも
のについては十分な遮へいを設けるとともに、遠隔操作が可能なように設計される。
固体廃棄物貯蔵庫からの直接線量及びスカイシヤイン線量は、原子炉格納容器内線源等に
よるものと合計して、人の居住の可能性のある発電所敷地境界外において、合理的に達成
できる限り低くなるよう設計し、管理されることとなつている。
なお、放射性固体廃棄物を最終的に処分する場合には、法令の手続を経て行うことになつ
ている。したがつて、放射性固体廃棄物貯蔵設備の設計は妥当なものと判断する」。
4安全審査書における固体廃棄物の処理・処分に関する判断内容の問題点
(一)固体廃棄物の危険性と管理上の問題点
固体廃棄物及び高速増殖炉の放射能の危険性については、すでに述べたとおりであるが、
、、、固体廃棄物に含まれると予想される放射性物質はすでに述べたナトリウムトリチウム
プルトニウムなどの超ウラン元素の他にコバルト六〇(半減期五・三年、マンガン五四)
(同
二七八日、コバルト五八(同七一日、クロム五一(同二八日、)))
ニツケル六三(同一〇〇年)などの腐食生成物の他、燃料棒内から被覆管のピンホール等
()、、の結果一次主冷却系に一部放出されたセシウム一三七同三〇年ストロンチウム八九
九〇(五〇・四日及び二八年、さらに微量ながらヨウ素一二九(同一七〇〇万年)など)

雑多な放射能を含むので、長期間の安全性が必要となる。
(二)固体廃棄物の貯蔵能力と安全審査の欠如
固体廃棄物の貯蔵能力を点検するためには次の諸点を考慮しなければならない。
(イ)地震・火災・津波等により、貯蔵中の廃棄物がそのままないし破損して外部環境
にさらされ、放射能が放出されるようなことがありえないか。
(ロ)貯蔵中に生ずる腐食などによつてフイルター・スラツジ、イオン交換樹脂の貯蔵
タンクやドラム缶が破損し、内蔵されていた放射能が漏洩することはありえないか。
(ハ)またその際に、周辺監視区域外に放射能が流出して環境や海産物、農産物を汚染
し、あるいは地下水を汚染するということがありえないか。
(ニ)ドラム缶・タンクなどの容器は、一定の耐用年数後には腐食することを予測しな
ければならないが、安全のために一体何年間の耐腐食性=健全性を保障する技術仕様を要
請するか。またそれらの容器が水・熱などにさらされた場合の耐性をどう規定するか、等

の問題がある。
これらの問題は本件審査において、重要な審査項目である。その検討なしには原告ら住民
の生命・健康が害される可能性が大きい。したがつて具体的な基準、指針によつて枠組を
定め、具体的な設計、施工によつて安全性を保障すべきものである。
さらに被告内閣総理大臣は、原子炉系におけると同様に、貯蔵中廃棄物の放射能流出事故
についても、事故解析を施し、災害評価を行つて、公衆の安全を保障すべきであり、この
ことが、原子炉系の審査との整合性という観点からも最低限必要となるのは当然である。
しかるに、右の諸点に関する設計・基準・評価などについて十分な審査を行つた形跡が見
られない。これらは決して、安全審査以降の詳細設計に属する問題ではなく、右のような
視野の完全な欠如は、廃棄物問題を先延しにしたまま原子力発電を見切り発車させたこと
の具体的な現われなのである。
(三)貯蔵庫増設の問題性(日本原電敦賀事故の教訓)
すでに述べた様に許可申請書によれば、固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵能力として、
約一五年分を貯蔵保管する能力があると、続いて必要がある場合には増設を考慮するとし
ているが、安全審査書ではこの増設についての検討がまつたくみられない。
昭和五六年四月に顕在化した敦賀原発の放射能流出事故が生じた根本原因は放射性廃棄物
の発生量が電力会社(日本原電)の安易な予測を大幅に上まわつたことにあつた。
つまり、当初フイルター・スラツジもセメント固化してドラム缶に詰める予定であつたの
だが、放射能レベルが高いためタンク貯蔵せざるをえなくなり、タンクの増設をし、フイ
ルター・スラツジ移送洗滌系の制御操作が距離的に離れた新旧廃棄物建屋に分散したた
め、
その取扱い作業が複雑化したことが原因となつて、フイルター・スラツジ貯蔵タンクのオ
ーバーフロー事故が起つたのである。
これらすべてがその場しのぎの廃棄物対策と、廃棄物軽視の「安全思想」のよつてしから
しめるところである。
(四)固体廃棄物の最終処分についての無審査
安全審査書においては「放射性固体廃棄物を最終的に処分する場合には、法令の手続を、

て行うことになつている」とのみしか述べておらず、最終処分方法とその安全性について
の審査はまつたくなされていない。
放射性廃棄物の最終処分を含めた処理処分にかかわるすべての責任は、廃棄物そのものの
発生者である原子力発電所にある。放射性廃棄物を蓄積するがままにまかせるならば、原
告住民の生活環境に放射能汚染が生じ、災害の発生する具体的な危険性が存在することは
すでに述べた通りである。
原子炉で発生する放射性廃棄物は、その有害性と長い寿命からして、ほぼ永久に生物環境
から絶対的隔離が必要となる。この条件が満たされなければ発生そのものが認められない
ことは言うまでもない。したがつて、その発生の段階でこそ、その絶対的隔離条件が満た
されるかどうかが審査されねばならないのが当然である。いつたん発生を許せば消滅があ
りえない以上、残されるのは、何らかの処分かないしは長期保管か、そのいずれが適切な
方法かを相互的に比較検討したり、選択したりの問題でしかなくなる。放射性廃棄物が如
何に危険であろうと、現実に発生するものは長期保管ないし処分するしかない。これはい
かにも不当かつ不合理な選択である。
換言すれば、放射性廃棄物の長期保管、処分の妥当性、安全性の問題は、とりもなおさず
その発生の是非の問題につらなつてくる。
仮に百歩譲つて安全な長期保管、処分の見通しについて大きく意見が分れるであろうこと
を考慮しても、現行の審査は、放射性廃棄物の長期保管ないし最終処分の問題が、廃棄物
のそもそもの発生の是非を問うような問題には発展しないことを明瞭に検証しているなら
ばいざしらず、何らこれを検証していない以上、この問題は原子炉等規制法第二四条一項
四号の審査の対象から排除することはできないものである。
(五)結語
以上に述べたように本件安全審査書における固体廃棄物の処理・処分に関する判断内容
は、
原子炉等規制法第二四条一項四号の要件を充足しておらず、重大かつ明白なる違法が存す
るといわざるをえないものである。
四「もんじゆ」における使用済燃料貯蔵設備の問題点、
1安全審査書における使用済燃料貯蔵設備の安全性に関する判断内容
安全審査書の一一一頁~一一四頁の燃料取扱い及び貯蔵設備と題する項目では、要旨次の
ように述べている。
使用済燃料の貯蔵容量は、炉外燃料貯蔵槽で約二五〇体(新燃料と共用、燃料池で約一)

〇〇体(新燃料と共用)となつており通常運転時に必要となる使用済燃料の適切な容量を
収容できる設計である。また、貯蔵燃料の臨界を防止するために、適切な燃料集合体間距
離をとることになつており、容量いつぱいの燃料を貯蔵しても実効増倍率は〇・九五以下
に保たれるよう設計される。
炉外燃料貯蔵槽冷却設備は、独立な三系統の冷却系から成り、全貯蔵容量の使用済燃料を
貯蔵したとしても、崩壊熱の除去及び純化が十分できるよう設計され、一系統のみの運転
でも炉外燃料貯蔵槽の出口ナトリウム温度を約三〇〇℃以下に保つことができる。
燃料池水冷却浄化装置はポンプ及び冷却器の多重性を有し、全貯蔵容量の使用済燃料を貯
蔵したとしても崩壊熱の除去及び浄化が十分できるよう設計され、燃料池水平均温度を五
二℃以下に保つことができる。
使用済燃料の原子炉容器から炉外燃料貯蔵槽までの移送は、炉内中継機構及び燃料出入設
備を用いて行われ、この間使用済燃料はナトリウム入り燃料移送ポツトに入れて取扱われ
。。るまた炉外燃料貯蔵槽から燃料池までの移送は燃料出入設備を用いてガス中で行われる
いずれの場合も冷却系は取扱い中の燃料からの崩壊熱を十分除去できる能力をもつように
設計される。燃料池での貯蔵に当つては、あらかじめ燃料に付着したナトリウムの洗浄を
行う計画とされる。
なお、これらの取扱い作業中も燃料集合体の落下を防止する対策がとられる
2安全審査書における使用済燃料貯蔵設備の安全性に関する判断内容の問題点
前述した「固体廃棄物の貯蔵能力と安全審査の欠如「貯蔵庫増設の問題性「固体廃棄」」

の最終処分についての無審査」で指摘したと同様の問題点があるが、特に使用済燃料には
前述した高レベルの放射能が含有されており、冷却材として使用したナトリウムと水ない
し空気が接触する機会が増大し、その反応による爆発ないし急激な化学反応、さらには腐
食が予測されるが、その具体的な検討がなされていない。
一九八五年七月、西ドイツのSNRI三〇〇原型炉について、ノルトライン・ウエストフ
アーレン州政府が燃料装荷およびゼロ出力試運転認可申請を却下したのも、使用済燃料の
管理方法が十分実証されていないことを理由とするものであつた。
よつて、本件審査書における使用済燃料貯蔵設備の安全性に関する判断内容は原子炉等規
制法第二四条一項四号の要件を充足しておらず、重大かつ明白なる違法が存するものであ
る。
第四克服困難な再処理技術の問題点
一、再処理とは
原子炉で消費された使用済燃料には、原子炉で核分裂の際生成されたプルトニウム、燃え
残りのウラン、そして約二〇〇種にも及ぶといわれる強い放射能をもつた「死の灰」と呼
ばれている核分裂生成物が含まれている。再処理とは、この使用済燃料から、ウランとプ
ルトニウムを抽出分離し、新たに軽水炉や高速増殖炉で再利用される核燃料の形に成型加
工するとともに、核分裂生成物を放射性廃棄物として処理する工程をいう。核燃料サイク
ル、とりわけプルトニウム・リサイクルにおいては、高速増殖炉で使用する核燃料である
プルトニウムを供給する工程であるので、高速増殖炉とともに重要な位置を占めるもので
ある。
再処理工場では、原子炉では被覆管におおわれ閉じ込められていた放射性物質を、燃料棒
をせん断し、溶解して化学的処理をするのであるから、日常的に原子力発電所とは比較に
ならない量の放射性廃棄物を気体・液体・固体の形で排出することになる。
高速増殖炉では、軽水炉に比べてその炉心燃料燃焼度がニないし三倍となることから、軽
水炉との比較において、その使用済燃料の崩壊熱では二~三倍、炉心燃料のプルトニウム
含有量では約二十倍、
毒性を持ちベーター線を出し遺伝子にも影響を与えるトリチウムの量では数十倍、数千年
、、以上もの半減期があり人体組織へ重大な影響を及ぼすアルフアー線を出すネプツニウム
アメリシウムなどの超ウラン元素では、その重量において七~八倍、放射能濃度は二倍の
数値を示すことになる。
したがつて、後述するように本件高速増殖炉からの使用済燃料の再処理においては、軽水
炉からの使用済燃料以上に技術的・安全性に関してより困難な問題に直面し、被告動燃に
おいても、開発研究段階の域を出ない状態にある。
二、再処理の現状
1原子力委員会の方針
わが国の原子力委員会は、昭和五七年六月三〇日、原子力開発利用長期計画を策定し、そ
の中で再処理に関し、大要次のような方針を示している。
「使用済燃料から回収されるプルトニウム・ウランは、その利用により、ウラン資源の有
効利用が図れるとともに、原子力発電に関する対外依存度を低くすることができるので、
使用済燃料を再処理することにより、これを積極的に利用していくものとする」。
そして、再処理の具体的方策として、同計画は、次のように述べている。
「、、、現在のところこの再処理については大部分を海外への委託によつて対応しているが
再処理は、国内で行うとの原則の下に、既に稼動中の動力炉・核燃料開発事業団東海再処
、、。」理工場に加えて民間再処理工場を建設し将来の再処理需要を満たしていくものとする
、、(「」このように原子力委員会は現在実施されている海外への再処理委託本件もんじゆ
の使用済燃料についても海外委託の方針をとつているが、その詳細はまつたく明らかでな
い)を、暫定的措置として位置付け、訴外動燃東海再処理工場での再処理と、昭和五五年
三月、電力一〇社を中心に、化学、重電、商社など合計一〇〇社が集まつて設立された民
間の日本原燃サービス株式会社による第二再処理工場の建設計画をその方針としているの
である。
2事故続きの東海再処理工場の実情
訴外動燃の東海再処理工場は、処理能力一日当り〇・七トン、年間二一〇万トンを目標と
して、昭和四六年六月建設に着手され、昭和五〇年に建設を終え、その後、通水試験、化
、、、、学試験ウラン試験などの試験を経て昭和五二年九月からは実際の使用済燃料を用い
技術的には本格操業と変らないホツト試験を開始した。
ところが、ホツト試験開始直後から、
脱硝塔からのウラン溶液漏出、槽類換気系室からのオフガスの漏洩という事故、故障が続
出し、昭和五三年八月二四日には、酸回収蒸発缶蒸気パイプにピンホールが発見され、そ
こから蒸気系に放射能が漏れて、一年間運転を停止するに至つた。その後も、廃棄物処理
場内からの廃液流出(昭和五四年二月九日)や、パルスフイルター用配管の目づまり、洗
浄液の逆流で作業員が被曝する事故(同年七月八日)などを繰り返したが、ようやく昭和
五六年一月一七日から本格操業を開始した。
しかし、その後も、溶解槽から送液配管の相次ぐ目づまり(同年一月二三日~二九日、)

ルトニウム溶液の誤送(同年二月四日、プルトニウム濃縮工程中間貯槽のプルトニウム)

度の保安規定以上の上昇(同年九月一二日)などの事故、故障が多発し、またも運転・停
止を繰り返してきたが、昭和五七年四月一一日には、二基ある溶解槽(ブツ切りした燃料
棒を硝酸で溶かす装置)のうちR一一溶解槽にピンホールが発生し放射能が漏洩したため
その使用を断念した。そのため再処理能力が半減したが、昭和五六年二月一九日には、片
肺運転を続けてきた残りのR一〇溶解槽にもピンホールが発生し放射能が漏洩したため、
ついに全面的に操業停止するに至つた。
訴外動燃は、これらの溶解槽の補修を検討してきたが、その技術的困難さからその補修を
断念し、別の溶解槽R一二を新設することを決定した。そして全面操業停止から二年を経
た昭和六〇年二月一八日、新しい溶解槽R一二を使用して東海再処理工場はようやく操業
再開にこぎつけたのである。
3第二再処理工場の真の狙い
右のような東海再処理工場の実情に鑑みると、年間再処理能力八〇〇トンの大型再処理工
場を建設するとの原子力委員会の計画は安全性の面からも無理という外はない。また、電
力業界が高速増殖炉開発に難色を示し、高速増殖炉開発自体かまつたくメドの立つていな
い今日、プルトニウムを生産してみても、その使途自体が存しないので為る一軍事転用の
可能性やプルサーマル計画等を別にすれば。そこで、電気事業連合会一日本原燃サービ)

(株)一が下北半島六ヶ所村に建設を進めている第二再処理工場の真の狙いは、再処理工
場そのものではなく、これに付設される使用済燃料及び返還廃棄物の貯蔵施設にあると考
えられる。
このことは、
再処理工場の運開予定が当初の昭和六五年から昭和七〇年に延期されたにもかかわらず、
右貯蔵施設の操業だけは、昭和六六年ころからとされていることからも明らかである。電
気事業連合会は、再処理工場という名で、たまり続ける使用済燃料及び返還廃棄物の貯蔵
場を作ろうとしているのである。
三、再処理の問題点
1再処理技術
再処理をめぐる安全性を検討する前提としては、当然のことながら、再処理技術が確立さ
れていなければならない。
わが国で現在採用されている再処理方式は、原爆プルトニウムを分離するために開発され
たピユーレツクス法とよばれその工程は大別して四つの工程からなる(1)機械的前処。

の工程では、貯蔵プールから取出した使用済燃料棒(核燃料を焼き固めたペレツトをジル
カロイという合金製の被覆管に詰めたもの)をせん断機で五センチメートル程度の小片に
せん断し(2)溶解工程で、せん断された小片を、溶解槽で硝酸を加えて溶かし(この、

程で、燃料の被覆管は溶けずに残り、高レベル固体廃棄物として排出される(3)分)、

工程において、溶媒を用いてウラン・プルトニウム、核分裂生成物にそれぞれ分離し(こ
の工程で、核分裂生成物は、高放射能廃液として排出される(4)精製・濃縮工程で)、
は、
分離されたウラン・プルトニウムが精製・濃縮される。このように、再処理工程は、何段
階にも及ぶ化学操作を必要とし、複雑なシステムとなつている。
ところで、この再処理技術について、原子力委員会は、昭和五七年版原子力白書の中で、
「ウ
ラン試験においては、再処理工程等に関する運転員の十分な実地訓練を積み、さらにホツ
ト試験以後については、実際の使用済燃料を再処理するという経験を積んでいる。また、
昭和五三年一〇月の酸回収蒸発缶の故障、昭和五六年二月の酸回収精留塔の故障等種々の
トラブルを経験したものの、逐次これを克服してきている。これらの経験により、再処理
技術は基本的に確立している」としている。
しかし、2(二)再処理工場の実情で既に指摘してきたように、ホツト試験以降の東海再
処理工場の実情は、事故、故障、運転停止の連続であり、再処理技術が基本的に確立して
いるなどとは到底言えるものではない。昭和五二年九月の「ホツト試験」という名目で操
業を始めてから現在まで七年余りの間に、東海再処理工場で処理された使用済燃料は一七
四トンである。これは、
東海再処理工場の当初計画の年間再処理能力二一〇トンから割りだしてみると、稼動率は
わずか一一%という貧弱な実績を残しているにすぎない。
そもそも、再処理は(1)溶解過程で起る反応が複雑で予想できない(2)反応容器に。

想外の腐食を生じる可能性がある等の理由から技術的に極めて困難であると指摘されてい
るが、東海再処理工場の現状は、この指摘が正しいことを示している。
2諸外国における再処理工場の実情-どこでもうまくいつていない再処理工場-
(一)核兵器製造や研究用のプルトニウム製造などを目的とする再処理施設を除いて、
原発の使用済燃料を本格的に処理する商業用再処理工場は、現在世界中でどこでも満足に
操業されておらず、深刻なデツド・ロツクに乗りあげている。このこと自身が、再処理工
場のもつ危険性の深刻さと、再処理計画の技術的・経済的困難性を何よりもよく表わして
いる。
(二)アメリカでは、世界最初の純商業用再処理会社としてニユークリア・フユエル・
サービス(NFS)社が設立され、ニユーヨーク州の北ウエストバレーに再処理工場を建
設し、一九六六年以来操業してきた。しかし、一九七一年までの五年間に、約五〇〇トン
の使用済燃料を処理した後、ウエストバレー一帯に深刻な放射能汚染をもたらし操業を停
止した。ゼネラル・エレクトリツク(GE)社が一九六五年イリノイ州モリスに建設を開
始した半乾式法の再処理工場は、工事完成後のコールドテストの結果、実用化できないと
判断され、一九七四年運転を断念した。一九七一年にサウスカロライナ州のバーンウエル
で建設が開始されたアライド・ガルフ(AGNS)社の再処理工場は、わが国の東海再処
理工場と同じビユーレツクス法を採用し年間処理能力一五〇〇トンを誇るものであつた。
しかし施設は一九七五年にほぼ完成したものの、一九七七年のカーター政権の商業用再処
理禁止声明による凍結、その後レーガン政権により凍結は解除されたものの、今後の運転
開始のため、さらに巨額の投資が必要なため、一九八三年一二月末ついに正式に閉鎖され
ることとなつた。これにより、アメリカでは、商業用再処理工場は、すべて閉鎖されるに
至つた。
(三)イギリスでは、英国核燃料公社(BNFL)のセラフイールド(旧名ウインズケ
ール)再処理工場が、一九六四年以来マグノツクス型原子炉の金属燃料用工場(天然ウラ
ン)として操業を開始し、
その後、軽水炉燃料を処理できるような前処理施設を付加し、国からの委託による使用済
燃料の再処理まで行い、世界の再処理センター的な役割を果してきた。ところが、一九七
三年九月、大規模な放射能漏れ事故を起して労働者三五名を被曝させるに至り、軽水炉使
用済燃料用再処理施設は閉鎖された。
(四)フランスでは、一九七六年からフランス核燃料公社(COGEMA)のラ・アー
グ工場で、軽水炉燃料の再処理が行なわれているが、その稼動率は低く、後述するように
事故、故障が相次いでいる。
3深刻な環境汚染
、()一〇〇万キロワツトの軽水炉原発一基が一年間に出すいわゆる死の灰核分裂生成物
の放射能は、三〇~四〇億キユリーといわれる。
これが、再処理工場に搬入される段階では、やや放射能が減衰するものの、それでも、使
用済燃料一トン当りの放射能は一〇〇~二〇〇万キユリーに及ぶ莫大な量である。このよ
うな超高濃度の放射能を含んだ使用済燃料が大量に搬入される再処理工場は、したがつて
核燃料サイクルのなかでも、平常時に最も環境への放射能放出の多いところである。
再処理工程のうちでも、特に機械的前処理と溶解工程において、使用済燃料から、多量の
クリプトンやキセノンなどの放射性希ガスが放出される。ここで放出される放射性希ガス
は、若干の低減化装置を経て環境へ排出される。
東海再処理工場の安全審査によると、この放射性ガス、クリプトン八五の放出量は、年間
三〇〇日稼動の条件の下で、一日で約八〇〇〇キユリー(年間二四〇万キユリー)に及ぶ
とされている。東海再処理工場に隣接する日本原電東海第二原子力発電所の放射性希ガス
の放出管理目標値が年間で五万キユリーであることと比較すると安全審査上も実に四八倍
の量の放出が前提とされていることとなる。これによる住民の被曝は、全身で年間三二ミ
リレムに及び、アメリカ環境保護庁の許容量(全身で年間二五ミリレム)をも超える値と
なつている。
また、再処理工場からは、多量の放射性液体も環境へ放出されている。東海再処理工場の
安全審査によると、その放射性液体放出量は、年間三〇〇日の稼動を前提として、年間二
六〇キユリーとされている。東海第二原発の放射性液体の放出管理目標値が、年間で一キ
ユリーであることと比較するとじつに約二六〇倍の量が放出されることとなる。これに加
え再処理工場では、日量二〇〇キユリー(これは、
軽水炉の使用済燃料を再処理した場合の数値であつて、高速増殖炉の場合は、すでに述べ
たようにその数十倍の量に達する)に及ぶトリチウムが放射性液体として放出される。
そこで、トリチウムと水との分離が困難とされることから、人体への影響が問題となるこ
とは第二部一〇において述べたとおりである。
4再処理工場の重大な危険性
(一)再処理工場では「1再処理技術」のところで述べたように、非常に多くのかつ、

雑な化学処理が行われているので、一般の化学工場に比べて事故の危険性が高い。
まず、再処理工場では、複雑な化学操作を行うため、総延長で何百キロメートルにも及ぶ
配管で、何百もの反応槽やタンクを結ぶという極めて複雑なシステムとなつている。これ
らの配管が全て完全で瑕疵もなく、また溶接部分も全て良好ということはあり得ない。加
えて再処理工場では腐食性の液体が多く、そのため年月とともに、配管や溶接部の腐食が
進行し、液の漏れることは避けられない。このように再処理工場は巨大システムであるた
めに、常に事故の危険を内包している。
また、再処理工場は、一種の化学プラントの設備でもある。そして、工程中の物質の移動
は主として液体によつてなされる。したがつて常に化学工場特有の火災、爆発の危険性も
伴つている。
さらに、再処理工場が、多量のウラン、プルトニウムなどの核分裂生成物を取扱う施設で
あるために、これらの放射能による労働者被曝事故などの危険性も存在する。
(二)再処理工場での大きな事故として、いくつかのケースが想定されている。
その最も危険なものとしては、臨界事故がある。ウラン二三五やプルトニウム二三九など
は、一定量(臨界量)以上集まると核分裂を起す。再処理工場では、有機溶媒の中に溶け
ているウラン、プルトニウムが、この臨界事故を起す危険性が強く指摘されている。アメ
リカのアイダホ再処理工場においては、一九五九年一〇月と一九六一年一月の二度にわた
り、高濃縮ウラン溶液の誤操作により臨界事故が発生したことが報告されている。
(三)また、化学処理をした後の高レベル放射性廃液貯槽の冷却系に故障が起り、水分
が蒸発し、残渣が溶融して多量の放射性物質が放出される事故も想定されている。一九八
〇年四月、フランスのラ・アーグ再処理工場では、火災による停電事故が発生し、非常用
電源も機能せず、冷却系統が停止し、
再処理廃液貯槽内の高レベル放射性廃液が沸騰を始めるという重大事故が発生した。幸い
この事故は、シエルブールの兵器庫から移動発電機を持ち込み冷却を再開できたため溶融
にまでは至らなかつたものの、再処理工場では右のような重大事故の危険性が十分あるこ
とを示すこととなつた。
先に指摘した、イギリスのセラフイールド(ウインズケール)再処理工場を操業停止に追
い込んだ一九七三年九月の事故は、使用済燃料の溶解の不十分さ故に生じた不溶解残渣が
給液槽の底に積もり、その崩壊熱による過熱が原因となつて、大量の揮発性のルテニウム
が気体となつて漏れ出し、操作室に充満したものである。このため操作室にいた三五名の
労働者は全員被曝した。
(四)爆発、火災事故も想定される。アメリカのオークリツジ再処理工場では、一九五
九年一一月、硝酸と反応性が高いフエノール類を含む有機除染剤が蒸発缶内に残留してい
たため、硝酸を入れて加熱したところ、除染剤と硝酸が反応をして、爆発事故を起こして
おり、同じくアメリカのハンフオード再処理工場では、一九六三年一一月、プルトニウム
精製工程のイオン交換樹脂塔へ重クロム塩酸溶液が流入し、樹脂が発熱し火災事故を起こ
している。
一九七六年八月三〇日、アメリカ合衆国ワシントン州リツチランドの再処理施設(アトラ
ンチツク・リツチフイールド・ハンフオード社)で、イオン交換樹脂の爆発事故が発生し
た。
この事故は「プルトニウムから精製するアメリシウムの回収作業中に、イオン交換樹脂、

が爆発した。装置はグローブボツクス内に置かれていたが、爆発でグローブボツクス前面
のプレキシガラスが砕け、一人の作業員の肩と顔を傷つけた。同時に放射性物質がボツク
ス外に飛散し、八人の作業員が被曝した。さらに、負傷者を病院に運び込んだところ、こ
の負傷者を通じて看護婦二名も汚染した」というものである。
この事故の正確な原因は明確ではないが、樹脂が硝酸との接触で化学反応を起こし、樹脂
内に気泡が発生し、イオン交換塔内の圧力が上昇して樹脂筒が爆発したものと推定されて
いる。
注目すべきことは、この事故は、作業員側の誤操作や装置の故障が認められないにも拘ゎ
らず事故が発生していることである。
(五)ところで、再処理工場で取扱う使用済燃料には、一〇〇~二〇〇万キユリーとい
う高レベルの放射性物質が含まれているため、
一旦事故が発生すると重大な被害をもたらすことになる。
一九七六年、西ドイツ内務省の依頼を受けた原子炉安全研究所が、再処理工場の大事故の
場合の影響評価を作成した。これによると、一四〇〇トンの再処理能力をもつ再処理工場
が、最悪の事故を起こした場合には、大量の放射性物質が環境中に放出され、一〇〇キロ
、、メートル遠方でも住民は致死量の一〇倍から二〇〇倍にのぼる放射線被曝を受けさらに
公衆が致死量を受けると予測される地域は、数千キロメートルから一万キロメートルの範
囲まで及ぶことが推定されている。
5高速増殖炉使用済燃料の再処理上の問題点
本件「もんじゆ」のような高速増殖炉からの使用済燃料は、すでに述べたように軽水炉で
燃焼された使用済燃料と比べ燃焼度、崩壊熱、プルトニウム含有量、放射能濃度などの点
において高い数値を示すため、再処理工程上、これまで指摘してきた軽水炉使用済燃料の
再処理以上に、次のような、技術上、安全上の問題が生ずることが指摘されており、その
現状はまだ実験室段階といわざるをえないものである。
(1)崩壊熱が高いため、貯蔵プールでの冷却期間を長くとつたり、除熱の必要性が増
す。貯蔵プールで、使用済燃料が崩壊熱によつて温度の自己上昇をはじめて融解し、放射
能が放出する危険は、軽水炉の場合に比べ数段高い。
(2)機械的前処理工程の問題としては、被覆材がステンレススチールであることや形
状が軽水炉の場合と異なることによつて、機械的せん断では金属鋸の寿命が短いこと、燃
料棒の照射損傷による変形などによつて、燃料集合体から燃焼棒の引抜きが容易に行えな
いことがある。
(3)溶解工程の問題では、燃焼度が高いため、溶解過程で不溶解の微粒子や未溶解燃
料が残り、プルトニウムの回収率に重大な影響を及ぼすばかりでなく、配管の目づまり事
故の原因ともなる。また、燃焼度が高いことから、燃料要素の照射損傷変化が著しく冷却
材ナトリウムが燃料要素内に混入し、使用済燃料に残留している可能性が生じる。もしそ
うであるとすると、溶解液の硝酸とナトリウムが激しく化学反応を起こし、爆発や火災事
故をまねくことになる。
(4)プルトニウムの含有量が多いことから、核分裂反応が連鎖的に起こり、多量の放
射性廃棄物質を放出させる臨界事故の起こる危険性が高い。
(5)放射能濃度が高いことから、再処理工場での作業は、
より高い放射線下のプロセス作業となり、労働者の平常時被曝がより深刻な問題となる。
四、結論
1以上に述べてきたように、現在までのところ、従来の軽水炉型原子力発電所から排出
される使用済燃料の再処理・処分方法さえ、その技術的困難性、人体・環境に対する放射
、、、能汚染の安全対策面等から全くといつてよいほどその見通しが立つておらずましてや
、。本件高速増殖炉からの使用済燃料の再処理に至つては研究段階の域を出ない状態である
2ところで、原子炉等規制法第二三条八号は、原子炉の設置の許可を受けようとする者
は「使用済燃料の処分の方法」についての事項まで記載した設置についての許可申請書を
提出して、被告総理大臣の許可を受けなければならないことになつている。この「使用済
燃料の処分の方法」の規定は、同法第一条の「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用
が平和の目的に限られ、これらの利用が計画的に行われることを確保し、あわせてこれら
による災害を防止して公共の安全をはかる」という立法目的から考えると、使用済燃料の
原子力施設内での一時的な貯蔵方法にとどまらず、再処理工場でのウラン、プルトニウム
の分離・抽出方法、放射性廃棄物の最終処分方法、さらには使用済燃料を原子力発電所か
ら再処理工場そして廃棄物の最終保管場所まで輸送するその手段、方法等のプルトニウ
ム・リサイクル全体を含むことは当然である。
3しかるに、本件許可処分においては、本件高速増殖炉がプルトニウムの再利用をめざ
して建設されようとしているにもかかわらず、軽水炉及び高速炉の使用済燃料の再処理の
方法及びその安全性並びに使用済燃料の輸送方法及びその安全性の審査が全くなされてい
ない。このことは、原子炉等規制法第二四条一項二号が、原子力発電所の設置許可にあた
つて、その許可すべき基準として「原子力の開発及び利用の計画的遂行に支障が生じな、

こと」を掲げ、個々の原子力発電所設置許可にあたつても、当該原子力発電所から排出さ
れる使用済燃料が安全に貯蔵もしくは再処理されるのか否かの点まで審査すべきことを要
求していることに明らかに違反する。
4よつて「もんじゆ」からの使用済燃料の再処理の方法及びその安全性並びに使用済、

、、料の輸送及びその安全性について審査がなされていない被告総理大臣の本件許可処分は
原子炉等規制法第二四条一項二号に違反し、無効である。
第四部炉工学的安全性の欠如と重大事故の危険性第一炉工学的安全性の欠如
第一部、第一、三で述べたように「もんじゆ」は高い出力密度を持つうえに、動特性は、

めて不安定であり、しかも冷却材として液体ナトリウムを使用しているので、炉工学的に
見てもその安全性は欠如している。以下、燃料体、冷却材、炉心の動特性、中性子照射、
原子炉停止系の決定的不備、緊急炉心冷却装置の欠如の順にその危険性を検討する。
一、燃料体の健全性の欠如と危険性
1はじめに
炉心におけるプルトニウムやウランの核分裂により発生する熱を取り出して電気に変える
のが、高速増殖炉の目的であるから、燃料体は最も重要な部分である。そこで、まず、燃
料体がどのように構成されているのか述べ、安全設計審査基準と比較し「もんじゆ」が、

の基準を満たしておらず、極めて高い危険性を有していることを掲げる。
2燃料体の構成
(一)ペレツト
高速増殖炉は、核分裂性のプルトニウム二三九及びウラン二三五等を燃やし、ウラン二三
八をプルトニウム二三九に変換させる原子炉であるから、燃料材料としては次の二種類を
使用する。第一は、核分裂性プルトニウムを重量比で約一八%含んだプルトニウム及び劣
化ウランの混合酸化物であり、第二は劣化ウランの二酸化ウランである。ここで劣化ウラ
ンとは、核燃料として有効成分であるウラン二三五の同位体存在比が天然のもの(〇・七
一一重量%)よりも少なくなつたウランをいい、その中のウラン二三八が中性子を吸収し
てプルトニウム二三九になるのである。これらの酸化物はいずれも強い圧力のもとで圧縮
され、つづいて焼結によりセラミツク状の円柱形のペレツトとして用いられる。前者をプ
ルトニウム・ウラン混合酸化物ペレツトといい、炉心燃料ペレツトともいう。後者を二酸
化ウランペレツトといい、ブランケツト燃料ペレツトともいう。
(二)燃料要素
炉心燃料要素(燃料ピンという)は、直径約五・四ミリメートル、長さ約八ミリメートル
のプルトニウム・ウラン混合酸化物ペレツトを軸方向に積み重ね、その上下に直径五・四
ミリメートル、
長さ約一〇ミリメートルの二酸化ウランペレツトを置いたものをステンレス鋼製被覆管に
挿入し、ヘリウムガスを封入して、密封構造としたものである。被覆管の外径は約六・五
ミリメートル、厚さ約〇・四七ミリメートルであつて、燃料要素全長は約二・八メートル
である。
ブランケツト燃料要素は、直径約一〇・四ミリメートル、長さ約一六ミリメートルの二酸
化ウランペレツトを軸方向に積み重ねたものをステンレス鋼製被覆管に挿入し、ヘリウム
ガスを封入して、密封構造としたものである。被覆管の外径は約一二ミリメートル、厚さ
約〇・五ミリメートルであつて、燃料要素全長は約二・八メートルである。
(三)燃料集合体
炉心燃料集合体は、一六九本の炉心燃料要素を正三角形配列に保持してその下端部を支持
固定し、断面六角形のラツパ管に収納したものである。隣接する燃料要素間の間隔は、約
七・九ミリメートルであり、燃料要素にスパイラル状に巻付けたステンレス鋼製ワイヤス
ペーサで保持する。ラツパ管はステンレス鋼製であり、燃料要素冷却のための流路を確保
するとともに、燃料要素を保護するとされる。隣接する集合体の間隔を保持するために、
ラツパ管にはスペーサパツドが取り付けられている。集合体の対辺距離(六角内辺)は約
一〇五ミリメートル、全長は約四・二メートルである。
ブランケツト燃料集合体は、六一本のブランケツト燃料要素を正三角形配列に保持してそ
の下端部を支持固定して、断面六角形のラツパ管に収納したものである。隣接する燃料要
素間の間隔は、約一三ミリメートルであり、燃料要素にスパイラル状に巻付けたステンレ
ス鋼製ワイヤスペーサで保持する。ラツパ管はステンレス鋼製であり、燃料要素冷却のだ
めの流路を確保するとともに、燃料要素を保護するとされる。隣接する集合体の間隔を保
持するためにラツパ管にはスペーサパツドが取り付けられている集合体の対辺距離六、。(
角内辺)は約一〇五ミリメートル、全長は約四・二メートルである。
(四)炉心
炉心は、まず一番内側に一〇八本の内側炉心燃料集合体と一九本の制御棒集合体とが蜂の
巣状に六角形に並び、その周囲を九〇本の外側炉心燃料集合体が取り囲み、さらにその周
囲を一七二本のブランケツト燃料集合体が取り囲み、一番外側を中性子遮蔽体等が取り囲
むという構造をなしている。
出力を平担化するために、
内側炉心燃料集合体と外側炉心燃料集合体とでプルトニウム富化度、つまりプルトニウ
ム・ウラン混合酸化物ペレツト中の核分裂性プルトニウムの割合を変えている。プルトニ
ウム富化度は、内側炉心では約一五重量%、外側炉心では約二〇重量%である。
初装荷燃料装荷量は、炉心燃料領域で約五・九トンと多く、これらが、有効高さ約〇・九
、。、三メートル等価直径約一・八メートルの狭い領域に詰め込まれているのであるそして
その上部には、約〇・三メートル、下部には約〇・三五メートル、周囲を厚さ約〇・三メ
ートルのブランケツトがとりまいている。
3燃料体の健全性の欠如について
(一)基本的問題点
高速増殖炉は、本来「燃えない」ウラン二三八を「燃える」プルトニウム二三九に積極的
に転換することを目的とする原子炉である。増殖をさせるには、一回の核分裂あたりの中
性子の発生量を多くさせ、過剰の中性子を発生させるとともに、そのうちでウラン二三八
に吸収されてプルトニウムを発生させる中性子の割合を増やす必要がある。一回の核分裂
あたりの中性子の発生を大きくするには、エネルギーの低い熱中性子ではなく、高速の中
性子を利用して核分裂を行わせることになるが、もともと高速中性子の核分裂の確率は熱
中性子と比較して小さいので、核分裂性の燃料を多量に炉心につめこんでやらないと臨界
を維持できず、したがつて原子炉としては成り立たなくなる。そのため高速増殖炉では、
炉心の出力密度が軽水炉などよりはるかに高くなる。
仮に、一〇〇万キロワツトの電気出力を有する軽水炉と高速増殖炉とを比較すると、次の
ようになる。炉心一リツトルあたりの出力密度は、軽水炉で三五ないし九〇キロワツトで
あるのに対し、高速増殖炉では、二五〇ないし五〇〇キロワツトと六、七倍となつている
のである。
また、燃料一トンあたりから取り出される全エネルギー量は、軽水炉では、二五、〇〇〇
ないし三〇、〇〇〇メガワツト日であるのに対し、高速増殖炉では、多くて一〇〇、〇〇
〇メガワツト日、平均八〇、〇〇〇メガワツト日と、三ないし四倍の大きさである。
ここに安全上多くの問題が存在する。
(二)安全設計審査基準
高速増殖炉に対し、原子力安全委員会が行う調査・審議は、
同委員会が昭和五四年一月二六日をもつて決定(昭和五七年四月五日付改正)した「原子
力安全委員会が行う原子力施設に係る安全審査等について」に示されている基本方針に従
い、また同委員会が昭和五五年一一月二八日付で決定し、昭和五六年七月二〇日付をもつ
て原子炉安全基準専門部へ指示した「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について(以」

「高速増殖炉の考え方について」という)に照らし、総合的に行うものとされている。
「高速増殖炉の考え方について」においては、燃料に関しては「燃料要素は、高温ナト、

ウム中で使用され、かつ、燃焼度が高いため、燃料被覆管の内圧によるクリープ効果及び
スエリング効果を考慮した設計が必要であること。核的熱的特性については、燃料集合体
の変形を考慮し、また、流路閉塞を防止する設計が必要であること」とされている。
この「高速増殖炉の考え方について」においては「発電用軽水型原子炉施設に関する安、

設計審査指針について」も参考にすべきであると述べられているが、その「指針」におい
ては「指針一四燃料設計」として、次の二点が記載されているにすぎない。、
、、、一燃料集合体は原子炉内における使用期間中を通じ他の炉心構造物との関係を含め
その健全性を失うことがなく、炉心の性能を十分に発揮できる設計であること
二燃料集合体は、運送及び取り扱い中に、燃料棒の変形等による過度の寸法変化を生じ
ない設計であること
この基準は、はたして基準というに値するか大いに疑問であるといわざるを得ないほど抽
象的かつ不明瞭であるが、安全基準はこれらしかない。そこで、一応これ等を安全基準と
みても、本件原子炉に使用される燃料体は以下述べるように右基準を充足していない。
(三)燃料ペレツトの健全性の欠如
第一に、燃料ペレツトのスエリングが問題となる。
プルトニウムやウランは、中性子を吸収して核分裂を起こすと核分裂生成物(FP)とな
るが、その中にはクリプトンやキセノン等のようにガス状のものがある。それらの影響で
ペレツトが膨脹することをスエリングという。ペレツトがスエリングを起こすと、ペレツ
トを取り囲んでいる被覆管と機械的相互作用を起こし、被覆管の応力腐蝕割れの一因とな
る。
第二に、燃料高温度が問題となる。
プルトニウム・ウラン混合酸化物の溶融点は、三〇%の二酸化プルトニウム混合酸化物の
場合には、
未照射燃料に対しては約二七四〇度Cであるが、燃焼開始後では溶融点は低下する。しか
し、どの程度低下するかは未知の点が多い。それに対して、燃料最高温度は、定格出力時
で約二三五〇度C、過出力時では約二六〇〇度Cとなつて、溶融点までの温度差は極めて
小さい。そのため後述するように、何等かの原因で冷却材の流れが減少して燃料温度が溶
融点を超えると、燃料が溶融して、流れ落ち(燃料スランピングという、後述する再臨)

を起こす危険性を強く持つている。
第三に、核分裂生成物(FP)ガスの放出が問題となる。核分裂によつて燃料内に発生し
たFPガスのうち不活性ガスであるクリプトン及びキセノンは、燃料母材であるプルトニ
、。、ウムやウランと反応せずに気泡の状態で燃料の結晶粒内に存在しているしかしながら
燃料の温度が高まると、燃料母材内での拡散が活発になるために、ガス粒子あるいはガス
気泡は互いに成長合体して燃料母材外に放出される。燃料外へ放出されたFPガスは、燃
料要素内のガス圧を高め、被覆管の外径増加をもたらすだけでなく、燃料-被覆管ギヤツ
プ内のガスの熱伝導率の低下を生ぜしめ、燃料温度の上昇をもたらす。高速増殖炉におい
ては、燃料が高温・高燃焼度で使用されるため、軽水炉とくらべてFPガスのインベント
リー(在庫量)は格段に大きくなり、危険性はより大きい。
(四)被覆管の健全性の欠如
運転の継続に伴つて、被覆管は中性子照射を受け、かつ種々の温度条件に曝されるので、
その健全性は極めて大きな問題となる。
高速増殖炉の炉心では、軽水炉と比較して中性子線の存在量がはるかに高くなる。仮に原
子炉を一年間運転し続けると、一平方センチメートルの断面を通り抜ける中性子の数は五
。。〇ミリグラムにも達する当然炉心の構造材の結晶はそれだけの数の中性子で揺すられる
その結果被覆管はスエリングを起こし、燃料要素の外径は増加し、長さも増大する。
また被覆管は、厚さ約〇・四七ミリメートルにすぎないものであるが、その外側の温度は
冷却材の温度(五五〇度C)に保たれるのに対して、その内側は最高二三〇〇度Cという
高温に達するから、燃料棒を取り巻く熱的条件は苛酷であり、危険性は大きい。
(五)炉心燃料要素(燃料ピン)の健全性の欠如
炉心では、冷却材であるナトリウムが下から上へ流れており、しかも定格出力時にあつて
は、
原子炉容器入口における温度と圧力がそれぞれ約三九七度C、約八kg/cm2Gである
のに対して、原子炉容器出口における温度と圧力はそれぞれ約五二九度C、約一kg/c
m2Gと、入口と出口では、温度は約一三二度C、圧力は約七kg/cm2Gも異なつて
いる。
一つの燃料集合体内部でも、ラツパ管に接する周辺部分と内側とでは流路面積の相違に
よつて相当の温度差がつき、炉心燃料要素の熱彎曲が発生し、さらに冷却材の流動圧がそ
の彎曲に複雑な影響を及ぼす。炉心燃料要素に彎曲が生じると、炉心燃料要素は互いに接
触するようになり、冷却材の流路が局所的に閉塞され、冷却材の局所的な温度上昇が起こ
り、燃料の局所溶融の恐れが出てくる。また、炉心燃料要素はラツパ管にも接触して反力
を受けるが、その力は照射が進むにつれてより増加し、損傷の危険が大きくなる。
燃料が溶融すると、冷却材と相互作用を起こし、炉心燃料要素の破損が他の炉心燃料要素
に伝播する恐れも極めて大きい。
(六)燃料集合体の健全性の欠如
燃料集合体は、運転継続中に、炉心全域における温度分布や中性子の量の違い等から、集
団で彎曲する。高速増殖炉では、冷却材の流量調節を行つてはいるが、軽水炉とくらべて
温度上昇が格段に大きく、炉心に温度勾配が生じるのは免れない。そのために炉心燃料体
は通常上部が炉心半径方向外向きに集団彎曲する。つまり、チユーリツプの花が開くよう
に上部が開くのである。燃料集合体がゆらゆら動くと出力の制御が困難となるので、燃料
集合体が動くのを防止する目的で、樽のたがを締めるように、炉心の周囲を拘束する。拘
束すると、炉心集合体は、その中心付近で内側にのめりこむ形となり、後述するような正
の反応度が投入される。
燃料集合体の炉内彎曲は、このような集団彎曲の外にも、燃料要素、スペーサ、燃料支持
構造物、ラツパ管等、製作時における微妙な差異が原因となつて生じる局所的な彎曲もあ
る。
これらの集団的あるいは局所的な彎曲が、拘束機構との兼ね合いによつて燃料集合体を突
然ぐにやりと曲げ、急激に正の反応度を投入するおそれも極めて強い。現実に、アメリカ
では、この種の事故が起こつたのである。
4結論
以上述べたように、燃料体は、高温ナトリウム中に使用され、かつ燃焼度が高いものであ
るが、後述するようにナトリウム工学は未だ確立したものではなく、
多くの未知の危険性を含んでいる。現象自体が未知である以上、当然対策は立てられてい
ないのであり「高速増殖炉の考え方について」等の要件を満たす安全な設計となつてい、

とは、とても言えない。
二、冷却材-ナトリウムの危険性
1はじめに
高速増殖炉の冷却材としては、安価なうえに高温で効率のよい熱媒体であり、しかも、中
性子減速効果の少ない物質ということで、液体ナトリウムが用いられる「もんじゆ」で。
は、
冷却材のナトリウムは、一次系と二次系に分れている。一次系ナトリウムは、原子炉容器
人口で約三九七度Cであるが、燃焼する燃料の間を通つて加熱され、原子炉容器出口で約
五二九度Cとなり、炉心で発生した熱を熱交換器に導き、ここで二次系のナトリウムとの
間で熱交換を行う。熱を受け取つた二次系のナトリウムは、さらに蒸気発生器を通じて水
と熱交換を行い、蒸気を発生させる。この蒸気がタービンを回し、発電を行う。
しかし、使用されるナトリウムの量は、極めて多い。そのうえ、ナトリウムは以下に述べ
るように活性の大きな物質であり取り扱いが困難であつて、これまで大量の取り扱い経験
がほとんど無い、いわば未知の分野であつて、内包する危険性は大きいものといわざるを
得ない。
2安全設計審査基準について
「高速増殖炉の考え方について」においては、冷却材としてナトリウムを用いることに関
する安全設計として次のように述べられている。
(一)ナトリウムについて
原子炉冷却材として使用されるナトリウムは、沸点が高く、そのため低圧でサブクール度
が大きい冷却系の設計が可能であり、熱伝達性が優れているが、ナトリウムが化学的に活
性であるため、ナトリウム火災対策及びナトリウム液面上のカバーガスの不活性化等を考
慮した設計が必要であること、また、ナトリウムと材料の共存性(腐蝕や質量移行)につ
いて配慮し、ナトリウムの凝固、ナトリウムの不透明性、及びナトリウムの放射化に関す
る配慮が必要であること。
(二)ナトリウムボイドについて
ナトリウムボイド反応度の影響を考慮して、ナトリウムの沸騰とカバーガス巻き込みの抑
制を図ることが必要であること。
(三)高温構造について
高温ナトリウム下で使用する機器の設計にあたつては、構造材料のクリープ特性に対する
考慮が必要であること。また、オーステナイト系ステンレス鋼が使用される場合には、
オーステナイト系ステンレス鋼の熱膨脹率がフエライト系鋼等他の材料に比べて大きく、
また、その熱容量が小さいので構造材料の温度変化及び変化率も大きく、したがつて、定
常的及び過度的熱応力の対策が必要であること。
ここでは、高温ナトリウムを冷却材として使用することに対する問題点が一応指摘されて
。、、、いるしかし後述するように大量の取り扱い経験がほとんどないナトリウムに関して
右基準を充足しているとは全くいえない。
3一次冷却系
(一)一次冷却系とは
一次冷却系は、炉心で加熱された一次冷却材を循環し、一次主冷却系中間熱交換器で二
次冷却系と熱交換させる機能を有している。燃料を燃焼させて得た熱量をとりだす機関で
あり、非常に重要な設備である。
このナトリウムは、強い放射能を帯びており、外部に漏洩されると、作業員への被曝はも
、。、、ちろんのこと周辺住民に対し重大な影響を与える以下この一次冷却系の構造を論じ
その後に二次冷却系とあわせて、前記基準を充足していないことをみていくこととする。
(二)主要設備
(1)原子炉容器
原子炉容器は、円筒たて型容器であり、その内径は、約七・一メートルで、全高約一七・
八メートル、胴部肉厚は約五〇ミリメートル、主要材料はステンレス鋼である。胴部下部
には、三個の一次冷却材入口ノズルが、胴部上部には、三個の一次冷却材出口ノズルが取
り付けられている。原子炉容器内のナトリウム液位は、通常運転時には所定の範囲に維持
されている。
ナトリウム液面を不活性ガスの一種であるアルゴンガスで覆つているのは、後述するよう
にナトリウムは極めて活性が強く、空気とも反応して燃えだすので、空気との接触を絶つ
ためであるとされる。
(2)遮蔽プラグ
遮蔽プラグは、最大径九・五メートルの固定プラグ、最大径約五・九メートル、厚さ約二

八メートルの回転プラグ等のステンレス鋼炭素鋼製のプラグであり、炉心からの放射線と
熱の遮蔽を行うとともに、燃料交換時には回転プラグの回転と燃料交換装置の回転とによ
り、燃料交換装置グリツパを炉心並びに炉内ラツクの任意の位置及び炉内中継装置の位置
に移動させる機能を有しているとされる。
(3)一次主冷却系循環ポンプ
ナトリウムを循環させるための循環ポンプを各一次主冷却系ループにそれぞれ一基ずつ設
ける。
次に述べる一次主冷却系中間熱交換器からポンプに流れてきたナトリウムは、加圧され、
ノズルより流出し配管に戻る。
ナトリウムの粘性は、軽水(三一五度C)の約二倍であるので、同一出力の原子炉におい
ては、冷却材を回転させるためのポンプの動力は、高速増殖炉の方が大きい。つまり、ポ
ンプにかなりの負担がかかるということである。
(4)一次主冷却系中間熱交換器
一次主冷却系中間熱交換器は、一次冷却材の熱を二次冷却材に与えるためのたて型無液
面平行向流型の熱交換器である。一次冷却材は、胴部側面の一次側ナトリウム入口ノズル
から流入し、伝熱管の間を降下し、下部に設けられている一次側ナトリウム出口ノズルか
ら流出する。二次冷却材は、上部中央二次側ナトリウム入口ノズルから下降管を通つて下
部プレナムに入り、直管型伝熱管内を上昇し、上部プレナムを通つて上端の二次側ナトリ
ウム出口ノズルから流出する。
(5)一次主冷却系配管
一次主冷却系配管は、原子炉容器、一次主冷却系中間熱交換器及び一次主冷却系循環ポ
ンプ相互を連絡し、循環回路を形成している。原子炉容器から一次主冷却系循環ポンプま
での配管の外径は約〇・八一メートル、肉厚は約一一ミリメートルであり、一次主冷却系
循環ポンプから原子炉容器までの配管の外径は約〇・六一メートル、肉厚は約九・五ミリ
メートルである。温度上昇部分でのナトリウムの流速は毎秒約四メートルである。
(6)ガードベツセル
ガードベツセルは、一次主冷却系配管からナトリウムが漏洩した場合、炉心崩壊熱除去に
必要な最低ナトリウム液位を確立するという目的で、原子炉容器、一次主冷却系循環ポン
プ、一次主冷却系中間熱交換器に設けられるものであるとされる。しかし、ナトリウムが
沸騰して原子炉容器から漏洩した場合には、ガードベツセルだけではナトリウムを保持で
きないのであり、安全保護装置としては極めて不備である。
(7)予熱・保温設備
ナトリウムは、後述するように融点が約九八度Cであつて、それ以下では凍結してしまう
ので、凍結防止のため、ナトリウムを収納する機器、配管の外面に電気ヒーター及び保温
材を設置する。水を冷却材とする軽水炉では考えられないような余分な装置であつて、取
り扱いの困難なナトリウムを冷却材として使用することから生ずるものである。
4二次冷却系
(一)二次冷却系とは
二次冷却系とは、
一次主冷却系中間熱交換器で加熱された二次冷却材を循環し、蒸気発生器伝熱管内で水・
蒸気と熱交換する機関である。
蒸気発生器は、軽水炉においても故障が多く、後述するナトリウム・水反応による蒸気発
生器破損の可能性は極めて大きい。
ここでは、二次冷却系の主要機器について述べ、基準を充足していないことをみる。
(二)主要設備
(1)二次主冷却系循環ポンプ
一次主冷却系中間熱交換器で加熱された二次冷却材であるナトリウムを過熱器の胴側に
入れて、管側の蒸気を加熱し、さらに蒸気発生器の胴側に入れて、管側の水・蒸気を加熱
するように循環させる装置である。
(2)蒸気発生器
蒸気発生器は、ナトリウムの熱を水・蒸気に伝える部分であり、高速増殖炉においては、
大きな問題をはらんだ機器の一つである。
蒸気発生器は、ヘリカルコイル型伝熱管を内蔵した熱交換器である。加熱体であるナトリ
ウムは、上部胴体のナトリウム入口ノズルから導入され、伝熱管の間を下降し、下端のナ
。、、トリウム出口ノズルから流出する被加熱体である水は給水口ノズルから導入された後
、、下降管内を降下しその後方向を変えヘリカルコイル型伝熱管内を上昇しながら加熱され
蒸気となつて蒸気出口ノズルに達する。ところで蒸気発生器は、各ループ毎に一基、合計
三基備えられる。胴部は、低合金鋼(クロムモリブデン鋼)でつくられ、外径約三メート
ル、全高約一三メートルである。伝熱管は、低合金鋼でつくられ、その外径は約三一・八
ミリメートル、肉厚約三・八ミリメートルで、その本数は約一五〇本である。
、、、、ナトリウム側は定格出力時の温度は入口で約四六九度C出口で約三二五度Cであり
最高使用圧力は五kg/cm2Gであるのに対し、水・蒸気側は、定格出力時の温度は、
給水入口で約二四〇度C、蒸気出口で約三六九度Cであり、最高使用圧力は一六五kg/
cm2Gと、その圧力はナトリウム側の三三倍である。水・蒸気側の圧力の高さや、伝熱
管の肉厚の薄さ、ナトリウムの腐蝕作用等により後述する伝熱管破損の危険性は極めて大
きく、破損すれば、後述するナトリウム・水反応によつて蒸気発生器自体が破損し、環境
中にナトリウム、カセイソーダ、酸化ナトリウム等が爆発的に放出される可能性はおおき
い。
(3)過熱器
過熱器の基本構造は、蒸気発生器とほぼ同しであるが、胴体及び伝熱管の材料はステンレ
ス鋼であり、
伝熱管の肉厚は約三・五ミリメートルである。過熱器の場合は、被加熱体は蒸気発生器か
ら出てきた蒸気である。過熱器内に導入された蒸気は、二次ナトリウムによつて更に加熱
され、過熱蒸気になつてタービンに送られる。ナトリウム側は、定格出力時の温度は、入
口で約五〇五度C、出口で約四六九度Cであり、最高使用圧力は五kg/cm2Gである
のに対し、蒸気側は、定格出力時の温度は、入口で約三六七度C、出口で約四八七度Cで
、、。あり最高使用圧力は一五四kg/cm2Gとその圧力はナトリウム側の三一倍である
この危険性は、蒸気発生器と同じである。
5ナトリウムの危険性
(一)ナトリウム・水反応
従来の軽水炉の運転経験から、一般に蒸気発生器は寿命中に数回の水リークが発生するも
のと考えられている。しかし、ナトリウムを冷却材とする高速増殖炉にあつては、この結
果ナトリウム・水反応が発生し、隣接の伝熱管を次々に破損させる恐れがある。
ナトリウム・水反応は、科学的には次のように説明される。三三〇度C以下では
2Na+2H2O→2NaOH+H2
の反応によりカセイソーダと水素を生成し、三三〇度C以上では、
2Na+2NaOH→2Na2O+H2
の反応により酸化ナトリウムを生成する。これらの反応は爆発的反応であり、高い圧力を
発生すると同時に、構造材を腐蝕させる性質を有するカセイソーダや酸化ナトリウムを発
生する。
伝熱管からの微小な水の漏洩が発生した場合(小リークという)には、ジエツト状の反応
領域を形成し、その圧力によつて周囲の伝熱管を損傷させる。発生圧力が、隣接する伝熱
管を機械的に損傷するほどでなくても、噴き出した水、あるいは蒸気を隣接伝熱管の表面
に吹き付けて腐蝕させると同時に、カセイソーダや酸化ナトリウムが更にその腐蝕を強め
てしまう。応力腐蝕は、通常二種類にわけられ、一は、塩素イオンや溶存酸素等に関連し
たいわゆるクロライド応力腐蝕であり、他は、カセイソーダ等によるアルカリ液によるア
ルカリ腐蝕である。ナトリウム・水反応によつてカセイソーダが発生すると、後者が格段
に大きくなる。これによつて破損が伝播する危険が顕著である。大リークの場合は、大量
の水素ガスが短時間のうちに発生するので、蒸気発生器本体及び二次冷却系全体に大きな
応力をかけることになる。
伝熱管は、液体ナトリウムの流れの中に浸され、しかも、
肉厚約三・八ミリメートルを隔ててその内部を高温・高圧の水、あるいは蒸気が流れてい
るため、材料の環境条件としては極めて厳しい。そこで、一本が破損ないし減耗している
場合には、他の多くの伝熱管も破損寸前の状況にあると考えられる。
破損の原因としては、機器が多数の溶接箇所を持つていること(軽水炉等での蒸気発生器
の破損の多くはここに発生している、蒸気流による減肉、化学的腐蝕、機械的摩耗、熱)

