弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 申立
一 原告
1 被告は、別紙標章目録記載の標章を付した、別紙商品目録記載の商品を輸入
し、譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡のために展示し、又は製造したり、右商
品に関する包装、容器、広告、定価表、又は取引書類を展示し、又は頒布してはな
らない。
2 被告は原告に対し、金二五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払
済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告は読売新聞及び東京都において発行される繊研新聞に各三回宛、別紙謝罪
広告目録記載の文案により、標題及び原被告名には四号活字、本文には六号活字を
使用した謝罪広告を掲載せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 2につき仮執行宣言
二 被告
主文同旨
第二 主張
一 請求原因
1 (原被告の業務等)
 原告は各種衣料品の製造販売等を目的とし、肩書住所地に本店を、東京都内に支
店を有する資本金一億円の会社であり、被告は婦人服地、婦人既製服の輸入販売等
を目的とし、肩書住所地に本店を、大阪市内に支店を、海外に連絡所を有する資本
金四五〇〇万円の会社であり、原被告は互いに競業関係に立つものである。
2 (原告の商標権)
原告は左の登録商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
登録番号 第一〇〇六一四〇号
登録商標 別紙商標目録のとおり
指定商品 第一七類 被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属
するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)
出願日 昭和四五年一〇月二八日
公告日 昭和四七年八月二一日
登録日 昭和四八年三月二九日
3 (本件商標の周知性等)
(一) 原告は昭和四七年五月一七日、フランス共和国法人「ソシエテ・イデ」
(通称ドロテビス、以下「ド社」という。)との間に、原告が同社によつて生産さ
れた衣料品等のオリジナルモデルの提供を受け、これを我国において再生産した
上、「doroth●e bis」商標を付して販売する独占的許可を受けること
などを目的とするジヨイントベンチユアー契約を締結し、右契約が三年の期間満了
により終了したあと引き続き、同社の代表者である訴外【A】(以下「【A】」と
いう。)及び同【B】(以下両者併わせて「【A】夫妻」という。)との間に、略
同様の契約(以下右契約をその本質如何に拘らず、便宜「本件合弁契約」とい
う。)を締結した。
(二) ところが、我国において、訴外株式会社甲陽が本件商標の商標権者であつ
たため、原告は昭和四八年一月、右会社から本件商標を譲り受け、同年三月二九日
登録の上、その製造売販する衣料品等に本件商標を付するなどの商業活動の結果、
本件商標は昭和五〇年秋頃から同五一年秋頃までに、我国内において広く認識され
るに至つた。
4 (被告の標章)
 被告は昭和五三年六月一二日、東京都下の品川プリンスホテルにおいて、ド社か
ら輸入した別紙標章目録記載の標章(以下「イ号標章」という。)を付した、衣料
品等のコレクシヨン展示会を開催したのをはじめとして、別紙商品目録記載の商品
を輸入し、譲渡し、引き渡し、譲渡もしくは引渡のために展示し、又は製造し、右
商品に関する包装、容器、広告、定価表及び取引書類を展示し、又は頒布してい
る。
5 (被告の商標権侵害)
 イ号標章は本件商標と文字・形態・称呼共に同一ないしは極度に類似するから、
被告がイ号標章を右4の態様で使用することは、本件商標を故意又は少くとも過失
により侵害するものであり、将来にわたつても侵害する虞れがある。
6 (被告の不正競争)
 被告は、原告が本件商標の商標権者であり、かつ、右商標を付した衣料品を製造
販売していることを認識しながら、不正競争の目的でイ号標章を右4の態様で使用
しているから、業界及び一般大衆・需要者に対し、被告の商品及びその営業を、原
告のそれと誤認混同を生じさせている。従つて、被告のイ号標章の使用は不正競争
行為にも該当するものであり、将来においても同様の所為を繰り返す虞れがある。
7 (損害賠償等)
(一) 本件商標の使用料は、本件合弁契約代金及び本件商標権取得代金等を考慮
