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平成16年3月5日宣告裁判所書記官簑田直美
平成13年(わ)第36号,第99号,第189号,第352号,第517号,第637号,第932
号,第1038号
  判決
  主文
1 被告人Aを懲役19年に,被告人Bを懲役5年に処する。
2 被告人両名に対し,未決勾留日数中各870日を,それぞれその刑に算入す
る。
  理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人Aによる住居侵入,殺人,同Bによる傷害致死幇助
1 被告人Aは,他と共謀の上,平成12年11月27日午後8時ころから同月28日午前
5時ころまでの間,北九州市a区大字bc番地d団地e棟f号所在のC方に侵入した上,
同所において,C(当時30歳)に対し,殺意をもって,刃体の長さ約13.3センチメート
ルのフィッシングナイフ等でその左乳房部,左胸部,左腹部等を数回突き刺し,左肺
及び心臓切損を伴う左乳房部刺創等を負わせ,よって,そのころ,同人を上記刺創
に基づく失血により死亡させた
2 被告人Bは,同Aらの上記1の殺人に当たり,同被告人が何者かに対する傷害に及
ぶと認識しながら,平成12年10月22日ころ,北九州市又はその周辺において,D
らを通じて入手した上記フィッシングナイフを含むナイフ3本を被告人Aに渡して,上
記殺人の犯行を容易にし,傷害致死罪の限度で幇助した
ものである。
第2 被告人両名による各犯行
1 被告人両名は,Dと共謀の上,知人のE(当時21歳)から金員を喝取しようと企て,
(1) 平成12年6月28日午前1時ころ,北九州市g区h町i丁目j番k-l号所在の当時
の被告人A方において,Eに対し,「何でお前電話に出んのか。留守番電話になっ
て余分な料金を取られた。」,「迷惑料として50万円払え。払わんならどうなるか分
からんぞ。」などと脅迫するとともに,その両足首を緊縛し,背部,両足等にスタン
ガンを押し当てて放電するなどの暴行を加えて金員を要求し,これに応じなけれ
ば更に同人の身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示し,同人をし
てその旨畏怖させ,よって,同日午後5時30分ころ,同所において,同人から現金
21万3000円の交付を受けてこれを喝取し,その際,上記暴行により,同人に加
療約3週間を要する両膝・両足関節・右足背熱傷の傷害を負わせた
(2) 平成12年7月3日午後11時ころ,北九州市m区no丁目p番q号所在のU'ビル前
路上において,上記(1)記載の暴行・脅迫により畏怖していたEに対し,「明日まで
に30万円作って持って来い。」,「お前,残りの金どうするんか。」,「兄貴に作って
もらえ。」などと申し向けて金員を要求し,同人をして前同様に畏怖させ,よって,
同月4日午後6時30分ころ,同市r区st丁目u番v号所在のR'店駐車場において,
同人から現金8万円の交付を受けてこれを喝取した
(3) 平成12年7月6日ころ,上記R'店駐車場において,上記(1)記載の暴行・脅迫によ
り畏怖していたEに対し,「お前,金できたか。」,「もう1回兄貴に頼んでみろ。」な
どと申し向けた上,北九州市w区xy丁目z番a号所在のS'店駐車場及び同所から
同市b区cd丁目e番f号所在のT'病院に向かって走行中の普通乗用自動車内にお
いて,同人に対し,その顔面に催涙スプレーを吹きかけ,手足にスタンガンを押し
当てて放電するなどの暴行を加えて金員を要求し,同人をして前同様に畏怖させ
て金員を喝致しようとしたが,同人が警察に届け出たため,その目的を遂げなかっ

ものである。
2 被告人両名は,D,F,G及びHと共謀の上,平成12年8月21日午前2時ころ,北九
州市g区大字hi番地のj所在のI土木会社駐車場において,
(1)ア 被告人Bが,同所に駐車中の上記I土木株式会社所有に係る普通貨物自動車
(イスズフォワード)のフロントガラスを所携の金属バットで殴打して破損(損害額
12万8000円相当)させ,
イ Dが,同所に駐車中の上記I土木株式会社代表取締役J管理(W'株式会社所
有)に係る小型貨物自動車(三菱キャンター)のフロントガラスを所携の石を数
回叩き付けて破損(損害額6万2000円相当)させ,
ウ Fが,同所に駐車中のJ所有に係る小型貨物自動車(イスズエルフ)のフロント
ガラスを所携の石を2回くらい叩き付けて破損(損害額7万5500円相当)させ,
エ 被告人Aが,同所に駐車中の上記J所有に係る軽四輪貨物自動車(ホンダスト
リート)の左サイドリヤガラスを所携の木製バットで殴打して破損(損害額合計2
万5200円相当)させ,
オ 被告人Aが,同所に駐車中のK所有に係る軽四輪貨物自動車(三菱ミニキャ
ブ)のフロントガラス,左スライド前側ガラス,左リヤサイドガラス,リヤドアガラス
を所携の木製バットで殴打して破損(損害額合計10万9500円相当)させ,
もって,いずれも他人の物を損壊した
(2) 被告人両名,Fが,こもごも,同所に駐車中のK所有に係る軽四輪乗用自動車(ダ
イハツミラ)のフロントガラス,左ドアガラス,リヤガラスを所携の金属バットで殴打
するなどして破損(損害額11万9600円相当)させ,もって,数人共同して他人の
物を損壊した
ものである。
3 被告人両名は,共謀の上,平成12年9月10日午前4時18分ころ,北九州市k区l
町m丁目n番o号付近道路において,暴走族取締中のG''警察部交通課機動取締班
勤務の警部補L及び同巡査Mに対し,同人らが乗車中の交通取締用無線自動車リ
ヤガラスに向けてゴム銃様の物でパチンコ玉を弾いて命中させる暴行を加え,同県
警察本部警視監N管理に係る同車のリヤガラスを損壊(損害額6万9030円相当)さ
せ,もって,上記L警部補らの職務の執行を妨害するとともに,他人の物を損壊した
ものである。
第3 被告人Aによる各犯行
 被告人Aは,
1 平成12年10月2日,北九州市p区q町r丁目s番t号所在のX'株式会社k営業所サ
ービス工場出入口付近において,同所に駐車中の同営業所所長R管理に係る普通
乗用自動車1台(時価約500万円相当)を窃取した
2 O,P,F及びQと共謀の上,平成12年10月16日ころ,北九州市u区vw丁目x番y
号所在のS方において,T所有に係る自動二輪車1台(時価約30万円相当)を窃取
した
3 Oと共謀の上,平成12年10月19日午後4時18分ころ,北九州市z区ab丁目c番d
号所在のマンション「Y'」1階エレベーターホールにおいて,U(当時53歳)に対し,鉈
様の刃物でその右上腕部,右肘部を各1回切り付ける暴行を加え,よって,同人に
対し,加療約29日間を要する右前腕(肘部)切創,右上腕打撲の傷害を負わせた
4 V,W,P及びFと共謀の上,金品窃取の目的で,平成12年11月13日,北九州市e
区f町g丁目h番i号E''ビル2階所在のXことYが看守する衣料品販売店「V'」倉庫の窓
ガラスから同倉庫内に侵入した上,同所において,同人所有に係る衣類等の商品合
計195点(時価合計195万6420円相当)を窃取した
5 平成13年3月23日午後零時15分ころ,北九州市j区kl丁目m番n号所在のF''警察
署留置場第1留置室において,便所木製ドアを足蹴にした上,外れた同ドアを便所
目隠し板目掛けて叩き付け,よって,同県警察本部長N管理に係る上記ドア及び目