力や流力振動による疲労などが考えられているが、軽水炉には無い新たな問題としては、
後述する脱炭による強度劣化、質量移行による強度劣化が存在する。実際には、これらが
競合して破損の原因となる。
たしかに高速増殖炉の設計においては、毎秒数グラムないし数キログラムの水の漏洩によ
り発生する爆発力に対しては、他の伝熱管が健全であるように努力されており、想定破損
本数は高々四本である。
ところが、内径約二四・二ミリメートルの伝熱管がギロチン破断して一三〇kg/cm2
Gの圧力の水がナトリウム中に噴出すると、その水の噴出量は破断した両端から毎秒約四
〇キログラム程度と見積ることができる。四本のギロチン破断では、毎秒約一六〇キログ
ラムとなる。これら毎秒数十キログラムを上回る水の噴出は、現在の安全設計の対象とは
されていない。現在の安全設計の対象とされていないものとしては、さらに、前述した反
応生成物であるカセイソーダ(水酸化ナトリウム)や酸化ナトリウムの悪影響(アルカリ
腐蝕)がある。これらを考慮すると、伝熱管は全数破断し、ナトリウム・水反応によつて
爆発的反応が進行し、蒸気発生器は損壊し、室内、あるいは環境へカセイソーダ、酸化ナ
トリウム、ナトリウム蒸気等が放出される危険性は非常に大きいが、設計上は全く考慮さ
れていないのである。
(二)ナトリウムの燃焼
一次系のナトリウム又は二次系のナトリウムが配管破断事故を起こして漏洩すると、空
気と接触して燃焼し、時には爆発的反応を生じる。例えば、縦、横、高さが一〇メートル
の学校の教室程度の部屋に一〇トンの高温ナトリウム(五〇〇度C)が漏洩すると、ナト
リウムの燃焼により室温は数時間内に四〇〇度Cに達する。当然壁もボロボロになり、厚
さ一メートルの壁は崩壊し、計測ケーブルは全て使用不能になるだけでなく、ケーブルの
燃焼は次々と他の系統に広がる恐れがある。電気系統は火災に極めて弱く、
一〇〇度C以上の高温では、大多数の電気系統は機能しなくなる。しかも、ナトリウム漏
洩による火災では、水を使用することは厳禁である。ところで、一〇トンものナトリウム
の漏洩は、決してありえないことではない。一次系には数千トンのナトリウムがあり、二
次系にも同様の程度のナトリウムがあることを考えれば、一〇トンというのは僅か一%に
すぎない。この程度の漏洩は、軽水炉では日常茶飯事である。
(三)ナトリウムの放射化
高速増殖炉の冷却材であるナトリウムは、中性子によつてナトリウム二四と、ナトリウム
二二に放射化される。原子炉の運転中は、ナトリウム二四がナトリウム一グラムあたり約
三万マイクロキユリー、ナトリウム二二が約二マイクロキユリーであるから、大型の高速
増殖炉ではナトリウム二四の生或量は二〇〇〇から三〇〇〇キユリーにも達する。これら
により一次系の配管や機器の表面放射能は一時間あたり一〇万レムにも達する。運転を停
止すれば、ナトリウム二四は半減期が短いので急速に減少し、一月もたつと無視できる程
度になるが、ナトリウム二二は半減期が長いのでほとんど減少せず、半年たつても一次系
の配管や機器の表面では一時間あたり一〇レム程度の放射能が残り、そのためにナトリウ
ムの事後処理を極めて困難にしている。
(四)ナトリウムによる機器の腐蝕作用等
ステンレス鋼は、高速増殖炉の一次・二次ナトリウム冷却系の機器・配管に使用される主
要な構造材である。高速増殖炉の稼動寿命は二〇年から三〇年と考えられているから、そ
の構造材は、高温ナトリウム環境下で長時間の健全性が要求され、しかも十分な信頼性が
。、、、保たれなくてはならないナトリウム浸漬時間ナトリウム温度ナトリウム中酸素温度
ナトリウム流速等ナトリウム側要因と鋼材の腐蝕及び機械的性質との関係が重大な問題と
なる。
(1)腐蝕・質量移行
現在種々の実験が行われており、液体ナトリウム中の質量移行反応が無視できない問題と
なつている。これは、ナトリウム温度上昇側では、重量減少すなわち腐蝕が認められ、温
度降下側では、重量増加つまり腐蝕生成物の沈着が認められるという現象である。腐蝕の
初期においては、クロム、ニツケル、マンガン等の合金元素が表面からナトリウム中に選
択的に溶出し、腐蝕の後期においては、主たる元素である鉄が全面均一に腐蝕していくと
考えられている。
この量は、
ナトリウム中の酸素濃度が大きければ大きいほど多くなるので、ナトリウム中の酸素濃度
をいかに減少させるかが大きな問題となつている。
(2)脱炭による強度低下
また、鋼中の炭素が次第にナトリウム中に溶解し、この脱炭反応によつて、一般に引つ張
り強度、降伏点は下がる。中性子照射による強度低下とあいまつて懸念されている。
(3)クリープ特性
クリープとは、一定応力のもとで、物体の塑性変形が時間とともに次第に増加する現象を
いう。材料は、高温にさらされるとクリープ特性が顕著になるが、その程度は温度が高け
。、、。れば高いほど大きいそしてクリープ破断に至る時間は温度とともに急激に低下する
また、高温のナトリウム中に長時間浸漬された鋼は、クリープ破断寿命を縮めることが知
られている。
しかし実験では、ナトリウム浸漬時間もせいぜい数年程度であつて、二、三〇年も運転し
た場合の構造材の腐蝕については何の知見も得られていない。また、放射化したナトリウ
ムや、他の反応生成物の放射能による影響は調べられていない。
(4)疲れ
低サイクルの繰り返し応力を加えると、材料に疲れにより破壊に至る。
ナトリウムに浸漬したものは、未浸漬のものより寿命が短く、また炭素不純物は寿命が短
いことが知られている。
(5)クリープ疲れ
疲れ現象を与える歪の保持時間を長くすると、クリープが相乗され、寿命が著しく短くな
ることが知られている。
(6)自己融着
、、。同一の材料がナトリウム中に接触して置かれると互いに溶けあい付着する現象である
炉心において、隣接する燃料集合体のラツパ管の接触面、燃料要素のスペースワイヤ同士
等で自己融着が起こり、冷却材が流れにくくなつて、燃料溶融が起こる可能性は否定でき
ない。以上を総合すれば、様々な原因が競合した冷却系機器の破損の可能性は大きく、ナ
トリウム漏洩はおろか配管破断事故が起こる可能性も否定できない。
(五)ナトリウムの凝固
、、ナトリウムは九八度C以下で凝固するため巨大で複雑や形状をしている機器にあつては
局部的にナトリウムが凝固して回転部分が固まり、無理に回そうとすれば破損する恐れが
ある。
また、ナトリウムの上部をガスが覆つている場合にガス層の低温部分に局部的にナトリウ
、、。ム化合物の形態となつて凝固し機器回転部の固着メツシユの目づまり等を引き起こす
(六)不透明による作業の困難化
ナトリウムは固体では銀白色であり、液体でも不透明である。しかも、空気と触れれば前
述したように激しく反応すろので空気とは接触させられない。そこで、ナトリウムを保有
した機器の蓋を開けることはできず、完全な手さぐり状態で作業することを強いられる。
目視が効かないということは、軽水炉の水にはなかつた新しい問題であり、設計を困難に
している。
(七)突発的沸騰による反応度の急激な挿入
ナトリウムは、軽水(三一五度C)に比べて比熱は約五分の一であるが、熱伝導率は一〇
〇倍以上である。一グラムのナトリウムが液体から気体になるのに要する潜熱は軽水(三
一五度Cの約三倍であるが系の圧力が低いためナトリウム蒸気密度は非常に小さく蒸)、(
気の体積は非常に大きく、かつ液側からの熱伝導率も良好なため、ナトリウム蒸気塊の)

長速度は極めて大きくなる。また、沸点以上に加熱したナトリウムが何等かの原因で突発
的に沸騰するおそれも大きい。ナトリウムが沸騰すると、冷却性能が低下するばかりか、
後述するボイド反応度が急激に挿入され、運転制御上非常に重要な問題が生じるが、ナト
リウム沸騰のメカニズムは複雑で未解明な部分が多く、とても安全とは言いがたい状況に
ある。
6結論
以上のように、冷却材としてナトリウムを用いることによつて生じる危険性は、極めて大
きいものである。したがつて、前述した基準が充足されているとは言いがたく、原子炉等
規制法二四条一項四号の要件を充足していないことも明らかである。
三、炉心の動特性
1はじめに
原子炉は、本来、臨界、つまり発生する中性子と核分裂や吸収、漏れだしなどによつて失
、。われる中性子の数とが釣り合つて定常的な状態で熱を発生し電気を発生する機械である
、、、、、しかし実際には原子炉の起動・停止も含めてさまざまな乱れによつて中性子の数
ひいては原子炉の熱出力電気出力に変化が生じ、定常状態からはずれる。このような過渡
的状態での原子炉の振るまいを原子炉の動特性という。原子炉を安全に運転するには、こ
の動特性に注意し、過渡的な応答を適宜制御しなければならないが、高速増殖炉において
は、次に述べる「正の反応度係数「即発臨界「再臨界」など、軽水炉と比べて不安定」」

炉心特性が存在し、制御が著しく困難で、暴走の可能性を強く持つているのである。
2安全設計審査基準について
「高速増殖炉の考え方について」においては、この動特性に関しては次のように定められ
ている。
(一)炉心
液体金属冷却高速増殖炉(LMFBR)の炉心は、高速中性子を利用し、増殖を目的とし
たものであつて、炉心の中性子東密度、出力密度、及び燃料燃焼度が高く、また、このた
め材料の受ける放射線照射量が大きいことを考慮した設計が必要であること。
反応度の観点からは、炉心の余剰反応度及び燃焼に伴う反応度変化は小さいが、ナトリウ
ムボイド反応度が炉心中心領域で正となりうることを配慮した設計が必要であること
(二)ナトリウムボイド
ナトリウムボイド反応度の影響を考慮して、ナトリウムの沸騰とカバーガス巻き込みの制
御を図ることが必要であること。
「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」においては、高速増殖炉
と異なり、この動特性に関しては、次のように定められている。
「指針一五原子炉の固有な特性原子炉の炉心及びそれに関連する原子炉冷却系は、すべ
ての運転範囲で急速な固有の負の反応度フイードバツク特性を有する設計であること」。
高速増殖炉においては、冷却材にナトリウムを使用する他なく、それによつて正の反応度
フイードバツク特性を有することを、審査基準自身認めてはいるが「もんじゆ」が「ナ、

」、リウムボイド反応度が炉心中心領域で正となりうることに配慮した設計であるのか否か
以下に検討する。
3反応度、反応度係数について
(一)増倍率、実効増倍率、臨界、臨界超過、臨界未満とは
まず、増倍率を「ある世代で起こつた核分裂の数を一世代前で起つた核分裂の数で割つ、

もの」と定義する。
現実の原子炉では、減速や拡散の過程において中性子が漏れていくから、それを考慮して
増倍率を定義する。それを実効増倍率という。
実効増倍率が一より大きいときは、核分裂は世代とともに増倍し、連鎖反応は発散する。
この場合、臨界超過の状態という。
反対に、一より小さければ、連鎖反応は小さくなり、ついには停止してしまう。これを臨
界未満という。したがつて、連鎖反応を一定の割合で起こし続けるには、実効増倍率を一
にしなければならない。このとき原子炉は臨界状態にあるという。
(二)反応度、反応度係数とは
原子炉が臨界からずれたとき、そのずれを表わす尺度として「反応度」を次のように定、

する。
反応度=(実効増倍率マイナス一)/(実効増倍率)つまり、実効増倍率の一からのずれ
、。を実効増倍率で割つたものであり臨界状態からどの程度ずれているかを示すものである
ところで、原子炉の温度が上昇したり、冷却材中にナトリウムボイドが発生する等、炉心
の状態が変化すると、その結果、原子炉の反応度が変化する。原子炉の状態の変化と反応
度変化との関係を示す量として、状態量の単位の変化に対する反応度の変化の割合を反応
度係数という。たとえば、温度上昇一度Cあたりの反応度の変化を「反応度の温度係数」
というのである。
安全性の見地からは、反応度の温度係数は負である必要がある。つまり、何等かの原因で
出力が増大し、温度上昇が起こつたとき、温度係数が負であれば、フイードバツクがかか
、。、つて反応度を減少させる方向に作用し原子炉出力が減少して定常状態にもどるしかし
逆に反応度の温度係数が正であれば、温度の上昇とともに出力は増大し、制御が著しく困
難になり、暴走につながるものである。
たいていの原子炉にあつては、中性子の吸収材である制御棒を炉心に出し入れすることに
よつて、実効増倍率ひいては反応度の変化をもたらす。制御棒を動かして原子炉を起動あ
るいは停止させたりする場合が最も代表的である。しかし、稼動中の原子炉においては、
臨界状態をもたらしている炉心の大きさ、形状、燃料棒の配置等が、反応度が最も大きい
状態であるように設計されていることが望ましい。つまり、それから少しでもずれたとき
に、反応度がマイナスとなり、ずれを引き戻す方向に働くような設計になつていることが
望ましいのである。
通常の軽水炉では、その設計は可能である。それが「発電用軽水型原子炉施設に関する、

全設計審査指針について」に述べられていることがらである。
しかし、高速増殖炉では、そのように設計できていない。以下に、どこに問題が存在する
か、詳述する。
(三)ボイド反応度
ボイドとは、真空・空間の意味である。炉心内で冷却材として使用されているナトリウム
が沸騰し、泡を生じると、その気泡をナトリウムボイドという。原子炉においては、熱出
力、圧力、冷却材の流量・温度などが変化すると、それに伴つて炉心内の気泡量が変化す
る。気泡量が増加すると、炉心から漏れ出る中性子の量が増加するので、反応は少しは減
少する。しかし、
、。それ以上に液体のナトリウムが無くなつた分だけ減速効果が低下して反応を増加させる
このように、気泡量の変化に伴う反応度の変化率をボイド係数という。
ボイド係数は、原子炉の安定性や安全性に関係した重要な量であり、冷却材の種類、燃料
体の種類、冷却材対燃料体積比、炉心の大きさ、炉心内気泡量等により大きく変わるが、
運転状態では、適度にマイナスの値をとるように設計しなくてはならない。
軽水炉では、ボイド係数はマイナスの値をとる。つまり、軽水炉では、核分裂で生まれた
高速中性子を減速させて熱中性子とし、その熱エネルギー領域で核分裂を起こさせて連鎖
反応を維持させる。熱中性子の方が、高速中性子よりも、核分裂の確率が一〇〇倍ほど大
きいからである。軽水炉では、冷却材の水(軽水)は、冷却材であるとともに中性子の減
速材となつている。そこで、軽水に気泡が発生すると、中性子の減速効果が落ち、熱中性
子が減少し、核分裂が減る。ボイド係数はマイナスの値を持つ。核分裂が減れば、出力も
減り温度も下がり、原子炉は再び安定な状態に戻る。
ところが高速増殖炉では、その名のとおり、高速中性子を使用して核分裂を起こさせるの
で、ナトリウム中に気泡が発生すれば中性子は減速されず、かえつて核分裂の確率を増加
させるのである。ここに高速増殖炉の制御の困難が存する。
正のボイド係数を押えるために、ひと頃は、炉心の形状を極端に変形して中性子が漏洩し
やすい形にしておき、ナトリウム沸騰が生した際には中性子をいち早く漏洩させて、炉心
におけるボイド反応度を低下させる案が提唱されていた。パンケーキ型(偏平型、アニ)

ラー型(ドーナツ型、モジユラー型(複合炉心型)等がそれである。要するに、体積に)

較して表面積を大きくし、中性子を容易に漏れさせる工夫である。しかし、これらの工夫
は、経済上成り立ちにくいという理由で排除された。
安全性の面からは、正のボイド反応度に対する対策は必要である。燃料内に酸化ベリリウ
ム等の減速材を添加することによつて、後述するドツプラー係数の増大を図る試みもあつ
たが、結局は、経済的に見合わないとの理由で排除された。
「もんじゆ」においては、炉心燃料領域形状は円筒型であつて、有効高さは約〇・九三メ
ートル、等価直径は約一・八メートルである。このような大型の炉心においては、ポイド
反応度係数は正になり、制御は極めて困難だが、
その詳しい知見はなお得られていない。
(四)ドツプラー係数
核燃料の温度が上昇すると、たとえばウラン二三八の中性子に対する共鳴吸収の有効幅が
増し、このため共鳴を免れる確率が減少して反応度が小さくなる現象をドツプラー効果と
いい、温度一度Cあたりの反応度をドツプラー係数という。これは負の温度係数を持つ。
(五)構造物の膨脹や変形、燃料集合体の変形による効果
温度上昇の結果、構造物が膨脹・変形、あるいは燃料集合体の変形が生じるが、この結果
が反応度にいかに影響するかも重要である。これらの現象による反応度へのフイードバツ
クは、通常、原子炉の反応度上昇に伴い、即発的には作用しないが、高速増殖炉の事故時
の動特性に大きな影響を持つ場合がある。しかし、構造が大型になり、かつ複雑化してく
ると、これらの値がどの程度になるかは、まだ判明していない。
(六)その他の効果
、。、、その他燃料の膨脹による効果等が考えられている反応度係数はこれらの総和であり
極めて複雑な様相を呈している。稼働実績がほとんど存在しない高速増殖炉のこれらの振
るまいは、未知の分野であり、原子炉等規制法二四条一項四号に定められた「災害の防止
上支障がない」との要件は到底満たしていないのである。
4即発臨界
ところで、原子炉内の中性子には、即発中性子と遅発中性子の二種類がある。即発中性子
とは、核分裂の際すぐに発生する中性子のことであり、遅発中性子とは、核分裂生成物が
生成した後でその原子核の崩壊によつて発生する中性子のことである。即発中性子の原子
炉内の寿命は、通常の軽水炉においては、一万分の一秒程度と極めて短く、即発中性子だ
けだと原子炉の制御は困難である。しかし、僅かな割合ではあるが、原子炉内には遅発中
、、。性子がありその寿命は〇・何秒から数十秒の長さを有するのでその制御は可能となる
、、。遅発中性子の存在が外乱に対する変化の激しさ等を緩和し制御を容易にするのである
ところが、高速増殖炉では、即発中性子の寿命は一〇〇万分の一秒以下と、軽水炉と比較
してはるかに小さく、また遅発中性子の割合もはるかに小さい。そのため外乱があつた場
合の中性子の変化、つまり熱出力電気出力の変化は極めて激しい。運転中の高速増殖炉の
炉心に何らかの原因で過剰な反応が加わり、余分な即発中性子が増加すると核分裂は急増
し、
たとえば一秒という短時間の間に中性子の数がねずみ算式に増加し、即発臨界に達し、臨
界超過となり、さらには原子炉が暴走する恐れは十分にある。
後述する出力暴走事故はこの現われであり、軽水炉事故にはない、恐るべき危険性を与え
るものである。
5再臨界
高速増殖炉においては、更に再臨界の問題がある。高速増殖炉の原料はプルトニウムの含
有量が多いため、一部の燃料が事故で溶融して塊となつたときなど、原子炉を停止させて
も、この塊が再び臨界となり、暴走する可能性をさけがたく持つている。後述する再臨界
事故がこれである。
要するに、高速増殖炉は、本質的に軽水炉に比べて不安定な炉心特性を有する原子炉であ
り、暴走の可能性を強く持つているのである。
四、中性子照射による機器の脆化
高速増殖炉の炉心では、軽水炉と比較して中性子線の存在量がはるかに高くなる。仮に原
子炉を一年間運転し続けると、一平方センチメートルの断面を通り抜ける中性子の数は五
〇ミリグラムにも達する。当然炉心の構造材の結晶はそれだけの数の中性子で揺すられる
こととなり、結晶材がそれだけの中性子照射に耐えられるかは極めて重要な問題となる。
最も厳しい条件に曝されるのが、燃料被覆材のステンレス鋼である。ステンレス鋼は中性
子照射の効果によつて一般に膨れるが、これによつて上下を固定された燃料集合体の管は
内側に曲げられることになる。その結果炉心の燃料密度は増加し、反応度は増す。
特に、燃料棒は外径六・五ミリメートルにすぎないものであるが、その外側の温度は冷却
材の温度(五五〇度C)に保たれるのに対して、中心部は最高二三〇〇度Cという高温に
達するから、燃料棒を取り巻く熱的条件は苛酷であり、危険性は大きい。
五、原子炉停止系の決定的不備
1原子炉停止系とは
原子炉が臨界状態に達した後、なんらかの原因で臨界状態を越えてしまつた場合に、原子
炉に負の反応度を挿入して、原子炉を臨界未満にして、しかもその状態を維持するための
機能を備えるように設計された設備を、原子炉停止系という。
炉心の変形、燃料溶融等といつた原子炉にとつては危機的状況を安全保護系が正しく検出
した場合には、直ちに、スクラム信号が出されて、原子炉を臨界未満にするよう、制御棒
が自動的に落とされて、出力は低下させられ、ついには停止させられる。
この制御棒が挿入されずに途中で引つかかつてしまつたりすると、原子炉は臨界超過状態
が進行し、ついには原子炉溶融に至るので、原子炉停止系は、極めて重要な設備である。
2安全設計審査基準について
「高速増殖炉の考え方について」においては、原子炉停止系に関しては次のように定めら
。「、、れている原子炉停止系は制御棒により構成されるが相互に独立な複数の系統により
原子炉を確実に停止できるよう信頼性の高い設計が必要であること」
原子炉停止系が、右基準を充足すべきことは、最低の条件である。もし、右基準を充足し
ていなければ、原子炉等規制法二四条一項四号にいう「災害の防止上支障が無いものであ
ること」という条件を満たしていないことになるからである。
そこで、以下に右基準が充足されているのか否か検討する。
3原子炉停止系は、制御棒のみである。
制御棒は、調整棒と後備炉停止棒とに分けられ、調整棒は、更に微調整棒と粗調整棒とに
分けられる。通常の起動・停止は、調整棒によつて行い、原子炉の緊急停止は、調整棒と
後備炉停止棒とで行うことになつている。
(一)調整棒
調整棒は、中性子吸収材をステンレス鋼製被覆管に納めた制御棒要素を一九本まとめて保
護管に入れたものである。
図5に示すように、微調整棒は三本、粗調整棒は一〇本である。
調整棒駆動機構は、炉心上部機構上面に据付られ、通常運転時には、駆動モーターの回転
により、調整棒の引き抜き・挿入を行い、緊急時には、保持用マグネツトが消磁して、調
整棒を落下させることになつている。
(二)後備炉停止棒
後備炉停止棒は、調整棒と同様、中性子吸収材を被覆管に包んだ制御棒要素一九本を、保
護管に入れたものである。全部で六本備えられている。
後備炉停止棒は、通常運転時には、全引き抜きの状態であるが、緊急時には、保持用マグ
ネツトを消磁して、落下される。
4独立二系統といえないこと
調整棒と後備炉停止棒は、たしかに駆動機構が異なつており、一応は独立の二系統といえ
ないこともない。しかしいずれも、蜂の巣状に並んだ炉心燃料集合体の中に挿入される点
、。、。、では差異が存在しない駆動機構自体が共通の原因で故障する可能性は大きいまた
燃料集合体の変形・溶融等により、調整棒が引つかかつて挿入されない場合には、後備炉
停止棒は、燃料集合体の隙間に挿入されるものであるから、調整棒と同様に、
、。、、途中で引つかかつて挿入されない恐れは十分にあるこうなると原子炉は停止されず
いわゆるスクラム失敗の状態になつてしまう。これでは、独立の二系統の停止系とは、と
ても言えないことになる。軽水炉においては、制御棒の外に、ボロン注入による原子炉停
止機構のような、著しく機構の異なる安全機能を有している。
「」、。もんじゆにおいては類似した調整棒と後備炉停止棒の二系統しか備えられていない
これは「スクラム」という原子炉の本質的な安全保護系について、複数の原因が重なつ、

事象・失敗に対する対策が、極めて不備であることを意味する。著しく機構の異なる二な
いし三系統の停止系を備えていない本件原子炉は「災害の防止上支障がないものである、
こと」という要件を備えていないことになる。
六、緊急炉心冷却装置の欠如
1「もんじゆ」では、軽水炉で考えられているような、配管の完全破断によつて、炉心
から冷却材が喪失するという一次冷却材喪失事故は、考慮されていない。
万一、一次冷却材喪失事故が起こつたとすると、この場合には、炉心の冷却が緊急かつ適
切に行われなくてはならない。そうでないと、燃料温度は急激に上昇し、燃料は溶融して
原子炉の底に落下し、再臨界を起こし、原子炉は溶融し、炉心内に蓄積されている大量の
放射能を環境中に放出し、深刻な人的・物的な損害を広い範囲にもたらすことになる。
2安全設計審査指針について
「高速増殖炉の考え方について」においては「原子炉冷却材パウンダリは、冷却材の漏、

またはパウンダリの破損の発生する可能性が極めて小さくなるよう考慮された設計である
とともに、冷却材の漏洩があつた場合、その漏洩を速やかに、かつ確実に検出できる設計
が必要であること。原子炉カバーガス等のパウンダリは、原子炉カバーガスの漏洩または
パウンダリの破損の発生する可能性が十分小さくなるように考慮された設計が必要である
こと」とされている。
ここで、原子炉冷却材パウンダリとは、事故時等には、原子炉から放射能が放散しないよ
うにする障壁を形成するものであるとされる。
、。、、では決して配管の破断事故は有りえないといえるのだろうかこの点に関しては第四
安全審査における事故評価の誤りの項で検討するように、一次冷却系配管完全破断の確率
は軽水炉と比較して低いとはいえないことがわかる。とすれば、
事故に備えて緊急炉心冷却装置はなければならない装置である「もんじゆ」に、一次冷。

材配管破断事故が発生した場合に恐るべき災害をもたらす炉心溶融事故を未然に防止する
ために設けられるべき緊急炉心冷却装置が存在しないことは、原子炉等規制法二四条一項
四号に言う「災害の防止上支障がないこと」なる要件を充足していないことになる。
これは、本件許可処分の無効をもたらすものである。
第二高速増殖炉の事故論
一、はじめに
世界各地の高速増殖炉で発生した事故は表12のとおりであるが、これを見るかぎり科学
の粋を集積した高速増殖炉も事故発生を防止しえない未完成な科学技術といえるばかり
か、
高速増殖炉の安全性を確認するうえで決して看過することのできない重大事故が世界各地
の増殖炉において多数発生していることを指摘しうる。右表のうち代表的な事故を四点ほ
どあげて詳論する。
二、EBR-Iの炉心溶融事故(アメリカ)
1炉の概要
EBR-I炉はアメリカ、アイダホ州においてアメリカ原子力委員会によつて計画推進さ
れ、一九五一年八月に臨界となつた実験炉である。
熱出力は一二〇〇KW、電気出力は一五〇KWであり、冷却材として金属ナトリウムを使
、、。用しており世界で初めて実用に供しうる程度の発電を行い多くの実証と実験を重ねた
2事故の概要
一九五五年一一月二九日、当時原子炉の反応度の異常の原因をつきとめるために冷却材
流速の影響を区別し、燃料温度上昇による原子炉反応度変化を測定する目的で、短時間冷
却材流量を止め炉心内の自然循環のみの場合の反応度係数を測定する実験が実行されてい
た。
この際、原子炉安全系を外して出力上昇を行つた時、出力が上がりすぎたので緊急停止用
の制御棒を指示したところ、技師が誤つて調整用制御棒を用いたため、炉心温度が急上昇
して一一〇〇度C以上に達した。そして、ステンレス鋼の被覆管のウラン二三五が溶けて
原子炉容器の底に落下して炉心に流入してくるナトリウムとリンがこの溶融ウランをコツ
プ状に固化し、このコツプの中にさらに大量のウランが流れ込み全体の炉心ウランの四〇
~五〇パーセントが溶けて炉心破壊したところでようやく制御棒が作動して事態の進行が
止つた。
3事故の影響
炉心ウランの溶融によつて炉内が放射性を帯びたため、約二年間の除染及び炉内修理改造
を余儀なくされ、
運転が再開されたのは一九五八年初頭のこととなつた。
4事故の原因
この事故は、前記のように技師が制御棒のボタンを押しまちがえた人為的ミスにより発生
したものである。
5事故の評価
この事故は、人為的ミスから高速増殖炉が暴走して核爆発をひき起こす可能性があること
を証明した。人為的ミスは、どのように努力しても完全に発生させないと保証することは
できないものである。
三、エンリコ・フエルミ実験炉の燃料溶融事故(アメリカ)
1炉の概要
エンリコ・フエルミ実験炉はアメリカ、ミシガン州ニユーポートにおいてデトロイト・エ
ジソン会社によつて一九五六年に建設され、一九六三年に臨界を迎えた。熱出力は二〇万
KW、電気出力は六万六〇〇〇KWであり、液体ナトリウム冷却である。
2事故の概要
一九六六年一〇月五日、第一蒸気発生器とサブアセンブリーのナトリウム出口温度測定
をしていたところ、原子炉容器下部のナトリウム整流板(ジルコニウム製)がはずれて、
冷却材ノズルの流路閉鎖が起こり、高濃縮ウラン燃料の一部が溶融した。
3事故の影響
この事故により管理当局は、人口二〇〇万人のデトロイト市とその周辺の住民に対し退避
勧告を出すことを検討していた。実際全ての地方警察署と防災当局に警報が発せられたと
いう。会社側は、このフエルミ一号炉の再開を計画していたが、一九七二年八月、原子力
エネルギー委員会が運転中止命令を出し、この発電所は永久に閉鎖された。
4事故の原因
事故は、前記のようにジルコニウム製のナトリウム整流板がはずれて冷却材ノズルの流路
が閉ざされたために燃料の溶融が発生したというものである。
5事故の評価
右事故で注目されるのは、燃料が溶けた効果で密度が落ち、反応度が低下したため溶融は
直ちに検出されず、反応度低下に惑わされた運転員をして低下した出力を持ち直すため制
御棒を引き抜くという作業をさせたことであつた。この事故で漏れ出た放射能が警報を鳴
らし続け、一〇分以上経過してからようやく原子炉が停止されたのであるが、たまたま低
出力運転であつたため大惨事には至らなかつた。
高速増殖炉におけるこのような事故は各燃料被覆管、冷却材間の激しい化学反応を発生さ
せ、化学爆発を経て本物の核爆発に至る可能性を表わしている。
四、
フエニツクス原子炉の蒸気発生器の事故(フランス)
1炉の概要
フエニツクスはフランスの高速増殖原型炉であり、一九六八年に建設され一九七三年八月
に臨界を迎えている。
電気出力は二五万KWであり、営業運転を一九七四年七月から行つている。
2事故の概要
営業運転を開始した直後の一九七四年九月と一九七五年三月に二次系熱交換器にナトリウ
ム漏洩が起き、炉を停止し故障ループを隔離しナトリウムを排出して修理を行つた。その
、。間他のループを用いて三分の二の出力で運転しながら一九七八年まで修理改造を行つた
最近では、一九八二年四月二九日、二次冷却系のナトリウムが三次冷却の水に漏洩し、水
素が発生したため炉を停止した。またその翌日三〇日、停止中の炉で二次系のナトリウム
が空気中に漏れて火災が発生し、この二つの事故のためにフエニツクスは二ケ月間停止し
た。その後三基の蒸気発生器のうち二基で運転し、一二月にようやく修理を終えて定格出
力に戻した矢先である同年一二月に第一蒸気発生器、八三年二月に第三蒸気発生器の再熱
器(配管)にナトリウム漏洩が発生、同年三月二〇日には第一蒸気発生器の加熱器にも漏
洩が発生した。四回目の故障のあと過熱器の当初のモデルは全て交換を余儀なくされた。
一九七四年からの設備利用率は五八・四パーセントであり、その経済性に疑問が残る。
五、BN-三五〇の事故(ソビエト)
右原子炉は、ソビエトの熱出力一〇〇万KW(電気出力一五万KW、他に二〇万KW相当
分は脱塩水製造)の原子炉であり、一九七二年初臨界を迎えた。
運転開始以来事故が続き、一九七三年五月及び九月、一九七五年二月と三回にわたり蒸気
発生器に漏洩を起こしている。
これらの事故は、蒸気発生器六基のうち三基に水漏れが発生したものであり、このうち一
回の事故では約一〇〇キログラムの水が流出して、冷却材の液体ナトリウムと激しい化学
反応を発生させた。ソビエト政府はこの重大な事故の詳細を明らかにしていないが、火災
が起こり白煙が立ちのぼつたとアメリカの人工衛星による観測結果が伝えていることか
ら、
火災が起こり何らかの爆発が発生したことはほぼ確実とみられている。
第三高速増殖炉以外の炉の事故論
一、高速増殖炉以外の炉の事故を検討する意味
原子力発電は、原子炉内の核分裂反応で発生する熱を利用して蒸気を作り、この蒸気でタ
ービンを回して発電する。
その意味で、原理的には高速増殖炉も軽水炉も全く同様といつていい。
ところで、軽水炉は高速増殖炉に比べて使用する核燃料の量も少なく、その制御も高速増
殖炉に比し簡単であると考えられている。
しかし、このような軽水炉にあつても、後に見るように、過去において多くの重大事故が
発生しており、それらの事故の個々の原因を検討すると、制御しやすいはずの軽水炉にお
いてさえ事故発生が不可避であることが判明する。そして、それらの事故原因が軽水炉に
特有のものではなく、高速増殖炉を含むすべての原子力発電に原理的構造的に共通するも
のであり、したがつて、過去における軽水炉等の事故とその及ぼした影響などを見ること
によつて「もんじゆ」の持つ事故発生の危険性を十分に知ることができる。以下では、こ
れら軽水炉等の事故例を検討する。
二、NRX炉・炉心溶融事故(カナダ一九五二年一二月一二日)
1NRX炉の概要
NRX炉は一九四七年、カナダのオンタリオ州チヨークリバーに、カナダ政府の原子力研
究センターによつて建設された。
出力は四万KW。燃料には天然ウランを使用し、減速材として重水、冷却材として軽水を
用いる試験研究炉で、当時、世界で最も優れた性能をもつ原子炉といわれていた。
2事故の概要
(一)事故が発生した一九五二年一二月一二日当時、原子炉は低出力運転中で、新しい
燃料棒と長時間燃焼させた後の燃料棒との核分裂連鎖反応を続ける能力の相違を調べる実
験を行つていた。
右同日一五時ころ、制御室には計画部長、物理研究員、保健物理学者、運転責任者、運転
員ら一〇数名が集まり、実験準備を完了していた。
(二)実験を開始しようとしたとき、原子炉の地下にいた運転助手が、誤つて四つのバ
ルブを開栓したため三本の制御棒が上昇し、これが事故のきつかけになつた。右のバルブ
は空気圧を安定に保つて制御棒の上昇を防ぐ機能を果しており、この機能が失われれば原
子炉は制御されずに出力暴走を起こすことになる。
バルブの開栓に気づいた運転責任者は、地下に降りてバルブを締め、これにより一定程度
、。、制御棒が下降したが途中でつかえが生じ完全には下降しなかつたそこで運転責任者は
制御室の運転貝に電話で「ボタン四番と三番を押せ」と命じるつもりで、誤つて「ボタ、

四番と一番を押せ」と命じ、運転員はこの命令の操作を実行した。
(三)同日一五時七分、
誤つて押されたボタン一番によつて制御棒が引き抜かれ、原子炉は臨界を超過した。この
間、原子炉の出力は二秒毎に倍の割合で上昇し、ボタンの誤操作から二〇秒後には一万K
Wを超過した。
(四)運転員が原子炉を制御できずに狼狽している時、制御室にいた物理学者が、減速
材の重水を放出して核分裂を止める以外に方法はないとの判断で、重水放出弁を開き、重
水放出の三〇秒後に出力は低下し、ゼロになつた。
(五)しかし、原子炉からは放射性物質を含む冷却材の軽水が噴出して原子炉建屋内の
空気汚染が始まり、また、大気中の放射能測定器が振り切れる事態となつた。このため、
緊急外出禁止の警報が発令された。更に、ボタン一番の誤操作から四分後には、四トンも
ある原子炉容器の巨大な蓋が爆発音とともに浮き上がり、容器上部から軽水が噴出し、放
射線警報装置が鳴り、スチーム・フアン付近の放射能測定器は、致死量の放射能を検出し
た。
(六)同日一五時四五分、建物の内外を問わず、原子力施設全域からの退去命令が出さ
れ、最少不可欠の運転要員のみが事態を傍観する中で、事故発生から数時間後、原子炉の
状態はようやく安定に向かつた。
3事故の影響
(一)ボタン一番の誤操作の後、運転員が手動で制御棒を下降させようとして失敗した
時点で、出力は二万KWを超えていたものと推定された。そして、出力が一・七万KWを
超えたあたりで燃料棒のいくつかで沸騰が起こり、前記のように軽水が噴出し、その一〇
~一五秒後には、出力は六万~九万KWに達したものと推定された。この結果、燃料棒が
溶融して被覆管が破損し、原子炉内部には水素爆発を起こした形跡も認められた。
(二)溶融・破損した燃料棒から放出される約一〇万キユリーの放射能は、四〇〇〇キ
ロリツトルの冷却材の軽水に含まれて原子炉建屋の地下に溢れ、これらの水の処理、施設
の汚染除去及び修復のために一四ケ月の歳月と一五〇万ドルの費用が費された。
4事故の原因
事故の直接的な原因は、前記のとおり、運転員の弁の誤操作にある。しかし、この誤操作
による事故発生を回避するための機構が機能ヒなかつたことも大きな原因となつた。機構
的欠陥のために制御棒が完全に下降しなかつたり、本来はインターロツクによつて上昇し
ないはずの制御棒が上昇するなどの事態が、事故拡大の大きな原因となつた。
5事故の評価
この事故は、
一つの事故が発生するとそれが次の事故に発展し、更にまた次の事故を生み出すという原
子炉事故の特徴を明らかにした。人為的なミスがもたらす結果も同様であり、しかも人為
的ミスは、誰もこれを起こさないと保証することはできない。そして、ミスの発生を予測
し、そのミスが事故に結びつかないようにする装置(例えば前記のインターロツク)自体
が機能しない場合のありうることもこの事故は明らかにした。
三、SL-1炉・臨界暴走事故(アメリカ一九六一年一月三日)
1SL-1炉の概要
SL-1炉は、アメリカ陸軍のレーダー基地に対する電力と熱の供給源として、一九五八
年にアイダホ州の国立原子炉試験場に建設された。
原子炉型式は、高濃縮ウラン(ウラン二三五を九一%含む)を燃料とする沸騰水型軽水炉
で、三〇〇〇KWの熱出力と二〇〇KWの電力、電力換算四〇〇KWの暖房用熱源がとり
出せるよう設計されていた。
2事故の概要
(一)原子炉は、一九六〇年一二月二七目から三〇日まで定期点検、測定器類の校正、
プラントの回収などが実施され、一九六三年一月三日早朝から点検補修の最終作業が実施
され、翌四日から運転再開の予定だつた。
(二)一九六一年一月三日午後四時から、三名の運転員が同一二時までの夜間勤務につ
き(昼間の勤務要員は約六〇名、これら運転員に対しては、原子炉の水位を復元させ、)

御棒を組み立ててプラグを取り付けること、及び翌朝からの運転再開に備え、制御棒駆動
モーターを接続することなどが命じられていた。
同日午後五時三〇分から九時までの運転日誌には最後の記入事項として「汚染水タンク、
の水位記録計が指示目盛りに達するまで炉水をポンプで移送」などの記載があり、事故発
、。生当時三名の運転員は制御棒駆動機構を元に戻す作業に従事していたものと推測される
(三)同日午後九時一分、中央施設の通報室や消防署の火災報知器が原子炉での火災発
。、生を報じたSL-1炉のある原子炉試験場は二三〇〇平方キロに及ぶ広大な敷地を持ち
試験場の従業員らは約六〇キロメートル離れたアイダホフオールズに居住し、事故の起き
た夜間には原子炉周辺には夜勤者など少数の関係者しかいなかつた。
(四)火災発生を知つて臨場した消防士は、原子炉の制御室に電話を入れたが応答はな
く、同九時一二分に原子炉の補助建屋に接近したところ、
放射線の線量が毎時一・五レムに達していることを計測した。
原子炉制御室に通じる階段の扉まで進出した消防士は(1)制御室内に人影はなく、火、

や煙もないこと(2)制御パネルの光が全て消えていること(3)階段の入口の線量、、

毎時二〇〇から三〇〇ミリレムであることなどを確認した。
同一〇時五〇分、原子炉建屋に進入した救助隊は、同所で三名の運転員の死亡(但し、一
名は発見当時はまだ生存していた)を発見したが、その時の原子炉の真上での線量は、致
死量の二倍の毎時一〇〇〇レム以上と推定された。
(五)消防士らが現場に臨場した時、原子炉は既に停止しており、炉心は臨界未満の状
態であることが確認されたが、事故は中性子爆発を伴つたものと推定され、原子炉容器に
接続されている蒸気配管、給水配管などは全て破断しており、これらから、全重量一三ト
ンの原子炉が爆発によつて一メートル余り飛び上がつたことが認められた。
3事故の影響
()、、、一前記のとおりこの事故により三名の運転員全員が死亡したが内一名の身体は
原子炉の制御棒によつて鼠径部から肩に貫かれ、死体が原子炉建屋の天井にひつかかると
いう惨状を呈した。そして、この死体の収容には、建屋内の高い放射能線量のため、事故
発生から六日を要した。また・死者の身体、装身具からはイツトリウム九一、コバルト、

八、クロム五一などの核分裂生成物が検出され、この事故が原子炉の臨界暴走によるもの
であることを裏づけるとともに、死体の有する大量の放射線のため、事故当時露出してい
た手や頭は死体から切断されて放射性廃棄物とともに埋めなければならなかつた。
(二)原子炉建屋が破壊を免れ、また燃料ウランが燃焼に至らなかつたため、大気中へ
の放射能の漏出は少量に止つたが、建屋内の放射能線量は容易に低下せず、事故後の数ケ
月間、作業員は建屋内で六〇秒以上作業することを認められなかつた。この事故による損
害は、四三五万ドルと算定されている。
4事故の原因
運転員全員が死亡したため、原因の詳細は明らかではない。ただ、SL-1炉が中央の制
御棒を一本引き抜くだけで臨界にすることが可能であり、事故当時はこの制御棒の駆動機
構がはずされ、手で引き抜く作業に従事していたものと思われるので、制御棒が急に引き
抜かれて反応度が急上昇し、炉内の水が沸騰して蒸気泡が発生し、
これが更に制御棒を押し上げる結果となり、遂に爆発に至つたものと推定されている。
5事故の評価
この事故は、一本の制御棒で臨界に達するような原子炉の設計及び補修・点検が十分な指
導や監督も行われずに手動で実施されていることなど、原子炉の設計や維持、管理におけ
る構造的欠陥を明らかにした。原子炉が人のいない広大な敷地内に建設されていたこと、
建屋が辛うして維持されたことなどの幸運な条件がなければ、周辺に壊滅的な被害をもた
らしたことが確実である。当時、アメリカ原子力委員会は事故原因について「運転員の、

人が恋愛問題から自殺を図り、制御棒を故意に引き抜いた」と結論したが(一九七九年三
)、。月六日に公表された事故調査報告書死者に事故原因を転嫁したものというべきである
四、ウインズケール炉・環境汚染事故(イギリス一九五七年一〇月一〇日)
1ウインズケール炉の概要
ウインズケール炉は、イギリスのカンパーランド州シエラフイールドに、イギリス原子力
公社によつて建設され、一九五〇年七月に臨界に達したプルトニウム生産炉である。
原子力炉型式は、黒鉛減速空気冷却炉で、燃料には天然ウランが使用されていた。
2事故の概要
(一)ウインズケール炉では、一九五七年一〇月七日午後からウイグナー・エネルギー
(減速材の黒鉛が高速中性子で照射されたとき、格子状の原子配列にひずみが生じてエネ
ルギーが蓄積されるもの)の放出作業が予定されていた。この作業はウイグナー・エネル
ギーの過剰蓄積による危険を避けるため、黒鉛を加熱して放出させるものである。同日未
明、原子炉を停止させ、ウイグナー放出のために冷却用の送風機が止められた。冷却用の
送風を停止することにより減速材の黒鉛に蓄積されたエネルギーが徐々に放出されるもの
と予想された。
(二)同日午後七時から、ウイグナー放出を促進させるため原子炉を局部的に臨界超過
の状態にして加熱し、翌八日朝、一旦加熱は停止された。しかし、黒鉛の温度が低下の傾
向を示したため、同日午前一一時五分、再び加熱のため原子炉は臨界超過にされた。この
時燃料ウランの温度の急激な上昇が生じたため、これを低下させるため制御棒が挿入され
た。しかし、黒鉛の温度が上昇し、燃料ウランの温度を示す熱電対が、ウイグナー放出作
業時の燃料ウランの正確な温度を示さなかつたため、原子炉の状態を把握することは困難
になつた。
、、、()この状態は九日まで続いたが後日の調査では八日の再加熱の時点で燃料ウラン棒
の何本かが既に破損し、九日には加熱した燃料ウランが他の燃料棒を破損させ、かつ燃焼
させていたことが判明した。
(三)一〇月一〇日午前五時四〇分、蒸気用の煙突頂上で高い放射線量が検出され、一
旦は低下したものの、同日午前八時一〇分には再び放射線量が上昇し、放射能が大気中に
放出されつつあること、つまり燃料ウランが破損していることが明らかになつた。
同日午前一一時から午後二時の三時間に原子炉の煙突から〇・八キロメートル離れた保健
物理管理建屋で通常の一〇倍を超える放射線量が検出された。また、同日午後、原子炉か
ら風下の一・六キロメートルの地点では通常の四〇〇倍を超える線量が測定された。
(四)一〇日午後に原子炉の内部を視察したところ、燃料ウランが赤熱して燃えている
ことが現認されたため、これを手作業で除去しようと試みたが、燃料棒が変形していたた
め除去できず、結局、原子炉に水を注入することが決定された。一一日から一二日にかけ
て水が注入され、一二日午後になつてようやく原子炉の温度は低下した。
(五)この間、ヨウ素一三一、セシウム一三七などの核分裂生成物が大気中に放出され
続けたが、周辺住民には放射能の放出量は大量ではなく、危険性もない旨の広報活動が行
われ、一一日になつてようやく原子炉施設の責任者から警察署長に対して非常警戒態勢が
要請された。
3事故の影響
(一)ウインズケール炉の周辺は農場地帯で、その農場でとれる牛乳にヨウ素一三一に
よる顕著な放射能汚染が認められた。一〇月一二日に、原子炉周辺三キロメートル以内の
一二の酪農場で採乳が禁止され、一四日午前にはその数は九〇、同日午後には一五〇と激
増し、一五日になると総面積五一八平方キロメートルに及ぶ禁止区域が設定され、これが
一一月二三日まで続いた。また、肉牛や豚を屠殺した場合には、ヨウ素一三一の蓄積の可
能性がある甲状腺を除去するようにとの警告が出された。
(二)この事故による主な核分裂生成物の放出量は、ヨウ素一三一・・・・・・二万キ
ユリー、セシウム一三七・・・・・・六〇〇キユリー、ストロンチウム八九・・・・・・
八〇キユリー、ストロンチウム九〇・・・・・・九キユリーと測定された。事故による放
射能の影響が極めて広範囲に及んだことは、
事故が最悪の状態に達していた一〇月一二日にかけて、ウインズケール炉から五〇〇キロ
メートルも離れたロンドン上空で異常に高い放射能が検出されたことによつて裏づけられ
ている。
4事故の原因
事故の原因は、燃料ウランの破損を早期に発見できなかつたことにあるが、その要因は原
()、子炉の加熱に関係する計測装置熱電対が正常運転時にしか期待される機能を発揮せず
ウイグナー放出作業においては、炉内の実際の温度を正しく指示しなかつたことにあると
された。
5事故の評価
この事故は、燃料の破損、燃焼といつた状態が一定程度続けば、もはや原子炉の設計上の
安全対策では対処しえないことを明らかにした。大量の注水が原子炉自体の廃棄を結果す
ることはともかくとして、燃焼している燃料ウランに水を注ぐことは、新たに水素爆発な
どの爆発事故をもたらす高度の危険性があり、このような「賭け」のような手段しかなか
つたことに原子炉事故の対処の困難性が端的にうかがわれる。同時に、このような事故が
起きた場合の周辺への放射能漏洩については、これを防ぐ方法が全くといつてよいほどな
いことも明らかになつた。排気用の煙突には核分裂生成物を除去するためのフイルターが
装置されていたが、この装置は、気体状のヨウ素一三一に対しては全く無力だつたのであ
る。
五、スリーマイル島(TMI)原発事故(アメリカ一九七九年三月二八日)
1はじめに
一九七九年三月二八日、アメリカのペンシルバニア州スリーマイル島原発二号炉で発生し
た事故はそれまで電力会社や政府が技術的見地からは起こるとは考えられない事故い、「(
わゆる仮想事故」としてきた、その事故が現実に起こつてしまつた、という意味で「予)、
想を超えた原発史上最大の事故」であつたといえる。そこで本項では、まず、この事故の
内容を検討する。
2スリーマイル島原子力発電所二号炉の概要
スリーマイル島原発二号炉は、ペンシルバニア州を流れるサスケハナ川の中州(スリーマ
)、、イル島に一号炉とともに設置されており電気出力九六万KWの加圧水型軽水炉であり
着工一九六九年一一月、臨界は一九七七年七月、運転開始は一九七八年一二月である。事
故は、この運転開始後約三カ月で起こつたのである。
加圧水型炉(PWR)は、原子炉で発生した熱を一次冷却水に与え、この熱を蒸気発生器
で二次冷却水に伝え、
水蒸気となつた二次冷却水をタービンに送つて発電するものである。
3事故の要因と経過
スリーマイル島原発事故は数多くの要因が重なつて事態を深刻化したといわれている。事
故の要因と経過は次のとおりである。
(一)現地時間の朝四時(一九七九年三月二八日、タービンから出た二次冷却水を蒸)

発生器の二次系へ送る主給水ポンプが突然停止した。
(二)蒸気発生器の二次系へ水を送る給水ポンプが停止した場合には、補助給水ポンプ
が作動して給水を続けることになつていたが、右ポンプは作動したものの出口側の弁が閉
つていたため、給水ができなかつた。このため蒸気発生器の二次系は、冷却水がなくなつ
て空炊き状態となつた。
(三)給水が止まつたにもかかわらず原子炉の運転は続いているため、一次系から二次
系への熱の移動が続き、蒸気発生器二次冷却水は蒸気発生器で熱を与えることができない
ため温度が上昇し、又、水の熱膨脹により加圧器内水位が上昇し、一次系の圧力も急激に
上昇した。これにより原子炉は緊急停止した。このとき、加圧器の圧力逃し弁が開き、一
次系圧力を下げたが、この弁が閉まらなくなる、という事故が発生した。しかし、原子炉
制御呈には「逃し弁閉」の表示が出ていたので、原子炉運転員は弁が閉まつたものと判断
していた。このため以後二時間以上逃し弁が開いていることに気づかず、一次冷却水は逃
し弁から流出し、減少していつた。
(四)原子炉が緊急停止して発生熱量が低下し、かつ加圧器逃し弁からの水流出が続い
ているため、一次系の圧力はどんどん低下し、非常用炉心冷却系の一つである高圧注入系
が、事故発生から二分後に自動的に作動した。ところが運転員は、加圧器から水が流失し
ていることに気づいていないから、このまま注入により水位が上昇してしまうと一次系全
体が満水状態となり、原子炉は高圧になつて危険であると判断し、高圧注入系を手動で停
止させた。
(五)事故発生から一時間以上、原子炉一次冷却水ポンプは運転を続け、一次冷却水を
強制循環して原子炉炉心の冷却を行つていた。しかし、圧力の低下にともなつて冷却水の
水蒸気やガスの量が増加して、気液二相流(水の中に泡が混じつた状態)を形成し、ポン
プが激しい振動を起こしたため、運転員は冷却水ポンプを停止させた。
冷却水量が減少したうえ、その循環も途絶えた原子炉内では、
燃料棒の過熱によつて急速に炉心が損傷され、燃料中の核分裂生成物を大量に原子炉に放
出する結果となつた。この炉内に放出された放射性物質は、加圧器逃し弁の経路から原子
炉格納容器内へ、またレツトダウン系(水抽出系)の配管から補助建屋へ放出され、格納
容器と補助建屋内の放射線レベルが急上昇した。一方、高温になつた燃料捧と水蒸気の反
応によつて水素ガスも発生し、これも原子炉内から格納容器へ放出されて、水素爆発を起
こした。
(六)原子炉格納容器の底部には、排水用のサンプ・ポンプがあり、このポンプはたま
つた水を隣の補助建屋に移送する役割をもつている。当初、このポンプが事故発生後約五
、、時間作動していたため原子炉から流出した放射性物質を含んだ水を補助建屋に送り続け
そこから外気へ放射性物質が放出される結果となつた。
4事故の規模
(一)原子炉炉心の損傷状態
事故後、一九八二年六月から始まつた蓋開け前検査計画と呼ばれる調査では、まず、七五

。、挿入で止まつていた八本の制御棒を一〇〇%まで挿入する試験が行われたこの試験では
四本の制御棒が全く動かないか、ほとんど挿入されず、損傷の大きさをうかがわせた。つ
いで、同年七ないし八月から始まつた調査では、制御棒駆動装置をはずして、カメラ超音
波ソナー装置をおろし、炉心上部の観測がなされた。その結果、炉心上部は、高さ方向の
四二%にあたる一・五メートルにわたつて、水平方向は、全直径に及んで空洞となつてい
、。ることが明らかとなり炉心損傷は極めて広範囲かつ本格的なものであることが判明した
事故直後(一九七九年四月)に設置された大統領特別委員会(f委員長)報告によつて推
定された損傷状態は「燃料被覆管のジルコニウム酸化は約二〇~六〇%、おそらく全管、

破裂、しかし、燃料温度は最高二五〇〇度C程度まで、溶融はなかつた。制御棒は健全で
機能に支障はなかつた」というものである。しかし、先の調査結果によれば右の推定より
実際の損傷は進んでおり、制御棒機能が一部失われていること、溶融が起こつていた可能
性も否定できないことなどが明らかとなつたのである。
そして、一九八五年四月一〇日、米政府から事故原因の調査の委託を受けていた「EGア
ンドG社」の報告によると、事故発生二時間半後に炉心部の金属がウラン燃料とともに二
〇パーセントも溶け出していたことが明らかとなつた。
同報告によると、溶融が始まつたのは午前六時三〇分で、炉心部の温度は二八一五度Cま
で上昇し、炉心部の金属やウラン燃料の融点を超える超高温になつていた。溶融した炉心
上部の金属と核燃料は液体状になつて冷却水管を通つて下に流れた。午前六時五四分に冷
却水の循環が再開された時、溶融した金属は固まつたが、それと同時に超高温でもろくな
つていた炉心上部が急に冷却されたため破壊され、炉心部ががれきの山となつたというも
のである。
(二)放出放射能の量
事故当時、燃料棒には、希ガスだけで約一〇億キユリーの放射能が内蔵されていたと推定
され、ほとんどすべての燃料が破裂したと考えられるから、内蔵希ガスの大部分は原子炉
内に、そして部分的に格納容器に放出されたと推定される。ここからさらに大気中に放出
された放射能は約一〇〇〇万キユリーと推定されている。
これを、わが国の軽水炉原発における災害評価の結果と比べてみると、たとえば東海二号
炉(電気出力一一〇万KW)の安全審査資料によると、大気中に放出される希ガスの放射
能は、重大事故の場合で最大一万三六〇〇キユリー、仮想事故の場合でもその約五〇倍の
七〇万キユリーであり、スリーマイル島原発二号炉の事故に比べ一〇分の一ないし一〇〇
分の一の大きさにすぎない。仮想事故というのは、技術的には起こるとは考えられない最
大限の事故を意味すると定義されているものであり、これを一〇倍以上も上回る放射能が
実際に放出されたという事実は、いかにこの事故の規模が大きかつたかを物語つている。
と同時に、原発の安全審査が事故を過小評価している実態を暴露したものである。
5事故原因とその背景
先に述べた事故の要因に対応する事故原因とその背景は表13のとおりである。各事故要
因を現象的に分類すると、イ、機器の故障(1)と(3)ロ、運転員の操作、判断が()