すると、昭和五二年度分は金二五一〇万円、同五三年以降本件商標権の存続見込期
間である昭和六一年までは毎年右金額から一割宛逓減した額が相当であるので、そ
の期間内における使用料の総額は金一億六二八三万一〇〇〇円となり、原告は同額
の損害を被つたことになるから、被告に対し、この内金二五〇〇万円を限度として
賠償を求める。なお、原告は、被告の商標権侵害ないし不正競争行為により、昭和
五三年七月までに、金七六九万円相当の商品の返品を受け、同額の損害が発生して
おり、その一〇年間分が金七六九〇万円となることからしても、右損害額の算定は
相当である。
(二) 原告は、被告の商標権侵害ないし不正競争行為によつて著しくその信用を
害され、金銭賠償のみによつては補填し得ない損害を被つたので、被告に対し、そ
の信用回復措置として別紙謝罪広告目録記載の文案により謝罪広告することを求め
る。
8 よつて、原告は被告に対し、商標法三六条、三八条、三九条、特許法一〇六
条、不正競争防止法一条一項一、二号、一条の二に基き、イ号標章使用の差止と、
損害賠償金二五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みに至るまで
民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3(一)の事実中、ド社の商号は否認し、その余の事実は認め、本件合弁契
約の本質がジヨイントベンチユアーであることは争う。ド社の正式商号は「イデ・
ドロテビス」であり、本件合弁契約の本質は技術導入ないしはライセンス契約であ
る。
 同3(二)の事実中、原告が本件商標を訴外株式会社甲陽から譲り受けたことは
認め、その余の事実は否認する。原告は本件商標を使用したことはなく、原告が本
件合弁契約に基いて製造販売した衣料品等に付した商標は、「doroth●e 
bis」であり、右商標は【A】夫妻が創作するいわゆるパリモードフアツシヨン
の一つを表象するものとして世界的に著名なものである。
3 同4の事実中、被告が婦人用洋服、セーター、コート及び布製身回品(以下
「本件商品」という。)以外の別紙商品目録記載の商品並びに定価表、取引書類に
イ号標章を付したこと、本件商品を製造したこと、昭和五六年四月一日以降もイ号
標章を使用していることは否認し、その余の事実は認める。被告は同五四年一〇月
輸入分以降、後述のド社との輸入販売総代理店契約を合意解除し、同五六年三月中
に本社商品の在庫処分を終え、それ以降本件商品を輸入販売等しておらず、イ号標
章も使用していないし、将来にわたつて使用する意図もない。
4 同5の事実中、被告がイ号標章を右3の態様及び方法で使用したことは認め、
本件商標との同一性ないし類似性に関する主張は争う。被告はイ号標章を単独では
なく、「e et j,jacobson」との結合標章として使用しているか
ら、本件商標と類似しない。
5 同6、7の事実は否認し、その主張は争う。
三 抗弁(権利の濫用)
 仮に、被告のイ号標章の使用が本件商標権を侵害し、或いは不正競争行為に該当
するとしても、
1 原告は、本件合弁契約に基き、ド社及び【A】夫妻から提供されるオリジナル
モデルをもとに、そのコピーないしライセンス物を我国で製造し、「doroth
●e bis」商標を付して販売していたが、右契約は昭和五三年三月三一日、期
間満了により終了し、以降原告は右商標を付した衣料品等を製造販売することはで
きず、またその意思もなく、右商標に代えて「ヴイルビル」の標章により衣料品等
の製造販売を行うことを一般に公表している。
2 ところで、「doroth●e bis」商標は、ド社の代表者である【A】
が一九六五年六月一日、フランス共和国において登録した商標であり、本件商標出
願当時には既に【A】夫妻の創作する婦人服のパリモードフアツシヨンを表象する
ものとして世界的に著名なものであつた。しかるに、右商標が未だ我国において登
録されていないことを奇貨として、訴外株式会社甲陽が本件商標として出願し、こ
れを原告が・【A】の承諾もなく譲り受けて登録したものである。
かかる所為は国際的信義に悖るものである。
3 被告は、原告の本件合弁契約が昭和五三年三月三一日をもつて終了したのを機
会に、ド社の製造した真正商品を我国で独占的に輸入販売することを目的として、
同年四月一日、同社との間に輸入販売総代理店契約(以下「本件代理店契約」とい
う。)を締結し、同年九月からイ号標章を表示した襟ネーム、下げ札付きの本件商
品を輸入販売し、同社の指示によつて被告が製作した包装袋にイ号標章を表示し、
広告に使用したものである。