隠し板をそれぞれ外して使用不能(損害額合計5万2000円相当)にさせ,もって,他
人の器物を損壊した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(事実認定の補足説明)
 被告人A(以下「A」という。)は,Aに対する平成13年(わ)第352号住居侵入,殺人(第1
の1),同第932号窃盗(第3の1)各被告事件につき,被告人B(以下「B」という。)は,B
に対する同第352号殺人幇助被告事件につき,共に公訴事実(上記352号事件につい
ては訴因変更後のものを含む。)に身に覚えがない旨供述し,弁護人も,これらの各事件
について,被告人両名はいずれも無罪である旨主張する。
 そこで,以下,当裁判所が判示事実を認定した理由についてそれぞれ説明する。
第1 Aに対する殺人等被告事件について
1 関係各証拠によれば,本件住居侵入,殺人事件のあった日(平成12年11月27日
から翌28日にかけて)(以下「本件犯行日」という。)の前後におけるAの動向,言動
等について,以下の各事実を認めることができる(なお,各項末尾に,認定に資した
主な証拠を掲記した〔不同意部分のあるものにつきその旨は省略している。〕。)。
(1) 本件犯行日以前について
ア Aは,指定暴力団ΣN'組(以下「N'組」という。)の理事であり,Bは,同組の幹事で
あるが,被告人両名は,同じ中学校の先輩と後輩の関係にあり,BはAのことを日
頃から「兄貴」と呼びAの舎弟として親しくしていた。
 被告人両名は,平成12年春ないし夏ころから,同じ中学校の後輩であるD(以下
「D」という。),P(以下「P」という。),W(以下「W」という。),Q(以下「Q」という。)やこ
の者らの友人であるF(以下「F」という。)らとよく行動を共にするようになり,この者
らを「小兵隊」と称して,自分らの配下の者のようにしていた。
イ 被害者C(以下「被害者」という。)は,平成元年ころ,Zと共にG'工業で働き始め
たが,間もなくして上記Zと一緒に退職し,共にO'(N'組の上部団体の前記Σの前
身であるP'総長であったA'の息子B'が組長となって組織した暴力団)の構成員とな
った。しかし,平成5年ころ,被害者は,O'を脱退して再びG'工業で働くようになり,
以降暴力団とは縁を切った生活をしていた。一方,上記Zは,O'の構成員となった
後,前記Q'組に所属するようになったが,この他にもO'に所属した後にQ'組の構
成員となった者がC'(現在は同組若頭)等複数名いた。しかるところ,平成11年ころ
以降,上記Zや,Q'組親交者のD'が,何度となく被害者に接触し,暴力団に戻って
くるよう要求していたものの,被害者はこれを断り続けていた。
ウ Aは,平成12年(以下「平成12年」の記載を省略する。)8月下旬ころないし9月
初旬ころ,Bらに対し,被害者の探索ないし被害者宅での見張りを依頼した。その
際,Aは,Bに対し,被害者について,使用している自動車の車種,色,登録番号,
自宅の場所を教え,パチンコ店にいるかもしれないが,いないときは自宅を見張る
よう指示した。Bは,Qを連れて被害者の動向を探り,パチンコ店の駐車場で被害
者の車を見つけて待機し,被害者が自動車に乗り込んで出発すると,これをBが
運転する自動車で追跡したが,途中で被害者が突然進行方向を変えたことから,
これを見失った。そこで,Bらは,被害者宅に行って見張りをしたが,深夜になって
も被害者が戻ってこなかったところ,Aから見張りを止めるよう連絡があったことか
ら,見張りを止めて,Aと合流した。
(証人Qの尋問調書,甲206,乙98,102,103)
エ Aは,10月22日,Bに架電して,「Z'でナイフを3本買ってくれ。」,「1本は手が滑
らないように鍔の付いた高そうなナイフで,後の2本は安い物でいい。」などと,ナイ
フ3本の購入を依頼した。Bは,同日のうちにDに連絡してナイフ3本を買いに行か
せた。Dは,7200円のボウイナイフ1本(以下「本件ボウイナイフ」という。)及び1
本920円のフィッシングナイフを2本(以下,これらを「本件フィッシングナイフ」とい
う。)を購入し,Pを通じて,Bに渡した。Bは,受け取ったこれら3本のナイフをAに
渡した。
  本件ボウイナイフは,鍔が付いており,刃体の長さ約15センチメートルである。本
件フィッシングナイフは,いずれも刃部の長さ約13.3センチメートルで,刃の背部
に約3.5センチメートルにわたって凹凸がある部分がある。
  (証人Pの前記公判調書中の供述部分〔以下,単に「証人P」といい,他の証人に
ついてもこれと同様にいう。〕,証人D,乙99,101,104,甲179,184,188)
オ Aは,本件犯行日の約10日から1か月くらい前のころの間,Pの運転する車にF
と乗り,Pに被害者宅のある団地(以下「本件団地」という。)の方に向かわせて同団
地横の県道を通った際,Pに速度を緩めるか停車させるように言い,30秒ほど徐
行ないし停車させたことがあったが,減速し始めたころ,Pらに「仕事で人をやらな
いけん。」と,ある者を痛めつけるかの趣旨のことを述べたほか,徐行ないし停車し
ていた間,本件団地の方を見ていた。また,Aは,その後もPの車でFと本件団地
横の県道を通り同団地横を徐行運転させたことがあった。(証人F,同P)
カ Aは,11月23日夜,Wに車でo区p町まで迎えに来させた後,同区q所在のAの
実家に向かわせ,実家からナイフ3本を持ってきてWの運転する車の助手席に乗
り込んだが,ナイフ3本は助手席のマットの下に入れ,ナイフを持ってきたことにつ
いては,人を懲らしめるとの趣旨のことを述べた。その後,Aは,Wにr区sの更に
南の方(本件団地のある方向)に向かうよう指示し,途中で同区tにある酒屋(A'')で
段ボール箱を拾ったが,このことにつきAは,宅急便を装い人に会う旨説明した。A
は,本件団地付近に来ると,段ボール箱の中にいずれかのナイフ1本を入れて車
を降り,本件団地の方に向かったが,しばらくして車に戻り,「おらんかった。」との
一言を口にした。
 その後,Aらは,Fを迎えに行くために一旦その場を離れたが,Aが指示して本件
団地付近に戻ってきた。Aは,Wらに別の場所で待機するように言った上,自分だ
けが降車したが,その際,Fから同人の携帯電話を借りて受け取るとともにナイフ1
本の入った前記段ボール箱を持ち,再び本件団地の方に向かった。
 WとFは,本件団地付近から約1.8キロメートル離れた同区大字uv番地のw所
在の洗車場で約1時間待機していたが(その間,AがFの携帯電話からWのそれに
電子メールで連絡をしてきて,たばこを持って来させたこともあった。),翌24日午
前1時過ぎころ,Aは,Fの携帯電話からWのそれに電子メールで連絡をして,Wら
を被害者宅近くまで迎えに来させ,そのまま現場を離れた。なお,前記段ボール箱
とナイフ3本は,Aが持ち帰った。(証人F,同W,甲204,211,212,216)
キ Aは,10月中旬ころから友人のH(以下「H」という。)に白いメルセデスベンツ(以
下「本件ベンツ」という。)をしばらく預けていたが,11月24日夜ないし25日未明こ
ろ,Hに対し,x区yにいるAの知人に本件ベンツを渡すように依頼し,同月25日早
朝ころ,Hはその知人に本件ベンツとその鍵を渡した。しかるところ,本件犯行日で
ある同月27日午後10時ころ,本件ベンツと同じ白色のベンツが,本件団地内に