与しているとみられるもの(2(3)の一部(4(5)ハ、設計上及び原子炉認()、、)、)

(()、()、()、()、()、())基準の不備等が関与するもの23の一部45の一部661
の三種類に分類できる。個々の事故の要因の中には、その原因を比較的単純に推定、ある
いは断定することのできるものもあるが(2)~(5)の事故のように、明らかに複数、

事故の原因及び背景が重なつて起こつたものも多い。
6従来の安全性評価方法の欠陥の露呈
原子力発電所に用いられる機器は優れた品質管理のもとに製造され、信頼性が高く、運転
にあたつては入念な管理・点検を実施する。また重要な安全防護系は多重性を有し、独立
。、性にも十分配慮するさらに原発システム全体として予測される異常事象や誤操作に際し
余裕をもつて対応できることを設計段階で確認する。その上、仮に考えられないような事
態に至つても多重の防壁により災害を防止できる。以上が原発の安全設計として宣伝され
ている。しかし、この安全設計が如何に破綻を示したか、本件事故に即してみてみること
にする。
(一)「多重性」の崩壊と「共倒れ故障」の怖さ
二次冷却水補助給水系は、三系統設けられ、ポンプ動力にも多用性を持たせるなど、そ
の「多重性「独立性」にはとくに注意が必要とされる。しかし、スリーマイル島原発事」

では、保守点検後バルブが閉じられたままであつたため、ポンプは回つたものの給水不能
であつた。バルブが閉じたままという些細な事象から最重要な安全装置が同時に複数機能
しなかつたのである。装置を二重三重に設ける「多重性」が「共倒れ故障」の前に如何に
脆いかを示す事例である。
(二)「フール・プルーフ」の不成立
「フール・プルーフ」とは、人間の操作ミスがあつても大丈夫なように設計されているこ
とである。つまり、人為的ミスにより重大な事態を引き起こすことはありえないという原
則である。補助給水系のバルブが閉じたままであつた理由が、仮に開け忘れという人為的
ミスであつたとしても、重要な安全装置が機能し得ない状態で運転が可能であつたのは明
らかにシステムの欠陥であり「フール・プルーフ」の原則から逸脱している。人為的ミ、

を無くすことは、もともと不可能であり、起こり得る全ての誤操作に対応できる「フール

プルーフ」もあり得ない。本件事故のように、肝心なときに安全装置が機能しない可能性
を全ての原発が持つている。
(三)「フエイル・セイフ」のまやかし
故障・誤動作が生じたときに、機器は安全側に作動するというのが「フエイル・セイフ」
の原則である。しかしながら、加圧器逃し弁の場合、一次系の加圧を防ぐという意味では
「」、「」。開が安全側であり冷却水の喪失を防ぐという観点からは閉でなければならない
、、「」。、したがつて逃し弁には本質的にフエイル・セーフはないのである同様のことは
多くの弁やバルブにあてはまり、原発の機器が「フエイル・セイフ」に設計されていると
いうのはまやかしである。
(四)設器の欠陥と非信頼性
炉心部で水蒸気や水素などのガスが発生すると、系内の水位が失われているにもかかわら
ず、加圧器水位計は振り切れ、一次系水位の指標とならないことが、この事故で明らかと
なつた。また冷却チヤンネル出口と高温側配管の温度計も、長期間にわたつて振り切れて
いた。これらの温度計は、通常運転時の出力制御用であり、今回の事態は計器の性能を越
えたものであつた。もともと計測システムは、事故時に対応できるようには設計されてい
ないのであるから、今回の事態で運転員が炉内の状況を的確に把握できなかつたのも当然
の結果である。
(五)「多重の防壁」の崩壊
原発には、四重の防壁、すなわち燃料ペレツト、燃料被覆管、一次系バウンダリ及び格納
容器があり、放射能は内部へ閉じ込められるはずであつた。しかしこの事故では、放射能
漏れは防止できず、妊婦や幼児に避難勧告が出され、さらに破局的な放射能災害の可能性
から、大規模な住民避難が検討されるに至つた。もともと事故時には、燃料ペレツトや被
覆管に防壁の役割は期待できず、本件の事故の場合、ほとんどの燃料棒が破損し、内部の
放射能が一次冷却水中へ大量に放出された。一次冷却水は逃し弁から逃しタンクを経て格
納容器内にあふれ、格納容器内を汚染するとともに、サンプ・ポンプにより補助建屋に汲
み出された。また蒸気発生器の破損により、強い放射能を含む一次冷却水が二次側へ漏洩
し、周辺への放射能放出が生じた。辛うじて格納容器破壊にともなう破局的な事態は免れ
たものの「多重の防壁」もボロボロとなつたというのが実情である。
以上にみてきたように、スリーマイル島原発二号炉の事故は、原子力発電所が不可避的に
かかえるさまざまな問題点をわれわれに明らかにした。右原子炉はもちろん、アメリカの
原子力委員会に安全解析書を提出し、他の原発と同様に「基準」や「指針」に合格したと
して、その設置・運転の許可を与えられていたのである。それにもかかわらず、このよう
な重大な事故が現実に発生したのである。われわれは、この事実から目を背けてはならな
い。
六、大飯二号炉の燃料棒破損事故(一九八一年)
1大飯二号炉原子力発電所の概要
大飯二号炉は、福井県<地名略>にあり、
関西電力が所有する電気出力一一七万五〇〇〇KWの加圧水型炉(PWR)であり、一九
七九年一二月運転開始した。
2事故の概要
大飯二号炉は、一九八一年六月一六日、一次冷却水中のヨウ素密度がわずかに上昇した段
階で前回の定検から半年を経ずに定検に入つていた。
通産省資源エネルギー庁は、一九八一年八月三一日発表した「原子力発電所の定期検査状
況について」の中で、大飯二号炉に関し、次の事故を報告した。
(1)「定検」中に行つた燃料体検査で、四体に漏洩があり、うち二体は外観上燃料体
に損傷が認められた。
(2)蒸気発生器の水室に、化学体制積制御系統からの充てんラインのサーマルスリー
プが脱落しているのが見つかつた。
というものである。
報道によれば、被覆管一体には一〇数センチに及ぶ破損があつたという。
3事故の原因
同報告は「当該燃料体がいずれもバツフル板微少間隙に面していることから、バツフル、

微少間隙調整の不具合により、その間隙から設定値以上の横流れがあり、燃料体が横方向
の力を受けて振動し、バツフル板と当たり摩耗したことによるものと考えられる」として
いる。
つまり、バツフル板の合せ目部分に生ずる隙間から、冷却水がジエツト水流となつて炉心
、()に注ぎこまれこれが原因で燃料棒破損が起こつた七三年の美浜一号炉事故七六年発覚
と全く同じ経過をたどつたのである。
4事故の影響と評価
大飯二号炉事故は、苛酷な物理条件下にある燃料棒に、設計基準以上の力が加わることに
よつて容易に破損に至りうることを示している。
「もんじゆ」においても「燃料体の健全性の欠如と危険性」で詳述したとおり、高速増、

炉の運転条件が軽水炉と比較にならないほど厳しいものであり、設計過程で予測できない
過剰な力が加わることによつて、燃料棒の破損事故が発生する危険性は大きいといわなけ
ればならない。
七、ギネイ原子力発電所の蒸気発生器細管大破損事故(アメリカ一九八二年一月二五日)
1ギネイ原子力発電所の概要
一九八二年一月二五日、米国ニユーヨーク州にあるギネイ原発(加圧水型炉、ウエスチン
グハウス社製電気出力四七万KW)で、運転中に蒸気発生器細管が大破損するという事故
が発生した。
2事故の概要
(一)事故は、一月二五日午前九時二五分に、多くの警報が異常発生を通報したことに
よつてはじまつた。事故はAB二つある、
蒸気発生器(SG)のBSGで細管の大破損が生じたため発生した。細管の破断口から高
、、温蒸気状の一次冷却水が噴出したため炉圧力が急低下し三分後には原子炉が自動停止し
高圧注入系の緊急炉心冷却装置(ECCS)が自動作動した。
(二)一五分後に制御員はようやくBSGの細管破損と判定し、B主蒸気隔離弁を手動
で閉めた。
(三)事故発生四二分後、BSG細管からの一次冷却水漏れを減少させるために、加圧
。、器逃し弁を開いて原子炉圧力を下げた四三分に再度逃し弁を開いたところ弁が開固着し
炉内減圧(五六気圧)のため原子炉上部で沸騰が起こり、加圧器の水位が押し上げられ、
逃し弁の元弁を手動で閉じて、ようやく炉心の冷却を保ち、大災害を食い止めることがで
きた。
3事故が周辺環境に与えた影響
(一)事故の一週間後に、NRCが議会に提出した資料によると、事故時に環境に流出
した放射能の推定最大量として、次の数字(単位はキユリー)をあげている。
(二)これらの放射能は、放射性雲となつて、発電所から南東方向に流出していつた。
そして、その雲からの放射線による体外被曝線量は、敷地境界付近にニユーヨーク州が置
いていたTLDの読みから、約五ミリレムと推定されている。右記の流出放射能量は、大
規模な炉心崩壊を招いたTMI原発事故に比べれば、もちろん桁違いに少ないが、米国で
これまでに起こつている二つの細管破損事故の際には、大気への流出について何の発表も
なかつたことから見ても、今回の事故はこれまでの蒸気発生器事故のうちで最大のものと
いえる。
4細管破損の形態及び原因
(一)事故の約一週間後の電力会社の調査で、蒸気発生器内の一本の細管に、長さ一二
センチメートルもの裂け目がみつかつた。この破損口だけでも細管一本が真横にギロチン
破断した時の倍ほどの熱湯を噴出したであろう。
()、、。二その後光フアイバーで蒸気発生器を調査した結果次の重大な事実が判明した
すなわち、一般に原発では、細管に破損が発見されるとその細管の両端に止め栓を打ち込
み封じる措置(盲栓)をとつてきた。わが国でも、本件原子炉付近の美浜一号炉では八八
五〇本の細管のうち実に二二〇〇本以上の細管が栓で封じられ、大飯では一万三五〇〇本
の細管のうち一九〇〇本(一九八五年四月からの定検で細管約一一〇〇本に損傷が発見さ
れ、
うち六六一本が施栓された、その他に約二〇〇本の細管が封じられている炉として美浜)

号、高浜一号、二号、玄海一号などがある。
ギネイ原発でも、これまで細管が破損すると、このような措置をとつてきていたが、止め
栓で封じた多数の細管のうち一三本がひどく破損し、特にそのうちの一本は粉々に砕け散
つていることが判明したのである。このような破損は、蒸気発生器内の振動のためと考え
られている。また、蒸気発生器内には飛び散つた細管の三つの破片がみつかつており、細
管の破損はこのような破片が細管に突き刺さつたためとも推定されるものである。
5事故の評価
(一)安全審査の想定していなかつた事故
PWRの想定事故による災害評価については、その一つとして、蒸気発生器細管破断事故
が想定されているが、その事故では、一本の細管が完全破断するとされている。従来の原
発訴訟で原告住民側は、一本破断でなく複数本の細管破断を想定すべきであると主張した
が、被告国側は、そのような事故は想定不適当であると主張してきた。複数本では、破断
口からの原子炉水(一次冷却材)の流出量が大きくなり「身の毛もよだつような事故」、

なりかわない、と住民側は主張してきた。ところがこのギネイの事故では、複数破断に相
当する大破断が現実に発生したのである。
(二)思いがけない事故の展開
(1)現在の安全審査の災害評価では、蒸気発生器細管破断事故が起こつても、発生後
三〇分程度で事故は収まり、大災害に至らないことになつている。しかし実際には、大災
、「」、、害を免れたギネイ原発でも七九分後に所内非常事態が発令され三四時間もたつて
ようやく原子炉を安定状態に保つことができた。これは、TMI原発事故と同様に、思い
がけない事態が発生したためである。
(2)細管の破断口が大きく、予想外の原子炉圧力の低下があつたためか、BSGの細
管破断だと判断するまでに一五分もの時間を要している。また、細管破断口からの原子炉
水の流出を抑えるためには、原子炉圧力を下げねばならない。それには、適当な時にEC
CSからの給水を止める必要がある。しかし、TMI事故の教訓があつただけに、運転員
はECCSの停止をためらつた。そのため破断口からの流出が続き、二次系安全弁が二回
も開くという事態をもたらした。
(3)さらに、原子炉圧力を下げるためには、加圧器逃し弁を開けばいいのだが、
ECCSの作動と同時に、弁を駆動する圧縮空気系統も遮断される設計となつていて、弁
。、、、を開くことができなかつたそしてようやく空気系統が復活した後逃に弁を開いたが
今度は、TMIの場合と全く同様に、開きつ放しになつてしまつた。そのため、原子炉の
圧力が下がりすぎて、原子炉内で沸騰が始まるという緊急事態となつた。あわてて逃し弁
の元弁を閉じて炉心の破壊を食い止めたが、格納容器内に三〇トンもの原子炉水があふれ
出るという事態になつたのである。
(三)より重大な事態に発展した可能性
NRC報告書は、実際には起こらなかつたが、より重大な結果をもたらすおそれのあつた
、。、、事態をいくつかあげているたとえば二次系の逃し弁や安全弁が開きつ放しになれば
ECCSから注入された水も、そこからどんどん大気中に流出し、遂には、注入用水の枯
渇→炉心溶融という最悪事態も起こり得ると指摘し、そうした事態は、これまで全く考え
られてもこなかつたと警告している。
(四)高速増殖炉にとつての意味
高速増殖炉は、軽水炉と構造、温度、圧力が全く異なるので、同一に考えることはできな
いが、高速増殖炉においても、蒸気発生器細管破損事故は発生しており、大破損の場合の
水蒸気のナトリウム側への噴出による水・ナトリウム反応による深刻な危険性は第四部第
四の三で後述するとおりである。ギネイ原発事故は、大規模な蒸気発生器細管事故の現実
性を示した点で「もんじゆ」にとつても重大な意味がある。
八、セイラム一号炉原子力発電所の制御棒不作動事故(アメリカ一九八三年二月)
1セイラム一号炉原子力発電所の概要
セイラム一号炉は、アメリカ、ニユージヤージ州にあり、PSEG社の所有する電気出力
一〇九万KWの加圧水型炉(PWR)で、ウエスチングハウス社製である。
2事故の概要
セイラム一号炉で一九八三年二月二二日、二五日の二回たて続けに制御棒が信号通りに入
らないという、原発の安全の根幹にかかわる重大事故が発生した。
二月二二日の二二時前、セイラム一号炉の主電源回路が故障し、主冷却水ポンプ一台と
給水ポンプ一台への電源が喪失し、中央制御室の照明も消えた。この時原子炉はフル出力
の二〇%で稼働中であつた。非常用電源が入り、電力は復活したが、蒸気発生器のひとつ
で水位低下の信号が発せられた。
この信号によつて原子炉が自動停止するためのスクラム信号が入り、
同時に運転員は手動操作によつても原子炉を停止させた。原子炉は停止し、何事もなかつ
たかのようだつた。ところが、三日後の二月二五日にも、原子炉が出力一二~一四%から
上昇中に同じような事故が発生し、原子炉が停止した。このときも何事もないように思わ
れたが、事故後のチエツクで、原子炉はスクラム信号によつて自動停止していなかつたこ
とが判明した。運転員が別個に行つた手動操作でかろうじて停止していたのだつた。
翌日にNRCの検査官の立会検査でもつと驚くべきことがわかつた。二二日の停止のとき
もスクラム機構が働いておらず、しかも会社側の人間は、そのことにまつたく気づいてい
なかつた(コンピユータのプリントアウトは記録していた。手動操作で停止していたか)

よいようなものの、大惨事になる可能性が高い制御棒不作動事故(いわゆるATWS)で
あつたことが判明したのである。NRCはこの事故に関して、PSEG社に五月六日、罰
金八五万ドル(約二億円)を課した。
3事故の原因
事故の原因は、制御棒駆動系のブレーカー(電流遮断器)が働かなかつたためである。加
圧水型原発の制御棒は、原子炉上部から重力によつて落下して炉内に挿入される。この落
下を生じさせるには、スクラム信号によつてブレーカーが働き、電流が断たれる必要があ
る。そのブレーカーDB五〇は、確かに信号を受けたのだが、作動しなかつたのである。
実は、スクラム系のような重要な安全系は“冗長”といつて同じ機能が二重に取りつけら
れている。この場合、ブレーカーが直列に二つついていて、そのどちらか一方が働けば制
御棒は挿入されたはずなのだが、二つとも働かなかつた。そうやつて二二日の自動停止に
失敗し、気づかず放置したため二五日にも繰り返したわけだ“フエイルセーフ”のため。

“冗長”になつていたはずのシステムも、何の働きもしていないことがわかつたのだ。
このブレーカーDB五〇の不作動は、そこで使われていたUVコイルの不作動によるが、
実はこのUVコイルは以前から動作不良が知られ、ウエスチングハウス社では要注意事項
としていたらしい。七一年と七三年に既に不作動事故を起こし、ウエスチングハウス社は
年二回の点検と清掃給油を指示していた。電力会社のPSEG社では、この指示の実施を
。、。怠つたNRCの調査ではそもそもこのブレーカー自体の欠陥が示唆されているという
もともとこのブレーカーは、一九四〇年代に火力発電所用に作られたものを改良している
が、その種の用途ではブレーカーは耐用年限までの間二〇~三〇回しか作動しない。しか
し、セイラム原発では年に五〇回も作動するため、数年の使用で摩耗していたのである。
4事故の影響と評価
NRCの計算では、もう一〇〇秒手動操作が遅れていれば深刻な炉心損傷を引き起こして
いただろうとしている。事故がフル出力中に生じていれば手動操作のための余裕時間は制
限され、より深刻な事態を生じかねないものであつた。
制御棒不作動事故が原発安全にとつて致命的であることは、軽水炉であれ、高速増殖炉で
あれ、何ら異なるところはない。セイラム一号炉事故は、制御棒不作動事故の可能性を現
実に示した点で、本件安全審査上も重大な意味を持つ。
九、美浜一号炉の問題
1美浜原発の概要
美浜原発は、関西電力が福井県三方郡<地名略>に建設した加圧水型軽水炉三基から構成
されている。一号機(電気出力三四万KW)は一九七〇年一一月に、二号機(同五〇万K
W)は一九七二年七月に、そして三号機(同八二万KW)は一九七五年七月に、それぞれ
運転を開始した。このうち美浜一号炉は「もんじゆ」に隣接し、重大事故が相次ぎ、また
極端に稼働率の低い明白な欠陥炉である。そこで、ここでは美浜一号炉の運転開始から今
日までを簡単に振り返つてみることとする。
2一九七二年六月一三日蒸気発生器細管漏洩事故
(一)一九七二年六月一三日一四時ごろ、全出力運転中の美浜原発一号炉のプロセス・
モニタリング・システム内のいくつかの箇所において、放射能の測定値が急上昇する事態
が発生した。
各測定器のチエツクとサンプルの調査の結果、二次冷却水も放射能レベルが平常時より高
いことを確認した。
異常発生後、監視員を増強して運転を継続し、六月一五日零時一五分一号機を停止した。
(二)科学技術庁及び地方自治体立会のもとで、蒸気発生器の漏洩試験を行つた結果、
一本の細管に漏洩があつた。
関西電力側ははじめ、細管漏洩箇所は少数で、しかも盲栓をすればいとも簡単に運転再開
が可能であるかのようにいつていた。しかし、このときの補修で損傷の疑いのある細管及
び調査のため切りとつた細管の合計は一一〇本に達し、運転再開にこぎつけたのは、半年
後の同年一二月九日であつた。
3一九七三年三月一五日蒸気発生器細管の破損事故
()、。、一その後一九七三年三月一五日に原子炉は停止され定期検査に入つたところが
検査の結果、かなりの数の細管に管の肉厚が薄くなる減肉が認められ、ひどいものは肉厚
の三〇%まで減肉していた。このため通産省は、運転再開後の一次系の漏洩の防止と、運
、。転の信頼性を確保するためと称して合計一九〇〇本もの細管に盲栓をするよう指示した
この結果、細管総数八八五〇本のうち、第一回に補修したものを含めると、二〇〇九本に
盲栓が施されて使用不能となつた。
(二)蒸気発生器細管破損の原因
蒸気発生器細管破損の原因として様々な理由が挙げられてきたが、まだ決定的な原因は見
出されていない。
蒸気発生器細管の破損事故の原因の一つとして、細管の応力腐蝕割れが考えられている。
この応力腐蝕割れは、世界中いたる所の原発において発生したことから、原子炉の安全性
に重大な問題を提起した。
応力腐蝕割れの原因は、原子炉の一次圧力系構造材の製作・加工時における熱処理に起因
するもので、オーステナイトステンレス鋼の熱鋭敏化によるもの、あるいは溶接熱応力で
鋭敏化した部分が一次系高温水の溶存酸素濃度の比較的に高い環境のもとにさらされて発
生するものと考えられている。
細管破損の原因として、細管の外側を流れるタービン水の腐蝕どめに使われていたリン酸
ソーダが原因であるとの見解もある。しかし、リン酸ソーダをやめ、ヒドラジンなど揮発
性の薬品に替える対策(AVT法と呼ばれる)をとつた後も細管破損は発生しており、リ
ン酸ソーダが細管破損の決定的要因とは考えられない。
(三)事故の評価
、、、応力腐蝕割れは原子炉システムのあらゆる部分にわたり一次系では原子炉内部構造材
原子炉容器フランジ、ノズル、配管、ポンプ、弁など、二次系では蒸気発生器、配管、タ
ービンなどで発生している。
4一九七三年三月燃料棒折損事故隠し
(一)事故の概要
美浜一号炉では、一九七三年四月四日の第二回定期検査時に、燃料棒二本が折損する重大
事故が発見された。この事故は、燃料棒二本が合計一七〇センチメートルも折損し、被覆
管もペレツトも粉々になつて炉内に崩れ落ちていたという重大なものであつた。
(二)事故発覚の経過
この事故の存在が一般に知られるようになつたのは、
一九七六年七月に発行された田原総一朗著『原子力戦争』にとり上げられてからである。
国側の説明によると、この事故は関電内部の秘密とされ、三年以上にわたつて、国民はも
ちろん、国側にさえ知らされなかつたとされている。しかし、定期検査には国側の検査官
が立会つており、また事故後の補修工事の事前届出もなされているはずであることなどか
ら、関西電力と国側か共同して事故隠しを行つた疑いも払拭しきれないのである。
(三)事故の原因
公表された事故原因によれば、この燃料棒折損は、バツフル板と呼ばれる炉心をとりかこ
む厚さ約三ミリメートルのステンレス製の板と板のすき間からのジエツト水流によつて燃
料が振動し、これによつて被覆管がけずれて生じたものとされている。しかし、真の原因
については不明な点も多い。
(四)事故の評価
本件事故と同種事故は「六、大飯二号炉の燃料棒破損事故」でも触れたとおり、原子炉、

。、、、料に共通の構造的欠陥を示しているがより基本的なことはこのような重大な事故が
事故後三年以上も全く秘密にされていたことに示される、国、電力など原発推進側の秘密
主義で不公正なやり方である。このような体質が改まらないかぎり、重大事故は不可避と
いわなければならない。
5その後の経過
その後美浜一号炉は、一九七五年から一九七七年までは全く稼働することができず、蒸気
発生器細管の止栓数は二二〇〇本をこえた。ようやく営業運転を再開したのは一九八〇年
一二月であつたが、これに先立つ同年九月一〇日には、美浜原発所長の自殺未遂騒ぎまで
が発生している。この間、行政の側からさえ蒸気発生器自体の取り替えや廃炉なども取り
沙汰されたが、結局、その場を取り繕う対策をとつただけで、何ら抜本的な対策もとられ
ないまま今日に至つている。
一〇チエルノブイリ原発事故(ソ連)
1チエルノブイリ原子力発電所の概要と構造
(一)概要
(1)昭和六一年(一九八六年)四月二六日に史上最悪といわれる事故が発生したチエ
ルノブイリ原子力発電所は、ソ連ウクライナ共和国プリピヤチに所在し、ソ連第三の都市
キエフ市の北方約一三〇キロメートルの位置にある(図-(1。))
、、、、同所には一号炉から四号炉までの四基が左のとおりの経過を経て稼動中であり更に
五号炉と六号炉が着工されていた(図-(2、図-(3。)))
着工臨界運転
一号炉一九七一年一九七七年八月一九七八年五月
二号炉一九七一年一九七八年一一月一九七九年五月
三号炉一九七五年一九八一年六月一九八二年五月
四号炉一九七五年一九八三年一二月一九八四年三月
今回事故を起したのは、一九八四年三月に運転を開始したばかりの四号炉であり、当然最
新式の設備を有しているものであつた(表-(1、図-(4、図-(5。。))))
(2)ソ連は、一九五四年六月、世界で最初にモスクワ郊外のオブニンスクにおいて、
電気出力五〇〇〇キロワツト(六〇〇〇キロワツトとの情報もある、熱出力三万キロ。)

ツトの黒鉛減速軽水冷却型の原子力発電所の運転を開始した。
ソ連は、オブニンスク原子炉を稼動させて以来、少なくとも十指にあまる炉型について研
究開発を重ね、その結果選択されたのが、熱中性子炉では黒鉛減速軽水冷却炉(沸騰水型
と加圧水型の二種類がある)と加圧水型軽水炉と高速増殖炉であり、一九八五年一二月現
在では、各種合わせて四三基が運転中であり、アメリカ、フランスに次いで世界第三の原
子力発電設備保有国となつている。なお、黒鉛減速軽水冷却沸騰水型は通常「RBMK」
と呼ばれ、加圧水型軽水炉は通常「VVER」と呼ばれている。
(3)今回事故を起こした四号炉は、濃縮度一・八パーセントの濃縮ウラン二〇四トン
を初期装荷として持つ黒鉛減速軽水冷却型の原子炉であり、オブニンスク原子炉の流れを
汲むものである。
電気出力は一〇〇万キロワツト(一〇〇〇メガワツト)であるため、RBMK-一〇〇〇
と呼ばれており、冷却水は、プリピヤチ川の流れをいつたん人工池に導いてから取水され
。、、ている人工池の面積は一二平方キロメートルであり貯水量は六〇〇〇万トンであるが
本件事故によつて著しく汚染され、プリピヤチ川を経由してキエフ市を流れるドニエプル
川や黒海にまで、汚染が広がる可能性は十分にある。
(二)黒鉛減速軽水冷却炉(RBMK-一〇〇〇)の構造
(1)減速材について
発電用原子炉は、核分裂反応に関与する中性子の速度によつて、熱中性子炉と本件「もん
じゆ」のような高速中性子炉に大別される。
ウラン等の核燃料が核分裂を起こしたときに発生する中性子は、
秒速約二万キロメートルという高速であつて核分裂の確率が熱中性子(秒速二キロメート
ル)よりも小さいため、熱中性子炉においては、減速材を使用して中性子を減速させる。
減速材として代表的なものは軽水(普通の水)であり、他に重水、黒鉛がある。新型転換
炉「ふげん」は、重水を使用しており、東海発電所の原子炉は、黒鉛減速である「黒鉛。

使用していることが、長期火災の原因であつた。我が国では黒鉛は使用されていないので
安全である」というような報道や発言がなされたことがあつたが、それは誤りである。東
海原子力発電所では現に使用されており、また、原子力研究所が開発しようとしている高
温ガス炉も黒鉛を使つている。
(2)圧力管方式について
発表されている原子炉の主要な仕様は、表(1)のとおりである。
イ圧力管
この原子炉の最大の特徴は、圧力容器を持たず、かわりに圧力管を採用していることであ
る。図-(6、図-(7)のように、円筒形の炉の中には、黒鉛ブロツクが積み上げら)

ており、黒鉛ブロツク内に煉炭の穴のようにあけられた円筒形の穴の中に、圧力管が一本
一本入つている。圧力管一本の中には燃料集合体一本が入つており、圧力管の数は一六九
三本となつている。このように、圧力管が一本一本分かれているところが、チヤンネル型
と呼ばれる理由である。
圧力管の中央部分はジルカロイ合金(ニオブ二・五パーセントを含むジルコニウム)から
できており、上下はステンレス製である。
他に制御・安全系のチヤンネルが一七九本ある。制御棒は、出力の調整をする調整棒(原
子炉上部から挿入され、長さは長い)と、停止用の吸収棒(原子炉の下から挿入され、長
さが短い)の二種類がある。
ロ燃料要素と燃料集合体
燃料要素及び燃料集合体の形状は、図-(8)のとおりである。燃料要素の長さは三・五
メートルであつて、軽水炉としてはやや短いが、本件「もんじゆ」よりはやや長い。太さ
は一三・六ミリメートルであつて、軽水炉とほぼ同様であるが、本件「もんじゆ」よりは
やや太いといえる。
燃料は、一・八パーセントに濃縮された二酸化ウランのペレツトで(直径一一・五ミリメ
ートル、高さ一二ミリメートル、このペレツトが燃料棒の中に多数納められている。)
燃料被ふく管は、ニオブ一パーセントを含むジルカロイ合金であり、肉圧〇・九ミリメー
トルである。
燃料集合体は、
一八本の燃料棒が上下二層に分かれたものから構成され、長さは七メートル以上になつて
いる。
燃料燃焼率はトン当たりでは一八、五〇〇メガワツト/日であつて、軽水炉の三分の二程
度である。
ハ冷却材
冷却材は軽水である。約七〇気圧に加圧された二七〇度Cの軽水が、加圧管の下方から燃
料集合体に触れて加熱され、蒸気と水の混合物となつて上方に流れ、二八四度Cとなつて
気水分離器に入り、乾燥した蒸気と熱い水とに分離される(図-(9。))
乾燥蒸気は、二基の五〇万キロワツトのタービンに送られて電気を起こす。タービンを通
つた蒸気は復水器で冷やされて水となる。再び過熱されて脱気器、気水分離器へ送られて
圧力管に行く。一方、熱い冷却材(水)も、圧力管に戻される。
(3)特徴について
RBMK炉の長所としては(1)独立した圧力管を組み合わせたユニツト式であり、規、

化された部品を組み合わせることによつて大型化も容易である(2)原子炉運転中に燃。

の取り換えが出来るので稼動率を上げることができる(3)燃料破損が発生した場合に。
も、
それだけを交換することが出来るから、環境への放射性ガスの放出を抑制することができ
る(4)黒鉛を減速材に使用するため、減速効果は軽水よりも高く、軽水炉よりも濃縮。

の低いウランを使用できる(5)各圧力管には色々な種類の燃料を配置することができ。

ので、ウラン-プルトニウム燃料サイクル等に比較的容易に転換できるといわれている。
こと等があげられている。
問題点としては(1)パイプの数は二〇〇〇本にも及び、その中を流れる水・蒸気流量、

制御する機構が複雑である(2)冷却材の流量が低下するような事故が発生した場合、。

鉛の減速効果は水よりも高いため、中性子がより減速されて出力がより高くなる(3)。

力管やパイプ等の金属、燃料集合体、黒鉛ブロツクに大量の熱が貯えられており、安全系
が停止した場合にこの熱が出力低下を妨げること等が指摘されている。
(4)新型転換炉「ふげん」について
新型転換炉「ふげん」は、図-(10)に明らかなように、圧力管方式を採用している。
「ふ
げん」は、訴外動燃が、新型転換炉の開発及び発電のために福井県敦賀市において所有し
ている電気出力一六万五〇〇〇キロワツト(熱出力五五万七〇〇〇キロワツト)の重水減
速沸騰軽水冷却型の炉であり、
本件「もんじゆ」と同様まだ原型炉の段階に留まる炉である。運転開始は、昭和五四年三
月である。
その仕様は表-(2)のとおりであり、規模が約六分の一であること、減速材が黒鉛では
なく重水であることを除けば、ほとんど差がない。
つまり、チエルノブイリ原子炉が圧力管方式を採用していることによる欠点を有していた
のならば「ふげん」も同じ欠点を有しているというべきである。例えば、下部ヘツダか、

炉心に至る入口管が破裂すると、緊急炉心冷却装置があつてもなくてもその入口管につな
がる圧力管の冷却水はなくなりチエルノブイリ原子力発電所と同じように炉心溶融を引き
起こす危険性は極めて強い。
(三)安全設計について
(1)緊急炉心冷却装置について
事故発生当初、一部には「チエルノブイリ原子炉には緊急炉心冷却装置がついていなかつ
た」旨の乱暴な報道も存在したが、図-(11)に明らかなように緊急炉心冷却装置は存
在している。
RBMKではこの装置は二つの系統からなつている。一つは、即座に水をパイプに高圧注
入する蓄圧注入装置であり、図の「ECCS蓄圧器」に蓄えられた水が注入されるのであ
。、()。るタンクは比較的小さいが停電時でも働くように高圧ガスで常に蓄圧されている
注入の際には破れたパイプから水があまり漏れないように各所にある弁が有効に働くこと
になつていた。他の一つは、低圧で働く低圧炉心注入系で、これによつて九〇センチメー
トルの最大口径の配管の破断に対しても耐えられるようになつていた。つまり、大きな水
タンクに蓄えられている水がポンプで送りこまれるものであり、このポンプも一台が故障
しても対処しうるように三台備え付けられていた。この低圧系・高圧系のいずれをも備え
た緊急炉心冷却装置は、日本にある軽水炉のそれとほとんど同じ装置である。
ソ連の原子力発電所設計思想は、基本的に日本やアメリカのそれと同じであつた。ソ連の
科学者・技術者はこれをもつて「絶対安全」を誇つていたのである。このように「万一、

時にはECCSがあるから大丈夫」としてきた我国の安全審査の基本的欠陥を、チエルノ
ブイリ原子力発電所事故は原告らを含む国民の前に明らかにしたものである。
(2)格納容器
「チエルノブイリ原子炉には格納容器がないので、炉心にあつた放射性物質がいつせいに
放出されたのだ。日本やアメリカにある原子炉には格納容器がある。
万一の事故の場合でも、放射能は格納容器の中に閉じ込められるので安全だ」との報道が
繰り返し行われた。
たしかに、チエルノブイリ原子炉には、上部が半球で下部が皿型をした円筒型の鋼板溶接
構造をした格納容器は存在しないが、チエルノブイリ原子炉にも、耐圧性のあるコンクリ
ートの格納室(強化容器)がそなえられていたのであり(図-(12、その設計耐圧))

二気圧ないし四気圧であつた。
チエルノブイリ原子炉では、結果的にはこのコンクリート構造物は何の役にも立たなかつ
た。同様に、日本における原子炉に備え付けられている格納容器でも放射能の放出は防げ
ない。なぜなら、本格的な炉心溶融が発生すれば、不可避的に発生する水素爆発、水蒸気
爆発によつて、設計耐圧はたかだか約四気圧までの格納容器は完全に破壊されるからであ
る。
2放出放射能の量と質
(一)炉内に蓄積されていた核分裂生成物の量
電気出力で一〇〇万キロワツト級の原子力発電所が一日稼動すると発生する核分裂生成物
は約三キログラムになる。ウラン二三五が核分裂を起こしたときに発生する核分裂生成物
は、もとの重量より少し欠ける程度の重量を持つことを考慮すれば、三キログラムは広島
型原子爆弾の五発分に相当する。チエルノブイリ原子力発電所四号炉は、燃料交換等を含
め、定期検査からほぼ一年間稼動していたとされているから、千数百発分の死の灰が炉内
に存在していたことになる。
(二)炉内に蓄積されていた核分裂生成物の質
原子爆弾の場合には、一瞬のうちにあらゆる種類の核分裂生成物が空中に放出される。原
子力発電所の場合には炉内に蓄積されていくうちに半減期の短い核種は崩壊して放射能は
弱まるが、半減期の長い核種は一年たつても放射能は減少しない。従つて、一年間稼動し
た原子力発電所の炉心には一年前や半年前に生成された核種も多く存在する。
たとえば、ヨウ素一三一は半減期が八日と比較的短いので一年間稼動しても炉内での放射
能は、稼動当初と比較してそれほど多くはならない。しかし、セシウム一三七は半減期三
〇年と長いため、放射能の量は稼動期間にほぼ比例して増え続ける。つまり、長い間稼動
した原子力発電所の事故の場合には炉内には半減期の長い核種が多く蓄積されているか
ら、
放出された残留性の強い核分裂生成物の環境に及ぼす影響が強く懸念されるのである。
京都大学原子炉実験研究所・g氏の試算によれば、原子炉内部の残留放射能の量は約二四
億キユリー以上である(表-(3。))
例えば、一年間稼動した後の一〇〇万キロワツトの原子力発電所が一メガトンの核兵器で
攻撃され死の灰が全て環境中に放出された場合に、両方の放射能がどのような割合で減少
するかの試算が、アメリカの科学誌「サイエンテイフイツク・アメリカン」に掲載されて
いる(図-(13。。))
それによれば、一〇時間後では核兵器から出た放射能が、破壊された原子力発電所から出
た放射能の約一〇倍だが、四日か五日後には原子力発電所からでた残留放射能の方が高く
なり、その差は拡大する一方である。
(三)放出放射能の量と質
表-(3)に示したg氏の試算によれば、放出放射能の量は炉内残留放射能の二五パーセ
ントに相当する六億キユリーに及んでいる。この計算は、四月二八日にスウエーデンで検
出された放射能汚染数値等を用い(1)放射能流出時の高さ三〇メートル(2)風速、、

秒五メートル、風向北西等の条件を仮定して、h報告にあてはめて計算したものである。
そこでは、気体性のキセノンでは大部分が放出され、ストロンチウムでは六パーセントが
放出されるものと考えられている。
半減期の長い核分裂生成物が多いことにより、環境への残留が深刻な問題となる。ソ連政
府は事故後、半径三〇キロメートル以内を立入禁止として終局的に九万二〇〇〇人を退避
、。させたと発表したがこの内かなりの部分が永久に立入禁止地域となると予想されている
(四)世界を覆いつくした放射能汚染
(1)チエルノブイリ原子力発電所から一三〇〇キロメートル離れたスウエーデンで、
昭和六一年四月二九日、通常の一〇〇倍の放射能が観測された(図-(14。))
、、。、同国では一時毎時一ミリレムが記録されたこともある毎時一ミリレムという数値は
日本で原子力安全委員会が昭和五五年六月に決定した「原子力発電所等周辺の防災対策に
ついて」によれば、防御の準備体制に入るための目安とされる数値である。
(2)ヨーロツパ大陸を吹く風の向きが変わつたため、五月一日には、西ドイツでも三
〇倍、スイスでも一〇倍の放射能が観測された。チエルノブイリ原子力発電所から一〇〇
〇キロメートルも二〇〇〇キロメートルも離れたヨーロツパでさえ、
すさまじいばかりの放射能汚染に見舞われている(図-(15。西ドイツとイタリア))

おける放射能レベルは、表-(4、表-(5)のとおりである。)
西ドイツの都市レーゲンスブルグにおける浮遊塵中の放射能は、一立方メートルあたり一
四二八・三ピコキユリーであり、これは後述する日本でのヨウ素一三一の最高値二二・五
ピコキユリー(福井県衛生研究所で検出されている)の、実に六三倍である。また、北イ
タリアにおける野菜一キログラムあたりの放射能は、一〇万ピコキユリーであり、日本で
のヨモギの最高値一六〇〇〇ピコキユリー(訴外動燃の敦賀市における検出値)の六倍に
も達している。
チエルノブイリ原子力発電所周辺の放射能レベルについては、ソ連は何も発表してはいな
いが、これらの数値から推測すれば、想像を絶する程に高いであろうと思われ、原告らと
しては戦りつを禁じえない。
(3)放射性物質は八〇〇〇キロメートルも離れた日本(図-(16)にもやつてき)

(図-(17。検出された核種は、ヨウ素一三一、セシウム一三七のみならず、セシ))

ム一三四、ルテニウム一〇
三、テルル一三二などにも及んでいる。
科学技術庁が発表した、昭和六一年五月一二日一七時現在までに各地で検出したとされる
ヨウ素一三一の最高値は表-(6)の通りであり、放射能対策本部が発表した六月四日一
七時現在までのヨウ素一三一の最高値は表-(7)の通りである。また、福井県原子力発
電所安全対策課が発表した六月四日までのヨウ素一三一とセシウム一三七の検出状況は表
-(8)の通りである。なお、図-(18)は、福井県原子力安全対策課が計測していた
ヨウ素一三一とセシウム一三七の測定結果をまとめたものである。
原子力安全委員会が「原子力発電所等周辺の防災対策について」の中で定めた「飲食物摂
取制限に関する指標」が表-(9)の通りであることを見れば、これらの検出数値がいか
に高いかは明らかである。
例えば、雨水一リツトル当たりのヨウ素一三一は、千葉で一三三〇〇ピコキユリー、東京
で九三〇〇ピコキユリー、神奈川で五四〇〇ピコキユリー、島根では八九二三ピコキユリ
ー、秋田では五一〇〇ピコキユリー検出されており、飲料水の摂取制限である三〇〇〇ピ
コキユリーを越えている。
ヨモギ一グラム当りの数値でも、福井衛生研究所で一五・一ピコキユリー、
訴外動燃の敦賀市における検出値も一六ピコキユリーである。
(4)日本でもチエルノブイリ原子力発電所事故による放射能が検出された時、i科学
技術庁長官を本部長とする放射能対策本部は「ただちに健康に影響を与えるものではな、
い」と発表し、科学技術庁も「水道、井戸水、牛乳については心配ない」と発表した。。

に、一リツトル当り一三三〇〇ピコキユリーという千葉市の雨水データについても「気、

なる数字だが、二ケ月連続して雨が降るとは思えません」と「安全」を強調した。、
このような「安全」を強調する科学技術庁の発言は、まやかしであつて、国民を欺くもの
であるという他はない。
なぜなら、ある種類の化学毒が一定量以下なら人体に影響はないという場合と、放射能の
影響とは本質的に異なるからである。すなわち、放射能はたとえ低線量・微量線量であつ
たとしても、確実に人体に対して影響を与える。ICRP自身「ガン等放射線の確立的、

響にはしきい値はない」と述べているのであり、これ以下なら安全ということはありえ。

い。
3人的・物的損害の甚大さ
(一)人的損害
(1)死者の数は尚不明であるが、ソ連j軍縮大使が昭和六一年七月三日ジユネーブ軍
縮会議夏会期で「事故による死者は二七人、一八七人がなお病院で治療中」と述べてい、

ところを見ると、七月三日時点での死者は、少なくとも二七名はいると思われる。放射能
を浴びて入院した患者は二九九名と言われているが、なお入院中の患者の中から今後死者
が発生することは免れないことであろう。
(2)即死者でない死者、つまり三番目の死者が出たのは、事故の三日後であり、放射
線障害による初の死者だといわれている。放射線障害には、急性のものと晩発生のものと
がある。急性障害の中でも、非常に高い放射線量を浴びて一番早い時期に死ぬのは中枢神
経死である。三番目の死者に火傷や外傷が無かつたとすれば中枢神経死だと考えられる。
次に来るのが胃腸障害による死である。五〇〇ラドから二〇〇〇ラドを浴びた場合に、消
化不良・下痢・腸内出血等といつた症状が継続し、二、三週間で死亡する。
急性障害による死者の内重要なのは、造血組織、とりわけ骨髄における影響による死者で
ある。一〇〇ラドから五〇〇ラド浴びて骨髄の破壊が著しい場合には、通常六週間以内に
死亡する。
アメリカの骨髄移植専門家であるk博士がモスクワ市立病院到着後直ちに行つたことは、
骨髄移植を行つて助かる可能性のある被曝者と絶望的な被曝者を選別することであつた。
助かる可能性のあるとされた患者については、親族が直ちに呼び寄せられ、骨髄移植が行
われた。同博士が行つた骨髄移植手術は一九例であり、他にソ連の医師達が行つた手術も
あるといわれている。
(3)チエルノブイリ原子力発電所事故による放射線障害によつて入院した二九九名の
中に、原子力発電所から約三キロメートル離れたところにいた住民二名が含まれていたこ
とが、六月六日になつて明らかにされた。
同原子力発電所を中心に半径三〇キロメートルの中には、チエルノブイリ村の他に原子力
発電所従事者のためにつくられた町プリピアト(人口三万人)がある。
事故当時、原子力発電所から三キロメートル離れた場所を自転車で走つていた男性が膝の
部分を火傷したように負傷して入院、更に、野菜畑で仕事をしていた女性も放射線障害に
よつて入院したのである。
これは、原子炉から噴き上げられた核分裂生成物が周辺地域に大量に落下したことを示し
ている。しかも、放射線障害によつて入院を余儀なくされるほどの量の放射能を浴びたこ
とを意味しているのであるから、この二人の他にも多くの被曝者が存在していることは容
易に想像しうるものである。例えば、アメリカの軍事偵察衛星は、事故当時、プリピアチ
川を下つていくはしけや、原子力発電所から約一・六キロメートルと離れていない地点で
サツカーをしているらしい人影を鮮明に写しだしている。そのような屋外にいた人々はま
ともに放射性物質を浴びたことと思われ、今後、住民の間から死者が出る可能性も存在し
ている。
()。、4放射線は少量でも浴びると必ず人体に影響を与えるその影響は確率的であつて
個々の人間が今後ガンで死亡したとしてもそれがチエルノブイリ原子力発電所で外部に漏
れた放射能の影響によるものであると判断することが困難であることも十分予想できる。
ICRPの一九七七年勧告によると、一〇〇万人が一レムの放射線を受けるとその内一
〇〇人が様々の種類のガンで死亡するとされているが「この数値は低すぎる、一〇〇〇、

ないし二〇〇〇人が死亡すると見るべきである」とするbらの評価があることも先に述べ
たとおりである。
前述したように、
チエルノブイリ原子力発電所四号炉から漏出し大気中に拡散してその後地上に降下してく
る放射性物質の量と、その地に居住している人々の数を考慮して、今後どのくらいの人々
がガンで死に、あるいはガンで苦しめられるかを評価すると、前述したg氏の計算によれ
ば「近い将来、一万七四〇〇人の晩発生ガン死者と一万二四〇〇人の遺伝性障害が生じ、

ことになる」とのことである。
アメリカのl博士とm博士がローレンス・リバモア米国立研究所が事故後の風向きの変化
などから放射能の広がり方を調べたデータを基礎に人口密度などを加味して研究した試算
によれば「ソ連西部、東欧、北欧の人口約一億人の間で、セシウム一三七によつて四〇、

〇人がガンにかかり、うち二〇〇〇人が死亡。ヨウ素一三一により、二万四〇〇〇人が甲
状腺の異常を起こし、八〇〇〇人がガンになり、うち五〇〇人が死亡。更にヨウ素一三一
が牛乳等の食物のなかに取り込まれることによつて、一二万人に甲状腺異常を起こすこと
があり、うち二〇〇〇人が死亡するかもしれない」としている。つまり、四五〇〇人の。

を予測しているのである。
また、前述したk博士は、事故によつて約一〇万人が放射能にさらされ、これらの人々の
間にガンガ発生する危険性は大きく、少なくとも一〇〇〇人が死亡する可能性があると述
べている。
(二)物的損害
物的損害も、放射能汚染が全地球的規模に及んでいるために、算定は、不可能ないし極め
て困難である。なぜなら、地表や水面に降下した核分裂生成物(死の灰)は、農地や林地
を汚染し、農作物や海草を汚染し、しだいに魚介類や家畜等を通じて濃縮されていくから
である。
直接的には、西ドイツやオーストリア等における野菜・肉等の輸入禁止、生の牧草を食べ
た牛の牛乳の飲料禁止、イタリアにおけるウサギ数万匹の処分等が上げられるが、世界有
数の穀物地帯であるウクライナ地方の小麦に出る影響もあろう。
遠く離れた日本の福井においても、海産物のホンダワラからヨウ素一三一が検出され、海
底土からはセシウム一三七が検出されている(表-(10。特にセシウム一三七は半))

期が長いために、今後食物連鎖により次第に濃縮されていくことが強く懸念されている。
ただ一基の原子力発電所事故がもたらした放射能汚染は、今後深刻な核拡散と濃縮を全世
界に及ぼすであろうし、
その損害は測り知れないものである。
4チエルノブイリ原子力発電所とその周辺の状況
(一)原子炉の状態
n科学アカデミー副総裁は、昭和六一年五月一一日「現在では、大量の核燃料と原子炉、

黒鉛が高温になり、脅威となつていた状態ではなくなつた、土壌を固め、原子炉に大量の
コンクリート投入が行われている」と発表した。
事故後一〇日間程度は、高熱の炉心が宙に浮くような状態になつており、消火等のために
原子炉の上からかけた砂や鉛、粘土などの重さのために炉心が落下する危険も存在してい
た。もし落下すれば、その下にある水槽の水と激しい反応を起こして水蒸気爆発を起こす
可能性もあつたため、なんとか水槽の水を抜き「冷却地帯」を作つて炉を冷却したとい、

れている。
つまり、水槽のコンクリート底と、地下の水脈の間にトンネルを掘つてコンクリートを送
り込んで固め、さらに建屋周辺に溝を掘つて液体窒素で土を凍結したものであるが、これ
は、溶けた核燃料と周辺の地下水が接触するのを妨げるためであるとされている。空中か
らは、西ドイツの助言で、核分裂反応を抑止するためにホウ素や鉛を投下し、さらに砂を
大量に投下して、原子炉を丸ごと「埋葬」しようとしているのである。この際、即死した
作業員の一人は、その周辺の放射能汚染がすさまじいものであつたために死体を収容する
ことができず、そのまま「埋葬」されてしまうものといわれている(図-(19。))
ソ連国営原子力建設公社のo次長は原子炉に関しては、今後数百年にわたり封鎖を継続す
ると述べている。しかし、炉心には脅威的な量の核分裂生成物が蓄積されている。炉心の
破壊状態を全く調べることが出来ないまま、放射能の漏出を何とか防ぎたいという希望の
もとに事故炉は、埋め捨てにされたのである。建造物のトンネルを掘つて流し込まれたコ
ンクリートの強度には多大の疑問を持たざるを得ない。なぜなら、炉心やその下部が完全
に冷却しているとは考えられないうえに、核分裂生成物が直接コンクリートに接触してい
ると思われるからである。コンクリートに亀裂が発生しその隙間から核分裂生成物がしみ
、、。出して地下水脈に入り込んで行つた場合それを妨げる手段は現在のところ存在しない
地下水脈はプリピヤチ川につながり、ドニエプル川を経由して黒海に連続しているから、
放射能は半永久的に地球を汚染し、
人類に対して絶えまない悪影響を及ぼすであろう。
(二)周辺地域の状況
プリピヤチ等原子力発電所周辺の町に住む住民の避難は、事故発生後三六時間を経過して
からであつた。一週間の後には避難地域は原子力発電所を中心に半径三〇キロメートルに
なつた。避難者は、結局九万二〇〇〇人にのぼり、現場から七〇ないし一五〇キロメート
ルにある村に分散して収容されている。
今後、チエルノブイリでは、建物は焼き払われ、家畜は屠殺され、移住させられた生存者
の帰宅は困難ではないかと思われる。約一〇万人が医学検査を受けたといわれている。原
告らとしては誠に同情を禁じ得ないが、今後継続的に医学検査を受け、放射線の影響が如
何なるものであるかを全世界の人々の前に明らかにして欲しいと願うばかりである。
5事故の原因と経過
(一)IAEAにおける報告と検討について
(1)経過
事故原因と経過に関し、ソ連政府は、昭和六一年八月一四日「ウイーンの国際原子力機、

専門家会議のための情報」を、IAEA(国際原子力機関)に提出した。
IAEA専門家会議は、八月二五日から二九日の日程で、ソ連代表団から詳しい報告を受
けた後、事故原因や経過を検討する部会と事故の影響を調べる部会に分かれて、質疑討論
を重ねた。
この議論をもとに、IAEA原子力安全諮問委員会は最終報告案を作成し、九月二四日か
らウイーンで開催されたIAEA加盟国閣僚級特別総会に提出した。
IAEA加盟国閣僚級特別総会は、これを受けて、原子力事故の際の早期通報と相互援助
の在り方を決めた二つの条約を採択した。
(2)問題点
しかし、ソ連の報告及びIAEA専門家会議における討論によつて、事故の全容が解明さ
れたとは、とてもいうことはできない。
なぜならば、ソ連の提出した報告書は、事故の概要についてかなり詳しく解析・記述して
いるようであるが、原発運転員の「六つの規則違反」ばかりを強調し単純なヒユーマン・
エラー論に傾いているため、原子力発電所が本来持つている危険性の検討を怠つているか
らである。
また、IAEA専門家会議は、原発推進政策をとる政府から派遣された原子力「専門家」
のみで構成されており、会議そのものが「失敗を許されない会議」であつたため、チエル
ノブイリ原子力発電所四号炉のもつ構造的欠陥を厳しく追及できないという宿命を持つて
いた。つまり、
チエルノブイリ原子力発電所四号炉の持つ本質的欠陥や、ヒユーマン・ミスを防止する設
計上の欠陥等を追及すれば、自国における原発の危険性を指摘する声の正しさを証明し、
原発推進政策に支障をきたすと考えられていたからである。
そのため、ソ連報告書やIAEA専門家会議の述べる事故原因とその経過、事故の影響等
については、さまざまな疑問点があり、そのまま信用することはとてもできない状況であ
る。
しかしそれでも、現時点で事故の原因経過等につき判明している部分につき検討すること
は、本件「もんじゆ」の本質的危険性を考えるためには、充分意味のあることと思われる
ので、ソ連報告書に一応そう形で検討を加えることとする。
(二)事故の原因と経過について
(1)概要
事故は、炉をとめる機会を利用したタービン発電機の実験中に起こつたとされている。
、。昭和六一年四月二五日に行われる予定であつた実験は一日遅れて行われることとなつた
二四日二二時ころ交代した三人の運転員は、しばらく定格一〇〇パーセント(熱出力三二
〇万キロワツト、電力出力一〇〇万キロワツト)の運転を続け、三時間後の四月二五日午
、。、。、前一時出力低下を開始したこれは実験計画に沿つた手順であつた二五日八時ころ
次の運転員三人が交代してなお出力を下げる操作を続け、一三時五分には熱出力は半分の
一六〇万キロワツトになつた。その後、出力低下を続けるはずであつたが、キエフの指令
所からの要請により、九時間という長い時間にわたつて一六〇万キロワツト運転が続けら
れた。
同日二三時一〇分に、七〇万キロワツトないし一〇〇万キロワツトを目標に出力低下が再
開されたが、いつたん三万キロワツトに出力が低下した後、二六日一時に出力が二〇万キ
ロワツトで安定した。
一時二二分四秒、タービンへの蒸気を遮断して、実験を開始したところ、出力が徐々に上
昇しはじめた。
一時二三分四〇秒、運転シフトの責任者の指示で、手動制御棒用のボタンAZ-5が押さ
れ、炉心全ての緊急用制御棒が差し込まれたが、何秒か後にドカンという衝撃音がして制
御棒が動かなくなつた。
その後、出力は定格最大出力の一〇〇倍になり、水蒸気が大量に発生し、一回目の爆発が
起こり、続いて二回目の爆発が起こり、炉内の放射性物質が大量に全世界に放出されたの
である。
(2)「実験」の目的について
実験の目的は、
タービンの慣性エネルギーの試験だとされている。
つまり、原子力発電所で停電事故が発生した場合、補助の非常用デイーゼル発電機が動き
炉を冷却するポンプなどに送電するが、非常用デイーゼル発電機がフルパワーになるまで
数十秒という時間を要する。一方、タービン発電機は、炉が自動停止し、蒸気が止まつて
も慣性で回転を続ける。そのため、この慣性エネルギーを利用して四〇ないし五〇秒間発
電をし、緊急非常用冷却系統のサブシステムに利用できないかが検討され、実験計画が策
定されたといわれている。
ソ連科学アカデミーのp会員は「全ての実験が犯罪的な無責任さで国際的にも適用され、
ている原子炉運転の基準や規則を無視し、しかるべき機関、とりわけ国家原子力発電安全
操業監視委員会と打ち合わせてその許可を得ることもなく行われた」と、述べたと伝えら
れているが、似たような試験は、日本を含む多くの国で、営業運転に入る前の機能試験と
して行われているとも伝えられており、チエルノブイリ原発では、一九八二年と一九八四
年の二回、同様の実験が行われ、いずれも成功しているといわれている。
今回実験を行うことができなければ、二年後の原子炉の停止時まで待たなくてはならない
ために実験が強行されたのかも知れないし、実験自体がチエルノブイリ原子力発電所四号
炉のように電気出力一〇〇万キロワツトの大型原子力発電所で行うべきものではなかつた
のかも知れない。
実験の目的と内容についての詳細は、今なお不明であるが、事故の発端になつたことは疑
いのないことであろう。
(3)時間的経過と「秩序違反・運転条件違反」について
ソ連報告書は「事故原因」の項で「原子炉には過剰反応事故を防ぐ保護措置がとられ、、