4 原告は、本件合弁契約が更新できないまま終了したことの腹いせに、国際的信
義に悖り、かつ、一度も使用したこともなく、使用する意図もない本件商標権に基
き、原告の真正商品の輸入販売等を妨害するため本訴請求に及んだものであり、か
かる請求は権利の濫用である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中、原告が本件合弁契約に基き、ド社らの提供したオリジナルモ
デルをもとに「doroth●e bis」商標を付した衣料品等を製造販売して
いたこと、右契約が昭和五三年三月三一日終了したことは認め、原告が右契約終了
後には右商標を使用し得ない旨の主張は争う。
2 同2の事実中、原告が被告主張のとおり本件商標を譲り受けて登録したことは
認め、その余の事実は否認する。仮に、【A】がフランス共和国において「dor
oth●e bis」商標につき商標権を有していたとしても、商標権独立の原
則、属地主義、パリ条約からして、我国において右権利を享有し得ないことは明ら
かであり、訴外株式会社甲陽が本件商標を出願したことは当然の権利行使であり、
何ら国際的信義に悖る点も存しない。更に、原告が本件商標を右訴外会社から譲り
受けたのは、「doroth●e bis」商標を使用することが本件商標権を侵
害することになるため、【A】にその旨を通知して、本件商標を買い取るよう勧告
したにも拘らず、同人がこれを拒否したので、やむなく原告においてこれを譲り受
けるにいたつたものである。
3 同3の事実中、被告がド社との間に、本件代理店契約を締結し、同社から輸入
した商品にイ号標章を付して使用していたことは認める。
4 同4の事実は否認し、その主張は争う。原告の本訴請求は、本件商標権に基く
正当な権利行使であるのに対し、被告は本件合弁契約存続中から、あらゆる不正手
段を構じて原告と【A】夫妻の関係を疎外し、原告が右契約を更新することを不可
能ならしめた上、ド社との本件代理店契約の締結に成功し、イ号標章を不法に使用
しているものであるから、その違法性・反社会性は顕著であり、本訴請求が権利の
濫用にわたることはない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1(原被告の業務等)の事実は当事者間に争いがない。
二 まず、原告の商標権侵害の主張について判断する。
1 原告が指定商品を第一七類とする本件商標の商標権者であること、被告がイ号
標章を付した本件商品をド社から輸入した上、昭和五三年六月、東京都下の品川プ
リンスホテルにおいてコレクシヨン展示会を開催したのをはじめ、以降同五六年三
月末まで国内で譲渡し、引き渡し、これらのため展示したこと(以下「販売等」と
いう。)、本件商品の包装袋、広告にも右標章を表示したことは当事者間に争いが
ない。
 原告は、被告が、イ号標章を本件商品以外の別紙商品目録記載の商品及び定価
表、取引書類にも使用したこと、本件商品を製造したこと、昭和五六年四月一日以
降もイ号標章を使用していることを主張するが、これを認めるに足る証拠はない。
却つて、被告代表者本人尋問の結果によると、被告は後示のド社との本件代理店契
約を昭和五四年一〇月輸入分以降合意解除し、同五六年三月末までに在庫商品も販
売し尽し、それ以降ド社からイ号標章を付した本件商品を輸入していないし、今後
も輸入する予定はなく、従つて、本件商品、包装袋、広告にイ号標章を使用する虞
れもないことが認められる。
2 そこで、イ号標章を本件商標と対比すると、外観において、アルフアベツトの
大文字と小文字の差異があるほか、第一文字と第二文字との間に「o」が入り、揚
音符が第二番目ではなく、第一番目の「e」に付されている以外同一であるから類
似するものというべきであり、称呼においても両者共に「ドロテビス」の称呼が生
ずるから同一のものであり、従つて、両者が全体として類似することは明らかであ
る。そして、本件商品はいずれも第一七類の指定商品に属することが明らかであ
る。
3 ところで、被告はイ号標章の使用を自認しながらも、イ号標章を単独で使用す
ることはなく、「e et j,jaco-bson」との結合標章として使用し
ているから、本件商標と類似しないと主張する。
 成立に争いのない甲第四号証の一・二、同第一六号証、原告本人尋問の結果及び
これにより真正に成立したと認められる甲第六号証の二、同第一七号証の一・二、
被告代表者本人尋問の結果によると、被告は本件商品をド社によつて襟札と下げ札
にイ号標章のみを表示した状態で同社から輸入し、これを顧客に販売等していたこ
