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裁判例


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○ 主文
被告が昭和三九年一〇月二四日付でした原告の昭和三八年度分総所得金額を金五八
五、五〇二円とする更正処分のうち、金五四三、二七一二円を超える部分、ならび
に過少申告加算税金九〇〇円の賦課決定処分のうち右金五四三、二七三円を超える
部分に対応する部分は、いずれもこれを取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分しその三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告の申立
被告が昭和三九年一〇月二四日付でした原告の昭和三八年度分総所得金額を金五八
五、五〇二円とする更正処分のうち、金四三二、五〇〇円を超える部分、ならびに
過少申告加算税金九〇〇円の賦課決定処分はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告の申立
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、肩書地において豆腐製造販売業を営んでいる者であるが、昭和三八年
度分所得税について、昭和三九年三月一二日、被告に対し総所得金額を金四三二、
五〇〇円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和三九年一〇月二四日付で右総
所得金額を金五八五、五〇二円とする旨の更正並びに過少申告加算税金九〇〇円の
賦課決定の各処分(以下本件処分という)をし、そのころ原告に通知した。
2 原告はこれを不服として昭和三九年一一月一六日被告に対し異議の申立をした
ところ、昭和四〇年二月一三日被告はこれを棄却する旨の決定をし、そのころこれ
を原告に通知した。
3 そこで原告は昭和四〇年三月九日大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、
同局長は昭和四一年三月一四日これを棄却する裁決をし、原告にその旨通知した。
4 しかし、被告がした本件処分には次の違法があるからこれが取消を求める。
(一) 原告は、大阪市住吉区内の零細商工業者がその生活と営業を守るために組
織する住吉商工連合会の会員であるところ、被告の本件処分は右連合会の組織破壊
を目的とし単にそのための手段としてなされたいわゆる「他事考慮」に基づく処分
であつて、本来の行政目的を逸脱した違法な処分であるから無効である。
(二) 原告の昭和三八年度分の総所得金額は確定申告のとおりであつて、被告が
した本件処分には原告の所得を過大に認定した違法がある。
二 請求原因に対する被告の答弁
請求原因第1ないし第3項を認めるが第4項を争う。
三 被告の主張(処分の適法性)
1 (いわゆる「他事考慮」の主張に対して)
本件処分は、租税行政の本来の目的の一つである過少申告の是正を目的としてなさ
れたものであるから、何ら他事考慮に基ずくものではなく、原告の主張は理由がな
い。
2 (原告の所得金額)
原告の昭和三八年度分所得税の確定申告書には、所得金額算定の基礎となる収入金
額等の記載がなく、かつ被告の調査に際しても、原告は、所得金額の計算の基礎と
なる事実に記載した帳簿類等を提示せず、わずかに一部の領収書を提示したのみで
あつたため、被告としては実額により所得金額を計算することができなかつた。
そこで、被告は原告の申立および被告の調査の結果に基ずいて所得金額を推計計算
したところ、原告の確定申告額と相違したので本件処分をしたのであるが、その後
さらに検討したところ、原告の所得金額は次のとおり、金六一九、〇九三円である
から、右所得金額の範囲内で、金五八五、五〇二円の所得があるとしてなされた本
件処分には違法がない。
(1) 収入金額       二、二八二、八八七円
(2) 必要経費       一、五一六、二九四円
(3) 専従者控除額       一四七、五〇〇円
(4) 差引所得金額((1)-(2)-(3))六一九、〇九三円