停まっているのが目撃された。(証人H,甲206,221)
(2) 本件犯行日以降について
ア Aは,11月28日,本件ベンツに乗って京都郡z町l番地のB''港本港第4岸壁まで
行き,同車を海に落とそうとしていたところ,そのうち連絡を取り合っていたBとE'が
合流し,Bらと一緒に引き続き本件ベンツを海に落とそうとした。しかし,結局それ
ができなかったため,灯油を購入しに行き,Aが,車内等に灯油をまいた上,火を
付けて本件ベンツを焼損させた。(甲221,422,423)
イ 本件殺人事件については,その日(11月28日)の昼ころにテレビ等で事件報道
がされたが,Aは,Fに電話で事件のことはもう話すなとの趣旨の口止めをした。ま
た,Aは,F及びWと合流し,Aの妻の実家近くの民家のブロック塀に隠していたナ
イフ2本(本件ナイフ3本中いずれかのもの)をFと一緒に取りに行った。その後,A
は,車中で,「aで殺しがあったろうが,あれは俺がやったんぞ。」と告げた上,Wら
にこのことは内緒にしておくよう言った。(証人F,同W,甲216)
ウ Aは,11月29日ころ,妻F'とF,Pと一緒に,自分の実家近くの田でトレーナーを
燃やしたほか,当時修理に出した車の代車を使用中のPに靴底の入ったビニール
袋を渡して捨てておくように指示し,その後,W,F,Pと一緒にb区c町付近のC''橋
に行き,本件フィッシングナイフのうち1本をd川に投棄した。また,Aは,FにWの
車内にあるナイフを捨てるように指示し,12月2日ころ,Fは車内で見付けたナイフ
(本件フィッシングナイフのうちの1本)を持って,PとWと共に京都郡h町付近に行っ
て,B''港内に投棄した。Pは,同日ころ,Aから捨てるように言われていた靴底の
入ったビニール袋を,代車の中から持ち出したが,結局それをi区j所在の自宅の
倉庫に置いたままにしていた。(証人F,同P,同W,甲194,199,210,212な
いし216)
エ Hは,11月30日,知人から本件ベンツがB''港で燃やされた旨の新聞記事を教
えられ,自分が陥れられたと思い,AやBに何度も電話を掛けたがなかなか連絡が
付かなかった。そのうちHは,ようやくBと連絡が取れたため,Bに会って問い詰め
ると,Bは,「兄貴が勝手に1人で突っ走っとうけ。」などとHを陥れたつもりはない
旨答えた。その後,Aと連絡が取れたHは,Aと落ち合ったが,Aは県外に出て話を
することに拘った。結局,2人は料亭「D''」に行き,その席でAは,Hに対し,本件殺
人は自分がしたことであり,「親父から,『Cの顔をはつれ。逆らったらどうなるか思
い知らせてやれ。』っち言われとったけど,なかなかやれんかったら,酒飲むたびに
親父から,『まだできんのか。子供ができるような仕事をまだしきらんのか。やくざ
やめて嫁さん,子供を連れて九州から出て行け。』と言われとったんで,絶対に殺
しちゃると決めとった。」などと言い,本件ベンツに乗って被害者宅に赴いた旨告げ
た上,さらに,「2階で寝とう上から布団で丸め込んで,あもすも言わさんようにして
ナイフでぶち刺した。」,「Cの家はいつも玄関の鍵が開いた状態であり,仕事から
帰ってきて夜に出歩く人間じゃない。1週間前から張り込んでいた。」,「警察の捜
査をかく乱させるため窓ガラスを割り,いかにも窓から入ったように見せかけて玄
関から逃げた。」などと具体的な発言をした。(証人H,甲221)
(3) 前記各関係者等の供述の信用性について
 以上の(1),(2)の各認定事実は,主に,当時Aが小兵隊と呼んでいた集団の者ら
(D,P,W,Q,F)や,Aの友人であるH,あるいはBの各供述,さらにはH''の供述
によるものであるが,これらの者の供述の信用性につき説明を加える。
 まず,D,P,W,Q,Fの各供述については,前記各認定の関係箇所において,
いずれも具体的で別段怪しむべき点は見受けられず,複数が関係する箇所では
各供述が概ね相互に合致し,携帯電話の電子メール等客観証拠が存する箇所で
はそれらとの整合性もあり,さらにWについては,その供述に基づいて竹馬川から
実際にナイフが発見されてもいるなど信用性を担保する事情が存在する。加えて,
いずれの者もAに恐怖心を抱くなどしてAに従っていたという当時のAとの関係や,
暴力団組織の存在が背後にうかがわれる本件犯行の特質等にも照らせば,いず
れの者も,敢えてAに不利益となるような虚偽の供述をするだけの動機を見出しが
たいところでもあって,いずれの供述も概ね十分信用できる(なお,Aも上記各供述
を否定する具体的な供述を何らしていない。)。
 Hの供述については,公判段階では捜査段階から少なからず後退した内容とな
ってはいるが,その外形的事実は概ね異なっておらず,その相違の実質は,概ね
供述中の行為等の主体がAであることを認めるか否かにあるところ,Hは,捜査段
階では記憶していることを正直に話し,供述調書はいずれもその内容に間違いが
ないことを確認して署名・指印した旨供述しているところであり,Hが上記のように
公判段階で供述を後退させたことについては,HはAの友人であるなどのAとの関
係や上記本件犯行の特質にも照らして,十分に首肯しうるものである。そして,特
にHが料亭D''でAから聞かされたという発言の内容は,2階で被害者が寝ていたこ
とや窓ガラスを割ったことなど,客観事実によく符合していることからしても,Hが上
記のとおり述べるようにその捜査段階での供述は十分信用できるものと認められ
る(なお,本件殺人に関するHの供述については,やはりAはその供述を否定する
具体的な供述を何らしていない。)。
 また,Bの供述についても,本件ベンツの焼損行為の点を除いて,捜査段階から
一貫して行為の主体を秘したものとなっているが,上記のとおり信用できるQ,P,
Dの各供述にも照らし,その行為主体がAであることは優に認められ(なお,ナイフ
の購入を依頼された際の,ある者の携帯電話の番号〔乙99,104〕は,Aが使用し
ていた携帯電話のものと認められる〔甲203参照〕。),これを前提とすれば,Bの
供述はQやDの各供述と概ね一致していて,その限りでBの供述も十分信用でき
るし,本件ベンツの焼損行為に関する供述については,E'の供述とも整合してお
り,その信用性に何ら疑義はない(なお,ナイフをPから受け取ったか否かの点にお
いて,DやPの各供述と異なっているが,この点は,Bの刑責に関わることでもある
ので,後に説明する。)。
 さらに,H''の供述(甲206)については,同人は被害者が当時働いていたG'工業
の経営者であるが,その供述内容は自分の知っている事実をありのままに話した
ものであることがうかがわれ,別段怪しむべきところは見受けられないし,同人が
敢えて暴力団関係者の氏名を出すなどして虚偽の供述をするだけの動機も何ら認
められないことからしても,その供述調書の内容は十分信用できるものというべき
である。
 以上の次第であって,前記のとおりの各事実がいずれも認定できる。
2 Aが本件犯行時に被害者宅現場にいたことをうかがわせる客観証拠等について
(1) 関係各証拠(証人H',同I',同J',甲168,170ないし172,174,205,392な
いし397,437,443ないし445)によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被害者の職場の同僚のK'は,11月28日午前6時ころ,出勤途上,被害者宅を訪
