弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役二年に処する。
     但し、本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
     押収の自動車運転免許証一通(東京高等裁判所昭和三十七年押第一一一
九号の1)はこれを没収する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京地方検察庁検察官検事山本清二郎名義の控訴趣意書に記
載されているとおりであり、これに対する答弁は、被告人名義の上申書、被告人の
弁護人田中義之助、同湯浅実、同渡辺真一名義の答弁書に記載されているとおりで
あるから、いずれもこれを引用する。
 検察官の控訴趣意について
 所論は先ず原判決は公訴事実中「被告人が原判示第二の偽造自動車運転免許証を
携帯して昭和三十五年六月頃から同三十七年七月五日までの間東京都内において自
家用普通自動車第○す○×△□号等を運転し、もつて偽造公文書を行使した」とい
う点について、被告人が右日時、場所において自動車を運転した際、本件偽造にか
かる運転免許証を携帯していた事実を認めながら、これを偽造公文書の行使罪を構
成しないという理由によつてこれを無罪としたのであるが、それは法令適用の誤り
で、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるのみならず、偽造運転免許証
を携帯し自動車を運転した場合、偽造公文書行使罪が成立するとした最高裁判所の
判例(昭和三十六年五月二十三日最高裁判所第三小法廷決定)に違背しているとい
うのである。
 よつて按ずるに、被告人が原判示自動車運転免許証の偽造後、昭和三十五年六月
頃から昭和三十七年七月五日までの二年余の間運転免許を受けないで引き続き普通
自動車を東京都内等において運転し、右運転の際道路交通法(その施行前において
は道路交通取締法)の規定に基づき警察官から運転免許証の提示を求められた場合
は、右偽造免許証を恰かも真正なもののように装つて警察官に提示してその閲覧に
供し、自分の無免許運転の事実をかくそうという考の下に、絶えず右偽造運転免許
証を携帯していたものであることは、原判決の認定しているところであつて、証拠
に徴しても間違ないと認められるところ、元来道路交通法第九十五条第一項(その
施行前においては道路交通取締法第九条第三項)によれば、自動車運転の際には、
当該自動車等に係る運転免許証の携帯義務か課せられており、同法第六十七条第一
項(道路交通取締法第二十三条の二第二項)によれば、特定の場合には警察官がそ
の提示を求めることができるとし、それに応じない場合につき罰則を設けてい<要
旨>るのであつて、自動車運転の際における免許証の携帯は、自動車運転の不可欠の
要件であるというべく、自動車の運転行為ということは、通常の場合自動車
運転免許証を携帯して運転しているということを外部に対して表明する行為である
ともいい得べき筋合であるから、自動車運転に際し運転免許証を携帯しているとい
うことは、それ自体運転免許証という公文書をその本来の用法に従つて行使してい
るものであるというを妨げないというべきである。而して、これを本件についてみ
るに、本件では偽造運転免許証を携帯しながら自動車を運転し、警察官から提示を
求められた場合には、これを提示してその運転が正当であることを主張しようとし
二年間も運転していたが、現実に警察官の要求を受けて提示するという場面には遭
遇しなかつたのであるが、かくの如き場合でも、外部に対し右不正の運転免許証を
正当なものと主張し、要求を受ければ現実にこれを閲覧させることを辞さないとい
うことを表明しているというべきで、換言すれば、一定の場合に警察官に対しこれ
を閲覧し得べき状態においているともいい得べきであり、通常の偽造文書行使の態
様である相手方に対する提示とか交付、いわゆる備付文書の行使の場合における備
付と同視すべき行為があつたといい得べきであるから、この限度においていわゆる
偽造公文書である偽造運転免許証の行使があると称して差支がないものと認めら
れ、それ以上他人に対する何らかの外部行為によつて、右偽造運転免許証を閲覧し
得べき状態におくことが行使罪成立のため必要であるというべきではない。原判決
はこの点について、文書の行使の方法として提示又は交付或いは備付行使という態
様の存することについて説明し、偽造運転免許証を携帯して運転をしたに過ぎない
場合には、その何れにも該当しないから、文書の行使があるとするには足りないと
論じているが、それは文書の行使ということに関する従来の解釈に捉らわれ過ぎた
観があり、自動車運転の場合における運転免許証の携帯という特殊の事態における
文書の行使ということを解明するに欠けるところがあるものといわなければならな
い。
 果して然らば、本件においては、原判決の認定する事実を前提としても、偽造運
転免許証という偽造公文書の刑法第百五十八条第一項第百五十五条第一項に該当す
る行使の所為があつたものというべきであり、かく解することは所論引用の最高裁
判所第三小法廷の昭和三十六年五月二十三日付決定に副う所以でもあると認められ
るところ、前段説明のとおり原判決は以上と判断を異にし、右公訴事実については