3 被告の調査によれば右のうち原告の収入金額と必要経費は次のとおりである。
(一) 収入金額二、二八二、八八七円
原告の取扱つている各製品別の売上高は左記(1)ないし(3)のとおりで、これ
を合計すると金二、二八二、八八七円となる。
(1) 豆腐、厚揚、薄揚の売上高
右製品の主要原料である大豆の使用数量を、原告の申立に基いて右の各製品別に区
分し、各製品毎の大豆使用数量に、それぞれの大豆一升当りの製造量を乗じて各製
品毎の出来高を求め、これを卸、小売に区分し、それぞれの販売単価を乗じて各製
品別の売上高を算定した。
(イ) 豆腐売上高金一、〇三一、七四五円・・・・・・・・・(1)
大豆の使用数量は五、〇七〇升(原告申立数量)であり、大豆一升当りの豆腐製造
量は一一丁で、原告方における卸売と小売の販売比率は卸売三に対して小売七の割
合であり、一丁当りの販売単価は卸売が一五円、小売が二〇円であるから、豆腐売
上高は左の算式により金一、〇三一、七四五円となる。
11丁×5、070=55、770丁・・・・・・・・・・・・・・総製造数量
15円×55、770×0.3=250、965円・・・・・・・・卸売売掛金
20円×55、770×0.7=780、780円・・・・・・・・小売売掛金
250、965円+780、780円=1、031、745円・・・豆腐売掛金
(ロ) 厚揚売上高金三〇三、九九六円・・・・・・・・・(2)
大豆使用数量は一、四七〇升(原告申立数量)であり、大豆一升当りの厚揚製造量
は四四枚で、卸売と小売の販売比率は同じく三対七であり、一枚当りの販売単価は
卸売四円、小売五円であるから、厚揚売上高は左の算式により金三〇三、九九六円
となる。
44枚×1、470=64、680枚・・総製造数量
4円×64、680×0.3=77、616円・・・卸売売上高
5円×64、680×.07=226、380円・・小売売上高
77、616円+226、380円=303、996円・・豆腐売上高
(ハ) 薄揚売上高金七〇〇、七〇〇円・・・・・・・・・(3)
大豆使用数量は二、八〇〇升(原告申立数量)であり、大豆一升当りの薄揚製造量
は五五枚で、卸売と小売比率は四五対五五であり、一枚当りの販売単価は卸売四
円、小売五円であるから薄揚売上高は左の算式により金七〇〇、七〇〇円となる。
55枚×2、800=154、000枚・・・・・・・・・・・総製造数量
4円×154、000×0.45=277、200円・・・・・卸売売上高
5円×154、000×0.55=423、500円・・・・・小売売上高
277、200円+423、500円=700、700円・・・・薄揚売上高
(2) コンニヤク売上高金一六九、五〇〇円・・・・・・・・・(4)
(3) カマス売上高金五、〇八九円・・・・・・・・・(5)
オ カラ売上高金七一、八五七円・・・・・・・・・(6)
カマスは、前記(1)の各製品の主要原料である大豆の入つている袋であり、オカ
ラは豆腐製造の際の副産物であるから、その売却による売上金額はいずれも大豆の
使用数量に比例するものと考えられる。そこで、昭和四〇年度のカマス売上高金
五、一〇〇円オカラ売上高金七二、〇〇〇円(右いずれも原告申立額)に、それぞ
れ原告の昭和三八年度の大豆使用数量を昭和四〇年度の大豆使用数量で除して得た
数値を乗ずれば、昭和三八年度の各売上高が推計される。
(二) 所得金額六一九、〇九三円および必要経費金一、五一六、二九四円につい

所得金額は、前記収入合計金額二、二八二、八八七円に、原告と同業種の事業を営
む納税者のうち、青色申告者で原告と同規模同程度のもの(以下類似同業者とい
う)の平均所得率〇、三五九八を乗じて推計し、この推計額から専従者控除一四
七、五〇〇円を控除して算出した(左記算式のとおり)。
2、282、887円0.3598=821、382円
821、382円-147、500円=673、882円・・・・・・・・・所得
金額
右推計に用いた平均所得率算定の基礎となつた類似同業者の詳細は次のとおりであ
る。
<略>
従つて必要経費は、収入金額二、二八二、八八七円から、前記金八二一、三八二円
を差引いて算出される金一四六一、五〇五円となる。
2、282、887円-821、382円=1、464、505