と、被告は右商品を顧客に引き渡すに際し、同社の指示により、赤地に白抜きで大
きく「e et j,jacobson」と【A】夫妻の名の頭文字と姓を横書
し、その下に約四分の一の大きさでイ号標章を表示した合成樹脂製の包装袋を使用
し、また同様の仕様による広告を行つていることが認められ、右認定に反する証拠
はない。
 右認定事実からすると、本件商品にはイ号標章のみが単独で表示されているとみ
るのが相当であり、しかも、イ号標章と「e et j,jacobson」とが
一連のものとして使用される場合においても、後者は人名、前者は後示の意味を持
つ造語で、上下に分離して横書されており、外観、発音、観念も分離しており、不
可分一体に表示された結合標章とみることは困難である。従つて、これらは別個に
本件商標との類似性が判断されるべきであり、【A】夫妻の姓名が表示されている
ことの故をもつて、本件商標との類似性を否定することはできず、被告がイ号標章
と「e et j,jacobson」とを一連のものとして表示する場合におい
ても、イ号標章部分は本件商標と類似する。
三 次に、原告の不正競争の主張について判断する。
 本件商標が、不正競争防止法施行の地域内において広く認識された商標であると
認めるに足る証拠はなく、かえつて、後示の如く、原告はもとより何人も本件商標
を一度も使用したことすらなく、従つて、右地域内において全く認識される余地は
なかつたものであるから、同法一条一項一、二号の周知性の要件を欠き、その余の
点を判断するまでもなく、この点に関する原告の主張については理由がないものと
いわなければならない。
四 そこで、被告の権利濫用の主張について判断する。
1 我国の商標権者は、外国においてその商標と同一又は類似する標章につき商標
権を有する者から発出した該標章を付した商品が、我国内に輸入された場合、我国
の商標権を侵害するものとして、その使用の差止等を求めうることは属地主義及び
商標権独立の原則(工業所有権保護に関するパリ条約六条三項)から明らかであ
る。
2 ところで、本件では以下に判示する特別の事情が存在する。
(一) 「doroth●e bis」商標について
 成立に争いのない乙第七、八号証、被告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨
を総合すると、【A】夫妻はフランス共和国パリ市を活動の本拠とする服飾デザイ
ナーであり、一九五八年から同市において「doroth●e」と称する服飾店を
開業し、自ら創作する婦人服飾品を販売していたところ、次第に隆盛となり、右店
舗を拡張するに至つたが、その際、店舗名を「doroth●e bis」と変更
したこと、【A】は一九六二年に同夫妻が創作する婦人服飾関係品を製造販売する
ことを目的とするド社を設立し、自ら代表者に就任したが、右会社の商号を「イ
デ・ドロテビス」としたこと(従つて、ドロテビスは右会社の正式商号であつて、
原告主張の如き通称ではない。)更に、【A】は一九六五年(昭和四〇年)六月一
四日、同国(フランス)において、婦人衣類、身回品、宝石、香水等の商品につき
「doroth●e bis」商標の登録商標権者となり、同年一一月二五日国際
登録され、その頃ド社に右商標の使用権を付与したこと、【A】夫妻はその創作す
る婦人服飾製品に右商標を表示して販売していたが、右製品は婦人服飾品に関する
いわゆるパリモードフアツシヨンの一つとして次第に著名なものになると同時に、
右商標は【A】夫妻が創作する婦人服飾品を表象するものとして著名なものとな
り、遅くとも本件商標が出願された一九七〇年(昭和四五年)頃までには世界的に
も著名な商標となつていたこと、「doroth●e bis」の意味は、「do
roth●e」が欧米で慣用される女子のフアーストネームであり、英語における
「ドロテイ」のフランス語にあたるものであつて、【A】夫妻がその間に出生する
女児のために予定していたものの一つで、当初これを店舗名として使用し、次いで
店舗を拡張した際、同番地の建物の二つ目の入口を意味するフランス語の「bi
s」を後尾に付けたものであり、それ自体殊更の意味を持つものではない造語的商
標であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 本件商標について
 本件商標は、訴外株式会社甲陽が昭和四五年一〇月二八日出願し、同四七年八月
二一日公告され、原告が同四八年一月右訴外会社から譲り受け、同年三月二九日登
録されたものであることは当事者間に争いがない。
 ところで、前示の「doroth●e bis」商標成立の経緯及びこれが造語