被告人は無罪たるべきものとしたのであるから、原判決には刑法第百五十八条の解
釈、適用を誤つた違法があるものといわなければならない。すなわち、検察官の所
論は結局その理由かあるに帰し、他の論旨につき判断を加えるまでもなく原判決は
この点において破棄を免れないというべきである。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り、原判決を破棄すべく、
但し本件は訴訟記録並びに原裁判所において取り調べた証拠によつて直ちに判決を
することができる場合であると認めるので、同法第四百条但書により当裁判所にお
いて更に左のとおり被告事件につき判決をするものとする。
 本件について、当裁判所が認めた罪となるべき事実は、原判示第二の事実中、原
判示公文書を偽造したとある部分以降を「被告人は昭和三十五年六月頃から同三十
七年七月五日までの間右偽造の普通自動車運転免許証を携帯して、東京都内等にお
いて、自家用普通自動車第○す○×△□号等を運転し、もつてこれを真正に成立し
たもののように装い行使した外右七月五日午後十時頃東京都江東区ab丁目c番地
先の路上において、警視庁中央警察署司法巡査Aに対し、これを真正に成立したも
ののように装い提出して行使し」と追加訂正する外、総べて原判決が適法に確定し
たところと同一であるから、これを引用すべく、右追加部分は原判示第二事実につ
いて原判決が掲げた各証拠によりこれを認むべきものとする。
 法律に照らすに、被告人の原判示第一の所為は、刑法第二百三十五条に、同第二
(但し、前段認定の如く追加訂正したもの)の所為中公文書偽造の点は、同法第百
五十五条第一項に、同行使の点は、同法第百五十八条第一項第百五十五条第一項
に、同第三の(一)の所為は、道路交通法第六十四条第百十八条第一項第一号に、
同(二)の所為は同法第六十五条第百十八条第一項第二号同法施行令第二十七条
に、同第四の二個の所為は、いずれも刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第
三条第一項第一号に、同第五の所為は、道路交通法第七十二条第一項前段第百十七
条にそれぞれ該当するところ、原判示第二の公文書偽造罪と同行使罪との間には手
段結果の関係があるので、刑法第五十四条第一項後段第十条により犯情の重い偽造
公文書行使罪の刑に従い、原判示第三の(二)の罪と原判示第四の二個の業務上過
失致傷罪とは、いずれも一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法第
五十四条第一項前段第十条により犯情の重いBに対する業務上過失致傷罪の刑に従
い、右各所定刑中道路交通法違反罪については懲役刑を、業務上過失致傷の罪につ
いては禁錮刑をそれぞれ選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、
同法第四十七条本文第十条により最も重い偽造公文書行使罪の刑に法定の加重をし
た刑期の範囲内で刑の量定をすべきものである。而して、本件が自動車の運転に関
する多種多様な犯罪を網羅しており、犯情の軽くないものであるということは、原
判決も認めているところであり、被告人に対してはきびしい非難が向けられなけれ
ばならないことも多言を要しないところ、検察官の所論は、被告人の所為はその動
機、態様、結果の重大なこと等において、情状酌量の余地の存しないことを主張
し、原判決が被告人に対し懲役刑の執行を猶予した措置を難ずるものであつて、そ
の所論は傾聴に値すべきものがあり、被告人の本件犯罪に対しては、輙く刑の執行
猶予を与えるべきではないと考えられる節もあるが、一面、被告人にも斟酌すべき
事情があることは原判決の説明するとおりであり、記録によれば、被告人は犯罪後
において潔よく自己の非を認め、自動車セールスマンの職を辞し、今後自動車の運
転はもちろん、自動車に関係する仕事には従事しないと誓い、原判示第四の事故の
被害者らに対する治療費や慰藉料、損害賠償の支払いにも誠意をつくし、示談を遂
げているのであつて、これらによつても被告人の反省、悔悟の実があることはこれ
を認め得る外、なお、被告人の配偶者、肉親らにおいても、被告人の更生のための
努力に協力をおしまないことを誓つている事情も認められるので、これらの有利な
事情のある被告人に対しては、その罪責に対し懲役二年の刑を科すべきではある
が、実刑の執行はこれを猶予し、被告人の自重自戒にまつて更生の実をあげさせる
べきものであるとした原判決の量刑は、これを果断な措置として首肯し得ない限り
ではないというべきであるから、これを強ち量刑不当として非難の対象とするべき
ではないと認め、当審においてもこの原判決の態度を踏襲すべきものとし、よつて
被告人を懲役二年に処した上、刑法第二十五条第一項を適用して本裁判確定の日か
ら五年間右刑の執行を猶予することとし、押収の自動車運転免許証一通(東京高等
裁判所昭和三十七年押第一一一九号の1)は原判示第二の偽造公文書行使の犯罪行
為の組成物件で、何人の所有をも許さないものであるから、同法第十九条第一項第
一号第二号によりこれを没収すべきものとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