弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役5月に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
平成22年8月26日付け起訴状記載公訴事実第1の酒気帯び運
転の事実及び第3の報告義務違反の事実については,被告人は無
罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを
身体に保有する状態で,平成22年8月15日午前3時過ぎころから午前3時
30分ころまでの間,大分市所在の「株式会社甲」事務所付近道路から同市
「コンビニエンスストア乙店」駐車場まで普通乗用自動車(軽四)を運転し
第2業務として前記車両を運転していた運転者であるが,同日午前5時5分ころ,
前記駐車場の駐車枠から後退して発進するに当たり,自車の前方には前記店舗
があるのであるから,シフトレバーを的確に操作して同レバーをリバース(後
退)に入れたのを確認してから後退すべき業務上の注意義務があるのに,漫然
とこれを怠り,シフトレバーを的確に操作せず,同レバーをドライブに入れた
のに気付かないままアクセルペダルを踏んで時速約20キロメートルで発進し
た過失により,自車を前方に暴走させ,前記店舗に自車を衝突させ,よって,
株式会社丙所有の同店舗の外壁を凹損し(損害見積額約20万5,000円相
当),もって業務上必要な注意を怠り他人の建造物を損壊し
たものである。
(証拠の標目)省略
(判示第2の過失建造物損壊罪の事実認定の補足説明)
弁護人は,過失建造物損壊罪について,道路における車両等の交通に起因する事
故とはいえないので無罪である旨主張する。
検討すると,過失建造物損壊罪について,道路交通法116条は,車両等の運転
者が業務上必要な注意を怠り,又は重大な過失により他人の建造物を損壊したとき
は,6月以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処すると規定している。
ここで,過失建造物損壊罪にいう運転者とは,道路交通法2条1項18号に「当
該車両等の運転をする者」とされている運転者のことであり,必ずしも現実にその
車両等を運転している状態にある者ばかりでなく,その車両等を運転していた者が,
一時その運転を止め,更にその車両等を運転することとなる者も含まれているもの
と解されている(「執務資料道路交通法解説」(道路交通執務研究会編著。15−
2訂版。平成22年。東京法令出版)1236頁)。
そうすると,道路上を運転進行中でなくても,駐停車中の車両等が運転者の過失
により暴走したり,炎上したりして,建造物を損壊したときには,過失建造物損壊
罪の成立を認めてよいと考えられる。
道路における車両等の交通に直接起因する事故でなくても,過失建造物損壊罪は
成立するから,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
よって,判示のとおり,過失建造物損壊罪の成立を認めた。
(一部無罪の理由)
第1無罪とした公訴事実の要旨
平成22年8月26日付け起訴状記載公訴事実第1の酒気帯び運転の事実及
び第3の報告義務違反の事実は,以下のとおりである。
「被告人は,
第1酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコール
を身体に保有する状態で,平成22年8月15日午前5時5分ころ,一般交
通の用に供する場所である大分市「コンビニエンスストア乙店」駐車場にお
いて,普通乗用自動車(軽四)を運転し
第3第2記載の日時・場所(注第1と同じ)において,前記車両を運転中,
第2記載のとおり,前記店舗の外壁を損壊する交通事故を起こしたのに,そ
の事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を,直ちに最寄りの警察署の
警察官に報告しなかった
ものである。」
第2問題の所在について
上記各事実において,被告人が自動車を運転した場所(以下「本件運転場所」
という。)は,前記「コンビニエンスストア乙店(以下「コンビニエンススト
ア」という。)」店舗外壁東側に設けられた駐車場のうち,北から3番目の駐
車枠(以下「本件駐車枠」という。)の車輪止めと店舗外壁との間であった。そ
の車輪止めと,店舗外壁の間には,約2.5メートルの間隔があった。被告人
は,本件駐車枠に自動車を止めて仮眠した後,同自動車を発進させる際に,後
退させるべきところを誤って前進,暴走させ,車輪止めを乗り越えさせ,店舗
壁面に衝突させてしまったものである。
本件は,いずれも道路交通法違反被告事件として起訴されたものであって,
道路交通法上,酒気帯び運転は,道路上でなされたものでなくては,処罰の対
象にならない。交通事故の報告義務違反も,道路交通上の事故でなければ,報
告義務違反にならない。
そこで,本件運転場所が道路交通法2条1項1号が規定する道路に該当する
かどうかが問題になる。
第3全体として判断すべきとする検察官の主張について
1検察官は,次のとおり主張する。
道路交通法2条1項1号が,道路法2条1項に規定する道路,道路運送法2
条8項に規定する自動車道のほか,一般交通の用に供するその他の場所に道路
交通法の規定を適用することとした趣旨は,道路法による道路及び道路運送法
による自動車道以外の場所であっても,現に不特定多数の人や車が交通してい
る事実が存在し,その交通に対する管理が自主的に行われていなければ,その
場所における危険を防止し,交通の安全と円滑を図るため,法による規制を必
要としたことにほかならない。
そして,「一般交通の用に供するその他の場所」に該当するかどうかは,運転
者が車両を運転した当該場所の利用状況のみに着目するという分断的な思考で
はなく,当該場所とその周囲の状況とを全体として見たうえ,一体として利用
されているか否かなども加味し,全体として,「一般交通の用に供するその他
の場所」に該当するかどうかを判断しなければならない。
以上のとおり,検察官は主張する。
2検討すると,本件運転場所には,車輪止めが設けられており,そもそも物