れ,玄関が施錠されていなかったことから室内に入ったところ,2階北側6畳間で
被害者が死亡しているのを発見した。
 被害者は,被害者宅の2階北側の6畳間で,中央に東西に長く引かれた布団の
上で,北の窓側に頭を向け,仰向けで両手を上げた状態で横たわっていた。その
布団の西側には襖1枚が倒れていた。
 被害者には,左乳房部に刺入口をもつ盲管刺創(左肺及び心臓切損を伴うも
の),左外側胸部に刺入口をもつ盲管刺創,左側腹部外側面に刺入口をもつ盲管
刺創,左前腕部の貫通刺創(創円には小さな凹凸が認められる。),左前下腿部の
貫通刺創が認められ,身につけていたスエットの上下のほぼ同一箇所に破損が認
められた。被害者が身につけていたスエットの上下及び半袖シャツには多量の血
痕が付着していた。
 遺体のあった敷き布団の左側部分(東側)及びカーペット上に多量の血痕用のも
のが付着し,また,敷き布団の遺体の左下腿部に当たる付近にも血痕が付着して
いた。掛け布団表側には2箇所に,裏側には3箇所に血痕が付着していた。
 そして,掛け布団の左側上部隅付近及び左側中央部付近,裏側左側前部付近
には刃物によるとうかがわれる破れがあった。
 また,被害者宅2階の南側3畳間の南側窓ガラスが割れており,主に室内側にガ
ラス片が散乱していた。
 さらに,2階北側窓ガラス(被害者の遺体があった6畳間の窓)から手すりにかけ
て,3本のクラフトテープが粘着面でつながれて1本となったもの(以下「本件3本の
テープ」という。)及び手すりにクラフトテープ片(甲174の写真27ないし31)が付
着しており,また,1階4畳半間の窓ガラス(南側)のうち1枚の外側のほぼ全面に
わたって14本のクラフトテープ(以下「本件14本のテープ」という。)が貼り付けられ
ており(甲174の写真51ないし55),さらに,被害者の遺体の下には丸まった状
態となったクラフトテープ1本があった(甲174の写真177,178)。
 これらのクラフトテープは同日午前8時50分から被害者宅で行われた実況見分に
おいて確認されて,証拠資料として採取された。
 なお,被害者方玄関の鍵穴にはピッキングによる開錠の特徴である金属片様の
痕跡は認められなかった。
イ その後,上記のクラフトテープ片を除く18本のクラフトテープは,いずれも両端が
不整形に破断ないし切断されていて,それらの断面同士がいずれも繋がり合う,
全長が約12メートルの一続きとなったものであることが確認された(甲397,なお,
同書証中の資料Dのクラフトテープについては,添付写真第5,6号を見ると血痕
が付着し折り目が幾つもあることから,上記遺体の下にあったものとみられる。)。
ウ 上記遺体下にあったものを除くクラフトテープの粘着面の指紋付着部位と考えら
れる部位を検体とするDNA型鑑定が実施され,本件14本のテープ中1本のもの
(上記一続きのクラフトテープの一方の端から8番目で他方の端から11番目のも
の)の鑑定結果は,MCT118型は18-25型,HLADQα型は1.2型-3型,TH
01型は7-9型,PM検査中,LDLR型,GYPA型,D7S8型及びGC型はいずれ
もAB型で,HBGG型はBB型であった。また,本件14本のテープ中他の4本のも
のにつき,DNA型鑑定により,MCT118型で18-25型のものが3つ,25-27
型のものが1つ検出され,本件3本のテープ中1本のものにつき,DNA型鑑定に
おいて,MCT118型で17-18型が検出されたが,それ以外についてはDNA型
が検出されていないか,検体が費消され鑑定されなかった(甲395)。
 また,Aの毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型は18-25型,
HLADQα型は1.2型-3型,TH01型は7-9型,PM検査中,LDLR型,GYP
A型,D7S8型及びGC型はいずれもAB型で,HBGG型はBB型であった。
 なお,Bの毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型は25-30型,
HLADQα型は3-4,2/4,3型,TH01型は9-9型,PM検査中,LDLR型は
BB型,GYPA型はAB型,D7S8型AB型,GC型はいずれもBC型で,HBGG型
はAB型であった。
 また,D,P,Fの各毛髪を検体とするDNA型鑑定の結果は,MCT118型で,そ
れぞれ30-31型,21-31型,24-31型であった。
(2) 上記(1)で認定した事実に基づき検討するに,本件犯行直後に被害者宅の屋外側
のみならず室内(遺体の下)を含めた複数の場所で,一見不自然な状態で認めら
れた両端が不整形の多数のクラフトテープが,約12メートルの全長をもって一続
きとなったことに加え,少なくとも本件14本のテープにほこりの付着が認められな
かったこと(証人H'),室内にあったテープは,上記一続きのクラフトテープの端部の
ものではなく,遺体の下にあって現に血痕が付着していたことにも照らせば,上記
18本のクラフトテープは,本件犯行に関与した者が,犯行の直前ないし直後にお
いて,捜査かく乱等の何らかの目的でロール状の市販のクラフトテープから順次切
り取って窓ガラスに張り付けるなどしたものであるものと推認するのが相当であ
る。
 そして,犯行現場に遺留されたクラフトテープのうち1つの検体の8つのDNA型
鑑定の結果は,Aの毛髪のそれといずれも一致しているのであり,そのこと自体,
本件犯行時にAが被害者宅現場にいたことを高度に推認させるものである(なお,
前記のとおり,クラフトテープを検体とするMCT118DNA型鑑定において,一続き
のクラフトテープの端部ではない2本のクラフトテープからAのDNA型とは異なる
型がそれぞれ1つずつ検出されており,このことは,A以外にも本件犯行現場に赴
くなどして本件犯行に関与した者が存在することをうかがわせるものでもある。)。
 弁護人は,DNA型鑑定はその鑑定原理ないし信頼性についていまだ大きな疑
問があり,証拠として採用すべきでない旨主張するが,MCT118型鑑定を始めと
するDNA型鑑定は,特定の塩基配列に着目した型判定であり,その科学的原理
は理論的正確性があると認められ,技術を習得した者により科学的に信頼される
方法で実施された場合には,証拠として用いることが許されるというべきである(M
CT118DNA型鑑定につき,最二小決平成12年7月17日・刑集54巻6号550頁
参照。なお,弁護人は,クラフトテープ等の粘着テープの指紋付着部位からのDN
A型検査は,本件鑑定実施当時日本では類例が見当たらないものであることをも
問題とするが,証拠〔甲437,証人J'〕にも照らし,その手法の有意性,信頼性は
十分肯認できる。)。
 しかるに,証拠(甲393,395,証人J')によれば,クラフトテープ及びAの毛髪を各
検体とするDNA型鑑定の具体的内容は,いずれも,MCT118DNA型鑑定を始
め,PCR増幅を行ってDNAの必要な部位を増幅させ,各型判定の専門キットを用
いて型判定がされるものであるところ,各型鑑定の使用キットやPCR増幅,型判
定を始めとする具体的手法は,双方の鑑定において概ね一致するとともに,双方
の鑑定者とも技術習得の点で特段問題となる点は見受けられないなど(なお,上記
毛髪を検体とする鑑定書〔甲393〕は最終的に同意書面となっている。),両鑑定と
も技術を習得した者により科学的に信頼される方法で実施されたものと認めるの