、、、、おりさらに発電部運転規定に基づいた運転規則・秩序が定められていたが運転員は
各種保護装置を切り、最も重要な安全運転規定の規則に違反した」として、六つの違反項
目リストを示している。
以下、ソ連報告書の挙げる「秩序違反・運転条件違反」を時系列に沿つて述べ「悪いのは
人間、原発は安全」と言える類の「人為ミス」であつたのかどうか、検討する。
(1)第一に、緊急炉心冷却装置(BCCS)を切つたことが挙げられている。
熱出力三二〇万キロワツトの定格出力から出力を低下させ始め、出力が半分になつたとこ
ろで、四月二五日一四時〇分、
運転貝は実験計画書に基づきECCSを切り離した。これは、実験中にECCSが作動し
て、実験が妨げられるのを防ぐためであつた。ところが、キエフ指令所からの要請で、約
、()。、九時間電気出力五〇万キロワツト熱出力一六〇万キロワツトの送電を続けたなぜ
停止しかかつていた原子力発電所に対して送電の要請があつたのかは不明であるが、EC
CSを切つて送電したこと自体は、たしかに規則違反であるといえよう。
しかし、チエルノブイリ原子力発電所で起こつた事故は、中性子の制御に失敗した原子炉
暴走事故である。つまり、反応度事故であり、つまるところ、核爆発事故である。
ECCSは、冷却材喪失事故を想定して備え付けられた装置である。たとえ運転員がEC
CSを切らず、ECCSが予定どおり作動したとしても、出力暴走事故では殆ど何の役に
も立たなかつた。といつても過言ではない。このことは、日本の原子力委員会のソ連原発
事故調査特別委員会(委員長・q東京大学教授)が九月一一日まとめた第一次報告書でも
認めているところである。したがつて、この規則違反が事故原因であつたということはで
きない。
(ECCSを切つた後の二五日の一六時頃、次の運転員三人に交代しており、二二時頃に
は、次の三人の運転員に交代している。事故にはこの三人が直面しているが、この時、タ
ービン室では、四人の運転貝が集中制御室の三人の運転員と同じシフトで働いていた)。
(2)第二に、低出力で運転したことが挙げられている。
実験計画書によれば、テストは熱出力七〇ないし一〇〇万キロワツトで行う予定であつた
ので、運転員達は、二五日二三時一〇分から送電をやめて出力を低下させていつた。とこ
ろが、出力分布にアンバランスが生じて、出力はなぜかいつたん三万キロワツトに低下し
てしまつた。そこで、運転員は、制御棒を引き抜いたり、冷却材流量を変化させたりして
悪戦苦闘の末、出力を二〇万キロワツトまで回復させた。
このように、出力がなかなか上昇しなかつたのは、原子炉内に生じたキセノン一三五の毒
。、、、作用のためであるつまり核分裂反応の結果原子炉内にキセノンが大量に発生するが
キセノンはよく中性子を吸収するために、次世代の核分裂反応に寄与する中性子が減りす
ぎてしまい、反応度の不足が生じるのである。
ところで、RBMK炉では、ボイド係数が正である。ボイド係数であるということは、
出力が上昇して冷却材中の蒸気量(ボイド量)が増加すると、ますます出力が増加する方
向に行つてしまうことを意味する。
、、。先に詳しく述べたように安全性の見地からは反応度の温度係数は負である必要がある
、、、つまりなんらかの原因で出力が増大し温度上昇が起こつたとき温度係数が負であれば
フイードバツクがかかつて反応度を減少させる方向に作用し、原子炉出力が減少して定常
状態に戻る。しかし、逆に温度係数が正であれば、温度の上昇とともに出力は増大し、制
御が著しく困難になり、暴走につながる。
この反応度の中で重要な役割を果たすのが「ボイド反応度」である。ボイド反応度とい、

のは、先に述べたように、炉心内の気泡量に関係する反応度のことであり、原子炉の安全
性に関係した重要な数値である。
日本で多く使用されている軽水炉では、ボイド係数はマイナスの値をとる。つまり、多く
の軽水炉では、冷却材の水(軽水)は、冷却材であるとともに、中性子の減速材になつて
いる。そこで、気泡が発生すると中性子の減速効果が落ち、熱中性が減少し、核分裂が減
る。核分裂が減れば、出力も減少し、温度も下がる。
ところが、RBMK炉では、ボイド反応度は、運転の初期においてはマイナスだが、燃料
の燃焼度が上がるにつれてプラスに転ずるといわれている。
この炉では、出力が定格の二〇パーセント(熱出力で六四万キロワツト)以上ならば出力
が上昇しても、ボイド反応度以外の種々の反応度をも合わせるとマイナスとなり、自然に
出力が低下するが、二〇パーセント以下の場合には、プラスの反応度が入つて逆に出力が
上昇してしまうといわれている。そういう意味では、低出力時に非常に不安定な炉であつ
。、、、たそこで制御棒等をあれこれコントロールしても原子炉の安定化は困難であるので
規則で熱出力七〇万キロワツト以下での運転は禁止されていた。したがつて、二〇万キロ
ワツトで運転したことが、規則違反だといわれているのである。
しかし、もともと、どんな原子炉であつても、低出力の場合には、炉は不安定である。ま
して、ボイド反応度がプラスであれば、不安定さの度合はますます大きくなる。特に定常
運転を継続していた直後では、キセノンの毒作用が強く効いてくるために、何等かの原因
で低下してしまつた出力をあげて、一定の出力で運転するためには色々な運転上の無理を
せざるを得ない。
このような炉の特性を考慮すれば、低出力の場合には、人間のコントロールが及ぶ領域で
はないというべきである。したがつて、出力低下時に実験をしようとしたことの問題点は
格別として、個々の運転員の判断ミス・操作ミスなどではないことは明らかであろう。
(3)第三に、規定流量を越えた水量を炉に送り込んだことが挙げられている。
原子炉には、主循環ポンプ六台で冷却材が流入していたが、午前一時三分と同七分、それ
ぞれ一台、予備の主循環ポンプを動かし始め、合計八台で冷却水を原子炉に送るようにな
つた。
その目的は、実験が終了してタービンが停止した時、それまでタービンを電源にしていた
四台の主循環ポンプが停止しても、残りの四台のポンプで炉心を冷却し続けるためであつ
た。
冷却水の速度が早くなりすぎた場合、ポンプが故障したり、配管類が振動したりする恐れ
があるので、規則で一定水量以上での運転は禁止されていた。
実際、ポンプ八台を同時に動かして炉を通過する水量が増加したため、蒸気の発生量が少
なくなり、気水分離器の蒸気圧が低下して、炉が不安定となつてしまつた。
しかし、前述したように、もともとこの原子炉は、低出力で運転した場合、炉の状態は極
めて不安定であり、かつ、制御系が複雑となつていて運転員に過重な負担をかけていた。
したがつて運転員は、実験を遂行するためには原子炉を何とか安定させなくてはならず、
後述するように制御棒を引き抜くだけではなく、冷却水の流量をも変えて、努力をしてい
たと考えられる。これも、実験の計画に従つてポンプを多く動かしたのであつて、規則違
反の一言でかたづけるべき問題ではない。
(4)第四に、水位と圧力による原子炉緊急停止のための保護信号を切り離したことが
挙げられている。
(3)で述べたように、水量が増加した結果、気水分離器内の水蒸気圧が低下した。こ
の状態が続くと、冷却水の中で予期せぬ沸騰が起こり、炉を自動停止させる信号が出され
ると、炉は自動停止してしまうので運転員はこれらの自動信号を切つた。
これも、実験を行うための措置であつて、個々の運転員の操作ミスとか、人為的ミスとか
いわれるものではない。
()、。5第五に制御棒の本数を安全に必要な数よりも少なくしたことが挙げられている
一時一九分、気水分離器の水位低下を防止するために、運転員は給水を始めしだいにその
流量を増加させた。そのため、
炉心の蒸気量は減少し、反応度は低下した。出力を維持するために、自動調節の制御棒が
、、。上方に抜け始めたがそれでも出力を維持できず運転員は手動でも制御棒を抜き始めた
そのため、炉心内に入つている制御棒の数は完全に入つている制御棒の数に換算して六な
いし八本であつたとされている。
制御棒は、中性子を吸収するのが役目であり、核分裂が進み過ぎた場合には出力の上昇を
防止するために、直ちに炉心に挿入されなくてはならない。そのためには、ある程度、制
御棒の先端が炉心の中に入つている必要がある。
この炉では前述したように、低出力で運転する場合には、ボイド反応度が正であり、蒸気
量が増加するとプラスの反応度が加わり、出力が上昇する。そのために、炉心内に入つて
いて反応度操作をすることが出来る制御棒の量(反応度操作余裕)が三〇本以下では運転
してはならないという規則があつた。
結果的に言えば、この時点では、反応度操作余裕が少なくなつてしまつていたために、原
子炉は、ほんの少しの状態の変化に対し非常に過敏な状態となつてしまつていた。しかし
このように、反応度操作余裕が少なくなつてしまつたのは、キセノンの毒作用をなんとか
逃れ、実験予定であつた七〇ないし一〇〇万キロワツトにまで出力を上昇させようとして
いたからであり、現場の運転員達の操作ミス、人為ミスという問題ではない。
(6)第六に、タービン発電機停止時に原子炉を停止させる信号を切つたことがあげら
れている。
、、各種のデータは原子炉が安定している状態を示していたため実験を開始することとなり
運転員は一時二三分四秒、原子炉を停止させる信号を切つた。信号を切らなければ、ター
ビンを停止すると同時に原子炉が停止するので、実験に失敗した場合にやりなおしができ
なくなるためである。これも、実験を有効に行おうとしたための措置であつて、運転員個

人の操作ミスの問題ではない。
(4)その後の事故経過について
こうして、一時二三分四秒、運転員は発電機の蒸気停止弁を働かせ、実験は開始された。
気水分離器内の蒸気圧が次第に増加し始め、三〇秒には、炉心の蒸気量が増え始め、反応
度が高まつた。
三一秒、自動調節制御棒が入るが、反応度上昇速度が大きく、出力は徐々に上昇し始め
た。四〇秒、AZ-5のボタンが押され、炉心全ての制御棒が下降したが、速さは毎秒四
〇センチメートルと遅く、そのうえ、
何秒か後にドカンという衝撃音がして、制御棒が停止してしまつた。そのため、制御棒を
自重で下に落ちていかせるために、駆動装置の継ぎ手の電流を切つた。
四三秒、出力急上昇の警報がなつた。
四四秒には、出力は定格最大出力の一〇〇倍になり水蒸気が大量に発生して、一回目の爆
発が起こつた。この爆発によつて、原子炉上部の重さ一〇〇〇トンの蓋がずれ、全圧力管
が切断し、全制御棒が上方に飛び出した。
四六、四七秒には、出力は定格出力の四八〇倍となり、二回目の爆発が起こつた。この爆
発によつて、右に述べた蓋が持ち上がつて原子炉室に縦に落下し、燃料や燃えている黒鉛
の塊や火花が建屋外に飛び出した。更に建屋内で火災や黒鉛火災も起こり、放射性物質を
大量に吹き上げた。
(三)事故の性質と評価-出力暴走事故について
(1)逃げる間もない「事故」
(1)数十秒で破局へ
、、。、実験開始から破局までは四〇秒ちよつとしかなかつた出力が急上昇し始めてからは
数秒しかなかつた。
ソ連の報告書は、個々の運転員の秩序違反・運転条件違反を強調しているが、中央制御室
にいた三人、タービン室にいた四人の運転員達は、実験手続きに従つたまでであつて、個

の運転員達のミスを過大に見積ることは誤りである。
例えば、ミスの一つとして制御棒を引き抜きすぎたことが挙げられているが、制御棒が引
き抜かれる設計であつたこと自体が問題であるし、冷却材流量を増やし過ぎたとされてい
ることも、ボイド反応度が正であるような炉を設計したこと自体に問題がある。つまり、
RBMK原子炉は本質的な欠陥を持つていたといわざるをえない。この原子炉の持つ本質
的欠陥は、アメリカや日本の軽水炉の持つ欠陥と同じである。本件「もんじゆ」において
、、。、は出力暴走事故が起こりやすいという点ではRBMK炉によく似ているそして今回
チエルノブイリ原子力発電所で起こつた事故は、人間の制御を明らかに越えた出力暴走事
故であり、周辺住民のみならず、全世界の人々を不安と恐怖に陥れたのである。
(2)冷却材喪失事故では時間的余裕がある。
これまで、原子力発電所-特に軽水炉-においては、冷却材喪失事故に多くの関心が寄せ
られていた。冷却材喪失事故においては、冷却材が原子炉から流出し、燃料棒が過熱、溶
融し、放射能が環境中に放出されるといつた経過をたどるために、
事故が起こり始めてから放射能が環境中に放出されるまでに、少なくとも三〇分以上の時
間的余裕があると考えられていた。そのために、運転員の機敏な対応によつては、事故が
途中で収束させられる可能性も存在した。
、、、ところが出力暴走事故では事故が発生してから放射能が環境中に放出されるまでには
長くても数十秒の余裕しかない。そこでは、運転員の介入の余地は存在しない。介入する
としても、制御棒の挿入しかない。そのうえ、制御棒の機能が現象に追い付いていくこと
は困難である。万一、チエルノブイリ原子力発電所で起こつたように「衝撃音がして制、

棒が停止した」という事態が発生すれば、暴走を止めることはもはや不可能である。
(3)周辺住民に退避の時間は与えられない
出力暴走事故の場合、運転員はもちろん、周辺住民にとつても、退避する時間はない。そ
の上、放射能は半減期が極めて短いものまで含めて「ホツト」なままふりそそぐ。チエ、

ノブイリ原子力発電所事故では、希ガスやヨウ素は一〇〇パーセントが放出され、さらに
ウラン燃料の四パーセントが飛散したと言われている(この数値が低下すぎるとの指摘も
多い。)
チエルノブイリ原子力発電所事故では、周辺三〇キロメートル圏内の人々一三万五〇〇〇
人が退避させられたが、その退避も事故後かなり経過してからであるので、住民達の被曝
量はかなり高くなつたと考えられている。初期に一度に放出された希ガス(ソ連報告書で
は四五〇〇万キユリーとされている)による被曝は一〇ないし一五レムに相当すると考え
、、。られ夜間屋内にいたことを考慮しても一・五ないし五レムになつたと推定されている
汚染地域から避難させられた人々の総被曝量は、一六〇万人レムと推定されているが、I
CRPの基準でも一六〇人がガンで死ぬとの評価が与えられるのであり、周辺住民の今後
の健康・生命については、原告らは同じ原発周辺住民として戦りつを禁じえないところで
ある。
(2)格納容器があつても役に立たない
(1)事故の大きさの推定
出力暴走事故の大きさは、原子炉内で起こつたのと同じ程度の爆発をもたらすTNT火薬
の量で表されている。今回の爆発では、ソ連の報告書では明らかにはされていないが、二
酸化ウランと冷却水との接触による急激な水蒸気爆発を仮定すれば、おそらくTNT火薬
五〇〇キログラム程度であつたろうと推定されている。
(2)格納容器は無意味
先に述べたように、チエルノブイリ原子力発電所にも耐圧性のある格納室(強化容器)が
備え付けられており、その設計耐圧は、二ないし四気圧であつた。
しかし、今回、出力暴走事故が起こり、水蒸気爆発、水素爆発が起こつた。その爆発の勢
いはすさまじく、原子炉上部の重さ一〇〇〇トンの蓋が吹き飛び、原子炉室に縦になつて
落下したほどである。格納室は、この爆発の威力によつて、完全に破壊されてしまつた。
では、このような出力暴走事故が起こつた場合、日本における原子炉に備え付けられてい
る格納容器があつても、放射能の放出は防げない。
すなわち、若狭湾周辺の各原子力発電所の格納容器の耐圧は次のとおりである。
敦賀一号炉四・三六気圧
敦賀二号炉・大飯三号炉・大飯四号炉四・〇気圧
高浜三号炉・高浜四号炉二・六気圧
美浜二号炉二・五気圧
美浜一号炉・美浜三号炉・高浜一号炉・高浜二号炉二・四気圧
ふげん一・三気圧
大飯一号炉・大飯二号炉〇・八四気圧
もんじゆ〇・五気圧
アメリカTMI原子力発電所事故では、チエルノブイリ原子力発電所事故ほど大量の放射
能放出はなかつたが、水素爆発の規模が約二気圧程度に留まつたことと、格納容器の耐圧
が二・八気圧に設計されていた(空港が近く、飛行通路になつていたので、住民の要求で
設計変更されていた)こと等がその理由として挙げられている。
しかし、今回のチエルノブイリ原子力発電所で起こつたような、重さ一〇〇〇トンの蓋が
飛んで、縦になつて落下し、放射性物質が地上七〇〇ないし八〇〇メートルも吹き上げら
れるようなすさまじい爆発にあつては、二ないし三気圧以下の耐圧しかない炉では格納容
器は全く何の役にも立たないであろうし、四・三六気圧の耐圧に設計されている敦賀一号
炉であつても結局無駄であるかも知れない。
まして、本件「もんじゆ」においては、冷却材喪失事故も、出力暴走事故も「解析上食、

とめられる」とされているので、
格納容器の耐圧容器の耐圧は〇・五気圧にすぎない。チエルノブイリ原子力発電所のよう
な出力暴走事故が起こつたら、格納容器など全く役に立たないことは、火を見るよりも明
らかである。
(3)事故発生は予想されていた
(1)SL-1事故
実用原子炉で爆発を伴つた出力暴走事故を起こした唯一の例は、前記SL-1の事故であ
る。一九六一年、制御棒が引き抜かれたことで原子炉が暴走爆発し、運転員三名が全員死
亡したのである。
(2)出力暴走実験の存在
アメリカの研究用原子炉では、それより前の一九五四年七月二二日、実験中に爆発が起こ
つている。これは、現在の沸騰水型原子力発電所の約五〇〇分の一の出力の原子炉であつ
て、制御棒を引き抜いた時、どの程度の爆発が起こるのかを実験しようとしたが、実際に
制御棒を引き抜いた時、予想を大幅に越えた爆発が起こつてしまつた。その規模は、TN
T火薬約一グラムの爆発に相当しており、重さ約一トンの機材が一〇メートル上空に吹き
上げられたと言われている。
この実験に続いて、さらに、どのような条件でどのような暴走が起こるかを実験すること
となつていたが、爆発の余りのすさまじさに恐れをなして、実験をやめてしまつた。そし
て、実験の代わりに「実際にはおこるはずはない「想定不適当事故」として、発生の、」、

能性には目をつぶつてきたのである。
(3)r博士の警告
アメリカのr博士は、原子力発電所において出力暴走事故は起こりうること、起こつた場
合の爆発力がすさまじいものであることを、以前から警告し続けてきた。
しかし、原発推進派は、その警告を無視し、原子力発電所には二重、三重の安全措置がつ
けられているからたとえ暴走しかけても大事に至らないとしてきた。しかし、そのような
思い込みは、今回のチエルノブイリ事故によつて吹き飛んだのである。
6本件「もんじゆ」の問題点
(一)出力暴走事故が起こりやすい炉である
のみならず、本件「もんじゆ」は、先に述べたように、ボイド反応度は正であり、出力暴
走事故を起こしやすい原子炉である。
「もんじゆ」では、核分裂によつて発生する高速の中性子をそのまま利用する関係で、冷
、、却材としてナトリウムを使用するがナトリウムが沸騰して炉心にボイドが発生した場合
単に熱を除去する能力が低下するという問題に留まらず、炉心に正の反応度を与えること
によつて、
その大きさいかんによつては、炉心は出力暴走に至ることになる。
ナトリウムの沸騰から、ボイドの発生、蒸気爆発、炉心構造物や炉容器の変形・破壊に至
るまでの時間は、一〇〇〇分の一秒単位ないし一秒単位で起こると予想されていた。
現実のチエルノブイリ原子力発電所事故にあつては、破局までは数十秒しかなかつたので
あり、原告らの指摘は、不幸なことではあるが、実証されてしまつたといえよう。
それにもかかわらず、本件許可処分の前提となつた安全審査には、チエルノブイリ原子力
発電所四号炉で起こつたような出力暴走事故は全く想定されていない。チエルノブイリ原
子力発電所の事故は、出力暴走事故が「技術的には起こるとは考えられない事象」では、

、、。く技術的に見て現実に起こりえる事故現実に起こつた事故であることを明らかにした
(二)実験段階の炉である
本件「もんじゆ」は、原子炉であり、さらに実証炉を経て実用炉に至る予定の実験段階の
原子炉である。
出力暴走事故の他にも、ナトリウムの大量使用や、ナトリウム・水反応の危険性をはらん
だ蒸気発生器の問題点、大量に発生するプルトニウムの危険性など、実に多くの未知の危
険性を含んでいる。
実験段階の危険性は、実用段階での危険性よりも、質・量ともに大きいのが通常である。
、、「」チエルノブイリ原子力発電所で実験をしようとしたことが問題とされているが実験
を問題とするならば、本件「もんじゆ」を建設し運転することそれ自体を、原告らとして
は「事故が起こらないという願望の下に、住民への配慮を全く欠いた実験」である、と、

わざるをえない。
7結論
チエルノブイリ原子力発電所で起こつた事故の詳細は、今なお不明である。しかし、それ
でも「出力暴走事故(反応度事故、端的に言えば、核爆発)であることは、明らかと、」

つた。
事故は、実験計画を立て実行した「人間の問題」のみを原因とするものではなく、原子力
発電炉それ自体を原因とするものである。そこにおいては「ソ連の炉だから危険「日、」、

の炉は型が違うから安全」というような思い込みは、それこそ「危険」である。
本件「もんじゆ」の設置許可処分の際の安全審査に置いては、チエルノブイリ原子力発電
所事故のような出力事故は「技術的には起こるとは考えられない事象」としてさえ考え、

れていない。出力暴走事故の発生は既に予想されていたことは、
前述したとおりであり、不幸なことではあるが、現実に発生したのである。
これは、本件許可処分には処分を無効とするような重大な瑕疵があることを示すものであ
る。
第四「もんじゆ」で重大事故が起こりうる-安全審査における事故評価の誤り-
一、安全審査における事故評価の基準
1安全評価指針の適用関係
「高速増殖炉の考え方について」は、既存の軽水炉等の安全審査指針と高速増殖炉の安全
審査指針との関係について次のように定めている。
(1)原子力安全委員会が決定した安全審査指針のうち「原子炉立地審査指針及びそ、

適用に関する判断のめやすについて「プルトニウムに関するめやす線量について「発」」

用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」については、高速増殖炉にそのまま
適用される。
(2)発電用軽水型原子炉施設を対象とした「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設
計審査指針について「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針について」」
(以下「軽水炉安全評価指針」という「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針)、

ついて」についても、これを参考にすべきと考えるが、この場合、特に高速増殖炉に特徴
的な面に関しては、別にその考え方を示す。
(3)更に、高速増殖炉施設からの通常運転時における環境への放射性物質の放出量に
ついては、周辺公衆の被曝線量が法令に定める許容被曝線量を下回ることのみならず、合
理的に達成できるかぎり低く保つよう設計上の対策を講ずべきであり、被曝線量評価及び
環境への放出放射性物質の測定方法については、
発電用軽水型原子炉施設を対象とした「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対す
る評価指針について「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する」
指針について」を参考にしうると考える。
2安全設計審査と立地審査
安全審査は、原子炉の安全設計の基本方針の妥当性の審査と、立地条件の適否の審査との
二つに分けて行われる。後者については、1(1)で述べたように「原子炉立地審査指、

及びその適用に関する判断のめやすについて」がそのまま適用されるが、この立地条件に
関しては、第五部で詳述するのでここでは省略する。前者については、1(2)で述べた
ように「軽水炉安全評価指針」を参考にし、これに高速増殖炉の特徴を加えて評価を行、

ことが必要であるとして「高速増殖炉の考え方について」では、次のように述べられて、

ろ。
(1)高速増殖炉原子炉施設の設計の基本方針の妥当性を確認するため「運転時の異、

な過渡変化」及び「事故」として各種の代表的事象を選定し評価を行う。
(2)これらの代表的事象の選定にあたつては、高速増殖炉の特徴を考慮し「運転時、

」、「」、異常な過渡変化としては次の事象を事故としては次の事象を選定して評価を行う
として各事象を列挙し、これに「その他必要と認められる過渡変化「その他必要と認め」

れる事故」の項目を付加する。
ここで重要なことは「高速増殖炉の考え方について」においては、選定し評価を加える、

き事象の内容については、全く概括的なことしか述べられていず、さらに何ゆえにこのよ
うな事象が選定・評価されるのが妥当であるかは、述べられていない。さらに「高速増、

炉の考え方について」は「軽水炉安全評価指針」には存在しなかつた「事故』よりさ、『

に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象(これは、本件許可申請におい」

「技術的には起こるとは考えられない事象」とされている事象をさしていると思われる)
を想定する。これは、高速増殖炉の運転実績が僅少であることに鑑み、その起因となる事
象とこれに続く事象経過に対する防止対策の関連において十分評価を行い、放射性物質の
放散が適切に抑制されることを確認するためであるとされるが、右事象の安全審査上の位
置付けは必ずしも明確でなく、また、右事象として、どのような事象を選定するかも明ら
かでない。
二、
本件安全審査における事故想定等の誤り
1「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の意味
「軽水炉安全評価指針」によれば「運転時の異常な過渡変化」とは、原子炉の運転状態、

おいて原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障または誤動作もしくは運転員の
単一誤動作等によつて、原子炉の通常運転を超えるような外乱が原子炉施設に加えられた
状態及びこれ等と類似の頻度で発生し、原子炉施設の運転が計画されていない状態にいた
る事象をいい「事故」とは、運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であつて、発生、

る可能性は小さいが、万一発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出の可能性もある
ため、原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要のある事象をいうものとされ
る。
また「高速増殖炉の考え方について」は、解析にあたつては「軽水炉安全評価指針」、、

参考にするが、高速増殖炉の特徴をふまえ、特に次の点を考慮すべきであるとする。
(1)核的因子として、炉心中心領域でナトリウムボイド係数が正となりうること
(2)熱流力的因子として、熱の発生と除去のバランスが崩れる状態として、熱発生の
増加となる反応度の投入、熱除去の低下となる局所事故に特に配慮が必要であること
(3)機械的因子として、イ、冷却系が高温で炉心出入口の温度差が大きく、また、ナ
トリウムの熱伝達特性が優れているので、大きな熱応力が発生しうること、ロ、ナトリウ
ム蒸気に起因する機械的な影響に対する考慮が必要であること、ハ、炉心における高速中
性子照射量が大きいこと及びクリープ特性を常に考慮しておく必要があること、二、冷却
材漏洩事故を想定する場合の配管破損の形態と大きさに関しては、十分な検討が必要であ
ること
(4)化学的因子としては、ナトリウムによる腐蝕、ナトリウム・水反応、ナトリウム
火災、ナトリウム・コンクリート反応、ナトリウムと保温材の反応、ナトリウムのよう素
トラツピング能力等について配慮が必要であること
これらはいずれも、既に述べた高速増殖炉の危険性に基づくものであるが、本件安全審査
でなされた「事故」等の事象選定・評価が、いかにこの危険性を考慮していないかを検討
する。
2安全審査の対象とすべき事故
(一)反応度事故
高速増殖炉にあつては、ナトリウム沸騰等による炉心内でのボイド発生は、
単に熱を除去する能力が低下するという問題に留まらない。第一、三で詳述したように、
正の反応度を炉心に与えることになり、その大きさによつては、炉心は出力暴走に至るこ
とになる。そこで、現実的に最も起こりやすいと考えられる「燃料溶融事故」を考え、つ
いで「出力暴走事故」を検討する。
(1)燃料溶融事故
ア、事故の原因
炉心の部分的な温度上昇は(1)高温条件や中性子照射によつて燃料棒や構造材が変形、
し、
、()、冷却材流路を閉塞するとか2炉心流路に異物が混入して冷却材流路を閉塞するとか
(3)燃料の設計や製造ミスによつて部分的出力過剰となる、等の原因で起こると考えら
れる。
(1)については、前述したように、高速増殖炉においては炉心の出力密度は軽水炉と
比べて数倍になつており、定格出力時の燃料最高温度は約二三五〇度Cと極めて高温であ
る。その炉心を冷却材であるナトリウムが下から上へ流れるが、原子炉容器入口における
温度と圧力がそれぞれ約三九七度C、約八kg/cm2Gであるのに対して、原子力炉容
器出口における温度と圧力がそれぞれ約五二九度C、約一kg/cm2Gと大きく異なつ
ている。そのうえ、中性子照射量は、軽水炉と比較してはるかに大きいから、燃料棒の存
在条件は極めて苛酷である。そのため、炉心燃料要素は彎曲し互いに接触する。また、燃
料集合体も集団彎曲し、または何等かの理由で局所的に彎曲することが確認されている。
(2)については、ナトリウムは一次冷却系として設計されている原子炉容器、一次主
冷却系中間熱交換及び一次主冷却系循環ポンプ等を貫く配管の中を通つているのだから、
機器からの脱落異物等による流路閉塞もおおいにありうる。前述したフエルミ炉における
事故はこれである。
(3)については、プルトニウム・ウラン混合酸化物ペレツー(炉心燃料ペレツト)及
び二酸化ウランペレツト(ブランケツト燃料ペレツト)がいずれも強い圧力のもとで圧縮
され、続いて焼結によりセラミツク状の円柱形にされるものであるから、ばらつきが大き
く、何等かの原因でプルトニウムが高富化となつたペレツトが作成される可能性が存在す
る。
これらの原因から、炉心の部分的な温度上昇が起こつているのに、その発見が遅れたり、
発見しても適切な措置をとらなかつたために、原子炉の運転を続けていくと、さらに炉心
の温度が上昇し、部分的な炉心溶融、著しい変形、
さらに溶融の伝播と続いていく。
一九五五年一一月、アメリカEBR-1炉で起こつた事故がこれである。
、、、この事故は燃料温度上昇による反応度変化を測定する目的で短時間冷却材流量を止め
、、インターロツクをはずして出力上昇を行つていた際に手動で急速スクラムを押す指示を
間違つてスロースクラムのボタンを押してしまつたため、燃料の温度が過大に上昇して燃
料の溶融に至つたものである。
この事故例は、いわゆる「スクラム失敗」を伴つた「ポンプ電源喪失事故」に類するもの
である。この事故例は、高速増殖炉固有の問題ではなく、軽水炉を含めた原子炉一般で起
こりうるものであるが、高速増殖炉の炉心溶融事故は、軽水炉と比較してその可能性が大
きいばかりではなく、炉心溶融の結果が、ナトリウムの沸騰、ボイド反応度投入による出
力暴走に至る可能性を大きく秘めているのである。
この事故の防止策としては、燃料からの核分裂生成物の放出や部分的な温度上昇の検出に
よつて、適切に原子炉の運転を停止する機構を備える他はない。
イ、安全審査の基本的欠陥
a流路閉塞事故とされているもの
、、「」「」流路閉塞事故は安全審査の対象としては事故の一つである冷却材流路閉塞事故
及び「技術的には起こるとは考えられない事象」の一つである「集合体流路閉塞事故」と
されている「運転時の異常な過渡変化」では、一次主冷却系循環ポンプ主モーターの電。

喪失等の電気的故障あるいはポンプ補機類の故障等による一次冷却材流量減少などしか考
えられていないからである。
「事故」の一例である「冷却材流路閉塞事故」は、冷却材中の不純物が蓄積したり、局部
的に冷却材の流路が閉塞される事故並びに何等かの原因で燃料要素に破損を生じ、内部に
蓄積されていた核分裂生成ガスが隣接燃料要素表面に向かつて放出される事故として考え
られている。
しかし、本件許可申請時になされた「事故」解析は、燃料集合体内のサブチヤンネルの一
つのみが完全閉塞された場合のみである。炉心燃料集合体が一六九本の炉心燃料要素をラ
ツパ管に収納したものであることや、一次冷却材が一次主冷却系中間熱交換器及び一次主
冷却系循環ポンプ等を貫く配管の中を通つていて不純物を含有しやすいことを考慮する
と、
サブチヤンネルの幾つかが同時に閉塞すると仮定した方が自然であろう。
一サブチヤンネルのみが閉塞するというのは意味のない願望にすぎないのである。
「技術的には起こるとは考えられない事象」の一つである「集合体内流路閉塞事故」は、
集合体内中央部で流路面積の三分の二が平板状に閉塞するものと仮定されている。解析結
果によると、冷却材流路閉塞が発生すると集合体内冷却材流量は低下し、閉塞物下流域の
ナトリウム温度及び燃料被覆管温度が上昇するが、ナトリウムは沸点に達しないし、燃料
被覆管は溶融することはない、とされている。しかし、ここでも何故閉塞率を三分の二に
留めたのか、その説明は一切存在しない。理論的には四分の三でもありうるし、五分の四
でも、全部でもありうる。ありうる最悪の事態を想定して初めて、安全審査となる。本件
安全審査は、訴外動燃の都合のよい数値をうのみにしたものであつて、安全審査の名に値
しない。
ところで、燃料被覆管から核分裂生成ガスの放出があつた場合はどうか。許可申請書中に
は、たしかに「核分裂生成ガスにより、隣接被覆管温度が上昇し、局所的破損が拡大す、

可能性がある」との記載がある。これは、燃料被覆管の溶融、燃料の溶融流出、ひいては
炉心溶融の可能性を示唆するものと思われる。しかし、その結果は、遅発中性子法破損燃
料検出装置による「燃料破損検出」信号により原子炉は自動停止し、この事象は完全に終
止するものとされている。では「燃料破損検出」信号が発せられなかつたり、または、、

せられたとしても、措置を誤つた場合はどうだろうか。アメリカEBR-1炉の事故が証
明するように、機械的なミスと同時に人間的なミスも存在するのであるから、事故対策は
二重三重にもなされなくてはならないのに「もんじゆ」ではそれはなされていず、安全、

の見地からは極めて大きな問題を残している。
b燃料要素の局所的過熱事故とされているもの
炉心燃料ペレツトとしては、核分裂性プルトニウムを約一八%含んだプルトニウム及び劣
化ウランの混合酸化物が用いられているが、このうち相対出力が二〇〇%となるペレツト
が一〇個誤つて一本のピンの軸方向中央部に装荷された場合が「技術的には起こるとは、
考えられない事象」として検討されている。
この誤装荷により、燃料要素は局所的に過熱し、その結果燃料の一部が冷却材流路中に溶
融放出する。燃料・冷却材相互作用が起こり、微粒子化した燃料が冷却材サブチヤンネル
をふさぐ。
また圧力が発生し、ガスブランケツテイング作用により被覆管の温度も上昇する。燃料粒
子による冷却材流路閉塞の長さが長くなれば、破損が伝播していくことになる。
ところが、安全審査においては、溶融燃料の初期放出量を一〇グラムと仮定するとか、冷
却材流路閉塞の長さが三センチと仮定するなどして、結果としては「燃料破損検出」信、

により、原子炉は自動停止し、この事象は安全に終止すると結論付けている。
しかし、これらの仮定には多くの問題が存在する。第一には、燃料はほぼ同様の過程で作
成されるものであるから、相対出力が過剰となる燃料が製作された場合には、その個数は
当然多くなるものと思われる。一〇個に限定する仮定は不自然である。第二に、溶融燃料
の振るまいは未知の面が多い。定量的な把握はほとんどなされていない状況にある。なぜ
なら、金属ナトリウムの大量使用は実績が存在しないからである。したがつて、この仮定
された数値への信頼性はきわめて低いといわざるを得ない。
(2)出力暴走事故
ア、事故の原因
原子炉が出力暴走となるのには、炉心に大きな反応度が入らなければならない。その原因
としては(1)燃料溶融から引き継がれる場合(2「スクラム失敗」を伴なつた「ポ、、)

プ電源喪失事故」や「燃料棒引き抜き事故」等が考えられている。、
イ、事故の経過
種々の原因で引き起こされる出力暴走事故の経過は次のようになると考えられている。
(1)溶融した燃料が被覆管内で下方に落下すると、その後に空隙ができる(燃料スラ
ンピング。また溶融した燃料が被覆管内に密着すると、伝熱が促進され、冷却材である)

トリウムの急激な沸騰により、ボイドが発生する。これによつて、炉心に正の反応度が投
入され、その結果炉心の出力が上昇し、沸騰が炉心全体に伝播する。
(2)燃料スランピング、ナトリウム沸騰、核分裂生成ガスの放出等が重なり、炉心に
過大な反応度が投入されて、原子炉は出力暴走する。
(3)溶融した燃料とナトリウムが接触すると燃料・冷却材相互作用が起こり、ナトリ
ウムの熱膨脹による衝撃波や蒸気爆発が起こる。
()、。、4圧力波の伝播により炉心構造物及び炉容器の変形または破壊が起こる同時に
炉心の膨脹・分散が起こり、反応度が押えられて事故は終る。
このような過渡現象は、一〇〇〇分の一秒単位乃至一秒単位で起こると考えられている。
ところで、
「炉心の膨脹・分散」とはどの程度のエネルギーを持つた爆発なのであろうか。ある試算
によれば、七〇KW時クラスの高速増殖炉では炉心中にTNT火薬で一〇トンの爆弾を仕
掛けたと同じであるとされている爆発の結果は炉心中の全放射能が炉外に放出され高。、(
速増殖炉ではプルトニウムが放出される、多数の死傷者が出ることとなる。)
ところで「炉心溶融」から「出力暴走」や「蒸気爆発」に至る事故現象については、事、

発生の可能性の大きさの評価、溶融燃料とナトリウムの相互作用の解明、発生エネルギー
、。、の破壊エネルギーへの変換効率の研究等々多くの課題について未だ研究過程にある否
、、。日本においてはこれから研究に入ろうかという段階にあるといつた方が正確であろう
そこで、軽水炉と比較して、炉心の変形や溶融の可能性がより大きい高速増殖炉について
は、少なくとも暴走事故の現象が十分解明されていない現時点においては、炉容器の破壊
を伴なつた出力暴走事故を想定した災害評価を行う必要がある。そして、安全側に評価し
た結果取り返しのつかないという数値が出た場合には、設置許可処分を無効とするべきで
ある。
ウ、安全審査の基本的欠如
安全審査の対象としては「技術的には起こるとは考えられない事象」の一つとして「反、、
応度抑制機能喪失事故」が掲げられ、その例として「一次冷却材流量減少時反応度抑制、

能喪失事故」及び「制御棒異常引き抜き時反応度抑制機能喪失事故」が検討されている。
「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事故」とは、原子炉運転中に、外部電源喪失
により常用二母線の電源が喪失し、一次及び二次主冷却系循環ポンプが全数同時にトリツ
プし、併せて、原子炉の自動停止が必要とされる時点で反応度抑制機能喪失が起こつた事
故と仮定されている。その解析結果として安全審査では次のように述べられている。
「最も厳しい結果を示す平衡炉心の燃焼末期では、ナトリウム沸騰、被覆管溶融移動、燃
料スランピングが生じた時点で即発臨界に達し、その時の反応度挿入速度は毎秒約三五
$である。炉心は膨脹により未臨界となり、炉心損傷後の最大有効仕事量は約三八〇MJ
となる」
「炉心部で発生する圧力荷重によつて原子炉容器に歪みが生ずるが、ナトリウムが漏洩す
るような破損は生じない。一次主冷却系機器・配管についても一部歪みは生じるものの、
ナトリウムが漏洩するような破損は生じない」
「原子炉格納容器床上部へのナトリウムの噴出量を四〇〇キログラムとしても、原子炉格
納容器内圧力、温度とも設計値を下回つており、放射性物質の放散を抑制できる」
ここではたしかに「即発臨界」に言及されてはいる。しかし「膨脹により未臨界にな、、
る」
といつた希望的願望に包まれてその危険性は隠されてしまつている。
しかし、溶融燃料とナトリウムの相互作用、発生エネルギーの破壊エネルギーへの変換効
率等は現時点ではまだ研究段階にすぎない。最も重要な反応度係数はボイド係数、ドツプ
ラー係数、構造物の膨脹・変形等による効果等の総和であり、その振るまいはほとんど未
知であるといつてもいい。しかし、出力暴走事故がいかなる原因により、いかなる経過を
たどるかは未知であつても、発生する結果はプルトニウムを含めた放射能の大気中への拡
散である。人間への、そして環境への影響は測りしれないものがある。それを考えれば、
安全側に審査していない本件安全審査並びにそれに基づく本件許可処分は無効である。
(3)再臨界事故
高速増殖炉に特有な事故として、再臨界事故が考えられる。溶融した燃料が出力暴走の過
程を通らずに、塊となつて落下し、臨界条件を満たすときに起こる事故がこれである。原
子炉容器の底に塊となつて落下した燃料は、このとき再び発熱するが、塊は制御棒から逸
脱しており、制御棒により反応度を制御することが不可能な状態にある。再臨界となつた
溶融燃料は原子炉容器の底を溶かし、貫通するといつた事態を引き起こす可能性を有して
いる。このような事故は(2)に述べた出力暴走事故よりは、規模は小さいが発生の可、

性は大きいと考えられている。
本件安全審査においては、再臨界事故は特に取り上げられていない。これは、高速増殖炉
の特殊性危険性を何等考慮していないことを示すものであり、安全審査がなされていない
ことを如実に示している。
(二)一次主冷却系配管破断事故
(1)安全審査の基本的欠如
一次主冷却系配管破断事故は、安全審査の対象としては「技術的には起こるとは考えら、

ない事象」の一つである「一次主冷却系配管大口径破損事故」とされている。
配管破断事故が起こる原因としては、圧力集中部における熱膨脹応力、熱応力等による疲
労(クリープ疲労)等が考えられているが、その態様としては、
配管の内圧が低いために、亀裂から冷却材が漏洩するだけであり、急激な伝播型破断を生
ずるおそれはないとされている。万一漏洩した場合には、ガードベツセル内での漏洩であ
つても、その他の場所での漏洩であつても、信号によつて原子炉は自動停止するとされて
いる。その根拠とされているのは、次の事柄である。つまり、軽水炉では、冷却材である
軽水は高温・高圧の系に閉じ込められているので、配管に亀裂・破断が生じると、冷却材
は減圧沸騰して破断口から放出されるが、高速増殖炉では、冷却材であるナトリウムは高
圧には加圧されていないので、減圧沸騰して放出されることはないということである。単
、。純に考えればナトリウムの高さは破断口の高さまで低下すれば漏洩は止るとされている
また、一次系の容器をガードベツセルという受け皿で囲むことによつて、仮に容器下部に
取り付けられている一次冷却系の入口配管で漏洩が起こつても、ナトリウムをガードベツ
セルで受けとめることによつて、炉心が露出したりしないような設計がなされているとい
うのである。
(2)破断の可能性は大きい
はたしてそうであろうか。高速増殖炉の一次冷却系配管破断事故の確率は、軽水炉と比べ
て、一次系の圧力が低くなつているからといつて、桁違いに小さいとはいえない。なぜな
ら、高速増殖炉では、一次冷却材の温度が高く、一次系の鋼材は配管も含めて高い温度で
使用されており、また、ナトリウムの比熱が水の三分の一程度と小さいため、炉心出入口
の温度差が大きく、熱伝導率が大きいので構造材に対する熱衝撃が非常に大きいからであ
る。さらに、活性が強く取り扱いの経験が少ないナトリウムと構造材の共存性も問題にな
るから、単に圧力が低いというだけでは、配管完全破断の確率が小さくなつたとはいえな
い。
(3)緊急炉心冷却装置は絶対に必要である
ガードベツセルで囲まれていない主循環ポンプの出口側で配管完全破断が起こつたと仮定
する。この時、ポンプ側の破断口からは、ポンプの循環力で短時間で大量の冷却材が放出
する。ポンプが何等かの信号によりトリツプされても慣性力で冷却材は流出する。他方の
、、、、破断口からは逆流や原子炉容器内力バーガスの圧力やサイフオン現象等が加わつて
冷却材が放出する。その結果、炉心の冷却材の流量は急速に減少して、燃料の温度上昇、
ナトリウムの沸騰、圧力上昇等という状況が考えられる。
。、これらの過渡現象は非常に複雑であるガードベツセルの健全性をどのように見積るかは
極めて困難な課題である。本件原子炉は、ループ型であり、出力密度は高く、出力あたり
のナトリウムの保有量は少ない。配管破断による過渡的な炉心冷却の問題は極めて重要な
課題である。
このように、一次配管の完全破断を仮定したときには、冷却材を循環させるだけの補助炉
心冷却装置だけでなく、軽水炉の緊急炉心冷却装置(ECCS)と同様に、別に保有して
いるナトリウムを破断事故時に急速に注入するような緊急炉心冷却装置を備えなくてはな
らないであろう「もんじゆ」には、緊急炉心冷却装置はとりつけられておらず、本件許。

処分は、この点で無効である。
(三)蒸気発生器破損事故-ナトリウム・水反応
(1)高速増殖炉における蒸気発生器の問題点
高速増殖炉にとつて、蒸気発生器の問題は、加圧水型原子炉に比べてはるかに重要な問題
を含んでいる。蒸気発生器の破損は、加圧水型原子炉で多発しているが、加圧水型原子炉
「」。、ではそれを単なる故障にすぎないと主張できる余地をある程度残しているなぜなら
加圧水型原子炉においては、一次冷却水は水であり、蒸気発生器の細管の中を流れる二次
冷却材も水であるから混じりあつても化学的な問題は発生しない(大量の放射能が一次冷
却系から二次冷却系に移動する点は別問題である)からである。ところが、高速増殖炉に
おいては、二次冷却材はナトリウムであり、ナトリウムが蒸気発生器の中で伝熱管の間を
下降して、被加熱体である水を加熱する構造を持つている。伝熱管の外径は約三一・八ミ
リメートル、肉厚は約三・八ミリメートルであるから、五kg/cm2Gの圧力を持つナ
トリウムと、一六五kg/cm2Gの圧力を持つ水とが、約三・八ミリメートルという極
薄いクロムモリブデン鋼を隔てて相対しているのである。この伝熱管に何等かの破損が生
ずれば、ナトリウムと水は接触し、直ちにナトリウム・水反応が起こるのである。
、、、()高速増殖炉の蒸気発生器は加圧水型原子炉の蒸気発生器と比べて前述したように1
ナトリウム側の圧力と水側の圧力の差が大きいことの他に(2)ナトリウムの温度は入、

で約四六九度C、出口で約三二五度Cであるのに、水側の温度は入口で約二四〇度C、出
口で約三六九度Cと、厳しい温度条件にさらされていること(3)ナトリウムと構造材、
は、
腐蝕・質量移行・脱炭による強度低下・クリープ特性・疲労・自己融着等々共存性に関す
る厳しい問題が有ること、などにより、数段厳しい使用条件にさらされている。したがつ
て、高速増殖炉の蒸気発生器の安全性は、加圧水型原子炉とは本質的に異なつた考え方で
処理されねばならない。
(2)ナトリウム・水反応の事故の経過
高速増殖炉の蒸気発生器の事故は、多数報告されているが、それらを総合し、どのような
ナトリウム・水反応の経過をたどるのか検討する。
○第一段階伝熱管に減肉や亀裂が発生する。
加圧水型原子炉や高速増殖炉で現実に発生している伝熱管の破損の原因は、a、溶接部の
不良、b、蒸気流による減肉、c、機械的摩耗、d、化学的腐蝕、e、熱応力による疲労
等である。これらが、一つまたは複数重なりあつて現実の減肉・亀裂を発生させる。
○第二段階伝熱管が破損する。
減肉や亀裂が進行して貫通に至るか、または貫通する前にナトリウム側の熱的過渡変化に
よる熱衝撃や地震などによる機械的応力等が発生することによつて、伝熱管は破損する。
破損する伝熱管の本数は一本でなく、多数になる可能性は大きい。
○第三段階水・蒸気がナトリウム側に噴出する。
伝熱管の一本または複数本が破損すると、ナトリウム側と水・蒸気側の圧力差が大きいの
、。で水・蒸気はその圧力差によつて伝熱管の破断口からナトリウム中に勢いよく噴出する
○第四段階ナトリウム・水反応が生ずる。
伝熱管の壁によつて隔離されていたナトリウムと水が接触すると、激しいナトリウム・水
。、、、反応を引き起こすナトリウム・水反応は激しい発熱反応であり三三〇度C以下では
カセイソーダと水素を生成し、三三〇度C以上では、酸化ナトリウムを生成する。反応生
成物は、さらに二次災害をもたらすから、そのまま大気中に放出するというわけにはいか
ず、困難な処理を要する。
○第五段階破損の伝播
伝熱管からの微小な水の漏洩があつた場合には、圧力はジエツト状に伝わり、圧力波は構
造材に向つて減衰しながら伝わつていく。周囲の伝熱管はその圧力で破損する。圧力がそ
れほど強くなくても、反応生成物であるカセイソーダや酸化ナトリウムが構造材の腐蝕を
強める。
大リークの場合は、大量の水素ガスが短時間のうちに発生するので、蒸気発生器本体は大
きな応力を受けることになる。
構造材が圧力や腐蝕を受けても強度が保てれば破損に至らない。それは、その構造材が事
故を発生したときでも健全性が保てるかどうかにかかつている。
(3)安全審査の基本的欠如
本件安全審査においては、蒸気発生器伝熱管に関しては「運転時の異常な過渡変化」の、

つとして「ナトリウムの化学反応」の問題である「蒸気発生器伝熱管の漏洩」が「事、、

解析」の一つとして「ナトリウムの化学反応」の問題である「蒸気発生器伝熱管破損事、
故」
が考えられている。
ところで、より厳しい条件であるはずの「事故解析」においても、初期スパイク圧の評価
としては、伝熱管一本の両端完全破断のみが仮定されている。水漏洩の影響の評価として
も、たかだか伝熱管四本の両端完全破断のみが仮定されているにすぎない。しかし、伝熱
管は、高温高圧の水及び蒸気を細い管の中を通しているのであるから、極めて厳しい環境
に置かれており、美浜一号炉の例で見られたように、一本が破損乃至破損寸前にある場合
には、他の多くの伝熱管も同様の状況にあるのが通常である。たしかに、高速増殖炉にお
いては、毎秒数グラム乃至数キログラムの水の漏洩により発生する爆発力に対しては、他
の伝熱管は健全であるように考慮されてはいる。ところが、四本の伝熱管がいわゆるギロ
チン破断(両端完全破断)したときには、設計計画を大幅に逸脱する。安全審査はこれを
考慮していない。しかも、ナトリウム・水反応の生成物による腐蝕の影響は、現在の安全
設計の対象とはされていない。
多数の伝熱管の破損を仮定すれば、あきらかに蒸気発生器自体の損壊に至る。しかも、事
故によつて発生した圧力を大気中に解放するので、環境へ、カセイソーダ、酸化ナトリウ
ム、ナトリウム蒸気などの毒物が放散されるが、労働者や一般公衆に与える影響は、設計
上全く考慮されていない。軽水炉等では、前述したように、伝熱管多数本の破損は現実に
起こつているのである。発生する事故が、公衆災害をもたらすおそれの強い原子力発電所
の設計にあたつては、現実に発生している規模の事故よりも大規模の事故を想定して安全
設計を行うべきであろう。本件安全審査は、この観点を全く欠落している。
三「技術的には起こるとは考えられない事象」概念の不当性、
1原子炉の安全性評価方法の歴史
(一)WASH七四〇
アメリカにおいて、
当初提案された原子炉の安全評価方法はAEC(アメリカ原子力委員会)が研究したもの
であり、一九五七年三月「公衆災害を伴なう原子力発電所事故の研究(WASH七四〇」

いわれているので、以下「WASH七四〇」という)として発表された。
基本をなしている考え方は、考えられるいくつかの事故の中から、最も被害の大きくなる
と思われる事故を「最大想定事故」として評価することである「最大想定事故」として。
は、
原子炉の冷却材が喪失すると共に、全燃料が溶融し、格納容器が破壊され、内蔵された揮
発性の放射性物質が約半分放出される場合が考えられている。
(二)WASH一四〇〇(h報告)
(1)報告の性格
AECは、一九七五年「原子炉安全性研究」を公表した。これは、委員長の名をとつてh
報告といわれている。
この報告は、一九七〇年代に入り、世界中で盛り上がつた原子力発電所設置に反対する住
民運動に対抗して、原子力発電所の大事故の可能性が極めて低いことを定量的に示すこと
によつて、原子力発電所をめぐる安全性論争に決着を着けようという政治的意図のもとに
作成されたものである。
この報告書の中に、次のような記載がある。
「同じような一〇〇基の原子炉のグループを考えると、一〇人以上の死者が出る事故の可
能性は一年につき三万分の一であり、一〇〇〇人以上の死者が出る事故の可能性は一年に
つき一〇〇万分の一である。興味深いことに、この値は、いん石がアメリカの人口密集地
に落下して一〇〇〇人の死者が出る確率と同程度である」
このような主張は、我が国における各地の原子力発電所訴訟における国側の主張にも引用
され、原子力発電所の安全性を宣伝する大きな根拠とされてきた。
しかし、このh報告は、安全評価の方法として確率的安全評価方法をとつており、極めて
強い批判を浴びている。
(2)確率的安全評価方法とは
たとえば、冷却材喪失事故の確率は次のようにして求められる。
まず、炉心が溶融して放射能が環境に放出される事故に至る事象の連鎖として、配管破断
-電源の喪失-ECCSの不作動-放射能除去の不能-格納容器の破損という一連の事態
を考える。これを図にしたのが図13のイベント・ツリー(事故の樹木)である。この経
路で、いろいろな事象の組み合せが環境への放射能放出につながるような悪い方向に働い
たとき、
大事故が起こると考えるわけである。その確率を各事象の発生確率の掛け合せとして求め
ようというのが、確率的安全評価方法といわれるものである。
具体的な確率は、フオールト・ツリー(誤りの樹木)という手法を用いて計算する。たと
えば、ECCSが停電のため動作不能となる確率は、図14のようなフオールト・ツリー
を組み立てて計算する。ECCSへの電源が絶たれるのは、ECCSへの交流電源が絶た
れるか、直流電源が絶たれるかいずれか一のことが起きることが条件である。更に、交流
電源が絶たれるのは、発電所内外の電源が共に絶たれる場合に起こると考える。各電源が
絶たれる確率は、個々の構成機器の故障率のデータが必要で、その掛け合せが一つの事象
。、の確率を与えることになる機器の故障率の確率が過去の経験からわかつているときには
そのデータを用い、不明のときには、類似の化学プラントなどのデータに基づいて推定し
た故障率を用いる。このように、一つ一つの故障率のデータを何重にも掛け合せて、事故
確率の計算をするのがh報告のやり方であつた。
(3)確率的安全評価方法に内在する問題点
ア、初期事象選定の困難性
このような確率的安全評価にあつては、初期事象として何をとるかが極めて大きな問題と
なる。たとえば、代表的初期事象とされる「一次冷却系大口径配管完全破断」を考えてみ
よう。確率を考えるには、発生原因が特定されていなくてはならないが、現在でもその原
因は特定されていないのである。この場合に、発生確率を与えるのは、非科学的という他
はない。
ブラウンズ・フエリー事故やTMI事故において、思いもかけないトラブルが重大事故を
発生させていることを考えると、確率的安全評価の信頼性は、その根本において揺らいで
いるといわざるを得ない。
イ、フオールト・ツリー作成の恣意的性格
フオールト・ツリーを作成するためには、ある故障がいかなる他の故障によつてもたらさ
れるかを判断しなくてはならないが、この判断は、決して一義的でなく、評価者個人の主
観が色濃く入りこまざるをえない。つまり、検証可能な客観性を持たないのである。
ウ、共通モード故障を考慮していない
確率的安全評価では、故障が独立に発生することが前提となつている。しかし、一つの機
器が経年変化によつて故障に至るような場合には、他の機器も劣化が進み、
故障が発生する確率が高くなつていると見るのが自然である。また、地震等、原子炉全体
に影響を与えるような事象が起こり、それによつて機器に故障が発生した場合には、他の
安全装置が全て正常に作動すると考えることの非科学性は明らかであろう。
このように、共通モードで発生する故障については、定量的なことはもちろん、定性的な
ことさえもよくわかつていない。共通モード故障の存在は確率的安全評価の致命的欠陥で
ある。
エ、故障率データの不足
h報告では、各機器の故障率のデータとして他の化学プラントの機器のデータを用いてい
る。これが原子力発電所にそのまま適用される保証はないし、長時間使用後にもそのまま
適用されるとは考えられない。
個々の機器の故障率を求めるというのは、現実的には想像を絶する困難な作業であり、あ
えてやろうとすれば、主観的にならざるを得ないのである。
オ、ヒユーマン・エラーの問題点
人間がミスを犯すことは人間であるかぎり当然のことである。機器のオートメーシヨン化
を進めるとしても、システムから人間の判断を追放することはできない。ミスの発生確率
は、その人間の精神的肉体的条件によつて異なつている。適当な緊張はミスをなくすため
に必要であるが、緊張の度合が高すぎるとかえつてミスは発生しやすい。
ところで、ヒユーマン・エラーが問題となるのは、平常時ではなく異常時である。地震や
停電等重大事故につながる異常事態の発生等の異常時に、冷静で的確な判断を期待するの
は無理であろう。また、ある限られた時間の中で、多量の情報を処理して適正な判断を下
、。して解決を図ることが通常の人間の能力を超えている場合のありうることも指摘できる
重大事故は、原子力発電所の事故に限らず、ヒユーマン・エラーの要素を持つているので
ある。
第四部、第三、五において前述したように、TMI二号炉の事故は、安全装置不作動に人
的ミスが重なつたものであるが、人的ミスをなくすことはそもそも不可能である。機械の
設計にあたつては、人間の操作ミスがあつても安全装置が作動するように、つまり「フー
ル・プルーフ」であるように考慮されなくてはならない。安全装置が作動しなかつたのな
らば、それはシステムの不備、欠陥であり、安全でなかつたという他はない。ところが、
福鳥第二原子力発電所訴訟第一審判決(福島地方裁判所昭和五九年七月二三日)において
は、
「TMI事故を重大なものとした直接の決定的要因は主として人為ミスである」とし、伊
方原子力発電所訴訟控訴審判決(高松高等裁判所昭和五九年一二月一四日)においては、
「」。、運転操作の誤りが主原因とされている原子力発電所の事故は結果の重大性からみて
起こつてはならないことがらである。人的ミスが事故の原因になり、TMI事故のような
重大な事故が発生しているのだから、その設計乃至安全審査においては、人的ミスが存在
しても大丈夫なように安全装置が存在するのか、存在するとしてそれが設計どおりに作動
するのか検討すべきであり、それが安全審査の重要な任務であろう。前記二裁判所の判断
は、この点において極めて不当である。
(三)ASP報告
(1)ASP報告とは
オークリツジ国立研究所は、米原子力規制委員会(NRC)の委託により、事故の確率評
価に関し、実際の原子力発電所の運転実績に即して再検討した。その研究成果が一九八二
年六月ASP報告として公表された。
(2)実績値からの割出し
同報告では、一九六九年乃至一九七九年の一一年間に電力会社からの報告のあつた事故を
分析し、いろいろな事象の起こる確率を実績値から割り出した。そして、大事故の先駆け
となるような事象が起こつたときに、たとえば緊急炉心冷却装置(ECCS)が働かない
確率も実績値から求めた。そして、事故確率を、先駆け事象の確率と安全装置不作動の確
率の積として求めた。
解析の結果を整理したのが表14である。
「重大事故」とは、事故確率の評価に大きな寄与をした事故である「深刻な炉心損傷事。