円・・・・・・・・・・・・必要経費
4 (大豆使用数量による推計)
原告の営む豆腐製造業における収入金額は、大豆の使用数量に比例するものと考え
られるので、原告の大豆使用数量に前記3掲記の類似同業者の使用大豆一斗当りの
収入金額の平均値を乗ずる方法により、原告の所得金額を推計すると、左のとおり
算出される。
A の一斗当り収入金額三、五一四円(3、717、000円÷1、057斗)
B   〃     三、四五九円(2、771、000円÷  801斗)
C   〃     二、八九九円(3、001、000円÷1、035斗)
D   〃     三、八〇一円(3、935、000円÷1、035斗)
A BCDの大豆一斗当り収入金願の平均値
三、四一八円
3、418円×934(斗)3、192、412円・・・・・・・・・・・・汚ン
静徴
右の収入金額に前記3掲記の類似同業者の平均所得率〇、三五九八を乗じ、さらに
専従者控除額一四七、五〇〇円を減ずると、原告の所得金額は金一、〇〇一、一二
九円となる。
5 (実調資料による推計)
(一) その後大阪国税局長において、大阪国税局管内の全税務署八三署のうち、
大蔵省組織規定上種別「A」とされている税務署四三署管内の豆腐製造小売業者の
中で、昭和三八年度分所得内容の実額調査(青色申告の納税者については実地調
査、白色申告の納税者については収支実額調査)を行つた一二事例の全部につい
て、収入金額、所得率及び大豆仕入数量を収集した結果、別表のとおりの資料(以
下実調資料という)が得られた。
右実調資料によれば、所得率の平均値は〇、三三九六(一二件平均)、大豆一斗当
り収入金額の平均値は三、二三三円(一〇件平均)である。
(二) (実調率の合理性)
右(一)記載の所得率等(以下実調率という)は、次の諸点からみて合理的であ
る。
すなわち、算出基礎資料は、豆腐製造小売業を営む個人事業を対象とし、青色申告
者については実地調査、白色申告者については収支実額調査を行つたもののうち、
年度の中途で開業したもの、他の業種を兼業していてその収入金額等の区分計算が
できないもの、不服申立または訴訟係属中で所得金額が確定していないもの等、特
殊事情を有する納税者を除き、そのすべてを収集したものであるから、資料として
用いた事業者の選択には何らの恣意も加わつていない。
また、資料の内容は実地調査あるいは収支実額調査の結果により正確な数値を把握
したものであり、かつ納税者もその正当性を承認しているものであるから、これら
同業者から得られた資料は確実なものである。
(三) (実調率適用の合理性)
豆腐製造小売業においては、製造方法は共通であり、販売面においても一般的に製
品の運搬が困難なため、主として店舗周辺に居住する固定した客を対象としてお
り、各製品の販売価格もほぼ同一であるから、収入金額は大豆の使用数量にほぼ比
例し、所得も概ね収入金額に比例するものと考えられる。従つて原告の業態が通常
の同業者に比較し特別に異つていると認められない本件において、前記実調率を原
告に適用することは合理的である。
(四) そこで、前記実調率を原告に適用すると、左の算式のとおり、所得金額は
金九二四、五一一円となる。
3、233円×934(斗)(原告の大豆使用量料)=3、019、622
円・・・・・・・・・・・・・・・収入金額
3、019、622円×0.3396(所得率)=1、025463円
1、02、5463円-147、500円(専従者控除額)=877、963
円・・・・・・・・・・・・・・・・・・所得金額
6 以上のとおり、第3、4、5項掲記のいずれの方法によつて推計しても原告の
所得は更正処分の額を超えることになり、その範囲内でなされた本件処分に違法は
ない。
四 被告の主張に対する原告の答弁
1 被告の主張第1項は争う(原告の主張は請求原因第4項(一)記載のとお
り)。
2 同第2項のうち、専従者控除額は認めるが、収入金額、必要経費、所得金額は
否認する。
3 同第3項(一)のうち、コンニヤク売上高及び豆腐、厚揚、薄揚の各製品別大
豆一升当り製造量、卸売、小売の各販売単価は認める。
豆腐、厚揚、薄揚の各製品別の大豆使用数量、卸売と小売との比率及び各売上金額
はいずれも否認する。