理的に自動車の通行ができないよう設計されている。
また,商業施設の敷地は,歩行者が通行するとしても,その商業施設の利用
客という特定人が使用する場所であって,直ちに不特定多数人が使用する道路
といえるものではない。
道路交通法上道路の概念は同法総則2条の定義規定で定められているもので
ある。物理的に自動車が進行することが予定されておらず,その商業施設の利
用客以外に使用する者のいない商業施設の敷地まで,道路と解釈してしまうと,
商業施設の敷地はほとんど道路交通法上の道路に該当し,道路交通法76条,
77条等により公権力による道路規制の対象となってしまうという難点がある。
従来の下級審裁判例(東京高等裁判所平成17年5月25日判決(判例時報
1910号158頁)参照)も,駐車場の個々の部分について,道路に該当す
るかどうかを検討して判断を加えており,検察官が主張するように全体として
判断してはいない。
検察官の主張は,理解できないではないが,道路概念を拡張解釈するもので
はないかという疑問があり,直ちには採用できない。
第4不特定多数の通行者が存在するという検察官の主張について
検察官は,本件運転場所を,コンビニエンスストアの利用目的以外で通過す
る者も少なからず存在している旨主張する。
しかし,警察官作成の道路性捜査報告書(甲19)によれば,本件起訴後に,
警察官において,本件運転場所を通過するコンビニエンスストア利用目的以外
の歩行者等の数量について調査したところ,コンビニエンスストア利用客以外
の者で本件運転場所を通過した歩行者等は確認できなかったというのである。
また,検察官は,コンビニエンスストアのオーナーの供述によれば,本件運
転場所について,コンビニエンスストア利用目的以外で通過する人がいること
が認められる旨主張する。
確認すると,コンビニエンスストアのオーナーであるA,検察官調書(甲2
0)において,近所に住んでいる人の中には,コンビニエンスストアのゴミ箱
にゴミを捨てる人があり,そういった人がコンビニエンスストアを利用するわ
けでないのに,本件事故現場を通行する人になる旨述べている。
しかし,コンビニエンスストアのゴミ箱にゴミを捨てに来る人は,ゴミを捨
てるためにコンビニエンスストアの施設を利用しているのであるから,商業施
設の利用者として理解すべきである。コンビニエンスストアにゴミを捨てに来
る人は,一般に交通する不特定多数の人とはいえない。
この点に関する検察官の主張は採用できない。
第5道路性の有無について
本件運転場所は,車輪止めと店舗外壁との間であって,店舗の屋根が途中ま
で張り出しており,店舗の軒下の延長ともいえる商業施設の敷地であり,車輪
止めによって物理的に自動車の通行ができず,コンビニエンスストアの利用客
以外の不特定多数人が通行する場所でもないことから,道路には該当しないと
考えられる。
なお,本件コンビニエンスストア駐車場の形状等からすると,駐車区画され
た部分は駐車場所であって,道路ではないが,駐車区画の東側は道路に該当し,
駐車区画された駐車場所から東側すなわち道路へ出入りすることも道路の通行
に該当するといえる。
しかし,被告人は,本件において,駐車区画された部分から,道路側へ自動
車を発進させたのではなく,誤って駐車区画から道路の反対側に向けて発進さ
せ,車輪止めを乗り越えさせてコンビニエンスストア建物の壁面に衝突させた
のであって,道路へ発進させたものではない。
客観的に見て,被告人が,道路上を運転し,あるいは道路へ発進したものと
いえない以上,被告人に酒気帯び運転の故意があっても,道路交通法違反には
ならない。
第6結論
以上によれば,平成22年8月26日付け起訴状記載公訴事実第1の酒気帯
び運転の事実は,道路上でなされたものでないので,道路交通法違反の罪とな
らない。また,同第3の交通事故の報告義務違反も,道路交通上の事故の報告
を怠ったものではないので,道路交通法違反の罪とならない。
よって,これらの事実については,刑事訴訟法336条により,無罪の言渡
しをすることとする。
(法令の適用)
罰条第1道路交通法117条の2の2第1号,65条1項,同法施行
令44条の3
第2道路交通法116条
刑種の選択第1について懲役刑を選択
第2について禁錮刑を選択
併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の罪の
刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重)
未決勾留日数算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
被告人は,酒気を帯びて,自動車を運転するという危険な行為に及び,一方的な
過失により,発進時に後退と前進を間違えて,車輪止めを乗り越えて,コンビニエ
ンスストア店舗の外壁に自動車を衝突させて,外壁を凹損したものであって,社会
的非難を免れない犯行である。
被告人は,平成14年と平成15年に道路交通法違反の罪で罰金刑に処せられ,
平成19年には,酒気帯び運転中に交通事故を起こして,道路交通法違反,業務上
過失傷害の罪で懲役1年6月,3年間執行猶予に処せられたにもかかわらず,その
執行猶予中に,本件道路交通法違反の犯行に及んだ。被告人には,道路交通法規を
守ろうという意識が乏しかったといわざるを得ない。
被告人の刑事責任は軽視できず,そのことを明らかにしておく必要がある。
しかしながら,被告人が事実を認め,被害者宛に謝罪文を書いたり,反省文を書
いて反省し,今後は酒を飲まない旨述べていること,自動車保険による被害弁償が
期待できること,被告人が一旦逃走した後,警察に出頭しようとしていたこと,被
告人が正業に従事して,真面目に働いていて,被告人の雇用主が被告人を再雇用す
る旨申し出ていること,被告人が長期間身柄を拘束されて反省の機会を与えられた
ことなど,被告人のために酌むべき諸事情を考慮して,主文の刑を定めた。
(求刑懲役8月)
平成23年1月17日
大分地方裁判所刑事部
裁判官西健児

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