の確率」の数値は、二二二年乃至五八八炉年に一度大きな事故が起こるということを意味
し、非常に高い。アメリカの原子力発電所の数を考慮すると、三乃至八年に一度は深刻な
炉心損傷事故が発生するということになる。
同報告はさらに、大事故につながるような事象の確率としては、表15のような値が実績
値として考えられている。この一つひとつは相当に大きな確率で、まさに事故は日常化し
ているといわざるを得ない。
ところで、同報告の中では、右のような机上の数値よりも、むしろ次のような結論が重要
。「、、である過去の原子力発電所の運転実績は・・・・・・原子力発電所の運転年数炉型
メーカー、出力等によつて事故確率に差は認められない」
実績値が、このようなことを示しているのは、
「TMIのような事故は日本では起らない」とか「炉型が違う「メーカーが違う」と原」

力安全委員会や電力会社が述べていることを考えると特に重要である。
(3)重大事故の発生確率の推定は不可能
東海第二原発訴訟第一審判決(水戸地方裁判所昭和六〇年六月二五日)も「環境に大量、

放射性物質を異常放出するような炉心溶融事故の発生確率については、昭和五〇年にh報
告が公表されて以来、様々な者により様々な数値の推定がされてきたが、推定値の違いが
極めて大きく、定説といえるような推定値はないこと、現在のところむしろ、定量的な事
故発生確率の推定をすることは、不可能ないし無意味であるとする見解が支配的であるこ
とが認められる」と判示するに至つている。
2「技術的には起こるとは考えられない」概念の不当性
ところで「技術的には起こるとは考えられない」という言葉は「技術的な見地から見、、
て、
つまり、物・機械・設備等の見地から「起こる確率がほとんどない」とか「起こる確率」

極めて低い「発生頻度が低い」等を示していると思われる。しかし、この概念自体、昭」

五三年九月二九日原子力委員会で決定された「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関す
る審査指針」においては一切表れてこなかつたのに、昭和五五年一一月六日原子力安全委
員会で決定された「高速増殖炉の考え方について」において、突如「高速増殖炉の運転実
績が僅少であることに鑑み」評価を行う対象として考えられたものである。そこでは、何
ゆえに「起こるとは考えられない」のか「発生頻度が低い」のか、一切述べられていな、
い。
、、。つまり発生頻度に関し定量的にはおろか定性的にも検討は加えられていないのである
これは、高速増殖炉の運転実績がほとんどなく、データが得られていないからである。確
率算定の根拠となるべきデータが得られていないのに「発生頻度が低い」とか「起こる、

率が低い」等と考えられるはずがない。高速増殖炉原型炉の発生事故の確率等の研究に」

してはようやく研究計画が立てられつつあるのが現状である。
したがつて「技術的には起こるとは考えられない事象」概念はその根拠を欠いた極めて、

当なものであり、安全設計審査指針自体あいまいでかつ不当といわざるを得ない。この結
、。果原子炉等規制法二四条一項四号の要件を充足しているといえないことは明らかである
四、
結論
以上を総合すれば「もんじゆ」の危険性は軽水炉と比較して飛躍的に増大していること、

判明する。それにもかかわらず、本件許可の前提となつた安全審査は、この危険性につい
て黙殺しているといわざるを得ない「もんじゆ」の操業がなされた場合には、その危険。

は現実化するのである。
よつて本件許可処分は無効である。
第五部立地選定の誤りと労働者住民の生命健康に対する被害
第一耐震設計と地盤問題
一、原子力発電所立地の安全審査について
日本は世界でも有数の地震国である。このため日本で原子炉を建設することは、欧米各国
に比較して敷地の適否、耐震性及び地盤については特に考慮が必要となる。
このため原子炉等規制法第二三条で「設置の許可、第二四条で「許可の基準」が定めら」
れ、
さらに「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則」第一条の三で原子
炉の設置の許可申請の各申請項目のうち、第二項イ、ロで敷地及び耐震構造等の記載を義
務づけている。これに基づいて原子力安全委員会が決定した「原子力安全委員会の行う原
」()子力施設に係る安全審査等について昭和五四年一月二六日・昭和五七年四月五日改正
「」()、高速増殖炉の安全性の評価の考え方について昭和五五年一一月六日を基本にして
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針「原子炉立地審査指針及びその適用に」、

する判断のめやすについて」と「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」
等により、訴外動燃が「もんじゆ」の設置許可申請を行い、同申請の地盤、耐震性等につ
いても安全審査を原子炉安全専門審査会が行い、昭和五八年四月二〇日調査審議の結果を
原子力安全委員会に報告、被告総理大臣が昭和五八年五月二七日、同原子炉設置を許可し
たものである。
しかしながら「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」の耐震性で指摘している、

器、配管等の設計に当たつては、軽水炉との構造上の相違(低圧、薄肉、高温構造)を考
慮した耐震設計とすることが必要とされているが、安全確保の立場に立つた審査とは考え
られず、以下の諸点から不公正かつ事実の歪曲などを行つた申請及び審査といわざるをえ
ない。
二、原子力発電所と地震問題
1地震の建造物に対する影響は、
建造物の耐震性と、その建造物のある地盤の挙動の双方が関係する。いかに建造物がその
振動に耐えても、それを支えている地盤が断層等によつてずれたり、流動するような破壊
現象を起こした場合は建造物は支持されない。原子力発電所の立地は岬の先端に近い地点
で、小沖積地と基盤をカツトして造成した土地の双方をまたいで建設されていることが多
い。このため地震時に変位や不等沈下の恐れも大きい。新潟地震の場合は、地盤の破壊に
よつてコンクリート製の橋やアパート(建物自体はこわれていない)が倒壊したことは記
憶に新しいところである。
2原子力発電所は、地震時の事故の許されない施設であるから、安全率は一〇〇%でな
くてはならない。したがつて、起こりうるいかなる地震に対しても耐震性が保たれなくて
はならない。耐震性は基礎や原子炉だけでなく、各附属施設、配管の細部まで保持される
必要がある。これらについてはそれぞれの地震ごとにその性質が異なり「最大加速度」、

けでは取り扱えず、予測が非常に困難である。
被告らは、一般の構造物の三倍、関東大震災の三倍の地震に耐える耐震設計だから大丈夫
といつているが、実際には不確実であり、地震がきてはじめて本当に大丈夫かどうか試さ
れるという「賭け」の而を否定しえない。
一方アメリカでは、NRC(原子力規制委員会)の規制指針で「動く可能性のある断層を
含む敷地は原子炉設置場所として不適当」としている。また、一九七九年一〇月に公表さ
れたNUREG(原子力規制局)の立地対策小委員会は「動く可能性のある断層は二〇、

ロメートル以内にあるべきでない」と厳しい基準を示している。日本はいたるところに地
震の巣があり、地震のおそれがないといえる場所は、ほとんど存在していない。故に、日
本では原発立地の安全基準をアメリカ以上に厳しくして当然である。
三、若狭湾東部の地震・断層について
1琵琶湖北岸~敦賀湾岸地域は、中小の断層が密集する特異な地帯であり、わが国でも
有数の地震地帯である。このため地震予知連絡会議の特定観測地域に指定されている地域
である。
甲楽城(かぶらぎ)断層、柳ケ瀬断層、木の芽峠断層、野坂断層、三方断層、花折断層等
、、。が集中しておりさらに日本海には野坂断層の延長線上にS-21S-27断層がある
(図15)
この地帯での主な地震は「福井地震(M七・三、、」)
「越前岬沖地震(M六・九「丹後地震(M七・五)等である。」)」
「もんじゆ」の安全審査では、M六・五の直下型地震が一〇キロメートル以内で起きたと
想定して、機器の安全強度を計算し耐震設計を行つているが、最近の日本海中部地震は、
M七・七であり、日本海側では予想だにしなかつた津波も発生し、多数の犠牲者を出して
いる。現実にM六・五以上の地震が発生していることから、本件安全審査における耐震設
「」。計指針のM六・五直下型地震想定の耐震設計は妥当性を欠くものといわざるをえない
2訴外動燃が提出した「もんじゆ」の設置許可申請書添附書類では、原子炉に最大の影
響を与える活断層は、敷地東一一・五キロメートルを南東に走る甲楽城断層とし、地震規
、()()模をM七・〇とし野坂断層敷地の南西九キロメートルと海底断層S21~S27
は連続性がないと評価し、耐震設計を行つている。国の「安全審査の手引」でも「その安
全性については十分安全側の評価がなされなければならない」と強調している。
ところが、訴外動燃はこの連続性に重大なかかわりのある海底断層調査の音波探査データ
を公表せず、連続性は認められないとのみ強調しているが、地形学的には野坂断層と海底
断層(S21~S27)は連続したものとみて評価するのが当然である。
この断層は「もんじゆ」に最大の影響を与える断層といえる。この活断層の連続性を肯、

するならば、予想される地震規模はM七・三となり「もんじゆ」の安全審査は根底から、

れ去ることになろう。しかも、若狭湾岸そのものに震源をもつ大きな地震は西暦七〇一年
の冠島地震(島の沈下、震動三日に亘る)以来起こつていないので、地震エネルギーが若
狭湾地域に相当蓄積されていると考えるのが常識である。
四「もんじゆ」設置予定地の岩盤について、
1本件安全審査では「原子炉の基礎岩盤は全体として、CH~B級の堅硬、均質な花、

岩で構成されている」と評価しているが、この評価は、堅さ、風化度、新鮮度などを調べ
る電力中央研究所の、ダム基礎岩盤、岩質分類基準による「岩盤等級方式」だけで評価し
たもので、ボーリング調査をもとにした岩盤の良好度をみる日本土木工学会の「岩盤良好
度評価(RQD方式)を採用していない。」
この評価でみると、原子炉が据えられる地下三〇メートル付近は「非常に悪い岩盤」が全
体の七六・七%「悪い」が一六・八%を占め、、
さらに三一メートルから九〇メートルの部分でも「非常に悪い「悪い」が全体の六〇な」

し七三・四%を占め、九一メートルから一五〇メートルで初めて「良い「非常に良い」」

七〇%ないし四七・七%、一五一メートルから二一〇メートルで再び「悪い「非常に悪」
い」
が五〇ないし六六・七%で、とくに計画標高付近では「非常に悪い「悪い」が圧倒的、」

多い。
この岩盤等級及び岩盤良好度に基づいて総合評価をすると、原子炉設置計画標高付近の花
崗岩類の岩質は「劣悪」といわざるをえない。、
2訴外動燃の「もんじゆ」設置許可申請書の炉心部にあたる箇所のポーリング調査表を
もとに評価すると、下方には良質の岩盤があるが、下方にいくほど岩質がよくなるのでは
なく、堅硬、良質の岩盤と脆弱・劣悪の岩質が交互するサンドイツチ地盤をなし、地震に
極めて弱い地盤であることが明らかである。
さらに丹生~白木間には、四キロメートルにわたつてリニアメントが走り、活断層の疑い
がもたれている。このような断層の多い特異な地帯で、かつ炉心部の岩盤もサンドイツチ
地盤の劣悪な地質と指摘できる地点を訴外動燃が地震及び地盤について過少評価、または
歪曲して設計許可申請し、被告総理大臣が立地を妥当として本件許可処分をなしたのであ
る。
五、結論
右のとおり本件許可処分には重大かつ明白な違法がある。
第二温排水について
一、司法審査の範囲と温排水についての判断はいかにあるべきか
1昭和五七年二月の「科学技術庁による動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉もんじゆ
発電所の原子炉の設置に係る安全審査(行政庁審査)の概要」によれば「もんじゆ」設、

による温排水の影響の有無及び程度は全く右行政庁審査の対象外に置かれたことが明らか
である。
原告らが求めている本件訴訟の対象は単にもんじゆ設置許可の段階に止まらずも、「」、「
んじゆ」の設置許可及び運転にかかる核燃料の生産→原子炉の運転→発電→運転平常時の
放射能もれ→温排水の排出拡散→事故時の防災→廃棄物の処理・使用済燃料の再処理→廃
炉の処分という全核燃料サイクルを通じて、たえず放射性物質を放出する危険から自らの
生命・身体・財産の安全を守るため、訴外動燃の「もんじゆ」建設・運転による原告らの
生命・身体・財産に対する侵害の危険性の有無にかかる本件許可処分そのものに関する明
白かつ重大な違法性の存否である。
したがつて、
原子炉設置許可の段階で、原子炉そのものの安全性の有無ないしは基本設計の審査の可否
だけを訴訟の対象とすることは十分でなく、右核燃料サイクル全体について可能なかぎり
合理的かつ最高水準の科学的根拠に基づいた安全性の見直しをする必要があるものといわ
なければならない。
本節においては、右核燃料サイクル全体のうち、特に付近海域の環境破壊を含め、原告ら
住民の生命・身体・財産等に多大の影響を及ぼす温排水に焦点をあてて「もんじゆ」建、

の立地選定が大きな誤りをおかしている所以を明らかにする。
2これまで、被告総理大臣は、固体廃棄物や使用済燃料の最終処分の方法、廃炉の処理
、。方法温排水の有効な規制方法も決まらないうちに原子炉の設置だけを安易に認めてきた
トイレなきマンシヨンの建設を認めるものと批判されるように、行政庁の処分としては整
合性を欠き、ついにはかけがえのない地球が汚染され、われわれ及び子孫の生命・健康が
脅かされる事態が発生しないとも限らないのである。
したがつて、温排水対策についても、原子炉設置許可の段階で審査を必要とするかどうか
は、国民の幸福追求の権利を保障する憲法の精神に則り、あるいは少なくとも原子炉等規
制法第二四条の「災害の防止上支障のないこと」という規定に遡つて考える必要があると
いわなければならない。
二、原子力発電所のエネルギー効率と温排水の影響
1「もんじゆ」も含め、原子力発電では、原子炉内で発生する全エネルギーのうち、電
気エネルギーに変換される割合は三三%程度であり、残りの六七%程度のエネルギーは、
タービンを回した後の水蒸気を再び水に戻すための復水路を通じて摂氏七度上昇した温排
水として海水中に捨てられる「もんじゆ」に即していえば、原子炉の熱出力は約七一・。

万キロワツト、電気出力は発電端で約二八万キロワツトであるから、約四〇万キロワツト
を超えるエネルギーが温排水の形で海中に放出拡散される。
2摂氏七度上昇の温排水が、摂氏二度上昇の水温に冷却されるまでには、大気への放熱
を無視すると、取水量の約二・五倍の水が下層水から温排水中に引き込まれ、加えて深層
から取水が行われるために底層には沖合から岸に向う冷水の流れが生じ、表層域での温排
水の影響に対して低層には冷水による生物への影響が生じる。
熱排水によつて気温、温度、降水量、視程、霧の発生等気象に及ぼす変化が推定され、
、、現実に福島原子力発電所の近海では五月~八月の霧の発生日数が増加したといわれまた
島根原子力発電所では、密度の異なる温排水と冷水が接することによる“うるみ現象”が
生じ、船上から海底を見ると像がぼけたり歪んだりして、船上からの採貝採藻等の漁業作
業を困難にしている。
3周知の如くもんじゆ建設地の白木地区を含む僅々東西五〇キロメートルの若狭湾岸一
帯には、既に一一基合計七九三万キロワツトの原子力発電所が設置され、そこから排出さ
れる温排水量は毎秒五四一トンに上る計算となる。もんじゆが排出するエネルギーだけで
も、一キロワツトの電熱器を前面海域に四〇万個並べて四六時中つけ放しにした状態に等
しいことを考えれば、新増設の敦賀二号機(一一六万キロワツト)と相俟つて、若狭湾岸
一帯の温排水の熱エネルギー公害が、周辺地域の気象条件の変動の可能性をも含めて、危
機的状況に立至るおそれのあることが容易に理解されるであろう。
4しかも、近時の調査(昭和六〇年六月一九日付毎日新聞の内浦海域の調査結果)によ
れば、従来いわれたように温排水の拡散域を表層程度だけで論じることは不合理で、高浜
三号炉、四号炉の温排水の影響を受ける内浦海域の放水口から約二キロメートル以遠で、
水面から五~九メートルの中層水温が最高一一度C台となり、一~五メートルの表層水温
や一〇メートル以下の下層水温よりも三度近くも高くなつている現象が初めて観測された
と福井県水産試験場によつて報告されている。温排水の周辺海域に及ぼす影響は、従来い
われてきたよりもはるかに深刻であることが明らかにされつつあるのである。
三、温排水中の放射能汚染物質の遺伝的影響
1温排水問題は、単に原子力発電所前面海域の温度上昇のみに尽きるわけではない。放
出される温排水の中には、発電所で働いている労働者の放射能で汚染された被服の洗濯排
水や生洗水が混合されて放出されており、昭和五六年には敦賀原発において放射能もれに
よつて汚染された水がそのまま排出されることもあつた。すべてがベールに蔽われている
ので必ずしもその全容が明らかになつているわけではないが、原子力発電所による水産生
物の汚染は、福島県、福井県で早い時期から明らかにされ、しかも確実に進行している。
2わが国においては、原子力発電所は必ず海岸に接して建設地が求められるので、隣接
する海面の漁業権を温排水の影響域、
あるいは取放水による危険海域として原子力発電所が全部買い占めているのが実情であ
る。
そして、この漁業権放棄の海域面積とか、放水口からの温排水影響距離の推定が、原子力
発電と漁業を考えるうえでの中心問題であるかのように置きかえられている。わが国にお
ける温排水拡散推定には、これまで新田の式、平野の式、和田の式が議論をまき起こして
きたが、これらの式によつて推定される海域は、生物への影響を示すものではない。温排
水の影響域に関して重要な問題は、推定海域の大小よりも、むしろ原子力発電所が抱えて
いる海洋に放出される放射性物質と水産生物及び自然海域で複雑に挙動する温排水と水産
生物の生産との関係なのである。
3これまで国は、原子力発電と漁業活動との同一海域における共存共栄が温排水の有効
利用によつて可能であるかのように宣伝し、福井県でも、この温排水のエネルギーを漁業
生産の増大につながる事業に用い、斜陽化した隣接漁業者の生産の回復策にしようとする
ビジヨンを描いた。
昭和四五年の水産庁の調査によつて、既にコバルト六〇をはじめとする放射性核種が敦賀
原子力発電所放水口周辺に生息する海洋生物から検出されていたが、たまたま魚類から放
射性物質が検出されなかつたので、水産庁は浦底湾での養魚のみならず、各地方の原子力
発電予定地に対して温排水の利用を奨励してきた。しかし、その後の京大漁業災害研究グ
ループの追跡調査によれば、食物連鎖の過程を通じて、浦底湾の海洋生物には確定的に、
しかも予想を超えて放射性物質による汚染濃縮が進行しつつあることが明らかになつてい
る。そして今後も原子力発電所からの放射性物質の放出が続くかぎり、海洋生物の汚染レ
ベルを現在以下に維持することは期待できないことが明らかである。
同様の調査結果は、福島第一原発周辺及びスリーマイル島原発事故によるサスケハナ川及
び下流海域の放射能汚染状況の調査によつても明らかにされており、温排水による放射能
汚染は世界的規模の拡がりを示している。原子力発電所の温排水の深刻な世代を超えた遺
伝的影響をもたらす危険性を無視してこれ以上安易に原子力発電所が建設・運転されるこ
とを許容することは、到底許されないものといわざるをえない。
四、温排水による生態系の破壊
1水産生物と水温との関係
一般に水産生物は温度に対する適応範囲が狭く、水温に敏感に反応し、
生理や行動が水温に規制されることが多い。水産生物が生存しうる高温致死温度と低温致
死温度との中間領域は極く狭いものであり、致死温度は種、発育段階、順化温度等によつ
。、、て変化するまた高温致死温度と低温致死温度の間では五〇%以上の生物が存在するが
全範囲で健康に生存するわけではない。動物では、生殖期や幼生期に、植物では胞子期に
弱く、致死的な影響を受けない場合でも奇形の発生率が増加する等の影響を受けやすい。
温排水問題については、生物に対する致死的効果のみに注目する傾向があるが、単に成体
の致死温度と排水の温度を比較して「温排水の影響はない」等ということはできないの、

ある。
日本海の春二シンは、昔大量にとれていたが、現在は全滅している。このニシンの全滅と
水温上昇との間に関係があり、その水温の上昇は年平均で摂氏〇・七度であるといわれて
いる。自然界では、このような一度C以下の小さな水温変化でも生態系のバランスが破壊
されるのである。
2排水路通過による稚子・魚卵の死滅
(一)原子力発電所の復水系冷却水の取水口から取り込まれた海水は、いくつかのスク
リーンやトラベルスクリーンを通過する。この際やや大きな生物は、細片となる。また、
プランクトン等の小生物は、スクリーンやポンプ内の水流や加圧による物理的なシヨツク
を受ける。冷却水は復水器に送水されて細管の中を秒速一・五~二メートルで流れ、四~
九秒間に八~一四度C昇温され、ここで冷却水とともに取り込まれたプランクトン等の小
生物は、急激な温度上昇を被る。
一方、取水路や復水器に付着する生物やスライムを防止するために、塩素ガスや次亜塩素
酸ソーダが注入され、さらに腐蝕防止剤、洗剤等が混入される。かくして温排水中に取り
込まれた魚類、稚子、魚卵、プランクトン等の水産生物は、物理的、化学的各種のシヨツ
クによつて壊滅的な影響を受けざるをえないのである。
(二)魚類の温度による死亡率は、高温にさらされる時間に左右される。発電所からの
温排水が海中に放出されるまでには長い排水路を通るから、この距離が長いほど魚は高温
にさらされることになる。たとえば、コネテイ力ツトヤンキー発電所では、この排水路の
長さは、一・八三キロメートルである。取水口と排水口での温度差が六度Cの場合には、
稚子の生存率は七・五パーセントであつたが、出力を全開にして温度変化を一二度Cとす
ると、
最高温度二八度Cで、生存率は零になる。
また、一九七五年にアメリカの原子力委員会と環境保護庁共催のシンポジウム「漁業とエ
ネルギー生産」で発表された研究結果によると、アメリカ各地の冷却水の取り込みによる
魚卵、稚子の死亡率は一〇〇パーセントに至るものも多く存在し、死亡要因は機械的ダメ
ージが八〇パーセント、高温によるものが二〇パーセントであるとされている。
わが国の原子力発電所で同種の調査をすれば、右とほぼ同じ結果が得られることは明らか
であり、二〇〇海里時代に入つた漁場の将来を考えると、漁業資源へのはかりしれない影
響が心配される。
3温排水のその他の水産生物に及ぼす影響
温排水が水産生物に及ぼす影響は、その水産生物の生活様式、特に移動性の有無によつて
。、、大きな差異を生ずる海藻等の非移動性植物は放水口からの温排水の影響を受けやすく
特に魚類の産卵場や育成場として重要な役割を果すアマモ場やガラモ場等の藻場の海藻類
が衰退する等の被害が生じている。マイアミの発電所では、アマモ場を形成するリユウキ
ウスガモの群落が四〇〇メートル離れた所では、九一パーセントが枯死、八〇〇メートル
離れたところでは四八パーセント枯死、二〇パーセントが不健全であつたといい、敦賀原
発のある浦底湾でも、放水口から二〇〇メートルの範囲ではアマモが減少していることが
報告されている。また各地の発電所周辺で海藻群集の優占種の交代が報告されているが、
これは、ある種が枯死するからではなく、より高温に強い他の種に排除されるためと考え
られる。このような藻場の衰退や優占種の交代は、藻場という一つの植物群集の問題に止
まらず、長期的視野に立てば、水産資源の衰退と変質に大きな関わりをもつに至るという
ことが、生態学者によつて指摘されるところである。
4生態系の破壊と変質
温排水は、右のとおり沿岸の環境を変え、水産生物群集に変化を与え、さらに環境と生物
の間の相互作用、生物と生物の相互作用によつて変動は変動を呼び、生態系は平衡関係に
達するまで遷移していく。この生態系の変質と、それがわれわれの生活領域に及ぼす影響
こそが温排水問題の本質的な課題であるが、このような生態系の変質過程は極めて複雑か
つ多岐にわたり、その解明は将来の研究にまつほかはないのである。それ故にこそ、温排
水問題が「原子炉施設の安全性「放射性廃棄物の処理」と並んで、」
原子力推進の三大難問の一つに掲げられ、世界的にも温排水の影響についての研究が開始
されているのである。
五、結論
以上の主張から明らかなとおり、温排水のもたらす各種の深刻な影響を無視してなされた
本件許可処分は無効である。
第三労働者被曝の危険性
一、原子力産業の労働者被曝の実態
1原子力産業労働の特質
原子力産業で働く労働者の労働は、他の産業とは異質である。日常的に不可視的な外部か
らの放射線を浴び、あるいは放射能を吸い込み、体外、体内両面からの放射線被曝による
障害を受ける危険性を不断に担つている労働だからである。
2資源エネルギー庁の被曝データー
資源エネルギー庁から毎年九月に公表される被曝データーによれば、わが国での原発での
各年度の総被曝線量は次のとおりである。
労働者数総被曝線量(人・レム)
一九七〇年度二、四九八五六一
一九七一年度五、二四三一、二六五
一九七二年度五、八〇九一、八九七
一九七三年度八、四七二二、六九六
一九七四年度一二、三五八三、一二七
一九七五年度一六、〇八〇四、九九八
一九七六年度一九、七九六六、二四一
一九七七年度二五、三六二八、一二六
一九七八年度三四、一五五一三、二〇一
一九七九年度三四、二五四一一、七三一
一九八〇年度三五、九五四一二、九三三
一九八一年度四〇、五三二一二、八八三
一九八二年度四〇、六二九一二、六九七
一九八三年度四六、四三九一一、八六七
一九八三年までに原発労働者が被曝した放射線量の総計は一〇万四二二二人レムにも達し
ており、この間に被曝を受けた労働者の総数は、実に三二万七五八一人にもなつているの
である。
3下請労働者への被曝のしわよせ
右のデータから明らかなとおり、近年労働者被曝の数値は急増の傾向を示し、その中でも
表16にみられるとおり下請労働者への被曝の集中化が相変らず顕著であり「社員外」、

働者の占める割合は、人数では八四・四%、総被曝線量で九四%にも達し、〇・五レム以
上の高線量被曝者も下請七九七三人に対し、社員は三六八人であり、
二・五レム以上の被曝者一八五人のうち一八四人が下請労働者である。
4危険業務への下請労働者の投入
原発が運転している時にも、専門的技術的作業を除く多くの作業に下請の労働者が従事し
ている。汚染の除去、汚染物の洗濯、日常的に出てくる放射性廃棄物の積み出し、工場内
外の掃除等々、放射線被曝を受けやすい仕事に携るのは臨時雇いの下請労働者である。
定期検査、点検、事故等でいつたん原子炉を停止すると下請労働者は急増する。運転、保
守に関係する技術的作業は“社員”が直接やるにしても、燃料棒の装荷、使用済燃料棒の
取出し、補修修理、修理前修理後の除染、廃棄物の処理等、最も危険な業務には下請労働
者が大量に投入される。
一九七〇年度から八二年度にかけての一三年間に電力会社の社員の平均的被曝線量が五
五%に低減しているのに対し、下請労働者の平均被曝線量が一・七四倍にも増加している
事実は、まさに下請労働者へのしわよせを雄弁に物語るものがある。
二、労働者被曝急増の要因
1運転年数と汚染の増大
一九七〇年度から八二年度の間に、わが国の原子炉数は四基から二四基へと六倍にふえ、
総発電量も一三倍に伸びたのに対し、総被曝線量は二三倍にも増加した。このような炉数
や総発電量の伸びをはるかに上回る総被曝線量の急増は、運転すればするほど進行する炉
の汚染と密接に関係している。
一九八〇年の参議院における政府答弁によれば、五年以上の運転歴をもつ原子炉の一〇〇
万KW当りの平均被曝線量が二二五九人レムであるのに対し、二ないし五年の運転歴の原
、。、子炉では一三三八人レム二年未満の運転歴の原子炉では一五四人レムである原子炉は
二年も運転すれば年間被曝線量が激増し、五年以上たてばさらに被曝が増大するという、
運転年数と汚染の増大(被曝線量の増大)との相関関係は極めて明白なのである。
2管理者の無責任と商業主義による過度の運転実績追求
労働者被曝増加の要因は、右のとおり主として原発施設内の放射能レベルの上昇と中小事
故等による作業員の増加、作業時間の長期化によるものであるが、施設の責任者が放射能
に対する基本原則を軽んじ、現在の未熟な原子力及びその関係技術に過大な評価を与える
ことと、過度な商業主義によるむやみな運転実績の拡大を追求することによつて、被曝の
増加が一層助長されている。
三、
被曝事故の先例と労働者の消耗品扱い
1事故の先例
これまで原子炉施設内の放射線被曝によつて死亡し、または重大な障害を受けた先例とし
て次の報告がなされている。
(1)敦賀原発で被曝し、昭和四九年、三一歳の若さで全身ガンにより死亡したs氏の

(2)敦賀原発で昭和四八年五月二七日に約二時間半のパイプ修理工事に従事した後、
八日目に発症し、翌四九年三月二日、放射線皮膚炎の診断を受けたt氏の例
(3)敦賀原発で昭和四九年一一月から翌五〇年二月まで下請関電興業の作業員として
雑役に従事、放射能汚染除去作業やパイプにつまつたものを取除く作業に携り、この間高
線量の被曝を受け、全身倦怠、頭痛、腰痛等を発病したu氏の例
(4)福島第一原発で東京電力の下請のビル代行で昭和四七年春ごろから翌四八年ごろ
、、、、、、まで汚染区域監視区域の作業員のつけるマスクの洗浄に従事頭痛腰痛足の痛み
血圧上昇等を発病したv氏の例
(5)東電福島第一原発で昭和四五年六月から下請ビル代行で廃棄物処理建屋の作業や
放射能汚染除去作業等に従事、同四六年三月、低血圧と腰痛で入退院を繰返したw氏の例
(6)東電福島第一原発で昭和五〇年一月一六日から九月三〇日まで下請労働者として
就労、同五一年四月二三日、開門部肉腫で死亡したx氏の例
(7)東電福島第一原発の下請阪和保温工業の作業員として、昭和四七年四月から一年
間、放射能をふきとる仕事に従事、同五一年度には就労不可能となり、入退院を繰返した
後、同五二年一〇月八日、骨随性癌で死亡したy氏の例
(8)日本原子力発電株式会社敦賀原発内で被曝し、精神的、肉体的、ならびに経済的
に損失を受けたとして、株式会社ビル代行から、六〇〇万円の補償をさせたz氏の例
2下請労働者の消耗品扱い
右各症例では、いずれも企業責任者は労働者に対して放射線の危険性について教育らしい
教育を施さず、むしろ放射線の恐しさの無知を利用して危険区域での作業に従事させてい
る。そのうえ、社員のように定期的な健康診断がなされているわけでもなく、継続的な被
曝線量のチエツクが行われているわけでもない。
監督官庁の公表データによつてすら、原発内労働者の被曝の急増と下請労働者への被曝の
押しつけは明白であるが、ここでは労働者が文字どおり「消耗品」として扱われているの
である。
四、体内被曝の影響の重大性
原発内で働く労働者が着用するフイルムバツジやポケツト線量計による測定値は、着用す
る位置における体外からの被曝線量しか意味しない。つまり、特定の位置の体外被曝のみ
しか監視されているにすぎないのである。汚染された現場での作業の場合、手足の被曝線
量はずつと大きいし、体内に入つた放射性核種による体内被曝は、部位によつては、体外
被曝よりはるかに大きいものになる。
にもかかわらず、体内被曝線量の測定は行われていないし、そもそもこれを的確に測る計
器も方法も未開発である。
原子炉内で生み出される人工放射能核種の中には、生体内に取り込まれやすく、かつ著し
い濃縮を示すものが多い。ヨウ素一三一、ストロンチウム九〇等が好例である。
天然ヨウ素やストロンチウムは非放射性であるから、生体内で濃縮されても何らの害もな
いが、人類が人工放射性のものをつくり出すと様相は一変し、食物連鎖を通じて高度に濃
縮され、体内被曝の障害を発生させるのである。
五、低線量放射線の影響の重大性
1ICRPの勧告値
かかる被曝労働者の大部分は、原発施設周辺から雇われた下請労働者である。彼らは被曝
管理上、職業人として取扱われ、一般公衆の被曝の基準である年間〇・五レムの基準は適
用されず、その十倍の年間五レムが適用されることになる。
このICRPの勧告値は、その前身である「国際X線及びラジウム委員会」時代からみる
と、放射線規制に関する勧告値から次々と改められてきたのであり、職業人については、
一九三一年の年間七三レムから、三六年に五〇レム、四八年に二五レム、五四年に一五レ
ムとなり、五八年には年間五レムと、僅か三〇年弱の間に一五分の一までに引き下げられ
てきた。これに対し、一般公衆への勧告値は一九五四年はじめに登場し、年間一・五レム
が勧告され、四年後「線量限度」という考え方で放射線作業従事者の許容量の一〇分の、
一、
つまり〇・五レムに勧告が改められた。
2しきい値の不存在
このように勧告値が年を追つて切り下げられてきた主な理由は、放射線の研究が進むにつ
れて、低い線量であつても危険であることが判明したからにほかならない。一九五八年の
勧告値も、その意味で当時までに判明していた事実をふまえた一つの目安量でしかなく、
十分な科学的根拠があつて出されたものではない。放射線の危険性については、
第二部で詳述したとおりであり「これ以下なら安全というしきい値は存在しない」ので、

る。
それにもかかわらず、労働者被曝が右にみたように急増していることは、原子力発電所が
いかに危険なものであるかを、如実に示すものである。
六、労働者被曝と住民被曝
このような労働者被曝の急増は、原子力発電所施設周辺住民全体への被曝の線量を、一挙
に一〇倍にも数十倍にも増加させる。
遺伝学的にみれば、ある集団中の突然変異遺伝子の頻度だけが問題になるので、その集団
中の誰が被曝しようと、数世代という尺度で遺伝的影響を考えれば、労働者被曝は周辺住
民被曝と何ら異なるところはない。したがつて、労働者被曝の問題は、遺伝的障害の観点
から見れば、個々の労働者のみの問題と考えることはできず、その被曝労働者が生活する
地域住民集団全体の被曝線量をその分だけ増加させることを意味し、原子力発電所施設周
辺住民は、等しく労働者被曝によつて、日常的被曝の危険性を増大させられることになる
のである。
したがつて、原告らは、労働者被曝の点についても司法審査を受ける利益を有するもので
ある。
第四平常時被曝の危険性
一、はじめに
「もんじゆ」が建設・運転されれば、日常的に放射性気体廃棄物と放射性液体廃棄物が環
境中に放出される。原告ら住民はそれによつて直接的に、または環境を通じて間接的に健
康・生命に害を加えられる。
、、本件許可処分をなすにあたつての放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物に関する評価
審査は次に述べるように、重大な瑕疵を有するものであり、本件許可処分は無効である。
二、平常時の放射性気体廃棄物に関する評価及び審査の違法性
1放射性気体廃棄物の放出放射能量推定の欺瞞
(一)計算式、計算条件の根拠不存在
本件許可処分にあたつては「もんじゆ」より環境に放出される気体廃棄物は、希ガス及、

ヨウ素であり、希ガスについては年間約二三〇〇キユーリー、ヨウ素の年間放出量は、ヨ
ウ素一三一約〇・〇〇四一キユーリー、ヨウ素一三三約〇・〇〇〇四キユーリーと仮定さ
れている。
しかし、その放出過程や放出量計算にあたつての数値や計算式は、全く恣意的であり、あ
るいは根拠を欠き、さらに必須の放射性物質の環境放出を無視したもので、平常時の気体
廃棄物の放出量を正確に推定したものとはとうてい認められない。
したがつて、本件許可処分は、
原告ら周辺住民に対し、放射性障害という著しい災害を及ぼす恐れがあり、原子炉等規制
法第二四条一項四号に違反する。
(二)燃料被覆管欠陥率推定の恣意性
気体廃棄物中の主な放射性物質は、燃料要素に欠陥がある場合に一次冷却材中へ漏出した
後、一次アルゴンガス系カバーガス中へ移行した核分裂生成物のうちの希ガス及びヨウ素
である。安全審査書は、この燃料被覆管欠陥率を、海外高速増殖炉における燃料被覆欠陥
の程度等の実績を参考としたとして一%とする。
しかし、この一%という欠陥率は、いかなる海外高速増殖炉の実績を参考にしたか不明で
あるばかりでなく、わが国における先行の軽水炉(たとえば伊方原子力発電所一号炉)と
同じ値なのであるが、これは、高速増殖炉と軽水炉の燃料棒の平常運転時の苛酷な状態の
差異を無視したもので、右数値はとうてい根拠を有するとはいえない。
たとええば、同じ一〇〇万KWの電気出力のある軽水炉と高速増殖炉を比較してみると、
炉心の出力密度が一リツトルあたり軽水炉三五ないし九〇KWなのに対し、高速増殖炉で
は二五〇ないし五〇〇KWに至る。炉心温度についても、被覆材最高温度が軽水炉では三
一五度Cなのに対し、高速増殖炉では六二〇ないし七〇〇度Cに達し、その状態の差異が
歴然としている。また、高速増殖炉では、冷却材に反応性・腐蝕性の強い液体ナトリウム
を使用しており、被覆管は長時間にわたる浸漬により疲弊は激しい。
にもかかわらず、これらの点を考慮することなく、全く無根拠に燃料被覆管欠陥率を一%
、、、、と措定して計算された放射性気体廃棄物量は全く恣意的仮定的なものでしたがつて
原告らを含む付近住民の生命健康に重大な災害をもたらすおそれが明白であり、それに留
意を払うことなくされた許可処分には重大な違法があるというべきである。
(三)一次アルゴンガス系カバーガス中の放射性物質の濃度の計算の恣意性
放射性気体廃棄物の放出量は、一次アルゴンガス系カバーガス中に含まれる放射性物質の
濃度により大きく左右される。この一次アルゴンガス系カバーガスは循環使用されるゆえ
に、常温活性炭吸着装置及び希ガス除去・回収設備によつて放射性の希ガス(キセノン、
クリプトン)を除去し、その濃度を下げている。浄化前と後では、その濃度に核種によつ
ては10の三乗から一〇乗のケタの違いが生じていることに計算上なつていた。
ところが、
一九八五年二月一八日訴外動燃は、建設費用低減のためカバーガスの希ガス除去・回収設
備を全面撤去するという設計変更を申請した。
、、、この変更によつて一次アルゴンガス中の放射性物質の濃度が増え当然そのことにより
たとえば半減期の長いクリプトン八五(半減期約一〇年)の環境放出量は二〇倍以上増え
る計算になるはずだが、被告動燃は変更申請中でパラメーターを操作したり減衰期間を長
、。くとるなどしてむしろ全体としての放射能年間放出量の推定値を減らしているのである
このように一次アルゴンガス系カバーガスの放射性物質の濃度の推定値は、パラメーター
を操作することで容易に変更しうる、科学的客観的な計算に基づかないものであり、計算
条件を変えることにより結果を操作するという恣意的な値であるゆえにとうてい信頼する
に足りず、ひいては原告らを含む周辺住民の生命健康を放射能障害の脅威にさらすもので
あつて、本件許可処分は違法である。
(四)原子炉格納施設の換気により放出される放射能量推定の過小評価
訴外動燃の設置許可申請書によれば、原子炉格納施設換気による放出回数は年間一〇回と
している。しかしながら、原子炉格納容器の換気は、補修作業や燃料取替え作業、定期点
、、検作業等に先立つて行われるものであるところ原子力発電所の事故その他が続発すれば
補修作業の回数は増加し、格納施設換気回数もそれだけ増加する。したがつて、定期点検
及び燃料取替作業等の回数は決つており、そのほかに補修作業等に先立つ換気回数を合わ
、。、せて一〇回とすることには何らの根拠もないといわなければならない安全審査書では
先行軽水炉の最近の運転実績等を参考にしたと述べられているが、ここでも軽水炉と高速
増殖炉の単純な比較をしており、高速増殖炉の場合には、より安全側に立つて、補修回数
。、。を定めるべきである換気回数が増えればそれだけ放出放射能量は増加することになる
2放射性気体廃棄物による一般公衆の被曝線量評価の誤り
(一)気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の計算は、排気筒から放出され、拡散
移動する放射性雲からのガンマ線による外部全身被曝線量を対象に行われ、周辺監視区域
外の最大となる場所において、年間約〇・〇七四ミリレムとされている。しかしこの評価
値は、その計算過程において問題があり、正しく被曝評価がなされていない。
(二)大気中の放射性物質の濃度分布の推定においてパスキル拡散式を適用する。しか
しながら、パスキル拡散式は、平坦な地形に煙突が立つている場合、その煙突からの煙が
どのように拡散するかを煙突の高さとの関係で算出しようとする式であり、その際の濃度
分布はいわゆる裾広がりに拡散することを仮定して算定するが「もんじゆ」の設置場所、

ある敦賀市白木地区のように、背後に山地を控え、その山に囲まれるようにして炉心より
約一・三キロメートルのところに白木の集落がある、というような複雑な地形では適用が
できないものである。適切な現地実験が求められるにもかかわらず、パスキルの拡散式で
大気中の濃度を求め、それを基礎に全身被曝線量を計算しているのは、実際の濃度との間
に数倍ないし数十倍の相違がありうることが当然考えられ、訴外動燃の計算値は信頼する
に足らないものである。
(三)大気中の濃度計算では、風がほとんどない静穏時の拡散を有風時におきかえて計
算している。静穏時では、放射性雲が停滞したり、ゆつくりと往復したりするので、全身
被曝が増大することは明らかであるにもかかわらず、合理的な根拠もなく、有風時とおき
かえ計算しているのは、全く不当であり、実際の被曝線量はより高いものと考えられる。
3環境中に放出された粒子状放射性物質の無視の誤り
()、、、、一平常運転中原子力発電所はコバルト六〇マンガン五四ストロンチウム九〇
セシウム一三七等々多くの種類の微粒子状放射性物質を放出する。これらの微粒子状放射
性物質は、半減期は長く、かつ人体に取り込まれやすいので、長期間にわたつて人体に蓄
積されたうえ、放射線を出し続け、人体に対し著しい障害を及ぼす。
(二)被告総理大臣は、本件許可処分に際して、これらの粒子状放射性物質による被曝
線量は極めて小さい寄与しか与えていないので評価対象から除外するとしているが、微粒
子状放射性物質は、外部被曝のみならず人体内部にとりこまれて内部被曝をひきおこすゆ
えに、これらの放射線管理を全く無視することは不当であり、これを被曝評価に含めてい
ないことは、重大な違法といわざるを得ない。
三、平常時の放射性液体廃棄物に関する評価及び審査の違法性
1放射性液体廃棄物の放出量及び核種推定の欺瞞
(一)液体廃棄物放出量及び放出放射能量計算の根拠不存在
設置許可申請書によれば、
液体廃棄物の年間放出量の計算値は約三五〇〇立方メートルであり、放射性物質の年間放
出量はトリチウムを除き〇・二キユーリー、トリチウムについては二五〇キユーリーとし
ている。
しかし、それらの数値は仮定的なものであり、その根拠が示されておらず、その意味で恣
意的とさえいいうる。
(二)仮定条件の恣意性
(1)共通保修設備廃液の発生量に対して、処理後再使用されずに放出される量が二〇

程度とされているが、この値の根拠は不明である。
(2)液体廃棄物中の放射性物質混入の主因たる燃料被覆管欠陥率が一%とされている
ことの不当性は前述した。
(3)液体廃棄物中の放出核種とその構成比についても、その根拠が示されていない。
(4)トリチウムについての放出量二五〇キユーリーについては、海外高速増殖炉の実
績を参考にしているというが、いかなる高速増殖炉でのいかなる実績か、それが参考する
に足るものか明確にされていない。
2液体廃棄物による被曝評価の誤り
(一)濃縮係数の非現実性
海水中の放射性物質が、海棲生物に取り込まれれば濃縮が起こる。この濃縮割合を知るた
めの係数が濃縮係数であつて、海水中放射性物質濃度に濃縮係数を乗じると、海棲生物体
内の放射性物質濃度が推定される。
したがつて、被曝評価にあたつて、この濃縮係数が重要な意義を持つが、現在まで濃縮係
数について定義がなく、研究段階にあると考えるべきであり、訴外動燃の利用した係数も
、、。仮定的なものであつてしたがつて本件許可処分にあたつての被曝評価も現実性がない
(二)海産物摂取量についての誤り
液体廃棄物中の放射性物質は、海産物摂取により体内にとり込まれる。安全審査書では、
許可申請書における被曝線量計算値が「線量評価指針」に示された方法によりなされてい
るとする。
「線量評価指針」では、海産物摂取につき、施設周辺の集落における食生活の態様等が標
準的である人を対象として現実的と考えられる計算方法及びパラメーターにより行うもの
としている。つまり、海産物摂取量は、周辺住民の中でも標準的なものを対象とし、極端
な摂取をする極めて少数の住民は対象としないということである。
つまり、極端に海産物を摂取している漁業者などの人々の安全は視野の中におかれていな
いことになる。安全性評価にあたり何故に平均的摂取量を基準とするのかが示されていな
い。
原子力発電所の設置にあたつては、被曝線量をできるだけ現実的なものとするため、少な
くともこの海産物摂取量の調査程度はなすべきであり、その上で安全側に立つた評価をな
すべきである。実態調査も経ず、安全側に立つたとはいえない被曝評価の上になされた本
、、。件許可処分は非現実的であり実態を反映するものとはとうていいいえないものである
3放射性液体廃棄物による外部被曝線量評価の欠如
本件許可処分において、被曝評価は内部被曝線量評価はなしたが、外部被曝線量評価は行
つていない。しかしながら、放射性液体廃棄物にあつても、海岸の砂、漁網、海面、海水
中、船体などから、人体に対してガンマ線による外部被曝を及ぼし、それらの被曝評価を
全く無視した安全審査書における被曝評価は、過小評価されたものである。
四、結論
以上「もんじゆ」の設置許可申請書及び安全審査書における周辺住民の被曝評価額値の、

題のいくつかを指摘したが、平常時において確実に住民が被曝する線量評価において、過
小評価され、あるいは部分的に無視された評価値は、とうてい信頼に足るものでなく、周
辺住民に重大な放射線障害を与えるおそれが十分ある。本件許可処分は重大な違法がある
故に無効である。
第五福井地域における原子力発電所の集中化について
一、若狭湾沿岸地域における原子力発電所集中立地の実態
1集中立地の実態
(一)福井県若狭湾沿岸においては、一九七一年敦賀一号炉、美浜一号炉が営業運転を
開始して以降、一九七九年までに九基、電気出力六一九万KWの原子力発電設備が稼働す
るに至つた。
この時点で若狭湾岸地方は、わが国最大の原子炉集中地となつた。その後事故故障の続発
による信頼性の低下と住民運動の高揚によつて新増設は全国的に一時停滞したが、電源三
法をはじめいわゆる「円滑化の施策」によつて原子力発電所設置の動きが再び促進される
ことになつた。この新増設の動きは、若狭湾沿岸地域でも活発となり、一九八五年に高浜
四号炉が営業運転に入り、若狭湾沿岸の原子力発電設備は一一基七九三万KWとなつた。
さらに、現在建設中の敦賀二号炉と本訴訟の対象である「もんじゆ」が完成すると、同地
域の原子力発電設備は一三基九三七万KWとなり関西電力が計画中の大飯三四号炉安、、(
全審査中)が建設されると、一五基一一七三万KWとなり、若狭湾沿岸地域は一大原子力
発電基地となる。
(二)一九八五年七月におけるわが国の原子力発電設備は三〇基二一五九・六万KWで
あり、若狭湾沿岸の原子力発電設備はその約三七%を占め、同地域はわが国最大の原発集
中地である。
同地域の原子力発電は、世界的にみても世界の原子力発電総設備の約三・五%を占め、現
在世界第五位の西独の一三基一二八七万KW(一九八四年六月)に匹敵する。
以上にみたような一地域=幅五〇数キロメートルの若狭湾沿岸への原子力発電所の集中化
は、わが国だけでなく世界的にも類をみないきわめて異例の状態である。また、電力需要
の停滞している中で、このように一地域に集中し、なお一層増設が進められることはきわ
めて異常な事態である。
2設備の巨大化、短期間のスケールアツプ
一若狭湾沿岸において原子力発電所の設置が最初に申請された一九六五年一〇月敦()(
賀一号炉)から九基目の大飯一、二号炉の設置が申請された一九七一年一月までの約六年
間に、原子炉の規模は電気出力で三五・七万KWから一一七・五万KWまで、三倍以上に
スケールアツプされた。最近は、八〇万KW級と一一〇万KW級が原子力発電所の標準的
規模となつている。
若狭湾沿岸地方に原子力発電所が設置され始めた当時、わが国には軽水炉の設計、建設、
運転の経験は皆無であり、九基目の大飯一、二号炉の設置が許可された一九七二年は、す
でに運転中であつた敦賀一号炉、美浜一号炉で放射性物質の漏洩や蒸気発生器細管の損傷
など予期されていなかつたトラブルが発生し、原子力発電技術が未完成のものであること
が実際に示され始めていた。
(二)このように、未経験で未完成の技術に基づく原子力発電設備を短期間に一挙にス
ケールアツプし、しかもその間に行われた安全審査ではわずか五~六ケ月の間に「安全」
を「確認」していることは、技術的ルールを無視した開発であり、住民の安全の軽視とい
わざるをえない。
3原子炉型の多様化
(一)仮に「もんじゆ」が建設、運転されたとすると、若狭湾沿岸地方に集中した原子
力発電施設はその炉型式においても設置者においてもきわめて多様である。
日本原子力発電株式会社の敦賀一号炉は、アメリカ直輸入(GE)の旧形式の沸騰水型軽
、、、、、、、、、水炉であり関西電力株式会社の美浜一二三号炉高浜一二三四号炉大飯一
二号炉及び日本原子力発電株式会社の敦賀二号炉は、加圧水型軽水炉である。
以上はすべて濃縮ウランを燃料として軽水減速、軽水冷却の熱中性子炉である。訴外動燃
の新型転換炉「ふげん」はわが国の設計による重水減速、軽水冷却の熱中性子炉である。
「もんじゆ」は、訴外動燃によつて設計、建設される新型炉で、軽水炉及び新型転換炉と
は全く異なる型式の炉であり、濃縮ウラン及びプルトニウムを燃料とし金属ナトリウム冷
却の高速中性子炉である。
(二)このように若狭湾沿岸地方は、日本原子力発電、関西電力、訴外動燃が設置する
多種多様な炉型式の原子力発電施設の集中地である。その出力も「ふげん」の一六・五万
KWから大飯一、二号の一一七・五万KWにわたつている。このことを前述の技術的未経
験及び短期間の巨大化の事実と合わせ考えると、若狭湾岸地域はわが国における巨大な原
子力発電実験基地といわざるをえない。
二、原子力発電所の集中立地がもたらす諸問題
1事故、故障の続発
わが国の原子力発電所が稼働し始めて以来、さまざまな事故、故障が続発してきたが、原
子力発電所の大集中地若狭湾沿岸においても、多くの事故、故障が起きている。事故、故
障の内容も多様であるが、代表的な事故、故障をいくつかあげると次のとおりである。
(一)美浜一号炉の蒸気発生器細管損傷(一九七二年~(第四部第三、九で前述))
蒸気発生器細管の腐蝕・応力腐蝕割れは、若狭湾沿岸の加圧水型炉のすべてで頻発し、稼
働率低下の大きな原因となつている。
(二)美浜一号炉における燃料棒折損(一九七三年(第四部第三、九で前述))
三年間発表されなかつたため事故隠しとして問題となつた。
(三)大飯一号炉の緊急炉心冷却装置作動事故(一九七九年)
配線の絶縁不良による誤信号と主蒸気逃し弁の材質不良が重なつて、緊急炉心冷却装置が
誤作動を起こし、約二〇トンの水が炉心に注入された。
(四)高浜二号炉における一次冷却材漏洩事故(一九七九年)
一次冷却水の温度測定用バイパス管予備栓が材質不良のため破損、約八時間の間に八〇
数トンの一次冷却材が格納容器内に漏洩した。
(五)敦賀原発廃棄物処理施設における放射性廃液漏出事故(一九八一年)
漏出廃液が浦底湾を汚染、さらに事故隠しと重なつて大きな社会問題となつた。ずさんな
管理等一〇数個の原因が重なつて起きた。
(六)大飯二号炉圧力容器付属機器粒界割れ(一九八四年)
原子力発電の心臓部である圧力容器関連機器の損傷として重要である。以上の実例の中に
は、スリーマイル島原発事故を再現しかねない重大なものが含まれている。
大きな事故に至らなくとも、蒸気発生器細管の損傷をはじめ、配管類、ポンプ、弁、制御
系の部品等々の材料関係の損傷はきわめて頻繁に起こつている。そのほか制御系をはじめ
回路の故障、燃料棒の曲りやピンホール、格納容器のコンクリートのひび割れ等々原子力
発電施設内のさまざまな部位に多様なトラブルが起こつている。
これらの事故、故障は、炉の新旧を問わずすべての炉で起こつており、そのため一時は設
備利用率が四〇%台に落ち込む結果となつた旧形式の敦賀一号炉は稼働後一四年を経、そ
の老朽化も懸念されている。
小事故やさまざまなトラブルは大事故の前兆となりうるものであることは、スリーマイル
島原発事故の実例においても示されている。若狭湾沿岸のすべての原子炉でさまざまな事
故、故障が続発していることは、この地域に将来、大事故、大災害が起こりうることを暗
示するものである。
最近、水質管理、材料の管理や取替え等々によつて一定の改善がなされたとされ、稼働率
が上昇しているが、軽水炉の基本設計や基本性格は変つておらず、かえつて定期検査の手
抜きなどによる事故も続発するなど、大事故の可能性がますます現実性を持つたものとな
つている。
以上のように、若狭湾沿岸に建設された原子炉は、炉によつて多少の差はあつても、すべ
、、。、、ての原子炉において事故故障が発生しまたその原因も多様であるしたがつて事故
故障の多発は原子炉にとつて避けられないものであつて、原子力技術が全く未完成ないし
完成不可能なものであることを示している。
最近の五年間(一九七九年四月~一九八四年三月)わが国の原発で発生した事故、故障の
件数は、通産省の発表によると一四〇件であるが、このうち若狭湾沿岸の原発に係るもの
は七二件で約五〇%を占める。原子力発電所の集中立地は、同一地域における事故、故障
の件数を確実に増加させ、大事故発生と住民が災害を被る危険性を確実に高めているとい
える。
2地震時における事故発生について
福井県及びその周辺には多くの活断層があり、過去にもマグニチユード七以上の地震がか
なり発生している。高浜三、四号炉の増設の際、
関西電力が実施した「環境影響調査書」においても、福井県が地震活動性の高い地域であ
ることを認めている。福井県近隣が地震予知連絡会議の特定観測地域に指定されているこ
ともこのことを示しているといえよう。
加えて、若狭湾沿岸の一地域に過去約五〇年間地震の発生していない空白域があり、地震
エネルギーが蓄積されている可能性がある。
若狭湾沿岸地方への原子力発電所の集中立地は、大地震発生時に複数原子炉における大事
故の同時発生の危険性を高めている。
3放射性廃棄物の蓄積、環境汚染、放射線被曝
集中する原子力発電所の稼働により、放射性気体廃棄物の同一地域における日常的な放出
総量が増加する。また、温排水とともに排出される放射性液体廃棄物も同一サイト内の原
子炉の増加によりサイト周辺海域に集中放出され汚染度を高める。
固体廃棄物は、ドラム缶につめられて原子力発電所敷地内に保管されているが、その保管
量も集中立地に対応して増加する。一九八四年八月までのドラム缶保管量は、若狭湾沿岸
、、(、)全体で八〇一七七本であり全国の原子力発電所についての総量一三六六六六五本
の約二二%であり、加圧水型炉を用いた原子力発電所についてみると、関西電力の加圧水
型炉についての保管量五三、六八六本は全国の七三%にあたる。
若狭湾沿岸の原子力発電所における労働者の放射線被曝線量は、全国における総被曝線量
、。、の三〇数%を占め集中立地に対応する被曝線量であることを示している原発労働者は
建設地周辺だけから雇用さるとは限らないが、若狭湾沿岸地方からの雇用数もかなりある
ものとみられる。
原子力発電所の集中立地は、周辺住民の日常的な被曝線量、事故時における環境の汚染と
被曝線量を増加させ、ガンの発生率の増加等住民の健康に著しい影響を与える可能性があ
る。
原子炉の寿命は明らかではないが、寿命のつきた原子炉は廃炉となる。原子炉の集中地は
必然的に廃炉の集中地となり、その安全管理や跡地の処置が問題となる。廃炉は解体撤去
し、跡地に再び原子炉を設置するといわれているが、もしこの方針が実施されるならば、
原子力発電所の集中立地地域は再び集中地となり、原告ら住民は永久に危険から逃れられ
ないことになる。
4温排水
原子力発電所において発生した熱の約三分の二は、温排水として周辺海域に放出されてい
る。
取水した周辺海域の海水より約七度C高いいわゆる温排水が敦賀(ふげんを含む)美浜、
大飯及び高浜の各発電所から若狭湾に向け集中的に放出されている。各発電所からの放出
量は全出力で運転中に合計五四一トン/秒にものぼる。
この放出量を河川の流量と比較するならば、福井県の最大の河川である九頭龍川の年平均
流量(一五〇トン/秒)の約三・六倍、わが国最大の河川信濃川の流量(年平均六四〇ト
ン秒)に匹敵する。さらに「もんじゆ」と計画中の大飯三、四号炉を含めると、温排水、