なお、豆腐、厚揚、薄揚について、同第3項(一)(1)記載の方法によつて売上
高を推計すること自体は争わない。カマス、オカラの各売上高は否認し、その推計
を争う。原告は昭和三八年度にはオカラを年月三〇〇〇円の約束で全部aに販売し
ていたが、昭和四〇年度には右販売価格は毎月六、〇〇〇円に値上げされていたも
のである。従つて被告のオカラ売上高の推計方法は合理的ではない。
原告の昭和三八年度の収入金額は次のとおりである。
原告は昭和三八年度に大豆二〇八本を仕入れたが大豆一木から大豆の不良品、ゴミ
などを取除くと、原料として使用できるのは約四・三斗余であるから右仕入大豆か
らは約九、〇〇〇升の原料大豆が取れ、それを豆腐、厚揚、薄揚の各製品に加工し
て販売した。右製品の卸売と小売の比率は、卸売四に対して小売六の割合であるか
ら、その売上高は左の(1)ないし(3)記載のとおりとなる。また右製品以外の
ものの売上高は左の(4)ないし(6)記載のとおりである。
(1) 豆腐売上高金  九五〇、五八〇円
11丁×4、801(升)=52、811
丁・・・・・・・・・・・・・・・・・・総製造数量
15円×52、811(丁)×0.4=316、860円・・・・・卸売売上高
20円×52、811(丁)0.6=633、720円・・・・・・小売売上高
316、860円+633720円=950、580円・・・・・豆腐売上高
(2) 厚揚売上高金  二七三、四八〇円
44枚×1、450(升)=63、800枚・・・・・・・・・・・・・・・・・
総製造数量
4円×63、800(枚)×0.4=102、080円・・・・・・卸売売上高
5円×63、800(枚)×0.6=191、400円・・・・小売売上高
102、080円+191、400円=273、480円・・・・・・・・厚揚売
上高
(3) 薄揚売上高金  七〇〇、七五〇円
55枚×2、750(升)=151、250枚・・・・・・・・・・・・総製造数

4円×151、250(枚)×0.4=247、000円・・・・卸売売上高
5円×151、250(枚)×0.6=453、750円・・・・・・小売売上高
247、000円+453、750円=700、750円・・・・・・・薄揚売上

(4) コンニヤク売上高金  一六九、五〇〇円
(5) オカラ売上高金  三六、〇〇〇円
(6) カマス売上高金  五、九七〇円
以上の(1)ないし(6)の各売上高の合計金二、一五六、二八〇円が原告の昭和
三八年度の総収入金額である。
4 同第3項(二)の推計は争う。
原告が支出した必要経費の明細は次のとおりである。
(1) 仕入高金一、一五八、八五〇円
うち(イ)大豆    七二五、七〇〇円
(ロ) 油     二九六、七五〇円
(ハ) コンニヤク 一三六、四〇〇円
(2) 仕入高以外の経費 四二二、七二八円
(イ) 消耗品費      四八、二一〇円
(ロ) 包装費       三六、三四〇円
(ハ) 公租公課      二三、二八〇円
(ニ) 火災保険       七、八〇〇円
(ホ) 機械修理費     二三、四〇〇円
(ヘ) 通信交際費      六、〇〇〇円
(ト) 油        一二六、〇〇〇円
(チ) 水道費        四、〇〇〇円
(リ) 電気代       三三、八八〇円
(ヌ) 償却費       九〇、九八三円
(ル) 雑費        二二、八三五円
従つて原告の所得金額は、前記収入金額から右必要経費及び専従者控除額一四七、
五〇〇円を差引いた残額四二七、二〇二円である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因第1、2、3項の事実は当事者間に争いがない。
二 よつて、本件処分に違法事由があるかどうか判断する。
1、原告は、本件処分がいわゆる「他事考慮」に基ずく処分であると主張するので
考えてみるに、成立に争いのない甲第四号証、乙第四八第四九号証の各一ないし三
に原告本人尋問の結果(一、二)を綜合すると、原告は、大阪市住吉区内の零細商
工業者が組織する住吉商工連合会の会員であること、右住吉商工連合会は、その上
部団体である大阪商工団体連合会及び全国商工団体連合会に加盟していること、昭
和三八年ごろから右全国商工団体連合会及び全国各地の商工連合会、商工団体連合