が相当であり,両鑑定書に証拠能力が認められるのはもとより,それらの科学的
正確性も,十分に肯定できるものというべきである。
 そして,クラフトテープを検体とする鑑定については,犯行現場において,採取者
がゴム手袋をはめるなど指紋が付着しないようにしてクラフトテープを採取した上,
リタックシートに挟んで鑑定に回し(証人H',同I'),鑑定においては,指紋付着部位
と考えられる箇所から1平方センチメートルが切り取られて検体とされたものであり
(甲395),さらに,1つの検体の鑑定結果自体が複数人のDNA型を示すものでは
ないこと(証人J')からしても,上記の鑑定結果は,犯人以外の者の指紋ないしその
混入がされたものではないと認めるのが相当である。
 そうすると,上記の鑑定結果により,本件犯行時にAが被害者宅現場にいたこと
を高度の蓋然性をもって推認することできるというべきであり,そのような推認をす
ることが許容されるというべきである。
3 まとめ
 以上のとおり,Aは,本件犯行の前後においてその犯人であることを強くうかがわせ
る一連の行動を取っている上に,複数の知人らに犯行を自認する発言もし(とりわけ
Hに告げた具体的内容は客観事実とも符合することは前記のとおりである。),さら
に,犯行時に被害者宅にいたことを高度に推認させる客観証拠も存するところ,A
は,本件犯行については何も言いたくない旨の供述態度を一貫させ,以上の証拠関
係につき何ら反論するところがない。
 これらの認定事実や客観証拠,Aの供述態度等を総合すると,関与の具体的態様
を確定することができないけれども,Aが,自ら被害者宅に侵入し,その殺害に及ぶ
などして本件犯行に関与した事実が優に認められるというべきである。
 そして,前記のとおりクラフトテープを検体とするDNA型鑑定の結果AのDNA型以
外の型が2つ検出されたことは(なお,これらのDNA型は,B,D,P,Fのそれとは合
致していない。),A以外にも少なくとも2名の者が本件犯行現場に赴くなどして本件
犯行に関与したことを推認させるのであり,その他,Aの上記供述態度等の諸般の事
情にも照らせば,Aが他の人物と共謀して本件犯行に及んだものと認めるのが相当
である(なお,本件犯行後,Aは,Hに対し,本件犯行を1人でした旨述べているが,
B''港で本件ベンツを焼損させたのも1人でしたことで,その後1人で歩いて帰ってき
たなどと,関与した人数につき明らかに虚偽の内容を述べており,上記発言を文字ど
おり捉えることはできない。)。
 ところで,本件犯行に使用された凶器については,前記認定のとおり,被害者の遺
体の左前腕部の貫通刺創の創円には小さな凹凸が認められるところ,この凹凸の形
状は,本件フィッシングナイフの背部の約3.5センチメートルにわたってある凹凸と
合致するなど,同ナイフは使用された凶器として矛盾しないこと(甲185),Aは犯行後
自らいち早く本件フィッシングナイフのうちの1本を川に投棄していることにも照らし,
少なくとも本件フィッシングナイフのうちの1本が凶器の1つとして使用されたものと認
めるのが相当である。
第2 罪となるべき事実の第3の1の窃盗被告事件について
1 関係各証拠によれば,罪となるべき事実の第3の1記載の日(早くとも午後3時半こ
ろ,大体午後4時ころ),場所において,同記載の普通乗用自動車1台(本件ベンツ)
が鍵を付けたままにされていたところ,何者かによって持ち去られたことが明らかで
ある。
  ところで,Hの供述(前記公判調書中の供述部分,各供述調書)を始めとする関係各
証拠によれば,上記窃盗の犯行日とされる平成12年10月2日の午後4時過ぎころ,
Hは,友人のL'と一緒にその子供を迎えに保育所に行って帰る途中の車内で,Aから
電話を受け,Aから,「ベンツへったっちゃ。」(「へった」とは方言で「盗んだ」の意味で
ある。),「このベンツ今から用事で使わないけんけん,ナンバー替えてもらえんやろう
か。」などと,Aから盗んできた本件ベンツのナンバープレートを付け替えてくれるよう
依頼されたこと,そのすぐ後にHがAと落ち合った際,Aは本件ベンツに1人で乗って
来たが,Aに本件ベンツが本当に盗んできたものかなどを尋ねたところ,Aから,「まじ
っちゃ。」,「横代のスバルがあるやん,そこに鍵差したまま止まっていたのをばたばた
乗ってエンジン掛けてダッシュでばたばたへってきた。」などと,Aから判示被害場所
に鍵を差したまま置かれていた本件ベンツを確かに盗んだ旨聞かされたことがそれ
ぞれ認められる。
2 Hの供述については,公判段階では前記(第1の1(3))と同様にその行為主体を秘し
たものとなってはいるが,Aの名を明らかにしていた捜査段階での供述が信用できる
ことは前記と同様である。そして,Aから聞かされたという内容は具体的で迫真性の
あるものである上に,被害場所や本件ベンツが鍵の差したままの状態であったという
Aの発言内容は被害関係者の供述(甲398,400ないし402)から認められる事実と
も符合していているものであり,Hが本件当時確かにAから上記各認定のとおりの内
容のことを聞かされたことが優に認められる。また,その日時が上記認定のとおりで
あることは,関係各証拠(甲408,410,411)によって裏付けがされているところ,本件
ベンツが被害現場からなくなったのは,前記認定のとおり,その日の早くとも午後3時
半ころか大体午後4時ころからであるから,Hが,Aからその日の午後4時過ぎころに
本件ベンツを盗んできた旨聞かされたことは,時間的にも整合性がある。
 そうすると,Aは,本件ベンツが持ち去られた直後にこれに乗車していたのであるか
ら,Aがベンツの窃盗犯人であることが強く推認されるのであり,AのHに対する言動
等をも併せると,Aが本件ベンツを窃取した事実は優に認められる。
 Aは,ある者から本件ベンツの売却を依頼されたに過ぎない旨の弁解をるるしてい
るが,AはHとの間で本件ベンツの売却の交渉を何らしていないなど,証拠上認めら
れるAの事後の言動は上記弁解とはおよそ整合しない上に,上記証拠関係にも照ら
し,上記弁解は時間的にも相当無理のある話であるといわざるを得ないのであって,
上記弁解はおよそ信用できない。
第3 Bに対する殺人幇助被告事件について
1 Bに対する公訴事実は,「被告人Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり,その情
を知りながら,平成12年8月下旬ころから同年11月28日ころまでの間,C方前路上
等において,同人の動向を探るなどし,さらに,北九州市又はその周辺において,D
らを通じて入手したフィッシングナイフ等を被告人Aに渡すなどして,その犯行を容易
にしてこれを幇助した」というものである。
 検察官は,Bにおいて,幇助行為の際,Aが殺人に及ぶことを認識していたことを前
提とした上,Bの幇助行為の具体的内容として,「Cの動向を探るなどし」たこと,「フィ
ッシングナイフ等をAに渡すなどし」たことを主張しているので,上記の各幇助行為の
有無及びその際のBの認識について,順次検討することとする。
2 まず,前記公訴事実中の「Cの動向を探るなどした」との点につき判断するに,前記
認定のとおり,Bは,Aからの依頼を受け,平成12年(以下「平成12年」の記載を省
略する。)8月下旬ないし9月初旬ころに被害者の動向を探って追跡したり被害者宅