出量は七〇〇数十トン/秒に達するであろう。
温排水の影響については、第二に述べたとおりである。
5集中立地を促す要因
同一サイトの原子力発電所の集中立地は、設置者である企業にとつては土地取得費が節約
になり、さまざまな設備や労働者の削減等の合理化を可能にする。特に電力多消費地から
遠くない地域における集中立地は企業にとつてきわめて有利なものになると考えられる。
若狭湾沿岸はまさにこの場合に対応している。しかし合理化は、一方で安全管理や周辺住
民の安全にとつてマイナスの要因となる。
同一地域への集中立地は、事故、故障時あるいは定期検査時等原子力発電所の運転停止期
間のバツクアツプを容易にする。また、燃料の輸送や使用済核燃料の搬出などにも有利で
ある。
集中立地の進んだ地域では、原子力発電所の設置を容認したり、また誘致する自治体や住
民の存在により、土地取得や設置の合意を得ることが容易となり、また、設置手続も簡略
化される。これらのことにより集中地は一層の集中化を誘うことになる。
原子力発電所の集中立地は、そこが全国的にみた最適地であるとの理由からではなく、以
上にみたようにその大部分が設置企業の営利上の理由や合意を得やすい条件によるもの
で、
さらにわが国の九電力の分割独占体制がこれを促進している。したがつて、集中立地は地
域住民の真の利益とは無関係のものである。
三、集中立地と地域の社会・経済上の問題
1若狭湾沿岸にみられる原子力発電所の集中立地は、安全性に係る問題だけでなく、こ
の地域の地域開発、住民生活、地方政治等に係る社会・経済的問題に大きな影響を与える
はずである。ところが現実には、原子力発電所の誘致によつて地域の産業の振興を図ると
いう思惑とは違つて、若狭湾沿岸地方の産業の発展はほとんどみられない。
若狭湾沿岸に建設された原子力発電所の生産する電力はほとんど関西地方の電力多消費地
帯に送電され、設置した地域は単なる発電基地としての役割しか果していない。
「距離」こそ安全装置であるとする安全性の立場からすると、原子力発電所の周辺は本来
人口密集地であつてはならない。原子力発電所の誘致によつて周辺地域を開発し、産業を
誘致し、人口の増加をまねくことは、原子力施設周辺に対する安全と本来矛盾する考え方
である。
若狭湾沿岸の原子力発電施設は、関西電力をはじめ設置者が国のエネルギー開発計画と呼
応しつつ関西地方の電力大消費地のために建設したものであつて、設置地周辺の発展のた
めに設置したものではない。
建設の目的と地元の利益の離反を埋めるため、設置者から多額の補償金、協力金等が地元
の住民や自治体に支払われ、一九七四年に電源三法が成立した後は、さらにこの法に基づ
いて「合法的」に原子力発電所の設置と地元の「利益」が引き替えられるようになつた。
電源三法は「金権」による電源開発の基をつくつたといえる。
「」、、、2金権に基づく原子力施設の立地は施設の安全性周辺住民の生命と健康の保障
地域の発展等、原子力発電所設置の可否を判断する本来のあり方による議論を封殺し、専
ら建設の見返りの多寡によつて建設の可否を判断する悪習をつくり出している。このこと
が原発の集中立地を一層進め、同時に自治体財政や住民生活の原子力発電所への依存度を
高める結果となり、その悪循環が地元の将来に暗い影を投げかけている。
住民の反対運動による全国的な原子力発電所の立地難が続く現在、地元の原子力発電所へ
の依存の高まりは、設置者をして安易に既設地域への増設を許す結果となり、集中化は一
層促進される。
補償金、電源三法による交付金、建設時の一時的な雇用の増加、あるいは日常的なパート
的雇用などが関係自治体の財政や住民生活に一定の影響を与えていても、それらは地元に
根づいた安定した地域の発展を意味していないことは、この一〇年の経験が示している。
推進の立場に立つ原子力産業会議の調査の結果も『長期的な地域の振興整備という観点、
からすれば、その経済的効果の多くはきわめて一過性の強いものである』と原子力発電所
による経済的効果の一過性を認めている。
原子力開発をはじめ現在のエネルギー基地構想は、
大量のエネルギーの集中的生産あるいは備蓄という経済性本位の発想に基づいており、福
井、福島、下北半島などにおける原子力施設の集中立地はこのよい例である。
3若狭湾沿岸においては、商業炉の集中立地だけではなく「ふげん「もんじゆ」な、」

のような開発途上の実験炉の実験場の役割も果している。さらに、福井臨港の石油備蓄基
地化、核燃料工場の建設計画など福井県全体がエネルギー基地化の様相を呈している。
福井の経済界も全県を原子力基地化する構想を示しているが、原子力発電所の集中立地は
地域の原子力依存性を強め、際限なく原子力施設の集中化を進め、産業の発展と地域の開
発を困難にする。
若狭湾沿岸は、特に美しいリアス式海岸をもつ有数の観光、保養地である。原子力発電所
の立地は、この地方の風光を害し、観光価値を低下させる。
原子力施設の立地による一過性の強い地域の「振興」は、もし仮に政策転換によつて原子
力開発が衰退した場合、地域に根ざした開発の基礎を欠いているため、きわめて深刻な事
態を引き起こす恐れがある。
以上のように、原子力発電所の集中立地は、地元の発展を妨げ、原発依存と増設の悪循環
が集中立地を一層促進する。また、金権政治が集中立地をうながし、集中立地が金権の温
床となり、地方政治のひずみと腐敗が生み出される。
このように、原子力発電所の建設は、安全性に係る技術的な問題であるとともに、すぐれ
て社会的な問題である。原子力発電所は、環境の放射能あるいは熱汚染とならんで社会的
な汚染の源泉となり、安全論議をくもらせる。
原子力発電所の立地にあたつては、技術的安全性とともに、そのもたらす社会的影響、特
に地域の発展や長期的な地域開発計画との関連を住民の参加の下に十分検討して、立地の
可否を判断すべきである。原子力発電所の立地に際して、この点を審議する機関も制度も
欠いている現在の立地手続きはきわめて不備であるといわざるをえない。
四防災上の問題
1日本の原子力発電所周辺の防災対策
(一)スリーマイル島原子力発電所の衝撃
一九七九年昭和五四年三月に発生した前記スリーマイル島原子力発電所の事故は技()、「
術的見地から起こるとは考えられない事故」が起きてしまつたという意味で、全世界に衝
撃をあたえた。政府は、急遽従来絶対に起こらないとされてきた原子力発電所における事
故が発生してしまつたため、
その防災対策の見直しを迫られ、原子力安全委員会は同年四月に原子力発電所等防災対策
専門部会を設置して、防災対策の検討を始めた。原子力安全委員会は昭和五五年六月、右
専門部会での検討結果を取りまとめた報告に基づき「原子力発電所等周辺の防災対策につ
いて」を決定した。これが前年七月中央防災会議が決定した「原子力発電所等に係る防災
対策上当面とるべき措置について」とともに、以後、日本における原子力発電所等周辺地
域の防災対策の基本となるのである。後に述べる福井県や敦賀市の原子力防災計画も、右
「原子力発電所等周辺の防災対策について」に沿つて消防庁・科学技術庁が昭和五五年九
月まとめた「地域防災計画(原子力防災対策関係)作成マニユアルについて「原子力」、

災対策実施のための手引き(同年一一月科学技術庁・資源エネルギー庁)なども基本」

して策定されたのである。
(二)日本の原子力防災対策の問題点
「原子力発電所等周辺の防災対策について」では、国の原子力発電所等の事故による放射
性物質の大量放出による災害(以下「原子力災害」という一に対する防災対策の基本姿勢
が述べられているが、それには、以下に指摘するような重大な問題点がはらまれている。
そしてその問題点は、原子力発電所史上最悪といわれる昭和六一年四月二六日の前記チエ
ルノブイリ原子力発電所事故が発生し、この事故の経過及び被害の規模等が次第に明らか
にされるにつれて、一層浮きぼりにされてきているのである。
(1)原子力安全神話の崩壊
(1)日本の原子力災害の防災対策上の第一の問題点は、原子力発電所は絶対安全とい
う神話を前提に防災対策が建てられている点である。
(2)原子力安全委員会は、原子力発電所等の原子力施設については、原子炉等規制法
等によつて事故の発生防止、事故の拡大防止及び災害の防止について十分な安全対策が講
じられており、周辺住民の健康と安全の確保が図られていると「原子力発電所等周辺の、

災対策について」で述べており、日本では法律の規制によつて万全の安全対策が建てられ
ていることをその防災対策の前提に置いている。
(3)しかし、スリーマイル島原子力発電所事故を起こしたアメリカでも、またチエル
ノブイリ原子力発電所事故をも起こしたソ連でも、日本と同じく厳しい法律の規制によつ
て原子力発電所の安全対策は講じられていたのである。それでも、
起こりうるべきでなかつた事故が、現実に起こつてしまつたのである。スリーマイル島原
子力発電所の事故に引き続き、チエルノブイリ原子力発電所事故という原発史上最大かつ
最悪の惨事を経験した今日、法規制による原子力発電所の安全神話を前提とした日本の防
災対策では、現実に起こつてしまつた原子力災害には何ら対応できないのである。
(2)治安対策優先の防災対策
(1)第二の問題点は、防災対策の重点が、周辺地域住民の生命・健康の保護という面
よりも、住民の動揺と混乱をいかに押さえるかという治安対策面に置かれているというこ
とである。
(2)国家の治安対策面を、原子力発電所周辺地域住民が原子力災害から蒙る放射線や
放射性物質による生命・健康に対する侵害からの防御という面より優先させていること
は、
「原子力発電所等周辺の防災対策について」で、万一放射性物質の大量の放出が生ずるか
又はそのおそれのある場合には、原子力防災に関する特殊性および一般災害対策との類似
性を勘案して、周辺住民の心理的動揺あるいは混乱をおさえ、異常事態による影響をでき
る限り低くする目標を達成しなければならないと、述べていることに如実に表れている。
(3)日本における原子力災害防災対策が、原子力発電所周辺地域住民の生命・健康の
安全よりも、治安対策を優先させたものであることは、これまで日本で行われた原子力発
電所周辺の防災訓練で、その主役である周辺地域住民参加の避難訓練が一回も行われてい
ないことにも、端的に示されている。
(4)日本でも、スリーマイル島原子力発電所事故以降、毎年二、三個所の原子力発電
所等の所在地では、国と県・市町村間が協力し、緊急時の通信連絡等の訓練が実施されて
いる。
福井県と敦賀市でも昭和五七年一二月、後に述べる「福井県原子力防災計画」や「敦賀市
地域防災計画(原子力防災計画編」に基づき、行政関係者だけが参加し、敦賀市に災害)

策本部を設置し、通信連絡、放射線測定などを行う訓練が実施されている。しかし、地域
住民の参加がその訓練から除外されていたため、防災対策上最も重要な原子力発電所周辺
地域住民への退避指示や避難誘導、コンクリート建屋内への実際の退避などの訓練は、一
切行われなかつたのである。
(3)災害対策基本法に組み込まれた原子力災害の防災対策
(1)第三に、原子力災害の防災対策がその特殊性にもかかわらず、
災害対策基本法に組み込まれているという、法体系上の問題があげられる。
(2)原子力災害は、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火などの自然災
害とは異なり、その原因たる放射性物質をつくりだす原子炉を建設し、運転しなければ、
人為的にその災害はさけられるものである。また、前記第二部「放射線と放射性物質の危
険性」で述べているように、原子力災害がもたらす放射線や放射性物質の人間の生命・健
康に与える空間的規模の大きさ、遺伝子の子々孫々まで与える時間的影響の深刻さは、暴
風、豪雨などの自然災害とは比較にならないものである。更に、放射線による被曝は、自
ら被曝していても、通常五感に感じられないので、その程度についても自ら判断すること
ができず、応急措置等の対策を採ることが困難など、原子力災害特有の特殊性を有してい
る。
今般のチエルノブイリ原子力発電所事故は、先に述べたように、原子力災害が一般の自然
災害とその質・規模ともに格段に異なることを現実のものとして証明した。
(3)ところが、日本における原子力災害の防災対策は、原子力災害の特殊性にもかか
わらずそれを意図的に無視し、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、津波、噴火などの一般自
然災害に対する防災対策の基本を定めた災害対策基本法に、政令によつて組み込まれてい
るのである。そこでは、国の原子力災害の防災対策の計画・実施の責任は、助言、指導、
、。協力にとどまり県と市町村が防災計画の策定・実施の直接の責任を負わされるのである
(4)防災対策上の時間的認識の誤り
(1)第四に、原子力発電所における事故の発生から、環境中への放射性物質の大量放
出に至るまでの、防災対策上の時間的認識の誤りがあげられる。
(2)「原子力発電所等周辺の防災対策について」では、原子力発電所等において放射
性物質の大量放出があるか、また、そのおそれがあるような異常事態が瞬時に生ずること
はほとんど考えられないことであ9、事前に何らかの先行的事象の発生及びその検知があ
ると考えるので、この時間的余裕を有効に利用して、原子力施設側からその情報が迅速に
国の関係機関や地元都道府県及び地元市町村につたえられ、災害対策本部が設置されると
いう筋書になつている。
(3)しかし、ソ連政府が国際原子力機関(IAEA)に提出したチエルノブイリ原子
力発電所の事故報告書によると、
今般のチエルノブイリ原子力発電所の事故では、タービン発電機の慣性運転の実験開始か
ら、出力暴走事故による爆発が起こり、原子炉と一部建屋が破壊され、環境中に放射性核
分裂生成物が大量に放出されるまでの時間はわずか四〇秒余りであり、原子炉内の出力が
急上昇するという異常事態が発生し手動制御棒用のAZ-5のボタンが押されてからはほ
んの数秒間であつたことが明らかにされている。
原子力災害においては、原子力発電所内での異常事態発生から環境中への放射性物質の大
量放出に至るまでに時間的余裕があるので、防災対策を事前にとることができ原子力発電
所周辺地域住民の退避は可能であるという「原子力発電所等周辺の防災対策について」の
筋書は、チエルノブイリ原子力発電所の出力暴走事故によつて、はからずも机上の空論で
あることが暴露されたのである。
(4)また、仮に、異常事態発生から環境中への放射性物質の大量放出まで時間的余裕
があつたとしても、福井県関西電力美浜一号炉で昭和四八年四月起こつた燃料棒折損事故
が三年半以上も闇に葬られていたように、事故報告の遅れ、事故隠しが絶えない日本のこ
れまでの原子力発電所内の事故の実状を見れば、原子力発電所施設内で生じた異常事態の
情報が迅速に施設外の関係各機関へ伝達され、緊急事態に対処しうる災害対策本部が防災
計画どおり設置されるなどは到底考えられないのである。
(5)また、避難措置がとられた外国での原子力災害の実際例を見ても、スリーフイル
島原子力発電所事故で、ペンシルバニア州ソーンバーク知事により、原子力発電所から一
〇マイル(約一六キロメートル)以内の住民に対し屋内待機勧告が出され、五マイル(約
八キロメートル)以内に住む妊婦と未就学児童に対し退避勧告と、同地域内の二三の学校
すべてに閉鎖命令措置がとられたのは、事故発生から四八時間以上も経過した後のことで
ある。チエルノブイリ原子力発電所事故でも、原子力発電所から約三キロメートル離れた
原子力発電所従業員らのために造られた町プリピヤトから、約四万人が一一〇〇台のバス
でキエフ市周辺の村へ逃げたのは、昭和六一年四月二七日午後二時から同四時といわれ、
これらの人々は、事故による爆発から一日半も被曝し続けていたのである。
(5)初期活動開始めやす数値の非科学性
(1)第五は、地方公共団体が独自の判断により災害対策本部の設置の準備等、
災害応急対策のうち初期活動を開始するめやすを、周辺モニタリングポスト等で実測され
た空間ガンマ線量率で一ミリレントゲン/時以上の値、あるいは、住民が実際に居住する
か活動する場所における予想被曝線量で年間五〇〇ミリレム以上の値を用いるとしている
点である。
(2)しかし、空間ガンマ線量率の実測値を一ミリレントゲン/時以上という値に置い
た根拠については「原子力発電所等周辺の防災対策について」では、これまでの原子力、

電所周辺の平常時の空間ガンマ線量率の実測値がバツクグラウンドの値が含みの高いとこ
ろでも約一〇マイクロレントゲン/時という値を示していることから、その値の一〇〇倍
程度を異常事態のめやすとして採用したとするだけで、一ミリレントゲン/時の放射線量
では、人体の対するどのような影響を及ぼすか否かについては全く触れられていない。ま
た、予想被曝線量を年間五〇〇ミリレム以上とした根拠については、一九五八年に国際放
射線防護委員会了CRP)が公衆の年間線量限度として〇・五レムを勧告していることか
ら、これを採用したものだとしているに過ぎない。
(3)しかしながら、低・微量線量域での放射線障害の実態が次第に明らかになり、被
曝線量の「しきい値」が存在しないことが多くの科学者によつて認められるようになつた
今日、公衆にたいする「許容被曝線量」を年間五〇〇ミリレムにとどめておくことの違法
性は、前記第二部「放射線と放射性物質の危険性」で、既に指摘したとおりである。
(4)ところで、国際放射線防護委員会(ICRP)も、一九八五年のパリ声明で、原
則的には公衆に対する実効線量当量について年間一ミリシーベルト(一〇〇ミリレム)を
限度とすることを示し、公衆に対する許容被曝線量を従来の年間の五〇〇ミリレムからそ
の五分の一の基準に切り下げている。科学的根拠を明確に指し示すことなく、二八年も前
のICRP勧告の数値を、原子力災害防災対策の初期活動を開始するめやすとして依然と
して維持している国のその姿勢こそ、日本の防災対策が、原子力災害から国民の生命・健
康を守るということを真剣に考えたものではないことを示す証左に他ならない。
なお、アメリカでは一九七七年一月、環境保護局(EPA)によつて、一般人の年間被曝
線量を全身二五ミリレム、甲状腺七五ミリレムに抑えようという基準が決定されているの
である。
(6)無力な原子力災害防災対策重点地域の限定
(1)第六には、住民への迅速な情報連絡手段の確立、緊急時環境モニタリング体制の
整備、避難場所及びその経路の明示等をすべき原子力災害対策の重点地域を、原子力発電
所を中心として半径八ないし一〇キロメートルの範囲に限定していることがあげられる。
(2)「原子力発電所等周辺の防災対策について」では、原子力災害における防災対策
重点地域を原子力発電所から半径八ないし一〇キロメートルの範囲に限定した根拠を、ロ
ゴビン報告に基づくスリーマイル島原子力発電所事故による希ガス放出量からの解析結果
に求めている。すなわち、ロゴビン報告によれば、スリーマイル島原子力発電所事故での
全期間中に放出された希ガスの全放出量は、一八〇万キユリーだとしてこの放出量と同じ
量の希ガスが一日間で連続的に放出され、かつ現実にはめつたに遭遇しない被曝線量を高
めに与える気象条件を使用して解析を行うと、全身被曝線量は、一〇キロメートルの地点
で、〇・七レム程度、八キロメートルの地点で〇・九レム程度となり、当該区域の外側で
は、避難措置が必要となるような事態に至ることはないとしている。
(3)しかし、その解析の基礎としたロゴビン報告書の希ガス放出量は、スリーマイル
島原子力発電所の原子炉を運転していたメトロポリタン・エジソン社(M・E社)とアメ
リカ原子力規制委員会一NRC)側のデータ解析に基づき低めに推定されたとされるもの
である。p1大統領が任命した事故調査特別委員会であるf報告でも、スリーマイル島原
子力発電所事故により環境中に放出された希ガスの全放出量は、二四〇万から一三〇〇万
キユリーだつたとしている。京都大学原子炉実験研究所・g氏は、試算の結果三〇〇〇万
キユリーにすべきであると主張している。前記第四部第三「高速増殖炉以外の炉の事故
論」五スリーマイル島原発事故では、スリーマイル島原子力発電所事故における希ガス
の環境放出量を一〇〇〇万キユリーと述べたがこれらの数値からすると、当然「原子力発
」。電所等の防災対策についてで述べられている解析結果は意味を持ちえなくなるのである
(4)そして、チエルノブイリ原子力発電所事故の放射能汚染の実態は、
日本において原子力災害の防災対策の重点地域を原子力発電所等から半径八ないし一〇キ
ロメートルの範囲に限定していることの無意味さを全国民に改めて印象づけた。重要な部
分の数値が欠落していると言われているソ連政府がIAEAに提出した事故報告書によつ
ても、チエルノブイリ原子力発電所の事故による環境中へ放出した放射性物質の総放出量
は先に述べたように、希ガス四五〇〇万キユリーを含めると約一億キユリーに達し、原子
力発電所近くの放射線レベルは一〇〇ミリレントゲン/時を超え、災害から一五日後(事
故直後からそれまでの間の放射線量については不明である)の放射線の最高レベルは、原
子力発電所から西方五〇ないし六〇キロメートルのところと、北方三〇ないし四〇キロメ
ートルのところでは五ミリレントゲン/時で、南方約一三〇キロメートルのキエフ市では
昭和六一年五月の初めに〇・五ないし〇・八ミリレントゲン/時に達したとしているので
ある。
2福井県原子力防災計画について敦賀半島の状況
(一)福井県原子力防災計画の概要
福井県は前述した国の原子力発電所等周辺の防災対策についてや地域防災計画原、「」「(
子力防災対策関係)作成マニユアルについて」沿つて、災害対策基本法に基づき「放射性
物質の大量放出による災害の防災対策に関し、必要な体制を確立するとともに防災事務又
は業務の遂行により、住民の安全を目的」とし、昭和五六年七月福井県原子力防災計画を
策定した。次いで敦賀市及び美浜町も、翌五七年三月に原子力防災計画を策定したが、こ
れは福井県原子力防災計画のひき写しである。
福井県原子力防災計画の概要は次のとおりである。
(1)防災対策地域
原子力発電所から一〇キロメートルの地域。
(2)原子力災害予防対策
(1)防災業務関係者の教育(2)防災訓練(3)環境モニタリング設備(4)
緊急医療施設の整備(5)防災上必要な防護資機材の整備等。
(3)災害発生時の対策
(1)緊急時の通報連絡体制
(2)災害発生初期活動
i原子力発電所から通報があり、国から初期活動の指示があつたとき。
ii事故の内容、規模から判断して必要と認めたとき。
iii周辺の空間ガンマー線量率が毎時〇・一ミリレントゲン以上になつたとき。知事
は放射線対策部会を招集し、緊急時モニタリングセンターを設置、関係機関に準備を要請
する。
(3)災害対策本部の設置
i原子力発電所の責任者からの通報があり、国から対策本部設置の指示があつたとき。
ii事故の内容・規模から判断して対策本部設置が必要であると認めたとき。
iii放射性物質の大量放出によつて、原子力発電所敷地外で、空間ガンマー線量率一
ミリレントゲン/時以上の値が測定された場合、又は予測全身被曝線量が五〇〇ミリレム
以上のとき。知事は対策本部を設置し、直ちに災害対策現地本部を設置と国への報告、専
門家派遣要請、関係市町村、防災関係機関の協力を要請する。
(4)緊急時モニタリングセンターの設置とモニタリングの実施
(5)県、市町村、敦賀海上保安部、防災関係機関による広報の実施
(6)住民の退避、避難、立入制限
緊急時モニタリングの結果、予測被曝線量に応じて住民に対し屋内退避、コンクリート屋
内退避及び避難の措置をとる。
退避又は避難を要する地区を中心に立入制限を指示する。
(7)緊急時医療本部の設置
国に対し緊急被曝医療チームを要請し、保健所、県立病院、国立病院、公的病院、県医師
会による医療班を編成、放射能汚染の検査、除染、医療措置を行う。
(8)飲料水・飲食物の摂取制限等
飲料水、飲食物及び農蓄水産物の汚染度が摂取制限基準を超え、又はそのおそれがあると
認められる場合は、飲料水に対しては汚染水源の使用禁止及び汚染飲料水の飲料禁止、汚
染飲食物の摂取制限又は禁止、汚染農蓄水産物の採取又は漁獲禁止、出荷制限等を行う。
(二)県防災計画では住民の安全は保障されない
(1)福井県原子力防災計画は、スリーマイル島原子力発電所事故から二年余を経てよ
うやく策定されたものであるが「原発事故は起きた「これからも起こりうる」という、」

、、実を直視することを避けチエルノブイリ原子力発電所事故の大惨事を経験した今日でも
なおかつ「日本では起こりえない事故」としてとらえている原子力委員会の原子力災害に
対する認識を前提としている。
、、一度発生すれば取り返しのつかない大惨事が発生する恐れのある原子力災害について
現実を無視した希望的予測に立脚する防災計画によつて災害防止の有効性を担保できる筈
はない。福井県原子力防災計画も防災計画が気休めに存在すれば足り、その有効性は問題
にしていないかのようにすら見受けられるのである。
(2)東西約五〇キロメートルの若狭湾沿岸には、既に一二基の原子力発電所が運転中(

あるが、東西約五キロメートル、南北約九キロメートルの狭あいな敦賀半島にその半数六
基が集中的に設置されている。かかる異常ともいうべき集中化は、たんに災害発生の可能
性を増大させるだけでなく、一度災害が発生したとき他の原発の安全性に及ぼす影響を無
視できない。
福井県原子力防災計画は、加圧水型及び沸騰水型軽水炉の単一を想定しているものの、か
かる集中化という立地の特殊性を無視している。
原子力災害に対する有効かつ具体的な防災計画を策定するためには、どのような事故がど
のような規模で発生するかを想定し、その評価をすることが前提であるにもかかわらず、
福井県原子力防災計画では事故のシナリオが全く予定されていない。立地の特殊性を無視
し、何ら具体的な災害評価に立脚しない防災計画は、この点で既に無力であるといわざる
をえない。
(3)防災予防については、一〇項目の対策が掲げられているが、予防段階の対策です
らほとんど手つかづのままであるのが実状である。例えば防災業務関係者は、医師、保健
婦、消防士はもちろん、緊急時モニタリングに動員される農水産省職員、農業改良普及員
などを含め必要な教育は実施されておもず、福井県内では、防災訓練はこれまでごく限ら
れた機関のみの通信連絡が、二度行われたにすぎない。緊急時医療設備を例にとると、身
体汚染時に必要とされる器材のうち、ゴム手袋は汚染者一〇名当たり二ダースが必要(原
子力安全協会迅速除染マニユアル)なのに対し、六ダース(三〇人分)しか設備されて
いない。他の設備、備品についても同様である。
(4)災害発生の初期活動は、周辺の空間ガンマー線量率が毎時〇・一ミリレントゲン
に達したとき開始されるが、その時点で放射能は平常時の一〇倍に達し、災害対策本部が
設置される段階では、環境放射能は平常時の一〇〇倍にも達してしまつている。
住民に対する事故発生の発表が、どの段階で行われるかは、計画では具体的に明らかにな
つていないが、仮に対策本部認置と同時に発表があつたとしても、既に住民は平常時の一
〇〇倍の放射能にさらされており、被曝の影響は免れない。あるいは、住民の動揺をでき
る限り押さえようとして、第一段階の屋内退避直前に発表したとすれば、全身外部被曝線
量が一レム以上と予想される直前だから、
居住地での空間ガンマー線量率は毎時〇・一レントゲンに達し、平常時の一万倍と事態は
深刻化してしまつているのである。
(5)本件もんじゆ建設予定地から数キロメートルの距離にある日本原電敦賀原子力発
電所及び訴外動燃の新型転換炉「ふげん」の場合をみると、原子力発電所から半径一〇キ
ロメートル以内の人口は、敦賀市、美浜町、河野村で合計五三六二人であるのに対し、コ
ンクリート建屋は一三施設、三七五人の収容能力しかない。また、関西電力美浜原子力発
電所の場合、半径一〇キロメートル以内の人口は一万四九四五人に対し、コンクリート建
屋一四施設二三六〇人にすぎず、ほとんどの住民は退避できない。さりとてこれらの地域
に新たな収容人員に見合う退避所を設置することは不可能に近く、原子力安全委員会の防
災対策付属資料でさえも、木造家屋への退避は屋外の〇・九倍の被曝係数にしかならない
とされており、被曝対策という点からすれば、ほとんど意味がない。
また、コンクリート建物の被曝係数は、〇・二となつているものの、原子力発電所周辺で
退避場所と予定されている建物のコンクリートの薄さ、ガラス窓の大きさなどから考える
と、放射能の遮蔽に役立つことは期待できない。
第三段階の一〇レム以上に達した段階では、避難することにより、かえつて避難の途中で
より大量に被曝することを意味する。
(6)ところで、福井県の原子力防災対策地域は、いずれも海水浴、釣り、観光を目的
とするレジヤー地帯であり、敦賀市では七月には三〇万五〇〇〇人、八月には四九万五〇
〇〇人、美浜町では七月には八万八〇〇〇人、八月には一〇万八〇〇〇人の県外観光客で
ふくれあがるのである。この時期は、各原子力発電所ともフル運転の時期であり、無理な
運転による事故が発生する可能性が一段と大きいにもかかわらず、このような時期に災害
が発生した場合の対応を、福井県原子力発電所防災計画は全く念頭に置いていないのであ
る。
(7)知事は、現地対策本部、緊急モニタリングセンター、緊急医療本部の設置と同時
に、国に対し専門家チームの派遣を要請し、このチームの指導と助言をえて現地の防災活
動が行われることになつている。それは一刻を争う緊急の状態であり、すみやかに活動が
開始されなければならない。仮に豪雪時に災害が発生したとすれば、東海、東京、千葉か
ら派遣される専門家チームは、
現地到着までに予想外の時間の浪費を強いられ、対策は後手後手となつて思いもかけぬ被
害が発生、拡大するおそれがある。もともと原子力安全委員会がした決定は、東海村を対
象にしたものといわれ、福井県の立地状況に見合つた対策とはいえないのである。
3防災対策の不備と無効原因
(一)はじめに
ソ連チエルノブイリ原発事故によつて明確になつたように、本件「もんじゆ」において先
に指摘した出力暴走→爆発による格納容器の破壊によつてプルトニウムを含む大量の放射
性物質が原子炉外の環境に放出され、極めて広範囲にわたつて放射能被害が発生するとい
つた重大事故が起こる可能性は、極めて高いといわなければならない。少なくとも、出力
暴走そしてそれに伴つて格納容器の破壊が発生する可能性が零ではない以上、右のような
事故に対し、その被害をくいとめる対策、いわゆる防災対策もしくは住民の緊急避難計画
を樹立しておくことは、本件原告ら「もんじゆ」周辺住民の安全を保障するために必要不
可欠である。
現行の福井県防災計画は、前記のとおり軽水炉の災害に対しても全く無力であり、単なる
気安め程度の域を出ないものである。国や福井県が「原子力発電所の安全性は実証されて
いるが、万が一に事故が起こつても対応できる」とする防災計画が、まつたく不充分であ
ることに対し、原子力発電所と背中合わせで生活することを余儀なくされている原告ら住
民が常に生命、身体の危険の恐怖を抱くのは当然である。
(二)防災対策の策定義務は原子力発電所設置者にある。
前項で述べたように、日本では、災害対策基本法によつて地方自治体に防災対策の策定義
務が課されているが、このことは、原子炉の設置者自身の防災対策策定義務を免責するも
のではない。
(1)事故は「もんじゆ」の設置及びその運転によつて起こるわけであるから、事故、

生の直接の責任者は「もんじゆ」の設置者である訴外動燃である。したがつて、右のよう
な重大事故が発生した場合に事故の責任者である訴外動燃には周辺住民への被害をくいと
めるための防災対策-緊急避難計画を樹立しておく義務がある。
このことは、原子炉等規制法及びその下位法令によつても明らかである。
(2)原子炉等規制法は原子炉設置者の原子炉施設付近住民に対する防災対策-緊急避
難計画の策定義務を明文では示してはいないが、
同法の一条はその目的として「災害を防止して公共の安全を図る」としていること、また
同法二四条一項四号は、許可の基準として「原子炉の位置、構造及び設備が災害の防止上
支障がないこと」としていることから、原子炉の位置との関連において格納容器が破壊さ
れるような事故の際、付近住民に対する被害をくいとめるための防災対策-緊急避難計画
の策定義務を原子炉設置者に課していると考えるべきである。
、、そして原子炉施設の安全性問題の核心あるいは地の産業のそれとの比較における特色は
原子力発電所の運転に伴つて、原始炉あるいは一連のシステムに内包されていろ放射性物
質の外部への放出に関連する問題であり、その第一は、平常運転時に連続的に空気中また
は水中に排出される放射性物質の周辺環境とくに人体に対する影響、第二には、何らかの
原因による事故によつて大量の放射性物質が周辺に放散する危険性、の二つに対する評価
であると解されるところ、右後者についての具体的な安全評価の手法として設計基準事故
、、、方式と確率論的安全評価方式があるが日本では前者の考えに従い技術的見地からみて
最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる「重大事故」と、技術的には起こると考
えられない仮想事故を想定し、そのような事態においても、周辺の公衆に対し放射線によ
る危害を抑えられるように立地条件を含む設計全体のチエツクを行うこととされている。
、、、また安全審査の際万一の事故に関連して原子炉設置の立地条件を判断する方針として
原子力委員会から昭和三九年五月二七日付で「原子炉立地審査指針及びその適用に関する
判断のめやすについて」が出されており、その中で原則的立地条件として「万一の事故、

備え、公衆の安全を確保するためには、原則的に次のような立地条件が必要である。すな
わち(1)大きな事故の誘引となるような事象が過去においてなかつたことはもちろん、

あるが、将来においてもあるとは考えられないこと。また、災害を拡大するような事象も
少ないこと(2)原子炉は、その安全防護施設との関連においても十分に公衆から離れ。

いること(3)原子炉の敷地は、その周辺も含め、必要に応じ公衆に対して適切な措置。

講じうる環境にあること」という旨が述べられている。。
右の(1(2(3)の立地条件は「災害を拡大するような事象も少ないこと、))」
「原子炉が十分に公衆から離れていること「公衆に対して適切な措置を講じうる環境」、

あること」と述べていることからして、事故の際に周辺住民に対する被害をくいとめるた
めの緊急避難計画つまり防災計画が適切に樹立されていることを要求していると考えるべ
きである。
このように原子炉等規制法及びその下位法令は、防災対策-緊急避難計画の策定を原子炉
設置者に義務づけていると考えるべきである。
(3)このことはアメリカにおける原子力法制にとつても裏付けられる。
、、、アメリカではスリーマイル島原子力発電所の事故の経験をふまえ昭和五五年一一月に
原子力発電所の設置者に対し事故発生に備えて住民に対する緊急避難計画を立てることが
義務づけられた。そしてアメリカ連邦危機管理局がその緊急避難計画を審査して認可し、
これに違反する場合には原子力規制委員会(以下NRCという)が免許取消しなどの制裁
措置がとれることになつている。
そして、昭和五八年三月インデイアンポイント原子力発電所二号機(出力八七万キロワツ
ト)と三号機(出力九七万キロワツト)に対する緊急避難計画の不備が同危機管理局に指
摘され、それをうけてNRCが同年五月五日右計画の不備が同年六月九日までに改善され
ない限り同日以降の運転を停止するとの命令を出している。
同危機管理局が指摘した緊急避難計画の不備とは(1)計画作成手続に近隣のロツクラ、

ド郡が参加しなかつたこと(2)事故時にウエストチユスター郡内で避難用バスの運転、

の確保が難しいということ、の二点である。
日本においても、原子力炉等規制法の解釈として、このようなアメリカでの考え方と同様
に原子炉設置者の策定する緊急避難計画(防災対策)の整備が原子炉設置許可の要件と考
えるべきである。
(三)防災対策の不備は本件処分の無効原因である。
訴外動燃は、そもそも「もんじゆ」によつて出力暴走・爆発事故に伴う大量の放射能もれ
は起こりえないとし、このような事故が発生することを予想しておらず、ましてや原告ら
付近住民への被害をくいとめるための防災対策を何ら立てていない。
また、本件「もんじゆ」を含む従来の立地条件に関する安全審査においては、
「重大事故」や「仮想事故」においても原子炉格納容器が破壊されることはありえないと
いう前提に立つているため原子炉施設周辺住民が退避しなければならない事態は全く想定
されていない。したがつて、住民の緊急避難計画つまり防災計画の適否に関する審査も、
安全審査の中では全くなされていない。
しかし、そもそも防災対策が必要とされる事故が起こりえないとする前提自体が誤りであ
る。高速増殖炉「もんじゆ」は、日本で初めての原子炉であり、世界にも実験の段階にあ
るばかりか、完成途中で放棄している国が相次いでいることは先に述べたとおりである。
そして「もんじゆ」の事故発生の可能性は軽水炉に比し、はるかに大きく、また、いつた
ん事故が発生すれば、災害は想像しえない規模で、しかも極めて短時間に拡大し、回復不
能の被害をもたらすであろうことも既に述べたとおりである。
多年にわたる実験を経て実証炉としての実績を積み上げた軽水炉ですら、この数年の間に
二度までも予測できなかつた大事故を起こしてしまつたというこの重い現実から目をそむ
けることは許されない「もんじゆ」の事故は高速増殖炉特有の危険性、経済性優先の建。
設、
初めての大型実験などの点からみて「起こりうる」こととして予定されなければならない
のである。
災害対策基本法に基づいて、国、地方自治体が策定した原子力災害に対する防災計画は一
応存在するが、右の防災計画は前述したように全く不充分なものであり、また、原子力災
害は、地震、洪水などの自然災害と異なり、原子力発電所の設置、運転という直接的な人
為的原因によつて起こるのにかかわらず、右防災計画は事故の原因者である原子力炉設置
者の責任に基づく計画となつていない。原子炉設置者には、原子炉施設内の防災対策及び
外部への迅速かつ正確な情報提供が負わせられているにすぎないのである。したがつて、
このような防災計画は原子炉等規制法二四条一項四号の要件を満たすものとは到底いえ
ず、
本件許可処分には重大かつ明白な瑕疵が存し、無効である。
五、安全審査上の問題
一地域(若狭湾沿岸)への原子力発電所の集中立地は、以上で示されたように、周辺住
民の健康と安全に係る問題、住民生活・地域開発・地方政治に係る社会的な問題等々にお
いて一原子力施設の立地とは質的に異なる深刻な問題をもたらしている。
ところが、以下に示されるように、集中立地に伴う諸問題は、
立地、増設の諸手続きの中でほとんど取り上げられていない。まず、原子力発電所の立地
にあたつては、電力会社が立地の候補地を選定することから始まるが、わが国では全国的
な視点からの科学的な調査・研究に基づいた適地の選定や立地計画の策定は行われていな
い。候補地の選定はしばしば地元の受入れの可否が最大の要件となり、その受入れの背後
には「見返り」の交付金や協力金などがある。、
設置許可申請に先立つて行われる環境影響調査、集中立地に伴う環境への影響はほとんど
取上げられていない。わが国の電源開発計画を審議する電源開発調査審議会においても、
すでに電力会社等設置者側が策定した計画を国の計画として取り入れるだけで、全国的視
野に立つた立地の適否についての検討はされていない。
この電調審に先立つて立地県の知事の了解が求められるが、この段階では安全審査は未だ
行われておらず、立地の適否についての科学的な検討もなされていない。このような不合
理な手続きが集中立地を可能にする一つの原因である。安全審査においては、申請された
設置計画についての個別的審査が行われるのみで、当該計画において全国的な観点から適
、、、地が選定されているかまたその計画によつて当該地域に原子力施設が集中する場合に
その集中立地が何をもたらすかはほとんど問われていない。
原子力施設の安全審査において、立地の適否を判断する基準となる審査指針として「原子
炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」があるが、この指針に示さ
れた立地条件はきわめて抽象的、一般的であつて、原子力施設からの距離と人についての
量的規制は全くない。このように、同一地域における原子力発電所の集中立地についての
考え方や量的規制は、わが国における安全審査基準において全く欠如しているのである。
個々の原子炉の安全審査においては、集中立地に関しては、次の諸点を確認しているとさ
れている。
(1)一原子力施設で発生した事故が他の施設の事故を誘発しないこと
(2)地震発生時に複数の原子力施設で事故を発生しないこと
(3)一サイトの敷地境界で放射線被曝線量が五ミリレムを越えないこと
しかし、これらの事項は、申請された一施設の安全性にすりかえられている。たとえば、
一原子炉が地震に対して安全な設計になつていることを「確認」することによつて、
集中立地によつても複数原子炉での事故発生はありえないとする考え方である。
この考え方は、現在の原子炉において大事故は起こりえないことを前提にしている。しか
し、一〇数年の経験は、実際の原子炉においては大小さまざまな事故、故障が頻発してお
り、これらが大事故、大災害につながらない保障は何もないことを示している。スリーマ
イル島原発事故及びチエルノブイリ原発事故は、このことを事実で示したものである。
原子炉が大事故を発生する確率の評価自身さまざまな要因を含み、確定的な評価は未だ存
在していない。しかし重大事故は、いつかどこかで必ず起こりうるのである。
原子炉の集中立地は、同一地域における大災害発生の確率を確実に増加させる。にもかか
わらず現在の立地指針や安全審査においては、これらのことが全く考慮されておらず、同
一地域への集中立地に対する歯止めを欠いており、同一地域に建設される原子力発電所の
数量の科学的規制は全く存在していないのである。
六、結論
以上述べたように「もんじゆ」を既に原子力発電所が集中している若狭湾沿岸に建設す、

ことは、原告らを含む住民の生命、健康に重大な危険性、悪影響を及ぼす。この集中立地
の問題に関し、審査を行わなかつた本件許可処分は無効である。
第六事故災害評価について
一、WASH-七四〇
1アメリカにおいて当初提案された原子力発電炉の安全評価方法は、WASH-七四〇
「公衆災害を伴う原子力発電所事故の研究」に示されている。
WASH-七四〇は、AEC(アメリカ原子力委員会)が研究したもので、一九五七年三
月にその結果が発表された。
2WASH-七四〇の基本になつている考え方は、原子炉の冷却材が喪失するとともに
全燃料が溶融し、格納容器が破壊され、内蔵された揮発性の放射性物質の約半分が放出さ
れるとの仮定で事故の評価がなされている。すなわち、考えられるいくつかの事故の中か
ら、最も被害が大きくなると思われる事故を最大想定事故として評価する方法をとつたの
である。
WASH-七四〇が想定した原子炉は、電気出力二〇万キロワツトの軽水炉で、大都市か
ら三〇マイル(約四八キロメートル)離れたという想定に立つている。
、、()3その結果右のような事故が発生すると発電所から一五マイル二四キロメートル
以内の所で三四〇〇人が死亡、
四四マイル(七〇・四キロメートル)以内で四万三〇〇〇人が急性放射線障害に、さらに
二〇〇マイル(三二〇キロメートル)以内で一八万二〇〇〇人がガン発生率を二倍にする
だけの線量の被曝を受ける。
そして、その人身損害を含まない財産的被害だけで、一九五七年当時の金額で七〇億ドル
(これは当時のアメリカ政府の歳入の約一〇パーセントにあたる)という厖大なものであ
つた。
二、原産会議レポート
1日本においても、このWASH-七四〇の事故評価の影響下で、科学技術庁が原子力
産業会議に委託し一九五九年にまとめた研究結果として「大型原子炉の事故の理論的可、
能性及び公衆損害に関する試算」がある。
2右レポートにおいては、原子炉としてウランを燃料とする熱出力五〇万キロワツトの
炉が想定され、最大想定事故として炉内蓄積放射能の五千分の一から五〇分の一(一〇万
ないし一〇〇〇万キユリー)が放出される事故を想定している。原子炉の周辺環境として
は、炉は海岸に設置されるものとし、敷地境界は炉から八〇〇メートル、炉から二〇キロ
メートルと一二〇キロメートルのところにそれぞれ人口一〇万、六〇〇万の都市があると
いうモデルを想定している(このモデルは東海村-水戸-東京にほぼ対応している。)
3右の結果一〇〇〇万キユリー放散の場合には「人的損害は、低温放出ではかなり生、

る場合があり、放出粒子が小で逆転時には数百名の致死者、数千人の障害、一〇〇万人程
度の要観察者が生じうる。高温放出では、人的損害は常に零である。
物的損害は逓減時の全放出の場合が大きく、最高では農業制限地域が幅二〇~三〇キロメ
ートル長さ一〇〇〇キロメートル以上に及び、損害額は一兆円以上に達しうる(全放出、
低温、粒度小で逓減の雨天時など」との被害評価がなされている。)
右の評価には、当時の不十分な知見に基づいて、放射線の持つ危険性について過小評価し
ている点、人命一人あたりを八五万円と評価するなど評価が過小である点など、不十分な
点をいくつか指摘できるが、なおかつ原子炉の事故被害が持つ深刻さの一端を物語つてい
るといえる。
三、WASH-一四〇〇
1一九七五年一〇月AECは、WASH-一四〇〇「原子炉安全性研究」を公表した。
このレポートは、委員長の名をとつてh報告とも呼ばれる。WASH-一四〇〇は、
原子炉の事故の確率を出すことを主とした研究であり、その問題点については第四部第四
で述べたとおりであるが、原発事故による災害評価も行つている。
WASH-一四〇〇の予測は、その反原発運動を押え込もうという政治的意図によつて著
しく低く押えられている。
2WASH-一四〇〇は、CRACというコンピユータモデルを使用して、各種放射性
物質の放出量、天候、人口データ、人体に及ぼす放射線の被曝効果のモデルを想定して、
災害評価結果を計算した。WASH-一四〇〇は、原子炉予定地一〇〇ケ所の人口データ
を使つて、六つの原発サイトを想定した。この内最大の人口密集地は次のような人口構成
である。
五マイル以内二万一〇〇〇人
一〇マイル以内八万二〇〇〇人
二〇マイル以内一四万人
五〇マイル以内一八〇万人
3WASH-一四〇〇の最悪事故の災害評価の計算結果は、三三〇〇名の早期死亡、四
万五〇〇〇名の急性障害、四万五〇〇〇名の晩発性ガン死、一四〇億ドルの財産損害とい
うものであつた。
四、サンデイア・レポート
1サンデイア・レポートとは
スリーフイル島原発事故に対する対応策の意味もあつて、NRCは、一九八〇年に原子炉
立地要件の改正の検討のための作業をはじめた。
サンデイア国立研究所にp2をリーダーとして研究班がつくられ、新立地要件をつくる際
の基礎となる詳細な技術規準が作成された。この作業は、WASH-一四〇〇で使用され
たCRACコードを修正し、新しい情報をとり入れた。このコードは、CRAC2と名付
けられた。
サンデイア研究班は、全米九一ケ所の原子炉用地別の事故結果を詳細に記述した五万ペー
ジを超えるコンピユーター・データを作成した。この研究の原案は一九八一年ごろに完成
したが、その内容は原子力産業界に説明されたが、一般国民には知らされなかつた。
2隠されていたレポート
原子力発電に対して批判的活動を行つている科学者の集いである憂慮する科学者同盟(U
CS)は、サンデイア・レポートの存在を知り、一九八二年六月に情報公開法に基づきN
RCに同報告の公開を請求した。
NRCはこれに応じなかつたので、UCSは一九八二年一〇月下院監督調査小委員会に連
絡をとり、同小委員会のp3委員長が正式に文書でNRCに同報告書を請求した。NRC
は、
同年一〇月末ようやく小委員会にサンデイア・レポートを提出した。一九八二年一一月一
日付ワシントン・ポストは一面でこのレポートの持つ衝撃的な内容の一部をスクープし
た。
3サンデイア・レポートの内容
サンデイア報告(NUREG/CR-二二三九、SAND八一-一五四九「立地基準開発
のための技術的ガイダンス)及びこれに関連するCRAC2コンピユータのアウトプツ」

データの内容の概略は次のようなものである。
サンデイア・レポートでは、最悪ケースとして用いられた事故はSST1と名付けられ、
次の放出比で放射能が放出されるものとしている。
希ガス一・〇
ヨウ素〇・四五
セシウム等〇・六七
テルル〇・六四
アルカリ土類〇・〇七
揮発性酸化物〇・〇五
不揮発性酸化物〇・〇〇九
SST1の事故が発生した時の、さまざまな気象条件を仮定して、その中で最大の被害と
なるケースについて、早期死亡者数、早期障害者数、ガンによる死亡者数、経済的損害額
の計算の一例を示すと表17のとおりである。
4サンデイア・レポートの持つ意味
サンデイア・レポートは、いうまでもなく適性立地点評価のためのプロジエクトであり、
原発周辺住民の生命を重視する立場から計算されたものではない。NRCスタツフは、S
ST1事故の起こる可能性は、一炉年につき一〇万回に一回としている。この確率計算が
あてにならないことは、WASH-一四〇〇において述べたところと同一であるから繰り
返さない。
しかし、ここで注目すべきなのは、最悪事故の確率がWASH-一四〇〇に比べ一〇倍と
なり、その災害評価がガン死亡の点を除くと約一〇倍となつていることである。サンデイ
ア・レポート自体が、予測するこのような被害自体がすでに社会的に許容し難いものと考
えることも十分可能なのである。このプロジエクトを組織したNRC自身が、この報告の
公表をためらつた理由もここにあるのである。
五、本件安全審査における事故災害評価について
1「事故」よりもさらに発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象の解析の
内容安全審査書によれば、もんじゆにおいて事故よりさらに発生頻度は低いが、結果が重
大であると想定される事象として、局所的燃料破損事象、一次主冷却系配管大口径破損事
象、反応度抑制機能喪失事象が選定され、
右事象について放射性物質の放散の状況を解析したところ「この事象において、大気中、

放出される核分裂生成物の量が最大となるのは、希ガスについては一次主冷却系配管大口
径破損事象の場合で約九六〇〇キユリーとなり、このときの敷地境界外での最大のガンマ
線全身被曝線量は、約〇・〇二レムである。また、ヨウ素については反応度抑制機能喪失
事象の場合で約七七キユリー、このときの敷地境界外での最大の甲状腺被曝線量は小児約
一・一レム及び成人約〇・二七レムである。
プルトニウムについては、反応度抑制機能喪失事象の場合で、放出量は約二・〇キユリー
であり、敷地境界外での最大の被曝線量は骨表面、肺及び肝のそれぞれに対し約〇・七一
ラド、約〇・〇一四ラド及び約〇・〇一五ラドである。
以上の甲状腺及び全身被曝線量並びにプルトニウムによる骨表面、肺及び肝の線量はいず
れも「原子炉立地審査指針」及び「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要な
プルトニウムに関するめやす線量について」に示されているめやす線量を下回つている」
とされている。
2重大事故の解析の内容
また、本件安全審査では、立地評価のための想定事故として、重大事故を次のように想定
している。すなわち、重大事故は、放射性物質の拡大の可能性を考慮し、技術的見地から
みて最悪の場合には起こるかもしれないものの中から「一次冷却材漏洩事故」と「一、、

アルゴンガス漏洩事故」が選定され、技術的に最大と考えられる放射性物質の放出量を想
定して評価がされたとされている。
そしてこのような「重大事故時に敷地境界外で被曝線量が最大となるのは、小児甲状腺被
曝線量については一次冷却材漏洩事故の場合でヨウ素約二四〇キユリーの放出量に対して
約一・八レム、ガンマ線全身被曝線量については一次アルゴンガス漏洩事故の場合で希ガ
ス約七万八〇〇〇キユリーの放出量に対して約〇・二五レムである」とされている。
3仮想事故の解析の内容
さらに、安全審査においては、仮想事故として、技術的には起こるとは考えられない事象
及び重大事故としてとりあげた事象等を踏まえてより多くの放射性物質の放出量を仮想し
て、次の条件を設定して、事故の解析を行つている。
(1)原子炉は、定格出力の一〇二%で長時間運転されていたものとする。
(2)事故後原子炉格納容器床上に放出される放射性物質の量は、炉心内蔵量に対し、
希ガス一〇〇%、ヨウ素一〇%及びプルトニウム一%の割合とする。
()、3原子炉格納容器床上に放出されるヨウ素のうち九〇%はエアロゾルの形態をとり
残り一〇%は非エアロゾルの形態であるとする。
(4)原子炉格納容器内のエアロゾル状ヨウ素は、プレートアウト等による減衰を考慮
。、。する非エアロゾル状ヨウ素及び希ガスはプレートアウト等による減衰効果は考えない
(5)原子炉格納容器からの漏洩率は、一%/dとする。
(6)原子炉格納容器からの漏洩は、九七%がアニユラス部に生じ、残りの三%はアニ
ユラス部以外から生ずるものとする。
(7)アニユラス循環拝気装置のヨウ素用フイルタユニツトのヨウ素除去効率は、設計
値に余裕を持つた値として九五%とする。また、ヨウ素用フイルタユニツトへの系統切替
え達成までの一〇分間は、ヨウ素除去効果は考慮しないものとする。
(8)プルトニウムの大気放出量の評価にあたつては、プルトニウムはエアロゾルの形
態をとるものとし、フイルタによる除去効率は九五%とする。
(9)原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシヤイン線量は、原子炉格
納容器などの遮へいを考慮して評価するものとする。
(10)事故継続時間は三〇日間とする。
(11)環境への希ガス、ヨウ素等の放出は、排気筒より行われるものとする。
(12)環境に放出された希ガス、ヨウ素等の大気中の拡散は「気象指針」に従つて、