会は、国税庁、各国税局及び各地の税務署との間に、集団申告の是非、税務職員の
国税調査の方法の当否、前記商工連合会員の税務妨害の有無等の問題をめぐつて激
しい対立関係にあつたこと、大阪国税局管内においても、本件処分のころ、前記問
題に関し大阪商工団体連合会傘下の商工連合会の会員が同国税局及び同国税局管内
の各税務署に多数抗議に赴き、あるいは、大阪市の城東商工会等が昭和三八年七月
二七、二八日に「城東区民の皆様へ」と題するチラシを配布したのに対し、大阪国
税局では右チラシの配布は税務妨害である旨のb税部長の談話を新聞記者に発表
し、あるいは大阪商工団体連合会が「税務署の一方的おしつけ課税反対、納税者の
計算した自主申告を認めよ」等の要求を掲げた立看板を掲示したことに関し、c大
阪国税局長が大阪商工団体連合会に対してその撤去を要求する旨の書面を発する
等、その対立はますます激化する状態にあつたこと、大阪国税局管内で、昭和三七
年度分の所得税につき更正処分を受けた納税者数は、各商工連合会会員以外の一般
事業所得者においては納税者の〇・五パーセントであつたのに対し、商工連合会会
員においては四・五パーセントであり、前記一般事業所得者の九倍に上ること、以
上の事実を認めることができる。しかしながら、右の事実から直ちに本件処分が住
吉商工連合会の組織破壊を目的とし、単にその手段として行われたものであると断
定することはできないし、他に本件処分がいわゆる「他事考慮」に基いて行われた
ことを認めるに足る証拠がないから、原告の右主張は採用できない。
2、次に、本件処分に原告の所得を過大に認定した違法があるかどうか判断する。
(1) 証人dの証言、ならびに原告本人尋問の結果(一、二回)によれば、原告
は昭和三八年当時の収支を正確に記載した帳簿を全く備えておらず、収支を裏付け
る請求書、領収書等の書類も一部しか保存していなかつたことが認められるから、
収入金額必要経費ともに実額をもつて把握することは不可能であり、両者ともに推
計によつてこれを認定する必要があつたものといわなければならない。
(2) よつて、次に、被告の主張第3項(一)(原告の収入金額)について判断
する。
(一) 豆腐、厚揚、薄揚の売上高
薄揚売上高が金七〇〇、七五〇円であることについては、原告の自認するところで
あり、豆腐、厚揚の各製品別の大豆一升当り製造量、卸売、小売の各販売単価及
び、豆腐、厚揚の各売上高を被告の主張第3項(一)(1)記載の方法で推計する
こと自体は当事者間に争いがない。
証人dの証言により細書部分の成立が認められ、その余の部分については成立に争
いがない乙第一号証に右証言を綜合すると、原告の昭和三八年度の大豆使用数量
は、豆腐につき五、〇七〇升、厚揚につき一、四七〇升、薄揚につき二、八〇〇升
であつたこと(右認定に反する原告本人尋問の結果(一、二回)は採用しない。)
豆腐、厚揚の各製品の卸売と小売の販売比率につき、原告はdに対し当初、卸売
四・五、小売五・五の割合であると申し立てたが、右dから念をおされて卸売が三
分の一であると訂正したので、dは右訂正した事実と、原告の店舗を調査したとき
の状況、及び同人が以前豆腐屋につき調査した経験による勘等から、原告の販売割
合卸売三、小売七と認定したことがそれぞれ認められる。右認定事実によれば、d
が右のような販売割合を認定したことについては合理的根拠を認めることができな
いところであるから、結局本件においては、原告が前示訂正により自認した比率で
ある卸売三分の一、小売三分の二を販売比率とみるのが相当である。
そこで右に認定した数額及び前示争いのない数額に前示争いのない推計算式をあて
はめると、各売上高は次のとおりとなる。
(イ) 豆腐売上高金一、〇二二、四五〇円
11丁×5、070(升)=55、770丁・・・・総製造数量
15円×55、770(丁)×1/3=278、850円・・・・・・卸売売上高
20円×55、770(丁)×2/3=743、600円・・・・・・小売売上高
278、850円+743、600円=1、022450
円・・・・・・・・・・・豆腐売上高
(ロ) 厚揚売上高金三〇一、八四〇円
44枚×1、470(升)=64、680枚・・・・・・・・・・・・・・総製造