を見張ったりし(以下「本件動向を探る行為」という。)ていることは明らかである。公訴
事実では,11月28日ころまでの間,Bが被害者の動向を探るなどしたとされている
けれども,上記の8月下旬ないし9月初旬ころ以外にBがそのような行為をしたことを
認めるに足りる証拠はない。
  そこで,Bが8月下旬ないし9月初旬ころ本件動向を探る行為をするに当たって,A
が殺人に及ぶことを認識することができたかどうか検討を加える。
 前記認定のとおり,本件犯行日後にHは,Aから,「M'から叱責されて殺害を決意し
た」旨聞いていることからすると,Aが少なくとも犯行前に被害者の殺害を決意してい
たことが推認されるけれども,AのHに対する告白内容の要旨は,当初はM'から,「C
の顔をはつれ。逆らったらどうなるか思い知らせてやれ」と言われ,なかなか実行に
移すことができずにいたところ,その後,「まだできんのか。」などと言われて殺害を決
意したなどというもので,殺意形成の経過の説明として一応首肯できるものであると
ころ,AがM'から最初に受けた指示は,「顔をはつれ。」というものに過ぎないのであ
るから,この指示を受けた時点でAが直ちに殺人にまで及ぶ決意を有していたと推認
することは困難である。しかも,前記認定のとおり,9月か10月ころに,被害者が自
宅近くで暴力団員風の3人くらいの男と揉めていたところが目撃されているのである
から(甲206),AがBに対して被害者の探索・見張りを依頼した際には,いまだ被害
者に対する暴力団復帰の説得が試みられていたものとみる余地があるところでもあ
る。
 そして,Bが本件動向を探る行為をしたのは,本件犯行が敢行された約3か月前の
時点であって,上記のとおり,暴力団復帰の説得が9月か10月ころにされていること
にかんがみると,AのBに対する被害者の探索・見張りの依頼は,被害者の日常の
行動を観察して暴力団復帰の可能性の有無や復帰に向けての説得材料を収集する
ことを目的としていた可能性もまた完全には否定できないところである。
 そうすると,AがBに対して被害者の探索・見張りを依頼した時点において,既に,A
が被害者殺害を決意していたと認めることができないことはもちろん,被害者に対し
て危害を加える決意をしていたと認めるに足りる確実な証拠はないといわざるを得な
い。
 したがって,Bが「小兵隊」の単なる構成員とは異なりAの舎弟として同人とは親し
い間柄にある(前記認定のとおり,本件犯行直後に本件ベンツの焼損行為の現場に
居合わせるなどもしている。)ばかりか,被害者に暴力団に戻ってくるよう何度となく接
触していたZやD'とも電話で連絡を取り合う仲である(乙100)などの事実に照し,Q'
組内で当時1つの問題となっていたことがうかがわれる,被害者が暴力団復帰の話
を断っていたことについて,Bも十分認識していた可能性があることを考慮しても,A
から依頼を受けてBが本件動向を探る行為をした際,Bにおいて,Aが被害者を殺傷
する決意をしていたと認識していたとはいえない(本件動向を探る行為から直ちに被
害者に危害を加えることが既に決意されていたとみることができないのはいうまでも
なく,Bが本件動向を探る行為の目的につき何も考えていなかった旨の一見不自然
な供述をしているからといって,そのこと故にAの被害者襲撃の意図とその旨のBの
認識が肯定されるわけでもない。)。
 そうすると,Bが本件動向を探る行為をした際,Bにおいて,Aが被害者の殺傷等の
犯罪行為を行うことの認識を有していたと認めることはできないから,本件動向を探
る行為がAの殺人ないし傷害等の幇助行為であるということはできない。
 したがって,前記公訴事実中「Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり,その情を
知りながら,Cの動向を探るなどし」たとの点を認定することはできない。
3 次に,前記公訴事実中の「入手したフィッシングナイフ等を渡した」との点について検
討する。
 関係各証拠(証人D,同P)によると,Bは,10月22日,Aからナイフ3本を調達する
よう言われたのを受けてDに架電し,「高そうな手が滑らない鍔の付いたナイフ1本
と,千円位のナイフを2本買ってくれ。」などと自分の代わりにナイフを購入するよう依
頼した上,その後,ナイフを買いに行ったDから電話を受けどのようなナイフを購入し
たらよいかを聞かれた際,逐一Dに具体的に説明するなどして本件ナイフ3本を購入
させたこと,その後,Bは,Pを通じ紙袋に入った本件ナイフ3本をそれを入れたビニ
ール袋ごと受け取ったことが認められ,これらの事実に前記認定の事実を併せると,
Bが10月22日ころAにフィシングナイフを含む本件ナイフ3本を渡したことが認めら
れる(なお,この時期以外にBがAに本件ナイフ3本を渡したことを認めるに足りる証
拠はない。)。
 Bは,公判段階で,Pから本件ナイフ3本を受け取った事実を否定するが,Dは,本
件ナイフ3本をPに渡してBに届けてもらった旨供述するとともに,Pは,本件ナイフ3
本をBに渡した旨供述しているところであり,Bは捜査段階ではその事実を明確に否
定していなかったことにも照らせば,上記事実を否定するBの供述は信用できず,B
がPから本件ナイフ3本を受け取った事実は十分認められるというべきであり,さら
に,BがAに本件ナイフ3本を渡した事実も優に認められるというべきである。
 そして,本件フィッシングナイフのいずれかが少なくとも本件犯行に用いられたとみ
られるのは前記認定のとおりであり,前記認定事実に照らすと,Aが本件ナイフ3本
の調達をBに依頼した10月22日には,Aが少なくとも被害者を襲撃して負傷させる
などの危害を加える決意をしていたものと推認するのが相当である。そして,Bは,A
の舎弟としてAの性格・行動傾向等を熟知していたとみられ,かつ,Aから前記認定
のように購入するナイフとして「手が滑らないように鍔の付いたナイフ」などと指定され
るなどしたのであるから,Bは,Aからナイフ3本の調達を依頼された際,少なくともA
が何者かを襲撃して危害を加える行為に及ぶことを考えていることを未必的にせよ
認識したと認めるのが相当である。にもかかわらず,Bは,本件ナイフ3本を調達して
Aに渡したものである。
 検察官は,この点につき,Bは,Aから「鍔のついたナイフ」を含めて3本ものナイフ
の調達を依頼されたことからすると,殺人に及ぶことを認識していたことが明らかで
あると主張する。
 しかしながら,「鍔のついたナイフ」の用法として,刺突する態様での使用も想定さ
れるといえるとしても,使用態様がそれだけに限定されるとも断定できない上,刺突し
ようとする部位がある程度具体的に想定されていない状況では,必ずしも殺人に使
用されるともいえない。また,本数が3本であるからといって,直ちに殺人が予定され
ているともいい難いのであるから,検察官の上記主張をもってしても,Bにつき,Aが
殺人に及ぶことを認識していたと断定することはできない。
 また,確かに,前記認定のとおり,Bが本件犯行直後に本件ベンツの焼損行為の
現場に居合わせるなどもしている上,BとAとの間柄,BとZやD'との仲などに照して,
BがAから被害者殺害の計画を聞いていた可能性があると見られなくもないことも前
記説示のとおりである。
 しかし,前記のとおり,Aが最終的に被害者殺害を決意した時期は不明であるもの
の,次のとおり,それが11月23日以降であることをうかがわせる徴表も一応存在す