価を行うものとする。
(13)全身被曝線量の積算値の算出にあたつては、大気拡散条件は大気安定度F型、
水平方向拡散幅三〇度及び平均風速一・五m/秒、放出点は地上高五〇mとする。拡散方
向は、積算値が最大となる南南西とし、人口は昭和五〇年の国勢調査結果及び西暦二〇二
五年の推定値を用いる。
この解析結果によれば、大気中に放出される放射能量は、ヨウ素約二三〇〇キユリー、希
ガス約四七万キユリー、及びプルトニウム約五一キユリーである。
このヨウ素及び希ガスの大気放出に伴う被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所におい
て成人甲状腺約四・五レム、全身約一・四レムである。
また、全身被曝線量の積算値は、昭和五〇年の人口に対して約一三万人レム、西暦二〇二
五年の推定人口に対して約一七万人レムである。
プルトニウムの大気放出に伴う被曝線量は敷地境界外で最大となる場所において骨表面、
肺及び肝のそれぞれに対し、約〇・九九ラド、約〇・一九ラド及び約〇・二一ラドである
とされる。
4本件安全審査における事故災害評価の重大かつ明白な違法
()、「」「」「」一このように安全審査は技術的に起こると考えられない最悪の場合仮想
などの言葉を散りばめ、あたかも住民の生命健康に影響のある重大事故はありえないかの
。、、、ように描き出そうとしているしかしこのような安全審査は次に述べる理由によつて
「もんじゆ」で発生が予測される事故の危険性を全く反映していない。
(二)事象選定の恣意性
「技術的には起こると考えられない事象」の概念が如何に不当なものであり、これ以上に
危険な事象が十分ありうることは、第四部第四において詳述したとおりである。そこでも
述べたとおり、出力暴走による炉心の溶融→爆発により、炉心中の全放射能が炉外の環境
中に放出される事故も、現実的に十分予測されるのである。このような格納容器自体の健
全性が破壊される事態は、本件安全審査では全く考慮されていないのである。
重大事故、仮想事故に至つては、全く何ら想定の根拠も示されず、とりあえず一定の数値
を与えて事故解析結果をコンピユーター計算したというものにすぎないのである。TMI
、、二号炉事故を見るまでもなくいわゆる仮想事故を上回る放射能放出は現実に起こつたし
「もんじゆ」でも十分起こりうるものといわざるをえない。
(三)事象解析条件の恣意性
事象の解析にあたつては、多くのパラメーターが何らの根拠を示されることもなく、一定
の数値を与えられている。
放出放射能の量、形状、格納容器からの漏洩率、フイルターの除去効率、気象条件、人口
条件等の条件が少しずつでも異なれば、計算結果に多大の影響を及ぼすこととなる。
たとえば「もんじゆ」の付近地域は、夏には海水浴客により大都市の都心なみの超過密人
口地帯となるのであり、このような季節に事故が発生した時は、国勢調査による人口条件
などは全く意味をなさないのである。
(四)安全性判断基準自体の不合理性
本件安全審査がそのより所としている「原子炉立地審査指針」及び「プルトニウムを燃料
とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」に示されて
いるめやす線量が、何ら実証的根拠のない違法・無効なものであることは、第二部、八に
おいて述べたとおりである。
(五)結論
以上のとおり「もんじゆ」の事故評価に係る安全審査は、全く安全審査の名に値しないも
のであり、原子炉等規制法二四条一項四号に違反する明白かつ重大な違法が存するもので
ある。
六、炉心の溶融・爆発事故の壊滅的被害
1高速増殖炉における最悪の事故である炉心溶融→爆発による格納容器破壊によつて、
プルトニウムを含む全放射能が環境中に放出される事故の災害規模は文字通り想像を絶す
るものであり、風下地域は完全に壊滅して死の町と化すことが予測される。
2たとえば、西ドイツが計画している高速増殖炉原型炉SNR三〇〇(電気出力約三〇
万KW)について、アメリカの科学者rが行つた評価によれば、晴天で上昇気流の盛んな
気象条件の下では、長さ二〇〇〇キロメートル、幅一二〇キロメートル(約一〇〇〇キロ
地点)の広い地域が、プルトニウム汚染によつてAECが定めた、住民が立ち退かなけれ
ばならないとされる基準を超えるとされている。これは、わが国の場合には、どの方向に
風向があつたとしても海上に達してしまうほど広範囲の地域である。逆に曇天で逆転層の
生じているような気象条件では、幅数キロメートル、長さ一〇〇キロメートルの狭い地域
の住民のほとんどが放射線被曝によつて急性死するような壊滅的災害となるとされてい
る。
3右とほぼ同一規模の高速増殖炉である「もんじゆ」における同種事故による災害規模
も同程度に達するものと考えられる。被害規模は気象条件に左右されるが、重大事故時に
は大量の急性死者を出すか、もしくは日本列島の風下地域は全域にわたつて放棄しなけれ
ばならなくなるような事態が十分予見される。このような壊滅的被害を阻止するため原告
らは、本件設置許可処分の無効の確認を求めて本訴を提起したものである。
(結論)
、、、以上のとおりであるから原告らは本件許可処分には重大かつ明白な違法が存するので
被告総理大臣に対しその無効の確認を求める。
別紙二
第四章請求の原因に対する認否
一請求の原因「はじめに」について()
1同「第一当事者」について
(一)同「一、原告」について
「もんじゆ」が原告ら主張の場所に設置されるものであること、及び原告らがその主張の
場所に居住していることは認めるが、原告らが職を有する者であることは不知、
その余は争う。
(二)同「二、被告内閣総理大臣」について認める。
2同「第二無効確認をもとめる行政処分の存在」について
訴外動燃が被告内閣総理大臣に対して昭和五五年一二月一〇日「もんじゆ」に係る原子炉
設置許可申請を行い、被告内閣総理大臣が昭和五八年五月二七日本件許可処分を行つたこ
とは認めるが、その余は争う。
二同「第一部序論」について
1同「第一高速増殖炉の構造と「もんじゆ」の概要」について
(一)同「一、高速増殖炉の定義と歴史」について
(1)同「1原子力発電の定義」について
認める。
(2)同「2発電用原子炉の分類」について
認める。
(3)同「3高速増殖炉の定義」について
イ同(一)について
認める。ただし、正確には、高速増殖炉とは、原子核分裂の連鎖反応が主として高速中性
子により行われる原子炉であつて、核燃料物質のうちプルトニウム二三九等のある物質に
ついて当該連鎖反応に伴い生成する量のその消滅する量に対する比率が一を超えるものの
ことである(動力炉・核燃料開発事業団法二条参照。)
ロ同(二)について
高速増殖炉が俗に発電しながら燃やした以上の燃料を作り出すといわれていること、及び
夢の原子炉といわれていることは認めるが、その余は争う。
(4)同「4高速増殖炉の歴史」について
イ同(一)について
認める。
ロ同(二)について
認める(ただし、EBR-Iの冷却材がナトリウムとあるのは、ナトリウム・カリウム合
金の誤りである。。)
ハ同(三)について
、、フエルミ一号炉が約二〇年の歳月と約一億三〇〇〇万ドルを投じて計画建設されたこと
同炉が廃止されたこと、各国の高速増殖炉の開発の歴史がおおむね表1に示されるとおり
であること、及び軽水炉が商業ベースに乗つていることは認めるが、その余は争う。
(二)同「二、高速増殖炉の構造」について
(1)同「1高速増殖炉の原理」について
イ同(一)について
認める(ただし、軽水炉の転換率は〇・六程度である。。)
ロ同(二)について
認める。
ハ同(三)について
高速増殖炉が軽水炉と比べて高温で出力密度の大きい原子炉であることは認めるが、その
余は争う。
(2)同「2高速増殖炉の種類」について
認める。
(三)同「三、
高速増殖炉の特徴」について
(1)同「1発電の原理における軽水炉との比較」について
認める(ただし、図3で二つの圧力開放板からナトリウム・水反応生成物収納容器への配
管が途中から一本になつているのは、終始二本とするのが正確である。。)
(2)同「2高速増殖炉の特徴」について
イ同まえがき部分について
認める。
ロ同「一)高速中性子の利用」について(
認める。
ハ同「二)核分裂性物質の増殖」について(
認める(ただし、増殖率の式は、正しくは以下のとおりである。
増殖率=核分裂性物質の生成率/核分裂性物質の消費率
また、増殖率一・一四とあるのは、一・四の誤りとする。。)
ニ同「三)プルトニウム燃料の使用」について(
電気出力一〇〇万キロワツトの高速増殖炉の運転によつて原子炉内のプルトニウムが数ト
ンにも達すること、及びプルトニウムを多量に内蔵することが高速増殖炉の管理を極めて
困雄なものにすることは争い、その余は認める(ただし、ラツパ管は燃料集合体の一部で
ある。。)
ホ同「四)液体ナトリウムの使用」について(
(イ)同(1)について
認める。
(ロ)同(2)について
ナトリウムは化学的活性が強く水と激しく反応すること、及び中性子照射により放射化す
ることは認めるが、その余は争う。
(ハ)同(3)について
ナトリウムを利用する高速増殖炉において、ナトリウムは一次系、二次系の各冷却系のル
ープを循環すること、一次冷却系のループを循環するナトリウムによつて炉心を冷却する
こと、及び二次冷却系のループを循環するナトリウムによつてタービンを動かすための蒸
気を発生させることは認めるが、その余は争う。
へ同「五)中性子照射」について(
(イ)同(1)について
認める(ただし、核分裂反応により発生した中性子は核分裂反応に寄与することなどによ
り短時間のうちに消滅するものである。。)
(ロ)同(2)について
原子炉の炉心構造材が中性子照射を受けること、及び燃料を被覆しているステンレス鋼が
中性子照射によつて膨張することがあることは認めるが、その余は争う。
ト同「六)高い出力密度」について(
高速増殖炉は同規模の軽水炉と比べて出力密度が大きいこと、及び出力密度が大きいこと
、。は炉心が小型の割には出力が大きいということを意味することは認めるがその余は争う
チ同「七)不安定な動特性」について(
(イ)同(1)について
認める。
(ロ)同(2)について
高速増殖炉においては即発中性子の寿命が一〇〇万分の一秒以下であり、軽水炉と比べて
はるかに短く、また、遅発中性子の発生の割合も小さいこと、及び出力密度が大きいこと
は認めるが、その余は争う。
(ハ)同(3)について
争う。
リ同「ハ)炉心崩壊の可能性」について(
高速増殖炉は出力密度が大きいこと、及び軽水炉の場合には冷却材が減速材も兼ねている
ため冷却材の沸騰、喪失は中性子の減速能力の低下をもたらし、出力を低下させることは
認めるが、その余は争う。
ヌ同「九)核爆発(爆発的な暴走事故)の可能性」について(
軽水炉の燃料配置は中性子の増倍率がほぼ最高となるよう設計されているのに対し高速増
殖炉の場合は右増倍率が最高になるようには設計されていないこと(なお、核分裂反応と
あるのは、中性子の実効増倍率又は中性子の増倍率とするのが適切である、及び即発臨)

が即発中性子だけで核分裂連鎖反応の持続が可能となる状態であることは認めるが、その
余は争う。
(四)同「四「もんじゆ」の施設計画及び構造計画」について、
(1)同「1高速増殖炉における「もんじゆ」の位置」について
イ同(一)及び(二)について
認める。
ロ同(三)について
過大な財政負担は高速増殖炉の開発を行き詰まらせること、及び「もんじゆ」がその例に
もれないことは争い、その余は認める(ただし、国の負担四〇〇〇億円、電力各社の負担
一九〇〇億円とあるのは、国の負担約四五〇〇億円、電気事業者等の負担約一四〇〇億円
の誤りである。。)
(2)同「2「もんじゆ」のプラント配置計画」について
イ同「一)全体配置」について(
(イ)同(1)について
認める。
(ロ)同(2)について
認める。
ロ同「二)建物及び構造物」について(
(イ)同(1)について
認める。
(ロ)同(2)について
認める(ただし、原子炉格納容器外部遮蔽建物とあるのは、外部しやへい建物の、鋼性ラ
イニングとあるのは、鋼製ライナのそれぞれ誤りである。。)
(ハ)同(3)について
認める。
(3)同「3「もんじゆ」発電プラント計画の概要」について
イ同「一)全体構造」について(
認める。
ロ同「二)原子炉」について(
認める。
ハ同「三)冷却系」について(
(イ)同(1)及び(2)について
認める。
(ロ)同(3)について
認める。
なお、括弧内の圧力はいずれも蒸発器の最高使用圧力である。
ニ同「四)工学的安全施設」について(
(イ)同(1)について
認める。
(ロ)同(2)について
認める。
(ハ)同(3)について
認める。
ホ同「五)放射性廃棄物廃棄施設」について(
認める。
2同「第二「もんじゆ」設置許可処分手続きの重大かつ明白な違法性」について
(一)同「一「もんじゆ」設置許可処分手続きの概要」について、
(1)同1について
認める(ただし「安全審査書」案とあるのは、略語表にある安全審査書案と解する。ま、
た、
原子炉等規制法二四条一項一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る)の審査。

ついては、同条二項に基づき、原子力委員会に諮問している。。)
(2)同2について
「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖炉もんじゆ発電所の設置に係る公開ヒアリング」「

おける意見等の参酌状況について」という文書が、公開されない資料に基づき判断理由を
示さないまま一方的独断をしていることは争い、その余は認める(ただし「高速増殖炉、

安全性の評価の考えかたについて」とあるのは「評価の考え方」が正しい。、。)
(3)同3について
(、、。)。認めるただし本件許可処分を行うに当たつては原子力委員会の意見も聴取している
(二)同「二、審査体制の不公正」について
(1)同1について
認める。
なお、原子力安全委員会の所掌事務は設置法一三条に規定されている。
(2)同2について
原子力安全委員会及び原子炉安全専門審査会の委員の中には原発設置反対派と称する学者
がいないこと、及び昭和五三年一〇月に原子力安全委員会が設置されたことは認めるが、
その余は争う。
(三)同「三、審査基準の違法性」について
(1)同「1審査基準設定の違法性」について
安全審査の基準として原子力安全委員会の内規である各種指針が制定されていること、及
び設置法一三条二号に「原子炉に関する規制のうち、安全の確保のための規制に関するこ
と」と規定されていることは認めるが、その余は争う。。
(2)同「2審査基準自体の違法性」について
争う。
(四)同「四、
本件許可処分手続の違法性」について
(1)同1について
被告内閣総理大臣が本件許可処分をするに際し、原子力安全委員会あるいは原子炉安全専
門審査会の安全審査の結論と同旨の判断をしたことは認めるが、その余は争う。
(2)同「2本件許可の要件」について
「もんじゆ」が燃料としてプルトニウムを使用するものであること、プルトニウムの利用
に当たつては平和利用の維持が保障されなければならないこと、プルトニウムを管理する
ことが必要であること、基本法はその二条に、原子力の研究、開発、利用について「平和
の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものと
し、その成果を公開し」との基本方針が規定されていること、同方針の下に、総理府に原
子力委員会及び原子力安全委員会が置かれていること、原子力安全委員会は設置法一三条
に基づき原子炉の安全の確保のための規制に関する事項を所掌すること、並びに原子炉等
、、、、、規制法は昭和三二年に制定され同法が製錬の事業加工の事業原子炉の設置運転等
再処理の事業など各分野別に規制していることは認めるが、その余は争う。
(3)同「3本件許可についての「民主、公開」原則の違反」について
イ同まえがき部分について
原子力発電所が平常時に放射性物質を所要の処理過程を経て放出するものであることは認
めるが、その余は争う。
ロ同(一)について
争う。
ハ同「二)公開ヒアリングの問題点」について(
原子力安全委員会が昭和五七年七月二日敦賀市において「もんじゆ」設置に係る公開ヒア
、、、リングを開催し同ヒアリングの結果を参酌したこと同ヒアリングは一回であつたこと
同ヒアリングでは陳述人が地域等を限定してあらかじめ募集された上、原子力安全委員会
が陳述人を選定したこと、及び意見等を述べることができる時間が一人当たり一〇分以内
であつたことは認めるが、その余は争う(ただし、当該市町村の住民の委任を受けた者は
、、。)。意見等を述べることが認められておりまた意見等陳述人の再質問は認められていた
(4)同「4住民の疑問に応えていないこと」について
昭和五一年四月一五日に市民の会が結成されたこと、同年七月二五日に県民会議が結成さ
れたこと、科学技術庁に対して原告ら主張のとおりの申し入れ書が提出されたこと、科学
技術庁が同申し入れ書記載の要望を拒否したこと、
県民会議等が公開ヒアリングの実力阻止の方針を決めるとともにいわゆる住民ヒアリング
を開催したこと、並びに市民の会及び県民会議が原告ら主張の質問書を作成し、原子力安
全委員会に提出したことは認めるが、市民の会及び県民会議が結成されるに至つた背景、
それに参加した住民の姿勢、並びにいわゆる住民ヒアリングの内容については不知、その
余は争う(ただし、要望とあるのは、申し入れ書の、意見書とあるのは、高速増殖炉「も
んじゆ」安全審査に関する質問書のそれぞれ誤りである。。)
(5)同「5まとめ」について
争う。
三同「第二部放射線と放射性物質の危険性」について
1同「一、核燃料サイクルの各段階における被害の発生」について
(一)同まえがき部分について
争う。
(二)同「1ウラン鉱山による被害」について
ウランが原子炉の燃料となること、及び過去に海外で鉱夫が肺がんになつたことがあるこ
とは認めるが、その余は争う。
(三)同「2ウラン選鉱工場による被害」について
ウランはウラン鉱石が粉砕され、硫酸又は炭酸ナトリウムで処理されて抽出されること、
処理後の鉱さいには元の鉱石の約七〇パーセントの放射性物質が含まれていること、過去
に鉱さいをためたダムが決壊し放射性物質が流出した事故があつたこと、鉱さいの放射性
物質がトリウム二三〇及びその娘核種であること、並びにトリウム二三〇の半減期が八万
年であることは認める(ただし、元の鉱石の八五パーセントとあるのは、約七〇パーセン
トの誤りである)が、その余は争う。。
(四)同「3ウラン濃縮工場による被害」について
ウランを濃縮する過程で労働者がウランの粉塵によつて被曝する被害が発生していること
は争い、その余は認める。
(五)同「4原子炉による被害」について
原子炉においてはウラン等の核分裂によつて多量の放射性物質が生成されること、原子炉
の中でも一般に原子力発電所の原子炉は出力が大きく、生成される放射性物質の量も多い
こと、TMI事故において放射性物質が環境に放出されたこと、フエルミ一号炉において
燃料棒が一部溶融する事象があつたこと、同炉においてナトリウムが漏洩した事象があつ
たこと、及び同炉が廃止されたことは認めるが、その余は争う(なお、同炉が廃止された
のは資金上の理由によるものである。。)
(六)同「5再処理工場による被害」について
再処理が原子炉で生じた使用済燃料を処理してウラン及びプルトニウムを分離抽出する過
程であること、使用済燃料中にウラン及び各種の核分裂生成物が多量に存在すること、再
処理するためにはまず燃料棒をせん断すること、海外の再処理工場では過去に放射性物質
の環境への放出や労働者被曝があつたこと、再処理がウランと比べて一般に臨界に達しや
すいプルトニウムを扱うこと、並びに海外の再処理工場で臨界となつたことがあることは
認めるが、その余は争う。
(七)同「6放射性廃棄物による被害」について
゛放射性廃棄物は、その性質上、固有の半減期に従つて減少していくものであることは認
めるが、その余は争う。
(八)同「7輸送事故」について
燃料採掘から廃棄物となる過程において核物質は輸送されて移動すること、及び過去外国
においてトラツクの衝突、列車の転覆、船舶の沈没等が起こつたことがあることは認める
が、その余は争う。
(九)同あとがき部分について
争う。
2同「二、放射線の種類」について
認める。
3同「三、放射性物質の種類」について
認める(ただし、放射性物質の環境及び生体内での挙動は化学的性質のみでな~物理的性
質によつても異なる。また、放射性物質の壊変によつて周辺組織が受ける影響は対象とな
る臓器、放射性物質の種類及び放射性物質が臓器内にとどまる期間等によつて異なる。。)
4同「四、放射線の危険性発現の機制」について
(一)同「1放射線による生体内分子の破壊」について
放射線が人体に与える影響についてはしきい値が存在し得ないことは争い、その余は認め
。、、、、、るなお放射線が人体に与える影響については分子レベルではなく細胞組織器管
系等のレベルで考えるべきである。
(二)同「2放射線による生体に対する遺伝的あるいは遺伝学的影響」について
(1)同「一)生体におけるDNA(デオキシリボ核酸)の重要性」について(
認める。
(2)同「二)DNAの構造及び機能」について(
、、いつたん誤つた塩基のDNAが形成されるとその誤つた遺伝情報は安定して存在し続け
容易に元に戻ることがないことは争い、その余は認める。
(3)同「三)発ガンにおける遺伝子(染色体)の役割」について(
点突然変異が長い期間を経て悪性な腫瘍となること、
及び点突然変異は別個独立に多数の細胞において発生する必要はなく、一個の細胞に生じ
るとがんが発生することは争い、その余は認める。
(4)同「四)放射線の遺伝子に与える影響」について(
染色体の受けた変化は非可逆的でありそのまま保存されること、同変化が体細胞のがん遺
伝子に起これば長期間を経てがんが発生すること、同変化が生殖細胞に起こればその子の
すべての細胞はこの生殖細胞と同様の突然変異を起こした遺伝子を有することになり遺伝
的障害が発生すること、遺伝的障害がほとんど劣性突然変異であること、並びに遺伝的障
害の発生及びがんの発生については放射線の影響はその線量に関係なく確率的に必ず発生
することは争い、その余は認める(ただし、放射線によつてDNAが受けた損傷の大部分
は正常に修復される。。)
5同「五、放射線障害の種類」について
(一)同「1身体的障害」について
晩発性障害として慢性白血球減少症、寿命短縮及び免疫力の低下が知られていることは争
い、その余は認める。
(二)同「2遺伝的障害」について
身体に起こる障害のうち、特にその生殖細胞又はその原基細胞に起こつた遺伝学的障害が
遺伝的障害であり、子孫に遺伝することは争い、その余は認める。
6同「六、放射線の危険性評価」について
(一)同「-はじめに」について
放射線障害が歴史的に次第に解明されてきたことは認めるが、その余は争う。
(二)同「2線量と放射線障害との一般的関係」について
(1)同「一「しきい値」の不存在」について()
放射線障害にしきい値が存在するか否か議論されたことは認めるが、その余は争う。
(2)同「二)低・微量線量域における線量-効果関係」について(
放射線の線量とその影響との関係について種々の見解が示されていること、並びにアメリ
カ国立科学アカデミーの電離放射線の生物学的影響に関する委員会(BEIR委員会)が
直線型、直線-二次曲線型及び二次曲線型の三つの線量-効果関係について考察し報告し
たことは認めるが、その余は争う。
(3)同「三)線量及び線量の分割」について(
急性障害においては同一の線量であつてもこれを分割して何回かに分けて被曝した場合又
は長期間に少量ずつ被曝した場合の方が一度に被曝した場合よりも障害が発生しにくいこ
と、及び少量ずつ照射された方が損傷の修復される可能性が強いことは認めるが、
その余は争う。
(三)同「3放射線の危険性の程度」について
(1)同「一)急性障害」について(
認める。
(2)同「二)低・微量線量域における障害」について(
イ同「1)ICRPの勧告におけるリスク係数」について(
認める(ただし、確率的障害とあるのは、ICRPが放射線防護の観点から分類した確率
的影響が正しい。。)
ロ同(2)について
bらがハンフオード原子力施設における放射線作業従事者を含む労働者について過去約三
〇年間の死亡率の調査を行つたことは認めるが、その余は争う。
ハ同(3)及び(4)について
認める。
ニ同(5)について
争う。
7同「七「許容被曝線量」の違法性」について、
(一)同「1「許容被曝線量」の性格」について
ICRPが一九五八年以降その制限値を全く改定していないこと、及びICRPが原子
力を利用する側の機関であることは争い、その余は認める。
(二)同「2「許容被曝線量」の違法性」について
争う。
(三)同3について
争う。
8同「八「めやす線量」の違法性」について、
(一)同1について
原子力委員会が昭和三九年に原子炉立地審査指針を定めたこと、原子力安全委員会が昭和
五六年に「プルトニウムに関するめやす線量について」を定めたこと、及び右二つの指針
の中でめやす線量を定めていることは認めるが、その余は争う。
(二)同2について
めやす線量が許容被曝線量よりも大きな値であること、原子炉立地審査指針で定められて
いるめやす線量が原告ら主張のとおりであること「プルトニウムに関するめやす線量に、
」、、ついてでほめやす線量として骨表面近くの細胞について一二ラド肺について一五ラド
肝について二五ラドとしていること、プルトニウムのめやす線量が発がんの個々の事例中
の最低線量である最小限界線量を基に定められたこと、及び右めやす線量が被曝者集団の
がん等の発生率の疫学的調査研究から個人の発がん等の危険性を求めたものとは異なるも
のであることは認める(ただし、プルトニウムのめやす線量が骨に対して六ラドとあるの
、、、、は骨表面近くの細胞について一二ラドの肺に対して一二ラドとあるのは一五ラドの
肝に対して一五ラドとあるのは、二五ラドのそれぞれ誤りである)が、その余は争う。。
(三)同3及び4について
争う。
9同「九、
プルトニウムの危険性」について
(一)同-について
認める。
(二)同2について
プルトニウムの許容量の妥当性に疑義があること、酸化プルトニウムが直径一ミクロン前
後の微粒子となつて空気中に漂いやすいこと、及び原子力発電所の事故の際主として酸化
プルトニウムが放出されることは争い、その余は認める(ただし、プルトニウムの現行の
許容量とあるのは、ICRPの報告書2及び6から導かれる職業人に対する肺の最大許容
負荷量の一〇分の一を公衆に対する最大許容負荷量と解しているものと思われる。なお、
プルトニウムは毒性の強い物質であつても、最も強い物質ではない。また、気管や気管支
に沈着した酸化プルトニウム粒子の大部分はせん毛の働きによつて速やかに除去される。
、。)。さらにプルトニウムは水溶性であつても消化器系から吸収されるものは極めて少ない
(三)同3について
プルトニウムは環境中での測定が容易でなく、漏洩したとしても正確にこれを知ることが
できないこと、及びプルトニウムを用いれば容易に核兵器が製造できることは争い、その
余は認める。
(四)同4について
認める。
なお、原子炉の燃料として使用されるプルトニウムは酸化物であり自然発火することはな
い。
10同「一〇、その他高速増殖炉において特に問題となる放射性物質の危険性」につい

(一)同「1ナトリウム」について
(1)同(一)について
金属ナトリウムが化学的活性が強いために原子炉構造材料を腐食させやすいことは争い、
その余は認める。
(2)同(二)について
認める。
(3)同(三)について
認める(ただし、放射化したナトリウムが容易に原子炉から漏洩して生体に入り込むこと
はない。。)
(二)同「2トリチウム」について
(1)同(一)について
トリチウムが質量数三の水素の放射性同位体であること、トリチウムがベータ崩壊するこ
と、トリチウムの半減期が約一二年であること、水素が極めてありふれた元素であり酸素
と結合すれば水となること、及び水素は人体のいかなる組織にも欠くことのできない元素
であることは認めるが、その余は争う。
(2)同(二)について
認める(ただし、トリチウムを水素又は水と分離することは技術的に可能である。。)
四同「第三部プルトニウム・リサイクルの違憲・違法性」について
1同「第一核燃料サイクルとは」について
(一)同「一、核燃料の流れに沿つて」について
認める(ただし、ダウンストリームが使用済燃料の処理と廃棄との二つに分けられるとあ
るのは、使用済燃料の再処理及び放射性廃棄物の処理、処分の二つに分けられるとするの
が正しい。。)
(二)同「二、ワンス・スルー型とプルトニウム・リサイクル型」について
(1)同1について
認める(ただし、プルトニウム・リサイクル型はプルトニウムのほかウランも再利用する
構想のものである。。)
(2)同2について
カーター政権が核拡散防止政策を打ち出したこと、商業用の高速増殖炉や再処理工場の建
設、計画を凍結したこと、レーガン政権がバーンウエル再処理工場を再開したこと、及び
同工場が一九八三年一二月に閉鎖されたことは認めるが、レーガン政権が核兵器のプルト
ニウムの不足を理由に民間の商業用原子炉からの使用済燃料の軍事転用を図ろうとしたこ
とは不知、その余は争う。
(3)同3について
争う。
2同「第二プルトニウム・リサイクルにおける高速増殖炉の位置」について
(一)同「一、プルトニウム・リサイクルの中核としての高速増殖炉」について
認める(ただし、プルサーマル計画(プルトニウムを通常の軽水炉等の熱中性子炉で利用
する計画)における核燃料について、プルトニウムと低濃縮ウランの混合酸化物とあるの
は、プルトニウムとウラン(天然ウラン、劣化ウラン、回収ウランのいずれか又はこれら
を組合わせたもの)の混合酸化物の誤りである。。。)
(二)同「二、プルトニウム・リサイクルの虚構性」について
西ドイツカールスルーエ原子力研究所のdとインターアトム社のeとが、一九八五年七月
フランスのリヨンで開かれたIAEA主催の高速炉シンポジウムにおいてSNR-三〇〇
の転換比を当初一・二二としていたのを初装荷炉心で〇・九六、その後一・〇五程度に引
き下げた旨発表したことは認める(ただし、高速炉シンポジウムの開催が一九八五年八月
とあるのは、同年七月の、転換費とあるのは、転換比のそれぞれ誤りであり、また、転換
比が一以上の数値の場合は増殖比と呼ばれている)が、その余は争う。。
(三)同「三、
プルトニウム社会への道を開く「もんじゆ」開発」について
ICRPの報告書2及び6から導かれるプルトニウム二三九の肺に対する最大許容負荷
量の一〇分の一が〇・〇〇一六マイクロキユリーであることは認めるが、長崎に投下され
た原子爆弾を作るのに必要なプルトニウムの量が一〇キログラム程度であることは不知、
その余は争う。
(四)同「四、プルトニウム社会の深刻な問題点」について
インドが一九七四年に核実験を行つたことは認めるが、この実験に使用されたプルトニウ
ムがカナダより導入された原子炉から取り出した使用済燃料から抽出されたものであるこ
とは不知、その余は争う。
(五)同「五、民主的討論を経ない、日本の高速増殖炉開発」について
イギリスでは次期高速増殖炉CFR一号炉の開発に当たつて一九七六年九月王立環境委員
会から「原子力と環境」報告が提出されたこと、同報告に原告ら主張の内容が含まれてい
ること、及びアメリカでは一九七四年USAECからGESMO報告が発行されているこ
とは認めるが、その余は争う。
3同「第三放射性廃棄物の危険性と見通しのない処理・処分」について
(一)同「一、一般的な問題点」について
(1)同「1はじめに」について
争う。
(2)同「2放射性廃棄物の区分」について
イ同まえがき部分について
、。原子力発電所から出る廃棄物のすべてが放射性廃棄物になることは争いその余は認める
ロ同「一)高レベル廃棄物」について(
(、。認めるただし年間約三〇トンの使用済燃料が出るのは軽水型原子力発電所からである
また、再処理における高レベル放射性廃液は再処理の工程の中でも抽出工程のみで生ずる
ものである。。)
ハ同「二)中レベル廃棄物」について(
認める(ただし、中レベルという区分を設けない場合もある。。)
ニ同「三)低レベル廃棄物」について(
低レベル廃棄物が危険性の少ないレベルではないこと、低レベルドラム缶のすべてが約一
〇〇ミリキユリーの放射能を含むこと、及び一〇〇ミリキユリーの放射能量が数百人の致
死量に当たることは争い、その余は認める(ただし、再処理における放射性廃液でこれに
分類されるものもある。。)
(3)同「3放射性廃棄物の寿命と毒性」について
一〇〇万キロワツト級軽水型原子炉を一年間運転した場合に約三〇トンの使用済燃料が
出ること、
原告ら主張のハザード・インデツクスなる考え方があること、並びに使用済燃料中には超
ウラン元素といわれるプルトニウム、ネプツニウム、アメリシウム及びキユリウムが含ま
れることは認めるが、その余は争う。
(4)同「4放射性廃棄物の熱」について
放射性物質はその崩壊過程で熱を発すること、原子炉から取り出した直後の使用済燃料が
一トン当たり約一〇〇キロワツトの熱を発すること、及び使用済燃料一トンから生じる核
分裂生成物は約一〇リツトルの体積であることは認めるが、その余は争う。
(5)同「5放射性廃棄物の発生量の現状と予測」について
一九八四年七月に総合エネルギー調査会原子力部会から出された核燃料サイクル関連諸量
の変化の見直しについての数値の信頼性が高いとはいえないこと、設備容量が三倍以上に
なると低レベル放射性廃棄物発生量が三倍以上になること、及び焼却処分が大気中に放射
能をまき散らし深刻な環境汚染をもたらすことは争い、その余は認める(ただし、ドラム
缶換算にして四万七五四九本とあるのは、四万七六四九本の、表6に二〇〇〇年度におけ
るウラン精鉱需要量(B)が二六とあるのは、一六の、表7の焼却量欄の小計が四四九九
とあるのは、七五〇五のそれぞれ誤りである。。)
(6)同「6海外返還廃棄物」について
再処理後の高レベル廃棄物の最終処分方法が確立するまでは原子力発電所の運転が許され
ないこと、一キヤニスター当たりの放射能が数百人から一〇〇〇万人の致死量に当たるこ
と、廃棄処分が不可能であること、発熱作用がガラス固化体の安全性を著しく損ねるおそ
れが多いこと、ガラス固化体の技術が非常に不安定な状況にあること、日本では実物大の
実験が全く行われていないこと、ガラスが非結晶で非常に不安定な物質であり、年の経過
とともに結晶化を起こすこと、ステンレス鋼の寿命が五〇年程度であること、及び放射能
漏れの起こる可能性が極めて大きいことは争い、キヤニスターの内容量、放射性物質量及
び毎年三〇〇体くらいが日本に返還されてくることは不知、その余は認める。
(7)同「7廃炉」について
イ同「一)廃炉の見通し」について(
認める(ただし、一九八五年九月末日現在の原子力発電所の稼動基数は三二基であり、初
めて稼動したのは一九六六年である。。)
ロ同「二)廃炉の廃棄物」について(
炉心シユラウドを一〇〇〇年以上にわたつて厳重な管理の下に貯蔵しなければならないこ
と、及び表8の数値は争い、その余は認める。
ハ同(三)について
「もんじゆ」に係る安全審査において「もんじゆ」の廃止措置についての審査がなされて
いないことは認めるが、その余は争う。
(二)同「二、高速増殖炉による放射性廃棄物の問題点」について
(1)同「1高速増殖炉の放射能」について
イ同まえがき部分について
高速増殖炉の場合には軽水炉と異なり放射性ナトリウムが生じることは認めるが、その余
は争う。
ロ同「一)ナトリウム」について(
大型の高速増殖炉においてはナトリウム二四の生成量が二〇〇〇万から三〇〇〇万キユリ
ーとなることは認めるが、その余は争う。
ハ同「二)トリチウム」について(
トリチウムは軽水炉でも生成されること、及び高速増殖炉では軽水炉と比べて高速中性子
の作用によりトリチウムができやすくなることは認めるが、その余は争う。
ニ同「三)プルトニウムなどの超ウラン元素の問題」について(
表9の軽水炉に関する数値、及び超ウランを含む放射性廃棄物の安全な貯蔵や管理が決定
的に困難であることは争い、その余は認める。
(2)同「2高速増殖炉の使用済燃料の特性」について
認める。
(三)同「三「もんじゆ」における固体廃棄物の問題点」について、
(1)同「1「もんじゆ」における固体廃棄物の種類と年間推定発生量」について
認める。
(2)同「2「もんじゆ」における固体廃棄物の処理・処分の方法」について
認める。
(3)同「3安全審査書における固体廃棄物の処理・処分に関する判断内容」について
認める。
(4)同「4安全審査書における固体廃棄物の処理・処分に関する判断内容の問題点」
について
イ同「一)固体廃棄物の危険性と管理上の問題点」について(
固体廃棄物にプルトニウムなどの超ウラン元素が含まれることは争い、その余は認める。
ロ同「二)固体廃棄物の貯蔵能力と安全審査の欠如」について(
固体廃棄物の貯蔵能力を点検するためには、原子炉設置に係る段階的安全規制の過程にお
いて原告ら主張の(イ)ないし(二)の問題点を考慮しなければならないこと、右問題点
については具体的な設計、施工等によつて安全性を保障すべきものであること、
及び本件原子炉施設に係る安全審査において原告ら主張の諸点のすべてに関する設計など
について審査を行つていないことは認めるが、その余は争う。
ハ同「三)貯蔵庫増設の問題性」について(
本件設置許可申請書では固体廃棄物貯蔵庫が約一五年分の貯蔵能力を有し必要がある場合
は増設を考慮するとしていること、及び昭和五六年四月に敦賀発電所一号炉の放射性廃液
の漏洩事象が顕在化したことは認めるが、その余は争う。
ニ同「四)固体廃棄物の最終処分についての無審査」について(
安全審査書案に原告ら主張の記述があること、最終処分の具体的方法及びその安全性につ
いての審査がなされていないこと、並びに放射性廃棄物の処理、処分の責任が発生者にあ
ることは認めるが、その余は争う。
ホ同「五)結語」について(
争う。
(四)同「四「もんじゆ」における使用済燃料貯蔵設備の問題点」について、
(1)同「1安全審査書における使用済燃料貯蔵設備の安全性に関する判断内容」につ
いて
認める(ただし、燃料池は使用済燃料と新燃料との共用はしない。。)
(2)同「2安全審査書における使用済燃料貯蔵設備の安全性に関する判断内容の問題
点」について
使用済燃料は高レベルの放射能を有すること、使用済燃料の取扱い等に際しては、冷却材
として使用したナトリウムと水ないし空気が接触する機会が増大すること、及び右接触に
より潜在的には急激な化学反応、さらには腐食が予測されることは認めるが、その余は争
う。
4同「第四克服困難な再処理技術の問題点」について
(一)同「一、再処理とは」について
再処理工場から排出される放射性廃棄物の量が原子力発電所からのそれと比べ、比較にな
らないほど大量であること、並びに高速増殖炉の使用済燃料に含まれるトリチウム及び超
ウラン元素の量が軽水炉のそれらと比べ数十倍及び七ないし八倍であることは争い、その
余は認める(ただし、分離抽出されたウラン等を軽水炉や高速増殖炉の燃料として再利用
するために成型加工する工程は再処理には含まれない。また、高速増殖炉と軽水炉との燃
焼度等の比較に関する原告ら主張の数値は単位重量当たりのものである。。)
(二)同「二、再処理の現状」について
(1)同「1原子力委員会の方針」について
認める(ただし「もんじゆ」の使用済燃料の再処理は、、
訴外動燃の再処理施設又はイギリス原子力公社(UKAEA)若しくはフランス核燃料公
社(以下「COGEMA」という)に委託して行うこととしている。。。)
(2)同「2事故続きの東海再処理工場の実情」について
東海再処理工場が昭和五二年九月に技術的には本格操業と変わらない操業を開始したこ
と、
並びにR一〇及びR一一の溶解槽の補修が技術的に困難なためその補修を断念したことは
争い、その余は認める(ただし、東海再処理工場の年間処理能力は二一〇トン、通水試験
を含む建設工事の終了は昭和四九年、パルスフイルタ用配管の目詰まり及び洗浄液の逆流
による作業員の被曝は昭和五五年七月八日、R一一溶解槽の運転停止による再処理能力の
減少は年間二一〇トンから一二〇トン、R一〇溶解槽にピンホールが発生し放射能が漏洩
したのは昭和五八年二月一八日である。。)
(3)同「3第二再処理工場の真の狙い」について
年間再処理能力約八〇〇トンの再処理工場の建設計画が存在すること、及び日本原燃サー
ビス株式会社が下北半島六ヶ所村に右再処理工場の建設計画を進めていることは認める
が、
その余は争う。
(三)同「三、再処理の問題点」について
(1)同「1再処理技術」について
東海再処理工場が事故、故障、運転停止の連続であること、再処理技術は基本的に確立し
ているとはいえるものではないこと、ホツト試験という名目で操業を開始したこと、再処
理が溶解過程で起こる反応が複雑で予想できないことや反応容器に予想外の腐食を生じる
可能性がある等の理由から技術的に極めて困難であると指摘されていること、及び東海再
、(、処理工場の現状が右指摘の正しいことを示していることは争いその余は認めるただし
使用済燃料の処理量一七四トンは、昭和五八年度末までのものである。。)
(2)同「2諸外国における再処理工場の実情」について
イ同(一)について
争う。
ロ同(二)について
アメリカのニユークリア・フユエル・サービス(NFS)社の再処理工場がニユーヨーク
州のウエストバレー一帯に深刻な放射能汚染をもたらしたこと、及びアメリカのゼネラ
ル・エレクトリツク(GE)社の再処理工場が実用化できないと判断されたことは争い、
その余は認める。
ハ同(三)について
認める。
ニ同(四)について
フランスでは一九七六年からCOGEMAのラ・アーグ工場で軽水炉燃料の再処理を行つ
ていることは認めるが、その余は争う。
(3)同「3深刻な環境汚染」について
高速増殖炉の使用済燃料の再処理において軽水炉のそれと比べ数十倍のトリチウムが放射
性液体として放出されること、及びトリチウムの人体への影響が問題となることは争い、
その余は認める(ただし、アメリカ環境保護庁の許容量とあるのは、アメリカ環境保護庁
の環境基準の誤りである。また、東海再処理工場の昭和五五年の設置変更承認申請に係る
安全審査においては、クリプトン八五のガンマ線に起因する全身被曝線量は年間約〇・四
ミリレムと評価されており、放射性液体廃棄物(トリチウムを除く)の放出量は年間二。

キユリーとなつている。。)
(4)同「4再処理工場の重大な危険性」について
イ同(一)について
再処理工場が化学プラントであること、及び再処理工程中の移動が主として液体によつて
なされることは認めるが、その余は争う。
ロ同(二)について
再処理工場に対して臨界事故を起こす危険性が強く指摘されていることは争い、その余は
認める(ただし、アイダホ再処理工場は高濃縮ウランを取り扱う工場である。。)
ハ同(三)について
化学処理後の高レベル放射性廃液貯槽の冷却系に故障が起こつた場合には水分が蒸発し残
渣(核分裂生成物等の残留固型物質)が溶融して多量の放射性物質が放出されることは争
い、ラ・アーグ再処理工場の火災事故において再処理廃液貯槽内の高レベル放射性廃液が
沸騰したこと、及びシエルブールの兵器庫から移動用発電機を持ち込んで冷却を再開した
ことは不知、その余は認める。
ニ同(四)について
一九七六年八月三〇日アメリカのワシントン州リツチランドのアメリシウム回収施設で発
生したイオン交換樹脂の爆発事故において作業員の誤操作や装置の故障が認められないこ
とは争い、その余は認める(ただし、オークリツジ再処理工場とあるのは、オークリツジ
国立研究所の放射化学分離パイロツトプラントの、ハンフオード再処理工場とあるのは、
ハンフオードレドツクス再処理工場の、重クロム塩酸溶液とあるのは、重クロム酸塩溶液
の、リツチランドの再処理施設とあるのは、リツチランドのアメリシウム回収施設のそれ
ぞれ誤りである。。)
ホ同(五)について
争う。
(5)同「5高速増殖炉使用済燃料の再処理上の問題点」について
争う。
(四)同「四、結論」について
(1)同1について
争う。
(2)同2について
原子炉等槻制法二三条二項八号が原子炉の設置許可申請書の記載事項として原告ら主張の
事項を挙げていることは認めるが、その余は争う。
(3)同3について
高速増殖炉がプルトニウムの再利用を目指して建設されること、本件許可処分において軽
水炉及び高速炉の使用済燃料の再処理及び輸送の方法や安全性の審査がなされていないこ
と、並びに原子炉等規制法二四条一項二号が原子力発電所の設置許可の基準として原告ら
主張の事項を挙げていることは認めるが、その余は争う。
(4)同4について
争う。
五同「第四部炉工学的安全性の欠如と重大事故の危険性」について
1同「第一炉工学的安全性の欠如」について
(一)同まえがき部分について
「もんじゆ」は軽水炉と比べて出力密度が大きいこと、及び冷却材として液体ナトリウム
を使用していることは認めるが、その余は争う。
(二)同「一、燃料体の健全性の欠如と危険性」について
(1)同「1はじめに」について
高速増殖炉はプルトニウムやウランが核分裂することにより発生する熱を取り出して電気
に変えるものであること、及び燃料体が高速増殖炉にとつて重要な部分であることは認め
るが、その余は争う。
(2)同「2燃料体の構成」について
認める。
(3)同「3燃料体の健全性の欠如について」について
イ同「一)基本的問題点」について(
高速増殖炉の出力密度や燃焼度が軽水炉のそれと比べて高いためその燃料の安全に多くの
問題が存在することは争い、その余は認める。
なお「もんじゆ」の出力密度は炉心体積一リツトル当たり約二七〇キロワツト、使用済、

心燃料集合体の平均燃焼度は燃料一トン当たり約八万メガワツト日である。
ロ同「二)安全設計審査基準」について(
安全設計審査指針の「指針14燃料設計」の項目に原告ら主張の二点しか記載されていな
いこと、同指針が基準に値するか疑問であるほど抽象的かつ不明瞭であること、及び「も
んじゆ」に使用される燃料体が同指針を充足していないことは争い、その余は認める(た
だし、昭和五五年一一月二八日とあるのは、同年一一月六日の、原子炉安全基準専門部と
あるのは、
原子炉安全専門審査会のそれぞれ誤りである。。)
ハ同「三)燃料ペレツトの健全性の欠如」について(
プルトニウムやウランは中性子を吸収して核分裂を起こすと核分裂生成物となること、核
分裂生成物の中にはクリプトンやキセノン等のようにガス状のものがあること、ペレツト
が核分裂生成物の影響で膨張することをスエリングということ、プルトニウム・ウラン混
合酸化物燃料の融点が富化度)プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料中のプルトニウム酸
化物の重量の割合)三〇パーセントで未照射の場合は摂氏約二七四〇度であること、右融
点は燃焼開始後低下すること「もんじゆ」の燃料最高温度は定格出力時で摂氏約二三五、

度、過出力時では摂氏約二六〇〇度であること、核分裂によつて燃料組織内に発生したク
リプトン及びキセノンは不活性ガスであるためプルトニウムやウランと反応せず、分子状
又は気泡の状態で存在していること、燃料は温度が高いのでガス状の核分裂生成物は燃料
組織から拡散等により燃料ペレツトの外に出てくること、燃料ペレツトから出て被覆管内
にたまつたFPガスは一般に被覆管の内圧や外径の増加に寄与し、燃料と被覆管との間の
すきまの部分の熱伝導度を減少させること、並びに高速増殖炉は軽水炉と比べて燃料の温
度及び燃焼度が高いことは認めるが、その余は争う。
ニ同「四)被覆管の健全性の欠如」について(
被覆管は原子炉の中で中性子の照射を受け様々な温度条件下に置かれること、高速増殖炉
の炉心は軽水炉と比べ中性子束が高いこと、被覆管は中性子照射によりスエリングを起こ
し、その外径や長さが増加することがあること、被覆管の肉厚は約〇・四七ミリメートル
であること、及び被覆管の外面温度は冷却材温度に近いことは認めるが、その余は争う。
ホ同「五)炉心燃料要素(燃料ピン)の健全性の欠如」について(
炉心では冷却材であるナトリウムが下から上へ流れていること、定格出力時においては原
子炉入口の冷却材温度及び圧力はそれぞれ摂氏約三九七度及び一平方センチメートル当た
り約八キログラムであり、また原子炉出口の冷却材温度及び圧力はそれぞれ摂氏約五二九
度及び一平方センチメートル当たり約一キログラムであること、原子炉入口と原子炉出口
とでは温度差は摂氏約一三二度、圧力の差は一平方センチメートル当たり約七キログラム
であること、
並びに燃料集合体内部の温度は一般にラツパ管に接する周辺部と内部とでは差があり、炉
心燃料要素の熱湾曲が発生することは認めるが、その余は争う。
へ同「六)燃料集合体の健全性の欠如」について燃料集合体の湾曲の中に燃料要素、(

ペーサ、燃料支持構造物、ラツパ管等の製作公差が原因となつて生じる局所的な湾曲があ
ること、集団的な湾曲又は局所的な湾曲が生じた場合に燃料集合体が拘束機構との兼ね合
いによつて突然曲がり、炉心に急激な正の反応度を投入するおそれが極めて強いこと、及
びアメリカでこの種の事故が現実に起こつたことは争い、その余は認める。
(4)同「4結論」について
高速増殖炉の燃料集合体は高温のナトリウム中で使用され、高い燃焼度を達成することは
認めるが、その余は争う。
(三)同「二、冷却材-ナトリウムの危険性」について
(1)同「1はじめに」について
ナトリウムが取扱いの困難な物質であること、大量のナトリウムの取扱経験がないこと、
及びナトリウムの大量の取扱いの危険性が大きいことは争い、その余は認める。
(2)同「2安全設計審査基準について」について
大量のナトリウムの取扱経験がないこと、及び「もんじゆ」において冷却材にナトリウム
を使用することに対する安全設計が「評価の考え方」の内容を満足したものでないことは
争い、その余は認める。
(3)同「3一次冷却系」について
イ同「一)一次冷却系とは」について(
放射性のナトリウムが一次冷却系から漏洩した場合には作業員が被曝し周辺住民に重大な
影響を与えること、並びに一次冷却系及び二次冷却系の構造が「評価の考え方」の内容を
満足したものでないことは争い、その余は認める。
ロ同「二)主要設備」について(
(イ)同「1)原子炉容器」について(
認める。
(ロ)同「2)遮蔽プラグ」について(
認める(ただし、ステンレス鋼炭素鋼製とあるのは、ステンレス鋼及び炭素鋼製のことと
解する)。
(ハ)同「3)一次主冷却系循環ポンプ」について(
高速増殖炉は同一出力の軽水炉に比べポンプ動力が大きいこと、及びポンプにかなりの負
担がかかることは争い、その余は認める。
(ニ)同「4)一次主冷却系中間熱交換器」について(
認める。
(ホ)同「5)一次主冷却系配管」について(
認める。
(ヘ)同「6)ガードベツセル」について(
ガードベツセルが原告ら主張の目的を有し、原告ら主張の場所に設けられる設備であるこ
とは認めるが、その余は争う。
(ト)同「7)予熱・保温設備」について(
ナトリウムの取扱いが困難であることは争い、その余は認める。なお、保温設備は軽水炉
にも取り付けられている。
(4)同「4二次冷却系」について
イ同「一)二次冷却系とは」について(
軽水炉において蒸気発生器の故障が多いこと、したがつて「もんじゆ」においてもナトリ
ウムと水との反応により蒸気発生器が破損する可能性が極めて大きいこと、及び二次冷却
「」、。系主要機器が評価の考え方の内容を満足したものでないことは争いその余は認める
ロ同「二)主要設備」について(
(イ)同「1)二次主冷却系循環ポンプ」について(
認める(ただし、蒸気発生器とあるのは、蒸発器の誤りである。。)
(ロ)同「2)蒸気発生器」について(
蒸発器が大きな問題をはらんだ機器の一つであること、蒸発器の伝熱管の破損の危険性が
極めて大きいこと、及び伝熱管が破損すると蒸発器自体が破損し環境にナトリウム、苛性
ソーダ、酸化ナトリウム等が爆発的に放出される可能性が大きいことは争い、その余は認
める(ただし、蒸気発生器とあるのは、蒸発器の誤りである。。)
(ハ)同「3)過熱器」について(
過熱器が蒸発器と同じように危険であることは争い、その余は認める(ただし、蒸気発生
器とあるのは、蒸発器の誤りである。。)
(5)同「5ナトリウムの危険性」について
イ同「一)ナトリウム・水反応」について(
軽水炉において蒸気発生器に水の漏洩が発生したことがあること、高速増殖炉の蒸気発生
器についても寿命中の水の漏洩事象の発生を想定し設計していること、一般にナトリウム
と水とは激しく反応し苛性ソーダと水素とを生成すること、摂氏三三〇度以上ではさらに
ナトリウムと苛性ソーダとが反応し酸化ナトリウムと水素とを生成すること、苛性ソーダ
及び酸化ナトリウムは一般に構造材を腐食させ得る性質を有すること、蒸気発生器の伝熱
、、管が破損し大規模な水の漏洩が生じた場合には水素ガスが短時間のうちに発生するため
蒸気発生器及び二次冷却系に応力が生じること、並びに一般に伝熱管の破損の原因として
溶接部の不良及び機械的摩耗が考えられることは認めるが、その余は争う。
ロ同「二)ナトリウムの燃焼」について(
ニ次冷却系配管が破損しナトリウムが漏洩すると空気と接触し反応すること、及びナトリ
ウム漏洩による火災では水を使用することが厳禁されることは認めるが、その余は争う。
ハ同「三)ナトリウムの放射化」について(
ナトリウムの事後処理が極めて困難であることは争い、その余は認める(ただし、大型の
高速増殖炉のナトリウム二四の生成量が二〇〇〇から三〇〇〇キユリーとあるのは、二〇
〇〇万から三〇〇〇万キユリーの誤りである。。)
ニ同「四)ナトリウムによる機器の腐食作用等」について(
(イ)同まえがき部分について
ナトリウムによる機器の腐食作用等については、ナトリウムの浸漬時間等のナトリウム側
要因と鋼材の腐食及び機械的性質との関係が重大な問題となることは争い、その余は認め
る。
(ロ)同「1)腐食・質量移行」について(
液体ナトリウム中の質量移行が無視できない問題となつていること、及びナトリウム中の
酸素濃度をいかに減少させるかが大きな問題となつていることは争い、その余は認める。
(ハ)同「2)脱炭による強度低下」について(
鋼材の脱炭による強度低下が懸念されていることは争い、その余は認める。
(ニ)同「3)クリープ特性」について(
クリープが一定応力の下で塑性変形が時間とともに増加する現象であること、クリープ特
性は温度に依存し一般にクリープ破断時間は温度が高くなるとともに短くなる傾向にある
こと、及び一般に高温ナトリウム中に長時間浸漬された鋼材はクリープ破断時間が短くな
る傾向にあることは認めるが、その余は争う。
(ホ)同「4)疲れ」について(
、。一般に低サイクルの繰り返し負荷によつて材料が疲労することは認めるがその余は争う
(ヘ)同「5)クリープ疲れ」について(
認める(ただし、クリープが相乗されることによる疲れに対する寿命の低下はさほど大き
なものではない。。)
(ト)同「6)自己融着」について(
同一の材料を接触して置いた場合に溶着する現象を自己融着ということは認めるが、その
余は争う。
(チ)同あとがき部分について
争う。
ホ同「五)ナトリウムの凝固」について(
ナトリウムが摂氏九八度以下で凝固することは認めるが、その余は争う。
ヘ同「六)不透明による作業の困難化」について(
ナトリウムは固体では銀白色であり液体でも不透明であること、及び空気と触れると反応
することは認めるが、その余は争う。
ト同「七)突発的沸騰による反応度の急激な挿入」について(
摂氏五〇〇度のナトリウムは摂氏三一五度の軽水と比べて比熱が約五分の一、熱伝導率が
一〇〇倍以上、一グラム当りの液体が気体になるのに要する気化熱が約三倍であること、
及び蒸気密度が小さいことは認めるが、その余は争う。
(6)同「6)結論」について(
争う。
(四)同「三、炉心の動特性」について
(1)同「1はじめに」について
高速増殖炉は軽水炉と比べて正の反応度係数、即発臨界、再臨界など不安定な炉心特性を
有していること、制御が著しく困難であること、及び暴走の可能性を強く持つていること
は争い、その余は認める。
(2)同「2安全設計審査基準について」について
高速増殖炉は冷却材にナトリウムを使用するはかないこと、及びそのために審査基準自身
が正のフイードバツク特性を有することを認めていることは争い、その余は認める。
(3)同「3反応度、反応度係数について」について
イ同「一)増倍率、実効増倍率、臨界、臨界超過、臨界未満とは」について(
認める。
ロ同「二)反応度、反応度係数とは」について(
反応度の温度係数が正であると原子炉の制御が著しく困難になり暴走につながること、原
子炉は炉心の大きさ、形状、燃料棒の配置等が反応度の最も大きくなるよう設計されるこ
とが望ましいこと、原子炉は設計された状態から少しでもずれたときに反応度がマイナス
となり、ずれを引き戻す方向に働くような設計になつていることが望ましいこと、これら
のことが安全設計審査指針に述べられていること、及び高速増殖炉が右に示されるような
設計になつていないことが問題であることは争い、その余は認める(ただし、反応度の温
度係数にはドツプラー係数、燃料温度係数、冷却材温度係数等があり、安全性の見地から
はこれらのすべてが負である必要はなく、総合的な効果として負であることが必要であ
る。。)
ハ同「三)ボイド反応度」について(
高速増殖炉では熱出力、圧力、冷却材の流量、冷却材の温度等が変化するとそれに伴つて
炉心内の気泡量が変化すること、気泡量が増加すると反応が増加すること、
運転状態においてはボイド係数が適度にマイナスの値になるように設計しなくてはならな
いこと、ナトリウム中に気泡が発生すると中性子は減速されず核分裂の確率を増加させる
ため制御が困難となること「もんじゆ」のような大型の炉心においてはボイド係数が正、

なり制御が極めて困難となること、及びボイド反応度に関する詳しい知見がまだ得られて
いないことは争い、その余は認める。
ニ同「四)ドツプラ卜係数」について(
認める。
ホ同「五)構造物の膨張や変形、燃料集合体の変形による効果」について(
炉心の温度が上昇すると構造物の膨張や燃料集合体の変形が生じ、このことが反応度に影
響することがあること、及び温度上昇の結果生じる構造材の膨張又は燃料集合体の変形に
よる反応度変化は通常即発的には作用しないことは認めるが、その余は争う。
へ同「六)その他の効果」について(
認める。
ト同あとがき部分について
争う。
(4)同「4即発臨界」について
高速増殖炉は軽水炉と比較して遅発中性子の割合がはるかに小さいこと、高速増殖炉にお
いては外乱があつた場合の中性子束の変化が極めて激しいこと、原子炉運転中に炉心に何
らかの原因で過剰な反応度が加わると核分裂が急増し、例えば一秒という短時間の間に中
性子の数がねずみ算式に増加し、即発臨界に達し、臨界超過となり、さらには原子炉が暴
走するおそれが十分にあること、及び出力暴走事故は高速増殖炉の炉心において即発臨界
が発生することによるものであり、恐るべき危険性を与えるものであることは争い、その
余は認める。
(5)同「5再臨界」について
争う。
(6)同あとがき部分について
争う。
(五)同「四、中性子照射による機器の脆化」について
高速増殖炉の炉心では軽水炉のそれと比較して中性子束が高いこと、高速増殖炉の炉心で
は燃料の被覆材であるステンレス鋼が最も高い中性子束下にあること、ステンレス鋼は中
性子の照射によつて膨れ、この膨れによつて燃料集合体のラツパ管が曲がり、反応度に変
化が生じることがあること「もんじゆ」の燃料要素の外径は約六・五ミリメートルであ、