的商標であり、偶々日本人がこれと類似の本件商標を独自に考案する可能性を認め
ることは極めて困難であること(これを認める証拠もない。)、しかも、本件商標
出願当時既に「doroth●e bis」商標は世界的に著名なものであつたこ
とを勘案するならば、株式会社甲陽が本件商標を出願したのは、「doroth●
e bis」商標が世界的に著名でありながら、未だ我国において出願登録されて
いないことを奇貨として、剽窃的にこれを出願したものと推認せざるを得ない。
(三) 原告の本件商標及び「doroth●e bis」商標の使用状況等につ
いて
(1) 原告が昭和四七年五月一七日、ド社との間に、原告が同社によつて生産さ
れた衣料品等のオリジナルモデルの提供を受け、これを日本国内において再生産し
た上、「doroth●e bis」商標を付して販売する独占的許可を受けるこ
となどを目的とした契約を締結し、右契約が三年の期間満了により終了したあと引
き続き、【A】夫妻を契約当事者として略同様の本件合弁契約を締結したことは当
事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一九、二〇号証によると本件合弁契約
は、更に、原告はド社或いは【A】夫妻から提供を受けたオリジナルモデルが持つ
ているスタイル、仕上、色等の特性を留めるよう努力すること(但し、日本市場に
適合させるため若干の修正・変形は可能。)、原告はオリジナルモデルの再生産権
に加えて「dor-oth●e bis」商標の付されたオリジナル商品の全製品
を輸入する最優先権を持つこと、ド社或いは【A】夫妻は右契約存続中、日本市場
において、他のいかなる会社とも直接・間接のいかんを問わず取引に従事しないこ
とを保証するなどの合意内容を含んでいることが認められる。
(2) 前掲甲第一九、二〇号証、成立に争いのない甲第一八号証、乙第四号証、
原、被告各代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件合弁
契約締結の前後頃、株式会社甲陽が本件商標を出願していることを知り、右契約に
基き生産した商品につき、「doroth●e bis」商標を付して我国で販売
できなくなることを慮り、【A】にその実情を訴えると共に、本件商標の買取方を
求めたが、同人の拒否するところとなつたため、やむなく原告は同人の了解を得る
ことなく、独自に右会社から本件商標を金五〇〇万円で譲り受けたこと、原告が本
件商標を譲り受けたのは、専ら本件合弁契約に基き「doroth●e bis」
商標を国内で使用するにつき発生する虞れのある紛争を未然に防止することのみを
目的としたものであり、従つて、原告は、本件商標が右商標と相異する点のあるこ
とすら認識せず、本件商標を自ら使用したこともなく(また、何人も使用したこと
もない。)、ド社から提供を受けたオリジナルモデルの再生産品(コピーないしは
ライセンス物)にはすべて「doroth●e bis」商標を表示して販売して
いたこと、右商標を付した商品は、【A】夫妻の創作したパリモードフアツシヨン
として我国市場においても好評を博し、原告は本件合弁契約の更新を希望していた
が、双方の要求する諸条件が合意に達しないまま経過して昭和五三年三月三一日に
本件合弁契約は期間満了により終了したこと、その後原告はそれまでに生産した在
庫品を整理のため販売したのみで、間もなく同年六月には右商標に代えて「ヴイル
ビル」標章を使用することを取引先等に文書で伝えたり、その頃右標章を付した商
品のコレクシヨン展示会を開催するなどして、右以降も本件商標を使用する意図は
全くなかつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する原告代表者本人の供述部分
は措信し難く、これを左右する証拠はない。
(四) 被告のイ号標章(「doroth●e bis」商標)の使用状況等につ
いて
 被告が本件合弁契約の終了を契機として、昭和五三年四月一日、ド社との間に、
同社の製造した本件商品を国内で独占的に輸入販売等するため、本件代理店契約を
締結したことは当事者間に争いがなく、同年六月以降イ号標章を使用していること
は前示のとおりである。
 従つて、被告のイ号標章は、【A】がフランス共和国において商標登録し、ド社
が使用権を有する世界的に著名な「doroth●e bis」商標に他ならず、
これと全く同一のものであることが明らかである。
3 右2で認定した各事実から以下検討する。
 世界的に著名な「doroth●e bis」商標が、我国において登録されて