数量
4円×64、680(枚)×1/3=86、240円・・・・・・・・・・卸売売
上高
5円×64、680(枚)×2/3=215、600円・・・・・・・・・・・・
小売売上高
86、240円+215、600円=301、840円・・・・・・・・・・・・
厚揚売上高
(二) コンニヤク売上金は当事者間に争いがない。
(三) カマス売上金、オカラ売上金
カマス売上高が金五、九七〇円であることは原告の自認するところである。
証人eの証言によれば、オカラは豆腐の原液である豆乳をしぼり出す時に産出する
残滓で豆腐製造の際の副産物であることが認められるから、その産出量及び売却代
金は大豆の使用数量に比例するものと考えられる。従つて、昭和四〇年度のオカラ
売上高に、昭和三八年度の大豆使用数量を昭和四〇年度の大豆使用数量で除して得
た数値を乗ずることにより、昭和三八年度のオカラ売上高を算定するという被告主
張の推計方法は昭和四〇年度と昭和三八年度との間のオカラ販売価格の変動等の特
段の事情のない限り合理的なものというべきである。原告は、昭和三八年にはオカ
ラを月ぎめ三、〇〇〇円で全部aに販売していたが、昭和四〇年には右販売価格は
毎月六、〇〇〇円に値上げされていたと主張するところ、右主張に添う甲第五号証
の記載ならびに原告本人尋問の結果(一回)によつては右事実を確認することがで
きないのみならず、右証拠は証人eの証言に対比して措信できず、他に右原告主張
事実を認めるに足る証拠はない。そうすると、昭和三八年度と昭和四〇年度のオカ
ラ販売価額には変動がなかつたというほかはないところ、前掲乙第一号証、黒字部
分につき成立に争いのない乙第二号証、証人f、およびdの証言を綜合すると、原
告の昭和三八年度の大豆使用数量は九三四斗、昭和四〇年度の大豆使用数量は九三
六斗((204本×4斗5升=918斗、15本×1斗2升=18斗、合計936
斗)であることが認められるから、昭和四〇年度の大豆使用数量に対する昭和三八
年度のそれの比率は
934斗÷936斗=0.9978
であり、前記乙第二号証によつて認められる昭和四〇年度のオカラ売上高金七二、
〇〇〇円に右数値を乗ずれば、昭和三八年度のオカラ売上高は金七一、八四一円と
推計される。
(四) 右に認定した各売上高及び争いのない各売上高を合計すると原告の昭和三
八年度の総収入金額は二、二七二、三五一円となる。
(3) そこで次に、被告が第3項(二)において主張する、所得金額および必要
経費の点について判断する。
被告は右主張において、原告の収入金額に、原告と同業種の事業を営み、事業規模
が原告と同程度の青色申告納税者(以下類似同業者という)の所得率の平均値(平
均所得率)を乗ずる方法で所得額を推計しているところ、本件において被告の主張
する類似同業者ABCDの平均所得率を推計の基礎として用いることが許されるか
どうか検討する。
およそ、ある事業者の所得金額を算定するにあたり、その支出した必要経費の額を
実額をもつて把握することができない場合には、通常必要経費の額は総収入金額に
比例するものと考えられるから、その事業者の総収入金額に同種、同規模、同程度
の同業者の所得率の平均を乗じて所得金額を推計することは、特段の事情のない限
り、合理的な推計方法であるというべきである。
しかしながら、右推計方法が合理的であるためには、当該事業者の所得を算定する
基礎として用いる類似同業者の選択が合理的になされていることが不可欠の前提で
あるから、その同業者の実在性、データの正確性はもとより、その営業規模、営業
内容、立地条件等、所得に影響を及ぼす諸条件を、当該事業者のそれと比較して、
両者の類似性が明確に立証された後でなければ、これを推計の基礎とすることはで
きないものといわねばならない。
ところが、本件において、被告が右諸条件を立証するものとして提出している乙第
一一号証の二、・三、第一九号証の二、および第二二号証の二(いずれもg事務官
作成にかかり、各成立について争いがない)は、同業者の住所として区の名称を掲
げているのみで、その氏名は全く記載されていないのであつて、被告主張のABC
Dなる同業者の存在、ならびにその営業規模、内容、立地条件等が原告のそれと類