こと、燃料被覆管の外面温度は冷却材の温度に近いこと、及び燃料ペレツトの中心部は最
高摂氏二三〇〇度に達することは認めるが、その余は争う。
(六)同「五、
原子炉停止系の決定的不備」について
(1)同「1原子炉停止系とは」について
炉心の変形が原子炉にとつて危機的状況であること、及び制御棒が挿入されずに途中で引
つ掛かつてしまつたりすると原子炉は臨界超過状態が進行し、ついには原子炉溶融に至る
ことは争い、その余は認める(ただし、原子炉停止系とは、原子炉の臨界又は臨界超過の
状態から原子炉に負の反応度を挿入することにより原子炉を臨界未満にし、かつ、臨界未
満状態を維持するための機能を備えるよう設計された設備をいう。。)
(2)同「2安全設計審査基準について」について
「評価の考え方」に原告ら主張の基準があることは認めるが、その余は争う。
(3)同「3原子炉停止系は、制御棒のみである」について。
認める。
(4)同「4独立二系統といえないこと」について
軽水炉は制御棒のほかにほう酸水注入による原子炉停止機構を有していることは認める
が、
その余は争う。
(七)同「六、緊急炉心冷却装置の欠如」について
(1)同1について
「もんじゆ」に係る安全審査においては軽水炉で仮定しているような配管の完全破断によ
つて炉心から冷却材が喪失するという一次冷却材喪失事故の解析を特に行つていないこと
は認めるが、その余は争う。
(2)同「2安全設計審査指針について」について
「評価の考え方」に原告ら主張の基準があること、及び原子炉冷却材バウンダリとは事故
時等に原子炉から放射性物質が放散しないようにする障壁を形成するものであることは認
めるが、その余は争う。
2同「第二高速増殖炉の事故論」について
(一)同「一、はじめに」について
世界各地の高速増殖炉で発生した事象が表12のとおりであることは認めるが、その余は
争う(ただし、表12のBN-三五〇に関しナトリウム火災とあるのは、ナトリウム・水
反応の誤りである。。)
(二)同「二、EBR-Iの炉心溶融事故」について
(1)同「1炉の概要」について
認める(ただし、金属ナトリウムとあるのは、金属ナトリウムとカリウムとの合金の誤り
である。。)
(2)同「2事故の概要」について
認める(ただし、リンとあるのは、カリウムの誤りである。。)
(3)同「3事故の影響」について
運転が再開されたのが一九五八年初頭であることは認めるが、その余は争う。
(4)同「4事故の原因」について
認める。
(5)同「5事故の評価」について
争う。
なお、この事故は実験のため出力の異常を検出した際に原子炉を自動的に停止させる回路
を計画的に外して運転していた際に発生したものである。
(三)同「三、エンリコ・フエルミ実験炉の燃料溶融事故」について
(1)同「1炉の概要」について
認める。
(2)同「2事故の概要」について
認める。
(3)同「3事故の影響」について
事故に際し管理当局がデトロイト市とその周辺の住民に退避勧告を出すことを検討してい
たこと、及び実際すべての地方警察署と防災当局とに警報が発せられたことは不知、その
余は認める(ただし、同事故に際し原子炉建物内へ漏洩した放射性物質の量は極めて少量
であつて、フエルミ一号炉に関する緊急対策を定めた内規では特定箇所の隔離及びUSA
ECへの連絡だけが要求されている程度のものであつた。。)
なお、フエルミ一号炉はその後運転が再開され、一九七〇年に二〇万キロワツトの定格熱
出力を達成し一九七二年まで運転された。また、同年八月にUSAECがデトロイト・エ
ジソン社から出されていた運転免許の延長申請を却下する旨回答したのは、予定されてい
た酸化ウラン燃料炉心への改造に必要な財政的基盤が同社にないと判断したためである。
(4)同「4事故の原因」について
認める。
(5)同「5事故の評価」について
事故に際し放射能の警報が鳴つてから一〇分以上経過後に原子炉が停止されたことは認め
るが、その余は争う。
(四)同「四、フエニツクス原型炉の蒸気発生器の事故」について
(1)同「1炉の概要」について
認める。
(2)同「2事故の概要」について
フエニツクスの経済性に疑問が残ることは争い、その余は認める(ただし、二次系熱交換
、、、器とあるのは再熱器の二次冷却系のナトリウムが三次冷却系の水に漏洩しとあるのは
三次冷却系の水が二次冷却系のナトリウムに漏洩しの、一九八二年一二月及び一九八三年
二月にナトリウム漏洩とあるのは、水漏洩のそれぞれ誤りであり、また、一九八三年三月
二〇日に漏洩が生じた個所が加熱器と、四回目の故障のあと交換を余儀なくされた個所が
過熱器とあるのは、それぞれ再熱器の誤りである。。)
(五)同「五、BN-三五〇の事故」について
BN-三五〇が、一九七二年に初臨界を迎えた熱出力一〇〇万キロワツトの原子炉である
こと、一九七三年五月、
同年九月及び一九七五年二月の計三回にわたり六基ある蒸気発生器のうち順次三基で水漏
れを起こしたこと、並びに人工衛星の観測を基に冷却システムに故障が生じ火災を招いた
との報道があつたことは認めるが、その余は争う。
3同「第三高速増殖炉以外の炉の事故論」について
(一)同「一、高速増殖炉以外の炉の事故を検討する意味」について
高速増殖炉による発電は原理的に軽水炉と同じであることは認めるが、その余は争う。
(二)同「二、NRX炉・炉心溶融事故」について
(1)同「1NRX炉の概要」について
NRX炉が当時世界で最も優れた性能を持つ原子炉といわれていたことは不知、その余は
認める。
(2)同「2事故の概要」について
スチーム・フアン付近の放射能測定器が致死量の放射能を検出したことは争い、その余は
認める。
(3)同「3事故の影響」について
認める。
(4)同「4事故の原因」について
認める。
なお、本件はインターロツク回路が十分機能しない状態の下で実験を行つた際に生じたも
のである。
(5)同「5事故の評価」について
争う。
(三)同「三、SL-1炉・臨界暴走事故」について
(1)同「1SL-1炉の概要」について
(、、認めるただしSL-1炉の燃料に含まれるウラン二三五が九一パーセントとあるのは
九三パーセントの誤りである。。)
(2)同「2事故の概要」について
イ同(一)について
(、、、、認めるただしプラントの回収とあるのはプラントの改修の一九六三年とあるのは
一九六一年のそれぞれ誤りである。。)
ロ同(二)及び(三)について
認める。
ハ同(四)について
毎時一〇〇〇レムの線量率が致死量の二倍であることは争い、その余は認める(ただし、
線量とあるのは、線量率の誤りである。。)
ニ同(五)について
認める(ただし、中性子爆発及び爆発とあるのは、核的逸走による急激な水蒸気生成が正
しい。。)
(3)同「3事故の影響」について
イ同(一)について
クロム五一が検出されたこと、及び埋葬の経緯は不知、その余は認める(ただし、コバル
ト五八及びクロム五一は核分裂生成物ではない。。)
ロ同(二)について
認める。
(4)同「4事故の原因」について
認める(ただし、爆発とあるのは、急激な水蒸気生成である。。)
(5)同「5事故の評価」について
この事故が、
幸運な条件がなければ周辺に壊滅的な被害をもたらすものであつたこと、及びUSAEC
がこの事故の原因を死者に転嫁したことは争い、その余は認める。
(四)同「四、ウインズケール炉・環境汚染事故」について
(1)同「1ウインズケール炉の概要」について
認める。
(2)同「2事故の概要」について
周辺住民に対し放射性物質の放出量は大量ではなく危険性がない旨の広報活動が行われた
ことは不知、その余は認める(ただし、警察署長に対して非常警戒態勢が要請されたとあ
るのは、非常事態の可能性の警告がなされたの誤りである。。)
(3)同「3事故の影響」について
肉牛や豚を屠殺した場合にはよう素一三一の蓄積の可能性がある甲状腺を除去するように
との警告が出されたことは不知、その余は認める。
(4)同「4事故の原因」について
認める。
(5)同「5事故の評価」について
争う。
(五)同「五、スリーマイル島(TMI)原発事故」について
(1)同「1はじめに」について
争う。
(2)同「2スリーマイル島原子力発電所二号炉の概要」について
認める(ただし、臨界が一九七七年七月とあるのは、一九七八年三月の誤りである。。)
(3)同「3事故の要因と経過」について
イ同まえがき部分について
認める。
ロ同(一)及び(二)について
認める。
ハ同(三)について
認める(ただし、一次系から二次系への熱の移動が続き、蒸気発生器二次冷却水は蒸気発
生器で熱を与えることができないため温度が上昇しとあるのは、燃料棒から一次冷却水へ
熱の移動が続く一方、蒸気発生器で二次冷却水への熱除去がし難くなつたことにより一次
冷却水の温度が上昇しとするのが正しい。また、加圧器の圧力逃し弁が開いたのは原子炉
の緊急停止と同時のごとく主張しているが、正しくは原子炉の緊急停止の前である。。)
ニ同(四)について
認める(ただし、原子炉は高圧になつて危険であると判断し、高圧注水系を手動で停止さ
せたとあるのは、原子炉が圧力制御不能となるのをおそれて高圧注水系の停止及び流量を
絞る手動操作を行つたの誤りである。。)
ホ同(五)について
認める(ただし、水蒸気やガスの量が増加とあるのは、蒸気泡の量が増加の、水素爆発と
あるのは、水素の激しい燃焼のそれぞれ誤りである。。)
へ同(六)について
排水用サンプポンプが事故発生後約五時間作動していたことは争い、その余は認める(た
だし、サンプポンプが停止した時点でまだ燃料破損は発生しておらず、このサンプポンプ
を含む径路が放射性物質放出の主径路ではなかつた。。)
(4)同「4事故の規模」について
イ同「一)原子炉炉心の損傷状態」について(
認める(ただし、カメラ超音波ソナー装置とあるのは、TVカメラ及び超音波ソナー装置
、、。、の全管が破裂とあるのは九〇パーセントの被覆管が破損のそれぞれ誤りであるまた
EGアンドG社(EG&G社)が報告した原告ら主張の内容は同社の仮説であり、現在検
証中である。。)
ロ同「二)放出放射能の量」について(
TMI事故ではほとんどの燃料が破損したと考えられること、燃料棒に内蔵されていた希
、、ガスの大部分が原子炉内にそして一部が更に格納容器内に放出されたと推定されること
及び東海第二発電所に係る安全審査資料によると、大気中に放出される放射性希ガスの放
出量は重大事故の場合で最大一万三六〇〇キユリー、仮想事故の場合でも最大七〇万キユ
リーとそれぞれ評価されていることは認めるが、その余は争う。
(5)同「5事故原因とその背景」について
TMI事故の発生には種々の原因及び背景が存在したことは認めるが、その余は争う。
(6)同「6従来の安全性評価方法の欠陥の露呈」について
イ同まえがき部分について
TMI事故が安全設計の破綻を示したものであることは争い、その余は認める。
ロ同「一「多量性」の崩壊と「共倒れ故障」の怖さ」について()
一般に、二次冷却水補助給水系は複数系統設けられ、ポンプ動力にも多様性を持たせるな
どその多重性及び独立性には特に注意が必要とされること、並びにTMI事故では保守点
検後バルブが閉じられたままであつたため、ポンプは回つたものの給水が不能であつたこ
とは認めるが、その余は争う。
ハ同「二「フール・プルーフ」の不成立」について()
いわゆるフール・プルーフとは人間の操作ミスがあつても大丈夫なように設計することで
あること、及び起こり得るすべての誤操作に対し対応できるフール・プルーフは有り得な
いことは認めるが、その余は争う。
ニ同「三「フエイル・セイフ」のまやかし」について()
故障又は誤操作が生じたときに機器が安全側に作動するのがフエイル・セイフの原則であ
ることは認めるが、その余は争う。
ホ同「四)計器の欠陥と非信頼性」について(
TMI事故においては炉心部で水蒸気や水素等のガスが発生したことにより加圧器水位計
が振り切れ一次系水位の指標とならなかつたこと、及び冷却チヤンネル出口と高温側配管
との温度計が長期にわたつて振り切れていたことは認めるが、その余は争う。
へ同「五「多重の防壁」の崩壊」について()
原子力発電所には燃料ペレツト、燃料被覆管、一次系バウンダリ及び格納容器の四重の防
壁があり、放射性物質はこの防壁の内側に閉じ込められること、TMI事故では放射性物
質の漏洩が防止できなかつたこと、妊婦や幼児に避難勧告が出されたこと、放射線災害の
可能性から大規模な住民避難が検討されるに至つたこと、ほとんどの燃料棒が破損し燃料
棒内部の放射性物質が一次冷却水中へ放出されたこと、一次冷却水が逃し弁から逃しタン
クを経て格納容器内にあふれたこと、さらにサンプポンプにより補助建屋にくみ出された
こと、並びに周辺への放射性物質の放出が生じたことは認めるが、その余は争う。
ト同あとがき部分について
TMI二号炉がUSAECから建設許可を、NRCから運転許可をそれぞれ与えられてい
たものであること、及びTMI二号炉において重大な事故が発生したことは認めるが、そ
の余は争う。
(六)同「六、大飯二号炉の燃料棒破損事故」について
(1)同「1大飯二号炉原子力発電所の概要」について
認める。
(2)同「2事故の概要」について
認める。
(3)同「3事故の原因」について
認める。
(4)同「4事故の影響と評価」について
争う。
(七)同「七、ギネイ原子力発電所の蒸気発生器細管大破損事故」について
(1)同「1ギネイ原子力発電所の概要」について
認める。
なお、破損した蒸気発生器細管は一本である。
(2)同「2事故の概要」について
認める。
(3)同「3事故が周辺環境に与えた影響」について
イ同(一)について
不知。
ロ同(二)について
事故発生当時北西の風が吹いていたこと敷地外に設置された熱ルミネツセンス線量計T、(
LD)による測定がニユーヨーク州により行われたこと、
及び敷地外における全身被曝線量が五ミリレム以下と推定されたことは認めるが、その余
は不知。
(4)同「4細管破損の形態及び原因」について
イ同(一)について
蒸気発生器の細管一本に裂け目が見付かつたことは認めるが、その余は争う。
ロ同(二)について
原子力発電所においては一般に細管に破損が発見されるとその細管の両側に止め栓を打ち
込み封じる措置(盲栓)を講じてきたこと、美浜発電所一号炉では八八五〇本の細管のう
ち二二〇〇本以上が、大飯発電所一号炉では一万三五〇〇本の細管のうち一九〇〇本がそ
れぞれ栓で封じられたこと、その他約二〇〇本の細管が封じられている炉として美浜発電
所二号炉、高浜発電所一、二号炉及び玄海原子力発電所一号炉などがあること、並びにギ
ネイ原子力発電所でもこのような措置を講じてきたことは認めるが、その余は争う。
(5)同「5事故の評価」について
イ同「一)安全審査の想定していなかつた事故」について(
ギネイ原子力発電所で複数破断に相当する大破断が現実に発生したことは争い、その余は
認める。
ロ同「二)思いがけない事故の展開」について(
(イ)同(1)について
安全審査に際しての各種事故の評価において蒸気発生器細管破断が起こつても大災害には
至らないとされていること、及びギネイ原子力発電所の事故においては七九分後に所内非
常事態が発令されたことは認める(ただし、災害評価とあるのは、各種事故の評価の誤り
である)が、その余は争う。。
(ロ)同(2)について
認める。
(ハ)同(3)について
認める(ただし、格納容器内に漏洩した一次冷却水が三〇トンとあるのは、五トンの誤り
である。。)
ハ同「三)より重大な事態に発展した可能性」について(
不知。
ニ同「四)高速増殖炉にとつての意味」について(
高速増殖炉が軽水炉と構造、温度及び圧力が異なり同一に考えることはできないこと、並
びに高速増殖炉においても蒸気発生器伝熱管破損事象が発生したことがあることは認める
が、その余は争う。
(八)同「八、セイラム一号炉原子力発電所の制御棒不作動事故」について
(1)同「1セイラム一号炉原子力発電所の概要」について
認める。
(2)同「2事故の概要」について
セイラム一号炉で原子力発電所の根幹にかかわる重大事故が発生したこと、
及び大惨事になる可能性の高い制御棒不作動事故であつたことは争い、その余は認める。
(3)同「3事故の原因」について
認める。
(4)同「4事故の影響と評価」について
NRCの計算結果、及び事故が定格出力で運転中に生じていればより深刻な事態を生じか
ねないものであつたことは不知、その余は争う。
(九)同「九、美浜一号炉の問題」について
(1)同「1美浜原発の概要」について
美浜発電所一号炉に重大事故が相次いだこと、及び同炉が極端に稼動率の低い明白な欠陥
炉であることは争い、その余は認める(ただし、美浜発電所三号炉の運転開始が一九七五
年七月とあるのは、一九七六年一二月の誤りである。。)
(2)同「2一九七二年六月一三日蒸気発生器細管漏洩事故」について
関西電力が細管漏洩箇所は少数でしかも盲栓をすれば簡単に運転再開が可能であるかのよ
うにいつていたことは争い、その余は認める(ただし、美浜発電所一号炉の運転停止が〇
時一五分とあるのは、〇時五五分の誤りである。。)
(3)同「3一九七三年三月一五日蒸気発生器細管の破損事故」について
イ同(一)について
通商産業省が運転再開後の一次系の漏洩防止と運転の信頼性を確保すると称して、合計一
九〇〇本の細管に盲栓をするよう指示したことは争い、その余は認める。
ロ同「二)蒸気発生器細管破損の原因」について(
蒸気発生器細管破損の原因として決定的なものが見いだされていないこと、蒸気発生器細
管の応力腐食割れが世界中いたるところの原子力発電所で発生したことから原子炉の安全
性に重大な問題を提起したこと、及びリン酸ソーダが細管破損の決定的要因とは考えられ
ないことは争い、その余は認める。
ハ同「三)事故の評価」について(
応力腐食割れが、軽水炉の原子炉内部構造材、原子炉容器フランジ、ノズル、配管、ポン
、、、、。プ弁蒸気発生器タービンなどで発生したことがあることは認めるがその余は争う
(4)同「4一九七三年三月燃料棒折損事故隠し」について
イ同「一)事故の概要」について(
認める。
ロ同「二)事故発覚の経過」について(
関西電力と国が共同して事故隠しを行つた疑いが払拭しきれないことは争い、その余は認
める。
ハ同「三)事故の原因」について(
真の原因について不明な点が多いことは争い、その余は認める(ただし、
バツフル板の厚さが約三ミリメートルとあるのは、約三〇ミリメートルの誤りである。。)
ニ同「四)事故の評価」について(
争う。
(5)同「5その後の経過」について
美浜発電所一号炉が一九七五年から一九七八年まで稼動することができなかつたこと、蒸
気発生器細管の止栓数が二二〇〇本を超えたこと、及び営業運転を再開したのが一九八〇
年一二月であつたことは認めるが、その余は争う。
4同「第四「もんじゆ」で重大事故が起こりうる」について
(一)同「一、安全審査における事故評価の基準」について
(1)同「1安全評価指針の適用関係」について
認める。
(2)同「2安全設計審査と立地審査」について
事故より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象の安全審査上の位置付
けが明確でないこと、及びこの事象としてどのような事象を選定するかが明らかでないこ
とは争い、その余は認める(ただし、その他必要と認められる過渡変化とあるのは、その
他必要と認められる運転時の異常な過渡変化の誤りである。。)
なお、原子炉の安全設計の基本方針の妥当性は安全設計審査指針等も参考にして審査され
る。
(二)同「二、本件安全審査における事故想定等の誤り」について
(1)同「1「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の意味」について
「評価の考え方」の内容が原告ら主張の高速増殖炉の危険性に基づくものであること、及
び「もんじゆ」に係る安全審査でなされた事故等の事象選定やその評価が高速増殖炉の危
険性を考慮していないことは争い、その余は認める。
(2)同「2安全審査の対象とすべき事故」について
イ同「一)反応度事故」について(
(イ)同まえがき部分について
争う。
(ロ)同「1)燃料溶融事故」について(
a同「ア、事故の原因」について
仮に原告ら主張の(1)ないし(3)の事象が発生すれば炉心の部分的温度上昇が起こる
と考えられること、高速増殖炉は軽水炉と比べて炉心の出力密度が数倍であること、定格
出力時の燃料最高温度が摂氏約二三五〇度であること、冷却材であるナトリウムが炉心を
下から上へ流れること、原子炉容器入口における温度及び圧力がそれぞれ摂氏約三九七度
及び一平方センチメートル当たり約八キログラムであるのに対し、
原子炉容器出口における温度及び圧力がそれぞれ摂氏約五二九度及び一平方センチメート
ル当たり約一キログラムであること、軽水炉と比較して中性子照射量が大きいこと、燃料
要素及び燃料集合体が湾曲する可能性があること、ナトリウムが原子炉容器、一次主冷却
系中間熱交換器及び一次主冷却系循環ポンプ等を接続する配管の中を通つていること、フ
エルミ一号炉において機器からの脱落物による流路閉塞が起きたこと、プルトニウム・ウ
ラン混合酸化物ペレツト及び二酸化ウランペレツトがいずれも強い圧力の下で圧縮され、
続いて焼結によりセラミツク状の円柱形にされたものであること、並びに一九五五年一一
月にEBR-Iで起こつた事象が原告ら主張の経緯で燃料の溶融に至つたものであること
は認めるが、その余は争う。
b同「イ、安全審査の基本的欠陥」ついて
(a)同「a流路閉塞事故とされているもの」について
「もんじゆ」に係る安全審査においては事故の一つとして冷却材流路閉塞事故が、技術的
には起こるとは考えられない事象の一つとして集合体内流路閉塞事象がそれぞれ解析評価
されていること、冷却材流路閉塞事故が、冷却材中の不純物が蓄積したりして局部的に冷
却材の流路が閉塞される事故及び何らかの原因で燃料要素に破損を生じ、内部に蓄積され
ていたFPガスが隣接燃料要素表面に向かつて放出される事故として考えられているこ
と、
炉心燃料集合体が一六九本の炉心燃料要素をラツパ管に収納したものであること、集合体
内流路閉塞事象においては集合体内中央部で流路面積の三分の二が平板状に閉塞するもの
と仮定しており、その解析結果によれば冷却材流路閉塞が発生すると集合体内冷却材流量
は低下し、閉塞物下流域のナトリウム温度及び燃料被覆管温度が上昇するが、ナトリウム
は沸点に達しないし、燃料被覆管は溶融することはないとされていること、並びに本件設
置許可申請書添付書類によれば「核分裂生成ガスにより、隣接被覆管温度が上昇し、局、

的破損が拡大する可能性もあるが、その場合でも、遅発中性子法破損燃料検出装置による
「燃料破損検出」信号により原子炉は自動停止し、この事象は安全に終止する」ものとさ
れていることは認める(ただし、集合体内流路閉塞事故とあるのは、集合体内流路閉塞事
象の誤りである)が、その余は争う。。
(b)同「b燃料要素の局所的過熱事故とされているもの」について
炉心燃料ペレツトとして核分裂性プルトニウムを約一八パーセント含んだプルトニウム及
び劣化ウランの混合酸化物が用いられること、技術的には起こるとは考えられない事象と
して相対出力が二〇〇パーセントとなる燃料ペレツト一〇個が一本のピンの軸方向中央部
に誤装荷される場合を想定していろこと、右誤装荷によつて燃料は局所的に過熱し燃料被
覆管の一部が破れて燃料の一部が冷却材流路中に溶融放出するとされること、溶融放出さ
れた燃料によつて燃料・冷却材相互作用が起こり圧力が発生しガスブランケツテイング作
用が起こること、右ガスブランケツテイング作用により隣接の燃料被覆管の温度上昇を来
すこと、事故評価に当たつては右溶融放出された燃料が冷却材サブチヤンネルを閉塞する
ものとしていること、右評価に際しては冷却材流路閉塞の長さを長く仮定すれば破損が隣
接燃料要素に伝播するとしていること、溶融燃料の初期放出量を一〇グラムとし冷却材流
路閉塞の長さを三センチメートルとして解析評価していること、並びにこの事象の解析評
価の結果として原子炉は燃料破損検出信号によつて自動停止しこの事象は安全に終止する
と結論していることは認めるが、その余は争う。
(ハ)同「2)出力暴走事故」について(
a同「ア、事故の原因」について
原子炉が出力暴走するには炉心に大きな反応度が入らなければならないことは認めるが、
その余は争う。
b同「イ、事故の経過」について
争う。
c同「ウ、安全審査の基本的欠如」について
技術的には起こるとは考えられない事象の一つと邑て反応度抑制機能喪失事象が掲げら
れ、
一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象及び制御棒異常引抜時反応度抑制機能喪失
事象が検討されていること、一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象とは、原子炉
運転中に外部電源喪失により常用二母線の電源が喪失し、一次及び二次主冷却系循環ポン
プの主電動機が全数同時に停止し、併せて原子炉の自動停止が必要とされる時点で反応度
抑制機能喪失が重なるものと仮定されていること、並びに本件設置許可申請書添付書類に
一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象の解析結果として原告ら主張の内容が記載
されていることは認める(ただし、反応度抑制機能喪失事故とあるのは、反応度抑制機能
喪失事象の誤りである)が、。
その余は争う。
(ニ)同「3)再臨界事故」について(
争う。
ロ同「二)一次主冷却系配管破断事故」について(
(イ)同「1)安全審査の基本的欠如」について(
認める(ただし、一次主冷却系配管大口径破損事故とあるのは、一次主冷却系配管大口径
破損事象の誤りである。また、一次主冷却系配管破断事故とあるのは、正しくは一次主冷
却系配管破断事象とすべきであり、配管破断事故が起こる原因としては圧力集中部におけ
る熱膨張応力、熱応力等による疲労(クリープ疲労)等が考えられているとあるのは、正
しくは配管破損の様相として最も注意すべきは応力集中部における熱膨張応力、熱応力等
による疲労(クリープ疲労)破損であるとすべきである。。)
(ロ)同「2)破断の可能性は大きい」について(
高速増殖炉では軽水炉と比べ、一次系の圧力が低いこと、一次冷却材の温度が高いこと、
一次系の鋼材が高い温度で使用されていること、炉心出入口の温度差及び構造材に対する
熱衝撃が大きいこと、並びにナトリウムは比熱が水の五分の一程度であり熱伝導率が大き
いことは認める(ただし、ナトリウムの比熱が水の三分の一程度とあるのは、五分の一程
度の誤りである)が、その余は争う。。
(ハ)同「3)緊急炉心冷却装置は絶対に必要である」について(
「もんじゆ」が軽水炉に比べて出力密度が大きいこと、及び「もんじゆ」がループ型であ
りタンク型に比べて出力当たりのナトリウムの保有量が少ないことは認めるが、その余は
争う。
ハ同「三)蒸気発生器破損事故-ナトリウム・水反応」について(
(イ)同「1)高速増殖炉における蒸気発生器の問題点」について(
高圧増殖炉では加圧水型原子炉と比べて蒸気発生器の問題がはるかに重要な問題を含んで
いること、加圧水型原子炉において蒸気発生器の破損が多発していること、高速増殖炉の
蒸気発生器が加圧水型原子炉のそれと比べて使用条件が数段厳しいこと、及び高速増殖炉
の蒸気発生器の安全性が加圧水型原子炉のそれとは本質的に異なつた考え方で処理されな
ければならないことは争い、その余は認める。
(ロ)同「2)ナトリウム・水反応の事故の経過」について(
高速増殖炉の蒸気発生器の事故について報告がなされていること、これまでに発生した伝
熱管の損傷の原因として、加圧水型原子炉では機械的摩耗及び化学的腐食が、
高速増殖炉では溶接部の不良及び機械的摩耗があること、伝熱管が損傷した場合にはナト
リウム側と水・蒸気側との圧力差によつて伝熱管の破損口から水・蒸気がナトリウム中に
噴出すること、一般にナトリウムと水とが接触するとナトリウム・水反応が起こること、
この反応は発熱反応であつて摂氏三三〇度以下では苛性ソーダと水素とを生成し、摂氏三
三〇度以上では酸化ナトリウムと水素とを生成すること、一般に大きな漏洩の場合には短
時間のうちに水素ガスが発生し、蒸気発生器本体が応力を受けること、並びに構造材が圧
力や腐食を受けても必ずしも破損には至らないことは認めるが、その余は争う。
(ハ)同「3)安全審査の基本的欠如」について(
「もんじゆ」に係る安全審査においては、蒸気発生器伝熱管に関しては、ナトリウムの化
学反応の問題である蒸気発生器伝熱管小漏洩が運転時の異常な過渡変化の一つとして、蒸
気発生器伝熱管破損事故が事故解析の一つとしてそれぞれ想定されていること、及び右蒸
気発生器伝熱管破損事故において、伝熱管一本の両端完全破断を想定して初期スパイク圧
(ナトリウム・水反応の初期に現れ短時間で減衰する圧力)を評価していることは認める
(、、。)ただし蒸気発生器伝熱管の漏洩とあるのは蒸気発生器伝熱管小漏洩の誤りである
が、その余は争う。
(三)同「三「技術的には起こるとは考えられない事象」概念の不当性」について、
(1)同「1原子炉の安全性評価方法の歴史」について
イ同「一)WASH七四〇」について(
認める(ただし、本報告書は現実に起こる可能性のある事故を対象としたものではなく、
原子力損害賠償法の賠償措置額を算定するための資料として作成されたものであつて、施
設の安全設計の適否を検討するための安全評価とは全くその目的を異にするものであ
る。。)
ロ同「二)WASH一四〇〇(h報告」について()
(イ)同「1)報告の性格」について(
h報告が極めて強い批判を浴びていることは争い、h報告が原告ら主張の政治的意図の下
に作成されたものであることは不知、その余は認める。
(ロ)同「2)確率的安全評価方法とは」について(
認める。
(ハ)同「3)確率的安全評価方法に内在する問題点」について(
a同「ア、初期事象選定の困難性」について
争う。
b同「イ、
フオールト・ツリー作成の恣意的性格」について
争う。
c同「ウ、共通モード故障を考慮していない」について
争う。
d同「エ、故障率データの不足」について
h報告では各機器の故障率のデータとして他の化学プラントの機器のデータも用いている
ことは認めろが、その余は争う。
e同「オ、ヒユーマン・エラーの問題点」について
機器のオートメーシヨン化を進めてもシステムから人間の判断を追放することはできない
こと、ミスの発生確率がその人間の精神的肉体的条件によつて異なること、適当な緊張は
ミスを無くすために必要であるが緊張の度合が高すぎるとかえつてミスが発生しやすいこ
と、ある限られた時間の中で多量の情報を処理して適正な判断を下して解決を図ることが
通常の人間の能力を超えている場合も有り得ること、福島第二原発訴訟一審判決において
TMI事故を重大なものとした直接の決定的要因は主として人為ミスであるとされている
こと、及び伊方原発一号炉訴訟二審判決においてTMI事故は運転操作の誤りが主原因と
されていることは認めるが、その余は争う。
ハ同「三)ASP報告」について(
(イ)同「1)ASP報告とは」について(
認める。
(ロ)同「2)実績値からの割出し」について(
ASP報告の結果によれば事故は日常化しているといわざるを得ないことは争い、その余
は認める。
なお、ASPとは事故前兆事象(AccidentSequencePrecurs
or)のことであり、またASP報告で取り上げられているのは、アメリカの原子力発電
所で起きた事故、故障のみである。
(ハ)同「3)重大事故の発生確率の推定は不可能」について(
認める。
(2)同「2「技術的には起こるとは考えられない」概念の不当性」について
技術的には起こるとは考えられないという言葉が、技術的な見地からみて発生頻度が極め
て低いことを示していること「事故」より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想、

される事象が「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針について」において
表れていないこと、及び右事象が「評価の考え方」において高速増殖炉の運転実績が僅少
であることにかえがみ評価を行う対象として考えられていることは認めるが、その余は争
う。
(四)同「四、結論」について
争う。
六同「第五部立地選定の誤りと労働者住民の生命健康に対する被害」について
1同「第一耐震設計と地盤問題」について
(一)同「一、原子力発電所立地の安全審査について」について
「もんじゆ」の耐震性及び地盤に係る安全審査が安全確保の立場に立つた審査とは考えら
れないこと、並びに本件原子炉設置許可申請及びそれに係る安全審査が不公正かつ事実の
歪曲を行つたものであることは争い、その余は認める。
なお、安全審査は原子炉安全専門審査会のみではなく被告内閣総理大臣所部の科学技術庁
においても行政庁としての審査を実施している。
(二)同「二、原子力発電所と地震問題」について
(1)同1について
原子力発電所の立地が岬の先端に近い地点で小沖積地と基盤をカツトして造成した土地の
双方をまたいで建設されていることが多いこと、及びしたがつて地震時に変位や不等沈下
のおそれが大きいことは争い、その余は認める。
(2)同2について
「もんじゆ」がいわゆる一般の構造物の三倍の地震に耐え得る耐震設計が講じられている
こと、及び日本には一般に大小含めて地震のおそれが全くないといえる場所がほとんどな
いことは認めるが、その余は争う。
(三)同「三、若狭湾東部の地震・断層について」について
(1)同1について
琵琶湖北岸から敦賀湾岸にかけての地域を地震予知連絡会議の特定観測地域とみることが
できること、敦賀半島付近における主な地震が福井地震(マグニチユード七・三、越前)

沖地震(マグニチユード六・九、丹後地震(マグニチユード七・五)等であること、及)

日本海中部地震はマグニチユード七・七であり、津波も発生し犠牲者を出したことは認め
るが、その余は争う。
(2)同2について
本件設置許可申請書添付書類によれば、原子炉に最大の影響を与える活断層は敷地の北東
一一・五キロメートルを北北西から南南東ないしは南北方向に走る甲楽城断層であるとし
ていること、これによる地震の規模をマグニチユード七・〇としていること、敷地の南一
四キロメートルにある野坂断層とS二一からS二七までの海底断層とは連続性がないとし
ていること「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」によれば、敷地周、

の地質構造に顕著な断層等が認められるときはその活動性について十分安全側の評価がな
されなければならないとされていること、
及び訴外動燃が音波探査データを公表していないことは認める(ただし、甲楽城断層が敷
地の東一一・五キロメートルを南東に走るとあるのは、敷地の北東一一・五キロメートル
を北北西から南南東ないしは南北方向に走るの、野坂断層の位置が敷地の南西九キロメー
、。)、。トルとあるのは敷地の南一四キロメートルのそれぞれ誤りであるがその余は争う
なお、原告ら主張の冠島地震は、大宝丹後の地震と称するのが一般的である。
(四)同「四「もんじゆ」設置予定地の岩盤について」について、
(1)同1について
「もんじゆ」に係る安全審査においては、原子炉の基礎岩盤は全体としてCH~B級の堅
硬、均質な花崗岩で構成されていると評価していること、及びこの評価においていわゆる
RQD(RockQualityDesignation、岩盤の良好度の表示)方
式を採用していないことは認めるが、その余は争う。
(2)同2について
丹生と白木との間に約四キロメートルにわたるリニアメントがあることは認めるが、その
余は争う。
(五)同「五、結論」について
争う。
2同「第二温排水について」について
(一)同「一、司法審査の範囲と温排水についての判断はいかにあるべきか」について
(1)同1について
本件許可処分が温排水の影響の有無及び程度を審査対象外としていることは認めるが、そ
の余は
争う。
(2)同2について
争う。
(二)同「二、原子力発電所のエネルギー効率と温排水の影響」について
(1)同1について
認める(ただし「もんじゆ」の熱効率は約三八パーセントである。、。)
(2)同2について
島根原子力発電所でうるみ現象が生じたこと、及びうるみ現象により船上からの採貝、採
藻等の漁業作業を困難にし得ることは認めるが、その余は争う。
(3)同3について
若狭湾一帯には既に一一基合計七九三万キロワツトの原子力発電所が設置され、そこから
排出される温排水量は毎秒五〇〇トンを超えることは認めるが、その余は争う。
(4)同4について
福井県水産試験場において原告ら主張の調査がなされたこと、及び当該調査について原告
ら主張の内容の報告がなされたことは認めるが、その余は争う。
(三)同「三、温排水中の放射能汚染物質の遺伝的影響」について
(1)同1について
温排水は原子力発電所前面海域の温度を上昇させること、
温排水には洗濯排水等が所要の処理過程を経て混合されて放出されること、及び昭和五六
年に敦賀発電所一号炉において微量の放射性物質を含む水が排出されたことは認めるが、
その余は争う。
(2)同2について
我が国の原子力発電所は海岸に接して建設地が求められていること、そのため温排水の拡
散域を予測していること、並びに温排水の拡散予測のため新田の式、平野の式及び和田の
式が存在することは認めるが、その余は争う。
(3)同3について
国は温排水の有効利用によつて原子力発電と漁業活動との共存共栄が可能であるとしてい
ること、福井県が温排水を漁業生産の増大につながる事業に利用しようとしていること、
昭和四五年の水産庁の調査により敦賀発電所放水口周辺の海洋生物からコバルト六〇等の
放射性核種が微量検出されたこと、同調査において魚類から放射性物質が検出されなかつ
たこと、及びTMI事故時のサスケハナ川流域で放射性核種が微量検出されたことは認め
るが、その余は争う。
(四)同「四、温排水による生態系の破壊」について
(1)同「1水産生物と水温との関係」について
一部の水産生物は温度に対する適応範囲が狭く水温に敏感に反応し生理や行動が水温に
規制されること、水産生物の致死温度が種、発育段階、順化温度によつて異なること、及
び動物は生殖期や幼生期に温度の影響を受けやすいことは認めるが、その余は争う。
(2)同「2排水路通過による稚子・魚卵の死滅」について
イ同(一)について
プランクトン等の水産生物が壊滅的な影響を受けざるを得ないことは争い、その余は認め
る(ただし、日本の原子力発電所においては、冷却水の昇温は摂氏七度から一〇度程度で
ある。。)
ロ同(二)について
温排水により漁業資源への計り知れない影響が心配されることは争い、その余は認める。
(3)同「3温排水のその他の水産生物に及ぼす影響」について
温排水により水産資源の衰退と変質に至ることは争い、その余は認める。
(4)同「4生態系の破壊と変質」について
争う。
(五)同「五、結論」について
争う。
3同「第三労働者被曝の危険性」について
(一)同「一、原子力産業の労働者被曝の実態」について
(1)同「1原子力産業労働の特質」について
争う。
(2)同「2資源エネルギー庁の被曝データー」について
認める(ただし、
総被曝線量が一九七七年度八一二六とあるのは、八一一七の、一九七八年度一三二〇一と
あるのは、一三一二七の、一九七九年度一一七三一とあるのは、一一五八五の、一九八〇
年度一二九三三とあるのは、一二七四七の、一九八一年度一二八八三とあるのは、一二七
一八の、一九八二年度一二六九七とあるのは、一二五〇〇の、一九八三年までの総計が一
〇万四二二二人レムとあるのは、一〇万二三二三人レムのそれぞれ誤りであり、また、労
働者の総数は延べ人数である。。)
(3)同「3下請労働者への被曝のしわよせ」について
近年労働者被曝の数値が急増の傾向を示していること、及び下請労働者への被曝の集中化
が相変わらず顕著であることは争い、その余は認める(ただし、八四・四パーセントとあ
るのは、八八・四パーセントの誤りである。なお、下請及び下請労働者とあるのは、社員
外従事者のことと解する。。)
(4)同「4危険業務への下請労働者の投入」について
、、一般に原子力発電所の運転時においても社員以外の労働者が従事していること定期検査
点検、事故等の原子炉停止時には社員以外の労働者が増加すること、及び一九七〇年度か
ら一九八二年度までの一三年間に電力会社の社員の平均被曝線量が五五パーセントに低減
しているのに対し、社員以外の労働者の平均被曝線量が一・七四倍に増えていることは認
めるが、その余は争う。
(二)同「二、労働者被曝急増の要因」について
(1)同「1運転年数と汚染の増大」について
一九七〇年度から一九八二年度までの間に我が国の原子炉基数が四基から二四基と六倍に
増え、総被曝線量が二三倍に増加したことは認めるが、その余は争う。
(2)同「2管理者の無責任と商業主義による過度の運転実績追求」について
争う。
(三)同「三、被曝事故の先例と労働者の消耗品扱い」について
(1)同「1事故の先例」について
tが昭和四六年五月二七日に敦賀発電所において作業を行つたこと、及びzが敦賀発電所
において作業に従事していたことは認めるが、その余は不知。
(2)同「2下請労働者の消耗品扱い」について
(四)同「四、体内被曝の影響の重大性」について
フイルムバツジやポケツト線量計が直接的には着用する位置における体外からの被曝線量
を測定するものであることは認めるが、その余は争う。
(五)同「五、
低線量放射線の影響の重大性」について
(1)同「1ICRPの勧告値」について
原子力発電所の作業従事者のうちには施設周辺に居住する者もいること、これらの者が被
曝管理上は従事者(職業人)として扱われること、ICRPが一九七七年に発表した勧告
における職業人に対する線量当量限度が年間五レムであること、このICRP勧告値は国
際X線及びラジウム防護委員会時代からみると数回の改定が行われていること、並びに一
般公衆に対しては、一九五四年にICRPによつて職業人に対する最大許容線量一週当た
り〇・三レムの値の一〇分の一が勧告され、四年後に年間〇・五レムに改められたことは
認めるが、その余は争う。
(2)同「2しきい値の不存在」について
争う。
(六)同「六、労働者被曝と住民被曝」について
争う。
4同「第四平常時被曝の危険性」について
(一)同「一、はじめに」について
「もんじゆ」の平常運転時において放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物が所要の処理
過程を経て環境中に放出されることは認めるが、その余は争う。
(二)同「二、平常時の放射性気体廃棄物に関する評価及び審査の違法性」について
(1)同「1放射性気体廃棄物の放出放射能量推定の欺瞞」について
イ同「一)計算式、計算条件の根拠不存在」について(
本件許可処分に当たつての被曝評価に際し「もんじゆ」から環境に放出されるとして評、

の対象とした気体廃棄物中の放射性物質の種類及び量が訴状記載のとおりであることは認
める(ただし、よう素一三一の放出量が約〇・〇〇四一キユリーとあるのは、約〇・〇〇
四四キユリーの誤りである)が、その余は争う。。
ロ同「二)燃料被覆管欠陥率推定の恣意性」について(
被曝評価の対象としている気体廃棄物中の主な放射性物質が希ガス及びよう素であるこ
と、
この希ガス及びよう素は燃料要素から一次冷却材中へ漏出した後、一次アルゴンガス系カ
バーガス中へ移行すると想定されたものであること、燃料被覆管欠陥率を海外の高速増殖
炉における燃料被覆欠陥の程度等を参考として一パーセントとしていること、一パーセン
トという欠陥率が伊方発電所一号炉と同じ値であること、並びに軽水炉と高速増殖炉との
出力密度及び被覆材最高温度の比較の数値がそれぞれ原告ら主張のとおりであることは認
めるが、その余は争う。
ハ同「三)一次アルゴンガス系カバーガス中の放射性物質の濃度の計算の恣意性」に(

いて
放射性気体廃棄物の放出量が一次アルゴンガス系カバーガス中の放射性物質の濃度に依存
すること、一次アルゴンガス系カバーガスは循環使用されること、循環中に常温活性炭吸
着塔装置等により一〇の三乗から一〇の一〇乗の減衰を図つていること、一九八五年二月
一八日に訴外動燃が一次アルゴンガス系設備について減衰時間を長くとる設備を設けるな
どした上、希ガス除去・回収設備を設けないこととする旨の設置変更許可申請を行つたこ
と、これによりクリプトン八五の環境放出量が約二〇倍となり得ると想定していること、
及び全体としての年間放出量が減少していることは認めるが、その余は争う。
ニ同「四)原子炉格納施設の換気により放出される放射能量推定の過小評価」につい(

原子炉格納施設の換気による放出回数を年間一〇回としていること、原子炉格納容器の換
気は補修作業、燃料取替作業、定期点検作業等に先立つて行われるものであること、換気
回数については先行軽水炉の最近の運転実績を参考にしていること、及び換気回数が増え
れば放出放射能量は増加することは認めるが、その余は争う。
(2)同「2放射性気体廃棄物による一般公衆の被曝線量評価の誤り」について
イ同(一)について
気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の評価値が計算過程において問題があり、正し
い被曝評価がなされていないことは争い、その余は認める。
ロ同(二)について
大気中の放射性物質の濃度分布を推定するには一般にパスキル拡散式が用いられること、
同式はそれ自体としては平坦な地形に煙突が立つている場合、その煙突からの煙がどのよ
うに拡散するかを煙突の高さとの関係で算出する式であること、及び「もんじゆ」の設置
場所である敦賀市<地名略>地区が背後に山地を控え、その山に囲まれるように位置して
おり、炉心から約一・三キロメートルのところに白木の集落があることは認めるが、その
余は争う。
ハ同(三)について
大気中の濃度を計算するに際して静穏時の拡散を有風時の拡散に置き換えて計算している
ことは認めるが、その余は争う。
(3)同「3環境中に放出された粒子状放射性物質の無視の誤り」について
イ同(一)について
原子力発電所においては平常運転時にコバルト六〇、
マンガン五四等の粒子状放射性物質が微量放出される可能性があることは認めるが、その
余は争う。
ロ同(二)について
本件許可処分に際しては粒子状放射性物質による被曝線量が極めて小さな寄与しか与えな
いものと評価していることは認めるが、その余は争う。
(三)同「三、平常時の放射性液体廃棄物に関する評価及び審査の違法性」について
(1)同「1放射性液体廃棄物の放出量及び核種推定の欺瞞」について
イ同「一)液体廃棄物放出量及び放出放射能量計算の根拠不存在」について(
液体廃棄物の年間放出量の計算値及び核種がいずれも原告ら主張のとおりであることは認
めるが、その余は争う。
ロ同「二)仮定条件の恣意性」について(
争う。
(2)同「2液体廃棄物による被曝評価の誤り」について
イ同「一)濃縮係数の非現実性」について(
海水中の放射性物質が海生生物に取り込まれた場合に濃縮されることがあること、濃縮割
合を知るための係数が濃縮係数であること、及び海水中の放射性物質濃度に濃縮係数を乗
じると海生生物内の放射性物質濃度が推定されることは認めるが、その余は争う。
ロ同「二)海産物摂取量についての誤り」について(
液体廃棄物中の放射性物質による被曝を評価するに当たつては海産物摂取により放射性物
質の一部が体内に取り込まれるとしていること、被曝線量を計算するに当たつては「発電
用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について」に示される方法により
なされたこと、並びに同指針は海産物摂取について施設周辺の集落における食生活の態様
等が標準的である人を対象として現実的と考えられる計算方法及びパラメータにより行う
ものとしていることは認めるが、その余は争う。
(3)同「3放射性液体廃棄物による外部被曝線量評価の欠如」について
本件許可処分において放射性液体廃棄物について内部被曝線量の評価は行つているが、外
部被曝線量の評価は行つていないことは認めるが、その余は争う。
(四)同「四、結論」について
争う。
5同「第五福井地域における原子力発電所の集中化について」について
(一)同「一、若狭湾沿岸地域における原子力発電所集中立地の実態」について
(1)同「1集中立地の実態」について
イ同(一)について
福井県若狭湾沿岸においては一九七〇年(ただし、一九七一年とあるのは、
一九七〇年の誤りである)敦賀発電所一号炉及び美浜発電所一号炉がそれぞれ営業運転。

開始して以降一九七九年までに九基、電気出力六一九万キロワツトの原子力発電設備が稼
動するに至つたこと、この時点で若狭湾沿岸地方が我が国最大の原子炉集中地となつたこ
と、一九八五年に高浜発電所四号炉が営業運転に入り、一一基七九三万キロワツトとなつ
たこと、並びに現在建設中の敦賀発電所二号炉及び「もんじゆ」が完成すると一三基、九
、、()三七万キロワツトとなりさらに関西電力が計画中の大飯発電所三四号炉安全審査中
が建設されると一五基、一一七三万キロワツトとなり、若狭湾沿岸地域に多くの原子力発
電所が集中することは認めるが、その余は争う。
ロ同(二)について
一九八五年七月における我が国の原子力発電設備が三一基、二二六九・六万キロワツトで
あること、そのうち若狭湾沿岸の原子力発電設備が約三五パーセントを占め、若狭湾沿岸
は我が国最大の原子力発電所の集中地であること、世界的にみても世界の原子力発電設備
の約二・四パーセントを占めること、及び世界第五位の西ドイツの一三基、一二八七万キ
ロワツトに匹敵することは認める(ただし、一九八五年七月における我が国の原子力発電
設備が三〇基、二一五九・六万キロワツトとあるのは、三一基、二二六九・六万キロワツ
トの、若狭湾沿岸の原子力発電設備が我が国の原子力発電設備の約三七パーセントを占め
るとあるのは、約三五パーセントの、一九八四年六月の時点で若狭湾沿岸の原子力発電設
備が世界の原子力発電設備の約三・五パーセントを占めるとあるのは、約二・四パーセン
トのそれぞれ誤りである)が、その余は争う。。
(2)同「2設備の巨大化、短期間のスケールアツプ」について
イ同(一)について
若狭湾沿岸地方に原子力発電所が設置され始めた当時我が国には軽水炉の設計、建設及び
運転の経験が皆無であつたこと、並びに一九七二年に既に原子力発電技術が未完成のもの
であることが実際に示され始めていたことは争い、その余は認める。
ロ同(二)について
争う。
(3)同「3原子炉型の多様化」について
イ同(一)について
認める(ただし「もんじゆ」の燃料が濃縮ウラン及びプルトニウムとあるのは、劣化ウ、

ンとプルトニウムの混合酸化物の誤りである。。)
なお、
「もんじゆ」の基本的原理は軽水炉や新型転換炉と根本的に異なるものではない。
ロ同(二)について
技術的未経験及び短期間の巨大化の事実を併せ考えると若狭湾沿岸地域が我が国における
巨大な原子力発電実験基地といわざるを得ないことは争い、その余は認める。
(二)同「二、原子力発電所の集中立地がもたらす諸問題」について
(1)同「1事故、故障の続発」について
一九七二年から一九八四年までの間に原告ら主張(一)ないし(六)各冒頭の故障等が起
こつたこと、水質管理、材料の管理や取替え等によつて稼動率が上昇していること、及び
最近五年間(一九七九年四月から一九八四年三月まで)の故障等の件数が一四〇件あり、
そのうち若狭湾沿岸の原子力発電所に係るものが六九件で約五〇パーセントを占めること
は認める(ただし、若狭湾沿岸の原子力発電所に係るものが七二件とあるのは、六九件の
誤りである)が、その余は争う。。
(2)同「2地震時における事故発生について」について
福井県及びその周辺に活断層があること、過去にマグニチユード七以上の地震が発生した
こと、並びに琵琶湖北岸から敦賀湾岸にかけての地域を地震予知連絡会議の特定観測地域
とみることができることは認めるが、その余は争う。
(3)同「3放射性廃棄物の蓄積、環境汚染、放射線被曝」について
放射性固体廃棄物がドラム缶に詰められて原子力発電所敷地内に保管されていること、保
管量は原子力発電所の集中に対応して増加すること、一九八四年八月までの保管量が原告
ら主張のとおりであること、若狭湾沿岸の原子力発電所においては同地方からの雇用者が
あること、及び寿命の尽きた原子炉は廃止措置が講じられることは認めるが、その余は争
う。
(4)同「4温排水」について
認める。
(5)同「5集中立地を促す要因」について
集中立地による合理化が安全管理や周辺住民の安全にとつてマイナスの要因となること、
集中立地の進んだ地域では設置手続が簡略化されること、集中立地が適地性を無視してい
ること、我が国の九電力の分割独占体制が集中立地を促進していること、及び集中立地が
地域住民の利益とは無関係であるとすることは争い、その余は認める。
(三)同「三、
集中立地と地域の社会・経済上の問題」について
(1)同1について
若狭湾沿岸に原子力発電所を集中して設置することが地域の開発等に影響を与えること、
地元では原子力発電所を誘致して地域産業の振興を図ろうとする希望があること、若狭湾
沿岸の原子力発電所で生産する電力が主として関西地方に送電されていること、若狭湾沿
岸の原子力発電施設は国のエネルギー開発計画等に沿つて建設したものであること、建設
に当たつては設置者から地元の住民や自治体に補償金等が支払われたこと、及び一九七四
年に電源三法が成立し、法律の規定に基づき地元の福祉向上のための交付金が支払われた
ことは認めるが、その余は争う。
(2)同2について
原産会議の調査結果として原告ら主張の報告がなされたことは認めるが、その余は争う。
(3)同3について
福井臨海工業地帯に石油備蓄基地及び核燃料工場の計画があること、若狭湾沿岸が美しい
リアス式海岸を持つ有数の観光、保養地であること、並びに原子力発電所立地に当たつて
は技術的安全性とともに社会的影響を十分検討して立地の可否を判断すべきであることは
認めるが、その余は争う。
(四)同「四、防災上の問題」について
「もんじゆ」が従来の軽水炉と異なる構造を持ち、燃料や材料も異なること、若狭湾沿岸
が有数な観光、保養地であり、特に夏期は海水浴客など県外から多数の観光客が訪れるこ
、、、と原子力発電所と観光地が共存すること及び一時的に周辺が混雑することは認めるが
その余は争う。
(五)同「五、安全審査上の問題」について
原子力発電所の立地は一般に電気事業者が立地の候補地を選定することから始まること、
電源開発調整審議会に先立つて立地県の知事の了解が求められるが、この段階ではまだ安
全審査が行われていないこと、安全審査においては申請に対して個別的審査が行われ、全
国的な観点から選定されているかどうかや集中立地が何をもたらすかについては審査の対
象とされていないこと、安全審査において立地の適否を判断する基準として原子炉立地審
査指針があること、安全審査においては他の原子力発電所との関連において原告ら主張の
諸点を確認していること、及び一原子炉が地震に対して安全な設計となつていることを確
認することによつて、集中立地によつても複数原子炉での地震による同時事故発生は有り
得ないとしていることは認めるが、その余は争う。
(六)同「六、結論」について
争う。
6同「第六事故災害評価について」について
(一)同「一、WASH-七四〇」及び「二、原産会議レポート」について
認める(ただし、これらの報告書は現実に起こる可能性のある事故を対象としたものでは
なく、原子力損害賠償法の賠償措置額を算定するための資料として作成されたものであつ
て、施設の安全設計の適否を検討するための安全評価とは全くその目的を異にするもので
ある。。)
(二)同「三、WASH-一四〇〇」について
WASH-一四〇〇の予測が政治的意図をもつて著しく低く押えられていること、及びW
ASH-一四〇〇において想定された原子力発電所サイトのうち最大の人口密集地が原告
ら主張の人口構成であることは不知、その余は認める(ただし、晩発性がk死が四万五〇
〇〇名とあるのは、毎年一五〇〇名の誤りである)。
(三)同「四、サンデイア・レポート」について
(1)同「1サンデイア・レポートとは」について
サンデイア研究班が事故結果を詳細に記述した五万ページを超えるコンピユータ・データ
を作成したこと、及び研究報告書の原案が一九八一年ごろ完成し、その内容が原子力産業
界に説明されたが一般国民には知らされなかつたことは不知、その余は認める。
(2)同「2隠されていたレポート」について
一九八二年一一月一日付けワシントン・ポスト紙がサンデイア・レポートについて報じて
いることは認めるが、その余は不知。
(3)同「3サンデイア・レポートの内容」について
表17については不知、その余は認める。
(4)同「4サンデイア・レポートの持つ意味」について
NRCのスタツフがSST1事故の起こる可能性を一炉年につき一〇万回に一回としてい
ることは認めるが、その余は不知。
(四)同「五、本件安全審査における事故災害評価について」について
(1)同「1「事故」よりさらに発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象
の解析の内容」について
認める。
(2)同「2重大事故の解析の内容」について
認める。
(3)同「3仮想事故の解析の内容」について
認める。
(4)同「4本件安全審査における事故災害評価の重大かつ明白な違法」について
イ同(一)について
争う。
ロ同「二)事象選定の恣意性」について(
「もんじゆ」に係る安全審査において格納容器自体の健全性が破壊される事態を前提とす
る解析をしていないことは認めるが、その余は争う。
ハ同「三)事象解析条件の恣意性」について(
事象解析において解析条件が異なれば計算結果に影響を及ぼすことは認めるが、その余は
争う。
ニ同「四)安全性判断基準自体の不合理性」について(
争う。
ホ同「五)結論」について(
争う。
(五)同「六、炉心の溶融・爆発事故の壊滅的被害」について
(1)同1について
争う。
(2)同2について
SNR-三〇〇についてのrの評価によれば、上昇気流の盛んな気象条件の下では長さ約
二〇〇〇キロメートル、幅約一〇〇キロメートルの地域がプルトニウム汚染によつて住民
が立ち退かなければならないとされる基準を超えるとされていること、及びこれが我が国
の場合にはどの方向に風向があつたとしても海上に達するほど広範囲の地域であることは
認めるが、その余は不知。
(3)同3について
争う。
七同「結論」について()
争う。

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