るとみることもできる。すなわち,Aは,同年11月23日夜にWに車で迎えに来させて
ナイフ3本を持って本件団地付近に向かった際には,人を懲らしめる趣旨のことを述
べたに過ぎず,ナイフ3本の調達後であっても,殺人にまで及ぶような話はしていな
い(なお,これに先だってAがPらに述べた「仕事で人をやらないけん。」との言葉も,
多義的であって,殺人を意図しているものと断定することはできない。)。さらに,A
は,同日は,W及びFらと共に被害者宅付近まで行き,一人でナイフ1本をもって被害
者宅の方に向かったのに,本件犯行当日は,Wらと共に被害者宅付近まで赴いたと
はうかがえないにもかかわらず,客観的状況からは犯行現場に複数の人間が所在し
たと推認されるなど,犯行当日は,それまでとは異なる準備をした上,異なる方法・態
様で被害者を襲撃したともみられるのである。このことは,その間にAの被害者襲撃
についての思惑の変化があったことをうかがわせなくもなく,さらに,AのHに対する
告白内容から推認できるAの殺意形成の経過のうち,叱責されて殺人を決意したと
いう心理変化の状況に符合するとも考えることができるのであるから,Aの最終的な
被害者殺害の決意時期が11月23日以降であった可能性を示す徴表が一応存在す
るといわざるを得ないところである。
 これらの事情を考慮すると,11月23日よりもさらに約1か月前である,AがBに対
して本件ナイフの調達を依頼した時点やこれに近接すると考えられる,BがAに本件
ナイフを渡した時点において既に,Aが傷害に及ぶことのみならず,殺人までをも決
意していたと断定することには証拠が不十分であるというべきであるから,それらの
時点でBがAから殺人の計画を聞いていた可能性があると断定することはできない。
 さらに,Bが捜査段階ではBがPから本件ナイフ3本を受け取った事実につき曖昧な
供述をしていたほか,公判段階では同事実を殊更否定し,さらにはAからナイフの調
達を依頼されたことにつきその目的を何も考えなかった旨供述することは,それを認
めることによって生じる何らかの不利益を意図的に避けようとしているものとみられな
いわけではないが,そのことから直ちに,Bにおいて,Aが傷害に及ぶ意思を有して
いるにとどまらず,殺人に使用することの情を知った上で,本件ナイフ3本をAに渡し
たものと推認することも困難である。
 そうすると,BがAに本件ナイフ3本を渡す際,Bにおいて,Aが本件ナイフ3本を殺
人に使用することの情を知っていたということはできない。しかしながら,Bは,本件
ナイフ3本を渡す際,Aが何者かに対して危害を加えること,すなわち傷害に及ぶこと
を認識していたと推認できることは前記のとおりであるから,れを幇助行為として認定
することができるところ,AがBの認識の範囲を超えて被害者の殺人に及んだ本件に
おいては,Bは,構成要件の重なり合う傷害致死の限度で幇助犯の責任を負うもの
である(なお,前記公訴事実は,「Aが判示第1の殺人行為に及ぶに当たり」とされて
いるところ,当裁判所は,第1の1の殺人につきAのほかに複数の者が関与したと認
定したところに従い,判示のとおり,「Aらの上記第1の殺人に当たり」と認定するが,
そのように認定しても,Bの訴因においては,第1の1の殺人がAの単独犯行である
のか,他に共同正犯が存在するのかは,重要な事実の変化であるといえないから,
訴因の同一性を害さないと解される。)
(Aの累犯前科)(省略)
(法令の適用)
1 Aについて
(1) 罰 条
ア 第1の1
 住居侵入の点は刑法60条,130条前段,殺人の点は同法60条,199条に該

イ 第2
 刑法60条のほか,1(1)の所為のうち恐喝の点は同法249条1項,傷害の点は
同法204条,1(2)の所為は同法249条1項,1(3)の所為は同法250条,249条
1項,2(1)アないしオの各所為はそれぞれ刑法261条,2(2)の所為は暴力行為等
処罰に関する法律1条,刑法261条,3の所為のうち公務執行妨害の点は刑法9
5条1項,器物損壊の点は同法261条に各該当
ウ 第3
 1の所為は刑法235条,2の所為は同法60条,235条,3の所為は同法60
条,204条,4の所為のうち建造物侵入の点は同法60条,130条前段,窃盗の
点は同法60条,235条,5の所為は同法261条に各該当
(2) 科刑上一罪及び包括一罪の処理
 刑法54条1項前段(第2の1(1),同3の各罪につき),同条項後段(第1の1,第3の
4の各罪につき),10条(第1の1については重い殺人罪の刑で,第2の3については
犯情の重い公務執行妨害罪の刑で,第3の4については重い窃盗罪の刑で,それぞ
れ一罪として処断し,さらに,第2の1(1),(2)の各恐喝,同(3)の恐喝未遂の各罪につ
いては,単一の犯意に基づく一連の行為として包括して評価し,結局第2の1につき
一罪として犯情の最も重い同(1)中の恐喝罪の刑で一罪として処断)
(3) 刑種の選択
 第1の1の罪については有期懲役刑,第2の2(1)アないしオ,同2(2),同3,第3の
3,5の各罪についてはいずれも懲役刑
(4) 再犯の加重(各罪につき)
刑法56条1項,57条(第1の1の罪については同法14条の制限内)
(5) 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の1の罪の刑に同法14条の制限
内で法定の加重)
(6) 未決勾留日数の算入
刑法21条
(7) 訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
2 Bについて
(1) 罰 条
ア 第1の2
 刑法62条1項,205条に該当
イ 第2
 いずれの所為も前記1(1)イと同じ法条に該当
(2) 科刑上一罪及び包括一罪の処理
 第2の1,同3の各罪につき,前記1(2)と同様に各処断
(3) 刑種の選択
 第2の2(1)アないしオ,同2(2),同3の各罪についてはいずれも懲役刑
(4) 法律上の減軽(第1の2の罪につき)
 刑法63条,68条3号
(5) 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第2の1の罪の刑に法定の加重)
(6) 未決勾留日数の算入,訴訟費用の不負担
 それぞれ前記1(6),(7)と同じ法条を各適用
(量刑の理由)
1 本件は,判示のとおりの,Aによる住居侵入,殺人(第1の1),Bによる傷害致死幇助
(第1の2),被告人両名による恐喝,傷害,恐喝未遂(第2の1),器物損壊,暴力行為等
処罰に関する法律違反(第2の2),公務執行妨害,器物損壊(第2の3),Aによる窃盗
(第3の1,2),傷害(第3の3),建造物侵入,窃盗(第3の4),器物損壊(第3の5)の各事
案である。
2 Aについて
(1) Aの第1の1の住居侵入,殺人の各犯行は,暴力団と決別し,組員への復帰を頑なに
拒み続けた被害者に対する報復ないし見せしめのためであることが証拠上明らかで
あり,正業に就いて真面目に稼働していた被害者は社会人として当然の対応をした
に過ぎないのに,暴力団組織のいいなりにならないとして襲撃の対象としたというも
ので,およそ容認することのできない反社会的で悪辣な動機によるものである。
 Aは,事前に被害者の身辺を調べ,犯行に使用する凶器を調達し,被害者宅を下
見し,時間をかけて被害者の動向を把握するなど,上記のような反社会的犯行を,