似するかどうかについては、結局被告らの職員の供述を信用するほかなきに帰する
反面、原告においてこれが反証を提出することが不可能か、少なくともこれを行な
うにつき著しい困難をきたすことは、右四名以外に後記認定のとおり多数の同業者
が存在することからみても明らかであり、このような主張立証が、当事者衡平の見
地からも、また訴訟における信義則の面から考えても許されないことは、類似の事
案についてさきに当裁判所が判示しているところと同様である(当裁判所昭和四七
年一〇月三一日判決・判例時報六八七号四四頁参照)。のみならず、前掲乙各号証
には、ABCDの営業内容として、収入金額、差益金額、従業人員、大豆仕入数量
が記載されているのみであつて、これらの記載内容によつて右四名と原告との類似
性の存在を確認することができないから、本件においては、右四名の平均所得率に
よる推計方法を用いることは許されないものといわねばならない。
(4) 被告は、原告の大豆使用数量を基礎として、これに前示ABCD四名の使
用大豆一斗当りの収入金額の平均値を乗ずる方法により、原告の収入金額を主張し
ているけれども、右推計の主張が許されないことは、右3において説示したところ
と同様であるから、これを排斥する。
(5) 次に被告は、第5項において実調率による推計を主張するのでこの点につ
いて判断する。
被告は、右主張において、豆腐、厚揚、薄揚の主要原料である大豆の使用数量に、
実調資料によつて得られた同業者の大豆一斗当り収入金額を乗じて収入金額を算出
し、さらに右収入金額に同じく実調資料によつて得られた同業者の平均所得率を乗
じて所得金額を推計しているところ、右のように原材料の使用数量を基準として所
得金額を推計する方法は、豆腐製造販売業のように、製造方法が各業者共通で単位
原料当りの製品出来高もほぼ同一であり、販売価格もほぼ共通であるという業種
(以上の事実は証人eの証言、原告本人尋問の結果によつて認められる)にあつて
は、収入金額、所得金額ともに原材料たる大豆の使用数量に比例すると考えられる
から、特段の事情のない限り合理的な推計方法と考えられる。
そこで、本件において被告が主張する実調資料及び実調率の合理性について考える
に、いずれも成立に争いのない乙第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第
七号証の一、二、第八ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし三、第一二、第一
三号証、第一四号証の一、二、第一五ないし第一八号証、第一九号証の一ないし
三、第二〇、第二一号証、第二二、第二三号証の各一、二、第二四、第二五号証、
第二六号証の一、二、第二七ないし第三七号証、第三八号証の一、二、第三九ない
し第四六号証、原本の存在ならびに成立につき争いのない乙第四七号証、第四八、
第四九号証の各一ないし三と証人hの証言によれば、右実調資料は、大阪国税局長
が税務訴訟に使用する目的で同局管内の全税務署八三署のうち、大蔵省組織規定上
種別「A」とされている税務署(いわゆる「A級署」。以下A級署という)の署長
に対して、昭和四三年七月一日付で発した通達により、豆腐製造小売業外三業種に
つき、統一的な作成基準を指示したうえで、各税務署長に同業者につき実地調査を
した結果を同業者調査票として提出させ、同国税局長において右同業者調査票を集
計した結果得られたものであるが、右調査の対象は、(1)当該年度において実地
調査を行なつた青色申告者、または収支実額調査を行つた白色申告者であること、
(2)当該業種目を主として営む事業継続者であること(但し他の業種目と兼業し
ているもので収入金額、差益金額及び標準外経費控除前所得金額の明らかなものを
含む)、(3)調査票作成時において不服申立または訴訟係属中でないこと、の三
条件に該当する納税者であること、右に該当する納税者のすべてについて、前示各
税務署長において、その収入金額、所得金額、差益金額、従業人員等及び特に豆腐
製造小売業については、年間大豆仕入数量を調査し、その結果に基いて同業者調査
票を作成したこと、大阪国税局長は右同業者調査票を各業種毎に集計し、算術平均
