弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人田邊俊明の上告理由第一点について
 原審の適法に確定したところによれば、(一)本件土地はもとDの所有地であつた
が、右土地については、(1)昭和二八年二月一〇日付でE、F、Gの三名を共有名
義人とするDからの所有権移転登記(以下「本件(1)登記」という。)、(2)昭和
二九年一〇月二六日付でEの持分を贈与によりF、Gが取得したとの所有権移転登
記(以下「本件(2)登記」という。)、(3)昭和三一年七月三一日Fの持分につき
売買を原因とするHへの所有権移転登記(以下「本件(3)登記」という。)、(4)
昭和三三年九月一五日売買を原因とするG、HからIへの所有権移転登記(以下「
本件(4)登記」という。)、(5)昭和三九年一二月二四日売買を原因とするIから
J株式会社への所有権移転登記(以下「本件(5)登記」という。)、(6)昭和四〇
年四月一九日売買を原因とするJ株式会社からKへの所有権移転登記(以下「本件
(6)登記」という。)、(7)昭和四三年二月二六日競落を原因とするKから上告人
への所有権移転登記(以下「本件(7)登記」という。)が順次経由されている。(
二)被上告人は、かつて、福岡市の所有地に家屋を無断建築して居住していたが、
昭和二七年ころ附近の不法占拠者約二〇〇世帯とともに福岡市から強制立退を命じ
られたので、昭和二八年初めころ、被上告人ら約八〇世帯は、市及び県の斡旋によ
り、本件土地を含む周辺一帯の土地約六七〇〇坪を買い入れてそこに移住すること
にした。被上告人ら移住者は、株式会社L銀行から右土地購入代金一六○万円の融
資を受けるにあたつて、昭和二八年一、二月ころ右金員の一括借入及び土地の一括
買入を目的とする民法上の組合「M組合」を結成し、大要、次のような組合規約を
定めた。(1)買入土地約六七〇〇坪は、直ちに一区画三〇坪ずつに分筆し、一区画
を一口とし、組合員に対し申込に応じ一人一口以上を抽選により割り当てる。(2)
組合員は、L銀行に対する借入金の返済にあてるため、割当口数に応じ、坪当り二
五〇円に達するまでの金員を分割して毎月払い込み、理事長はこれを取りまとめて
L銀行へ返済する。(3)L銀行からの借入金債務担保のため買入土地全部につき同
銀行に対し債権元本極度額一六〇万円の根抵当権を設定する便宜上、買入土地の所
有名義はすべて理事長E、理事F、理事Gの三名の共有名義とし、各組合員がその
割当土地につき坪当り二五〇円を完納したときに、右共有名義を当該組合員個人名
義に変更する。(4)割当土地の所有権は、組合員全員が分割払込金を完納し、L銀
行に対する借入金の返済が完了し、右根抵当権設定登記が抹消されたときに各組合
員に移転する。(5)各組合員は組合員としての権利を他に譲渡できないし、理事長
及び理事ら役員は買入土地を他に処分する権限を有しない。(三)M組合は、昭和二
八年二月九日ころ、L銀行から一六〇万円を借り受け、本件土地を含む右移住用地
約六七〇〇坪を買い入れて、翌一〇日これらの土地について、組合規約にしたがい、
E、F、Gの三名の共有名義で所有権移転登記(本件土地については本件(1)登記)
を経由し、その後Eが組合の理事長を辞任したので、昭和二九年一〇月二六日付で
贈与を原因とするEの持分をF及びGが取得したとの所有権移転登記(本件土地に
ついては本件(2)登記)が経由されたが、これらの登記を経由するについては被上
告人を含む組合員全員の承諾があつた。(四)M組合が買い入れた右土地は一区画三
〇坪ずつに分筆され、組合員の申込に応じて抽選により割り当てられたが、被上告
人は、本件土地の割当を受け、昭和二九年六月坪当り二五〇円の分割払込金を組合
に完納し、また組合がL銀行に借入金を完済したことにより、被上告人は、昭和三
一年八月二四日ころ、組合員全員の共有であつた本件土地の所有権を単独で取得し
た。(五)被上告人は、分割払込金を組合に完納したのち、組合の理事らに対し、規
約にしたがつて本件土地につき被上告人名義に所有権移転登記手続をすることを求
めたが、理事らはこれに応ずることなく、却つて本件土地については本件(3)ない
し(6)登記が各経由され、その後上告人は、J株式会社を債務者、Kを物件所有者
とする福岡地方裁判所昭和四一年(ケ)第四号不動産任意競売事件において、昭和
四三年二月二六日、同裁判所の競落許可決定により本件土地を三〇万円で競落し、
本件(7)登記を経由した。右競落当時、上告人は、本件(1)、(2)登記が実体と相
違していることを知らず、また本件(3)ないし(6)登記記載のとおり本件土地所有
権が順次名義人に真実移転したと信じていた、というのである。以上の事実関係の
もとにおいて原審は、当時組合の会計担当理事であつたHが組合員の分割払込金を
使い込んだり、組合員の承諾なく本件土地やその他の買入土地の所有名義を組合員
でない他の者に変更していることなどに照らすと、本件(3)、(4)登記に応じた有
効な取引関係があつたことを認めるに足りないから、上告人は、本件土地について
有効な取引関係に立つ者からの転得者ということができず、民法九四条二項にいう
第三者にあたらないとして、上告人の主張する同条項の適用又は類推適用の抗弁を
排斥しているのである。
 しかしながら、民法九四条二項、一一〇条の法意に照らし、不動産の所有者甲が
乙名義を使用して不実の登記を経由した場合、甲は、乙から右登記名義を取り戻さ
ない限り、さらに乙の意思に基づいて丙のために経由された所有権取得登記を信頼
した善意無過失の第三者に対し、丙の所有権取得登記の無効をもつて対抗できない
と解すべきことは、当裁判所の判例とするところであつて(最高裁昭和四四年(オ)
第一〇〇九号同四五年六月二日第三小法廷判決・民集二四巻六号四六五頁)、これ
を本件についていえば、本件(3)登記がFの意思に基づいて経由され、また本件(
4)登記がH及びGの意思に基づいて経由されたものである限り、たとえその間に
右各登記に応じた有効な取引関係がなくとも、本件(5)、(6)、(7)登記により、
Iからの転得者と推認されるべき上告人において、Iが本件(4)登記どおり本件土
地所有権を有すると信じたことにつき過失がないときには、被上告人は、Iの本件
土地所有権取得の無効をもつて上告人に対抗することができないことになるといわ
なければならない。しかるに、原審は、本件(3)登記がFの、本件(4)登記がH及
びGの各意思に基づかないで経由されたことを確定することなく、ただ右各登記に
応じた有効な取引関係があつたとは認められないとの理由のみに基づいて、上告人
が民法九四条二項にいう第三者にあたらないとし、同条項の適用又は類推適用をい
う上告人の主張を排斥しているのであつて、原判決には、この点において同条項及
び同法一一〇条の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右違法は原
判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがつて、原判決はこの点において破
棄を免れず、本件は、更に上告人の過失の有無等について審理を尽くす必要がある
ので、これを原審に差し戻すのが相当である。
 よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   崎   萬   里

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