いないことを奇貨として、これを剽窃的に出願して登録された以上、その登録商
標、即ち本件商標が権利として有効に存続すること自体は、前示の属地主義及び商
標権独立の原則からしてやむを得ないところであるが、国際的な商標秩序維持の公
正な理念からすると決して好ましいものではなく、就中、本件商標権者が、「do
roth●e bis」商標の創作者で、フランス共和国等における登録商標権で
もあり、かつ、これを世界的に著名なものとした【A】本人をはじめ同人から使用
権の設定を受けたド社並びにこれらとの契約等により右商標を使用する正当な権利
を有する者らとの関係で問題となるとき、その不当性は顕著なものになるものとい
うべく、従つてかかる場合、本件商標権の成立の経緯やその後の事情等を斟酌して
権利行使の社会的適合性を判断し、場合によつてはこれを制限することもなんら属
地主義及び商標権独立の原則に反するものではないと解する。
 ところで、原告は本件商標権を自ら出願したものではなく、本件合弁契約に基
き、「doroth●e bis」商標を我国で使用するための障害を排除するた
め、株式会社甲陽から譲り受けたにすぎないものである。従つて、原告が本件合弁
契約に基き、「doroth●e bis」商標を使用し、そのために本件商標を
行使する限りにおいては、格別これを問題視することはできないけれども、しかし
ながら、一たん右合弁契約が期間満了により終了消滅した以上、最早原告にとつて
は、右契約上の権限(つまり、ド社らのオリジナルモデルの再生産ないしオリジナ
ル商品の優先的輸入販売に関する諸権利や「doroth●e bis」商標の使
用権等)が一切なくなるとともに、本件商標を譲受取得した当初の意図目的も一応
果されたことになり、しかも、今後将来にわたつてもこれを自ら使用する意図もな
い本件商標権に基いて、右合弁契約の終了を機に被告がド社と新に締結した本件代
理店契約により、同社からイ号標章を付したオリジナル商品を輸入販売する行為等
を差し止めようとするのは、本件商標に関する前示の不当性が顕在化するのみなら
ず、商標法五三条の二(パリ条約の同盟国における代理人等の名による商標登録の
規制)の立法趣旨からみても、社会的にたやすく容認し難いところといわなければ
ならない。この点は、「doro-th●e bis」商標が【A】夫妻の創作す
るパリモードフアツシヨンを表象するものとして世界的に著名なものであり、我国
内においても好評を博していたのであるからして、我国で広く認識されている「d
oroth●e bis」商標及びこれに類似する本件商標がもたらし、或いはも
たらすであろう出所表示機能は、被告のイ号標章の使用によつて損われることもな
く、一般大衆、需要者にイ号標章の出所表示機能について誤認を生じさせる虞れも
ないというべきである。まして、本件の場合、原告は本件商標をこれまで一度も使
用せず、かつ、今後もこれを使用する意思がないのであるから、被告のイ号標章の
使用により原告が被るであろう実質的な損害はほとんど考えられず、従つて、これ
ら利害得失の点から比較考量しても、本件差止請求権の行使はこれを制限してしか
るべきである。
4 なお、原告は、被告が不正手段を構じて原告と【A】夫妻の関係を疎外し、本
件合弁契約の更新を不可能ならしめた上、ド社との間の本件代理店契約を締結した
と主張するが、これを裏付ける的確な証拠はない。
5 以上検討した諸点及び本件に表れた諸事情を総合するならば、被告の使用する
イ号標章は本件商標と類似し、外形的には本件商標権を侵害するといい得るもの
の、原告が被告に対し、本件商標権に基き、イ号標章の使用の差止、損害賠償及び
謝罪広告を求める本訴請求は、権利の社会性に反する濫用行為というべきである。
五 以上の次第であるから、原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することと
し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永岡正毅 渡部雄策 大西嘉彦)
商品目録、謝罪広告目録(省略)
<12336-001>

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採用情報


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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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