によりその平均値を算出し別表記載のとおりの結果が得られたこと、大阪国税局長
が同業者調査票の選出を求めた前示A級署四三署のうち、豆腐製造小売業につき同
業者調査票の提出があつたのは九税務署であり、その余の税務署からは該当者なし
として提出がなかつたこと、業者数でいえば、同業者調査票の提出があつたのは合
計一二例であり(うち大豆仕入数量の記載のあるもの一〇例)、そのうち大阪市内
の業者は九例(うち大豆仕入数量の記載のあるもの七例)であること、所得率につ
いては右一二例中最高値が五二・七五パーセント、最低値が二四・七九パーセント
で前者は後者の二倍を超え、他の例はその間にばらばらに分布している(二〇パー
セント台三例、三〇パーセント台七例、四〇パーセント台一例、五〇パーセント台
一例)こと、大豆一斗当りの収入金額については、右一〇例中最高値が四、一二二
円、最低値が二、一三三円でやはり前者は後者の約二倍弱であり、他の例はその間
にばらばらに分布している(二、〇〇〇円台三例、三、〇〇〇円台六例、四、〇〇
〇円台一例)こと、前記調査の対象は豆腐製造小売業者として抽出したが、右豆腐
製造小売業とは小売の占める割合が五〇パーセント以上のものを指称するのが税務
官庁の業種分類の慣行であり、前記調査も右慣行に従つて行なつたもので、卸売と
小売とを区別して所得率や大豆一斗当り収入金額を算出したものではなく、従つ
て、同じく豆腐製造小売業といつても小売の占める割合が五〇パーセントのものか
ら一〇〇パーセントのものまで様々な割合のものが含まれ得ること、以上の事実を
認めることができる。
右事実によれば、前記同業者調査票の作成過程においては何ら税務署側の恣意は加
わつておらず、別表記載の実調資料は一応客観性を有する調査資料であると認めら
れる。
しかしながら、大阪府豆腐油揚商工組合に対する当裁判所の調査嘱託の結果によれ
ば、大阪府下のみにおいても豆腐製造業者が一、五六〇名存在することが認められ
るのであるから、前記調査が施行された大阪国税局管内には、この数より相当上廻
る業者が存在することが推認されるところ、前記調査によつて収集された業者数は
所得率については一二例、大豆一斗当りの収入金額についてはわずか一〇例で全体
の業者数に比して極端に少ないうえ前示のとおり、実調資料自体からみて業者によ
り所得率や、大豆一斗当りの収入金額に相当の差異があり、卸売と小売では販売価
格にかなりの差異がある(証人eの証言、ならびに弁論の全趣旨によれば昭和二八
年においては、豆腐が一般に卸売一五円、小売二〇円であることが認められる)の
で、卸売、小売の比率の変化に従つて所得率、特に大豆一斗当り収入金額に相当な
差異を生ずるであろうことを考え合わせると、前記調査により収集された一〇例な
いし一二例の業者数はあまりにも少く全体の業者の中で、地域、営業規模、卸売小
売の比率等の諸点においてどのような偏倚があるかも知れないと考えられるところ
であるから、前記実調資料は統計値としての正確性に疑問があるものといわねばな
らない。従つて、実調率自体の合理性につき右のような疑いがある以上、右実調率
による推計も許されないことになるから、被告の右主張も採用することができな
い。
三、そうすると、本件においては被告の主張する必要経費の立証がないことにな
り、結局原告の自認する金一、五八一、五七八円をもつて必要経費と認めるほかは
ない。従つて原告の所得金額は、前示三(2)に認定した収入金額二、二七二、三
五一円より、右必要経費及び当事者間に争いのない専従者控除額一四七、五〇〇円
を控除した後の金額である金五四三、二七三円であるといわねばならない。
よつて、原告の本訴請求中、総所得金額五四三、二七三円を超える更正処分の取
消、ならびにこれに対応する過少申告加算税の賦課処分の取消を求める部分を正当
として認容し、その余の部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟
法九二条本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 下出義明 辰己和男 柳田幸三)
<略>

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