周到かつ計画的に平然として準備したものであって,誠に悪質というべきである。
 その犯行の態様は,夜間住居にいきなり侵入し,就寝中であったとみられる被害者
に抵抗する暇も与えず,その胸部や腹部等を執ように突き刺したとうかがえる残虐な
ものである上,犯行現場において,クラフトテープを窓ガラス等に貼ったり,別の窓ガ
ラスを割るなど,捜査かく乱目的ともうかがえる大胆かつ狡猾な行動にまで及んでい
る。
 本件犯行の結果,被害者は,正業に就いて堅気の道を歩んでいたところを,もとよ
り何らの落ち度もないのに,30歳の若さにしていきなり人生の幕切れを余儀なくされ
たもので,その無念さは察するに余りあり,生じた結果は極めて重大であって,被害
者の母親が心に受けた衝撃も相当大きい。
 しかるにAに真摯な反省の態度を認めることはできない。
(2) 第2の1の恐喝,傷害,恐喝未遂の各犯行については,因縁をつけて被害者から金
員を喝取しようとし,直ちに金員の支払要求に応じなかった被害者の両足首を緊縛
した上,こもごもスタンガンを極めて多数回にわたりその身体に押し当てて放電する
などの暴行を加えて執ように金員の支払を要求し,合計29万3000円の多額な現
金を喝取するとともに被害者に判示のとおりの重い傷害を負わせたものである。犯
行の動機は全く理不尽で,犯行の態様は極めて執ようで陰惨であり,被害者が受け
た財産的被害,肉体的,精神的苦痛は大きく,被害者が厳重処罰を希望しているの
も当然である。Aは,犯行の主導者として喝取金のほとんどを独り占めにしている。
 また,第2の2の器物損壊,暴力行為等処罰に関する法律違反の各犯行について
は,やはり暴力団組織の上位者の意向を受けたものであるとうかがわれる卑劣かつ
悪質な事案であり,犯行道具等周到な準備をした上で深夜に短時間で一挙にAを含
む複数名が,木製バット,金属バット等で6台の車両を殴打するなどして損壊したも
ので,犯行態様は狡猾・悪質である上に,被害相当額は合計約51万9600円と多
額であるところ,この犯行もAが主導的に共犯者を集めるなどして敢行したものであ
るし,上位者を庇うかの如き供述からは真摯な反省の態度は見受けられない。
 そして,第2の3の公務執行妨害,器物損壊の犯行についても,配下の者らの暴走
行為に対する警察車両の追跡を断念させるべく敢行したもので,その態様も走行中
の警察車両のリヤガラスを狙ってゴム銃様の物でパチンコ玉を弾くなど,危険性の
高い悪質なものである。Aの犯行により,当該警察車両は暴走行為をしていた者の
追跡の中止を余儀なくされたことも無視できない。しかも,Aは,パチンコ玉を弾きや
すくするためにBに運転車両を警察車両に近付けさせるなど,主導的に本件犯行に
及んだものである。
 さらに,第3の1,2,4の各窃盗の犯行については,とりわけ1,4の各窃盗におい
て被害相当額は判示のとおり極めて多額であるほか,1,2の各窃盗の被害車両に
ついては,共に焼損ないし投棄して実被害を与えている。そして,2の窃盗について
は後述第3の3の傷害の犯行の際に使用するために敢行され,4の窃盗については
被害店の経営者に対する報復等のために敢行されたものと認められるが,いずれも
背後に上位者の存在がうかがわれる悪質なものであるところ,Aはこれら窃盗でや
はり主導的な役割を果たしているし,1の窃盗については事実を否認するなど,犯情
はいずれも極めて悪質である。また,第3の3の傷害の犯行については,上記のとお
りその背後に上位者の存在がうかがわれる悪質なものであるところ,犯行態様は鉈
様の刃物でいきなり被害者の腕を切り付けるという,極めて危険かつ悪質なもので
あり,傷害結果も判示のとおり重いが,この犯行においても,Aは上位者を庇うかの
如き供述に終始し,真摯な反省の態度は見受けられない。そして,第3の5の器物損
壊の犯行については,昼食に関する苦情に端を発した,極めて安易なものであり,
秩序維持が要請される留置場内でのこのような行為は,他の被留置者の暴動誘発
をも招きかねないのであって,一般予防の見地からも無視できるものではない。
(3) Aは,前記のとおり累犯前科2犯を有しながら,前記Q'組を脱退することもなく,前刑
(満期)出所から1年2か月ほどで第2の1の恐喝等の犯行に及んで以降,約5か月の
間に第2の2,3,第3の1ないし4の各犯行に立て続けに及んだ挙げ句に,第1の1
の住居侵入,殺人の各犯行に及び,逮捕された後もなお,留置場内の物を損壊する
第3の1の犯行に及んでいるものであり,これらの各犯行及び犯行経過からは,悪辣
な犯行を平然と繰り返す顕著な犯罪傾向が見てとれ,Aの法規範無視の姿勢及び反
社会的傾向は明らかであって,殺人を始めとする各犯行の重大性,悪質性等の点に
照らすと,本件全体の犯情は誠に悪質極まりないというべきで,Aの刑事責任は極め
て重大であるといわざるを得ない。
 そうすると,第3の4の犯行については,古着となったものが多いが,商品の大半は
被害者の元に返っているほか,第3の5の犯行については被害弁償がされているこ
と,Aは,第1の1,第3の1の各犯行以外の各犯行については事実を認めているこ
と,Aは現在27歳と比較的若く,また,その社会復帰を待つ妻子がいることなど,A
のために酌むべき事情を考慮しても,Aについては,主文の刑に処するのが相当で
ある。
3 Bについて
 Bは,冒頭各犯行のうち,第1の2の傷害致死幇助のほか,第2の1ないし3の各犯行
に及んだものであるが,傷害致死幇助については,Aからナイフの調達を頼まれたのに
対し,Aの舎弟として別段躊躇なくこれに応じ,却って,配下の者に積極的にナイフの調
達を指示したとすらいいうるものである。そして,Aによる本件殺人は前記のとおり暴力
団特有の反社会的な動機に基づくものであるところ,Bは,調達したナイフが傷害に使
用されることを認識しながらその幇助行為に及んだのであり,実際に少なくとも調達し
たナイフのいずれかがAによる殺人の実行行為に使用されたとみられることに照らして
も,本件幇助行為の犯情は相当に悪質である。
 また,第2の1ないし3の各犯行の悪質性は前記のとおりであるが,Bは,やはりAか
らの持ち掛けに応じ,いずれの犯行も別段の躊躇なく敢行し,1の犯行では自らも被害
者に多数回スタンガンを押し当てて放電するなどしたほか,2の各犯行では金属バット
で積極的に複数の車両を損壊し,さらに3の犯行では運転車両を警察車両に近付ける
などしてAの犯行を容易にした重要な役割を担っており,いずれの犯行もその役割は軽
視できない。
 他方,Bにおいては,傷害致死幇助を含めていずれもAからの持ち掛けに応じたもの
であり,とりわけ第2の1及び3の各犯行は従属的であるといいうること,Bは第2の各
犯行についてはいずれも事実を認めていること,Bにはこれまでに服役前科はなく,ま
た,現在26歳と比較的若いことなど,Bのために酌むべき事情も認められ,これらの事
情も併せて総合考慮すると,主文の刑が相当である。
(求刑被告人Aにつき,懲役20年,被告人Bにつき,懲役8年)
平成16年3月5日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部
裁 判 長 裁判官   野島秀夫
裁判官   西森英司
裁判官   大庭和久

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